説明

回転電機の固定子及びその製造方法

【課題】高いカバーエッジ性の確保とピンホールの抑制の両立を図り得るようにした回転電機の固定子及びその製造方法を提供する。
【解決手段】固定子3は、周方向に複数のスロットを有する円環状の固定子コア32と、スロットに挿入配置された複数のセグメント導体33の端末部同士が溶接により接続されて固定子コア32に巻装された固定子巻線31と、を備える。セグメント導体33の接続された端末部が、端末部の表面に塗布した樹脂を硬化させることにより形成された絶縁皮膜36で覆われている。絶縁皮膜36は、粉体樹脂又は粘性の高い樹脂により形成されて端末部先端にある接合部33eの表面を覆う第1絶縁皮膜36aと、第1絶縁皮膜36aの樹脂よりも粘性の低い樹脂により形成されて第1絶縁皮膜36aの表面を覆う第2絶縁皮膜36bとからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載される回転電機の固定子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両において電動機や発電機として使用される回転電機の固定子として、特許文献1に開示されたものが知られている。この固定子は、周方向に複数のスロットを有する円環状の固定子コアと、スロットに挿入配置された複数のセグメント導体の端末部同士が接続されて固定子コアに巻装された固定子巻線とを備えている。
【0003】
そして、特許文献1には、セグメント導体の端末部同士を溶接などで接続した後、その接続された端末部の表面を絶縁樹脂で覆うことにより、固定子巻線の絶縁性を確保することが開示されている。この場合、高いカバーエッジ性を確保するために、セグメント導体の端末部を覆う絶縁樹脂は、粉体塗装を施すことにより端末部の表面に固着させるようにしている。
【0004】
この粉体塗装は、例えばエポキシ樹脂などを主成分とする粉体樹脂の槽に、粉体樹脂の硬化温度に熱せられたセグメント導体の端末部を浸漬させることによって、セグメント導体の端末部表面に粉体樹脂を溶融固着させるものである。このとき、粉体樹脂の槽は、粉体内部に圧縮空気を送ることにより、粉体樹脂を浮遊させた状態とする流動浸漬槽を用いることによって、形成される絶縁樹脂の厚さを均一化することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3770263号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、上記特許文献1に開示されているように、流動浸漬槽を用いて粉体塗装を行う場合には、粉体樹脂間に存在する気体や圧縮空気の巻き込みに起因して、塗装終了後にセグメント導体の端末部に固着された絶縁樹脂中にボイドが形成されてしまうことがある。そのため、固定子の小型化の要請などにより導体間距離を小さくしていくと、ボイドがピンホールとなって絶縁不良を発生させる可能性がある。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、高いカバーエッジ性の確保とピンホールの抑制の両立を図り得るようにした回転電機の固定子及びその製造方法を提供することを解決すべき課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するためになされた請求項1に記載の発明は、周方向に複数のスロットを有する円環状の固定子コアと、前記スロットに挿入配置された複数のセグメント導体の端末部同士が接続されて前記固定子コアに巻装された固定子巻線と、を備え、前記セグメント導体の接続された前記端末部が、前記端末部の表面に塗布した樹脂を硬化させることにより形成された絶縁皮膜で覆われている回転電機の固定子において、前記絶縁皮膜は、粉体樹脂又は粘性の高い樹脂により形成されて前記端末部の先端部表面を覆う第1絶縁皮膜と、該第1絶縁皮膜の樹脂よりも粘性の低い樹脂により形成されて前記第1絶縁皮膜の表面を覆う第2絶縁皮膜と、からなることを特徴とする。
【0009】
