説明

固体前駆物質の蒸気を処理装置に供給する装置

本発明は、物理化学処理装置(12)に供給するように意図された少なくとも1つの固体前駆物質の蒸気を供給するための装置(30)であって、固体前駆物質の粒子を含有し、入口(34)と、出口(36)とを備えることのできる収容器(32)であって、出口が物理化学処理装置に接続されることが意図された収容器と、固体前駆物質の粒子を流動層の形態にして、固体前駆物質の蒸気を出口に搬送するために、入口と、出口との間でガスを循環させるための手段(42,43,44)とを備える装置に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物理化学処理装置、例えば、表面処理装置、薄層またはコーティング層析出装置、あるいは粉末製造装置に供給する固体前駆物質の蒸気を供給する装置に関する。この処理装置は、例えば、化学蒸着装置である。
【背景技術】
【0002】
化学蒸着装置型の物理化学処理装置には、1つの前駆物質または複数の前駆物質の蒸気が再現可能な様式で常に供給されなければならない。多数の無機または有機金属化合物が化学蒸着装置型の処理装置に対する前駆物質として用いられる可能性がある。しかしながら、このような化合物は、もっとも多くの場合、固体形状で現れるため、このような処理装置の作動と共存できる方式で、このような化合物の蒸気を得ることは非常に困難である。
【特許文献1】仏国特許出願公開第1433497号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
固体前駆物質の蒸気を供給する第1の方法は、前駆物質を溶解するステップを含む。次に気化チェンバによって、得られた溶液の気化が可能になる。こういった方法における大きな欠点は、前駆物質を輸送するために溶媒を利用しなければならないことである。実際に、望まない反応が溶媒と前駆物質との間で起こる危険がある。何らかの汚染を防ぐために、液体形態の溶媒または凝縮形態の前駆物質が処理装置内にある状態は断固として避けなければならない。溶媒の除去を可能にするには、これを分解することがあるが、処理装置により行われる操作に従ってこれを実施するのが難しい場合もある。さらに、溶媒の取り扱いは、とりわけ廃水がでるおそれがあるために、一般的にデリケートな操作になり、特別な注意が必要になり、固体前駆物質蒸気をもたらすための装置がとりわけ複雑になる。
【0004】
固体前駆物質蒸気を供給する方法によれば、前駆物質は溶媒で溶解されない。外部物質が処理装置に入り込まないことから、これにより潜在的に不純物のないシステムが得られる。こういった固体前駆物質蒸気供給装置において、全体的に処理装置から独立したチェンバにおける固体前駆物質の昇華によって蒸気が得られるが、固体前駆物質蒸気の処理装置への輸送はキャリアガスによって行われる。
【0005】
図1は、前述の第2の固体前駆物質蒸気供給方法を実施する物理化学処理装置12、例えば、化学蒸着装置に対して固体前駆物質の蒸気をもたらすための装置10の従来例を示す。装置10は、固体前駆物質17が置かれる内部円筒状収容器16を含む外部円筒状収容器14を備える。キャリアガス、例えば、窒素を供給するための手段18は、内部収容器16の上部のレベルで接続され、内部収容器16にキャリアガスを供給する。内部収容器16の底部は、固体前駆物質を保持するものの、ガス化合物は通すことのできる多孔室壁20で形成される。固体前駆物質17は、これが昇華する一定温度で維持される。この装置10の操作時に、キャリアガスは固体前駆物質17を横切り、昇華された固体前駆物質の蒸気の濃度が上がる。濃度の上がったキャリアガスは次に、外部収容器14と収容器16との間にできた空間にある多孔質20を通過する。キャリアガスは次に、収集され、ダクト22により処理装置12に搬送される。処理装置12は、図示されていないガス出口を備える。
【0006】
しかしながら、固体前駆物質蒸気を供給する装置を用いても、特に、以下のような現象により、前駆物質蒸気流量が時間の経過とともに減少することが観察される可能性がある。
昇華の起こる固体前駆物質の表面積が徐々に減少する。
優先的な様式でキャリアガスが流れ、固体前駆物質との接触を制限するような流路が固体前駆物質に成形される。
