説明

回折光学素子およびそれを有する光学系

【課題】 高い回折効率が得られ、しかも透過率が良く、成形時及び成形後の形状安定性に優れた回折光学素子を得ること。
【解決手段】 基板上に中間層を介してベース部、回折格子が形成された素子部を少なくとも1つ有する回折光学素子であって、該ベース部と該回折格子は同じ材料より成り、該回折格子と該中間層の材料の消光係数を各々Ka、Kbを各々適切に設定すること。
なる条件を満たすこと。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回折光学素子およびこれを有する光学系に関し、可視波長域において高い回折効率が得られ、ビデオカメラやデジタルカメラ、そしてテレビカメラ等の光学機器に用いる光学系に好適なものである。
【背景技術】
【0002】
光学系(レンズ系)の色収差を減じる方法として、互いに異なった硝材の組み合わせによる方法が知られている。この他、光学系の一部に回折作用を有する回折光学素子を設ける方法が知られている(非特許文献1、特許文献1)。
【0003】
この回折光学素子には、色収差の補正の他、その周期的構造の周期を適宜変化させることで非球面レンズ的な効果を持たせることができることが知られている。
【0004】
回折光学素子を有する光学系において、使用波長領域における光束が特定の1つの次数(以下、「特定次数」又は「設計次数」ともいう)の回折光に集中している場合は、それ以外の回折次数の回折光強度は低いものとなる。ある次数の回折光の強度が0の場合はその次数の回折光は存在しない。
【0005】
設計次数以外の次数の回折光が存在し、それがある程度の強度を有する場合は、設計次数の光とは別な所に結像(集光)するため、光学系に用いたときは、これらの光はフレア光となる。
【0006】
従って、回折光学素子を用いて光学系の収差を低減するためには、使用波長領域全域において設計次数の回折光の回折効率が十分高くなるようにすることが必要となる。このため回折光学素子を用いる光学系では設計次数での回折効率および設計次数以外の回折光についても十分考慮することが必要となる。
【0007】
図15は、基板302とこの基板302上に形成された1つの回折格子301とからなる従来の回折光学素子(以下、「単層型DOE」と言う)の要部断面図である。図16は、この単層型DOEをある面に形成した場合の特定次数に対する回折効率の特性の説明図である。
【0008】
図16において、横軸は入射光の波長を、縦軸は回折効率を示している。回折効率の値は、全透過光束の光量に対する各次数での回折光の光量の割合であり、格子境界面での反射光などは説明が複雑になるので考慮していない値になっている。
【0009】
図16に示すように、図15に示した単層型DOEは、1次の回折次数(図中に太い実線で示す)において使用波長領域で最も回折効率が高くなるように設計されている。即ち、設計次数は1次である。
【0010】
この設計次数で回折効率はある波長で最も高くなり(以下、この波長を「設計波長」という)、それ以外の波長では徐々に低くなる。この設計次数での回折効率の低下分は、他の次数の回折光となり、光学系に用いたときはフレア光となる。
【0011】
図16には、この他の次数として設計次数1次の近傍の次数(設計次数1±1次の0次回折光と2次回折光)の回折効率も併せて併記している。
【0012】
従来、このときのフレア光の影響を低減する構成が知られている(特許文献2〜9)。
【0013】
図17は特許文献2に開示されている回折光学素子の要部断面図である。
【0014】
特許文献2に開示されている回折光学素子は、3種類の異なる格子材料306〜308と2種類の異なる格子厚d1,d2より成る格子部とを最適に選び、複数の回折格子を等しいピッチ分布で密着配置している。
【0015】
このような構成をとることによって、図18に示すように、設計次数において可視域全域にわたって高い回折効率を得ている。
【0016】
図19は特許文献3に開示されている回折光学素子の要部断面図である。
【0017】
特許文献3にて開示されている回折光学素子は、回折格子をそれぞれ含む素子部202,203を空気層210を介して互いに近接させた構造(以下、「積層型DOE」という)201より成っている。各回折格子を構成する材料の屈折率、分散特性(アッベ数νd)および各層の格子部の格子厚等を最適化することにより、図20に示すように、設計次数において可視領域全域にわたって高い回折効率を得ている。
【0018】
特許文献4、特許文献5にて開示されている回折光学素子は、回折格子を構成する材料中にITO微粒子等を用いて材料の屈折率や分散を適切に設定している。これによって、高い回折効率を確保しつつ、種々の撮影(投影)条件においてもフレアの少ない回折光学素子を実現している。
【0019】
一般にITO微粒子を用いた材料は高い回折効率を得るのが容易となる。しかし、特許文献6に開示されているように、ITO微粒子はITO自身の有する着色のため透過率が低下する傾向がある。又、微粒子の多次凝集によって分散性を確保することが困難になり、光散乱が増大する傾向がある。
【0020】
特許文献6では回折格子を構成する光学材料を適切に設定して高い回折効率を確保しつつ、高い透過率が得られる回折光学素子を得ている。
【0021】
ITO微粒子等の透明性が低く光散乱が生じやすい材料を用いて回折光学素子を製造する際には、例えば回折格子の格子部とベース部とから成る光学層の厚さを薄くすれば透過率や光散乱を改善することができる。
【0022】
しかしながら光学層の厚さを薄くしていくと、光学層の肉厚比が大きくなり、成形時における歪やひび、剥離等の形状不安定性が大きくなり、所望の光学形状が得られなくなってくる。さらには、製造後の環境変化に対する安定性も悪くなる傾向となる。
【0023】
これに対して特許文献7、特許文献8では型に接していない自由表面に形状変化を集中させて成形時の安定性を向上させ、良好なる回折光学素子が得られる成形法を提案している。
【0024】
また、特許文献9では光学層と基板との間に光学層とは異なる材料からなる中間層を用いて成形時及び成形後の形状安定性が優れた回折光学素子が得られる成形方法を提案している。
【非特許文献1】SPIE Vol.1354 International Lens Design Conference(1990)
【特許文献1】特開平4−213421号公報
【特許文献2】特開平9−127322号公報
