説明

固体レーザ発振器

【課題】安定したレーザ出力値のレーザパルスを出力する固体レーザ発振器を得ること。
【解決手段】共振器1内に配置されて共振器1内でレーザビームL1の偏光方向D21を規定するブリュースタウインドウ16と、共振器1内に配置されるとともに所定量の入力パワーによって超音波を進行させ、これにより共振器1内のレーザビームL1を入力パワーに応じた量だけ回折させてレーザパルス毎にレーザ出力値を制御するQスイッチ10と、を備え、ブリュースタウインドウ16で規定される偏光方向D21と、超音波の進行方向D22と、が平行方向となるよう、Qスイッチ10が共振器1内に配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、共振器内の音響光学素子を用いてレーザパルスを出力する固体レーザ発振器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、固体レーザ発振器には、ブリュースタウインドウなどのレーザ偏光方向を規定する素子と、Qスイッチ(音響光学素子)と、が共振器内に配置されている。そして、共振器から出力するレーザパルスを、Qスイッチを用いて制御していた。この方法では、共振器内でレーザ媒質を励起した後、共振器のQスイッチを所定時間ONにして、この時間の間に共振器内にエネルギーを蓄積している。その後、QスイッチをOFFにして、蓄積されたエネルギーをパルスエネルギーとして出力している。
【0003】
Qスイッチパルスを用いた固体レーザ発振器では、一定のQスイッチ周波数でレーザパルスを出力すれば、一定のレーザ出力値を有したレーザパルスが出力されることとなる。このような固体レーザ発振器から、所望のレーザ出力値(例えば、半分のパルスエネルギー)を有したレーザパルスを出力する場合、レーザ出力値の大きさに応じたQスイッチ周波数でレーザパルスを出力していた(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−202668号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の技術では、Qスイッチ周波数を変えないとレーザ出力値を制御できなかった。このため、レーザ出力値の小さなレーザパルスを出力する場合に、レーザパルスのレーザ出力値がばらつくという問題があった。これは、ブリュースタウインドウで規定されるレーザ偏光方向のQスイッチロス(共振器ロス)と、このレーザ偏光方向に直交する方向のQスイッチロスと、の差が小さくなり、その結果、レーザパルスのレーザ出力値が不安定になるからである。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、安定したレーザ出力値のレーザパルスを出力する固体レーザ発振器を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、共振器内に配置されて前記共振器内でレーザビームの偏光方向を規定する偏光方向規定素子と、共振器内に配置されるとともに所定量の入力パワーによって超音波を進行させ、これにより前記共振器内のレーザビームを前記入力パワーに応じた量だけ回折させてレーザパルス毎にレーザ出力値を制御する音響光学素子と、を備え、前記偏光方向規定素子で規定される偏光方向と、前記超音波の進行方向と、が平行方向となるよう、前記音響光学素子が前記共振器内に配置されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、偏光方向規定素子で規定される偏光方向と、音響光学素子における超音波の進行方向と、が平行方向となるよう、音響光学素子が共振器内に配置されているので、安定したレーザ出力値のレーザパルスを出力することが可能になるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、実施の形態に係る固体レーザ発振器が備える共振器の構成を示す図である。
【図2】図2は、従来の固体レーザ発振器が備える共振器の構成を示す図である。
【図3】図3は、実施の形態に係る共振器内の共振器ロスを説明するための図である。
【図4】図4は、従来の共振器内の共振器ロスを説明するための図である。
【図5】図5は、実施の形態に係る共振器から出力されるパルスレーザの出力特性を示す図である。
【図6】図6は、従来の共振器から出力されるパルスレーザの出力特性を示す図である。
【図7】図7は、実施の形態に係る共振器におけるQスイッチロスとパルス安定性の関係を示す図である。
【図8】図8は、従来の共振器におけるQスイッチロスとパルス安定性の関係を示す図である。
【図9】図9は、偏光方向を規定する素子が偏光子である場合の共振器の構成を示す図である。
【図10】図10は、偏光方向を規定する素子が折り返しミラーである場合の共振器の構成を示す図である。
【図11】図11は、共振器と波長変換素子を備えた固体レーザ発振器の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明の実施の形態に係る固体レーザ発振器を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0011】
実施の形態.
