説明

回転電機のコイルエンド構造

【課題】絶縁処理の簡略化を図ることができるコイルエンド構造を提供する。
【解決手段】ステータ1とロータとを備え、ステータ1は、ステータコア2と、周方向に間隔を存して軸方向に貫通するようにステータコア2に設けられた複数のスロット2aと、複数相のコイル3とを備え、コイル3は、一対の脚部41と両脚部41を一方の端部で接続する頭部42とからなる複数のU字状コイルセグメント4を、脚部41がスロット2aを通ってスロット2aから突き出るように配置し、脚部41のスロット2aから突出した突出部分43をステータ1の周方向に捩り曲げて、対応する個所同士を接合して構成され、コイルセグメント4は、複数の導線を幅方向に整列させた束で構成される回転電機のコイルエンド構造において、同一のスロット2aから突出する突出部分43の隣接する導線同士のうち、少なくとも1組が同一方向に捩り曲げられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動機や発電機などの回転電機のコイルエンド構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ステータとロータとを備える電動機や発電機などの回転電機が知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1の回転電機のステータは、ステータコアと、周方向に間隔を存して軸方向に貫通するようにステータコアに設けられた複数のスロットと、複数相のコイルとを備える。
【0003】
コイルは、一対の脚部と両脚部を一方の端部で接続する頭部とからなる複数のU字状コイルセグメントを、脚部がスロットを通って突き出るように配置し、スロット2から突出した脚部の突出部分を対応するもの同士で接合して構成される。
【0004】
コイルセグメントは複数の平角線を幅方向に並べた束で構成されている。そして、各スロット内では、コイルセグメントを構成する複数の平角線は、ステータコアの径方向に並ぶ。スロットから突き出た脚部の突出部分は、隣接する平角線同士が互いに異なる方向を向くように捩り曲げられる。そして、隣接する異なる相のコイルセグメントと絶縁すべく絶縁紙を挟み込むなどして絶縁処理を施している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3407675号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、絶縁処理の簡略化を図ることができるコイルエンド構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
[1]上記目的を達成するため、本発明は、ステータとロータとを備え、前記ステータは、ステータコアと、周方向に間隔を存して軸方向に貫通するように該ステータコアに設けられた複数のスロットと、複数相のコイルとを備え、該コイルは、一対の脚部と両脚部を一方の端部で接続する頭部とからなる複数のU字状コイルセグメントを、前記脚部が前記スロットを通って前記スロットから突き出るように配置し、前記脚部の前記スロットから突出した突出部分を前記ステータの周方向に捩り曲げて、対応する個所同士を接合して構成され、前記コイルセグメントは、複数の導線を幅方向に整列させた束で構成される回転電機のコイルエンド構造において、同一の前記スロットから突出する前記突出部分の隣接する前記導線同士のうち、少なくとも1組が同一方向に捩り曲げられることを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、同一のスロットから突出する突出部分の隣接する導線同士のうち、少なくとも1組が同一方向に折れ曲げられているため、この隣接する導線同士の間では、異なる位相電流が流れる導線と隣り合うことがない。従って、この隣接する導線同士の間では、絶縁紙を挟むなどの絶縁処理を施す必要がなく、従来のコイルエンド構造と比較して、絶縁処理の簡略化を図ることができる。
【0009】
又、上記隣接する導線同士は同一方向に捩り曲げられるため、別々ではなく同時に両者を捩り曲げることが可能となる。従って、コイルエンド製造工程時に捩り曲げ作業の工数を削減することができ、コイルエンドを迅速に製造することも可能である。
【0010】
[2]本発明においては、前記少なくとも1組の導線同士の間には、隙間を形成することが好ましい。かかる構成によれば、前記少なくとも1組の導線同士が互いに接触することを防止でき、突出部分の絶縁被膜の剥離防止や放熱機能低下防止を図ることができる。
【0011】
[3]本発明のコイルエンド構造の治具としては、ステータコアのスロットから突き出た複数の導線を該ステータコアの周方向に捩り曲げる捩り曲げ治具であって、前記スロットから突き出た前記導線を保持する保持部を備える複数のリングと、該リングを回転させる駆動部とを備え、前記複数のリングのうち少なくとも1つは、同一の前記スロット内で隣接する導線の少なくとも1組を同時に保持する同時保持型リングであるように構成することができる。
【0012】
本発明の捩り曲げ治具によれば、上記1組の隣接する導線同士を同時に周方向に捩り曲げることができる。このため、捩り曲げ回数を減少させることができ、迅速にコイルエンドを製造することができる。
