説明

固体撮像装置およびそれを用いたカメラ

【課題】耐久性が高く、かつ製造コストが安価で画素の微細化に対応できるカラーフィルタを搭載した固体撮像装置およびそれを用いたカメラを提供する。
【解決手段】光電変換素子63と、光電変換素子63の上方に形成され、所望の波長の光を透過させる金属光学フィルタ61とを備え、金属光学フィルタ61は、複数の円筒形状の開口が周期的に配置された金属薄膜から構成され、開口の寸法は、所望の波長より小さく、所定の開口と所定の開口に隣接する開口との開口間距離は、所望の波長より短い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体撮像装置の撮像領域を構成する光電変換素子が感度を有する波長範囲において不要とされる波長の光をカットするフィルタを搭載した固体撮像装置およびその固体撮像装置の製造方法ならびにそれを用いたデジタルカメラなどに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、固体撮像装置における色分解手法として多板方式および単板方式があり、多板方式では、色分解プリズムで画像が色分解され、色分解された画像が三つまたは四つの固体撮像装置で電気信号に変換されて、色信号が得られる。一方、単板方式では、固体撮像装置に形成された三色または四色のオンチップカラーフィルタで画像が色分解され、色分解された画像が一つの固体撮像装置で電気信号に変化されて、色信号が得られる。さらに、単板方式では、色分解される際の色に応じて、原色系と補色系とに分けられる。例えば、原色系では、画素は赤(R)、緑(G)、青(B)の三色に色分解され、補色系では、画素はシアン(Cy)、マゼンタ(Mg)、イエロー(Ye)、緑(G)の四色に色分解される(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
図13は、従来の固体撮像装置の一例を示している。
【0004】
この固体撮像装置は、複数の単位画素120を行列状に配置してなるイメージエリア104と、単位画素120を行単位で選択する行選択回路110と、信号処理部111に単位画素120の信号電圧を列単位で伝達する第1の垂直信号線109と、第1の垂直信号線109を介して伝達された信号電圧を保持し、高周波ノイズをカットする信号処理部111と、単位画素120を列単位で選択する列選択回路112と、信号処理部111から出力された信号電圧を出力アンプ114に伝達する水平信号線113と、出力アンプ114と、負荷トランジスタ群115とから構成される。
【0005】
イメージエリア104は、フォトダイオード121、読み出しトランジスタ122、リセットトランジスタ123、増幅トランジスタ124、垂直選択トランジスタ126、及び増幅トランジスタ124のゲートに直結するフローティングディフュージョン部(以下FD部という)125からなる。
【0006】
この構成において、各単位画素120にオンチップカラーフィルタが設置されており、各単位画素120はカラーフィルタによって選択された波長領域の光信号のみを光電変換する。このように単位画素120毎にカラー信号を得ることができ、これらのカラー信号を合成することでカラー画像を得ることができる。
【0007】
図14は従来の固体撮像装置における単位画素120の断面図である。
【0008】
従来の固体撮像装置では、フォトダイオード121およびフォトダイオード121からの電気信号を得るための読み出しトランジスタ122などの上方に層間膜13を挟んで少なくとも1層の配線14が設置されている。さらに、その上方に絶縁膜を挟んで顔料タイプのカラーフィルタ15およびマイクロレンズ16が設置されている。この単位画素120では、カラーフィルタ15の上方に設置されたマイクロレンズ16で集光された光が、カラーフィルタ15を通過し、カラーフィルタ15の持つ波長選択性によって、R(赤)、G(緑)、B(青)の各波長帯に分離され、色分離化が可能となる。
【非特許文献1】固体撮像素子の基礎,p.183
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、図14に示すような単位画素では、カラーフィルタの膜厚は、高い波長感度(色分解能)の実現のために1μm以上もある。従って、近年の画素の微細化に伴って、マイクロレンズを透過した光はカラーフィルタの膜厚が厚いことで、隣の画素へ侵入する。例えば、Rの中にG、もしくはBの色が混ざる混色が発生し色分離機能が低下してしまうこととなる。その結果、画素の微細化に伴う感度低下や色ムラを抑制することが可能なカラーフィルタが望まれている。すなわち、固体撮像装置の高画質化が可能なカラーフィルタが望まれている。
【0010】
また、オンチップカラーフィルタを形成する際、それぞれの色ごとにフォトマスクによる形成工程が必要になる。従って、例えばR、G、Bの3種類のカラーフィルタを形成するためには、3種類のフォトマスクが必要になるので、従来のオンチップカラーフィルタは、固体撮像装置の製造コストを引き上げる要因になっている。その結果、製造時間を短縮してコストを下げ、歩留まりを向上させることが可能なオンチップカラーフィルタが望まれている。
【0011】
さらに、従来のカラーフィルタは顔料で形成されているため、野外などの高温条件下では時間とともに顔料の退色など色調変化が生じてしまう。従って、従来のカラーフィルタは、信頼性に大きな課題を有している。
【0012】
そこで本発明は、前述の問題に鑑みてなされたものであり、耐久性が高く、かつ製造コストが安価で画素の微細化に対応できる光学フィルタを搭載した固体撮像装置およびそれを用いたカメラを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記の目的を達成するため、本発明の固体撮像装置は、光電変換素子と、前記光電変換素子の上方に形成され、所望の波長の光を透過させる金属光学フィルタとを備え、前記金属光学フィルタは複数の開口が周期的に配置された金属膜から構成されることを特徴とする。
【0014】
この構成によれば、光の入射に応じて、周期的に配列した開口によって金属膜中に表面プラズモンが誘起され、特定の波長のみが金属膜を透過することができる。よって、金属膜1枚のみで分光カラーフィルタを実現できることから、製造工程数を削減でき、製造時間の短縮および製造コストの低減が可能な光学フィルタを実現できる。さらに、膜厚を薄くでき、感度低下や色ムラを抑制しつつ微細化への対応が可能な光学フィルタを実現できるので、画像の高精細化を実現できる。また、従来の顔料タイプのカラーフィルタのように色調変化が生じないので、高い耐久性を持つ光学フィルタを実現できる。
