説明

固体燃料評価方法

【課題】 高炉原料用焼結鉱製造過程における発生NOxについて、高コスト、高負荷となる燃焼実験回数を減ずることが可能で、燃料の発生NOx量評価を簡便にすることを実現する評価方法を提案する。
【解決手段】 表面燃焼が主体である高発熱固体燃料の燃焼熱を利用する、鉄鉱石焼結鉱製造過程における発生NOxについて、該燃料中の窒素を化学構造解析し、含有される複数窒素化学構造種の比率を決定し、燃焼時の発生NOx量と比較することで、各窒素化学構造種比率と発生NOx量の関係を推定し、石炭中窒素化学構造解析によって発生NOx量の多寡を推定することを可能にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高炉原料用焼結鉱の製造過程において発生する窒素酸化物の発生量を固体燃料中の窒素化学構造から推定することにより、より簡便に固体燃料を評価する方法に関する発明である。
【背景技術】
【0002】
高炉を有する一貫製鉄所では、安価良質の銑鉄を安定的に生産することが最重要項目である。銑鉄を生産する高炉の主原料は鉄鉱石である。鉄鉱石は、一般的に粒径により塊鉱(>5mm)と粉鉱(≦5mm)とに分類される。通常、粉鉱は塊鉱に比べより安価である。しかしながら、粉鉱を高炉に直接投入した場合、炉内を密に充填してしまう。その結果、高炉操業において必須の、下方からの熱風の送風が阻害され、連続的な還元反応が滞るため、安定した銑鉄の生産を困難にする。
【0003】
そこで、粉鉱を、1200℃から1400℃程度の熱で焼き固めて、予め一定サイズ以上の粒径を持った焼結鉱を製造する、原料前処理方法が一般的に行われている(以下、この方法で焼結鉱を製造することを必要に応じて「焼結鉱製造」と称する)。
一般的に、主原料の鉄鉱石に、副原料の石灰・珪砂等と、熱源となる燃料とを、一定の比率で混合し、これらの混合物にバインダーとなる水等を加えて、回転ドラム等で造粒したものを焼結原料とする。焼結原料は、焼結機上に敷き詰められた後、バーナー等で上方の焼結原料に内装された燃料に着火する。燃料の燃焼熱は、その下方からの空気吸引によって伝熱し、順次燃料に着火する。これにより、焼結原料内で熱伝播が起き、焼結原料全体が焼結される。このような、焼結原料に内装された燃料の燃焼熱と、焼結原料の下方からの空気の吸引とによる、内熱下方吸引式による焼結鉱の製造が、高炉用焼結鉱の製造では一般的である。
【0004】
焼結鉱に求められる性能のうち最も重要なことは、高炉への運搬・投入落下時に粉化しない強度を焼結鉱が有していることである。焼結鉱の強度を増すためには、より高温での焼結鉱製造が有効であることが一般に知られている(非特許文献1を参照)。そのため、焼結鉱製造に用いられる燃料は通常、より発熱量が高い固体燃料である。このような固体燃料のなかでも、揮発分の少ない石炭乾留物や無煙炭が、焼結鉱製造に用いられる燃料として選ばれる(以下の説明では、この石炭乾留物を必要に応じて「コークス」と称する)。
【0005】
より一般的な固体燃料である石炭は、揮発分を一定量有し、その燃焼は、着火熱による熱分解で発生した可燃性ガスが燃焼する分解燃焼となる。これに対し、コークスや無煙炭は、そこに含有する揮発成分が極端に少なく、その燃焼は、表面燃焼という現象に分類される。この表面燃焼は、熱分解に発熱量を取られないことから、総じて高発熱量が得られる。しかしながら、表面燃焼を起こす燃料は、着火に高温が必要であることや、連続燃焼、完全燃焼が困難であるなど、石炭に比べ、工業的な用途は限られている。
【0006】
一方、焼結鉱製造時に発生する窒素酸化物(以下の説明では、窒素酸化物を必要に応じて「NOx」と称する)の量は、一貫製鉄所における全発生NOx量の半分を占める(非特許文献2を参照)。NOxは各種法律、条例により排出量の規制が定められており、環境負荷の低減のためにも、NOxの発生量をより減らすことが求められている。