【特許文献3】特開2000−98118号公報
【特許文献4】特開2001−74901号公報
【特許文献5】特開2004−78166公報
【特許文献6】特開2006−220689公報
【特許文献7】特開2005−1319公報
【特許文献8】特開2006−220816公報
【特許文献9】特開2006−235007公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
一般に回折格子を基板上に形成するとき製作上、回折格子と基板との間に格子部と同一材料より成る格子ベースを設け、格子ベース部の厚さを厚くして格子部の肉厚比を小さくして成形時における歪、ヒケ等が生ずるのを防止する方法がとられている。
【0026】
前述したように、回折光学素子の回折格子の材料にITO微粒子を用いると高い回折効率が容易に得られ、又分散を適切に設定するのが容易となる。
【0027】
しかしながらITO微粒子は吸収が大きく、又光散乱も大きい。
【0028】
このため、ITO微粒子等の光吸収や光散乱の大きい材料を用いて回折格子を製作するときは透明性向上や光散乱減少のために格子ベース部の厚さをなるべく薄くすることが必要となる。しかしながら、格子ベース部の厚さを薄くすると肉厚比が大きくなり、成形時及び成形後の形状安定性が悪くなる。
【0029】
回折格子の材料にITO等の光吸収の多い材料を用いると、高い回折効率や分散を適切に設定することが容易となるが、光吸収が多く、又光散乱も多くなってくる。この結果、光学系の一部に用いることが難しくなる。
【0030】
一方、形状安定性のためには、基板と回折格子との間に中間層を設けるのが良い。しかしながら、基板上に複数の層を2種類以上の材料を用いて成形する場合、材料の屈折率差や、界面の状態が回折効率に大きな影響を与える。このとき接する2つの材料の屈折率差が大きい場合には材料界面での散乱も大きくなる。さらに界面が平坦な面でない場合は波面の乱れが生じ、回折効率が劣化する原因となる。
【0031】
このため、2種類以上の材料を用いて基板上に中間層や回折格子などを形成するとき、成形時における各層の界面の変化について十分に注意しないと高い回折効率が得られない場合がある。
【0032】
本発明は、高い回折効率が得られ、しかも透過率が良く、成形時及び成形後の形状安定性に優れた回折光学素子及びこの回折光学素子を用いた光学系を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0033】
本発明の回折光学素子は、基板上に中間層を介してベース部、回折格子が形成された素子部を少なくとも1つ有する回折光学素子であって、
該ベース部と該回折格子は同じ材料より成り、該回折格子と該中間層の材料のd線における消光係数を各々Ka、Kbとするとき
3.0×10−4 < ka < 1.0×10−3 ‥‥‥(1a)
kb < 3.0×10−4 ‥‥‥(1b)
なる条件を満たすことを特徴としている。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、高い回折効率が得られ、しかも透過率が良く、成形時及び成形後の形状安定性に優れた回折光学素子が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
次に本発明の回折光学素子及びそれを用いた光学系について説明する。
【0036】
本発明の回折光学素子は、レンズや透明な平板より成る基板上に中間層を介して順に、ベース部、回折格子が形成された素子部を少なくとも1つ有する。
【0037】
ここでベース部と回折格子は同じ材料より成っている。
【0038】
そして回折格子と中間層に互いに異なる値の消光係数の材料を用いている。
【実施例1】
【0039】
図1(a)は、本発明の実施例1の回折光学素子(Diffractive Optical Elements DOE))の正面図である。図1(b)は実施例1の回折光学素子の側面図である。図2は、図1の回折光学素子をA−A’線で切断したときの断面形状の一部を拡大して示した断面概略図である。
【0040】
但し、図2は回折格子の格子部を格子深さ方向にかなりデフォルメして示している。
【0041】
図1、図2に示すように、回折光学素子1は、第1の素子部2と第2の素子部3とを、それぞれの素子部に形成された第1の回折格子8と第2の回折格子9とが回折光学面8a、9aを挟んで互いに密着するように重ね合わせて構成されている。
【0042】
第1の素子部2は、レンズや平板等の第1の透明基板(基板)4と、格子ベース部(ベース部)6およびこの格子ベース部6に一体形成された第1の回折格子8からなる第1格子形成層2aを有している。更に、その基板4と格子ベース部6の間に設けられた中間層(材料層)11を有している。
【0043】
尚、格子ベース部6、第1の回折格子8、そして中間層11は各々別材料でも良いし、又は同一材料であっても良い。
【0044】
第2の素子部3は、レンズや基板等の第2の透明基板(基板)5と、この第2の透明基板5上に設けられた格子ベース部(ベース部)7およびこの格子ベース部7に一体形成された第2の回折格子9からなる第2格子形成層3aとを有している。
【0045】
第1の回折格子8の格子部8bの格子面8aと、第2の回折格子9の格子部9bの格子面9aとは密着接合されている。
【0046】
第1、第2の回折格子8、9は回折光学部(回折光学面)を構成している。
【0047】
これら第1,第2の素子部2,3全体で1つの回折光学素子1として作用する。
【0048】
第1および第2の回折格子8,9は同心円状の格子形状からなり、径方向における格子部の格子ピッチが変化することで、レンズ作用を有する。
【0049】
本実施例において、回折光学素子1に入射させる光の波長領域、すなわち使用波長領域は可視領域(波長400nm〜700nm)である。第1および第2の回折格子8,9の格子部8b、9bを構成する材料および格子厚さは、可視領域全体で1次の回折光の回折効率を高くするように選択されている。
【0050】
次に、本実施例の回折光学素子1の回折光学部の回折効率について説明する。
【0051】
図15に示す1つの回折格子301を基板302に形成した通常の単層型DOE(回折光学素子)において、設計波長がλ0の場合に、ある次数の回折光の回折効率が最大となる条件を考える。
【0052】
光束が回折格子301のベース面301a(図2においては点線で示す面)に対して垂直に入射する場合について説明する。
