説明

回路形成転写構造体及び回路形成方法

【課題】非平面形状物の表面形状の違いに依存することなく、回路形成転写構造体と非平面形状物表面とを柔軟に密着可能とした回路形成転写構造体及び回路形成方法を提供する。
【解決手段】回路形成転写構造体1は、伸縮性を有する膜状であり開口を有する容器形状の少なくとも一部を構成する風船状ベース層4と、風船状ベース層4の表層に、導電物質と熱可塑性弾性樹脂との混合組成物によって設けられた導電回路2bとを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は非平面形状物に対して導電回路を形成するための回路形成転写構造体及び回路形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の電子機器は、多機能化による多様な配線幅を有する回路が作られており、加えて多様なデザイン形状の製品が世に送り出されるようになってきている。このような中で、筐体や実装基板の面形状に依存することなく、様々な線幅の回路形成を実現することが求められている。
【0003】
デザイン性を考慮した形状の中には、凹凸面形状や曲面形状などの非平面形状があり、このような筐体表面に様々な回路を形成する場合、銀ペーストなどの導電材料をディスペンサの突出量を調整しながら非平面形状の構造体に配線形成する手法や、異なる線幅の回路形成済みの平面形状物を曲げ成形する手法などで回路形成済み構造物を作り出している。
【0004】
非平面形状物に電気回路パターンを形成することに関連する技術として特許文献1に開示される「電気回路形成用フィルム、電気回路及び電気回路の製造方法」がある。
特許文献1に開示される回路形成用フィルムは、図8に示すように、回路形成転写フィルム9の表面に描かれている回路を同一外形で転写するものであるため、面方向には伸縮性の無いフレキシブルベースフィルム3と、その上に形成された同じく面方向には伸縮性の無い導電回路2aとからなっており、非平面形状物への配線幅の狭い配線回路の転写においては、精密に導電回路2aが形成された回路形成転写フィルム9を用意する必要があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−214502号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示されるような回路形成転写フィルム9では、ベースフィルム3や導電回路2aに伸縮性が無いため、凹凸形状や曲面形状などの非平面形状物に対して、導電回路2aを柔軟に密着させながら転写することが困難であった。
【0007】
本発明は係る問題に鑑みてなされたものであり、非平面形状物の表面形状の違いに依存することなく、回路形成転写構造体と非平面形状物表面とを柔軟に密着可能とした回路形成転写構造体及び回路形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明は、第1の態様として、伸縮性を有する膜状であり、開口を有する容器形状の少なくとも一部を構成する支持層と、支持層の表層に導電物質と熱可塑性弾性樹脂との混合組成物によって設けられた導電回路とを有する回路形成転写構造体を提供するものである。
【0009】
また、上記目的を達成するため、本発明は、第2の態様として、上記本発明の第1の態様に係る回路形成転写構造体を用いた回路形成方法であって、導電回路の転写対象である非平面形状物に、導電回路が所定の大きさとなるように支持層を伸縮させた回路形成転写構造体を密着させ、導電回路を構成する熱可塑性弾性樹脂を融解して導電回路を非平面形状物に固着させ、支持層を収縮させて、非平面形状物から回路形成転写構造体を離間させることを特徴とする回路形成方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、非平面形状物の表面形状の違いに依存することなく、回路形成転写構造体と非平面形状物表面とを柔軟に密着可能とした回路形成転写構造体及び回路形成方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明を好適に実施した第1の実施形態に係る回路形成転写構造体の構成を示す図である。
【図2】回路形成転写構想対を用いた非平面形状物への導電回路転写の第1の工程を示す図である。
【図3】回路形成転写構想対を用いた非平面形状物への導電回路転写の第2の工程を示す図である。
