説明

回路基板およびその製造方法、回路装置およびその製造方法

【課題】アルマイト膜に発生するクラックによる耐湿性の劣化が抑制された回路基板およびその製造方法を提供する。
【解決手段】回路基板10は、金属基板11と、金属基板11の上面を被覆する第1アルマイト膜12A(非有機性絶縁膜)と、金属基板11の下面を被覆する第2アルマイト膜12Bと、第1アルマイト膜12Aが成膜された金属基板11の上面を被覆する樹脂層18と、樹脂層18の上面に形成された所定形状の導電パターン13とを備えている。更に本発明の回路基板10では、第1アルマイト膜12Aに形成されるクラック20に、樹脂層18の一部を充填することにより、クラック20を経路して水部が外部から侵入することを防止している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアルマイト膜により主面が被覆された回路基板およびその製造方法に関する。更に本発明は、この回路基板の上面に回路素子が配置された回路装置およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
図8を参照して、背景技術の混成集積回路装置100の構成を説明する(下記特許文献1を参照)。矩形の基板101の表面および下面には、アルマイト膜106が形成されている。そして、基板101の表面に形成されたアルマイト膜106は、絶縁層102により被覆されている。絶縁層102の表面には、所望の電気回路が形成されるように導電パターン103が形成されている。導電パターン103の所定の箇所に回路素子105が固着されることで、所定の電気回路が形成される。ここでは、回路素子として半導体素子およびチップ素子が、導電パターン103に接続されている。リード104は、基板101の周辺部に形成された導電パターン103に接続され、外部端子として機能している。封止樹脂103は、基板101の表面に形成された電気回路を封止する機能を有する。
【0003】
基板101の材料がアルミニウムの場合は、Alから成るアルマイト膜が基板101の両主面に形成される。アルマイト膜106の厚みは、例えば20μm程度である。
【0004】
アルマイト膜106で基板101の上面を被覆することにより、アルマイト膜106の上面の微細な凹凸に、絶縁層102の樹脂成分が嵌合することとなり、絶縁層102と基板101との密着強度が実現される。更に、アルマイト膜106は基板101の素材であるアルミニウムよりも堅いので、基板101の下面をアルマイト膜106で被覆することにより、製造工程の途中段階に於いて、基板101の下面にキズがつくことが抑制される。更には、ウェットエッチングにより導電パターン103をパターニングする際には、基板101全体が、ウェットエッチングで使用されるエッチャントに浸漬されるが、アルマイト膜106で基板101を被覆することにより、エッチャントにより基板101が浸食されることが抑制される。
【0005】
図9を参照して、上記したアルマイト膜の生成方法を説明する。先ず、反応槽120に貯留された溶液122に、アルミニウムから成る金属基板101を浸漬させる。そして、金属基板11を挟むように配置された2つの電極121Aおよび電極121Bに、マイナスの電位を印加する。更に、金属基板11にはプラスの電位を印加する。このことにより、金属基板101に向かって酸素イオンが移動して、両面にAlから成るアルマイト膜が生成される。
【0006】
ここでは、金属基板101は個々に分割される前の大判サイズであり、例えば1メートル四方の大きさである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平5−102645号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、混成集積回路装置100では、アルマイト膜106にクラックが発生することで、耐圧が劣化してしまう問題があった。具体的には、図8を参照して、基板101は、製造工程の途中段階にて回路装置毎に分離されるが、打ち抜き加工により分割されると、基板101の外周部付近に多数のクラックが発生することとなる。このクラックは空洞の状態であるので、クラックを経路として外部から装置内部に容易に水分が侵入する。この様になると、装置内部にてショートが発生してしまう。
