回転機械の抽気構造
【課題】回転機械の抽気部においてチョークの発生などによる圧力損失を抑制し、かつ、圧縮機効率やサイクル効率の向上を図ることを課題とする。
【解決手段】複数の回転翼を有するロータと、前記ロータの周囲に設けられ、作動流体の主流の流路を前記ロータと共に画定するステータ2と、ステータ2の仕切壁21aを介在させて前記流路に隣接して設けられ、仕切壁21aに形成された抽気連通部を介して、前記主流から抽気された前記作動流体が導入される抽気部3と、を有する回転機械C1の抽気構造であって、前記抽気連通部は、仕切壁21aを貫通する抽気孔41が前記ロータの円周方向に複数配列されてなる抽気孔列31(31A,31B)を、少なくとも二つ有することを特徴とする。
【解決手段】複数の回転翼を有するロータと、前記ロータの周囲に設けられ、作動流体の主流の流路を前記ロータと共に画定するステータ2と、ステータ2の仕切壁21aを介在させて前記流路に隣接して設けられ、仕切壁21aに形成された抽気連通部を介して、前記主流から抽気された前記作動流体が導入される抽気部3と、を有する回転機械C1の抽気構造であって、前記抽気連通部は、仕切壁21aを貫通する抽気孔41が前記ロータの円周方向に複数配列されてなる抽気孔列31(31A,31B)を、少なくとも二つ有することを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転機械の抽気構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ガスタービンにおいては、圧縮機から抽気した高圧空気をタービン側に供給して構成部材の冷却や構成部材間のシールを図るものがある。
【0003】
例えば、下記特許文献1には、遠心式圧縮機において、ロータが備えるインペラの周囲に沿って延びるシュラウドの外側に抽気室を形成すると共に、シュラウドにロータの円周方向に延びるスリット状の抽気連通部を形成し、この抽気連通部を介して主流の一部を抽気室に抽気して高圧空気をガスタービンエンジンの各部位へ供給する構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平3−260336号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、従来の技術においては、スリット幅を大きくすると翼端部の流れが乱され局所的に翼負荷が低下してしまうため、圧縮機効率が低下してしまう。このため、主流の一部を抽気するスリット状の抽気連通部に代えて、シュラウドを貫通する抽気孔を周状に一列に配列してなる抽気孔列を用いる構成が考えられる。すなわち、抽気孔列は、スリットに比べて構造的不連続部が小さくなるので、圧縮機効率低下を抑制することが可能となる。
【0006】
しかしながら、抽気孔列を採用した構成においては、抽気孔を流れる作動流体の流速が大きくなると、抽気孔内でチョークが発生して圧力損失が生じてしまい、抽気室の圧力が低下してしまう。このため、回転機械が複数の運転条件で稼動される場合において異なる抽気条件が存在するときには、最もチョークが発生し易い最大抽気条件に合わせて孔断面積を大きく確保する必要がある。そのため、相対的にチョークが発生し難い抽気条件においては、孔断面積を小さくして圧縮機効率やサイクル効率を向上させる余地があるにも関わらず、最大抽気条件に合わせて孔断面積を大きく確保する必要があるので、圧縮機効率やサイクル効率の向上が制限されてしまうという問題があった。
【0007】
本発明は、このような事情を考慮してなされたもので、回転機械の抽気部においてチョークの発生などによる圧力損失を抑制し、かつ、圧縮機効率やサイクル効率の向上を図ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を採用している。
すなわち、本発明に係る回転機械の抽気構造は、複数の回転翼を有するロータと、前記ロータの周囲に設けられ、作動流体の主流の流路を前記ロータと共に画定するステータと、前記ステータの仕切壁を介在させて前記流路に隣接して設けられ、前記仕切壁に形成された抽気連通部を介して、前記主流から抽気された前記作動流体が導入される抽気部と、を有する回転機械の抽気構造であって、前記抽気連通部は、前記仕切壁を貫通する抽気孔が前記ロータの円周方向に複数配列されてなる抽気孔列を、少なくとも二つ有することを特徴とする。
このようにすれば、抽気連通部が抽気孔列を少なくとも二つ有しているので、抽気孔列を一つ設けた構成に比べて、抽気部へ抽気される作動流体の総量が同一である場合において、抽気孔一つ当たりの作動流体の流量が小さくなる。これにより、最大抽気条件において作動流体が音速を超えない抽気孔の最小孔断面積を小さくすることができ、他の抽気条件においてサイクル効率が向上するように抽気孔の孔断面積を小さく設定したとしても、最小孔断面積を下回り難くなる。従って、最大抽気条件においてチョークの発生を抑制すると共に、かつ、他の抽気条件においてサイクル効率の向上を図ることができる。
【0009】
また、前記複数の抽気孔列のうちの互いに隣接する二つの前記抽気孔列は、一方における前記抽気孔が他方における前記抽気孔に対してずらされて、千鳥状に設けられていることを特徴とする。
このようにすれば、互いに隣接する二つの抽気孔列の相互の抽気孔を千鳥配置にすることにより、相互の抽気孔を近接させることが可能となる。これにより、互いに隣接する二つの抽気孔列のそれぞれの位置における主流の静圧がほぼ同程度となり、これら二つの抽気孔列の各抽気孔において、抽気部と主流との静圧の差を同程度とすることができる。従って、二つの抽気孔列の各抽気孔において、要求される静圧回復量が過大になることを抑制するので、圧力損失の発生を抑制することができる。
【0010】
また、前記抽気孔は、前記流路側から前記抽気部側に向かうに従って漸次拡径する拡径部を有することを特徴とする。
このようにすれば、拡径部を備えるので、流路の主流から抽気した作動流体の動圧を静圧に変換することができる。これにより、作動流体の動圧が失われることを抑制するので、抽気部の圧力を高圧に維持することができる。従って、同一流量を抽気する条件であっても圧縮機からの抽気位置を上流に移動させ、低い圧力の流体を抽気することができるため、回転機械のサイクル効率を更に向上させることができる。
【0011】
また、前記主流は、前記主流の流れ方向に圧力勾配を有し、前記拡径部の作動流体入口の孔断面積に対する前記拡径部の作動流体出口の孔断面積の比を面積比と定義した際に、前記主流の下流側における前記抽気孔列の抽気孔に比べて、前記主流の上流側における前記抽気孔列の抽気孔の方が、前記面積比が大きく設定されていることを特徴とする。
このようにすれば、主流上流側の抽気孔列における抽気孔の面積比を、主流下流側の抽気孔列における抽気孔の面積比よりも大きく設定しているので、要求される静圧回復量に応じて、主流上流側の抽気孔列の抽気孔で作動流体の動圧を十分に静圧に回復させることができる。これにより、抽気孔において発生する圧力損失を小さく抑え、抽気部を高圧に維持することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る回転機械によれば、チョークの発生等による抽気部での圧力損失を抑制し、かつ、圧縮機効率やサイクル効率の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第一実施形態に係る遠心式圧縮機C1の要部を拡大した子午断面図である。
【図2】本発明の第一実施形態において図1のI−I線矢視図である。
【図3】本発明の第一実施形態において図2のII−II線断面図である。
【図4】本発明の第二実施形態に係る遠心式圧縮機C2の要部断面図である。
【図5】本発明の第二実施形態に係る遠心式圧縮機C2の要部拡大断面図であって、抽気孔51を拡大して示している。
【図6】本発明の第三実施形態に係る遠心式圧縮機C3の要部断面図である。
【図7】本発明の第三実施形態に係る遠心式圧縮機C3の空気Aの流れを示した模式図であって、抽気孔列31Aを示したものである。
【図8】本発明の第三実施形態に係る遠心式圧縮機C3の空気Aの流れを示した模式図であって、抽気孔列31Bを示したものである。
【図9】本発明の第三実施形態に係る遠心式圧縮機C3の比較対象C3´の空気Aの流れを示した模式図であって、抽気孔列31A´を示したものである。
【図10】本発明の第三実施形態に係る遠心式圧縮機C3の比較対象C3´の空気Aの流れを示した模式図であって、抽気孔列31B´を示したものである。
