説明

回転直動変換機構及びリフト装置

【課題】回転運動と直線運動を相互に変換しても、高い位置決め精度が得られる回転直動変換機構を提供する。
【解決手段】ロッドのねじ部と噛み合いながら転がる環状溝を外周面に有するローラ環状溝部2aとローラ環状溝部2aをローラ軸2b周りに回転可能に支持するスラスト軸受対2eとを有する複数のローラ2を備え、ローラ軸2bの一端部の外周面上にスラスト軸受対2eに挟まれるように設けられローラ軸2bに一体で凸状のスラスト支持部2e4と、ローラ環状溝部2aの内周面に設けられスラスト軸受対2eの一方を挟んでスラスト支持部2e4に対向する段差面2nと、ローラ環状溝部2aの内周面に外周面が螺合してスラスト軸受対2eの他方を挟んでスラスト支持部2e4に対向し段差面2nとの間隔を変更可能なスラスト対向部2e5と、スラスト対向部2e5に螺合しローラ環状溝部2aに圧接するロックナット2e6を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転運動と直線運動を相互に変換する回転直動変換機構に関し、さらに、モータなどの回転駆動源の回転運動を直線運動に変換し対象物を直線的に駆動するリフト装置に関する。
【背景技術】
【0002】
回転直動変換機構として、外周面にねじ部を有するロッドと、ロッドの外周面に設けられてロッドに対して相対回転可能かつ相対軸移動可能に設けられたホルダ部材と、ホルダ部材に回転可能に支持されて外周面にロッドのねじ部と噛み合う環状溝を有する複数のローラを備え、ローラ(ホルダ部材)の回転を噛み合いによりロッドの直線運動へ変換するものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−120658号公報(図2と図11)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
回転直動変換機構では、例えば、回転運動から直線運動へ変換されたその直線運動において、位置決め精度を高めることが求められている。
【0005】
そこで、本発明の目的は、回転運動と直線運動を相互に変換しても、高い位置決め精度が得られる回転直動変換機構を提供し、さらに、この回転直動変換機構を搭載したリフト装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、外周面にねじ部を有するロッドと、前記ロッドの外周側に設けられるホルダ部材と、前記ロッドに対してねじれの関係になるように前記ホルダ部材に支持された複数のローラとを備え、前記ロッドと前記ホルダ部材の相互の相対回転と相対軸移動を変換可能な回転直動変換機構において、
前記ローラは、
前記ねじ部と噛み合いながら転がる環状溝を外周面に有するローラ環状溝部と、
前記ホルダ部材に両端が支持されるローラ軸と、
前記ローラ環状溝部を前記ローラ軸周りに回転可能に支持する一対のスラスト軸受と、
前記ローラ軸の一端部の外周面上に、前記一対のスラスト軸受に挟まれるように設けられ、前記ローラ軸に一体で凸状のスラスト支持部と、
前記ローラ環状溝部の内周面に設けられ前記一対のスラスト軸受の一方を挟んで前記スラスト支持部に対向する段差面と、
前記ローラ環状溝部の内周面に外周面が螺合して前記一対のスラスト軸受の他方を挟んで前記スラスト支持部に対向し、前記段差面との間隔を変更可能なスラスト対向部とを有することを特徴としている。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、回転運動と直線運動を相互に変換しても、高い位置決め精度が得られる回転直動変換機構を提供でき、さらに、この回転直動変換機構を搭載したリフト装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施形態に係る回転直動変換機構の縦断面図であり、断面の手前側にあるローラも描いている。
【図2】本発明の実施形態に係る回転直動変換機構を構成するサブアセンブリの側面図であり、サブアセンブリを構成するホルダ部材の一部は切断された断面を描いている。
【図3】サブアセンブリを構成するローラの側面図(下半分)と断面図(上半分)である。
【図4】ローラのローラスラスト軸受対の周辺の断面についての図3の拡大図である。
