説明

回転電機の電機子の巻線構造および回転電機

【課題】コイルを形成する絶縁電線間に部分放電が発生することを抑制できる回転電機の電機子の巻線構造および回転電機を提供する。
【解決手段】ステータは、求心状に延出する複数のティースを有する環状のステータコア21と、ティース間に形成されたスロット25に収納され、3本の絶縁電線31、32、33を巻線してなる複数相のコイルとを備える。絶縁電線31〜33は、導体の表面に絶縁層が形成され、さらに絶縁層の表面に半導電層が形成されている。そして、各絶縁電線31〜33の半導電層を接地する導体片40が取り付けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁電線を巻線してなるコイルを備える回転電機(電動機(モータ)、発電機など)の電機子の巻線構造および回転電機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、モータ用電機子コイルの巻線などとして、導体の表面に絶縁層が形成された絶縁電線が使用されている。近年、産業機器用モータや、注目されているハイブリッド自動車や電気自動車などの電動車両においては、モータをインバータにより駆動制御し、コイルに高電圧(例えば400V以上)が印加されることから、コイルを形成する絶縁電線間(例えば隣接するコイルターン間)に部分放電が発生したり、異相のコイルを形成する絶縁電線同士が近接する箇所(例えば絶縁電線同士の接触箇所の近傍)に部分放電が発生し易い問題がある。そこで、このようなモータのコイルに使用される絶縁電線には、部分放電を抑制するため、絶縁層の表面にさらに半導電層を形成することが検討されている(例えば、特許文献1〜3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004‐254457号公報
【特許文献2】特開2005‐285755号公報
【特許文献3】特開2007‐294312号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記した半導電層を有する絶縁電線では、例えば電圧差の大きい電線同士が接触するようなことがあっても、半導電層があることで、各電線の半導電層がほぼ等電位になり、部分放電の発生を抑制できる。しかし、本発明者らが鋭意研究した結果、電線同士が接触した状態が続く又は電線同士が非接触になってもその距離が短い場合は問題にはならないが、電線同士の非接触距離が長くなると、次に電線同士が近接する箇所において、電線間に部分放電が発生することが分かった。
【0005】
また、モータの電機子コイルの巻線方式として、分布巻、波巻などがあるが、複数相のコイルを巻線する場合は特に、異相のコイルを形成する絶縁電線同士が接触する箇所と接触しない箇所とが存在する。特に、高電圧で駆動する大型のモータでは、絶縁電線同士が接触する箇所と次に接触する箇所までの距離が長くなるため、半導電層を有する絶縁電線を使用したとしても、次に電線同士が近接する箇所において部分放電が発生する虞がある。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的の一つは、コイルを形成する絶縁電線間に部分放電が発生することを抑制できる回転電機の電機子の巻線構造および回転電機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明において、回転電機の電機子は、絶縁電線を巻線してなるコイルを備える。本発明の回転電機の電機子の巻線構造は、絶縁電線が、導体の表面に絶縁層が形成され、さらに絶縁層の表面に半導電層が形成されており、半導電層を接地する接地部材が取り付けられている。
【0008】
