回転電機
【課題】第1及び第2の3相交流巻線の相巻線を構成する導線を特定の巻線構造でステータコアに巻装して、ロータが低速に回転しているときでも発電効率を低下させることなく出力電流を増大させることのできる回転電機を得る。
【解決手段】それぞれ、3つの相巻線32A〜32C,32D〜32FをY結線されて、互いの間の電気角位相差が30度となるように構成された第1及び第2の3相交流巻線31A,31Bを有するステータ8を備え、第1の3相交流巻線31Aの3つの相巻線32A〜32Cを構成する導線30のうちの一つ、及び第2の3相交流巻線31Bの3つの相巻線32D〜32Fを構成する導線30のうちの一つが各スロット15bに挿通され、同一のスロット15bを通る導線30を流れる電流を合成したスロット電流において、同一のスロットを通る導線30を流れる電流に含まれる5次高調波電流が互いに打ち消し合うようにした。
【解決手段】それぞれ、3つの相巻線32A〜32C,32D〜32FをY結線されて、互いの間の電気角位相差が30度となるように構成された第1及び第2の3相交流巻線31A,31Bを有するステータ8を備え、第1の3相交流巻線31Aの3つの相巻線32A〜32Cを構成する導線30のうちの一つ、及び第2の3相交流巻線31Bの3つの相巻線32D〜32Fを構成する導線30のうちの一つが各スロット15bに挿通され、同一のスロット15bを通る導線30を流れる電流を合成したスロット電流において、同一のスロットを通る導線30を流れる電流に含まれる5次高調波電流が互いに打ち消し合うようにした。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば、自動車等に搭載される交流発電機や始動電動機などの回転電機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の車両用交流発電機は、回転方向に極性が交互に異なるように配置した複数の界磁極を有する回転子と、複数のスロットが形成された固定子鉄心、及びそれぞれ、互いの間の電気角位相差が120度となるようにステータコアに巻装された3つの相巻線をY結線して構成された第1及び第2の3相交流巻線を備えるステータと、回転子の回転に応じて第1及び第2の3相交流巻線に誘起される交流出力を整流する整流器と、を備え、相巻線が、互いの間の電気角位相が異なるようにステータコアに巻装された2つのコイル巻線部を直列に接続して構成され、第1及び第2の3相交流巻線の間の電気角位相差が30度となっている(例えば、特許文献1参照)。
以下では、相巻線のそれぞれが、互いの間の電気角位相が異なる2つのコイル巻線部を直列に接続して構成され、かつ、互いの間の電気角位相差が120度となるように3つの相巻線をY結線して構成した3相交流巻線を千鳥Y巻線とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−364464号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、千鳥Y巻線において、各相巻線を構成する2つのコイル巻線部を、電気角位相をそろえて直列に接続されるように巻きなおして構成した3相交流巻線を通常Y巻線とする。なお、第1及び第2の3相交流巻線を通常Y巻線とする車両用交流発電機は従来から広く普及しており、第1及び第2の3相交流巻線を通常Y巻線とする車両用交流発電機を一般の車両用交流発電機とする。
【0005】
そして、第1及び第2の3相交流巻線を千鳥Y巻線とするものの他、第1及び第2の3相交流巻線を短節巻のもとを含む従来の車両用交流発電機では、通常Y巻線を用いた一般の車両交流用発電機に比べ、巻線係数が小さくなるために等価巻数が小さくなる。つまり、従来の車両用交流発電機では、インダクタンスが低下して起電力が低下する。また、従来の車両用交流発電機は、電機子反作用が、一般の車両用交流発電機より小さくなることが知られている。
【0006】
以上を総合的に考慮すると、従来の車両用交流発電機では、一般の車両用交流発電機に比べ、ロータが低速で回転する領域では、整流器の出力(電流)が低下し、ロータが高速で回転する領域では、整流器の出力が増加するというのが従来の知見である。
【0007】
特許文献1には、従来の車両用交流発電機が発電を行ったときに、整流器の出力(電流)をどのように流すかについては、また、3相交流巻き線を千鳥Y巻線とすることで、出力特性がどのようになるかについては、何ら触れられていいない。
【0008】
そして、車両用交流発電機及び一般の車両交流発電機がそれぞれ搭載された車両のそれぞれでは、エンジンの回転に同期するロータの回転速度(角速度)が所定の大きさになるまでは、回転速度が増大するにつれて整流器の出力も増大するが、整流器の出力はロータの回転速度が所定の速さより速くなると略飽和する。
【0009】
例えば車両が所定以上の速さで走行している場合、ロータは高速で回転するので、整流器の整流出力により充電される蓄電池は、車両に用いられている電気機器を駆動するのに十分な電力を供給可能である。一方、エンジンがアイドリング状態にある場合など、エンジンが低速に回転しているときはロータの回転も低速であるので、整流器の出力は小さなものとなる。つまり、ロータが低速で回転し続ける場合、蓄電池の充電が電力消費に対して追い付かなくなり、蓄電池があがってしまう恐れがある。このため、ロータが低速で回転しているときの整流器の出力を増大させることが重要である。
【0010】
各相巻線の巻数を増やして各相巻線の起電力を増大させることで、ロータが低速に回転しているときでも整流器の出力を増大させることは可能となるが、この場合、各相巻線の抵抗が増大して発電効率が低下してしまう。
【0011】
本出願人は、この不具合を解消するための鋭意努力を重ねた結果、千鳥Y巻線を用いた発電機において、各相巻線の巻数を増やさなくても第1及び第2の3相交流巻線の相巻線を特定の巻線構造でステータコアに巻装することで、ロータが低速に回転しているときに、整流器の出力が増大することを見出し、本願を発明した。
【0012】
この発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、第1及び第2の3相交流巻線の相巻線を構成する導線を特定の巻線構造でステータコアに巻装して、ロータが低速に回転しているときでも発電効率を低下させることなく出力電流を増大させることのできる回転電機を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この発明は、2n個(但し、nは正の整数)の界磁極を有するロータと、隣り合うティースにより区画されたスロットが周方向に所定のピッチで2n×6個形成されたステータコア、及びそれぞれ、互いの間の電気角位相差が120度となるようにステータコアに巻装された3つの相巻線をY結線して構成された第1及び第2の3相交流巻線を備えるステータと、ロータの回転に応じて第1及び第2の3相交流巻線に誘起される交流出力を整流する整流器とを備え、第1及び第2の3相交流巻線の間の電気角位相差が30度であり、第1の3相交流巻線の3つの相巻線を構成する導線のうちの一つ、及び第2の3相交流巻線の3つの相巻線を構成する導線のうちの一つが各スロットに挿通され、同一のスロットを通る導線に流れる電流を合成した合成電流において、同一のスロットを通る各導線を流れる電流に含まれる5次高調波電流が互いに打ち消し合うように構成されている。
【発明の効果】
【0014】
この発明による回転電機によれば、同一のスロットを通る導線に流れる電流を合成した合成電流において、同一のスロットを通る各導線を流れる電流に含まれる5次高調波電流が互いに打ち消し合うように構成されている。これにより、各相巻線の巻線数を増やすことなく、言い換えれば、各相巻線の抵抗の増大による発電効率の低下を招くことなくロータが低速回転しているときの整流器の出力を増大させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】この発明の実施の形態1に係る車両用交流発電機の構成を示す断面図である。
【図2】この発明の実施の形態1に係る車両用交流発電機の回路図である。
【図3】この発明の実施の形態1に係る車両用交流発電機における電機子巻線の構成を説明する展開図である。
【図4】比較用交流発電機の回路図である。
【図5】比較用交流発電機の電機子巻線の構成を説明する展開図である。
【図6】この発明の実施の形態1に係る車両用交流発電機、及び比較用交流発電機のそれぞれの整流器の出力電流特性を示す図である。
【図7】この発明の実施の形態1に係る発明の車両用交流発電機の各相巻線に流れる電流の時間波形を示す図である。
【図8】この発明の実施の形態1に係る発明の車両用交流発電機のスロット電流の時間波形の一例を示す図である。
【図9】比較用交流発電機の各相巻線に流れる電流の時間波形を示す図である。
【図10】この発明の実施の形態2に係る車両用交流発電機における電機子巻線の構成を説明する展開図である。
【図11】この発明の実施の形態3に係る車両用交流発電機における電機子巻線の構成を説明する展開図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、この発明を実施するための最良の形態について、図面を参照して説明する。
【0017】
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1に係る車両用交流発電機の構成を示す断面図、図2はこの発明の実施の形態1に係る車両用交流発電機の回路図、図3はこの発明の実施の形態1に係る車両用交流発電機における電機子巻線の構成を説明する展開図である。
【0018】
図1および図2において、回転電機としての車両用交流発電機100Aは、アルミニウム製のフロントブラケット1およびリヤブラケット2から構成されたケース3内にシャフト6を介して回転自在に装着されたランデル型のロータ7と、ロータ7の外周側を覆うようにケース3の内壁面に固着されたステータ8と、ステータ8で生じた交流出力を直流出力に整流する整流器12と、を備えている。
【0019】
シャフト6は、フロントブラケット1およびリヤブラケット2に軸まわりに回転可能に支持されている。このシャフト6の一端にはプーリ4が固着され、車両のエンジンの回転トルクを、ベルト(図示せず)を介してシャフト6に伝達できるようになっている。そして、シャフト6は、エンジンの回転に同期して回転する。すなわち、ロータ7がエンジンの回転に同期して回転する。また、ロータ7に電流を供給するスリップリング9がシャフト6の他端部に固定され、一対のブラシ10が、このスリップリング9に摺接するようにケース3内に配設されたブラシホルダ11に収納されている。ステータ8で生じた交流電圧の大きさを調整する電圧調整器18がブラシホルダ11に嵌着されたヒートシンク17に接着されている。
【0020】
整流器12は、図2に示されるように、2つの3相全波整流器12A,12Bにより構成されている。
そして、3相全波整流器12A,12Bのそれぞれは、プラス側ダイオードd1とマイナス側ダイオードd2とを直列に接続してなるダイオード対を並列に3対接続して構成され、ケース3内に装着されている。
【0021】
ロータ7は、電流を流して磁束を発生する界磁巻線13と、この界磁巻線13を覆うように設けられ、界磁巻線13で発生された磁束によって磁極が形成される一対のポールコア20,21とから構成される。一対のポールコア20,21は、鉄製で、それぞれ2つの爪状磁極22,23が外周縁に周方向に等角ピッチで突設されている。一対のポールコア20,21は、爪状磁極22,23をかみ合わせて対向するようにシャフト6に固定されている。なお、爪状磁極22,23が界磁極に相当している。界磁極がエンジンの回転に同期するシャフト6にとりつけられているので、回転磁界がエンジンの回転に同期して発生する。
【0022】
ステータ8は、ステータコア15と、ステータコア15に巻装された電機子巻線16Aと、を備えている。この電機子巻線16Aは、それぞれ、前述の千鳥Y巻線により構成した第1及び第2の3相交流巻線31A,31Bを備え、第1及び第2の3相交流巻線31A,31Bの間の電気角位相が30度異なるように構成されている。
【0023】
第1の3相交流巻線31Aは、図2に示されるように、互いの間の電気角位相差が120度となるようにステータコア15に巻装された3つの相巻線(a相巻線32A〜c相巻線32C)をY結線して構成されている。そして、a相巻線32A〜c相巻線32Cのそれぞれは、互いの間の電気角位相が30度異なるようにステータコア15に巻装された2つのコイル巻線部32a,32b、32c,32d、及び32e,32fを直列に接続して構成されている。
また、第2の3相交流巻線31Bは、互いの間の電気角位相差が120度となるようにステータコア15に巻装された3つの相巻線(a相巻線32D〜c相巻線32F)をY結線して構成されている。そして、a相巻線32D〜c相巻線32Fのそれぞれは、互いの間の電気角位相が30度異なるようにステータコア15に巻装された2つのコイル巻線部32g,32h、32i,32j、及び32k,32lを直列に接続して構成されている。
【0024】
各相巻線32A〜32Cにおいて、コイル巻線部32a,32c,32eの一端が外部との電力のやり取りをするための取出部Xa,Ya,Zaとなり、コイル巻線部32b,32d,32fの一端が、コイル巻線部32a,32c,32eの他端に連結され、コイル巻線部32b,32d,32fの他端が接続されて中性点を構成する。そして、各取出部Xa,Ya,Zaのそれぞれが、3相全波整流器12Aを構成するプラス側ダイオードd1とマイナス側ダイオードd2の接続部のそれぞれに結線されている。
【0025】
各相巻線32D〜32Fにおいて、コイル巻線部32g,32i,32kの一端が外部との電力のやり取りをするための取出部Ua,Va,Waとなり、コイル巻線部32h,32j,32lの一端が、コイル巻線部32g,32i,32kの他端に連結され、コイル巻線部32b,32d,32fの他端が接続されて中性点を構成する。そして、各取出部Ua,Va,Waのそれぞれが、3相全波整流器12Bを構成するプラス側ダイオードd1とマイナス側ダイオードd2の接続部のそれぞれに結線されている。
【0026】
また、整流器12の出力が蓄電池28および電気負荷29に供給されるように整流器12と蓄電池28及び電気負荷29に接続されている。
【0027】
また、図1に示されるように、ファン5(内扇ファン)がロータ7の軸方向の両端に固定されている。そして、吸気孔1a、2aがフロントブラケット1およびリヤブラケット2の軸方向の端面に設けられ、排気孔1b、2bが電機子巻線16Aのフロント側およびリヤ側のコイルエンド群16a、16b近傍のフロントブラケット1およびリヤブラケット2の部位に設けられている。
【0028】