【図11】本発明を適用した場合の抽気室の圧力の変化を示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照し、本発明の実施形態について説明する。
「第一実施形態」
図1は、本発明の第一実施形態に係る遠心式圧縮機(回転機械)C1の要部を拡大した子午断面図である。この遠心式圧縮機C1は、航空機用のものであって高圧の空気(作動流体)Aを生成して燃焼器(不図示)に供給する。
図1に示すように、遠心式圧縮機C1は、ロータ1と、ロータ1の周囲に設けられたステータ2とを有している。
【0015】
ロータ1は、回転自在に支持されたロータシャフト11と、ロータシャフト11に取り付けられたインペラ12とを有している。
ロータシャフト11は、ロータシャフト11の中心軸P周りに回転自在に、不図示の軸受Sに支持されている。なお、以下の説明においては、中心軸Pの延在方向を「主軸方向」と、ロータシャフト11の周方向を「円周方向」、ロータシャフト11の半径方向を「主半径方向」という。
【0016】
インペラ12は、円盤状に形成されたハブ13と、ハブ13から延出する回転翼14とを有している。
ハブ13は、主軸方向の一方側から他方側に進むに従って、延在方向が次第に主軸方向から主半径方向に変化する案内面13aを有している。このハブ13は、ロータシャフト11に同軸状に取り付けられている。
回転翼14は、案内面13aの法線方向に向けて案内面13aから延出しており、円周方向に間隔を空けて複数設けられている。回転翼14は、図1に示すように、子午断面において、その先端(チップ)14aの延在方向を主軸方向から主半径方向の外周側に変化させる。
【0017】
ステータ2は、ケーシング21と、内側隔壁部材22とを有している。
ケーシング21は、中心軸P周りに延びてロータ1の周囲を囲っている。ケーシング21は、図1に示すように、主軸方向の一方側から中心軸Pに沿って円筒状に延びる上流円筒部21pと、上流円筒部21pに続いて形成され、回転翼14の先端に沿うように拡径して端部を主半径方向の外周側に向けるシュラウド(仕切壁)21aと、シュラウド21aに続いて形成され、主半径方向において外周側に向けて延びた後に屈曲し、再び中心軸Pに沿って軸方向他方側に向けて円筒状に延びる下流円筒部21qとを有している。
【0018】
シュラウド21aの、上流円筒部21p側には板厚寸法が大きく設定された板厚部21cが形成されている。
【0019】
内側隔壁部材22は、中心軸P周りに延びてロータ1の周囲を囲っており、図1において、ハブ13の案内面13aの裏面13b側からシュラウド21aの外周端に向けて延びた後に、ケーシング21に沿って延びている。
【0020】
このようなステータ2は、ロータ1と共に空気Aの流路25を画定している。この流路25の一部は、図1に示すように、シュラウド21aとインペラ12との間に画定された流路25aと、ケーシング21の下流円筒部21qと内側隔壁部材22との間に画定された流路25bとが連通することによって構成されている。なお、流路25bには、ラジアルディフューザ26と、アキシャルディフューザ27とが配設されている。
【0021】
この遠心式圧縮機C1は、流路25aの外側に抽気室3が画定されている。
抽気室3は、シュラウド21aと、このシュラウド21aに接続されてシュラウド21aと共に閉断面を形成する隔壁21bとで画定されており、円周方向において円環状に延びている。換言すれば、この抽気室3は、シュラウド21aを介在させて流路25aに隣接している。
【0022】
抽気室3には、板厚部21cにおいて形成された二つの抽気孔列(抽気連通部)31を介して、流路25aを流れる空気Aが抽気されて導入される。
【0023】
図2は図1のI−I線矢視図であり、図3は図2のII−II線断面図である。
図2及び図3に示すように、二つの抽気孔列31は、互いに沿って並設されており、それぞれが、複数の抽気孔41が円周方向に配列されることで構成されている。
【0024】
複数の抽気孔41は、図1に示すように、それぞれ、シュラウド21a(より具体的には板厚部21c)を貫通して流路25aと抽気室3とを連通させている。これらの抽気孔41は、それぞれ、断面形状が真円状に形成されており(図2参照)、図3に示すように、流路25a側から抽気室3側に進むに従ってロータ1の回転方向に向かうように、傾斜して延びている。また、これらの抽気孔41は、二つの抽気孔列31のそれぞれにおいて、略同径に形成されている。以下の説明においては、二つの抽気孔列31のうち主流上流側を「抽気孔列31A」と、主流下流側を「抽気孔列31B」と呼称して双方を区別する場合がある。なお、図1において、二点鎖線の白抜き矢印で空気Aの主流を示す。
【0025】
二つの抽気孔列31は、図2に示すように、抽気孔列31Aの抽気孔41と、抽気孔列31Bの抽気孔41との配列ピッチが、相互に半ピッチ分だけずらされており、全体的に見て千鳥状に形成されている。そして、抽気孔列31Aと抽気孔列31Bとは、互いの抽気孔41の主軸方向における中心間距離が、各抽気孔41の孔径(孔直径)と略同一の大きさに設定されている。
【0026】
この抽気室3に抽気された空気Aは、図1に示すように、航空機の運転状態(IDLE/離陸/巡航/高空飛行/着陸等)に応じて、配管3aを介して軸受Sに供給されてシールや防氷に用いられたり、タービンTに供給されてタービン構成部材のシールや冷却に用いられたりする。
【0027】
各抽気孔41は、本実施形態においては、鋳造によって形成されたシュラウド21aに、放電加工で形成している。
また、本実施形態においては、抽気孔41の孔断面積(孔径)を、航空機の巡航状態における抽気条件(抽気量…主流から抽気室3へ抽気される空気Aの総量)に合わせて、遠心式圧縮機C1の効率が向上する大きさに設定され、また、航空機の運転状態において最大となる抽気条件(抽気量)で、抽気孔41にチョークが生じない孔断面積(抽気した空気Aが音速を超えない孔断面積)に設定されている。
【0028】
次いで、遠心式圧縮機C1の作用について、図を用いて説明する。
まず、図1に示すように、空気Aの主流は、主軸方向の一方側から流路25aに流入し、流路25aを流れる過程において、回転翼14によって動圧及び静圧が高められる。そして、流路25aから流路25bに流出した主流は、流路25bを流れる過程において動圧が静圧に変換される。
【0029】
流路25aを流れる空気Aの主流の一部は、流路25aよりも相対的に圧力が低い抽気室3に向けて抽気孔列31A,31Bの各抽気孔41に流入する。各抽気孔41に流入した空気Aは、抽気孔41から抽気室3に流出する。
【0030】
この際、抽気孔列31A,31Bを介して、巡航状態における抽気条件(抽気量)を必要十分に満たす空気Aが抽気室3に流入する。この際、各抽気孔41を流れる空気Aは、単位時間当たりの流量Q=Q1、流速V=V1となる。また、巡航状態において、必要十分な空気Aが抽気室3に流入することにより、主流の流量を不必要に低減させず、高いサイクル効率で遠心式圧縮機C1が稼働する。
【0031】
一方、航空機の離陸時においては、主流から抽気室3への抽気量が増大する。
この際、各抽気孔41においては、空気Aの流量Qが増加して流量Q=Q2(Q2>Q1)、流速V=V2(V2>V1)となる。各抽気孔41を流れる空気Aは、チョークを発生させないで抽気室3に安定して導入される。
【0032】
ここで、仮に抽気孔列31A,31Bを一列だけ設けた場合には、離陸状態において、各抽気孔41に空気Aが流量Q=2Q2だけ流れる。このため、離陸状態(最大抽気条件)において空気Aが音速を超えない抽気孔41の最小孔断面積αが比較的に大きくなってしまう(α=αa)。従って、巡航状態においてサイクル効率が向上するように抽気孔41の孔断面積を設定すると、最小孔断面積α=αaを下回り、離陸状態(最大抽気条件)において空気Aの速度が音速を超えてしまってチョークを生じさせる恐れが高くなる。
【0033】
これに対して、本実施形態においては、二つの抽気孔列31A,31Bを設けて、各抽気孔41に流れる空気Aを流量Q=Q2に抑えるので、最小孔断面積αを比較的に小さくすることができる(α=αb,αb<αa)。このため、巡航状態においてサイクル効率が向上するように抽気孔41の孔断面積を小さく設定したとしても、最小孔断面積α=αb(αb<αa)を下回り難い。よって、離陸状態(最大抽気条件)において空気Aの速度が音速を超え難く、チョークが生じ難くなる。
各抽気孔41から抽気室3に向けて流出した空気Aは、配管3aを介して軸受SやタービンTに供給される。
【0034】
