説明

固体酸化物形燃料電池及びそれを用いた固体酸化物形燃料電池の温度分布調整方法

【課題】燃料電池の発電室内での温度分布のばらつきが少ない固体酸化物形燃料電池を提供する。
【解決手段】発電室105の上部側に上部熱交換部123a、空気排出室109及び燃料供給室106が配置されると共に、発電室105の下部側に下部熱交換部123b、空気供給室108及び燃料排出室107が配置されており、発電室105から排出された排出空気122aは、上段側及び/又は中段側の高温の放出熱20と熱交換し、排出空気122aの温度を上昇させ、下段側の放熱を抑制又は加熱するようにしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体酸化物形燃料電池及びそれを用いた固体酸化物形燃料電池の温度分布調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、電気化学反応による発電方式を利用した発電装置であり、優れた発電効率及び環境対応等の特性を有する。このため、21世紀を担う都市型のエネルギー供給システムとして、実用化に向けた研究開発が進んでいる。
【0003】
従来の燃料電池の一例としてワンスルータイプの燃料電池が提案されている。このワンスルータイプの燃料電池とは、燃料ガスの流動方法について、セルチューブの一端(例えば上端)から供給された燃料ガスがセルチューブの他端(例えば下端)から排出されるタイプの燃料電池である。また、酸化剤ガスは燃料ガスとは、対向流となるよう端部から供給・排出されている。
【0004】
また、発電を行うためには、燃料電池モジュール内が約800℃から1000℃となるような高温環境における化学反応を利用するため、外部から燃料ガス及び酸化剤ガスを供給する際に、ガスを予熱しておく必要がある。これは、供給するガスの予熱を行わないと、燃料電池セルの温度を低下させる結果、発電効率の低下及び発電自体の不安定化を招く危険性があるからである。
【0005】
この予熱は、効率の面から高温の排出ガスを利用して行われる。すなわち、排出室から排出された高温の排出燃料ガスと燃料電池に供給される酸化剤ガス(空気)とを熱交換し、酸化剤ガスを予熱する。また、高温の排出酸化剤ガスと燃料電池に供給される燃料ガスとを熱交換し、燃料ガスを予熱する。このため、排出ガスの排出経路内には、熱交換を効率的に行うための補助機器として中子が設置されている(例えば、特許文献1及び2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−63916号公報
【特許文献2】特開2004−127640号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、燃料電池の発電室内の熱交換構造はセルチューブの両端部で燃料ガスと酸化剤ガス(空気)とを熱交換させるものであるので、セルチューブの長手方向に温度差が発生しやすくなり、例えば燃料ガスをセルチューブの上部側から、空気をセルチューブ下方側から供給する場合、セルチューブの下段側の温度が、上段側や中段側と較べて低くなり、温度のばらつきが発生することがある。具体的に、セルチューブは発電による発熱で高温となるが、下段は空気の入口側でセルチューブと空気の温度差が大きいため、冷却されやすく、中/上段と比べて温度が低くなってしまう。よって、セルチューブの耐久性や発電効率が低下する、という問題がある。
【0008】
よって、燃料電池の発電室内での温度分布のばらつきがが少ない固体酸化物形燃料電池の出現が切望されている。
【0009】
本発明は、前記問題に鑑み、燃料電池の発電室内での温度分布のばらつきが少ない固体酸化物形燃料電池及びそれを用いた固体酸化物形燃料電池の温度分布調整方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決するための本発明の第1の発明は、燃料電池本体の内部に燃料電池セルチューブを長手方向に複数立設し、各燃料電池セルチューブ内部に上方から燃料ガスを下方側に供給すると共に、各燃料電池セルチューブの外面に設けられた電池セルに沿って下方側から酸化剤ガスである空気を上方側に供給することにより、燃料電池セルにおいて燃料ガスと酸化剤ガスとを電気化学的に反応させて発電する固体酸化物形燃料電池であって、前記燃料電池本体から外部に排出する排出酸化剤ガスの空気排出管を、燃料電池本体の上方側から下方側まで延設してなることを特徴とする固体酸化物形燃料電池にある。
【0011】
