説明

回転角検出装置およびその組付方法

【課題】クランク軸の回転角を精度よく検出することのできる回転角検出装置、および回転角検出装置の組付方法を提供する。
【解決手段】この装置は、クランク信号を出力するクランクセンサとカム信号を出力するカムセンサとを備える。クランク信号の変化時期およびカム信号の変化時期を検知するとともに、その検知したカム信号の変化時期(t31)を機関運転状態に基づいて遅れ側の時期(t33)に補正する(図中の矢印T)。補正した時期とクランク信号の変化時期との関係に基づいてクランク角についての基準角度を検出する。クランク信号の変化時期に対してカム信号の変化時期が最も遅い時期になる機関運転状態であるときに、連続する二つのクランク信号の変化時期(t32〜t34)の間の中央にあたる時期(t33)とカム信号の変化時期とが一致するように、回転角検出装置の組付けが行われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関のクランク軸の回転角を検出する回転角検出装置および同回転角検出装置を内燃機関に組付ける組付方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
内燃機関には、その運転制御を適正に実行するために、クランク軸の回転角(クランク角)を検出するための回転角検出装置が設けられている(例えば特許文献1参照)。
こうした回転角検出装置は通常、内燃機関のクランク軸に一体に設けられた円板形状のクランクロータを備えている。このクランクロータの外周には回転方向において等間隔で突出する同一形状の凸部が複数形成されており、同クランクロータの近傍にはクランクセンサが設けられている。そして、クランク軸の回転に伴ってクランクロータの凸部がクランクセンサの近傍を通過する毎にクランクセンサからパルス状の信号(クランク信号)が出力される。
【0003】
また内燃機関のカム軸には円板形状のカムロータが一体に取り付けられている。このカムロータの外周には回転方向において異なる間隔で突出する複数の突部が形成されており、同カムロータの近傍にはカムセンサが設けられている。このカムセンサは、カム軸の回転に伴ってカムロータの突部が接近するときと同突部が離間するときとにおいてそれぞれ出力レベルが急峻に変化する信号(カム信号)を出力する。
【0004】
これらクランク信号やカム信号は電子制御ユニットに取り込まれる。そして、この電子制御ユニットにより、クランク信号の出力レベルの変化時期とカム信号の出力レベルの変化時期とが検知されるとともにそれら変化時期の関係(例えば、それら変化時期の並び順序)に基づいてクランク角についての基準となる角度が特定される。具体的には、例えばカム信号の変化が検知された直後において検知されたクランク信号の変化に対応する角度がクランク角についての基準角度として特定される。そして、このようにして特定された基準角度をもとに、クランク信号(その出力時期や出力数)に基づいてクランク角が検出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−213058号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、クランク信号やカム信号が実際に変化してからその変化が電子制御ユニットに到達するまでには若干の時間遅れがあり、この時間遅れは内燃機関のクランク軸の回転速度(機関回転速度)が変化したとしてもさほど変わらない。これに対して、クランク軸が単位角度だけ回転するのに要する時間は、機関回転速度が高くなるほど短くなるといったように、機関回転速度の変化に伴って大きく変化する。
【0007】
そのため、クランク角を基準にしてみた場合、実際のクランク角の変化に伴ってクランク信号が変化してからその変化をもとにクランク角の変化が電子制御ユニットによって検知されるまでの期間(検知遅れ期間)が内燃機関の運転状態に応じて変化してしまう。また、実際のカム軸の回転角(カム角)の変化に伴ってカム信号が変化してからその変化をもとにカム角の変化が電子制御ユニットによって検知されるまでの検知遅れ期間についても同様に、クランク角を基準にしてみると内燃機関の運転状態に応じて変化するようになる。
【0008】
ここで、クランク信号をもとにクランク角の変化を検知する場合とカム信号をもとにカム角の変化を検知する場合とにおいて、共に上記検知遅れ期間の変化が生じるとはいえ、その変化の程度は互いに異なる。この違いは、内燃機関の運転時におけるクランク軸とカム軸との回転速度の相違や、クランクロータとカムロータとの形状の相違、クランクセンサとカムセンサとの出力特性の相違などに起因して生じる。
【0009】
そのため上記回転角検出装置では、クランク角を基準にしてみた場合において、電子制御ユニットによって検知されるクランク信号の変化時期とカム角の変化時期との対応関係が一定にならず、同対応関係が内燃機関の運転状態の変化に伴って不要に変化するようになってしまう。そうした対応関係の変化は、上述のように電子制御ユニットにより検知されるクランク信号の変化時期とカム信号の変化時期との関係に基づいてクランク角についての基準角度を検出する装置にあってはその検出精度を低下させる一因になるために好ましくない。
【0010】
本発明は、そうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、クランク軸の回転角を精度よく検出することのできる回転角検出装置、および回転角検出装置の組付方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
以下、上記目的を達成するための手段及びその作用効果について説明する。
請求項1に記載の発明は、内燃機関のクランク軸が所定角度回転する毎に出力レベルが変化するクランク信号を出力するクランクセンサと、前記内燃機関のカム軸の回転角が予め設定された所定角度になったときに出力レベルが変化するカム信号を出力するカムセンサと、前記クランク信号の変化時期および前記カム信号の変化時期を検知するとともに該検知した前記カム信号の変化時期を機関運転状態に基づいて遅れ側の時期に補正し、該補正した時期と前記クランク信号の変化時期との関係に基づいて前記クランク軸の回転角についての基準角度を検出する検出手段とを備えることをその要旨とする。
【0012】
検出手段により検知されるクランク信号の出力レベルの変化時期とカム信号の出力レベルの変化時期との関係について、その理想的な関係と実際の関係とのずれの度合いは機関運転状態(例えば機関回転速度)に基づき把握することができる。この点、上記構成によれば、検出手段によって実際に検知されたカム信号の変化時期を機関運転状態に応じて補正したうえで基準角度の検出に用いることにより、上記理想的な関係に近い関係をもとに基準角度を検出することができるようになり、理想的な関係と実際の関係とのずれによる検出誤差を抑えることが可能になる。