【0015】
また、前記光電変換素子は、2次元状に配置され、前記金属光学フィルタは、複数の前記光電変換素子のそれぞれに対応して2次元状に配置されることが好ましい。具体的には、撮像面を構成する最小単位である画素ごとに光電変換素子が設けられ、それぞれの光電変換素子の上方に前記金属光学フィルタが形成されており、各画素単位で画素上部に前記開口部分が設けられていることが好ましい。
【0016】
この構成によれば、各画素の各々に所望の波長域の光を透過される金属光学フィルタが設置されることから、各画素によって異なる色信号を得ることができる。よって高精細なカラー画像を得ることができる固体撮像装置の実現が可能となる。
【0017】
また、前記金属光学フィルタの開口は、円筒形状であることが好ましい。
【0018】
この構成によれば、開口を円筒形状にすることで、すべての方向への偏光に対応できることから、金属光学フィルタの遮光性および分光透過性を向上させ、より高精細な色画像を得ることができる。
【0019】
また、前記金属光学フィルタの表面は、誘電体で被覆され、前記金属光学フィルタの開口内は、誘電体で被覆または充填されていることが好ましい。
【0020】
この構成によれば、開口内が誘電体で充填されていることから、光の透過効率が向上し、より高精細な色画像を得ることができる。
【0021】
また、所定の前記開口と前記所定の開口に隣接する開口との距離は、前記所望の波長より短いことが好ましい。
【0022】
この構成によれば、金属膜内に表面プラズモンを励起するための励起波長は、金属膜表面に設置された開口間距離とその周期性によって特定され、さらに透過光は開口の寸法によっても限定される。従って、所望の透過波長帯にあわせた開口間距離および開口寸法にすることで任意の色分解が可能となり、より多様な色画像を得ることができる。
【0023】
また、前記開口の寸法は、前記所望の波長より小さく、所定の前記開口と前記所定の開口に隣接する開口との距離は、前記所望の波長より短いことが好ましい。
【0024】
この構成によれば、光の遮断波長から開口寸法を決定することで、色分解能の向上を実現することが可能であり、高精細なカラー画像を得ることができる。
【0025】
また、前記金属膜は、銀(Ag)、白金(Pt)または金(Au)から構成されることが好ましい。
【0026】
この構成によれば、貴金属類は他の金属に比べて金属膜内で発生する表面プラズモン励起子の減衰が小さいことから、プラズモン共鳴による光の透過率が増加し、より色分離能が向上し、より高精細な色画像を得ることができる。特にAgは透過特性に優れているため、Agを用いることが望ましい。
【0027】
また、前記固体撮像装置は、さらに、前記光電変換素子と前記金属光学フィルタとの間に形成され、前記金属光学フィルタが形成される平坦な表面を有する誘電体膜を備えることが好ましい。
【0028】
この構成によれば、平坦化した誘電体上に金属膜が形成されることから、リソグラフィーを基礎とする開口形成工程において、より微細な開口およびより短い開口間距離を達成することができる。従って、より幅広い波長域において機能する光学フィルタを実現することが可能となる。
【0029】
また、前記固体撮像装置は、さらに、前記金属膜を構成する材料と同一材料で構成される金属配線を備えることが好ましい。
【0030】
この構成によれば、金属膜が金属配線と同一材料で構成されることから、製造プロセスの簡便化が可能となり低コストで光学フィルタを製造することが可能となる。
【0031】
さらに、前記金属光学フィルタは、前記金属配線を形成する工程と同一工程で形成されることが好ましい。
【0032】
この構成によれば、金属配線の形成工程と同一プロセスにおいて、金属配線形成と同時に一括して開口形成を行うことにより、プロセスの簡素化、低コスト化を実現することが可能となる。ここで、金属配線形成工程と金属光学フィルタ形成工程とを同一一括プロセスにすることから、金属配線と金属膜とは同一材料である方が望ましい。
【0033】
また、前記開口の幅は、前記金属光学フィルタの光が入射する側の面から前記光電変換素子側の面に向かって狭まることが好ましい。
【0034】
この構成によれば、開口をテーパー形状にすることで、複数のカットオフ波長を成立させることができるため、波長のカットオフ分解能が減少し、透過波長の帯域を広げることができる。従って、高感度で色むらの少ない画像を提供することが可能となる。
【0035】
さらに、前記金属膜の膜厚は1000nm以下であることが好ましい。
【0036】
この構成によれば、表面プラズモン共鳴による光透過の効率が向上するため、色分離能がよく、高感度な固体撮像装置を提供することが可能となる。
【0037】
前記金属光学フィルタには前記開口としてスリットが形成されることが好ましい。
【0038】
この構成によれば、開口としてのスリットの短辺方向と長辺方向とで、光の誘電応答が異なるため、透過光の偏光を分離すると同時に色分離が可能となる。従って、分光偏光子を搭載した固体撮像装置を実現できる。
【0039】
また、前記金属光学フィルタは、複数の開口が周期的に配置された第1の金属膜及び第2の金属膜から構成され、前記第1の金属膜及び第2の金属膜には、前記開口としてスリットが形成され、前記第1の金属膜のスリットの長辺方向と前記第2の金属膜のスリットの長辺方向とがなす角度は、90°であることが好ましい。具体的には、光電変換素子の上方に絶縁膜を挟んで少なくとも二枚の金属膜を有し、それぞれスリット状に貫通溝が周期的に設けられており、一枚目の金属膜上に形成された前記貫通溝の長辺方向と二枚目の金属膜に設けられた貫通溝の長辺方向とが90°の関係に位置し、一枚目の金属膜と二枚目の金属膜とが透過光に対して透明な絶縁膜を挟んで各画素上に形成されていることが好ましい。
【0040】
この構成によれば、より微細な格子状の開口を形成できることから、より光学フィルタの微細化が可能となり、より高精細高画質なカラー画像を得る固体撮像装置を実現できる。
【0041】
また本発明は、前記固体撮像装置を搭載したことを特徴とするカメラとすることもできる。
【0042】
この構成によれば、低コストでカラー画像を得るカメラを提供できるだけでなく、高い耐久性を有し、高精細高画質のカラー画像を得ることのできるカメラを提供することができる。
【発明の効果】
【0043】