図1は、実施の形態に係る固体レーザ発振器が備える共振器の構成を示す図である。固体レーザ発振器の共振器1は、TRミラー11、PRミラー12、レーザ励起部13、Qスイッチ10(石英ブロック14、トランスデューサ15)、ブリュースタウインドウ16を有している。
【0012】
共振器1では、各構成要素が、TRミラー11、レーザ励起部13、石英ブロック14、トランスデューサ15、ブリュースタウインドウ16、PRミラー12の順番で配置されている。
【0013】
TRミラー11は、レーザビームL1を全反射させるミラーであり、PRミラー12は、レーザビームL1を部分反射させるミラーである。レーザ励起部13は、レーザ媒質を励起する機能を有している。例えば、レーザ励起部13がロッド型のYAG(Yttrium Aluminum Garnet)レーザの場合、レーザ媒質としてYAGロッドが用いられる。また、YAGロッドの励起源としては、例えば半導体レーザ(LD:Laser Diode)が用いられる。
【0014】
レーザ励起部13は、TRミラー11とPRミラー12との間に配置されており、TRミラー11とPRミラー12との間でレーザビームL1が共振してレーザビームL1が作り出される。共振器1内には、TRミラー11とPRミラー12との間に偏光方向を規定する素子(ブリュースタウインドウ16)が配置されている。これにより、レーザビームL1を、1方向(偏光方向D21)の偏光成分のみを有したレーザビームL1にすることができる。
【0015】
また、共振器1には、1つのQスイッチ10が配置されている。共振器1では、Qスイッチ10を動作させることによって共振器1の外部にパルス状のレーザビームを出力する。本実施の形態のQスイッチ10は、音響光学素子であり、石英ブロック14にトランスデューサ15を取付けたものである。Qスイッチ10は、トランスデューサ15に超音波をかけることにより、石英ブロック14に進行方向D22の超音波を進行させる。これにより、Qスイッチ10でレーザビームL1を回折させることができ、共振器1としてのQスイッチロスとなる。共振器1では、トランスデューサ15からの超音波を高周波でON/OFFすることによりパルスレーザを発生させることが可能となる。
【0016】
共振器1では、レーザ励起部13のレーザ媒質が励起された後、Qスイッチ10を所定時間ONにして、共振器1内のレーザ媒質にレーザビームL1のエネルギーを蓄積する。共振器1内のレーザビームL1は、TRミラー11とPRミラー12との間を往復するとともにブリュースタウインドウ16で偏光(偏光方向D21)が規定される。その後、Qスイッチ10の入力パワーが所定値だけ下げられることにより、蓄積されたエネルギーがパルスエネルギーとして共振器1から出力される。
【0017】
本実施の形態では、共振器1内に、偏光方向D21に対して平行な方向(進行方向D22)に超音波が進行するよう、Qスイッチ10が配置されている。換言すると、Qスイッチ10は、石英ブロック14内の超音波の進行方向D22と、レーザビームL1の偏光方向D21と、が平行な方向となるよう、共振器1内に配置される。
【0018】
Qスイッチ10は、レーザビームL1の偏光方向により回折効率が異なる。この回折効率が高いほどQスイッチロスが大きくなる。石英ブロック14内の超音波の進行方向D22に対してレーザビームL1の偏光方向D21が平行な場合、進行方向D22に対して偏光方向が垂直な方向(直交方向D23)である場合と比べて回折効率が5分の1程度に低下する。そのため、従来は、共振器1内に偏光方向を規定する素子を配置する場合には、その偏光方向に対して垂直な方向に超音波が進行するようにQスイッチを配置していた。
【0019】
図2は、従来の固体レーザ発振器が備える共振器の構成を示す図である。従来の固体レーザ発振器が備える共振器101は、TRミラー11、PRミラー12、レーザ励起部13、石英ブロック114、トランスデューサ115、ブリュースタウインドウ16を有している。
【0020】
共振器101では、偏光方向D21に対する直交方向D23に超音波が進行するよう、Qスイッチ100が配置されている。換言すると、Qスイッチ100は、石英ブロック114内の超音波の進行方向D122と、レーザビームL2の偏光方向D21と、が垂直な方向となるよう、共振器101内に配置されている。
【0021】
