説明

回転式ポンプ

【課題】 モータ一体式の回転式ポンプにおいて、プレス加工で成形されるポンプカバーの強度を向上させる。
【解決手段】 モータ部2を一体に備え重量が比較的重い回転式ポンプ1において、ポンプカバー40Aは、鋼板をプレス加工して形成される。ポンプカバー40Aは、一方の面である内底面41がハウジング50の端面59に当接し、他方の面である外底面43が自動変速装置90の搭載面901に当接する。ポンプカバー40Aは、内底面41に対してハウジング50側に略直角に屈曲する外縁リブ45が形成されている。これにより、回転式ポンプ1の中心軸Oに直交する方向に振動モーメントMvがかかり、ポンプカバー40Aの外縁に比較的大きな応力σが発生しても、プレス加工の破断面49は応力σを直接受けない。したがって、ポンプカバー40Aの強度が向上し、クラック等の発生を防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転式ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、オイルなどの流体を圧送する内接ギア式の回転式ポンプが知られている。この回転式ポンプは、外歯を有するインナーロータと、内歯を有するアウターロータとが、外歯と内歯が噛み合った状態でポンプ室に偏芯して収容される。そして、インナーロータおよびアウターロータが回転することにより、外歯と内歯との間に形成された圧力室の容積が変化し、液体を吸入して吐出する。
ここで、ポンプ室は、ハウジングおよびポンプカバーにより形成される。例えば特許文献1に記載のオイルポンプは、ポンプ室を形成するボディ部材(ハウジングに相当)およびカバー部材(ポンプカバーに相当)が鋼板プレス加工で成形される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−286969号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ポンプ室を形成するボディ部材やカバー部材を鋼板プレス加工で成形することにより、従来一般に採用されてきたアルミニウムダイカストに比べて、(1)薄型化、(2)製造コスト低減、(3)ポンプ摺動面での耐摩耗性向上等の効果が期待される。
しかしながら、プレス加工で打ち抜きされた部材は、プレス破断面にかかる応力によってクラック等が発生するおそれがある。特に、ポンプの重量が比較的重い場合や、車両等の振動がかかる環境でポンプが使用される場合には、大きな応力がかかる可能性がある。
そこで、応力に対する強度を向上させるために鋼板の板厚を厚くして対応しようとすると、薄型化や製造コスト低減の効果が充分に得られなくなる。そのため、特許文献1の構成によるポンプは、重量が比較的軽いものや、振動がかからない環境で使用されるものに適用が限られることとなる。
【0005】
重量が比較的重いポンプの一例として、シャフトを駆動するためのモータ部を一体に備えた回転式ポンプが挙げられる。モータ一体式の回転式ポンプは、部品をモジュール化することができ、トータルでの部品点数低減や組立工数の低減に有効である。しかし、その反面、モータ部の重量が加わるためポンプの重量が重くなり、ポンプカバーを特許文献1の構成によってプレス加工で成形した場合には、強度が不足するおそれがある。
本発明は上記の問題に鑑みなされたものであり、モータ一体式の回転式ポンプにおいて、プレス加工で成形されるポンプカバーの強度を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の回転式ポンプは、回転可能なシャフト、モータ部、インナーロータ、アウターロータ、ハウジングおよびポンプカバーを備える。
モータ部は、シャフトを回転駆動する。
インナーロータは、外歯が形成され、シャフトと一体に回転する。
アウターロータは、外歯に噛み合う内歯が形成され、インナーロータに対して偏芯して回転し、インナーロータとの間に容積が変化する圧力室を有する。
ハウジングは、インナーロータおよびアウターロータを回転可能に収容するポンプ室を有し、当該ポンプ室がモータ部と反対側の端面に開口する。
【0007】
ポンプカバーは、金属板をプレス加工して形成され、一方の面である内底面がハウジングのポンプ室が開口する端面に当接し、且つ他方の面である外底面が搭載対象の搭載面に当接し、ポンプ室と連通し搭載対象に対して流体を流出入可能なポート穴を有する。
