説明

回転慣性質量ダンパー

【課題】大型化することなく、大きな慣性質量効果を得ることができる回転慣性質量ダンパーを提供する。
【解決手段】当接離間する方向に相対変位する第1部材および第2部材の間に介装され、相対振動を低減するための回転慣性質量ダンパー40において、変位増幅機構を備え、変位増幅機構は、ねじ部と、ねじ部を挿通可能なナットと、ねじ部とナットとの間に配されたボールベアリングと、を有するボールねじ21,22と、ねじ部またはナットとともに回転可能に配された回転錘31と、を備え、回転錘を境界にして両側に第1ねじ部11および第2ねじ部12がそれぞれ配されるとともに、第1ねじ部が挿通された第1ナット13および第2ねじ部が挿通された第2ナット14が配され、第1ねじ部および第1ナットの間に配された第1ボールベアリングの第1リードと、第2ねじ部および第2ナットの間に配された第2ボールベアリングの第2リードと、が異なっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転慣性質量ダンパーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
回転慣性質量ダンパーとは、ダンパー両端の相対変位に比例して錘部材の回転量を生じる装置であり、錘部材の回転慣性モーメントと制動力の関係から「両端の相対加速度に比例した負担力」をもつ装置である。
【0003】
この種の回転慣性質量ダンパーの具体例としては、特許文献1に示すようにボールねじと回転錘(フライホイール)を組み合わせた減衰コマと称される形式のものが知られている。これは、図6に示すように、相対変位する2部材に対して連結される第1の連結部材110および第2の連結部材120からなり、第1の連結部材110には案内ねじ部110aを形成してボールベアリング111を介して案内ナット112を螺合するとともに、第2の連結部材120にはケーシング122を形成して、案内ナット112により回転駆動される回転コマ113をケーシング122内に収容して回転自在に支持した構成のものである。
【0004】
また、図7に示すように、1組のねじ部131・ボールナット133からなるボールねじ135と回転錘132とを備えた従来の装置(ダンパー)130では、回転錘132の回転慣性モーメントIθと回転角加速度Aとによって回転錘132に生じる角運動量の変化から軸方向の慣性抵抗力(負担力)Pが得られる。具体的に説明すると、ボールねじ135は、ねじ部131とボールナット133との噛み合わせ部にボールベアリング134を使用し、ほとんど抵抗無く回転できるように構成されている。つまり、ボールナット133を軸方向に拘束し、ねじ部131を出し入れすると、これと一体化した回転錘132が回転し、この回転錘132の回転慣性モーメントIθとねじ部131の移動量から慣性質量効果が生じる。
【0005】
ここで、ねじ部131のリード(ねじ山ピッチ)L、ダンパー130の軸方向変位をx、回転錘132の回転角をθとした場合、x=Lθ/(2π)の関係となり、ダンパー130の負担力(制御力)Pは次式で表される。
【0006】
【数1】