次いで、電機子巻線16Aの巻線構造について図2及び図3を参照しつつ説明する。
説明の便宜上、図3中、爪状磁極22,23の位置はステータコア15の軸方向にずらして図示している。
【0029】
ステータコア15は、周方向に等角ピッチで径方向に延びるように形成された複数個のティース15aを備える円筒状に作製され、スロット15bが隣接するティース15aの間に区画されたている。ティース15a及びスロット15bの数は、界磁極の数×6個の条件を満たす数に設定される。ここでは界磁極の数を4とし、スロット15bの数を24として説明する。
【0030】
また、図3中、1〜24はスロット番号を示している。また、電機子巻線16Aの巻線構造をわかりやすくするため、1番〜6番のスロット15bを24番のスロット15bの右側に新たに1’〜6’番のスロット15bを図示しているが、1’〜6’のスロット15bは1〜6のスロット15bと同一であり、24番のスロット15bは1番のスロット15bに隣接している。ここで、4つの界磁極(2対のN極及びS極)に対してスロット15bが24個形成されているので1つの界磁極当たりのスロット数が6となり、スロット15bは電気角で30度のピッチで配列されていることになる。
【0031】
まず、a〜c相巻線32A〜32Cからなる第1の3相交流巻線31Aの巻線構造について説明する。
a相巻線32Aは、コイル巻線部32a及びコイル巻線部32bから構成されている。また、b相巻線32Bは、コイル巻線部32c及びコイル巻線部32dから構成されている。また、c相巻線32Cは、コイル巻線部32e及びコイル巻線部32fから構成されている。
コイル巻線部32a〜32fは、絶縁被覆された円形断面の銅線で作製された導線30を、以下に説明するようにステータコア15に巻装して構成されている。
【0032】
まず、a相巻線32Aの巻線構造について説明する。
コイル巻線部32aの導線30は、ステータコア15のリヤ側(以下、単にリヤ側とする)に取出部Xaを配置され、リヤ側から1番のスロット15bを通ってステータコア15のフロント側(以下、単にフロント側とする)に延出して、7番のスロット15bまで渡されている。さらに、導線30は、7番のスロット15bを通ってリヤ側に延出して13番のスロット15bまで渡され、13番のスロット15bを通ってフロント側に延出して19番のスロット15bまで渡されている。さらに、導線30は、19番のスロット15bを通ってリヤ側に延出されて1番のスロット15bに戻っている。導線30は、このように1,7,13,19番のスロット15bからなるスロット群に挿通されて、例えば、3周するようにステータコア15に巻装されている。
【0033】
また、コイル巻線部32bの導線30は、端部をリヤ側に配置され、リヤ側から24番のスロット15bを通ってフロント側に延出して6番のスロット15bまで渡されている。さらに、導線30は、6番のスロット15bを通ってリヤ側に延出して12番のスロット15bまで渡されて12番のスロット15bを通ってフロント側に延出され、次いで18番のスロット15bまで渡されている。さらに、導線30は、18番のスロット15bを通ってリヤ側に延出されて24番のスロット15bに戻っている。導線30は、このように6,12,18,24番のスロット15bからなるスロット群に挿通されて、3周するようにステータコア15に巻装されている。
また、18番から延出されたa相巻線32Aのコイル巻線部32bを構成する導線30の端部が、中性点を構成する部位となる。
【0034】
そして、a相巻線32Aは、19番のスロット15bから延出しているコイル巻線部32aの端部と24番のスロット15bから延出されているコイル巻線部32bの端部とを接続して構成されている。つまり、a相巻線32Aは、互いの間の電気角位相差が30度異なる2つのコイル巻線部32a,32bを直列に連結されたもので構成されている。
【0035】
次いで、b相巻線32Bの巻線構造について説明する。
コイル巻線部32cを構成する導線30は、リヤ側に取出部Yaを配置され、リヤ側から21番のスロット15bを通ってステータコア15のフロント側に延出して3番のスロット15bまで渡されている。さらに、導線30は、3番のスロット15bを通ってリヤ側に延出して9番のスロットまで渡されている。さらに、導線30は、9番のスロット15bを通ってフロント側に延出されて15番のスロット15bまで渡され、15番のスロット15bを通ってリヤ側に延出されて21番のスロット15bに戻っている。導線30は、このように3,9,15,21番のスロット15bからなるスロット群に挿通されて、3周するようにステータコア15に巻装されている。
【0036】
また、コイル巻線部32dの導線30は、一端をリヤ側に配置され、リヤ側から20番のスロット15bを通ってステータコア15のフロント側に延出して2番のスロット15bまで渡されている。さらに、導線30は、2番のスロット15bを通ってリヤ側に延出して折り返されて8番のスロット15bまで渡されている。さらに、導線30は、8番のスロット15bを通ってフロント側に延出されて14番のスロット15bまで渡されて14番のスロット15bを通ってリヤ側に延出されて20番のスロット15bに戻っている。導線30は、このように2,8,14,20番のスロット15bからなるスロット群に挿通されて、3周するようにステータコア15に巻装されている。
14番から延出されたb相巻線32Bのコイル巻線部32dを構成する導線30の端部が、中性点を構成する部位となる。
【0037】
そして、b相巻線32Bは、15番のスロット15bから延出しているコイル巻線部32cの端部と20番のスロット15bから延出されているコイル巻線部32dの端部とを接続して構成されている。つまり、b相巻線32Bは、互いの間の電気角位相差が30度異なる2つのコイル巻線部32c,32dが直列に接続されて構成されている。
【0038】
次いで、c相巻線32Cの巻線構造について説明する。
コイル巻線部32eの導線30は、リヤ側に取出部Zaを配置され、リヤ側から17番のスロット15bを通ってフロント側に延出して23番のスロット15bまで渡されている。さらに、導線30は、23番のスロット15bを通ってリヤ側に延出して5番のスロット15bまで渡されている。さらに、導線30は、5番のスロット15bを通ってフロント側に延出されて11番のスロット15bまで渡され、11番のスロット15bを通ってリヤ側に延出されて17番のスロット15bに戻っている。導線30は、このように5,11,17,23番のスロット15bからなるスロット群に挿通されて、3周するようにステータコア15に巻装されている。
【0039】
また、コイル巻線部32fの導線30は、リヤ側に一端を配置され、リヤ側から16番のスロット15bを通ってフロント側に延出して22番のスロット15bまで渡されている。さらに、導線30は、22番のスロット15bを通ってリヤ側に延出して4番のスロット15bまで渡されている。次いで導線30は、4番のスロット15bを通ってフロント側に延出され、さらに10番のスロット15bを通ってリヤ側に延出されて16番のスロット15bに戻っている。導線30は、このように4,10,16,22番のスロット15bからなるスロット群に挿通されて、3周するようにステータコア15に巻装されている。
また、10番から延出されたc相巻線32Cのコイル巻線部32fを構成する導線30の端部が、中性点を構成する部位となる。
【0040】
そして、c相巻線32Cは、11番のスロット15bから延出しているコイル巻線部32eの端部と16番のスロット15bから延出されているコイル巻線部32fの端部とを接続して構成されている。つまり、c相巻線32Cは、互いの間の電気角位相差が30度異なる2つのコイル巻線部32e,32fが直列に接続されて構成されている。
【0041】
そして、18番から延出されたコイル巻線部32bを構成する導線30の端部、14番から延出されたコイル巻線部32dを構成する導線30の端部、及び10番から延出されたコイル巻線部32fを構成する導線30の端部を接続して中性点を形成することで第1の3相交流巻線31Aが構成される。
【0042】
以上の第1の3相交流巻線31Aについてまとめると、第1の3相交流巻線31Aは、互いの間の電気角位相差が120°となるようにステータコア15に巻装されたa〜c相巻線32A〜32CをY結線して構成されている。a〜c相巻線32A〜32Cを構成するコイル巻線部32a〜32fのそれぞれは、導線30を界磁極のピッチに等しいピッチの波巻(全節巻の波巻)でステータコア15に巻装されている。
【0043】
また、直列に接続された2つのコイル巻線部32a,32b、32c、32d,及び32e,32fの間の電気角位相差は30度となっている。即ち、第1の3相交流巻線31Aは、各a〜c相巻線32A〜32Cを構成する2つのコイル巻線部32a,32b、32c、32d,及び32e,32fの間の電気角位相差を30°とする千鳥Y巻線により構成されている。なお、コイル巻線部32a〜32fのそれぞれの巻数は等しくなっている。
そして、コイル巻線部32a,32c,32eのそれぞれの一端が、a〜c相巻線32A〜32Cのそれぞれの取出部Xa,Ya,Zaとなっている。
【0044】
次いで、a〜c相巻線32D〜32Fからなる第2の3相交流巻線31Bの巻線構造について説明する。
a相巻線32Dは、コイル巻線部32g及びコイル巻線部32hを直列に接続して構成されている。また、b相巻線32Eは、コイル巻線部32i及びコイル巻線部32jを直列に接続して構成されている。また、c相巻線32Fは、コイル巻線部32k及びコイル巻線部32lを直列に接続して構成されている。
コイル巻線部32g〜32lは、絶縁被覆された円形断面の銅線で作製された導線30が、以下に説明するようにステータコア15に全節巻の波巻で巻装されて構成されている。
【0045】
コイル巻線部32g〜コイル巻線部32lは、a〜c相巻線32A〜32Cを構成するコイル巻線部32a〜コイル巻線部32fをスロット15bの番号が進む方向に11スロット分ずらしてステータコア15に巻装したもので構成されている。
【0046】
つまり、第2の3相交流巻線31Bは、互いの間の電気角位相差が120°となるようにステータコア15に巻装されたa〜c相巻線32D〜32FをY結線して構成されている。a〜c相巻線32D〜32Fを構成するコイル巻線部32g〜32lのそれぞれは、導線30を界磁極のピッチに等しいピッチの波巻(全節巻の波巻)でステータコア15に巻装されている。
【0047】
また、直列に接続された2つのコイル巻線部32g,32h、32i、32j,及び32k,32lの間の電気角位相差は30度となっている。即ち、第2の3相交流巻線31Bは、各a〜c相巻線32D〜32Fを構成する2つのコイル巻線部32g,32h、32i、32j,及び32k,32lの間の電気角位相差を30°とする千鳥Y巻線により構成されている。なお、コイル巻線部32g〜32lのそれぞれの巻数は等しくなっている。
そして、コイル巻線部32g,32i,32kのそれぞれの一端が、a〜c相巻線32D〜32Fのそれぞれの取出部Ua,Va,Waとなっている。
なお、3相交流巻線31Aのa〜c相巻線32A〜32Cと同様、a〜c相巻線32D〜32Fを電気角位相差が120度となるようにY結線して、3相交流巻線31Bが構成されている。
【0048】
また、スロット15bは電気角で30度のピッチで配列されているので、a相巻線32A,32D、b相巻線32B,32E、及びc相巻線32C,32Fのそれぞれの互いの間の電気角位相差は30度となる。言い換えれば、第1及び第2の3相交流巻線31A,31Bの間の電気角位相差が30度となる。
【0049】
以上のように構成された電機子巻線16Aのコイル巻線部32a〜32lは、以下のようにスロット群に巻装されていることになる。
まず、第1の3相交流巻線31Aを構成する6つのコイル巻線部32a〜32fは、それぞれ異なる6つのスロット群に巻装される。また、第2の3相交流巻線31Bを構成する6つのコイル巻線部32g〜32lが、それぞれ異なるスロット群に巻装される。
【0050】
また、第1の3相交流巻線31Aのa〜c相巻線32A〜32Cのそれぞれを構成する2つのコイル巻線部が、それぞれ、第2の3相交流巻線31Bを構成する1つの相巻線を構成する1つのコイル巻線部ともう一つの相巻線を構成する1つのコイル巻線部とが巻装されるスロット群に巻装される。つまり、第1の3相交流巻線31Aの3つの相巻線32A〜32Cを構成する導線のうちの一つ、及び第2の3相交流巻線31Bの3つの相巻線32D〜32Eを構成する導線の一つが各スロット15bに挿通される。
【0051】
このように構成された車両用交流発電機100Aでは、電流が蓄電池28からブラシ10およびスリップリング9を介して界磁巻線13に供給され、磁束が発生される。この磁束により、ポールコア20の爪状磁極22がN極に着磁され、ポールコア21の爪状磁極23がS極に着磁される。一方、エンジンの回転トルクがベルト(図示せず)およびプーリ4を介してシャフト6に伝達され、ロータ7が回転される。そこで、電機子巻線16Aに回転磁界が与えられ、電機子巻線16Aに交流の起電力が発生する。この起電力による交流電流(交流出力)が3相全波整流器12A,12Bを通って直流に整流されるとともに、その大きさが電圧調整器18により調整され、蓄電池28に充電され、電気負荷29に供給される。
【0052】
次いで、それぞれを千鳥Y巻線にされた2つの3相交流巻線31A,31Bにより電機子巻線16Aを構成したことを特徴とする車両用交流発電機100Aの効果を確認したので以下にその内容を具体的に説明する。
試験では、以下に説明する比較用交流発電機を用意し、車両用交流発電機100A、及び比較用交流発電機のそれぞれにおいて、ロータ7の回転速度を変化させたときの整流器12の出力電流を測定した。なお、整流器12の出力電流は、3相全波整流器12A,12Bの出力電流を足し合わせたものとする。
また、車両用交流発電機100Aと同様、比較用交流発電機の界磁極の数は説明の便宜上4として説明しているが、実際には界磁極の数を16としたものを用いている。
【0053】
次いで、比較用交流発電機について図4及び図5を参照しつつ説明する。
図4は比較用交流発電機の回路図、図5は比較用交流発電機の電機子巻線の構成を説明する展開図である。
なお、図4及び図5において、車両用交流発電機100Aの構成と同一または相当部分には同一符号を付し、その説明は省略する。
【0054】
図4及び図5において、比較用交流発電機110の電機子巻線70は、互いに電気角位相が120度ずれたa〜c相巻線72A〜72CをY結線して構成される3相交流巻線71A、及び互いに電気角位相が120度ずれたa〜c相巻線72D〜72FをY結線して構成される3相交流巻線71Bを有し、2つの3相交流巻線71A,71Bの間の電気角位相が30度ずらされている。
