説明

回転センサ付軸受

【課題】自己発電機能を備えた回転センサ付軸受において、誘導起電部をコンパクトに収容する。
【解決手段】一方の軌道輪1に装着された磁気センサユニット2と、他方の軌道輪3と一体に回転させられるパルサリング4とを備え、磁気センサユニット2の構成部材として、パルサリング4に対向する磁気センサ7と、磁気センサ7の背後からバイアス磁界を与えるバックマグネット8と、バイアス磁界の変化によって誘導起電力が生じるコイル9と、誘導起電力から直流電源を生成して磁気センサ7へ供給する電源回路部10とが収容されたセンサケース12を含み、コイル9を、そのコイル軸が磁気センサ7とパルサリング4の対向方向に向き、バックマグネット8の周囲を取り囲み、かつ磁気センサ7よりもパルサリング4から前記対向方向に遠くなるように配置した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、転がり軸受と、磁気式回転センサとを備えた回転センサ付軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の回転センサ付軸受の代表的なものとして、モータ軸、自動車の車軸の回転速度制御、回転方向制御、回転角度制御等に利用されるものがある。回転センサ付軸受は、転がり軸受を構成する一方の軌道輪を、モータハウジングや自動車の懸架装置のような固定部材に嵌合される静止側軌道輪とし、他方の軌道輪を、固定部材に対して軸線回りに回転する回転側部材に装着される回転側軌道輪としている。この種の回転センサ付軸受は、前記モータ軸等の回転軸と、これに対して静止するハウジング等の静止部材間に転がり軸受を組み込み、その内外輪のうち、静止部材に嵌着する一方の軌道輪の軌道側周面に磁気センサユニットが支持され、磁気センサユニットに固定された磁気センサとギャップを形成するエンコーダが、回転軸に取り付ける他方の軌道輪と一体に回転させられる。エンコーダは、他方の軌道輪及び回転軸の回転運動を磁気センサで検出する磁界の変化に変換する。その磁気センサの検出信号は、外部機器に送信され、外部機器による回転軸の回転速度制御、回転方向制御、回転角度制御等に利用される。
【0003】
エンコーダとして、パルサリングを利用したものがある。パルサリングは、磁気センサと対向方向に最短隙間を形成する第1変化部と、第1変化部よりも対向方向に大きな空間を形成する第2変化部とを円周方向に交互に連続させた磁性材料部品からなり、パルサリング単体で磁界を発生することはできない。このため、磁気センサの背後には、バイアス磁界を与えるバックマグネットが配置される。第1変化部と第2変化部とが交互にバイアス磁界を通過することで磁気センサが検出する磁界が変化するようになっている。
【0004】
従来、バックマグネットのバイアス磁界を利用して自己発電機能を付加した回転センサ付軸受が提案されている(特許文献1)。特許文献1のものは、発電用のコイルがバイアス磁界内に位置するように磁気センサユニットに固定され、軸受運転中に生じるバイアス磁界の変化がコイルを貫く磁束の変化となり、その変化でファラデーの電磁誘導の法則に基いた誘導起電力がコイルに生じ、その起電力から磁気センサの電源として供給する電源回路部も磁気センサユニットに固定されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−64094号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1のものは、磁気センサと、パルサリングとが対向する隙間にコイルを配置しているので、磁気センサとコイルとを磁気センサユニットに収容するために広いスペースが必要である。また、コイルを貫く磁束が減少するように誘導するためのヨークもバックマグネットの背後に重ねるので、ヨークを収容するスペースも必要になる。
【0007】
そこで、この発明が解決しようとする課題は、自己発電機能を備えた回転センサ付軸受において、誘導起電部をコンパクトに収容することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を達成するため、この発明は、内外一方の軌道輪に装着される磁気センサユニットと、内外他方の軌道輪と一体に回転させられるパルサリングとを備え、前記磁気センサユニットの構成部材として、前記パルサリングに対向する磁気センサと、前記磁気センサの背後からバイアス磁界を与えるバックマグネットと、前記バイアス磁界の変化によって誘導起電力が生じるコイルと、前記誘導起電力から直流電源を生成して前記磁気センサへ供給する電源回路部とが収容されたセンサケースを含む回転センサ付軸受において、前記コイルが、そのコイル軸の向きを前記磁気センサと前記パルサリングの対向方向として、前記バックマグネットの周囲を取り囲み、かつ前記磁気センサよりも前記パルサリングから前記対向方向に遠くなるように配置されている構成を採用したものである。