本発明に係る固体撮像装置およびそれを搭載したカメラによれば、光学フィルタを金属膜にすることによって、光学フィルタの薄膜化、微細化が可能となり、色分離能が高い光学フィルタを実現できる。また同時に、耐久性が高い光学フィルタを実現できる。さらに、製造工程数および製造時間を減少させることが可能な光学フィルタを実現できる。従って、より安価で高精細高画質な画像を得ることができる固体撮像装置およびカメラを提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0044】
以下、本発明の実施の形態における固体撮像装置およびカメラについて、図面を参照しながら説明する。
【0045】
(第1の実施形態)
本形態に係る固体撮像装置では、受光した光を電気信号に変換するフォトダイオード等の光電変換素子(受光素子)の上方に絶縁膜を挟んで所望の波長の光を透過させる金属光学フィルタが形成されている。この金属光学フィルタは金属薄膜で形成された光学フィルタであって、金属光学フィルタでは複数の開口が二次元状に周期的に設置されている。なお、複数の開口は一次元状に配置されてもよい。
【0046】
以下、金属薄膜に設けられた二次元状に周期的に配列した開口に対しての光の振る舞いを、一つの開口に注目して説明した後、周期的に配列した複数の開口に着目した説明を行う。なお、金属薄膜の開口とは、金属薄膜に形成された凹部又は貫通穴をいう。
【0047】
良導体に設けられた開口に対しての光の振る舞いは導波管モデルで説明される。ここで光とはマクスウェル方程式に従う電磁波である。導波管は、壁面が金属などの良導体で作られている中空のパイプであり、断面の形状によって、方形導波管、円形導波管などに分類される。なお、導波管には、断面の構造寸法、具体的には導波管の開口の直径により特定される遮断周波数があり、それ以下の周波数では光が伝播できないという性質が一般的に知られている。この現象は主にマイクロ波帯の電磁波の伝送に応用されているが、光電変換素子が受光感度を有する周波数範囲の電磁波の伝送においても同様に適用できる。
【0048】
導波管に到着した電磁波は導波管方向と導波管方向に垂直な方向の二種類の定在波に分解される。つまり導波管内では、導波管に垂直な面で光の損失が少ない定在波が発生し、それが導波管方向へと進行する。導波管の開口の直径が光の波長に比べて十分大きい場合、多くの定在波が導波管内に発生することができるが、導波管の開口の直径が光の波長に比べて小さくなると、導波管内で定在波が発生することができず、光は遮断されてしまう。これは導波管の開口の形および直径によって導波管内に発生する最低次数の定在波の波長または周波数が決定されるからである。
【0049】
次の(1)式は、導波管の遮断波長λcutoffと導波管内を進行する光エネルギーの導波管内波長λgとの関係を示したものである。nは導波管内に充填された媒質の屈折率を示す。また入射光の波長をλとする。
【数1】

【0050】
この関係式より、遮断波長λcutoffよりも入射光の波長λが長くなった場合、方程式の整合性から導波管内波長λgが虚数を示すこととなる。この物理的意味は導波管内で光エネルギーが損失し伝播しないことを表している。
【0051】
遮断周波数または遮断波長λcutoffは、導波管の開口の形状に依存する。導波管方向に対して垂直な方向での定常波は、導波管の開口の形状と同様の膜の波動方程式を解くのと同様であり、ベッセル関数で表される。
【0052】
図1は、金属薄膜に設けた直径500nmの開口に対する光伝播の様子を350nm、500nm、600nmおよび700nmの波長の光に対して行った波動シミュレーションの結果である。等高線は電界強度を表している。Maxwellの方程式を二次元で解くシミュレーションであるが、開口の光遮断効果を良く再現している。
【0053】
図1から、500nmの開口に対して350nmの波長の光が入射した場合、光は金属薄膜を十分透過するが(図1(a))、波長が長くなるにしたがって、金属薄膜を透過しなくなることがわかる(図1(b)〜図1(d))。その結果、金属薄膜は金属薄膜に設けた開口によって決まる特定の波長、つまり遮断波長λcutoffよりも短い波長のみが透過する周波数のハイパスフィルタとして振舞うことがわかる。
【0054】
次に、周期的に配列した複数の開口に対しての光の振る舞いについて説明する。図2は、直径dの開口20を開口間距離(周期)aで二次元状に配列させた金属薄膜21の模式図を示す。なお、開口間距離aとは、所定の開口20の中心とそれに隣接する開口20の中心との距離である。所定の開口20に隣接する開口20とは、所定の開口20に最も近い距離に位置する開口20である。
【0055】
前述の導波管モデルによると、直径dで規定される遮断波長λcutoffよりも長い波長の光は、この金属薄膜21を透過することなく反射されてしまう。しかし、開口間距離aが入射光の波長λと同程度または入射光の波長λより短い場合、遮断波長λcutoffよりも長い波長の光でも金属薄膜21を透過する現象が「T. W. Ebbesen, H. J. Lezec, H. F. Ghaemi, T.Thio, and P. A. Wolff, Nature Vol. 391, 667 (1998)」に報告されている。この光の透過現象は、波長サイズで微細加工が施された金属薄膜21表面に表面プラズモンが励起され、金属薄膜21内を伝播し裏面から入射光と同様の周波数の光が放射されると説明されている。また、このような遮断波長λcutoffよりも長い波長の光が金属薄膜21を透過する現象を異常透過と呼んでいる。
【0056】
光の異常透過には、先述の表面プラズモンの励起が重要な役割を果たしている。通常、平坦な金属薄膜21に光を照射してもプラズモンの励起はなく、光は全反射される。しかし、金属薄膜21表面に照射する光の波長と同程度、もしくはそれより小さいサイズの開口20が金属薄膜21表面に二次元状に周期的に配列している場合、表面プラズモンの分散関係に開口20による周期性が組み込まれ、光によって表面プラズモンが励起できるようになる。開口20に挟まれた金属の内部で電子が光の電場によって振動し、同時に開口20を挟んで隣の金属でも同様に電子が振動する。これらが表面全体でカップリングし集団的励起子として振舞うと考えられる。このとき、光の異常透過における表面プラズモン周波数は、開口20の周期、金属薄膜21表面および開口20と接する誘電体の誘電率または屈折率に依存している。
【0057】
