説明

固体状廃棄物中のセレンの固定化方法

【課題】 焼却灰や飛灰等の固体状廃棄物中にセレンが含有されている場合、金属捕集剤のみを添加して固体状廃棄物を処理する方法ではセレンを確実に固定化し難い。このため塩化第二鉄、硫酸アルミニウム、ポリ硫酸鉄等の添加剤を金属捕集剤と併用してセレンを固定化する方法も検討されたが、固体状廃棄物中のセレンを固定化するためには塩化第二鉄、硫酸アルミニウム、ポリ硫酸鉄等の添加剤を、固体状廃棄物重量の30重量%程度、あるいはそれ以上の量添加しなければならないという問題があった。
【解決手段】 本発明の固体状廃棄物中のセレンの固定化方法は、還元性の金属硫酸化物と金属捕集剤とを、セレンを含む固体状廃棄物に添加し固体状廃棄物中のセレンを固定化することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は固体状廃棄物中のセレンの固定化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゴミ焼却場等で生じる煤塵、鉱山から排出される鉱滓、廃水処理の際に用いられる活性汚泥、汚染された土壌等の固体状廃棄物中には種々の金属が含有されており、水銀、セレン、カドミウム、鉛、亜鉛、銅、クロム、砒素等の人体に有害な重金属が多量に含有されている場合も多い。これら固体状廃棄物から金属が溶出すると、地下水、河川、海水等が汚染される虞れがある。
【0003】
このため従来は、固体状廃棄物をセメントで固めた後、埋め立てて処理する方法が採用されていたが、海水や雨水と接触した際にセメント壁を通して海水中や土中に金属が溶出する虞れがあり、この方法は必ずしも安全な処理方法とは言えなかった。このため近年では、固体状廃棄物を埋め立てたり海洋投棄して処理するに先だって、固体状廃棄物中の金属を金属捕集能を有する化合物によって固定化し、固体状廃棄物中から金属が溶出しないように処理する方法が広く採用されている。このような固体状廃棄物の処理方法として本出願人は、例えば分子量500以上の高分子ヒドロキシル化合物から誘導される高分子キサントゲン酸化合物を固体状廃棄物に添加して処理する方法(特許文献1)、モノアミン類の窒素原子に結合したジチオカルバミン酸基を有するモノアミン誘導体と、ポリアミン類の窒素原子に結合したジチオカルバミン酸基を有するポリアミン誘導体及び/又はキサントゲン酸化合物との混合物を固体状廃棄物に添加して処理する方法(特許文献2)等を提案した。
【0004】
【特許文献1】特開平9−174020号公報
【特許文献2】特開平9−227855号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで近年、ガラスの脱色剤、半導体、光電池、コピー機の感光体、ふけ治療薬等の材料としてセレン化合物が広く用いられるようになっており、その使用量も増加している。特に日本はセレンの生産量が世界第1位、消費量は世界第2位の国であり、環境下に排出されるセレンによる環境汚染が深刻な問題となりつつあり、ゴミ焼却場等で生じる焼却灰や飛灰中にも多量に含有されるようになってきた。
【0006】
焼却灰や飛灰等の固体状廃棄物中のセレン(セレン酸やセレン塩として含有されているが、これらを総称して単にセレンと呼ぶ。)は、従来の金属捕集剤のみでは確実に固定化し難く、このため塩化第二鉄、硫酸アルミニウム、ポリ硫酸鉄等の添加剤を金属捕集剤と併用してセレンを固定化する方法も検討された。しかしながらこの方法も固体状廃棄物中のセレンを固定化するための方法として必ずしも満足のいくものではなく、塩化第二鉄、硫酸アルミニウム、ポリ硫酸鉄等の添加剤を、固体状廃棄物重量の30重量%程度、あるいはそれ以上の量添加しないと固体状廃棄物中のセレンを固定化できないため経済的な面でも問題があった。
【0007】