【0053】
このとき、回折格子の301の格子部301bの山と谷の光学光路長差(つまりは、山と谷のそれぞれを通過する光線間における光路長差)が光束の波長の整数倍になれば良い。これを式で表わすと、
(n−1)d=mλ0 ・・・(a)
となる。
【0054】
ここで、n0は波長λ0の光に対する格子部301bの材料の屈折率である。また、dは格子部301bの格子厚、mは回折次数である。
【0055】
(a)式は波長の項を含むため、同一次数では設計波長でしか等号は成り立たず、設
計波長以外の波長では回折効率は最大値から低下してしまう。
【0056】
また、任意の波長λでの回折効率η(λ)は、
η(λ)=sinc2〔π{M−(n1(λ)−1)d/λ}〕 ・・・(5)
で表すことができる。
【0057】
(5)式において、Mは評価すべき回折光の次数、n1(λ)は波長λの光に対する
格子部の材料の屈折率である。また、sinc2(x)は、={sin(x)/x}2
で表わされる関数である。
【0058】
本実施例のように、2層以上の回折格子を積層した積層構造を持つ回折光学素子でも、基本的な取扱は同様である。
【0059】
全層を通して1つの回折光学素子として作用させるためには、各層の回折格子を構成する格子部の材料(空気等も含む)と格子高さより格子部の山と谷とでの光学光路長差を求める。そしてこの光学光路長差を全回折格子にわたって加え合わせたものが波長の整数倍になるように各格子部の格子形状その他の寸法(格子高さ)を決定する。
【0060】
従って、図1に示した回折光学素子1において、設計波長がλ0の場合に、回折次数mの回折光の回折効率が最大となる条件は、
±(n01−n02)d1=mλ0 …(6)
となる。
【0061】
ここで、(6)式において、n01は第1の素子部2の第1の回折格子8を形成する格子部8bの材料の波長λ0の光に対する屈折率である。n02は第2の素子部3の第2の回折格子9を形成する格子部9bの材料の波長λの光に対する屈折率である。
【0062】
また、dは格子部8b、格子部9bの格子厚である。
【0063】
図2において0次回折光から下向きに回折する光の回折次数を正の回折次数、0次回折光から上向きに回折する光の回折次数を負の回折次数とする。
【0064】
上記(6)式での加減の符号は、図中上から下に格子部の格子厚が増加する格子形状を持つ回折格子の場合(図2では回折格子9)、負となる。
【0065】
本実施例において、回折格子8と中間層11の材料のd線における消光係数を各々Ka、Kbとする。このとき回折格子8(ベース部6)と中間層11を前述した如く
3.0×10−4 < Ka < 1.0×10−3 ‥‥‥(1a)
Kb < 3.0×10−4 ‥‥‥(1b)
なる条件を満たす材料より構成している。
【0066】
回折格子8の材料は微粒子材料を樹脂材料に混合したものである。微粒子材料が、ITOである。又、樹脂材料は、紫外線硬化樹脂である。
【0067】
図2の回折光学素子1において、第1の回折格子8の格子部8bとベース部6に、フッ素樹脂サイトップ(旭硝子製Nd=1.34、νd=94)をベース材として、ITO微粒子を体積比率で17%混合した材料(Nd=1.432、νd=16.8)を用いた。
【0068】
また、第1の回折格子8のベース部6の厚さdaを3μmとした。
【0069】
さらに、第1の回折格子8と基板4の間の中間層(材料層)11に大日本インキ化学工業(株)製の紫外線硬化樹脂(Nd=1.522、νd=51.3)からなる材料を10μmの厚さにて設けた。
【0070】
一方、第2の回折格子9の格子部9bには、ポリメタクリル酸メチル(以下PMMAと記述、Nd=1.492、νd=57.4)を用いた。第1、第2の回折格子8、9の格子部8b、9bの格子厚を共に10.05μmとした。
【0071】
このとき、本実施例の構成において、光路長差(位相差)が生じるのは回折格子8と回折格子9の間においてであり、回折格子8のベース部6、及び中間層11は回折効率には寄与しない。
【0072】
図3は、実施例1の回折光学素子1の設計次数である1次での回折効率特性を示している。これらの特性図からも分かるように、回折光学素子1では図20に示す従来の積層型の回折光学素子の特性に比べて設計次数の回折効率が改善されている。
【0073】
実施例1の回折光学素子の回折効率は可視領域全域で99%以上得られており、これに伴い不要次数のフレア光が発生しにくくなっている。
【0074】
次に、本実施例の回折光学素子1の透過特性について説明する。
【0075】
実施例1に用いているITO(Indium Tin Oxide)は、通常のガラス材料や樹脂材料では得られない光学特性を持っており、回折格子8の格子部8bの材料として用いることで、上述のように高い回折効率を得ている。
【0076】
さらに、ITOを直径がナノメートルオーダーの微粒子とし、この微粒子を格子形状が形成しやすい樹脂材料に混在させることで、製造が容易な回折格子を実現し得る。
【0077】
このとき、混在した微粒子によって光が散乱しないように、使用する微粒子の大きさ(平均粒子径)は、使用波長(例えば590nm)の1/20以下であるようにしている。
【0078】
しかしながら、ITOは着色性を持っているため、ITOの混合量を増やしたり、中間層11(材料層)の厚さを厚くしたりしていくと光学系の透明性が低下してくる。
【0079】
ただし、ITOの混合量を減らしていくと所望の光学特性を得るのが難しくなり、特に高い回折効率を得るのが困難となる。
【0080】
また、ベース部6の厚さを薄くしていくと格子部における肉厚比が大きくなり、成形時における歪、ヒケ、剥離等が起きやすくなる。そのため、一般的にはベース部6の厚さを10μm以上とすることが望ましい。
【0081】
実施例1の回折光学素子1の回折格子8の格子部8bに使用したITO微粒子分散材料の、d線における消光係数は8.47×10−4である。ベース部6のベース厚さを10μmとすると、回折光学素子全系での透過率は75%と低くなってしまう。
【0082】
そこで、実施例1ではITO微粒子分散材料からなるベース部(材料層)6のベース厚さを3μmと薄くするとともに、ITO微粒子分散材料からなるベース部(材料層)6と基板4の間に、透過率の高い中間層11を十分な厚さ10μmで成形した。中間層11に使用した材料の、d線における消光係数は7.35×10−6である。
【0083】
