説明

回転する軸の損傷した軸受を検知するための方法および装置

本発明は、回転する軸(1)の損傷した軸受(4a、4b)を検知するための方法および装置であって、軸(1)の回転速度(n)が求められ、回転速度(n)の交流成分(nAC)が算定され、回転速度(n)の交流成分(nAC)の包絡線(h)が算定され、包絡線(h)が周波数範囲に変換され、包絡線(h)の絶対値周波数応答(B)が算定され、絶対値周波数応答(B)が限界値(G1、G2、G3、G4)を上まわるか否かを監視され、限界値(G1、G2、G3、G4)を上まわるとき、損傷した軸受(4a、4b)が検知される方法および装置に関する。それとともに本発明は、軸(1)の損傷した軸受(4a、4b)を検知するのに振動センサ(11)が必要とされない、モータの回転する軸(1)の損傷した軸受(4a、4b)を検知するための方法および装置を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転する軸の損傷した軸受を検知するための方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
モータ、特に電気モータではしばしば、回転するモータ軸の軸受が軸受損傷の点で監視されねばならない。
【0003】
回転するモータ軸の損傷した軸受を検知するための一般的方法および一般的装置が図1に示されている。図1によるモータは2つの側A、Bを有し、これらの側が図1で符号A、Bとされている。モータは2つの軸受4a、4bによって支承されるモータ軸1とハウジング2とを含む。軸受4a、4bとして例えば転がり軸受を利用することができる。基準点に関してモータ軸の位置、すなわち角度位置を測定するために、および/またはモータ軸の回転数を測定するために、モータは位置検出器3を有し、この位置検出器は例えばリゾルバの態様で設けられている。位置検出器3はモータを制御(=シーケンス制御)および/または調節(=フィードバック制御)するために、モータ軸の位置φをモータの制御器および/または調節器へと出力する。当然にモータはなお他の要素を含むが、しかしそれらは本発明を理解するのに重要でないので図1には図示されていない。
【0004】
モータの回転軸の損傷した軸受を検知するための一般的方法では、モータに取付けられた振動センサ11がモータの振動を測定する。振動センサ11が振動信号Sを、制御器および/または調節器の構成要素ではない外部評価ユニット13に転送する。評価ユニット13において振動信号Sについての包絡線が設けられ、この包絡線がフーリエ変換されて、包絡線の絶対値周波数応答が求められる。絶対値周波数応答が限界値を上まわると、軸受損傷が検知され、警報信号ALが発生される。誤警報を避けるために、この警報信号ALは、限界値を長時間上まわるときにはじめて発生されるのが有利である。
【0005】
損傷した軸受を検知するための一般的方法および一般的装置は幾つかの欠点を有する。一方で振動センサを設けねばならず、他方で外部評価ユニット13は、モータを制御および/または調節するために通常設けられている制御器または調節器の構成要素ではない個別機器として必要とされる。指摘した諸欠点から、損傷した軸受を検知するための上記一般的に実施される方法および一般的装置は高価で手間のかかるものとなる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、軸の損傷した軸受を検知するのに振動センサを必要としない、回転軸用の損傷した軸受を検知するための装置および方法を明示することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この課題は、回転する軸用の損傷した軸受を検知するための方法であって、
軸の回転速度が求められ、
回転速度の交流成分が算定され、
回転速度の交流成分の包絡線が算定され、
包絡線が周波数範囲に変換されかつ包絡線の絶対値周波数応答が算定され、
絶対値周波数応答が限界値を上まわるか否かを監視され、限界値を上まわるとき、損傷した軸受が検知される方法によって解決される。
【0008】
さらにこの課題は、回転する軸用の損傷した軸受を検知するための装置であって、
軸の回転速度を求めるための手段と、
回転速度の交流成分を算定するための手段と、
回転速度の交流成分の包絡線を算定するための手段と、
包絡線を周波数範囲に変換しかつ包絡線の絶対値周波数応答を算定するための手段と、
絶対値周波数応答が限界値を上まわるか否かを監視するための手段とを有し限 界値が上まわられるとき、損傷した軸受が検知される装置によって解決される 。
【0009】
本発明の有利な第1構成は、軸がモータのモータ軸として構成されていることを特徴としている。殊にモータ軸では、しばしば軸受の損傷が発生する。
【0010】
さらに、軸受通過周波数の範囲内で限界値が上まわるか否かを監視されると有利であることが実証されている。というのも、損傷した軸受の場合、軸受通過周波数の範囲内で包絡線の絶対値周波数応答が特別強く上昇するからである。
【0011】
さらに、軸受の軸受通過周波数がモータの記憶装置に格納されると有利であると実証される。これにより、モータの運転開始が著しく簡略化される。というのも、モータは例えばモータを調節および/または制御するための調節器および/または制御器に軸受通過周波数を直接提供できるからである。
【0012】
さらに、位置検出器で測定された軸の位置が時間的に微分されることによって、軸の回転速度が求められると有利であることが実証されている。このようにして一般に軸の位置から軸の回転速度が算定される。
【0013】