a〜c相巻線72A〜72Cのそれぞれは、全節巻の波巻でステータコア15に巻装された導線30により構成されている。
a〜c相巻線72D〜72Fのそれぞれは、全節巻の波巻でステータコア15に巻装された導線30により構成されている。
【0055】
以下、電機子巻線70の巻線構造について図5を参照しつつ説明する。
まず、3相交流巻線71Aの巻線構造について説明する。
a相巻線72Aは、車両用交流発電機100Aのa相巻線32Aのコイル巻線部32aが通るスロット15bの番号と同じ番号のスロット15bを通るようにステータコア15に巻装されている。このとき、a相巻線72Aは、コイル巻線部32aの長さの倍となるように、言い換えれば、a相巻線72Aは、合計6周するようにステータコア15に巻装されている。
【0056】
また、b相巻線72Bは、車両用交流発電機100Aのb相巻線32Bのコイル巻線部32cが通るスロット15bの番号と同じ番号のスロット15bを通るようにステータコア15に巻装されている。このとき、b相巻線72Bは、合計6周するようにステータコア15に巻装されている。
【0057】
また、c相巻線72Cは、車両用交流発電機100Aのc相巻線32Cのコイル巻線部32eが通るスロット15bの番号と同じ番号のスロット15bを通るようにステータコア15に巻装されている。このとき、c相巻線72Cは、合計6周するようにステータコア15に巻装されている。
そして、3相交流巻線71Aは、a〜c相巻線72A〜72Cの互いの間の電気角位相差が120度となるようにa〜c相巻線72A〜72CをY結線したもので構成されている。
【0058】
次いで、3相交流巻線71Bの巻線構造について説明する。
a相巻線72D〜c相巻線72Fは、a〜c相巻線72A〜72Cをスロット15bの番号が進む方向に11スロット分ずらしてステータコア15に巻装したもので構成されている。
そして、3相交流巻線71Bは、a〜c相巻線72D〜72Fの互いの間の位相差が120度となるようにa相巻線72D〜c相巻線72FをY結線したもので構成されている。以上のように構成された3相交流巻線71A,71Bの間の電気角位相差は30度となる。また、各スロット15bには、2つの3相交流巻線71A,71Bを構成する6つの相巻線72A〜72Fを構成する導線30のうちの一つの導線30のみが挿通されている。
比較用交流発電機110の他の構成は、車両用交流発電機100Aと同様である。
【0059】
そして、ロータ7の回転速度を1200(r/min)から6000(r/min)まで変化させて各発電機の出力電流を測定した結果を図6に示す。
図6はこの発明の実施の形態1に係る車両用交流発電機、及び比較用交流発電機のそれぞれの整流器の出力電流特性を示す図である。
図6では、ロータ7の回転速度を横軸にとり、出力電流を縦軸にとっている。
以下、車両用交流発電機100Aの整流器12の出力電流、及び比較用交流発電機110の整流器12の出力電流のそれぞれを、単に車両用交流発電機100Aの出力電流、及び比較用交流発電機110の出力電流のそれぞれとする。
【0060】
車両用交流発電機100Aの出力電流特性は、ロータ7の回転速度が1200〜2000(r/min)の手前までの領域では、ロータ7の回転速度の増大に伴って、所定の傾きで増大し、ロータ7の回転速度が2000(r/min)の手前から、ロータ7の回転速度の増大量に対する出力電流の増加量の割合が徐々に減少し、さらに、ロータ7の回転速度が4000(r/min)以上でおおよそ飽和した。
【0061】
比較用交流発電機110の出力電流特性は、ロータ7の回転速度が1200〜1500(r/min)以下の領域では、ロータ7の回転速度の増大に伴って、発電機毎に所定の傾きで増大し、ロータ7の回転速度が1500(r/min)を超えると、ロータ7の回転速度の増大量に対する出力電流の増加量の割合が徐々に減少し、さらに、ロータ7の回転速度が4000(r/min)以上では小さな傾きで出力電流が増加した。
【0062】
ロータ7の回転速度が1200〜1500(r/min)のとき、車両用交流発電機100Aと比較用交流発電機110の出力電流の大きさは略同じとなっている。また、ロータ7の回転速度が1500〜2000(r/min)の領域において、車両用交流発電機100Aの出力電流増大の傾きは、比較用交流発電機110の出力電流増大の傾きよりも大きくなった。
【0063】
そして、ロータ7の回転速度を1200(r/min)から2000(r/min)に増大させたとき、車両用交流発電機100Aの出力電流と比較用交流発電機110の出力電流との差は徐々に広がり、ロータ7の回転速度が2000(r/min)のときに、車両用交流発電機100Aの出力電流は、比較用交流発電機110の出力電流より8(A)程度大きくなった。
【0064】
また、ロータ7の回転速度が2000(r/min)の手前あたりから、車両用交流発電機100A及び比較用交流発電機110ともに、出力電流の増大の傾きが徐々に小さくなった。このとき、車両用交流発電機100Aの方が傾きの減少の割合が大きく、ロータ7の回転速度が増大するにつれて、徐々に車両用交流発電機100Aと比較用交流発電機110の出力電流の差が縮まった。そして、ロータ7の回転速度が3500(r/m)よりやや大きくなったところで、車両用交流発電機100Aの出力電流が比較用交流発電機110の出力電流より小さくなった。
【0065】
ここで、前述したように、車両用交流発電機100Aのように、第1及び第2の3相交流巻線31A,31Bを千鳥Y巻線とした発電機では、各相巻線を位相ずれのない巻線で構成した通常Y巻線で3相交流巻線71A,71Bを構成した比較用交流発電機110に比べ、ロータ7が低速で回転する場合に起電力が低下し、ロータ7が高速に回転する場合に出力電流が増加するというのが従来の知見である。
【0066】
本出願人は鋭意努力の結果、それぞれ千鳥Y巻線からなる第1及び第2の3相交流巻線31A,31Bを、電気角位相が30度異なるようにステータコア15に巻装することで、従来の知見とは逆の現象が発生することを発見した。つまり、車両用交流発電機100Aでは、ロータ7が低速で回転している場合の出力電流が比較用交流発電機110より増大し、ロータ7が高速で回転している場合の出力電流は比較用交流発電機110より低下するという結果を得た。具体的には、ロータ7の回転速度が3500(r/min)程度より遅い領域では、車両用交流発電機100Aの出力電流は、比較用交流発電機110の出力電流より同等以上となった。
【0067】
このように、1500〜2000(r/min)を含む広範囲のロータ7の回転速度の領域に対して、車両用交流発電機100Aの出力電流は、比較用交流発電機110の出力電流より大きくなっている。ロータ7の回転速度が1500〜2000(r/min)の範囲にあるとき、エンジンがアイドリング状態となる車両は広く普及している。上記の結果は、エンジンがアイドリング状態にあるときの車両用交流発電機100Aの電流出力が、比較用交流発電機110に対して増大することを意味している。
【0068】
次いで、上記測定結果について検討する。
本出願人は、ロータ7が1500〜3500(r/min)という低速で回転しているときの車両用交流発電機100Aの出力電流が、比較用交流発電機110の出力電流より大きくなる原因を発見すべく、車両用交流発電機100A及び比較用交流発電機110のそれぞれについて、各相巻線に流れる電流を測定した。
【0069】
図7はこの発明の実施の形態1に係る発明の車両用交流発電機の各相巻線に流れる電流の時間波形を示す図である。
図7は、例えば、ロータ7(エンジン)の回転速度が2000(r/min)程度のときの車両用交流発電機の各相巻線に流れる電流の時間波形であり、横軸は時間であり、縦軸は出力電流[A]である。
【0070】
出力電流は、電気角で360°相当する機械角度だけ回転子7が回転するのに要する時間を基本周期として、周期変動する。
【0071】
ここで、各相巻線32A〜32Fの出力電流が3相全波整流器12A,12Bにより流されたり遮断されたりするのに起因して、基本周期の5倍の周期で変動する5次高調波が基本周期を周期とする基本波にのる。各相巻線32A〜32Fの出力電流は、基本波に5次高調波が乗ったものの方が、基本波に対して大きくなるものと思料される。
【0072】
ここで、第1の3相交流巻線31Aのa〜c相巻線32A〜32Cのそれぞれを流れる電流は、取出部Xa,Ya,Zaのそれぞれを流れる電流であり、図7では、第1の3相交流巻線31Aのa〜c相巻線のそれぞれを流れる電流を、x,y,zのそれぞれとして記載する。同様に、第2の3相交流巻線31Bのa〜c相巻線のそれぞれを流れる電流は、取出部Ua,Va,Waのそれぞれを流れる電流であり、図7では、第2の3相交流巻線31Bのa〜c相巻線32D〜32Fのそれぞれを流れる電流を、u,v,wのそれぞれとして記載する。
【0073】
また、同一スロット15bに挿入されている導線30の部位を流れる電流を合成した(足した)ものをスロット電流とする。
なお、各スロット15bには、第1の3相交流巻線31Aのa〜c相巻線32A〜32Cのいずれかを構成する導線30と第2の3相交流巻線31Bのa〜c相巻線32D〜32Fのいずれかを構成する導線30が同一スロット15bに挿入されるので、スロット電流は、電流x,y,zのいずれか一つと、電流u,v,wのいずれか一つを合成した電流となる。
図7に示されるように、例えば、電流xとu、電流yとv、及び電流zとwのそれぞれでは、5次高調波成分が互いに逆位相になっている区間が多いのがわかる。
【0074】
次いで、車両用交流発電機のスロット電流の時間波形について説明する。
図8はこの発明の実施の形態1に係る発明の車両用交流発電機のスロット電流の時間波形の一例を示す図である。
【0075】
図8は、第1の3相交流巻線31Aのa相巻線32Aと、第2の3相交流巻線31Bのb相巻線32Dに流れる電流x,uに特化して図示しているが、電流y,v、及び電流z,wの関係も同様に説明される。
【0076】
上述したように、電流xと電流uに含まれる5次高調波成分は、おおよそ互いに逆位相になっている。
そして、例えば、車両用交流発電機100Aの第1の3相交流巻線のa相巻線32Aと第2の3相交流巻線のa相巻線32Dを構成する導線30が所定スロット15bに挿入されている場合、電流xと電流uの合成電流であるスロット電流は、電流xと電流uの5次高調波成分が互いに打ち消される。これにより、スロット電流(u+x)の5次高調波成分は、図8に示されるように大幅に小さくなり、スロット電流は、基本波に近いものとなる。
なお、例えば、同一スロット15bに第1の3相交流巻線のb相巻線32Bと第2の3相交流巻線のb相巻線32Eを構成する導線30が挿入されている場合にも、電流yと電流vの合成電流であるスロット電流は、電流yと電流vの5次高調波成分が互いに打ち消される。
【0077】
次いで、比較用交流発電機110の各相巻線72A〜72Fに流れる電流の時間波形について説明する。
図9は比較用交流発電機の各相巻線に流れる電流の時間波形を示す図である。
【0078】
図9に示されるように、比較用交流発電機110でも、電流x,y,zのそれぞれ、及び電流u,v,wのそれぞれには、5次高調波が含まれている。
ここで、比較用交流発電機110において、スロット15bには、3相交流巻線71Aのa〜c相巻線72A〜72C、及び3相交流巻線71Bのa〜c相巻線72D〜72Fのいずれかを構成する導線30のいずれか1本だけが挿入されている。即ち、各スロット15bのスロット電流は、スロット15bに挿入されている一本の導線30に流れる電流に等しくなる。従って、スロット電流において、5次高調波成分が打ち消されることはない。
【0079】
以上のように、車両用交流発電機100Aは、各複数のスロット15bに、第1の3相交流巻線31Aのa〜c相巻線32A〜32Cを構成する導線30の一つ、及び第2の3相交流巻線31Bのa〜c相巻線32D〜32Fを構成する導線30の一つが通過するように構成されている。これにより、車両用交流発電機100Aの特定の複数のスロット15bのそれぞれのスロット電流においては、同一スロット15bを通る導線30を流れる電流に含まれる5次高調波電流が打ち消される点で、車両用交流発電機100Aと比較用交流発電機110とが異なっている。
【0080】
詳細な因果関係は不明であるが、車両用交流発電機100Aでは、特定の複数のスロット15bのそれぞれの合成電流において、同一スロット15bを通る導線30を流れる電流に含まれる5次高調波電流が打ち消されるのに起因して、比較用交流発電機110と比較して、ロータ7が低速回転にあるときの出力電流が増大するものと考えられる。
【0081】
この実施の形態1の車両用交流発電機100Aによれば、第1及び第2の3相交流巻線31A,31Bを構成する相巻線32A〜32Fのそれぞれが、互いの間の電気角位相が異なるようにステータコア15に巻装されたコイル巻線部32a,32b、32c,32d、32e,32fを直列に接続して構成され、第1及び第2の3相交流巻線の間の電気角位相差が30度となっている。さらに、車両用交流発電機100Aは、第1の3相交流巻線31Aの3つの相巻線32A〜32Cを構成する導線30のうちの一つ、及び第2の3相交流巻線31Bの3つの相巻線32D〜32Fを構成する導線30のうちの一つが各スロットに挿通され、同一のスロット15bを通る導線30に流れる電流を合成した合成電流において、同一のスロット15bを通る導線30を流れる電流に含まれる5次高調波電流が互いに打ち消し合うようにされている。
【0082】
これにより、各相巻線32A〜32C,32D〜32Fの巻数を増やすことなしに、ロータ7が低速で回転する領域での整流器12の出力電流を増大させることができる。つまり、各相巻線32A〜32C,32D〜32Fの抵抗が増大して発電効率が低下することを回避しつつ蓄電池28があがるのを防止できる。
【0083】
なお、上記実施の形態1では、a相巻線32A〜c相巻線32C、及びa相巻線32D〜c相巻線32Fのそれぞれを構成する2つのコイル巻線部は、電気角位相差が30度となるように直列に接続するものとして説明したが、2つのコイル巻線部は電気角位相差を30度として直列に接続するものに限定されず、必要に応じて30度以外の電気角位相差で直列に接続しても本願の効果は得られる。
【0084】
また、直列に接続するコイル巻線部32a,32b、32c,32d、・・・、32k,32lのそれぞれの巻数は等しくなっているので、コイルエンドにコイル巻線部32a〜32lが集中されず、コイル巻線部32a〜32lの巻線性が良くなる。
【0085】
また、全節巻の波巻で導線30をステータコア15にステータコア15を3周するように巻装して構成されるものとして説明したが、各コイル巻線部32a〜32fのそれぞれは、1周や2周、または4周以上周回するようにステータコア15に巻装されているものでもよい。
【0086】
実施の形態2.