本実施例において、中間層の厚さをDb(μm)とする。このとき、
10(μm)≦ Db ‥‥‥(4)
なる条件を満たすのが良い。
【0084】
その結果、回折光学素子1全系としての透過率は85%を超え、光学系として使用容易な回折光学素子を得ることができた。
【0085】
また、回折格子8の格子部8bとベース部6の厚さの合計が13μmとなり、成形時の形状安定性に優れ、製造が容易な回折光学素子を得ることが出来た。
【0086】
本実施例において、回折格子8の格子部8bの最大の格子厚をD(μm)とする。ベース部6と格子部8bの最大の格子厚との合計をDa(μm)とする。このとき
(Da−D) < 8(μm) ‥‥‥(3)
なる条件を満たすようにしている。
【0087】
また、回折格子8に用いられる材料の消光係数Kaは、使用する光の代表波長(例えばd線)において、前述の条件式(1a)なる条件を満たすようにしている。
【0088】
さらに、中間層11の材料は透明性が高い材料を用いることが望ましい。少なくとも回折格子8の格子部8bに用いる材料よりも高い透明性を持った材料であることが望ましい。
【0089】
例えば中間層11に用いられる材料の消光係数Kbは前述の条件式(1b)を満足するのが良い。
【0090】
尚、消光係数Kbは小さい方が良いが具体的には、
1.0×10−8 <Kb
程度であれば良い。
【0091】
ここで消光係数Kとは、材料の内部吸収の程度を表わすものである。厚さd(μm)の材料に波長λ(μm)の光が入射するときに、入射する光の光量をI、出射する光の光量をIとする。このとき、
【0092】
【数1】

【0093】
なる式を満たすものとする。
【0094】
消光係数Kaが(1a)式の下限値を下回ると、材料の透明性が上がるため、中間層11を回折格子8側のベース層6と同一材料にて一体成形するほうが製作上も有利になってくる。
【0095】
消光係数Kaが(1a)式の上限値を超えると、回折格子自体における透過率の減少が多くなり、ベース層6の厚さを薄くしても回折光学素子全系としての透過率を高く維持することが困難となる。
【0096】
消光係数Kbが(1b)式の上限を超えると中間層11を厚くしたことによって吸収が多くなってくるので良くない。
【0097】
また、実施例1では、透明性の低い材料としてITOを用いたが、本実施例の回折光学素子に用いることのできる材料としては、これに限るものではない。
【0098】
以上のように、本実施例によれば、回折格子の格子部にITO等の微粒子材料を用いて高い回折効率を得つつ、成形時の歪、ヒケ等の発生を防止しつつ、高い透過率の回折光学素子が得られる。
【実施例2】
【0099】
図4は本発明の実施例2の回折光学素子の要部断面図である。図4は実施例1と同様、図1の回折光学素子をA−A’線で切断したときの断面形状の一部を拡大して示している。
【0100】
本実施例では回折格子の格子部は鋸歯形状より成る。中間層とベース部との界面には該回折格子の格子周期と同周期であって、中間層と同じ材料より成り、鋸歯形状の周期構造(周期形状)が形成されている。
【0101】
このとき周期構造の格子部は、回折格子8の格子部8bと格子部の高さの増減方向が同じ方向にとなるように配向している。
【0102】
図4に示すように、回折光学素子1は、第1の素子部2と第2の素子部3とを、それぞれの素子部に形成された第1の回折格子8と第2の回折格子9とが回折光学面8a、9aを挟んで互いに密着するように重ね合わせて構成している。
【0103】
第1の素子部2は、レンズや平板等の第1の透明基板(基板)4と、格子ベース部(ベース部)6およびこの格子ベース部6に一体形成された第1の回折格子8からなる第1格子形成層2aを有している。更に、その基板4と回折格子8の間に設けられた中間層(材料)11を有している。
【0104】
さらに、中間層11と格子ベース部6との界面に、製造において回折格子8の格子部8aの鋸歯形状と同周期からなる鋸歯形状の周期形状(周期構造)12が生じている。
【0105】
一方、第2の素子部3は第1の素子部2と同様に、レンズや平板等の第2の透明基板(基板)5と、この第2の透明基板5上に設けられた格子ベース部7およびこの格子ベース部7に一体形成された第2の回折格子9からなる第2格子形成層3aとを有している。
【0106】
さらに第1の回折格子8の格子面8aと、第2の回折格子9の格子面9aとが密着接合されている。
【0107】
これら第1,第2の素子部2,3および中間層11の全体で1つの回折光学素子として作用する。
【0108】
図4に示した回折光学素子1において、第1の回折格子8、第2の回折格子9及び中間層に用いている材料は実施例1と同一である。
【0109】
図4に示した、中間層11と格子ベース部6との界面に生じている周期構造12の最大高さは0.5μmである。
【0110】
第1の素子2のベース部6の厚さを3μm、中間層11の暑さを10μm、回折格子8、9の格子厚を、共に10.85μmとした。
【0111】
図5(a)は、この回折光学素子1の設計次数である1次での回折効率特性を示している。図5(a)の特性図からも分かるように、回折光学素子1では実施例1と同様に可視領域全域で高い回折効率が得られる。
【0112】
なお、実施例2においては、中間層11とベース部6との界面に製造時に鋸歯形の周期形状12が生じており、この界面において位相差が生まれる。そのため、所望の回折効率からの劣化が生じてしまう。
【0113】
この周期形状12は回折格子8の成形時における、硬化収縮などが原因で生じる場合がある。特に回折格子8のベース部6の厚さを薄くしていくと、材料の肉厚比が大きくなり、周期形状12の高さが高くなる傾向にある。尚、このときの周期形状12が生じない場合もある。
【0114】
実施例2において周期形状12の高さdxは0.5μmであった。このとき回折格子8の格子部8bの格子厚を実施例1のまま10.05μmにした場合の回折効率特性を、比較例2として図5(b)に示す。
【0115】
図5(b)に示すように、所望の回折効率から大きく劣化した特性となってしまっている。
【0116】
そこで、本実施例では周期形状12が生じたときは、それによって生じた位相差を、回折格子8、9で補正するようにしている。
【0117】
周期形状12によって生じる位相差は、回折格子8,9で与えている位相差と同様に、式(6)で与えられる。
【0118】
この位相差を、回折格子8、9の格子部8b、9bの格子厚を10.05μmから10.85μmへと変化させることで補正し、図5(a)に示すような高い回折効率特性を得ている。
