説明

固体酸化物形燃料電池用ジルコニア系グリーンシートおよびその製造方法

【課題】本発明は、キズ、付着異物等の欠陥が少ないジルコニア系電解質シートを製造するためのジルコニア系グリーンシート、および当該ジルコニア系グリーンシートを効率的に製造する方法を提供することにある。
【解決手段】本発明に係わるSOFC電解質用ジルコニア系グリーンシートは、厚さが100μm以上350μm以下のジルコニア系グリーンシートであって、ジルコニア粉末、有機バインダー、可塑剤を含み、前記グリーンシートの水酸基価相当値が1.5以上15以下、酸価相当値が0.1以上0.5以下、およびアミン価相当値が0.8以上8.0以下に調整され、そのグリーンシート表面抵抗率が、1×1014(Ω/sq)未満であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体酸化物形燃料電池(以下、SOFCと記載する)に用いられる電解質用ジルコニア系グリーンシートおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、燃料電池は低炭素社会実現のためのクリーンなエネルギー源として注目されており、その用途は家庭用発電から業務用発電、更には自動車用発電などを主体にして急速に改良研究および実用化研究が進められている。
【0003】
SOFCの代表的な構造は、電解質シートの片面側にアノード電極、他方面側にカソード電極を設けたSOFC用セルを縦方向に多数積層したスタックが基本であり、燃料電池の発電性能を高めるには、電解質シートを緻密且つ薄肉化することが有効とされている。ちなみに電解質シートには、優れた酸素イオン導電性とともに、発電源となる燃料ガスと空気との混合を確実に阻止する緻密性と、導電抵抗を極力抑えるために極力薄肉であることが求められるからである。しかもSOFCは、前述の如くアノード電極/固体電解質/カソード電極を有するセルと、燃料ガスと空気を分離・流通させるためのセパレータとを交互に多数積層した構造のものである。そのため、作動温度は700〜1000℃のSOFCに組み込まれた電解質シートには大きな積層荷重がかかる他、相当の熱ストレスを受けるので、高レベルの強度と耐熱性が要求される。
【0004】
この様な要求特性から、SOFC用固体電解質の素材としては主としてジルコニア主体のジルコニア系セラミックシートが使用されており、当該ジルコニア系セラミックシートの両面にスクリーン印刷などによってアノード電極とカソード電極を形成した電解質支持型セル(以下、ESCと記載する)が一般的に使用されている。
【0005】
なお、ジルコニア系電解質シートは通常以下の工程を経て製造される。Sc、Y、Ce、Yb等の希土類元素の酸化物で安定化されたジルコニア粉末、有機バインダー、可塑剤、分散剤、有機溶剤等を混合、分散するスラリー調製工程;得られたスラリーをポリエチレンテレフタレート(PET)等のキャリアフィルム上にドクターブレード法等で塗工した後、乾燥して有機溶剤を蒸発させシート状に成形し、キャリアフィルムごと巻き取る、あるいはキャリアフィムを剥離して巻き取るジルコニア系グリーンシート成形工程;ジルコニアグリーンシートを、あるいはキャリアフィルムから剥離してジルコニア系グリーンシートを所望形状に切断する切断工程;次いで、切断されたグリーンシートを、焼成炉でグリーンシートに含まれる前記有機バインダー、可塑剤、分散剤を200〜500℃で燃焼後、さらに高温にして1300〜1500℃で前記ジルコニア粉末を焼結せしめてジルコニア系シートとする焼成工程である。
【0006】
本発明者らは、こうしたジルコニア系電解質シートについて、ESCに使用したときの積層荷重や熱ストレスに耐える物性とその形状特性についてかねてより研究を進めており、異物やキズ等の不良箇所の数を特定して機械的強度や強度のばらつきを示すワイブル係数に優れた電解質シートとその製造方法を特許文献1に開示している。この技術は、ジルコニア系グリーンシートと、スペーサーとして使用する粒子形状を特定した仮焼シートとを交互に積み重ねた積層体として焼成することによって、焼成炉内の存在する異物粒子・塵埃等が雰囲気ガスの対流などによりグリーンシートに付着するのを防ぐともに、グリーンシートの収縮時にスペーサーとこすれによって発生するキズの発生も防いで、不良の個所が少ない高品質のジルコニア系電解質シートを得るものである。
【0007】
また、特許文献2には、厚みが大きくとも30μmであるセラミック基板の製造方法において、表面にキズ等の欠陥がないセラミックグリーンシートを得るために、デプスタイプフィルターを用いてスラリーを濾過して粗大凝集粒子を除去する技術が開示されている。
【0008】
しかしながら、ジルコニア系電解質シートに発現する付着異物やキズはグリーンシートの焼成工程やスラリー調製工程に上記技術を適用しても認められおり、上記ジルコニア系グリーンシートに成形する工程中や、キャリアフィルム上で、あるいはキャリアフィルムから剥離した状態でジルコニア系グリーンシートを所望形状に切断する工程中にも異物粒子・塵埃等がグリーンシートに付着して発現しているのが実情である。
【0009】
セラミックグリーンシートに付着した塵埃等の異物に関連しては、特許文献3に、多層基板や多層セラミックコンデンサ等の厚さが5μm程度の薄膜グリーンシートの場合、塵埃等の異物がグリーンシートの厚みの約2分の1以上の大きさがあるとき、積層し焼成を行った際にショート不良、空孔等の欠陥を形成し、ショート不良率の増大及び破壊電圧の等の信頼性が低下する問題を解決するための技術が開示されている。その技術とは、セラミック粉末と、有機バインダーと、アニオン系樹脂又はカチオン系樹脂からなる水溶性の界面活性剤及び/又は水溶性の分散剤とを含有するセラミックグリーンシートとすることによりグリーンシートの局所的な静電気の帯電を抑制でき、静電気による塵埃等の異物付着を低減するものである。