【0007】
ここで、円筒(円盤)状の回転錘132の直径をD、厚さをt、密度をρとすると、
【0008】
【数2】

【0009】
となる。大容量回転慣性質量ダンパーは、D/L>15であるため、
【0010】
【数3】

【0011】
となる。これは、実際の回転錘132の質量の1000倍以上の慣性質量効果(相対加速度に対する負担力の比)が得られることを表す。このように、ボールねじ135を利用した回転慣性質量ダンパーは、小型であっても比較的大きな慣性質量効果を得ることができるが、更に大きな慣性質量効果を得ることが可能な回転慣性質量ダンパーや、同じ慣性質量効果でも更に小型化した回転慣性質量ダンパーの開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平11−201224号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
つまり、従来の回転慣性質量ダンパーと比較してさらに大きな慣性質量効果を得るために、D/Lをさらに大きくすることが必要である。しかしながら、回転錘132の直径Dをあまり増大することは装置130の大型化になり好ましくない。そこで、リードLを小さくすることを検討した。しかし、リードLを小さくすると、図7において、ねじ溝に配置されるボールベアリング134の径も小さくなり、耐荷重性能が低下してしまう。そのため、ダンパー130の負担力Pを確保する点から、単にリードLを小さくすることはできなかった。
【0014】
そこで、本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、大型化することなく、大きな慣性質量効果を得ることができる回転慣性質量ダンパーを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の課題を解決するために、請求項1に記載した発明は、互いに当接離間する方向に相対変位する第1部材および第2部材の間に介装され、前記第1部材および前記第2部材の間に生じる相対振動を低減するための回転慣性質量ダンパーにおいて、前記第1部材および前記第2部材が相対変位したときの変位を増幅する変位増幅機構を備え、該変位増幅機構は、ねじ部と、該ねじ部を挿通可能な貫通孔が形成されたナットと、前記ねじ部と前記ナットとの間に配されたボールベアリングと、を有するボールねじと、前記ねじ部または前記ナットとともに回転可能に配された回転錘と、を備え、該回転錘を境界にして両側に第1ねじ部および第2ねじ部がそれぞれ配されるとともに、前記第1ねじ部が挿通された第1ナットおよび前記第2ねじ部が挿通された第2ナットが配され、前記第1ねじ部および前記第1ナットの間に配された第1ボールベアリングの第1リードと、前記第2ねじ部および前記第2ナットの間に配された第2ボールベアリングの第2リードと、が異なっていることを特徴としている。
【0016】
請求項1に記載した発明によれば、変位増幅機構としてリードの異なる2つのボールねじを用いることで、回転慣性質量ダンパー両端間の変位に対するねじ部の変位(ナットに対する移動量)を大幅に拡大することができる。つまり、回転慣性質量ダンパー両端間の変位に対する回転錘の回転が大幅に増加し、慣性質量効果が増大する。なお、2つのボールねじはいずれも右ねじ、または、いずれも左ねじとする。
また、ボールねじのリードが回転錘を境界に異なるように構成するだけで、大きな慣性質量効果を得ることができる。つまり、従来の梃子やトグルを用いた変位拡大機構を備えたものと比較して、径方向の大きさを小さくすることができる。
さらに、慣性質量効果を増大させるために、第1リードおよび第2リードを小さくする必要がないため、第1ボールベアリングおよび第2ボールベアリングも過小な径のものを採用する必要がない。したがって、ねじ部の直径に合わせた所定のリードを確保することができるため、耐荷重性能が低減するのを防止することができる。
したがって、大型化することなく、大きな慣性質量効果を得ることができる回転慣性質量ダンパーを実現できる。
【0017】
請求項2に記載した発明は、前記第1リードと前記第2リードとの差が小さいことを特徴としている。
【0018】
請求項2に記載した発明によれば、リードの異なる2つのボールねじを用いることで、回転慣性質量ダンパー両端間の変位に対するねじ部の変位(ナットに対する移動量)を大幅に拡大することができる。そして、この拡大(増幅)率は、例えば、(第1リードの大きさ)/(第1リードと第2リードとのリード差)で表されるため、第1リードと第2リードとのリード差を小さくすることにより、ねじ部の変位をより確実に拡大(増幅)することができる。
【0019】
請求項3に記載した発明は、前記第1ねじ部、前記第1ナットおよび前記第1ボールベアリングで構成される第1ボールねじが前記第1部材に連結される第1ケーシング内に支持固定されるとともに、前記第2ねじ部、前記第2ナットおよび前記第2ボールベアリングで構成される第2ボールねじが前記第2部材に連結される第2ケーシング内に支持固定され、前記第1ケーシングと前記第2ケーシングとは相対的に回転することなく、かつ、相対変位可能に構成され、前記回転錘は、前記第1ケーシングまたは前記第2ケーシングに相対変位可能に支持されていることを特徴としている。
