説明

固体酸化物型燃料電池用空気極材料および固体酸化物型燃料電池

【課題】SOFCの動作温度を低下させることによる出力電圧の低下を抑制できるSOFCを提供できるSOFC用空気極材料を提供する。
【解決手段】空気極1と、燃料極2と、空気極1と燃料極2との間に配置された電解質層3とを備え、前記空気極1が、集電層1aと集電層1aの電解質層3側に配置された活性層1bとを含む固体酸化物型燃料電池の活性層1bに用いられる空気極材料であり、APr1−x (AはBa, Sr, Caから選ばれた1種であり、BはSm,Gd,Y,Yb,Scから選ばれた1種であり、Xは0以上0.3以下である)の式で表されるペロブスカイト型酸化物を含む固体酸化物型燃料電池用空気極材料とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体酸化物型燃料電池(SOFC:Solid Oxide Fuel Cell)用空気極材料およびこれを用いた固体酸化物型燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、水素ガスまたは燃料ガスと空気または酸素ガスとの反応を電気エネルギーに変換する燃料電池が、エネルギーの有効利用という観点で各分野から期待されている。中でも、酸素イオン伝導体を用いるSOFCは、例えば、非特許文献1に記載されているように、高いエネルギー変換効率が得られるものであり、関心が高まっている。
【0003】
しかし、従来のSOFCは、動作温度が900℃〜1000℃と高いため、構成部材に使用可能な材料がセラミックなどに限定されている。このため、SOFCの動作温度を低下させることが検討されている(例えば、特許文献1参照)。SOFCの動作温度を、例えば、800℃以下、好ましくは700℃程度まで低減できれば、構成部材の一部に耐熱合金材料を用いることが可能となり、SOFCに使用可能な材料の自由度を増大させることができる。
【0004】
また、固体燃料電池の空気極材料として、特許文献1には、LnNi1-xFex3またはYNi1-xFex3の組成のニッケル・鉄系ペロブスカイト型材料を用いることが記載されている。
また、非特許文献2には、空気極に用いられる材料であって、BサイトにPrを持つペロブスカイト型酸化物であるBa(Pr1−XGd)O3−αが、電子と酸素イオンの混合導電性を示すことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−242960号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】田川 博章、固体酸化物燃料電池と地球環境、株式会社 アグネ承風社、第1版第1刷、pp24−25、1998年
【非特許文献2】Takehisa Fukuia, Satoshi Ohara, Shigeyuki Kawatsu, Conductivity of BaPr03 based perovskite oxides., Journal of Power Sources 71 (1998) 164−168
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の技術では、SOFCの動作温度を低下させると、空気極における電気化学的な抵抗が急激に増えるため、SOFCにおける水素ガスまたは燃料ガスと空気または酸素ガスとの反応量が低下して、出力電圧の低下を招いてしまうという問題があった。このため、従来の技術では、SOFCの動作温度を充分に低下させることはできなかった。
【0008】
本発明は、上記課題を解決し、SOFCの動作温度を低下させることによる出力電圧の低下を抑制可能なSOFCを提供できるSOFC用空気極材料を提供することを目的とする。
また、本発明は、動作温度の低いSOFCを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、SOFCの動作温度を低下させることによる出力電圧の低下を抑制できるSOFCを提供するために、鋭意検討を重ねた。
その結果、以下に示すように、集電層と、前記集電層の電解質層側に配置された活性層とを含む空気極を備えるSOFCにおいて、活性層をAPr1−x (AはBa, Sr, Caから選ばれた1種であり、BはSm,Gd,Y,Yb,Scから選ばれた1種であり、Xは0以上0.3以下である)の式で表される組成のペロブスカイト型酸化物を含むものとすればよいことを見出した。