【0013】
検出手段により検知されるカム信号の変化時期が上記理想的な関係におけるカム信号の変化時期より遅い時期になる回転角検出装置では、同検出手段により検知されるカム信号の変化時期をそれ以前の時期に補正することにより、理想的な関係に近い関係をもとに基準角度を検出することが可能になる。しかしながら、この場合にはカム信号の出力レベルの変化が検知された時期より前に遡った時期に検知されたクランク信号の変化時期をもとに基準角度が検出されるようになるために、同基準角度の特定が遅くなり、クランク角の基準角度がずれた状態でクランク角が検出されるようになる期間が長くなって同クランク角の検出精度の低下を招いてしまう。上記構成では、検出手段により検知されるカム信号の変化時期が上記理想的な関係におけるカム信号の変化時期より早い時期になるように予め設定された回転角検出装置において、検出手段により検知されるカム信号の変化時期を遅れ側の時期に補正することにより、理想的な関係に近い関係をもとに基準角度を検出することができるようになる。そのため、基準角度に対応するクランク信号の変化の検知に先立って検知したカム信号の変化をもとにカム角が上記基準角度に対応する角度になる時期を予め把握することができ、同時期に基づいて、その後において基準角度に対応するクランク信号の変化が検知されたときに同基準角度を特定することができる。これにより、基準角度を早期に特定することができ、同基準角度がずれた状態でクランク角が検出されるようになる期間を短くすることができる。
【0014】
このように上記構成によれば、クランク角の基準角度を精度よく且つ早期に検出することができるようになり、その基準角度をもとにクランク角を精度よく検出することができるようになる。
【0015】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の回転角検出装置において、前記クランク軸に一体に取り付けられるとともに回転方向において等間隔で突出する同一形状の複数の凸部が外周に形成された円板形状をなすクランクロータと、前記カム軸に一体に取り付けられるとともに回転方向における突出幅および突出間隔の少なくとも一方が異なる複数の突部が外周に形成された円板形状をなすカムロータと、をさらに備え、前記クランクセンサは、前記クランクロータの近傍に設けられて前記凸部が近傍を通過する毎にパルス状の信号を前記クランク信号として出力するものであり、前記カムセンサは、前記カムロータの近傍に設けられて前記突部の接近時および離間時においてそれぞれ出力レベルが変化する信号を前記カム信号として出力するものであり、前記回転角検出装置は、前記検出手段により検知される前記クランク信号の変化時期に対して前記カム信号の変化時期が最も遅い時期になる機関運転状態であるときに、連続する二つの前記クランク信号の変化時期の間の中央にあたる時期と前記カム信号の変化時期とが一致するように、前記クランクロータ、前記クランクセンサ、前記カムロータおよび前記カムセンサが配設されてなることをその要旨とする。
【0016】
上記構成によれば、内燃機関の運転に際して、検出手段により実際に検知されるカム信号の変化時期が前記理想的な関係におけるカム信号の変化時期より早い時期になる。そのため、検出手段により検知されるカム信号の変化時期を遅れ側の時期に補正することによって、理想的な関係に近い関係をもとに基準角度を検出することができるようになる。
【0017】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の回転角検出装置において、前記カム軸に一体に取り付けられるとともに回転方向における突出幅および突出間隔の少なくとも一方が異なる複数の突部が外周に形成された円板形状をなすカムロータをさらに備え、前記カムセンサは、前記カムロータの近傍に設けられて前記突部の接近時および離間時においてそれぞれ出力レベルが変化する信号を前記カム信号として出力するものであり、前記検出手段は、前記補正した時期の間隔の変化パターンに基づいて前記基準角度を検出するものであることをその要旨とする。
【0018】
請求項4に記載の発明は、請求項2に記載の回転角検出装置において、前記検出手段は、前記補正した時期の間隔の変化パターンに基づいて前記基準角度を検出するものであることをその要旨とする。
【0019】
請求項3または4に記載の発明の構成では、カム軸の回転に際して異なる間隔でカム信号が変化するため、検出手段により検知されるカム信号の変化時期(詳しくは、同変化時期を機関運転状態に基づいて遅れ側の時期に補正した時期)の間隔についての変化パターンをもとにカム角を把握することができる。そのため請求項3または4に記載の発明の構成によれば、そのように補正した時期の間隔の変化パターンにより把握されるカム角とクランク信号の変化時期との関係に基づいて、クランク角についての基準角度を精度よく特定することができるようになる。
【0020】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれか一項に記載の回転角検出装置において、前記機関運転状態は前記クランク軸の回転速度であることをその要旨とする。
上記構成によれば、検出手段により検知されるクランク信号の変化時期とカム信号の変化時期との関係にあってその理想的な関係と実際の関係とのずれと相関の高い値である機関回転速度に基づいてカム信号の変化時期を補正することができる。そのため、その補正した時期をもとにクランク角についての基準角度を精度よく検出することができるようになる。
【0021】
請求項6に記載の発明は、内燃機関のクランク軸に一体に取り付けられるとともに回転方向において等間隔で突出する同一形状の凸部が外周に形成された円板形状をなすクランクロータと、前記クランクロータの近傍に設けられるとともに前記クランク軸の回転に伴い前記凸部が近傍を通過する毎にパルス状の信号を出力するクランクセンサと、前記内燃機関のカム軸に一体に取り付けられるとともに回転方向における突出幅および突出間隔の少なくとも一方が異なる複数の突部が外周に形成された円板形状をなすカムロータと、前記カムロータの近傍に設けられるとともに前記カム軸の回転に伴う前記突部の接近時および離間時においてそれぞれ出力レベルが変化する信号を出力するカムセンサと、前記クランクセンサの出力信号であるクランク信号および前記カムセンサの出力信号であるカム信号が入力される検出ユニットとを備える回転角検出装置の組付方法であって、前記検出ユニットにより検知される前記クランク信号の変化時期に対して前記カム信号の変化時期が最も遅い時期になる機関運転状態であるときに、連続する二つの前記クランク信号の変化時期の間の中央にあたる時期と前記カム信号の変化時期とが一致するように、前記クランクロータ、前記クランクセンサ、前記カムロータおよび前記カムセンサのいずれかの組付けを行うことをその要旨とする。