この構成によれば、絶縁電線の半導電層に接地部材が取り付けられていることで、その箇所で半導電層が等電位(アース電位)になることから、絶縁電線の部分放電開始電圧(PDIV)が高くなる。その結果、コイルを形成する絶縁電線間に部分放電が発生することを抑制できる。また例えば、一本の絶縁電線を巻線して同相のコイルを形成したとしても、電線距離が長い場合(例えば電線の巻き始めと巻き終わり)では電圧差が生じ得るので、その場合も電線同士が近接する箇所での電線間の部分放電の発生を抑制できる。接地部材は少なくとも1つあればよく、コイルの巻線方式、大きさや形状に合わせて、2つ以上取り付けてもよい。また、絶縁電線には、さらに半導電層の表面に電線の滑りを良くする潤滑剤層などが形成されていてもよい。潤滑剤層としては、潤滑油を代表的に挙げることができ、潤滑油の成分としては、例えば、鉱物油、合成油及び植物油などから選択される1種以上と表面活性剤との混合物が挙げられる他、油脂と石鹸とを主成分としたものが挙げられる。
【0009】
本発明の一形態としては、電機子が複数の絶縁電線を巻線してなる複数相のコイルを備え、各相のコイルを形成する絶縁電線同士が接触する箇所と別の接触する箇所との間において、各絶縁電線の半導電層を接地する接地部材が取り付けられていることが挙げられる。
【0010】
このような形態の場合、各絶縁電線の半導電層に接地部材が取り付けられていることで、その箇所で半導電層が等電位(アース電位)になることから、各相のコイルを形成する絶縁電線間に部分放電が発生することを抑制できる。例えば、部分放電が発生し易い、異相のコイルを形成する絶縁電線間の部分放電の発生を抑制できる。絶縁電線同士が接触する箇所から次に接触する箇所までの距離(絶縁電線同士の非接触距離)が長い場合、その区間において接地部材が取り付けられていることで部分放電開始電圧が高くなるので、特に効果が大きい。なお、各相のコイルを形成する絶縁電線同士が接触する箇所が3つ以上存在する場合であっても、接地部材は、絶縁電線同士が接触する箇所と別の接触する箇所との間に少なくとも一つ取り付けられていればよい。
【0011】
本発明の好ましい形態は、絶縁電線同士が接触する箇所と別の接触する箇所との間の距離が、60mm超である。
【0012】
絶縁電線同士の非接触距離が短く、60mm以下の場合は、接地部材が取り付けられていなくても、隣り合う接触箇所の離隔距離が短いため、ある程度の部分放電開始電圧を示す。そこで、絶縁電線同士が接触する箇所と別の接触する箇所との間の距離が60mm超であるときに、本発明の巻線構造を適用することで、所定値以上の部分放電開始電圧を得ることができ、好ましい。特に、絶縁電線同士が接触する箇所と別の接触する箇所との間の距離が120mm以上であるときに、本発明の巻線構造を適用することが好ましい。
【0013】
また、本発明の回転電機は、上記した本発明の回転電機の電機子の巻線構造を備えることを特徴とする。この構成により、本発明の回転電機は、コイルを形成する絶縁電線間に部分放電が発生することを抑制できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の回転電機の電機子の巻線構造および回転電機は、絶縁電線の半導電層に接地部材が取り付けられていることで、コイルを形成する絶縁電線間に部分放電が発生することを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実験例1に用いた実験装置の概略図である。
【図2】コイルの巻線方式が波巻のステータの一例を示す図であり、(A)は上面から見た模式図であり、(B)は側面から見た模式図である。
【図3】図2のステータに本発明の巻線構造を適用した一例を示す図であり、(A)は上面から見た模式図であり、(B)は側面から見た模式図である。
【図4】図2のステータに本発明の巻線構造を適用した別の例を示す図であり、(A)は上面から見た模式図であり、(B)は側面から見た模式図である。
【図5】コイルの巻線方式が分布巻のステータの一例を示す図であり、(A)は上面から見た模式図であり、(B)は側面から見た模式図である。
【図6】図5のステータに本発明の巻線構造を適用した一例を示す図であり、(A)は上面から見た模式図であり、(B)は側面から見た模式図である。
【図7】図5のステータに本発明の巻線構造を適用した別の例を示す図であり、(A)は上面から見た模式図であり、(B)は側面から見た模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(実験例1)
