説明

回転式流体機械

【課題】回転式流体機構において、流体機構の外径を小さくする。
【解決手段】回転式流体機構(1)は、筒状のケーシング(2)と、ケーシング(2)内に収容される駆動機構(10)と、駆動機構(10)に回転駆動されるピストン(21)と、ケーシング(2)の内周面に固定される固定部材(23,42)を有し且つ内部にピストン(21)が収容されるシリンダ(20a)とを含み、流体を圧縮又は膨張する流体機構(20)とを備える。固定部材(23,42)は、筒状に形成されケーシング(2)の内周面に固定される筒状部材(26,46)と、外周縁部が筒状部材(26,46)に内嵌し、外周縁部から内方へ窪む窪み部(27c,47c)が筒状部材(26,46)との間で油戻し孔(20b)を区画する内側部材(27,47)と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転式流体機械に関し、特に回転式流体機械を小型化するための対策に係るものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、流体を圧縮又は膨張する流体機構を備える回転式流体機械が知られている。この種の回転式流体機械として、特許文献1には、筒状のケーシングと、該ケーシング内に設けられ流体を圧縮する流体機構としての圧縮機構とを備える回転式圧縮機が開示されている。
【0003】
前記圧縮機構は、駆動機構としての電動機と、電動機により回転駆動されるピストンと、該ピストンを収容する環状のシリンダ本体と、上記シリンダ本体の開口を覆うフロントヘッド及びリアヘッドを備えている。フロントヘッドは、外周縁部がケーシングの内周面に固定される固定部材を構成している。圧縮機構において、ピストンは、シリンダ本体、フロントヘッド及びリアヘッドで囲まれたシリンダ室内で偏心回転することにより、シリンダ室内に吸入される冷媒を徐々に圧縮して高圧冷媒にする。
【0004】
また、前記特許文献1の図5に図示されるように、フロントヘッドにおける径方向外側の部分には、圧縮機構を潤滑した潤滑油をケーシングの底部へ戻すための油戻し孔が形成されている。そして、フロントヘッドにおける油戻し孔よりも外側の外周縁部は、リング状に形成されている。このように、固定部材としてのフロントヘッドにおける外周縁部をリング状に形成することにより、フロントヘッドの外周縁部全体をケーシングの内周面に固定させることができるため、圧縮機構全体をケーシングに対して強固に固定できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−112174号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、固定部材は、一般的に鋳造により一体形成される。これにより、固定部材を低コストで製造することができる。しかし、鋳造により固定部材を製造すると、鋳型の抜き勾配を考慮に入れた上で外周縁部の径方向の肉厚を決定する必要がある。これにより、外周縁部の径方向の肉厚は、十分な剛性を得るために必要な肉厚よりも厚くなる。その結果、流体機構の外径が大きくなるため、回転式流体機構全体の外径が大きくなってしまう。
【0007】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、流体機構の外径を小さくすることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明は、回転式流体機構を対象とし、筒状のケーシング(2)と、該ケーシング(2)内に収容される駆動機構(10)と、該駆動機構(10)に回転駆動されるピストン(21)と前記ケーシング(2)の内周面に固定される固定部材(23,42)を有し且つ内部に前記ピストン(21)が収容されるシリンダ(20a)とを含み、流体を圧縮又は膨張する流体機構(20)と、を備え、前記固定部材(23,42)は、筒状に形成され前記ケーシング(2)の内周面に固定される筒状部材(26,46)と、外周縁部が前記筒状部材(26,46)に内嵌し、該外周縁部から内方へ窪む窪み部(27c,47c)が前記筒状部材(26,46)との間で油戻し孔(20b)を区画する内側部材(27,47)と、を有することを特徴とする。
【0009】
第1の発明では、シリンダ(20a)の固定部材(23,42)がケーシング(2)の内周面に固定されることにより、シリンダ(20a)がケーシング(2)内の所定位置に配置される。固定部材(23,42)には、筒状部材(26,46)の内周面と内側部材(27,47)に形成される窪み部(27c,47c)との間に油戻し孔(20b)が形成される。
【0010】
また、第1の発明では、駆動機構(10)が駆動されると、該駆動機構(10)によりピストン(21)がシリンダ(20a)内で回転駆動される。このピストン(21)によりシリンダ(20a)内で流体が膨張又は圧縮される。また、流体機構(20)の摺動部には、ケーシング(2)内の油溜まりに貯留される潤滑油が供給される。この摺動部を潤滑した潤滑油は、前記油戻し孔(20b)を通じて油溜まりに戻される。
【0011】
そして、第1の発明では、固定部材(23,42)を形成する筒状部材(26,46)と前記内側部材(27,47)とが別の部材であるため、固定部材(23,42)を鋳造等により一体形成する必要がない。よって、固定部材を鋳造により一体形成する場合に必要であった抜き勾配、具体的には、固定部材の外周縁部における外側及び内側の両方の抜き勾配が不要になる。固定部材の外周縁部における外側の抜き勾配がなくなることで固定部材(23,42)の外径が小さくなり、内側の抜き勾配がなくなることで油戻し孔(20b)の開口面積が大きくなる。