【0009】
更に、アルマイト膜106と基板101とでは熱膨張係数が大きく異なるので、使用状況下での温度変化が混成集積回路装置500に作用すると、両者の膨張量が大きく異なり、更に多くのクラックが発生することとなる。この場合に形成されるクラックも空洞の状態であるので、上記した様に外部から内部に水分が侵入する経路となり、耐湿性が劣化してしまう。
【0010】
更にまた、図9に示すように、1メートル四方の大きさの金属基板101に対して、アルマイト膜を形成するための陽極酸化処理を個別に行っていた。このことから、金属基板101の交換等に手間がかかり、コスト低減が困難な問題があった。
【0011】
本発明は、上述した問題を鑑みてなされ、本発明の主な目的は、アルマイト膜に発生するクラックによる耐圧の劣化が抑制された回路基板およびその製造方法を提供することにある。更に、本発明の目的は、そのような回路基板を備えた回路装置およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の回路基板は、金属基板と、前記金属基板の一主面に形成された非有機性絶縁膜と、前記非有機性絶縁膜を被覆する樹脂層と、前記樹脂層の上面に形成された導電パターンとを備え、前記非有機性絶縁膜に設けられたクラックに、前記樹脂層の一部が充填されることを特徴とする。
【0013】
本発明の回路基板の製造方法は、クラックが発生している非有機性絶縁膜により主面が被覆された金属基板を用意する工程と、前記非有機性絶縁膜の上面に樹脂層および導電パターンを形成する工程と、を備え、前記非有機性絶縁膜の前記クラックに前記樹脂層の一部を充填することを特徴とする。
【0014】
本発明の回路装置は、回路基板と、前記回路基板に電気的に接続された回路素子とを有し、前記回路基板は、金属基板と、前記金属基板の一主面に形成された非有機性絶縁膜と、前記非有機性絶縁膜を被覆する樹脂層と、前記樹脂層の上面に形成された導電パターンとを備え、前記非有機性絶縁膜に設けられたクラックに、前記樹脂層の一部が充填されることを特徴とする。
【0015】
本発明の回路装置の製造方法は、クラックが発生している非有機性絶縁膜により主面が被覆された金属基板を用意する工程と、前記非有機性絶縁膜の上面に樹脂層および導電パターンを形成する工程と、前記導電パターンに回路素子を電気的に接続する工程と、を備え、前記非有機性絶縁膜の前記クラックに前記樹脂層の一部を充填することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、金属基板の表面を被覆する非有機性絶縁膜(アルマイト膜)に発生したクラックに樹脂層の一部が充填されている。従って、このクラックを経路として外部から内部に水分が進入することが抑制され、侵入した水分に起因したショートが抑制される。
【0017】
更に、本発明によれば、ボンディング等の加熱工程を行う前に、予め非有機性絶縁膜にクラックを発生させているので、後の加熱工程にて新たにクラックが発生することが抑制されている。樹脂層を形成した後に非有機性絶縁膜に発生したクラックは空洞状態となり、水分の経路となるが、本形態ではこのクラックの発生が抑制されているので、空洞状態のクラックに起因したショートが抑制される。
【0018】
更にまた、本発明では、長尺の大判基板を溶液中で移動させつつ陽極酸化処理を行うことで非有機性絶縁膜を成膜している。従って、板状の金属基板に対して個別に陽極酸化処理を施していた背景技術と比較すると、一括して陽極酸化処理を行えるので、製造コストが低減される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の回路基板を示す図であり、(A)は断面図であり、(B)は拡大断面図であり、(C)は斜視図である。