次の(2)式は、入射光の波数ベクトルk0およびその入射角θ0と、入射光により励起される表面プラズモンの波数ベクトルkspとの関係を表している。ここで、前述のように表面プラズモンの波数ベクトルkspは、開口間距離aと波数ベクトルk0とに関連づけられる。また次の(3)式は、表面プラズモン波長λspと、金属薄膜21および金属薄膜21に接する誘電体の誘電率(εm、εi)と、開口間距離aとの関係を表している。ここで、iおよびjを任意の整数とし、金属薄膜21の誘電率をεm、誘電体の誘電率をεiとしている。またEbbesen(Nature, Vol 391, 667, 1998)らの報告によると、開口間距離aと基板の比誘電率εrと入射光の波長λとの関係が次の(4)式で示す条件において、光透過が減少する節となり、(4)式で示す条件よりも入射光の波長λが長くなると、透過強度が増加する。
【数2】

【数3】

【数4】

【0058】
このように、金属薄膜21に複数の開口20を周期的に配列することによって、導波管モデルと表面プラズモン励起を介した光の異常透過との双方の効果より、特定の波長の光のみが金属薄膜21を透過することとなり、金属薄膜21は光学フィルタとして機能する。この金属薄膜21において光の透過領域は遮断波長λcutoffよりも長波長側であり、表面プラズモンの励起周波数に対応する表面プラズモン波長λspの光のみが透過する。この金属薄膜21は、可視光線領域、近赤外線領域、およびマイクロ波領域など紫外線よりも長波長であるすべての波長領域において光学フィルタとして機能する。
【0059】
例えば、図3(a)に示すように、直径650nmの開口20が650nmの開口間距離で周期的に設けられた金属薄膜21においては、図3(b)に示すような分光感度スペクトルが得られる。すなわち、510nmの遮断波長λcutoffと、580nmの表面プラズモン波長λspとが得られる。
【0060】
よって、少なくとも金属薄膜1枚のみで分光カラーフィルタを実現できることから、カラーフィルタの製造工程数が減少し、製造時間の短縮および製造コストの低減が可能なカラーフィルタを実現できる。また、従来の顔料タイプのカラーフィルタのように色調変化が生じないので、高い耐久性を持つカラーフィルタを実現できる。さらに、膜厚を薄くでき、微細化への対応が可能なカラーフィルタを実現できるので、画像の高精細化を実現できる。
【0061】
(第2の実施形態)
本実施形態に係る固体撮像装置は、光電変換素子が2次元状に配置され、金属光学フィルタが複数の光電変換素子のそれぞれに対応して2次元状に配置されているという点で第1の実施形態の固体撮像装置と異なる。具体的には、撮像される画像を構成する最小単位である画素ごとに光電変換素子が設けられ、それぞれの光電変換素子の上方に金属光学フィルタが形成されており、各画素単位で画素上部に開口が設けられているという点で異なる。
【0062】
画素ごとに光電変換素子上方に金属光学フィルタを設置することにより、各画素で異なる色信号を得るよう金属光学フィルタの分光特性を設計することができる。CCD型固体撮像装置やMOS型固体撮像装置などの固体撮像装置において、光電変換素子以外の領域への光照射は、偽信号の発生やノイズ源になるため、光電変換素子以外の領域に光が入り込まないように金属薄膜などで遮光している。従って、撮像領域において、光電変換素子などが形成された受光領域に到達することができる光の光路上のみに開口を設置して、それ以外の領域に開口形成は行わず、金属遮光膜とすることで、偽信号やノイズを防ぐための遮光膜としての機能と光学フィルタとしての機能を同時に兼ね備えたカラーフィルタを実現することができる。
【0063】
また、前述の表面プラズモン波長λspおよび導波管の遮断波長λcutoffで決められる光の透過領域を、各画素において異なるものにすることができるため、各々の画素から異なる色信号を得ることができる。従って、カラー画像の撮像が少なくとも金属薄膜1枚のみで実現できるので、カラーフィルタの製造工程が減少し、製造時間の短縮および製造コストの低減が可能なカラーフィルタを実現できる。
【0064】
(第3の実施形態)
本発明の第3の実施形態に係る固体撮像装置は、開口が円筒形状であるという点で第1又は第2の実施形態の固体撮像装置と異なる。
【0065】
前述の通り、開口の形状によって導波管の遮断波長λcutoffが変化する。また、開口に入射する光の偏光に対しても導波管内波長λgは異なる。よって、開口を円筒形状または円柱形状とし、開口の断面構造を円形にすることで、遮断波長λcutoffまたは導波管内波長λgが偏光方向に依存しないようにすることができる。この結果、あらゆる偏光方向の光に対して、同等のフィルタ機能を有する光学フィルタを実現できる。
【0066】
また、本実施の形態に係る固体撮像装置は、開口が千鳥状に配置されるという点で第1又は第2の実施形態の固体撮像装置と異なる。
【0067】
図4に金属光学フィルタの上面図を示す。
【0068】
図4より、同一直径で円形の開口20が千鳥状に配置されており、一つの開口20を中心にして、開口間距離aが同一の6つの開口20がその開口20を囲むように配置されていることがわかる。表面プラズモン共鳴における入射光の波数ベクトルk0と表面プラズモンの波数ベクトルkspとの関係より、光の異常透過は金属薄膜21に入射する光の偏光と開口間距離aに依存している。偏光依存性が少ない金属光学フィルタを形成するためには、偏光方向の依存性が最も少なくなるような開口20の周期的な配置が必要になる。千鳥状の配置であれば、開口20を最も密に配置することができ、六方向の周期性が同等であるため、偏光依存性の少ない優れた光学フィルタを実現できる。
【0069】
(第4の実施形態)
本実施形態に係る固体撮像装置は、金属薄膜の表面が絶縁体で被覆され、開口の内部が誘電体で被覆又は充填されているという点で第1〜3の実施形態の固体撮像装置と異なる。
【0070】
(3)式に示したように、表面プラズモン波長λspでもある異常透過光の波長は、開口間距離aや開口の形状や寸法だけでなく、金属薄膜の材料固有の物性と金属薄膜と接する材料の誘電率によって決まる。(3)式より、金属薄膜に接する誘電体の誘電率が大きくなるに従って表面プラズモン波長は大きくなることがわかる。つまり、特定の周波数の表面プラズモンを励起する場合において、金属薄膜に接する誘電体の誘電率が大きい方が誘電率の小さい材料に比べて、開口間距離aは大きくなる。その結果、光電変換素子が感度を有する波長範囲において、大きな誘電率を示す誘電体を金属薄膜の表面に堆積し、かつ開口の内部に充填することで、開口間距離aの微細化が必要なくなる。また、それと同時に同一微細化技術において、異常透過領域がより短波長まで広がることとなり、結果として幅広い波長領域で光学フィルタとして機能させることができる。
【0071】