【0012】
第2の発明は、第1の発明において、前記筒状部材(26,46)は、前記内側部材(27,47)よりも剛性が高い材料で構成されていることを特徴とする。
【0013】
第2の発明では、第1の発明によって筒状部材(26,46)の肉厚を薄くする場合であっても、筒状部材(26,46)を内側部材(27,47)よりも剛性の高い材料とすることで、筒状部材(26,46)の剛性を維持できる。
【0014】
第3の発明は、第1又は第2の発明において、前記固定部材(23,42)は、前記筒状部材(26,46)が置かれた状態の鋳型内で前記内側部材(27,47)を鋳造することにより形成されることを特徴とする。
【0015】
第3の発明では、予め形成された筒状部材(26,46)が固定部材(23,42)の鋳型内に置かれる。この状態で、溶解された鋳鉄等が鋳型内に流しこまれて冷却されることにより内側部材(27,47)が鋳造される。これにより、内側部材(27,47)と筒状部材(26,46)とが一体化され、固定部材(23,42)が形成される。
【0016】
第4の発明は、第1から第3のうちいずれか1つの発明において、前記固定部材(23,42)は、前記筒状部材(26,46)の内周面と前記内側部材(27,47)の外周面との一方に形成される凸部(26a,27e,46a,47e)と、前記筒状部材(26,46)の内周面と前記内側部材(27,47)の外周面との他方に形成され、前記凸部(26a,27e,46a,47e)と嵌合する凹部(26b,27d,46b,47d)と、を有することを特徴とする。
【0017】
第4の発明では、固定部材(23,42)において、筒状部材(26,46)の内周面に形成される凸部(26a,46a)と内側部材(27,47)の外周面に形成される凹部(27d,47d)とが嵌合するか、又は、筒状部材(26,46)の内周面に形成される凹部(26b,46b)と内側部材(27,47)の外周面に形成される凸部(27e,47e)とが嵌合する。これにより、筒状部材(26,46)と内側部材(27,47)とが互いに外れにくくなる。
【0018】
第5の発明は、第1から第4の発明のうちいずれか1つにおいて、前記筒状部材(26,46)は、前記ケーシング(2)の内周面に圧入又は焼き嵌めにより固定されていることを特徴とする。
【0019】
第5の発明では、筒状部材(26,46)がケーシング(2)に圧入又は焼き嵌めにより固定されることで、筒状部材(26,46)とケーシング(2)とが互いに密着して固定される。また、固定部材(23,42)には、ケーシング(2)からの圧縮荷重が作用するため、固定部材(23,42)における筒状部材(26,46)と内側部材(27,47)とは、より密着して固定される。更に、ケーシング(2)は、筒状部材(26,46)によって押さえられることにより、振動しにくくなる。
【0020】
第6の発明は、第1から第4の発明のうちいずれか1つにおいて、前記筒状部材(26,46)は、前記ケーシング(2)の内周面に圧入及び溶接により固定されていることを特徴とする。
【0021】
第6の発明では、筒状部材(26,46)は、圧入及び溶接の両方によりケーシング(2)に固定されるため、筒状部材(26,46)とケーシング(2)との圧入代を小さくしても、筒状部材(26,46)及びケーシングの接合強度が溶接により維持される。このように圧入代を小さくすると、ケーシング(2)から固定部材(23,42)に作用する圧縮荷重が小さくなる。
【0022】
第7の発明は、第1から第4の発明のうちいずれか1つにおいて、前記筒状部材(26,46)は、前記ケーシング(2)の内周面に隙間嵌めにより嵌合し且つ溶接により固定されていることを特徴とする。
【0023】
第7の発明では、筒状部材(26,46)がケーシング(2)に隙間嵌めされた状態で、溶接によりケーシング(2)に固定される。これにより、ケーシング(2)から筒状部材(26,46)に作用する圧縮荷重が小さくなる。
【0024】
第8の発明は、第6又は第7の発明において、前記筒状部材(26,46)は、前記ケーシング(2)と同じ材質で構成されていることを特徴とする。
【0025】
第8の発明では、同じ材料で構成されたケーシング(2)及び筒状部材(26,46)が、溶接により互いに固定される。
【0026】
第9の発明は、第1から第8の発明のうちいずれか1つにおいて、前記駆動機構は、ステータ(11)及びロータ(12)を含む電動機(10)であって、前記ステータ(11)は、前記ケーシング(2)の内周面に溶接により固定されていることを特徴とする。
【0027】
第9の発明では、ステータ(11)をケーシング(2)の内周面に圧入により固定する場合と比べて、ケーシング(2)に対するステータ(11)の固定位置を調整し易い。
【発明の効果】
【0028】
第1の発明では、固定部材(23,42)を形成する筒状部材(26,46)と内側部材(27,47)とが別の部材で形成されているため、固定部材(23,42)を鋳造により一体形成する必要がなくなる。そうなると、固定部材を鋳造により一体形成する場合に必要となる抜き勾配が不要となるため、筒状部材(26,46)の肉厚を薄くできる。その結果、流体機構(20)の外径を小さくでき、且つ、油戻し孔(20b)の開口面積を大きくできる。
【0029】
第2の発明では、筒状部材(26,46)を内側部材(27,47)よりも剛性の高い材料で構成している。これにより、筒状部材(26,46)の剛性を確保しつつ該筒状部材(26,46)の肉厚を薄くすることができるため、流体機構(20)の外径を小さくできる。また、上述のように筒状部材(26,46)の剛性を確保することで、該筒状部材(26,46)の振動を抑制でき、ひいては該振動に起因する騒音を低減できる。