さらに、ポンプカバーは、内底面に対してハウジング側に屈曲する外縁リブが一体に形成される。この外縁リブは、ポンプカバーの全周に形成されてもよく、あるいは、ポンプカバーの周の一部に形成されてもよい。
【0008】
この回転式ポンプは、モータ部を一体に備えているため、重力が比較的重い。したがって、中心軸に直交する方向に振動モーメントがかかったとき、搭載面方向に沿ってポンプカバーの外縁に比較的大きな応力が発生する可能性がある。
しかし、ポンプカバーの外縁には、内底面に対してハウジング側に屈曲する外縁リブが形成されているため、外縁端面であるプレス加工の破断面は直接応力を受けない。したがって、ポンプカバーの強度が向上し、クラック等の発生を防止することができる。
【0009】
また、ポンプカバーは、ポンプ室と連通し搭載対象に対して流体を流出入可能なポート穴を有する。すなわち、搭載対象がポンプの流体供給対象でもある。これにより、ポンプと流体供給対象とを耐圧ホース等により接続する必要がないため、組立性を向上し、部品コスト等を低減することができる。
【0010】
請求項2に記載の発明によると、ポンプカバーは、内底面に対してハウジング側に突出しハウジングとポンプカバーとの固定に用いられるバーリング部が一体に形成される。
これにより、例えばバーリング部の内壁に雌ねじを加工し、ねじ締めすることで、ポンプカバーとハウジングとを直接的または間接的に固定することができる。また、バーリング部は、外縁リブと同方向に設けられ同時にプレス成形可能であるため、工程を集約することができ、製造コストを低減することができる。
【0011】
請求項3に記載の発明によると、ポンプカバーは、内底面に対してハウジング側に突出しハウジングのボス穴に嵌合する位置決めボスが一体に形成される。
これにより、ポンプカバーとハウジングとを、位置決めピン等の別部材を用いずに位置決めすることができる。また、位置決めボスは、外縁リブと同方向に設けられ同時にプレス成形可能であるため、工程を集約することができ、製造コストを低減することができる。
【0012】
請求項4に記載の発明によると、ポンプカバーは、内底面の外縁リブとは離間した部位に内底面に対してハウジング側に突出する内底リブが一体に形成される。
これにより、ポンプカバーをさらに補強することができる。したがって、重量が比較的重いモータ一体式のポンプへの適用がより有効となる。また、内底リブは、外縁リブと同方向に設けられ同時にプレス成形可能であるため、工程を集約することができ、製造コストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第1実施形態による回転式ポンプが適用される自動変速装置の作動油供給システムの全体構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の第1実施形態による回転式ポンプを用いた自動変速装置の油圧回路を説明する説明図である。
【図3】(a):本発明の第1実施形態による回転式ポンプを示す軸方向の断面図であり、図4のIII−III断面図に相当する。(b):(a)のIIIb部拡大図である。(c):(a)のIIIc部拡大図である。(d):比較例の回転式ポンプのポンプカバー破断面を示す断面図である。
【図4】図3のIV方向矢視図(平面図)である。
【図5】図3のV方向矢視図(底面図)である。
【図6】本発明の第2実施形態による回転式ポンプを示す軸方向の断面図であり、図7のVI−VI断面図に相当する。
【図7】図6のVII方向矢視図(平面図)である。
【図8】本発明の第3実施形態による回転式ポンプを示す軸方向の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(第1実施形態)
本発明の回転式ポンプの実施形態を図面に基づいて説明する。本発明の第1実施形態による回転式ポンプは、自動変速装置に作動油を供給するオイルポンプに適用される。
図1に、本実施形態に係るシステムの全体構成を示す。
エンジン80は、車両の動力発生装置であり、図示しないクランク軸が左右の駆動輪81を連結するドライブシャフト82と機械的に連結されている。自動変速装置90は、クランク軸から駆動輪81へ動力を伝達する動力伝達系統に設けられている。自動変速装置90には、電動の回転式ポンプ1が設けられている。
【0015】