燃焼時のNOxの発生には二種類の起源がある(非特許文献3を参照)。第一に、1500℃を超えるような、より高温の燃焼プロセスで、大気中の窒素を基に発生するNOxがある(以下の説明では、このNOxを必要に応じて「Thermal NOx」と称する)。第二に、1400℃以下の燃焼時に発生するNOxの大半を占める、燃料中の窒素を起源とするNOxがある(以下のNOxを必要に応じて「Fuel NOx」と称する)。より短時間に高濃度で発生する高温プロセス設備のThermal NOxを抑制するための対策として、脱硝設備が設置されてきたが、低温プロセスの設備では、脱硝設備が未設置の装置も多い(非特許文献4を参照)。また、相対的に問題となりやすい高温プロセスにおけるThermal NOxについては、燃焼解析や、それに伴う低NOxバーナーの開発(非特許文献5を参照)等を通じて、発生量そのものを低減するための、積極的な対策が採られてきたが、Fuel NOxについては、より低窒素含有の燃料を使う以外の手法は無かった(特許文献1を参照)。
【0007】
製鉄業において問題となる焼結鉱製造プロセスには、高発熱量の固体燃料が用いられているものの、発生熱は焼結原料の加熱に大半が利用される。このため、全体のプロセスとしては1200℃〜1400℃の燃焼プロセスと同じ燃焼プロセスでも低温プロセスであり、Fuel NOxがNOxの発生起因とされている(非特許文献6を参照)。
【0008】
ところで、近年、石炭中の窒素の化学構造と、高速乾留時の発生ガス種とNOxとの関係に注目した研究が行われており(非特許文献7を参照)、発生NOx量の推定が行われている。しかし、Fuel NOxの起源となる窒素の中でも、分解燃焼を想定した、揮発しやすい窒素化学種であるNH3やHCN(VM N)の発生と、それらのNOxまたはN2への経路を予測するに留まっており、揮発しにくく表面燃焼を想定したチャー窒素(Char N)と呼ばれる窒素の燃焼については、固体燃料から発生するNOxの量の推定はなされていない。
【0009】
焼結鉱製造過程では、表面燃焼が中心である。よって、燃焼時のNOx化の現象を明らかにするためには、チャー窒素との相関を決定、評価する手法が必要であった。また、窒素の化学構造とNOxとの関係に関する取り組みは、燃焼実験を伴っておらず、VM N、Char Nを問わず、固体燃料から実際に発生するNOxの量との相関は必ずしも明らかとなってはいなかった。
【0010】
したがって、石炭を主体とするプラント・設備からのNOxの発生はある程度予想できるものの、揮発分の少ない燃料から発生するNOxの発生量(例えば、無煙炭やコークス等のチャーの燃焼で熱を得るプロセス、すなわち、製鉄業における高炉原料用焼結鉱製造プロセスで発生するNOxの発生量)を予測することはできなかった。
また、化学構造等の予測によらず、固体燃料種を変えて発生NOx量を測定する、固体燃料の評価は、各燃焼プロセスを利用する部門で行われている。しかしながら、一般に、実機での評価はもちろん、燃焼実験を行うには一定量以上の燃料を準備する必要がある。このような大規模な実験を行うと、実機、燃焼実験共に高コストとなる。また、短期間での燃料の変更は、例えば連続プロセスでは高負荷となる。さらに、石炭乾留物を対象とした場合には、その原料である石炭が非常に多種にわたる。このため、全ての燃料の燃焼実験を行うことは現実的ではなく、燃焼実験を最小化できる燃料評価方法が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2005−290456号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】鉄鋼便覧 第4版,社団法人 日本鉄鋼協会
【非特許文献2】稲角忠弘著,叢書「鉄鋼技術の流れ 第2シリーズ」,第1巻,焼結鉱,(2000)
【非特許文献3】新井紀男監修,三浦隆利編,燃焼生成物の発生と抑制技術,(1997)
【非特許文献4】プロジェクトニュース社編,排煙脱硫・脱硝装置の現状IV,(2001)
【非特許文献5】牧野尚夫,他2名,火力原子力発電,48(6)(1997),p702
【非特許文献6】肥田正博,鉄と鋼,第68巻,(1982),p400
【非特許文献7】S.Kambara,Fuel,75(1995),p1247