第2の発明は、第1の発明において、排出酸化剤ガス用排出管の断面形状が矩形であることを特徴とする固体酸化物形燃料電池にある。
【0012】
第3の発明は、第1又は2の発明において、排出酸化剤ガス用排出管にフィンを有することを特徴とする固体酸化物形燃料電池にある。
【0013】
第4の発明は、第1乃至3のいずれか一つの発明において、排出酸化剤ガス用排出管が複数本からなることを特徴とする固体酸化物形燃料電池にある。
【0014】
第5の発明は、第1乃至4のいずれか一つの固体酸化物形燃料電池を用い、空気排出管を通過する排出酸化剤ガスが燃料電池本体の上方側及び/又は中段側で熱交換し、その熱交換した熱を用いて、燃料電池本体の下部側の放熱を抑制又は加熱することを特徴とする固体酸化物形燃料電池の温度分布調整方法にある。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、空気排出管を通過する排出酸化剤ガスを燃料電池の上段側及び中段側の高温放出熱と熱交換し、その熱交換された排出空気を用いて下段側の放熱を減らすようにしているため、燃料電池の発電室内の温度分布のばらつきが少なくなり、セルチューブの耐久性向上及び発電効率の上昇を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、固体酸化物形燃料電池モジュールを表す概略構成図である。
【図2】図2は、発電室を備えた燃料電池モジュールの概略図である。
【図3】図3は、燃料電池モジュールの斜視概略図である。
【図4】図4は、燃料電池モジュールの斜視概略図である。
【図5】図5は、燃料電池モジュールの斜視概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、この発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施例における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。
【実施例】
【0018】
本発明による実施例に係る固体酸化物形燃料電池及びそれを用いた固体酸化物形燃料電池の温度分布調整方法について、図面を参照して説明する。図1は、固体酸化物形燃料電池モジュールを表す概略構成図である。
【0019】
本実施例の固体酸化物形燃料電池モジュール(以下「燃料電池モジュール」ともいう)100は、図1に示すように、断熱材であるケーシング101と、略円筒状に形成された複数のセルチューブ102と、セルチューブ102の両端を支持する上下の管板(第1仕切り部材)103a、103bと、これら上下の管板103a、103bの間に配置された上下の断熱体104a、104bとから構成されている。
【0020】
上下の断熱体104a、104bに挟まれた空間には、発電室105が形成されている。ケーシング101と上管板103aとの間には、燃料供給室106が形成されている。ケーシング101と下管板103bとの間には、燃料排出室107が形成されている。下管板103bと下断熱体104bとの間には、空気供給室108が形成されている。上管板103aと上断熱体104aとの間には、空気排出室109が形成されている。
【0021】
上管板103aは、ケーシング101の長手方向(図1の上下方向)の一方(上側)に配置された板状の部材であり、下管板103bは、ケーシング101の長手方向の他方(下側)に配置された板状の部材である。セルチューブ102は、多孔質セラミックスから形成された略円筒状の管であり、長手方向(図1の上下方向)における中央部に発電を行なう複数の燃料電池セル110が設けられている。セルチューブ102は、一方の開口端が燃料供給室106に開口し、他方の開口端が燃料排出室107に開口するように、上下の管板103a、103bに支持されている。また、セルチューブ102は、燃料電池セル(発電素子)110が発電室105内にのみ位置するように配置されている。
【0022】
上断熱体104aは、ケーシング101の長手方向の一方(上側)に配置され、断熱材料を用いてブランケット状あるいはボード状などに形成された部材である。下断熱材104bは、ケーシング101の長手方向の他方(下側)に配置され、断熱材料を用いてブランケット状あるいはボード状などに形成された部材である。各断熱体104a、104bには、セルチューブ102が挿通される孔111a,111bが形成され、孔111a,111bの直径はセルチューブ102の直径よりも大きく形成されている。
【0023】