本発明の効果を説明するために、表1に示す絶縁電線A〜Cを用意し、図1に示す実験装置を用いて部分放電開始電圧を測定した。絶縁電線A〜C及び実験方法について、以下詳しく述べる。
【0017】
【表1】

【0018】
絶縁電線A〜Cはそれぞれ、次のようにして作製した
【0019】
(絶縁電線A)
断面形状が円形の導体(材質:銅、直径:1.000mm)の表面に、ポリアミドイミド(PAI)の絶縁ワニス(日立化成工業株式会社製、商品名HI-406)を塗布し、竪型焼付炉にて焼付して、絶縁層を形成した。絶縁層の厚さは、0.040mmとした。次いで、絶縁層の表面に、ポリアミドイミド(PAI)の絶縁ワニス(日立化成工業株式会社製、商品名HI-406)にカーボンブラック(CB)(三菱化学株式会社製、商品名#3030B)を固形分比で25phr配合した半導電ワニスを塗布、焼付して、半導電層を形成した。半導電層の厚さは、0.005mmとした。作製した絶縁電線Aについて、常態における外観の異常等は観察されなかった。
【0020】
(絶縁電線B)
絶縁層の厚さを0.085mmに変更した以外は、絶縁電線Aと同様にして作製した。作製した絶縁電線Bについて、常態における外観の異常等は観察されなかった。
【0021】
(絶縁電線C)
絶縁層の厚さを0.090mmに変更し、半導電層を形成しなかった以外は、絶縁電線Aと同様にして作製した。作製した絶縁電線Cについて、常態における外観の異常等は観察されなかった。
【0022】
次に、実験方法について図1を参照して説明する。
【0023】
(1)50cmに切断した同種の絶縁電線10を2本一組用意する。
【0024】
(2)両絶縁電線10の両端末部を、工業用ドライヤーにて200℃で約10秒加熱した後、シリコン樹脂粉体(サンユレック株式会社製、商品名RP-871)の中へ差し込み、粉体を溶融付着させて封止する。ただし、一方の端末部においては、導体11を露出させる。
【0025】
(3)一方の端末部側において、両絶縁電線10の一部を約5cm(50mm)撚って、接触箇所15を形成する。
【0026】
(4)他方の端末部側において、接触箇所15から所定の距離離れた位置に、両絶縁電線10がポリイミドフィルム16(厚さ:10μm)を挟んで長さ50mmに亘って近接状態となる放電箇所17を形成する。なお、接触箇所15から放電箇所17までの区間においては、両絶縁電線10を十分に離し、両絶縁電線間で部分放電が発生しないようにする。
【0027】
(5)両絶縁電線10の導体11を部分放電試験機(三菱電線工業株式会社製、商品名QM-50)に接続し、両絶縁電線間にパルス電圧(Vp)を印加して、放電箇所における部分放電開始電圧(PDIV)を測定する。
【0028】
(比較例1〜4)
以上説明した実験方法により、接触箇所15からの距離D1が0、30mm、60mm、120mmの位置に放電箇所17を形成したときの絶縁電線A〜Cの部分放電開始電圧を測定した。その結果を表2に示す。
【0029】
(実験例1-1〜1-4)
さらに、接触箇所15と放電箇所17との間において、放電箇所17から接触箇所15に向かって所定の距離離れた位置に、両絶縁電線10の半導電層12を接地するアース線18を取り付けた。アース線18は、絶縁電線10の半導電層12の表面に、厚さ7μm、幅3mmのスズ箔を巻き付け、その上に銅線を巻き付けて、銅線が接地されている。接触箇所15から放電箇所17までの距離D1が120mmの場合、放電箇所17からの距離D2が0、10mm、60mm、120mmの位置にアース線18を取り付けたときの絶縁電線A〜Cの部分放電開始電圧を測定した。その結果を表2に示す。ただし、絶縁電線Cについては、半導電層を有しておらず、電線自体の耐部分放電性能が低いので測定していない。
【0030】
【表2】

【0031】
表2の比較例1〜3の結果から、半導電層を有する絶縁電線A及びBは、接触箇所から次に近接する放電箇所までの距離D1が60mm以下の場合、部分放電開始電圧が1500Vp以上であり、半導電層を有さない絶縁電線Cと比較して、部分放電開始電圧が高いことが分かる。しかし、比較例4の結果から、半導電層を有する絶縁電線A及びBは、距離D1が120mmの場合、部分放電開始電圧が1500Vp未満に低下していることが分かる。つまり、半導電層を有する絶縁電線であっても、非接触距離が長くなると、次に電線同士が近接する箇所で、部分放電開始電圧が低下し、部分放電が発生し易く問題となる。