【0022】
上記組付方法によれば、内燃機関の運転時において検出ユニットにより実際に検知されるカム信号の変化時期が、クランク信号の変化時期とカム信号の変化時期との関係についての理想的な関係(すなわちクランク角が精度よく検出されるようになる関係)におけるカム信号の変化時期より早い時期になる。そのため、検出ユニットにより検知されるカム信号の変化時期を遅れ側の時期に補正することにより、その補正した時期とクランク信号の変化時期との関係を上記理想的な関係に近い関係とすることができる。したがって、そのように補正した時期とクランク信号の変化時期との関係に基づいてクランク角についての基準角度を検出することにより、理想的な関係と実際の関係とのずれによる検出誤差を抑えた状態で基準角度を検出することができ、基準角度やクランク角を精度よく検出することができる。
【0023】
しかも、検出ユニットによる基準角度に対応するクランク信号の変化の検知に先立って検知したカム信号の変化をもとにカム角が基準角度に対応する角度になる時期を予め把握することができ、同時期に基づいて、その後において基準角度に対応するクランク信号の変化が検知されたときに同基準角度を特定することができるようになる。そのため、検出ユニットによって基準角度に対応するクランク信号の変化が検知された後に同基準角度に対応するカム信号の変化が検知されるようになる組付方法が採用された場合と比較して、基準角度を早期に特定することができるようになり、同基準角度がずれた状態でクランク角が検出されるようになる期間を短くすることが可能になる。
【0024】
このように上記組付方法によれば、クランク角の基準角度を精度よく且つ早期に検出することができるようになり、その基準角度をもとにクランク角を精度よく検出することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明を具体化した一実施の形態にかかる回転角検出装置が適用される内燃機関の概略構成を示す略図。
【図2】クランクセンサの周辺構造を示す略図。
【図3】カムセンサの周辺構造を示す略図。
【図4】クランク信号とカム信号との関係を示すタイミングチャート。
【図5】カム角とカム信号の変化パターンとの関係を示す表。
【図6】クランク信号のエッジの検知時期とカム信号のエッジの検知時期との関係を示すタイミングチャート。
【図7】特定運転状態におけるクランク信号のエッジの検知時期とカム信号のエッジの検知時期との関係を示すタイミングチャート。
【図8】補正処理の具体的な実行態様を示すフローチャート。
【図9】補正処理によるカム信号の補正態様の一例を示すタイミングチャート。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明にかかる回転角検出装置および同装置の組付方法を具体化した一実施の形態について説明する。
図1は、本実施の形態にかかる回転角検出装置が適用される内燃機関の概略構成を示している。
【0027】
同図1に示すように、内燃機関10には燃料噴射弁11が設けられている。内燃機関10では燃料噴射弁11の開弁駆動を通じて燃焼室(図示略)内に燃料が供給される。また内燃機関10には点火プラグ12が設けられている。内燃機関10では上記点火プラグ12の作動によって燃焼室内の燃料が燃焼し、これによりクランク軸13に回転トルクが付与されて同クランク軸13が回転する。内燃機関10のカム軸14は、タイミングチェーンなどを備えた巻き掛け機構(図示略)を介してクランク軸13に駆動連結されている。そして、この内燃機関10ではクランク軸13が一回転する間にカム軸14が二回転するようになっている。
【0028】
内燃機関10には、その運転状態を検出するための各種センサが設けられている。各種センサとしては、例えばクランク軸13の回転角(クランク角[°CA])や回転速度(機関回転速度)を検出するためのクランクセンサ21や、カム軸14の回転角(カム角[°CAMA])を検出するためのカムセンサ22などが設けられている。
【0029】
また内燃機関10には、その周辺機器として、例えばマイクロコンピュータを備えて構成された電子制御ユニット20なども設けられている。この電子制御ユニット20は各種センサの出力信号を取り込むとともにそれら出力信号をもとに各種の演算を行い、その演算結果に応じて燃料噴射弁11の作動制御(燃料噴射制御)や点火プラグ12の作動制御(点火時期制御)などといった内燃機関10の運転にかかる各種制御を実行する。
【0030】
以下、上記クランクセンサ21の周辺構造について図2を参照して説明する。
図2に示すように、内燃機関10のクランク軸13にはクランクロータ30が一体に取り付けられている。このクランクロータ30は、全体がほぼ円板形状に形成されるとともに、その回転方向において等間隔で突出する同一形状の複数(本実施の形態では、36個)の凸部31が外周に形成されている。
【0031】
前記クランクセンサ21は、クランクロータ30の近傍の位置であり且つ同クランクロータ30の外周面に対向する位置に設けられている。このクランクセンサ21はクランク軸13の回転に伴ってクランクロータ30の凸部31が近傍を通過する毎にパルス状の信号を出力する。クランクセンサ21の出力信号(クランク信号[整波前])は詳しくは、クランクロータ30の凸部31の接近時において出力レベルが急上昇するとともに同凸部31の離間時において出力レベルが急低下するといったように、クランクロータ30の凸部31の通過に伴って周期的に変化する。
【0032】
次に、上記カムセンサ22の周辺構造について図3を参照して説明する。
図3に示すように、内燃機関10のカム軸14にはカムロータ40が一体に取り付けられている。カムロータ40は全体がほぼ円板形状に形成されている。このカムロータ40の外周には、その回転方向において異なる突出幅および突出間隔で突出する複数の突部が形成されている。詳しくは、カムロータ40の外周には、同カムロータ40の回転方向において順に、第1突部41、第1凹部42、第2突部43、第2凹部44、第3突部45、第3凹部46、第4突部47、第4凹部48、第5突部49、および第5凹部50が形成されている。以下、それら突部および凹部の形状について各別に記載する。
(第1突部41)カムロータ40の回転方向における突出幅が15°CAMAに相当する幅の突部。
(第1凹部42)カムロータ40の回転方向における窪み幅が30°CAMAに相当する幅の凹部。
