説明

回転ファンの製造方法

【課題】従来必要とされていたバランス調整の工程を不要化となすことができ、回転ファンの製造コストを安価となし得る回転ファンの製造方法を提供する。
【解決手段】内筒28と外筒30とこれらを径方向に弾性連結する弾性体32とを備えたファン用防振ボス12を、成形金型42にセットして、外筒30の外周側に複数の羽根を有する樹脂製のファン本体を成形し外筒30に一体接合する回転ファンの製造方法において、成形金型42に食込突起52,54を設けておき、型締状態で食込突起52,54を外筒30の軸方向の両端面に食い込ませて外筒を固定し、その固定状態でファン本体を成形して回転ファンとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、弾性体の弾性変形に基づいて防振作用する防振ボスを中心部に備えた回転ファンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エアコン(エアコンディショナー)等の回転ファンとして、図8(A)に示しているように回転シャフト200を内側の嵌合孔202に嵌入させ、回転シャフト200による一体回転駆動力を受ける内筒204,径方向に離隔した位置で内筒204を取り囲む外筒206、及びそれら内筒204と外筒206とを径方向に弾性連結するゴム(加硫ゴム)等の弾性体208を備えた防振ボス210を中心部に有し、その防振ボス210の外筒206に対して樹脂製のファン本体211を一体に接合した形態のものが公知である。
【0003】
尚図8(A)中212は防振ボス210の外筒206に一体に接合されたファン本体211の筒状の接合部を、214はハブを、216はそれらを連結する連結部を、また218はファン本体211に備えられた複数の羽根を示している。
ここで防振ボス210は、回転ファン215から回転シャフト200への振動伝達,及び回転シャフト200から回転ファン215への振動伝達を抑制する目的、即ち回転シャフト200と回転ファン215(詳しくはファン本体211)との間を振動絶縁する目的で設けられている。
【0004】
近年、エアコンは世界的な環境意識の高まりと、省エネルギー及び快適性向上のニーズの高まりを受けてインバータ制御が主流となっている。
このインバータ制御の下で、エアコンは例えば急冷後は低電力運転で設定温度を維持し、経済的に電力消費することが可能となる。
一方でインバータ制御の下では、DCモータによる頻繁なトルク変動が生じ、そしてそのトルク変動によって振動,騒音が発生し易い。
【0005】
上記防振ボス210は、内筒204と外筒206との間で弾性体208を弾性変形させて振動吸収し、回転シャフト200と回転ファン215との間で防振作用する。
防振ボス210を中心部に備えた回転ファン215の製造方法として、従来、ファン用成形金型に備えた嵌合ピンを内筒204の嵌合孔202内に嵌入させる状態に防振ボス210を成形金型にセットし、外筒206の外周側に複数の羽根を有する樹脂製のファン本体211を成形し同時に外筒206に一体接合する方法が従来知られている。
例えば下記特許文献1にその製造方法が回転ファンの構成とともに開示されている。
【0006】
ところで、防振ボス210を成形金型にセットした状態で樹脂材料を成形キャビティ内に射出し流動させると、成形圧力即ち樹脂材料の射出等の注入圧力及び流動圧力のアンバランスによって、防振ボス210の外筒206が弾性体208の弾性変形を伴って位置ずれを起す問題があり、このような状態でファン本体211を成形すると、脱型後においてファン本体211の軸心が内筒204の軸心に対して、つまり回転シャフト200の軸心に対して心ずれを起したり傾いたりしてしまう。
【0007】
このような問題の対策として、図8(B)に示しているようにファン用成形金型220を、分割型(第1分割型)222と分割型(第2分割型)224との分割構成とし、それらにより型締状態で外筒206を軸方向に挟み込んで固定し、その状態で樹脂材料を成形キャビティ228に注入してファン本体211を成形するといったことが考えられる。
【0008】
しかしながらこの場合、分割型222と224とで外筒206の軸方向端面を挟み、摩擦力で固定しているにすぎないために、ファン本体211の成形時に外筒206を十分に固定状態に保持することが難しく、成形圧力によって外筒206が弾性体208の弾性変形を伴って位置ずれしてしまうのを十分に防止し得ない。