【0020】
請求項3に記載した発明によれば、回転錘をねじ部と一体化させ、ねじ部を軸中心に回転させる機構であるため、機構が単純で外径を小さくすることができる。したがって、回転慣性質量ダンパーの径方向の大きさを小さくすることができる。
【0021】
請求項4に記載した発明は、前記第1部材と連結される第1ケーシングと、前記第2部材と連結される第2ケーシングと、前記第1ケーシングと前記第2ケーシングとの間にそれぞれと相対的に回転することなく、かつ、相対変位可能に構成された第3ケーシングと、を備え、前記第1ねじ部が前記第1ケーシングに固定されるとともに、前記第2ねじ部が前記第2ケーシングに固定され、前記第1ナットおよび前記第2ナットが前記第3ケーシングに相対変位することなく回転可能に支持され、前記回転錘は前記第1ナットおよび前記第2ナットにより固定されていることを特徴としている。
【0022】
請求項4に記載した発明によれば、回転錘をナット(第1ナットおよび第2ナット)と一体化させ、ねじ部を回転させるのではなくナットを回転させる機構であるため、各部材が軸方向に可動するための隙間は小さくて済む。したがって、回転慣性質量ダンパーの軸方向の長さを短くすることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明の回転慣性質量ダンパーによれば、変位増幅機構としてリードの異なる2つのボールねじを用いることで、回転慣性質量ダンパー両端間の変位に対するねじ部の変位(ナットに対する移動量)を大幅に拡大することができる。つまり、回転慣性質量ダンパー両端間の変位に対する回転錘の回転が大幅に増加し、慣性質量効果が増大する。
また、ボールねじのリードが回転錘を境界に異なるように構成するだけで、大きな慣性質量効果を得ることができる。つまり、従来の梃子やトグルを用いた変位拡大機構を備えたものと比較して、径方向の大きさを小さくすることができる。
さらに、慣性質量効果を増大させるために、第1リードおよび第2リードを小さくする必要がないため、第1ボールベアリングおよび第2ボールベアリングも過小な径のものを採用する必要がない。したがって、ねじ部の直径に合わせた所定のリードを確保することができるため、耐荷重性能が低減するのを防止することができる。
したがって、大型化することなく、大きな慣性質量効果を得ることができる回転慣性質量ダンパーを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施形態における変位増幅機構の構成を説明する図である。
【図2】本発明の実施形態における変位増幅機構の動きを説明する図である。
【図3】本発明の実施形態における慣性質量ダンパーの構成を説明する図である。
【図4】本発明の実施形態における回転慣性質量ダンパーの第1の態様を示す図である。
【図5】本発明の実施形態における回転慣性質量ダンパーの第2の態様を示す図である。
【図6】従来の回転慣性質量ダンパーの一例を示す図である。
【図7】従来の回転慣性質量ダンパーの一例を詳細に説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
次に、本発明の実施形態を図1〜図5に基づいて説明する。
【0026】
(変位増幅機構)
まず、本実施形態の回転慣性質量ダンパーに採用する変位増幅機構について説明する。
図1に示すように、変位増幅機構10は、リードの異なる2つのねじ部11,12に、各々ボールナット13,14を噛み合わせる。図1において、左側に配された第1ねじ部11と右側に配された第2ねじ部12は軸中心が一致するように連結されており、同軸上で変位も回転も同じになるように一体化されている。この第1ねじ部11と第2ねじ部12を合わせてねじ部15とする。ここでは、左側の第1ねじ部11のリード(ねじ溝のピッチ)Ld1を30mm、右側の第2ねじ部12のリードLd2を20mmとし、左側の第1ナット13を固定端とし、右側の第2ナット14を回転を拘束しつつ軸方向に変位可能に構成している。また、第1ねじ部11の外周面と第1ナット13の内周面にはそれぞれねじ溝が形成されており、第1ねじ部11と第1ナット13との間には第1ボールベアリング17が配されている。同様に、第2ねじ部12の外周面と第2ナット14の内周面にはそれぞれねじ溝が形成されており、第2ねじ部12と第2ナット14との間には第2ボールベアリング18が配されている。つまり、第1ナット13および第2ナット14はともに回転拘束されており、第2ナット14はねじ部15の軸方向に沿って移動可能になっている。なお、各ボールベアリング17,18の構成は、図7と略同一の構成である。
【0027】
ここで、第1ねじ部11、第1ナット13および第1ボールベアリング17で第1ボールねじ21を構成し、第2ねじ部12、第2ナット14および第2ボールベアリング18で第2ボールねじ22を構成している。
【0028】
このように構成された変位増幅機構10において、第2ナット14が軸方向に変位x移動したとき、ねじ部15の回転角をθとすると、いずれも右ねじとして、
【0029】
【数4】