なお、孔111a,111bの内周面は、略円筒状に形成されていてもよいし、螺旋状または直線状の凹部(溝)または凸部(畝状突起)が形成されていてもよく、特に限定するものではない。このような構成にすることで、セルチューブ102と孔111bとの間を通って発電室105に流入する空気に、排出燃焼ガス121a及び下断熱体104bの熱が伝達されやすくなり、発電室105の温度を高温に保ちやすくすることができる。同様に、セルチューブ102と孔111aとの間を通って発電室105から排出される排出空気122aの熱を伝達することでセルチューブ102に導入される燃料ガス121を高温とすることができる。
【0024】
また、セルチューブ102の上端開口部及び下端開口部には熱交換用上部中子131、下部中子132が挿入されており、これら上部又は下部中子131、132の外周壁とセルチューブ102内壁との隘路間に燃料ガス121を供給させて、セルチューブ102の外周を流れる酸化剤ガスである空気122との熱交換を良好としている。
【0025】
すなわち、上断熱体104a領域が上部熱交換部123aを形成し、下断熱体104b領域が下部熱交換部123bを形成している。そして、上部熱交換部123aでは導入される燃料ガス121と排出される排出空気122aとの熱交換がなされ、下部熱交換部123bでは、導入される空気122と排出燃料ガス121aとの熱交換がなされる。
【0026】
排出空気122aを外部に排出する空気排出管11は、図1に示すように、燃料電池本体のケーシング101の外部の上方側から下方側まで延設して、発電室の上段側及び中段側での熱と熱交換し、その熱交換された排出空気122aを用いて下段側の放熱を減らすようにしている。
【0027】
ここで、上記構成からなる燃料電池モジュール100の動作の概要を説明する。
【0028】
燃料電池モジュール100の空気供給室108には空気122が流入する。該空気122は下断熱材104bの孔111bとセルチューブ102との隙間を通って、発電室105内に供給される。
一方、燃料供給室106には燃料ガス121が流入する。該燃料ガス121はセルチューブ102の基体管の内部を通って発電室105内に供給される。空気122と燃料ガス121とは、燃料電池セル110において発電に利用される。その後、排出空気122aは空気排出室109に流入し、排出燃料ガス121aは燃料排出室107に流入し、それぞれ燃料電池モジュール100の外部に排出口101a、101bからそれぞれ排出される。
【0029】
この時、空気122と燃料ガス121とは、セルチューブ102の内面または外面を互いに逆向きに流れている。このことにより、発電に利用され高温となった燃料ガスおよび空気が、発電に利用される前の空気および燃料ガスとそれぞれ熱交換される。すなわち、セルチューブ102の軸方向両端部であって燃料電池セル110が形成されていない上部熱交換部123a、下部熱交換部123bの熱交換領域において、燃料ガス121と空気122とが熱交換される。
【0030】
上述したように燃料電池モジュール100では、反応に利用されて高温となった排出燃料ガス121aおよび排出空気122aが熱交換により冷却された後、燃料排出室107および空気排出室109に供給される。このことにより、金属部材を有する上管板103aと下管板103bとが高温雰囲気に晒されることを抑制することができる。その結果、燃料電池モジュール100では、燃料電池セル110における運転温度を高温化、例えば800℃から950℃にすることを可能にしている。
【0031】
次に、上述した燃料電池システムの燃料電池モジュール100発電室の温度分布の均一化構造について詳細に説明する。
【0032】
図2は、発電室を備えた燃料電池モジュールの概略図である。図3〜図5は、燃料電池モジュールの斜視概略図である。
図2及び図3に示すように、本実施例の発電室を備えた燃料電池モジュールは、発電室105の上部側に上部熱交換部123a、空気排出室109及び燃料供給室106が配置されると共に、発電室105の下部側に下部熱交換部123b、空気供給室108及び燃料排出室107が配置されている。
また、空気排出室109の両側から外部に排出空気122aを排出する空気排出管11が設けられている。
【0033】
この空気排出管11は、図2に示すように、発電室105を構成するケーシング(図示せず)の外部の上方側から下方側まで、発電室を含む領域に延設するようにして設けられている。
空気排出管の断面形状は、扁平の矩形として、熱交換面積を向上させるようにしている。なお符号12は、複数の燃料電池モジュールを連結した場合の、排出空気122aの連結管である。