【0010】
上記の式で表される組成のペロブスカイト型酸化物は、電子伝導と酸素イオン伝導の混合導電性を有するものであるため、これを含む活性層とすることで、活性層内に酸素イオンの導電パスおよび電子の導電パスが共に形成される。更に、混合導電体上は、空気極における電気化学反応(還元反応により酸素分子から酸素イオンを生成する反応:O+4e=2O2−)において必要な電子と酸素ガスそして酸素イオン伝導体の3つの相が全て存在する三相界面となる。このため、空気極における電気化学反応に活性な反応サイト(三相界面)の面積を充分に多いものとすることができ、空気極における電気化学反応が促進され、空気極の過電圧が低減される。
【0011】
また、上記ペロブスカイト型酸化物を含む活性層を有する空気極を備えるSOFCは、空気極における電気化学反応に活性な反応サイトの面積が充分に多く、空気極における電気化学反応を促進できるものであるので、SOFCの動作温度を低下させても、SOFCにおける水素ガスまたは燃料ガスと空気または酸素ガスとの反応量を確保できる。よって、SOFCの動作温度を低下させることによる出力電圧の低下を抑制できる。
【0012】
本発明の要旨は以下のとおりである。
本発明の固体酸化物型燃料電池用空気極材料は、空気極と、燃料極と、前記空気極と前記燃料極との間に配置された電解質層とを備え、前記空気極が、集電層と前記集電層の前記電解質層側に配置された活性層とを含む固体酸化物型燃料電池における前記活性層に用いられる空気極材料であり、APr1−x (AはBa, Sr, Caから選ばれた1種であり、BはSm,Gd,Y,Yb,Scから選ばれた1種であり、Xは0以上0.3以下である)の式で表されるペロブスカイト型酸化物を含むことを特徴とする。
【0013】
また、本発明の固体酸化物型燃料電池は、空気極と、燃料極と、前記空気極と前記燃料極との間に配置された電解質層とを備え、前記空気極が、集電層と前記集電層の前記電解質層側に配置された活性層とを含む固体酸化物型燃料電池であり、前記活性層が、APr1−x (AはBa, Sr, Caから選ばれた1種であり、BはSm,Gd,Y,Yb,Scから選ばれた1種であり、Xは0以上0.3以下である)の式で表されるペロブスカイト型酸化物を含むことを特徴とする。
【0014】
上記の固体酸化物型燃料電池においては、前記活性層が、前記集電層に用いられた材料と、前記ペロブスカイト型酸化物とを含むものとすることができる。
上記の固体酸化物型燃料電池においては、前記活性層の前記電解質層側に、前記活性層と前記電解質層との反応による劣化を防止する中間層が備えられているものとすることができる。
また、上記の固体酸化物型燃料電池においては、前記中間層が、セリア系電解質材料からなることを特徴とする固体酸化物型燃料電池とすることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の固体酸化物型燃料電池用空気極材料は、空気極が、集電層と前記集電層の電解質層側に配置された活性層とを含む固体酸化物型燃料電池における前記活性層に用いられる空気極材料であり、APr1−x (AはBa, Sr, Caから選ばれた1種であり、BはSm,Gd,Y,Yb,Scから選ばれた1種であり、Xは0以上0.3以下である)の式で表されるペロブスカイト型酸化物を含むものである。また、本発明の固体酸化物型燃料電池は、活性層が、本発明の固体酸化物型燃料電池用空気極材料を含むものである。このことにより、本発明のSOFCは、空気極における電気化学反応に活性な反応サイトの面積が充分に確保されたものとなる。
したがって、本発明のSOFCでは、動作温度を低下させても、水素ガスまたは燃料ガスと空気または酸素ガスとの反応量を確保することができ、動作温度を低下させることによる出力電圧の低下が抑制されたものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、本発明の固体酸化物型燃料電池(SOFC)の一例を説明するための概略断面図であり、SOFCに備えられた単セルを拡大して示した拡大断面図である。
【図2】図2は、本発明の固体酸化物型燃料電池(SOFC)の他の例を説明するための概略断面図であり、SOFCに備えられた単セルを拡大して示した拡大断面図である。
