説明

回路遮断器

【課題】可動接触子を閉極位置に復帰させる接圧バネの付勢力を調整せずに、限流性能を高めることができる回路遮断器を提供する。
【解決手段】可動接触子用支軸32を挟んで第2可動接触子22の第2可動接点22aに対する反対側に設けた係合ピン31と、ラッチ支軸35を介して回動自在に軸支され、係合ピンに係合して第2可動接触子を開極方向に回動させるとともに、アークの発生による消弧室24内の圧力上昇を保持する消弧室圧力保持手段であるラッチ23と、消弧室内で発生したアークガスの流れをラッチに向けて発生し、第2可動接触子が開極方向に回動するように前記ラッチを押圧するガス流発生手段であるアークガス排出口27とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配線用遮断器や漏電遮断器などの回路遮断器に関し、電磁反発力による可動接触子の回動により接点間が開離する反発形の回路遮断器に関する。
【背景技術】
【0002】
反発形の回路遮断器には、1つの可動接点が開離する1点切り回路遮断器(例えば、特許文献1)と、2つの可動接点が同時に開離する2点切り回路遮断器(例えば、特許文献2)とがある。
図16は、従来の2点切り回路遮断器を示すものである。
この2点切り回路遮断器は、絶縁物のケース2内に、第1可動接触子1、第2可動接触子5及び固定接触子9が配置されている。
【0003】
第1可動接触子1は、一端に可動接点1aが設けられ、他端がケース2に回動自在に配置されたホルダに支軸3を介して回動可能に支持され、トグルリンク機構、ラッチ、ラッチ受け等からなる開閉機構4により開閉駆動される。
第2可動接触子5は、一端に第1可動接触子1の可動接点1aと接触する可動接点5aが設けられ、中央部に接圧ピン6が固定され、他端が支軸7に回動可能に支持されている。また、第2可動接触子5には、接圧ピン6に接圧バネ8の一端が係合しており、接圧バネ8から受けるトルクにより閉極方向に回動させる(第1可動接触子1に向けて時計方向に回動させる)荷重が作用している。
【0004】
固定接触子9は、一端に電源側端子9aが形成され、他端側に支軸7を支持する保持部材10が電気的に接続されており、ケース2にねじ等で固定されている。
固定接触子9、第2可動接触子5及び第1可動接触子1の通電経路に短絡電流などの大電流が流れると、第1可動接触子1及び第2可動接触子5に互いに逆方向の電磁反発力が発生し、第1可動接触子1は支軸3回りに時計方向に回動し、第2可動接触子5も、接圧バネ8から受けるトルクに抗して支軸7回りに反時計方向に回動してトリップ状態となり、可動接点1a,5a間にアークが生じる。
【0005】
ところで、通電経路に短絡電流が流れ、電磁反発力により所定の接点ギャップ長に可動接点1a,5aが開離した際、一旦増加した短絡電流が減少すると、電磁反発力の減少により可動接点1a,5aの間の接点ギャップ長が減少してアーク長が短縮され、アーク電圧が低下して限流性能が低下するおそれがある。また、短絡電流が流れた直後に、可動接点1a,5a間に規定値以上の接点ギャップ長が確保されないと通電経路の遮断が不能となるので、短絡電流が流れた直後には、十分な長さの接点ギャップ長が必要である。
そこで、図16の接触子構造は、第2可動接触子5に作用する接圧バネ8のトルクを変化させることで、電磁反発力が減少した際の可動接点1a,5a間の接点ギャップ長の減少を防いでいる。
【0006】
すなわち、図17(a)に示すように、閉極状態の第2可動接触子5は接圧バネ8から受けるトルクT1を、T1=F1×L1(F1は接圧バネ8のバネ力、L1は支軸7と接圧バネ8の作用位置までの長さ)とし、図17(b)に示すように、開極方向に回動する第2可動接触子5は、接圧バネ8から受けるトルクT2が、T2=F2×L2(F2は接圧バネ8のバネ力、L2は支軸7と接圧バネ8の作用位置までの長さ)とし、第2可動接触子5が閉極状態から開極方向に回動していくと、接圧バネ8から受けるトルクが減少するようにしている(T2<T1)。これにより、第2可動接触子5が閉極位置から開極方向に回動していくと、第2可動接触子5を閉極方向に回動させる荷重を減少させ、第2可動接触子5が閉極方向に回動する速度(以下、復帰速度と称する)を遅くすることができ、可動接点1a,5a間の接点ギャップ長の減少を防止することができる。
【0007】
しかし、図16の接触子構造は、第2可動接触子5が自力で閉極位置に復帰するように、所定値以上の付勢力を持った接圧バネ8を使用しなければならず、接圧バネ8のみを利用して第2可動接触子5の復帰速度を遅くする方法は限界がある。
一方、図18(a)に示すように、接圧バネ及びカムを使用して復帰速度を遅くするようにした可動接触子の構造も知られている。
この可動接触子11は、一端に可動接点11aが設けられ、他端に接圧ピン12が固定されているとともに、接圧ピン12と可動接点11aの間において支軸13に回動可能に支持されている。また、可動接触子11の他端側に、支軸14に回動可能にカム15が支持されており、カム15に設けた曲面形状のカム面15aの一部に接圧ピン12が接触するように、接圧バネ16がカム15を押圧している。
【0008】
そして、図18(a)に示すように、閉極状態ではカム面15aの第1位置15a1に接圧ピン12が接触し、可動接触子11を閉極方向(時計方向)に回動させる力として、荷重F3がカム15を介して接圧バネ16から作用する。また、図18(b)に示すように、電磁反発力により可動接触子11が開極方向(反時計方向)に回動すると、接圧ピン12はカム面15a上を摺動して前記第1位置15a1とは異なる第2位置15a2に移動する。このとき、接圧ピン12には前述した荷重F3と比較して作用方向が異なる荷重F4がカム15を介して接圧バネ16から作用し、この荷重F4の分力F4´が、可動接触子11を閉極方向(時計方向)に回動させる力として作用する。
このように、図18(a)、(b)の構造も、可動接触子11が閉極位置から開極方向に回動していくと、カム15から接圧ピン12に作用する荷重F3,F4の方向が変化して可動接触子11を閉極方向に回動させる力が減少していくので、可動接触子11が閉極方向に回動する復帰速度を遅くすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2009−252404号公報