【図5】ローラのスラスト対向部の周辺の断面について、図3のA部を拡大した拡大図である。
【図6】本発明の実施形態に係る回転直動変換機構の動作を説明するための概念図である。
【図7】本発明の実施形態に係る回転直動変換機構を用いたリニアアクチュエータの概略図である。
【図8】本発明の実施形態に係る回転直動変換機構を用いたリニアアクチュエータを搭載したリフト装置(建設機械)の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
次に、本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
【0010】
図1に、本発明の実施形態に係る回転直動変換機構1の縦断面図を示す。なお、図1では、回転直動変換機構1の構造の理解を容易にするために、断面の手前側にあり描かれないはずのローラ2Aも、位置関係を保ちながら描いている。
【0011】
回転直動変換機構1は、主に、モータ5と、左ケーシング6aと右ケーシング6bから成るケーシング6と、複数、図1では3つのローラ2(2A、2B、2C)と、ロッド10を有し、ローラ2(2A、2B、2C)は、モータ5により発生した力でケーシング6に対して回転し、ローラ2(2A、2B、2C)に設けた環状溝とロッド10のねじ部の噛み合いによりロッド10を直動させている。
【0012】
ロッド10は、外周面にねじ部を有している。ロッド10の外周側には、ホルダ部材3が設けられている。ホルダ部材3は、端板支持柱3aと、左ホルダ端板3bと、右ホルダ端板3cと、左ホルダスラスト軸受3eと、左ホルダラジアル軸受3fと、右ホルダラジアル軸受3gと、右ホルダスラスト軸受3hと、板ばね3p、3qとを有している。端板支持柱3aは、左ホルダ端板3bと右ホルダ端板3cの間隔と一定に保持している。左ホルダ端板3bと右ホルダ端板3cは、ローラ2(2A、2B、2C)の両端を支持している。ローラ2(2A、2B、2C)は、ロッド10の中心軸に対して、それぞれの中心軸が成す軸角γ2が、ロッド10のねじ部のリード角γ1に略等しくなるように、ロッド10に対してねじれの関係に配置されている。
【0013】
左ホルダ端板3bは、左ホルダスラスト軸受3eと左ホルダラジアル軸受3fによって、左ケーシング6aに回転可能に支持されている。板ばね3pは、左ケーシング6aと左ホルダラジアル軸受3fに挟持され、左ホルダラジアル軸受3fを介して、左ホルダ端板3bをローラ2(2A、2B、2C)の方向に予圧している。
【0014】
右ホルダ端板3cは、右ホルダスラスト軸受3hと軸受支持部4と右ホルダラジアル軸受3gによって、左ケーシング6aに回転可能に支持されている。板ばね3qは、左ケーシング6aに固定された軸受支持部4と右ホルダラジアル軸受3gに挟持され、右ホルダラジアル軸受3gを介して、右ホルダ端板3cをローラ2(2A、2B、2C)の方向に予圧している。
【0015】
右ホルダ端板3cは、ロッド10の周囲を筒状に右ケーシング6bまで延在している。右ケーシング6b内において、右ホルダ端板3cには、モータ5のロータ5aが設けられている。モータ5のステータ5bは、ロータ5aに対向するように、右ケーシング6bに圧入されている。モータ5として、ステータ5bに対して、ロータ5aが回動すると、ケーシング6(左ケーシング6aと右ケーシング6b)に対して、右ホルダ端板3c、さらには、ローラ2(2A、2B、2C)と左ホルダ端板3bが回動する。モータ5は、ホルダ部材3に連結され、ホルダ部材3とローラ2(2A、2B、2C)を、ケーシング6に対して相対回転させる。
【0016】
ケーシング6は、ロッド10の中心軸に平行な方向には移動可能なように、いわゆる、リニアスライドするようになっている。これにより、モータ5が回動すると、ホルダ部材3とローラ2(2A、2B、2C)は、ケーシング6とロッド10に対して相対的に回動する。ロッド10には、螺旋状のねじ部が設けられており、ローラ2(2A、2B、2C)がねじ部に沿って転がるように自転しながら公転(回動)することにより、ロッド10に対して、ローラ2(2A、2B、2C)とホルダ部材3が、相対軸移動する。この回動(回転)から相対軸移動への変換は、可逆の変換であり、相対軸移動から回動(回転)への変換も可能である。