【0007】
さらに、固体前駆物質とキャリアガスとの間の交換表面積の変動を抑えることが難しいことから、固体前駆物質蒸気を供給するための装置の連続使用に対して、再現可能に蒸気形成流量を確保することが難しい。
【0008】
他の困難な点として、十分な量の蒸気を得るために、固体前駆物質を全蒸気形成相に対して高温に維持しなければならないが、このことで、蒸気供給装置において固体前駆物質が分解するという問題をもたらす場合があるというものがある。さらに、固体前駆物質の蒸気が高温で得られることから、処理装置までの輸送中に蒸気の凝結を防ぐために、ダクト22を加熱することのできる手段を提供しなければならず、このことが難しい結果をもたらす場合もある。
【0009】
本発明の目的は、前駆物質の昇華により固体前駆物質の蒸気を供給し、固体前駆物質の蒸気を実質的に一定で再現可能に物理化学処理装置に供給できるようにした装置を得ることである。
【0010】
本発明の他の目的は、固体前駆物質の蒸気を物理化学処理装置に供給し、装置内での固体前駆物質の分解を制限することのできる装置を提供することである。
【0011】
本発明の他の目的は、比較的簡単な設計と保守ですむ物理化学処理装置に固体前駆物質の蒸気を供給するための装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
こういった目的を達成するために、本発明は、少なくとも1つの固体前駆物質の蒸気を物理化学処理装置に供給する装置において、入口及び出口を備えており、出口を物理化学処理装置に接続すべくなされており、固体前駆物質の粒子を収容可能な収容器と、固体前駆物質の蒸気を出口に搬送すべく、且つ固体前駆物質の粒子を流動床とすべく、入口及び出口の間でガスを循環させる手段とを備えることを特徴とする装置を提供する。
【0013】
本発明の他の一実施形態によれば、本装置は、出口に接続されており、物理化学処理装置に連通すべくなされているダクトと、固体前駆物質の蒸気濃度を高くしたガスにより搬送された固体前駆物質の粒子を捕獲でき、ダクトの位置及び/又は出口の位置にあるフィルタとを更に備えることを特徴とする。
【0014】
本発明の他の一実施形態によれば、本装置は、収容器の内容物を加熱するための手段を備えることを特徴とする。
【0015】
本発明の他の一実施形態によれば、本装置は、収容器は、固体前駆物質の粒子を受け入れることのできる収容器の入口と内容物との間にグリッドを備えることを特徴とする。
【0016】
本発明の他の一実施形態によれば、ガスを循環させる手段は、ガス供給手段と、ガス供給手段を収容器に接続するダクトと、ダクトを通って流れるガス流を制御するための手段とを備えることを特徴とする。
【0017】
本発明はまた、少なくとも1つの固体前駆物質の蒸気を供給するための装置と蒸気を受け入れる物理化学処理装置とを備える物理化学処理システムを提供する。供給装置は、入口及び出口を備えており、出口を物理化学処理装置に接続すべくなされており、固体前駆物質の粒子を収容可能な収容器と、固体前駆物質の蒸気を出口に搬送すべく、且つ固体前駆物質の粒子を流動床とすべく、入口及び出口の間でガスを循環させる手段とを備えることを特徴とする。
【0018】
本発明の他の一実施形態によれば、物理化学処理装置は化学蒸着装置であることを特徴とする。
【0019】
本発明は、少なくとも1つの固体前駆物質の蒸気を物理化学処理装置に供給するための方法において、入口及び物理化学処理装置に接続された出口を備える収容器に固体前駆物質の粒子を供給するステップと、固体前駆物質の粒子を流動床とすべく、収容器中にてガスを循環させるステップと、固体前駆物質の蒸気濃度の高くしてあり、出口を通して排出されるガスを物理化学処理装置に供給するステップとを含むことを特徴とする方法を提供する。
【0020】
本発明の他の一実施形態によれば、固体前駆物質は、流動床の形成を補助する不活性固体化合物の粒子と混合されることを特徴とする。
【0021】
本発明の他の一実施形態によれば、ガスは不活性または反応性ガスであることを特徴とする。
【0022】
本発明の他の一実施形態によれば、収容器の内容物は、300℃よりも低い温度に保たれることを特徴とする。