【0030】
となる。すなわち、本実施形態では、第1ねじ部11のリードLd1が30mm、第2ねじ部12のリードLd2が20mmであるため、第2ナット14の変位xに対して、ねじ部15の変位xは3倍に拡大されることとなる。
【0031】
具体的に説明すると、図2に示すように、ねじ部15が1回転すると、第1ナット13が固定端であるため、ねじ部15は30mm右方向に変位する。第2ナット14のリードLd2が20mmで、右ねじであるため、ねじ部15が1回転すると第2ナット14はねじ部15に対して20mm左方向に変位する。すなわち、固定端(第1ナット13)に対しては10mm右方向に変位することになる。その結果、第2ナット14の変位10mmに対してねじ部15の変位は30mmとなり、ねじ部の変位が3倍に拡大(増幅)されることとなる。
【0032】
この変位増幅機構10は、ボールねじ21,22の組み合わせだけで変位を拡大(増幅)することができ、梃子機構やトグル機構のように軸方向以外への部材が不要であり、ボールねじ21,22の軸方向の部材だけで成立するため、ロスも小さく、コンパクトで合理的である。
【0033】
(慣性質量ダンパー)
次に、上述した変位増幅機構を用いた慣性質量ダンパーについて説明する。
図3に示すように、慣性質量ダンパー30は、上述したリードの異なる第1ボールねじ21および第2ボールねじ22を備えた変位増幅機構10と、第1ねじ部11と第2ねじ部12との間に配された回転錘31と、を一体化して構成されている。
【0034】
具体的には、慣性質量ダンパーとして機能する回転錘31の両端に第1ボールねじ21および第2ボールねじ22を固定することで、ねじ部15の変位を拡大することができる。ねじ部15の変位が拡大されるということは、ねじ部15の回転角も拡大される。すなわち、リードLd1の第1ナット13に噛み合う第1ねじ部11にダンパー変位xが作用したときのねじ部15の回転角θと比較すると、上述した変位増幅機構10による場合のねじ部15の変位xは、Ld1/(Ld1−Ld2)倍(本実施形態では3倍)に拡大され、ねじ部15の回転角θも同じくLd1/(Ld1−Ld2)倍に拡大されることとなる。各部の変位は、次式で表される。
【0035】
【数5】