【0017】
ケーシング6の中心軸方向の両端には、狭窄部が形成されている。狭窄部の内径は、ロッド10の外径に対してわずかに大きく設定されている。狭窄部の内周壁に対する中心軸は、ロッド10の中心軸に一致するように、ホルダラジアル軸受3f、3gを装着するケーシング6の内周壁に対する中心軸と同程度の高精度で設計されている。狭窄部の内周壁には、図1に示すように、ラックロッドレール9を設けてもよいが省いてもかまわない。左ケーシング6aと右ケーシング6bは、ねじ等により接続され、ケーシング6を形成している。
【0018】
なお、ローラ2(2A、2B、2C)とホルダ部材3が連結され、一体となった構造物は、サブアセンブリ30と呼ばれる。これは、組み上げられたサブアセンブリ30は、回転直動変換機構1の組み立てにおいて、一部品として扱うことができるからである。
【0019】
図2に、本発明の実施形態に係る回転直動変換機構1を構成するサブアセンブリ30の側面図を示す。なお、図2では、サブアセンブリ30の構造の理解を容易にするために、ローラ2Aとホルダ部材3との一部を切断した断面を描いている。また、ローラ2B、2Cは、外周面に設けられる環状溝の中心軸方向の位置が噛み合うロッド10(図1参照)のねじ部に応じてずれている点だけが異なり、他の点はローラ2Aと同様の構成であるので、以下ではローラ2Aを例に説明する。
【0020】
ローラ2Aの右側の端部の外周面は、ねじが切られており、ローラ2Aの右側の端部は、右ホルダ端板3cに嵌められ、ローラロックナット36により固定されている。
【0021】
ローラ2Aの左側の端部の外周面は、テーパ状になっている。左ホルダ端板3bには、テーパ状のローラ2Aの左側の端部が挿入できるように、貫通穴35が設けられている。貫通穴35には、ローラ2Aの挿入側とは逆側から、ローラ取付部材33が埋め込まれている。埋め込まれたローラ取付部材33は、貫通穴35のローラ2Aの挿入側へ抜け無い構造になっている。ローラ取付部材33の内周面はテーパ状になっており、埋め込まれたローラ取付部材33に、テーパ状のローラ2Aの左側の端部が挿入されると、それぞれのテーパ面が互いに周方向全周にわたって接し、ローラ2Aの中心軸のぶれを抑えることができる。ローラ2Aの左側の端部の内周面は、ねじが切られており、ローラ2Aの左側の端部は、ローラ取付部材33を介して左ホルダ端板3bに嵌められ、ボルト34により固定されている。
【0022】
左ホルダ端板3bと右ホルダ端板3cは、ローラ2Aを挟持するために、端板支持柱3aによって互いが固定されている。端板支持柱3aは、左ホルダ端板3bとは一体に形成され、右ホルダ端板3cとはねじ37によって締結されている。ローラ2Aは、その中心軸が、ホルダ部材3の中心軸に対してロッド10のねじ部のリード角γ1と略等しい大きさの軸角γ2傾斜するように配置される。
【0023】
図3に、ローラ2(2A、2B、2C)の側面図(図3の下半分)と断面図(図3の上半分)を示す。ローラ2(2A、2B、2C)は、ロッド10(図1参照)のねじ部と噛み合いながら転がる環状溝を外周面に有するローラ環状溝部2aと、ホルダ部材3(図2参照)の左ホルダ端板3bと右ホルダ端板3cに両端が固定・支持されるローラ軸2bとを有している。
【0024】
ローラ環状溝部2aの環状溝は、ロッド10のねじ部と異なり、螺旋状にはなっておらず、複数の環状溝が、中心軸に方向に等間隔に配置されている。ローラ環状溝部2aは、一対のスラスト軸受であるローラスラスト軸受対2eと、右ローララジアル軸受2f1と左ローララジアル軸受2f2とによって、ローラ軸2bに対して、ローラ軸2b周りに回転可能に支持されている。ローラ環状溝部2aは、筒形状をしていて、内部が貫通しており、このローラ環状溝部2aの内部を、ローラ軸2bが貫通するように配置されている。
【0025】
ローラ環状溝部2aの左側の端部には、内周面の半径が、中央部の内周面の半径よりも大きい段部(段差面)が設けられている。左ローララジアル軸受2f2の外輪は、その段部(段差面)に当接するように配置される。ローラ環状溝部2aの左側の端部の内周面は、ねじが切られており、ロックナット2kの外周面が螺合する。ロックナット2kが締められると、ロックナット2kは、左ローララジアル軸受2f2の外輪に圧接する。左ローララジアル軸受2f2の外輪は、ローラ環状溝部2aの左側の端部の段部(段差面)と、ロックナット2kとで、挟持され固定される。左ローララジアル軸受2f2の内輪は、ローラ軸2bに圧入されている。