【0119】
このとき、周期形状12によって生じる位相差が少ないほど、格子部の格子厚による補正が少なくなる。そのためには、周期形状12の最大高さdxを低くするか、もしくは中間層11と回折格子8の材料の屈折率を近づける必要がある。
【0120】
周期形状12の最大高さdxを低くするためには、回折格子の成形条件の設定に制限が生じるため、設計の自由度が低くなる。また、中間層11の材料の屈折率を回折格子8の格子部8bの材料の屈折率に近づけるためには、適切な材料選択が必要であり、設計の自由度が低くなる。
【0121】
よって、これらの屈折率差と周期形状12の高さdxをバランスよく設定することが必要となる。ここで、任意の周期内での周期形状12の格子部の最大の格子高さをdx(μm)とする。回折格子8と同一材料の格子部8bの材料A及び中間層11の材料Bのd線の波長λ(μm)における屈折率を各々Na、Nb、又それらの屈折率差をΔNとする。このとき、
dx|Na−Nb|λ<0.2
即ち、
|dx×ΔN|/λ < 0.2 ・・・(2)
なる条件としている。これにより回折光学素子1の設計の自由度が増し、かつ安定した成形手法によって、回折光学素子1を作製することができるようにしている。
【0122】
実施例2の回折光学素子1は、式(2)の左辺値が0.08となっており、条件式(8)を満たす構成となっている。
【0123】
このとき、回折格子8,9で生じる位相差と、周期形状12で生じる位相差を合成するためには、回折格子8と同一材料のベース部6を少なくとも使用波長の10倍以下にするのが良い。
【0124】
ベース部6の厚さが厚くなると、回折格子8と周期形状12で別々の回折現象が起きるため、位相の合成が行われず、回折格子8と周期形状12でそれぞれ不要次数のフレア光が発生する。これにより、光学系全体で高い回折効率を達成する事が困難となる。
【0125】
以上のことから、回折格子8と同一材料のベース部6の厚さは少なくとも8μm以下であることが望ましい。
【0126】
さらに、実施例2において、回折格子8の格子部8bの材料A及び中間層11の材料Bの屈折率差を以下のように選択すると代表波長だけでなく可視領域全域で所望の回折効率を得ることができる。
【0127】
0.4 < |ΔNg/ΔN| < 1.5 ・・・(7a)
かつ、
0.6 < |ΔN/ΔN| < 2.2 ・・・(7b)
ここで、ΔN、ΔN、ΔNはそれぞれ、格子部8(ベース部6)の材料Aと中間層11の材料Bのg線、d線、C線での屈折率差である。
【0128】
実施例2における式(7a)の値は0.8、式(7b)の値は1.1である。
【実施例3】
【0129】
実施例2では、回折格子8と同一材のベース部6と中間層11との界面に周期形状12が生じた場合について述べた。実施例3は回折格子の成形条件によって、この周期形状12の形状が鋸歯形でなく、くずれた形状となる場合について可視領域全域で高い回折効率を得るものである。
【0130】
図6は本発明の実施例3の要部断面図である。
【0131】
図6では、回折格子8と同一材のベース部6と中間層11の界面に生じている周期構造12において、領域内での最大高さとなる位置と、同周期構造内における格子面8a、9aの格子頂点がずれている状態の回折光学素子を示している。
【0132】
上記のように、周期形状12の周期性が本来の回折格子8、9と異なっている場合は、位相の不一致が生じ、実施例2と同じように位相差の補正が困難となる。
【0133】
この位相の不一致は、周期構造12によって生じる位相差が大きくなるほど、また、周期形状12の最大高さとなる位置と、同周期内における格子面8a,9aの格子頂点との位置ずれ量ΔPが大きくなるほど顕著になる。
【0134】
そこで、実施例3の回折光学素子1においては、実施例2と同じ材料構成とし、回折格子8、9の格子部8b、9bの格子厚を10.85μm、周期形状12の最大高さdxを0.5μmとしている。
【0135】
さらに、位置ずれ量ΔPを10μmと設定した。その時の回折効率特性を図7に示す。
【0136】
図7に示すとおり、周期形状12の鋸歯形状からのくずれによる回折効率の減少が若干見られるものの、可視領域全域で99%以上の高い回折効率が得られている。
【0137】
実施例3においては、以下の条件式を満たすことで、周期構造12の鋸歯形状からの形状がくずれた場合にも回折効率の変化を微小におさえることができる。
【0138】
|dx×ΔN×ΔP|/(λ×P) < 0.013 ・・・(8)
ここで、dxは周期構造12の最大高さ(μm)、ΔNは回折格子8の材料A及び中間層11の材料Bの代表波長(d線)λ(μm)における屈折率差である。ΔPは周期形状12の最大高さとなる位置12aと、同周期構造内における格子面8a(9a)の格子頂点8cとの格子ピッチ方向の位置ずれ量(間隔)(μm)である。
【0139】
Pは回折格子8(9)の格子部8b(9b)のピッチ(μm)である。
【0140】
実施例3における、式(8)の左辺値は0.005であり、条件式(8)の条件を満たした構成となっている。
【実施例4】
【0141】
実施例1〜3においては、回折光学素子1の素子部の材料として、樹脂材料、及び樹脂材料に微粒子を分散させた材料を用いたが、本発明に係る素子部の材料はこれに限定するものではない。たとえばガラスモールド材料を用いて回折光学素子1を作製してもよい。
【0142】
実施例4の回折光学素子1の要部断面図は図4の実施形状と同じである。実施例4では素子部の形状は実施例2と同様にして、実施例2の素子部とは異なる材料を用いて所望の光学特性を持つ回折光学素子を得ている。
【0143】
本実施例は、図4に示した構成の回折光学素子1において、第1の回折格子8の格子部8bの材料に、プラスチック材料ポリカーボネイト(以下PC、Nd=1.58、νd=30.5、帝人化成)をベース材としている。そしてベース材にITO微粒子を体積比率で13.5%混合した材料(Nd=1.617、νd=18.9)を用いた。
【0144】
また、回折格子8と同一材より成るベース部6の厚さdaを5μmとした。
【0145】
さらに、回折格子8と基板4の間に大日本インキ化学工業(株)製の紫外線硬化樹脂(Nd=1.522、νd=51.3)からなる中間層(材料層)11を20μmの厚さにて設けた。
【0146】
この時、中間層11と回折格子8との間には最大高さ0.4μmの周期形状12が生じていた。