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、高炉原料用の焼結鉱の製造に用いられる固体燃料の燃焼時に発生するNOxのうち、燃料中の揮発しにくい窒素(Char N)を起源とするNOxの発生量を推定する推定式を、窒素化学構造解析と、最小の燃焼実験の結果を用いて構築し、構築した推定式を用いて、焼結鉱の製造時に固体燃料から発生するNOxの発生量を評価する方法を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは焼結鉱製造における低NOx燃料評価方法提案のため、種々の検討を行った。その結果、石炭中の窒素化学構造と、固体燃料から発生する窒素酸化物(NOx)の割合に関する推定を、より少ない燃焼実験で評価式を決定することで、より簡便に燃料評価を可能とする下記(1)から(6)の特徴を持つ評価方法を開発した。
本発明の要旨は以下(1)〜(6)の通りである。
(1)高炉原料用の焼結鉱の製造過程で固体燃料から発生する窒素酸化物の発生量を推定する固体燃料評価方法であって、複数種類の標準燃料と前記固体燃料の窒素化学構造解析を行って、前記複数種類の標準燃料と前記固体燃料のそれぞれにおける、各種の窒素化学構造種の構造比率を求める構造比率導出工程と、前記複数種類の標準燃料に対して燃焼実験を行って、当該複数種類の標準燃料から発生する窒素酸化物の発生量を求める窒素酸化物発生量導出工程と、前記複数種類の標準燃料における窒素酸化物の発生量と、前記複数種類の標準燃料における窒素化学構造種の構造比率とを用いて、任意の構造比率を有する固体燃料の窒素酸化物の発生量を推定する推定式を求める推定式導出工程と、前記固体燃料における窒素化学構造種の構造比率から前記推定式を用いて前記固体燃料から発生する窒素酸化物の発生量を推定する窒素酸化物発生量推定工程と、を有することを特徴とする固体燃料評価方法。
(2)前記窒素酸化物発生量導出工程は、前記構造比率導出工程で構造比率が求められた、前記固体燃料における窒素化学構造種の数と同数の回数だけ前記標準燃料の燃焼実験を行い、前記推定式導出工程は、前記標準燃料の燃焼実験のそれぞれで得られた標準燃料の窒素酸化物の発生量と、前記複数種類の標準燃料における窒素化学構造種の構造比率とを用いて、前記推定式を求めることを特徴とする(1)に記載の固体燃料評価方法。
(3)前記推定式は、固体燃料中の窒素量と、窒素構造指標とを掛けた値を、固体燃料の窒素酸化物の発生量の推定値として導出する式であり、前記窒素構造指標は、固体燃料に含有する窒素が、固体燃料の燃焼時に窒素酸化物になる割合に相応する窒素構造指標であって、窒素化学構造種の構造比率と、当該窒素化学構造種の構造比率の重み付けパラメータとの積の線形結合式で表される窒素構造指標であることを特徴とする(1)または(2)に記載の固体燃料評価方法。
(4)前記推定式導出工程は、前記標準燃料の窒素濃度と前記固体燃料の窒素濃度とを測定する工程と、前記窒素構造指標に、前記窒素濃度から得られる固体燃料中の窒素量を乗じた値が、前記標準燃料の燃焼実験で発生した窒素酸化物の発生量に等しいと置いて連立方程式を立て、当該連立方程式から前記重み付きパラメータを決定する工程とを有することを特徴とする(3)に記載の固体燃料評価方法。
(5)前記構造比率導出工程は、前記複数種類の標準燃料と前記固体燃料について、XPS(X-ray Photoelectron Spectroscopy)法により窒素化学構造解析を行って得られる、窒素1s軌道のXPSスペクトルのうち、398.6eV〜399.0eV、400.0eV〜400.4eV、401.2eV〜401.6eV、402.3eV〜402.7eV、及び403.6eV〜404.0eVに中心が位置する5つのピークを有する領域を、前記各種の窒素化学構造種に帰属するものとし、全てのピークを有する領域の面積の総和に対する、各ピークを有する領域の面積の比率から、前記各種の窒素化学構造種の構造比率を求めることを特徴とする(1)〜(4)のいずれか1項に記載の固体燃料評価方法。