【0034】
本実施例では、発電室105の上段側(内部温度:約800℃)及び中段側(内部温度:約950℃)の放出熱20と熱交換し、その熱交換された排出空気122aを用いて下段側の放熱を減らすようにしている。
この結果、図2の左欄に示す内部温度分布に示すように、発電室105から排出された排出空気122aは、上段側及び中段側の高温の放出熱20と熱交換し、排出空気122aの温度を上昇させ、下段側の放熱を減らすようにしている。
【0035】
また、熱交換効率が高い場合には、温められた排出空気122aの発散する熱により、下段側を加熱することで、従来よりも発電室105の下部を高い温度とすることができ、さらに発電効率を上昇させることができる。
【0036】
さらに、空気排出管11の縦軸方向に設ける断熱材の厚みを変更することで、発電室105の内部温度分布のバランスを調整することができ、より効果的な熱交換、放熱抑制が可能となる。
【0037】
図2に示す構成の単セル試験においては、凡そ3%程度の出力の向上を図ることができた。
【0038】
次に、図4〜図5を用いて空気排出管の他の実施例を示す。
図4に示す空気排出管11には、フィン13が設けられおり、発電室105からの放熱の熱交換効率を向上させるようにしている。
【0039】
図5に示す空気排出管は、二本の空気排出管11A、11Bとし、熱交換の表面積をかせぐようにして、発電室105からの放熱の熱交換効率を向上させるようにしている。
この二本の空気排出管11A、11Bにも図4に示すようなフィンをもうけるようにしてもよい。
【0040】
このように、本発明によれば、燃料電池モジュール100の発電室105と排出空気とを適切に熱交換させることで、燃料電池の発電室側面における放熱を軽減させることができ、発電室の温度分布の均一化を図ることができ、燃料電池の発電室内での温度分布の発生が解消され、燃料電池の発電効率が向上する。
【符号の説明】
【0041】
11 空気排出管
100 燃料電池モジュール
102 セルチューブ
105 発電室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池本体の内部に燃料電池セルチューブを長手方向に複数立設し、
各燃料電池セルチューブ内部に上方から燃料ガスを下方側に供給すると共に、
各燃料電池セルチューブの外面に設けられた電池セルに沿って下方側から酸化剤ガスを上方側に供給することにより、燃料電池セルにおいて燃料ガスと酸化剤ガスとを電気化学的に反応させて発電する固体酸化物形燃料電池であって、
前記燃料電池本体から外部に排出する排出酸化剤ガスの排出管を、燃料電池本体の上方側から下方側まで延設してなることを特徴とする固体酸化物形燃料電池。
【請求項2】
請求項1において、
排出酸化剤ガス用排出管の断面形状が矩形であることを特徴とする固体酸化物形燃料電池。
【請求項3】
請求項1又は2において、
排出酸化剤ガス用排出管にフィンを有することを特徴とする固体酸化物形燃料電池。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一つにおいて、
排出酸化剤ガス用排出管が複数本からなることを特徴とする固体酸化物形燃料電池。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一つの固体酸化物形燃料電池を用い、
排出酸化剤ガス用排出管を通過する排出酸化剤ガスが燃料電池本体の上方側及び/又は中段側で熱交換し、その熱交換した熱を用いて、燃料電池本体の下部側の放熱を抑制又は加熱することを特徴とする固体酸化物形燃料電池の温度分布調整方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−174543(P2012−174543A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−36327(P2011−36327)
【出願日】平成23年2月22日(2011.2.22)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度〜平成22年度 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「固体酸化物形燃料電池システム要素技術開発 実用性向上のための技術開発 超効率運転のための高圧運転技術」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】