【0009】
上記構成によれば、発電用のコイルがコイル軸の向きを磁気センサとパルサリングの対向方向として、バックマグネットの周囲を取り囲み、かつ磁気センサよりもパルサリングから対向方向に遠くなるように配置されているので、コイルが磁気センサよりも対向方向に突出せず、バックマグネットの周囲を利用したコイル収容になるので、誘導起電部をコンパクト(特に対向方向に関して)に収容することができる。また、パルサリングと磁気センサの対向すきま内にコイルが位置しないため、コイルを貫く磁束の減少が十分に得られ、ヨークを省略することもできる。
【0010】
前記磁気センサユニットの構成部材として、一方の軌道輪に支持されるセンサ支持基体と、前記センサ支持基体に組み合わせる前記センサケースと、前記センサ支持基体に組み合わせた前記センサケースを当該センサ支持基体に固定する補助部材とを含み、前記補助部材に対する解除操作で前記センサケースを前記センサ支持基体から分離可能になることが好ましい。軸受や一方の軌道輪が寿命になったとき、一般に、磁気センサ、電源回路部を構成する素子、コイル、バックマグネット及びセンサケースには、再利用に十分な寿命が残る。補助部材に対する解除操作でセンサケースとセンサ支持基体の組合せを解除し、センサケースを分離可能にしておけば、分離したセンサケースの組合せ面に接着剥離後のような荒れが生じず、そのまま再利用することができる。
【0011】
例えば、前記補助部材が雄ねじ部材からなると、雄ねじ部材を抜き取るだけでセンサケースが分離可能になる。
【0012】
より具体的には、前記センサケースが前記センサ支持基体に軸方向から組み合わされ、当該センサ支持基体の側面に軸方向からねじ止めされていると、内外輪を分離せずとも、軸方向から補助部材の解除を行い、センサケースをセンサ支持基体から軸方向に分離することができる。
【0013】
前記センサケースとして、前記パルサリングと対向する側に閉端壁をもった筒状の収納室を有し、前記収納室内に前記磁気センサと、前記バックマグネットと、前記コイルと、前記電源回路部とが収容されているものを採用することができる。収納室への収容により、素子、コイル等の防護を図り、必要に応じて収納室内へ充填剤を入れて防護を強化することができる。パルサリングと磁気センサとの対向方向のギャップを小さくするため、閉端壁には、対向方向に肉厚を減らした薄肉部を形成し、その形成に伴う閉端壁の窪みを利用して磁気センサを配置することが好ましい。薄肉部を取り囲むように突き出た内筒壁を形成すれば、薄肉部付近の閉端壁の剛性を内筒壁で強化することができる。その閉端壁のさらに内側にバックマグネットを配置すれば、そのバックマグネット周囲に配置すべきコイルの内周を内筒壁で支持し、コイル固定の強化をも図ることができる。
【0014】
前記磁気センサの封止部背面に前記バックマグネットが固着された単一の電子部品を前記センサケースに収容すると、電子部品1個の実装で磁気センサ及びバックマグネットを同時に配置することができる。
【0015】
この発明において、前記磁気センサの出力信号は、無線、有線のいずれで外部機器に送信してもよい。
【0016】
前記磁気センサの出力信号を無線送信する発信機と、前記発信機の電源とをセンサケースに収容すれば、センサケースと外部機器とを接続する電源線、信号線が不要になるので、回転センサ付軸受の装置への組み込みが容易になる。
【0017】
一方、前記磁気センサと外部機器とを接続するための電線を備える場合、前記センサ支持基体が、前記軌道側周面に対して円周方向に滑り自在に装着される環状体からなることが好ましい。磁気センサユニットを装着する一方の軌道輪がクリープを生じる懸念がある場合、一方の軌道輪に対して静止する部材で磁気センサユニットを円周方向に回り止めするだけで、クリープ時の断線を防止することができる。
【0018】