【0026】
ローラ環状溝部2aの右側の端部には、第1段部(段差面)2mと第2段部(段差面)2nが設けられ、右ローララジアル軸受2f1とローラスラスト軸受対2eが近接して配置されている。ローラスラスト軸受対2eは、回転側右軌道輪(右ローラスラスト軸受)2e1と、回転側左軌道輪(左ローラスラスト軸受)2e2と、回転側右軌道輪2e1と回転側左軌道輪2e2の間に設けられるスラスト支持部2e4とを有している。ローラスラスト軸受対2eには、スラスト対向部2e5とロックナット2e6によって、予圧が与えられている。これらを、図4を用いて詳細に説明する。
【0027】
図4に、ローラスラスト軸受対2eの周辺の図3の拡大図を示す。ローラ環状溝部2aの右側の端部には、内周面の半径が、中央部の内周面の半径よりも大きい第1段部(段差面)2mと、さらに第1段部(段差面)2mの内周面の半径よりも大きい第2段部(段差面)2nが設けられている。右ローララジアル軸受2f1の外輪は、第1段部(段差面)2mに当接するように配置されている。右ローララジアル軸受2f1の内輪は、ローラ軸2bに圧入されている。
【0028】
スラスト支持部2e4は、ローラ軸2bの一端部の外周面上に、周方向に沿って設けられている。スラスト支持部2e4は、断面形状が略矩形であり、ローラ軸2bの外周面に対して凸状となっている。スラスト支持部2e4の径方向の高さは、第1段部(段差面)2mより高く、第2段部(段差面)2nより低くなっている。スラスト支持部2e4は、ローラ軸2bと一体になっている。この一体とは、スラスト支持部2e4とローラ軸2bの両者の間に隙間やガタが無く、例えば、スラスト支持部2e4とローラ軸2bとが1つのバルクから切り出されているとか、溶接されているとかの場合に相当する。また、両者を接着剤等により接着してもよいが、螺着の場合は経時によってガタが生じる場合があるので好ましくない。
【0029】
スラスト支持部2e4の中心軸方向の両側には、一対のスラスト軸受となる回転側右軌道輪(右ローラスラスト軸受)2e1と、回転側左軌道輪(左ローラスラスト軸受)2e2とが設けられている。回転側右軌道輪2e1と回転側左軌道輪2e2は、スラスト支持部2e4を挟持している。
【0030】
第2段部(段差面)2nは、ローラ環状溝部2aの内周面に設けられ、回転側左軌道輪(左ローラスラスト軸受)2e2を挟んでスラスト支持部2e4に対向している。回転側左軌道輪2e2は、左ローラスラスト軸受2e2のボールを介したスラスト支持部2e4と、第2段部(段差面)2nに挟まれる。回転側左軌道輪2e2は、右ローララジアル軸受2f1の外輪と一体となっている。一体化することによりコンパクトになり、回転直動変換機構1の小型化に寄与できる。
【0031】
スラスト対向部2e5の外周面は、ねじが切られ、ローラ環状溝部2aの端部のねじが切られた内周面に螺合している。スラスト対向部2e5は、回転側右軌道輪(右ローラスラスト軸受)2e1を挟んで、スラスト支持部2e4に対向している。回転側右軌道輪2e1は、右ローラスラスト軸受2e1のボールを介したスラスト支持部2e4と、スラスト対向部2e5に挟まれる。
【0032】
スラスト対向部2e5を締め込んだり、ゆるめたりすると、スラスト対向部2e5と第2段部(段差面)2nとの間隔を、狭めたり広げたりと変更することができる。そして、スラスト対向部2e5を締め込んでいくと、スラスト対向部2e5と第2段部(段差面)2nの間隔が狭くなり、回転側右軌道輪(右ローラスラスト軸受)2e1と、回転側左軌道輪(左ローラスラスト軸受)2e2に、予圧をかけることができる。予圧がかけられれば、回転側右軌道輪(右ローラスラスト軸受)2e1と、回転側左軌道輪(左ローラスラスト軸受)2e2に生じるガタの発生を抑制することができる。このとき、右ローララジアル軸受2f1の外輪と一体となっている回転側左軌道輪2e2は、第2段部(段差面)2nに圧接するだけでなく、第1段部(段差面)2mにも圧接し、右ローララジアル軸受2f1の外輪は固定される。
【0033】