【0036】
一方、回転錘(フライホイール)31の回転角速度の変化によるトルク合力は、
【0037】
【数6】

【0038】
であり、第1ナット13に作用するトルクTおよび反力Rは、それぞれ、
【0039】
【数7】

【0040】
となり、第2ナット14に作用するトルクTおよび反力Rは、それぞれ、
【0041】
【数8】

【0042】
となる。
【0043】
したがって、このダンパーの負担力F=R=−Rと、ダンパー変位xとの関係は、次式となる。
【0044】
【数9】

【0045】
上述した例においては、リードが大きい第1ナット13は逆作動、リードが小さい第2ナット14も同じく逆作動となる。各ナット13,14に対するねじ部15の相対変位は第1ナット13、第2ナット14でそれぞれ次式となる。
【0046】
【数10】

【0047】
この相対変位が、各ナット13,14に生じてねじ部15が回転する。上述の例では、リードLd1=30mmの第1ナット13に変位3xが、リードLd2=20mmの第2ナット14に変位2xが生じた場合の回転となるため、両者ともリード10mmのボールねじに変位xが作用した場合と同じになる。すなわち、双方のナット13,14のリード差(Ld1−Ld2)をリードとしてもつ通常の慣性質量ダンパーと等価になることが分かる。このように、上記機構による変位増幅(拡大)機構は、回転錘31の回転角に関する増速機構にもなっており、上記(1)式より慣性質量効果はリードを(Ld1−Ld2)としたものとして求められる。
【0048】
一方、各ねじ部11,12と各ナット13,14の噛み合わせ部に作用するトルクは、上記(2)式に示すように同じリードをもつ通常の慣性質量ダンパーと同じである。
【0049】
以上より、本実施形態によれば小さなリードのボールねじを使用しなくても、2つのボールねじ21,22のリード差が小さくなるように組み合わせることで、リードを小さくしたのと同等の効果を発揮できる。したがって、各々のボールねじ21,22についてはリードを十分にとれるため、ボールベアリング17,18の径を無理に小さくする必要がなく、耐荷重性能を低下させることもない。(1)式から明らかなように、リード差を小さくすることで慣性質量を大幅に増大できるため、回転錘31の回転慣性モーメントIθを小さくすることが可能となり、ダンパー装置の小型軽量化を図ることができる。
【0050】
(回転慣性質量ダンパー)
(第1の態様)
次に、上述した機構を採用した回転慣性質量ダンパーの第1の態様について説明する。
図4に示すように、回転慣性質量ダンパー40は、上述した慣性質量ダンパー30と、第1ボールねじ21を支持固定した第1ケーシング41と、第2ボールねじ22を支持固定した第2ケーシング42と、を備えている。第1ケーシング41および第2ケーシング42は、ともに略有底筒状に形成されている。第1ケーシング41における第2ケーシング42が連結される側の内周面にガイド溝44が形成され、第2ケーシング42における第1ケーシング41側の外周面にガイド溝44に嵌合可能な突起45が形成されている。そして、ガイド溝44に突起45が嵌合することで、第1ケーシング41と第2ケーシング42は、回転することなく軸方向にスライド(相対変位)できるように構成されている。さらに、第1ケーシング41および第2ケーシング42のそれぞれの軸方向外側端部には、構造体(不図示)への連結用のクレビス47,48が設けられている。なお、第1ケーシング41に設けられたクレビス47は構造体の第1部材(不図示)に連結され、第2ケーシング42に設けられたクレビス48は構造体の第2部材(不図示)に連結される。
【0051】
第1ボールねじ21および第2ボールねじ22と、回転錘31とはロックナット43などにより一体化され、回転錘31の自重によってねじ部15が撓む(曲がる)のを防止するため、ベアリングスライド49で第1ケーシング41に支持されている。ベアリングスライド49は、回転錘31の「ねじ部15の軸方向の変位」並びに「ねじ部15の軸芯まわりの回転」を拘束せず、「ねじ部15の軸直交方向の変位」を拘束するように構成されている。
【0052】
上述したように構成された回転慣性質量ダンパー40は、ダンパー両端に相対変位xが生じると、第1ボールねじ21および第2ボールねじ22が、θ=2πx/(Ld1−Ld2)だけ回転し、これと一体化された回転錘31は、x=Ld1/(Ld1−Ld2)だけ軸方向に変位をしながらボールねじと同じだけ回転する。
【0053】