より具体的には、前記センサ支持基体が、前記軌道側周面を径方向に挟む2個の分割片を連結して環状体に組み立てるようになっており、前記軌道側周面が、円周方向に亘る周溝部を有し、前記分割片が、前記周溝部に入り込む突部を有し、前記センサ支持基体が、前記突部の前記周溝部に対する軸方向の引っ掛かりと、前記軌道側周面との径方向の嵌り合いとにより前記一方の軌道輪に装着されることが好ましい。2個の分割片の突部を周溝部の内側へ径方向から入れ、両分割片を連結することでセンサ支持基体を軌道輪に装着することができる。すなわち、センサ支持基体は、環状体に維持される限り、突部と周溝部の引っ掛かりで軸受に対して軸方向に位置決めされ、軌道側周面との嵌り合いで軸受に対して径方向に位置決めされる。センサ支持基体を硬質な材料で無端環状に形成し、その突部を軸方向から溝縁越しに周溝部の内側へ押し込む装着構造と比して、径方向から突部を周溝部に入れ込むので、センサ支持基体の装着が容易である。
【0019】
前記2個の分割片が互いに同形の成形部品からなることが好ましい。同じ分割片2個を用い、同一の金型で分割片を量産することができる。
【0020】
より好ましくは、前記分割片ごとに前記センサケースを装着することができるとよい。センサケースはセンサ支持基体よりも円周方向に十分に短くすることができるので、同形の分割片2個を用いてセンサ支持基体を構成すると、各分割片にセンサケースを装着することが可能である。分割片ごとにセンサケースを装着することで、磁気センサユニットに複数のセンサケースを装着すれば、片方のセンサケースの磁気センサ等が故障していても残りのセンサケースで使用を継続することができる。
【0021】
前記2個の分割片を連結する手段は特に制限されない。例えば、前記軌道側周面を径方向に挟む前記2個の分割片をねじ部材で締結することによって前記連結がなされるようにすることができる。
【発明の効果】
【0022】
上述のように、この発明は、自己発電機能を備えた回転センサ付軸受において、上記構成を採用したことにより、コイルが磁気センサよりも対向方向に突出せず、バックマグネットの周囲を利用したコイル収容になり、また、ヨークを省略することもできるので、誘導起電部の収容スペースを小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】第1実施形態に係る回転センサ付軸受の全体構成を示す一部切欠き側面図
【図2】図1のI−I線の断面図
【図3】図1の電源回路部の回路構成図
【図4】第2実施形態に係る回転センサ付軸受の全体構成を示す一部切欠き側面図
【図5】第3実施形態に係る回転センサ付軸受の全体構成を示す一部切欠き側面図
【図6】第3実施形態を図2と同じ切断線で示した断面図
【図7】(a)は第3実施形態に係る分割片で軌道輪を挟む途中の側面図、(b)は分割片を連結して軌道輪に装着した状態の側面図
【図8】図7(a)の分割片で軌道輪を挟む位置を示した断面図
【図9】第4実施形態に係る回転センサ付軸受の全体構成を示す一部切欠き側面図
【図10】第4実施形態を図2と同じ切断線で示した断面図
【発明を実施するための形態】
【0024】
この発明の第1実施形態に係る回転センサ付軸受を図1、図2に基づいて説明する。
図示のように、この回転センサ付軸受は、内外一方の軌道輪1に装着された磁気センサユニット2と、内外他方の軌道輪3と一体に回転させられるパルサリング4とを備えている。
【0025】
一方の軌道輪1は、固定部材に取り付けられる。他方の軌道輪3は、固定部材に対して円周方向に回転する回転部材に固定される。この回転センサ付軸受は、一方の軌道輪1を内輪としているので、外輪回転で使用される。外輪を一方の軌道輪にすることも可能である。両軌道輪1、3は、分離型の単列円錐ころ軸受用のものとなっている。この発明において、「円周方向」とは、軸受中心軸回りの方向のことをいい、「軸方向」とは、軸受中心軸に沿った方向をいい、「径方向」とは、当該軸受中心軸に直角な方向をいう。「回転センサ」とは、回転角度、回転速度、回転方向の少なくとも1種の検出信号を電気信号として出力できるものをいう。
【0026】
パルサリング4は、孔5と柱部6とが円周方向に交互に並ぶ磁性材料製の取り付け部品になっている。パルサリング4は、他方の軌道輪3に対する圧入嵌合で一端部を軌道輪3の円周方向溝に入り込ませた状態にすることで軌道輪3に一体回転可能に装着されている。
【0027】
パルサリング4に対向する磁気センサ7と、磁気センサ7の背後からバイアス磁界を与えるバックマグネット8と、そのバイアス磁界の変化によって誘導起電力が生じるコイル9と、その起電力を磁気センサ7へ電源として供給する電源回路部10とが磁気センサユニット2に収容されている。
【0028】