ロックナット2e6の内周面は、ねじが切られ、スラスト対向部2e5の外周面に螺合している。ロックナット2e6を締め込み、ローラ環状溝部2aの端面に圧接することで、ダブルナットの効果により、スラスト対向部2e5の外周面をローラ環状溝部2aの内周面に、ゆるまないように固定することができる。この状態で、ロッド10のねじ部との噛み合いによって生じる荷重によりローラ環状溝部2aに中心軸方向の左右両方向のスラスト荷重がそれぞれかかった場合について以下で考える。
【0034】
図5に、スラスト対向部2e5がローラ環状溝部2aとロックナット2e6に接する箇所について、図3と図4に示すA部を拡大して示す。ローラ環状溝部2aに左から右に力がかかった場合(図5の右向きの矢印)、荷重は回転側左軌道輪2e2側で受けるため、図5に示すとおり、スラスト対向部2e5のねじ山の右側とローラ環状溝部2aのねじ山の左側が接した状態は維持され、スラスト支持部2e4の右側のスラスト支持部2e4、スラスト対向部2e5、ローラ環状溝部2aの軸方向の位置関係に変化が生じない。ローラ環状溝部2aに右から左に力がかかった場合(図5の左向きの矢印)は、ロックナット2e6によりスラスト対向部2e5とローラ環状溝部2aの位置関係に保持されており、ローラ環状溝部2aに左方向の力がかかっても軸方向の位置関係に変化は生じない。以上から、スラスト荷重の向きが変化しても、位置がずれることなく高精度に位置を決定できる。また、経時的に一定の予圧を、回転側右軌道輪(右ローラスラスト軸受)2e1と、回転側左軌道輪(左ローラスラスト軸受)2e2にかけることができ、高い位置決め精度を得ることができる。また、経時変化しないので、はじめから予圧を必要最小限に抑えて設定することができ、これにより、回転運動と直線運動の変換効率を向上できる。
【0035】
次に、図6を用いて、回転直動変換機構1(図1参照)の動作を説明する。図6では、動作原理を説明するため、ロッド10の外周面(ねじ部)を平面上に展開した展開図を示している。展開図に合わせて表現すると、モータ5が回転し、それにより、ホルダ部材3、さらには、ローラ2Aが回転(公転)し、ローラ2Aは、A位置からB位置へ、図6の展開図上で、真上から真下への垂直方向に移動する。図6の右斜め下に傾斜し等間隔に配置された太線は、ローラ2AがA位置にある場合の右ロッドねじ山フランクを示している。そして、このA位置から、ローラ2Aがδラジアン(rad)だけ公転してロッド10の円周上を距離(δ・(ロッド半径))だけ動いてB位置に到達したとする。このとき、右ローラ環状溝面の位置は、ロッド10の中心軸方向(展開図上の左右方向)には移動せず、展開図上の上下方向にのみ移動する。よって、ロッド10が中心軸方向(展開図上での左右方向)に、δ・(ロッド半径)・tan(γ1(ロッドねじリード角))だけ動き、右ロッドねじ山フランクが太線から左に動いて破線の位置となり、ローラ2Aのローラ環状溝とロッド10のねじ山の噛み合いを保つ。このようにして回転直動変換が生じる。
【0036】
また、モータ5の1回転あたりのロッド10の移動量Mは、δを2πとして、M=2π・(ロッド半径)・tan(γ1(ロッドねじリード角))となる。この式から明らかなように、ロッドねじリード角γ1を小さくすることにより、減速割合を増大できる。また、噛み合い箇所は、ローラ2A側の環状溝面とロッド10側のねじ山フランクであり、曲率の小さい面同士の噛み合いとなる。よって、噛み合い時の弾性変形によって広範囲で接触が起きるため、発生する応力の最大値(ヘルツ応力)が抑制される。このために、回転直動変換機構1では、噛み合い一箇所あたりの負荷荷重が増大し、コンパクトながら、大きな推力が発生可能になる。
【0037】