図10はこの発明の実施の形態2に係る車両用交流発電機における電機子巻線の構成を説明する展開図である。
【0087】
図10において、車両用交流発電機100Bの電機子巻線16Bの基本構成は、電機子巻線16Aの基本構成と各相巻線32A〜32Fの巻線方法を除いて同様である。
電機子巻線16Bは、電機子巻線16Aと同様、それぞれ、前述の千鳥Y巻線により構成した第1及び第2の3相交流巻線31A,31Bを備え、第1及び第2の3相交流巻線31A,31Bの間の電気角位相が30度異なるように構成されている。
そして、第1及び第2の3相交流巻線31A,31Bを構成するコイル巻線部32a〜32fのそれぞれが、導線30を界磁極のピッチに等しいピッチの重ね巻(全節巻の波巻)でステータコア15に巻装されている。
【0088】
以下、a相巻線32A〜c相巻線32Cからなる第1の3相交流巻線31Aの巻線構造について説明する。
【0089】
まず、a相巻線32Aの巻線構造について説明する。
コイル巻線部32aを構成する導線30は、リヤ側に取出部Xaを配置され、ステータコア15のリヤ側から1番のスロット15bを通ってフロント側に延出して、19番のスロット15bまで渡されている。以下、同様に、導線30は、1番と19番のスロット15bを通るように所定ターン巻回されている。
【0090】
さらに、19番のスロット15bのリヤ側に延出された導線30が、13番のスロット15bまで渡され、13番のスロット15bに通されてフロント側に延出し、次いで、7番のスロット15bまで渡され、7番のスロット15bに通されてリヤ側に延出している。以下、同様に、導線30は、13番と7番のスロット15bを通るように所定ターン巻回されている。
以上のように、コイル巻線部32aが構成されている。
【0091】
コイル巻線部32bは、一端をリヤ側に配置され、コイル巻線部32aを構成する導線30をスロット15bの番号が戻る方向に1スロット分ずらしてステータコア5に巻装されたもので構成されている。即ち、コイル巻線部32bは、導線30を24番と18番のスロット15bを通すように環状に所定ターン巻回し、ついで12番と6番のスロット15bを通すように環状に所定ターン巻回して構成されている。
そして、6番から延出された導線30の他端が、中性点を構成する部位となる。
以上のように、コイル巻線部32bが構成されている。
【0092】
そして、コイル巻線部32aを構成する導線30のうち、7番のスロット15bのリヤ側に配置される端部と、24番のコイル巻線部32bを構成する導線30のうち、スロット15bのリヤ側に配置される端部とを連結することで、コイル巻線部32a,32bが直列に接続されてa相巻線32Aが構成される。
【0093】
次いで、b相巻線32Bの巻線構造について説明する。
b相巻線32Bを構成するコイル巻線部32c,32dは、a相巻線32Aのコイル巻線部32a,32bを構成する導線30をスロット15bの番号が戻る方向に4スロット分ずらしてステータコア15に巻回したもので構成されている。
コイル巻線部32cを構成する導線30のうち、3番のスロット15bのリヤ側に配置される端部と、コイル巻線部32dを構成する導線30のうち、20番のスロット15bのリヤ側に配置される端部とが連結されており、b相巻線32Bが、直列に接続されたコイル巻線部32c,32dにより構成される。また、2番から延出されたb相巻線32Bのコイル巻線部32dを構成する導線30の端部が、中性点を構成する部位となる。
【0094】
c相巻線32Cを構成するコイル巻線部32e,32fは、a相巻線32Aのコイル巻線部32a,32bを構成する導線30をスロット15bの番号が戻る方向に8スロット分ずらしてステータコア15に巻回したもので構成されている。
コイル巻線部32eを構成する導線30のうち、23番のスロット15bのリヤ側に配置される端部と、コイル巻線部32fを構成する導線30のうち、16番のスロット15bのリヤ側に配置される端部とが連結されており、c相巻線32Cが、直列に接続されたコイル巻線部32e,32fにより構成される。22番から延出されたc相巻線32Cのコイル巻線部32eを構成する導線30の端部が、中性点を構成する部位となる。
【0095】
そして、6番から延出されたコイル巻線部32bを構成する導線30の端部、2番から延出されたコイル巻線部32dを構成する導線30の端部、及び22番から延出されたコイル巻線部32fを構成する導線30の端部を接続して中性点を形成することで第1の3相交流巻線31Aが構成される。
そして、コイル巻線部32a,32c,32eのそれぞれの一端が、a〜c相巻線32A〜32Cのそれぞれと外部との電力をやり取りするための取出部Xa,Ya,Zaとなり、図示しない3相全波整流器12Aのプラス側ダイオードd1とマイナス側ダイオードd2との接続部のそれぞれに結線されている。
【0096】
以上の第1の3相交流巻線31Aについてまとめると、第1の3相交流巻線31Aは、互いの間の電気角位相差が120°となるようにステータコア15に巻装されたa〜c相巻線32A〜32CをY結線して構成されている。a〜c相巻線32A〜32Cを構成するコイル巻線部32a〜32fのそれぞれは、導線30を界磁極のピッチに等しいピッチの重ね巻(全節巻の重ね巻)でステータコア15に巻装されている。
【0097】
また、直列に接続された2つのコイル巻線部32a,32b、32c、32d,及び32e,32fの間の電気角位相差は30度となっている。即ち、第1の3相交流巻線31Aは、各a〜c相巻線32A〜32Cを構成する2つのコイル巻線部32a,32b、32c、32d,及び32e,32fの間の電気角位相差を30°とする千鳥Y巻線により構成されている。なお、コイル巻線部32a〜32fのそれぞれの巻数は等しくなっている。
【0098】
次いで、電機子巻線16Bのa相巻線32D〜c相巻線32Fからなる第2の3相交流巻線31Bの巻線構造について説明する。
【0099】
電機子巻線16Bのa〜c相巻線32D〜32Fを構成するコイル巻線部32g〜コイル巻線部32lは、a〜c相巻線32A〜32Cを構成するコイル巻線部32a〜32fをスロット15bの番号が進む方向に11スロット分ずらしてステータコア15に巻装したもので構成されている。但し、24番の次の番号は1番とする。
【0100】
つまり、3相交流巻線31Bでは、互いの間の電気角位相差が120°となるようにステータコア15に巻装されたa〜c相巻線32D〜32FをY結線して構成されている。a〜c相巻線32D〜32Fを構成するコイル巻線部32g〜32lのそれぞれは、導線30を界磁極のピッチに等しいピッチの重ね巻(全節巻の重ね巻)でステータコア15に巻装されている。
【0101】
また、直列に接続された2つのコイル巻線部32g,32h、32i、32j,及び32k,32lの間の電気角位相差は30度となっている。即ち、3相交流巻線31Bは、各a〜c相巻線32D〜32Fを構成する2つのコイル巻線部32g,32h、32i、32j,及び32k,32lの間の電気角位相差を30°とする千鳥Y巻線により構成されている。なお、コイル巻線部32g〜32lのそれぞれの巻数は等しくなっている。
そして、コイル巻線部32g,32i,32kのそれぞれの一端が、a〜c相巻線32D〜32Fのそれぞれの取出部Ua,Va,Waとなり、図示しない3相全波整流器12Bのプラス側ダイオードd1とマイナス側ダイオードd2との接続部のそれぞれに結線されている。
なお、3相交流巻線31Aのa〜c相巻線32A〜32Cと同様、3相交流巻線31Bのa〜c相巻線32D〜32Fの間の電気角位相差は120度となるのはいうまでもない。
【0102】
また、スロット15bは電気角で30度のピッチで配列されているので、a相巻線32A,32D、b相巻線32B,32E、及びc相巻線32C,32Fのそれぞれの互いの間の電気角位相差は30度となる。言い換えれば、第1及び第2の3相交流巻線31A,31Bの間の電気角位相差が30度となる。
【0103】
上記のように構成された電機子巻線16Bでは、実施の形態1で説明した電機子巻線16Aと同様、第1の3相交流巻線31Aの3つの相巻線32A〜32Cの相巻線を構成する導線のうちの一つ、及び第2の3相交流巻線31Bの3つの相巻線32D〜32Eを構成する導線の一つが各スロット15bに挿通される。従って、発電時、特定の複数のスロット15bのそれぞれでの合成電流においては、同一スロット15bを通る導線30を流れる電流に含まれる5次高調波電流が互いに打ち消される。
【0104】
従って、この実施の形態2によれば、実施の形態1と同様の効果が得られる。
【0105】
実施の形態3.
図11はこの発明の実施の形態3に係る車両用交流発電機における電機子巻線の構成を説明する展開図である。
【0106】
図11において、車両用交流発電機100Cの電機子巻線16Cは、互いの間の電気角位相が30度異なるようにステータコア15に巻装された第1及び第2の3相交流巻線31C,31Dにより構成されている。
【0107】
第1の3相交流巻線31Cは、それぞれ導線30を5/6界磁極ピッチの短節巻の重ね巻でステータコア15に巻装して構成した3つの相巻線(a相巻線32G〜c相巻線32I)を有し、相巻線32G〜32Iを互いの間の電気角位相差が120度となるようにY結線して構成されている。
また、第2の3相交流巻線31Dは、それぞれ導線30を5/6界磁極ピッチの短節巻の重ね巻でステータコア15に巻装して構成した3つの相巻線(a相巻線32J〜c相巻線32L)を有し、相巻線32J〜相巻線32Fを互いの間の電気角位相差が120度となるようにY結線して構成されている。
なお、a〜c相巻線32G〜32I、32J〜32Lは、導線30が、以下に説明するようにステータコア15に短節巻で巻装されたもので構成されている。
【0108】
以下、電機子巻線16Cの巻線構造について説明する。
まず、第1の3相交流巻線31Cの巻線構造について説明する。
a相巻線32Gの導線30は、取出部Xaをリヤ側に配置されて、リヤ側から19番のスロット15bを通ってフロント側に延出して24番のスロット15bに渡され、24番のスロット15bを通ってリヤ側に延出している。以下、同様に、導線30は、19番と24番のスロット15bを通るように所定ターン巻回されている。
【0109】
さらに、導線30は、24番のスロット15bの延出側が18番のスロット15bまで渡されて18番のスロット15bに通されてフロント側に延出し、次いで、13番のスロット15bまで渡され、13番のスロット15bに通されてリヤ側に延出している。以下、同様に、導線30は、18番と13番のスロット15bを通るように所定ターン巻回されている。
【0110】
さらに、導線30の13番のスロット15bからの延出側が、7番のスロット15bまで渡されている。そして、導線30は、7番のスロット15bに通されてフロント側に延出し、次いで、12番のスロット15bまで渡され、12番のスロット15bに通されてリヤ側に延出している。以下、同様に、導線30は、7番と12番のスロット15bを通るように所定ターン巻回されている。
【0111】
さらに、導線30の12番のスロット15bからの延出側が、6番のスロット15bまで渡されて、6番のスロット15bに通されてフロント側に延出し、次いで、1番のスロット15bまで渡され、1番のスロット15bにフロント側から通されてリヤ側に延出している。以下、同様に、導線30は、6番と1番のスロット15bを通るように所定ターン巻回され、巻回された導線30の端部が6番のスロット15bのリヤ側から延出されている。
そして、1番から延出されたa相巻線32Gを構成する導線30の端部が、中性点を構成する部位となる。
【0112】
b相巻線32Hは、a相巻線32Gを構成する導線30を、スロット15bの番号が戻る方向に4スロット分ずらしてステータコア15に巻装されたものと同一となっている。即ち、導線30を、15番と20番のスロット15bを通すように環状に所定ターン巻回し、ついで14番と9番のスロット15bを通すように環状に所定ターン巻回し、ついで3番と8番のスロット15bを通すように環状に所定ターン巻回し、さらに2番と21番のスロット15bを通すように環状に所定ターン巻回して構成されている。21番から延出されたb相巻線32Hを構成する導線30の端部が、中性点を構成する部位となる。
【0113】
c相巻線32Iの導線30は、a相巻線32Gを構成する導線30をスロット15bの番号が戻る方向に8スロット分ずらしてステータコア15に巻装したものと同一となっている。即ち、導線30を、11番と16番のスロット15bを通すように環状に所定ターン巻回し、ついで10番と5番のスロット15bを通すように環状に所定ターン巻回し、ついで23番と4番のスロット15bを通すように環状に所定ターン巻回し、さらに22番と17番のスロット15bを通すように環状に所定ターン巻回して構成されている。
17番から延出されたc相巻線32Iを構成する導線30の端部が、中性点を構成する部位となる。
【0114】
そして、第1の3相交流巻線31Cは、a相巻線32Gの1番のスロット15b側の端部、b相巻線32Hの21番のスロット15b側の端部、及びc相巻線32Iの17番のスロット15b側の端部を接続して中性点を形成することで第1の3相交流巻線31Cが構成される。
そして、a〜c相巻線32G〜32Iの中性点を構成する導線30の一端とは逆側の他端が、a〜c相巻線32G〜32Iと外部との間の電力をやりとりするための取出部Xa,Ya,Zaとなり、図示しない3相全波整流器12Aのプラス側ダイオードd1とマイナス側ダイオードd2との接続部のそれぞれに結線されている。
【0115】
次いで、第2の3相交流巻線31Dの巻線構造について説明する。
第2の3相交流巻線31Dのa〜c相巻線32J〜32Lの導線30は、a〜c相巻線32G〜32Iをスロット15bの番号が戻る方向に11スロット分ずらしてステータコア15に巻装したもので構成されている。
【0116】
a〜c相巻線32J〜32Lの中性点とは逆側の端部が、a〜c相巻線32J〜32Lと外部との間の電力をやりとりするための取出部Ua,Va,Waとなり、図示しない3相全波整流器12Bのプラス側ダイオードd1とマイナス側ダイオードd2との接続部のそれぞれに結線されている。
【0117】
以上のように構成された電機子巻線16Cは、第1の3相交流巻線31Cの3つの相巻線32G〜32Iを構成する導線のうちの一つ、及び第2の3相交流巻線31Dの3つの相巻線32J〜32Kを構成する導線の一つが各スロット15bに挿通される。
【0118】
また、第1の3相交流巻線31Cのa相巻線32Gについて考えると、1,6,7,12,13、18、19及び24番のスロット15bを利用して5/6極ピッチの短節巻でステータコア15に巻装されている。
【0119】
また、車両用交流発電機100Aの第1の3相交流巻線31Aのa相巻線32Aについて考えると、コイル巻線部32a,32bが1,6,7,12,13、18、19及び24番のスロット15bを利用して巻装されている。
【0120】
従って、車両用交流発電機100A,100Cを比較したとき、同じ番号のスロット15bを利用して巻装されたa相巻線32G及びa相巻線32Aは電磁気的に等価なものである。つまり、車両用交流発電機100A,100Cのそれぞれのロータ7が回転したとき、界磁極による回転磁界によって誘起される交流の出力電流、及びa相巻線32G,32Aのそれぞれに流れる電流によって発生する磁界は同じものとなる。
【0121】
同様に、第1の3相交流巻線31Cのb相巻線32H及びc相巻線32Iは、車両用交流発電機100Aの第1の3相交流巻線31Aのb相巻線32B及びc相巻線32Cが通るスロット15bの番号と同じ番号のスロット15bを利用してステータコア15に巻装されており、b及びc相巻線32H,32Iとb及びc相巻線32B,32Cとは電磁気的に等価なものである。
【0122】
また、第2の3相交流巻線31Dのa相巻線32J〜c相巻線32Lは、車両用交流発電機100Aの第2の3相交流巻線31Bのa相巻線32D〜c相巻線32Fと同じ番号のスロット15bを利用してステータコア15に巻装されており、a相巻線32J〜c相巻線32Lとa相巻線32D〜c相巻線32Fは、電磁気的に等価なものである。つまり、電機子巻線16Cは電機子巻線16Aと電磁気的に等価なものとなる。
【0123】
以上のことから、車両用交流発電機100Cによれば、複数のスロット15bにおいて、同一のスロット15bを通る導線30に流れる5次高調波電流が互いに打ち消し合う電流が発電時に流される。
従って、車両用交流発電機100Cによれば、車両用交流発電機100Aと同様、ロータ7が低速に回転している場合に、整流器12の出力を従来の発電機の出力電流に比べて増大させることができる。
さらに、車両用交流発電機100Cは、各相巻線32G〜32Lを短節巻としたことによって、コイルエンド寸法を短くでき、これにより、各相巻線32G〜32Lの巻線抵抗を小さくすることができる。
【0124】
なお、上記実施の形態3では、各相巻線32G〜32Lは、導線30を短節巻の重ね巻でステータコア15に巻装して構成されるものとして説明したが、各相巻線32G〜32Lは、導線30を短節巻の波巻でステータコア15に巻装して構成されているものでもよい。
【0125】
また、上記各実施の形態では、説明の便宜上、界磁極の数が4で、スロット15bの数が24個の車両用交流発電機100A〜100Cについて説明した。しかし、界磁極の数が2n(但し、nは正の整数)であり、スロット15b数が2n×6個を満たすものであれば、界磁極の数、及びスロット15bの数は特に限定されるものではなく、必要に応じて適宜設定すればよい。