(6)前記固体燃料は、揮発分量が10質量%以下の石炭乾留物又は無煙炭であることを特徴とする(1)〜(5)のいずれか1項に記載の固体燃料評価方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明の固体燃料評価方法を用いることで、高炉原料用の焼結鉱の製造に用いられる固体燃料の燃焼時に発生するNOxのうち、燃料中の揮発しにくい窒素(Char N)を起源とするNOxの発生量を推定する推定式を、窒素化学構造解析と、最小の燃焼実験の結果を用いて構築し、構築した推定式を用いて、焼結鉱の製造時に固体燃料から発生するNOxの発生量を、より低コスト、低負荷で評価することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】窒素化学構造種のXPSスペクトルの一例を示す図である。
【図2】各コークスについての、燃焼実験から得られたNOxの発生量(NOx発生量)と構造指標から算出したNOxの発生量の推定値(構造指標×窒素濃度)との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、低NOx固体燃料評価方法の一実施形態の手順について説明する。なお、本実施形態では、固体燃料の一例として、石炭とその乾留物を代表として説明する。また、本実施形態では、窒素化学構造解析と燃焼実験とを行って固体燃料から発生するNOxの発生量を推定する場合を例に挙げて説明する。ただし、固体燃料の種類、各実験、解析手法は、以下に表記する手法に制限されるものではない。
【0018】
第一に、固体燃料中の窒素化学構造解析について説明する。
まず、対象とする燃焼プロセスにて主として用いられる固体燃料のうち、最も代表的なものを準備し標準サンプルとする。固体燃料は、例えば、揮発分が少ない(揮発分量が10質量%以下)の石炭乾留物又は無煙炭である。
続いて、標準サンプル、並びに、対象サンプルの窒素化学構造解析を行う。窒素化学構造解析の具体的な手法は問わないが、固体中の窒素化学構造解析の手法としてはXPS(X線光電子分光;X-ray Photoelectron Spectroscopy)法や、NMR(核磁気共鳴;Nuclear Magnetic Resonance)法が代表的である。ここでは、窒素化学構造解析の手法としてXPS法を用いた場合を例に挙げて説明する。
【0019】
まず、各サンプル(標準サンプル及び対象サンプル)を粉末化する。
次に、粉末化した各サンプルを、それぞれIn製等の清浄な基板上に圧着したり、ペレット化したりすること等により、粉末化した各サンプルがXPS測定に用いる真空チャンバー内で飛散しないように前処理を行う。
【0020】
次に、使用する装置の操作方法に従いN1s軌道のXPS測定を実施する。この際、C1s軌道を同時に測定することは、化学シフトの補正や、固体燃料中のN濃度の推定に有効である。また、固体燃料中の窒素の割合は、約1〜2質量%程度であり、固体燃料中の窒素は、比較的低濃度である。このため、良好なS/N比のスペクトルデータを得るには、その積算が必要となる。ただし、有機物であるサンプルは、サンプルに照射されるX線によって破壊が起こる可能性がある。このため、短時間の測定にするか、もしくは、低エネルギーでの測定が必要である。なお、本発明者らは、X線源の電流電圧値を、10A、15kV程度の比較的低エネルギーにすることで、長時間の測定でもサンプルの破壊が起きないことを確認している。
【0021】
以上のXPS法による測定で得られた各サンプルのスペクトルデータはそのまま未処理でも利用可能である。ただし、スペクトルデータに対して一般的なピーク分割を行い、窒素の化学構造を特定することが有効である。また、ピーク分割に用いる化学シフト値及びピーク幅等は、既報告のデータを利用することが可能である。ただし、各装置において標準となる物質の測定結果から、化学シフト値を確認することも有効である。さらには、化学構造種を想定して一般的な量子化学計算を用いて、化学シフト値を推定することも可能である。本発明者らは、市販の量子化学計算ソフトであるGaussianによって、標準とした窒素化学構造種であるピリジンに対する差分の形で、化学シフト値を求めることができることを確認している。