(第2突部43)カムロータ40の回転方向における突出幅が45°CAMAに相当する幅の突部。
(第2凹部44)カムロータ40の回転方向における窪み幅が60°CAMAに相当する幅の凹部。
(第3突部45)カムロータ40の回転方向における突出幅が30°CAMAに相当する幅の突部。
(第3凹部46)カムロータ40の回転方向における窪み幅が15°CAMAに相当する幅の凹部。
(第4突部47)カムロータ40の回転方向における突出幅が30°CAMAに相当する幅の突部。
(第4凹部48)カムロータ40の回転方向における窪み幅が45°CAMAに相当する幅の凹部。
(第5突部49)カムロータ40の回転方向における突出幅が60°CAMAに相当する幅の突部。
(第5凹部50)カムロータ40の回転方向における窪み幅が30°CAMAに相当する幅の凹部。
【0033】
前記カムセンサ22は、カムロータ40の近傍の位置であって且つ同カムロータ40の外周に対向する位置に設けられている。このカムセンサ22は、クランク軸13の回転に伴ってカムロータ40の各突部41,43,45,47,49のいずれかが接近したときに出力レベルが急上昇するとともに、それら突部41,43,45,47,49のいずれかが離間したときに出力レベルが急低下するといったように変化する信号(カム信号[整波前])を出力する。これにより上記カムセンサ22からは、カム角が予め設定された所定角度(具体的には、第1突部41と第5凹部50との境界を0°CAMAとして、0,15,45,90,150,180,195,225,270,330°CAMA)になったときに出力レベルが変化する信号がカム信号[整波前]として出力されるようになる。
【0034】
次に、クランク信号とカム信号との関係について図4を参照しつつ説明する。
クランクセンサ21(図1)から出力されたクランク信号[整波前]とカムセンサ22から出力されたカム信号[整波前]とはそれぞれ、電子制御ユニット20による検出に際して同電子制御ユニット20によって整波される。
【0035】
電子制御ユニット20によって整波された後のクランク信号[整波後](以下、単に「クランク信号」)は、クランクセンサ21の近傍を各凸部31のいずれかが通過しているときにはハイレベル(以下、「H」)になるとともに、それ以外のときにはローレベル(以下、「L」)になる。クランク信号は詳しくは、図4に示すように、クランク軸13が所定角度(10°CA)回転する毎に所定幅(5°CA)のパルス状に変化する信号になる。なおクランク信号をクランク角の検出に用いる際には、同クランク信号の変化時期である立ち上がりエッジおよび立ち下がりエッジのうちの一方のみ(本実施の形態では、立ち上がりエッジのみ)が用いられる。
【0036】
また、電子制御ユニット20によって整波された後のカム信号[整波後](以下、単に「カム信号」)は、カムセンサ22(図1)の近傍をカムロータ40の各突部41,43,45,47,49のいずれかが通過しているときには「H」になるとともに、同カムセンサ22の近傍を各凹部42,44,46,48,50)のいずれかが通過しているときには「L」になる。これにより、カム信号は、カム角が0,45,150,195,270°CAMAのいずれかの角度なると「L」から「H」に変化する一方、同カム角が15,90,180,225,330°CAMAのいずれかの角度になると「H」から「L」に変化するようになる。言い換えれば、図4に示すように、カム信号はクランク角が0,90,300,390,540°CAのうちのいずれかに対応する角度になると出力レベルが「L」から「H」に変化する一方、同クランク角が30,180,360,450,660°CAのうちのいずれかに対応する角度になると出力レベルが「H」から「L」に変化するようになる。
【0037】
このように本実施の形態では、カム信号がカム軸14の回転に際して異なる間隔で「H」および「L」の一方から他方に切り替わるため、電子制御ユニット20により検知されるカム信号の変化パターンをもとにカム角およびクランク角を把握することができる。
【0038】
この点をふまえて本実施の形態では、そうしたカム信号の変化パターンに基づいて把握されるカム角とクランク信号の変化時期(詳しくは、同クランク信号のエッジの検知時期)との関係に基づいてクランク角についての基準角度が特定される。なお本実施の形態では、電子制御ユニット20により、クランク信号の立ち上がりエッジ(以下、単に「エッジ」)が検知される度に(所定角度[10°CA]毎)にカム信号(詳しくは、後述するカム信号[補正後])の信号レベル(「H」または「L」)が検出されるとともに直近の複数回分(少なくとも11回分)の検出結果が記憶されている。また各変化パターンも電子制御ユニット20に記憶されている。そして、電子制御ユニット20に記憶されている検出結果の変化パターンと上記各変化パターンとが比較される。
【0039】
本実施の形態では、カム信号の変化パターンとカム角との関係が図5に示すように定められている。以下、各変化パターン(パターンA〜L)について各別に説明する。
(パターンA)「H」が4回→「L」が6回→「H」といった順に検出される。このときにはカム角が0°CAに対応する角度であると判断される。
(パターンB)「L」→「H」が3回→「L」といった順に検出される。このときにはカム角が30°CAに対応する角度であると判断される。
(パターンC)「H」→「L」が6回→「H」が4回といった順に検出される。このときにはカム角が120°CAに対応する角度であると判断される。
(パターンD)「L」→「H」が9回→「L」といった順に検出される。このときにはカム角が180°CAに対応する角度であると判断される。
(パターンE)「H」→「L」が10回といった順に検出される。このときにはカム角が270°CAに対応する角度であると判断される。
(パターンF)「L」が10回→「H」といった順に検出される。このときにはカム角が300°CAに対応する角度であると判断される。
(パターンG)「L」が4回→「H」が6回→「L」といった順に検出される。このときにはカム角が360°CAに対応する角度であると判断される。
(パターンH)「H」→「L」が3回→「H」といった順に検出される。このときにはカム角が390°CAに対応する角度であると判断される。
(パターンI)「L」が1回→「H」が6回→「L」が4回といった順に検出される。このときにはカム角が480°CAに対応する角度であると判断される。
(パターンJ)「H」→「L」が9回→「H」といった順に検出される。このときにはカム角が540°CAに対応する角度であると判断される。
(パターンK)「L」→「H」が10回といった順に検出される。このときにはカム角が630°CAに対応する角度であると判断される。