【0023】
本発明の他の一実施形態によれば、出口位置での平均圧力が1000Paよりも高いことを特徴とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明の前述およびその他の目的、特性および利点については、添付図面と合わせて、特定の実施形態に対する以下の限定されない説明において詳細に論じられる。
【0025】
明確化のために、異なる図面において、同一要素には同一参照番号が割り振られた。
【0026】
本発明は、作動時に、固体前駆物質が固体前駆物質粒子の流動層の形態にされる固体前駆物質の蒸気を供給するための装置の提供を含む。本発明による装置に接続された物理化学処理装置に固体前駆蒸気を搬送するためのガスとしても用いられる流動化ガスにより流動層が形成される。
【0027】
図2は、本発明による固体前駆物質蒸気30を供給するための装置の構成について、第1の例を示す。装置30は、上部に開口部34と、下部に開口部36と、を備える外部収容器32を備える。グリッド38が収容器32の下部のレベルに配設される。前駆物質の固体粒子は、固定層40の形態でグリッド38に配設される。固体前駆物質粉末は、固体前駆物質粒子の平均直径と、平均直径前後の直径の分散とで定義される。グリッド38は、固体前駆物質の粒子の通過を禁止するように選択される。
【0028】
流動ガスを供給するための手段42は、供給ダクト43により装置30の開口部36に接続され、質量流量制御装置44により制御された質量流量を流動ガスに供給する。例として、流動ガスは、固体前駆物質、例えば、窒素と反応しない不活性ガスである。開口部36により、本発明による装置30をダクト22経由で物理化学処理装置12に接続できるようになる。フィルタ46がダクト22のレベルに設けられる。圧力センサ48により、開口部36と34との間の流動ガスの圧力損失を求めることができる。本発明の変形例によれば、フィルタ46が開口部36のレベルに配設される。
【0029】
例えば、収容器32を囲む一対の抵抗体を備える加熱システム50により、収容器32における温度の設定が可能になる。例えば、収容器32の異なるレベルに配設された1つ以上の熱電対で形成される温度センサ52は、加熱システム50の制御できる制御ユニット54に収容器32の温度を示す信号を供給する。さらに、供給ダクト43を横切る流動ガスも収容器32に入る前に加熱される。こういった加熱は、供給ダクト43を囲むコイル形状の一対の電気抵抗体により行われる場合もある。
【0030】
図3は図2の装置30の作動を示す。装置30に流動ガスが供給されると、開口部34から開口部36まで、実質的に上方向に、流動ガスが収容器32の内容積を横切る。流動ガスの速度が小さい場合、固体前駆物質の粒子の層40は、目視できる動きがなくゲート38のレベルに残る。収容器32の内容積を横切る流動ガスの速度が最小速度よりも大きければ、固体前駆物質の粒子が阻止される様子が観察できる。装置30を横切る流動ガスの速度に応じて大きくなる高さHの流動層56がこのようにして形成される。このように、高さHは質量流量制御装置44により制御できる。流動層56において、固体前駆物質粒子は相互に実質的に独立しており、小さな幅でランダムに動く。しかしながら、流動層56の全体的な並進運動は観察できない。流動層56の上面はほぼ清浄で、水平である。流動ガスが所定速度になると、流動層56の表面で成長して上に延びる空洞を流動層56に形成することに相当するあわ立ち現象により流動層56に不均質が現われる。そのため、流動層56の表面は沸騰液体の表面になる。流動ガス速度が最大速度を超えると、流動層56のすべて、あるいは少なくとも大部分が収容器32の外に運び出される。このように流動ガスの速度は最小速度と最大速度との間に維持されなければならない。
【0031】