請求項1に記載の発明によれば、セグメント導体の接続された端末部を覆う絶縁皮膜は、粘性の異なる2種類の樹脂を2段塗布し硬化させることにより形成された第1絶縁皮膜と第2絶縁皮膜とからなり、ほぼ全体が2層構造に形成されている。端末部の先端部表面を覆う第1絶縁皮膜は、粉体樹脂又は粘性の高い樹脂により形成されているため、端末部の先端部表面に塗布されたときに、樹脂の自重による垂れを粘性抵抗によって抑制する。そのため、樹脂の溶融、硬化後においても、端末部の角部に残存し易くなるので、高いカバーエッジ性を確保することができる。また、第1絶縁皮膜の表面を覆う第2絶縁皮膜は、第1絶縁皮膜の樹脂よりも粘性の低い樹脂により形成されているため、ピンホールの発生を抑制することができる。したがって、本発明によれば、高いカバーエッジ性の確保とピンホールの抑制の両立を図ることができる。
【0010】
本発明において、第1絶縁皮膜を形成する樹脂としては、例えば、エポキシ、ポリエステル、ウレタン、シリコーン系等の熱硬化性樹脂を挙げることができる。これらの樹脂は、粉体樹脂であっても、液状樹脂であってもよい。これらの樹脂は、端末部の先端部表面に塗布される際に、溶融粘度が10Pa・s以上に調整されているのが好ましい。溶融粘度を調整する増粘剤としては、例えば、溶融シリカ、炭酸カルシウム、タルク、エアロジル、有機クレイ等をあげることができる。
【0011】
また、第2絶縁皮膜を形成する樹脂としては、例えば、エポキシ、ポリエステル、ウレタン、シリコーン系、等の液状の熱硬化性樹脂を挙げることができる。これらの樹脂は、第1絶縁皮膜の表面に塗布される際に、常温粘度が5Pa・s以下に調整されているのが好ましい。常温粘度は、例えば、これらの樹脂に添加される増粘剤の量を調整したり、希釈剤を添加することによって調整することができる。
【0012】
請求項2に記載の発明は、前記第1絶縁皮膜は、溶融粘度が10Pa・s以上の樹脂で形成されていることを特徴とする。
【0013】
請求項2に記載の発明によれば、第1絶縁皮膜は、溶融粘度が10Pa・s以上の樹脂で形成されているので、高いカバーエッジ性をより確実に確保することが可能となる。
【0014】
請求項3に記載の発明は、前記第2絶縁皮膜は、常温粘度が5Pa・s以下の樹脂で形成されていることを特徴とする。
【0015】
請求項3に記載の発明によれば、第2絶縁皮膜は、常温粘度が5Pa・s以下の樹脂で形成されているので、ピンホールの発生をより確実に抑制することが可能となる。
【0016】
請求項4に記載の発明は、前記第2絶縁皮膜は、液状のエポキシ、ポリエステル、ウレタン又はシリコーン系の樹脂で形成されていることを特徴とする。
【0017】
請求項4に記載の発明によれば、第2絶縁皮膜は、上記の樹脂材料で形成されていることで、ピンホールの発生をより確実に抑制することが可能となる。
【0018】
請求項5に記載の発明は、周方向に複数のスロットを有する円環状の固定子コアと、前記スロットに挿入配置された複数のセグメント導体の端末部同士が接続されて前記固定子コアに巻装された固定子巻線と、を備え、前記セグメント導体の接続された前記端末部が、前記端末部の表面に塗布した樹脂を硬化させることにより形成された絶縁皮膜で覆われている回転電機の固定子の製造方法において、前記セグメント導体の接続された前記端末部の先端部表面に、粉体樹脂又は粘性の高い樹脂を塗布し硬化させて第1絶縁皮膜を付着させる第1絶縁皮膜付着工程と、前記第1絶縁皮膜の表面に、前記第1絶縁皮膜の樹脂よりも粘性の低い樹脂を塗布し硬化させて第2絶縁皮膜を付着させる第2絶縁皮膜付着工程と、を有することを特徴とする。
【0019】
請求項5に記載の発明によれば、高いカバーエッジ性の確保とピンホールの抑制の両立を図ることができる回転電機の固定子を容易に製造することができる。
【0020】
請求項6に記載の発明は、前記第2絶縁皮膜付着工程は、前記樹脂を浸漬法、スプレー法又は滴下法により塗布することを特徴とする。
【0021】
請求項6に記載の発明によれば、ピンホールの発生を抑制しつつ、第2絶縁皮膜を確実に付着することができる。