共振器101では、Qスイッチ100が種々の時間に渡って入力パワーONにされ、この間だけ共振器101のQ値が下げられる。そして、入力パワーがONの間、このONの時間に比例したエネルギーが共振器101に蓄積される。その後、蓄積されたエネルギーに応じたレーザ出力値を有したレーザパルスが共振器101から出力される。これにより、種々のレーザ出力値を有したレーザパルスが出力される。このように、従来の共振器101は、入力パワーのON時間(エネルギーの蓄積時間)が制御されることにより、種々のレーザ出力値を有したレーザパルスを出力していた。
【0022】
一方、本実施の形態の共振器1内では、レーザ励起部13のレーザ媒質が励起された後、Qスイッチ10の入力パワー(RFパワー)の大きさが制御される。本実施の形態では、一定のQスイッチ周波数(音響光学素子周波数)に従ったタイミングで入力パワーを変化させ、これにより、所望のレーザ出力を有したレーザパルスをQスイッチ周波数に応じた一定のタイミングで出力させる。
【0023】
具体的には、レーザビームL1のエネルギーを共振器1内に蓄積する間は、Qスイッチ10の入力パワーをON(最大値)にすることにより、Qスイッチ10内で偏光方向D21と平行方向である進行方向D22に向かって超音波を進行させる。これにより、レーザビームL1をQスイッチ10で回折させ、Qスイッチロス(共振器ロス)を発生させる。
【0024】
共振器1は、定格出力値のレーザパルスを出力する際には、Qスイッチ10の入力パワーをOFFにする。これにより、レーザビームL1はQスイッチ10で回折されることなく通過し、Qスイッチロスがなくなる。
【0025】
また、共振器1は、所定出力値(例えば、半分のレーザ出力値)のレーザパルスを出力する際には、Qスイッチ10の入力パワーを所定出力値に応じた値にする。これにより、レーザビームL1は、Qスイッチ10で所定出力値に応じた量だけ回折され、所定出力値に応じたQスイッチロスが発生する。そして、発生したQスイッチロスに応じたレーザ出力値のレーザパルスが出力される。
【0026】
図3は、実施の形態に係る共振器内の共振器ロスを説明するための図である。図3では、偏光方向の成分と垂直方向の成分とに分けて共振器1内の共振器ロスの状況を示している。ここでの共振器ロスは、Qスイッチロスと、ブリュースタウインドウロスと、を足したものである。
【0027】
本実施形態の共振器1では、ブリュースタウインドウ16の偏光方向(レーザ偏光)と同一方向(偏光方向D21)のQスイッチロスA1は、Qスイッチ10の入力パワーに応じて変化する。同様に、ブリュースタウインドウ16の偏光方向(レーザ偏光)と垂直な方向(直交方向D23)のQスイッチロスB1は、Qスイッチ10の入力パワーに応じて変化する。
【0028】
具体的には、レーザビームL1のエネルギーを共振器1内に蓄積する間は、Qスイッチ10の入力パワーが最大値にされ、これにより、偏光方向D21のQスイッチロスA1、直交方向D23のQスイッチロスB1は、ともに最大となる。
【0029】
また、共振器1内に蓄積されたレーザビームL1を定格出力パルスP1として出力する際には、Qスイッチ10の入力パワーが0になり、これにより、偏光方向D21のQスイッチロスA1、直交方向D23のQスイッチロスB1は、ともに0となる。
【0030】
また、共振器1内に蓄積されたレーザビームL1を、定格出力値のレーザ出力値を半減させたパルスレーザ(出力半減パルスP2)として出力する際には、Qスイッチ10の入力パワーが所定量だけ下げられ、これにより、偏光方向D21のQスイッチロスA1、直交方向D23のQスイッチロスB1も所定値だけ下がる。
【0031】
また、ブリュースタウインドウ16では、直交方向D23のロスであるブリュースタウインドウロスC1が発生する。このブリュースタウインドウロスC1は、Qスイッチ10の入力パワー(QスイッチロスA1,B1)とは関係なく、常に一定のロス値c1である。
【0032】
共振器1では、QスイッチロスA1を最大値から0に変化させることにより、Q値を急峻に上げると、パルスレーザとして定格出力パルスP1が出力される。この後、QスイッチロスA1が再び最大値となるよう、Qスイッチ10の入力パワーが制御される。QスイッチロスA1を最大値としておく期間は、Qスイッチ周波数に応じた期間であり、一定期間である。
【0033】