また、透過効率を向上させるためには、大きな誘電率を示す誘電体を開口内部に充填させることが望ましい。金属薄膜を光が透過する際、光透過によって生じた電界による電束線は誘電体に集まる性質がある。金属は負の誘電応答より、電束線をはじく性質を持ち、金属薄膜と接する誘電体の誘電率が大きいと誘電体内の電束密度は増大する。これにより誘電率の大きい誘電体によって金属薄膜の表面を被覆し、かつ開口内部を充填することで、透過率の大きい光学フィルタを実現することができる。
【0072】
(第5の実施形態)
本実施形態に係る固体撮像装置は、複数の開口が二次元状に周期的に配列しており、開口間距離は金属光学フィルタが透過させる光の波長以下であり、また開口の寸法は金属光学フィルタが透過させる光の波長より小さく、開口寸法および開口間距離は、金属光学フィルタが透過させる光の波長に基づいて特定されているという点で第1〜4の実施形態の固体撮像装置と異なる。
【0073】
(2)〜(4)式からも分かるように、表面プラズモン共鳴による光の異常透過波長は、開口間距離aによって決定されるため、所望の波長の光を透過させる場合、開口間距離aは所望の波長以下にしなければならない。開口間距離aが所望の波長よりも長くなると、光に対して金属薄膜は平坦な表面を持つ金属薄膜と同様の光学的振る舞いを示す。これは、異常透過現象を示さなくなり、通常の金属薄膜と同様に電磁波を全反射することになる。よって、金属光学フィルタを光学フィルタとして機能させるためには、開口間距離aを金属光学フィルタが透過させる光の波長以下にしなければならない。
【0074】
次に、開口寸法について説明する。前述のとおり、開口寸法は遮断周波数を決めるため、所望の波長の光を透過させる場合、所望の波長よりも開口寸法は小さくしなくてはならない。可視光線領域を対象とする撮像装置であれば、開口寸法は透過波長である可視光線よりも小さくなくてはならない。よって、金属光学フィルタを光学フィルタとして機能させるためには、開口寸法を金属光学フィルタが透過させる光の波長より小さくしなければならない。
【0075】
以下で可視光線領域を撮像する固体撮像装置を例に説明する。
【0076】
CCD型固体撮像装置やMOS型固体撮像装置では、入射光はオンチップカラーフィルタによって光の三原色である赤(R)、緑(G)、青(B)の三つの波長領域の光に吸収分光透過される。固体撮像装置はこれらカラーフィルタの透過光から得られる色信号を用いて画像を構成している。ここで光の三原色であるR、G、Bの極大透過率を示す波長をそれぞれ480nm、530nm、および650nmと仮定すると、(4)式の条件よりも入射光の波長λが長い場合、光透過が観測されるため、各画素上部に設置する開口の開口間距離aを、R、G、Bに対してそれぞれ、480nm以下、530nm以下、650nm以下にしなければならない。従って、この場合には、図5のカラーフィルタの上面図に示すように開口間距離aの異なる金属光学フィルタがRを光電変換する画素、Gを光電変換する画素、およびBを光電変換する画素にそれぞれ配置される。このとき、開口を円形導波管とすると、開口寸法は300nm以下とされる。
【0077】
(第6の実施形態)
本実施形態に係る固体撮像装置は、金属薄膜がAg、PtまたはAuから構成されるという点で第1〜5の実施形態の固体撮像装置と異なる。
【0078】
金属光学フィルタを構成する金属材料の種類は透過光の波長を決める要因の一つであるだけでなく、異常透過光の透過率に大きく影響を及ぼす。材料の持つ誘電特性において、光の透過率を決める大きな要因の一つに複素誘電率の虚数部がある。そもそも誘電率とは、交流電界を印加した時の電束密度の応答を与える係数である。電束の電界に対する応答が同相であるような成分が実数部で表され、位相遅れがある成分が虚数部で表される。虚数部があるとインピーダンスに実数部が生じ、吸収や加熱が起きる。その結果、表面プラズモンとカップリングした光の電界の変化によって運動する電子に対して、インピーダンスが生じることで、熱的なエネルギー損失が引き起こされる。これは、透過率の減少を意味している。よって、複素誘電率の虚数部ができる限り小さいことが透過特性の高い光学フィルタの実現において必要である。Ag、PtまたはAuは、複素誘電率の虚数部が他の金属に比べて小さく、透過特性の優れた光学フィルタを実現することができる。
【0079】
(第7の実施形態)
本実施形態に係る固体撮像装置は、光電変換素子と金属光学フィルタとの間に形成された平坦化された誘電体膜上に、金属光学フィルタが形成されるという点で第1〜6の実施形態の固体撮像装置と異なる。また、金属薄膜が金属配線を構成する材料と同一材料で構成されるという点でも第1〜6の実施形態の固体撮像装置と異なる。さらに、金属光学フィルタが金属配線を形成する工程と同一工程で形成されるという点でも第1〜6の実施形態の固体撮像装置と異なる。
【0080】
ここでは、金属光学フィルタを搭載した固体撮像装置の製造工程を説明する。CCDおよびMOS型固体撮像装置のいずれにおいても、低コスト化を目指してシリコンプロセス上で金属光学フィルタを形成することが求められる。
【0081】
図6に金属光学フィルタの形成工程を説明するための斜視図を示す。ここでは二層アルミ配線の固体撮像装置を例としている。
【0082】
まず、画素部51と周辺回路部50とを電気的に分離する素子分離53と、光電変換素子63と、光電変換素子63からの電気信号を得るためのトランジスタ54とを半導体基板の拡散領域52に形成する。
【0083】
次に、半導体基板上に層間膜56を成膜した後、トランジスタ54および光電変換素子63と接続された金属プラグ55を層間膜56に形成する。
【0084】
次に、金属薄膜を層間膜56上に形成した後、金属薄膜をエッチングによりパターニングして一層目のアルミ配線57を形成する。
【0085】
次に、一層目のアルミ配線57および層間膜56上に層間膜58を成膜した後、一層目のアルミ配線57と接続された金属プラグ62を層間膜58に形成する。
【0086】
次に金属薄膜を層間膜58上に形成した後、金属薄膜をエッチングによりパターニングして二層目のアルミ配線59を形成する。
【0087】
次に、二層目のアルミ配線59および層間膜58上に絶縁膜60を成膜する。このとき絶縁膜60は平坦化工程をふまえて十分厚く成膜する。
【0088】
次に、絶縁膜60を平坦化する工程を行う。平坦化はエッチバック法やCMP(Chemical Mechanical Polishing)により行うのが一般的である。平坦性のばらつきを向上させるために、二層目のアルミ配線59形成のパターニングのマスクに対してポジ−ネガ反転マスクを利用して、アルミ配線が直下に存在し、絶縁膜60が盛り上がっているところをエッチングで盛り上がりを減らしてから絶縁膜60のCMPを実施することも多い。
【0089】