またゴミ焼却場等で生成した焼却灰や飛灰の容積を減少化させるために、焼却灰や飛灰を溶融処理する工程では、溶融炉内の温度が1500℃にも達することがあるため、焼却灰や飛灰を溶融処理した際に生じる溶融飛灰中には、4価のセレンの他に6価のセレンも含有されている。しかしながら6価のセレンは、4価のセレンよりも更に金属捕集剤による固定化が困難であるため、溶融飛灰中のセレンを確実に固定化することは従来非常に困難とされていた。
【0008】
本発明者等は、上記問題を解決するため鋭意研究した結果、還元性の金属硫酸化物と金属捕集剤とを併用することにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0009】
即ち本発明は、
(1)還元性の金属硫酸化物と金属捕集剤とを、セレンを含む固体状廃棄物に添加し固体状廃棄物中のセレンを固定化することを特徴とする固体状廃棄物中のセレンの固定化方法、
(2)固体状廃棄物が溶融飛灰である上記(1)記載の固体状廃棄物中のセレンの固定化方法、
を要旨とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の方法によれば、従来の金属捕集剤のみによる処理では困難であった、固体状廃棄物中のセレンを確実に固定化できる。また還元性の金属硫酸化物や金属捕集剤の使用量が少なくても確実にセレンを固定化でき、しかも従来の方法では固定化が非常に難しかった溶融飛灰中のセレンも確実に固定化することができる等の効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明において還元性の金属硫酸化物としては、硫酸第一鉄、硫酸第一銅、硫酸第一錫等が挙げられる。これらの中でも、硫酸第一鉄が好ましい。
【0012】
還元性の金属硫酸化物と共に用いる金属捕集剤としては、例えばジチオカルバミン酸型官能基、チオール型官能基、リン酸型官能基、カルボン酸型官能基等の、金属との錯形成能を有する官能基を有する化合物が用いられる。金属捕集剤は、1分子中に1種類の官能基を1個又は2個以上有するものでも、2以上の異なる官能基を2個以上有するものでも良い。
【0013】
ジチオカルバミン酸型官能基を有する金属捕集剤としては、モノアミンやポリアミン等のアミン類に二硫化炭素を反応させて得られる化合物が挙げられる。上記アミン類としては、例えばモノメチルアミン、モノエチルアミン、モノプロピルアミン、モノイソプロピルアミン、モノブチルアミン、モノイソブチルアミン等のモノアルキルアミン;ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、ジブチルアミン、ジイソブチルアミン、エチルメチルアミン、メチルプロピルアミン、イソプロピルメチルアミン、ブチルメチルアミン、イソブチルメチルアミン、エチルプロピルアミン、エチルイソプロピルアミン、ブチルエチルアミン、エチルイソブチルアミン、イソプロピルプロピルアミン、ブチルプロピルアミン、ブチルイソブチルアミン等のジアルキルアミン;エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ブチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、ジプロピレントリアミン、ジブチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、トリプロピレンテトラミン、トリブチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、テトラプロピレンペンタミン、テトラブチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、イミノビスプロピルアミン、モノメチルアミノプロピルアミン、メチルイミノビスプロピルアミン等の脂肪族アミン;モノメタノールアミン、モノエタノールアミン、