(パターンL)「H」が10回→「L」といった順に検出される。このときにはカム角が660°CAに対応する角度であると判断される。
【0040】
そして、カム信号の変化パターンが(パターンA)〜(パターンL)のいずれかと一致すると、その直後において検知されたクランク信号のエッジに対応するクランク角がこのとき一致した変化パターンに記憶されている角度であると判断されて、同角度がクランク角の基準角度として特定される。例えばカム信号の変化パターンと(パターンA)とが一致した場合にはその直後に検知されたクランク信号のエッジに対応するクランク角が0°CAとして特定され、カム信号の変化パターンと(パターンB)とが一致した場合にはその直後に検知されたクランク信号のエッジに対応するクランク角が30°CAとして特定される。このようにしてクランク角の基準角度が特定された後においては、同基準角度をもとにクランク信号に基づいてクランク角が検出される。具体的には、基準角度を起点としてクランク信号のエッジが検知される度に10°CAずつ進むといったようにクランク角が検出される。
【0041】
本実施の形態では、このようにしてクランク角の基準角度を検出することにより、内燃機関10のクランク軸13が180°CAだけ回転するまでの間に一度はクランク角の基準角度が検出されるようになる。そのため内燃機関10の始動に際して基準角度が不明である場合に、その始動開始後においてクランク軸13が180°CAだけ回転するまでの間にクランク角の基準角度が検出されるようになり、以後においてクランク角の検出が可能になる。
【0042】
ここで、クランクロータに凸部の一部を欠損させた欠歯部を一つ設けるとともにクランクセンサにより同欠歯部の通過が検知されたことによってクランク角の基準角度を検出する比較例の装置では、機関始動後においてクランク軸が360°CAに近い角度だけ回転しないと欠歯部の通過の検知、ひいては基準角度の検出が行われないことがある。
【0043】
本実施の形態の装置では、クランク軸13が180°CAだけ回転するまでの間にクランク角の基準角度が検出されるために、上記比較例の装置と比べて、同基準角度を早期に特定することができるようになる。これにより、そのときどきのクランク角に適した内燃機関10の運転制御(燃料噴射制御や点火時期制御)の実行を早期に開始することができるようになり、同内燃機関10の始動を早期に完了させることができるようになる。
【0044】
ちなみに本実施の形態では、内燃機関10の始動に際してクランク軸13が90°CAから回転し始めた場合や450°CAから回転し始めた場合に、クランク軸13が180°CAだけ回転したタイミングでクランク角の基準角度が検出されるようになる。それ以外の場合には、内燃機関10の始動に際してクランク軸13が180°CAより小さい角度だけ回転したタイミングで基準角度が検出されるようになる。
【0045】
ここで、クランク信号[整波前]やカム信号[整波前]が実際に変化してからその変化が電子制御ユニット20に到達するまでには若干の時間遅れがあり、この時間遅れは機関回転速度が変化したとしてもさほど変わらない。これに対して、内燃機関10のクランク軸13が単位角度だけ回転するのに要する時間は、機関回転速度が高くなるほど短くなるといったように、機関回転速度の変化に伴って大きく変化する。
【0046】
そのため、クランク角を基準にしてみた場合、実際のクランク角の変化に伴ってクランク信号[整波前]が変化してからその変化をもとにクランク角の変化が電子制御ユニット20によって検知されるまでの期間(検知遅れ期間)が内燃機関10の運転状態に応じて変化してしまう。また、実際のカム角の変化に伴ってカム信号[整波前]が変化してからその変化をもとにカム角の変化が電子制御ユニット20によって検知されるまでの検知遅れ期間についても同様に、クランク角を基準にしてみると内燃機関10の運転状態に応じて変化するようになる。
【0047】
クランク信号をもとにクランク角の変化を検知する場合とカム信号をもとにカム角の変化を検知する場合とにおいて、共に上記検知遅れ期間の変化が生じるとはいえ、その変化の程度は互いに異なる。この違いは、内燃機関10の運転時におけるクランク軸13とカム軸14との回転速度の相違や、クランクロータ30とカムロータ40との形状の相違、クランクセンサ21とカムセンサ22との出力特性の相違などに起因して生じる。
【0048】
そのため本実施の形態の装置では、クランク角を基準にしてみた場合において、電子制御ユニット20によってクランク信号のエッジが検知される時期とカム信号のエッジが検知される時期との対応関係が一定にならず、同対応関係が内燃機関10の運転状態の変化に伴って不要に変化してしまう。そうした対応関係の変化は、クランク信号のエッジの検知時期とカム信号のエッジの検知時期との関係に基づいてクランク角についての基準角度を検出する場合にその検出精度を低下させる一因になってしまう。
【0049】
図6に、クランク信号のエッジの検知時期とカム信号のエッジの検知時期との関係についての理想的な関係と比較例の関係との関係を示す。
なお、図6の一点鎖線に示す上記理想的な関係は、回転角検出装置の各構成部品(クランク軸13や、カム軸14、クランクセンサ21、カムセンサ22、クランクロータ30、カムロータ40など)の製造公差や組付誤差などに起因する上記基準角度の検出精度の低下を適正に抑えることの可能な関係を示している。また図6の実線に示す上記比較例の関係は、カム信号のエッジの検知時期が上記理想的な関係におけるカム信号のエッジの検知時期より遅い時期になる場合における関係の一例を示している。
【0050】
本実施の形態の装置ではクランク信号[整波前]とカム信号[整波前]とが電子制御ユニット20によって検出される。そのため仮に所定の機関回転速度においてクランク信号のエッジの検知時期とカム信号のエッジの検知時期とが理想的な関係になるように回転角検出装置を設定したとしても、図6に示すように、実際の関係(実線)は機関回転速度の変化に伴って理想的な関係(一点鎖線)からずれてしまう。そして、このずれに起因して、カム信号のエッジの検知時期(時刻t14)が上記理想的な関係においてカム信号のエッジの検知時期を間に挟む二つのクランク信号のエッジの検知時期の間(検知期間[時刻t11〜t13])を外れると、その後において検知されるクランク信号のエッジ(時刻t15)に対応するクランク角がこのとき検知されたカム信号のエッジに対応する角度であると判断されるようになる。すなわち、このとき検知されたカム信号のエッジに対応するクランク角として、時刻t13において検知されるクランク信号のエッジに対応する角度が検出されるべき状況であるにもかかわらず、実際には時刻t15において検知されるクランク信号のエッジに対応する角度が検出されるようになる。そして、この場合には回転角検出装置によって検出されるクランク角の基準角度がクランクロータ30(図2参照)の凸部31の配設間隔(本実施の形態では、10°CA)分だけずれてしまう。