【図3】図3は、電解質層の空気極側の界面抵抗を測定するための試験体の構造を説明するための図であり、図3(a)は試験体の平面図であり、図3(b)は図3(a)に示す試験体のA−A´線に対応する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
「第1実施形態」
本発明の固体酸化物型燃料電池用空気極材料を用いた活性層を含む空気極を備える本発明の固体酸化物型燃料電池の一例について、図面を参照して説明する。
図1は、本発明の固体酸化物型燃料電池(SOFC)の一例を説明するための概略断面図であり、SOFCに備えられた単セルを拡大して示した拡大断面図である。図1において、符号10は電解質支持平板型の単セルを示している。図1に示す単セル10の上下両面には、それぞれ白金ペーストなどからなる集電体(図示略)が設けられている。
【0018】
なお、本実施形態においては、図1に示すように平板型の単セル10を例に挙げて説明したが、単セルは、例えば、燃料極が構造体となる燃料極支持平板型セル、円筒状の燃料極が支持体となる燃料極支持円筒型セル、円筒状の空気極が支持体となる空気極支持円筒型セルなどの形状であってもよい。
【0019】
図1に示すように、単セル10は、空気極1(カソード)と、燃料極2(アノード)と、空気極1と燃料極2との間に配置された電解質層3とを備えている。
空気極1は、集電層1aと、集電層1aの電解質層3側に配置された活性層1bとを含むものである。また、図1に示すSOFCの単セル10においては、活性層1bの電解質層3側に中間層4が配置されている。
【0020】
電解質層3としては、従来のSOFCの単セルにおいて用いられているものを使用でき、特に限定されないが、具体的には例えば、ジルコニア、スカンジウムとアルミナとを含むジルコニア、イットリウム含有ジルコニア(YSZ)、スカンジウム含有ジルコニア(SASZ)からなるものなどが挙げられる。
燃料極2としては、従来のSOFCの単セルにおいて用いられているものを使用でき、特に限定されないが、具体的には例えば、白金、NiO−YSZ、NiO−SASZからなるものなどが挙げられる。
【0021】
中間層4は、活性層1bと電解質層3との反応による単セル10の劣化を防止するものである。中間層4は、セリア系電解質材料からなるものであることが好ましい。セリア系電解質材料としては、具体的には例えば、Ce1−x(BはSm,Gd,Yb,Yから選ばれた1種であり、Xは0.1以上0.2以下である)の式で表されるものなど、希土類の添加されたものを用いることが好ましい。
中間層4の厚みは、0.1〜10μmの範囲であることが好ましい。中間層4の厚みが上記範囲である場合、中間層4中のイオン伝導に対する抵抗の著しい増大を伴わずに、活性層1bと電解質層3との反応による単セル10の特性の劣化を効果的に防止できる。
【0022】
本実施形態の空気極1の活性層1bは、APr1−x (AはBa, Sr, Caから選ばれた1種であり、BはSm,Gd,Y,Yb,Scから選ばれた1種であり、Xは0以上0.3以下である)の式で表されるペロブスカイト型酸化物からなるSOFC用空気極材料を用いてなるものである。
上記ペロブスカイト型酸化物の組成式におけるAが、+2価の価数をとる原子であるBa, Sr, Caから選ばれた1種である場合、上記ペロブスカイト型酸化物の結晶構造はいずれも同じとなり、電子伝導と酸素イオン伝導の混合導電性を有する上記ペロブスカイト型酸化物となる。
上記ペロブスカイト型酸化物の中でも、特に、Sr,Baを含む材料がイオン伝導性に優れており、また、空気中に含まれているCOガスに対する耐久性の点ではSrそしてCaを含む材料が優れている。これらの点から上記ペロブスカイト型酸化物の組成式におけるAがSrであるものがより好ましい。
【0023】
本実施形態の空気極1の活性層1bは、混合導電性を有する上記ペロブスカイト型酸化物からなる混合導電体の微細粒子によって形成されている。本実施形態においては、活性層1bとして、上記ペロブスカイト型酸化物からなるものが備えられているので、上記ペロブスカイト型酸化物における電子伝導と酸素イオン伝導の混合導電性によって、空気極1における電気化学反応(酸素の還元反応)の可能な部分が、活性層1bを構成する混合導電体の微細粒子の全ての表面に広がる。このため、本実施形態のSOFCでは、空気極1における電気化学反応に活性な反応サイトの面積を充分に確保でき、空気極1における電気化学反応における抵抗が低減され、電気化学反応が促進されて、発電特性が向上する。通常、SOFCの動作温度を低減すると、金属部材など他の部材の酸化劣化速度を低減できる一方、電気化学反応の速度が低下する。しかし、上記の混合導電性を有する活性層1bを備えた空気極1(カソード)は、電極の特性が高いため、SOFCの動作温度を低減しても十分な特性が得られる。
