説明

回転式真空ポンプの締結構造

【課題】埋め込みボルトで回転真空ポンプを真空装置に締結する構成において、真空装置に伝達される衝撃を低減することができる締結構造の提供。
【解決手段】本発明は、高速回転ロータを有する回転式真空ポンプの吸気口フランジ(21)と真空装置とを埋め込みボルト(203)により締結する、回転式真空ポンプの締結構造である。吸気口フランジ(21)を貫通している埋め込みボルト(203)の非螺合部の少なくとも一部に、強度が該埋め込みボルトの埋め込み螺合部の強度以下である塑性変形部(203a)を設けた。その塑性変形部(203a)が吸気口フランジ(21)からの衝撃により塑性変形することで、真空装置に伝達される衝撃エネルギーを抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ターボ分子ポンプやモレキュラドラッグポンプ等の回転式真空ポンプの締結構造に関する。
【背景技術】
【0002】
高真空排気に用いられるターボ分子ポンプは、交互に配置された複数段の回転翼と複数段の固定翼とを備えている。各回転翼および固定翼は複数のタービンブレードから成り、回転翼はモータにより回転駆動されるロータに形成されており、固定翼はポンプのベースに固定されている。さらに、上述したタービンブレードに加えて、ドラッグポンプ段を備えたターボ分子ポンプも知られている。ドラッグポンプ段は、ロータ下部に形成された円筒部と、その円筒部と近接して配設されるネジ溝ステータとから成る。
【0003】
そのようなターボ分子ポンプで真空チャンバを排気する場合、同一フランジ径でより大きな排気性能を出すために、外径のより大きなロータを用いる場合がある。その場合、ポンプケーシング形状は、文献1の図1に記載に記載されているように、フランジとロータ部分との間で絞り込むような形状となる。そのような形状の場合、通常のボルトを用いて装置側に固定することはできず、装置側に埋め込みボルトを取り付け、その埋め込みボルトに対してポンプ側フランジをナット締めして、両者のフランジを締結するような締結構造が採用される。
【0004】
ターボ分子ポンプにおいては、タービンブレードおよび円筒部が形成されたロータは、毎分数万回転という高速で回転している。そのため、異常な外乱が作用するとロータとステータ側 とが接触するおそれがあり、その場合にはステータ側に大きな衝撃が加わることになる。また、ポンプ不具合によりロータ回転が急停止したり、ロータが破壊したりした場合には、さらに大きな衝撃が加わるとともに、ポンプを真空装置本体に締結しているボルトに大きな剪断力が加わる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−211696号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、一般的な埋め込みボルトは、両端部にネジ部が形成され、それらの間は不完全ネジ部になっている。不完全ネジ部は、ネジ部に比べて断面積が大きくなるので、衝撃応力を受けた際に変形しにくく、ポンプ急停止時などにおける塑性変形によるエネルギー吸収が期待できない。その結果、装置側に過大な衝撃が伝達され、装置故障を招くという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の発明は、高速回転ロータを有する回転式真空ポンプの吸気口フランジと真空装置とを埋め込みボルトにより締結する、回転式真空ポンプの締結構造であって、吸気口フランジを貫通している埋め込みボルトの非螺合部の少なくとも一部に、強度が該埋め込みボルトの埋め込み螺合部の強度以下である塑性変形部を設けたことを特徴とする。
請求項2の発明は、請求項1に記載の回転式真空ポンプの締結構造において、埋め込みボルトを、全ネジの埋め込みボルトとしたものである。
請求項3の発明は、請求項2に記載の回転式真空ポンプの締結構造において、非螺合部と埋め込み螺合部との間で、ネジピッチおよびネジリード角の少なくとも一方を異ならせたものである。
請求項4の発明は、請求項2に記載の回転式真空ポンプの締結構造において、非螺合部の少なくとも埋め込み螺合部に接する領域を、ボルト部材よりも強度の低い被覆材で被覆したものである。