【0030】
第3の発明では、筒状部材(26,46)が置かれた状態の鋳型内で内側部材(27,47)が鋳造されるため、筒状部材(26,46)と内側部材(27,47)とが一体化された固定部材(23,42)が形成される。これにより、筒状部材(26,46)と内側部材(27,47)とを強固に固定できる。
【0031】
第4の発明では、筒状部材(26,46)に形成される凸部(26a,46a)又は凹部(26b,46b)と、内側部材(27,47)に形成される凹部(27d,47d)又は凸部(27e,47e)とが嵌合するため、筒状部材(26,46)と内側部材(27,47)とをより強固に固定できる。
【0032】
第5の発明では、固定部材(23,42)にケーシング(2)からの圧縮荷重が作用するため、筒状部材(26,46)と内側部材(27,47)とがより強固に固定される。更に、ケーシング(2)が固定部材(23,42)により押さえられるため、ケーシング(2)の振動を抑制できるとともに、該振動に起因する騒音を低減できる。
【0033】
第6の発明では、圧入及び溶接により筒状部材(26,46)をケーシング(2)に固定しているため、筒状部材(26,46)とケーシング(2)との圧入代を小さくしても、溶接により筒状部材(26,46)とケーシング(2)との接合強度を維持できる。また、圧入代を小さくすることにより、固定部材(23,42)がケーシング(2)に圧縮されて変形するのを抑制できる。従って、例えばシリンダ(20a)の変形に起因してシリンダ(20a)とピストン(21)との間の摺動抵抗が増大するのを抑制できる。
【0034】
第7の発明では、筒状部材(26,46)及びケーシング(2)を隙間嵌めにより嵌合し且つ溶接により固定しているため、固定部材(23,42)がケーシング(2)に圧縮されて変形するのを防止できる。
【0035】
第8の発明では、互いに溶接されるケーシング(2)及び筒状部材(26,46)を同じ材質にしているため、ケーシング(2)と筒状部材(26,46)との溶接強度を上げることができる。
【0036】
第9の発明では、ケーシング(2)内におけるステータ(11)の位置を調整しやすいため、例えば、予めステータ(11)内の所定位置に固定されたロータ(12)に対してステータ(11)を位置調整することにより、ステータ(11)とロータ(12)との間のエアギャップを均一にできる。これにより、エアギャップの不均一に起因する流体機構(20)の騒音を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】図1は、実施形態1に係るロータリー圧縮機の全体構成を示す縦断面図である。
【図2】図2は、図1のII−II線における断面図である。
【図3】図3は、図1のIII−III線における断面図である。
【図4】図4は、実施形態1に係るロータリー圧縮機の組立工程を示すフローチャートである。
【図5】図5は、実施形態2に係るロータリー圧縮機の全体構成を示す縦断面図である。
【図6】図6は、図5のVI−VI線における断面図であって、フロントヘッドを省略して示す図である。
【図7】図7は、その他の実施形態におけるフロントヘッド又はシリンダ本体の一部を示す平面図であって、筒状部材の凹部と内側部材の凸部とが嵌合している部分の詳細図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【0039】
《発明の実施形態1》
実施形態1のロータリー圧縮機(1)は、回転式流体機械を構成している。このロータリー圧縮機(1)は、冷媒が循環して冷凍サイクルを行う冷媒回路(図示省略)に接続され、冷媒を圧縮するためのものである。
【0040】
−全体構成−
ロータリー圧縮機(1)は、図1に示すように、縦長円筒状の密閉ドーム型のケーシング(2)と、駆動機構としての電動機(10)と、電動機(10)に挿通固定される駆動軸(18)と、駆動軸(18)によって駆動される流体機構としての圧縮機構(20)と、油供給機構(30)とを備えている。
【0041】
ケーシング(2)は、上下方向に延びる円筒状のケーシング本体(3)と、該ケーシング本体(3)の上下の開口部をそれぞれ閉塞する上壁部(4)及び底壁部(5)とを備えている。ケーシング本体(3)は、熱間圧延鋼板等により構成されている。ケーシング本体(3)には、低圧冷媒を圧縮機構(20)へ導く吸入管(8)が挿通固定されている。また、上壁部(4)には、圧縮機構(20)で圧縮された高圧冷媒を吐出する吐出管(9)が挿通固定されている。また、底壁部(5)には、圧縮機構(20)の摺動部を潤滑するための潤滑油が貯留されている。
【0042】
ケーシング本体(3)には、内部に配置される電動機(10)や圧縮機構(20)を溶接により固定するための貫通穴が形成されている。詳しくは、ケーシング本体(3)の軸方向における中央部分よりもやや上方の部分には、ステータ(11)をケーシング本体(3)に固定するための複数の(実施形態1では6つの)ステータ側溶接穴(6a)が形成されている。ステータ側溶接穴(6a)は、図2に示すように、ケーシング本体(3)の周方向に互いに60度の間隔をおいて配置されている。また、ケーシング本体(3)の軸方向における下方寄りの部分には、圧縮機構(20)のシリンダ(20a)をケーシング本体(3)に固定するための複数の(実施形態1では6つの)シリンダ側溶接穴(6b)が形成されている。シリンダ側溶接穴(6b)は、図3に示すように、ケーシング本体(3)の周方向に互いに60度の間隔をおいて配置されている。
【0043】