【0024】
上記ペロブスカイト型酸化物による混合導電性は、上記ペロブスカイト型酸化物における−O−B−O−B−O−結合中に、+4価と+3価の混合価数をとるPr原子が存在することにより、活性層1b内に電子の伝導パスが形成されることによって得られると推定される。一方、上記のペロブスカイト型酸化物には酸素空孔が存在するため、上記のペロブスカイト型酸化物は酸素イオンの伝導性も有している。
【0025】
また、上記ペロブスカイト型酸化物の組成式におけるBが、Sm,Gd,Y,Yb,Scから選ばれた1種であって、上記ペロブスカイト型酸化物がBを含むものである場合、+4価と+3価の混合価数をとるPr原子の一部が、イオン半径が近く、+3価の価数をとる原子である上記Bで置換される。この場合、Bが上記のいずれの元素であっても活性層1b内に、上記Bの価数制御によって酸素空孔およびエレクトロンホールが導入されるため、活性層1bにおける酸素イオンの伝導度がより一層優れたものとなる。したがって、上記ペロブスカイト型酸化物に、上記Bが含まれている場合、空気極1における電気化学反応をより効果的に促進できる。
【0026】
よって、本実施形態においては、上記ペロブスカイト型酸化物に、上記ペロブスカイト型酸化物の組成式におけるBが含まれていることが好ましく、さらに、Bを含むことによって、電子伝導と酸素イオン伝導を共に有する事による電気化学反応を向上させる効果が充分に得られるように、Xは0.05以上であることがより好ましく、0.10以上であることがより好ましい。
【0027】
しかし、上記ペロブスカイト型酸化物の組成式におけるXが0.3を超えると、Pr原子の含有量が相対的に少なくなり、上記ペロブスカイト型酸化物の混合導電性が不充分となる。その結果、集電層1a側から供給された電子の抵抗が高まり、SOFCの発電特性が低下する。さらに、上記Xが0.3を超えると、酸素イオン伝導と電子伝導の両方を有することが好ましい活性層1b内の各混合導電体粒子において、電気化学反応の速度が低下するため、空気極1の過電圧が増大し、やはりSOFCの発電特性の低下につながる。したがって、上記ペロブスカイト型酸化物の組成式におけるXは0.3以下とされる。さらに、空気極1における電気化学反応を促進する効果をより一層向上させるために、Xは0.25以下であることが好ましく、0.20以下であることがより好ましい。
【0028】
活性層1bの厚みは、0.2〜10μmの範囲であることが好ましい。活性層1bの厚みが上記範囲である場合、空気極1の電気抵抗を阻害することなく、活性層1bを備えることによる空気極1における電気化学反応を促進させる効果がより効果的に得られる。
【0029】
空気極1の集電層1aとしては、従来のSOFCの単セルにおいて用いられているものを使用でき、特に限定されないが、具体的には例えば、La0.8Sr0.2MnO(以下「LSM」という)、La0.6Sr0.4Co0.2Fe0.8(以下「LSCF」という)、La0.6Sr0.4CoO(以下「LSC」という)、LaNi(Fe)O(以下「LNF」という)からなるものなどが挙げられる。
【0030】
図1に示す単セル10は、例えば、以下に示す製造方法によって製造できる。
まず、電解質層3となる電解質基板を、ドクターブレード法などを用いてシート成形し、それを焼成する方法などにより用意する。
次いで、電解質層3となる電解質基板の中間層4を形成する空気極面と反対側の面に、スクリーンプリント法を用いて燃料極2となる材料を塗布し、例えば、1300℃で焼成することにより、燃料極2を形成する。
【0031】
次いで、スクリーンプリント法を用いて、電解質基板上にセリア系電解質材料を塗布し、例えば、1150℃で焼成することにより、中間層4を形成する。
その後、スクリーンプリント法を用いて、中間層4上に活性層1bとなるペロブスカイト型酸化物を含む材料と、集電層1aとなる材料とを順次塗布する。
【0032】
