説明

回路解析システム

【課題】プリント配線板の超高速回路信号の解析をレスポンス良く実施すると共に、実測近似の解析を実現する回路解析システムを提供する。
【解決手段】本発明の回路解析システムは、線路モデル作成電磁界解析エンジンをサーバに設置して、ローカルPC側で解析毎に電磁界解析を行うことを不要とし、サーバ側の線路モデル格納データベースから回路解析に必要な線路モデルを取り出せるようにすることにより、その解析レスポンスを飛躍的に向上させる。また、各種実測データを格納する実測結果格納データベースをサーバに設け、この実測結果を線路モデル格納データベースの線路モデルに反映させることにより、回路解析で最も影響力がある線路モデルの精度を向上させ、結果として実測に近似した解析を可能とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、プリント配線板の回路解析技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、プリント配線板内に占める高速信号の割合が増加している。このため、プリント配線板の高速信号配線が電気的仕様を満たしているかどうかは、コンピュータによる解析によって確認するのが一般的である(例えば特許文献1等参照)。
【0003】
しかしながら、1Gbpsを越える超高速信号では、周波数増の影響によって、実測とは異なる解析結果が現れてしまい、適切な設計へのフィードバックが困難になってきているといった問題が発生し始めている。
【特許文献1】特開平10−21267号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前述したように、最近では、回路解析による適切な設計へのフィードバックが困難になるといった問題が発生し始めている。
【0005】
この発明は、このような事情を考慮してなされたものであり、プリント配線板の超高速回路信号の解析をレスポンス良く実施すると共に、実測近似の解析を実現する回路解析システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前述の目的を達成するために、この発明は、サーバ装置とクライアント装置とがネットワークを介して接続されるクライアントサーバシステム上に構築される回路解析システムであって、前記サーバ装置は、電磁界解析手段と、前記電磁界解析手段の解析によって得られる線路モデルを格納する線路モデル格納データベースとを具備し、前記クライアント装置は、前記線路モデル格納データベースに格納された線路モデルを前記ネットワーク経由で取得する線路モデル取得手段と前記線路モデル取得手段により取得された線路モデルを用いて回路解析を実行する回路解析手段とを具備することを特徴とする。
【0007】
また、この発明は、前記サーバ装置が、各種実測データを格納する実測結果格納データベースと、前記実測結果格納データベースに格納された実測データを前記線路モデル格納データベースに格納された線路モデルに反映させる線路モデル改善手段とをさらに具備することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
この発明によれば、プリント配線板の超高速回路信号の解析をレスポンス良く実施すると共に、実測近似の解析を実現する回路解析システムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、図面を参照してこの発明の一実施形態を説明する。
【0010】
図1は、この発明の実施形態に係る回路解析システムの構成を示す図である。図示のように、この回路解析システムは、サーバ1とローカルPC2とが協働するいわゆるクライアントサーバシステム上に構築される。なお、ここでは、分かり易くするため、ローカルPC2を1つだけ示したが、サーバ1は、複数のローカルPC2を相手に動作する。
【0011】
そして、この回路解析システムでは、線路モデル作成電磁界解析エンジン11をサーバ1に設置する。つまり、ローカルPC2側においては、解析毎に電磁界解析を行う必要がなくなり、線路モデル作成電磁界解析エンジン11の解析結果が格納された線路モデル格納データベース12から回路解析に必要な線路モデルを取り出せば良いので、その解析レスポンスを飛躍的に向上させることができる。
【0012】
また、この回路解析システムでは、サーバ1が、各種実測データを格納する実測結果格納データベース13を備え、この実測結果を線路モデル格納データベース12の線路モデルに反映させる。つまり、回路解析で最も影響力がある線路モデルの精度を向上させ、結果として実測に近似した解析を可能とする。
【0013】