【0009】
而してこのように弾性体208を弾性変形させながら、外筒206が位置ずれした状態でファン本体211が成形されてしまうと、脱型後における弾性体208の形状復元によってファン本体211の軸心が内筒204の軸心に対し心ずれしたリ傾いたりしてしまう。
そのようになると回転ファン215の回転のアンバランスが生じ、振動や騒音の発生原因となってしまう。
【0010】
ファン本体211の軸心が内筒204の軸心、つまり回転シャフト200の軸心に対して心ずれしたり傾いたりしてしまう原因として、上記の他に、ファン本体211の成形前において防振ボス210の外筒206が内筒204に対して既に心ずれしている場合が挙げられる。
例えば防振ボス210を製造する際に、内筒204と外筒206とをボス用成形金型にセットした状態で弾性材料を成形し、内筒204及び外筒206に一体化する方法が通常用いられるが、このときにも弾性材料の注入ゲートの配置のアンバランス等により成形キャビティ内で弾性材料の流動のアンバランスが生じ、その結果防振ボス210を脱型した後の弾性体208の収縮のアンバランス等によって外筒206の軸心が内筒204の軸心に対し心ずれしたり傾いたりしてしまう。
図9(A)はその状況を示している(図9(A)では外筒206が内筒204に対しδだけ心ずれした状態を示している)。
【0011】
このように外筒206の軸心が内筒204の軸心に対して心ずれした状態の防振ボス210を、ファン用成形金型220にセットする際、図9(B)に示すように分割型222と224とのそれぞれに設けた位置決突部226にて外筒206を、その軸心が内筒204の軸心に合うように位置決めし、そしてその状態でファン本体211を成形すると、位置決突部226による位置決時に弾性変形した弾性体208が、脱型後に形状復元することによって、外筒206が図9(C)に示すように図9(A)に示す位置に戻してしまい、結果として、成形されたファン本体211の軸心が内筒204の軸心に対しδだけ心ずれした状態となってしまう。
この場合にも回転ファン215の回転のアンバランスが生じ、その回転時において振動や騒音を発生させてしまう。
【0012】
このような回転のアンバランスは是正することが必要であり、そこで従来にあっては、回転ファン215を製造した後に、これを回転させてアンバランスを調べ、適宜の位置にバランサを取り付けてバランス調整する作業を、製造した回転ファン215全てについて行っていた。
【0013】
しかしながらこのバランス調整の作業は面倒な作業でコストのかかるものであり、そのためこのようなバランス調整の工程を不要化することが可能な回転ファン215の製造方法が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2008−309032号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は以上のような事情を背景とし、従来必要とされていたバランス調整の工程を不要化ないし簡単化でき、回転ファンの製造コストを安価となし得る回転ファンの製造方法を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
而して請求項1のものは、回転シャフトを内側の嵌合孔に嵌入させ、該回転シャフトからの駆動力を受けて該回転シャフトと一体に回転する内筒,径方向に離隔した位置で該内筒を取り囲む外筒、及びそれら内筒と外筒とを径方向に弾性連結する弾性体を備えた防振ボスを、ファン用成形金型に備えた嵌合ピンを前記内筒の嵌合孔内に嵌入させる状態に該成形金型にセットして、前記外筒の外周側に複数の羽根を有する樹脂製のファン本体を成形し該外筒に一体接合する回転ファンの製造方法であって、前記成形金型に食込突起を設け、型締状態で該食込突起を前記外筒の軸方向の端面に食い込ませる状態に該外筒を固定し、該固定状態で前記ファン本体を成形することを特徴とする。
【0017】
請求項2のものは、請求項1において、前記成形金型は前記防振ボスの軸方向に分割された第1分割型と第2分割型とを有するものとなして、それぞれに前記食込突起を軸方向に対向して設けておき、前記型締状態でそれら食込突起を前記外筒の軸方向の一方の端面と他方の端面とに食い込ませ、該外筒を固定するものとなしてあることを特徴とする。
【0018】