次いで、集電層1aとなる材料を塗布した面上と、燃料極2となる材料を塗布した面上とに、それぞれ電極となる材料を塗布する。
その後、電極となる材料の塗布された電解質層3となる電解質基板を、例えば、1100℃で焼成することにより、活性層1bと集電層1aとからなる空気極1と燃料極2との間に電解質層3が配置された図1に示す単セル10の上下両面に電極が形成されたものが得られる。
その後、必要に応じて、上下両面に電極が形成された図1に示す単セル10を複数積み重ねてスタックとし、さらにスタックをまとめてモジュールとして、SOFCに備えられる。
【0033】
本実施形態のSOFCは、空気極1の活性層1bが、APr1−x (AはBa, Sr, Caから選ばれた1種であり、BはSm,Gd,Y,Yb,Scから選ばれた1種であり、Xは0以上0.3以下である)の式で表されるペロブスカイト型酸化物を含むSOFC用空気極材料からなるものである。したがって、本実施形態のSOFCは、空気極1における電気化学反応に活性な反応サイトの面積が十分に確保されたものとなり、SOFCの動作温度を低下させても、動作温度を低下させることによる出力電圧の低下を抑制できるものとなる。
【0034】
「第2実施形態」
次に、本発明の固体酸化物型燃料電池用空気極材料を用いた活性層を含む空気極を備える本発明の固体酸化物型燃料電池の他の例について、図面を参照して説明する。
図2は、本発明の固体酸化物型燃料電池(SOFC)の他の例を説明するための概略断面図であり、SOFCに備えられた単セルを拡大して示した拡大断面図である。図2において、符号20は単セルを示している。図2に示す単セル20の上下両面には、それぞれ白金などからなる集電体(図示略)が設けられている。
【0035】
図2に示す単セル20が、図1に示す単セル10と異なるところは、空気極11(カソード)の活性層1cのみであるので、本実施形態では、図2に示す単セル20の図1に示す単セル10と異なるところのみ説明し、同じ部材についての説明を省略する。
図2に示す単セル20の空気極11は、集電層1aと、集電層1aの電解質層3側に配置された活性層1cとを含むものである。
図2に示す空気極11の集電層1aとしては、図1に示す単セル10と同じものを用いることができる。
【0036】
図2に示す空気極11の活性層1cは、集電層1aに用いられた材料と、APr1−x (AはBa, Sr, Caから選ばれた1種であり、BはSm,Gd,Y,Yb,Scから選ばれた1種であり、Xは0以上0.3以下である)の式で表されるペロブスカイト型酸化物とを含むSOFC用空気極材料からなるものである。
活性層1cに含まれるペロブスカイト型酸化物としては、図1に示す単セル10の活性層1bに用いたものと同じものを用いることができる。
【0037】
本実施形態の空気極11の活性層1cは、集電層1aに用いられた材料からなる粒子と、この粒子とは異なる粒径を有するものであり、混合導電性を有する上記ペロブスカイト型酸化物からなる混合導電体の微細粒子とを含む、粒径の異なる粒子の混合体によって形成されている。
活性層1cに含まれる集電層1aに用いられた材料と、上記ペロブスカイト型酸化物との比は、特に限定されないが、質量%で20:80〜80:20(集電層1aに用いられた材料:上記ペロブスカイト型酸化物)の範囲であることが好ましく、40:60〜60:40の範囲であることがより好ましい。集電層1aに用いられた材料と、上記ペロブスカイト型酸化物との比が、上記範囲内である場合、活性層1cを備えることによる空気極1の電気抵抗の低下を効果的に防止できるとともに、活性層1cを備えることによる空気極1における電気化学反応を促進させる効果がより効果的に得られる。
【0038】
活性層1cの厚みは、1〜20μmの範囲であることが好ましい。活性層1cの厚みが1μm以上である場合、粒径の異なる粒子の混合体である活性層1cにおける粒径の大きな粒子の粒径よりも充分に大きい厚み寸法を有するものとなり、空気極1と集電体内の物質との接触面積が充分に得られ、活性層1cを備えることによる空気極1の電気化学反応を促進させる効果が、より効果的に得られる。また、活性層1cの厚みが20μm以下である場合、空気極1の電気抵抗を阻害することがない。
【0039】
図2に示す単セル20は、例えば、以下に示す製造方法によって製造できる。
まず、図1に示す単セル10と同様にして、中間層4を形成するまでの工程を行う。