次に、この回路解析システムの詳細について説明すると、図1(1)で入力される情報は、プリント配線板のZ0,Zdiff,Zcommon,Tpdである。また、図1(2)で入力される情報は、図1(1)で実測したそれぞれの基板断面を測定した結果である。図1(3)で入力される情報は、RLGCであり、Sパラメータで単線配線であればS11〜S22の2×2マトリクスデータ、差動配線であればS11〜S44の4×4マトリクスデータである。図2にRLGCパラメータ、図3にSパラメータの一例をそれぞれ示す。さらに、図1(4)で入力される情報は、図1(1)〜図1(3)の評価対象のプリント配線板の各種情報(メーカ名,比誘電率,誘電損失,等)である。
【0014】
図1(5)は、図1(1)〜図1(4)で取得した情報を実際の線路モデルへ反映することを示している。また、図1(6)は、線路モデル作成電磁界解析エンジン11から得られた情報を線路モデル格納データベース12へ入力することを示している。
【0015】
一方、図1(7)は、ローカルPC2側で解析を実施する際、基板配線の情報(解析したい配線)に合致するデータを検索照合することを示している。また、図1(8)は、回路解析に必要な線路モデルを線路モデル格納データベース12から組み込む処理を示している。図1(9)〜(11)は、回路解析に必要な各種情報を回路解析ツール22の回路解析エンジン221へ入力する処理を示している。また、CADツール21上で線路モデル格納データベース12の情報をいつでも取得できる参照機能(図1(12))が組み込まれており、単線配線であれば特性インピーダンス(Z0),差動配線であれば差動インピーダンスZdiff,コモンインピーダンスZcommonの情報を引き出すことができる。
【0016】
さらに、このCADツール21に限らず、取得したいプリント配線板情報がデータベース化されているため、データベースそのものを参照することも可能である。図4に本実施形態の回路解析システムにおける解析までのフローを示す。
【0017】
回路解析ツール22の回路解析エンジン221は、CADツール21から接続情報を入力すると共に(ステップA1)、サーバ1のデバイスモデル格納データベース14から必要なデバイス情報を入力する(ステップA2)。
【0018】
次に、回路解析エンジン221は、CADツール21からの基板配線形状、層構成の情報を基に、合致するデータを線路モデル格納データベース12上から検索する(ステップA3)。もし、解析したい形状と合致した情報が線路モデル格納データベース12に存在していた場合(ステップA4のYES)、回路解析エンジン221は、その合致した線路モデルデータとステップA1〜A2の入力情報とを基に回路解析を実施する(ステップA5)。
【0019】
一方、存在しない場合(ステップA4のNO)、回路解析エンジン221は、サーバ1の線路モデル作成電磁界解析エンジン11に電磁界解析を依頼してその結果を線路モデル格納データベース12に反映させると共に(ステップA6)、その結果とステップA1〜A2の入力情報とを基に回路解析を実施する(ステップA7)。
【0020】
また、図1(5)における実測からのデータ反映には、超高速化する信号に対応するため高周波帯域まで対応できるS-ParameterおよびRLGCを利用する。S-Parameterは、周波数毎のエネルギーをパラメータ化したものであるため、高周波帯域までの特性を得ることができる。RLGCも、周波数依存パラメータを含んでいるため、周波数に依存する電気的な損失を考慮できる。
【0021】
図4のフロー中のステップA6で触れたように、サーバ1の線路モデル作成電磁界解析エンジン11は、線路モデル格納データベース12を補完するために存在する。CADツール21から入手したデータに合致したデータが未だ線路モデル格納データベース12上に存在していない場合には、線路モデル作成電磁界解析エンジン11による電磁界解析を速やかに実施することにより、線路モデル格納データベース12上に線路モデルを作成する(図1(13))。
【0022】
ここで、本実施形態の回路解析システムの従来との違いを明確にするために、図5に従来の回路解析システムの構成、図6に従来の回路解析システムにおける解析までのフローをそれぞれ示す。
【0023】
図5に示すように、従来の回路解析システムでは、CADツールのデータやデバイスモデル格納データベースから必要なデータを取得し、ローカルPC側において回路解析ツールの回路解析エンジンで電磁界解析を行い、線路モデルを作成する。その後、この作成された線路モデルを基に、接続情報と合わせて回路解析を実施する。この流れを図6を参照しながら詳述する。
【0024】