【特許文献2】特開平4−190521号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、図18に示した構造も、カム15を使用することで可動接触子11を閉極方向に回動させる力が減少するものの、可動接触子11が自力で閉極位置に復帰するように、所定値以上の付勢力を持った接圧バネ16を使用しなければならず、可動接触子11の復帰速度を遅くする方法だけでは、限流性能、遮断性能を高めるために限界がある。
そこで、本発明は、上記従来例の未解決の課題に着目してなされたものであり、可動接触子を閉極位置に復帰させる接圧バネの付勢力を調整せずに、限流性能、遮断性能を高めることができる回路遮断器を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、請求項1記載の回路遮断器は、先端に第1可動接点を設け、開閉機構により開閉駆動される第1可動接触子と、可動接触子用支軸を介して回動自在に軸支され、先端に設けた第2可動接点が前記第1可動接点との接触位置まで閉極方向に回動するように接圧バネにより付勢されている第2可動接触子と、前記第1可動接点と前記第2可動接点間に発生したアークを消弧する消弧室とを備え、過電流通電時に前記第1可動接触子と前記第2可動接触子の間に発生する電磁反発力によって、前記第2可動接触子が前記接圧バネの付勢力に抗して前記第1可動接触子から離間する開極方向に回動する回路遮断器において、前記消弧室内に前記第1可動接触子と前記第2可動接触子を配置するとともに、前記可動接触子用支軸を挟んで前記第2可動接触子の前記第2可動接点に対する反対側に設けた係合ピンと、ラッチ支軸を介して回動自在に軸支され、前記係合ピンに係合して前記第2可動接触子を開極方向に回動させるラッチと、前記アークの発生による前記消弧室内の圧力上昇を保持する消弧室圧力保持手段と、前記消弧室内で発生したアークガスの流れを前記ラッチに向けて発生し、前記第2可動接触子が開極方向に回動するように前記ラッチを押圧するガス流発生手段と、を備え、前記ガス流発生手段は、前記第2可動接触子が所定の開極位置まで開極方向に回動するように前記ラッチを押圧し、前記消弧室圧力保持手段は、前記消弧室と当該消弧室の外部との間に圧力差を利用して、前記第2可動接触子を前記所定の開極位置に回動させた前記ラッチの位置を保持するようにした。
【0012】
この発明によると、ガス流発生手段は、第2可動接触子が所定の開極位置まで開極方向に回動するようにラッチを押圧し、消弧室圧力保持手段は、消弧室と当該消弧室の外部との間に圧力差を利用して第2可動接触子を所定の開極位置に回動させたラッチの位置を保持するようにしたので、過電流通電時に第1可動接点及び第2可動接点の間で発生する電磁反発力により開極方向に回動した第2可動接触子は、係合ピンに係合するラッチにより所定の位置で保持され、第1可動接点及び前記第2可動接点の間のアーク長は短縮せず、アーク電圧が低下しないので限流性能の向上が図られる。また、第2可動接触子を閉極方向に回動させる接圧バネの付勢力を大きくしても、限流性能には影響を与えないので、第2可動接触子の閉極動作を正常に行なうことが可能となる。
【0013】
また、請求項2記載の発明は、請求項1記載の回路遮断器において、前記所定の開極位置が、過電流通電時に前記第1可動接点及び前記第2可動接点の間の接点ギャップ長が通電経路を遮断可能とする長さとなるように、前記第2可動接触子を保持する位置である。
この発明によると、過電流通電時には、通電経路を遮断可能とする第1可動接点及び第2可動接点の間の接点ギャップ長が確保されるので、過電流通電時の遮断を確実に行なうことができる。
【0014】
また、請求項3記載の発明は、請求項1又は3記載の回路遮断器において、前記ラッチは、前記所定の開極位置に回動した前記第2可動接触子に対して前記係合ピンを介して閉極方向に回動させる方向に付勢力を付与するラッチバネを備えている。この発明によると、第2可動接触子の閉極動作を早く行なうことが可能となる。
【0015】
また、請求項4記載の発明は、固定接点を有する固定接触子と、可動接触子用支軸を介して回動自在に軸支され、先端に設けた可動接点が前記固定接点との接触位置まで閉極方向に回動するように開閉機構により開閉駆動される可動接触子と、前記固定接点及び前記可動接点の間に発生したアークを消弧する消弧室と、を備えた回路遮断器において、前記消弧室内に前記固定接触子と前記可動接触子とを配置するとともに、前記可動接触子用支軸を挟んで前記可動接触子の前記可動接点に対する反対側に設けた係合ピンと、ラッチ支軸を介して回動自在に軸支され、前記係合ピンに係合して前記可動接触子を開極方向に回動させるラッチと、前記アークの発生による前記消弧室内の圧力上昇を保持する消弧室圧力保持手段と、前記消弧室内で発生したアークガスの流れを前記ラッチに向けて発生し、前記可動接触子が開極方向に回動するように前記ラッチを押圧するガス流発生手段と、を備え、前記ガス流発生手段は、前記可動接触子が所定の開極位置まで開極方向に回動するように前記ラッチを押圧し、前記消弧室圧力保持手段は、前記消弧室と当該消弧室の外部との間に圧力差を利用して、前記可動接触子を前記所定の開極位置に回動させた前記ラッチの位置を保持するようにした。
【0016】
この発明によると、ガス流発生手段は、可動接触子が所定の開極位置まで開極方向に回動するようにラッチを押圧し、消弧室圧力保持手段は、消弧室と当該消弧室の外部との間に圧力差を利用して可動接触子を所定の開極位置に回動させたラッチの位置を保持するようにしたので、過電流通電時に固定接点及び可動接点の間で発生する電磁反発力により開極方向に回動した可動接触子は、係合ピンに係合するラッチにより所定の位置で保持され、固定接点及び可動接点の間のアーク長は短縮せず、アーク電圧が低下しないので限流性能の向上が図られる。
【0017】
また、請求項5記載の発明は、請求項4記載の回路遮断器において、前記所定の開極位置は、過電流通電時に前記固定接点及び前記可動接点の間の接点ギャップ長が通電経路を遮断可能とする長さとなるように、前記可動接触子を保持する位置である。
この発明によると、過電流通電時には、通電経路を遮断可能とする固定接点及び可動接点の間の接点ギャップ長が確保されるので、過電流通電時の遮断を確実に行なうことができる。
【0018】
また、請求項6記載の発明は、請求項4又は5記載の回路遮断器において、前記ラッチは、前記所定の開極位置に回動した前記可動接触子に対して前記係合ピンを介して係合し、開極方向に回動させる方向に付勢力を付与するラッチバネを備えている。
この発明によると、可動接触子を閉極動作の途中で保持する動作を簡単な構造で行なうことができる。
【0019】