電動機(10)は、図1及び図2に示すように、略円筒状のステータ(11)と、該ステータ(11)の内方に配置された略円柱状のロータ(12)とを備えたいわゆるインナーロータ型の電動機で構成されている。ステータ(11)は、ケーシング(2)内における上方寄りの位置に配置されている。そして、ステータ(11)は、溶接によってケーシング本体(3)に固定されている。具体的には、ステータ(11)がケーシング(2)内における上方寄りの位置に配置された状態で、ケーシング本体(3)におけるステータ側溶接穴(6a)近傍の部位と、ステータ(11)における前記ステータ側溶接穴(6a)からの露出部とが溶接により一体化される。この一体化された部分がステータ側溶接部(7a)を形成し、該ステータ側溶接部(7a)によってステータ(11)がケーシング本体(3)に固定される。ロータ(12)は、ステータ(11)内にエアギャップを介して配置されている。ロータ(12)には、駆動軸(18)が連結固定されている。
【0044】
ステータ(11)は、コア(13)と、2つのインシュレータ(14,15)と、巻線(16)とを備えている。
【0045】
コア(13)は、円環状のコアバック(13a)と、コアバック(13a)の内周面から内方へ突出する6つのティース(13b)とを有している。ティース(13b)は、互いに周方向において60度の間隔をおいて配列されている。コア(13)は、複数の鋼板が積層されることにより構成されている。コア(13)の外周面は、ケーシング本体(3)の内周面よりも僅かに径が小さくなるように形成されている。
【0046】
インシュレータ(14,15)は、上側インシュレータ(14)と下側インシュレータ(15)とで構成されている。上側インシュレータ(14)はコア(13)の軸方向の上端面を覆っていて、下側インシュレータ(15)はコア(13)の軸方向の下端面を覆っている。
【0047】
巻線(16)は、各インシュレータ(14,15)によって両端面を覆われた各ティース(13b)に、所定の規則性をもって巻回されている。巻線(16)には、互いに位相の異なる電流が供給され、これにより、ステータ(11)の内方に回転磁界が発生する。
【0048】
ロータ(12)は、円環状に形成された複数の鋼板が積層されることにより円筒状に形成される円筒部(12a)と、該円筒部(12a)の周方向に等間隔をおいて埋設される複数の永久磁石(12b)を備えている。ロータ(12)は、該ロータ(12)の永久磁石(12b)が前記ステータ(11)内で形成される回転磁界に引き寄せられるように回転することにより、ステータ(11)内で回転する。
【0049】
駆動軸(18)は、主軸部(18a)と、偏心部(18b)とを備えている。偏心部(18b)は駆動軸(18)のうち圧縮機構(20)を貫通する部分に形成されている。偏心部(18b)は、外径が主軸部(18a)の外径よりも大きな円柱状に形成されている。偏心部(18b)の軸心は、主軸部(18a)の軸心に対して偏心している。
【0050】
圧縮機構(20)は、いわゆる揺動ピストン型の圧縮機構で構成され、ケーシング(2)内において電動機(10)の下方に配置されている。圧縮機構(20)は、ピストン(21)と、該ピストン(21)を収容するシリンダ室(S)を区画するシリンダ(20a)とを備えている。圧縮機構(20)は、駆動軸(18)によって回転されるピストン(21)が、シリンダ室(S)で偏心回転運動することにより、低圧冷媒を徐々に圧縮して高圧冷媒とするように構成されている。
【0051】
ピストン(21)は、やや肉厚の円筒状に形成されている。ピストン(21)の内周面には、駆動軸(18)の偏心部(18b)が内嵌している。ピストン(21)は、駆動軸(18)の回転によって偏心回転する偏心部(18b)とともに偏心回転する。
【0052】
シリンダ(20a)は、円筒状に形成されたシリンダ本体(22)と、シリンダ本体(22)の上側の開口を覆うフロントヘッド(23)と、シリンダ本体(22)の下側の開口を覆うリアヘッド(24)と、を備えている。シリンダ本体(22)、フロントヘッド(23)及びリアヘッド(24)は、互いにボルト(図示省略)により締結されている。
【0053】
シリンダ本体(22)は、内部にピストン(21)を収容する肉厚の円筒状であって、高さがピストン(21)よりも僅かに高くなるように形成されている。シリンダ本体(22)の外径は、ケーシング本体(3)の内径よりも小さくなるように形成されている。シリンダ本体(22)には、シリンダ室(S)から径方向外方へ延びる連通穴(22a)が形成されていて、該連通穴(22a)には吸入管(8)が挿通固定されている。
【0054】
フロントヘッド(23)は、上下方向にやや扁平な概略円柱状に形成されている。フロントヘッド(23)は、図1及び図3に示すように、比較的肉厚の薄い円筒状に形成される筒状部材(26)と、該筒状部材(26)に内嵌する内側部材(27)とを含んでいる。フロントヘッド(23)は、シリンダ本体(22)における上側の開口を覆っている。フロントヘッド(23)は、ケーシング本体(3)の内周面に固定される固定部材を構成している。フロントヘッド(23)における径方向外方の部分には、上下方向(図3における紙面に垂直な方向)に貫通し、圧縮機構(20)を潤滑した潤滑油をケーシング(2)の底壁部(5)へ戻すための複数の油戻し孔(20b)が形成されている。油戻し孔(20b)は、フロントヘッド(23)の軸方向から視て、周方向に細長い略長方形状に形成されている。
【0055】