なお、第1ボールねじ21、第2ボールねじ22、および回転錘31が、それぞれ第1ケーシング41および第2ケーシング42の軸方向端部や、第1ナット13および第2ナット14にぶるかることなく円滑に軸方向に可動するためには、このダンパーのストローク(片振幅)をSとしたとき、下記の隙間が必要となる。
【0054】
【数11】

【0055】
例えば、図4の回転慣性ダンパー40において、第1ボールねじ21のリードをLd1=30mm、第2ボールねじ22のリードをLd2=20mm、ストロークS=60mmとすると、S=180mm、S=120mmとなり、また、SおよびSは、それぞれ3箇所ずつ必要であるため、合計900mmの隙間が必要となる。なお、第1ケーシング41と第2ケーシング42との間のスライド機構(ガイド溝44および突起45)は、±Sの可動代が確保されている。
【0056】
この態様によれば、回転慣性質量ダンパー40は、回転錘31をねじ部15と一体化させ、ねじ部15を軸中心に回転させる機構であるため、機構が単純で外径を小さくすることができる。したがって、回転慣性質量ダンパー40の径方向の大きさを小さくすることができる。
【0057】
(第2の態様)
次に、上述した機構を採用した回転慣性質量ダンパーの第2の態様について説明する。
図5に示すように、回転慣性質量ダンパー50は、上述した慣性質量ダンパー30と、構造体の第1部材(不図示)に連結される第1ケーシング51と、構造体の第2部材(不図示)に連結される第2ケーシング52と、第1ケーシング51と第2ケーシング52との間に設けられ、それぞれと軸方向に相対変位(スライド)可能な第3ケーシング53と、を備えている。
【0058】
第1ケーシング51および第2ケーシング52は、ともに略有底筒状に形成されている。また、第3ケーシング53は、略円筒状に形成されており、軸方向両端の内周面にガイド溝54がそれぞれ形成されている。さらに、第1ケーシング51における第3ケーシング53が連結される側の外周面および第2ケーシング52における第3ケーシング53が連結される側の外周面にガイド溝54と嵌合可能な突起55がそれぞれ形成されている。そして、ガイド溝54に突起55が嵌合することで、第1ケーシング51と第3ケーシング53は回転することなく軸方向にスライド(相対変位)できるように構成されるとともに、第2ケーシング52と第3ケーシング53も回転することなく軸方向にスライド(相対変位)できるように構成される。
【0059】
また、第1ケーシング51および第2ケーシング52のそれぞれの軸方向外側端部には、構造体(不図示)への連結用のクレビス57,58が設けられている。なお、第1ケーシング51に設けられたクレビス57は構造体の第1部材(不図示)に連結され、第2ケーシング52に設けられたクレビス58は構造体の第2部材(不図示)に連結される。
【0060】
回転錘31は、第1ナット13および第2ナット14の間に設けられ、第1ナット13および第2ナット14と一体化されている。また、一体化された第1ナット13、第2ナット14および回転錘31は、第3ケーシング53内で軸方向に移動できず、軸中心に回転可能に保持されている。さらに、第1ねじ部11は軸方向外側端部において第1ケーシング51と一体化するように連結され、第2ねじ部12は同様に軸方向外側端部において第2ケーシング52と一体化するように連結されている。
【0061】
このように構成された回転慣性質量ダンパー50は、図5に示すように、リードが異なる第1ねじ部11と第2ねじ部12とは回転錘31内で2分割され、第1ねじ部11はクレビス57を設けた第1ケーシング51に固定され、第2ねじ部12はクレビス58を設けた第2ケーシング52に固定されている。また、回転錘31は中空円筒状に形成されており、第1ナット13および第2ナット14に挟持されるようにして固定されている。第1ナット13および第2ナット14は、第3ケーシング53に対して回転自在に支持されるとともに、軸方向に変位拘束されている。したがって、第1ねじ部11および第2ねじ部12は回転せず、第1ナット13および第2ナット14が軸中心に回転するように構成されている。
【0062】
上述したように構成された回転慣性質量ダンパー50は、第3ケーシング53に対して第1ケーシング51がx変位すると、第1ねじ部11に噛み合う第1ナット13が、θ=2πx/Ld1だけ軸中心に回転し、これと一体化された回転錘31および第2ナット14も同じように回転する。
【0063】
これにより、第2ねじ部12は、第2ナット14(第3ケーシング53に軸方向に固定)に対して、
【0064】
【数12】