また、請求項7記載の発明は、請求項1乃至6の何れか1項に記載の回路遮断器において、前記ガス流発生手段が、前記ラッチの近傍の前記消弧室を形成する壁部に形成され、前記消弧室の外部と連通するアークガス排出口である。この発明によると、簡単な構成でガス流発生手段を得ることができる。
また、請求項8記載の発明は、請求項7記載の回路遮断器において、前記消弧室圧力保持手段が、前記アークガス排出口の前記消弧室で開口する開口部の近傍に配置され、前記アークガスの流れの発生により回動して前記開口部を閉塞する前記ラッチである。
この発明によると、部品数の減少を図ることができ、回路遮断器の製造コストの低減化が可能となる。
【0020】
さらに、請求項9記載の発明は、請求項8記載の回路遮断器において、前記ラッチが、前記ラッチ支軸を介して回動自在に軸支され、前記係合ピンに係合するラッチ本体と、このラッチ本体に一体に固定され、前記アークガスの流れを受けて前記開口部を閉塞自在な受圧閉塞部とを備え、前記ラッチ本体を鋼鉄などの比重の大きい金属材料で形成し、前記受圧閉塞部を前記ラッチ本体より比重の小さい非鉄金属材料で形成した。
【0021】
さらにまた、請求項10記載の発明は、請求項8記載の回路遮断器において、前記ラッチ本体を鋼鉄などの比重の大きい金属材料で形成し、前記受圧閉塞部を前記ラッチ本体より比重の小さい熱硬化性の合成樹脂材料で形成した。
これら請求項9、10の発明によると、中電流(約10KA以下)の短絡電流が流れた場合、慣性モーメントを小さくしたラッチが確実に回動するので、第1及び第2可動接点の間のアーク長が短縮せず、限流性能の向上を図ることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係る請求項1記載の回路遮断器によれば、ガス流発生手段は、第2可動接触子が所定の開極位置まで開極方向に回動するようにラッチを押圧し、消弧室圧力保持手段は、消弧室と当該消弧室の外部との間に圧力差を利用して第2可動接触子を所定の開極位置に回動させたラッチの位置を保持するようにしたので、過電流通電時に第1可動接点及び第2可動接点の間で発生する電磁反発力により開極方向に回動した第2可動接触子は、係合ピンに係合するラッチにより所定の位置で保持され、第1可動接点及び第2可動接点の間のアーク長は短縮せず、アーク電圧が低下しないので限流性能の向上を図ることができる。
【0023】
また、本発明に係る請求項4記載の回路遮断器によれば、ガス流発生手段は、可動接触子が所定の開極位置まで開極方向に回動するようにラッチを押圧し、消弧室圧力保持手段は、消弧室と当該消弧室の外部との間に圧力差を利用して可動接触子を所定の開極位置に回動させたラッチの位置を保持するようにしたので、過電流通電時に固定接点及び可動接点の間で発生する電磁反発力により開極方向に回動した可動接触子は、係合ピンに係合するラッチにより所定の位置で保持され、可動接点及び可動接点の間のアーク長は短縮せず、アーク電圧が低下しないので限流性能の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に係る第1実施形態の回路遮断器の閉極状態を示す図である。
【図2】本発明に係る第1実施形態の回路遮断器の要部を示す図である。
【図3】本発明に係る第1実施形態の回路遮断器のトリップ状態の中期を示す図である。
【図4】本発明に係る第1実施形態の回路遮断器のトリップ状態の終期を示す図である。
【図5】本発明に係る第2実施形態の回路遮断器の閉極状態を示す図である。
【図6】本発明に係る第2実施形態の回路遮断器の要部を示す図である。
【図7】本発明に係る第2実施形態の回路遮断器のトリップ状態の中期を示す図である。
【図8】本発明に係る第2実施形態の回路遮断器のトリップ状態の終期を示す図である。
【図9】本発明に係る第3実施形態の回路遮断器の閉極状態を示す図である。
【図10】本発明に係る第3実施形態の回路遮断器の要部を示す図である。
【図11】本発明に係る第3実施形態の回路遮断器のトリップ状態の中期を示す図である。
【図12】本発明に係る第3実施形態の回路遮断器のトリップ状態の終期を示す図である。
【図13】本発明に係る第4実施形態の回路遮断器の閉極状態を示す図である。
【図14】本発明に係る第4実施形態の回路遮断器のトリップ状態の中期を示す図である。
【図15】本発明に係る第4実施形態の回路遮断器のトリップ状態の終期を示す図である。
【図16】従来の回路遮断器を示す図である。
【図17】従来の回路遮断器の可動接触子の構造を示す図である。
【図18】従来の回路遮断器の図17と異なる可動接触子の構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を実施するための形態(以下、実施形態という。)を、図面を参照しながら詳細に説明する。
(第1実施形態:2点切り回路遮断器)
図1から図4は本発明に係る第1実施形態の2点切り回路遮断器を示す図であり、図1は第1実施形態の回路遮断器の閉極状態を示す図、図2は第1実施形態の回路遮断器の要部を示す図、図3は第1実施形態の回路遮断器のトリップ状態の途中を示す図、図4は第1実施形態の回路遮断器のトリップ状態の終期を示す図である。
【0026】
図1に示すように、ケース17とカバー18とからなる絶縁容器内に、他の内部空間19との間に隔壁20を形成することで消弧室24が設けられており、この消弧室24には、第1可動接触子21、第2可動接触子22、ラッチ23及び当接部連通穴26aを形成したラッチ当接部26が配置されている。
消弧室24は、絶縁物の支持体24aと、この支持体24aに適宜の間隔で上下に積層支持された磁性体の複数枚のグリッド24bとから構成されている。
【0027】
隔壁20には、他の内部空間19及び消弧室24を連通する隔壁連通穴25が形成されており、ラッチ当接部26は、当接部連通穴26aが隔壁連通穴25と連通するように隔壁20に沿って配置されている。なお、当接部連通穴26a及び隔壁連通穴25を、アークガス排出口27と称する。このアークガス排出口27が、消弧室内で発生したアークガスの流れをラッチ23に向けて発生し、第2可動接触子22が開極方向に回動するようにラッチ23を押圧するガス流発生手段である。
【0028】
第1可動接触子21は、一端に可動接点21aが設けられ、他端側が支軸30を介してケース17或いは図示しないホルダに回動可能に支持された部材である。なお、第1可動接触子21は、図示しない開閉機構の操作によって開閉自在とされているとともに、短絡電流などの大電流が流れて過電流引外し装置(不図示)が動作すると、開極方向(時計方向)に回動するようになっている。
【0029】