以上説明したように、遠心式圧縮機C1においては、二つの抽気孔列31が設けられているので、抽気孔列31を一つ設けた場合に比べて、抽気孔41の最小孔断面積αを小さくすることができる。これにより、巡航状態においてサイクル効率が向上するように抽気孔41の孔断面積を小さく設定したとしても、最小孔断面積α=αb(αb<αa)を下回り難くなる。従って、最大抽気条件である離陸状態においてチョークの発生を抑制することができ、かつ、効率保証点である巡航状態においてサイクル効率の向上を図ることができる。
【0035】
また、上述したように、空気Aの主流は、その流れ方向に上流から下流に向けて静圧が大きくなる圧力勾配を有することから、抽気孔列31Aの位置における主流の静圧と比べて、抽気孔列31Bの位置における主流の静圧が大きくなる。
ここで、抽気室3の静圧は空気Aの主流の流れ方向に沿ってほぼ同程度になっているので、抽気孔列31Aの抽気孔41は、抽気孔列31Bの抽気孔41に比べて、空気Aの静圧を大きく回復させることが要求される。しかしながら、抽気孔列31Aの抽気孔41において要求静圧回復量を満足させないと、抽気孔41の空気Aの流れに剥離が生じて圧力損失が生じてしまう。
そして、抽気孔列31Aと抽気孔列31Bとが離間するほど主流の静圧の差分が大きくなるから、抽気孔列31Bに対して抽気孔列31Aの要求静圧回復量が大きくなり、圧力損失が生じ易くなる。
【0036】
本実施形態においては、抽気孔列31A,31Bとの相互の抽気孔41を千鳥配置にすることにより、相互の主軸方向の中心間距離を抽気孔41の孔径程度に近接させているので、抽気孔列31A,31Bのそれぞれの位置における主流の静圧がほぼ同程度となり、抽気孔列31A,31Bの各抽気孔41において抽気室3と主流との静圧の差を同程度とする。従って、抽気孔列31Aと抽気孔列31Bの要求静圧回復量を同程度とすることで、圧力損失が生じることを抑えることができる。
【0037】
「第二実施形態」
続いて、本発明の第二実施形態について説明する。
図4は本発明の第二実施形態に係る遠心式圧縮機(回転機械)C2の要部断面図であり、図5は遠心式圧縮機C2の要部拡大断面図である。なお、以下の説明及び以下の説明で用いる図面において、上述した実施形態と同様の構成要素については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0038】
遠心式圧縮機C2の構成は、上述した第一実施形態の遠心式圧縮機C1の構成とほぼ同様であるが、遠心式圧縮機C1の抽気孔列31A,31Bが抽気孔41で構成されていたのに対して、図4に示すように、遠心式圧縮機C2の抽気孔列31A,31Bが抽気孔51で構成されている点で相違する。
【0039】
抽気孔51は、図5に示すように、流路25a側に形成された定径部52と、抽気室3側に形成された拡径部53とを有している。ここで、定径部52は、流路25a側において抽気孔51の中心軸Jに直交する孔断面が最初に閉断面を構成する開口部51aから、拡径部53との境界であるスロート部(作動流体入口)51bまでをいう。
【0040】
定径部52は、図5に示すように、第一実施形態の抽気孔41の孔径よりも小さい孔径で形成されており、開口部51aから抽気孔51の長手方向の寸法の半分よりも小さい寸法に設定されている。この定径部52は、その長手方向の寸法を、定径部52の孔径よりも大きく設定するのが望ましい。また、抽気孔51の中心軸Jが、当該中心軸Jに交差するシュラウド21aの内周接線に対して形成する設置角は、回転翼14の先端における空気Aの絶対流れ角と略等しくなるように形成するのが望ましい。
【0041】
拡径部53は、図5に示すように、定径部52との境界であるスロート部51bから、抽気室3側において中心軸Jに直交する孔断面が最後に閉断面を構成する開口部(作動流体出口)51cまでをいう。
この拡径部53は、スロート部51bから開口部51cに向かうに従って漸次拡径している。
この拡径部53は、その長手方向の寸法を、スロート部51b(定径部52)の孔径の二倍以上に設定するのが望ましい。また、抽気孔51の中心軸Jに沿った断面の、抽気孔51の内周面の断面輪郭において、定径部52の延在方向に対して拡径部53の延在方向が形成する拡がり角θを2〜6°に設定するのが望ましい。
【0042】
本実施形態の遠心式圧縮機C2によれば、拡径部53を備えるので、流路25aの主流から抽気した空気Aの動圧を静圧に変換することができる。これにより、空気Aが抽気室3に流入した際に動圧が失われることを抑制するので、抽気室3の圧力を高圧に維持することができる。従って、抽気量を抑えることができ、サイクル効率を更に向上させることができる。また、本実施形態においては、抽気孔51の孔径を抽気孔41の孔径よりも小さく設定しているが、第一実施形態で説明したように、各抽気孔51に流れる流量QがQ=Q2となるので、流速Vが過大になり難く、定径部52においてチョークが生じることを抑えることができる。
【0043】
また、空気Aの動圧を効率的に静圧に変換するので、回転翼14によって圧力が高められた流路25aの下流側の空気Aを抽気しないで、抽気室3の圧力を維持することが可能である。これにより、抽気孔列31の位置を本実施形態のように流路25aの上流側に設定することができる。従って、設計の自由度を向上させることができると共に、サイクル効率を高めることができる。
【0044】
また、抽気室3の圧力を比較的に高めに維持することで、タービン構成部材のシールや冷却に使用する空気Aの供給圧を比較的に高くすることができるので、シール部分に燃焼ガスが流れ込んだり、タービン構成部材が過熱したりすることを十分に抑制することができる。これにより、タービンTの信頼性を向上させることができる。
【0045】
また、抽気室3の圧力を比較的に高めに維持することで、軸受Sに供給するオイルが主流に漏れ出すのを防ぐシール空気の圧力を高くすることができるので、軸受Sに油切れが生じる可能性を低下させて軸受Sの信頼性を向上させることができる。同様に、防氷空気の供給圧を高くすることができるので、圧縮機入口部などに氷結が発生する可能性を低下させて遠心式圧縮機Cの信頼性を向上させることができる。
【0046】
「第三実施形態」
続いて、本発明の第三実施形態について説明する。
図6は本発明の第三実施形態に係る遠心式圧縮機(回転機械)C3の要部断面図である。なお、以下の説明及び以下の説明で用いる図面において、上述した実施形態と同様の構成要素については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0047】
遠心式圧縮機C3の構成は、上述した第二実施形態の遠心式圧縮機C2の構成とほぼ同様であるが、遠心式圧縮機C2の抽気孔列31A,31Bが抽気孔51で構成されていたのに対して(図4参照)、図6に示すように、抽気孔列31Aが抽気孔61Aで,抽気孔列31Bが抽気孔61Bで構成されている点で相違する。
【0048】
抽気孔61A,61Bは、それぞれの拡径部63のスロート部(作動流体入口)61bの孔断面積に対する開口部(作動流体出口)61cの孔断面積の比を面積比(作動流体出口の孔断面積/作動流体入口の孔断面積)と定義した際に、抽気孔61Bの面積比に比べて抽気孔61Aの面積比が大きく設定されている。
【0049】
上述したように、空気Aの主流は、流れ方向において静圧が大きくなる圧力勾配を有することから、抽気孔列31Aにおける主流の静圧と比べて、抽気孔列31Bにおける主流の静圧が大きくなる。そして、抽気室3の静圧が空気Aの主流の流れ方向に沿ってほぼ同程度になっているので、抽気孔61Bよりも抽気孔61Aのほうが要求静圧回復量が大きく回復させなければならない。
すなわち、抽気孔列31A及び抽気孔列31Bの、それぞれに要求される要求静圧回復量に対応させて、抽気孔61Bに比べて抽気孔61Aの面積比を大きくしている。つまり、相対的に要求静圧回復量が大きくなる抽気孔61Aにおいて、局所的な剥離や逆流が生じることを防ぐために、抽気孔61Bに比べて抽気孔61Aの静圧回復量を大きくしている。
【0050】
この抽気孔61A,61Bの面積比は、以下のようにして定めている。
まず、構造側の要求(板厚部21c等の寸法)から、拡径部63の面積比(面積拡大率)の上限を決める。
次に、拡径部63の面積比の上限から拡径部63の静圧回復係数Cpを求める。ここで、Cp=(抽気孔61の出口(開口部61c)における静圧−抽気孔61の入口(開口部61a)の静圧)/抽気孔61の入口の動圧、である。
次に、抽気孔列31A及び抽気孔列31Bのうち、孔面積を拡大させ易い(シュラウド21aの板厚を確保し易い)一方の抽気孔61の静圧回復係数Cpを、求めた静圧回復係数Cpとする。