共振器1では、出力半減パルスP2を出力する場合、QスイッチロスA1が最大値から所定のロス値a1に変化する。このとき、QスイッチロスB1は、ロス値a1に応じたロス値b1となる。このロス値b1は、ブリュースタウインドウ16の偏光方向D21に垂直な直交方向D23のロス値であり、偏光方向D21のロス値a1よりも大きい。そして、直交方向D23のロス値b1が大きいので、偏光方向D21の成分のみで出力半減パルスP2のパルスレーザを発生させることが可能となり、安定したレーザ出力値の出力半減パルスP2を出力することが可能となる。
【0034】
図4は、従来の共振器内の共振器ロスを説明するための図である。図4では、図3と同様に、偏光方向の成分と垂直方向の成分とに分けて共振器101内の共振器ロスの状況を示している。
【0035】
従来の共振器101では、ブリュースタウインドウ16の偏光方向(レーザ偏光)と同一方向(偏光方向D21)のQスイッチロスA11は、Qスイッチ100の入力パワーに応じて変化する。同様に、ブリュースタウインドウ16の偏光方向(レーザ偏光)と垂直な方向(直交方向D23)のQスイッチロスB11は、Qスイッチ100の入力パワーに応じて変化する。
【0036】
具体的には、レーザビームL2のエネルギーを共振器1内に蓄積する間は、Qスイッチ100の入力パワーが最大値にされ、これにより、偏光方向D21のQスイッチロスA11、直交方向D23のQスイッチロスB11は、ともに最大となる。
【0037】
また、共振器1内に蓄積されたレーザビームL2を定格出力パルスP11として出力する際には、Qスイッチ100の入力パワーが0になり、これにより、偏光方向D21のQスイッチロスA11、直交方向D23のQスイッチロスB11は、ともに0となる。
【0038】
また、レーザ出力値を半減させたパルスレーザ(出力半減パルスP12)として出力する場合には、出力半減パルスP12のレーザ出力値に応じた期間だけ共振器101内にレーザビームL2を蓄積しておく。共振器101内に蓄積されたレーザビームL2を出力半減パルスP12として出力する際には、Qスイッチ100の入力パワーが0になり、これにより、偏光方向D21のQスイッチロスA11、直交方向D23のQスイッチロスB11も所定値だけ下がる。これにより、偏光方向D21のQスイッチロスA11、直交方向D23のQスイッチロスB11は、レーザビームL1の蓄積期間(Qスイッチ周波数)に応じた大きさとなる。
【0039】
ブリュースタウインドウ16では、直交方向D23のロスであるブリュースタウインドウロスC11が発生する。このブリュースタウインドウロスC11は、Qスイッチ100の入力パワー(QスイッチロスA11,B11)とは関係なく、常に一定のロス値c11である。
【0040】
共振器101では、QスイッチロスA11を最大値から0に変化させることにより、Q値を急峻に上げると、パルスレーザとして定格出力パルスP11が出力される。この後、QスイッチロスA11が再び最大値となるよう、Qスイッチ100の入力パワーが制御される。QスイッチロスA11を最大値としておく期間は、次に出力するパルスレーザのレーザ出力値に応じた可変期間である。
【0041】
共振器101では、出力半減パルスP12を出力する場合、QスイッチロスA11が最大値から所定のロス値a11に変化する。このとき、QスイッチロスB11は、ロス値a11に応じたロス値b11となる。このロス値b11は、ブリュースタウインドウ16の偏光方向D21に垂直な直交方向D23のロス値であり、ロス値b11とロス値c11とを合わせたロス値(直交方向のロス値)は、偏光方向D21のロス値a11と略同じ値である。そして、偏光方向D21のロス値と直交方向D23のロス値とが、略同じ大きさなので出力半減パルスP12のレーザ出力値がばらつくこととなる。換言すると、Qスイッチ100の入力パワーを変化させた場合に、偏光方向を規定したい方向のロス値a11が大きくなり、安定なパルスが得られなくなる。
【0042】
一方、本実施形態では、超音波の進行方向D22が偏光方向D21と平行な方向となるようQスイッチ10の配置をしているので、直交方向D23のQスイッチロスが大きくなる。この結果、パルスレーザの偏光に対して直交する成分のパルスレーザが発生しにくくなる。
【0043】
さらに、本実施形態では、Qスイッチ10(パルスを発生させる部分)の入力パワーを上げていくことでレーザパルスが出にくくなり、結果としてレーザ出力が低くなる。そして、Qスイッチ10の入力パワーを変化させた場合に、偏光方向D21のQスイッチロスが直交方向D23のQスイッチロスに比べて小さくなる。したがって、レーザの偏光が規定され、安定なレーザパルスを発生させることが可能となる。このように、パルス出力を変化させた場合であっても、レーザパルスを安定して発生させることが可能となる。