第2可動接触子22は、一端に第1可動接触子21の可動接点21aと接触する可動接点22aが設けられ、他端側にラッチ係合ピン31が固定され、可動接点22aとラッチ係合ピン31の間の部位が、ケース17に固定された支軸32に回動可能に支持されている。第2可動接触子22には接圧バネ33が係合しており、この接圧バネ33の付勢力が、第2可動接触子22を閉極方向(時計方向)に回動させる荷重として作用している。
【0030】
ラッチ23は、第2可動接触子22の他端側近くに配置されており、一端側がケース17に固定された支軸35に回動自在に支持されているとともに、復帰バネ36が係合している。この復帰バネ36の付勢力は、ラッチ23を反時計方向に回動させる荷重として作用している。このラッチ23が、アークの発生による消弧室内の圧力上昇を保持する消弧室圧力保持手段である。
【0031】
このラッチ23には、第2可動接触子22のラッチ係合ピン31に係合するカム面34が形成されており、このカム面34は、図2に示すように、第2可動接触子22が開極方向(反時計方向)に回動するトリップ状態の初期にラッチ係合ピン31に係合する第1カム面34aと、トリップ状態の終期に係合する第2カム面34bとを備えており、ラッチ係合ピン31に第1カム面34aが係合すると、第2可動接触子22に対して閉極方向(時計方向)に回動させる荷重が作用し、ラッチ係合ピン31に第2カム面34bが係合すると、第2可動接触子22の閉極方向(時計方向)の回動が規制されるようになっている。
また、ラッチ23は、支軸35回りに時計方向に回動したときにラッチ当接部26に当接し、ラッチ23に設けた受圧閉塞部23aがアークガス排出口27の消弧室24側で開口する開口部を閉塞する。
【0032】
上記構成の回路遮断器において、短絡電流のような大電流が流れると、図3に示すように、第1可動接触子21は、開極方向に回動する。また、第1可動接触子21の可動接点21a及び第2可動接触子22の可動接点22aの間に互いに逆方向の電磁反発力が発生し、第2可動接触子22は、接圧バネ33の付勢力、ラッチ23に係合した復帰バネ36の付勢力に抗して支軸32回りに開極方向に回動してトリップ状態となり、可動接点21a,22a間にアーク41が発生する。そして、このアーク41のアーク熱による周辺空気の膨張や、消弧室24を形成する支持体24aからの大量の蒸気の発生により、消弧室24の内圧が上昇し、アークガス排出口27に向けてアークガスの流れ(図3の符号Aで示す矢印方向に流れるアークガス)が発生する。
【0033】
このアークガスの流れがラッチ23の受圧閉塞部23aの端部に作用し、ラッチ23を支軸35回りに時計方向に回動させる押圧力が、復帰バネ36の付勢力より増大していき、図4に示すように、ラッチ23が支軸35回りに時計方向に回動することで、第2可動接触子22のトリップ状態の終期では、ラッチ23がラッチ当接部26に当接して受圧閉塞部23aがアークガス排出口27の開口部を閉塞し、高圧状態の消弧室24と大気圧状態の他の内部空間19との間に圧力差が生じる。
【0034】
また、トリップ状態の終期では、第2可動接触子22のラッチ係合ピン31にラッチ23の第2カム面34bが係合し、第2可動接触子22に対して開極方向(反時計方向)に回動させる荷重が作用し続ける。
このように、トリップ状態の終期における第2可動接触子22は、自身の可動接点22aと第1可動接触子21の可動接点21aとの間の接点ギャップ長Gが確保されてトリップ状態が保持される。ここで、接点ギャップ長Gは、可動接点21a,22a間の通電経路の遮断が可能な長さである。
【0035】
そして、短絡電流の減少とともに、アークガス排出口27に向かうアークガスの流れが減少していくと、アークガスの流れによりラッチ23に作用する押圧力に対して復帰バネ36の付勢力が増大していき、ラッチ23が支軸35回りに反時計方向に回動してラッチ当接部26から離間し、アークガス排出口27を介して消弧室24及び他の内部空間19との間が連通して両室の圧力差が無くなる。そして、第1可動接触子21及び第2可動接触子22の間の電磁反発力が減少することで、接圧バネ33の付勢力が第2可動接触子22に対して閉極方向に回動させる荷重を作用し、復帰バネ36がラッチ23の第1カム面34aを介して第2可動接触子22のラッチ係合ピン31に閉極方向に回動させる荷重を作用するので、第2可動接触子22は、支軸32回りに閉極方向に回動して復帰動作を行なう。
【0036】
本実施形態によると、図4に示したように、短絡電流などの大電流が流れ、第1可動接触子21と第2可動接触子22との間で発生する電磁反発力によって第2可動接触子22が開極方向に回動すると、ラッチ係合ピン31に係合して第2可動接触子22を開極方向に回動させるラッチ23の受圧閉塞部23aが、消弧室24内で発生したアークガスの流れにより押圧され回動することでアークガス排出口27を閉塞し、消弧室24及び他の内部空間19に圧力差(消弧室24が高圧、他の内部空間19が大気圧)が生じている間はトリップ状態が保持され続けるので、可動接点21a,22aの間のアーク長が短縮せず、アーク電圧が低下しないので限流性能の向上を図ることができる。
【0037】
また、第2可動接触子22を閉極方向(時計方向)に回動させるバネ部材は、第2可動接触子22に直接に付勢力を付与する接圧バネ33及びラッチ係合ピン31を介して第2可動接触子22に間接的に付勢力を付与するラッチ23の復帰バネ36とで構成されているので、第2可動接触子22の閉極動作を正常に行なうことができる。
また、第2可動接触子22のトリップ状態が保持されているときには、可動接点21a,22aの間の接点ギャップ長Gが、通電経路を遮断する長さとして確保されるので、短絡電流などの大電流が流れる際に、通電の遮断を確実に行なうことができる。
【0038】
また、ラッチ23のラッチ係合ピン31に係合するカム面34を、第2可動接触子22が開極方向(反時計方向)に回動するトリップ状態の初期にラッチ係合ピン31に係合する第1カム面34aと、トリップ状態の終期に係合する第2カム面34bとし、ラッチ係合ピン31に第1カム面34aが係合すると、第2可動接触子22に対して閉極方向(時計方向)に回動させる荷重が作用し、ラッチ係合ピン31に第2カム面34bが係合すると、第2可動接触子22に対して開極方向(反時計方向)に回動させる荷重が作用するようになっているので、第2可動接触子22を回動させる動作及び保持する動作を簡単な構造で行なうことができる。
【0039】
(第2実施形態:2点切り回路遮断器)