【0022】
請求項7に記載の発明は、前記第2絶縁皮膜付着工程は、塗布された前記樹脂を熱風炉、電磁加熱器又は通電加熱で硬化させることを特徴とする。
【0023】
請求項7に記載の発明によれば、ピンホールの発生を抑制しつつ、第2絶縁皮膜を確実に付着することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】実施形態1に係る回転電機の全体構成を示す断面図である。
【図2】実施形態1に係る固定子巻線を構成するセグメント導体の斜視図である。
【図3】実施形態1に係る固定子を内周側から見た一部を示す平面図である。
【図4】実施形態1に係る固定子巻線を構成するセグメント導体の端末部の断面図である。
【図5】図3のV−V線矢視断面図である。
【図6】実施形態1における絶縁皮膜及び絶縁樹脂の製造工程を示すブロック図である。
【図7】図6の製造工程における第1絶縁皮膜付着工程を示す図である。
【図8】図6の製造工程における第2絶縁皮膜付着工程を示す図である。
【図9】図6の製造工程における絶縁樹脂付着工程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明に係る回転電機の固定子の実施形態について図面を参照して具体的に説明する。
【0026】
〔実施形態1〕
図1は、実施形態1に係る回転電機の全体構成を示す断面図である。図2は、実施形態1に係る固定子巻線を構成するセグメント導体の斜視図である。図3は、実施形態1に係る固定子を内周側から見た一部を示す正面図である。図4は、実施形態1に係る固定子巻線を構成するセグメント導体の端末部の断面図である。図5は、図3のV−V線矢視断面図である。
【0027】
本実施形態の固定子3は、車両に搭載される交流発電機1に使用されるものである。交流発電機1は、エンジンからの回転力を受けるプーリ20を有する。プーリ20は、シャフト上に回転子2とともに固定されている。回転子2は、一対のポールコア71、72を組み合わせて構成されたランデル型コアと、界磁巻線8とを有する。さらに、回転子2の端部には、冷却ファンが設けられている。本実施形態では、一方の端面であるフロント側に冷却ファン11が設けられ、他方の端面であるリア側に冷却ファン12が設けられている。冷却ファン12は、遠心方向へのみ送風するブレードを有している。そして、冷却ファン12は、フレーム4に搭載された整流器5やレギュレータ回路等を冷却するために、冷却ファン11より大型のファンである。
【0028】
さらに、シャフト上にはスリップリング9、10が設けられている。シャフトは、フレーム4に回転自在に支持されている。フレーム4には、回転子2の外周側に位置して固定子3が固定されている。
【0029】
固定子3は、周方向に複数のスロットを有する円環状の固定子コア32と、スロットに挿入配置された複数のセグメント導体33の端末部同士が溶接で接続されて固定子コア32に巻装された固定子巻線31と、を有する。
【0030】
固定子コア32に形成された溝状のスロットの内壁面に沿ってシート状のインシュレータ34が配置されている。固定子巻線31は、扁平断面の銅線33hにより構成されている。銅線33hは、表面が樹脂皮膜層33gにより被覆されている。従って、スロット内において、銅線33hは自らの樹脂皮膜層33gとインシュレータ34とによって、固定子コア32から電気的に絶縁されている。
【0031】
固定子巻線31は、複数のU字状のセグメント導体33を所定の規則に則って配列し、これら複数のセグメント導体33の端部を所定の規則に則って電気的に接続することにより構成されている。本実施形態では、電気接続部は、溶接により接続されている。本実施形態では、図2に模式的に示すような、2本のU字状のセグメント導体33a、33bを基本ユニットとして、このユニットを複数配列することにより、固定子コア32上を1周回する一連の巻線を形成している。
【0032】