次に、抽気孔列31A及び抽気孔列31Bのそれぞれの位置の主流の圧力を、実験や解析によって取得する。
次に、抽気孔列31A及び抽気孔列31Bのうち、他方の抽気孔61の静圧回復係数Cpを、抽気室3の圧力が等しくなるように定める。
最後に、抽気孔列31Aの抽気孔61Aと抽気孔列31Bの抽気孔61Bとのそれぞれの静圧回復係数Cpから、ディフューザマップ(ディフューザの形状と静圧回復の関係を示したマップ)を参考にして、それぞれの面積比を求める。
【0051】
図7,図8は遠心式圧縮機C3の空気Aの流れを示した模式図であり、図7が抽気孔列31Aを示しており、図8が抽気孔列31Bを示している。また、図9,図10は遠心式圧縮機C3の比較対象C3´の空気Aの流れを示した模式図であり、図9が抽気孔列31A´を示しており、図10が抽気孔列31B´を示している。なお、図9及び図10に示した比較対象C3´は、抽気孔列31A´の抽気孔61A´及び抽気孔列31B´の抽気孔61B´を、抽気孔61Bと同一の面積比で形成したものである。また、図7〜図10における濃淡表示は、濃淡表示が濃いほど圧力が大きく、濃淡表示が淡いほど圧力が小さいことを示している。
【0052】
上述したように、空気Aは、抽気孔列31A(31A´)における主流の静圧と比べて、抽気孔列31B(31B´)における主流の静圧が大きくなる。
図9に示すように、比較対象C3´においては、抽気孔列31A´の抽気孔61A´が比較的に小さい面積比で形成されており、要求される静圧回復力を満たすことができない。このため、抽気孔61A´内において圧力損失が生じて、抽気室3´から流路25a´に向けて空気Aが逆流してしまっている。
なお、図10に示すように、抽気孔列31B´の抽気孔61B´においては、圧力損失を生じさせることなく、流路25a´から抽気室3´に向けて空気Aが流れている。
【0053】
これに対して、遠心式圧縮機C3は、抽気孔列31Aの抽気孔61Aが比較的に大きい面積比で形成されていることから、抽気孔列31Aの抽気孔61Aで十分に静圧を回復させることができ、抽気孔61Aにおいて圧力損失を生じさせない。このため、図7に示すように、抽気室3から流路25aに向けて空気Aが逆流せず、抽気室3が高圧に維持される。
なお、図8に示すように、抽気孔列31Bの抽気孔61Bにおいても圧力損失を生じさせることなく、流路25aから抽気室3に向けて空気Aが流れる。
【0054】
図11は遠心式圧縮機C3及び比較対象C3´の抽気量と抽気室圧力との関係を示す抽気量−抽気室圧力グラフである。図11においては、実線で示したグラフが遠心式圧縮機C3を示し、破線で示したグラフが比較対象C3´を示している。
図11に示すように、遠心式圧縮機C3と比較対象C3´とが互いに同一の抽気量であったとしても、抽気孔列31Aの抽気孔61Aで十分に静圧を回復させる遠心式圧縮機C3の方が、ほぼ全ての抽気量において、比較対象C3´に比べて抽気室圧力が高くなっている。
【0055】
本実施形態の遠心式圧縮機C3によれば、抽気孔列31Aにおける抽気孔61Aの面積比を、抽気孔列31Bにおける抽気孔61Bの面積比よりも大きく設定しているので、要求静圧回復量に応じて、抽気孔61Aで空気Aの動圧を十分に静圧に回復をさせることができる。これにより、空気Aの動圧を十分に静圧に回復させ、また、抽気孔61Aにおいて圧力損失が生じることを抑制するので、抽気室3を高圧に維持することができる。
【0056】
なお、上述した実施の形態において示した動作手順、あるいは各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
例えば、上述した実施形態においては、抽気孔41,51,61の各断面形状を真円状に形成したが、他の形状(例えば、楕円状や多角形状)に形成してもよい。なお、多角形状に形成する場合には、角部をR状に形成するのが望ましい。
【0057】
また、上述した実施形態においては、抽気孔列31の主軸方向の位置を、シュラウド21aの上流円筒部21p側(板厚部21c)に形成したが、抽気孔列31を円周方向の外周側から中心側を見た場合において回転翼14の前縁に重なる位置に形成してもよい。すなわち、各回転翼14側の先端付近においては、局所的に上流へ向けて空気Aが逆流して流れることがある。この空気Aの流れは、旋回失速の誘因となるが、回転翼14の前縁に重なる位置に抽気孔列31を形成することで、上記の旋回失速の誘因となる空気Aの流れを抽気室3へ吸い取ることができることから、旋回失速の発生を防止することが可能となり、遠心式圧縮機C3の運転域を拡大させることができる。
【0058】
同様に、抽気孔列31の主軸方向の位置を、円周方向の外周側から中心側を見た場合に、回転翼14の前縁下流域に形成してもよい。すなわち、前縁下流域には、回転翼14の先端とシュラウド21aの内周面との間においてロータ1の回転方向逆側に流れる空気Aのチップクリアランス流れが生じることがある。このチップクリアランス流れは、空気Aの主流と干渉して、主流に低速領域を形成してしまうことがあるが、抽気孔列31の主軸方向の位置を前縁下流域に合わせて形成することで、主流の低速領域を抽気室3に吸い出すことができるので、遠心式圧縮機C3の圧縮機効率を向上させることができる。
【0059】
また、上述した実施形態においては、抽気孔41,51,61の抽気孔出口(41b)51b,61bを抽気室3に直に連通させる構成としたが、配管(連通部)等を介して抽気室3に連通させてもよい。
【0060】
また、上述した実施形態においては、抽気孔列31を二つ設ける構成としたが、三つ以上設ける構成としてもよい。
また、上述した実施形態においては、シュラウド21aを鋳造によって形成したが、他の製造方法で形成してもよい。また、上述した実施形態においては、各抽気孔41を放電加工で形成したが、他の加工方法(例えば機械加工)によって形成してもよい。
【0061】
また、上述した実施形態においては、抽気孔列31A,31Bを互いの抽気孔41,51,61を半ピッチずらして千鳥状に設けたが、同ピッチにしても構わないし、他のピッチでずらしても構わない。
【0062】
また、上述した実施形態においては、シュラウド21aに沿って抽気室3と抽気孔列31を形成したが、例えば、ケーシング21の下流円筒部21qに抽気室3と抽気孔列31とを形成してもよい。なお、流路25bのうち空気Aの主流が主軸方向に流れる位置に形成しても構わない。
【0063】
また、上述した実施形態では、作動流体が空気Aの場合について本発明を適用したが、作動流体がエチレンガス等のプロセスガスや、水等の液体である場合にも本発明を良好に適用することができる。
【0064】
また、上述した実施形態では、遠心式圧縮機C1,C2,C3に本発明を適用したが、軸流式圧縮機に本発明を適用してもよいし、タービンやポンプの回転機械に本発明を適用してもよい。
【符号の説明】
【0065】
1…ロータ
2…ステータ
3…抽気室(抽気部)
3a…配管
11…ロータシャフト
12…インペラ
13…ハブ
13a…案内面
14…回転翼
21…ケーシング
21a…シュラウド(仕切壁)
25(25a,25b)…流路
31(31A,31B)…抽気孔列(抽気連通部)
41,51…抽気孔
51b,61b…スロート部(作動流体入口)
51c,61c…開口部(作動流体出口)
53…拡径部
61(61A,61B)…抽気孔
63…拡径部
A…空気(作動流体)
C1,C2,C3…遠心式圧縮機(回転機械)
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転機械の抽気構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ガスタービンにおいては、圧縮機から抽気した高圧空気をタービン側に供給して構成部材の冷却や構成部材間のシールを図るものがある。
【0003】
例えば、下記特許文献1には、遠心式圧縮機において、ロータが備えるインペラの周囲に沿って延びるシュラウドの外側に抽気室を形成すると共に、シュラウドにロータの円周方向に延びるスリット状の抽気連通部を形成し、この抽気連通部を介して主流の一部を抽気室に抽気して高圧空気をガスタービンエンジンの各部位へ供給する構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平3−260336号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、従来の技術においては、スリット幅を大きくすると翼端部の流れが乱され局所的に翼負荷が低下してしまうため、圧縮機効率が低下してしまう。このため、主流の一部を抽気するスリット状の抽気連通部に代えて、シュラウドを貫通する抽気孔を周状に一列に配列してなる抽気孔列を用いる構成が考えられる。すなわち、抽気孔列は、スリットに比べて構造的不連続部が小さくなるので、圧縮機効率低下を抑制することが可能となる。