筒状部材(26)は、ケーシング本体(3)と同じ材質の鋼材(例えば熱間圧延鋼板等)で構成されている。筒状部材(26)の外径は、ロータリー圧縮機(1)を組み立てる前の状態では、ケーシング本体(3)の内径よりもやや大きくなるように形成されている。筒状部材(26)の内周面には、径方向内方に向かって突出する複数の凸部(26a)が形成されている。各凸部(26a)は、筒状部材(26)の軸方向の両端部に亘って延びるように設けられている。凸部(26a)は、互いに等間隔をおいて(実施形態1の場合、60度の間隔をおいて)配列されている。
【0056】
内側部材(27)は、前記筒状部材(26)を構成する鋼材よりも剛性の低い鋳鉄で構成されている。内側部材(27)は、中央部に駆動軸(18)が挿通されるやや扁平な円柱状に形成された平板部(27a)と、平板部(27a)の内周面から上方へ延びる筒状の軸受部(27b)とを含んでいる。また、平板部(27a)には、該平板部(27a)の外周縁から径方向内方へ窪む複数の窪み部(27c)が形成されている。各窪み部(27c)は、平板部(27a)の外周縁部が径方向内方へ切除されて形成されている。この窪み部(27c)と、筒状部材(26)の内周面とによって囲まれた部分によって前記油戻し孔(20b)が形成される。また、内側部材(27)の外周縁部には、上記複数の凸部(26a)に対応する複数の凹部(27d)が形成されている。これらの凹部(27d)は、凸部(26a)が嵌合するように、径方向内方へ凹んでいる。
【0057】
リアヘッド(24)は、例えば鋳物により形成される。リアヘッド(24)は、中央部に駆動軸(18)が挿通される環状のプレートで構成された平板部(24a)と、平板部(24a)の内周面から下方へ延びる筒状の軸受部(24b)とを含んでいる。リアヘッド(24)の外径は、シリンダ本体(22)の外径と概ね同等となるように形成されている。
【0058】
シリンダ(20a)は、圧入及び溶接によりケーシング本体(3)に固定されている。具体的には、シリンダ(20a)は、フロントヘッド(23)の筒状部材(26)がケーシング本体(3)内における下方寄りの位置まで圧入されて固定される。更に、ケーシング本体(3)におけるシリンダ側溶接穴(6b)付近の部位と、筒状部材(26)におけるシリンダ側溶接穴(6b)からの露出部とが溶接により一体化される。この一体化された部分がシリンダ側溶接部(7b)を形成し、該シリンダ側溶接部(7b)によってシリンダ(20a)がケーシング本体(3)に固定される。
【0059】
油供給機構(30)は、ポンプ(31)と、給油路(32)とを備えている。ポンプ(31)は、例えば遠心ポンプで構成されている。ポンプ(31)は、ケーシング(2)の底壁部(5)に溜められた潤滑油に浸漬されていて、潤滑油を上方へ汲み上げる。給油路(32)は、前記駆動軸(18)の内部を上下方向に延びる主給油路(32a)と、該主給油路(32a)から分岐する分岐路(32b)とを備えている。潤滑油は、前記給油路(32)を通じて、圧縮機構(20)の各摺動部へ搬送される。
【0060】
−運転動作−
以上のような構成のロータリー圧縮機(1)の運転動作について説明する。
【0061】
吸入管(8)へ流入した低圧冷媒は、シリンダ室(S)へ吸入される。圧縮機構(20)では、駆動軸(18)によって駆動されるピストン(21)がシリンダ(20a)内において偏心回転することにより、シリンダ室(S)内の冷媒が圧縮されて高圧冷媒となる。この高圧冷媒は、ケーシング(2)内における上側の空間に流入した後、吐出管(9)から吐出される。
【0062】
一方、ロータリー圧縮機(1)の運転中においてポンプ(31)が駆動されると、ケーシング(2)の底壁部(5)に貯留された潤滑油が、ポンプ(31)によって上方へ汲み上げられる。潤滑油は、給油路(32)を通じて圧縮機構(20)の各摺動部へ供給される。各摺動部を潤滑した潤滑油は、油戻し孔(20b)を通じてケーシング底部の油溜めに戻される。
【0063】
−フロントヘッドの製造工程−
フロントヘッド(23)を製造する際、まず、筒状部材(26)が形成される。筒状部材(26)は、例えば、板状の鋼材をリング状に曲げることにより形成される。
【0064】
次に、前記筒状部材(26)をフロントヘッド(23)の鋳型内に置いた状態で、溶融した鋳鉄を前記鋳型内に流し込んで冷却することにより内側部材(27)を鋳造する。これにより、筒状部材(26)と内側部材(27)とが一体化されてフロントヘッド(23)が形成される。
【0065】
このように、フロントヘッド(23)は、筒状部材(26)と内側部材(27)との2つの部材で形成されている。フロントヘッドを、例えば従来のように鋳造で一体形成すると、該フロントヘッドの外周縁部(実施形態1における筒状部材(26)に対応する部分)には抜き勾配、具体的には外周縁部における外側及び内側の両方の抜き勾配が必要になる。これに対して、実施形態1では、抜き勾配がなくても筒状部材(26)を形成できる。その結果、筒状部材(26)の外側の抜き勾配がなくなるためフロントヘッド(23)の外径が小さくなり、筒状部材(26)の内側の抜き勾配がなくなるため油戻し孔(20b)の開口面積が大きくなる。
【0066】
また、筒状部材(26)は、鋳鉄等により形成される内側部材(27)よりも剛性の高い熱間圧延鋼板等の鋼材で形成されているため、筒状部材(26)の肉厚を薄くしても、該筒状部材(26)の剛性が確保される。これにより、圧縮機構(20)においてピストン(21)が回転駆動してもピストン(21)の振動が筒状部材(26)に伝わりにくくなる。
【0067】
また、フロントヘッド(23)は、予め形成された筒状部材(26)を鋳型内に置いた状態で内側部材(27)を鋳造することにより形成される。従って、内側部材(27)は、筒状部材(26)に密着した状態で冷却されて固定されるため、筒状部材(26)と内側部材(27)とが強固に固定される。しかも、筒状部材(26)に形成された凸部(26a)と、内側部材(27)に形成された凹部(27d)とが嵌り合っているため、内側部材(27)は筒状部材(26)から外れにくい。