U字状のセグメント導体33は、薄い絶縁樹脂膜33gで覆われた銅線33hを曲げて形成されたターン部33cと、他のセグメント導体33の端末部の接合部33cと溶接によって接続された端末部の接合部33eとを有している。ターン部33cは、そこに続く斜行部33dとともに第1コイルエンドをなす。複数のセグメント導体33の複数のターン部33cは、図1に示されるリア側(反プーリ20側)に規則的に配列して配置されて、第1コイルエンド群31aを形成する。接合部33eは、そこに続く斜行部33fとともに第2コイルエンドをなす。複数の接合部33eは、図1に示されるフロント側(プーリ20側)に配置されて、第2コイルエンド群31bをなしている。
【0033】
図3に示すように、第1コイルエンド群31aにおける斜行部33dの、軸方向に対する傾斜角θ1は、第2コイルエンド群31bにおける斜行部33fの傾斜角θ2より小さくされている。この結果、複数の斜行部33dの間には、複数の斜行部33fの間より大きい間隔が形成される。これにより、軸方向に真っ直ぐに延びる接合部33eを形成してもなお、第2コイルエンド群31bの軸方向高さを抑えることができる。
【0034】
本実施形態では、第1コイルエンド群31aは、ターン部33cを主として配置して構成されている。また、第2コイルエンド群31bは、接合部33eを主として配置して構成されている。但し、これらは基本ユニットのターン部33cと接合部33eとを主として配置したものである。第1コイルエンド群31aにも、部分的に接合部33eを配置することができる。例えば、中性点を得るための接合部や、整流器5への接続を実現するための接合部である。また、第2コイルエンド群31bに、部分的にターン部33cを配置することができる。
【0035】
第1コイルエンド群31aには、後述する第2絶縁皮膜36bと同じ樹脂材料よりなる薄い絶縁樹脂37が付着している。第1コイルエンド群31aに付着する薄い絶縁樹脂37は、この第1コイルエンド群31aを構成する複数の導体の表面を覆う程度に付着している。この結果、第1コイルエンド群31aの中には、第1コイルエンド群31aの中を、径方向内側から外側へ連通する冷却風の通路が形成されている。この絶縁樹脂37は、第1コイルエンド群31aの全体から固定子コア32の軸方向端部にわたる範囲に付与されている。そして、第1コイルエンド群31a内において径方向に隣接する導体の間に部分的に膜を張って、それらの間を連結して剛性を高めている。また、固定子コア32の端部において、固定子コア32と、インシュレータ34とセグメント導体33との間を架橋して、これらを接着している。
【0036】
導体セグメント33の端末部(溶接で接続された接合部33e)には、図3及び図4に示すように、厚い絶縁皮膜36が付着されている。導体セグメント33の端末部は、端縁から所定長さ(4mm程度)の部分にある絶縁樹脂膜33gが剥ぎ取られることにより銅線33hが露出しており、2個の導体セグメント33の露出部同士が溶接で接続された後、その露出部を覆うように絶縁皮膜36が固着されている。この絶縁皮膜36は、銅線33hの端末部先端の露出部表面を覆う第1絶縁皮膜36aと、第1絶縁皮膜36aの表面を覆う第2絶縁皮膜36bとからなり、ほぼ全体が2層構造に形成されている。
【0037】
第1絶縁皮膜36aは、溶融粘度が10Pa・s以上の粘性の高い粉体樹脂を端末部の先端部表面に付着させてそれを溶融させた後に硬化させる工程により形成されている。本実施形態では、第1絶縁皮膜36aの樹脂材料として、エポキシ樹脂などを主成分とする粉体樹脂が採用されており、増粘剤としての溶融シリカを混合することによって溶融粘度が10Pa・s以上となるように調整されている。これにより、その樹脂材料が銅線33hの端末部の先端部表面に付着して溶融したときに、樹脂の自重による垂れを粘性抵抗によって抑制するため、樹脂の溶融、硬化後においても、銅線33hの端末部の角部に残存し易くなるので、高いカバーエッジ性が確保されている。
【0038】