【0010】
しかしながら、ジルコニア系グリーンシートの場合は水溶性界面活性剤や分散剤を使用するだけではその帯電防止効果は十分とは言えず、特に、PETフィルムとともに巻き取ったジルコニア系グリーンシートをPETフィルムから剥離するときの帯電防止効果は満足できるものではなかった。
【0011】
一方、積層セラミックコンデンサやセラミック多層基板など回路パターンが形成されるセラミックグリーンシートにおいて、導体ペースト充填時或いはスクリーン印刷時等に生じる摩擦帯電やセラミックグリーンシートを1枚づつ分離する毎に生じる剥離帯電を防止するための技術が特許文献4に開示されている。これは、グリーンシート中に水溶性アクリルバインダーを3〜25重量%含有せしめることによって当該セラミックグリーンシートの表面抵抗率を9×1012(Ω/sq)以下に調整して、製造段階で摩擦帯電や剥離帯電による問題を回避するものであるが、同様にジルコニア系グリーンシートの場合は、帯電防止効果は十分とは言えず、特に、スラリー塗工後期間をおいてPETフィルムとともに巻き取ったジルコニア系グリーンシートをPETフィルムから剥離するときの帯電防止効果は満足できるものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】国際公開第99/55639号公報
【特許文献2】特開平8−238613号公報
【特許文献3】特開2004−323307号公報
【特許文献4】特開2001−163677号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上述したように、スラリー調製工程とジルコニア系グリーンシート焼成工程との間のグリーンシート成形工程においては、ジルコニア系グリーンシートの摩擦帯電や剥離帯電を抑制する技術は十分でなく、特に、スラリー塗工後期間をおいてPETフィルムとともに巻き取ったジルコニア系グリーンシートをPETフィルムから剥離するときの帯電防止効果は満足できるものではなかった。
【0014】
本発明は上記の様な事情に着目してなされたものであって、その目的は、キズ、付着異物等の欠陥がさらに少ないジルコニア系電解質シートを製造するためのジルコニア系グリーンシート、および当該ジルコニア系グリーンシートを効率的に製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、ジルコニア系グリーンシートの摩擦帯電や剥離帯電による塵埃付着は、グリーンシートに含まれる有機バインダーおよび可塑剤の官能基パラメーターの種類・量を適切に調整することによって得られる水酸基価相当値および酸価相当値で制御でき、その表面抵抗率を特定することにより経時的に安定した帯電防止効果が得られることを見出して、本発明を完成した。
【0016】
上記課題を解決することができた本発明のジルコニア系グリーンシートは、固体酸化物形燃料電池セル電解質用の厚さが100μm以上350μm以下のジルコニア系グリーンシートであって、ジルコニア粉末、有機バインダー、可塑剤を含み、前記グリーンシートの水酸基価相当値が1.5以上15以下、酸価相当値が0.1以上1.0以下、およびアミン価相当値が0.8以上8.0以下に調整され、そのグリーンシート表面抵抗率が、1×1014(Ω/sq)未満であることを特徴とする。
【0017】
前記ジルコニア系グリーンシートは、ジルコニア系粉末100質量部に対して、水酸基価が8.0以上80以下、酸価が0.1以上10以下、およびアミン価が5.0以上50以下である(メタ)アクリル系共重合体からなる有機バインダーが15〜22質量部含まれるものであることが好ましい。
【0018】
前記ジルコニア系グリーンシートは、ジルコニア系粉末100質量部に対して、水酸基価が5.0以上50以下、および酸価が0.1以上3.0以下であるポリエステル系可塑剤が1〜5質量部含まれるものであることがさらに好ましい。
【0019】
本発明のSOFCの電解質用ジルコニア系グリーンシート製造方法は、ジルコニア系粉末100質量部に対して、水酸基価が8.0以上80以下、酸価が0.1以上10以下、およびアミン価が5.0以上50以下である(メタ)アクリル系共重合体からなる有機バインダーを15〜22質量部、水酸基価が5.0以上50以下、および酸価が0.1以上3.0以下である可塑剤を1〜5質量部含むスラリーをドクターブレード法でキャリアフィルム上にシート状に塗工成形し、乾燥後切断することを特徴とする。
【0020】
本発明には、上記グリーンシートにより得られる固体酸化物形燃料電池セル用のジルコニア系電解質シートおよび、当該ジルコニア系電解質シートを用いた固体酸化物形燃料電池セルも含まれる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、摩擦帯電や剥離帯電による塵埃等の異物付着を低減したジルコニア系グリーンシートが得られる。そのため、当該ジルコニア系グリーンシートを焼成して得られるジルコニア系電解質シートにはキズ、付着異物等の表面欠陥が少なくなり不良率が低減されるとともに、当該ジルコニア系電解質シートを使用したSOFCセルの信頼性向上を図ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明のジルコニア系グリーンシートは、固体酸化物形燃料電池セル電解質用の厚さが100μm以上350μm以下のジルコニア系グリーンシートであって、ジルコニア粉末、有機バインダー、可塑剤を含み、前記グリーンシートの水酸基価相当値が1.5以上15以下、酸価相当値が0.1以上1.0以下、およびアミン価相当値が0.8以上8.0以下に調整され、そのグリーンシート表面抵抗率が、1×1014(Ω/sq)未満であることを特徴とする。