最後に、絶縁膜60の光電変換素子63上方に位置する部分上に金属光学フィルタ61を形成する。金属光学フィルタ61の形成では、光電変換素子63などの光検出器が検出しえる光の波長よりも小さいサイズでの微細加工が必要となるが、段差がある状態でのリソグラフィーの精度ではこの微細加工を達成し得ない。しかし、平坦化工程を導入することにより、リソグラフィーを利用して十分な微細加工が施された金属光学フィルタを作製することが可能となる。
【0090】
ここで、図7に示すように、金属光学フィルタ61を一層目のアルミ配線57と同じ材料で構成し、一層目のアルミ配線57の一部を用いて形成するのであれば、一層目のアルミ配線57形成のためのパターニングと金属光学フィルタ61形成のためのパターニングとを同一マスクで行えるため、平坦化工程は必要なくなる。
【0091】
この場合、金属薄膜を層間膜56上に成膜し、金属薄膜をパターニングして光電変換素子63上方に位置する金属光学フィルタ61と、それ以外の部分に位置する一層目のアルミ配線57とを同一工程(同一層)で形成する。そして、一層目のアルミ配線57、金属光学フィルタ61および層間膜56上に層間膜58を成膜し、層間膜58上に二層目のアルミ配線59を形成する。二層目のアルミ配線59を形成する際も微細加工を行うために、一層目のアルミ配線57および金属光学フィルタ61の上方に位置する層間膜58は平坦化される。よって、金属光学フィルタ61形成において、二層目のアルミ配線59のパターンと同一のマスクの画素部分に金属光学フィルタ61に必要なパターンをレイアウトすればよい。その後、金属薄膜にリソグラフィーを実施し、その後同一パターニングを行えば、プロセス工程を増やすことなくカラーフィルタを導入することが可能となる。
【0092】
なお、本実施の形態において、金属配線としてアルミ配線を例示したが、これに限られず、例えばタングステン配線であってもよい。
【0093】
(第8の実施形態)
本実施形態に係る固体撮像装置は、金属光学フィルタの開口が金属薄膜に形成された長方形状の貫通溝(スリット)であり、スリットの長辺は、金属光学フィルタが透過させる光の波長よりも長く、スリットの短辺は、金属光学フィルタが透過させる光の波長よりも短いという点で第1〜7の実施形態の固体撮像装置と異なる。
【0094】
図8(a)にスリットを有する金属光学フィルタの上面図を示す。また、図8(b)に同金属光学フィルタの断面図を示す。
【0095】
スリット71が金属薄膜72にエッチングにより形成されている。スリット71の短い辺をスリットの短辺73、長い方をスリットの長辺74、隣り合うスリット71の間隔をスリット間距離75とする。このように画素上にスリット構造を有する金属薄膜72を設けることで、スリットの長辺方向(スリット方向)に平行な偏光が反射され、スリット方向に対して垂直な偏光が透過されるため、各画素が偏光を分離して受光することが可能となる。スリットの短辺73が入射光の波長λに比べて大きい場合、スリット方向に平行な偏光成分は透過してしまうため、スリット方向の遮断波長λcutoffよりも長い波長の光のみが反射されることになる。従って、金属光学フィルタを偏光フィルタとして機能させるためには、スリットの短辺73が所望の遮断波長λcutoffよりも短く、スリットの長辺74が所望の遮断波長λcutoffよりも長くなければならない。遮断波長λcutoffよりも長波長領域において、スリット方向に平行な偏光は遮断され、スリット方向に垂直な偏光は透過する。よって、金属光学フィルタは、スリット構造によって決定される遮断波長よりも長波長側で偏光子として機能する。固体撮像装置に使用する金属光学フィルタのスリット71は、可視光領域においても十分な偏光分離能を有することが求められるため、スリット間距離75やスリットの短辺73は可視光線の波長領域に比べて十分小さいことが必要となる。例えば、スリット間距離75およびスリットの短辺73は200nm以下であることが望ましい。
【0096】
(第9の実施形態)
本実施形態に係る固体撮像装置は、金属光学フィルタが光電変換素子の上方に絶縁膜を挟んで形成された少なくとも二枚の金属薄膜から構成され、金属薄膜のそれぞれには開口としてのスリットが周期的に設けられており、一枚目の金属薄膜に形成されたスリットの長辺方向と二枚目の金属薄膜に設けられたスリットの長辺方向とが90°の関係に位置し、一枚目の金属薄膜と二枚目の金属薄膜とが透過光に対して透明な絶縁膜を挟んで各画素上に形成されているという点で第1〜8の実施形態の固体撮像装置と異なる。
【0097】
図9(a)に金属光学フィルタの上面図を示し、図9(b)に固体撮像装置の断面図を示し、図9(c)に金属光学フィルタを構成する一層目(下層)の金属薄膜81および二層目(上層)の金属薄膜83の斜視図を示す。
【0098】
金属光学フィルタを形成する工程では、まず一層目の金属薄膜81が形成され、スリット86aがエッチングにより一層目の金属薄膜81に形成された後、絶縁膜82が成膜され、二層目の金属薄膜83を形成するためのCMPやエッチバックなどの平坦化が絶縁膜82に実施される。そして、平坦で且つ透過光に対して透明である絶縁膜82の上に二層目の金属薄膜83が形成され、スリット86bがエッチングにより二層目の金属薄膜83に形成され、絶縁膜84が成膜される。
【0099】
金属光学フィルタでは、一層目の金属薄膜81および二層目の金属薄膜83のスリット方向は垂直な関係にあり、図9(a)の上面図のように光の進行方向に対して方形開口が形成される。この構成によれば、スリットにより決定される遮断波長λcutoffよりも長い波長の光は遮断され、分光することが可能となる。一層目の金属薄膜81および二層目の金属薄膜83のスリット方向は垂直な関係にあるため、一層目の金属薄膜81および二層目の金属薄膜83のスリット幅やスリット間距離が同一設計のものであれば、両者の遮断周波数は同一となる。
【0100】
金属光学フィルタでは、まず二層目の金属薄膜83が入射光に対して応答する。ここで、スリット方向と平行方向の光は反射されて、透過は遮断される。透過する光は二層目の金属薄膜83のスリット方向に対して垂直な偏光の光のみである。この光の偏光方向は一層目の金属薄膜81のスリット86aの長辺方向に対しては平行な関係になる。よって、二層目の金属薄膜83を透過した光も、一層目の金属薄膜81のカットオフ現象によって、遮断波長λcutoffよりも長い波長は反射されて透過を遮断される。この二枚の金属薄膜の効果により、どちらの偏光においても同一の遮断波長λcutoffで分光することが可能となる。
【0101】
このとき、表面プラズモン共鳴による光の異常透過により所望の波長の光を通過させるために、スリット86aおよび86bのスリット間距離は、その所望の波長以下にされる。