【0126】
また、上記各実施の形態では、回転電機として、車両用交流発電機100A〜100Cを例にあげて説明したが、ロータ7、ステータ8、及び整流器12と同様の構成のロータ、ステータ、及び整流器を有する交流電動機を回転電機として適用することができる。
【0127】
また、上記各実施の形態では、導線30は、絶縁被覆された円形断面の銅線で作製されるものとして説明したが、導線はこのものに限定されず、例えば、矩形断面などの他の断面形状でもよく、また、銅以外の金属を材料として作製されていてもよい。
【符号の説明】
【0128】
7 ロータ、8 ステータ、12 整流器、15 ステータコア、15a ティース、15b スロット、22,23 爪状磁極(界磁極)、30 導線、31A,31C 第1の3相交流巻線、31B,31D 第2の3相交流巻線、32A〜32I 相巻線、32a〜32l コイル巻線部、100A〜100C 車両用交流発電機(回転電機)。
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば、自動車等に搭載される交流発電機や始動電動機などの回転電機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の車両用交流発電機は、回転方向に極性が交互に異なるように配置した複数の界磁極を有する回転子と、複数のスロットが形成された固定子鉄心、及びそれぞれ、互いの間の電気角位相差が120度となるようにステータコアに巻装された3つの相巻線をY結線して構成された第1及び第2の3相交流巻線を備えるステータと、回転子の回転に応じて第1及び第2の3相交流巻線に誘起される交流出力を整流する整流器と、を備え、相巻線が、互いの間の電気角位相が異なるようにステータコアに巻装された2つのコイル巻線部を直列に接続して構成され、第1及び第2の3相交流巻線の間の電気角位相差が30度となっている(例えば、特許文献1参照)。
以下では、相巻線のそれぞれが、互いの間の電気角位相が異なる2つのコイル巻線部を直列に接続して構成され、かつ、互いの間の電気角位相差が120度となるように3つの相巻線をY結線して構成した3相交流巻線を千鳥Y巻線とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−364464号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、千鳥Y巻線において、各相巻線を構成する2つのコイル巻線部を、電気角位相をそろえて直列に接続されるように巻きなおして構成した3相交流巻線を通常Y巻線とする。なお、第1及び第2の3相交流巻線を通常Y巻線とする車両用交流発電機は従来から広く普及しており、第1及び第2の3相交流巻線を通常Y巻線とする車両用交流発電機を一般の車両用交流発電機とする。
【0005】
そして、第1及び第2の3相交流巻線を千鳥Y巻線とするものの他、第1及び第2の3相交流巻線を短節巻のもとを含む従来の車両用交流発電機では、通常Y巻線を用いた一般の車両交流用発電機に比べ、巻線係数が小さくなるために等価巻数が小さくなる。つまり、従来の車両用交流発電機では、インダクタンスが低下して起電力が低下する。また、従来の車両用交流発電機は、電機子反作用が、一般の車両用交流発電機より小さくなることが知られている。
【0006】
以上を総合的に考慮すると、従来の車両用交流発電機では、一般の車両用交流発電機に比べ、ロータが低速で回転する領域では、整流器の出力(電流)が低下し、ロータが高速で回転する領域では、整流器の出力が増加するというのが従来の知見である。
【0007】
特許文献1には、従来の車両用交流発電機が発電を行ったときに、整流器の出力(電流)をどのように流すかについては、また、3相交流巻き線を千鳥Y巻線とすることで、出力特性がどのようになるかについては、何ら触れられていいない。
【0008】
そして、車両用交流発電機及び一般の車両交流発電機がそれぞれ搭載された車両のそれぞれでは、エンジンの回転に同期するロータの回転速度(角速度)が所定の大きさになるまでは、回転速度が増大するにつれて整流器の出力も増大するが、整流器の出力はロータの回転速度が所定の速さより速くなると略飽和する。
【0009】
例えば車両が所定以上の速さで走行している場合、ロータは高速で回転するので、整流器の整流出力により充電される蓄電池は、車両に用いられている電気機器を駆動するのに十分な電力を供給可能である。一方、エンジンがアイドリング状態にある場合など、エンジンが低速に回転しているときはロータの回転も低速であるので、整流器の出力は小さなものとなる。つまり、ロータが低速で回転し続ける場合、蓄電池の充電が電力消費に対して追い付かなくなり、蓄電池があがってしまう恐れがある。このため、ロータが低速で回転しているときの整流器の出力を増大させることが重要である。
【0010】
各相巻線の巻数を増やして各相巻線の起電力を増大させることで、ロータが低速に回転しているときでも整流器の出力を増大させることは可能となるが、この場合、各相巻線の抵抗が増大して発電効率が低下してしまう。
【0011】
本出願人は、この不具合を解消するための鋭意努力を重ねた結果、千鳥Y巻線を用いた発電機において、各相巻線の巻数を増やさなくても第1及び第2の3相交流巻線の相巻線を特定の巻線構造でステータコアに巻装することで、ロータが低速に回転しているときに、整流器の出力が増大することを見出し、本願を発明した。
【0012】
この発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、第1及び第2の3相交流巻線の相巻線を構成する導線を特定の巻線構造でステータコアに巻装して、ロータが低速に回転しているときでも発電効率を低下させることなく出力電流を増大させることのできる回転電機を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この発明は、2n個(但し、nは正の整数)の界磁極を有するロータと、隣り合うティースにより区画されたスロットが周方向に所定のピッチで2n×6個形成されたステータコア、及びそれぞれ、互いの間の電気角位相差が120度となるようにステータコアに巻装された3つの相巻線をY結線して構成された第1及び第2の3相交流巻線を備えるステータと、ロータの回転に応じて第1及び第2の3相交流巻線に誘起される交流出力を整流する整流器とを備え、第1及び第2の3相交流巻線の間の電気角位相差が30度であり、第1の3相交流巻線の3つの相巻線を構成する導線のうちの一つ、及び第2の3相交流巻線の3つの相巻線を構成する導線のうちの一つが各スロットに挿通され、同一のスロットを通る導線に流れる電流を合成した合成電流において、同一のスロットを通る各導線を流れる電流に含まれる5次高調波電流が互いに打ち消し合うように構成されている。
【発明の効果】
【0014】
この発明による回転電機によれば、同一のスロットを通る導線に流れる電流を合成した合成電流において、同一のスロットを通る各導線を流れる電流に含まれる5次高調波電流が互いに打ち消し合うように構成されている。これにより、各相巻線の巻線数を増やすことなく、言い換えれば、各相巻線の抵抗の増大による発電効率の低下を招くことなくロータが低速回転しているときの整流器の出力を増大させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】この発明の実施の形態1に係る車両用交流発電機の構成を示す断面図である。
【図2】この発明の実施の形態1に係る車両用交流発電機の回路図である。
【図3】この発明の実施の形態1に係る車両用交流発電機における電機子巻線の構成を説明する展開図である。
【図4】比較用交流発電機の回路図である。
【図5】比較用交流発電機の電機子巻線の構成を説明する展開図である。
【図6】この発明の実施の形態1に係る車両用交流発電機、及び比較用交流発電機のそれぞれの整流器の出力電流特性を示す図である。
【図7】この発明の実施の形態1に係る発明の車両用交流発電機の各相巻線に流れる電流の時間波形を示す図である。
【図8】この発明の実施の形態1に係る発明の車両用交流発電機のスロット電流の時間波形の一例を示す図である。
【図9】比較用交流発電機の各相巻線に流れる電流の時間波形を示す図である。
【図10】この発明の実施の形態2に係る車両用交流発電機における電機子巻線の構成を説明する展開図である。
【図11】この発明の実施の形態3に係る車両用交流発電機における電機子巻線の構成を説明する展開図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、この発明を実施するための最良の形態について、図面を参照して説明する。
【0017】
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1に係る車両用交流発電機の構成を示す断面図、図2はこの発明の実施の形態1に係る車両用交流発電機の回路図、図3はこの発明の実施の形態1に係る車両用交流発電機における電機子巻線の構成を説明する展開図である。
【0018】
図1および図2において、回転電機としての車両用交流発電機100Aは、アルミニウム製のフロントブラケット1およびリヤブラケット2から構成されたケース3内にシャフト6を介して回転自在に装着されたランデル型のロータ7と、ロータ7の外周側を覆うようにケース3の内壁面に固着されたステータ8と、ステータ8で生じた交流出力を直流出力に整流する整流器12と、を備えている。
【0019】
シャフト6は、フロントブラケット1およびリヤブラケット2に軸まわりに回転可能に支持されている。このシャフト6の一端にはプーリ4が固着され、車両のエンジンの回転トルクを、ベルト(図示せず)を介してシャフト6に伝達できるようになっている。そして、シャフト6は、エンジンの回転に同期して回転する。すなわち、ロータ7がエンジンの回転に同期して回転する。また、ロータ7に電流を供給するスリップリング9がシャフト6の他端部に固定され、一対のブラシ10が、このスリップリング9に摺接するようにケース3内に配設されたブラシホルダ11に収納されている。ステータ8で生じた交流電圧の大きさを調整する電圧調整器18がブラシホルダ11に嵌着されたヒートシンク17に接着されている。
【0020】
整流器12は、図2に示されるように、2つの3相全波整流器12A,12Bにより構成されている。
そして、3相全波整流器12A,12Bのそれぞれは、プラス側ダイオードd1とマイナス側ダイオードd2とを直列に接続してなるダイオード対を並列に3対接続して構成され、ケース3内に装着されている。
【0021】
ロータ7は、電流を流して磁束を発生する界磁巻線13と、この界磁巻線13を覆うように設けられ、界磁巻線13で発生された磁束によって磁極が形成される一対のポールコア20,21とから構成される。一対のポールコア20,21は、鉄製で、それぞれ2つの爪状磁極22,23が外周縁に周方向に等角ピッチで突設されている。一対のポールコア20,21は、爪状磁極22,23をかみ合わせて対向するようにシャフト6に固定されている。なお、爪状磁極22,23が界磁極に相当している。界磁極がエンジンの回転に同期するシャフト6にとりつけられているので、回転磁界がエンジンの回転に同期して発生する。
【0022】
ステータ8は、ステータコア15と、ステータコア15に巻装された電機子巻線16Aと、を備えている。この電機子巻線16Aは、それぞれ、前述の千鳥Y巻線により構成した第1及び第2の3相交流巻線31A,31Bを備え、第1及び第2の3相交流巻線31A,31Bの間の電気角位相が30度異なるように構成されている。
【0023】
第1の3相交流巻線31Aは、図2に示されるように、互いの間の電気角位相差が120度となるようにステータコア15に巻装された3つの相巻線(a相巻線32A〜c相巻線32C)をY結線して構成されている。そして、a相巻線32A〜c相巻線32Cのそれぞれは、互いの間の電気角位相が30度異なるようにステータコア15に巻装された2つのコイル巻線部32a,32b、32c,32d、及び32e,32fを直列に接続して構成されている。
また、第2の3相交流巻線31Bは、互いの間の電気角位相差が120度となるようにステータコア15に巻装された3つの相巻線(a相巻線32D〜c相巻線32F)をY結線して構成されている。そして、a相巻線32D〜c相巻線32Fのそれぞれは、互いの間の電気角位相が30度異なるようにステータコア15に巻装された2つのコイル巻線部32g,32h、32i,32j、及び32k,32lを直列に接続して構成されている。
【0024】
各相巻線32A〜32Cにおいて、コイル巻線部32a,32c,32eの一端が外部との電力のやり取りをするための取出部Xa,Ya,Zaとなり、コイル巻線部32b,32d,32fの一端が、コイル巻線部32a,32c,32eの他端に連結され、コイル巻線部32b,32d,32fの他端が接続されて中性点を構成する。そして、各取出部Xa,Ya,Zaのそれぞれが、3相全波整流器12Aを構成するプラス側ダイオードd1とマイナス側ダイオードd2の接続部のそれぞれに結線されている。
【0025】
各相巻線32D〜32Fにおいて、コイル巻線部32g,32i,32kの一端が外部との電力のやり取りをするための取出部Ua,Va,Waとなり、コイル巻線部32h,32j,32lの一端が、コイル巻線部32g,32i,32kの他端に連結され、コイル巻線部32b,32d,32fの他端が接続されて中性点を構成する。そして、各取出部Ua,Va,Waのそれぞれが、3相全波整流器12Bを構成するプラス側ダイオードd1とマイナス側ダイオードd2の接続部のそれぞれに結線されている。
【0026】
また、整流器12の出力が蓄電池28および電気負荷29に供給されるように整流器12と蓄電池28及び電気負荷29に接続されている。
【0027】
また、図1に示されるように、ファン5(内扇ファン)がロータ7の軸方向の両端に固定されている。そして、吸気孔1a、2aがフロントブラケット1およびリヤブラケット2の軸方向の端面に設けられ、排気孔1b、2bが電機子巻線16Aのフロント側およびリヤ側のコイルエンド群16a、16b近傍のフロントブラケット1およびリヤブラケット2の部位に設けられている。
【0028】
次いで、電機子巻線16Aの巻線構造について図2及び図3を参照しつつ説明する。
説明の便宜上、図3中、爪状磁極22,23の位置はステータコア15の軸方向にずらして図示している。
【0029】
ステータコア15は、周方向に等角ピッチで径方向に延びるように形成された複数個のティース15aを備える円筒状に作製され、スロット15bが隣接するティース15aの間に区画されたている。ティース15a及びスロット15bの数は、界磁極の数×6個の条件を満たす数に設定される。ここでは界磁極の数を4とし、スロット15bの数を24として説明する。
【0030】
また、図3中、1〜24はスロット番号を示している。また、電機子巻線16Aの巻線構造をわかりやすくするため、1番〜6番のスロット15bを24番のスロット15bの右側に新たに1’〜6’番のスロット15bを図示しているが、1’〜6’のスロット15bは1〜6のスロット15bと同一であり、24番のスロット15bは1番のスロット15bに隣接している。ここで、4つの界磁極(2対のN極及びS極)に対してスロット15bが24個形成されているので1つの界磁極当たりのスロット数が6となり、スロット15bは電気角で30度のピッチで配列されていることになる。
【0031】
まず、a〜c相巻線32A〜32Cからなる第1の3相交流巻線31Aの巻線構造について説明する。
a相巻線32Aは、コイル巻線部32a及びコイル巻線部32bから構成されている。また、b相巻線32Bは、コイル巻線部32c及びコイル巻線部32dから構成されている。また、c相巻線32Cは、コイル巻線部32e及びコイル巻線部32fから構成されている。
コイル巻線部32a〜32fは、絶縁被覆された円形断面の銅線で作製された導線30を、以下に説明するようにステータコア15に巻装して構成されている。
【0032】
まず、a相巻線32Aの巻線構造について説明する。
コイル巻線部32aの導線30は、ステータコア15のリヤ側(以下、単にリヤ側とする)に取出部Xaを配置され、リヤ側から1番のスロット15bを通ってステータコア15のフロント側(以下、単にフロント側とする)に延出して、7番のスロット15bまで渡されている。さらに、導線30は、7番のスロット15bを通ってリヤ側に延出して13番のスロット15bまで渡され、13番のスロット15bを通ってフロント側に延出して19番のスロット15bまで渡されている。さらに、導線30は、19番のスロット15bを通ってリヤ側に延出されて1番のスロット15bに戻っている。導線30は、このように1,7,13,19番のスロット15bからなるスロット群に挿通されて、例えば、3周するようにステータコア15に巻装されている。
【0033】
また、コイル巻線部32bの導線30は、端部をリヤ側に配置され、リヤ側から24番のスロット15bを通ってフロント側に延出して6番のスロット15bまで渡されている。さらに、導線30は、6番のスロット15bを通ってリヤ側に延出して12番のスロット15bまで渡されて12番のスロット15bを通ってフロント側に延出され、次いで18番のスロット15bまで渡されている。さらに、導線30は、18番のスロット15bを通ってリヤ側に延出されて24番のスロット15bに戻っている。導線30は、このように6,12,18,24番のスロット15bからなるスロット群に挿通されて、3周するようにステータコア15に巻装されている。