モノプロパノールアミン、モノイソプロパノールアミン、モノブタノールアミン、モノイソブタノールアミン等のモノアルコールアミン;ジメタノールアミン、ジエタノールアミン、ジプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、ジブタノールアミン、ジイソブタノールアミン等のジアルコールアミン;メチルフェニルアミン、エチルフェニルアミン、フェニルプロピルアミン、イソプロピルフェニルアミン、ブチルフェニルアミン、イソブチルフェニルアミン等のアルキルフェニルアミン;モルホリン;2−メチルモルホリン、2−エチルモルホリン、2−プロピルモルホリン、2−イソプロピルモルホリン、2−ブチルモルホリン、2−イソブチルモルホリン、3−メチルモルホリン、3−エチルモルホリン、3−プロピルモルホリン、3−イソプロピルモルホリン、3−ブチルモルホリン、3−イソブチルモルホリン等のモノアルキルモルホリン;2,3−ジメチルモルホリン、2,5−ジエチルモルホリン、2−エチル−5−メチルモルホリン等のジアルキルモルホリン;2,3,5−トリメチルモルホリン、2,3−ジメチル−6−エチルモルホリン等のトリアルキルモルホリン;2,3,5,6−テトラエチルモルホリン、2−エチル−3,5,6−トリメチルモルホリン等のテトラアルキルモルホリン;ピペラジン;1−メチルピペラジン、1−エチルピペラジン、1−プロピルピペラジン、1−イソプロピルピペラジン、1−ブチルピペラジン、2−メチルピペラジン、2−エチルピペラジン、2−プロピルピペラジン、2−イソプロピルピペラジン、2−ブチルピペラジン、2−イソブチルピペラジン等のモノアルキルピペラジン;2,3−ジメチルピペラジン、2,5−ジエチルピペラジン、1,3−ジエチルピペラジン等のジアルキルピペラジン;2,3,5−トリメチルピペラジン、1,2,5−トリメチルピペラジン、2,3−ジメチル−5−エチルピペラジン等のトリアルキルピペラジン;2,3,5,6−テトラメチルピペラジン、1,3,5,6−テトラプロピルピペラジン、3−エチル−2,5,6−トリメチルピペラジン等のテトラアルキルピペラジン;ピロリジン;2−メチルピロリジン、2−エチルピロリジン、2−プロピルピロリジン、2−イソプロピルピロリジン、2−ブチルピロリジン、2−イソブチルピロリジン、3−メチルピロリジン、3−エチルピロリジン、3−プロピルピロリジン、3−イソプロピルピロリジン、3−ブチルピロリジン、3−イソブチルピロリジン等のモノアルキルピロリジン;2,3−ジメチルピロリジン、2,4−ジエチルピロリジン、2−エチル−3−メチルピロリジン等のジアルキルピロリジン;2,3,4−トリメチルピロリジン、2,3−ジメチル−5−エチルピロリジン等のトリアルキルピロリジン;2,3,4,5−テトラメチルピロリジン、2−エチル−3,4,5−トリメチルピロリジン等のテトラアルキルピロリジン;ピペリジン;2−メチルピペリジン、2−エチルピペリジン、2−プロピルピペリジン、2−イソプロピルピペリジン、2−ブチルピペリジン、2−イソブチルピペリジン、3−メチルピペリジン、3−エチルピペリジン、3−プロピルピペリジン、3−イソプロピルピペリジン、3−ブチルピペリジン、3−イソブチルチピペリジン、4−メチルピペリジン、4−エチルピペリジン、4−プロピルピペリジン、4−イソプロピルピペリジン、4−ブチルピペリジン、4−イソブチルピペリジン等のモノアルキルピペリジン;2,3−ジメチルピペリジン、2,5−ジエチルピペリジン、2,4−ジプロピルピペリジン、2−メチル−4−プロピルピペリジン等のジアルキルピペリジン;2,4,6−トリメチルピペリジン、2,4−エチル−6−プロピルピペリジン等のトリアルキルピペリジン;2,3,5,6−テトラメチルピペリジン、2,3,4,6−トリエチルピペリジン等のテトラアルキルピペリジン;2,3,4,5,6−ペンタメチルピペリジン、2,3,4,5,6−ペンタエチルピペリジン等のペンタアルキルピペリジン等が挙げられる。
