説明

回転式流量制御弁

【課題】 流体の大流量を確保しつつ弁体のサイズを小さく保ち、且つ流量および弁体の回転角度の確実な制御性を実現できる回転式流量制御弁の提供。
【解決手段】 弁体4を軸方向に切り欠くことにより、流体の流量を確保しつつ弁体4が小型化され、慣性モーメントの低下による弁体4の回転制御性、それに伴う流体の流量制御性が向上する。この結果、小型小出力のアクチュエータ等でも十分な制御応答性が可能となり、回転式流量制御弁自体の小型化、低コスト化を実現できる。また、弁体4が回転して切り欠き平面44、45が弁室2の平面側壁21に当たることで機械的回転止となるため、アクチュエータ等が弁体4の回転角度を見失った際にも、機械的回転止位置を基準として、適切な基準回転角度を見出すことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、流体の流量制御弁にかかわり、とくに円柱状回転弁体およびハウジングのサイズを小型化した回転式流量制御弁に関する。
【背景技術】
【0002】
円柱状回転弁体を回動させる流量制御弁は、アクチュエータ等で回転(自転)する円柱状の弁体を持ち、弁体の内部または表面に流路が形成されている。弁体は、その回転に伴ってその位置がハウシングに対して相対的に変位し、流路がハウシングに設けられたポートに連通すると流体が流れる。弁体の回転角度によって連通断面積を変化させることで流体の流量を制御する。
【0003】
しかしながら、この構成では流量確保のために流路の断面積を大きくしようとすると、弁体のサイズを大きくしなければならない。弁体のサイズの大型化は回転軸周りの慣性モーメントの増大を招き、アクチュエータ等での制御の応答性の悪化を招くこととなる。このため、アクチュエータ等の大型化も必要となり、流量制御弁ユニット自体の大型化やコストの増大が問題となる。
【0004】
この問題を解消するため、特許文献1には、弁体の不要部を削除して慣性モーメントを減少させ、小型小出力のアクチュエータ等でも応答性のよい回転往復運動のできる流量制御弁が提案されている。しかしながら、弁体を高速回転で制御する場合は、アクチュエータ等への負担が大きく、異常を引き起こし易くなる。また、アクチュエータ等の異常で弁体の回転角度を見失うと復旧に手間がかかる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−344803号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この発明の目的は、流体の大流量を確保しつつ弁体のサイズを小さく保ち、且つ流量および弁体の回転角度の確実な制御性を実現できる回転式流量制御弁を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、弁室を有し底壁に第1ポートを備え、円筒壁に第2ポートを備えた円筒状のハウジングと、弁室に同軸的に収納され、一方の端面の軸心部に設けられた第1ポートと常時接続状態である第1開口部と、円筒面部に設けられた第2開口部を有し、内部に第1開口部と第2開口部を連結して流体が流れる流路が設けられた円柱状の弁体とを具備し、弁体の回動により第2開口部とハウジングに設けられた第2ポートとの連通度合を調整して流体の流量を制御する回転式流量制御弁において、弁体は、第1開口部を含む軸心部および第2開口部を含む円筒面部を残し、軸方向に欠落した切り欠き面を有し、弁室は、弁体の円筒面部が摺動する筒壁、切り欠き面が当接する回転止壁を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
この発明では、弁体を軸方向に切り欠くことにより、流量を確保しつつ弁体が小型化され、慣性モーメントの低下による弁体の回転制御性、それに伴う流体の流量制御性が向上する。この結果、小型小出力のアクチュエータ等でも十分な制御応答性が可能となり、流量制御弁ユニット自体の小型化、低コスト化を実現できる。また、弁体が回転して切り欠き面が弁室の回転止壁に当たることで機械的回転止となるため、アクチュエータ等が弁体の回転角度を見失った際にも、機械的回転止位置を基準として、適切な基準回転角度を見出すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】この発明の実施例1にかかる回転式流量制御弁の正面断面図である。
【図2】実施例1にかかる弁体の斜視図である。
【図3】実施例1にかかる弁体の正面図(a)、および平面図(b)である。
【図4】実施例1にかかる回転式流量制御弁の平面断面図である。
【図5】この発明の実施例2にかかる回転式流量制御弁の正面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