請求項3のものは、請求項1,2の何れかにおいて、前記食込突起は周方向に沿って環状に設けておくことを特徴とする。
【発明の作用・効果】
【0019】
以上のように本発明は、ファン用成形金型に食込突起を設け、成形金型にセットした防振ボスの外筒の軸方向端面に、型締状態でその食込突起を食い込ませて外筒を固定し、その固定状態でファン本体を成形するようになしたものである。
【0020】
本発明では、型締状態で成形金型の食込突起を防振ボスの外筒の端面に食い込ませ、外筒を強固に固定した状態でファン本体を成形するため、成形時の成形圧力によって外筒が弾性体の弾性変形を伴って成形型内で位置ずれしてしまうのを防止できる。
【0021】
従ってファン本体を成形し防振ボスに一体化した後、即ち回転ファンを成形した後において脱型したとき、成形時の変形により蓄えられた弾性力によって弾性体が脱型後に形状復元することで、ファン本体の軸心が内筒の軸心からずれてしまう現象を防ぐことができる。
【0022】
また本発明では、成形金型の食込突起による外筒端面への食込みにより、外筒を強固に固定した状態の下でファン本体を成形できるため、図9(B)に示したような位置決突部を成形金型に設けて、ファン本体の成形時にその位置決突部にて防振ボスの外筒を固定状態に保持しておく必要がない。
【0023】
即ち本発明では、予め製造してある防振ボスを成形金型にセットし、型締めするに際して、外筒の軸心を内筒の軸心に一致させるように外筒を成形金型にて位置決めすることを行わないで、内筒と外筒との相対位置関係を保ったまま成形金型にセットし、そのままファン本体を成形して防振ボスの外筒に一体接合することができる。
【0024】
従って成形金型へのセット時に、防振ボスの外筒が弾性体の弾性変形を伴って強制的に位置移動せしめられることで、弾性体に弾性復元力が蓄えられ、脱型後に弾性体の弾性復元力でファン本体の軸心が内筒の軸心から心ずれしてしまう問題も解消することができる。
【0025】
その結果、本発明により製造した回転ファンは、ファン本体の軸心と内筒の軸心とを良好に一致させることができ、回転ファンが回転のアンバランスを生じるのを防ぐことができる。
従って回転ファン製造後において、回転バランスを調整するための調整工程を不要化することも可能となり、その調整工程を含めた回転ファンの製造コストを安価とすることができる。
【0026】
本発明では、成形金型を防振ボスの軸方向に第1分割型と第2分割型とに分割して、それぞれに上記の食込突起を軸方向に対向して設け、型締状態でそれら食込突起を防振ボスにおける外筒の軸方向の一方の端面と他方の端面とに食い込ませ、外筒を固定するようになしておくことができる(請求項2)。
【0027】
このようにすれば、外筒に対する固定力をより強固となすことができ、また外筒の軸方向の両端を固定状態とできるため、例えば軸方向の一方の端部が成形圧力で僅かに移動することで、外筒の軸心が内筒の軸心に対し傾いた状態でファン本体が成形されてしまうといったことを有効に防止することができる。
【0028】
更に本発明では、上記食込突起を周方向に沿って環状に設けておくことができる(請求項3)。
このようにすることで、外筒への食込突起の食込みによる固定力をより一層強固となすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の適用対象の一例としての回転ファンを示した図である。
【図2】図1における防振ボスを周辺部分とともに示した図である。
【図3】本実施形態の回転ファンの製造方法の一部工程を示した図である。
【図4】図3に続く工程の説明図である。
【図5】同実施形態の作用説明図である。
【図6】防振ボスの外筒の軸心のずれの測定方法を示した図である。
【図7】本発明の他の実施形態の要部の図である。
【図8】回転ファンの一例の構成と製造方法の一例の要部を比較例として示した図である。
【図9】図8とは異なった他の製造方法を比較例として示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
次に本発明の実施形態を図面に基づいて詳しく説明する。
図1において、10は回転ファン(ここではプロペラファン)で中心部の防振ボス12と、これに一体に固着された樹脂製のファン本体14とを有している。
この実施形態において、ファン本体14はプロピレン樹脂,アクリロニトリルスチレン(AS)樹脂等の熱可塑性樹脂から成っている。