【0051】
なお本実施の形態では、上記理想的な関係として、連続する二つのクランク信号のエッジの検知時期(図6の時刻t11,t13)の間(前記検知期間)の中央にあたる時期(時刻t12)とカム信号のエッジの検知時期とが一致するようになる関係が設定されている。この関係は、回転角検出装置の各構成部品の製造公差や組付誤差などに起因して実際の関係が理想的な関係からずれた場合においてカム信号のエッジの検知時期が前記検知期間(時刻t11〜t13)を最も外れにくくなる関係である。そのため上記理想的な関係は、上記検知期間の終了時(時刻t13)において検知されるクランク信号のエッジに対応するクランク角がカム信号のエッジに対応する角度として精度よく検出されるようになる関係であると云える。
【0052】
本実施の形態にかかる回転角検出装置では、そうした理想的な関係と実際の関係とのずれに起因するクランク角の検出精度の低下を抑えるために、同装置の各構成部品の組付けを以下に記載する予め定められた態様で行うようにしている。
【0053】
以下、本実施の形態にかかる回転角検出装置の組付態様について説明する。
図7に、クランク信号のエッジの検知時期(詳しくは、理想的な関係におけるカム信号のエッジの検知時期)に対してカム信号のエッジの検知時期が最も遅い時期になる機関運転状態(特定運転状態)であるときにおける各検知時期の関係を示す。
【0054】
同図7に示すように、本実施の形態の装置では、内燃機関10が特定運転状態であるときにおいて、連続する二つのクランク信号のエッジの検知時期の間(時刻t21〜t23[検知期間])の中央にあたる時期(時刻t22)とカム信号のエッジの検知時期とが一致するように、回転角検出装置の各構成部品が組付けられる。すなわち、内燃機関10が特定運転状態であるときにクランク信号のエッジの検知時期とクランク信号のエッジの検知時期とが上記理想的な関係になるように回転角検出装置の各構成部品が組付けられる。なお、そうした組付態様が実現される各構成部品の組付位置は実験やシミュレーションの結果をもとに精度よく求めて設定することができる。そして、そのようにして設定した組付位置をもとに回転角検出装置の各構成部品の組付けが行われる。
【0055】
本実施の形態では、このようにして回転角検出装置が組付けられているために、内燃機関10が特定運転状態であるときにおいてクランク信号のエッジの検知時期とカム信号のエッジの検知時期との関係が前記理想的な関係になる。そのため電子制御ユニット20によるカム信号のエッジの検知時期は、内燃機関10が特定運転状態になったときに理想的な関係におけるカム信号のエッジの検知時期と一致するようになり、それ以外の運転状態のときには同理想的な関係におけるカム信号のエッジの検知時期より早い時期になる。したがって本実施の形態の装置では、電子制御ユニット20によるカム信号のエッジの実際の検知時期が前記理想的な関係における同エッジの検知時期より早い時期になる。そのため、カム信号のエッジを検知した時期を遅れ側の時期に補正するとともにその補正した時期に基づいてクランク角の基準角度を検出することにより、理想的な関係に近い関係をもとに基準角度を検出することができるようになる。
【0056】
この点をふまえて本実施の形態では、上述のように回転角検出装置の組付けを行った上で、電子制御ユニット20によるカム信号のエッジの検知時期を遅れ側の時期に補正してクランク角の基準角度の検出に用いるようにしている。
【0057】
以下、そのようにカム信号のエッジの検知時期を補正する処理(補正処理)の実行態様について説明する。
図8は上記補正処理の実行態様を示すフローチャートであり、このフローチャートに示される一連の処理は所定周期(例えば数ミリ秒)毎の割り込み処理として電子制御ユニット20により実行される。
【0058】
同図8に示すように、この処理では先ず、カム信号のエッジが検知されたか否かが判断される(ステップS101)。ここでは本処理の前回実行時と今回実行時とでカム信号の出力レベルが異なることをもってカム信号のエッジが検知されたと判断される。そして、カム信号のエッジが検知されていないと判断される場合には(ステップS101:NO)、以下の処理(ステップS102およびステップS103)を実行することなく、本処理が一旦終了される。
【0059】
その後において、本処理が繰り返し実行されてカム信号のエッジが検知されると(ステップS101:YES)、機関回転速度に基づいてカム信号のエッジの検知時期を遅れ側の時期に補正するための補正項が算出される(ステップS102)。ここでは、クランク信号のエッジの検知時期に対してカム信号のエッジの検知時期が最も遅い時期になる機関運転状態(前記特定運転状態)であるときには、同カム信号のエッジの検知時期を補正しない値(詳しくは「0」)が補正項として算出される。また、特定運転状態以外の機関運転状態であるときには、このときの機関運転状態によって見込まれるカム信号のエッジの検知時期と特定運転状態であるときのカム信号のエッジの検知時期との差分を補正することの可能な値が補正項として算出される。
【0060】
そして、この補正項によってカム信号のエッジの検知時期を補正した時期、すなわち補正項に相当する時間だけカム信号のエッジの検知時期を遅れ側にずらした時期(補正時期)が算出された後(ステップS103)、本処理は一旦終了される。
【0061】
以下、上記補正処理を実行することによる作用について図9を参照しつつ説明する。
図9はカム信号の補正態様の一例を示している。なお図9において、実線は実際に電子制御ユニット20により検出されるカム信号の推移を示し、一点鎖線は上記補正処理を通じて算出される補正時期を示している。
【0062】
図9に実線で示すように、本実施の形態では、電子制御ユニット20によるカム信号のエッジの実際の検知時期(時刻t31)が前記理想的な関係における同エッジの検知時期(時刻t33)より早い時期になるように回転角検出装置が組付けられている。そのため、同図9中に矢印Tで示すように、カム信号のエッジの検知時期を遅れ側の時期に補正することにより、理想的な関係におけるカム信号のエッジの検知時期(時刻t33)に基づいてクランク角の基準角度を検出することが可能になる。
【0063】
ここで前述したように、クランク角を基準としてみた場合に、クランク信号のエッジの検知時期やカム信号のエッジの検知時期は機関回転速度に応じて大きく変化するようになる。そのため、電子制御ユニット20によってクランク信号のエッジが検知される時期(図9に示す例では時刻t32,t34)とカム信号のエッジが検知される時期(同時刻t31)との関係についての理想的な関係と実際の関係とのずれの度合いは、機関回転速度に基づいて精度よく把握することができるようになると云える。