またチオモルホリン;2−メチルチオモルホリン、2−エチルチオモルホリン、2−プロピルチオモルホリン、2−イソプロピルチオモルホリン、2−ブチルチオモルホリン、2−イソブチルチオモルホリン、3−メチルチオモルホリン、3−エチルチオモルホリン、3−プロピルチオモルホリン、3−イソプロピルチオモルホリン、3−ブチルチオモルホリン、3−イソブチルチオモルホリン等のモノアルキルチオモルホリン、2,3−ジメチルチオモルホリン、2,5−ジエチルチオモルホリン、2,6−ジプロピルチオモルホリン、2−エチル−3−メチルチオモルホリン、2−メチル−6−プロピルチオモルホリン等のジアルキルチオモルホリン;2,3,5−トリメチルチオモルホリン、2,3,6−トリエチルチオモルホリン等のトリアルキルチオモルホリン;2,3,5,6−テトラメチルチオモルホリン、2−エチル−3,5,6−トリメチルチオモルホリン等のテトラアルキルチオモルホリン;イミダゾリジン;1−メチルイミダゾリジン、1−エチルイミダゾリジン、1−プロピルイミダゾリジン、1−イソプロピルイミダゾリジン、1−ブチルイミダゾリジン、1−イソブチルイミダゾリジン、2−メチルイミダゾリジン、2−エチルイミダゾリジン、2−プロピルイミダゾリジン、2−イソプロピルイミダゾリジン、2−ブチルイミダゾリジン、2−イソブチルイミダゾリジン、3−メチルイミダゾリジン、3−エチルイミダゾリジン、3−プロピルイミダゾリジン、3−イソプロピルイミダゾリジン、3−ブチルイミダゾリジン、3−イソブチルイミダゾリジン、4−メチルイミダゾリジン、4−エチルイミダゾリジン、4−プロピルイミダゾリジン、4−イソプロピルイミダゾリジン、4−ブチルイミダゾリジン、4−イソブチルイミダゾリジン、5−メチルイミダゾリジン、5−エチルイミダゾリジン、5−プロピルイミダゾリジン、5−イソプロピルイミダゾリジン、5−ブチルイミダゾリジン、5−イソブチルイミダゾリジン等のモノアルキルイミダゾリジン;2,3−ジメチルイミダゾリジン、2,5−ジエチルイミダゾリジン、4,5−ジプロピルイミダゾリジン、1−メチル−4−プロピルイミダゾリジン等のジアルキルイミダゾリジン;2,4,5−トリメチルイミダゾリジン、3,4−ジエチル−5−プロピルイミダゾリジン等のトリアルキルイミダゾリジン;2,3,4,5−テトラメチルイミダゾリジン、1,2,4,5−テトラメチルイミダゾリジン等のテトラアルキルイミダゾリジン;ピラゾリジン;1−メチルピラゾリジン、1−エチルピラゾリジン、1−プロピルピラゾリジン、1−イソプロピルピラゾリジン、1−ブチルピラゾリジン、1−イソブチルピラゾリジン、2−メチルピラゾリジン、2−エチルピラゾリジン、2−プロピルピラゾリジン、2−イソプロピルピラゾリジン、2−ブチルピラゾリジン、2−イソブチルピラゾリジン、3−メチルピラゾリジン、3−エチルピラゾリジン、3−プロピルピラゾリジン、3−イソプロピルピラゾリジン、3−ブチルピラゾリジン、3−イソブチルピラゾリジン、4−メチルピラゾリジン、4−エチルピラゾリジン、4−プロピルピラゾリジン、4−イソプロピルピラゾリジン、4−ブチルピラゾリジン、4−イソブチルピラゾリジン、5−メチルピラゾリジン、5−エチルピラゾリジン、5−プロピルピラゾリジン、5−イソプロピルピラゾリジン、5−ブチルピラゾリジン、5−イソブチルピラゾリジン等のモノアルキルピラゾリジン;3,4−ジメチルピラゾリジン、3,5−ジエチルピラゾリジン、2,5−ジプロピルピラゾリジン、3−メチル−5−プロピルピラゾリジン等のジアルキルピラゾリジン;3,4,5−トリメチルピラゾリジン、2,4−ジエチル−5−プロピルピラゾリジン等のトリアルキルピラゾリジン;2,3,4,5−テトラメチルピラゾリジン、1,4−ジエチル−3,5−ジプロピルピラゾリジン等のテトラアルキルピラゾリジン;ピロール