【0006】
しかしながら、抽気孔列を採用した構成においては、抽気孔を流れる作動流体の流速が大きくなると、抽気孔内でチョークが発生して圧力損失が生じてしまい、抽気室の圧力が低下してしまう。このため、回転機械が複数の運転条件で稼動される場合において異なる抽気条件が存在するときには、最もチョークが発生し易い最大抽気条件に合わせて孔断面積を大きく確保する必要がある。そのため、相対的にチョークが発生し難い抽気条件においては、孔断面積を小さくして圧縮機効率やサイクル効率を向上させる余地があるにも関わらず、最大抽気条件に合わせて孔断面積を大きく確保する必要があるので、圧縮機効率やサイクル効率の向上が制限されてしまうという問題があった。
【0007】
本発明は、このような事情を考慮してなされたもので、回転機械の抽気部においてチョークの発生などによる圧力損失を抑制し、かつ、圧縮機効率やサイクル効率の向上を図ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を採用している。
すなわち、本発明に係る回転機械の抽気構造は、複数の回転翼を有するロータと、前記ロータの周囲に設けられ、作動流体の主流の流路を前記ロータと共に画定するステータと、前記ステータの仕切壁を介在させて前記流路に隣接して設けられ、前記仕切壁に形成された抽気連通部を介して、前記主流から抽気された前記作動流体が導入される抽気部と、を有する回転機械の抽気構造であって、前記抽気連通部は、前記仕切壁を貫通する抽気孔が前記ロータの円周方向に複数配列されてなる抽気孔列を、少なくとも二つ有することを特徴とする。
このようにすれば、抽気連通部が抽気孔列を少なくとも二つ有しているので、抽気孔列を一つ設けた構成に比べて、抽気部へ抽気される作動流体の総量が同一である場合において、抽気孔一つ当たりの作動流体の流量が小さくなる。これにより、最大抽気条件において作動流体が音速を超えない抽気孔の最小孔断面積を小さくすることができ、他の抽気条件においてサイクル効率が向上するように抽気孔の孔断面積を小さく設定したとしても、最小孔断面積を下回り難くなる。従って、最大抽気条件においてチョークの発生を抑制すると共に、かつ、他の抽気条件においてサイクル効率の向上を図ることができる。
【0009】
また、前記複数の抽気孔列のうちの互いに隣接する二つの前記抽気孔列は、一方における前記抽気孔が他方における前記抽気孔に対してずらされて、千鳥状に設けられていることを特徴とする。
このようにすれば、互いに隣接する二つの抽気孔列の相互の抽気孔を千鳥配置にすることにより、相互の抽気孔を近接させることが可能となる。これにより、互いに隣接する二つの抽気孔列のそれぞれの位置における主流の静圧がほぼ同程度となり、これら二つの抽気孔列の各抽気孔において、抽気部と主流との静圧の差を同程度とすることができる。従って、二つの抽気孔列の各抽気孔において、要求される静圧回復量が過大になることを抑制するので、圧力損失の発生を抑制することができる。
【0010】
また、前記抽気孔は、前記流路側から前記抽気部側に向かうに従って漸次拡径する拡径部を有することを特徴とする。
このようにすれば、拡径部を備えるので、流路の主流から抽気した作動流体の動圧を静圧に変換することができる。これにより、作動流体の動圧が失われることを抑制するので、抽気部の圧力を高圧に維持することができる。従って、同一流量を抽気する条件であっても圧縮機からの抽気位置を上流に移動させ、低い圧力の流体を抽気することができるため、回転機械のサイクル効率を更に向上させることができる。
【0011】
また、前記主流は、前記主流の流れ方向に圧力勾配を有し、前記拡径部の作動流体入口の孔断面積に対する前記拡径部の作動流体出口の孔断面積の比を面積比と定義した際に、前記主流の下流側における前記抽気孔列の抽気孔に比べて、前記主流の上流側における前記抽気孔列の抽気孔の方が、前記面積比が大きく設定されていることを特徴とする。
このようにすれば、主流上流側の抽気孔列における抽気孔の面積比を、主流下流側の抽気孔列における抽気孔の面積比よりも大きく設定しているので、要求される静圧回復量に応じて、主流上流側の抽気孔列の抽気孔で作動流体の動圧を十分に静圧に回復させることができる。これにより、抽気孔において発生する圧力損失を小さく抑え、抽気部を高圧に維持することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る回転機械によれば、チョークの発生等による抽気部での圧力損失を抑制し、かつ、圧縮機効率やサイクル効率の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第一実施形態に係る遠心式圧縮機C1の要部を拡大した子午断面図である。
【図2】本発明の第一実施形態において図1のI−I線矢視図である。
【図3】本発明の第一実施形態において図2のII−II線断面図である。
【図4】本発明の第二実施形態に係る遠心式圧縮機C2の要部断面図である。
【図5】本発明の第二実施形態に係る遠心式圧縮機C2の要部拡大断面図であって、抽気孔51を拡大して示している。
【図6】本発明の第三実施形態に係る遠心式圧縮機C3の要部断面図である。
【図7】本発明の第三実施形態に係る遠心式圧縮機C3の空気Aの流れを示した模式図であって、抽気孔列31Aを示したものである。
【図8】本発明の第三実施形態に係る遠心式圧縮機C3の空気Aの流れを示した模式図であって、抽気孔列31Bを示したものである。
【図9】本発明の第三実施形態に係る遠心式圧縮機C3の比較対象C3´の空気Aの流れを示した模式図であって、抽気孔列31A´を示したものである。
【図10】本発明の第三実施形態に係る遠心式圧縮機C3の比較対象C3´の空気Aの流れを示した模式図であって、抽気孔列31B´を示したものである。
【図11】本発明を適用した場合の抽気室の圧力の変化を示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照し、本発明の実施形態について説明する。
「第一実施形態」
図1は、本発明の第一実施形態に係る遠心式圧縮機(回転機械)C1の要部を拡大した子午断面図である。この遠心式圧縮機C1は、航空機用のものであって高圧の空気(作動流体)Aを生成して燃焼器(不図示)に供給する。
図1に示すように、遠心式圧縮機C1は、ロータ1と、ロータ1の周囲に設けられたステータ2とを有している。
【0015】
ロータ1は、回転自在に支持されたロータシャフト11と、ロータシャフト11に取り付けられたインペラ12とを有している。
ロータシャフト11は、ロータシャフト11の中心軸P周りに回転自在に、不図示の軸受Sに支持されている。なお、以下の説明においては、中心軸Pの延在方向を「主軸方向」と、ロータシャフト11の周方向を「円周方向」、ロータシャフト11の半径方向を「主半径方向」という。
【0016】
インペラ12は、円盤状に形成されたハブ13と、ハブ13から延出する回転翼14とを有している。
ハブ13は、主軸方向の一方側から他方側に進むに従って、延在方向が次第に主軸方向から主半径方向に変化する案内面13aを有している。このハブ13は、ロータシャフト11に同軸状に取り付けられている。
回転翼14は、案内面13aの法線方向に向けて案内面13aから延出しており、円周方向に間隔を空けて複数設けられている。回転翼14は、図1に示すように、子午断面において、その先端(チップ)14aの延在方向を主軸方向から主半径方向の外周側に変化させる。
【0017】
ステータ2は、ケーシング21と、内側隔壁部材22とを有している。
ケーシング21は、中心軸P周りに延びてロータ1の周囲を囲っている。ケーシング21は、図1に示すように、主軸方向の一方側から中心軸Pに沿って円筒状に延びる上流円筒部21pと、上流円筒部21pに続いて形成され、回転翼14の先端に沿うように拡径して端部を主半径方向の外周側に向けるシュラウド(仕切壁)21aと、シュラウド21aに続いて形成され、主半径方向において外周側に向けて延びた後に屈曲し、再び中心軸Pに沿って軸方向他方側に向けて円筒状に延びる下流円筒部21qとを有している。
【0018】
シュラウド21aの、上流円筒部21p側には板厚寸法が大きく設定された板厚部21cが形成されている。
【0019】
内側隔壁部材22は、中心軸P周りに延びてロータ1の周囲を囲っており、図1において、ハブ13の案内面13aの裏面13b側からシュラウド21aの外周端に向けて延びた後に、ケーシング21に沿って延びている。