【0064】
この点をふまえて本実施の形態では、機関回転速度、すなわち上記ずれと相関の高い値に基づいて補正項が算出されるとともに、同補正項によってカム信号のエッジの検知時期が補正される。具体的には、理想的な関係と実際の関係とのずれを適正に抑えることの可能な補正項と機関回転速度との関係が実験やシミュレーションの結果等にもとづいて予め求められて電子制御ユニット20に記憶されており、上記補正処理(図8のステップS102の処理を参照)では、この関係をもとに補正項が算出される。そのため本実施の形態では、上記補正項により補正した時期(前記補正時期)とクランク信号のエッジの検知時期との関係が上記理想的な関係に近い関係になる。
【0065】
そして、本実施の形態では、そうした補正時期がクランク角の基準角度の検出に用いられる。具体的には、前述した各変化パターン(図5参照)との比較に用いる実際の変化パターンとして、カム信号そのもの(図9に実線で示すカム信号[補正前])の直近における変化パターンではなく、上記補正時期により定まるカム信号(図9に一点鎖線で示すカム信号[補正後])の直近(複数回分)における変化パターンが採用される。なお本実施の形態では、上記補正時期により定まるカム信号[補正後]の変化パターンが、上記補正時期の間隔の変化パターンとして機能する。
【0066】
上記各変化パターンのいずれかと上記カム信号[補正後]の直近における変化パターンとが合致すると、カム角がこのとき一致した変化パターンに記憶されているクランク角(0,30,90,180,300,360,390,450,540,660°CAのいずれか)に対応する角度であると判断される(時刻t33)。そして、その直後に検知されるクランク信号のエッジ(時刻t34)に対応する角度が上記合致した変化パターンに記憶されている角度、すなわちクランク角の基準角度として検出されて電子制御ユニット20に記憶される。その後においては、そのようにして特定された基準角度をもとにクランク信号に基づきクランク角が検出される。
【0067】
このように本実施の形態によれば、上記理想的な関係に近い関係をもとにクランク角の基準角度を検出することができるようになり、機関回転速度の変化に伴う理想的な関係と実際の関係とのずれによる基準角度の検出誤差を抑えることができるようになる。
【0068】
ちなみに、電子制御ユニット20によるカム信号のエッジの検知時期が前記理想的な関係における同エッジの検知時期より遅い時期になる装置であっても、カム信号のエッジを検知した時期をそれ以前の時期に補正することにより、理想的な関係に近い関係をもとにクランク角の基準角度を検出することが可能になる。しかしながら、この場合にはカム信号のエッジが検知された時期より前に遡った時期に検知されたクランク角が基準角度として検出されるようになるために、同基準角度の特定が遅くなり、クランク角の基準角度がずれた状態でクランク角が検出されるようになる期間が長くなって同クランク角の検出精度の低下を招いてしまう。
【0069】
この点、本実施の形態によれば、電子制御ユニット20による基準角度に対応するクランク信号のエッジの検知に先立って検知したカム信号のエッジをもとにカム角が基準角度に対応する角度になる時期を把握することができ、同時期に基づいて基準角度に対応するクランク信号のエッジが検知されたことをもって同基準角度を特定することができる。そのためクランク角の基準角度を早期に特定することができ、同基準角度がずれた状態でクランク角が検出されるようになる期間を短くすることができる。このように本実施の形態によれば、クランク角の基準角度を精度よく且つ早期に検出することができるようになる。
【0070】
以上説明したように、本実施の形態によれば、以下に記載する効果が得られるようになる。
(1)カム信号のエッジを検知するとともにその検知時期を機関回転速度に基づいて遅れ側の時期に補正し、該補正した時期とクランク信号のエッジの検知時期との関係に基づいてクランク角についての基準角度を検出するようにした。そのため、前記理想的な関係に近い関係をもとにクランク角の基準角度を検出することができ、理想的な関係と実際の関係とのずれによる検出誤差を抑えることができる。しかも、クランク角の基準角度を早期に特定することができ、同基準角度がずれた状態でクランク角が検出されるようになる期間を短くすることができる。したがって、クランク角の基準角度を精度よく且つ早期に検出することができ、その基準角度をもとにクランク角を精度よく検出することができる。
【0071】
(2)内燃機関10が特定運転状態であるときにおいて、連続する二つのクランク信号のエッジの検知時期の間(検知期間)の中央にあたる時期とカム信号のエッジの検知時期とが一致するように、回転角検出装置の各構成部品を組み付けるようにした。これにより、電子制御ユニット20によるカム信号のエッジの検知時期が前記理想的な関係における同エッジの検知時期より早い時期になる。したがって、カム信号のエッジを検知した時期を遅れ側の時期に補正するとともにその補正した時期に基づいてクランク角の基準角度を検出することにより、理想的な関係に近い関係をもとに基準角度を検出することができるようになる。
【0072】
(3)補正時期により定まるカム角[補正後]とクランク信号のエッジの検知時期との関係に基づいて、クランク角についての基準角度を特定することができる。
(4)クランク信号のエッジの検知時期とカム信号のエッジの検知時期との関係にあってその理想的な関係と実際の関係とのずれと相関の高い値である機関回転速度に基づいてカム信号のエッジの検知時期を補正することができ、その補正した時期をもとにクランク角についての基準角度を精度よく検出することができる。
【0073】
なお、上記実施の形態は、以下のように変更して実施してもよい。
・クランク信号のエッジの検知時期とカム信号のエッジの検知時期との理想的な関係は、回転角検出装置の各構成部品の製造公差や組付誤差などに起因する基準角度の検出精度の低下を適正に抑えることの可能な関係であれば、回転角検出装置の特性に合わせて任意に変更することができる。この場合には、内燃機関10が特定運転状態であるときに理想的な関係になるように回転角検出装置の各構成部品の組付けを行うとともに、同理想的な関係に見合う値が補正項として算出されるように補正処理を実行するようにすればよい。
【0074】
・カムロータの形状は、回転方向における突出幅および突出間隔の少なくとも一方が異なる複数の突部が外周に形成された形状であれば、例えばいずれかの突部や凹部の幅を変更したり配設数を変更したりするなど、任意に変更することができる。また、カム角が予め設定された所定角度になったときに出力レベルが変化する信号がカムセンサから出力されるのであれば、外周に突部が一つのみ設けられたカムロータを採用するようにしてもよい。