パルサリング4は、柱部6のように、磁気センサ7と最短距離を形成する第1ギャップ部と、孔5のように、近接通過部よりも遠距離を形成する第2ギャップ部とが円周方向に交互に並び、他方の軌道輪3と一体回転すると、両ギャップ部が前記バイアス磁界中を交互に通過し、これにより、前記バイアス磁界の変化を生じさせることができるものであればよい。例えば、パルサリング4は、孔5に代えて柱部6よりも外径側に凹んだ凹部を形成したものでもよい。
【0029】
磁気センサユニット2は、一方の軌道輪1に支持されるセンサ支持基体11と、センサ支持基体11に組み合わせるセンサケース12とを構成部材として含んでいる。センサ支持基体11は、一方の軌道輪1の軌道側周面に対して円周方向に滑り自在に装着される環状体からなる。センサケース12は、パルサリングと対向する側に閉端壁をもった筒状の収納室13と、収納室13から一方の軌道輪1側に突き出た一対の脚部14とを有している。収納室13内に磁気センサ7、バックマグネット8、コイル9、電源回路部10等が収容されている。
【0030】
磁気センサ7は、バイアス磁界の変化を電気信号に変換する回路からなる。図示例の磁気センサ7は、ホール効果を利用して磁界の変化をアナログ信号に変換し、これをデジタル信号の出力信号に変換するホールICからなる。磁気センサ7のアナログ信号変換部は、これを包む封止部の正面近傍に位置する。パルサリング4は、磁気センサ7の封止部の正面と径方向のギャップをもって対向する。この磁気センサ7とパルサリング4の対向方向は、図1中のI−I線の直線方向に設定されている(以下、単に対向方向と呼ぶ)。
【0031】
バックマグネット8は、N極とS極とが対向方向に並ぶ永久磁石からなる。図1、図2から明らかなように、磁気センサ7の封止部背面にバックマグネット8が固着された単一の電子部品を回路基板に実装している。その回路基板に電源回路部10が設けられている。磁気センサ7の端子部は、バックマグネット8よりも対向方向に突き出ており、回路基板から浮いたバックマグネット8背後の空間を利用して電源回路部10が実装されている。バックマグネット8の周囲近傍には、多重に巻かれたコイル9が設けられている。コイル9は、そのコイル軸の向きを対向方向としてバックマグネット8の周囲に配置されている。コイル9の両端は、電源回路部10の入力端に接続されている。磁気センサ7、バックマグネット8、コイル9及び電源回路部10を一箇所の収納室13に収容し、磁気センサ7とパルサリング4との対向方向の最短距離を設定するため、収納室13のみを他の磁気センサユニット部分よりも径方向に軌道輪3側へ突き出るように設けることにより、その収納室13以外の部分を径方向にコンパクトに設けている。
【0032】
収納室13の閉塞端には、対向方向に肉厚を減らした薄肉部15と、薄肉部15を取り囲むように突き出た内筒壁16とが形成されている。磁気センサ7の封止部正面は、薄肉部15の背後に近接配置されている。これにより、薄肉部15の形成に伴う閉端壁の窪みを利用して磁気センサ7が配置され、磁気センサ7とパルサリング4とが成す最短距離が対向方向に詰められている。バックマグネット8は、内筒壁16のさらに内側に配置されている。内筒壁16は、対向方向に突出した外周面をもち、コイル9の内周を支持している。コイル9は、内筒壁16の外周面に巻かれ、そのコイル軸の向きは、内筒壁16によって対向方向に固定されている。コイル9は、収納室13の閉塞端の厚肉部分で対向方向に支持されている。この支持により、コイル9が磁気センサ7よりもパルサリング4から対向方向に遠くなるように配置されている。なお、図示のようにバックマグネット8が回路基板から浮く場合、コイル9は、バックマグネット8の周囲だけでなく、バックマグネット8と回路基板との間の空間をも利用して収容することが可能である。
【0033】
パルサリング4が他方の軌道輪3と一体回転すると、磁気センサ7のところでバイアス磁界の変化が発生し、磁気センサ7からその変化に対応した電気信号が出力される。また、同時に、コイル9の内部を貫くバイアス磁界の変化により、コイル9には、ファラデーの電磁誘導の法則に基いた誘導起電力が生じる。バイアス磁界の減少を顕著にするためのヨークは存在しない。
【0034】
図3(a)、(b)に電源回路部10の主要部を示す。図示のように、電源回路部10の入力端には、コイル9の両端が接続され、ここから前記の誘導起電力(交流)が入力される。電源回路部10は、その入力を整流回路で直流に変換し、さらに平滑回路、安定化回路を経て、磁気センサ7用の直流電源(+V)を生成し、その直流電源(+V)を磁気センサ7の端子部へ供給するようになっている。電源回路部10は、図示例の回路構成に限定されず、例えば、三端子レギュレータを用いた安定化回路を採用することもできる。