【0022】
図1は、窒素化学構造種のXPSスペクトル(光電子スペクトル)の一例を示す図である。本発明者らは、ピーク分割によって、窒素1s軌道のスペクトルから、398.6eV〜399.0eVに中心が位置するピークを有するスペクトル101を窒素含有六員環構造、400.0〜400.4eVに中心が位置するピークを有するスペクトル102を窒素含有五員環構造、401.2eV〜401.6eVに中心が位置するピークを有するスペクトル103を四級アミン構造、402.3eV〜402.7eV及び403.6eV〜404.0eVに中心が位置するピークを有するスペクトル104、105をその他の構造と推定し、ピークを有する全ての領域の面積値の総和に対する、各ピークを有する領域の面積の比率から窒素構造比率を決定することが有効であると確認している。図1では、スペクトル101、104の領域(398.6eV〜399.0eVに中心が位置するピークを有する領域、402.3eV〜402.7eVに中心が位置するピークを有する領域)を斜線で示している。このように各スペクトルの領域(ピークを有する領域)は、その領域に対するベースラインと、スペクトルとで囲まれる領域である。尚、スペクトル101、104の領域に対するベースラインは、図1に示す破線である。
【0023】
第二に、以上の手法によって窒素の化学構造種を決定した標準サンプルの燃焼実験を行い、標準サンプルから発生するNOxの発生量に関するデータを取得する。燃焼実験の具体的な手法は問わないが、焼結実機試験によって実データを得ることが望ましい。焼結実機試験によって実データを得ることが困難な場合には、可能な限り実際の燃焼場を再現した焼結鉱製造模擬実験を実施してデータを得る。焼結鉱製造模擬実験を行う際には、少なくとも、燃焼温度については、焼結実機試験と同等程度とすることが必須である。焼結鉱製造模擬実験としては、キログラムオーダーの試料を用いる焼結鍋試験が一般的である。ただし、下方からの空気の吸引により発生する焼結燃焼現象を模擬していれば、より少量の試料での実験や、グラムオーダーのラボ実験も有効である。その他、燃焼時の共存物質や酸素濃度を模擬することが有効である。さらには、可能であれば実機試験結果を用いることが望ましい。
【0024】
続いて、燃焼実験の結果から、固体燃料から発生するNOxの発生量を定量化する必要がある。固体燃料から発生するNOxの発生量を定量化するための最も有効な手法は、投入した固体燃料の量に対し、固体燃料から発生したNOxの総量を定量することである。NOxの発生量を定量する具体的な手法は問わない。本発明者らは、一般的な赤外分光法による、ガス連続測定によって、燃焼時に発生する代表的なNOxガスである、NO、NO2、N2Oの測定が可能であり、有効であることを確認している。
【0025】
NOxの発生量の定量には、まず、濃度が既知のNOxサンプルガスに対して赤外分光法による測定を行うことによって、NOxに相応するピークの強度と位置とを確認する。その後、燃焼実験時に発生したガスを赤外分光装置に連続的に導入して、当該ガスのスペクトルを測定する。燃焼実験の終了後、測定したスペクトルのピーク強度から、発生したガスの濃度を規定し、これにガスの発生時間を乗ずることで、ガスの総発生量を規定することが可能である。なお、この時、赤外分光装置に導入させるガスの量とその圧力の変動も同時に測定し、これらの測定値を利用することで、ガスの総発生量の精度を向上させることが可能となる。また、本発明者らは、一般的なガスクロマトグラフィー法によりガスの総発生量を測定することも、測定の連続性に劣るものの、感度の面では有効であることを確認している。一方で、大規模な模擬実験や、実機試験では、以上の手法で、ガスの総発生量を測定することは困難な場合が多い。よって、発生濃度の連続測定が可能な市販のNOxガス濃度分析装置によってNOxガスの濃度の測定を行い、その結果から、平均NOx排出レベルを決定し、その平均NOx排出レベルをNOxの発生量として用いることも可能である。