また、18番から延出されたa相巻線32Aのコイル巻線部32bを構成する導線30の端部が、中性点を構成する部位となる。
【0034】
そして、a相巻線32Aは、19番のスロット15bから延出しているコイル巻線部32aの端部と24番のスロット15bから延出されているコイル巻線部32bの端部とを接続して構成されている。つまり、a相巻線32Aは、互いの間の電気角位相差が30度異なる2つのコイル巻線部32a,32bを直列に連結されたもので構成されている。
【0035】
次いで、b相巻線32Bの巻線構造について説明する。
コイル巻線部32cを構成する導線30は、リヤ側に取出部Yaを配置され、リヤ側から21番のスロット15bを通ってステータコア15のフロント側に延出して3番のスロット15bまで渡されている。さらに、導線30は、3番のスロット15bを通ってリヤ側に延出して9番のスロットまで渡されている。さらに、導線30は、9番のスロット15bを通ってフロント側に延出されて15番のスロット15bまで渡され、15番のスロット15bを通ってリヤ側に延出されて21番のスロット15bに戻っている。導線30は、このように3,9,15,21番のスロット15bからなるスロット群に挿通されて、3周するようにステータコア15に巻装されている。
【0036】
また、コイル巻線部32dの導線30は、一端をリヤ側に配置され、リヤ側から20番のスロット15bを通ってステータコア15のフロント側に延出して2番のスロット15bまで渡されている。さらに、導線30は、2番のスロット15bを通ってリヤ側に延出して折り返されて8番のスロット15bまで渡されている。さらに、導線30は、8番のスロット15bを通ってフロント側に延出されて14番のスロット15bまで渡されて14番のスロット15bを通ってリヤ側に延出されて20番のスロット15bに戻っている。導線30は、このように2,8,14,20番のスロット15bからなるスロット群に挿通されて、3周するようにステータコア15に巻装されている。
14番から延出されたb相巻線32Bのコイル巻線部32dを構成する導線30の端部が、中性点を構成する部位となる。
【0037】
そして、b相巻線32Bは、15番のスロット15bから延出しているコイル巻線部32cの端部と20番のスロット15bから延出されているコイル巻線部32dの端部とを接続して構成されている。つまり、b相巻線32Bは、互いの間の電気角位相差が30度異なる2つのコイル巻線部32c,32dが直列に接続されて構成されている。
【0038】
次いで、c相巻線32Cの巻線構造について説明する。
コイル巻線部32eの導線30は、リヤ側に取出部Zaを配置され、リヤ側から17番のスロット15bを通ってフロント側に延出して23番のスロット15bまで渡されている。さらに、導線30は、23番のスロット15bを通ってリヤ側に延出して5番のスロット15bまで渡されている。さらに、導線30は、5番のスロット15bを通ってフロント側に延出されて11番のスロット15bまで渡され、11番のスロット15bを通ってリヤ側に延出されて17番のスロット15bに戻っている。導線30は、このように5,11,17,23番のスロット15bからなるスロット群に挿通されて、3周するようにステータコア15に巻装されている。
【0039】
また、コイル巻線部32fの導線30は、リヤ側に一端を配置され、リヤ側から16番のスロット15bを通ってフロント側に延出して22番のスロット15bまで渡されている。さらに、導線30は、22番のスロット15bを通ってリヤ側に延出して4番のスロット15bまで渡されている。次いで導線30は、4番のスロット15bを通ってフロント側に延出され、さらに10番のスロット15bを通ってリヤ側に延出されて16番のスロット15bに戻っている。導線30は、このように4,10,16,22番のスロット15bからなるスロット群に挿通されて、3周するようにステータコア15に巻装されている。
また、10番から延出されたc相巻線32Cのコイル巻線部32fを構成する導線30の端部が、中性点を構成する部位となる。
【0040】
そして、c相巻線32Cは、11番のスロット15bから延出しているコイル巻線部32eの端部と16番のスロット15bから延出されているコイル巻線部32fの端部とを接続して構成されている。つまり、c相巻線32Cは、互いの間の電気角位相差が30度異なる2つのコイル巻線部32e,32fが直列に接続されて構成されている。
【0041】
そして、18番から延出されたコイル巻線部32bを構成する導線30の端部、14番から延出されたコイル巻線部32dを構成する導線30の端部、及び10番から延出されたコイル巻線部32fを構成する導線30の端部を接続して中性点を形成することで第1の3相交流巻線31Aが構成される。
【0042】
以上の第1の3相交流巻線31Aについてまとめると、第1の3相交流巻線31Aは、互いの間の電気角位相差が120°となるようにステータコア15に巻装されたa〜c相巻線32A〜32CをY結線して構成されている。a〜c相巻線32A〜32Cを構成するコイル巻線部32a〜32fのそれぞれは、導線30を界磁極のピッチに等しいピッチの波巻(全節巻の波巻)でステータコア15に巻装されている。
【0043】
また、直列に接続された2つのコイル巻線部32a,32b、32c、32d,及び32e,32fの間の電気角位相差は30度となっている。即ち、第1の3相交流巻線31Aは、各a〜c相巻線32A〜32Cを構成する2つのコイル巻線部32a,32b、32c、32d,及び32e,32fの間の電気角位相差を30°とする千鳥Y巻線により構成されている。なお、コイル巻線部32a〜32fのそれぞれの巻数は等しくなっている。
そして、コイル巻線部32a,32c,32eのそれぞれの一端が、a〜c相巻線32A〜32Cのそれぞれの取出部Xa,Ya,Zaとなっている。
【0044】
次いで、a〜c相巻線32D〜32Fからなる第2の3相交流巻線31Bの巻線構造について説明する。
a相巻線32Dは、コイル巻線部32g及びコイル巻線部32hを直列に接続して構成されている。また、b相巻線32Eは、コイル巻線部32i及びコイル巻線部32jを直列に接続して構成されている。また、c相巻線32Fは、コイル巻線部32k及びコイル巻線部32lを直列に接続して構成されている。
コイル巻線部32g〜32lは、絶縁被覆された円形断面の銅線で作製された導線30が、以下に説明するようにステータコア15に全節巻の波巻で巻装されて構成されている。
【0045】
コイル巻線部32g〜コイル巻線部32lは、a〜c相巻線32A〜32Cを構成するコイル巻線部32a〜コイル巻線部32fをスロット15bの番号が進む方向に11スロット分ずらしてステータコア15に巻装したもので構成されている。
【0046】
つまり、第2の3相交流巻線31Bは、互いの間の電気角位相差が120°となるようにステータコア15に巻装されたa〜c相巻線32D〜32FをY結線して構成されている。a〜c相巻線32D〜32Fを構成するコイル巻線部32g〜32lのそれぞれは、導線30を界磁極のピッチに等しいピッチの波巻(全節巻の波巻)でステータコア15に巻装されている。
【0047】
また、直列に接続された2つのコイル巻線部32g,32h、32i、32j,及び32k,32lの間の電気角位相差は30度となっている。即ち、第2の3相交流巻線31Bは、各a〜c相巻線32D〜32Fを構成する2つのコイル巻線部32g,32h、32i、32j,及び32k,32lの間の電気角位相差を30°とする千鳥Y巻線により構成されている。なお、コイル巻線部32g〜32lのそれぞれの巻数は等しくなっている。
そして、コイル巻線部32g,32i,32kのそれぞれの一端が、a〜c相巻線32D〜32Fのそれぞれの取出部Ua,Va,Waとなっている。
なお、3相交流巻線31Aのa〜c相巻線32A〜32Cと同様、a〜c相巻線32D〜32Fを電気角位相差が120度となるようにY結線して、3相交流巻線31Bが構成されている。
【0048】
また、スロット15bは電気角で30度のピッチで配列されているので、a相巻線32A,32D、b相巻線32B,32E、及びc相巻線32C,32Fのそれぞれの互いの間の電気角位相差は30度となる。言い換えれば、第1及び第2の3相交流巻線31A,31Bの間の電気角位相差が30度となる。
【0049】
以上のように構成された電機子巻線16Aのコイル巻線部32a〜32lは、以下のようにスロット群に巻装されていることになる。
まず、第1の3相交流巻線31Aを構成する6つのコイル巻線部32a〜32fは、それぞれ異なる6つのスロット群に巻装される。また、第2の3相交流巻線31Bを構成する6つのコイル巻線部32g〜32lが、それぞれ異なるスロット群に巻装される。
【0050】
また、第1の3相交流巻線31Aのa〜c相巻線32A〜32Cのそれぞれを構成する2つのコイル巻線部が、それぞれ、第2の3相交流巻線31Bを構成する1つの相巻線を構成する1つのコイル巻線部ともう一つの相巻線を構成する1つのコイル巻線部とが巻装されるスロット群に巻装される。つまり、第1の3相交流巻線31Aの3つの相巻線32A〜32Cを構成する導線のうちの一つ、及び第2の3相交流巻線31Bの3つの相巻線32D〜32Eを構成する導線の一つが各スロット15bに挿通される。
【0051】
このように構成された車両用交流発電機100Aでは、電流が蓄電池28からブラシ10およびスリップリング9を介して界磁巻線13に供給され、磁束が発生される。この磁束により、ポールコア20の爪状磁極22がN極に着磁され、ポールコア21の爪状磁極23がS極に着磁される。一方、エンジンの回転トルクがベルト(図示せず)およびプーリ4を介してシャフト6に伝達され、ロータ7が回転される。そこで、電機子巻線16Aに回転磁界が与えられ、電機子巻線16Aに交流の起電力が発生する。この起電力による交流電流(交流出力)が3相全波整流器12A,12Bを通って直流に整流されるとともに、その大きさが電圧調整器18により調整され、蓄電池28に充電され、電気負荷29に供給される。
【0052】
次いで、それぞれを千鳥Y巻線にされた2つの3相交流巻線31A,31Bにより電機子巻線16Aを構成したことを特徴とする車両用交流発電機100Aの効果を確認したので以下にその内容を具体的に説明する。
試験では、以下に説明する比較用交流発電機を用意し、車両用交流発電機100A、及び比較用交流発電機のそれぞれにおいて、ロータ7の回転速度を変化させたときの整流器12の出力電流を測定した。なお、整流器12の出力電流は、3相全波整流器12A,12Bの出力電流を足し合わせたものとする。
また、車両用交流発電機100Aと同様、比較用交流発電機の界磁極の数は説明の便宜上4として説明しているが、実際には界磁極の数を16としたものを用いている。
【0053】
次いで、比較用交流発電機について図4及び図5を参照しつつ説明する。
図4は比較用交流発電機の回路図、図5は比較用交流発電機の電機子巻線の構成を説明する展開図である。
なお、図4及び図5において、車両用交流発電機100Aの構成と同一または相当部分には同一符号を付し、その説明は省略する。
【0054】
図4及び図5において、比較用交流発電機110の電機子巻線70は、互いに電気角位相が120度ずれたa〜c相巻線72A〜72CをY結線して構成される3相交流巻線71A、及び互いに電気角位相が120度ずれたa〜c相巻線72D〜72FをY結線して構成される3相交流巻線71Bを有し、2つの3相交流巻線71A,71Bの間の電気角位相が30度ずらされている。
a〜c相巻線72A〜72Cのそれぞれは、全節巻の波巻でステータコア15に巻装された導線30により構成されている。
a〜c相巻線72D〜72Fのそれぞれは、全節巻の波巻でステータコア15に巻装された導線30により構成されている。
【0055】
以下、電機子巻線70の巻線構造について図5を参照しつつ説明する。
まず、3相交流巻線71Aの巻線構造について説明する。
a相巻線72Aは、車両用交流発電機100Aのa相巻線32Aのコイル巻線部32aが通るスロット15bの番号と同じ番号のスロット15bを通るようにステータコア15に巻装されている。このとき、a相巻線72Aは、コイル巻線部32aの長さの倍となるように、言い換えれば、a相巻線72Aは、合計6周するようにステータコア15に巻装されている。
【0056】
また、b相巻線72Bは、車両用交流発電機100Aのb相巻線32Bのコイル巻線部32cが通るスロット15bの番号と同じ番号のスロット15bを通るようにステータコア15に巻装されている。このとき、b相巻線72Bは、合計6周するようにステータコア15に巻装されている。
【0057】
また、c相巻線72Cは、車両用交流発電機100Aのc相巻線32Cのコイル巻線部32eが通るスロット15bの番号と同じ番号のスロット15bを通るようにステータコア15に巻装されている。このとき、c相巻線72Cは、合計6周するようにステータコア15に巻装されている。
そして、3相交流巻線71Aは、a〜c相巻線72A〜72Cの互いの間の電気角位相差が120度となるようにa〜c相巻線72A〜72CをY結線したもので構成されている。
【0058】
次いで、3相交流巻線71Bの巻線構造について説明する。
a相巻線72D〜c相巻線72Fは、a〜c相巻線72A〜72Cをスロット15bの番号が進む方向に11スロット分ずらしてステータコア15に巻装したもので構成されている。
そして、3相交流巻線71Bは、a〜c相巻線72D〜72Fの互いの間の位相差が120度となるようにa相巻線72D〜c相巻線72FをY結線したもので構成されている。以上のように構成された3相交流巻線71A,71Bの間の電気角位相差は30度となる。また、各スロット15bには、2つの3相交流巻線71A,71Bを構成する6つの相巻線72A〜72Fを構成する導線30のうちの一つの導線30のみが挿通されている。
比較用交流発電機110の他の構成は、車両用交流発電機100Aと同様である。
【0059】
そして、ロータ7の回転速度を1200(r/min)から6000(r/min)まで変化させて各発電機の出力電流を測定した結果を図6に示す。
図6はこの発明の実施の形態1に係る車両用交流発電機、及び比較用交流発電機のそれぞれの整流器の出力電流特性を示す図である。
図6では、ロータ7の回転速度を横軸にとり、出力電流を縦軸にとっている。
以下、車両用交流発電機100Aの整流器12の出力電流、及び比較用交流発電機110の整流器12の出力電流のそれぞれを、単に車両用交流発電機100Aの出力電流、及び比較用交流発電機110の出力電流のそれぞれとする。
【0060】
車両用交流発電機100Aの出力電流特性は、ロータ7の回転速度が1200〜2000(r/min)の手前までの領域では、ロータ7の回転速度の増大に伴って、所定の傾きで増大し、ロータ7の回転速度が2000(r/min)の手前から、ロータ7の回転速度の増大量に対する出力電流の増加量の割合が徐々に減少し、さらに、ロータ7の回転速度が4000(r/min)以上でおおよそ飽和した。
【0061】
比較用交流発電機110の出力電流特性は、ロータ7の回転速度が1200〜1500(r/min)以下の領域では、ロータ7の回転速度の増大に伴って、発電機毎に所定の傾きで増大し、ロータ7の回転速度が1500(r/min)を超えると、ロータ7の回転速度の増大量に対する出力電流の増加量の割合が徐々に減少し、さらに、ロータ7の回転速度が4000(r/min)以上では小さな傾きで出力電流が増加した。
【0062】
ロータ7の回転速度が1200〜1500(r/min)のとき、車両用交流発電機100Aと比較用交流発電機110の出力電流の大きさは略同じとなっている。また、ロータ7の回転速度が1500〜2000(r/min)の領域において、車両用交流発電機100Aの出力電流増大の傾きは、比較用交流発電機110の出力電流増大の傾きよりも大きくなった。
【0063】
そして、ロータ7の回転速度を1200(r/min)から2000(r/min)に増大させたとき、車両用交流発電機100Aの出力電流と比較用交流発電機110の出力電流との差は徐々に広がり、ロータ7の回転速度が2000(r/min)のときに、車両用交流発電機100Aの出力電流は、比較用交流発電機110の出力電流より8(A)程度大きくなった。
【0064】
また、ロータ7の回転速度が2000(r/min)の手前あたりから、車両用交流発電機100A及び比較用交流発電機110ともに、出力電流の増大の傾きが徐々に小さくなった。このとき、車両用交流発電機100Aの方が傾きの減少の割合が大きく、ロータ7の回転速度が増大するにつれて、徐々に車両用交流発電機100Aと比較用交流発電機110の出力電流の差が縮まった。そして、ロータ7の回転速度が3500(r/m)よりやや大きくなったところで、車両用交流発電機100Aの出力電流が比較用交流発電機110の出力電流より小さくなった。
【0065】
ここで、前述したように、車両用交流発電機100Aのように、第1及び第2の3相交流巻線31A,31Bを千鳥Y巻線とした発電機では、各相巻線を位相ずれのない巻線で構成した通常Y巻線で3相交流巻線71A,71Bを構成した比較用交流発電機110に比べ、ロータ7が低速で回転する場合に起電力が低下し、ロータ7が高速に回転する場合に出力電流が増加するというのが従来の知見である。
【0066】