発明を実施するための形態を、図に示す実施例とともに説明する。
【実施例1】
【0011】
図1はこの発明の実施例1にかかる回転式流量制御弁1を用いた自動車エンジンの排気ガス還流システムの概略である。回転式流量制御弁1は、円筒状の弁室2を有するハウジング3と、弁室2に同軸的に収容された円柱状の弁体4とを備えている。ハウジング3の図示上方には、弁体4を回動させるアクチュエータ5が設置されている。この実施例では、図4に示す如く、弁室2は、円筒の一部を平面側壁21で切り欠いた断面形状を有する。
【0012】
ハウジング3は、図4に示す如く、弁室2に相似的な外形を有し、また図1に示す如く、円筒状を呈する側壁31、底壁32、天壁33を有する。側壁31は、円筒壁37と平面側壁21を形成する平面壁38とからなり、円筒壁37には円形筒状のアウトポート34が円筒壁37と直交するように突設されている。底壁32の軸心部には円形筒状のインポート35が突設され、天壁33には軸孔36が設けられている。インポート35はエンジンの排気路11に連結され、アウトポート34はエンジンの吸気路12に連結されている。
【0013】
弁体4の外形は、図2、図3に示す如く、円柱を軸心部42と円筒面部43とを残して、軸心と平行し且つ互いに直交する2つの切り欠き平面44、45で切り欠き、更に切り欠き平面44、45の交線部分を切り欠き、軸心部42と同軸な小円筒面46を形成する構造となっている。弁体4の上端面47(図示上方)には、円筒面部43と同軸のシャフト部48が突設ないし連結されている。このシャフト部48は、軸孔36を挿通し、ボールベアリング52を介してアクチュエータ5に連結されている。シャフト部48と軸孔36との隙間にはシール部材51が介装されている。このシール部材51は、例えば弾性体リングであり、所望のシール性能が実現できれば材質は問わない。
【0014】
図2、図3に示す如く、弁体4の内部には湾曲した流路6が設けられている。流路6は、弁体4の下端面41(図示下方)の軸心部42に排気ガスが流入する入口61が開口し、円筒面部43に排気ガスが流出する出口62が開口している。入口61は、弁体4に形成された筒状突出部63に設けられており、この筒状突出部63はインポート35内に差し込まれて、弁体4の図示下側の回転支軸となっている。インポート35と筒状突出部63との回動面には、シール部材64が介装されている。このシール部材64は、例えば弾性体リングであり、所望のシール性能が実現できれば材質は問わない。この実施例では、入口61は弁体4の軸心を中心とする円形であり、出口62は弁体4の軸心と直交する方向に開口した円形である。流路6は、弁体4の内部で湾曲し、90度の偏向がなされている。また、弁体4の円筒面43と弁室2の摺動面の間にはシール手段65が設けられている。このシール手段65は、円筒面43の出口62の外側に設けられ、出口62と同心的な溝68とシール部材69とからなる。このシール部材69は、例えば弾性体リングであり、所望のシール性能が実現できれば材質は問わない。
【0015】
弁体4は、回転軸L1の周りに回転自在に支持されており、アクチュエータ5は弁体4を90度の角度範囲内で往復回転させる。入口61はインポート35と常時接続状態となっており、弁体4の回転角度によりアウトポート34と出口62の間の連通断面積を変化させることにより、吸気路12に供給する還流排気ガスの流量を制御する。図1は全開状態を表している。
【0016】
次に図4に基づいて基準回転角度の確認について説明する。
図4は、実施例1にかかる回転式流量制御弁1の平面断面図であり、全閉状態(a)および全開状態(b)を示したものである。弁室2は、円筒の一部を平面側壁21で切り欠いた断面形状をなしている。この平面側壁21が弁体4の機械的回転止壁として作用する。
【0017】
弁体4の回転制御中にアクチュエータ5等の異常により、弁体4が回転作動中に回転角度を見失ったとしても、軸心と平行し且つ互いに直交する2つの切り欠き平面44、45と円筒面部43との交線部分である回転止部66、67が機械的回転止壁である平面側壁21に接触することになる。弁体4の回転方向から回転止部66、67のいずれかが接触したのか判別可能なため、回転角度のリセットを行うことができる。例えば基準回転角度として、回転止部66が平面側壁21に接触する時に0度、回転止部67が平面側壁21に接触する時に90度などの設定が可能である。
【実施例2】
【0018】
図5は、円柱状弁体が円錐台の場合の正面断面図を示したものであり、実施例1と同一符号は同一物、または同一機能物を示す。