バッテリ84は、電動の回転式ポンプ1、スタータ85、オルタネータ86、および電装品87等と接続されている。スタータ85は、エンジン80のクランク軸に初期回転を付与する。オルタネータ86は、エンジン80のクランク軸と機械的に接続され、伝達された運動エネルギーを電気エネルギーに変換する。変換された電気エネルギーは、バッテリ84に充電される。電装品87は、空調装置、ヘッドライト、燃料噴射装置等から構成される。ECU89は、周知のマイクロコンピュータを主体に構成される。ECU89は、車両の停止時において、エンジン80を自動的に停止させる、いわゆるアイドルストップ制御や、アイドルストップ状態からエンジン80を自動的に始動させる自動始動制御を行う。また、回転式ポンプ1への通電制御等を行う。なお、図1において、回転式ポンプ1への制御線以外は、煩雑になることを避けるため図示を省略した。
【0016】
図2に、自動変速装置90の油圧回路の構成を示す。自動変速装置90は、電動の回転式ポンプ1、機械式油圧ポンプ91、コントロールバルブ92、発進クラッチ93を含む複数の摩擦係合要素、逆止弁94等を備えている。
機械式油圧ポンプ91は、エンジン80によって駆動され、オイルパン98に貯留されたオイルを、ストレーナ99を通して吸入し、油圧通路97およびコントロールバルブ92を経由して、複数の摩擦係合要素に供給する。
【0017】
回転式ポンプ1は、「搭載対象」としての自動変速装置90の搭載面901に取り付けられる。油圧回路では、回転式ポンプ1は、機械式油圧ポンプ91と並列にバイパス通路96に設けられる。回転式ポンプ1は、ポンプ部2とモータ部3を有している。ポンプ部2とモータ部3とはシャフト10によって接続されている。モータ部3は、ドライバ4によって駆動制御される。
バイパス通路96において、回転式ポンプ1の下流側に逆止弁94が設けられる。したがって、エンジン80作動中、機械式油圧ポンプ91が吐出した作動油が回転式ポンプ1側に逆流することが防止される。なお、逆止弁94は、回転式ポンプ1の吐出圧が機械式油圧ポンプ91の吐出圧以上になったときに開弁する。
【0018】
以上の構成により、本形態は、車両の停止時にエンジン80を自動的に停止させるアイドルストップ制御において次のように用いられる。
エンジン80が停止すると、エンジン80によって駆動される機械式油圧ポンプ91が停止する。機械式油圧ポンプ91が停止すると摩擦係合要素にオイルを供給することができなくなる一方、その間も摩擦係合要素からはオイルが排出されるため、オイル量が不足し、油圧が低下する。その後、発進クラッチ93の油圧が低下した状態からエンジン80を再始動すると、変速機ショックが発生する。
そこで、エンジン80停止時、すなわち機械式油圧ポンプ91の停止時に、電動の回転式ポンプ1を駆動し、バイパス経路96からコントロールバルブ92を経由して発進クラッチ93へオイルを補給し、発進クラッチ93の油圧を維持することによって、再始動時の変速機ショックを低減することができる。
【0019】
次に、回転式ポンプ1の詳細な構成を図3〜5に基づいて説明する。
回転式ポンプ1のポンプ部2は、内接ギア式の回転式ポンプであり、ポンプカバー40A、ハウジング50、インナーロータ20およびアウターロータ30等から構成される。
ポンプカバー40Aは、鋼板をプレス加工して形成される。ポンプカバー40Aは、一方の面である内底面41がハウジング50の端面59に当接する。また、他方の面である外底面43は、図示しないねじが取付穴47を通して自動変速装置90の搭載面901に締め付けられることにより、搭載面901に当接する。
【0020】
ポンプカバー40Aは、内底面41に対してハウジング50側に屈曲する外縁リブ45Aが外縁に沿って形成されている。外縁リブ45Aは、外底面43方向からのプレス加工によって曲げられる。本実施形態では、外縁リブ45Aは、内底面41に対して略直角に形成されている。
【0021】
ポンプカバー40Aは、ハウジング50のポンプ室56に対応する位置に略三日月形の吸入ポート441および吐出ポート442(特許請求の範囲の「ポート穴」に相当する。)を有している。他方、自動変速装置90の搭載面901には、吸入ポート441および吐出ポート442に対応する位置にオイル室(図示しない)が開口している。オイル室の開口は、吸入ポート441および吐出ポート442と略同形状であり、開口面積は、吸入ポート441および吐出ポート442の面積と同等以上である。
【0022】
回転式ポンプ1が搭載面901に取り付けられると、ポンプ室56は、吸入ポート441および吐出ポート442を経由して自動変速装置90のオイル室と連通する。
すなわち、「搭載対象」としての自動変速装置90は、回転式ポンプ1の流体供給対象でもある。これにより、回転式ポンプ1と自動変速装置90とを耐圧ホース等により接続する必要がないため、組立性を向上し、部品コスト等を低減することができる。