【図2】本発明の混成集積回路装置を示す図であり、(A)は斜視図であり、(B)は断面図である。
【図3】本発明の回路基板および混成集積回路装置の製造方法を示す図であり、(A)は断面図であり、(B)はアルマイト膜が成膜される前の大判基板34を示す断面図であり、(C)はアルマイト膜が成膜された後の大判基板34を示す断面図である。
【図4】本発明の回路基板および混成集積回路装置の製造方法を示す図であり、(A)は断面図であり、(B)はクラックが形成された大判基板34を示す斜視図であり、(C)はクラックを示す断面図である。
【図5】本発明の回路基板および混成集積回路装置の製造方法を示す図であり、(A)は断面図であり、(B)は拡大して示す斜視図であり、(C)は断面図である。
【図6】本発明の回路基板および混成集積回路装置の製造方法を示す図であり、(A)は断面図であり、(B)は断面図である。
【図7】本発明の回路基板および混成集積回路装置の製造方法を示す図であり、(A)は断面図であり、(B)は断面図である。
【図8】背景技術の混成集積回路装置を示す断面図である。
【図9】背景技術の混成集積回路装置の製造方法に於いて、金属基板の主面にアルマイト膜を成膜する方法を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1を参照して、本形態の回路基板10の構成を説明する。
【0021】
図1(A)を参照して、回路基板10は、金属基板11と、金属基板11の上面を被覆する第1アルマイト膜12A(非有機性絶縁膜)と、金属基板11の下面を被覆する第2アルマイト膜12Bと、第1アルマイト膜12Aが成膜された金属基板11の上面を被覆する樹脂層18と、樹脂層18の上面に形成された所定形状の導電パターン13とを備えている。
【0022】
金属基板11は、アルミニウムを主材料とする基板であり、その厚みは例えば1.0mm以上2.0mm以下(例えば1.5mm)である。金属基板11の側面の形状は、製造方法により異なる。打ち抜き加工により金属基板11が大判基板から分離される場合は、金属基板11の側面は上面に対して垂直な面となる。また、後述するようにV字型の溝を設けた箇所にて、大判基板から金属基板11が分離される場合は、金属基板11の側面は図1(A)に示すような傾斜面となる。即ち、金属基板11の側面は、第1の傾斜部S1と第2の傾斜部S2とから成り、外側に突出している。
【0023】
第1アルマイト膜12Aは、金属基板11の上面全域を覆うように形成されている。具体的には、第1アルマイト膜12AはAlを含み、厚みは例えば1μm以上10μm以下である。金属基板11の表面に第1アルマイト膜12Aを形成することにより、樹脂層18の密着性を向上させることができる。即ち、第1アルマイト膜12Aの上面は金属基板11よりも粗い面であり、第1アルマイト膜12Aの上面に設けられた凹凸に樹脂層18が良好に嵌合し、この結果として樹脂層18と金属基板11との密着強度が向上される。本形態の第1アルマイト膜12Aにはクラックが発生しているが、このクラックは図1(B)を参照して後述する。
【0024】
第2アルマイト膜12Bは、金属基板11の下面全域を覆うように形成されている。第2アルマイト膜12Bの組成および厚みは、第1アルマイト膜12Aと同様でよい。第2アルマイト膜12Bは、製造工程にて、金属基板11の下面を機械的に保護する役割を有する。更に、第2アルマイト膜12Bは、ウェットエッチングにより導電パターン13をパターニングする工程にて、金属基板11の下面をエッチャントから保護する役割を有する。
【0025】
上記した各アルマイト膜は、最下層の200Å程度の厚み部分がAlの組成を有する。そして、その上層に、アルミを含む水酸化物(AlOH)から成る柱状結晶が形成される。この柱状結晶は、ポーラスに形成される。
【0026】
樹脂層18は、第1アルマイト膜12Aを覆うように形成され、導電パターン13と金属基板11とを絶縁させる働きを有する。樹脂層18は、Al等のフィラーが高充填されたエポキシ樹脂等から成る。フィラーを含むことにより、樹脂層18の熱抵抗が低減され、回路基板10に実装される素子から発生した熱を、樹脂層18を経由して良好に金属基板11に伝導される。樹脂層18の厚みL1(図1(B)参照)は例えば50μm以上100μm以下である。