【0031】
ファン本体14は、防振ボス12に一体に接合された円筒状の接合部16と、接合部16に対し径方向外側に位置する、同じく円筒状をなすハブ18と、それらを連結する連結部20、及びハブ18から放射状に延び出した複数の羽根22を備えている。
尚図1において24はモータ、26はモータ24にて駆動される回転シャフトである。
【0032】
図2に、防振ボス12の構成が周辺部とともに詳しく示してある。
同図に示しているように防振ボス12は、円筒状をなす内筒28と、径方向に離隔した位置で内筒28を取り囲む円筒状の外筒30と、それら内筒28,外筒30を径方向に弾性連結する円筒状の弾性体32とを有しており、それらが一体に加硫接着されている。
ここで内筒28,外筒30は熱可塑性樹脂から成っている。
より詳しくは、ガラス繊維を含有したポリアミド66樹脂から成っている。ここでガラス繊維は、樹脂ポリマーを基準として50質量%含有されている。
但し他の樹脂材にてこれらを構成することも可能である。
【0033】
また弾性体32はここでは加硫ゴムから成るゴム弾性材にて構成されている。より詳しくは、ここでは耐候性に優れ、また温度依存性の低いEPDMにて構成されている。但し熱可塑性エラストマーにて弾性体32を構成することも可能である。
尚、内筒28と外筒30との間は全周に亘って環状の隙間とされており、その隙間が円筒状の弾性体32にて埋められている。
図に示す防振ボス12では、内筒28と外筒30との軸方向の両端が、弾性体32に対して僅かに軸方向外方に突出している。
【0034】
ここで防振ボス12は、内筒28と外筒30とをボス用成形金型にセットした状態で弾性体32が加硫成形され、同時に内筒28及び外筒30に対し一体に加硫接着されることで、ファン本体14の成形に先立って予め製造されている。
そしてその後においてファン本体14が成形され、同時に防振ボス12の外筒30に接合されることで、回転ファン10が構成されている。
【0035】
内筒28は、内側に円形の嵌合孔34を有しており、図1に示しているようにそこに回転シャフト26が挿通されている。
回転シャフト26は内筒28を貫通して先端側が突き出しており、その突き出した部分の雄ねじにナット36がねじ込まれることで、回転シャフト26と内筒28とが一体回転状態に結合されている。
【0036】
一方、外筒30の外周面にはファン本体14における円筒状の接合部16が一体接合されており、この接合部16との接合とによって、ファン本体14が防振ボス12、詳しくはその外筒30と一体回転せしめられるようになっている。
この例の回転ファン10では、回転シャフト26からの回転駆動力が先ず内筒28に伝えられ、更にその回転駆動力が弾性体32を介して外筒30に伝えられ、そしてその外筒30とともにファン本体14が一体に回転せしめられる。
【0037】
防振ブッシュ12における外筒30の軸方向の一方の端面(図中上端面)には、先端が鋭角に尖った断面3角形状の溝38が形成されている。
また軸方向の他端面(図中下端面)においても、同じ断面形状の溝40が形成されている。
ここで一方の溝38は、全周に亘り連続した円形の環状に形成されており、また他方の溝40は、同じく周方向に円環状をなしているが、この溝40は周方向に所定間隔ごとに分断され、その分断個所において非連続をなしている。
【0038】
図3及び図4は、図1及び図2に示す回転ファン10の本実施形態の製造方法を示している。
図3において、42はファン用成形金型で、この成形金型42は防振ボス12の軸方向に分割された分割型(第1分割型)44と、分割型(第2分割型)46とに分割されている。
一方の分割型44には、溶融した樹脂材料を注入するゲート50が設けられており、また他方の分割型46には、防振ボス12の内筒28の嵌合孔34に内嵌状態に嵌合し、内筒28を位置決状態に保持する嵌合ピン48が設けられている。
【0039】
更に分割型44には、型締状態で防振ボス12における外筒30の軸方向の一方の端面(図中上端面)に食い込む食込突起52が図中下向きに設けられ、また分割型46には、外筒30の軸方向の他方の端面(図中下端面)に食い込む食込突起54が設けられている。
【0040】
これら食込突起52,54は、何れも図7(A)に詳しく示しているように図2の溝38,40に対応した形状の、先端が鋭角をなす3角形状の断面形状をなしている。