【0020】
このようなステータ2は、ロータ1と共に空気Aの流路25を画定している。この流路25の一部は、図1に示すように、シュラウド21aとインペラ12との間に画定された流路25aと、ケーシング21の下流円筒部21qと内側隔壁部材22との間に画定された流路25bとが連通することによって構成されている。なお、流路25bには、ラジアルディフューザ26と、アキシャルディフューザ27とが配設されている。
【0021】
この遠心式圧縮機C1は、流路25aの外側に抽気室3が画定されている。
抽気室3は、シュラウド21aと、このシュラウド21aに接続されてシュラウド21aと共に閉断面を形成する隔壁21bとで画定されており、円周方向において円環状に延びている。換言すれば、この抽気室3は、シュラウド21aを介在させて流路25aに隣接している。
【0022】
抽気室3には、板厚部21cにおいて形成された二つの抽気孔列(抽気連通部)31を介して、流路25aを流れる空気Aが抽気されて導入される。
【0023】
図2は図1のI−I線矢視図であり、図3は図2のII−II線断面図である。
図2及び図3に示すように、二つの抽気孔列31は、互いに沿って並設されており、それぞれが、複数の抽気孔41が円周方向に配列されることで構成されている。
【0024】
複数の抽気孔41は、図1に示すように、それぞれ、シュラウド21a(より具体的には板厚部21c)を貫通して流路25aと抽気室3とを連通させている。これらの抽気孔41は、それぞれ、断面形状が真円状に形成されており(図2参照)、図3に示すように、流路25a側から抽気室3側に進むに従ってロータ1の回転方向に向かうように、傾斜して延びている。また、これらの抽気孔41は、二つの抽気孔列31のそれぞれにおいて、略同径に形成されている。以下の説明においては、二つの抽気孔列31のうち主流上流側を「抽気孔列31A」と、主流下流側を「抽気孔列31B」と呼称して双方を区別する場合がある。なお、図1において、二点鎖線の白抜き矢印で空気Aの主流を示す。
【0025】
二つの抽気孔列31は、図2に示すように、抽気孔列31Aの抽気孔41と、抽気孔列31Bの抽気孔41との配列ピッチが、相互に半ピッチ分だけずらされており、全体的に見て千鳥状に形成されている。そして、抽気孔列31Aと抽気孔列31Bとは、互いの抽気孔41の主軸方向における中心間距離が、各抽気孔41の孔径(孔直径)と略同一の大きさに設定されている。
【0026】
この抽気室3に抽気された空気Aは、図1に示すように、航空機の運転状態(IDLE/離陸/巡航/高空飛行/着陸等)に応じて、配管3aを介して軸受Sに供給されてシールや防氷に用いられたり、タービンTに供給されてタービン構成部材のシールや冷却に用いられたりする。
【0027】
各抽気孔41は、本実施形態においては、鋳造によって形成されたシュラウド21aに、放電加工で形成している。
また、本実施形態においては、抽気孔41の孔断面積(孔径)を、航空機の巡航状態における抽気条件(抽気量…主流から抽気室3へ抽気される空気Aの総量)に合わせて、遠心式圧縮機C1の効率が向上する大きさに設定され、また、航空機の運転状態において最大となる抽気条件(抽気量)で、抽気孔41にチョークが生じない孔断面積(抽気した空気Aが音速を超えない孔断面積)に設定されている。
【0028】
次いで、遠心式圧縮機C1の作用について、図を用いて説明する。
まず、図1に示すように、空気Aの主流は、主軸方向の一方側から流路25aに流入し、流路25aを流れる過程において、回転翼14によって動圧及び静圧が高められる。そして、流路25aから流路25bに流出した主流は、流路25bを流れる過程において動圧が静圧に変換される。
【0029】
流路25aを流れる空気Aの主流の一部は、流路25aよりも相対的に圧力が低い抽気室3に向けて抽気孔列31A,31Bの各抽気孔41に流入する。各抽気孔41に流入した空気Aは、抽気孔41から抽気室3に流出する。
【0030】
この際、抽気孔列31A,31Bを介して、巡航状態における抽気条件(抽気量)を必要十分に満たす空気Aが抽気室3に流入する。この際、各抽気孔41を流れる空気Aは、単位時間当たりの流量Q=Q1、流速V=V1となる。また、巡航状態において、必要十分な空気Aが抽気室3に流入することにより、主流の流量を不必要に低減させず、高いサイクル効率で遠心式圧縮機C1が稼働する。
【0031】
一方、航空機の離陸時においては、主流から抽気室3への抽気量が増大する。
この際、各抽気孔41においては、空気Aの流量Qが増加して流量Q=Q2(Q2>Q1)、流速V=V2(V2>V1)となる。各抽気孔41を流れる空気Aは、チョークを発生させないで抽気室3に安定して導入される。
【0032】
ここで、仮に抽気孔列31A,31Bを一列だけ設けた場合には、離陸状態において、各抽気孔41に空気Aが流量Q=2Q2だけ流れる。このため、離陸状態(最大抽気条件)において空気Aが音速を超えない抽気孔41の最小孔断面積αが比較的に大きくなってしまう(α=αa)。従って、巡航状態においてサイクル効率が向上するように抽気孔41の孔断面積を設定すると、最小孔断面積α=αaを下回り、離陸状態(最大抽気条件)において空気Aの速度が音速を超えてしまってチョークを生じさせる恐れが高くなる。
【0033】
これに対して、本実施形態においては、二つの抽気孔列31A,31Bを設けて、各抽気孔41に流れる空気Aを流量Q=Q2に抑えるので、最小孔断面積αを比較的に小さくすることができる(α=αb,αb<αa)。このため、巡航状態においてサイクル効率が向上するように抽気孔41の孔断面積を小さく設定したとしても、最小孔断面積α=αb(αb<αa)を下回り難い。よって、離陸状態(最大抽気条件)において空気Aの速度が音速を超え難く、チョークが生じ難くなる。
各抽気孔41から抽気室3に向けて流出した空気Aは、配管3aを介して軸受SやタービンTに供給される。
【0034】
以上説明したように、遠心式圧縮機C1においては、二つの抽気孔列31が設けられているので、抽気孔列31を一つ設けた場合に比べて、抽気孔41の最小孔断面積αを小さくすることができる。これにより、巡航状態においてサイクル効率が向上するように抽気孔41の孔断面積を小さく設定したとしても、最小孔断面積α=αb(αb<αa)を下回り難くなる。従って、最大抽気条件である離陸状態においてチョークの発生を抑制することができ、かつ、効率保証点である巡航状態においてサイクル効率の向上を図ることができる。
【0035】
また、上述したように、空気Aの主流は、その流れ方向に上流から下流に向けて静圧が大きくなる圧力勾配を有することから、抽気孔列31Aの位置における主流の静圧と比べて、抽気孔列31Bの位置における主流の静圧が大きくなる。
ここで、抽気室3の静圧は空気Aの主流の流れ方向に沿ってほぼ同程度になっているので、抽気孔列31Aの抽気孔41は、抽気孔列31Bの抽気孔41に比べて、空気Aの静圧を大きく回復させることが要求される。しかしながら、抽気孔列31Aの抽気孔41において要求静圧回復量を満足させないと、抽気孔41の空気Aの流れに剥離が生じて圧力損失が生じてしまう。
そして、抽気孔列31Aと抽気孔列31Bとが離間するほど主流の静圧の差分が大きくなるから、抽気孔列31Bに対して抽気孔列31Aの要求静圧回復量が大きくなり、圧力損失が生じ易くなる。
【0036】
本実施形態においては、抽気孔列31A,31Bとの相互の抽気孔41を千鳥配置にすることにより、相互の主軸方向の中心間距離を抽気孔41の孔径程度に近接させているので、抽気孔列31A,31Bのそれぞれの位置における主流の静圧がほぼ同程度となり、抽気孔列31A,31Bの各抽気孔41において抽気室3と主流との静圧の差を同程度とする。従って、抽気孔列31Aと抽気孔列31Bの要求静圧回復量を同程度とすることで、圧力損失が生じることを抑えることができる。
【0037】
「第二実施形態」
続いて、本発明の第二実施形態について説明する。
図4は本発明の第二実施形態に係る遠心式圧縮機(回転機械)C2の要部断面図であり、図5は遠心式圧縮機C2の要部拡大断面図である。なお、以下の説明及び以下の説明で用いる図面において、上述した実施形態と同様の構成要素については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0038】
遠心式圧縮機C2の構成は、上述した第一実施形態の遠心式圧縮機C1の構成とほぼ同様であるが、遠心式圧縮機C1の抽気孔列31A,31Bが抽気孔41で構成されていたのに対して、図4に示すように、遠心式圧縮機C2の抽気孔列31A,31Bが抽気孔51で構成されている点で相違する。