さらに、交流成分が整流され、整流された交流成分が低域濾波されることによって、回転速度の交流成分の包絡線が算定されると有利であると実証される。これにより、特別簡単な仕方で包絡線の算定が可能となる。
【0014】
本発明に係る装置がモータを調節および/または制御するための制御器および/または調節器として構成されていると特別有利である。というのも、このような制御器および/または調節器はいずれにしてもモータを調節および/または制御するために設けられているからである。それとともに、先行技術による軸受損傷を検知するための付加的外部評価ユニットは省くことができる。
【0015】
さらに、本発明に係る方法を実施することのできる本発明に係る装置用に、フレキシブルディスク、ハードディスク、コンパクトディスク、フラッシュカードまたは別の記憶媒体の態様の、コード領域を含むコンピュータプログラム製品を設けると有利である。
【0016】
本発明に係る装置を好適に構成することは、本発明に係る方法を好適に構成することと類似の関係にあり、またその逆である。
【0017】
本発明の1実施例が図面に示してあり、以下で詳しく説明される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
図2に実施例の態様で本発明に係る方法および本発明に係る装置が示してある。図2に示すモータは先に図1に示したモータと基本構造が実質一致している。それゆえに図2において同じ要素には図1と同じ符号が付けてある。図1によるモータに関して本質的な違いは、図2によるモータが図1による振動センサ11を持たないことにある。本発明によれば、B側軸受4bおよび/またはA側軸受4aの軸受損傷を検知するために、モータ軸の位置φを明示する位置検出器3の位置信号が利用される。当然にモータはなお他の要素を含むが、しかしそれらは本発明を理解するうえで重要でないので、図2には示されていない。
【0019】
位置φは位置検出器3によって測定され、入力量として微分器12に提供される。微分器12は位置φを時間的に微分し、係数1/(2π)を乗算し、こうして微分器12の出力量としてモータ軸の回転速度nが回転数の態様で出力される。選択的に、回転速度は例えば回転角速度の態様で得られるようにすることもできよう。
【0020】
回転速度nは回転速度の直流成分nDCと回転速度の交流成分nACとからなる。モータ軸の軸受(例えば玉軸受または転がり軸受)の損傷は、モータ軸の回転の一様性に作用する。損傷した軸受から発生する振動は、回転速度nの直流成分nDCに重なっており、回転速度n内に永久交流成分nACを発生する。
【0021】
それゆえに以下では高域通過フィルタ5によって回転速度nが高域濾波され、こうして高域通過フィルタ5の出力量として回転速度nの交流成分nACが算定される。
【0022】
回転速度nの交流成分nACの包絡線hを算定するために、整流ユニット6によって交流成分nACが整流される。整流ユニット6における整流は、例えば交流成分nACの負の信号成分を抑制するか(半波整流)、さもなければ回転速度の交流成分nACの絶対値を計算することによって整流するかのいずれかによって行うことができる。引き続き、回転速度nの整流された交流成分nACは低域通過フィルタ7によって低域濾波され、こうして低域通過フィルタ7の出力量として包絡線hが求められる。
【0023】
図3に例示的に示す包絡線hは回転速度nの交流成分nACから生じるものである。低域通過フィルタ7の遮断周波数は、交流成分nACの比較的高周波の信号成分が抑制されるように選択されるのが有利である。
【0024】
包絡線hは入力量としてフーリエ変換ユニット8に供給される。このユニットは包絡線hをフーリエ変換によって周波数範囲に変換し、包絡線hの絶対値周波数応答Bを求める。絶対値周波数応答Bは周波数fに関する包絡線hのフーリエ変換の絶対値である。包絡線hの絶対値周波数応答Bはフーリエ変換ユニット8から出力量として出力され、入力量として限界値モニタ9に供給される。絶対値周波数応答Bが例えばG1の限界値を上まわると、限界値モニタは損傷した軸受を検知して警報信号ALを発生する。誤警報を避けるために、警報信号ALは限界値を長時間上まわるときにはじめて発生されるのが有利である。
【0025】
周波数fに関する包絡線hの絶対値周波数応答Bの代表的推移が図3に例示的に示してある。殊にいわゆる軸受通過周波数、例えば軸受通過周波数f1、f2、f3、f4において、軸受損傷の場合、絶対値周波数応答の明確な上昇が発生する。限界値モニタ9は、単一の限界値のみを監視するか、または複数の限界値を上まわるのを監視するように構成しておくことができる。例えば限界値G1を上まわることのみを監視することができ、または限界値G1、G2、G3および/またはG4を上まわることも監視することができる。単一の軸受は複数の軸受通過周波数を有するが、多くの場合、単一の軸受通過周波数を上まわれば既に軸受損傷を認知するのに十分である。軸受通過周波数f1、f2が軸受4aの軸受周波数であり、軸受通過周波数f3、f4が軸受4bの軸受通過周波数であり、例えば4つすべての軸受通過周波数についてそれぞれ付属する限界値G1、G2、G3、G4を上まわることが監視される場合、軸受4aの損傷も軸受4bの損傷も検知される。
【0026】
軸受通過周波数は軸受の形式ごとに特殊な値であり、なかんずく転動体の数と軸受ジオメトリとに依存している。軸受通過周波数は軸受製造業者から一般に回転数の倍数として明示される。しかし選択的に軸受通過周波数は、例えば軸受製造業者から提供される特殊プログラムを利用して計算することもできる。
【0027】
位置検出器3の代わりに、回転速度を出力量として直接出力する回転検出器がモータに取付けられている場合、微分器12は省くことができる。その場合、回転検出器の出力信号は入力量として高域通過フィルタ5に直接提供される。