収容器32全体の平均圧力は流動層の成形を可能にする上で十分なものでなければならない。この理由は、本発明による装置30の作動における平均圧力が、開口部36のレベルにおいて、約1,333Pa(10Torr)よりも高いことが好ましく、大気圧まで上昇する可能性があるためである。収容器32における流動ガスの実際の速度を求めることで、流動層56が適切に形成されるように制御できる。流動ガスの実際の速度は、質量流量制御装置44により与えられる流動ガスの質量流量、流動層56の断面積、流動層56の圧力、温度から求められる場合もある。実際は、本発明による装置の操作時に、圧力センサ48により与えられる装置30の入口と出口との間の圧力損失の測定を行うことで固体前駆物質の良好な流動状態を直接制御できる。フィルタ46により、流動ガス速度が最小速度と最大速度との間に維持されていても、平均粒径よりも直径の小さな流動層56の粒子がダクト22の流動ガスによって運ばれて処理装置12に達することを避けることができる。
【0032】
実施形態の第1の例による装置の操作時に、収容器32の温度は、流動層56の固体前駆物質の粒子が十分昇華できる実質的に一定の温度に維持される。固体前駆物質粒子の昇華速度は、粒子と、それを囲むガスとの間における交換表面積に対して実質的に比例し、固体前駆物質の蒸気圧と、粒子周りですでに拡散している蒸気の部分局所圧力との間の差に対して実質的に比例する。このように自由になった蒸気は流動ガスにより、即座に処理装置12まで運ばれる。流動層56の各粒子がその全外表面で流動ガスと接触することから、流動層56を用いることで、前駆物質・ガス交換を最適化できる。
【0033】
固体前駆物質粒子には、化学的・物理的に不活性な化合物、例えばコランダムあるいはシリカの粒子を混合される場合もある。これにより、固体前駆物質粒子と流動ガスとの間の全交換表面積を制御することで固体前駆蒸気の成形速度を制御することが可能になる。さらに、特に、良好に管理された形状と寸法とを有する粒子でできた粉末を用いること、および/または相互に連結しにくい粒子を有する粉末を利用することで、流動層56の形成が容易になるように、不活性化合物が選択される。特に、固体前駆物質の粒子と混合された不活性粒子を利用することで、固体前駆物質だけを利用して流動層を得ることが難しいような場合に、流動層の形成が容易になる。例えば、粘着性粒子の粉末、あるいは非常に不規則な形状の粒子でできた粉末の形状で固体前駆物質が現れるような場合がこれに相当する。
【0034】
例として、処理装置12が基板上にアルミナ層の化学蒸着を行うケースでは、固体前駆物質がアセチルアセトンアルミニウム((CH3 CO)2 CH)3 Alである。流動ガスはここでは窒素の場合もある。例として、平均粒径は約35μmで、粒径の分散が2μm乃至70μmの範囲である。流動層の形成を最適化するために、こういった前駆物質が、約350μmの平均直径で、直径の分散範囲が100μm乃至600μmの実質的に球状の粒子のアルミナ粉末と混合される場合もある。固体前駆物質の比例量は、例えば、流動層56を形成する粒子の全質量の約10%になる。用いられる昇華温度は、例として、120℃のオーダーである。窒素ガス流量は、標準的な状態で、毎分3000乃至8000cm3 のオーダーになる場合もある。
【0035】
本発明により、流動層の形成を行うように適応された流動ガス範囲が、化学蒸着型の処理装置により必要とされる供給流量と共存可能なものということを示すことができた。
【0036】
本発明には多くの利点がある。
【0037】
第1に、本発明による装置の作動段階において、実質的に一定流量の固体前駆物質の蒸気を得ることができる。実際に、流動層に含まれる各前駆物質粒子が蒸気の形成に寄与する。本発明による装置の作動段階において、各粒子の寸法が小さくなること、さらにこれにより全前駆物質・流動ガス交換表面積が小さくなるのが非常に遅くなる。さらに、本発明による装置の作動中に、必要に応じて収容器32に固体前駆物質の粒子を追加することが常に可能である。これにより、本発明による装置は、連続的に固体前駆物質の蒸気を供給するために用いることができる。
【0038】
第2に、固体前駆物質の蒸気の供給を再現可能な様式で行うことができる。実際に、流動層56を用いることで、固体前駆物質の昇華に対する全前駆物質・ガス交換表面積を正確に制御することが可能になる。実際に、流動層56の粒子の攪拌により、従来型昇華装置と比較して、特に、キャリアガスの優先流路が固体前駆物質で形成されて時間の経過に応じて全前駆物質・ガス交換表面積に大きな変動をもたらす問題を防ぐことができる。流動層56が再現可能な様式で形成できることから、本発明による装置30により、同一組成、同一特性の流動層で実質的に同じ全前駆物質・ガス交換表面積を確実に得ることができ、これにより、同一条件で、装置30のおのおのの利用に対して同一量の駆動物質の蒸気の供給ができるようになる。