一方、第2絶縁皮膜36bは、常温粘度が5Pa・s以下で第1絶縁皮膜36aの樹脂よりも粘性の低い液状樹脂を第1絶縁皮膜36aの表面に付着させてそれを硬化させる工程により形成されている。本実施形態では、第2絶縁皮膜36bの樹脂材料として、エポキシ樹脂などを主成分とする液状樹脂が採用されており、この樹脂の常温粘度は5.0Pa・sとなっている。この第2絶縁皮膜36bは、第1絶縁皮膜36aの樹脂よりも十分に粘性の低い樹脂により形成されているため、ピンホールの発生が抑制されている。
【0039】
この絶縁皮膜36は、隣接する各々の接合部33eを離間させた状態を保持しつつ、第2コイルエンド31bの先端周辺を円環状に連接して配置されている。この絶縁皮膜36は、第2コイルエンド群31bの軸方向先端に、径方向に延びる溝36cを形成するように粘度と量とが調節されて付与される。この溝36cは、放熱面積の維持に寄与する。
【0040】
さらに、第2コイルエンド群31bの絶縁皮膜36が付着されている部位以外の部位には、第1コイルエンド群31aに付着された絶縁樹脂37及び第2絶縁皮膜36bと同じ樹脂材料よりなる薄い絶縁樹脂37が付着している。即ち、第2コイルエンド群31bは、その全体が、薄い絶縁樹脂37で覆われている。特に、図3に示すように、第2コイルエンド31bのうち、絶縁皮膜36に覆われていない導体としての斜行部33fは、絶縁樹脂37だけで覆われている。絶縁樹脂37は、第2コイルエンド群31bの固定子コア32寄りの根本部では、空間部37aを形成している。
【0041】
絶縁樹脂37は、図5に示すように、第2コイルエンド群31bの内部にまで浸透して付着している。特に、径方向に関して多層に配置され、しかも周方向に関して整列している複数の斜行部33fの間にまで入り込んでいる。絶縁樹脂37は、複数の斜行部33fの間に、膜を張るようにして付着しており、複数の斜行部33fの間を架橋している。絶縁樹脂37は、第2コイルエンド群31b内において径方向に隣接する導体の間のほとんどすべてに入り込んでいる。絶縁樹脂37は、第2コイルエンド群31b内において周方向に隣接する導体の間にも入り込んで膜を張るように付着している。
【0042】
この絶縁樹脂37は、常温粘度が低い液状樹脂を付着させて、それを硬化させる工程により形成されている。絶縁樹脂37は、図5に示される程度の気泡状の空間37bや、溝37cが形成される程度に、粘度と量とが調節されて第2コイルエンド群31bに付与される。この絶縁樹脂37は、第2コイルエンド群31bの全体から固定子コア32の軸方向端部にわたる範囲に付与されている。そして、固定子コア32の端部において、固定子コア32と、インシュレータ34とセグメント導体33との間を架橋して、これらを接着している。
【0043】
複数の斜行部33fの間は、径方向内側ほど周方向の間隔が小さい。このため、絶縁樹脂37は、第2コイルエンド群31bの径方向内側では、導体としての斜行部33fの間を、径方向並びに周方向の両方に関してほぼ埋めている。絶縁樹脂37は、第2コイルエンド群31bの径方向外側では、複数の斜行部33fの間の間隔が比較的広いため、多くの空間37bを残して斜行部33fに付着している。特に、外層として最も外側に並ぶ複数の斜行部33fに対しては、それらの表面を覆っているが、それらの間に空間としての溝37cを残して付着している。
【0044】
この結果、第2コイルエンド群31bは、外側が斜行部33fに対応した波形の表面を呈して広い表面積を提供し、内側が外側に比して滑らかな表面を呈する。すなわち、絶縁樹脂37が第2コイルエンド群31bにおいて呈する形状は、径方向内側より外側のほうが大きく波打った形状である。言い換えれば、径方向外側において径方向内側よりも多くの、しかも深い多数の溝37cを有している。さらに言い換えれば、絶縁樹脂37の密度は、径方向内側のほうが外側よりも密である。また、絶縁樹脂37は、2つのコイルエンド群のうちの一方にのみ、多く、厚く付着している。本実施形態では、ターン部33cを含む第1コイルエンド群31aより、接合部33eを含む第2コイルエンド群31bに、多く、厚く付着している。絶縁樹脂37は、リア側よりフロント側のコイルエンドに、多く、厚く付着している。