;2−メチルピロール、2−エチルピロール、2−プロピルピロール、2−イソプロピルピロール、2−ブチルピロール、2−イソブチルピロール、3−メチルピロール、3−エチルピロール、3−プロピルピロール、3−イソプロピルピロール、3−ブチルピロール、3−イソブチルピロール等のモノアルキルピロール;2,3−ジメチルピロール、2,5−ジエチルピロール、2,4−ジプロピルピロール、2−エチル−4−メチルピロール、2−メチル−3−プロピルピロール等のジアルキルピロール;2,3,4−トリメチルピロール、2,3,5−トリエチルピロール等のトリアルキルピロール;2,3,4,5−テトラメチルピロール、2−エチル−3,4,5−トリメチルピロール等のテトラアルキルピロール;イミダゾール;2−メチルイミダゾール、2−エチルイミダゾール、2−プロピルイミダゾール、2−イソプロピルイミダゾール、2−ブチルイミダゾール、2−イソブチルイミダゾール、4−メチルイミダゾール、4−エチルイミダゾール、4−プロピルイミダゾール、4−イソプロピルイミダゾール、4−ブチルイミダゾール、4−イソブチルイミダゾール、5−メチルイミダゾール、5−エチルイミダゾール、5−プロピルイミダゾール、5−イソプロピルイミダゾール、5−ブチルイミダゾール、5−イソブチルイミダゾール等のモノアルキルイミダゾール、2,4−ジメチルイミダゾール、2,5−ジエチルイミダゾール、2,4−ジプロピルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−メチル−5−プロピルイミダゾール等のジアルキルイミダゾール;2,4,5−トリメチルイミダゾール、2,4,5−トリエチルイミダゾール等のトリアルキルイミダゾール;ピラゾール;3−メチルピラゾール、3−エチルピラゾール、3−プロピルピラゾール、3−イソプロピルピラゾール、3−ブチルピラゾール、3−イソブチルピラゾール、4−メチルピラゾール、4−エチルピラゾール、4−プロピルピラゾール、4−イソプロピルピラゾール、4−ブチルピラゾール、4−イソブチルピラゾール、5−メチルピラゾール、5−エチルピラゾール、5−プロピルピラゾール、5−イソプロピルピラゾール、5−ブチルピラゾール、5−イソブチルピラゾール等のモノアルキルピラゾール、3,4−ジメチルピラゾール、3,5−ジエチルピラゾール、3,4−ジプロピルピラゾール、3−エチル−5−メチルピラゾール等のジアルキルピラゾール;3,4,5−トリメチルピラゾール、3,4,5−トリエチルピラゾール等のトリアルキルピラゾール;フェニレンジアミン、o−,m−,p−キシリレンジアミン、3,5−ジアミノクロロベンゼン、アニリン等の芳香族アミン;1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン等のシクロアルカン系ポリアミン;ポリエチレンイミン、ポリプロピレンイミン、ポリ−3−メチルプロピルイミン、ポリ−2−エチルプロピルイミン等の環状イミン重合体;ポリビニルアミン、ポリアリルアミン等の不飽和アミンの重合体が挙げられる。また、ビニルアミン、アリルアミン等の不飽和アミンと、ジメチルアクリルアミド、スチレン、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸、メタクリル酸、スチレンスルホン酸等及びその塩類等の、不飽和アミンと共重合可能な不飽和結合を有する他のモノマーとの共重合体も挙げられる。これらは2種以上の混合物を用いることもできる。
【0014】
上記アミン類は、ヒドロキシアルキル基、アシル基、アルキル基等をN−置換基として有するものでも良い。N−ヒドロキシアルキル置換基は、上記アミン類と、エポキシアルカンとを反応させることにより導入することができ、N−アシル置換基は、上記アミン類と、脂肪酸類を反応させることにより導入され、またN−アルキル置換基は上記アミン類と、ハロゲン化アルキルを作用させることにより導入される。N−ヒドロキシアルキル置換基は、アルキル基の炭素数が2〜28であることが好ましく、N−アシル置換基は炭素数2〜26であることが好ましい。またN−アルキル置換基は炭素数2〜22であることが好ましい。