本出願人は鋭意努力の結果、それぞれ千鳥Y巻線からなる第1及び第2の3相交流巻線31A,31Bを、電気角位相が30度異なるようにステータコア15に巻装することで、従来の知見とは逆の現象が発生することを発見した。つまり、車両用交流発電機100Aでは、ロータ7が低速で回転している場合の出力電流が比較用交流発電機110より増大し、ロータ7が高速で回転している場合の出力電流は比較用交流発電機110より低下するという結果を得た。具体的には、ロータ7の回転速度が3500(r/min)程度より遅い領域では、車両用交流発電機100Aの出力電流は、比較用交流発電機110の出力電流より同等以上となった。
【0067】
このように、1500〜2000(r/min)を含む広範囲のロータ7の回転速度の領域に対して、車両用交流発電機100Aの出力電流は、比較用交流発電機110の出力電流より大きくなっている。ロータ7の回転速度が1500〜2000(r/min)の範囲にあるとき、エンジンがアイドリング状態となる車両は広く普及している。上記の結果は、エンジンがアイドリング状態にあるときの車両用交流発電機100Aの電流出力が、比較用交流発電機110に対して増大することを意味している。
【0068】
次いで、上記測定結果について検討する。
本出願人は、ロータ7が1500〜3500(r/min)という低速で回転しているときの車両用交流発電機100Aの出力電流が、比較用交流発電機110の出力電流より大きくなる原因を発見すべく、車両用交流発電機100A及び比較用交流発電機110のそれぞれについて、各相巻線に流れる電流を測定した。
【0069】
図7はこの発明の実施の形態1に係る発明の車両用交流発電機の各相巻線に流れる電流の時間波形を示す図である。
図7は、例えば、ロータ7(エンジン)の回転速度が2000(r/min)程度のときの車両用交流発電機の各相巻線に流れる電流の時間波形であり、横軸は時間であり、縦軸は出力電流[A]である。
【0070】
出力電流は、電気角で360°相当する機械角度だけ回転子7が回転するのに要する時間を基本周期として、周期変動する。
【0071】
ここで、各相巻線32A〜32Fの出力電流が3相全波整流器12A,12Bにより流されたり遮断されたりするのに起因して、基本周期の5倍の周期で変動する5次高調波が基本周期を周期とする基本波にのる。各相巻線32A〜32Fの出力電流は、基本波に5次高調波が乗ったものの方が、基本波に対して大きくなるものと思料される。
【0072】
ここで、第1の3相交流巻線31Aのa〜c相巻線32A〜32Cのそれぞれを流れる電流は、取出部Xa,Ya,Zaのそれぞれを流れる電流であり、図7では、第1の3相交流巻線31Aのa〜c相巻線のそれぞれを流れる電流を、x,y,zのそれぞれとして記載する。同様に、第2の3相交流巻線31Bのa〜c相巻線のそれぞれを流れる電流は、取出部Ua,Va,Waのそれぞれを流れる電流であり、図7では、第2の3相交流巻線31Bのa〜c相巻線32D〜32Fのそれぞれを流れる電流を、u,v,wのそれぞれとして記載する。
【0073】
また、同一スロット15bに挿入されている導線30の部位を流れる電流を合成した(足した)ものをスロット電流とする。
なお、各スロット15bには、第1の3相交流巻線31Aのa〜c相巻線32A〜32Cのいずれかを構成する導線30と第2の3相交流巻線31Bのa〜c相巻線32D〜32Fのいずれかを構成する導線30が同一スロット15bに挿入されるので、スロット電流は、電流x,y,zのいずれか一つと、電流u,v,wのいずれか一つを合成した電流となる。
図7に示されるように、例えば、電流xとu、電流yとv、及び電流zとwのそれぞれでは、5次高調波成分が互いに逆位相になっている区間が多いのがわかる。
【0074】
次いで、車両用交流発電機のスロット電流の時間波形について説明する。
図8はこの発明の実施の形態1に係る発明の車両用交流発電機のスロット電流の時間波形の一例を示す図である。
【0075】
図8は、第1の3相交流巻線31Aのa相巻線32Aと、第2の3相交流巻線31Bのb相巻線32Dに流れる電流x,uに特化して図示しているが、電流y,v、及び電流z,wの関係も同様に説明される。
【0076】
上述したように、電流xと電流uに含まれる5次高調波成分は、おおよそ互いに逆位相になっている。
そして、例えば、車両用交流発電機100Aの第1の3相交流巻線のa相巻線32Aと第2の3相交流巻線のa相巻線32Dを構成する導線30が所定スロット15bに挿入されている場合、電流xと電流uの合成電流であるスロット電流は、電流xと電流uの5次高調波成分が互いに打ち消される。これにより、スロット電流(u+x)の5次高調波成分は、図8に示されるように大幅に小さくなり、スロット電流は、基本波に近いものとなる。
なお、例えば、同一スロット15bに第1の3相交流巻線のb相巻線32Bと第2の3相交流巻線のb相巻線32Eを構成する導線30が挿入されている場合にも、電流yと電流vの合成電流であるスロット電流は、電流yと電流vの5次高調波成分が互いに打ち消される。
【0077】
次いで、比較用交流発電機110の各相巻線72A〜72Fに流れる電流の時間波形について説明する。
図9は比較用交流発電機の各相巻線に流れる電流の時間波形を示す図である。
【0078】
図9に示されるように、比較用交流発電機110でも、電流x,y,zのそれぞれ、及び電流u,v,wのそれぞれには、5次高調波が含まれている。
ここで、比較用交流発電機110において、スロット15bには、3相交流巻線71Aのa〜c相巻線72A〜72C、及び3相交流巻線71Bのa〜c相巻線72D〜72Fのいずれかを構成する導線30のいずれか1本だけが挿入されている。即ち、各スロット15bのスロット電流は、スロット15bに挿入されている一本の導線30に流れる電流に等しくなる。従って、スロット電流において、5次高調波成分が打ち消されることはない。
【0079】
以上のように、車両用交流発電機100Aは、各複数のスロット15bに、第1の3相交流巻線31Aのa〜c相巻線32A〜32Cを構成する導線30の一つ、及び第2の3相交流巻線31Bのa〜c相巻線32D〜32Fを構成する導線30の一つが通過するように構成されている。これにより、車両用交流発電機100Aの特定の複数のスロット15bのそれぞれのスロット電流においては、同一スロット15bを通る導線30を流れる電流に含まれる5次高調波電流が打ち消される点で、車両用交流発電機100Aと比較用交流発電機110とが異なっている。
【0080】
詳細な因果関係は不明であるが、車両用交流発電機100Aでは、特定の複数のスロット15bのそれぞれの合成電流において、同一スロット15bを通る導線30を流れる電流に含まれる5次高調波電流が打ち消されるのに起因して、比較用交流発電機110と比較して、ロータ7が低速回転にあるときの出力電流が増大するものと考えられる。
【0081】
この実施の形態1の車両用交流発電機100Aによれば、第1及び第2の3相交流巻線31A,31Bを構成する相巻線32A〜32Fのそれぞれが、互いの間の電気角位相が異なるようにステータコア15に巻装されたコイル巻線部32a,32b、32c,32d、32e,32fを直列に接続して構成され、第1及び第2の3相交流巻線の間の電気角位相差が30度となっている。さらに、車両用交流発電機100Aは、第1の3相交流巻線31Aの3つの相巻線32A〜32Cを構成する導線30のうちの一つ、及び第2の3相交流巻線31Bの3つの相巻線32D〜32Fを構成する導線30のうちの一つが各スロットに挿通され、同一のスロット15bを通る導線30に流れる電流を合成した合成電流において、同一のスロット15bを通る導線30を流れる電流に含まれる5次高調波電流が互いに打ち消し合うようにされている。
【0082】
これにより、各相巻線32A〜32C,32D〜32Fの巻数を増やすことなしに、ロータ7が低速で回転する領域での整流器12の出力電流を増大させることができる。つまり、各相巻線32A〜32C,32D〜32Fの抵抗が増大して発電効率が低下することを回避しつつ蓄電池28があがるのを防止できる。
【0083】
なお、上記実施の形態1では、a相巻線32A〜c相巻線32C、及びa相巻線32D〜c相巻線32Fのそれぞれを構成する2つのコイル巻線部は、電気角位相差が30度となるように直列に接続するものとして説明したが、2つのコイル巻線部は電気角位相差を30度として直列に接続するものに限定されず、必要に応じて30度以外の電気角位相差で直列に接続しても本願の効果は得られる。
【0084】
また、直列に接続するコイル巻線部32a,32b、32c,32d、・・・、32k,32lのそれぞれの巻数は等しくなっているので、コイルエンドにコイル巻線部32a〜32lが集中されず、コイル巻線部32a〜32lの巻線性が良くなる。
【0085】
また、全節巻の波巻で導線30をステータコア15にステータコア15を3周するように巻装して構成されるものとして説明したが、各コイル巻線部32a〜32fのそれぞれは、1周や2周、または4周以上周回するようにステータコア15に巻装されているものでもよい。
【0086】
実施の形態2.
図10はこの発明の実施の形態2に係る車両用交流発電機における電機子巻線の構成を説明する展開図である。
【0087】
図10において、車両用交流発電機100Bの電機子巻線16Bの基本構成は、電機子巻線16Aの基本構成と各相巻線32A〜32Fの巻線方法を除いて同様である。
電機子巻線16Bは、電機子巻線16Aと同様、それぞれ、前述の千鳥Y巻線により構成した第1及び第2の3相交流巻線31A,31Bを備え、第1及び第2の3相交流巻線31A,31Bの間の電気角位相が30度異なるように構成されている。
そして、第1及び第2の3相交流巻線31A,31Bを構成するコイル巻線部32a〜32fのそれぞれが、導線30を界磁極のピッチに等しいピッチの重ね巻(全節巻の波巻)でステータコア15に巻装されている。
【0088】
以下、a相巻線32A〜c相巻線32Cからなる第1の3相交流巻線31Aの巻線構造について説明する。
【0089】
まず、a相巻線32Aの巻線構造について説明する。
コイル巻線部32aを構成する導線30は、リヤ側に取出部Xaを配置され、ステータコア15のリヤ側から1番のスロット15bを通ってフロント側に延出して、19番のスロット15bまで渡されている。以下、同様に、導線30は、1番と19番のスロット15bを通るように所定ターン巻回されている。
【0090】
さらに、19番のスロット15bのリヤ側に延出された導線30が、13番のスロット15bまで渡され、13番のスロット15bに通されてフロント側に延出し、次いで、7番のスロット15bまで渡され、7番のスロット15bに通されてリヤ側に延出している。以下、同様に、導線30は、13番と7番のスロット15bを通るように所定ターン巻回されている。
以上のように、コイル巻線部32aが構成されている。
【0091】
コイル巻線部32bは、一端をリヤ側に配置され、コイル巻線部32aを構成する導線30をスロット15bの番号が戻る方向に1スロット分ずらしてステータコア5に巻装されたもので構成されている。即ち、コイル巻線部32bは、導線30を24番と18番のスロット15bを通すように環状に所定ターン巻回し、ついで12番と6番のスロット15bを通すように環状に所定ターン巻回して構成されている。
そして、6番から延出された導線30の他端が、中性点を構成する部位となる。
以上のように、コイル巻線部32bが構成されている。
【0092】
そして、コイル巻線部32aを構成する導線30のうち、7番のスロット15bのリヤ側に配置される端部と、24番のコイル巻線部32bを構成する導線30のうち、スロット15bのリヤ側に配置される端部とを連結することで、コイル巻線部32a,32bが直列に接続されてa相巻線32Aが構成される。
【0093】
次いで、b相巻線32Bの巻線構造について説明する。
b相巻線32Bを構成するコイル巻線部32c,32dは、a相巻線32Aのコイル巻線部32a,32bを構成する導線30をスロット15bの番号が戻る方向に4スロット分ずらしてステータコア15に巻回したもので構成されている。
コイル巻線部32cを構成する導線30のうち、3番のスロット15bのリヤ側に配置される端部と、コイル巻線部32dを構成する導線30のうち、20番のスロット15bのリヤ側に配置される端部とが連結されており、b相巻線32Bが、直列に接続されたコイル巻線部32c,32dにより構成される。また、2番から延出されたb相巻線32Bのコイル巻線部32dを構成する導線30の端部が、中性点を構成する部位となる。
【0094】
c相巻線32Cを構成するコイル巻線部32e,32fは、a相巻線32Aのコイル巻線部32a,32bを構成する導線30をスロット15bの番号が戻る方向に8スロット分ずらしてステータコア15に巻回したもので構成されている。
コイル巻線部32eを構成する導線30のうち、23番のスロット15bのリヤ側に配置される端部と、コイル巻線部32fを構成する導線30のうち、16番のスロット15bのリヤ側に配置される端部とが連結されており、c相巻線32Cが、直列に接続されたコイル巻線部32e,32fにより構成される。22番から延出されたc相巻線32Cのコイル巻線部32eを構成する導線30の端部が、中性点を構成する部位となる。
【0095】
そして、6番から延出されたコイル巻線部32bを構成する導線30の端部、2番から延出されたコイル巻線部32dを構成する導線30の端部、及び22番から延出されたコイル巻線部32fを構成する導線30の端部を接続して中性点を形成することで第1の3相交流巻線31Aが構成される。
そして、コイル巻線部32a,32c,32eのそれぞれの一端が、a〜c相巻線32A〜32Cのそれぞれと外部との電力をやり取りするための取出部Xa,Ya,Zaとなり、図示しない3相全波整流器12Aのプラス側ダイオードd1とマイナス側ダイオードd2との接続部のそれぞれに結線されている。
【0096】
以上の第1の3相交流巻線31Aについてまとめると、第1の3相交流巻線31Aは、互いの間の電気角位相差が120°となるようにステータコア15に巻装されたa〜c相巻線32A〜32CをY結線して構成されている。a〜c相巻線32A〜32Cを構成するコイル巻線部32a〜32fのそれぞれは、導線30を界磁極のピッチに等しいピッチの重ね巻(全節巻の重ね巻)でステータコア15に巻装されている。
【0097】
また、直列に接続された2つのコイル巻線部32a,32b、32c、32d,及び32e,32fの間の電気角位相差は30度となっている。即ち、第1の3相交流巻線31Aは、各a〜c相巻線32A〜32Cを構成する2つのコイル巻線部32a,32b、32c、32d,及び32e,32fの間の電気角位相差を30°とする千鳥Y巻線により構成されている。なお、コイル巻線部32a〜32fのそれぞれの巻数は等しくなっている。
【0098】
次いで、電機子巻線16Bのa相巻線32D〜c相巻線32Fからなる第2の3相交流巻線31Bの巻線構造について説明する。
【0099】
電機子巻線16Bのa〜c相巻線32D〜32Fを構成するコイル巻線部32g〜コイル巻線部32lは、a〜c相巻線32A〜32Cを構成するコイル巻線部32a〜32fをスロット15bの番号が進む方向に11スロット分ずらしてステータコア15に巻装したもので構成されている。但し、24番の次の番号は1番とする。
【0100】
つまり、3相交流巻線31Bでは、互いの間の電気角位相差が120°となるようにステータコア15に巻装されたa〜c相巻線32D〜32FをY結線して構成されている。a〜c相巻線32D〜32Fを構成するコイル巻線部32g〜32lのそれぞれは、導線30を界磁極のピッチに等しいピッチの重ね巻(全節巻の重ね巻)でステータコア15に巻装されている。
【0101】
また、直列に接続された2つのコイル巻線部32g,32h、32i、32j,及び32k,32lの間の電気角位相差は30度となっている。即ち、3相交流巻線31Bは、各a〜c相巻線32D〜32Fを構成する2つのコイル巻線部32g,32h、32i、32j,及び32k,32lの間の電気角位相差を30°とする千鳥Y巻線により構成されている。なお、コイル巻線部32g〜32lのそれぞれの巻数は等しくなっている。
そして、コイル巻線部32g,32i,32kのそれぞれの一端が、a〜c相巻線32D〜32Fのそれぞれの取出部Ua,Va,Waとなり、図示しない3相全波整流器12Bのプラス側ダイオードd1とマイナス側ダイオードd2との接続部のそれぞれに結線されている。
なお、3相交流巻線31Aのa〜c相巻線32A〜32Cと同様、3相交流巻線31Bのa〜c相巻線32D〜32Fの間の電気角位相差は120度となるのはいうまでもない。
【0102】
また、スロット15bは電気角で30度のピッチで配列されているので、a相巻線32A,32D、b相巻線32B,32E、及びc相巻線32C,32Fのそれぞれの互いの間の電気角位相差は30度となる。言い換えれば、第1及び第2の3相交流巻線31A,31Bの間の電気角位相差が30度となる。
【0103】
上記のように構成された電機子巻線16Bでは、実施の形態1で説明した電機子巻線16Aと同様、第1の3相交流巻線31Aの3つの相巻線32A〜32Cの相巻線を構成する導線のうちの一つ、及び第2の3相交流巻線31Bの3つの相巻線32D〜32Eを構成する導線の一つが各スロット15bに挿通される。従って、発電時、特定の複数のスロット15bのそれぞれでの合成電流においては、同一スロット15bを通る導線30を流れる電流に含まれる5次高調波電流が互いに打ち消される。
【0104】
従って、この実施の形態2によれば、実施の形態1と同様の効果が得られる。
【0105】
実施の形態3.