−ロータリー圧縮機の組立工程−
ロータリー圧縮機(1)の組立工程を、図4に示すフローチャートによって説明する。
【0068】
まず、ステップS1では、駆動軸(18)が連結された状態の圧縮機構(20)を組み立てる。
【0069】
次に、ステップS2では、駆動軸(18)にロータ(12)を取り付ける。この際、ロータ(12)を駆動軸(18)に圧入により固定しても、いわゆる焼き嵌めにより固定してもよい。
【0070】
そして、ステップS3では、前記圧縮機構(20)の外周面(具体的には、フロントヘッド(23)の筒状部材(26)の外周面)をケーシング本体(3)に圧入する。
【0071】
更に、ステップS4では、圧縮機構(20)をケーシング本体(3)に溶接する。具体的には、筒状部材(26)のうちケーシング本体(3)のシリンダ側溶接穴(6b)から露出する部分と、ケーシング本体(3)のうちシリンダ側溶接穴(6b)近傍の部分とを溶接により固定する。
【0072】
ステップS3,S4のように、筒状部材(26)を圧入及び溶接によりケーシング本体(3)に固定すると、筒状部材(26)とケーシング本体(3)との圧入代を小さくしても、溶接により筒状部材(26)とケーシング本体(3)との接合強度を維持できる。筒状部材(26)とケーシング本体(3)との圧入代を小さくすると、ケーシング本体(3)からフロントヘッド(23)に作用する圧縮荷重が小さくなるため、フロントヘッド(23)が圧縮されにくくなる。その結果、フロントヘッド(23)の軸受部(27b)が径方向内方へ圧縮されにくくなるため、軸受部(27b)と駆動軸(18)との焼き付けが抑制される。また、溶接されるケーシング本体(3)及び筒状部材(26)は、同じ材質の鋼材により構成されているため、ケーシング本体(3)と筒状部材(26)との溶接強度を上げることができる。
【0073】
引き続き、ステップS5では、ステータ(11)をケーシング本体(3)に挿通させ、ケーシング本体(3)内における上部寄りの位置に配置する。この際、ステータ(11)の内周面とロータ(12)の外周面との隙間が均一になるようにステータ(11)を位置合わせする。そして、ステータ(11)の外周面のうちケーシング本体(3)のステータ側溶接穴(6a)から露出した部分と、ケーシング本体(3)のうちステータ側溶接穴(6a)近傍の部分とを溶接する。
【0074】
上述のように、ステータ(11)の外周面はケーシング本体(3)の内周面よりも径が小さくなるように形成されているため、ステータ(11)は、いわゆる隙間嵌めによりケーシング本体(3)に嵌合する。これにより、ケーシング本体(3)内でステータ(11)を位置合わせして、エアギャップが均一になるように配置した後、ステータ(11)とケーシング本体(3)とを溶接により固定できる。その結果、エアギャップの不均一に起因する圧縮機構(20)の騒音を低減できる。
【0075】
最後に、ステップS6で、上壁部(4)や底壁部(5)等が取り付けられ、ロータリー圧縮機(1)が完成する。
【0076】
−実施形態1の効果−
以上のように、前記実施形態1に係るロータリー圧縮機(1)では、フロントヘッド(23)を、筒状部材(26)と内側部材(27)とで形成した。これにより、フロントヘッド(23)を鋳造により一体形成する際に必要となる鋳型の抜き勾配が不要となる。その結果、フロントヘッド(23)の外径が小さくなりロータリー圧縮機(1)を小型化できるとともに、油戻し孔(20b)の開口面積を大きくできる。また、筒状部材(26)は内側部材(27)よりも剛性の高い鋼材等で形成されているため、筒状部材(26)の剛性を確保しつつ筒状部材(26)の肉厚を薄くでき、その分、ロータリー圧縮機(1)を小型化できる。しかも、筒状部材(26)の剛性を確保することで、圧縮機構(20)の振動がケーシング(2)に伝わるのが抑制され、該振動に起因する圧縮機の騒音を低減できる。
【0077】
また、フロントヘッド(23)は、予め形成された筒状部材(26)を鋳型内に置いた状態で内側部材(27)を鋳造することにより形成されるため、筒状部材(26)と内側部材(27)とを強固に固定できる。更に、筒状部材(26)の内周面に形成される凸部(26a)と、内側部材(27)の外周面に形成される凹部(27d)とが嵌合しているため、筒状部材(26)と内側部材(27)とをより強固に固定できる。
【0078】
また、実施形態1では、筒状部材(26)は、ケーシング本体(3)に対して、圧入と溶接により固定されている。こうすると、筒状部材(26)とケーシング本体(3)との圧入代を小さくしても、溶接により筒状部材(26)とケーシング本体(3)との接合強度を維持できる。そして、上述のように圧入代を小さくすると、フロントヘッド(23)が変形しにくくなるため、フロントヘッド(23)の軸受部(27b)と駆動軸(18)との焼き付けを抑制できる。
【0079】
また、実施形態1では、溶接されるケーシング本体(3)及び筒状部材(26)が同じ材質の鋼材で構成されているため、溶接強度を上げることができる。
【0080】
また、実施形態1では、電動機(10)のエアギャップが均一になるため、エアギャップの不均一に起因する圧縮機構(20)の騒音を低減できる。
【0081】
《発明の実施形態2》
実施形態2のロータリー圧縮機(1)は、上述した実施形態1のロータリー圧縮機(1)と比べて、シリンダ本体(42)及びフロントヘッド(43)の構成が異なるものである。具体的には、実施形態1では、ケーシング本体(3)の内周面に固定される固定部材をフロントヘッド(23)で構成しているのに対して、実施形態2では、固定部材をシリンダ本体(42)で構成している。以下には、前記実施形態1と異なる点について主に説明する。