【0023】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のジルコニア系グリーンシートには水酸基価、酸価およびアミン価を有する有機バインダーと水酸基価および酸価を有する可塑剤が含まれることから、当該グリーンシートにも実測は困難であるが水酸基価および酸価に相当する値を持つことになる。
【0024】
水酸基価に関する水酸基価相当値は、ジルコニア系グリーンシート帯電性に大きな影響を与えるパラメーターで、グリーンシート中の水酸基価相当値を1.5以上15以下に調整することにより、グリーンシートに適度な親水性が付与されるのでグリーンシートが空気中の水分を適度に吸湿し、グリーンシートの上下面を単位時間で等電位にすることができて、局所的な静電気の帯電が抑制され塵埃等の付着異物を低減でされる。
【0025】
また、酸価に関する酸価相当値は、キャリアフィルムからグリーンシートを剥離するときの剥離帯電に影響を与えるパラメーターで、グリーンシートの酸価相当値を0.1以上1.0以下に調整することにより、キャリアフィルムからのグリーンシート剥離が容易にできて剥離時の帯電が低減される。
【0026】
さらに、アミン価に関するアミン価相当値も水酸基価相当値と同様に、ジルコニア系グリーンシート帯電性に大きな影響を与えるパラメーターで、グリーンシート中のアミン価相当値を0.8以上8.0以下に調整することにより、グリーンシートに適度な親水性が付与されるのでグリーンシートが空気中の水分を適度に吸湿し、グリーンシートの上下面を単位時間で等電位にすることができて、局所的な静電気の帯電が抑制され塵埃等の付着異物を低減でされる。特に、上記水酸基価相当値とアミン価相当値とが共存することでその効果が相乗され、スラリー塗工後期間をおいてPETフィルムとともに巻き取ったジルコニア系グリーンシートをPETフィルムから剥離するときの優れた帯電防止効果が発揮される。
【0027】
なお、水酸基価とは、有機バインダーや可塑剤1gに含まれる水酸基をアセチル化するのに必要な水酸化カリウムのmg数で表され、有機バインダーや可塑剤等の試料中に含まれる水酸基の含有量を示す尺度である。酸価とは、有機バインダーや可塑剤1gを中和するのに必要な水酸化カリウムのmg数で表され、試料中の酸性成分の含有量を示す尺度である。また、アミン価とは、有機バインダーや可塑剤1gを中和するのに必要な塩酸の量と等量の水酸化カリウムのmg数で表され、資料中に含まれるアミン成分の含有量を示す尺度である。これらは、通常滴定法で測定されるが、有機バインダーや可塑剤が溶媒に溶解している場合には固形分あたりに換算した数値とする。
【0028】
本発明で規定しているグリーンシートの水酸基価相当値とは、グリーンシート中のジルコニア粉末100質量部あたりの有機バインダーと可塑剤の合計水酸基価割合を示すもので、グリーンシート中に含まれる水酸基の含有量の尺度を示す。
【0029】
具体的には、有機バインダーの水酸基価(HVb)、可塑剤の水酸基価(HVp)、それぞれのジルコニア系粉末100質量部あたりの含有量をXb、Xpとすると、グリーンシート中の水酸基価相当値(HVg)は以下の式で示される。
HVg=HVb×Xb/100+HVg×Xg/100・・・・(式1)。
【0030】
上記水酸基価相当値は1.5以上15以下に調整されるが、水酸基価相当値が1.5未満となるとグリーンシートに適度な親水性が付与されず帯電性が高まる。一方15を超える場合は、グリーンシート製造時にスラリー流動性が悪くなるため、グリーンシート表面にスジ模様が入ったり、グリーンシート中に気孔が生じやすくなり、焼成後のジルコニア電解質シートの平坦性、緻密性や強度が低下する問題がある。水酸基価相当値のより好ましい範囲は1.6以上、さらに好ましくは1.8以上であり、13以下、さらに好ましくは10以下である。
【0031】
また、本発明で規定している上記グリーンシートの酸価相当値とは、グリーンシート中のジルコニア粉末100質量部あたりの有機バインダーと可塑剤の合計酸価割合を示すもので、グリーンシートに含まれる酸性成分の含有量の尺度を示す。具体的には、有機バインダーの酸価(AVb)、可塑剤の酸価(AVp)、それぞれのジルコニア系粉末100質量部あたりの含有量をXb、Xpとすると、グリーンシート中の酸価相当値(AVg)は以下の式で示される。
AVg=AVb×Xb/100+AVp×Xp/100・・・・(式2)。
【0032】
上記酸価相当値は0.1以上1.0以下に調整されるが、酸価相当値が0.1未満になるとグリーンシート自体の硬さが低下しキャリアフィルムからのグリーンシート剥離が困難となり、一方1.0を超える場合は、グリーンシートが硬くなりすぎ、キャリアフィルムからのグリーンシート剥離時に割れ・欠けが生じる問題が発生する。酸価相当値のより好ましい範囲は0.11以上、さらに好ましくは0.12以上であり、0.8以下、さらに好ましくは0.6以下である。
【0033】
さらに、本発明で規定している上記グリーンシートのアミン価相当値とは、グリーンシート中のジルコニア系粉末100質量部あたりの有機バインダーのアミン価割合を示すもので、グリーンシート中に含まれるアミノ成分の含有量の尺度を示す。具体的には、有機バインダーのアミノ価(AmVb)、ジルコニア粉末100質量部あたりの含有量をXbとすると、グリーンシート中のアミン価相当値(AmVg)は以下の式で示される。