その後、中間層4上に、活性層1cとなる集電層1aに用いられる材料とペロブスカイト型酸化物とを含む混合材料と、集電層1aとなる材料とを順次塗布する。
【0040】
その後、図1に示す単セル10と同様にして、図1に示す単セル10と同様の工程を行って、図2示す単セル2の上下両面に電極が形成されたものを形成する。
その後、必要に応じて、図1に示す単セル10と同様に、上下両面に電極が形成された図2に示す単セル20を複数積み重ねてスタックとし、さらにスタックをまとめてモジュールとして、SOFCに備えられる。
【0041】
本実施形態のSOFCは、空気極1の活性層1cが、集電層1aに用いられた材料と、APr1−x (AはBa, Sr, Caから選ばれた1種であり、BはSm,Gd,Y,Yb,Scから選ばれた1種であり、Xは0以上0.3以下である)の式で表されるペロブスカイト型酸化物とを含むSOFC用空気極材料からなるものである。したがって、本実施形態のSOFCは、空気極1における電気化学反応に活性な反応サイトの面積が充分に確保されたものとなり、SOFCの動作温度を低下させても、動作温度を低下させることによる出力電圧の低下を抑制できるものとなる。
【0042】
しかも、本実施形態のSOFCにおいては、活性層1cが、集電層1aに用いられた材料と上記ペロブスカイト型酸化物とを含むものであるので、活性層1cを備えることによる空気極1の電気抵抗の低下を効果的に防止しつつ、空気極における電気化学反応を促進させることができる。
なお、本実施形態のSOFCにおける活性層1cは、集電層1aを兼ねるものとすることができる。活性層1cが集電層1aを兼ねる場合、活性層1cと集電層1aとを別々に設ける場合と比較して、製造工程を簡略化することができ好ましい。しかし、活性層1cは、集電層1aと比較して電気抵抗が高いため、空気極11の電気導電性が不充分となる恐れがある。このため、本実施形態においては、活性層1cと集電層1aとを別々に設けている。
【0043】
なお、本発明のSOFC用空気極材料およびSOFCは、上述した実施形態にのみ限定されるものではない。
例えば、電解質層3は、セリア系電解質材料からなるものとしてもよい。この場合、電解質層3は、中間層4を兼ねるものとすることができる。電解質層3が中間層4を兼ねる場合、中間層4と電解質層3とを別々に設ける場合と比較して、製造工程を簡略化することができる点では好ましい。しかし、電解質層3および中間層4がセリア系電解質材料からなるものである場合、550℃以上でのイオン輸率が不十分となる。例えば、動作温度が600℃以上の高温であるSOFCでは、中間層4とジルコニア系の電解質層3とを別々に設けた場合、電解質層3および中間層4がセリア系電解質材料からなるものである場合と比較して、優れた発電特性が得られる。
また、本発明のSOFCは、単セルの劣化を防止するため、中間層4を備えるものであることが好ましいが、中間層4を備えていなくてもよい。
【実施例】
【0044】
「実験1」
本発明のSOFC用空気極材料およびSOFCの特性を評価するために、以下に示す製造方法によって、図3に示す構造の試験体を製造し、電解質層の空気極側の界面抵抗を測定した。図3は、電解質層の空気極側の界面抵抗を測定するための試験体の構造を説明するための図であり、図3(a)は試験体の平面図であり、図3(b)は図3(a)に示す試験体のA−A´線に対応する断面図である。
【0045】
まず、電解質層23となるスカンジウムとアルミナとを含むジルコニアからなる厚み0.2mmの電解質基板を用意した。次いで、電解質層23となる電解質基板の中間層24を形成する空気極面と反対側の面に、スクリーンプリント法を用いて燃料極22となる材料を塗布し、1300℃で焼成することにより、燃料極22を形成した。
そして、空気極面側にスクリーンプリント法を用いて、電解質基板上にセリア系電解質材料を塗布し、1150℃で焼成した。このことにより、直径1.0cm、厚み4μmのGDC(Ce0.9Gd0.11.95)からなる図3に示す中間層24を形成した。
【0046】
その後、スクリーンプリント法を用いて、図3に示すように、中間層24上に、中間層24と平面視同形で活性層21bとなるペロブスカイト型酸化物を含む材料を厚み4μmで塗布し、続いて中間層24と平面視同形で集電層21aとなる材料を厚み40μmで塗布した。
次いで、集電層21aとなる材料を塗布した面上に、電極25となる白金メッシュを載置した。