従来の回路解析システムにおける回路解析ツールは、CADツールから線路モデルに必要な情報を入力し(ステップB1)、また、プリント配線板データから接続情報を入力する(ステップB2)。さらに、回路解析ツールは、デバイスモデル格納データベースから必要な情報を入力する(ステップB3)。
【0025】
そして、回路解析ツールは、まず、ローカルPC上で電磁界解析を実施して線路モデルを作成し(ステップB4)、その後に、ステップB1〜B3の入力情報を基に回路解析を実施する(ステップB5)。
【0026】
このフロー中のステップB4に示されるように、従来の回路解析システムでは、ローカルPC側で電磁界解析を実施するため、レスポンスに多くの時間が必要となる。また、近年の1Gbpsを越える超高速化による周波数に依存する電気的な損失(誘電体損失(tanδ)等)には、ローカルPC側の環境で実施可能な程度の精度の電磁界解析では十分に対応できなくなってきており、実測と異なる結果が得られがちである。言うまでもなく、電磁界解析部分が簡易式などで対応される場合も同様である。
【0027】
これに対して、前述したように、本実施形態の回路解析システムでは、一般的に高性能な機種が使用されるサーバ1に線路モデル作成電磁界解析エンジンを設置するので、ローカルPC上での電磁界解析が不要となり、解析レスポンスを向上させると共に、超高速化に対する精度的な追従も実現される。また、実測結果を基に線路モデルの精度向上を図るので、実測に近似した解析を可能とする。
【0028】
さらに、線路モデル格納データベースは流用でき、かつ、ネットワーク上のどこからでもアクセスできるため、他のPCにおいて同様の回路解析を実施する際にも流用が可能となり、トータル的な効率は向上する。なお、デバイスモデル格納データベースには、入手した線路以外のコネクタなどの他の素子モデルがデータベースとして組み込まれていても良い。
【0029】
以上説明したように、本実施形態の回路解析システムによれば、プリント配線板の超高速回路信号の解析をレスポンス良く実施すると共に、実測近似の解析を実現できる。
【0030】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】この発明の実施形態に係る回路解析システムの構成を示す図
【図2】同実施形態の回路解析システムで用いられるRLGCパラメータを例示する図
【図3】同実施形態の回路解析システムで用いられるSパラメータを例示する図
【図4】同実施形態の回路解析システムにおける解析までのフローを示すフローチャート
【図5】従来の回路解析システムの構成を示す図
【図6】従来の回路解析システムにおける解析までのフローを示すフローチャート
【符号の説明】
【0032】
1…サーバ、2…ローカルPC、11…線路モデル作成電磁界解析エンジン、12…線路モデル格納データベース、13…実測結果格納データベース、14…デバイスモデル格納データベース、21…CADツール、22…回路解析ツール、221…回路解析エンジン。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サーバ装置とクライアント装置とがネットワークを介して接続されるクライアントサーバシステム上に構築される回路解析システムであって、
前記サーバ装置は、
電磁界解析手段と、
前記電磁界解析手段の解析によって得られる線路モデルを格納する線路モデル格納データベースと
を具備し、
前記クライアント装置は、
前記線路モデル格納データベースに格納された線路モデルを前記ネットワーク経由で取得する線路モデル取得手段と
前記線路モデル取得手段により取得された線路モデルを用いて回路解析を実行する回路解析手段と
を具備することを特徴とする回路解析システム。
【請求項2】
前記サーバ装置は、
各種実測データを格納する実測結果格納データベースと、
前記実測結果格納データベースに格納された実測データを前記線路モデル格納データベースに格納された線路モデルに反映させる線路モデル改善手段と
をさらに具備することを特徴とする請求項1記載の回路解析システム。
【請求項3】
前記各種実測データには、S-ParameterおよびRLGCの少なくとも一方が含まれることを特徴とする請求項2記載の回路解析システム。
【請求項4】
前記クライアント装置は、
前記線路モデル格納データベースに格納された単線配線の線路モデルに関する特性インピーダンス情報、差動配線の線路モデルに関する差動インピーダンス情報およびコモンインピーダンス情報を参照可能なCADツールを具備することを特徴とする請求項1記載の回路解析システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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