【0027】
導電パターン13は、厚みが例えば50μm程度の銅等の金属から成る金属箔をエッチング加工することにより形成されている。導電パターン13は、半導体素子等の回路素子やリードが固着されるパッドや、このパッド同士を接続する配線部等から構成される。また、ここでは1層のみの導電パターン13が図示されているが、樹脂層18を介して導電パターン13が多層に積層されても良い。
【0028】
図1(B)を参照して、金属基板11の上面を被覆する第1アルマイト膜12Aにはクラック20が発生している。このクラック20は、後述するように金属基板11を機械的に加工することにより設けられても良いし、金属基板11を加熱することにより設けても良い。
【0029】
具体的には、第1アルマイト膜12Aの厚みL2が1μm以上10μm以下の場合、クラック20の幅L3は1.0μm以上2.0μm以下である。また、クラック20の深さとしては、上面から発生したクラック20が第1アルマイト膜12Aの途中にて終端する形状でも良いし、第1アルマイト膜12Aを厚み方向に貫通しても良い。図では、クラック20の断面形状はV字型を呈しているが、矩形形状等の他の形状でも良い。
【0030】
クラック20には、樹脂層18が充填されている。この場合、樹脂層18を構成する樹脂成分のみがクラック20に充填されても良いし、樹脂成分と共にフィラーも充填されても良い。また、充填される構造としては、樹脂層18によりクラック20が完全に充填されても良いし、若干のボイドを残して充填されても良い。この様な構造は、クラック20が発生している第1アルマイト膜12Aが設けられた金属基板11の上面を、液状または半固形状の樹脂層18で被覆することにより実現される。
【0031】
この様にクラック20に樹脂層18が充填されることにより、背景技術では空洞状態であったクラック20が樹脂層18により実質的に塞がれるので、クラック20を経由して外部から内部に水分が進入することが防止される。
【0032】
更に、クラック20に樹脂層18が充填される分、第1アルマイト膜12Aと樹脂層18との接触面積が大きくなるので、樹脂層18と第1アルマイト膜12Aとの界面の熱抵抗が低減される。
【0033】
また、金属基板11の下面を被覆する第2アルマイト膜12Bに関しても、第1アルマイト膜12Aと同様に、クラックが発生している。第2アルマイト膜12Bにクラックが発生することにより、第2アルマイト膜12Bと外気との接触面積が大きくなるので、この第2アルマイト膜12Bを経由した放熱が良好となる。
【0034】
図1(C)は、樹脂層18および導電パターン13が省かれた状態の回路基板10を示す斜視図である。この図を参照して、第1アルマイト膜12Aに設けられるクラック20は、金属基板11の第1側辺11Aから対向する第2側辺11Bに渡り連続して設けられている。クラック20がこの様に一方方向に伸びる原因は、図4(A)に示す細長いローラー40にて押圧する平坦化加工を行うからである。従って、クラック20が伸びる方向は、ローラー40の軸方向と一致している。
【0035】
ここでは、大部分のクラック20は、第1側辺11Aから第2側辺11Bに到るまで形成されているが、他の方向にクラック20が設けられても良い。具体的には、クラック20は、第1側辺11Aまたは第2側辺11Bから第3側辺11Cに到るまで形成されても良いし、第1側辺11Aまたは第2側辺11Bから第4側辺11Dに到るまで形成されても良い。更には、第3側辺11Cから第4側辺11Dに到るまでクラック20が形成されても良い。
【0036】
図2を参照して、上記した構成の回路基板10が採用された回路装置である混成集積回路装置50の構成を説明する。
【0037】
混成集積回路装置50は、上面に導電パターン13が設けられた回路基板10と、導電パターン13に電気的に接続された半導体素子15A等の回路素子と、導電パターン13に固着されて外部に導出するリード19と、これらを一体的に被覆する封止樹脂14とを備えている。