【0044】
なお、共振器1から出力するレーザパルスは、定格出力パルスP1、出力半減パルスP2に限らず、定格出力パルスP1よりも小さなレーザ出力値のレーザパルスであれば、何れのレーザパルスであってもよい。Qスイッチ10では、出力するレーザパルスのレーザ出力値に応じた入力パワーを入力して、レーザパルスのレーザ出力値に応じたQスイッチロスを発生させる。
【0045】
つぎに、パルス安定性について説明する。図5は、実施の形態に係る共振器から出力されるパルスレーザの出力特性を示す図である。図5では、定格出力値の30%で出力されるパルスレーザのレーザ出力値と時間との関係(出力特性31)を示している。図5において縦軸がレーザ出力値であり、横軸が時間である。
【0046】
所定数N(Nは自然数)のパルスレーザに対してレーザ出力値を測定した場合の最大値がレーザ出力値32aであり、最小値がレーザ出力値32bである。図5に示すように、共振器1から出力されるパルスレーザは、レーザ出力値にほとんどばらつきを有していない。共振器1から出力されるパルスレーザのパルス安定性Spは、例えば最大のレーザ出力値Pxと、レーザ出力値のばらつき幅Pyと、を用いて、以下の式で表される。
パルス安定性Sp=Py/Px・・・(1)
【0047】
図6は、従来の共振器から出力されるパルスレーザの出力特性を示す図である。図6では、定格出力値の30%で出力されるパルスレーザのレーザ出力値と時間との関係(出力特性131)を示している。図6において縦軸がレーザ出力値であり、横軸が時間である。
【0048】
所定数Nのパルスレーザに対してレーザ出力値を測定した場合の最大値がレーザ出力値132aであり、最小値がレーザ出力値132bである。図6に示すように、共振器101から出力されるパルスレーザは、共振器1から出力されるパルスレーザと比べて、レーザ出力値に大きなばらつきを有している。共振器101から出力されるパルスレーザのパルス安定性Sqは、例えば最大のレーザ出力値Qxと、レーザ出力値のばらつき幅Qyと、を用いて、以下の式で表される。
パルス安定性Sq=Qy/Qx・・・(2)
【0049】
パルス安定性Sp,Sqは、パルスレーザのレーザ出力値にばらつきが多いほど、大きな値を示す。本実施の形態の共振器1から出力されるパルスレーザのパルス安定性Spは、従来の共振器101から出力されるパルスレーザのパルス安定性Sqよりも小さな値を示す。このように、本実施の形態の共振器1からは従来の共振器101よりも安定したパルスレーザが出力される。
【0050】
従来のようにパルスレーザのレーザ出力値が安定してない場合には、パルスの波形が幅(レーザ出力値の幅)を持つような波形になり、ばらつき幅Qyが大きくなる。一方、本実施の形態では、ばらつき幅Pyが小さく、レーザパルスを安定して供給できる。
【0051】
つぎに、パルス発生時のQスイッチロスとパルス安定性の関係について説明する。図7は、実施の形態に係る共振器におけるQスイッチロスとパルス安定性の関係を示す図である。図7では、Qスイッチ10を開放した際のQスイッチロスとレーザ出力値33との関係、Qスイッチ10を開放した際のQスイッチロスとパルス安定性34との関係を示している。図7において、横軸がQスイッチロスであり、縦軸がレーザ出力値およびパルス安定性である。ここでのパルス安定性34は、前述の式(1)にQスイッチロスとレーザ出力値33との関係を適用して算出したものである。
【0052】
レーザ出力値33、パルス安定性34に示すように、本実施の形態の共振器1では、レーザ出力値が100%〜20%程度の場合(Qスイッチロスが0%〜70%程度の場合)に、レーザ出力値のばらつき度合いを示すパルス安定性34が10%以下である。したがって、共振器1は、レーザ出力値が100%〜20%程度の場合に、レーザパルスを安定して発生させることができる。
【0053】
図8は、従来の共振器におけるQスイッチロスとパルス安定性の関係を示す図である。図8では、Qスイッチ100を開放した際のQスイッチロスとレーザ出力値133との関係、Qスイッチ100を開放した際のQスイッチロスとパルス安定性134との関係を示している。図8において、横軸がQスイッチロスであり、縦軸がレーザ出力値およびパルス安定性である。ここでのパルス安定性134は、前述の式(2)にQスイッチロスとレーザ出力値133との関係を適用して算出したものである。