【0147】
一方第2の回折格子9の格子部9bには、スミタ光学ガラス(株)製ガラスモールド材料VC80(Nd=1.694、νd=53.1)を用い、回折格子8、9の格子部8b、9bの格子厚を共に7.10μmとした。このときの回折効率の特性を図8に示す。
【0148】
図8に示すとおり、可視領域全域で99%以上の高い回折効率を達成している。
【0149】
また、実施例4に用いたITO微粒子分散材料のd線における消光係数は、4.37×10−4であり、中間層11に使用した材料のd線における消光係数は、7.35×10−6である。回折光学素子1の全系の透過率は、92%であった。
【0150】
実施例4において、条件式(2)の左辺値は0.07、式(7a)、(7b)の値はそれぞれ1.3と0.9であった。
【実施例5】
【0151】
実施例1〜4の回折光学素子においては、第1の回折格子と第2の回折格子が密着接合されている。本発明の回折光学素子はこれに限定するものではない。実施例5の回折光学素子は、たとえば第1の回折格子と第2の回折格子を空気層を挟んで対向するように配置した構成である。
【0152】
図9は本発明の実施例5の要部断面図である。
【0153】
図9において、回折光学素子1は、第1の素子部2と第2の素子部3とを、それぞれの素子部に形成された第1の回折格子8と第2の回折格子9とが空気層10を挟んで互いに近接するように重ね合わせて構成している。これら第1,第2の素子部2,3および空気層10の全体で1つの回折光学素子1として作用する。
【0154】
第1および第2の回折格子8,9は同心円状の格子形状からなり、径方向における格子部8b、9bの格子ピッチが変化することで、レンズ作用を有する。また、第1の回折格子8と第2の回折格子9の格子部8b、9bは等しいか、又はほぼ等しい格子ピッチ分布を持っている。
【0155】
また、図9に示すように、第1の素子部2は、格子ベース部(ベース部)6およびこの格子ベース部6に一体形成された第1の回折格子8からなる第1格子形成層2aを有している。第1の回折格子8の格子部8bにおける空気層10との境界部には格子面8aが形成されている。
【0156】
さらに、レンズや平板等の第1の透明基板(基板)4と、ベース部6との間に透明性のよい材料からなる中間層11を有している。ベース部6と中間層11の界面には回折格子8の格子部8bとほぼ同周期からなる周期形状12が生じている。
【0157】
一方、第2の素子部は第1の素子部2と同様に、レンズや平板等の第2の透明基板(基板)5と、この第2の透明基板5上に設けられた格子ベース部7およびこの格子ベース部7に一体形成された第2の回折格子9からなる第2格子形成層3aとを有している。第2の回折格子9の格子部9bにおける空気層10との境界部には格子面9aが形成されている。
【0158】
図9に示した回折光学素子1において、第1の回折格子8の格子部8bとベース部6を、大日本インキ化学工業(株)製の紫外線硬化樹脂(Nd=1.522、νd=51.3)をベース材としている。そしてベース部材にITO微粒子を体積比率で14%混合させた材料(n=1.570,ν=21.9)を用いている。格子部8bの格子厚を11.10μmとした。
【0159】
このとき、回折格子8の格子部8bと同一材より成るベース部6の厚さは2.5μmに成形した。
【0160】
また、ベース部6と基板4の間に配置した中間層11の材料を大日本インキ化学工業(株)製の紫外線硬化樹脂(Nd=1.522、νd=51.3)とし、その厚さを10μmの厚さとした。
【0161】
このとき、ベース部6と中間層11の間には回折格子8の格子部8bとほぼ同周期の周期構造12が生じており、その最大高さは0.7μmであった。
【0162】
一方、第2の回折格子9の格子部9bとベース部7の材料を、大日本インキ化学工業(株)製の紫外線硬化樹脂(n=1.522,ν=51.3)を用いた。格子部9bの、格子厚を13.14μmとした。
【0163】
このときの回折効率特性を図10に示す。
【0164】
図10に示すとおり、可視領域全域で99%以上の高い回折効率を達成している。
【0165】
また、実施例5で用いたITO微粒子分散材料のd線における消光係数は、5.51×10−4であり、中間層11に使用した材料のd線における消光係数は、7.35×10−6である。回折光学素子1の全系の透過率は、90%であった。
【0166】
実施例5において、条件式(2)の左辺値は0.09、式(7a)、(7b)の値はそれぞれ1.2と0.9であった。
【0167】
以上のように、本発明の各実施例の回折光学素子では、第1の回折格子8側のベース部6と基板4との間にのみ中間層11をもうけた。本発明の回折光学素子はこれに限るものではなく、たとえば第2の回折格子9のベース部7と基板5との間に又は双方に中間層をもうけても良い。又、複数の回折格子を有するときは、複数の中間層をもうけても同様の効果が得られる。
【0168】
次に、本発明の回折光学素子を作製する、具体的な製法(製造方法)について述べる。ここでは、図9の実施例5の回折光学素子1の第1の素子部2の製法を例にとって説明する。
【0169】
図11は本発明の実施形態5の回折光学素子の第1の素子部2の製造方法の概略図である。
【0170】
本実施例の製造方法は、次の2つの工程を用いている。
【0171】
[第1工程]
周期構造の回折面が形成された成型用型52に第1の光エネルギー硬化型樹脂より成る材料A(51)をスキージング、または平坦型をもちいて成形することにより界面を平坦化する。そして、成型用型52に接していない材料Aの自由表面側に形状変化を集中させて周期構造を形成するようにして硬化する。
【0172】
[第2工程]
硬化した材料Aの自由表面側に材料Aよりも消光係数の小さな光エネルギー硬化型樹脂より成る材料B(57)をレプリカ成形法で成形する。
【0173】
次に本実施例の回折光学素子の製造方法を図11を用いて順に説明する。
【0174】
図11において、51は回折格子8を形成する、硬化前のエネルギー硬化型の樹脂である。52は樹脂表面の機能面を形成するための型である。53は滴下した樹脂51を平面に均すための、へら状部材であり、不図示の機構により型上を移動する。
【0175】
54は紫外線である。55は紫外線54の照射により樹脂51が硬化した第1の樹脂(第1の回折格子8に相当)である。56は、第1の樹脂55が硬化したことによって生じた周期形状(周期構造12に相当)である。57は第1の樹脂55上に中間層11を形成するための、材料Aよりも消光係数の小さな透明性のよい材質の光エネルギー硬化型の樹脂(第2の樹脂)である。58はガラス基板(基板4に相当)である。