電源回路部10に蓄電用の充放電部を追加してもよい。充放電部として、例えば、コンデンサや二次電池を採用することができる。また、図3(b)の磁気センサ7の出力回路は、オープンコレクタ出力を例示したが、他の出力回路でもよい。
【0035】
前記センサ支持基体11には、センサケース12を組み合わせるための凹部17が形成されている。一方の軌道輪1に装着されたセンサ支持基体11の凹部17に、センサケース12の一対の脚部14を軸方向から挿入することにより、凹部17とセンサケース12とに形成された案内用壁面同士の滑り接触が生じ、センサケース12は、センサ支持基体11に対して所定の組合せ位置へ案内される。この挿入時、センサ支持基体11に形成された電線保持溝部18が一対の脚部14に挟まれ、一対の脚部14の間からセンサケース12の外部に出た電線19が電線保持溝部18に入り込むようになっている。電線19は、磁気センサ7と、この出力信号を利用する外部機器とを接続するためのものである。
【0036】
磁気センサユニット2は、前記のようにセンサ支持基体11の所定位置に組み合わせたセンサケース12をセンサ支持基体11に固定する補助部材20を構成部材に含んでいる。この所定位置は、回転センサ付軸受を組み込むと、磁気センサ7、バックマグネット8がパルサリング4と対向方向に正規の距離を成すように決定される。最短距離を成す補助部材20は、センサ支持基体11のねじ穴にねじ込む雄ねじ部材からなる。補助部材20で各脚部14とセンサ支持基体11とをねじ締結することによってセンサケース12がセンサ支持基体11にねじ止めされている。補助部材20に対する解除作業は、雄ねじ部材を回すねじ抜取り作業だけであり、これにより、センサケース12をセンサ支持基体11から分離可能になる。滑り接触による案内と、ねじ止めのみでセンサケース12を固定しているので、分離したセンサケース12に接着剥離面のような荒れはなく、そのまま再利用することができる。
【0037】
この回転センサ付軸受は、分離形軸受なので、一方の軌道輪1に装着したセンサ支持基体11に対してセンサケース12を着脱する際にパルサリング4や他方の軌道輪3は邪魔になる心配はない。このため、補助部材20は、径方向にねじ込むようになっている。
【0038】
なお、センサケース12の組合せ作業は、収納室13を密封した後に実施するようになっている。この密封は、収納室13内に回路基板(磁気センサ7、電源回路部10等を構成する電子部品、コイル9の両端、及び電線19が半田付け等で接続されたもの)を収容し、収納室13の開放筒口を封止する作業で行うようになっている。この封止は、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂などの熱硬化性樹脂や、ホットメルトで実施することができる。実装済みの回路基板を収納室13の開放筒口から組み込むことが困難な場合、収納室13を側周で分割し、回路基板設置後に収納室13を組立てるようにしてもよい。また、補助部材20は、センサケース12とセンサ支持基体11間に介在してセンサケース12の分離挙動に十分に抵抗可能なものであればよく、例えば、センサケース又はセンサ支持基体に固定されたばね片からなり、挿入時に撓んで組み合わせ相手側に引っ掛かり、ばね片を挿入治具等で再び撓ませて引っ掛かりを解除する解除操作を実施するものでもよい。
【0039】
センサケース12を形成する材料として、所要の耐久性に応じて適宜に選択すればよく、例えば、ガラス繊維によって強化され、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)を主体とし、ポリアミドイミド樹脂(PAI)を混合させたポリマー材を採用することができる。磁気センサ7や電源回路部10に保証された寿命以上の耐久性を確保可能な材料であることが好ましい。
【0040】
一方の軌道輪1の軌道側周面は、円周方向に亘る周溝部21を有している。一方、センサ支持基体11は、周溝部21に入り込む突部22と、当該軌道側周面に嵌る滑り面部23とを有している。センサ支持基体11は、突部22の周溝部21に対する軸方向の引っ掛かりと、軌道側周面及び滑り面部23の径方向の嵌り合いとにより軌道輪1に装着されている。センサ支持基体11は、突部22を周溝部21まで圧入する単一の環状部品でもよいし、センサ支持基体11を円周方向に分割した複数の分割片を連結して環状体に組み立てるものでもよい。
【0041】