【0032】
これに対し、絶縁電線の半導電層にアース線(接地部材)を取り付けた実験例1-1〜1-4は、距離D1が120mmの場合であっても、1500Vp以上の部分放電開始電圧が得られており、比較例4と比較して、部分放電開始電圧が向上していることが分かる。特に、実験例1-1〜1-3の結果から、放電箇所からアース線の取り付け位置までの距離D2が60mm以下の場合、部分放電開始電圧が2000Vp以上であり、部分放電の抑制効果が大きいことが分かる。
【0033】
本発明の具体的な適用事例を図2〜7を参照して説明する。なお、以下の適用事例では、ステータを電機子とした3相交流モータを例に説明する。
【0034】
(波巻ステータの場合)
図2は、コイルの巻線方式が波巻のステータの一例を示す図である。ステータは、求心状に延出する複数のティースを有する環状のステータコア21と、ティース間に形成されたスロット25に収納され、3本の絶縁電線31、32、33を巻線してなる複数相のコイルとを備え、各コイルが結線されている。ここでは、ステータ20の軸方向に向く側(図2(A)において、紙面手前側及び紙面奥側。図3(A)〜7(A)も同じ)をコイルエンド側と呼び、一方のコイルエンド側を上面とし、他方のコイルエンド側を下面とする。
【0035】
絶縁電線31、32、33にはそれぞれ、U相、V相、W相の3相交流電流が供給される。また、絶縁電線31〜33は、上記した絶縁電線A及びBに例示されるような、導体の表面に絶縁層が形成され、さらに絶縁層の表面に半導電層が形成された絶縁電線である。図2中では、U相の絶縁電線31を太実線、V相の絶縁電線32を太一点鎖線、W相の絶縁電線33を太二点鎖線で示している(図3〜7も同じ)。なお、絶縁電線31〜33の導体の断面形状は矩形である。
【0036】
ここで、波巻について簡単に説明すると、各相の絶縁電線を複数のスロットに跨って巻く方式である。この例では、U相の絶縁電線31は、図2(A)中A番のスロット25からステータコア21の下面側に引き入れられ、ステータコア21の下面側で反時計回りに2つのスロット25を跨いで1番のスロット25に移動した後、ステータコア21の上面側に引き出される。次いで、ステータコア21の上面側で反時計回りに2つのスロット25を跨いで4番のスロット25に移動した後、ステータコア21の下面側に引き入れられる。そして、絶縁電線31は、このような動作が繰り返されることで、巻線され、U相のコイルを形成する。V相の絶縁電線32は、図2中A番の隣のB番のスロット25からステータコア21の下面側に引き入れられ、U相の絶縁電線31と同様に巻線され、V相のコイルを形成する。W相の絶縁電線33は、図2中B番の隣のC番のスロット25からステータコア21の下面側に引き入れられ、U相の絶縁電線31と同様に巻線され、W相のコイルを形成する。このような図2に示す波巻ステータでは、絶縁電線31〜33の一部が両コイルエンド側でステータコア21からはみ出すことになる(図2(B)参照)。
【0037】
図2のステータでは、異相のコイルを形成する絶縁電線同士がコイルエンド側で接触(近接)する箇所(図2(B)中矢印a〜jで示す)と、各絶縁電線がスロット25内に配置され接触しない箇所とが存在する。そのため、上記した実験例1の結果からも明らかなように、部分放電開始電圧が低下し、異相の絶縁電線同士が近接する箇所で部分放電が発生し易い。なお、図2(B)中矢印a〜jで示す箇所のうち、矢印a,c,e,g,iは絶縁電線31と32が接触する箇所であり、矢印b,d,f,h,jは絶縁電線32と33が接触する箇所である。
【0038】
(実施の形態1-1)