【0075】
・クランクロータとして、凸部の一部を欠損させた部分(いわゆる欠歯部)が設けられたものを採用するようにしてもよい。
・カム信号[補正後]の変化パターンに基づいて、カム角が基準角度に対応する角度になったことを判断する構成を省略してもよい。この場合には、例えば補正時期の直後(あるいは直前)に検知されたクランク信号のエッジに対応するクランク角を基準角度として検出するなど、補正時期とクランク信号のエッジの検知時期との関係に基づいてクランク角の基準角度を検出するようにすればよい。
【0076】
・上記実施の形態にかかる装置は、クランク信号をクランク角の検出に用いる際に同クランク信号の立ち下がりエッジのみを用いる装置や、立ち上がりエッジおよび立ち下がりエッジの両方を用いる装置にも適用することができる。また上記実施の形態にかかる装置は、クランクセンサ21の近傍を各凸部31のいずれかが通過しているときに「L」になるとともにそれ以外のときに「H」になる信号をクランク信号(詳しくは、クランク信号[整波後])として採用した装置にも適用することができる。さらに、カムセンサ22の近傍をカムロータ40の突部が通過しているときに「L」になるとともに同カムセンサ22の近傍を凹部が通過しているときには「H」になる信号をカム信号(詳しくは、カム信号[整波後])として採用した装置にも、上記実施の形態にかかる装置は適用可能である。
【符号の説明】
【0077】
10…内燃機関、11…燃料噴射弁、12…点火プラグ、13…クランク軸、14…カム軸、20…電子制御ユニット(検出手段および検出ユニット)、21…クランクセンサ、22…カムセンサ、30…クランクロータ、31…凸部、40…カムロータ、41…第1突部、42…第1凹部、43…第2突部、44…第2凹部、45…第3突部、46…第3凹部、47…第4突部、48…第4凹部、49…第5突部、50…第5凹部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関のクランク軸が所定角度回転する毎に出力レベルが変化するクランク信号を出力するクランクセンサと、
前記内燃機関のカム軸の回転角が予め設定された所定角度になったときに出力レベルが変化するカム信号を出力するカムセンサと、
前記クランク信号の変化時期および前記カム信号の変化時期を検知するとともに該検知した前記カム信号の変化時期を機関運転状態に基づいて遅れ側の時期に補正し、該補正した時期と前記クランク信号の変化時期との関係に基づいて前記クランク軸の回転角についての基準角度を検出する検出手段と
を備えることを特徴とする回転角検出装置。
【請求項2】
前記クランク軸に一体に取り付けられるとともに回転方向において等間隔で突出する同一形状の複数の凸部が外周に形成された円板形状をなすクランクロータと、前記カム軸に一体に取り付けられるとともに回転方向における突出幅および突出間隔の少なくとも一方が異なる複数の突部が外周に形成された円板形状をなすカムロータと、をさらに備え、
前記クランクセンサは、前記クランクロータの近傍に設けられて前記凸部が近傍を通過する毎にパルス状の信号を前記クランク信号として出力するものであり、
前記カムセンサは、前記カムロータの近傍に設けられて前記突部の接近時および離間時においてそれぞれ出力レベルが変化する信号を前記カム信号として出力するものであり、
前記回転角検出装置は、前記検出手段により検知される前記クランク信号の変化時期に対して前記カム信号の変化時期が最も遅い時期になる機関運転状態であるときに、連続する二つの前記クランク信号の変化時期の間の中央にあたる時期と前記カム信号の変化時期とが一致するように、前記クランクロータ、前記クランクセンサ、前記カムロータおよび前記カムセンサが配設されてなる
請求項1に記載の回転角検出装置。
【請求項3】
前記カム軸に一体に取り付けられるとともに回転方向における突出幅および突出間隔の少なくとも一方が異なる複数の突部が外周に形成された円板形状をなすカムロータをさらに備え、
前記カムセンサは、前記カムロータの近傍に設けられて前記突部の接近時および離間時においてそれぞれ出力レベルが変化する信号を前記カム信号として出力するものであり、
前記検出手段は、前記補正した時期の間隔の変化パターンに基づいて前記基準角度を検出するものである
請求項1に記載の回転角検出装置。
【請求項4】
請求項2に記載の回転角検出装置において、
前記検出手段は、前記補正した時期の間隔の変化パターンに基づいて前記基準角度を検出するものである
ことを特徴とする回転角検出装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の回転角検出装置において、
前記機関運転状態は前記クランク軸の回転速度である
ことを特徴とする回転角検出装置。
【請求項6】
内燃機関のクランク軸に一体に取り付けられるとともに回転方向において等間隔で突出する同一形状の凸部が外周に形成された円板形状をなすクランクロータと、前記クランクロータの近傍に設けられるとともに前記クランク軸の回転に伴い前記凸部が近傍を通過する毎にパルス状の信号を出力するクランクセンサと、前記内燃機関のカム軸に一体に取り付けられるとともに回転方向における突出幅および突出間隔の少なくとも一方が異なる複数の突部が外周に形成された円板形状をなすカムロータと、前記カムロータの近傍に設けられるとともに前記カム軸の回転に伴う前記突部の接近時および離間時においてそれぞれ出力レベルが変化する信号を出力するカムセンサと、前記クランクセンサの出力信号であるクランク信号および前記カムセンサの出力信号であるカム信号が入力される検出ユニットとを備える回転角検出装置の組付方法であって、
前記検出ユニットにより検知される前記クランク信号の変化時期に対して前記カム信号の変化時期が最も遅い時期になる機関運転状態であるときに、連続する二つの前記クランク信号の変化時期の間の中央にあたる時期と前記カム信号の変化時期とが一致するように、前記クランクロータ、前記クランクセンサ、前記カムロータおよび前記カムセンサのいずれかの組付けを行う
ことを特徴とする回転角検出装置の組付方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−157835(P2011−157835A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−18555(P2010−18555)
【出願日】平成22年1月29日(2010.1.29)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】