【0047】
その後、電解質層23となる電解質基板を、1100℃で焼成することにより、表1に示すSrPr1−xの式で表されるペロブスカイト型酸化物からなる厚み4μmの活性層21bと、LNF(LaNi0.6Fe0.4)からなる厚み40μmの集電層21aとからなる空気極21を形成した。
【0048】
【表1】

【0049】
その後、電解質基板の中間層24を形成した面の外周部に、燃料極22となる材料と同じ材料を塗布した。
その後、電解質層23となる電解質基板を、1000℃で焼成することにより、活性層21bと集電層21aとからなる空気極21と白金からなる燃料極22との間に電解質層23が配置され、電解質層23の空気極21を形成した面の外周部に参照極26の形成された図3に示す構造の表1に示す実験例1−1−1〜1−1−5、1−2−2〜1−2−5、1−3−2〜1−3−5、1−4−2、1−5−2の試験体を製造した。
【0050】
また、活性層21bとなるペロブスカイト型酸化物を含む材料を塗布せず、集電層21aのみからなる空気極を形成したこと以外は、表1に示す実験例1−1−1と同様にして、表1に示す実験例1−0の試験体を製造した。
表1に示す実験例1−0は、本発明の比較例である。また、表1に示す実験例1−0以外の実験例は、本発明の実施例である。
【0051】
このようにして得られた表1に示す試験体を、試験装置の電気炉に入れて800℃まで昇温し、燃料極22に室温の加湿水素を供給するとともに、参照極26および空気極21に乾燥空気を供給して、3端子交流インピーダンス法により、空気極21の電気化学反応における界面抵抗を測定した。その結果を表1に示す。
【0052】
表1に示すように、実験例1−1−1〜1−1−5、1−2−2〜1−2−5、1−3−2〜1−3−5、1−4−2、1−5−2の試験体は、活性層21bのない実験例1−0と比較して、空気極21の電気化学反応の界面抵抗が低くなった。
【0053】
「実験2」
表2に示すBaPr1−xの式で表されるペロブスカイト型酸化物からなる活性層21bを形成したこと以外は、実験1と同様にして、実験例2−1−1〜2−1−5、2−2−2〜2−2−5、2−3−2〜2−3−5、2−4−1、2−5−1の試験体を製造した。その後、実験1と同様にして、各試験体の電解質層23の空気極21側の界面抵抗を測定した。その結果を表2に示す。なお、表2に示す実験例は、全て本発明の実施例である。
【0054】
【表2】

【0055】
表2に示すように、実験例2−1−1〜2−1−5、2−2−2〜2−2−5、2−3−2〜2−3−5、2−4−1、2−5−1の試験体は、活性層21bのない表1に示す実験例1−0と比較して、空気極21の電気化学反応の界面抵抗が低くなった。
【0056】
「実験3」
表3に示すCaPr1−xの式で表されるペロブスカイト型酸化物からなる活性層21bを形成したこと以外は、実験1と同様にして、実験例3−1−1〜3−1−5、3−2−2〜3−2−5、3−3−2〜3−3−5、3−4−1、3−5−1の試験体を製造した。その後、実験1と同様にして、各試験体の空気極21の電気化学反応の界面抵抗を測定した。その結果を表3に示す。なお、表3に示す実験例は、全て本発明の実施例である。
【0057】
【表3】

【0058】
表3に示すように、実験例3−1−1〜3−1−5、3−2−2〜3−2−5、3−3−2〜3−3−5、3−4−1、3−5−1の試験体は、活性層21bのない表1に示す実験例1−0と比較して、空気極21の電気化学反応の界面抵抗が低くなった。
【0059】
「実験4」
表4に示す集電層材料と表4に示すAPr1−xの式で表されるペロブスカイト型酸化物とを表4に示す混合比で含む材料を塗布して厚み4μmの活性層を形成したこと以外は、実験1と同様にして、実験例4−1−1〜4−1−8、4−2−1〜4−2−8、4−3−1〜4−3−8の試験体を製造した。その後、実験1と同様にして、各試験体の空気極21の電気化学反応の界面抵抗を測定した。その結果を表4に示す。なお、表4に示す実験例は、全て本発明の実施例である。
【0060】
【表4】

【0061】
表4に示すように、実験例4−1−1〜4−1−8、4−2−1〜4−2−8、4−3−1〜4−3−8の試験体は、活性層のない表1に示す実験例1−0と比較して、空気極21の電気化学反応の界面抵抗が低くなった。
【0062】
「実験5」