図2に示す断面3角形状の溝38,40は、実際にはこれら食込突起52,54が外筒30の軸方向の端面に食い込んだ結果形成されたものである。
【0041】
ここで分割型44側の食込突起52は、周方向に連続した円形の環状をなしている。
一方分割型46側の食込突起54は、周方向に円形の環状をなしているが、この食込突起54は、周方向に所定間隔ごとに分断され、その分断個所において非連続をなしている。
【0042】
分割型46には、成形された回転ファン10、具体的にはファン本体14と一体化された防振ボス12の外筒30を突き出すためのエジェクタピン56が出入可能に設けられており、上記の食込突起54は、このエジェクタピン56の位置している個所でそれぞれ分断されている。
【0043】
図4(A)に示す型締状態において、成形金型42は、防振ボス12を収容する凹所58を形成し、また防振ボス12の外側においてファン本体14を成形するための成形キャビティ60を形成する。
凹所58は、分割型46側に、内筒28との干渉回避のための円環状の凹陥部61を嵌合ピン48周りに有し、また分割型44側に、内筒28及び嵌合ピン48との干渉回避のための円形の凹陥部62を有している。
【0044】
更にこれらの分割型44,分割型46のそれぞれは、外筒30の軸方向端面を挟持する挟持面64を有しており、そしてそれら挟持面64のそれぞれに、上記の食込突起52,54が設けられている。
【0045】
この実施形態の製造方法では、予め製造した防振ボス12を、型開き状態で分割型46にセットする。具体的には、内筒28の内側の嵌合孔34に嵌合ピン48を差し込ませる状態に、防振ボス12を分割型46にセットする。
その後に分割型44と分割型46とを型締めし、図4(A)に示す状態とする。
【0046】
このとき、一対の分割型44と46とに設けた食込突起52,54が、外筒30の軸方向の図中上端面と下端面とに、各食込突起52,54の付根に到るまで全高に亘り食い込んだ状態となり、それらの食込作用によって分割型44と46とが、防振ボス12の外筒30を強固に固定状態とする。
【0047】
尚この実施形態において、成形金型42には、外筒30の軸心を内筒28の軸心に強制的に合せるためのガイド手段は設けられておらず、従って防振ボス12は、内筒28と外筒30との当初の相対位置関係を保ったまま成形金型42にセットされ、且つその状態で外筒30に食込突起52,54が食い込んで、成形金型42がこれを固定状態に保持する。
【0048】
このようにして防振ボス12を成形金型42にセットした後、次にゲート50から溶融状態の樹脂材料を、成形キャビティ60に例えば射出成形により注入し、樹脂材料を成形キャビティ60に沿った形状で図1のファン本体14を成形する。
そしてファン本体14を成形し且つこれを防振ボス12に接合し一体化した後、型開きして成形品を脱型する。ここにおいて図1に示す回転ファン10が得られる。
【0049】
ところで防振ボス12は、ファン本体14の成形に先立って予め製造した段階で、図5(A)に示しているように加硫ゴムから成る弾性体32の収縮のばらつき等によって、外筒30の軸心が内筒28の軸心に対し偏心した状態となっていることがある。図5(A)中δはその偏心量を示している。
【0050】
上記した図9の比較例の製造方法では、防振ボス210をファン用成形金型220にセットし型締めしたとき、外筒206がその偏心量だけ位置移動せしめられて、その軸心が内筒204の軸心に合致する状態とされ、そのことに起因してファン本体211の軸心が脱型後に偏心してしまう問題を生ずるが、この実施形態では、図5(B)に示しているように内筒28に対し偏心した外筒30が、その偏心状態を保ったまま成形金型42にセットされ、且つその状態で外筒30に対し食込突起52,54が食い込んで、そのまま外筒30が固定状態とされる。
即ち防振ボス12のセット及び固定に際して、防振ボス12の弾性体32は何等強制的に変形せしめられない。
【0051】
従ってこの状態で、成形金型42内で成形されたファン本体14は、脱型後において弾性体32の形状復元による偏心方向の移動を生じず、脱型後においてファン本体14は、その軸心が内筒28の軸心、つまり回転シャフト26の軸心に合致した状態に保持される。
従って図5(C)に示しているように、外筒30の軸心からファン本体14における筒状の接合部16の外周面までの距離はd/2に良好に保持される(dは接合部16の外径を表す)。