【0013】
[4]本発明の捩り曲げ治具においては、同時保持型リングに、上記少なくとも1組の導線同士の間に位置する間隔形成部を設けることが好ましい。かかる構成によれば、上記1組の導線の間の隙間を容易に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態のコイルエンド構造を適用した回転電機のステータを示す斜視図。
【図2】本実施形態のコイルセグメントを示す斜視図。
【図3】本実施形態のコイルセグメントの突出部分を示す説明図。
【図4】本実施形態のコイルセグメントを周方向に整列させた状態を示す説明図。
【図5】本実施形態のコイルセグメントの突出部分を周方向に捩り曲げる捩り曲げ治具を示す説明図。
【図6】本実施形態のコイルセグメントの突出部分を周方向に捩り曲げる捩り曲げ治具を示す説明図。
【図7】コイルセグメントの突出部分の隣接する平角線同士が互いに異なる方向に捩り曲げられた部分を示す説明図。
【図8】他の実施形態のコイルエンド構造を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1から図8を参照して、本発明のコイルエンド構造の実施形態について説明する。図1は、電動機や発電機などの回転電機のステータ1を示している。ステータ1は円筒状に形成されており、ステータ1の内側には、回転電機のロータ(図示省略)が回転自在に配置される。
【0016】
ステータ1は、ステータコア2と、コイル3とで構成される。ステータコア2は、円筒形状であり、回転軸方向に貫通する複数のスロット2aが周方向に間隔を存して複数設けられている。各スロット2aは、ステータコア2の径方向断面形状がステータコア2の中心側から径方向に向かって放射状に延びるように形成されており、ステータコア2に形成されたスリット2bを介してステータコア2の内周面に連通している。尚、スリット2bは設けなくてもよい。
【0017】
コイル3は、図2に示すコイルセグメント4をスロット2aに一方から挿入し、他方から突き出た突出部分を周方向に捩り曲げて接合することにより構成される。コイルセグメント4は、複数(図では5本)の断面長方形状の導線(平角線)を幅の広い方の面が対向するように1列に整列させて1つの束にしてU字状に形成したものであり、一対の脚部41,41と、両脚部41,41の一方端(図では上端)を連結する頭部42とからなる。
【0018】
頭部42の中央には整列方向にS字状に湾曲するS字状部42aが形成されている。又、頭部42は、その中央(S字状部42aの中央)から両脚部41,41に向かって下方に傾斜している。コイルセグメント4の脚部41は、対応するスロット2aに一方から挿入される。スロット2aの他方からは、コイルセグメント4の脚部41が突出する。このスロット2aの他方から突出した脚部41の突出部分43を、図3(a)に示すように、ステータ1の周方向に捩り曲げて、対応する突出部分43同士をTIG溶接等で接合する。このようにして、コイル3が完成される。
【0019】
尚、本実施形態のコイル3は、U相、V相、W相からなる3相コイルであり、各スロット2aに挿入されるコイルセグメント4の脚部41は、周方向に、U相、U相、V相、V相、W相、W相の順に並ぶ。図3(b)では、3つの相のうちの1相のコイル(例えば、U相コイル)のみを示している。
【0020】
次に、スロット2aから突出した突出部分43の捩り曲げ加工について説明する。図2に示したコイルセグメント4は、図4に示すように、スロット2aの位置に対応させて周方向に一部が重ね合わさるように整列され、脚部41がステータコア2のスロット2aに挿入される。脚部41はスロット2aの下方に所定の長さで突き出すように設計されている。スロット2aの下方から突き出した脚部41の突出部分43は、捩り曲げ治具で周方向に捩り曲げられる。
【0021】
図5及び図6を参照して、この捩り曲げ治具6は、径の異なる6つのリング61〜66を備える(図6(a)参照)。6つのリング61〜66は径方向に重ね合わされている。各リング61〜66は、図示省略したアクチュエータで夫々自由に回転できる。各リング61〜66には、スロット2aに対応させて、コイルセグメント4の突出部分43を1本の平角線単位で保持するために凹んだ複数の保持部61a〜66a,62b〜65bが設けられている。6つのリング61〜66のうち、一番内側に位置するリング61と一番外側に位置するリング66の厚さ(径方向の幅寸法)は、他のリング62〜65の厚さの半分程度となっている。又、他のリング62〜65は図6(c)に模式的に示すように、径方向に並ぶ2本の平角線を保持するように夫々2つずつの保持部62a〜65a,62b〜65bが設けられている。そして、1つのリング62〜65に径方向に並べて設けられた保持部62a〜65a,62b〜65bの間には、仕切り部62c〜65c(間隔形成部)が設けられている。
【0022】
このように構成される捩り曲げ治具6を用いて、コイルセグメント4の突出部分43を周方向に捩り曲げる際には、まず、コイルセグメント4の突出部分43を1本の平角線ごとに保持部61a〜66a,62b〜65bに挿し込む。そして、隣接するリング同士が異なる方向となるように内側のリングから外側のリングへ順番に所定角度回転させる。