【図4】回路形成転写構想対を用いた非平面形状物への導電回路転写の第3の工程を示す図である。
【図5】回路形成転写構想対を用いた非平面形状物への導電回路転写の第3の工程を示す図である。
【図6】回路形成転写構想対を用いた非平面形状物への導電回路転写の第4の工程を示す図である。
【図7】本発明を好適に実施した第2の実施形態に係る回路形成転写構造体の構成を示す図である。
【図8】特許文献1に開示される回路形成転写フィルムの構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好適な実施の形態について説明する。
【0013】
〔第1の実施形態〕
図1に、本発明を好適に実施した第1の実施形態に係る回路形成転写構造体の断面図を示す。回路形成転写構造体1は、非平面形状物への単層配線構造体を設けるための構造体であり、風船状である。回路形成構造体1は、伸縮性を有するゴム状弾性物からなる風船状ベース層4の上に、常温硬化時にゴム状である熱可塑性樹脂をバインダとした銀ペーストなどの導電物含有熱可塑性樹脂により導電回路2bを設けた構造となっている。
【0014】
風船状ベース層4は、耐熱性に優れたゴム弾性樹脂(シリコーンゴム、フッ素ゴム、ニトロソゴムなど)で形成されている。また、導電回路2bは、導電物を含有したゴム弾性熱可塑性樹脂で構成されており、導電性高分子(ポリアセチレン、ポリパラフェニレン、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリパラフェニレンビニレン、ポリピロールなど)や金属性微粒子粉(銀粉、銅粉など)を、風船状ベース層4で使用されるゴム弾性樹脂の耐熱温度よりも低温にて加熱流動するゴム弾性を有する熱可塑性樹脂(ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリメタクリル酸メチル、スチレン系ブロックコポリマーなど)と混練調整し、風船状ベース層4の表面にディスペンス塗布法やスプレー塗布法などを用いて形成されている。
【0015】
導電回路2bは、回路形成転写構造体1を回路形成の対象である非平面形状物よりも大きく膨らませた状態において形成することが好ましい。膨らませた状態で導電回路2bを形成した回路形成転写構造体1を収縮させることで、微細な導電パターンを容易に非平面形状物に転写できる。
導電回路2bを拡大形成する場合、導電回路2bの配線幅の縮小率は、非平面形状物に転写する配線幅を回路形成転写構造体に形成した時点での配線幅で除した値で決まるため、縮小率に合わせた配線幅で導電回路2bを回路形成転写構造体1に形成する。
【0016】
図2〜図6に、本実施形態に係る風船状の回路形成転写構造体1を用いた非平面形状物7への導電回路転写工程を示す。
第1の工程として、図2に示すように、転写対象の非平面形状物7の転写面に転写する導電回路2bが形成された回路形成転写構造体1を用意する。
【0017】
第2の工程として、図3に示すように、非平面形状物7の転写対称面に合う外形まで回路形成転写構造体1を伸縮させ、非平面形状物7の転写対象面に密着させる。
例えば、回路形成転写構造体1がコンプレッサなどの圧搾空気供給装置によって常温空気が空気給排気口5から送り込まれた状態で用意されているならば、真空ポンプなどの減圧ポンプを用いて風船状回路形成転写構造体1の空気給排気口5から空気8を排気することで、非平面形状物7の転写対称面に合う外形まで収縮させ、非平面形状物7の転写面に密着させる
この際、導電回路2bが拡大形成されていた場合には、回路形成転写構造体1の収縮に伴って、実際に転写する大きさ・配線幅となった状態で非平面形状物7に密着する。
【0018】
第3の工程として、図4に示すように導電回路2bを非平面形状物7に密着させた状態で、電気炉などの加熱炉10内に入れ、導電回路2b部の導電物を溶融固定させる。なお、外部からの加熱ではなく、図5に示すように、熱風ドライヤーなどの高温空気発生装置を用いて、空気給排気口5から熱風9を送り込むことで、導電回路2b部の導電物を融解固着させるようにしても良い。
【0019】
第4の工程として、図6に示すように、真空ポンプなどの減圧ポンプを用いて、空気給排気口5から空気11を排気して、風船状ベース層4を収縮させることで、非平面形状物7から完全に引き離し、非平面形状物に導電回路2bを転写する。
【0020】