【0052】
尚本実施形態では、成形金型42内で外筒30が偏心して位置することによって、ファン本体14における接合部16の肉厚が図5(C)中左右方向で不均等となる。
換言すれば本実施形態の製造方法は、成形金型42内における外筒30の偏心を、接合部16の肉厚変動によって吸収し、そのことによってファン本体14の軸心を内筒28の軸心と一致させる。
【0053】
以上のような本実施形態によれば、型締状態で成形金型42の食込突起52,54を防振ボス12の外筒30の端面に食い込ませ、外筒30を強固に固定した状態でファン本体14を成形するため、成形時の成形圧力によって外筒30が弾性体32の弾性変形を伴って成形型42内で位置ずれしてしまうのを防止できる。
【0054】
従ってファン本体14を成形し防振ボス12に一体化した後、即ち回転ファン10を成形した後において脱型したとき、成形時の変形により蓄えられた弾性力によって弾性体32が脱型後に形状復元することで、ファン本体14の軸心が内筒28の軸心からずれてしまう現象を防ぐことができる。
【0055】
また本実施形態では、ファン用成形金型42の食込突起52,54による外筒30端面への食込みにより、外筒30を強固に固定した状態の下でファン本体14を成形できるため、図9(B)に示したような位置決突部を成形金型に設けて、ファン本体の成形時にその位置決突部にて防振ボスの外筒を固定状態に保持しておく必要がない。
【0056】
即ち本実施形態では、予め製造してある防振ボス12を成形金型42にセットし、型締めするに際して、外筒30の軸心を内筒28の軸心に一致させるように外筒30を成形金型42にて位置決めすることを行わないで、内筒28と外筒30との相対位置関係を保ったまま成形金型42にセットし、そのままファン本体14を成形して防振ボス12の外筒30に一体接合することができる。
【0057】
従って成形金型42へのセット時に、防振ボス12の外筒30が弾性体32の弾性変形を伴って強制的に位置移動せしめられることで、弾性体32に弾性復元力が蓄えられ、脱型後に弾性体32の弾性復元力でファン本体14の軸心が内筒28の軸心から心ずれしてしまう問題も解消することができる。
【0058】
その結果、本実施形態により製造した回転ファン10は、ファン本体14の軸心と内筒28の軸心とを良好に一致させることができ、回転ファン10が回転のアンバランスを生じるのを防ぐことができる。
従って回転ファン10製造後において、回転バランスを調整するための調整工程を不要化することも可能となり、その調整工程を含めた回転ファン10の製造コストを安価とすることができる。
【0059】
因みに本実施形態の製造方法の効果を確認すべく、以下の方法に従って測定試験を行った。
ここでは外径φ45mm,厚み5mmの外筒30を用いて防振ボス12単品を製造し、またその防振ボス12を用いて回転ファン10を図3,図4の製造方法に従って製造した。
このとき、分割型44と46とに直径φ42.5mm,付根の幅2mm,高さ1mmでそれぞれ上記の食込突起52,54を設けておき、それらを外筒30の端面に食い込ませてファン本体14の成形を行った。
【0060】
そして図6(A)に示す方法で、防振ボス12の外筒30の軸心のずれを、また(B)に示す方法でファン本体14、具体的には円筒状の接合部16の軸心のずれを、ダイヤルゲージ66を用いて調べた。
詳しくは、内筒28の内部に回転用のシャフト68を挿通してナット70のねじ込みにより内筒28をシャフト68に固定し、そしてシャフト68の回転により外筒30を1回転させて、ダイヤルゲージ66による測定の最大値と最小値との差から振れ値を求めた。
【0061】
また(B)に示す方法で、接合部16の外周面にダイヤルゲージ66を当てて、(A)に示す方法と同様にしてこれを1回転させ、そのときのダイヤルゲージ66による測定の最大値と最小値との差から振れ値を求めた。
また比較のために、図9に示す方法で製造した回転ファン10についても同様にして軸心のずれを調べた。
結果が以下に示してある。
尚測定は個数N=5について行った。
【0062】
以下の(A)は、図9の比較例に示す方法でファン本体を成形した場合の結果を、また(B)は図4に示す本実施形態の製造方法でファン本体14を成形した場合の結果を示している。