【0102】
通常の円形導波管による遮断効果を利用した金属光学フィルタの場合は、円形開口をリソグラフィーとエッチングによって作製しなければならない。しかし、波長の短い領域での円形開口の大きさは200nm程度と小さく、そのような小さなホールを形成することはプロセス技術的にばらつきな歩留まりの低下につながる。しかし、スリット構造はリソグラフィーおよびエッチングにおいても均一性良く、幅が200nm以下の微細なスリットも作製することが容易である。よって歩留まりを押さえ、さらに色分離能に優れたカラーフィルタを提供することができる。
【0103】
(第10の実施形態)
本実施形態に係る固体撮像装置は、金属光学フィルタの開口の幅が金属光学フィルタの光が入射する側の面から光電変換素子側の面に向かって狭まるという点で第1〜9の実施形態の固体撮像装置と異なる。
【0104】
図10(a)に開口91が形成された金属薄膜90の断面図を示す。
【0105】
開口91の直径(図10(a)のx方向の幅)は、図10(a)に示すように金属薄膜90の光の入射面側から徐々に狭くなっている。遮断波長λcutoffは開口91の直径によって決まるため、開口91をテーパー形状にすることで、複数の遮断波長λcutoffを成立させることができる。基本的にプラズモン共鳴による光の異常透過波長は開口間距離aによって強く制御されていることから、複数の遮断波長λcutoffを組み合わせることによって遮断したい波長領域を広げることが可能となる。
【0106】
なお、複数の遮断波長λcutoffを成立させることが目的であることから、連続的に開口91の直径が変化する必要はなく、図10(b)に示すように段階的に、つまり階段状に開口91の直径(図10(b)のx方向の幅)を小さくしてもよい。
【0107】
(第11の実施形態)
本実施形態に係る固体撮像装置は、金属薄膜の膜厚が1000nm以下であるという点で第1〜10の実施形態の固体撮像装置と異なる。
【0108】
プラズモン共鳴による光の異常透過は金属薄膜の表面で励起された表面プラズモンが裏面とカップリングし、裏面においても表面と同様、表面プラズモンが励起されることによる。よって、金属薄膜の膜厚が厚いと表面の電子運動が裏面とカップリングせず、表面プラズモン共鳴による光の透過率が減少する。従って、金属薄膜は、表面および裏面の表面プラズモン同士が共鳴し合う膜厚を有する必要がある。
【0109】
図11は、視感度のある可視光線の範囲で長波長側である700nmの光に対して、金属薄膜の膜厚と光の透過率との関係を示したグラフである。
【0110】
図11で示すように、金属薄膜の膜厚の増加にともなって、透過率は急激に減少する。従って、金属光学フィルタを可視光線領域でのイメージセンサーに適用する場合、金属薄膜の膜厚は1000nm以下であることが求められる。また、膜厚が厚いと開口の長さも当然長くなり、その結果、開口の側面でのインピーダンスによって光が減衰し、透過率が減少してしまう。ただし、金属薄膜の材料によって異なるが、金属薄膜の膜厚を薄くしすぎると材料固有の透過率によって光が透過し、分光できなくなるため、金属薄膜の厚さは100nm以上が望ましい。
【0111】
(第12の実施形態)
図12は、本実施の形態に係るデジタルカメラのブロック図である。
【0112】
このデジタルカメラは、第1〜11の実施形態の固体撮像装置を用いたカメラであって、レンズ200と、固体撮像装置201と、駆動回路202と、信号処理部203と、外部インターフェイス部204とからなる。
【0113】
上記構成を有するデジタルカメラにおいて、外部に信号が出力されるまでの処理は以下のような順序に沿っておこなわれる。
【0114】
(1)レンズ200を光が通過し、固体撮像装置201に入る。
(2)信号処理部203は、駆動回路202を通して固体撮像装置201を駆動し、固体撮像装置201からの出力信号を取り込む。
(3)信号処理部203で処理した信号を、外部インターフェイス部204を通して外部に出力する。
【0115】
以上説明したように、上記実施形態の金属光学フィルタによれば、表面プラズモン共鳴による異常透過現象によって、特定の波長の光を選択的に透過させることができる。また、金属薄膜で光学フィルタを構成するため、光学フィルタの薄膜化、微細化が可能となり、色分離能を保持しながら高い耐久性を実現できるばかりでなく、製造工程数および製造時間を減少させることができる。その結果、より安価で高精細高画質な画像を得ることができる固体撮像装置およびカメラを提供することが可能となる。
【0116】
以上、本発明の固体撮像装置およびカメラについて、実施の形態に基づいて説明したが、本発明は、この実施の形態に限定されるものではない。本発明の要旨を逸脱しない範囲内で当業者が思いつく各種変形を施したものも本発明の範囲内に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0117】
本発明は、固体撮像装置に利用でき、特に固体撮像装置のカラーフィルタ等に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0118】
【図1】(a)本発明の第1の実施形態に係る直径500nmの開口に入射した波長350nmの光の振る舞いを示す電界強度図である。(b)同実施形態に係る直径500nmの開口に入射した波長500nmの光の振る舞いを示す電界強度図である。(c)同実施形態に係る直径500nmの開口に入射した波長600nmの光の振る舞いを示す電界強度図である。(d)同実施形態に係る直径500nmの開口に入射した波長700nmの光の振る舞いを示す電界強度図である。
【図2】同実施形態に係る金属薄膜の斜視図である。
【図3】(a)同実施形態に係る金属薄膜の上面図である。(b)同実施形態に係る金属薄膜の分光感度スペクトルを示す図である。
【図4】本発明の第3の実施形態に係る金属光学フィルタの上面図である。
【図5】本発明の第5の実施形態に係るカラーフィルタの上面図である。
【図6】本発明の第7の実施形態に係る固体撮像装置の構成を示す斜視図である。
【図7】同実施形態に係る固体撮像装置の変形例の構成を示す断面図である。
【図8】(a)本発明の第8の実施形態に係る金属光学フィルタの上面図である。(b)同実施形態に係る金属光学フィルタの断面図(図8(a)のAA’線における断面図)である。
【図9】(a)本発明の第9の実施形態に係る金属光学フィルタの上面図である。(b)同実施形態に係る固体撮像装置の構造を示す断面図である。(c)同実施形態に係る一層目の金属薄膜および二層目の金属薄膜の斜視図である。