AmVg=AmVb×Xb/100・・・・(式3)。
【0034】
上記アミン価相当値は0.8以上8.0以下に調整されるが、アミン価相当値が0.8未満になるとグリーンシートに適度な親水性が付与されず帯電性が高まる。一方8.0を超える場合は、グリーンシート自体のタック性が大きくなり過ぎキャリアフィルムからのグリーンシート剥離が困難となる。アミン価相当値のより好ましい範囲は1.0以上、さらに好ましくは1.2以上であり、7.0以下、さらに好ましくは6.0以下である。
【0035】
また、一般に、乾燥状態のジルコニア系グリーンシートの表面抵抗率は1×1014(Ω/sq)以上であるので、PETフィルムからジルコニア系グリーンシートを剥離するとき、剥離されたジルコニア系グリーンシートを所定の形状に切断するとき、所定の形状に切断後重ねられたジルコニア系グリーンシートを1枚ずつ分離するとき、ESC作製のために1枚ずつ分離されたジルコニア系グリーンシート表面に燃料極材料のペーストもしくは空気極材料のペーストをスクリーン印刷するとき、もしくは、1枚ずつ分離されたジルコニア系グリーンシートを多段に積層後焼成してジルコニア系電解質シートを製造する段階で一時的に摩擦帯電や剥離帯電が生じやすい傾向がある。
【0036】
しかしながら、本発明のジルコニア系グリーンシートは表面抵抗率が1×1014(Ω/sq)未満に調整されているので、帯電したグリーンシートの電荷を短時間でリークさせることが可能になり、摩擦帯電や剥離帯電による塵埃等の付着の問題を抑制することができる。ジルコニア系グリーンシートの表面抵抗率は低いほど静電気防止に対しては好ましいが、水酸基価相当値やアミン価相当値を本発明の上限値を超えるように設定しなければならず、ジルコニア系グリーンシートの成形性、厚さ均一性、キャリアフィルムからの剥離性に問題が生じるようになる。あるいはジルコニア系グリーンシートに導電剤や帯電防止剤を多量に添加する必要があり、焼成後のジルコニア系電解質シートの緻密性や強度が低下する。従って、好ましい表面抵抗率は1×1013(Ω/sq)以上、さらに好ましくは2×1013(Ω/sq)以上であり、好ましくは9×1013(Ω/sq)以下、さらに好ましくは8×1013(Ω/sq)以下に調整するのが適当である。
【0037】
本発明のジルコニア系グリーンシート中の有機バインダーは、水酸基価、酸価、およびアミン価を有する(メタ)アクリル系共重合体からなる非水溶性バインダーである。本発明で使用する有機バインダーの水酸基価、酸価およびアミン価は上記のグリーンシートの水酸基価相当値、酸価相当値およびアミン価相当値を調整するために必要であるが、(メタ)アクリル系共重合体では、その構成モノマーの種類と含有量を調整することにより容易に設定することができる。
【0038】
上記グリーンシートの水酸基価相当値、酸価相当値に設定するためおよびグリーンシートの成形性や強度、焼成時の熱分解性などの点から、有機バインダーのその水酸基価が8.0以上80以下、酸価が0.1以上10以下、およびアミン価が5.0以上50以下であり、グリーンシート中のジルコニア系粉末100質量部に対して15〜22質量部含まれることが好ましい。
【0039】
有機バインダーの水酸基価は10以上が好ましく、12以上がさらに好ましく、70以下が好ましく、60以下がさらに好ましい。上記範囲に制御することで、上記水酸基価相当値に設定できるとともにスラリー流動性が向上し均一なグリーンシートが成形される。
【0040】
また、酸価は0.2以上が好ましく、0.3以上がさらに好ましく、8以下が好ましく、6以下がさらに好ましい。上記範囲に制御することで、上記酸価相当値に設定できるとともにスラリー中のジルコニア系粉末の分散性が向上し均一で適度な硬さのグリーンシートが成形される。
【0041】
アミン価は6.0以上が好ましく、7.0以上がさらに好ましく、40以下が好ましく、30以下がさらに好ましい。上記範囲に制御することで、上記アミン価相当値に設定できるとともに、グリーンシート中の水酸基のグリーンシート親水性をも高め、グリーンシートを所定の形状に切断するときに生じるバリや欠けが防止される。
【0042】
なお、本発明では水溶性の(メタ)アクリル系共重合体をバインダーとした場合、完全に水溶性にするためには後述するバインダー中のカルボキシル基含有モノマーの含有量を増やす必要があるので、本発明が上限とするバインダーの酸価10を超えてグリーンシート自体が硬くなる傾向があり可塑剤を多量に添加する必要が生じる。したがって、厚さが100μm以上のグリーンシートを製造すると硬さは有するがグリーンシート強度が不足したものとなり、所定形状に切断するときに切断周縁部に欠けやひびが生じることがあるので、有機溶剤に溶解する非水溶性の(メタ)アクリル系共重合体をバインダーとする。
【0043】
有機バインダーのグリーンシート中の割合はジルコニア系粉末100質量部に対しては17〜20質量部含まれることがさらに好ましい。上記範囲に制御することで、上記水酸基価相当値と酸価相当値に設定できるとともに、グリーンシートにクラック発生が防止され、焼成時における反りやうねりの発生を抑制できる。
【0044】
上記のように水酸基価、酸価およびアミン価を調整できる有機バインダーとしては(メタ)アクリル系の共重合体は、ベースモノマーと水酸基含有モノマーとカルボキシル基含有モノマーとアミノ基含有モノマーとの共重合体が好ましい。
【0045】
具体的には、ベースモノマーとしてはメチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート等の炭素数10以下のアルキル基を有するアルキルアクリレート類やメチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、オクチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、デシルメタクリレート、ドデシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート等の炭素数20以下のアルキル基を有するアルキルメタクリレート類から選択される。また、水酸基含有モノマーとしては、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシ−1−メチルエチルアクリル酸、ヒドロキシプロピルメタクリレート等のヒドロキシアルキル基を有するヒドロキシアルキルアクリレートまたはヒドロキシアルキルメタクリレート類などが選択される。また、カルボキシル基含有モノマーとしては、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、モノイソプロピルマレートの如きマレイン酸半エステル等から選択される。また、アミノ基含有モノマーとしては、ジメチルアミノエチルアクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート等のアミノアルキルアクリレートまたはアミノアルキルメタクリレート類等から選択される。
【0046】
上記で選択されたモノマーをメチルエチルケトン、トルエン、キシレン、酢酸エチル、イソプロパノール、ブタノール等の有機溶剤中で溶液重合させることによって数平均分子量が5,000〜200,000、より好ましくは10,000〜100,000以下の(メタ)アクリレート系共重合体得られる共重合体が調製される。これらの有機バインダーは、単独で使用し得る他、必要により2種以上を適宜組み合わせて使用することができる。
【0047】
また、本発明のジルコニア系グリーンシート中の可塑剤は、水酸基価が5.0以上50以下、および酸価が0.1以上3.0以下であり、グリーンシート中のジルコニア粉末100質量部に対して1〜5質量部含まれる。可塑剤は有機バインダーに比べて含有量が少ないが、本発明のグリーンシートの水酸基価相当値、酸価相当値に設定するための有機バインダーの補助的な材料として添加される。その水酸基価は6.0以上が好ましく、7.0以上がさらに好ましく、40以下が好ましく、30以下がさらに好ましい。また、その含有量は1.5質量部以上が好ましく、2.0質量部以上がさらに好ましく、4.5質量部以下が好ましく、4.0質量部以下がさらに好ましい。上記範囲に制御することで、上記水酸基価相当値と酸価相当値に設定できるとともに、グリーンシートに適度な柔軟性が付与され取扱いが容易になる。
【0048】
具体的な可塑剤としては、例えば、低分子可塑剤、コオリゴマー可塑剤および高分子可塑剤がある。コオリゴマー可塑剤および高分子可塑剤としてはポリエステル類が挙げられ、特に下記一般式(4)で表される化合物が好適である。
【0049】
R−(A−G)n−A−R ・・・ (4)
[式中、Aは二塩基酸残基を示し、Rは一価アルコール残基を示し、Gはグリコール残基を示し、nは重合度を示す]。
【0050】
ここで、二塩基酸としては、フタル酸、アジピン酸、セバチン酸などが挙げられる。一価アルコールとしては、メタノール、プロパノール、ブタノール、ネオペンチルアルコール、トリデシルアルコール、イソノニルアルコール、2−エチルヘキシルアルコールなどが挙げられる。グリコールとしては、1,4−ブタンジオール、1,3−プロピレングリコール、エチレングリコール、1,6−ヘキサンジオール、2−メチル−1,3−プロピレングリコール、ネオペンチルグリコールなどのグリコール類;ジエチレングリコールなどのグリコールエーテル類;ポリエチレングリコール誘導体などが挙げられる。重合度は、可塑剤の数平均分子量が500以上、8000以下となるように調整するのが好ましい。
【0051】
また、本発明で用いる可塑剤としては、特にその数平均分子量が500以上、8000以下のオリゴマー可塑剤が好適である。
【0052】
本発明のジルコニア系グリーンシートの製造にあたっては、ジルコニア粉末100質量部に対して、水酸基価が8.0以上80以下、酸価が0.1以上10以下、およびアミン価が5.0以上50以下である(メタ)アクリル系共重合体からなる有機バインダーを15〜22質量部、水酸基価が5.0以上50以下、および酸価が0.1以上3.0以下である可塑剤を1〜5質量部含むスラリーをドクターブレード法でキャリアフィルム上にシート状に塗工成形し、乾燥後切断することを特徴とする。
【0053】
ジルコニア系粉末としては、MgO、CaO、SrO、BaOなどのアルカリ土類金属酸化物;Sc、Y、La、CeO、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Ybなどの希土類元素酸化物;Bi、In等の酸化物を安定化剤として1種もしくは2種以上含有するジルコニアを例示することができる。さらにその他の添加剤として、SiO、Ge、B、SnO、Ta、Nb等が含まれていてもよい。中でも、より高レベルの酸素イオン伝導性と、強度や靭性を確保する上で好ましいのは安定化剤としてスカンジア、イットリア、セリア、イッテルビアを含有する安定化ジルコニアであり、その含有量はスカンジアで4〜12モル%、イットリアで3〜10モル%、イッテルビアで4〜15モル%であり、結晶系は正方晶系、立方晶系であってもよいが、スカンジアの場合、含有量が多くなると結晶系が菱面体晶に転位することがあるので、結晶系を立方晶系に安定化するため、第三成分としてセリアやアルミナ等を加えてもよい。