図7に、本発明の実施形態に係る回転直動変換機構1を用いたリニアアクチュエータ(回転直動変換機構)21の概略図を示す。リニアアクチュエータ(回転直動変換機構)21は、前記で説明した回転直動変換機構1を備えている。回転直動変換機構1は、既に説明したように、ロッド10とモータ5とケーシング6とサブアセンブリ30を有している。リニアアクチュエータ21は、回転直動変換機構1の他に、リニアスライダ(外筒)23と、ケーシング6に固定された伸縮腕(内筒)24とを有している。リニアスライダ(外筒)23は、その筒の内部(内側)において円筒形状のケーシング6をロッド10の軸方向にスライド可能にしている。そして、モータ5が回転すると、サブアセンブリ30も回転し、サブアセンブリ30がケーシング6とロッド10に対して相対的に回転することで、サブアセンブリ30とケーシング6にロッド10に対して相対的なロッド10の中心軸方向の直動運動が生じる。ケーシング6は、リニアスライダ(外筒)23の筒内部を、ロッド10の中心軸方向にスライドする。ケーシング6には、伸縮腕(内筒)24が取り付けられており、ケーシング6のスライドに応じて、リニアスライダ(外筒)23から外に露出される伸縮腕(内筒)24の長さが変わる。こうして、リニアアクチュエータ21の軸方向の長さを伸縮することができる。
【0038】
特に、本発明の実施形態に係る回転直動変換機構1は、位置がずれることなく高精度に位置を決定できるので、リニアアクチュエータ21に用いると、高い位置決め精度を有するリニアアクチュエータ21を提供することができる。また、回転直動変換機構1は、リニアスライダ(外筒)23の内側にあってリニアスライダ(外筒)23と伸縮腕(内筒)24に覆われるので、ゴミ等の外部からの異物が回転直動変換機構1に入り難く、信頼性の高いリニアアクチュエータ21を提供することができる。また、本発明の実施形態に係る回転直動変換機構1を、リニアアクチュエータ21に用いると、回転直動変換機構1の径方向の寸法を小さくできるので、リニアスライダ(外筒)23の径方向の寸法、さらには、リニアアクチュエータ21の径方向の寸法を小さくすることができる。
【0039】
図8に、本発明の実施形態に係る回転直動変換機構1を用いたリニアアクチュエータ(回転直動変換機構)21(21a、21b、21c)を搭載したショベル29の概略図を示す。ショベル29は、図7のリニアアクチュエータ21と同じ構造の複数のリニアアクチュエータ21a〜21cを備えている。ショベル29は、リニアアクチュエータ21a〜21cの他に、バケット25と、アーム26と、ブーム27と、上部旋回体28と、コントローラ22を有している。バケット25は、アーム26に対して回転可能に直接連結され、さらに、リニアアクチュエータ21aを介して間接的に連結されている。リニアアクチュエータ21aが伸縮することで、バケット25は、アーム26に対して回動することができる。アーム26は、ブーム27に対して回転可能に直接連結され、さらに、リニアアクチュエータ21bを介して間接的に連結されている。リニアアクチュエータ21bが伸縮することで、アーム26は、ブーム27に対して回動することができる。ブーム27は、上部旋回体28に対して回転可能に直接連結され、さらに、リニアアクチュエータ21cを介して間接的に連結されている。リニアアクチュエータ21cが伸縮することで、ブーム27は、上部旋回体28に対して回動することができる。上部旋回体28は、下部走行体(図示省略)上に旋回可能に設けられている。
【0040】
また、コントローラ22は、リニアアクチュエータ(回転直動変換機構)21(21a、21b、21c)のモータ5(図7参照)に流れるモータ電流を検知できるようなっており、この電流値(計測値)と運転者等からの指令トルク(目標トルク値)を入力として、モータ5(リニアアクチュエータ21a、21b、21c)へ流す指令電流(モータ電流)の目標値を算出し、目標値に制御されたモータ電流を、モータ5(リニアアクチュエータ21a、21b、21c)へ流すことで、適切なトルクを発生させている。
【0041】
ここで、リニアアクチュエータ(回転直動変換機構)21(21a、21b、21c)は、油圧システムに比べ、力を吸収できる部分が少なく、バケット25等に過大な力がかかった場合に、リニアアクチュエータ(回転直動変換機構)21(21a、21b、21c)でのガタの発生を招く恐れが考えられる。
【0042】
そこで、モータ電流を検知して、モータ電流の計測値が所定値を超えた場合に、モータ電流の目標値を所定値以下に制限する。これにより、一定以上の負荷が加わった場合には、所定値以上のモータ電流を与えないように制御でき、オーバーロードを防止してガタの発生を抑制することができる。また、リニアアクチュエータ(回転直動変換機構)21(21a、21b、21c)にガタがないので、位置決めの制御におけるフィードバック制御でも、追従の遅れを低減できる。