【0054】
レーザ出力値133、パルス安定性134に示すように、従来の共振器101では、レーザ出力値が100%〜70%程度の場合(0%〜60%程度のQスイッチロスの場合)に、レーザ出力値のばらつき度合いを示すパルス安定性134が10%以下である。換言すると、レーザ出力値が70%以下になると、パルス安定性134が大きくなり(レーザ出力値のばらつき度合いが大きくなり)、パルス安定度が悪くなる。したがって、共振器101は、70%程度以上のレーザ出力値の場合にしか、レーザパルスを安定して発生させることができない。
【0055】
なお、本実施の形態では、偏光方向を規定する素子がブリュースタウインドウ16である場合について説明したが、偏光方向を規定する素子はブリュースタウインドウ16以外の素子であってもよい。偏光方向を規定する素子は、例えば偏光子であってもよいし、折り返しミラーであってもよい。
【0056】
図9は、偏光方向を規定する素子が偏光子である場合の共振器の構成を示す図である。なお、図9の各構成要素のうち図1に示した共振器1と同一機能を達成する構成要素については同一番号を付しており、重複する説明は省略する。
【0057】
固体レーザ発振器の共振器2は、TRミラー11、PRミラー12、レーザ励起部13、Qスイッチ10、偏光子41を有している。共振器2では、ブリュースタウインドウ16の代わりに偏光子41が配置されている。具体的には、偏光子41は、Qスイッチ10とPRミラー12との間に配置されている。なお、偏光子41は、Qスイッチ10とレーザ励起部13との間もしくはTRミラー11とレーザ励起部13との間に配置してもよい。偏光子41は、所定の方向にQスイッチロスを与える素子である。
【0058】
共振器2では、レーザ励起部13のレーザ媒質が励起された後、Qスイッチ10を所定時間ONにして、共振器2内にレーザビームL1のエネルギーを蓄積する。共振器2内のレーザビームL1は、TRミラー11とPRミラー12との間を往復するとともに、偏光子41で偏光方向が規定される。その後、Qスイッチ10がOFFにされることにより、蓄積されたエネルギーがパルスエネルギーとして共振器2から出力される。
【0059】
図10は、偏光方向を規定する素子が折り返しミラーである場合の共振器の構成を示す図である。なお、図10の各構成要素のうち図1に示した共振器1と同一機能を達成する構成要素については同一番号を付しており、重複する説明は省略する。
【0060】
固体レーザ発振器の共振器3は、TRミラー11、PRミラー12、レーザ励起部13、Qスイッチ10、折り返しミラー42a,42bを有している。共振器3では、ブリュースタウインドウ16の代わりに折り返しミラー42a、42bが配置されている。具体的には、折り返しミラー42a、42bは、Qスイッチ10とPRミラー12との間に配置されている。折り返しミラー42a、42bは、それぞれ所定の方向に共振器ロスを与えるミラーである。
【0061】
TRミラー11で反射されたレーザビームL1は、レーザ励起部13とQスイッチ10を介して折り返しミラー42aに送られてくる。このレーザビームL1は、折り返しミラー42aで90度曲げられて反射され、さらに折り返しミラー42bで90度曲げられて反射され、PRミラー12に送られる。このように、共振器3内では光路が折り曲げられている。
【0062】
共振器3では、レーザ励起部13のレーザ媒質が励起された後、Qスイッチ10を所定時間ONにして、共振器3内にレーザビームL1のエネルギーを蓄積する。共振器3内のレーザビームL1は、TRミラー11とPRミラー12との間を往復するとともに、折り返しミラー42a、42bで偏光方向が規定される。その後、Qスイッチ10がOFFにされることにより、蓄積されたエネルギーがパルスエネルギーとして共振器3から出力される。なお、折り返しミラーの代わりに偏光方向を規定する1枚のミラーまたは偏光方向を規定する3枚以上のミラーを配置してもよい。
【0063】
また、固体レーザ発振器は、共振器1〜3の何れか1つと、波長変換素子と、を備える構成としてもよい。ここで、共振器1〜3の何れか1つと、波長変換素子を備えた固体レーザ発振器の構成について説明する。なお、ここでは共振器が共振器1である場合の固体レーザ発振器の構成について説明する。