次に、図5から図8は本発明に係る第2実施形態の2点切り回路遮断器を示す図であり、図5は第2実施形態の回路遮断器の閉極状態を示す図、図6は第1実施形態の回路遮断器の要部を示す図、図7は第2実施形態の回路遮断器のトリップ状態の途中を示す図、図8は第2実施形態の回路遮断器のトリップ状態の終期を示す図である。なお、図1から図4で示した第1実施形態の回路遮断器と同一構成部分には同一符号を付して説明は省略する。
【0040】
本実施形態の回路遮断器が第1実施形態と異なる構成は、第1実施形態の回路遮断器のラッチ23を反時計方向に回動させる方向に付勢力を付与する復帰ばね36に替えて、ラッチ42とアークガス排出口27との間に引っ張りバネ43が配置されていることである。
図5に示すように、本実施形態のラッチ42は、第2可動接触子22の他端側近くに配置されており、一端側が支軸35に回動自在に支持されているとともに、第2可動接触子22のラッチ係合ピン31に係合するカム面44が形成されている。
【0041】
ラッチ42は、支軸35回りに時計方向に回動したときにラッチ当接部26に当接し、ラッチ42に設けた受圧閉塞部42aがアークガス排出口27の消弧室24側で開口する開口部を閉塞するようになっている。
引っ張りバネ43は、一端がアークガス排出口27を構成する隔壁連通穴25側で固定され、他端がラッチ42の受圧閉塞部42aの略中央に固定されており、常に引っ張り方向の付勢力が作用している。
【0042】
また、カム面44は、図6に示すように、第2可動接触子22が開極方向(反時計方向)に回動するトリップ状態の初期にラッチ係合ピン31に係合する第1カム面44aと、トリップ状態の中期に係合する第2カム面44bと、トリップ状態の終期に係合する第3カム面44cとを備えており、ラッチ係合ピン31に第1カム面44aが係合すると、引っ張りバネ43及び接圧バネ33の付勢力に抗してラッチ42の支軸35回りの時計方向の回動が規制され、ラッチ係合ピン31に第3カム面44cが係合すると、第2可動接触子22の閉極方向(時計方向)の回動が規制されるようになっている。
【0043】
上記構成の回路遮断器において、短絡電流のような大電流が流れると、図5に示すように、第1可動接触子21は開極方向に回動する。また、第1可動接触子21及び第2可動接触子22の間に互いに逆方向の電磁反発力が発生し、第2可動接触子22は、接圧バネ33の付勢力に抗して支軸32回りに開極方向に回動してトリップ状態となり、可動接点21a,22a間にアーク41が発生する。そして、このアーク41のアーク熱による周辺空気の膨張や、消弧室24を形成する支持体24aからの大量の蒸気の発生により、消弧室24の内圧が上昇し、アークガス排出口27に向けてアークガスの流れ(図7の符号Aで示す矢印方向に流れるアークガス)が発生する。
【0044】
このアークガスの流れがラッチ42の受圧閉塞部42aの端部に作用してラッチ42を支軸35回りに時計方向に回動させる押圧力が働く。また、引っ張りバネ43は、ラッチ42に対して時計方向に回動させる方向に付勢力が作用している。これにより、図8に示すトリップ状態の終期では、アークガスの流れによる押圧力と、引っ張りバネ43による付勢力が作用したラッチ42が回動してラッチ当接部26に当接し、ラッチ42の受圧閉塞部42aがアークガス排出口27の開口部を閉塞することで、高圧状態の消弧室24と大気圧状態の他の内部空間19との間に圧力差が生じる。
【0045】
また、トリップ状態の終期では、第2可動接触子22のラッチ係合ピン31にラッチ42の第3カム面44cが係合し、第2可動接触子22に対して開極方向(反時計方向)に回動させる荷重が作用し続ける。
このように、トリップ状態の終期における第2可動接触子22は、自身の可動接点22aと第1可動接触子21の21a可動接点との間の接点ギャップ長Gが確保されてトリップ状態が保持される。
【0046】
そして、短絡電流の減少とともに、アークガス排出口27に向かうアークガスの流れが減少していくと、アークガスの流れによりラッチ42に作用する押圧力及び引っ張りバネ43の付勢力に対して接圧バネ33の付勢力が増大し、ラッチ23が支軸35回りに反時計方向に回動してラッチ当接部26から離間し、アークガス排出口27を介して消弧室24及び他の内部空間19との間が連通して両室の圧力差が無くなる。そして、第1可動接触子21及び第2可動接触子22の間の電磁反発力が減少することで、接圧バネ33の付勢力が第2可動接触子22に対して閉極方向に回動させる荷重を作用するので、第2可動接触子22は、支軸32回りに閉極方向に回動して復帰動作を行なう。
【0047】
本実施形態によると、図4に示したように、短絡電流などの大電流が流れ、第1可動接触子21と第2可動接触子22との間で発生する電磁反発力によって第2可動接触子22が開極方向に回動すると、ラッチ係合ピン31に係合して第2可動接触子22を開極方向に回動させるラッチ42の受圧閉塞部42aが、消弧室24内で発生したアークガスの流れにより押圧され、しかも、引っ張りバネ43の付勢力が作用したラッチ42が回動することでアークガス排出口27を閉塞し、消弧室24及び他の内部空間19に圧力差(消弧室24が高圧、他の内部空間19が大気圧)が生じている間はトリップ状態が保持され続けるので、可動接点21a,22aの間のアーク長が短縮せず、アーク電圧が低下しないので限流性能の向上を図ることができる。
【0048】
また、本実施形態は、ラッチ42に対してアークガス排出口27を閉塞する方向に常に付勢力を付与する引っ張りバネ43が配置されているので、アークガス量が押圧力の発生に必要な量に達していなくても、正常にラッチ42を回動させてアークガス排出口27を閉塞することができる。
また、ラッチ42のラッチ係合ピン31に係合するカム面44を、第2可動接触子22が開極方向に回動するトリップ状態の初期にラッチ係合ピン31に係合する第1カム面44aと、トリップ状態の中期に係合する第2カム面44bと、トリップ状態の終期に係合する第3カム面44cとし、ラッチ係合ピン31に第1カム面44aが係合すると、引っ張りバネ43及び接圧バネ33の付勢力に抗してラッチ42の支軸35回りの時計方向の回動が規制され、ラッチ係合ピン31に第3カム面44cが係合すると、第2可動接触子22の閉極方向(時計方向)の回動が規制されるようになっているので、第2可動接触子22を回動させる動作及び保持する動作を簡単な構造で行なうことができる。
【0049】
(第3実施形態:2点切り回路遮断器)