【0015】
更に上記アミン類とエピハロヒドリンとが重縮合した重縮合ポリアミン、重縮合ポリエチレンイミンも使用できる。エピハロヒドリンとしては、エピクロルヒドリン、エピブロモヒドリン、エピヨードヒドリン等が挙げられる。尚、アミン類としては、窒素原子に結合した活性水素原子を有し、二硫化炭素を反応せしめてジチオカルバミン酸基を形成し得るものであれば、上記した以外のものであっても良い。
【0016】
上記アミン類へのヒドロキシアルキル基、アシル基、アルキル基等のN−置換基導入反応や、アミン類とエピハロヒドリンとの重縮合反応は、アミン類と二硫化炭素との反応の前に行っても後に行っても良いが、二硫化炭素との反応を行う前に行う場合には、アミン類にN−置換基を導入したり、アミン類とエピハロヒドリンとの重縮合を行った後において、二硫化炭素と反応してジチオカルバミン酸基が形成できるだけの活性水素原子がアミン類中に残存している必要がある。
【0017】
アミン類と二硫化炭素との反応は、例えばアミン類を、水、アルコール等の溶媒に溶解させ、これに二硫化炭素を添加して反応させる等の方法により行うことができる。ジチオカルバミン酸型官能基は酸型であっても塩型であっても良く、上記反応終了後、アルカリ金属の水酸化物や炭酸塩(例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等)や、アルカリ土類金属の水酸化物や炭酸塩(例えば水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等)、或いはアンモニア等のアルカリで処理するか、アミン類と二硫化炭素との反応を、これらのアルカリの存在下で行うことにより、塩型のジチオカルバミン酸型官能基を有する金属捕集剤とすることができる。
【0018】
上記ジチオカルバミン酸基を有する金属捕集剤のうち、ジメチルジチオカルバミン酸やその塩、ジエチルジチオカルバミン酸やその塩、エチレンジアミン−ポリジチオカルバミン酸やその塩、ジエチレントリアミン−ポリジチオカルバミン酸やその塩、トリエチレンテトラミン−ポリジチオカルバミン酸やその塩、テトラエチレンペンタミン−ポリジチオカルバミン酸やその塩、ポリエチレンイミン−ポリジチオカルバミン酸やその塩が好ましい。
【0019】
チオール型官能基を有する金属捕集剤としてはチオ尿素、水硫化ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム等が挙げられる。また上記アミン類と、チオ尿素、アルデヒド化合物とを反応させて得られる化合物も挙げられる。
【0020】
リン酸型官能基を有する金属捕集剤としては、上記したと同様のアミン類にアルデヒド類及び亜リン酸類と反応させて得られる化合物が挙げられる。カルボン酸型官能基を有する金属捕集剤としては、例えば、上記したと同様のアミン類に、モノハロゲン化カルボン酸やそのエステルと反応させることにより得られるカルボン酸基を有する化合物が挙げられる。上記リン酸型官能基を有する化合物、カルボン酸型官能を有する化合物は、いずれも官能基が酸型(末端が水素原子)であっても、塩型であっても良く、また両方を含むものでも良い。塩型のカルボン酸基としては、バリウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、アミン塩等が挙げられるが、通常はナトリウム塩、カリウム塩が好ましい。リン酸型官能基を有する化合物も、カルボン酸型官能基を有する化合物も、1分子中に酸型の官能基と塩型の官能基の両方を有するものでも、酸型の官能基のみを有するものでも、塩型の官能基のみを有するものでも良く、またこれらの1種又は2種以上の混合物を用いることができる。