【図10】(a)本発明の第10の実施形態に係る金属薄膜の断面図である。(b)同実施形態に係る金属薄膜の変形例の断面図である。
【図11】本発明の第11の実施形態に係る金属薄膜の光透過率と金属薄膜の膜厚との関係を示す図である。
【図12】本発明の第12の実施形態に係るデジタルカメラのブロック図である。
【図13】従来の固体撮像装置の概略構成を示す図である。
【図14】従来の固体撮像装置の単位画素の構成を示す断面図である。
【符号の説明】
【0119】
13、56、58 層間膜
14 配線
15 カラーフィルタ
16 マイクロレンズ
20、91 開口
21、72、90 金属薄膜
50 周辺回路部
51 画素部
52 拡散領域
53 素子分離
54 トランジスタ
55、62 金属プラグ
57 一層目のアルミ配線
59 二層目のアルミ配線
60、82、84 絶縁膜
61 金属光学フィルタ
63 光電変換素子
71、86a、86b スリット
73 スリットの短辺
74 スリットの長辺
75 スリット間距離
81 一層目の金属薄膜
83 二層目の金属薄膜
104 イメージエリア
109 第1の垂直信号線
110 行選択回路
111 信号処理部
112 列選択回路
113 水平信号線
114 出力アンプ
115 負荷トランジスタ群
120 単位画素
121 フォトダイオード
122 読み出しトランジスタ
123 リセットトランジスタ
124 増幅トランジスタ
125 フローティングディフュージョン部
126 垂直選択トランジスタ
200 レンズ
201 固体撮像装置
202 駆動回路
203 信号処理部
204 外部インターフェイス部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光電変換素子と、
前記光電変換素子の上方に形成され、所望の波長の光を透過させる金属光学フィルタとを備え、
前記金属光学フィルタは、複数の開口が周期的に配置された金属膜から構成される
ことを特徴とする固体撮像装置。
【請求項2】
前記光電変換素子は、2次元状に配置され、
前記金属光学フィルタは、複数の前記光電変換素子のそれぞれに対応して2次元状に配置される
ことを特徴とする請求項1に記載の固体撮像装置。
【請求項3】
前記金属光学フィルタの開口は、円筒形状である
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の固体撮像装置。
【請求項4】
前記金属光学フィルタの複数の開口は、千鳥状に配置される
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の固体撮像装置。
【請求項5】
前記金属光学フィルタの表面は、誘電体で被覆され、
前記金属光学フィルタの開口内は、誘電体で被覆または充填されている
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の固体撮像装置。
【請求項6】
所定の前記開口と前記所定の開口に隣接する開口との距離は、前記所望の波長より短い
ことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の固体撮像装置。
【請求項7】
前記開口の寸法は、前記所望の波長より小さく、
所定の前記開口と前記所定の開口に隣接する開口との距離は、前記所望の波長より短い
ことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の固体撮像装置。
【請求項8】
前記金属膜は、銀(Ag)、白金(Pt)または金(Au)から構成される
ことを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の固体撮像装置。
【請求項9】
前記固体撮像装置は、さらに、前記光電変換素子と前記金属光学フィルタとの間に形成され、前記金属光学フィルタが形成される平坦な表面を有する誘電体膜を備える
ことを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の固体撮像装置。
【請求項10】
前記固体撮像装置は、さらに、前記金属膜を構成する材料と同一材料で構成される金属配線を備える
ことを特徴とする請求項1〜7及び9のいずれか1項に記載の固体撮像装置。
【請求項11】
前記金属光学フィルタは、前記金属配線を形成する工程と同一工程で形成される
ことを特徴とする請求項10に記載の固体撮像装置。
【請求項12】
前記開口の幅は、前記金属光学フィルタの光が入射する側の面から前記光電変換素子側の面に向かって狭まる
ことを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項に記載の固体撮像装置。
【請求項13】
前記金属膜の膜厚は、1000nm以下である
ことを特徴とする請求項1〜12のいずれか1項に記載の固体撮像装置。
【請求項14】
前記金属膜には、前記開口としてスリットが形成される
ことを特徴とする請求項1〜2及び8〜11のいずれか1項に記載の固体撮像装置。
【請求項15】
前記スリットの長辺は、前記所望の波長よりも長く、
前記スリットの短辺は、前記所望の波長よりも短い
ことを特徴とする請求項14に記載の固体撮像装置。
【請求項16】
前記金属光学フィルタは、複数の開口が周期的に配置された第1の金属膜及び第2の金属膜から構成され、
前記第1の金属膜及び第2の金属膜には、前記開口としてスリットが形成され、
前記第1の金属膜のスリットの長辺方向と前記第2の金属膜のスリットの長辺方向とがなす角度は、90°である
ことを特徴とする請求項10に記載の固体撮像装置。
【請求項17】
所定の前記開口と前記所定の開口と隣接する開口との距離は、前記複数の金属光学フィルタで異なる
ことを特徴とする請求項2に記載の固体撮像装置。
【請求項18】
請求項1〜17のいずれか1項に記載の固体撮像装置を搭載することを特徴とするカメラ。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図1】
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【公開番号】特開2008−177191(P2008−177191A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−6656(P2007−6656)
【出願日】平成19年1月16日(2007.1.16)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】