請求項5の発明は、請求項1に記載の回転式真空ポンプの締結構造において、非螺合部の外径を埋め込み螺合部の外径よりも小さくして塑性変形部としたものである。
請求項6の発明は、請求項5に記載の回転式真空ポンプの締結構造において、非螺合部の少なくとも埋め込み螺合部に接する領域を、ボルト部材よりも強度の低い被覆材で被覆し、該被覆材で被覆された領域の外径を螺合部の外径以上としたものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、埋め込みボルトで回転真空ポンプを真空装置に締結する構成において、真空装置に伝達される衝撃を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】真空装置に取り付けられたターボ分子ポンプの概略構成を示す断面図である。
【図2】埋め込みボルト2の部分の拡大図である。
【図3】本実施の形態の第1の変形例を示す図である。
【図4】本実施の形態の第2の変形例を示す図である。
【図5】本実施の形態の第3の変形例を示す図である。
【図6】段付き長穴が形成された吸気口フランジ21の形状を示す図である。
【図7】吸気口フランジ21に衝撃が加わった場合の、埋め込みボルトの変形を示す模式図である。
【図8】従来の埋め込みボルトを用いた場合の締結構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図を参照して本発明を実施するための形態について説明する。図1は、真空装置に取り付けられたターボ分子ポンプの概略構成を示す断面図である。ポンプケーシング34内にはロータ30が回転自在に設けられている。図1に示したターボ分子ポンプ10は磁気軸受式のポンプであり、ロータ30は、5軸磁気軸受を構成する電磁石37,38によって非接触支持される。磁気軸受によって磁気浮上されたロータ30は、モータ36により高速回転駆動される。
【0011】
ロータ30には、複数段の回転翼32と円筒状のネジロータ31とが形成されている。一方、固定側には、軸方向に対して回転翼32と交互に配置された複数段の固定翼33と、ネジロータ31の外周側に設けられたネジステータ39が設けられている。各固定翼33は、スペーサリング35を介してベース40上に載置される。吸気口フランジ21が形成されたポンプケーシング34をベース40に固定すると、積層されたスペーサリング35がベース40とポンプケーシング34との間に挟持され、固定翼33が位置決めされる。
【0012】
真空装置側フランジ1には埋め込みボルト2が埋め込まれており、吸気口フランジ21を真空装置側フランジ1に締結する際には、埋め込みボルト2に対してナット3を締め付けることで、フランジ1と吸気口フランジ21とが締結される。ベース40には排気ポート41が設けられ、この排気ポート41にバックポンプが接続される。ロータ30を磁気浮上させつつモータ36により高速回転駆動することにより、吸気口側の気体分子は排気ポート41側へと排気される。
【0013】
図2は、埋め込みボルト2の部分の拡大図である。真空装置側フランジ1には、ネジ穴1aが形成されており、そのネジ穴1aには埋め込みボルト2が取り付けられている。図2に示す埋め込みボルト2は全ネジの埋め込みボルトであり、ポンプの吸気口フランジ21を締結する際には、予め適当な量だけネジ込んで、埋め込みボルト2を真空装置側フランジ1に取り付けておく。埋め込みボルト2が吸気口フランジ21のボルト挿通孔21aに挿入されるようにフランジ同士を合わせ、座金10およびバネ座金11を装着して、ナット3を締め付ける。
【0014】
図8は、従来の埋め込みボルトを用いた締結方法を示す図である。埋め込みボルト400は中央部分が不完全ネジ部400aになっており、その両端にネジ部400bが形成されている。一方のネジ部400bを装置側フランジのネジ穴1aにネジ込み、ネジ部400bの全体がネジ穴1aに埋没するまで締め付けることにより、埋め込みボルト400がフランジ1にしっかりと固定される。このような不完全ネジ部400aを有する埋め込みボルト400を用いた場合、前述したようにロータ破壊等が生じた場合に、装置側に過大な衝撃が伝達されて装置故障を招くという問題があった。