【0082】
シリンダ本体(42)は、図5及び図6に示すように、円筒状に形成される筒状部材(46)と、該筒状部材(46)に内嵌する内側部材(47)とを含んでいる。シリンダ本体(42)には、シリンダ室(S)から径方向外方へ延びる連通穴(42a)が形成されていて、該連通穴(42a)には吸入管(8)が挿通固定されている。シリンダ本体(42)における径方向外方の部分には、上下方向に貫通し、圧縮機構(20)を潤滑した潤滑油をケーシング(2)の底壁部(5)へ戻すための油戻し孔(20b)が形成されている。
【0083】
筒状部材(46)は、ケーシング本体(3)と同じ材質の鋼材(例えば熱間圧延鋼板等)で構成されている。筒状部材(46)の外径は、ロータリー圧縮機(1)を組み立てる前の状態では、ケーシング本体(3)の内径よりもやや大きくなるように形成されている。筒状部材(46)の内周面には、径方向内方に向かって突出する複数の凸部(46a)が形成されている。各凸部(46a)は、筒状部材(46)の軸方向の両端部に亘って延びるように設けられている。凸部(46a)は、互いに等間隔をおいて(実施形態2の場合、60度の間隔をおいて)配列されている。
【0084】
内側部材(47)は、前記筒状部材(46)を構成する鋼材よりも剛性の低い鋳鉄で構成されている。内側部材(47)は、内部にピストンを収容する肉厚の略円筒状に形成されている。内側部材(47)には、外周縁から径方向内方へ窪む複数の窪み部(47c)が形成されている。各窪み部(47c)は、内側部材(47)の外周縁部が径方向内方へ切除されて形成されている。この窪み部(47c)と、筒状部材(46)の内周面とによって囲まれた部分によって前記油戻し孔(20b)が形成される。また、内側部材(47)の外周縁部には、上記複数の凸部(46a)に対応する複数の凹部(47d)が形成されている。これらの凹部(47d)は、凸部(46a)が嵌合するように、径方向内方へ凹んでいる。
【0085】
フロントヘッド(43)は、例えば鋳造により一体形成されている。フロントヘッド(43)は、中央部に駆動軸(18)が挿通される環状のプレートで形成された平板部(43a)と、平板部(43a)の内周面から上方へ延びる筒状の軸受部(43b)とを含んでいる。フロントヘッド(43)の外径は、リアヘッド(24)の外径と概ね同等となるように形成されている。
【0086】
実施形態2におけるシリンダ(20a)も、実施形態1の場合と同様、圧入及び溶接によりケーシング本体(3)に固定されている。具体的には、シリンダ(20a)は、シリンダ本体(42)の筒状部材(46)がケーシング本体(3)に圧入されて固定される。更に、シリンダ(20a)がケーシング(2)内における下方寄りの位置に配置された状態で、ケーシング本体(3)におけるシリンダ側溶接穴(6b)付近の部位と、筒状部材(46)におけるシリンダ側溶接穴(6b)からの露出部とが溶接により一体化されて固定される。なお、実施形態2におけるケーシング本体(3)のシリンダ側溶接穴(6b)は、実施形態1におけるシリンダ側溶接穴よりも、やや下方に形成されている。
【0087】
−シリンダ本体の製造工程−
実施形態2におけるシリンダ本体(42)は、実施形態1におけるフロントヘッド(23)と同様の工程により形成される。具体的には、シリンダ本体(42)は、予め形成された筒状部材(46)が置かれた状態の鋳型内に、熔解した鋳鉄を前記鋳型内に流し込んで内側部材(47)を鋳造することにより形成される。これにより、筒状部材(46)と内側部材(47)とが一体化されてシリンダ本体(42)が形成される。
【0088】
上述のように、固定部材としてのシリンダ本体(42)を、筒状部材(46)と内側部材(47)とで形成したため、シリンダ本体(42)の外径を小さくできる。これにより、実施形態1の場合と同様、圧縮機構(20)を小型化できる。
【0089】
−その他の実施形態−
前記実施形態については、以下のような構成にしてもよい。
【0090】
実施形態1では固定部材をフロントヘッド(23)のみで構成し、実施形態2では固定部材をシリンダ本体(42)のみで構成したが、この限りでなく、固定部材を、フロントヘッド(23)及びシリンダ本体(42)の両方で構成してもよい。こうすると、シリンダ(20a)におけるケーシング本体(3)との接触面積を大きくできるため、シリンダ(20a)をケーシング(2)に対してより強固に固定できる。さらに、リアヘッド(24)を固定部材とすることもできる。
【0091】
また、前記各実施形態では、筒状部材(26,46)をケーシング(2)に圧入及び溶接により固定したが、この限りでなく、圧入のみ、又は焼き嵌めのみで固定してもよい。これにより、溶接を行うことなく筒状部材(26,46)をケーシング(2)に固定できるため、ロータリー圧縮機(1)の組立工程を簡素化できる。なお、この場合、筒状部材(26,46)とケーシング(2)との接合強度を確保するために、筒状部材(26,46)とケーシング(2)との圧入代を前記各実施形態よりも大きくするのが好ましい。更に、筒状部材(26,46)をケーシング(2)に隙間嵌めにより嵌合し且つ溶接により固定してもよい。この場合、筒状部材(26,46)の外径を、ケーシング本体(3)の内径よりも小さくなるように設定すればよい。こうすると、シリンダ(20a)の変形を確実に抑制できる。
【0092】