一方の軌道輪1に対して静止する静止部材(図示省略)と、センサ支持基体11とを適宜の手段で円周方向に係止して磁気センサユニット2を回り止めしておけば、軌道輪1のクリープ時、センサ支持基体11は円周方向に回転せず、軌道輪1のみが回転するので、電線19の断線を防止することができる。したがって、クリープで軸受を交換することになっても、センサケース12に付いている電線19も再利用することができる。
【0042】
その回り止め手段として、例えば、センサ支持基体11の側面に凹部又は凸部(図示省略)を少なくとも1箇所に形成し、その凹部又は凸部に噛み合う係止部を静止部材に形成し、その噛み合いで回り止めする手段や、静止部材とセンサ支持基体11とに連通するピン穴(図示省略)を形成し、そのピン穴へ挿入したピンで回り止めする手段を採用することができる。センサ支持基体11に凸部を設ける場合、ノックピン、平行ピン、ロールピンなどの金属ピンを差込(圧入)することで設けてもよい。
【0043】
第1実施形態は、上述のようなものであり、コイル9が磁気センサ7よりも対向方向に突出せず、バックマグネット8の周囲を利用したコイル収容にしたため、ヨークがなくともコイル9を貫くバイアス磁界の変化が十分に生じ、誘導起電部をコイル9とバックマグネット8のみとし、これらをコンパクトにまとめてセンサケース12内へ収容することができる。磁気センサ7への電力供給が不要なため、回転センサ付軸受を組み込む装置の省電力化を図ることもできる。センサケース12を分離して再利用が可能なため、省資源にもなる。一方の軌道輪1のクリープに備えて磁気センサユニット2を軌道輪1に対して滑り回転自在に装着したので、磁気センサユニット2の回り止めを適宜に追加するだけで、電線19の断線防止を容易に実現することができる。電線19の断線を防止することができるので、磁気センサユニット2を軌道輪1に固定したものよりも磁気センサユニット2の信頼性と寿命が向上する。
【0044】
第2実施形態を図4に基いて説明する。以下、第1実施形態との相違点を述べ、同一に考えられる構成の説明を省略する。図示の第2実施形態は、磁気センサ7の出力信号を有線送信することに代えて、その出力信号を無線送信する発信機31と、発信機31の電源とがセンサケース12の収納室13内に収容されている。
【0045】
発信機31が送信した出力信号を受信するための受信機は、回転センサ付軸受を組み込む装置(機器、機械、車両など)に設けられる制御部内、制御部とセンサケース12との中間部などに配置し、出力信号を装置の制御に使用することができる。発信機31の電源には、電源回路部10の出力(+V)を利用可能な場合には、これを利用してもよいし、磁気センサ7への供給電源と共通化できない場合には、電源回路部10の出力を所要の電源に変換するための回路を回路基板に追加実装すればよい。軸受回転停止後も発信機31による送信があり得る場合、蓄電回路から発信機31へ電源を供給するようにすればよい。
【0046】
第2実施形態は、送信用の電線を回転センサ付軸受に接続することが不要なので、装置への組み込みが容易になる。
【0047】
第3実施形態を図5〜図8に基いて説明する。図5、図6に示すように、第3実施形態は、非分離形の軸受になっている。非分離形の軸受として、深溝玉軸受が採用されている。一方の軌道輪41は、両肩付きの内輪になっている。一方の軌道輪41に装着された磁気センサユニット42と、他方の軌道輪43に装着されたパルサリング44とは、センサ支持基体45に組み合わされたセンサケース46とパルサリング44とが軌道輪41、43の軌道輪幅よりも軸方向に突き出たところで対向するように設けられている。
【0048】
センサケース46には、センサ支持基体45に沿った円弧状で軸方向に突き出た位置合わせ部47と、センサ支持基体45の側面に沿うよう円周方向に突き出た一対のねじ止め部48と、電線19の位置を安定させるための溝部49とが設けられている。センサケース46は、センサ支持基体45に軸方向から組み合わされる。この組合せ位置は、位置合わせ部47とセンサ支持基体45の径面との面接触で径方向位置を定め、ねじ止め部48とセンサ支持基体45との面接触で軸方向位置を定めるようになっている。ねじ止め部48においてセンサ支持基体45の側面にねじ止めされる。補助部材50は、軸方向からねじ込むことができる。したがって、第3実施形態は、軌道輪41、43が分離できなくとも、軸方向から補助部材50の解除操作を行い、センサケース46をセンサ支持基体45から軸方向に分離することができる。
【0049】