【0026】
第三に、以上の実験によって求めた「窒素の化学構造種と、NOxの発生量」から、NOx量の推定値(推定NOx量)を求めるための推定式を構築する。本実施形態における推定式は、固体燃料中の窒素量(燃料中窒素量)に、窒素構造指標を乗じるものである((式1)を参照)。固体燃料中の窒素量は、使用した固体燃料の総量と窒素濃度とで決定される。窒素濃度としては、一般的な工業分析値や、科学分析値等の代表値を用いることができる。ただし、より高い精度でNOx量の推定値を求める場合には、燃焼実験に用いた固体燃料そのものの分析値を用いることが望ましい。一方、窒素構造指標の求め方は、固体燃料によって異なる可能性が大いにあるが、本発明者らは、比較的簡単な「各窒素化学構造種の比率とその重み付けパラメータとを乗じたものを線形結合したもの((式2)を参照)」で、窒素構造指標を一般的に検討することが可能であることを確認している。
【0027】
推定NOx量=燃料中窒素量×窒素構造指標 ・・・(式1)
窒素構造指標=
[a×TypeA+b×TypeB+c×TypeC+d×TypeD+e×TypeE+・・・] ・・・(式2)
TypeA,TypeB,TypeC,・・・:各窒素化学構造種の比率
a,b,c,・・・:重み付けパラメータ
ただし、以下の(式3)を満足する必要がある。
TypeA+TypeB+TypeC+TypeD+TypeE+・・・・=1 ・・・(式3)
なお、(式1)において、推定NOx量の単位は、molであっても、質量、体積、又は質量%であっても、(式1)の右辺と左辺とで共通する単位であってもよい。
【0028】
続いて、重み付けパラメータを決定する。そこで、(式1)で得られる「固体燃料から発生するNOxの発生量の推定値(推定NOx量)」と、燃焼実験によって得られた「標準サンプルから発生するNOxの発生量」とを比較し、これらの値が最も合致するように、重み付けパラメータを決定することができる。また、線形連立方程式として、重み付けパラメータの厳密解を求めることが最も有効である。このようにする場合には、重みづけパラメータを決定しなければならない窒素化学構造種の数だけ、窒素化学構造種の比率が異なる標準サンプルの燃焼実験を行うことで、推定式を構築することが可能である。
【0029】
また、データのばらつきが大きく、窒素構造指標と、固体燃料から発生するNOxの発生量との直線性が得られない場合には、各重み付けパラメータを補正することも可能である。さらには、これらの直線性を最も重視する場合には、全ての標準サンプルから発生するNOxの発生量の推定値(推定NOx量)と、燃焼実験の結果から得られる標準サンプルのNOxの発生量の差分を取り、この差分が最も小さくなるよう最小自乗法等によって、各重み付けパラメータを決定することも有効である。
【0030】
以上の結果から、窒素化学構造解析により得られた「対象サンプルの各窒素化学構造種の比率」に、重み付けパラメータを乗じて窒素構造指標を求めることで、対象サンプルから発生するNOxの発生量の推定値(推定NOx量)を(式1)により算出すること可能となる。
なお、窒素構造指標は、推定式の形式上、固体燃料中の窒素のうち、NOxになる割合を表しており、以上の手順により、重み付けパラメータが決定されれば、各固体燃料の窒素化学構造種の比率から、NOxの発生割合として規定し評価することが可能となる。
また、以上の推定式の構築と推定NOx量の算出は、CPU、ROM、RAM、及びHDD等を備えたコンピュータを用いることにより実現することができる。
【実施例】
【0031】
次に、本発明の実施例を説明する。
本実施例では、揮発分の少ない固体燃料であるコークス(石炭乾留物)の燃焼を熱源とする、高炉原料用焼結鉱製造プロセスを想定した低NOx固体燃料を評価するため以下の実験を行った。
第一に、XPS法によって、評価プロセスにおいて標準的に用いられるコークス1、2、3、4(標準サンプル)と、対象サンプルとしてコークス5の窒素化学構造解析を行った。その結果、主に4種類の構造(TypeA〜D)に窒素化学構造種を分類することが可能であった。