【0023】
また、ポンプカバー40Aは、バーリング部46Aが3箇所設けられる(図5参照)。バーリング部46Aは、内壁に雌ねじが加工される。3本のねじ36がモータカバー39の耳部391にインサート成形されたカラー35を貫通してバーリング部46Aの雌ねじに締め付けられることにより、モータカバー39は、ハウジング50を挟み込んでポンプカバー40Aと締結される。
【0024】
さらに、ポンプカバー40Aは、位置決めボス48が2箇所設けられる(図5参照)。位置決めボス48は、ハウジング50の対応する位置に形成されるボス穴58に嵌合する。これにより、ポンプカバー40Aとハウジング50とを、位置決めピン等の別部材を用いずに位置決めすることができる。
【0025】
上記の外縁リブ45A、バーリング部46Aおよび位置決めボス48は、いずれも外底面43側から同時にプレス成形可能であるため、工程を集約することができ、製造コストを低減することができる。
【0026】
ハウジング50は、略円柱状に形成される。ハウジング50の軸方向におけるポンプ部2側の端部には大径部51が形成され、モータ部3側の端部には円筒形状の筒部52が形成される。大径部51の径方向内側には、インナーロータ20およびアウターロータ30を収容するポンプ室56が形成される。ポンプ室56の中心軸Qは、ハウジング50の中心軸Oに対し偏芯して設けられる。
【0027】
筒部52のモータ部3側の端部には、中心軸Oと同軸にベアリング室54が形成され、その奥にオイルシール室53が形成される。
ベアリング室54には、ラジアル型のボールベアリング34が内挿される。ボールベアリング34の外輪はベアリング室54の内径に圧入され、ボールベアリング34の内輪にはシャフト10が圧入される。これにより、シャフト10は、筒部52の中心軸上に軸受けされて回転可能となる。
オイルシール室53にはオイルシール33が挿入され、ポンプ室56側からベアリング室54側へのオイル漏れをシールしている。
【0028】
オイルシール室53の奥には、ポンプ室56に貫通し、内径がシャフト10の外径よりわずかに大きい軸受孔55が形成される。軸受孔55は、シャフト10を回転可能に支持する。これにより、シャフト10は、ボールベアリング34および軸受孔55の2箇所で軸受けされて、芯振れなく回転する。
軸受孔55の内壁とシャフト10の外壁との隙間には、オイルが流れ込むことにより、シャフト10の回転の摺動抵抗が低減し、焼き付きが防止される。
【0029】
ハウジング50の端面59に形成されるOリング溝571にはOリング371が嵌め込まれる。また、ハウジング50の大径部51の外壁に形成されるOリング溝572にはOリング372が嵌め込まれる。
モータカバー39は、樹脂で成形され、ハウジング50の大径部51に被せられる。このとき、Oリング372により、大径部51とモータカバー39との間の気密性が確保される。また、モータカバー39には3箇所の耳部391が設けられており、耳部391にはカラー35がインサート成形されている。モータカバー39がハウジング50を挟んだ状態で、3本のねじ36がカラー35を貫通し、ポンプカバー40Aのバーリング部46Aに締め付けられる。このとき、Oリング371により、ポンプカバー40Aの内底面41とハウジング50の端面59との隙間から外部へのオイル漏れがシールされる。
【0030】
モータ部3は、ステータ70およびロータ60等から構成されている。
ステータ70は、磁性材部71およびインシュレータ73を有する。磁性材部71は、磁性材料の薄板を積層されて形成されている。非磁性材料で形成されるインシュレータ73は、磁性材部71の軸方向における外側に設けられる。インシュレータ73には巻線が巻回される。この巻線への通電により、ステータ70の磁性材部71に磁界が発生する。
【0031】
ロータ60は、ポンプ部2側に開口する有底円筒状に形成され、ステータ70の径方向内側に回転可能に設けられる。ロータ60は、底部61、及び、底部61の外周に設けられる側壁部64を有している。底部61の中心軸上には孔62が形成される。側壁部64の径方向外側の表面には、マグネット65が貼付されている。
また、ロータ60の内壁67により形成される収容空間68には、ハウジング50の筒部52の先端が収容される。ロータ60の内壁67とハウジング50の筒部52とは、接触しないように隙間が形成されている。
【0032】