【0039】
第3に、全前駆物質・ガス交換表面積が従来型昇華装置と比較して明らかに増える。流動層56の各固体前駆物質粒子がその全外表面積で流動ガスと接触することから、全前駆物質・ガス交換表面積はさらに実質的に最適になる。これにより、昇華の効率が最適になる。この際、固体前駆物質の蒸気について得られた流量は実際上、流動ガス流量と比例する。さらに、得られる同一量の蒸気に対して、供給される固体前駆物質の蒸気圧を従来型昇華装置と比較して減らすことができる。これにより、従来型昇華装置で一般に用いられるものよりも、固体前駆物質の温度を低下させることができる。収容器の温度は300℃未満、好ましくは、25O℃未満に維持される。固体前駆物質の温度が下がることで、固体前駆物質が分解する危険を制限できる。これにより、さらに、本発明による装置30を処理装置12に接続するダクト22を、現在用いられている温度より低い温度で加熱するようにできる。
【0040】
第4に、流動層56により、固体前駆物質の粒子の撹拌を起こし、これにより、収容器32における粒子の温度を良好に均一化できるようになる。固体前駆物質の望まれない分解が起こりやすくなる収容器32における何らかのホットスポット形成と、昇華の制御が十分できないという事態が避けられる。
【0041】
第5に、本発明による装置は、固体前駆物質粒子を捕獲するためのフィルタ46の定期的な清掃しか実質的に必要でないことから、特に設計が簡単で、保守が容易である。
【0042】
説明した例では、1つの前駆物質が用いられた。しかしながら、異なる固体前駆物質の粒子でできた流動層の構成は、固体前駆物質蒸気を受け入れる処理装置12により行われる作動に応じて考えることができる。本発明による複数の蒸気供給装置で供給される異なる固体前駆物質の蒸気を同一処理装置に供給する場合もある。
【0043】
前述の例において、流動ガスは、流動層56の形成と、処理装置12への固体前駆物質蒸気の搬送とだけに用いられる不活性ガスである。しかしながら、固体前駆物質と少なくとも部分的に反応するガスまたはガス混合物を流動ガスとして用いる場合もある。例として、水蒸気が窒素に加えられ、これにより、一般的に、化学蒸着反応に対してさらに反応性の高い中間ガス状化合物を、得られた蒸気に形成させる場合もある。例として、アルミナペレットでできた前駆物質に対して、HClガスが窒素に加えられ、三塩化アルミニウム型、または化学蒸着のために用いられる他のガス状ハロゲン化アルミニウムの蒸気を形成する場合もある。
【0044】
本発明の変形例によれば、収容器32は、流動層56上に配設されたバッフル、または何らかの適応された他の機構システムを備え、ダクト22内の流動ガスにより流動層56の粒子が運び出されることを制限できる。
【0045】
図4は、本発明による固体前駆物質の蒸気を供給するための装置60について、構成の第2の例を示す。実施形態の第1の例と共通の要素については再び説明されない。例として、収容器32の高さは110センチメートルであり、収容器32の内径は5センチメートルである。フィルタ62が収容器32の出口36のレベルに配設される。例えば、平均直径が5マイクロメートルの開口部をもつフィルタである。
【0046】
収容器32の加熱は、6つの別個の加熱器バンド64A乃至64Fにより行われる。制御ユニット66は加熱器バンド64A乃至64Fに接続され、各加熱器バンドにより与えられる熱の量を別個に制御できる。6つの温度センサ68A乃至68Fが、収容器32の実質的に対称な軸のレベルに配設された軸70上で収容器32内に配設される。温度センサ68A乃至68Fにより与えられる信号が制御ユニット50に供給される。実施形態の第2の例により、温度センサ68A乃至68Fにより与えられる信号により、加熱器バンド64Aおよび64Fで囲まれた収容器32の各部分の温度を独立して調節できる。図4において、温度センサ68A乃至68Fは、収容器32内で規則的に配設されていないが、さらに正確に温度変動を知ることが望ましい場合には、収容器32の基部に向けて集められる。一変形例によれば、各温度センサ68A乃至68Fは、加熱器バンド64A乃至64Fのレベルにおいて、収容器32内に配設される場合もある。制御ユニット60は、この際、対応する温度センサ68A乃至68Fにより与えられる信号に基づいて各加熱器バンド64A乃至64Fで与えられる熱の量を直接制御できる。