【0038】
半導体素子15Aおよびチップ素子15Bの回路素子は、導電パターン13の所定の箇所に固着されている。
【0039】
半導体素子15Aとしては、トランジスタ(バイポーラ・トランジスタ、パワーMOS、IGBT等)、LSIチップ、ダイオード等が採用される。ここでは、半導体素子15Aと導電パターン13とは、金属細線17を介して接続される。更にまた、半導体素子15Aからの発熱が多量な場合は、半導体素子15Aと導電パターン13との間に、銅などの金属片から成るヒートシンク16を介在させても良い。
【0040】
チップ素子15Bとしては、チップ抵抗、チップコンデンサ、インダクタンス、サーミスタ、アンテナ、発振器など、両端に電極部を有する素子が採用される。更にまた、樹脂封止型のパッケージ等も、回路素子として導電パターン13に固着することができる。
【0041】
リード19は、金属基板11の周辺部に設けられた導電パターン13から成るパッドに固着され、外部との入力・出力を行う働きを有する。ここでは、一つの側辺に多数個のリード19が固着されている。尚、リード19は金属基板11の4辺から導出させることも可能であり、対向する2辺から導出させることも可能である。
【0042】
封止樹脂14は、熱硬化性樹脂を用いるトランスファーモールドにより形成され、回路基板10の下面も含めた全体を封止している。この構造により、回路基板10が外部に露出しないので、装置全体の耐湿性および耐圧性を向上させることができる。また、回路基板10の下面を封止樹脂14から外部に露出させると、露出する回路基板10により放熱性が向上される。更に、従来から用いられているケースを用いた封止構造でも良い。
【0043】
図3から図7を参照して、上記した構成の回路基板および混成集積回路装置の製造方法を説明する。
【0044】
図3を参照して、先ず、アルミニウムから成る長尺の大判基板34の主面に、アルマイト膜(非有機性絶縁膜)を成膜する。図3(A)は本工程を示す断面図であり、図3(B)はアルマイト膜を成膜する前の状態の大判基板34を示す断面図であり、図3(C)はアルマイト膜を成膜した後の大判基板34を示す断面図である。
【0045】
図3(A)を参照して、大判基板34は、厚みが1.0mm以上2.0mm以下のアルミニウムから成る金属基板である。大判基板34の平面視でのサイズは、例えば、幅が1m程度であり、長さが数十メートル程度である。
【0046】
本工程では、大判基板34をコイル38として巻き取りつつ、陽極酸化処理によるアルマイト膜の成膜を行っている。この巻き取りは、大判基板34を製造する工場から、大判基板34を加工して回路基板や混成集積回路装置を製造する工場に、効率的に基板を輸送するために行われる。
【0047】
具体的には、コイル38として巻き取られる大判基板34が通過する経路には、反応槽30が配置されている。反応槽30には、硼酸アンモニウム等を含む溶液36が貯留されており、この溶液36にはマイナスの電圧が印加される電極32が浸漬されている。そして、大判基板34にはプラスの電圧が印加されている。
【0048】
このことにより、溶液36の内部を大判基板34が通過するときに、大判基板34に向かって酸素イオンが移動して、大判基板34の両主面にAlから成るアルマイト膜が生成される。即ち、図3(C)を参照して、大判基板34の上面は第1アルマイト膜12Aが成膜され、大判基板34の下面には第2アルマイト膜12Bが成膜される。これらのアルマイト膜の詳細は上記したとおりである。
【0049】
本工程では、コイル38として大判基板34が巻き取られる経路の一部に、陽極酸化用の反応槽30を設け、この反応槽30に大判基板34を通過させることにより、大判基板34の両主面に第1アルマイト膜12Aおよび第2アルマイト膜12Bを成膜させている。即ち、大判基板34を巻き取る工程の一部に、アルマイト膜を成膜させる工程が含まれている。従って、背景技術のように、アルマイト膜を成膜するのみの工程が省かれるので、その分製造コストが低減される。また、本工程にて形成されるアルマイト膜には、コイルとして巻き取られる際にクラックが発生する場合がある。