【0045】
次に、上記の絶縁皮膜36及び絶縁樹脂37の製造工程について図6〜図9を参照して説明する。図6は、本実施形態における絶縁皮膜及び絶縁樹脂の製造工程を示すブロック図である。図7は、図6の製造工程における第1絶縁皮膜付着工程を示す図である。図8は、図6の製造工程における第2絶縁皮膜付着工程を示す図である。図9は、図6の製造工程における絶縁樹脂付着工程を示す図である。
【0046】
本実施形態の絶縁皮膜36及び絶縁樹脂37は、図6に示すように、第1絶縁皮膜付着工程101と、第2絶縁皮膜付着工程102と、絶縁樹脂付着工程103とを順に行うことにより形成される。
【0047】
第1絶縁皮膜付着工程101では、図7に示すように、第1絶縁皮膜36aの形成材料として、エポキシ樹脂などを主成分とする粉体樹脂:45〜50重量%に、増粘剤としての溶融シリカ:50〜55重量%を混合してなる、溶融粘度が10Pa・s以上の粘性の高い第1絶縁皮膜形成材料36Aを槽303内に投入して準備する。そして、槽303内の第1絶縁皮膜形成材料36Aに、第1絶縁皮膜材料36Aの硬化温度にまで熱せられた固定子3を、第2コイルエンド群31bが下方になるように水平に置いた状態で、接合部33eから接合根本付近まで浸漬させる。
【0048】
これにより、接合部33eの端末部先端の銅線33h露出部表面に、第1絶縁皮膜形成材料36Aを溶融、硬化させて、第1絶縁皮膜36aを形成し付着させる。このとき、第1絶縁皮膜形成材料36Aは、粘性が高いため、端末部の先端部表面に塗布された際に、自重による垂れを粘性抵抗によって抑制する。そのため、第1絶縁皮膜形成材料36Aの溶融、硬化後においても、端末部の角部に残存し易くなるので、高いカバーエッジ性が確保されている。
【0049】
なお、第1絶縁皮膜付着工程101で用いられる槽303は、粉体樹脂に乾燥空気を送ることにより、粉体樹脂を浮遊させた状態にする流動浸漬槽とすることによって、第1絶縁皮膜36aの厚さを均一化し、安定して第1絶縁皮膜36aを形成することができる。
【0050】
次の第2絶縁皮膜付着工程102では、図8に示すように、第2絶縁皮膜36bの形成材料として、エポキシ樹脂などを主成分とする、常温粘度が5Pa・s以下の粘性の低い第2絶縁皮膜形成材料36Bを槽303内に投入して準備する。そして、上記の第1絶縁皮膜付着工程101を終了した後、第2絶縁皮膜材料36Bの硬化温度にまで熱せられた固定子3を、上記の第1絶縁皮膜付着工程101と同様に、槽303内の第2絶縁皮膜形成材料36Bに、接合部33eから接合根本付近まで浸漬させる。
【0051】
これにより、接合部33eの端末部先端の銅線33h露出部表面に付着している第1絶縁皮膜36aの表面に、第2絶縁皮膜形成材料36Bを硬化させて、第2絶縁皮膜36bを形成し付着させる。これにより、接合部33eの端末部先端の銅線33h露出部は、第1絶縁皮膜36a及び第2絶縁皮膜36bからなる2層構造の絶縁皮膜36に覆われた状態となる(図4参照)。
【0052】
続いて、絶縁樹脂付着工程103では、絶縁樹脂37の形成材料として、エポキシ樹脂などを主成分とする、常温粘度が5Pa・s以下の粘性の低い絶縁樹脂材料37Aをディスペンサ301内に準備する。本実施形態では、絶縁樹脂材料37Aは、第2絶縁皮膜付着工程102で用いた第2絶縁皮膜形成材料36Bと同じものが用いられている。
【0053】
図9において、固定子3は、第1コイルエンド群31aを上方に向けて固定子コア32の中心軸と同軸で周方向に回転する治具300によって、鉛直軸に対して一定の傾斜角αをもって保持されている。この傾斜角αは、図9に示す如く15°程度に設定することができる。これにより、整流器5に接続される固定子巻線31の出力線310の先端部に、絶縁樹脂材37Aが付着することを防ぐことができる。
【0054】