【0047】
3つのシケイン72A,72B,72Cが収容器32内に配設される。シケイン72A,72B,72Cは、例えば、軸70に取り付けられ、軸70に対して傾いた平坦なプレートに対応する。各シケイン72A,72B,72Cは、実際には、収容器32の壁のレベルにある開口部74A,74B,74Cだけを除いて、収容器32への通路を完全に防ぐ。前駆蒸気の通路を妨げることなく流動層56から粒子が逃げることを制限するために、プレート72A,72B,72Cの傾きと、開口部74A,74B,74Cの位置決めとは交互に行われる。流動層56が定常状態にある場合、開口部34に最も近いシケイン72Aは、流動層の上面よりも上になるように収容器32内で配設される。
【0048】
図5は、ベクトルガス流量に応じて与えられた前駆物質流量の変動を示す。変動曲線80は、得ることのできる最大流量に対応する。変動曲線82は、固体前駆物質、例えば、図1の装置の蒸気を供給するための従来型装置により得られ、変動曲線84は供給装置60により得られる。曲線は、前駆物質としてアセチルアセトンアルミニウム、ベクトルガスとして窒素を用いることで得られたものである。従来型装置に対して、窒素流量が大きくなれば、曲線82が最大流量とかなり異なるという点に注意する必要がある。装置60で得られる効率は最大効率に非常に近い。窒素流量が非常に低い場合、曲線82および84が交絡することに注意する必要がある。これは、装置60で流動層を得ることができるようにするには窒素流量が小さすぎ、この装置が従来型装置として作動するようなケースに相当する。
【0049】
当然ながら、本発明に対して、当業者により、種々の変更、改造、改良が行われる場合もある。特に、本発明による装置は、流動ガスが上昇する動きにより流動層が形成されるものとして説明された。しかしながら、本発明による装置は「回転流動層」の形成に対して用いることもできる。この場合、前述のように、流動層を形成するために、流動ガスが上昇する動きによって注入される。しかしながら、流動ガスが収容器32の側壁のレベルでさらに注入され、実質的に垂直の軸の周りに流動層の全体的な回転の動きを引き起こす。さらに、本発明による装置は、収容器32外側の流動層にある粒子の一部に沿って搬送するのに十分高い流動ガス速度で、排出された粒子が収集され、流動層に注入されて戻される「循環流動層」または「上昇流動層」の形成のために用いられる場合もある。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】前で説明したものであるが、固体前駆物質の蒸気を物理化学処理装置に供給するための従来型装置を示す図である。
【図2】固体前駆物質の蒸気を物理化学処理装置に供給するための装置について、本発明による構成の第1の例を示す図である。
【図3】図2の固体前駆物質の蒸気を供給するための装置の作動原理を示す図である。
【図4】固体前駆物質の蒸気を供給するための装置について、本発明による構成の第2の例を示す図である。
【図5】ベクトルガス流量に応じて得られる前駆物質の流量の最適な変化量と、固体前駆物質の蒸気を供給するための従来装置で得られる変化量と、本発明による蒸気供給装置の構成の第2の例で得られる変化量とを示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの固体前駆物質の蒸気を物理化学処理装置(12)に供給する装置(30)において、
入口(34)及び出口(36)を備えており、出口を物理化学処理装置に接続すべくなされており、固体前駆物質の粒子を収容することが可能な収容器(32)と、
固体前駆物質の蒸気を出口に搬送すべく、且つ固体前駆物質の粒子を流動床とすべく、入口及び出口の間でガスを循環させる手段(42,43,44)と