【0065】
だけ変位する。第1ねじ部11および第2ねじ部12がいずれも右ねじとすると、回転慣性質量ダンパー50両端の変位xは、
【0066】
【数13】

【0067】
となる。したがって、
【0068】
【数14】

【0069】
となり、ダンパー変位と回転錘31の回転角との関係は、第1の態様の場合と同じになる。
【0070】
なお、第1ナット13または第2ナット14が、第1ケーシング51または第2ケーシング52の端部にぶつかったり、第1ねじ部11または第2ねじ部12が第1ナット13または第2ナット14から外れたりすることなく円滑に可動するためには、このダンパーのストローク(片振幅)をSとしたとき、下記の隙間が必要となる。
【0071】
【数15】

【0072】
例えば、図5に示す回転慣性質量ダンパー50において、第1ボールねじ21のリードをLd1=30mm、第2ボールねじ22のリードをLd2=20mm、ストロークS=60mmとすると、S=180mm、S=120mmとなり、SおよびSは、1箇所ずつあるため、合計300mmの隙間が必要となる。
【0073】
第1の態様と比較すると、必要な隙間量は小さくなるため、ダンパー長さを短くすることができる。ただし、本態様の回転慣性質量ダンパー50は、第1ナット13および第2ナット14を軸中心に回転させるため、第1ナット13および第2ナット14と第3ケーシング53との間に、ハウジング(外表ケース)を設けたナット回転型60を設ける必要がある。その結果、第1の態様の回転慣性質量ダンパー40よりもやや外径が大きくなる。また、回転錘31の形状を円筒形としてその中空部に第1ねじ部11および第2ねじ部12が出入りする空間(ナット間隔S+S+S以上)を確保する必要がある。なお、各ケーシング51,52,53のスライド機構は、±S(左側)および±S(右側)の可動代が必要となり、第1の態様の回転慣性質量ダンパー40より可動代が大きくなる。
【0074】
この態様によれば、回転錘31をナット(第1ナット13および第2ナット14)と一体化させ、ねじ部15を回転させるのではなくナット(第1ナット13および第2ナット14)を回転させる機構であるため、各部材が軸方向に可動するための隙間は小さくて済む。したがって、回転慣性質量ダンパー50の軸方向の長さを短くすることができる。
【0075】
(回転錘の試算)
次に、本実施形態の回転慣性質量ダンパーの効果を確認するため、慣性質量2000tonを実現するための回転錘31の形状を試算する。
【0076】
まず、本実施形態の回転慣性質量ダンパー50(40)、つまり、リードの異なる第1ボールねじ21および第2ボールねじ22を用いた場合について説明する。
【0077】
前提条件として、ねじ部15(第1ねじ部11および第2ねじ部12)の直径を120mm、第1ねじ部11のリードLd1=28mm、第2ねじ部12のリードLd2=20mmとする。
【0078】
回転錘31の大きさを直径φ305mm、軸方向長さを490mmとし、材質は鉄製とする。回転錘31は略円筒状に形成されているが、中空部は影響が小さいため無視する。すると、回転錘31の質量mは、0.281tonとなる。
【0079】
このように構成された回転慣性質量ダンパーにおける回転慣性モーメントIθおよび慣性質量ψは、以下のように求められる。
【0080】
【数16】