絶縁樹脂材料37Aは、回転する固定子3の上方に固定設置されたディスペンサ301のノズル302から第1コイルエンド群31aに向かって一定量滴下される。その後、第2コイルエンド群31bが下方になるように固定子3を水平に置き、絶縁樹脂材料37Aの硬化温度の雰囲気下に所定時間置かれる。この間に、絶縁樹脂材料37Aの一部は、固定子コア32のスロット内を通って、下方の第2コイルエンド群31bの斜行部33fに至り、硬化が完了する。これにより、第1コイルエンド群31aの全体の表面が薄く形成された絶縁樹脂37に覆われるとともに、第2コイルエンド群31bの斜行部33fのほぼ全体の表面が薄く形成された絶縁樹脂37に覆われた状態となる。
【0055】
なお、第2コイルエンド群31bの斜行部33fを覆う絶縁樹脂37は、接合部33eの表面を覆っている絶縁皮膜36の第2絶縁皮膜36bと部分的に繋がっている。
【0056】
以上のように構成された車両用交流発電機1は、車両の走行用エンジンによってプーリ20が回転駆動される。回転子2の界磁巻線8には、スリップリング9、10を介して励磁電流が流され、ポールコア71、72にN極、S極の磁極が形成され、回転界磁が形成される。これにより、固定子巻線31に交流電圧が誘起され、この交流出力が整流器5によって整流されて、出力端子から直流として出力される。
【0057】
また、ポールコア71、72に固定された冷却ファン11、12は、フレーム4の軸方向の開口部41から空気を内部へ取り込み、径方向の開口部42に向けて吹き出す。この冷却風により、両方のコイルエンドが冷却される。
【0058】
以上のように、本実施形態の車両用交流発電機1の固定子3によれば、セグメント導体33の接続された端末部を覆う絶縁皮膜36は、粘性の異なる2種類の樹脂を2段塗布し硬化させることにより形成された第1絶縁皮膜36aと第2絶縁皮膜36bとからなる。そして、端末部の先端部表面を覆う第1絶縁皮膜36aは、溶融粘度の高い粉体樹脂により形成されているため、端末部の先端部表面に塗布されたときに、樹脂の自重による垂れを粘性抵抗によって抑制することができる。そのため、第1絶縁皮膜形成材料36Aの溶融、硬化後においても、端末部の角部に残存し易くなるので、高いカバーエッジ性を確保することができる。特に、本実施形態における第1絶縁皮膜36aは、溶融粘度が10Pa・s以上の樹脂で形成されているため、高いカバーエッジ性をより確実に確保することができる。
【0059】
また、第1絶縁皮膜36aの表面を覆う第2絶縁皮膜36bは、第1絶縁皮膜36aの樹脂よりも粘性の低い樹脂により形成されているため、ピンホールの発生を抑制することができる。特に、本実施形態における第2絶縁皮膜36bは、常温粘度が5Pa・s以下の樹脂で形成されているため、ピンホールの発生をより確実に抑制することができる。
【0060】
したがって、本実施形態の固定子3によれば、高いカバーエッジ性の確保とピンホールの抑制の両立を図ることができる。
【0061】
また、本実施形態の固定子3の製造方法によれば、上記の第1絶縁皮膜付着工程101と、第2絶縁皮膜付着工程102とを有するため、高いカバーエッジ性の確保とピンホールの抑制の両立を図ることができる回転電機の固定子を容易に製造することができる。
【0062】
〔他の実施形態〕
本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更することが可能である。
【0063】
例えば、実施形態1では、第1絶縁皮膜36aの形成材料として、エポキシ樹脂などを主成分とする粉体樹脂を用いていたが、これに代えて、溶融粘度の高い液状樹脂を用いることができる。液状樹脂を用いる場合には、図8に示すような槽303を用いて、上記の第1絶縁皮膜付着工程101と同様の工程を行うようにすればよい。また、液状樹脂を用いれば、粉体樹脂を用いる場合に比べて、ピンホールの発生を少なく抑制することができる。
【0064】
また、実施形態1では、第2絶縁皮膜形成材料36Bを付着させる際に、接合部33eの端末部先端の銅線33h露出部表面に付着している第1絶縁皮膜36aの表面に付着させるようにしていたが、第2コイルエンド群31bの斜行部33fの表面にも同時に付着させるようにしてもよい。
【0065】