を備えることを特徴とする装置。
【請求項2】
出口(36)に接続されており、物理化学処理装置(12)に連通すべくなされているダクト(22)と、
固体前駆物質の蒸気濃度を高くしたガスにより搬送された固体前駆物質の粒子を捕獲でき、ダクトの位置及び/又は出口の位置にあるフィルタ(46)と
を更に備えることを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項3】
収容器の内容物を加熱するための手段を備えることを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項4】
収容器(32)は、固体前駆物質の粒子を受け入れることのできる収容器の入口(34)と内容物との間にグリッド(38)を備えることを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項5】
ガスを循環させる手段(42,43,44)は、
ガス供給手段(42)と、
ガス供給手段を収容器(32)に接続するダクト(43)と、
ダクトを通って流れるガス流を制御するための手段(44)と
を備えることを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項6】
少なくとも1つの固体前駆物質の蒸気を供給するための装置(30)と蒸気を受け入れる物理化学処理装置(12)とを備える物理化学処理システムであって、
入口(34)及び出口(36)を備えており、出口を物理化学処理装置に接続すべくなされており、固体前駆物質の粒子を収容することが可能な収容器(32)と、
固体前駆物質の蒸気を出口に搬送すべく、且つ固体前駆物質の粒子を流動床とすべく、入口及び出口の間でガスを循環させる手段(42,43,44)と
を備えることを特徴とするシステム。
【請求項7】
物理化学処理装置(12)が化学蒸着装置であることを特徴とする請求項6に記載のシステム。
【請求項8】
少なくとも1つの固体前駆物質の蒸気を物理化学処理装置(12)に供給する方法において、
入口(34)及び物理化学処理装置に接続された出口(36)を備える収容器(32)に固体前駆物質の粒子を供給するステップと、
固体前駆物質の粒子を流動床とすべく、収容器中にてガスを循環させるステップと、
固体前駆物質の蒸気濃度の高くしてあり、出口を通して排出されるガスを物理化学処理装置に供給するステップと
を含むことを特徴とする方法。
【請求項9】
固体前駆物質は、流動床の形成を補助する不活性固体化合物の粒子と混合されることを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項10】
ガスは不活性ガスであることを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項11】
収容器(32)の内容物は、250℃よりも低い温度に保たれることを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項12】
出口(36)位置での平均圧力が1000Paよりも高いことを特徴とする請求項8に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2008−522022(P2008−522022A)
【公表日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−542005(P2007−542005)
【出願日】平成17年11月30日(2005.11.30)
【国際出願番号】PCT/EP2005/056358
【国際公開番号】WO2006/058895
【国際公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【出願人】(500531141)セントレ・ナショナル・デ・ラ・レシェルシェ・サイエンティフィーク (84)
【出願人】(301078489)リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ ミネソタ (24)
【Fターム(参考)】