【0081】
続いて、従来の回転慣性質量ダンパー、つまり、ボールねじを1組だけ用いた場合について説明する。
【0082】
前提条件として、ねじ部の直径を120mm、ねじ部リードL=20mmとする。
【0083】
回転錘の大きさを直径φ405mm、軸方向長さを980mmとし、材質は鉄製とする。回転錘は略円筒状に形成されているが、中空部は影響が小さいため無視する。すると、回転錘の質量mは、0.991tonとなる。
【0084】
このように構成された回転慣性質量ダンパーにおける回転慣性モーメントIθおよび慣性質量ψは、以下のように求められる。
【0085】
【数17】

【0086】
このように、本実施形態の回転慣性質量ダンパー50(40)によれば、第1ボールねじ21および第2ボールねじ22のリードを小さくしなくても、従来と同じ慣性質量を径も長さも小さな回転錘31で実現することができ、回転慣性質量ダンパー50(40)の小型軽量化を図ることができる。
【0087】
本実施形態によれば、変位増幅機構としてリードの異なる2つのボールねじ(第1ボールねじ21および第2ボールねじ22)を用いたため、回転慣性質量ダンパー40(50)両端間の変位に対するねじ部の変位(ナットに対する移動量)を大幅に拡大することができる。つまり、回転慣性質量ダンパー40(50)の両端間の変位に対する回転錘31の回転が大幅に増加し、慣性質量効果が増大する。
【0088】
また、第1ボールねじ21および第2ボールねじ22のリードが回転錘31を境界に異なるように構成するだけで、大きな慣性質量効果を得ることができる。つまり、従来の梃子やトグルを用いた変位拡大機構を備えたものと比較して、径方向の大きさを小さくすることができる。
【0089】
さらに、慣性質量効果を増大させるために、第1リードLd1および第2リードLd2を小さくする必要がないため、第1ボールベアリング(不図示)および第2ボールベアリング(不図示)も過小な径のものを採用する必要がない。したがって、ねじ部15の直径に合わせた所定のリードを確保することができるため、耐荷重性能が低減するのを防止することができる。また、大型化することなく、大きな慣性質量効果を得ることができる回転慣性質量ダンパー40(50)を実現することができる。
【0090】
また、リードの異なる2つのボールねじ(第1ボールねじ21および第2ボールねじ22)を用いることで、回転慣性質量ダンパー40(50)両端間の変位に対するねじ部の変位(ナットに対する移動量)を大幅に拡大することができる。そして、この拡大(増幅)率は、例えば、(第1リードの大きさLd1)/(第1リードLd1と第2リードLd2とのリード差)で表されるため、第1リードLd1と第2リードLd2とのリード差を小さくすることにより、ねじ部の変位をより確実に拡大(増幅)することができる。
【0091】
なお、リードの異なる2つのボールねじ(第1ボールねじ21および第2ボールねじ22)を併用することで、回転慣性質量ダンパー40(50)両端間の変位に対するボールねじの変位(ナットに対する移動量)を大幅に拡大することができる。この拡大(増幅)率は、(ボールナットのリード)/(ボールナットのリード差)で表され、リード差を小さくすることでボールねじの変位が増大する変位増幅機構となる。このメカニズムを回転慣性質量ダンパー40(50)に組み込み、回転錘31をボールねじ機構と一体化させることで、回転慣性質量ダンパー40(50)両端間の変位に対する回転錘31の回転が当該リードをもつ従来のダンパー(ボールねじを1組使用)と比較して大幅に増加する。これにより慣性質量効果が増大し、「2つのボールねじのリード差」をリードと読み替えたのと同じ性能を発揮する。
また、本実施形態の回転慣性質量ダンパー40(50)は、各ナットに作用する軸力やトルクは、リードによらず変わらない。したがって、ボールねじは当該リードをもつ従来のダンパーと同じ設計を行えばよい。
【0092】
尚、本発明は上述した実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上述した実施形態に種々の変更を加えたものを含む。すなわち、実施形態で挙げた具体的な構造や構成などはほんの一例に過ぎず、適宜変更が可能である。
例えば、本実施形態では、各ケーシングにガイド溝とガイド溝に嵌合可能な突起とを形成したが、ガイド溝および突起を逆の位置に形成してもよく、各ケーシングが回転せずに軸方向にスライド可能に構成される構造であればよい。
また、本実施形態では、第1ねじ部および第2ねじ部がいずれも右ねじの場合で説明したが、第1ねじ部および第2ねじ部がいずれも左ねじで構成されていてもよい。
【符号の説明】
【0093】
10…変位増幅機構 11…第1ねじ部(ねじ部) 12…第2ねじ部(ねじ部) 13…第1ナット(ナット) 14…第2ナット(ナット) 15…ねじ部 17…第1ボールベアリング(ボールベアリング) 18…第2ボールベアリング(ボールベアリング) 21…第1ボールねじ(ボールねじ) 22…第2ボールねじ(ボールねじ) 31…回転錘 40…回転慣性質量ダンパー 41…第1ケーシング 42…第2ケーシング 50…回転慣性質量ダンパー 51…第1ケーシング 52…第2ケーシング 53…第3ケーシング Ld1…第1リード Ld2…第2リード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに当接離間する方向に相対変位する第1部材および第2部材の間に介装され、前記第1部材および前記第2部材の間に生じる相対振動を低減するための回転慣性質量ダンパーにおいて、
前記第1部材および前記第2部材が相対変位したときの変位を増幅する変位増幅機構を備え、
該変位増幅機構は、
ねじ部と、該ねじ部を挿通可能な貫通孔が形成されたナットと、前記ねじ部と前記ナットとの間に配されたボールベアリングと、を有するボールねじと、
前記ねじ部または前記ナットとともに回転可能に配された回転錘と、を備え、
該回転錘を境界にして両側に第1ねじ部および第2ねじ部がそれぞれ配されるとともに、前記第1ねじ部が挿通された第1ナットおよび前記第2ねじ部が挿通された第2ナットが配され、
前記第1ねじ部および前記第1ナットの間に配された第1ボールベアリングの第1リードと、前記第2ねじ部および前記第2ナットの間に配された第2ボールベアリングの第2リードと、が異なっていることを特徴とする回転慣性質量ダンパー。
【請求項2】
前記第1リードと前記第2リードとの差が小さいことを特徴とする請求項1に記載の回転慣性質量ダンパー。
【請求項3】
前記第1ねじ部、前記第1ナットおよび前記第1ボールベアリングで構成される第1ボールねじが前記第1部材に連結される第1ケーシング内に支持固定されるとともに、
前記第2ねじ部、前記第2ナットおよび前記第2ボールベアリングで構成される第2ボールねじが前記第2部材に連結される第2ケーシング内に支持固定され、
前記第1ケーシングと前記第2ケーシングとは相対的に回転することなく、かつ、相対変位可能に構成され、
前記回転錘は、前記第1ケーシングまたは前記第2ケーシングに相対変位可能に支持されていることを特徴とする請求項1または2に記載の回転慣性質量ダンパー。
【請求項4】
前記第1部材と連結される第1ケーシングと、前記第2部材と連結される第2ケーシングと、前記第1ケーシングと前記第2ケーシングとの間にそれぞれと相対的に回転することなく、かつ、相対変位可能に構成された第3ケーシングと、を備え、
前記第1ねじ部が前記第1ケーシングに固定されるとともに、前記第2ねじ部が前記第2ケーシングに固定され、
前記第1ナットおよび前記第2ナットが前記第3ケーシングに相対変位することなく回転可能に支持され、
前記回転錘は前記第1ナットおよび前記第2ナットにより固定されていることを特徴とする請求項1または2に記載の回転慣性質量ダンパー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−7635(P2012−7635A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−141838(P2010−141838)
【出願日】平成22年6月22日(2010.6.22)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】