本実施形態によれば、熱可塑性樹脂と導電物との混合組成物からなるゴム状弾性を有する導電回路2bを形成した回路形成転写構造体1の風船状ベース層4を、非平面形状物7の転写面と同一の大きさとなるように伸縮させた後、回路形成転写構造体1を外部から加熱するか内部に熱風を送り込むことで、風船状ベース層4上に形成されている導電回路2bを溶融させ、非平面形状物7の転写面に導電回路2bを転写する。その後、風船状ベース層4内部からの空気を排気することで、風船状ベース層4を収縮させ、回路形成されている非平面形状物7から引き離す。
【0021】
風船状ベース層4を回路形成の対象である非平面形状物7の転写面よりも大きく膨らませた状態において、導電回路2bを拡大形成し、非平面形状物7の転写面と同一の大きさまで収縮させることで、微細な導電回路2bを非平面形状物7の転写面に容易に形成できる。
【0022】
回路形成転写構造体1は、導電回路2bと風船状ベース層4との双方が伸縮性を持つことから、非平面形状物7の転写面に対して導電回路2bを柔軟に密着させて転写することができる。
【0023】
〔第2の実施形態〕
図7に、本発明を好適に実施した第2の実施形態に係る回路形成転写構造体の断面図を示す。回路形成転写構造体13は、非平面形状物への多層配線構造体を設けるための構造体であり、第1の実施形態に係る回路形成構造体1と基本構成は同様であるが、風船状ベース層4と導電回路2bとの間にゴム状絶縁膜6を設けた構造となっている。なお、ゴム状絶縁膜6にビア12を1以上設けても良い。
【0024】
本実施形態に係る回路形成転写構造体13の製造方法について説明する。風船状ベース層4及び導電回路2bの製造方法は、第1の実施形態と同様である。ゴム状絶縁膜6は、ゴム弾性と絶縁性とを有し、かつ風船状ベース層4で利用されるゴム弾性樹脂よりも熱膨張率の大きいゴム弾性樹脂を用いて風船状ベース層4と導電回路2bとの間に形成する。
【0025】
図7に示す回路形成転写構造体13を用い、図2〜6に示す第1〜第4の工程を行うことで、導電回路2b及びゴム状絶縁膜6からなる配線構造体を非平面形状物7の転写面に形成できる。そして、上記第1〜第4の工程を繰り返し行うことで、配線構造体を積層して多層配線構造体を形成できる。なお、ゴム状絶縁膜6に形成したビア12を積層方向に挟んで位置するように導線回路2bを形成することにより、層間の導通を確保できる。
【0026】
本実施形態によれば、非平面対象物7の転写面に対して導電回路2bを柔軟に密着させて導電回路2b及びゴム状絶縁膜6を転写できる。
【実施例1】
【0027】
以下、本発明の実施例ついて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されることはない。
【0028】
図3に示すように非平面形状物7の回路転写面と密着した状態での厚さが10〜20μmとなるように、風船状ベース層4と、空気給排気口5とを有するシリコーンゴムから成る回路形成転写構造体1を中空成形法によって作る。成形された風船状ベース層4に設けられた空気給排気口5からコンプレッサを用いて常温の圧搾空気を送りながら、風船状ベース層4を膨らませ、導電回路2bを形成する。本実施例においては、第2の工程において形成したい配線幅(非平面形状物7に転写する配線幅)は、回路形成転写構造体1に設置した配線幅の半分であるとする。
【0029】
第1の工程:膨らんだ状態の風船状回路形成転写構造体1を非平面形状物7の転写対象面上に設置する。
第2の工程:風船状の回路形成転写構造体1の空気給排気口5から真空ポンプによって空気8を排気することで、非平面形状物7の転写対象面に合う外形まで収縮させ、導電回路2bの配線幅が回路形成転写構造体1に設置した際の配線幅の半分となるようにし、非平面形状物7の転写対象面に密着させる。
【0030】
第3の工程:導電回路2bを非平面形状物7に密着させた状態で、炉内が180〜230℃の加熱炉10に入れ、導電回路2bの部分の導電物を融解固着させる。
第4の工程:導電回路2bの部分の導電物を融解固着させた後、十分に冷却し、真空ポンプを用いて空気11を排気して、風船状ベース層4を収縮させることで、風船状ベース層4を収縮させ、非平面形状物7から完全に引き離し、非平面形状物7上に導電回路2bを転写する。
【0031】
以上の各工程により、非平面形状物7に導電回路2bを備えた単層の配線構造体を形成できた。
【実施例2】
【0032】
第2の実施例について説明する。
回路形成転写構造体の製造方法は第1の実施例と同様である。