次に、図9から図12は本発明に係る第3実施形態の2点切り回路遮断器を示す図であり、図9は第3実施形態の回路遮断器の閉極状態を示す図、図10は第3実施形態の回路遮断器の要部を示す図、図11は第3実施形態の回路遮断器のトリップ状態の途中を示す図、図12は第3実施形態の回路遮断器のトリップ状態の終期を示す図である。本実施形態も、図1から図8で示した第1及び第2実施形態と同一構成部分には同一符号を付して説明は省略する。
【0050】
本実施形態の回路遮断器が第1及び第2実施形態と異なる構成は、第1実施形態のラッチ23及び第2実施形態のラッチ44は、同一材料の部材で一体成形した部材であるが、本実施形態のラッチ45は、異なる材料の部材を固定してなる部材である。
本実施形態のラッチ45は、図10に示すように、支軸35に回動自在に支持されているラッチ本体46と、このラッチ本体46にネジ部材47により固定された板状の受圧閉塞部48とで構成されている。
【0051】
ラッチ本体46は、鋼鉄などの比重の大きい金属材料で形成されている。このラッチ本体46には、第2可動接触子22のラッチ係合ピン31に係合するカム面49が形成されているとともに、ラッチ本体46を反時計方向に回動させる付勢力を作用する復帰バネ50が係合している。
受圧閉塞部48は、アルミニウム合金、マグネシウム合金、チタン合金等の鋼鉄よりも比重の小さい非鉄金属材料からなる板材により形成されており、ラッチ本体46が支軸35回りに時計方向に回動したときにラッチ当接部26に当接し、アークガス排出口27の消弧室24側で開口する開口部を閉塞するようになっている。
【0052】
ここで、本実施形態の回路遮断器の動作、すなわち、図11で示す回路遮断器のトリップ状態の途中、図12で示すトリップ状態の終期は、第1実施形態の図3及び図4と略同様なので説明は省略する。
上記構成の回路遮断器のラッチ45は、ラッチ本体46が鋼鉄などの比重の大きい金属材料で形成されており、受圧閉塞部48が鋼鉄よりも比重の小さい非鉄金属材料で形成されており、全体を鋼鉄製などの比重の大きい金属材料で形成したラッチと比較して軽量化された部材なので、短絡電流のような大電流が流れることで支軸35回りに回動する際の慣性モーメントが小さくなる。
【0053】
ここで、ラッチ45の動作速度は、圧力上昇に起因するガス流と、可動部(ラッチ本体46と受圧閉塞部48)の慣性モーメントによって決定する。圧力上昇は、遮断時の電流値に依存するため、大電流を遮断する際には大きな圧力が発生し、小電流を遮断する際には圧力上昇値が小さくなる。また、中電流(約10KA以下)を遮断する際にも、消弧室24の内圧上昇値がさほど高くならずアークガスの流速が小さくなる。
このため、慣性モーメントが大きいラッチ(全体を鋼鉄製などの比重の大きい金属材料で形成したラッチ)は、中電流(約10KA以下)や小電流を遮断しようとすると、受圧閉塞部がラッチ当接部26に当接するまで確実に回動しないおそれがある。
【0054】
しかし、本実施形態のように慣性モーメントが小さいラッチ45は、中電流(約10KA以下)や小電流遮断時において、の短絡電流が流れて消弧室24のアークガスの流速が小さくても、このアークガスの流れを受圧閉塞部48が受けてラッチ当接部26に当接するまで回動し、アークガス排出口27の開口部を確実に閉塞することができる(図12参照)。
したがって、本実施形態は、比重の大きい金属材料からなるラッチ本体46と、比重の小さい非鉄金属材料からなる受圧閉塞部48とでラッチ45を構成したので、中電流(約10KA以下)の短絡電流が流れた場合、ラッチ45がアークガス排出口27の開口部を確実に閉塞するので、中電流の短絡電流が流れても可動接点21a,22aの間のアーク長が短縮せず、限流性能の向上を図ることができる。
【0055】
なお、本実施形態では、受圧閉塞部48を、アルミニウム合金、マグネシウム合金、チタン合金等の鋼鉄よりも比重の小さい非鉄金属材料からなる板材で形成したが、本発明の要旨がこれに限定されるものではなく、例えば、熱硬化性を有する合成樹脂材料で受圧閉塞部を形成してもよい。この熱硬化性を有する合成樹脂材料で受圧閉塞部を形成すると、慣性モーメントが小さいラッチを得て、上述した中電流の短絡電流が流れても可動接点の間のアーク長が短縮せず、限流性能の向上を図ることができるという効果を奏することができるとともに、高温のアークガスによる受圧閉塞部の耐熱性を高めることができる。
【0056】
(第4実施形態:1点切り回路遮断器)
図13から図15は本発明に係る第4実施形態の1点切り回路遮断器を示す図であり、図13は第4実施形態の回路遮断器の閉極状態を示す図、図14は第4実施形態の回路遮断器のトリップ状態の途中を示す図、図15は第4実施形態の回路遮断器のトリップ状態の終期を示す図である。
本実施形態の1点切り回路遮断器は、図13に示すように、ケース17とカバー18とからなる絶縁容器内に、他の内部空間19との間に隔壁20を形成することで消弧室24が設けられており、この消弧室24に、固定接触子51、可動接触子52、ラッチ53、隔壁20に形成したアークガス排出口54、このアークガス排出口54を形成した隔壁20の消弧室24側に形成したラッチ当接壁55が配置されている。なお、アークガス排出口54が、消弧室24内で発生したアークガスの流れをラッチ53に向けて発生し、可動接触子52が開極方向に回動するようにラッチ53を押圧するガス流発生手段である。
【0057】
固定接触子51は、先端に固定接点51aが固着されており、電源側端子に接続されてケース17内に配置した固定接触子51bを備えている。
可動接触子52は、一端に可動接点52aが設けられ、他端側が支軸61を介してケース17或いは図示しないホルダに回動可能に支持された部材である。なお、可動接触子52は、図示しない開閉機構の操作によって開閉自在とされているとともに、短絡電流などの大電流が流れて過電流引外し装置(不図示)が動作すると、開極方向(時計方向)に回動するようになっている。
【0058】
可動接触子52は、他端側にラッチ係合ピン56が固定されている。
ラッチ53は、可動接触子52の他端側近くに配置されており、一端側がケース17に固定された支軸57に回動自在に支持されているとともに、復帰バネ58が係合している。この復帰バネ58は、一端がケース17に固定されたバネ支軸59に係合し、その付勢力が、ラッチ53を時計方向に回動させる荷重として作用している。このラッチ53が、アークの発生による消弧室内の圧力上昇を保持する消弧室圧力保持手段である。
【0059】