【0015】
一方、本実施の形態では、全ネジの埋め込みボルト2を用いているので、埋め込みボルト2のフランジ部分を貫通している部分は、有効断面積が図8の不完全ネジ部400aの場合よりも小さくなっている。そのため、衝撃に対してより変形しやすくなり、埋め込みボルト2が塑性変形することで衝撃エネルギーの一部を吸収することができ、装置側に伝達される衝撃を低減することができる。すなわち、図2に示す全ネジの埋め込みボルト2の場合、ナット3およびネジ穴1aに螺合していない中央部分が、衝撃エネルギーを吸収する塑性変形部に相当している。
【0016】
[変形例1]
図3は、本実施の形態の第1の変形例を示す図である。図3に示す埋め込みボルト203では、ボルトの中央部203a、すなわちネジ穴1aおよびナット3のいずれにも螺合していない部分にはネジを形成せず、さらに径を細くした。中央部203aの断面積は両端のネジ部203bの有効断面積以下としているので、中央部203aの強度は両端のネジ部203bの強度以下となっている。このようにすることにより、埋め込みボルト203の中央部203aが塑性変形しやすくなり、中央部203aが塑性変形することにより衝撃エネルギーを吸収することができる。なお、有効断面積が両端ネジ部203b以下の領域は、中央部203aの全てであっても良いし、一部であっても良い。
【0017】
[変形例2]
図4は、本実施の形態の第2の変形例を示す図である。埋め込みボルトを装置側フランジ1に取り付ける際には、埋め込み量が適切になるように管理する必要がある。埋め込み量が少ないと、装置側において強度不足となり、逆に埋め込み量が多すぎると、ナット3と螺合する部分の長さが不足し、ナット側での強度不足を招く。
【0018】
そこで、図4(a)に示す埋め込みボルト201では、中央部分201aのネジリード角を、両端のネジ部201bのネジリード角と異ならせた。その際、中央部分201aおよびネジ部201bの長さは、埋め込み量および吸気口フランジ21の厚さに応じて設定する。このように構成することで、埋め込みボルト201をフランジ1に取り付ける際に、必要以上にネジ込もうとしても、中央部分201aはネジリード角がネジ穴1aのネジリード角が異なっているので、適切な埋め込み量よりも多く埋め込まれることがなく、作業性が向上する。図4(b)の埋め込みボルト202では、中央部202aと両端のネジ部202bとでネジピッチが異なるように構成した。この場合も、ネジリード角を異ならせた場合と同様の効果が得られる。
【0019】
[変形例3]
図5は、本実施の形態の第3の変形例を示す図である。上述した第2変形例では、全ネジタイプの埋め込みボルトの両端と中央とでネジ形状を変化させることで、埋め込み量を適切に管理できるようにした。一方、図5に示す埋め込みボルトでは、ボルトの中央部分を被覆材で被覆した。図5(a)は、図2に示した全ネジタイプの埋め込みボルト2に被覆材2cを施した場合であり、図5(b)は図3に示した埋め込みボルト203に被覆材203cを施した場合を示す。このように被覆材2c,203cを施して両端のネジ部2b,203bの寸法を規定することにより、埋め込み量を適切な値に管理することができる。被覆材2c,203cとしては、例えば、シール材や樹脂、ゴム、ウレタン等のボルト材よりも強度の低い材料が用いられる。そのため、衝撃が加わった際に埋め込みボルトが塑性変形するのを、被覆材が妨げることはない。
【0020】
図6は、上述したような埋め込みボルトを用いた場合の、ターボ分子ポンプの吸気口フランジ21の形状を示したものである。図6(a)は断面図であり、図6(b)はA−A断面図である。図2に示した例では、ボルト挿通孔21aには単純は貫通孔が用いられていた。一方、図6に示す例では、ボルト挿通孔21aに加えて長穴21bを形成して段付きのボルト用穴としている。なお、図6では、図2に示した埋め込みボルト2を使用しているが、他の埋め込みボルトに関しても同様に適用できる。
【0021】