【0050】
図4を参照して次に、大判基板34を被覆するアルマイト膜にクラックを発生させる。図4(A)は本工程を示す断面図であり、図4(B)は本工程を経た大判基板34を示す斜視図であり、図4(C)は形成されるクラック20を示す図である。尚、本工程以降の工程は、大判基板34から混成集積回路装置を製造する工場にて行われる。
【0051】
本工程では、コイル38の状態で湾曲している大判基板34を平坦化加工し、この平坦化加工によりアルマイトにクラックを発生させている。
【0052】
図4(A)を参照して、コイル38の状態で巻かれている大判基板34は湾曲しており、このままでは回路基板の材料として用いられないので、平坦化加工する必要がある。ここでは、回転する多数個のローラー40にて、上下両方向から押圧力を加えつつ、コイル38から大判基板34を紙面上にて左方向に引き出すことで、大判基板34を平坦化している。
【0053】
ローラー40は、上下両方向から局所的に大判基板34を押圧するので、ローラー40の軸方向に沿ってクラック20が発生する(図4(B)参照)。即ち、大判基板34の長手方向の側辺から、対向する長手方向の側辺に到るまで、多数個のクラック20が発生する。
【0054】
図4(C)を参照して、大判基板34の上面を被覆する第1アルマイト膜12Aには、V字状の断面形状を呈するクラック20が形成されている。このクラック20の形状は上記した通りである。即ち、クラック20の深さとしては、上面から発生したクラック20が第1アルマイト膜12Aの途中にて終端しても良いし、第1アルマイト膜12Aを厚み方向に貫通しても良い。更に、クラック20の断面形状は四角形形状等の他の形状でも良い。
【0055】
同様に、本工程により、大判基板34の下面を被覆するアルマイト膜にもクラック20が形成される。
【0056】
更にまた、上記説明では、ローラー40を用いた機械的加工によりアルマイト膜にクラックを発生させたが、他の手法によりクラックを発生させても良い。例えば、大判基板34に対して急激な温度変化を与えると、大判基板34とアルマイト膜とでは熱膨張係数が大きく異なるので両者の界面に熱応力が発生し、アルマイト膜にクラックを発生させることが出来る。
【0057】
本工程が終了した後は、導電パターンの製造や回路素子の実装を良好に行うために、シャーリング等の切断手段により大判基板34は分割される。例えば、大判基板34は、1メートル四方の中判の金属基板に分割され、この金属基板に対して次工程以降の工程が施される。
【0058】
図5を参照して、次に、金属基板11の上面に樹脂層18および導電パターン13を形成する。
【0059】
図5(A)を参照して、本工程では先ず、樹脂層18が下面に貼着された導電箔42を、金属基板11の上面に積層させている。導電箔42は、圧延加工または電解メッキ処理により形成され、厚みが50μm程度の銅などの金属から成る。樹脂層18は、粒状のアルミナ等のフィラーが充填されたエポキシ樹脂等から成り、半固形(Bステージ)の状態で、導電箔42の下面に貼着されている。樹脂層18の厚みは例えば50μm程度である。
【0060】
ここでは、導電箔42および樹脂層18から成る積層シートを、金属基板11の上面に積層させている。積層させる方法としては、クラック20が樹脂層18により良好に充填されるように、真空プレスが採用されても良い。更に、この積層が終了した後は、樹脂層18を必要に応じて加熱硬化させる。
【0061】
また、樹脂層18および導電箔42を積層させる方法としては、他の方法が採用されても良い。例えば、液状の樹脂層18を金属基板11の上面に塗布した後に、この樹脂層18の上面に導電箔42を貼着させても良い。
【0062】
図5(B)を参照して、樹脂層18を積層させることにより、第1アルマイト膜12Aに形成されたクラック20には、樹脂層18が充填される。本工程では、樹脂層18に含まれるエポキシ樹脂等の樹脂成分は、液状または半固形の状態であるので、樹脂層18は容易に各クラック20に充填される。また、樹脂層18には、微少な粒状のフィラーが添加されているので、フィラーの一部もクラック20に充填される。