図7、図8に示すように、センサ支持基体45は、軌道輪41の軌道側周面を径方向に挟む2個の分割片51、51を連結して環状体に組み立てるようになっている。2個の分割片51、51は、互いに同形の成形部品からなる。分割片51は、軌道輪41の周溝部54に入り込む突部55と、センサケース46をねじ止めするためのねじ穴56とを有している。
【0050】
2個の分割片51、51で、突部55が周溝部54に入るように軌道側周面を径方向に挟むと、一方の分割片51の円周方向一端部52と、他方の分割片51の円周方向他端部53とで一連のねじ孔部が形成される。このねじ孔部にねじ部材57をねじ込んで2個の分割片51、51を締結することによって連結が完了し、環状体に組み立てられる。この組立てと同時に、センサ支持基体45が軌道輪41に装着される。なお、図示例のセンサ支持基体45は、突部55の片側でのみ軌道側周面と径方向に嵌り合うようになっているが、これに限定されない。第3実施形態は、突部55を圧入することなく、径方向から周溝部54に入れ込むので、センサ支持基体45の装着が容易である。なお、分割片51、51同士をねじ止めすることに代えて、円周方向一端部に形成された係止爪と、円周方向他端部に形成された爪受けとを有する分割片とし、軌道側周面を径方向に挟む間に生じる各分割片の係止爪の弾性変形で互いの係止爪と爪受けとが掛かり合う連結手段を採用することもできる。
【0051】
同形の分割片51、51なので、単一金型で量産することができる。センサ支持基体45を形成する材料は、例えば、ガラス繊維によって強化されたPPS、アルミ合金、鋳鉄等を使用することができる。アルミ合金を採用する場合、型材を金型や治具で湾曲させて成形したり、ダイキャストで成形したりすることができる。どのような材料を採用するにしても、センサ支持基体45と軌道輪41との径方向の嵌め合い面は、摺動部になるので、摩擦係数を積極的に低下させることが好ましい。金属製の場合は、摺動部となる金属面に表面処理を適宜に施すことにより摩擦係数を低下させることが可能である。
【0052】
分割片51にセンサケース46固定用の全てのねじ穴56、56を形成し、そのセンサケース46の組合せ位置を円周方向両端部から離しているので、分割片51ごとにセンサケース46を装着することができる。2個のセンサケース46を装着すれば、片方のセンサケース46の磁気センサ等が故障していても残りのセンサケース46で使用を継続することができる。分割片51同士のねじ締結やセンサケース46のねじ止めには、緩み止めのため、適宜にばね座金や波座金を使用することが可能である。
【0053】
第4実施形態を図9、図10に基いて説明する。第4実施形態は、第3実施形態と比して、一方の軌道輪61に対する磁気センサユニット62の装着構造のみが異なり、他方の軌道輪63に装着されたパルサリング64と磁気センサユニット62との位置関係は同じものである。磁気センサユニット62は、無端環状のセンサ支持基体65を構成部品に含んでいる。センサ支持基体65は、断面L形の無端環状部品からなるので、成形が容易である。センサケース66をねじ止めする前に、断面L形の軸方向に突き出た円筒部67を軌道輪61の軌道側周面に圧入嵌合するだけで軌道輪61に装着することができる。
【0054】
この発明の技術的範囲は、上述の各実施形態に限定されず、特許請求の範囲の記載に基く技術的思想の範囲内での全ての変更を含むものである。
【符号の説明】
【0055】
1、41、61 一方の軌道輪
2、42、62 磁気センサユニット
3、43、63 他方の軌道輪
4、44、64 パルサリング
5 孔
6 柱部
7 磁気センサ
8 バックマグネット
9 コイル
10 電源回路部
11、45、65 センサ支持基体
12、46、66 センサケース
13 収納室
14 脚部
15 薄肉部
16 内筒壁
17 凹部
18 電線保持溝部
19 電線
20、50 補助部材
21、54 周溝部
22、55 突部
23 滑り面部
31 発信機
47 位置合わせ部
48 ねじ止め部
49 溝部
51 分割片
52 円周方向一端部
53 円周方向他端部
56 ねじ穴
57 ねじ部材
67 円筒部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内外一方の軌道輪(1)に装着された磁気センサユニット(2)と、内外他方の軌道輪(3)と一体に回転させられるパルサリング(4)とを備え、