図7は,ポンプの吸気口フランジ21に衝撃が加わった場合における、埋め込みボルトの変形を模式的に示したものである。例えば、ロータ破壊が発生した場合には、回転方向に回されるような力が吸気口フランジ21に作用する。このような力が作用して、真空装置側フランジ1に対して吸気口フランジ21が回転するように図示左方向にずれると、最初に、段付き長穴の符号Bで示す段の部分が埋め込みボルト2に当接することになる。その後、ボルト2の段Bに当接している部分を拘束した状態で吸気口フランジ21がさらに回転すると、ボルト2の拘束されていない部分、すなわち長穴21bを貫通している部分2aがボルト挿通孔21aの部分において図7のように塑性変形し、衝撃エネルギーの一部が吸収されることになる。このように段付きの長穴を形成して、ボルト2が十分に塑性変形できる余裕空間を設けることで、塑性変形によるエネルギー吸収をより効果的に行うことができる。また、段付き長穴とすることで、剪断力が一箇所に集中するのが避けられ、ボルト破断を抑制することができる。
【0022】
上述した実施の形態では、本発明をターボ分子ポンプに適用した場合について説明したが、例えば、モレキュラドラッグポンプのように、回転式真空ポンプであれば同様に適用することができる。モレキュラドラッグポンプでは、全体がネジ溝タイプのロータとなるため、同一口径のターボ分子ポンプに比べてロータ重量が大きくなりやすく、破壊時のような急停止時の衝撃も、より大きくなる。
【0023】
上述した各実施形態はそれぞれ単独に、あるいは組み合わせて用いても良い。それぞれの実施形態での効果を単独あるいは相乗して奏することができるからである。また、本発明の特徴を損なわない限り、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではない。
【符号の説明】
【0024】
1:真空装置側フランジ、1a:ネジ穴、2,201〜203,400:埋め込みボルト、2c、203c:被覆材、3:ナット、21:吸気口フランジ、21a:ボルト挿通孔、21b:長穴、30:ロータ、201a〜203a:中央部、201b〜203b,400b:ネジ部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
高速回転ロータを有する回転式真空ポンプの吸気口フランジと真空装置とを埋め込みボルトにより締結する、回転式真空ポンプの締結構造であって、
前記吸気口フランジを貫通している前記埋め込みボルトの非螺合部の少なくとも一部に、強度が該埋め込みボルトの埋め込み螺合部の強度以下である塑性変形部を設けたことを特徴とする回転式真空ポンプの締結構造。
【請求項2】
請求項1に記載の回転式真空ポンプの締結構造において、
前記埋め込みボルトが、全ネジの埋め込みボルトであることを特徴とする回転式真空ポンプの締結構造。
【請求項3】
請求項2に記載の回転式真空ポンプの締結構造において、
前記非螺合部と前記埋め込み螺合部との間で、ネジピッチおよびネジリード角の少なくとも一方を異ならせたことを特徴とする回転式真空ポンプの締結構造。
【請求項4】
請求項2に記載の回転式真空ポンプの締結構造において、
前記非螺合部の少なくとも前記埋め込み螺合部に接する領域を、ボルト部材よりも強度の低い被覆材で被覆したことを特徴とする回転式真空ポンプの締結構造。
【請求項5】
請求項1に記載の回転式真空ポンプの締結構造において、
前記非螺合部の外径を前記埋め込み螺合部の外径よりも小さくして前記塑性変形部としたことを特徴とする回転式真空ポンプの締結構造。
【請求項6】
請求項5に記載の回転式真空ポンプの締結構造において、
前記非螺合部の少なくとも前記埋め込み螺合部に接する領域を、ボルト部材よりも強度の低い被覆材で被覆し、該被覆材で被覆された領域の外径を前記螺合部の外径以上としたことを特徴とする回転式真空ポンプの締結構造。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−180732(P2010−180732A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−23324(P2009−23324)
【出願日】平成21年2月4日(2009.2.4)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】