次に、標準的に用いられているコークス1、2、3、4について、焼結燃焼場を模擬実験が可能な手法によって燃焼を行い、NOxガスをFT−IRによって検出すると共に定量を行った。なお、窒素構造指標を、各窒素化学構造種の比率と重み付けパラメータとの積の線形結合で求めることとし、重み付けパラメータをa、b、c、dとして決定することとし、燃焼実験を最小4回と設定した。各コークス1〜5中の窒素濃度[質量%]と、各窒素化学構造種の構造タイプ(TypeA〜D)と、その構造比率[%]と、を表1に示す。
【0032】
【表1】

【0033】
第二に、各窒素化学構造種の構造タイプの比率(TypeA〜TypeD)に重み付けパラメータ(a〜d)をつけた以下の(式4)による構造指標を想定した。
【0034】
構造指標=
[a×TypeA+b×TypeB+c×TypeC+d×TypeD] ・・・(式4)
【0035】
さらに、構造指標を決定するため、標準サンプルであるコークス1〜4について、構造指標に窒素濃度を乗じた値と、燃焼実験で得られたNOxガスの発生総量とを等しく置き、連立方程式を立てて、重み付けパラメータa、b、c、dを求めた。その結果a=0.18、b=0.08、c=0.52、d=0.22となった。本結果をコークス5の結果に適応すると、構造指標が0.089であった。この構造指標に、コークス5の窒素濃度を乗じると、コークス5から発生すると予測されるNOxの量(推定NOx量)が0.098程度となった。よって、コークス5は、推定NOx量が0.12を超える他の炭種に比べ、よりNOxの発生量が少なくなると評価することが可能であった。このように、使用する燃料単位(窒素量)あたりのNOxの発生量を予測することが可能となる。
【0036】
なお、確認のために、コークス5についても燃焼実験を行った結果、NOxの発生量は0.111程度であった。構造指標から算出した推定NOx量の結果と同様に、コークス4は、NOxの発生量が0.113を超える他のコークスよりもNOxの発生量が少ないことを示した。図2は、各コークス1〜5についての、燃焼実験から得られたNOxの発生量(NOx発生量)と構造指標から算出したNOxの発生量の推定値(構造指標×窒素濃度)との関係を示す図である。図2において、「1」、「2」、「3」、「4」、「5」で示されているプロットが、それぞれコークス1、2、3、4、5についての値を示す。図2に示すように、各コークス1〜5について、燃焼実験から得られたNOxの発生量が相対的に小さい(大きい)ものは、構造指標から算出したNOxの発生量の推定値も相対的に小さく(大きく)なる傾向があること(相関関係があること)が分かる。
以上のように、代表的な炭材の窒素化学構造解析と、最小回数の燃焼実験によって、構造指標を決定し、新たな炭材についても、構造解析のみで、燃焼後のNOxの発生割合を推定することが可能であることが示された。
【0037】
尚、以上説明した本発明の実施形態のうち、少なくとも、推定式の構築及び推定値の算出は、コンピュータがプログラムを実行することによって実現することができる。また、前記プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体及び前記プログラム等のコンピュータプログラムプロダクトも本発明の実施形態として適用することができる。記録媒体としては、例えば、フレキシブルディスク、ハードディスク、光ディスク、光磁気ディスク、CD−ROM、磁気テープ、不揮発性のメモリカード、ROM等を用いることができる。
また、以上説明した本発明の実施形態は、何れも本発明を実施するにあたっての具体化の例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその技術思想、またはその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
【符号の説明】
【0038】