表5に示す集電層材料と表5に示すSrPr1−xの式で表されるペロブスカイト型酸化物とを表5に示す混合比で含む材料を塗布して厚み4μmの活性層を形成したこと以外は、実験1と同様にして、実験例5−1−1−1〜5−1−1−3、5−1−2−1〜5−1−2−3、5−1−3−1〜5−1−3−3、5−1−4−1、5−1−5−1、5−2−1−1〜5−2−1−3、5−2−2−1〜5−2−2−3、5−2−3−1〜5−2−3−3、5−2−4−1、5−2−5−1、5−3−1−1〜5−3−1−3、5−3−2−1〜5−3−2−3、5−3−3−1〜5−3−3−3、5−3−4−1、5−3−5−1の試験体を製造した。
【0063】
また、活性層となるペロブスカイト型酸化物を含む材料を塗布せず、集電層のみからなる空気極を形成したこと以外は、表1に示す実験例1−1−1と同様にして、表4に示す実験例5−1−0、5−2−0、5−3−0の試験体を製造した。
表5に示す実験例5−1−0、5−2−0、5−3−0は、本発明の比較例である。また、表5に示す実験例5−1−0、5−2−0、5−3−0以外の実験例は、本発明の実施例である。
【0064】
このようにして得られた表5に示す各試験体について、実験1と同様にして、空気極21の電気化学反応の界面抵抗を測定した。その結果を表5に示す。
【0065】
【表5】

【0066】
表5に示すように、実験例5−1−1−1〜5−1−1−3、5−1−2−1〜5−1−2−3、5−1−3−1〜5−1−3−3、5−1−4−1、5−1−5−1、5−2−1−1〜5−2−1−3、5−2−2−1〜5−2−2−3、5−2−3−1〜5−2−3−3、5−2−4−1、5−2−5−1、5−3−1−1〜5−3−1−3、5−3−2−1〜5−3−2−3、5−3−3−1〜5−3−3−3、5−3−4−1、5−3−5−1の試験体は、それぞれ、集電層材料が同じで、活性層のない表1に示す実験例5−1−0、5−2−0、5−3−0と比較して、空気極21の電気化学反応の界面抵抗が低くなった。
【符号の説明】
【0067】
1、11、21 空気極、1a、21a 集電層、1b、1c、21b 活性層、2、22 燃料極、3、23 電解質層、4、24 中間層、10、20 単セル、26 参照極。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気極と、燃料極と、前記空気極と前記燃料極との間に配置された電解質層とを備え、前記空気極が、集電層と前記集電層の前記電解質層側に配置された活性層とを含む固体酸化物型燃料電池における前記活性層に用いられる空気極材料であり、
APr1−x (AはBa, Sr, Caから選ばれた1種であり、BはSm,Gd,Y,Yb,Scから選ばれた1種であり、Xは0以上0.3以下である)の式で表されるペロブスカイト型酸化物を含むことを特徴とする固体酸化物型燃料電池用空気極材料。
【請求項2】
空気極と、燃料極と、前記空気極と前記燃料極との間に配置された電解質層とを備え、前記空気極が、集電層と前記集電層の前記電解質層側に配置された活性層とを含む固体酸化物型燃料電池であり、
前記活性層が、Pr1−x (AはBa, Sr, Caから選ばれた1種であり、BはSm,Gd,Y,Yb,Scから選ばれた1種であり、Xは0以上0.3以下である)の式で表されるペロブスカイト型酸化物を含むことを特徴とする固体酸化物型燃料電池。
【請求項3】
前記活性層が、前記集電層に用いられた材料と、前記ペロブスカイト型酸化物とを含むことを特徴とする請求項2に記載の固体酸化物型燃料電池。
【請求項4】
前記活性層の前記電解質層側に、前記活性層と前記電解質層との反応による劣化を防止する中間層が備えられていることを特徴とする請求項2または請求項3に記載の固体酸化物型燃料電池。
【請求項5】
前記中間層が、セリア系電解質材料からなることを特徴とする請求項4に記載の固体酸化物型燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−150949(P2012−150949A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−7763(P2011−7763)
【出願日】平成23年1月18日(2011.1.18)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】