【0176】
61は樹脂57が硬化した樹脂(中間層11に相当)である。62は樹脂(55、61)とガラス基板58が一体化した第1の素子部(第1の素子部2に相当)である。
【0177】
先ず、型52の上に液状の光エネルギー硬化型の樹脂51を所要量滴下する(図11(a))。型52は表面に所望の回折条件を達成するため微細な鋸歯状の形状が同心円状に形成されている。
【0178】
この樹脂51をへら53を用いて平面に均すが、へら53は鋸歯状の型52の頂点より2.5μm高くなっている状態で型上を移動する。これにより、ベース部6の樹脂の厚みは2.5μmに均される(図11(b))。
【0179】
平面に均された樹脂51に紫外線54を照射することにより、樹脂51を硬化させる(図11(c))。このとき樹脂51と空気層の界面には最大高さ0.7μmの周期形状56が生じている。(図1(d))。
【0180】
この上に第2の樹脂57を所要量滴下する(図11(c))。
【0181】
この上に樹脂57との接触面が平滑面のガラス基板58を接液する。ガラス基板58は鋸歯の頂点より10μm高くなっているに保持される。(図11(f))。
【0182】
この状態でガラス基板58越しに紫外線54を照射することにより第2の樹脂57を硬化させ中間層61を形成する(図11(f))。
【0183】
その後、エジェクター等を用いて硬化した樹脂55、61を型52から剥離し、硬化した第1、第2の樹脂55,61とガラス基板58が一体化した第1の素子部62を得る。
【0184】
この製法によると、第1の回折格子8(55)の成形時の硬化収縮によって発生する歪や応力負荷を空気層との界面に集中することができ、成形時の歪や剥離等を少なくすることができる。
【0185】
また、成形後の第1の回折格子8の内部応力を緩和することもでき、対環境変化にも強い回折光学素子を作製することができる。
【0186】
さらに、前述した条件式(2)、(7a)、(7b)、(8)を満たす材料によって回折光学素子の第1の素子部2をレプリカ成形法で形成する事によって、上記の製造法によっても高い回折効率を持った回折光学素子を作製することができる。
【0187】
図12は、本発明の回折光学素子を用いた、カメラ(スチルカメラやビデオカメラ等)の撮影(結像)光学系のレンズ断面図である。
【0188】
図12において、101は大部分が屈折光学素子(例えば通常のレンズ素子)で構成される撮影レンズである。撮影レンズ101は内部に開口絞り102と各実施例にて説明した回折光学素子1を有する。
【0189】
103は結像面に配置されたフィルム又はCCD等の撮影媒体である。回折光学素子1はレンズ機能を有する素子であり、撮影レンズ101中の屈折光学素子で発生する色収差を補正している。そして、回折光学素子1は、回折効率特性が大幅に改善されている。
【0190】
このため、本実施例ではフレア光が少なく低周波数での解像力も高く、高い光学性能を有した撮影光学系を実現している。
【0191】
なお、本実施例では、開口絞り102の近傍に、平板ガラスを基板とした回折光学素子1を設けているが、本実施例はこれに限定するものではない。例えば、回折光学素子1は基板をレンズとし、その凹面又は凸面上に回折格子を設けて構成しても良い。尚、撮影レンズ101内に回折光学素子1を複数個配置してもよい。
【0192】
図13は、本発明の回折光学素子を用いた望遠鏡や双眼鏡等の観察光学系のレンズ断面図である。
【0193】
図13において、104は対物レンズである。105は倒立像を正立させるためのプリズム(像反転手段)である。106は接眼レンズである。107は評価面(瞳面)である。1は各実施例で説明した回折光学素子であり、対物レンズ104の結像面103での色収差等を補正している。
【0194】
図13の観察光学系は、回折効率特性が大幅に改善されている。このため、フレア光が少なく低周波数での解像力も高く、高い光学性能を有する観察光学系を実現している。
【0195】
なお、本実施例では、平板ガラスを基板とした回折光学素子1を用いているが、これに限定されない。例えば、回折光学素子1は、基板をレンズとし、その凹面又は凸面上に回折格子を設けて構成してもよい。さらに、観察光学系内に回折光学素子1を複数個配置してもよい。
【0196】
また、本実施例では、対物レンズ104に回折光学素子1を設けた場合を示したが、これに限らず、プリズム105の表面や接眼レンズ106内の位置に設けることもできる。この場合も先に説明したのと同様の効果が得られる。
【0197】
但し、回折光学素子1を結像面103より物体側に設けることで対物レンズ104のみでの色収差の低減効果がある。このため、肉眼の観察系の場合、少なくとも対物レンズ104に回折光学素子を設けることが望ましい。
【0198】
また、本実施例では、双眼鏡の観察光学系について説明したが、本発明の回折光学素子は、地上望遠鏡や天体観測用望遠鏡等の観察光学系にも適用することができる。さらにはレンズシャッターカメラやビデオカメラなどの光学式ファインダーにも適用することができ、先に説明したのと同様の効果が得られる。
【0199】
図14は、本発明の回折光学素子を有した光学系を撮影光学系としてもちいたデジタルスチルカメラ(撮像装置)の要部概略図である。
【0200】
20はカメラ本体である。21は回折光学素子を有する撮影光学系である。22はカメラ本体20に内蔵され、撮影光学系21によって形成された被写体像を受光するCCDセンサやCMOSセンサ等の固体撮像素子(光電変換素子)である。
【0201】
23は撮像素子22によって光電変換された被写体像に対応する情報を記録するメモリである。24は液晶ディスプレイパネル等によって構成され、固体撮像素子22上に形成された被写体像を観察するためのファインダーである。
【0202】
このように回折光学素子を有する光学系をデジタルスチルカメラ等の撮像光学系に適用することにより、フレアが少なく、十分な透明性を持ち、高い光学性能を有する撮像装置を実現している。
【図面の簡単な説明】
【0203】
【図1】本発明の実施例1である回折光学素子の正面図および側面図。
【図2】実施例1の回折光学素子の部分断面図。
【図3】実施例1の回折光学素子の設計次数での回折効率特性図。
【図4】実施例2の回折光学素子の部分断面図。