【0063】
本形態では、第1アルマイト膜12Aにクラック20を発生させた後に、このクラック20を樹脂層18で充填している。また、後の工程で金属基板11が加熱されても、既にクラック20が発生しているので、金属基板11とアルマイト膜との熱膨張係数の違いによりクラック20が発生することは殆ど無い。従って、本形態では、空洞状態のクラック20が殆ど存在しないので、クラック20を経由した水分の侵入が抑制されている。
【0064】
図5(C)を参照して、次に、ウェットエッチングにより導電箔42を選択的に除去することにより、導電パターン13を形成する。本工程では、混成集積回路装置となるユニット21が複数個配置されているので、ユニット21毎に同一の形状の導電パターン13が形成される。
【0065】
図6(A)を参照して、次に、ユニット21同士の境界に沿って、金属基板11の表面および下面に、第1溝22Aおよび第2溝22Bを形成する。これらの溝は、刃先の形状がV字状のダイシングソーにて、金属基板11の上面および下面から研削加工を行うことにより形成される。
【0066】
図6(B)を参照して、次に、回路素子を導電パターン13に電気的に接続する。ここでは、半導体素子15Aやチップ素子15B等の回路素子が、半田等を介して導電パターン13に固着されている。更に、半導体素子15Aの表面の電極は、金属細線を介して導電パターン13と電気的に接続されている。更に、半導体素子15Aは、導電パターン13に固着されたヒートシンク16の上面に載置されても良い。
【0067】
図7を参照して、次に、金属基板11を分離する工程を説明する。金属基板11を分離する方法としては、折り曲げによる分割方法と、切断による分割方法の2つの方法が採用できる。
【0068】
図7(A)を参照して、折り曲げにより金属基板11を分離する方法を説明する。ここでは、第1溝22Aおよび第2溝22Bが形成された箇所を支点にして、金属基板11を曲折させている。この図では、紙面上で右側に位置するユニット21が固定され、左側に位置するユニット21が曲折されている。この曲折を上下方向に複数回行うことで、ユニット21どうしは分離される。本形態では、ユニット21どうしの境界には、第1溝22Aおよび第2溝22Bが形成されており、隣接するユニット同士は各溝が設けられていない残りの厚み部分で連結されているのみである。従って、上記した曲折作業によりユニット21毎の分離は容易に行われる。
【0069】
図7(B)を参照して、切断による金属基板11の分離方法を説明する。ここでは、カッター46を、第1溝22Aに押しつけながら回転させることで、金属基板11を分割している。カッター46は円板状の形状を有しており、その周端部は鋭角に形成してある。カッター46の中心部は、カッター46が自在に回転できるように支持部44に固定してある。即ち、カッター46は駆動力を有さない。カッター46を第1溝22Aの底部に押し当てながら移動させることで、カッター46は回転し、溝が設けられていない金属基板11の部分が切断される。
【0070】
尚、上述以外の方法でも金属基板11を分離することができる。具体的には、プレス機を用いたパンチング、シャーリング等により金属基板11を分離することができる。
【0071】
上述した工程が終了した後には、リード19の固着および封止樹脂14の形成を行うことにより、例えば図2に示すような混成集積回路装置50が完成する。
【符号の説明】
【0072】
10 回路基板
11 金属基板
11A 第1側辺
11B 第2側辺
11C 第3側辺
11D 第4側辺
12A 第1アルマイト膜
12B 第2アルマイト膜
13 導電パターン
14 封止樹脂
15A 半導体素子
15B チップ素子
16 ヒートシンク
18 樹脂層
19 リード
20 クラック
21 ユニット
22A 第1溝
22B 第2溝
30 反応槽
32 電極
34 大判基板
36 溶液
38 コイル
40 ローラー