【0054】
スラリー調製にあたっては、ジルコニア系粉末、有機バインダー、可塑剤の他に有機溶剤を含む。スラリー調製に用いる溶剤としては、メタノール、エタノール、2−プロパノール、1−ブタノール、1−ヘキサノール等のアルコール類;アセトン、2−ブタノン等のケトン類;ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル等の酢酸エステル類等を例示することができ、これらから適宜選択して使用する。これらの溶媒は単独で使用し得る他、2種以上を混合して使用することができる。
【0055】
さらに、ジルコニア系粉末の解膠や分散を促進し、スラリーの流動性を増加せしめ、スラリー中でのジルコニア系粉末の沈降を抑制するため、分散剤を添加してもよい。分散剤としては、例えば、Uniqema社製のKD−4,9、共栄化学工業社製のフローレンG700やG900、ビックケミー社製のBYK−220Sなどのアニオン系分散剤;Uniqema社製のKD−1やDOPA−22、ビックケミー社製のDisperbyk108、112、116などのカチオン系分散剤;ダイセル社製のナラクセルFM−1D、Uniqema社製のB246SF、共栄化学工業社製のNC−500などのノニオン系分散剤を挙げることができる。さらには界面活性剤や消泡剤などを必要に応じて添加することができる。
【0056】
これら、ジルコニア系粉末、有機バインダー、可塑剤、分散剤、有機溶剤を所定量ボールミルに投入混合した後に、粘度調整してドクターブレード法での塗工用スラリーを調製する。スラリー粘度は好ましくは1Pa・s以上、20Pa・s以下、より好ましくは1Pa・s以上、5Pa・s以下の範囲となる様に調整する。
【0057】
次に、得られたスラリーをドクターブレード法でシート状に成形する。具体的には、スラリーを塗工ダムへ輸送し、ドクターブレードにより均一な厚さとなるようにポリエチレンテレフタレート(PET)等のキャリアフィルム上にキャスティングし、乾燥することにより、好ましくは厚さが100μm以上、350μm以下の長尺ジルコニア系グリーンシートとする。
【0058】
ジルコニア系グリーンシートの乾燥条件は、使用した有機溶剤の種類などに応じて適宜調整すればよいが、通常は40℃以上、より好ましくは80℃以上で、120℃以下程度とする。乾燥は、一定温度で行ってもよいし、50℃、80℃、120℃の様に順次連続的に昇温して加熱乾燥してもよい。
【0059】
得られたグリーンシートは、そのままさらに切断して所望の形状や大きさとしてもよいが、通常は長尺のままキャリアフィルムとともに巻き取られた後いったん保管され、焼成前に切断して所望の形状や大きさとされる。ジルコニア系グリーンシートの切断に際しては、キャリアフィルムからジルコニア系グリーンシートを剥離し、剥離されたジルコニア系グリーンシートを所定の形状に切断してもよいし、キャリアフィルムに付着したグリーンシートを所定の形状に切断し、切断後キャリアフィルムからジルコニア系グリーンシートを剥離してもよい。
【0060】
この後、所定の形状に切断されたグリーンシートを1350〜1450℃で1〜10時間焼成してジルコニア系電解質シートを作製する。得られるジルコニア系電解質シートの形状は特に制限されず、円形、楕円形、R(アール)を持った角形など何れでもよく、これらのシート内に円形、楕円形、Rを持った角形などの穴を有するものであってもよい。また、厚さは80〜320μmであり、シート面積は50〜1000cmである。
【0061】
かくして得られた本発明のジルコニア系電解質シートにはキズ、付着異物の表面欠陥は非常に少なく、SOFC用の電解質膜として好適である。また、当該ジルコニア系電解質シートを用いて以下のように作製したSOFC用のESCも、SOFCスタックに組み込んだときの上記表面欠陥による割れが少なくなりSOFC用セルとしても好適である。
【0062】
なお、本発明で言うキズとはシート表面にできた比較的細長いスジ状のキズのことで、ジルコニア系グリーンシートの静電気によって糸くず、毛髪、針状ホコリ等がグリーンシートに付着して焼成後に消失してジルコニア系電解質シートに発現する表面欠陥で、幅5〜50μm、長さ1〜10mm程度の大きさのものである。
【0063】
また、付着異物とはシート表面にもしくは一部がめり込んだ状態で付着した異物のことで、外部から混入したホコリ、サビ等がグリーンシートに付着して焼成後でもジルコニア電解質シートに発現する白色、灰色、茶色、黒色状の斑点と見える電解質シートの微小な表面欠陥で、その面積は0.05〜5mm程度のものである。これらの色に発色する原因は、付着異物中にアルカリ金属、アルカリ土類金属、アルミニウム、シリカ、ホウ素またはこれらの酸化物や鉄、コバルト、ニッケル、銅、マンガン等の遷移金属などを挙げることができる
その他の欠陥としてはへこみがある。へこみとはシート表面にできた窪みのことで、微小紙片、糸くず、ホコリ等がグリーンシートに一部埋没したように付着し、焼成後に消失して埋没した箇所がジルコニア系電解質シートにへこみとして発現する表面欠陥で、その面積は0.05〜5mm程度のものである。
【0064】
これらの表面欠陥は、目視でも観察することも可能であるが、量産化された場合はその欠陥検出の速度と繰り返し検査の正確性の観点から透過型のレーザーセンサーやCCDラインセンサー、反射型のレーザーセンサーやCCDラインセンサーを用いて検出する。
【0065】