【0028】
軸受の軸受通過周波数f1、f2、f3、f4は、特別有利には、例えば回転数の倍数としてモータの記憶装置10(図2参照)に格納することができる。これにより、モータを調節および/または制御するための、記憶装置10へのアクセスを有する制御器および/または調節器が軸受通過周波数をモータから直接読み取り得ることが確保される。
【0029】
本発明に係る装置がモータを制御および/または調節するための制御器および/または調節器として構成されていると、このような制御器および/または調節器はいずれにしてもモータを調節および/または制御するために設けられているので、特別有利である。それとともに、先行技術による損傷した軸受を検知するための図1による付加的外部評価ユニット13は省くことができる。
【0030】
さらに、ここで明確に付記しておくなら、本発明に係る方法および本発明に係る装置は当然にモータ軸の損傷した軸受の検知用だけでなく、ごく一般的に、例えば発電機の軸等の別の回転する軸の損傷した軸受の検知用にも適している。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】モータの回転するモータ軸の損傷した軸受を検知するための先行技術による方法および装置を示す。
【図2】モータの回転するモータ軸の損傷した軸受を検知するための本発明に係る方法および本発明に係る装置を示す。
【図3】包絡線を示す。
【図4】包絡線の絶対値周波数応答を示す。
【符号の説明】
【0032】
1 軸
2 ハウジング
3 位置検出器
4 軸受
5 高域通過フィルタ
6 整流ユニット
7 低域通過フィルタ
8 フーリエ変換ユニット
9 限界値モニタ
10 記憶装置
11 振動センサ
12 微分器
13 評価ユニット
A、B 側
AL 警報信号
B 絶対値周波数応答
f 周波数
G 限界値
h 包絡線
n 回転速度
AC 交流成分
DC 直流成分
S 振動信号
φ 位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転するモータ軸(1)の損傷した軸受(4a、4b)を検知するための方法であって、
モータ軸(1)の回転速度(n)が求められ、
前記回転速度(n)の交流成分(nAC)が算定され、
前記回転速度(n)の交流成分(nAC)の包絡線(h)が算定され、
前記包絡線(h)が周波数範囲に変換され、前記包絡線(h)の絶対値周波数応答(B)が算定され、
前記絶対値周波数応答(B)が限界値(G1、G2、G3、G4)を上まわるか否かを監視され、限界値(G1、G2、G3、G4)を上まわるとき、軸受(4a、4b)が損傷したものと認定され、
交流成分(nAC)が整流され、整流された交流成分(nAC)が低域濾波されることによって、回転速度(n)の交流成分(nAC)の包絡線(h)が算定されることを特徴とする軸受の損傷検知方法。
【請求項2】
前記限界値(G1、G2、G3、G4)が、軸受通過周波数(f1、f2、f3、f4)の範囲を上まわるか否かが監視されることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
軸受(4a、4b)の軸受通過周波数(f1、f2、f3、f4)がモータの記憶装置(10)に格納されることを特徴とする請求項2記載の方法。
【請求項4】
位置検出器(3)で測定された軸(1)の位置(φ)が時間的に微分されることによって、軸(1)の回転速度(n)が求められることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1つに記載の方法。
【請求項5】
回転するモータ軸(1)の損傷した軸受(4a、4b)を検知するための装置であって、前記装置がモータを制御ないし調節するための制御器ないし調節器として構成されており、
モータ軸(1)の回転速度(n)を求めるための手段と、
回転速度(n)の交流成分(nAC)を算定するための手段と、
回転速度(n)の交流成分(nAC)の包絡線(h)を算定するための手段と、
包絡線(h)を周波数範囲に変換しかつ包絡線(h)の絶対値周波数応答(B)を算定するための手段と、
絶対値周波数応答(B)が限界値(G1、G2、G3、G4)を上まわるか否かを監視するための手段とを有し、
限界値(G1、G2、G3、G4)を上まわるとき、軸受(4a、4b)が損傷したものと認定されることを特徴とする回転軸の損傷検知装置。
【請求項6】
請求項1乃至4のいずれか1つに記載の方法を実施することのできる装置用の、コード領域を含むコンピュータプログラム製品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2008−517260(P2008−517260A)
【公表日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−536200(P2007−536200)
【出願日】平成17年10月18日(2005.10.18)
【国際出願番号】PCT/EP2005/055326
【国際公開番号】WO2006/042844
【国際公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【出願人】(390039413)シーメンス アクチエンゲゼルシヤフト (2,104)
【氏名又は名称原語表記】Siemens Aktiengesellschaft
【住所又は居所原語表記】Wittelsbacherplatz 2, D−80333 Muenchen, Germany
【Fターム(参考)】