【図5】実施例2の回折光学素子の設計次数での回折効率特性図。
【図6】実施例3の回折光学素子の部分断面図。
【図7】実施例3の回折光学素子の設計次数での回折効率特性図。
【図8】実施例4の回折光学素子の設計次数での回折効率特性図。
【図9】実施例5の回折光学素子の部分断面図。
【図10】実施例5の回折光学素子の設計次数での回折効率特性図。
【図11】本発明の回折光学素子の製造方法。
【図12】本発明の回折光学素子を用いた撮影光学系の構成図。
【図13】本発明の回折光学素子を用いた撮影光学系の構成図。
【図14】本発明の撮像装置の要部概略図
【図15】従来の単層型回折光学素子の部分断面図。
【図16】従来の単層型回折光学素子の設計次数での回折効率特性を示すグラフ図。
【図17】従来の積層型回折光学素子の部分断面図。
【図18】従来の積層型回折光学素子の設計次数での回折効率特性を示すグラフ図。
【図19】従来の積層型回折光学素子の部分断面図。
【図20】従来の積層型回折光学素子の設計次数での回折効率特性を示すグラフ図。
【符号の説明】
【0204】
1 回折光学素子
2 第1の素子部
3 第2の素子部
4 第1の基板
5 第2の基板
6 第1の格子ベース部
7 第2の回折ベース部
8 第1の回折格子
9 第2の回折格子
10 空気層
11 中間層
12 周期形状
101 撮影レンズ
102 絞り
103 結像面
104 対物レンズ
105 プリズム
106 接眼レンズ
107 評価面(瞳面)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に中間層を介してベース部、回折格子が形成された素子部を少なくとも1つ有する回折光学素子であって、
該ベース部と該回折格子は同じ材料より成り、該回折格子と該中間層の材料のd線における消光係数を各々Ka、Kbとするとき
3.0×10−4 < Ka < 1.0×10−3
Kb < 3.0×10−4
なる条件を満たすことを特徴とする回折光学素子。
【請求項2】
前記回折格子の格子部は鋸歯形状より成り、前記中間層と前記ベース部との界面には該回折格子の格子周期と同周期であって、該中間層と同じ材料より成り、鋸歯形状の周期構造が形成されており、任意の周期内での該周期構造の格子部の格子高さをdx、該回折格子と該中間層の材料のd線の波長λにおける屈折率差をΔNとするとき
|dx×ΔN|/λ < 0.2
なる条件を満たすことを特徴とする請求項1に記載の回折光学素子。
【請求項3】
前記回折格子と前記中間層の材料のg線、d線、C線での屈折率差をそれぞれ、ΔN、ΔN、ΔNとするとき
0.4 < |ΔNg/ΔN| < 1.5
0.6 < |ΔN/ΔN| < 2.2
なる条件を満たすことを特徴とする請求項2に記載の回折光学素子。
【請求項4】
前記回折格子の格子部は鋸歯形状より成り、前記中間層と前記ベース部との界面には該回折格子の格子周期と同周期であって、該中間層と同じ材料より成り、鋸歯形状の周期構造が形成されており、任意の周期内での該周期構造の格子部の格子高さをdx、該回折格子と該中間層の材料のd線の波長λにおける屈折率差をΔN、該回折格子の格子ピッチをP、該周期構造の格子部が最大高さとなる位置と同周期内における該回折格子の格子部の格子頂点との格子ピッチ方向の間隔をΔPとするとき
|dx×ΔN×ΔP|/(λ×P) < 0.013
なる条件を満たすことを特徴とする請求項1、2又は3に記載の回折光学素子。
【請求項5】
前記回折格子の格子部は鋸歯形状より成り、前記中間層と前記ベース部との界面には該回折格子の格子周期と同周期であって、該中間層と同じ材料より成り、鋸歯形状の周期構造が形成されており、該周期構造の格子部は、該回折格子の格子部と格子部の高さの増減方向が同じ方向になるように配向していることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の回折光学素子。
【請求項6】
前記回折格子の格子部の最大の格子厚をD(μm)、前記ベース部と該格子部の最大の格子厚との合計をDa(μm)とするとき
(Da−D) < 8(μm)
なる条件を満たすことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の回折光学素子。
【請求項7】
前記中間層の厚さをDb(μm)とするとき、
10(μm)≦ Db
なる条件を満たすことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の回折光学素子。
【請求項8】
前記回折格子の材料は微粒子材料を樹脂材料に混合したものであることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の回折光学素子。
【請求項9】
前記微粒子材料の平均粒子径は、590nmの1/20以下であることを特徴とする請求項8に記載の回折光学素子。
【請求項10】
前記微粒子材料が、ITOであることを特徴とする請求項8又は9に記載の回折光学素子。
【請求項11】
前記樹脂材料は、紫外線硬化樹脂であることを特徴とする請求項8乃至10のいずれか1項に記載の回折光学素子。
【請求項12】
屈折光学素子と、請求項1から11のいずれか1項に記載の回折光学素子を有することを特徴とする光学系。
【請求項13】
光電変換素子の上に像を形成することを特徴とする請求項12に記載の光学系。
【請求項14】
請求項12又は13の光学系と、該光学系によって形成される像を受光する光電変換素子とを備えることを特徴とする光学機器。
【請求項15】
周期構造の回折面が形成された成型用型に第1の光エネルギー硬化型樹脂より成る材料Aをスキージング、または平坦型をもちいて成形することにより界面を平坦化して、該成型用型に接していない該材料Aの自由表面側に形状変化を集中させつつ硬化する第1工程と、
硬化した材料Aの自由表面側に材料Aよりも消光係数の小さな光エネルギー硬化型樹脂より成る材料Bをレプリカ成形法で成形する第2工程とを用いて回折光学素子を製造することを特徴とする回折光学素子の製造方法。

【図1】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図2】
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【図4】
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