SOFC用セルは、上記ジルコニア系電解質シートの一方の面に燃料極を形成し、他方の面に空気極を形成して3層膜のESCとして作製される。
【0066】
燃料極の形成は、NiOに、イットリウム、サマリウム、ガドリニウムから選ばれる元素の酸化物の少なくとも1種によりドープされたセリア、および/または、イットリウム、スカンジウム、イッテルビウムから選ばれる元素の酸化物の少なくとも1種で安定化されたジルコニアを添加した混合粉末などからなる燃料極材料のペーストを上記ジルコニア系電解質シートの一方の面にスクリーン印刷後、乾燥して1300〜1400℃で1〜10時間焼成する。
【0067】
また、空気極の形成は、具体的には、La0.8Sr0.2MnO3、La0.6Sr0.4CoO3、La0.6Sr0.4FeO3、La0.6Sr0.4Co0.2Fe0.83等、ランタンの一部をストロンチウムで置換したランタンマンガナイト、ランタンフェライトやランタンコバルタイト等のペロブスカイチ型酸化物粉末や、前記ペロブスカイチ型酸化物粉末と希土類などをドープしたセリアとの混合粉末などからなる燃料極材料とのペーストを上記ジルコニア系電解質シートの他方の面にスクリーン印刷後、乾燥して900〜1300℃で1〜10時間焼成する。
【0068】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例により制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0069】
(有機バインダーの作製)
モノマーとしてメチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、2−エチルヘキシルマタクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ジメチルアミノメタクリレート、アクリル酸等を所定量配合し、溶剤としてトルエン/酢酸エチル(質量比3/2)、重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリルを用いて溶液重合して、固形分濃度50%の(メ
タ)アクリレート共重合体からなる非水溶性の有機バインダー(a〜h)を調製した。
【0070】
また、メチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ジメチルアミノメタクリレート、アクリル酸等を所定量配合し、重合開始剤としてt−ブチルヒドロキシパーオキシドを用いて水中で溶液重合して、固形分濃度45%の(メタ)アクリレート共重合体からなる水溶性の有機バインダー(i)を調製した。それぞれの有機バインダーの水酸基価、酸価およびアミン価を指示薬滴定法により測定した。結果を表1に示す。
【0071】
(ジルコニア系グリーンシートの作製)
市販の4ScSZ粉末(第一稀元素社製、商品名「4ScSZ」、平均粒径:0.6μm)100質量部に対して、上記非水溶性有機バインダー(a〜h)を固形分換算で18質量部、可塑剤としては表1に記載アジピン酸系ポリエステル(j〜k)、フタル酸系ポリエステル(l)、もしくは2エチルヘキシルフタレート(m)3質量部、上記バインダーと適宜組み合わせて使用した。
【0072】
分散剤としてソルビタン酸トリオレート2質量部、および有機溶剤としてトルエン/酢酸エチル混合溶剤(質量比=3/2)50質量部をジルコニアボールが装入されたナイロンポットに入れ、35時間ミリングして非水溶性の4ScSZスラリーを調製した。
【0073】
また、上記有機バインダー(i)を使用した時は、溶媒として水50質量部、可塑剤として2−エチルヘキシルフタレート(l)を用いた以外は同様にして水溶性の4ScSZスラリーを調製した。
【0074】
得られたスラリーを碇型の撹拌機を備えた内容積50Lのジャケット付丸底円筒型減圧脱泡容器へ移し、撹拌機を30rpmの速度で回転させながら、ジャケット温度40℃で減圧(約4〜21kPa)下に濃縮・脱泡し、粘度を5Pa・sに調整し、塗工用スラリーとした。この塗工用スラリーを塗工装置のスラリーダムに移し、ドクターブレード法によってPETフィルム上に塗工し、塗工部に続く乾燥部(50℃、80℃、110℃の3ゾーン)を0.4m/分の速度で通過させて乾燥することにより、厚さ180μmの4ScSZグリーンシートに成形し、PETフィルムごと巻き取り、長尺の4ScSZグリーンシート(A〜I)を作製した。
【0075】
(表面抵抗率・剥離帯電・摩擦帯電の測定)
上記4ScSZグリーンシートの表面抵抗率をJIS K6911に準拠して、デジタル超絶縁計(型式:DSM−8104、東亜ディケーケー社製)、平板試料電極装置(型式:SME−8311、東亜ディケーケー所製)を使用して測定した。測定に供したグリーンシートは巻き取ってから1時間後と1週間後にPETフィルムから剥離した後、これを切断して一辺が100mmの4ScSZグリーンシート(A〜I)である。
【0076】
また、上記巻き取ってから1時間後のグリーンシートをPETフィルムから剥離し、5秒後に集電式静電気測定器を使用して剥離帯電量を、上記グリーンシート同士を10秒間摩擦後に集電式静電気測定器を使用して摩擦帯電量を測定した。結果を表1に合わせて示す。
【0077】
【表1】

【0078】
*印の試料は、本発明の範囲外である。
【0079】
(ジルコニア系グリーンシートの焼成)