101〜105 XPSスペクトル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高炉原料用の焼結鉱の製造過程で固体燃料から発生する窒素酸化物の発生量を推定する固体燃料評価方法であって、
複数種類の標準燃料と前記固体燃料の窒素化学構造解析を行って、前記複数種類の標準燃料と前記固体燃料のそれぞれにおける、各種の窒素化学構造種の構造比率を求める構造比率導出工程と、
前記複数種類の標準燃料に対して燃焼実験を行って、当該複数種類の標準燃料から発生する窒素酸化物の発生量を求める窒素酸化物発生量導出工程と、
前記複数種類の標準燃料における窒素酸化物の発生量と、前記複数種類の標準燃料における窒素化学構造種の構造比率とを用いて、任意の構造比率を有する固体燃料の窒素酸化物の発生量を推定する推定式を求める推定式導出工程と、
前記固体燃料における窒素化学構造種の構造比率から前記推定式を用いて前記固体燃料から発生する窒素酸化物の発生量を推定する窒素酸化物発生量推定工程と、
を有することを特徴とする固体燃料評価方法。
【請求項2】
前記窒素酸化物発生量導出工程は、
前記構造比率導出工程で構造比率が求められた、前記固体燃料における窒素化学構造種の数と同数の回数だけ前記標準燃料の燃焼実験を行い、
前記推定式導出工程は、
前記標準燃料の燃焼実験のそれぞれで得られた標準燃料の窒素酸化物の発生量と、前記複数種類の標準燃料における窒素化学構造種の構造比率とを用いて、前記推定式を求めることを特徴とする請求項1に記載の固体燃料評価方法。
【請求項3】
前記推定式は、
固体燃料中の窒素量と、窒素構造指標とを掛けた値を、固体燃料の窒素酸化物の発生量の推定値として導出する式であり、
前記窒素構造指標は、
固体燃料に含有する窒素が、固体燃料の燃焼時に窒素酸化物になる割合に相応する窒素構造指標であって、窒素化学構造種の構造比率と、当該窒素化学構造種の構造比率の重み付けパラメータとの積の線形結合式で表される窒素構造指標であることを特徴とする請求項1または2に記載の固体燃料評価方法。
【請求項4】
前記推定式導出工程は、
前記標準燃料の窒素濃度と前記固体燃料の窒素濃度とを測定する工程と、
前記窒素構造指標に、前記窒素濃度から得られる固体燃料中の窒素量を乗じた値が、前記標準燃料の燃焼実験で発生した窒素酸化物の発生量に等しいと置いて連立方程式を立て、当該連立方程式から前記重み付きパラメータを決定する工程とを有することを特徴とする請求項3に記載の固体燃料評価方法。
【請求項5】
前記構造比率導出工程は、
前記複数種類の標準燃料と前記固体燃料について、XPS(X-ray Photoelectron Spectroscopy)法により窒素化学構造解析を行って得られる、窒素1s軌道のXPSスペクトルのうち、398.6eV〜399.0eV、400.0eV〜400.4eV、401.2eV〜401.6eV、402.3eV〜402.7eV、及び403.6eV〜404.0eVに中心が位置する5つのピークを有する領域を、前記各種の窒素化学構造種に帰属するものとし、全てのピークを有する領域の面積の総和に対する、各ピークを有する領域の面積の比率から、前記各種の窒素化学構造種の構造比率を求めることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の固体燃料評価方法。
【請求項6】
前記固体燃料は、揮発分量が10質量%以下の石炭乾留物又は無煙炭であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の固体燃料評価方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−44018(P2013−44018A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−182551(P2011−182551)
【出願日】平成23年8月24日(2011.8.24)
【出願人】(000006655)新日鐵住金株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】