【0021】
本発明において、金属捕集剤としては市販のものを使用することもできる。市販の金属捕集剤としては、例えば、アッシュクリーンC−500、アッシュクリーンC−508、アッシュクリーンC−505(株式会社 荏原製作所)、アッシュナイトS−803(栗田工業株式会社)、TX−10、TS−500、TS−600、TS−800、(東ソー株式会社)、アルサイトL-105(不二サッシ株式会社)、コウエイキレート200(ラサ晃栄株式会社)、アッシュエースL−5000(日立造船株式会社)、UML−7200、UML−8100、UML−8100A(ユニチカ株式会社)、ALM−648HG、ハイジオン−VG(日本曹達株式会社)、ミヨシ油脂株式会社製のエポフロックシリーズ(エポフロックL−1、エポフロックL−2等)、エポルバシリーズ(NEWエポルバ800、NEWエポルバ800A、NEWエポルバ810等)、エポアッシュM−1等が挙げられる。
【0022】
異なる2以上の官能基を有する金属捕集剤は、1つの官能基を導入した後、他の官能基を導入する等の方法で得ることができる。例えばジチオ酸型官能基とチオール型官能基の両方を有する金属捕集剤は、上記アミン類とチオ尿素等とアルデヒド化合物とを反応させた後、アルカリの存在下で二硫化炭素を反応させることにより得ることができる。本発明において上記金属捕集剤は2種以上を混合して用いることができる。
【0023】
還元性を有する金属硫酸化物と、上記金属捕集剤の固体状廃棄物への添加量は、固体状廃棄物中に含まれる金属量にもよるが、通常は固体状廃棄物100重量部に対し、金属硫酸化物1〜15重量部、金属捕集剤0.1〜30重量部である。
【0024】
本発明の廃棄物処理剤による処理対象となる固体状廃棄物としては、例えばゴミ焼却場において生成する焼却灰や煤塵、鉱滓、汚泥、土壌、シュレッダーダスト、ゴミ焼却場等において生じた焼却灰や煤塵を加熱溶融した際に生じる溶融飛灰等が挙げられる。固体状廃棄物が、集塵された焼却灰や煤塵あるいは溶融飛灰の場合や、鉱滓、汚泥、土壌、シュレッダーダスト等の場合、これらの廃棄物に本発明の処理剤を粉末状で添加したり、水溶液等として添加したり噴霧し、混練する等の方法により処理することができる。また煤塵、溶融飛灰の場合、ゴミ等を焼却する際の焼却工程や、焼却灰や煤塵を加熱溶融する溶融工程において、例えば煙道中で、還元性金属塩化物、金属捕集剤のいずれか一方と排煙とを接触させ、次いで排煙中の煤塵、溶融飛灰をバグフィルター等で集塵した後、還元性金属塩化物、金属捕集剤のうちのもう一方を添加して混練する等の方法も採用できる。
【0025】
本発明方法で処理した後の飛灰、鉱滓、土壌、汚泥等の固体状廃棄物を、埋め立て、海洋投棄等の方法で最終処分するに際し、必要に応じて処理後の廃棄物をセメントで固めてから最終処分しても良い。
【0026】
本発明方法は、固体状廃棄物中のセレン(固体状廃棄物中ではセレン酸として存在している。)を固体状廃棄物中から溶出しないように金属捕集剤によって確実に固定化することができるが、セレン以外の水銀、鉛、カドミウム、亜鉛、クロム、銅、砒素等の金属も同時に固定化することができる。
【実施例】
【0027】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。尚、以下の実施例、比較例において、金属捕集剤としては以下のものを使用した。
【0028】
金属捕集剤A:ジエチルジチオカルバミン酸ナトリウム
金属捕集剤B:N,N′−ジメチルエチレンジアミンジチオカルバミン酸ナトリウム
金属捕集剤C:テトラエチレンペンタミン1モルあたり、チオ尿素1.5モル、ホルムアルデヒド1.5モルを反応させた後、二硫化炭素2.5モルを水酸化ナトリウムの存在下で反応させ、テトラエチレンペンタミンの窒素原子にチオ尿素基を1.5個(平均)ジチオ酸基のナトリウム塩2.5個(平均)を導入した化合物