前記磁気センサユニット(2)の構成部材として、前記パルサリング(4)に対向する磁気センサ(7)と、前記磁気センサ(7)の背後からバイアス磁界を与えるバックマグネット(8)と、前記バイアス磁界の変化によって誘導起電力が生じるコイル(9)と、前記誘導起電力から直流電源を生成して前記磁気センサ(7)へ供給する電源回路部(10)とが収容されたセンサケース(12)を含む回転センサ付軸受において、
前記コイル(9)が、そのコイル軸の向きを前記磁気センサ(7)と前記パルサリング(4)の対向方向として、前記バックマグネット(8)の周囲を取り囲み、かつ前記磁気センサ(7)よりも前記パルサリング(4)から前記対向方向に遠くなるように配置されていることを特徴とする回転センサ付軸受。
【請求項2】
前記磁気センサユニット(2)の構成部材として、前記一方の軌道輪(1)に支持されるセンサ支持基体(11)と、前記センサ支持基体(11)に組み合わせる前記センサケース(12)と、前記センサ支持基体(11)に組み合わせた前記センサケース(12)を当該センサ支持基体(11)に固定する補助部材(20)とを含み、
前記補助部材(20)に対する解除操作で前記センサケース(12)を前記センサ支持基体(11)から分離可能になる請求項1に記載の回転センサ付軸受。
【請求項3】
前記補助部材(20)が雄ねじ部材からなる請求項2に記載の回転センサ付軸受。
【請求項4】
前記センサケース(12)が前記センサ支持基体(11)に軸方向から組み合わされ、当該センサ支持基体(11)の側面に軸方向からねじ止めされている請求項3に記載の回転センサ付軸受。
【請求項5】
前記センサケース(12)が、前記パルサリング(4)と対向する側に閉端壁をもった筒状の収納室(13)を有し、
前記収納室(13)内に前記磁気センサ(7)と、前記バックマグネット(8)と、前記コイル(9)と、前記電源回路部(10)とが収容されており、
前記閉端壁に、前記対向方向に肉厚を減らした薄肉部(15)と、前記薄肉部(15)を取り囲むように突き出た内筒壁(16)とが形成されており、
前記薄肉部(15)の形成に伴う前記閉端壁の窪みを利用して前記磁気センサ(7)が配置され、前記バックマグネット(8)が前記内筒壁(16)のさらに内側に配置され、前記内筒壁(16)が前記コイル(9)の内周を支持している請求項1から4のいずれか1項に記載の回転センサ付軸受。
【請求項6】
前記磁気センサ(7)の封止部背面に前記バックマグネット(8)が固着された単一の電子部品を前記センサケース(12)に収容している請求項1から5のいずれか1項に記載の回転センサ付軸受。
【請求項7】
前記磁気センサ(7)の出力信号を無線送信する発信機(31)と、前記発信機(31)の電源とが前記センサケース(12)に収容されている請求項1から6のいずれか1項に記載の回転センサ付軸受。
【請求項8】
前記磁気センサ(7)と外部機器とを接続するための電線(19)を備え、
前記センサ支持基体(11)が、前記軌道側周面に対して円周方向に滑り自在に装着される環状体からなる請求項1から6のいずれか1項に記載の回転センサ付軸受。
【請求項9】
前記センサ支持基体(45)が、前記軌道側周面を径方向に挟む2個の分割片(51、51)を連結して環状体に組み立てるようになっており、
前記軌道側周面が、円周方向に亘る周溝部(54)を有し、
前記分割片(51)が、前記周溝部(54)に入り込む突部(55)を有し、
前記センサ支持基体(45)が、前記突部(55)の前記周溝部(54)に対する軸方向の引っ掛かりと、前記軌道側周面との径方向の嵌り合いとにより前記一方の軌道輪(41)に装着される請求項8に記載の回転センサ付軸受。
【請求項10】
前記2個の分割片(51、51)が、互いに同形の成形部品からなる請求項9に記載の回転センサ付軸受。
【請求項11】
前記分割片(51)ごとに前記センサケース(46)を装着することができる請求項10に記載の回転センサ付軸受。
【請求項12】
前記軌道側周面を径方向に挟む前記2個の分割片(51、51)をねじ部材(57)で締結することによって前記連結がなされる請求項9から11のいずれか1項に記載の回転センサ付軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−61030(P2013−61030A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−200562(P2011−200562)
【出願日】平成23年9月14日(2011.9.14)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】