非平面形状物7に導電回路2bを設ける際の工程については、第1、第2及び第4の工程は実施例1と同様であるが、第3の工程の替わりに下記第3’の工程を行う。
第3’の工程:180〜230℃の熱風9を熱風ドライヤーによって風船状の回路形成転写構造体1に送り込み、導電回路2bの部分の導電物を融解固着させる。
【0033】
以上の各工程により、非平面形状物7に導電回路2bを備えた単層の配線構造体を形成できた。
【実施例3】
【0034】
第3の実施例について説明する。
【0035】
図7に示した多層配線構造体を設けるための風船状回路形成転写構造体1を製造するにあたって、風船状ベース層4、空気給排気口5及び導電回路2bを上記実施例1と同様に形成する。ゴム状絶縁膜6は、導電回路2bの形成前に風船状ベース層4を膨らませた状態で、フッ素ゴムをディッピング成形することにより、厚さ10〜20μmとなるように形成する。
【0036】
上記実施例1と同様に第1〜第4の工程を行い、非平面形状物7に導電回路2b及びゴム状絶縁膜6からなる単層の配線構造体を設ける。その後、実施例1の第1〜第4の工程を繰り返すことで配線構造体を1層ずつ積層していき、多層の配線構造体を非平面形状物7に形成する。
【0037】
以上の各工程により、非平面形状物7に導電回路2b及びゴム状絶縁膜6を積層した多層の配線構造体を形成できた。
【0038】
なお、上記各実施形態及び実施例は本発明の好適な実施の一例であり、本発明はこれらに限定されることはない。
例えば、上記各実施形態においては、回路形成転写構造体が全体的に伸縮する風船状である場合を例としたが、少なくとも非平面形状物の転写面と接する部分が伸縮する構造であれば良い。
このように、本発明は様々な変形が可能である。
【符号の説明】
【0039】
1、13 回路形成転写構造体
2b 導電回路
4 風船状ベース層
5 空気給排気口
6 ゴム状絶縁膜
7 非平面形状物
8、11 空気
9 熱風
10 加熱炉
12 ビア

【特許請求の範囲】
【請求項1】
伸縮性を有する膜状であり、開口を有する容器形状の少なくとも一部を構成する支持層と、
前記支持層の表層に、導電物質と熱可塑性弾性樹脂との混合組成物によって設けられた導電回路とを有する回路形成転写構造体。
【請求項2】
前記導電回路が、前記支持層が伸びた状態において形成されたことを特徴とする請求項1記載の回路形成転写構造体。
【請求項3】
前記容器形状は、全体が前記支持層によって構成された袋状であることを特徴とする請求項1又は2記載の回路形成転写構造体。
【請求項4】
前記支持層と前記導電回路との間に伸縮性を有する絶縁性膜を有することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項記載の回路形成転写構造体。
【請求項5】
前記絶縁性膜は、少なくとも一つのビアを備えることを特徴とする請求項4記載の回路形成転写構造体。
【請求項6】
請求項1から3のいずれか1項記載の回路形成転写構造体を用いた回路形成方法であって、
前記導電回路の転写対象である非平面形状物に、前記導電回路が所定の大きさとなるように前記支持層を伸縮させた前記回路形成転写構造体を密着させ、
前記導電回路を構成する前記熱可塑性弾性樹脂を融解して前記導電回路を前記非平面形状物に固着させ、
前記支持層を収縮させて、前記非平面形状物から前記回路形成転写構造体を離間させることを特徴とする回路形成方法。
【請求項7】
請求項4又は5記載の回路形成転写構造体を用いた回路形成方法であって、
前記導電回路の転写対象である非平面形状物に、前記導電回路が所定の大きさとなるように前記支持層を伸縮させた前記回路形成転写構造体を密着させ、
前記導電回路を構成する前記熱可塑性弾性樹脂を融解して前記導電回路及び前記絶縁性膜を前記非平面形状物に固着させ、
前記支持層を収縮させて、前記非平面形状物から前記回路形成転写構造体を離間させる一連の工程を複数回繰り返すことを特徴とする回路形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−182722(P2010−182722A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−22422(P2009−22422)
【出願日】平成21年2月3日(2009.2.3)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】