300mm角セラミックセッターの上に、厚さは180μm、120mm各、気孔率が45%、質量が3.6gであった。上記多孔質スペーサーを4枚載置し、それぞれの上に上記4ScSZグリーンシート(A)を載置し、さらにこれらグリーンシートの上に上記多孔質スペーサーを載置する。さらにそれぞれグリーンシート4枚と多孔質スペーサー4枚を交互に積み重ねてグリーンシート5枚からなる4組の積層体とする。グリーンシートとしては計20枚となる。該積層体最上部の多孔質スペーサーの上に、セラミック重しとして、ムライトとアルミナの結晶相を持つ多孔質ブロック(気孔率52%)を載置した。
【0080】
同様に、ScSZグリーンシート(B〜I)各20枚についてもそれぞれを4組の積層体とした。これらを載置したセラミックセッター10枚を1mの箱型電気炉に投入して1420℃で焼成してそれぞれの各20枚の4ScSZ電解質シートを得た。
【0081】
(キズ・付着異物の測定)
上記4ScSZ電解質シートをサーボスライダーにより移動させながら、レーザー投受光器(タイヨー電機社製,LD−01)を用い、シートの裏面から水平方向に対して60°の角度からレーザー光を照射し、当該レーザー光の同軸上で線状に撮像し、二次元画像に変換してキズ、付着異物の数を測定した。各20枚のシートに検出されるキズ、付着異物の平均値が2個以下であるものを○、3〜5個であるものを△、6個以上であるものを×とした。結果を表2に示す。
【0082】
(表面状態等の観察)
また、アルキメデス法で密度を測定し、20枚のジルコニアシートの平均密度が98%以上の場合を○、95%以上98%未満の場合を△、95%未満の場合を×とした。クラック、欠け等の表面状態は目視で観察し、20枚のジルコニアシートのうちクラック、欠けがゼロ枚の場合を○、1〜2枚の場合を△、3枚以上の場合を×とした。結果を表2に示す。
【0083】
【表2】

【0084】
(結果)
表1から明らかなように、本発明のジルコニア系グリーンシートは表面抵抗率が1×1013 〜9×1013Ω/sqの範囲であり、約1週間後でも1×1013 〜9×1013Ω/sqの範囲である。つまり、ジルコニア系グリーンシートの表面抵抗率が1×1014/sq未満の範囲であれば、ジルコニア系グリーンシートの摩擦帯電量や剥離帯電量はいずれも2.5V以下と低い値であった。このグリーンシートを焼成するとシート表面にキズ、付着異物の数は2個以下であり、ジルコニア系グリーンシートの表面抵抗率が1×1014/sq以上のグリーンシートを焼成したジルコニア系電解質シート表面のキズ、付着異物の数はいずれも3個以上を多くなっていた。
【0085】
従って、ジルコニア系グリーンシートの表面抵抗率が1×1014/sq未満に調整することによって、スラリー調製工程とジルコニア系グリーンシート焼成工程との間のグリーンシート成形工程において、静電気による塵埃等のグリーンシートへの付着を抑制できることが明らかになった。
【0086】
また、本発明のジルコニア系電解質シートは、シート表面のキズ、付着異物の数が少なく、平均密度も98%以上で、割れやクラックのない表面状態に優れたジルコニア系シートであることから、SOFC用ESCの電解質シートとして優れたものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体酸化物形燃料電池セル電解質用の厚さが100μm以上350μm以下のジルコニア系グリーンシートであって、
ジルコニア系粉末、有機バインダー、可塑剤を含み、前記グリーンシートの水酸基価相当値が1.5以上15以下、酸価相当値が0.1以上1.0以下、およびアミン価相当値が0.8以上8.0以下に調整され、そのグリーンシート表面抵抗率が、1×1014(Ω/sq)未満であることを特徴とするジルコニア系グリーンシート。
【請求項2】
前記ジルコニア系グリーンシートは、ジルコニア系粉末100質量部に対して、水酸基価が8.0以上80以下、酸価が0.1以上10以下、およびアミン価が5.0以上50以下である(メタ)アクリル系共重合体からなる有機バインダーが15〜22質量部含まれる請求項1に記載のジルコニア系グリーンシート。
【請求項3】
前記ジルコニア系グリーンシートは、ジルコニア系粉末100質量部に対して、水酸基価が5.0以上50以下、および酸価が0.1以上3.0以下であるポリエステル系可塑剤が1〜5質量部含まれる請求項1または2のいずれかに記載のジルコニア系グリーンシート。
【請求項4】
固体酸化物形燃料電池セル電解質用のジルコニア系グリーンシートの製造方法であって、
ジルコニア系粉末100質量部に対して、水酸基価が8.0以上80以下、酸価が0.1以上10以下、およびアミン価が5.0以上50以下である(メタ)アクリル系共重合体からなる有機バインダーを15〜22質量部、水酸基価が5.0以上50以下、および酸価が0.1以上3.0以下である可塑剤を1〜5質量部含むスラリーをドクターブレード法でキャリアフィルム上にシート状に塗工成形し、乾燥後切断することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のジルコニア系グリーンシートの製造方法。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載のジルコニア系グリーンシートを焼成することにより得られることを特徴とする固体酸化物形燃料電池セル用のジルコニア系電解質シート。
【請求項6】
請求項5に記載のジルコニア系電解質シートを用いた固体酸化物形燃料電池セル。

【公開番号】特開2012−69368(P2012−69368A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−212958(P2010−212958)
【出願日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】