図11はこの発明の実施の形態3に係る車両用交流発電機における電機子巻線の構成を説明する展開図である。
【0106】
図11において、車両用交流発電機100Cの電機子巻線16Cは、互いの間の電気角位相が30度異なるようにステータコア15に巻装された第1及び第2の3相交流巻線31C,31Dにより構成されている。
【0107】
第1の3相交流巻線31Cは、それぞれ導線30を5/6界磁極ピッチの短節巻の重ね巻でステータコア15に巻装して構成した3つの相巻線(a相巻線32G〜c相巻線32I)を有し、相巻線32G〜32Iを互いの間の電気角位相差が120度となるようにY結線して構成されている。
また、第2の3相交流巻線31Dは、それぞれ導線30を5/6界磁極ピッチの短節巻の重ね巻でステータコア15に巻装して構成した3つの相巻線(a相巻線32J〜c相巻線32L)を有し、相巻線32J〜相巻線32Fを互いの間の電気角位相差が120度となるようにY結線して構成されている。
なお、a〜c相巻線32G〜32I、32J〜32Lは、導線30が、以下に説明するようにステータコア15に短節巻で巻装されたもので構成されている。
【0108】
以下、電機子巻線16Cの巻線構造について説明する。
まず、第1の3相交流巻線31Cの巻線構造について説明する。
a相巻線32Gの導線30は、取出部Xaをリヤ側に配置されて、リヤ側から19番のスロット15bを通ってフロント側に延出して24番のスロット15bに渡され、24番のスロット15bを通ってリヤ側に延出している。以下、同様に、導線30は、19番と24番のスロット15bを通るように所定ターン巻回されている。
【0109】
さらに、導線30は、24番のスロット15bの延出側が18番のスロット15bまで渡されて18番のスロット15bに通されてフロント側に延出し、次いで、13番のスロット15bまで渡され、13番のスロット15bに通されてリヤ側に延出している。以下、同様に、導線30は、18番と13番のスロット15bを通るように所定ターン巻回されている。
【0110】
さらに、導線30の13番のスロット15bからの延出側が、7番のスロット15bまで渡されている。そして、導線30は、7番のスロット15bに通されてフロント側に延出し、次いで、12番のスロット15bまで渡され、12番のスロット15bに通されてリヤ側に延出している。以下、同様に、導線30は、7番と12番のスロット15bを通るように所定ターン巻回されている。
【0111】
さらに、導線30の12番のスロット15bからの延出側が、6番のスロット15bまで渡されて、6番のスロット15bに通されてフロント側に延出し、次いで、1番のスロット15bまで渡され、1番のスロット15bにフロント側から通されてリヤ側に延出している。以下、同様に、導線30は、6番と1番のスロット15bを通るように所定ターン巻回され、巻回された導線30の端部が6番のスロット15bのリヤ側から延出されている。
そして、1番から延出されたa相巻線32Gを構成する導線30の端部が、中性点を構成する部位となる。
【0112】
b相巻線32Hは、a相巻線32Gを構成する導線30を、スロット15bの番号が戻る方向に4スロット分ずらしてステータコア15に巻装されたものと同一となっている。即ち、導線30を、15番と20番のスロット15bを通すように環状に所定ターン巻回し、ついで14番と9番のスロット15bを通すように環状に所定ターン巻回し、ついで3番と8番のスロット15bを通すように環状に所定ターン巻回し、さらに2番と21番のスロット15bを通すように環状に所定ターン巻回して構成されている。21番から延出されたb相巻線32Hを構成する導線30の端部が、中性点を構成する部位となる。
【0113】
c相巻線32Iの導線30は、a相巻線32Gを構成する導線30をスロット15bの番号が戻る方向に8スロット分ずらしてステータコア15に巻装したものと同一となっている。即ち、導線30を、11番と16番のスロット15bを通すように環状に所定ターン巻回し、ついで10番と5番のスロット15bを通すように環状に所定ターン巻回し、ついで23番と4番のスロット15bを通すように環状に所定ターン巻回し、さらに22番と17番のスロット15bを通すように環状に所定ターン巻回して構成されている。
17番から延出されたc相巻線32Iを構成する導線30の端部が、中性点を構成する部位となる。
【0114】
そして、第1の3相交流巻線31Cは、a相巻線32Gの1番のスロット15b側の端部、b相巻線32Hの21番のスロット15b側の端部、及びc相巻線32Iの17番のスロット15b側の端部を接続して中性点を形成することで第1の3相交流巻線31Cが構成される。
そして、a〜c相巻線32G〜32Iの中性点を構成する導線30の一端とは逆側の他端が、a〜c相巻線32G〜32Iと外部との間の電力をやりとりするための取出部Xa,Ya,Zaとなり、図示しない3相全波整流器12Aのプラス側ダイオードd1とマイナス側ダイオードd2との接続部のそれぞれに結線されている。
【0115】
次いで、第2の3相交流巻線31Dの巻線構造について説明する。
第2の3相交流巻線31Dのa〜c相巻線32J〜32Lの導線30は、a〜c相巻線32G〜32Iをスロット15bの番号が戻る方向に11スロット分ずらしてステータコア15に巻装したもので構成されている。
【0116】
a〜c相巻線32J〜32Lの中性点とは逆側の端部が、a〜c相巻線32J〜32Lと外部との間の電力をやりとりするための取出部Ua,Va,Waとなり、図示しない3相全波整流器12Bのプラス側ダイオードd1とマイナス側ダイオードd2との接続部のそれぞれに結線されている。
【0117】
以上のように構成された電機子巻線16Cは、第1の3相交流巻線31Cの3つの相巻線32G〜32Iを構成する導線のうちの一つ、及び第2の3相交流巻線31Dの3つの相巻線32J〜32Kを構成する導線の一つが各スロット15bに挿通される。
【0118】
また、第1の3相交流巻線31Cのa相巻線32Gについて考えると、1,6,7,12,13、18、19及び24番のスロット15bを利用して5/6極ピッチの短節巻でステータコア15に巻装されている。
【0119】
また、車両用交流発電機100Aの第1の3相交流巻線31Aのa相巻線32Aについて考えると、コイル巻線部32a,32bが1,6,7,12,13、18、19及び24番のスロット15bを利用して巻装されている。
【0120】
従って、車両用交流発電機100A,100Cを比較したとき、同じ番号のスロット15bを利用して巻装されたa相巻線32G及びa相巻線32Aは電磁気的に等価なものである。つまり、車両用交流発電機100A,100Cのそれぞれのロータ7が回転したとき、界磁極による回転磁界によって誘起される交流の出力電流、及びa相巻線32G,32Aのそれぞれに流れる電流によって発生する磁界は同じものとなる。
【0121】
同様に、第1の3相交流巻線31Cのb相巻線32H及びc相巻線32Iは、車両用交流発電機100Aの第1の3相交流巻線31Aのb相巻線32B及びc相巻線32Cが通るスロット15bの番号と同じ番号のスロット15bを利用してステータコア15に巻装されており、b及びc相巻線32H,32Iとb及びc相巻線32B,32Cとは電磁気的に等価なものである。
【0122】
また、第2の3相交流巻線31Dのa相巻線32J〜c相巻線32Lは、車両用交流発電機100Aの第2の3相交流巻線31Bのa相巻線32D〜c相巻線32Fと同じ番号のスロット15bを利用してステータコア15に巻装されており、a相巻線32J〜c相巻線32Lとa相巻線32D〜c相巻線32Fは、電磁気的に等価なものである。つまり、電機子巻線16Cは電機子巻線16Aと電磁気的に等価なものとなる。
【0123】
以上のことから、車両用交流発電機100Cによれば、複数のスロット15bにおいて、同一のスロット15bを通る導線30に流れる5次高調波電流が互いに打ち消し合う電流が発電時に流される。
従って、車両用交流発電機100Cによれば、車両用交流発電機100Aと同様、ロータ7が低速に回転している場合に、整流器12の出力を従来の発電機の出力電流に比べて増大させることができる。
さらに、車両用交流発電機100Cは、各相巻線32G〜32Lを短節巻としたことによって、コイルエンド寸法を短くでき、これにより、各相巻線32G〜32Lの巻線抵抗を小さくすることができる。
【0124】
なお、上記実施の形態3では、各相巻線32G〜32Lは、導線30を短節巻の重ね巻でステータコア15に巻装して構成されるものとして説明したが、各相巻線32G〜32Lは、導線30を短節巻の波巻でステータコア15に巻装して構成されているものでもよい。
【0125】
また、上記各実施の形態では、説明の便宜上、界磁極の数が4で、スロット15bの数が24個の車両用交流発電機100A〜100Cについて説明した。しかし、界磁極の数が2n(但し、nは正の整数)であり、スロット15b数が2n×6個を満たすものであれば、界磁極の数、及びスロット15bの数は特に限定されるものではなく、必要に応じて適宜設定すればよい。
【0126】
また、上記各実施の形態では、回転電機として、車両用交流発電機100A〜100Cを例にあげて説明したが、ロータ7、ステータ8、及び整流器12と同様の構成のロータ、ステータ、及び整流器を有する交流電動機を回転電機として適用することができる。
【0127】
また、上記各実施の形態では、導線30は、絶縁被覆された円形断面の銅線で作製されるものとして説明したが、導線はこのものに限定されず、例えば、矩形断面などの他の断面形状でもよく、また、銅以外の金属を材料として作製されていてもよい。
【符号の説明】
【0128】
7 ロータ、8 ステータ、12 整流器、15 ステータコア、15a ティース、15b スロット、22,23 爪状磁極(界磁極)、30 導線、31A,31C 第1の3相交流巻線、31B,31D 第2の3相交流巻線、32A〜32I 相巻線、32a〜32l コイル巻線部、100A〜100C 車両用交流発電機(回転電機)。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2n個(但し、nは正の整数)の界磁極を有するロータと、
隣り合うティースにより区画されたスロットが周方向に所定のピッチで2n×6個形成されたステータコア、及びそれぞれ、互いの間の電気角位相差が120度となるように上記ステータコアに巻装された3つの相巻線をY結線して構成された第1及び第2の3相交流巻線を備えるステータと、
上記ロータの回転に応じて第1及び第2の3相交流巻線に誘起される交流出力を整流する整流器と
を備え、
上記第1及び第2の3相交流巻線の間の電気角位相差が30度であり、
上記第1の3相交流巻線の上記3つの相巻線を構成する導線のうちの一つ、及び上記第2の3相交流巻線の上記3つの相巻線を構成する導線のうちの一つが各上記スロットに挿通され、
同一の上記スロットを通る上記導線に流れる電流を合成した合成電流において、同一の上記スロットを通る上記導線を流れる電流に含まれる5次高調波電流が互いに打ち消し合うように構成されていることを特徴とする回転電機。
【請求項2】
上記相巻線のそれぞれは、互いの間の電気角位相が異なるようにステータコアに巻装されたコイル巻線部を直列に接続して構成されていることを特徴とする請求項1に記載の回転電機。
【請求項3】
上記3つの相巻線のそれぞれは、5/6界磁極ピッチの短節巻で上記ステータコアに巻装されていることを特徴とする請求項1に記載の回転電機。
【請求項4】
上記3つの相巻線のそれぞれは、短節巻の重ね巻で上記ステータコアに巻装されていることを特徴とする請求項3に記載の回転電機。
【請求項1】
2n個(但し、nは正の整数)の界磁極を有するロータと、
隣り合うティースにより区画されたスロットが周方向に所定のピッチで2n×6個形成されたステータコア、及びそれぞれ、互いの間の電気角位相差が120度となるように上記ステータコアに巻装された3つの相巻線をY結線して構成された第1及び第2の3相交流巻線を備えるステータと、
上記ロータの回転に応じて第1及び第2の3相交流巻線に誘起される交流出力を整流する整流器と
を備え、
上記第1及び第2の3相交流巻線の間の電気角位相差が30度であり、
上記第1の3相交流巻線の上記3つの相巻線を構成する導線のうちの一つ、及び上記第2の3相交流巻線の上記3つの相巻線を構成する導線のうちの一つが各上記スロットに挿通され、
同一の上記スロットを通る上記導線に流れる電流を合成した合成電流において、同一の上記スロットを通る上記導線を流れる電流に含まれる5次高調波電流が互いに打ち消し合うように構成されていることを特徴とする回転電機。
【請求項2】
上記相巻線のそれぞれは、互いの間の電気角位相が異なるようにステータコアに巻装されたコイル巻線部を直列に接続して構成されていることを特徴とする請求項1に記載の回転電機。
【請求項3】
上記3つの相巻線のそれぞれは、5/6界磁極ピッチの短節巻で上記ステータコアに巻装されていることを特徴とする請求項1に記載の回転電機。
【請求項4】
上記3つの相巻線のそれぞれは、短節巻の重ね巻で上記ステータコアに巻装されていることを特徴とする請求項3に記載の回転電機。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−130151(P2012−130151A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−278969(P2010−278969)
【出願日】平成22年12月15日(2010.12.15)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年12月15日(2010.12.15)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】
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