このような弁体形状の場合、弁体7と弁室8の間に付勢部材71を設け、この付勢部材71で弁体7を円錐台小径方向に付勢することで、弁体7と弁室8との間の隙間が減少することになりシール性能をさらに高めることができる。この付勢部材71は、例えば板バネであり、所望の付勢性能が実現できれば材質は問わない。
【産業上の利用可能性】
【0019】
以上本発明の実施例を説明したが、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更を行うことが可能である。例えば実施例では弁体4の回転角度範囲を90度としたが、全開、全閉が実現できる90度より小さい必要最小限の回転角度範囲であってもよい。また、実施例では弁体4の出口62およびハウジング3のアウトポート34の形状を円形に設けたが、弁体4の出口62およびハウジング3のアウトポート34の形状を弁体4の回転角度と連通断面積の関係がリニアに変化する方形型とすることも可能である。また、実施例では流路6が弁体4の内部で湾曲し、90度の偏向がなされていたが、この偏向角度は90度に限定されるものではない。また、実施例では弁体の入口、弁体の出口を一意的に設定しているが、弁体の入口を弁体の出口に、弁体の出口を弁体の入口に設定することも可能である。また、本発明の弁体形状等は切削により実現しても、鋳造により実現してもかまわない。
【0020】
また、本発明の回転式流量制御弁1は排気ガス還流システムの還流排気ガス流量制御弁以外の任意の用途に適用できる。
【0021】
この発明の弁体サイズを小さく保ち内部に機械的回転止機構を設けた回転式流量制御弁は、流量制御弁自体の小型化、流体の流量および弁体の回転角度の確実な制御性を実現できる。このため、高速な流量制御の応答性と弁体の回転角度を見失った際における適切な基準回転角度の確認を実現できる。
【符号の説明】
【0022】
1 回転式流量制御弁
2 弁室
21 弁室の平面側壁(回転止壁)
3 ハウジング
31 ハウジングの側壁(円筒壁)
32 ハウジングの底壁
34 アウトポート(第2ポート)
35 インポート(第1ポート)
37 ハウジングの円筒壁
38 ハウジングの平面壁
4 弁体
42 弁体の軸心部
43 弁体の円筒面部
44 切り欠き平面
45 切り欠き平面
46 小円筒面
52 ボールベアリング
6 流路
61 入口(第1開口部)
62 出口(第2開口部)
66 回転止部
67 回転止部
7 円錐台の弁体
71 付勢部材
8 円錐台の弁室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
弁室を有し底壁に第1ポートを備え、円筒壁に第2ポートを備えた円筒状のハウジングと、
前記弁室に同軸的に収納され、一方の端面の軸心部に設けられた前記第1ポートと常時接続状態である第1開口部と、円筒面部に設けられた第2開口部を有し、内部に前記第1開口部と前記第2開口部を連結して流体が流れる流路が設けられた円柱状の弁体とを具備し、
前記弁体の回動により前記第2開口部と前記ハウジングに設けられた第2ポートとの連通度合を調整して流体の流量を制御する回転式流量制御弁において、
前記弁体は、前記第1開口部を含む前記軸心部および前記第2開口部を含む前記円筒面部を残し、軸方向に欠落した切り欠き面を有し、
前記弁室は、前記弁体の前記円筒面部が摺動する筒壁、前記切り欠き面が当接する回転止壁を有することを特徴とする回転式流量制御弁。
【請求項2】
請求項1に記載の回転式流量制御弁において、
前記弁体は円柱であり、
前記弁体の切り欠き面は、円柱を軸方向に切り欠いて設けられた第1平面と、該第1平面に略直交するように軸方向に切り欠いて設けられた第2平面を有し、前記弁室は前記第1平面または前記第2平面のいずれか一方と当接する平面側壁を有することを特徴とする回転式流量制御弁。
【請求項3】
請求項1に記載の回転式流量制御弁において、
前記弁体は円錐台であり、
前記弁体の切り欠き面は、円錐台を軸方向に切り欠いて設けられた第1平面と、該第1平面に略直交するように軸方向に切り欠いて設けられた第2平面を有し、前記弁室は前記第1平面または前記第2平面のいずれか一方と当接する平面側壁を有することを特徴とする回転式流量制御弁。
【請求項4】
請求項3に記載の回転式流量制御弁において、
前記弁体を前記円錐台の小径方向に付勢する付勢手段を設けたことを特徴とする回転式流量制御弁。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−149465(P2011−149465A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−9987(P2010−9987)
【出願日】平成22年1月20日(2010.1.20)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】