ラッチ53には、可動接触子52のラッチ係合ピン56に係合するカム面が形成されている。このカム面は、図13に示すように、可動接触子52が開極方向(時計方向)に回動するトリップ状態の初期にラッチ係合ピン56に係合する第1カム面60aと、トリップ状態の終期に係合する第2カム面60bとを備えており、ラッチ係合ピン56に第1カム面60aが係合すると、可動接触子52に対して閉極方向(反時計方向)に回動させる荷重が作用し、ラッチ係合ピン56に第2カム面60bが係合すると、可動接触子52の閉極方向(反時計方向)の回動が規制されるようになっている。
また、ラッチ53は、支軸57回りに反時計方向に回動したときにラッチ当接壁55に当接し、ラッチ53に設けた受圧閉塞部53aが消弧室24側で開口するアークガス排出口54を閉塞する。
【0060】
上記構成の1点切り回路遮断器において、短絡電流のような大電流が流れると、図14に示すように、固定接触子51の固定接点51a及び可動接触子52の可動接点52aの間に互いに逆方向の電磁反発力が発生し、可動接触子52は、支軸61回りに開極方向(時計方向)に回動してトリップ状態となり、固定接点51a及び可動接点52aの間にアーク62が発生する。このとき、ラッチ53の第1カム面60aと、可動接触子52のラッチ係合ピン56との係合が解除される。
【0061】
そして、このアーク62のアーク熱による周辺空気の膨張や、消弧室24を形成する支持体24aからの大量の蒸気の発生により、消弧室24の内圧が上昇し、アークガス排出口54に向けてアークガスの流れ(図14の符号Bで示す矢印方向に流れるアークガス)が発生する。
このアークガスの流れがラッチ53の受圧閉塞部53aの端部に作用し、ラッチ53を支軸57回りに反時計方向に回動させる押圧力が、復帰バネ58の付勢力より増大していき、図15に示すように、ラッチ53が支軸57回りに反時計方向に回動することで、可動接触子52のトリップ状態の終期では、ラッチ53がラッチ当接壁55に当接してアークガス排出口54を閉塞し、高圧状態の消弧室24と大気圧状態の他の内部空間19との間に圧力差が生じる。
【0062】
また、図15に示すように、トリップ状態の終期では、可動接触子52のラッチ係合ピン56にラッチ53の第2カム面60bが係合し、可動接触子52に対して開極方向(時計方向)に回動させる荷重が作用し続ける。
このように、トリップ状態の終期における可動接触子52は、自身の可動接点52aと固定接触子51の固定接点51aとの間の接点ギャップ長G1が確保されてトリップ状態が保持される。ここで、接点ギャップ長G1は、固定接点51a可動接点52aの間の通電経路の遮断が可能な長さである。
【0063】
そして、短絡電流の減少とともに、アークガス排出口54に向かうアークガスの流れが減少していくと、アークガスの流れによりラッチ53に作用する押圧力に対して復帰バネ58の付勢力が増大していき、ラッチ53が支軸57回りに時計方向に回動してラッチ当接壁55から離間し、可動接触子52のラッチ係合ピン56と第2カム面60bとの係合から、ラッチ係合ピン56と第1カム面60aとの係合に変化していく(図13参照)。
また、アークガス排出口54を介して消弧室24及び他の内部空間19との間が連通して両室の圧力差が無くなり、固定接触子51及び可動接触子52の間の電磁反発力が減少することで、可動接触子52は、支軸61回りに閉極方向に回動して復帰動作を行なう。
【0064】
本実施形態によると、図15に示したように、短絡電流などの大電流が流れ、固定接触子51と可動接触子52との間で発生する電磁反発力によって可動接触子52が開極方向に回動すると、ラッチ53の受圧閉塞部53aが、消弧室24内で発生したアークガスの流れにより押圧され回動することでアークガス排出口54を閉塞し、消弧室24及び他の内部空間19に圧力差(消弧室24が高圧、他の内部空間19が大気圧)が生じている間はトリップ状態が保持され続けるので、固定接点51a及び可動接点52aの間のアーク長が短縮せず、アーク電圧が低下しないので限流性能の向上を図ることができる。
また、可動接触子52のトリップ状態が保持されているときには、固定接点51a及び可動接点52aの間の接点ギャップ長G1が、通電経路を遮断する長さとして確保されるので、短絡電流などの大電流が流れる際に、通電の遮断を確実に行なうことができる。
【0065】
また、ラッチ53のラッチ係合ピン56に係合するカム面を、可動接触子52が開極方向(時計方向)に回動するトリップ状態の初期にラッチ係合ピン56に係合する第1カム面60aと、トリップ状態の終期に係合する第2カム面60bとし、ラッチ係合ピン56に第2カム面60bが係合すると、可動接触子52に対して開極方向(時計方向)に回動させる荷重が作用するようになっているので、可動接触子52を保持する動作を簡単な構造で行なうことができる。
なお、第4実施形態の1点切り回路遮断器において、ラッチ53を時計方向に回動させる方向に付勢力を付与する復帰ばね58に替えて、図5から図8で示したように、ラッチとアークガス排出口との間に引っ張りバネを配置した構造としてもよい。
【0066】
また、第4実施形態の1点切り回路遮断器においては、ラッチ53を同一材料の部材で一体成形したものであるが、図9から図12で示したように、支軸57に回動自在に支持されているラッチ本体と、アークガス排出口54を閉塞する受圧閉塞部53aとを別体構造とし、ラッチ本体を鋼鉄などの比重の大きい金属材料で形成し、受圧閉塞部53aをアルミニウム合金、マグネシウム合金、チタン合金等の鋼鉄よりも比重の小さい非鉄金属材料からなる部材で形成すると、全体を鋼鉄製などの比重の大きい金属材料で形成したラッチと比較して軽量化された部材なので、短絡電流のような大電流が流れることで支軸57回りに回動する際の慣性モーメントを小さくすることができる。この際、受圧閉塞部53aは、例えば、熱硬化性を有する合成樹脂材料で受圧閉塞部を形成してもよい。この熱硬化性を有する合成樹脂材料で受圧閉塞部を形成すると、慣性モーメントが小さいラッチを得て、上述した中電流の短絡電流が流れても可動接点の間のアーク長が短縮せず、限流性能の向上を図ることができるという効果を奏することができるとともに、高温のアークガスによる受圧閉塞部の耐熱性を高めることができる。
【符号の説明】
【0067】