【0023】
このようにして周方向に捩り曲げられた突出部分43は、対応する他の突出部分43とTIG溶接などで接合される。このようにして、ステータ1が完成する。
【0024】
本実施形態のコイルエンド構造によれば、異なる方向に折り曲げられている部分においては、図7に領域Aとして示すように、異なる位相電流が流れるコイルセグメント4と隣り合う個所が発生する。このため、高電圧仕様の回転電機においては、間に絶縁紙7を挟み込むなどして絶縁処理を施す必要がある。
【0025】
本実施形態のコイルエンド構造によれば、同一スロット2a内に挿入されるコイルセグメント4の平角線うち、隣接する平角線43同士の4組(図6(c)参照)が同一方向に折れ曲げられているため、この隣接する平角線43同士の間では、異なる位相電流が流れるコイルセグメント4と径方向で隣り合うことがない。従って、この隣接する平角線43同士の間では、絶縁紙7を挟むなどの絶縁処理を施す必要がなく、従来のコイルエンド構造と比較して、絶縁処理の簡略化を図ることができる。
【0026】
又、上記隣接する突出部分同士は同一方向に折り曲げられるため、本実施形態の第2から第5のリング62〜65のように、同一スロット2a内の平角線を2本同時に屈曲させることが可能となる。従って、コイルエンド製造工程時に折り曲げ作業の工数を削減することができ、オープン側のコイルエンドを迅速に製造することができる。
【0027】
又、本実施形態においては間隔形成部としての仕切り部62c〜65cが設けられているため、同一スロット2a内の2本の平角線を同時に捩り曲げ加工しても、突出部分43の平角線同士が接触することを防止でき、突出部分43の平角線同士が接触することによる絶縁被膜の剥離を防止することができ、又、平角線間に隙間が形成されることにより、オープン側のコイルエンドにおける放熱機能低下を防止することができる。
【0028】
本実施形態の捩り曲げ治具によれば、各リング61〜66を径方向内方側から順番に回転させることにより、捩り曲げ加工が完了する。このため、リングの回転回数は6回となる。従来の捩り曲げ治具では、10個のリングを用いて10回回転させる必要がある。このため、リングの回転回数を従来よりも減少させることができ、これにより、迅速にオープン側のコイルエンドを製造することができる。
【0029】
尚、コイルセグメント4の頭部の形状は本実施形態のものに限らず、例えば、図8に示すように、頭部42’を構成しても本発明の効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0030】
1…ステータ、2…ステータコア、2a…スロット、3…コイル、4…コイルセグメント、41…脚部、42…頭部、42a…S字状部、43…突出部分、6…捩り曲げ治具、61〜66…リング、61a〜66a…保持部、62b〜65b…保持部、62c〜65c…仕切り部(間隔形成部)、W…平角線束。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステータとロータとを備え、
前記ステータは、ステータコアと、周方向に間隔を存して軸方向に貫通するように該ステータコアに設けられた複数のスロットと、複数相のコイルとを備え、
該コイルは、一対の脚部と両脚部を一方の端部で接続する頭部とからなる複数のU字状コイルセグメントを、前記脚部が前記スロットを通って前記スロットから突き出るように配置し、前記脚部の前記スロットから突出した突出部分を前記ステータの周方向に捩り曲げて、対応する個所同士を接合して構成され、
前記コイルセグメントは、複数の導線を幅方向に整列させた束で構成される回転電機のコイルエンド構造において、
同一の前記スロットから突出する前記突出部分の隣接する前記導線同士のうち、少なくとも1組が同一方向に捩り曲げられることを特徴とするコイルエンド構造。
【請求項2】
請求項1記載のコイルエンド構造において、
前記少なくとも1組の導線同士の間には、隙間が形成されることを特徴とするコイルエンド構造。
【請求項3】
ステータコアのスロットから突き出た複数の導線を該ステータコアの周方向に捩り曲げる捩り曲げ治具において、
前記スロットから突き出た前記導線を保持する保持部を備える複数のリングと、該リングを回転させる駆動部とを備え、
前記複数のリングのうち少なくとも1つは、同一の前記スロット内で隣接する導線の少なくとも1組を同時に保持する同時保持型リングであることを特徴とする捩り曲げ治具。
【請求項4】
請求項3記載の捩り曲げ治具において、
前記同時保持型リングは、前記少なくとも1組の導線同士の間に位置する間隔形成部が設けられることを特徴とする捩り曲げ治具。

【図3】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−165625(P2012−165625A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−26377(P2011−26377)
【出願日】平成23年2月9日(2011.2.9)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】