図3は、図2のステータに本発明の巻線構造を適用した一例を示す図である。この例では、ステータコア21の下面(他方のコイルエンド面)側の絶縁電線同士が接触する箇所(例えば図2(B)中矢印a或いは矢印bで示す)と、ステータコア21の上面(一方のコイルエンド面)側の絶縁電線同士が接触する箇所(例えば図2(B)中矢印c或いは矢印dで示す)との間において、各絶縁電線31〜33の半導電層を接地する導体片40が両コイルエンド側のそれぞれに取り付けられている。具体的には、コイルエンド側の各絶縁電線がスロットから引き出され、引き入れられる1区間に、2つの導体片40が取り付けられている(図3(A)、(B)参照)。この導体片40は、接地されたアース線41に接続されている。導体片40の半導電層に対する取り付けは、例えば導電性接着剤、圧着端子や半田付けなどを用いることができる。
【0039】
(実施の形態1-2)
図4は、図2のステータに本発明の巻線構造を適用した別の例を示す図である。この例では、コイルエンド側の各絶縁電線がスロットから引き出され、引き入れられる1区間に、1つの導体片40が取り付けられている(図4(A)、(B)参照)。その他の点は、図3に示した適用例と同じである。
【0040】
本発明の巻線構造を適用した実施の形態1-1、1-2は、各絶縁電線31〜33の半導電層が導体片40に接続され接地されていることで、その箇所で半導電層が等電位(アース電位)になることから、各絶縁電線の部分放電開始電圧が高くなり、部分放電の発生を抑制できる。また、部分放電が発生し易い、異相のコイルを形成する絶縁電線同士が近接する箇所での部分放電の発生も抑制できる。なお、上記した実施の形態1-1、1-2では、半導電層を接地する導体片40を両コイルエンド側に配置した場合を例に説明したが、一方のコイルエンド側にのみ導体片40を配置することも可能である。
【0041】
(分布巻ステータの場合)
図5は、コイルの巻線方式が分布巻のステータの一例を示す図である。図5に示すステータコア21並びに絶縁電線31〜33の構成は、図2を参照して説明した波巻ステータのステータコア21並びに絶縁電線31〜33と同じであり、ここでは説明を省略する。
【0042】
分布巻について簡単に説明すると、上述した波巻と同じように、各相の絶縁電線を複数のスロットに跨って巻く方式である。この例では、U相の絶縁電線31は、図5(A)中4番のスロット25からステータコア21の下面側に引き入れられ、ステータコア21の下面側で時計回りに2つのスロット25を跨いで1番のスロット25に移動した後、ステータコア21の上面側に引き出される。次いで、ステータコア21の上面側で反時計回りに2つのスロット25を跨いで4番のスロット25に戻された後、先の動作が繰り返され、複数のスロットを跨いで巻き付けられる。所定回数巻き付け後、ステータコア21の上面側で1番のスロットから反時計回りに9つのスロット25を跨いで10番のスロット25に移動した後、ステータコア21の下面側に引き入れられる。そして、絶縁電線31は、これら動作が繰り返されることで、巻線され、U相のコイルを形成する。V相の絶縁電線32は、図5中4番の隣の5番のスロット25からステータコア21の下面側に引き入れられ、U相の絶縁電線31と同様に巻線され、V相のコイルを形成する。W相の絶縁電線33は、図5中5番の隣の6番のスロット25からステータコア21の下面側に引き入れられ、U相の絶縁電線31と同様に巻線され、W相のコイルを形成する。このような図5に示す分布巻ステータでは、絶縁電線31〜33の一部が両コイルエンド側でステータコア21からはみ出すことになる(図5(B)参照)。
【0043】
図5のステータでは、異相のコイルを形成する絶縁電線同士がコイルエンド側で接触(近接)する箇所(図5(B)中矢印a〜hで示す)と、各絶縁電線がスロット25内に配置され接触しない箇所とが存在する。そのため、上記した実験例1の結果からも明らかなように、部分放電開始電圧が低下し、異相の絶縁電線同士が近接する箇所で部分放電が発生し易い。なお、図5(B)中矢印a〜hで示す箇所のうち、矢印a,c,e,gは絶縁電線31と32が接触する箇所であり、矢印b,d,f,hは絶縁電線32と33が接触する箇所である。
【0044】
(実施の形態2-1)