17…ケース、18…カバー、19…他の内部空間、20…隔壁(壁部)、21…第1可動接触子、21a…可動接点(第1可動接点)、22…第2可動接触子、22a…可動接点(第2可動接点)、23…ラッチ、23a…受圧閉塞部、24…消弧室、24a…支持体、24b…グリッド、25…隔壁連通穴、26…ラッチ当接部、26a…当接部連通穴、27…アークガス排出口、30…支軸、31…ラッチ係合ピン(係合ピン)、32…支軸(可動接触子用支軸)、33…接圧バネ、34…カム面、34a…第1カム面、34b…第2カム面、35…支軸(ラッチ支軸)、36…復帰バネ(ラッチバネ)、41…アーク、42…ラッチ、42a…受圧閉塞部、43…引っ張りバネ(ラッチバネ)、44…カム面、44a…第1カム面、44b…第2カム面、44c…第3カム面、45…ラッチ、46…ラッチ本体、47…ネジ部材、48…受圧閉塞部、49…カム面、50…復帰バネ(ラッチバネ)、51…固定接触子、51a…固定接点、52…可動接触子、52a…可動接点、53…ラッチ、53a…受圧閉塞部、54…アークガス排出口、55…ラッチ当接壁、56…ラッチ係合ピン(係合ピン)、57…支軸(ラッチ支軸)、58…復帰バネ(ラッチバネ)、59…バネ支軸、60a…第1カム面、60b…第2カム面、61…支軸(可動接触子用支軸)、62…アーク、G,G1…接点ギャップ長

【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端に第1可動接点を設け、開閉機構により開閉駆動される第1可動接触子と、可動接触子用支軸を介して回動自在に軸支され、先端に設けた第2可動接点が前記第1可動接点との接触位置まで閉極方向に回動するように接圧バネにより付勢されている第2可動接触子と、前記第1可動接点と第2可動接点間に発生したアークを消弧する消弧室とを備え、過電流通電時に前記第1接触子と前記第2可動接触子の間に発生する電磁反発力によって、前記第2可動接触子が前記接圧バネの付勢力に抗して前記第1可動接触子から離間する開極方向に回動する回路遮断器において、
前記消弧室内に前記第1可動接触子と前記第2可動接触子を配置するとともに、
前記可動接触子用支軸を挟んで前記第2可動接触子の前記第2可動接点に対する反対側に設けた係合ピンと、
ラッチ支軸を介して回動自在に軸支され、前記係合ピンに係合して前記第2可動接触子を開極方向に回動させるラッチと、
前記アークの発生による前記消弧室内の圧力上昇を保持する消弧室圧力保持手段と、
前記消弧室内で発生したアークガスの流れを前記ラッチに向けて発生し、前記第2可動接触子が開極方向に回動するように前記ラッチを押圧するガス流発生手段と、を備え、
前記ガス流発生手段は、前記第2可動接触子が所定の開極位置まで開極方向に回動するように前記ラッチを押圧し、前記消弧室圧力保持手段は、前記消弧室と当該消弧室の外部との間に圧力差を利用して、前記第2可動接触子を前記所定の開極位置に回動させた前記ラッチの位置を保持することを特徴とする回路遮断器。
【請求項2】
前記所定の開極位置は、過電流通電時に前記第1可動接点及び前記第2可動接点の間の接点ギャップ長が通電経路を遮断可能とする長さとなるように、前記第2可動接触子を保持する位置であることを特徴とする請求項1記載の回路遮断器。
【請求項3】
前記ラッチは、前記所定の開極位置に回動した前記第2可動接触子に対して前記係合ピンを介して閉極方向に回動させる方向に付勢力を付与するラッチバネを備えていることを特徴とする請求項1又は2記載の回路遮断器。
【請求項4】
固定接点を有する固定接触子と、可動接触子用支軸を介して回動自在に軸支され、先端に設けた可動接点が前記固定接点との接触位置まで閉極方向に回動するように開閉機構により開閉駆動される可動接触子と、前記固定接点及び前記可動接点の間に発生したアークを消弧する消弧室と、を備えた回路遮断器において、
前記消弧室内に前記固定接触子と前記可動接触子とを配置するとともに、
前記可動接触子用支軸を挟んで前記可動接触子の前記可動接点に対する反対側に設けた係合ピンと、
ラッチ支軸を介して回動自在に軸支され、前記係合ピンに係合して前記可動接触子を開極方向に回動させるラッチと、
前記アークの発生による前記消弧室内の圧力上昇を保持する消弧室圧力保持手段と、
前記消弧室内で発生したアークガスの流れを前記ラッチに向けて発生し、前記可動接触子が開極方向に回動するように前記ラッチを押圧するガス流発生手段と、を備え、
前記ガス流発生手段は、前記可動接触子が所定の開極位置まで開極方向に回動するように前記ラッチを押圧し、前記消弧室圧力保持手段は、前記消弧室と当該消弧室の外部との間に圧力差を利用して、前記可動接触子を前記所定の開極位置に回動させた前記ラッチの位置を保持することを特徴とする回路遮断器。
【請求項5】
前記所定の開極位置は、過電流通電時に前記固定接点及び前記可動接点の間の接点ギャップ長が通電経路を遮断可能とする長さとなるように、前記可動接触子を保持する位置であることを特徴とする請求項4記載の回路遮断器。
【請求項6】
前記ラッチは、前記所定の開極位置に回動した前記可動接触子に対して前記係合ピンを介して係合し、開極方向に回動させる方向に付勢力を付与するラッチバネを備えていることを特徴とする請求項4又は5記載の回路遮断器。
【請求項7】
前記ガス流発生手段は、前記ラッチの近傍の前記消弧室を形成する壁部に形成され、前記消弧室の外部と連通するアークガス排出口であることを特徴とする請求項1乃至6の何れか1項に記載の回路遮断器。
【請求項8】
前記消弧室圧力保持手段は、前記アークガス排出口の前記消弧室で開口する開口部の近傍に配置され、前記アークガスの流れの発生により回動して前記開口部を閉塞する前記ラッチであることを特徴とする請求項7記載の回路遮断器。
【請求項9】
前記ラッチは、前記ラッチ支軸を介して回動自在に軸支され、前記係合ピンに係合するラッチ本体と、このラッチ本体に一体に固定され、前記アークガスの流れを受けて前記開口部を閉塞自在な受圧閉塞部とを備え、
前記ラッチ本体は、鋼鉄などの比重の大きい金属材料で形成し、
前記受圧閉塞部は、前記ラッチ本体より比重の小さい非鉄金属材料で形成したことを特徴とする請求項8記載の回路遮断器。
【請求項10】
前記ラッチは、前記ラッチ支軸を介して回動自在に軸支され、前記係合ピンに係合するラッチ本体と、このラッチ本体に一体に固定され、前記アークガスの流れを受けて前記開口部を閉塞自在な受圧閉塞部とを備え、
前記ラッチ本体は、鋼鉄などの比重の大きい金属材料で形成し、
前記受圧閉塞部は、前記ラッチ本体より比重の小さい熱硬化性の合成樹脂材料で形成したことを特徴とする請求項8記載の回路遮断器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2010−219033(P2010−219033A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−34528(P2010−34528)
【出願日】平成22年2月19日(2010.2.19)
【出願人】(508296738)富士電機機器制御株式会社 (299)
【Fターム(参考)】