【0039】
抽気孔51は、図5に示すように、流路25a側に形成された定径部52と、抽気室3側に形成された拡径部53とを有している。ここで、定径部52は、流路25a側において抽気孔51の中心軸Jに直交する孔断面が最初に閉断面を構成する開口部51aから、拡径部53との境界であるスロート部(作動流体入口)51bまでをいう。
【0040】
定径部52は、図5に示すように、第一実施形態の抽気孔41の孔径よりも小さい孔径で形成されており、開口部51aから抽気孔51の長手方向の寸法の半分よりも小さい寸法に設定されている。この定径部52は、その長手方向の寸法を、定径部52の孔径よりも大きく設定するのが望ましい。また、抽気孔51の中心軸Jが、当該中心軸Jに交差するシュラウド21aの内周接線に対して形成する設置角は、回転翼14の先端における空気Aの絶対流れ角と略等しくなるように形成するのが望ましい。
【0041】
拡径部53は、図5に示すように、定径部52との境界であるスロート部51bから、抽気室3側において中心軸Jに直交する孔断面が最後に閉断面を構成する開口部(作動流体出口)51cまでをいう。
この拡径部53は、スロート部51bから開口部51cに向かうに従って漸次拡径している。
この拡径部53は、その長手方向の寸法を、スロート部51b(定径部52)の孔径の二倍以上に設定するのが望ましい。また、抽気孔51の中心軸Jに沿った断面の、抽気孔51の内周面の断面輪郭において、定径部52の延在方向に対して拡径部53の延在方向が形成する拡がり角θを2〜6°に設定するのが望ましい。
【0042】
本実施形態の遠心式圧縮機C2によれば、拡径部53を備えるので、流路25aの主流から抽気した空気Aの動圧を静圧に変換することができる。これにより、空気Aが抽気室3に流入した際に動圧が失われることを抑制するので、抽気室3の圧力を高圧に維持することができる。従って、抽気量を抑えることができ、サイクル効率を更に向上させることができる。また、本実施形態においては、抽気孔51の孔径を抽気孔41の孔径よりも小さく設定しているが、第一実施形態で説明したように、各抽気孔51に流れる流量QがQ=Q2となるので、流速Vが過大になり難く、定径部52においてチョークが生じることを抑えることができる。
【0043】
また、空気Aの動圧を効率的に静圧に変換するので、回転翼14によって圧力が高められた流路25aの下流側の空気Aを抽気しないで、抽気室3の圧力を維持することが可能である。これにより、抽気孔列31の位置を本実施形態のように流路25aの上流側に設定することができる。従って、設計の自由度を向上させることができると共に、サイクル効率を高めることができる。
【0044】
また、抽気室3の圧力を比較的に高めに維持することで、タービン構成部材のシールや冷却に使用する空気Aの供給圧を比較的に高くすることができるので、シール部分に燃焼ガスが流れ込んだり、タービン構成部材が過熱したりすることを十分に抑制することができる。これにより、タービンTの信頼性を向上させることができる。
【0045】
また、抽気室3の圧力を比較的に高めに維持することで、軸受Sに供給するオイルが主流に漏れ出すのを防ぐシール空気の圧力を高くすることができるので、軸受Sに油切れが生じる可能性を低下させて軸受Sの信頼性を向上させることができる。同様に、防氷空気の供給圧を高くすることができるので、圧縮機入口部などに氷結が発生する可能性を低下させて遠心式圧縮機Cの信頼性を向上させることができる。
【0046】
「第三実施形態」
続いて、本発明の第三実施形態について説明する。
図6は本発明の第三実施形態に係る遠心式圧縮機(回転機械)C3の要部断面図である。なお、以下の説明及び以下の説明で用いる図面において、上述した実施形態と同様の構成要素については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0047】
遠心式圧縮機C3の構成は、上述した第二実施形態の遠心式圧縮機C2の構成とほぼ同様であるが、遠心式圧縮機C2の抽気孔列31A,31Bが抽気孔51で構成されていたのに対して(図4参照)、図6に示すように、抽気孔列31Aが抽気孔61Aで,抽気孔列31Bが抽気孔61Bで構成されている点で相違する。
【0048】
抽気孔61A,61Bは、それぞれの拡径部63のスロート部(作動流体入口)61bの孔断面積に対する開口部(作動流体出口)61cの孔断面積の比を面積比(作動流体出口の孔断面積/作動流体入口の孔断面積)と定義した際に、抽気孔61Bの面積比に比べて抽気孔61Aの面積比が大きく設定されている。
【0049】
上述したように、空気Aの主流は、流れ方向において静圧が大きくなる圧力勾配を有することから、抽気孔列31Aにおける主流の静圧と比べて、抽気孔列31Bにおける主流の静圧が大きくなる。そして、抽気室3の静圧が空気Aの主流の流れ方向に沿ってほぼ同程度になっているので、抽気孔61Bよりも抽気孔61Aのほうが要求静圧回復量が大きく回復させなければならない。
すなわち、抽気孔列31A及び抽気孔列31Bの、それぞれに要求される要求静圧回復量に対応させて、抽気孔61Bに比べて抽気孔61Aの面積比を大きくしている。つまり、相対的に要求静圧回復量が大きくなる抽気孔61Aにおいて、局所的な剥離や逆流が生じることを防ぐために、抽気孔61Bに比べて抽気孔61Aの静圧回復量を大きくしている。
【0050】
この抽気孔61A,61Bの面積比は、以下のようにして定めている。
まず、構造側の要求(板厚部21c等の寸法)から、拡径部63の面積比(面積拡大率)の上限を決める。
次に、拡径部63の面積比の上限から拡径部63の静圧回復係数Cpを求める。ここで、Cp=(抽気孔61の出口(開口部61c)における静圧−抽気孔61の入口(開口部61a)の静圧)/抽気孔61の入口の動圧、である。
次に、抽気孔列31A及び抽気孔列31Bのうち、孔面積を拡大させ易い(シュラウド21aの板厚を確保し易い)一方の抽気孔61の静圧回復係数Cpを、求めた静圧回復係数Cpとする。
次に、抽気孔列31A及び抽気孔列31Bのそれぞれの位置の主流の圧力を、実験や解析によって取得する。
次に、抽気孔列31A及び抽気孔列31Bのうち、他方の抽気孔61の静圧回復係数Cpを、抽気室3の圧力が等しくなるように定める。
最後に、抽気孔列31Aの抽気孔61Aと抽気孔列31Bの抽気孔61Bとのそれぞれの静圧回復係数Cpから、ディフューザマップ(ディフューザの形状と静圧回復の関係を示したマップ)を参考にして、それぞれの面積比を求める。
【0051】
図7,図8は遠心式圧縮機C3の空気Aの流れを示した模式図であり、図7が抽気孔列31Aを示しており、図8が抽気孔列31Bを示している。また、図9,図10は遠心式圧縮機C3の比較対象C3´の空気Aの流れを示した模式図であり、図9が抽気孔列31A´を示しており、図10が抽気孔列31B´を示している。なお、図9及び図10に示した比較対象C3´は、抽気孔列31A´の抽気孔61A´及び抽気孔列31B´の抽気孔61B´を、抽気孔61Bと同一の面積比で形成したものである。また、図7〜図10における濃淡表示は、濃淡表示が濃いほど圧力が大きく、濃淡表示が淡いほど圧力が小さいことを示している。
【0052】
上述したように、空気Aは、抽気孔列31A(31A´)における主流の静圧と比べて、抽気孔列31B(31B´)における主流の静圧が大きくなる。
図9に示すように、比較対象C3´においては、抽気孔列31A´の抽気孔61A´が比較的に小さい面積比で形成されており、要求される静圧回復力を満たすことができない。このため、抽気孔61A´内において圧力損失が生じて、抽気室3´から流路25a´に向けて空気Aが逆流してしまっている。
なお、図10に示すように、抽気孔列31B´の抽気孔61B´においては、圧力損失を生じさせることなく、流路25a´から抽気室3´に向けて空気Aが流れている。
【0053】
これに対して、遠心式圧縮機C3は、抽気孔列31Aの抽気孔61Aが比較的に大きい面積比で形成されていることから、抽気孔列31Aの抽気孔61Aで十分に静圧を回復させることができ、抽気孔61Aにおいて圧力損失を生じさせない。このため、図7に示すように、抽気室3から流路25aに向けて空気Aが逆流せず、抽気室3が高圧に維持される。
なお、図8に示すように、抽気孔列31Bの抽気孔61Bにおいても圧力損失を生じさせることなく、流路25aから抽気室3に向けて空気Aが流れる。
【0054】
図11は遠心式圧縮機C3及び比較対象C3´の抽気量と抽気室圧力との関係を示す抽気量−抽気室圧力グラフである。図11においては、実線で示したグラフが遠心式圧縮機C3を示し、破線で示したグラフが比較対象C3´を示している。