図6は、図5のステータに本発明の巻線構造を適用した一例を示す図である。この例では、ステータコア21の下面(他方のコイルエンド面)側の絶縁電線同士が接触する箇所(例えば図5(B)中矢印a或いは矢印bで示す)と、ステータコア21の上面(一方のコイルエンド面)側の絶縁電線同士が接触する箇所(例えば図5(B)中矢印c或いは矢印dで示す)との間において、各絶縁電線31〜33の半導電層を接地する導体片40が両コイルエンド側のそれぞれに取り付けられている。具体的には、コイルエンド側の各絶縁電線が複数のスロットを跨いで巻き付けられる1区間に、2つの導体片40が取り付けられている(図6(A)、(B)参照)。この導体片40は、接地されたアース線41に接続されている。導体片40の半導電層に対する取り付けは、例えば溶接や半田付けなどを用いることができる。
【0045】
(実施の形態2-2)
図7は、図5のステータに本発明の巻線構造を適用した別の例を示す図である。この例では、コイルエンド側の各絶縁電線が複数のスロットを跨いで巻き付けられる1区間に、1つの導体片40が取り付けられている(図7(A)、(B)参照)。その他の点は、図6に示した適用例と同じである。
【0046】
本発明の巻線構造を適用した実施の形態2-1、2-2も、上記した実施の形態1-1、1-2と同様、各絶縁電線の部分放電開始電圧が高くなり、部分放電の発生を抑制できる。また、部分放電が発生し易い、異相のコイルを形成する絶縁電線同士が近接する箇所での部分放電の発生も抑制できる。なお、上記した実施の形態2-1、2-2では、半導電層を接地する導体片40を両コイルエンド側に配置した場合を例に説明したが、一方のコイルエンド側にのみ導体片40を配置することも可能である。
【0047】
なお、本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。例えば、絶縁電線(導体)の断面形状を円形や矩形の他、多角形に変更することが可能である。また、実施の形態では3相交流モータのステータを電機子とした場合を例に説明したが、相数が単相、2相、5相などであってもよく、ティース数(スロット数)も適宜変更することが可能である。さらに、ロータを電機子とした回転電機に対しても適用することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明の回転電機の電機子の巻線構造および回転電機は、例えば産業機器用モータや電動車両用モータの分野に好適に利用できる。
【符号の説明】
【0049】
10 絶縁電線 11 導体 12 半導電層
15 接触箇所
16 ポリイミドフィルム 17 放電箇所
18 アース線(接地部材)
21 ステータコア 25 スロット
31 絶縁電線(U相) 32 絶縁電線(V相) 33 絶縁電線(W相)
40 導体片 41 アース線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁電線を巻線してなるコイルを備える回転電機の電機子の巻線構造であって、
前記絶縁電線は、導体の表面に絶縁層が形成され、さらに前記絶縁層の表面に半導電層が形成されており、
前記半導電層を接地する接地部材が取り付けられていることを特徴とする回転電機の電機子の巻線構造。
【請求項2】
前記電機子が、複数の前記絶縁電線を巻線してなる複数相の前記コイルを備え、
各相のコイルを形成する前記絶縁電線同士が接触する箇所と別の接触する箇所との間において、各絶縁電線の半導電層を接地する接地部材が取り付けられていることを特徴とする請求項1に記載の回転電機の電機子の巻線構造。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の電機子の巻線構造を備えることを特徴とする回転電機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−120357(P2011−120357A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−274594(P2009−274594)
【出願日】平成21年12月2日(2009.12.2)
【出願人】(309019534)住友電工ウインテック株式会社 (67)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】