シャフト10は略円筒状に形成される。シャフト10のモータ部3側の端部であるロータ圧入部18は、ロータ60の孔62に同軸に圧入される。シャフト10のポンプ部2側の端部は、回り止め形状に形成された嵌合部がインナーロータ20の軸孔に同軸に嵌合する。これにより、ロータ60、シャフト10およびインナーロータ20は、一体となって回転する。
【0033】
インナーロータ20とアウターロータ30とは、例えば鉄系の焼結金属等により形成され、ハウジング50のポンプ室56に回転可能に収容される。
インナーロータ20は、外歯21が形成され、中心軸Oを中心としてシャフト10と一体に回転する。アウターロータ30は、ポンプ室56に回転可能に収容される。アウターロータ30には、インナーロータ20の外歯21と噛み合う内歯31が形成される。アウターロータ30は、インナーロータ20の回転に伴って中心軸Qを中心として回転する。このとき、アウターロータ30とインナーロータ20との間に形成される圧力室32の容積が変化する。なお、アウターロータ30の内歯31の数は、インナーロータ20の外歯21の数より1つ多くなるように設定される。本実施形態では、外歯21の数が7つであり、内歯22の数が8つである。
【0034】
次に、回転式ポンプ1の作動について説明する。
ステータ70のインシュレータ73に巻回された巻線に通電されると、ステータ70の磁性材部71に磁界が発生する。発生した磁界により、ロータ60、シャフト10およびインナーロータ20が一体となって回転する。また、インナーロータ20の回転に伴って、アウターロータ30が回転する。
インナーロータ20およびアウターロータ30が回転すると、外歯21と内歯31の噛み合い量が連続的に変化し、圧力室32の容積が連続的に変化する。これにより、圧力室32の容積が増加する領域へ吸入ポート441を経由してオイルが吸入され、圧力室32の容積が減少する領域から吐出ポート442を経由してオイルが吐出される。
【0035】
ここで、本実施形態の回転式ポンプ1は、ポンプカバー40Aが鋼板で形成されているので、例えばポンプカバーがアルミニウムダイカストで形成される場合に比べて厚さが薄くなる。そのため、仮に、搭載対象である自動変速装置90側にオイル室が設けられないと、圧力室32の容積が不足し、オイル中に気泡が生成および消滅するキャビテーションや、気泡が金属表面に衝突することによるエロージョン(壊食)が発生しやすくなる。
しかし、自動変速装置90側に形成されるオイル室が圧力室32と連通することで圧力室32の不足容積を補填し、充分な容積を確保することができる。よって、キャビテーションやエロージョンの発生を抑制することができる。
【0036】
また、図3に示すような振動モーメントMvが回転式ポンプ1に加わると、ポンプカバー40の側面方向に応力σがかかる。本実施形態の回転式ポンプ1はモータ部が一体に形成されており重量が比較的重いため、振動モーメントMvが比較的大きくなる。
すると、図3(d)に示す比較例では、プレス加工の破断面49が応力σの方向に直交しており、例えば図5のX部に応力σによるクラックが発生するおそれがある。それに対し、図3(c)に示すように、本実施形態では外縁リブ45が形成されるため、プレス加工の破断面49は直接応力σを受けない。したがって、ポンプカバー40Aの強度が向上し、クラック等の発生を防止することができる。
よって、重量が比較的重いポンプを振動のかかる環境で使用する場合でも、製造コストの比較的安いプレス加工で成形したポンプカバーを採用することができる。
【0037】
(第2実施形態)
第2実施形態の回転式ポンプ1について、図6、7を参照して説明する。第2実施形態の回転式ポンプは、第1実施形態に対し、ポンプカバーの構成のみが異なる。以下の実施形態の説明では、実質的に同一の構成には同一の符号を付して説明を省略する。
第2実施形態のポンプカバー40Bは、第1実施形態のポンプカバー40Aに対し、さらに内底面41に内底リブ42が形成される。断面がU字状の内底リブ42は、外縁リブ45Aとは離間した部位であって取付穴47周囲のねじ座部471に干渉しない領域に、外底面43側から外縁リブ45A等と同時にプレス成形される。
【0038】
これにより、ポンプカバー40Bをさらに補強することができる。したがって、重量が比較的重いモータ一体式のポンプへの適用がより有効となる。また、内底リブ42は、外縁リブ45Aと同方向に設けられ同時にプレス成形可能であるため、工程を集約することができ、製造コストを低減することができる。
【0039】
(第3実施形態)