また、実施形態1では、スロット内には径方向に4層の導体を配置するべく、図2に示すようなセグメント導体33を用いたが、これを一重のU字型セグメントで構成してもよい。一重のU字型セグメントは、スロット内において2層の導体を提供し、図5と同じ断面においては2層の斜行部の配置を提供する。かかる構成は、要求される性能に適合するように選定することができる。
【0066】
また、本発明は、車両用交流発電機に限らず、同様の空冷構造をもつ車両用又は汎用の回転電機にも適用することができる。例えば、電動機に適用することができる。
【符号の説明】
【0067】
1…交流発電機、 2…回転子、 3…固定子、 31…固定子巻線、 31a…第1コイルエンド群、 31b…第2コイルエンド群、 32…固定子コア、 33、33a、 33b…セグメント導体、 33c…ターン部、 33d、33f…斜行部、 33e…接合部、 33g…絶縁樹脂膜、 33h…銅線、 34…インシュレータ、 36…絶縁皮膜、 36a…第1絶縁皮膜、 36A…第1絶縁皮膜形成材料、 36b…第2絶縁皮膜、 36B…第2絶縁皮膜形成材料、 37…絶縁樹脂、 37A…絶縁樹脂材料、 300…治具、 301…ディスペンサ、 302…ノズル、 303…槽。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周方向に複数のスロットを有する円環状の固定子コアと、前記スロットに挿入配置された複数のセグメント導体の端末部同士が接続されて前記固定子コアに巻装された固定子巻線と、を備え、前記セグメント導体の接続された前記端末部が、前記端末部の表面に塗布した樹脂を硬化させることにより形成された絶縁皮膜で覆われている回転電機の固定子において、
前記絶縁皮膜は、粉体樹脂又は粘性の高い樹脂により形成されて前記端末部の先端部表面を覆う第1絶縁皮膜と、該第1絶縁皮膜の樹脂よりも粘性の低い樹脂により形成されて前記第1絶縁皮膜の表面を覆う第2絶縁皮膜と、からなることを特徴とする回転電機の固定子。
【請求項2】
前記第1絶縁皮膜は、溶融粘度が10Pa・s以上の樹脂で形成されていることを特徴とする請求項1に記載の回転電機の固定子。
【請求項3】
前記第2絶縁皮膜は、常温粘度が5Pa・s以下の樹脂で形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の回転電機の固定子。
【請求項4】
前記第2絶縁皮膜は、液状のエポキシ、ポリエステル、ウレタン又はシリコーン系の樹脂で形成されていることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の回転電機の固定子。
【請求項5】
周方向に複数のスロットを有する円環状の固定子コアと、前記スロットに挿入配置された複数のセグメント導体の端末部同士が接続されて前記固定子コアに巻装された固定子巻線と、を備え、前記セグメント導体の接続された前記端末部が、前記端末部の表面に塗布した樹脂を硬化させることにより形成された絶縁皮膜で覆われている回転電機の固定子の製造方法において、
前記セグメント導体の接続された前記端末部の先端部表面に、粉体樹脂又は粘性の高い樹脂を塗布し硬化させて第1絶縁皮膜を付着させる第1絶縁皮膜付着工程と、
前記第1絶縁皮膜の表面に、前記第1絶縁皮膜の樹脂よりも粘性の低い樹脂を塗布し硬化させて第2絶縁皮膜を付着させる第2絶縁皮膜付着工程と、
を有することを特徴とする回転電機の固定子の製造方法。
【請求項6】
前記第2絶縁皮膜付着工程は、前記樹脂を浸漬法、スプレー法又は滴下法により塗布することを特徴とする請求項5に記載の回転電機の固定子の製造方法。
【請求項7】
前記第2絶縁皮膜付着工程は、塗布された前記樹脂を熱風炉、電磁加熱器又は通電加熱で硬化させることを特徴とする請求項5又は6に記載の回転電機の固定子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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