尚左側の成形前の数値が、図6(A)に示す方法で測定した結果を、また右側の成形後の数値が(B)に示す方法で測定した結果を示している。
(A)比較例の製造方法
成形前−成形後[mm]
1. 0.46−0.55
2. 0.22−0.25
3. 0.16−0.25
4. 0.30−0.36
5. 0.20−0.31
(B)本実施形態の製造方法
成形前−成形後[mm]
1. 0.16−0.09
2. 0.46−0.20
3. 0.14−0.15
4. 0.57−0.19
5. 0.14−0.09
以上の結果に示すように、本実施形態の製造方法によればファン本体14の軸心のずれを効果的に抑制することができる。
【0063】
以上本発明の実施形態を詳述したがこれはあくまで一例示である。
例えば本発明における食込突起は上例以外の形状、例えば図7(B)に示しているように(A)に示す形状の食込突起52の先端を微小範囲に亘って平坦に切り取った形の食込突起72としたり、或いは(C)に示すように若干丸みを持たせた形状の食込突起74としたり、或いはその他の種々形状の食込突起となすことも可能であるし、また食込突起は全周に亘って連続した環状に設けておくことが望ましいが、図3の分割型46側の食込突起54のように、周方向に分断した形態の環状に設けておくこと、或いは周方向に連続しない単独の突起を周方向に間隔をおいて独立して設けておくといったことも可能であるし、また場合によって一対の分割型の何れか一方にだけ設けておくといったことも可能である。
【0064】
また上例では防振ボスにおける内筒,外筒の何れもが熱可塑性樹脂で形成されているが、内筒28を樹脂製に代えて金属製とすることも可能であるし、更に外筒についてもアルミ合金等の金属製となすこと、或いはファン用成形金型の食込突起の硬さを外筒よりも硬くすることを条件として、外筒をアルミ合金以外の金属製とするといったことも場合により可能である。
また上例では防振ボスにおける弾性体として加硫ゴムを用いているが、これを熱可塑性エラストマーその他によって構成することも可能である等、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲において種々変形を加えた態様で実施可能である。
【符号の説明】
【0065】
10 回転ファン
12 防振ボス
22 羽根
26 回転シャフト
28 内筒
30 外筒
32 弾性体
34 嵌合孔
42 ファン用成形金型
44 分割型(第1分割型)
46 分割型(第2分割型)
48 嵌合ピン
52,54 食込突起
60 成形キャビティ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転シャフトを内側の嵌合孔に嵌入させ、該回転シャフトからの駆動力を受けて該回転シャフトと一体に回転する内筒,径方向に離隔した位置で該内筒を取り囲む外筒、及びそれら内筒と外筒とを径方向に弾性連結する弾性体を備えた防振ボスを、ファン用成形金型に備えた嵌合ピンを前記内筒の嵌合孔内に嵌入させる状態に該成形金型にセットして、前記外筒の外周側に複数の羽根を有する樹脂製のファン本体を成形し該外筒に一体接合する回転ファンの製造方法であって、
前記成形金型に食込突起を設け、型締状態で該食込突起を前記外筒の軸方向の端面に食い込ませる状態に該外筒を固定し、該固定状態で前記ファン本体を成形することを特徴とする回転ファンの製造方法。
【請求項2】
請求項1において、前記成形金型は前記防振ボスの軸方向に分割された第1分割型と第2分割型とを有するものとなして、それぞれに前記食込突起を軸方向に対向して設けておき、前記型締状態でそれら食込突起を前記外筒の軸方向の一方の端面と他方の端面とに食い込ませ、該外筒を固定するものとなしてあることを特徴とする回転ファンの製造方法。
【請求項3】
請求項1,2の何れかにおいて、前記食込突起は周方向に沿って環状に設けておくことを特徴とする回転ファンの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−92810(P2012−92810A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−242702(P2010−242702)
【出願日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【Fターム(参考)】