図8に示す第3実施形態のポンプカバー40Cは、内底面41に対する外縁リブ45Cの立ち上がり角度が比較的浅く(図では30°程度)形成されている。このように、外縁リブの角度は、第1、第2実施形態のように略直角でなくてもよい。
また、ポンプカバー40Cのバーリング部46Cは、モータカバー39の耳部391を超える高さまで形成され、耳部391を貫通した所でかしめられる。これにより、ねじ36およびバーリング部の雌ねじ加工を廃止することができる。
【0040】
(その他の実施形態)
上記の実施形態では、図4、5等に示すように、外縁リブ45Aはポンプカバー40A等の全周に形成されるが、外縁リブは、ポンプカバーの周の一部に形成されてもよい。
回転式ポンプのモータ部2の構成は、上記実施形態のような、ロータ表面に磁石を貼り付けたSPMモータに限らない。例えば、ロータ内部に磁石を埋め込んだIPMモータ等であってもよい。また、回転式ポンプは、モータ部2のみでなく、モータ部2を駆動するドライバ4(図2)等を一体に備えてもよい。
【0041】
さらに、回転式ポンプが圧送する流体は、オイルに限らず、他の流体であってもよい。加えて、回転式ポンプは、車両の自動変速装置に限らず、他の分野の回転式ポンプに適用されてもよい。
以上、本発明は、上記実施形態になんら限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の形態で実施可能である。
【符号の説明】
【0042】
1 ・・・回転式ポンプ、
2 ・・・ポンプ部、
3 ・・・モータ部、
10 ・・・シャフト、
20 ・・・インナーロータ、
21 ・・・外歯、
30 ・・・アウターロータ、
31 ・・・内歯、
32 ・・・圧力室、
39 ・・・モータカバー、
40A、40B、40C ・・・ポンプカバー、
41 ・・・内底面、
42 ・・・内底リブ、
43 ・・・外底面、
441・・・吸入ポート(ポート穴)、
442・・・吐出ポート(ポート穴)、
45A、45C・・・外縁リブ、
46A、46C・・・バーリング部、
48 ・・・位置決めボス、
49 ・・・破断面、
50 ・・・ハウジング、
56 ・・・ポンプ室、
58 ・・・ボス穴
59 ・・・端面、
90 ・・・自動変速装置(搭載対象)、
901・・・搭載面、
σ ・・・応力。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転可能なシャフトと、
前記シャフトを回転駆動するモータ部と、
外歯が形成され、前記シャフトと一体に回転するインナーロータと、
前記外歯に噛み合う内歯が形成され、前記インナーロータに対して偏芯して回転し、前記インナーロータとの間に容積が変化する圧力室を有するアウターロータと、
前記インナーロータおよび前記アウターロータを回転可能に収容するポンプ室を有し、当該ポンプ室が前記モータ部と反対側の端面に開口するハウジングと、
金属板をプレス加工して形成され、一方の面である内底面が前記ハウジングの前記ポンプ室が開口する端面に当接し、且つ他方の面である外底面が搭載対象の搭載面に当接し、前記ポンプ室と連通し前記搭載対象に対して流体を流出入可能なポート穴を有するポンプカバーと、
を備え、
前記ポンプカバーは、前記内底面に対して前記ハウジング側に屈曲する外縁リブが一体に形成されることを特徴とする回転式ポンプ。
【請求項2】
前記ポンプカバーは、前記内底面に対して前記ハウジング側に突出し前記ハウジングと前記ポンプカバーとの固定に用いられるバーリング部が一体に形成されることを特徴とする請求項1に記載の回転式ポンプ。
【請求項3】
前記ポンプカバーは、前記内底面に対して前記ハウジング側に突出し前記ハウジングのボス穴に嵌合する位置決めボスが一体に形成されることを特徴とする請求項1または2に記載の回転式ポンプ。
【請求項4】
前記ポンプカバーは、前記内底面の前記外縁リブとは離間した部位に前記内底面に対して前記ハウジング側に突出する内底リブが一体に形成されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の回転式ポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−188991(P2012−188991A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−52904(P2011−52904)
【出願日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】