【0064】
図11は、共振器と波長変換素子を備えた固体レーザ発振器の構成を示す図である。図11の各構成要素のうち図1に示した共振器1と同一機能を達成する構成要素については同一番号を付しており、重複する説明は省略する。
【0065】
固体レーザ発振器5は、共振器1と、波長変換素子(波長変換結晶)51,52と、を備えている。固体レーザ発振器5では、共振器1から出力されたレーザビームL1が波長変換素子51,52で波長変換され、レーザビームL3として固体レーザ発振器5の外部に出力される。
【0066】
レーザビームL1,L2は、波長変換されると、レーザ出力値がばらつく。本実施の形態では、共振器1から出力されるレーザビームL1のレーザ出力値が安定しているので、波長変換された後のレーザビームL3のレーザ出力値も安定している。なお、固体レーザ発振器5は、共振器2と波長変換素子51,52とを用いて構成してもよいし、共振器3と波長変換素子51,52とを用いて構成してもよい。
【0067】
このように実施の形態によれば、石英ブロック14内の超音波の進行方向D22と、レーザビームL1の偏光方向D21と、が平行な方向となるよう、Qスイッチ10が共振器1〜3内に配置されているので、安定したレーザ出力値のレーザパルスを出力することが可能となる。
【0068】
また、共振器1〜3は、それぞれ1個のQスイッチ10で制御でき、かつ一定のQスイッチ周波数でレーザパルスの出力を制御できる。したがって、簡易な構成で容易にレーザパルスの出力を制御することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0069】
以上のように、本発明に係る固体レーザ発振器は、音響光学素子を用いたレーザパルスの出力に適している。
【符号の説明】
【0070】
1〜3 共振器
5 固体レーザ発振器
10 Qスイッチ
13 レーザ励起部
14 石英ブロック
15 トランスデューサ
16 ブリュースタウインドウ
41 偏光子
42a,42b 折り返しミラー
51,52 波長変換素子
D21 偏光方向
D22 進行方向
D23 直交方向
L1,L3 レーザビーム
P1 定格出力パルス
P2 出力半減パルス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
共振器内に配置されて前記共振器内でレーザビームの偏光方向を規定する偏光方向規定素子と、
共振器内に配置されるとともに所定量の入力パワーによって超音波を進行させ、これにより前記共振器内のレーザビームを前記入力パワーに応じた量だけ回折させてレーザパルス毎にレーザ出力値を制御する音響光学素子と、
を備え、
前記偏光方向規定素子で規定される偏光方向と、前記超音波の進行方向と、が平行方向となるよう、前記音響光学素子が前記共振器内に配置されていることを特徴とする固体レーザ発振器。
【請求項2】
前記入力パワーは、一定の音響光学素子周波数に従ったタイミングで、所望のレーザ出力値に応じた値に変化させられることを特徴とする請求項1に記載の固体レーザ発振器。
【請求項3】
前記偏光方向規定素子は、ブリュースタウインドウであることを特徴とする請求項1または2に記載の固体レーザ発振器。
【請求項4】
前記偏光方向規定素子は、偏光子であることを特徴とする請求項1または2に記載の固体レーザ発振器。
【請求項5】
前記偏光方向規定素子は、所定の方向に共振器ロスを与えるミラーであることを特徴とする請求項1または2に記載の固体レーザ発振器。
【請求項6】
前記共振器内から出力されたレーザビームの波長を変換する波長変換素子をさらに備え、
波長変換されたレーザビームを出力することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つに記載の固体レーザ発振器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−253092(P2012−253092A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−122738(P2011−122738)
【出願日】平成23年5月31日(2011.5.31)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】