【0043】
なお、ショベル29を例に説明したが、同様な、リニアアクチュエータ21、21a〜21cが必要な機器に対しても採用が可能であり、例として、建設機械や射出成型機などの昇降動作を伴うリフト装置や、水平動作を伴うあらゆる装置に活用できる。
【符号の説明】
【0044】
1 回転直動変換機構
2、2A、2B、2C ローラ
2a ローラ環状溝部
2b ローラ軸
2e ローラスラスト軸受対
2e1 回転側右軌道輪(右ローラスラスト軸受)
2e2 回転側左軌道輪(左ローラスラスト軸受)
2e4 スラスト支持部
2e5 スラスト対向部
2e6 ロックナット
2f1 右ローララジアル軸受
2f2 左ローララジアル軸受
2k ロックナット
2m 第1段部(段差面)
2n 第2段部(段差面)
3 ホルダ部材
3b 左ホルダ端板
3c 右ホルダ端板
3e 左ホルダスラスト軸受
3f 左ホルダラジアル軸受
3g 右ホルダラジアル軸受
3h 右ホルダスラスト軸受
3p、3q 板ばね
4 軸受支持部
5 モータ
6 ケーシング
10 ロッド
21、21a、21b、21c リニアアクチュエータ
22 コントローラ
29 ショベル(リフト装置、建設機械)
30 サブアセンブリ
γ1 リード角
γ2 軸角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面にねじ部を有するロッドと、前記ロッドの外周側に設けられるホルダ部材と、前記ロッドに対してねじれの関係になるように前記ホルダ部材に支持された複数のローラとを備え、前記ロッドと前記ホルダ部材の相互の相対回転と相対軸移動を変換可能な回転直動変換機構において、
前記ローラは、
前記ねじ部と噛み合いながら転がる環状溝を外周面に有するローラ環状溝部と、
前記ホルダ部材に両端が支持されるローラ軸と、
前記ローラ環状溝部を前記ローラ軸周りに回転可能に支持する一対のスラスト軸受と、
前記ローラ軸の一端部の外周面上に、前記一対のスラスト軸受に挟まれるように設けられ、前記ローラ軸に一体で凸状のスラスト支持部と、
前記ローラ環状溝部の内周面に設けられ前記一対のスラスト軸受の一方を挟んで前記スラスト支持部に対向する段差面と、
前記ローラ環状溝部の内周面に外周面が螺合して前記一対のスラスト軸受の他方を挟んで前記スラスト支持部に対向し、前記段差面との間隔を変更可能なスラスト対向部とを有することを特徴とする回転直動変換機構。
【請求項2】
前記スラスト対向部の外周面に螺合し、前記ローラ環状溝部に圧接することで、前記スラスト対向部の外周面を前記ローラ環状溝部の内周面に固定するロックナットを備えることを特徴とする請求項1に記載の回転直動変換機構。
【請求項3】
前記ホルダ部材に連結され、前記ホルダ部材を前記ロッドに対して相対回転させるモータを備え、
前記ホルダ部材が前記ロッドに対して相対軸移動することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の回転直動変換機構。
【請求項4】
前記モータを流れる電流の計測値と発生させたい目標トルク値を取得し、前記計測値と目標トルク値に基づいて、前記モータに流す電流の目標値を算出し、前記目標値の電流を前記モータに流すコントローラを備え、
前記コントローラは、前記計測値が所定値を超えた場合に、前記目標値を所定値以下に制限することを特徴とする請求項3に記載の回転直動変換機構。
【請求項5】
前記ホルダ部材を相対回転可能に内側に保持する筒形状のケーシングと、
前記ケーシングを相対軸移動可能に内側に保持する外筒とを有し、
前記モータが回転すると、前記ホルダ部材が、前記ケーシングに対して回転しながら前記外筒内を前記ケーシングと共に軸移動することを特徴とする請求項3又は請求項4に記載の回転直動変換機構。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の回転直動変換機構を備えることを特徴とするリフト装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図6】
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