また、前記各実施形態では、筒状部材(26,46)には、該筒状部材(26,46)の内周面から径方向内方へ突出する凸部(26a,46a)が形成されているが、この限りでなく、図7に示すように、筒状部材(26,46)の内周面から径方向外方へ凹む凹部(26b,46b)が形成されていてもよい。こうすると、鋳造により形成される内側部材(27,47)の外周面には、前記凹部(26b,46b)に対応する凸部(27e,47e)が形成され、該凹部(26b,46b)と凸部(27e,47e)とが嵌合することにより両者が外れにくくなる。更に、前記各実施形態では、筒状部材(26,46)に形成される凸部(26a,46a)が、該筒状部材(26,46)の上下方向に亘って形成されているが、この限りでなく、例えば上下方向の一部に形成されていてもよい。
【0093】
また、前記各実施形態では、固定部材としてのフロントヘッド(23)又はシリンダ本体(42)を、予め形成された筒状部材(26,46)を鋳型内に置いた状態で内側部材(27,47)を鋳造することにより形成したが、この限りでなく、別々に製造された筒状部材(26,46)と内側部材(27,47)とを互いに嵌合させることにより固定部材(23,42)を形成してもよい。
【0094】
また、前記各実施形態では、ケーシング本体(3)及び筒状部材(26,46)を熱間圧延鋼板により構成したが、この限りでなく、例えば低炭素鋼により構成してもよい。
【0095】
また、前記各実施形態では、回転式流体機械をロータリー圧縮機(1)で構成したが、この限りでなく、スクロール圧縮機や、回転式膨張機で構成することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0096】
以上説明したように、本発明は、ロータリー圧縮機等の回転式流体機械を小型化するのに特に有用である。
【符号の説明】
【0097】
1 ロータリー圧縮機(回転式流体機構)
2 ケーシング
10 電動機(駆動機構)
11 ステータ
12 ロータ
20 圧縮機構(流体機構)
20b 油戻し孔
21 ピストン
23 フロントヘッド(固定部材)
26,46 筒状部材
26a,46a 凸部
26b、46b 凹部
27,47 内側部材
27c、47c 窪み部
27d,47d 凹部
27e,47e 凸部
42 シリンダ本体(固定部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状のケーシング(2)と、
前記ケーシング(2)内に収容される駆動機構(10)と、
前記駆動機構(10)に回転駆動されるピストン(21)と、前記ケーシング(2)の内周面に固定される固定部材(23,42)を有し且つ内部に前記ピストン(21)が収容されるシリンダ(20a)とを含み、流体を圧縮又は膨張する流体機構(20)と、を備え、
前記固定部材(23,42)は、
筒状に形成され前記ケーシング(2)の内周面に固定される筒状部材(26,46)と、
外周縁部が前記筒状部材(26,46)に内嵌し、該外周縁部から内方へ窪む窪み部(27c,47c)が前記筒状部材(26,46)との間で油戻し孔(20b)を区画する内側部材(27,47)と、を有することを特徴とする回転式流体機械。
【請求項2】
請求項1において、
前記筒状部材(26,46)は、前記内側部材(27,47)よりも剛性が高い材料で構成されていることを特徴とする回転式流体機械。
【請求項3】
請求項1又は2において、
前記固定部材(23,42)は、前記筒状部材(26,46)が置かれた状態の鋳型内で前記内側部材(27,47)を鋳造することにより形成されることを特徴とする回転式流体機械。
【請求項4】
請求項1から3のうちいずれか1つにおいて、
前記固定部材(23,42)は、
前記筒状部材(26,46)の内周面と前記内側部材(27,47)の外周面との一方に形成される凸部(26a,27e,46a,47e)と、
前記筒状部材(26,46)の内周面と前記内側部材(27,47)の外周面との他方に形成され、前記凸部(26a,27e,46a,47e)と嵌合する凹部(26b,27d,46b,47d)と、を有することを特徴とする回転式流体機械。
【請求項5】
請求項1から4のうちいずれか1つにおいて、
前記筒状部材(26,46)は、前記ケーシング(2)の内周面に圧入又は焼き嵌めにより固定されていることを特徴とする回転式流体機械。
【請求項6】
請求項1から4のうちいずれか1つにおいて、
前記筒状部材(26,46)は、前記ケーシング(2)の内周面に圧入及び溶接により固定されていることを特徴とする回転式流体機械。
【請求項7】
請求項1から4のうちいずれか1つにおいて、
前記筒状部材(26,46)は、前記ケーシング(2)の内周面に隙間嵌めにより嵌合し且つ溶接により固定されていることを特徴とする回転式流体機械。
【請求項8】
請求項6又は7において、
前記筒状部材(26,46)は、前記ケーシング(2)と同じ材質で構成されていることを特徴とする回転式流体機械。
【請求項9】
請求項1から8のうちいずれか1つにおいて、
前記駆動機構は、ステータ(11)及びロータ(12)を含む電動機(10)であって、
前記ステータ(11)は、前記ケーシング(2)の内周面に溶接により固定されていることを特徴とする回転式流体機械。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−127256(P2012−127256A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−279321(P2010−279321)
【出願日】平成22年12月15日(2010.12.15)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】