42 導電箔
44 支持部
46 カッター
50 混成集積回路装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属基板と、前記金属基板の一主面に形成された非有機性絶縁膜と、前記非有機性絶縁膜を被覆する樹脂層と、前記樹脂層の上面に形成された導電パターンとを備え、
前記非有機性絶縁膜に設けられたクラックに、前記樹脂層の一部が充填されることを特徴とする回路基板。
【請求項2】
前記金属基板は、一方向で対向する第1側辺および第2側辺と、他方向で対向する第3側辺および第4側辺とを備え、
前記クラックは、前記第1側辺から第2側辺に向かって形成されることを特徴とする請求項1記載の回路基板。
【請求項3】
前記樹脂層を構成する樹脂およびフィラーの一部が、前記クラックに充填されることを特徴とする請求項2記載の回路基板。
【請求項4】
前記クラックは、前記非有機性絶縁膜を貫通して設けられることを特徴とする請求項3記載の回路基板。
【請求項5】
前記非有機性絶縁膜は、前記金属基板の他主面にも設けられ、
前記他主面に設けられた前記非有機性絶縁膜にもクラックが形成されていることを特徴とする請求項4記載の回路基板。
【請求項6】
前記金属基板はアルミニウムを主体とする基板であり、
前記非有機性絶縁膜はアルマイトを含む絶縁膜であることを特徴とする請求項5記載の回路基板。
【請求項7】
クラックが発生している非有機性絶縁膜により主面が被覆された金属基板を用意する工程と、
前記非有機性絶縁膜の上面に樹脂層および導電パターンを形成する工程と、を備え、
前記非有機性絶縁膜の前記クラックに前記樹脂層の一部を充填することを特徴とする回路基板の製造方法。
【請求項8】
前記樹脂層および導電パターンを形成する工程は、
シート状の前記樹脂層が貼着された導電箔を前記金属基板に積層して、前記樹脂層の一部を前記非有機性絶縁膜の前記クラックに充填させる工程と、
前記導電箔を選択的にエッチングすることにより前記導電パターンを形成する工程と、を含むことを特徴とする請求項7記載の回路基板の製造方法。
【請求項9】
前記樹脂層は、半固形の状態で前記金属基板に積層さることにより、前記クラックに前記樹脂層の一部が充填され、
前記積層が終了した後に前記樹脂層は加熱硬化されることを特徴とする請求項8記載の回路基板の製造方法。
【請求項10】
前記非有機性絶縁膜の前記クラックは、前記金属基板に対して押圧加工を行うことにより形成されることを特徴とする請求項9記載の回路基板の製造方法。
【請求項11】
前記非有機性絶縁膜は、前記金属基板を溶液中で移動させつつ陽極酸化処理することにより成膜されることを特徴とする請求項10記載の回路基板の製造方法。
【請求項12】
回路基板と、前記回路基板に電気的に接続された回路素子とを有し、
前記回路基板は、金属基板と、前記金属基板の一主面に形成された非有機性絶縁膜と、前記非有機性絶縁膜を被覆する樹脂層と、前記樹脂層の上面に形成された導電パターンとを備え、
前記非有機性絶縁膜に設けられたクラックに、前記樹脂層の一部が充填されることを特徴とする回路装置。
【請求項13】
クラックが発生している非有機性絶縁膜により主面が被覆された金属基板を用意する工程と、
前記非有機性絶縁膜の上面に樹脂層および導電パターンを形成する工程と、
前記導電パターンに回路素子を電気的に接続する工程と、を備え、
前記非有機性絶縁膜の前記クラックに前記樹脂層の一部を充填することを特徴とする回路装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−151295(P2011−151295A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−13031(P2010−13031)
【出願日】平成22年1月25日(2010.1.25)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【出願人】(506227884)三洋半導体株式会社 (1,155)
【Fターム(参考)】