図11に示すように、遠心式圧縮機C3と比較対象C3´とが互いに同一の抽気量であったとしても、抽気孔列31Aの抽気孔61Aで十分に静圧を回復させる遠心式圧縮機C3の方が、ほぼ全ての抽気量において、比較対象C3´に比べて抽気室圧力が高くなっている。
【0055】
本実施形態の遠心式圧縮機C3によれば、抽気孔列31Aにおける抽気孔61Aの面積比を、抽気孔列31Bにおける抽気孔61Bの面積比よりも大きく設定しているので、要求静圧回復量に応じて、抽気孔61Aで空気Aの動圧を十分に静圧に回復をさせることができる。これにより、空気Aの動圧を十分に静圧に回復させ、また、抽気孔61Aにおいて圧力損失が生じることを抑制するので、抽気室3を高圧に維持することができる。
【0056】
なお、上述した実施の形態において示した動作手順、あるいは各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
例えば、上述した実施形態においては、抽気孔41,51,61の各断面形状を真円状に形成したが、他の形状(例えば、楕円状や多角形状)に形成してもよい。なお、多角形状に形成する場合には、角部をR状に形成するのが望ましい。
【0057】
また、上述した実施形態においては、抽気孔列31の主軸方向の位置を、シュラウド21aの上流円筒部21p側(板厚部21c)に形成したが、抽気孔列31を円周方向の外周側から中心側を見た場合において回転翼14の前縁に重なる位置に形成してもよい。すなわち、各回転翼14側の先端付近においては、局所的に上流へ向けて空気Aが逆流して流れることがある。この空気Aの流れは、旋回失速の誘因となるが、回転翼14の前縁に重なる位置に抽気孔列31を形成することで、上記の旋回失速の誘因となる空気Aの流れを抽気室3へ吸い取ることができることから、旋回失速の発生を防止することが可能となり、遠心式圧縮機C3の運転域を拡大させることができる。
【0058】
同様に、抽気孔列31の主軸方向の位置を、円周方向の外周側から中心側を見た場合に、回転翼14の前縁下流域に形成してもよい。すなわち、前縁下流域には、回転翼14の先端とシュラウド21aの内周面との間においてロータ1の回転方向逆側に流れる空気Aのチップクリアランス流れが生じることがある。このチップクリアランス流れは、空気Aの主流と干渉して、主流に低速領域を形成してしまうことがあるが、抽気孔列31の主軸方向の位置を前縁下流域に合わせて形成することで、主流の低速領域を抽気室3に吸い出すことができるので、遠心式圧縮機C3の圧縮機効率を向上させることができる。
【0059】
また、上述した実施形態においては、抽気孔41,51,61の抽気孔出口(41b)51b,61bを抽気室3に直に連通させる構成としたが、配管(連通部)等を介して抽気室3に連通させてもよい。
【0060】
また、上述した実施形態においては、抽気孔列31を二つ設ける構成としたが、三つ以上設ける構成としてもよい。
また、上述した実施形態においては、シュラウド21aを鋳造によって形成したが、他の製造方法で形成してもよい。また、上述した実施形態においては、各抽気孔41を放電加工で形成したが、他の加工方法(例えば機械加工)によって形成してもよい。
【0061】
また、上述した実施形態においては、抽気孔列31A,31Bを互いの抽気孔41,51,61を半ピッチずらして千鳥状に設けたが、同ピッチにしても構わないし、他のピッチでずらしても構わない。
【0062】
また、上述した実施形態においては、シュラウド21aに沿って抽気室3と抽気孔列31を形成したが、例えば、ケーシング21の下流円筒部21qに抽気室3と抽気孔列31とを形成してもよい。なお、流路25bのうち空気Aの主流が主軸方向に流れる位置に形成しても構わない。
【0063】
また、上述した実施形態では、作動流体が空気Aの場合について本発明を適用したが、作動流体がエチレンガス等のプロセスガスや、水等の液体である場合にも本発明を良好に適用することができる。
【0064】
また、上述した実施形態では、遠心式圧縮機C1,C2,C3に本発明を適用したが、軸流式圧縮機に本発明を適用してもよいし、タービンやポンプの回転機械に本発明を適用してもよい。
【符号の説明】
【0065】
1…ロータ
2…ステータ
3…抽気室(抽気部)
3a…配管
11…ロータシャフト
12…インペラ
13…ハブ
13a…案内面
14…回転翼
21…ケーシング
21a…シュラウド(仕切壁)
25(25a,25b)…流路
31(31A,31B)…抽気孔列(抽気連通部)
41,51…抽気孔
51b,61b…スロート部(作動流体入口)
51c,61c…開口部(作動流体出口)
53…拡径部
61(61A,61B)…抽気孔
63…拡径部
A…空気(作動流体)
C1,C2,C3…遠心式圧縮機(回転機械)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の回転翼を有するロータと、
前記ロータの周囲に設けられ、作動流体の主流の流路を前記ロータと共に画定するステータと、
前記ステータの仕切壁を介在させて前記流路に隣接して設けられ、前記仕切壁に形成された抽気連通部を介して、前記主流から抽気された前記作動流体が導入される抽気部と、を有する回転機械の抽気構造であって、
前記抽気連通部は、前記仕切壁を貫通する抽気孔が前記ロータの円周方向に複数配列されてなる抽気孔列を、少なくとも二つ有することを特徴とする回転機械の抽気構造。
【請求項2】
前記複数の抽気孔列のうちの互いに隣接する二つの前記抽気孔列は、一方における前記抽気孔が他方における前記抽気孔に対してずらされて、千鳥状に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の回転機械の抽気構造。
【請求項3】
前記抽気孔は、前記流路側から前記抽気部側に向かうに従って漸次拡径する拡径部を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の回転機械の抽気構造。
【請求項4】
前記主流は、前記主流の流れ方向に圧力勾配を有し、
前記拡径部の作動流体入口の孔断面積に対する前記拡径部の作動流体出口の孔断面積の比を面積比と定義した際に、
前記主流の下流側における前記抽気孔列の抽気孔に比べて、前記主流の上流側における前記抽気孔列の抽気孔の方が、前記面積比が大きく設定されていることを特徴とする請求項3に記載の回転機械の抽気構造。
【請求項1】
複数の回転翼を有するロータと、
前記ロータの周囲に設けられ、作動流体の主流の流路を前記ロータと共に画定するステータと、
前記ステータの仕切壁を介在させて前記流路に隣接して設けられ、前記仕切壁に形成された抽気連通部を介して、前記主流から抽気された前記作動流体が導入される抽気部と、を有する回転機械の抽気構造であって、
前記抽気連通部は、前記仕切壁を貫通する抽気孔が前記ロータの円周方向に複数配列されてなる抽気孔列を、少なくとも二つ有することを特徴とする回転機械の抽気構造。
【請求項2】
前記複数の抽気孔列のうちの互いに隣接する二つの前記抽気孔列は、一方における前記抽気孔が他方における前記抽気孔に対してずらされて、千鳥状に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の回転機械の抽気構造。
【請求項3】
前記抽気孔は、前記流路側から前記抽気部側に向かうに従って漸次拡径する拡径部を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の回転機械の抽気構造。
【請求項4】
前記主流は、前記主流の流れ方向に圧力勾配を有し、
前記拡径部の作動流体入口の孔断面積に対する前記拡径部の作動流体出口の孔断面積の比を面積比と定義した際に、
前記主流の下流側における前記抽気孔列の抽気孔に比べて、前記主流の上流側における前記抽気孔列の抽気孔の方が、前記面積比が大きく設定されていることを特徴とする請求項3に記載の回転機械の抽気構造。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−180749(P2012−180749A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−42312(P2011−42312)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】
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