金属捕集剤D:テトラエチレンペンタミン−テトラジチオカルバミン酸ナトリウム
金属捕集剤E:ポリエチレンイミン−ポリジチオカルバミン酸ナトリウム(エチレンイミン1ユニットあたり、二硫化炭素0.7モル付加)
【0029】
実施例1〜5、比較例1〜5
水銀4.3mg/kg、鉛2300mg/kg、セレン73mg/kgを含む煤塵100g当たりに対し、表1に示す金属硫酸化物と水を添加し(比較例では還元性金属硫酸化物を添加せず)、80℃で10分間混練後、同表に示す金属捕集剤を添加し、80℃で10分間混練した。次いで処理済の煤塵と未処理の煤塵各50gを、純水500ml中で常温にて6時間浸とうして金属の溶出試験を行った。純水中に溶出した金属の濃度を原子吸光分析法によって測定した結果を表1に示す。
【0030】
【表1】

【0031】
比較例6
実施例1〜5で用いたと同様の煤塵100g当たりに対し、塩化第二鉄10gと水を添加混練後、金属捕集剤Aを3gを添加し、実施例1〜5と同様に処理した。次いで処理後の煤塵からの金属溶出試験を実施例1〜5と同様にして行った。結果を表1にあわせて示す。
【0032】
実施例6〜10、比較例7〜11
鉛1800mg/kg、全クロム52mg/kg、セレン130mg/kgを含有する鉱滓100g当たりに対し、表2に示す還元性金属硫酸化物と水を添加し(比較例では還元性金属硫酸化物を添加せず)、20℃で10分間混練後、金属捕集剤と水を添加して20℃で10分間混練した。次いで処理済の鉱滓と未処理の鉱滓各50gを用い、実施例1〜5と同様にして金属溶出試験を行った。溶出した金属の濃度を原子吸光分析法によって測定した結果を表2に示す。
【0033】
【表2】

【0034】
比較例12
実施例6〜10で用いたと同様の鉱滓100g当たりに対し、塩化第二鉄10gと水を添加混練後、金属捕集剤Bを1gと水を添加し、実施例6〜10と同様に処理した。次いで処理後の鉱滓からの金属溶出試験を実施例1〜5と同様にして行った。結果を表2にあわせて示す。
【0035】
実施例11〜15、比較例13〜17
鉛8600mg/kg、全クロム299mg/kg、水銀24mg/kg、セレン250mg/kgを含有する溶融飛灰100g当たりに対し、表3に示す還元性金属硫酸化物と水を添加し(比較例では還元性金属硫酸化物を添加せず)、80℃で10分間混練した後、金属捕集剤と水を添加し、80℃で10分間混練した後、常温で40分間養生した。次いで処理済の溶融飛灰と未処理の溶融飛灰各50gを用い、実施例1〜5と同様にして金属溶出試験を行った。溶出した金属の濃度を原子吸光分析法によって測定した結果を表3に示す。
【0036】
【表3】

【0037】
比較例18
実施例11〜15で用いたと同様の溶融飛灰100g当たりに対し、塩化第二鉄10gと水を添加混練後、金属捕集剤Dを10gと水を添加し、実施例11〜15と同様に処理した。次いで処理後の溶融飛灰からの金属溶出試験を実施例1〜5と同様にして行った。結果を表3にあわせて示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
還元性の金属硫酸化物と金属捕集剤とを、セレンを含む固体状廃棄物に添加し固体状廃棄物中のセレンを固定化することを特徴とする固体状廃棄物中のセレンの固定化方法。
【請求項2】
固体状廃棄物が溶融飛灰である請求項1記載の固体状廃棄物中のセレンの固定化方法。

【公開番号】特開2006−95356(P2006−95356A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−281197(P2004−281197)
【出願日】平成16年9月28日(2004.9.28)
【出願人】(000114318)ミヨシ油脂株式会社 (120)
【Fターム(参考)】