説明

固体酸化物形燃料電池装置

【課題】起動工程において燃料電池モジュール内の温度が上昇し過ぎることを防止する固体酸化物形燃料電池装置を提供する。
【解決手段】制御部110は、起動工程において、セルスタック温度及び改質器温度に基づいて、改質器に供給する燃料ガス、酸化剤ガス、水蒸気の供給量を制御し、前記改質器で行われる燃料ガス改質反応工程をPOX工程、ATR工程、SR工程へ移行させた後、発電工程へ移行させ、各工程においてセルスタック温度及び改質器温度がそれぞれに対して設定された移行条件を満足した場合に、次の工程に移行させるように制御するよう構成されており、判定手段である制御部110が昇温助長状態であると判定した場合、移行条件を満足していなくても次工程へ早期に移行させるように、移行条件を緩和する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体酸化物形燃料電池装置に係わり、特に、起動中における改質器等の過昇温を防止する固体酸化物形燃料電池装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、固体酸化物形燃料電池装置(SOFC)は、起動工程において、燃料ガスを改質器において改質する複数の工程、すなわち、部分酸化改質反応工程(POX工程)、オートサーマル改質反応工程(ATR工程)、水蒸気改質反応工程(SR工程)を経て、発電工程へ移行するように構成されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
SOFCでは、これらの工程を順に実行することにより、燃料電池モジュール収納室内に配置された改質器や燃料電池セルスタック等を動作温度まで昇温させることができる。
また、SOFCは、動作温度が600〜800℃と高温であり、燃料電池モジュール収納室周囲に蓄熱材が配置されている。したがって、この蓄熱材は、動作中に多量の熱量を保持し、動作中の熱効率を向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−319420号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、動作中であったSOFCを一旦停止動作に移行させた後、再起動させる場合、上述のように蓄熱材には多量の熱量が蓄えられているため、通常の起動工程で起動させると、改質器や燃料電池セルスタックの温度が上昇し過ぎてしまうという問題があった。
【0006】
例えば、通常の起動動作中において、改質器内での改質反応工程のうち、発熱反応であるPOX工程で発生した熱は、改質器自体を昇温させるが、改質器外の構成部材である蓄熱材等をも昇温させる。
【0007】
これに対して、再起動動作中には、改質器外の構成部材が既にある程度の温度まで昇温されており、また、蓄熱材が多量の熱量を保持しているため、POX工程で発生した熱が、主に改質器を昇温するために用いられる。その結果、再起動動作中には、改質器が、通常の起動動作中よりも大きな昇温速度で昇温し、所定の動作温度を超えた状態となる過昇温が引き起こされるおそれがあった。そして、この過昇温により改質器が劣化したり破損したりするおそれがあった。
【0008】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、起動工程において、燃料電池モジュール内の温度が上昇し過ぎることを防止する固体酸化物形燃料電池装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、本発明は、固体酸化物形燃料電池装置において、複数の燃料電池セルを組み合わせてなるセルスタックと、燃料電池セルに供給する燃料ガスを改質する改質器と、燃料電池セルを通過した余剰の燃焼ガス又は改質された燃焼ガスを燃焼させることにより発生する排気ガスによって改質器及びセルスタックを加熱する燃焼部と、セルスタックの温度及び改質器の温度をそれぞれ検出する温度検出器と、セルスタック及び改質器を収納するモジュール収納室と、モジュール収納室の周囲に配置された蓄熱手段と、燃料電池装置の起動中に蓄熱手段が蓄積している熱量によって改質器及び/又はセルスタックの昇温が助長される状態である昇温助長状態であるか否かを判定する判定手段と、燃料電池装置の起動を制御する制御手段と、を備えており、制御手段は、燃料電池装置の起動工程において、セルスタックの温度及び改質器の温度に基づいて、改質器に供給する燃料ガス、酸化剤ガス、水蒸気の供給量を制御し、改質器で行われる燃料ガス改質反応工程をPOX工程、ATR工程、SR工程へ移行させた後、発電工程へ移行させ、各工程においてセルスタックの温度及び改質器の温度がそれぞれに対して設定された移行条件を満足した場合に、次の工程に移行させるように制御するよう構成されており、判定手段が昇温助長状態であると判定した場合、制御手段は、移行条件を満足していなくても次工程へ早期に移行させるように、移行条件を緩和することを特徴としている。
【0010】
蓄熱手段に残存熱量が所定以上ある状況において燃料電池装置を起動する際、例えば、改質器内での部分酸化改質反応で生じた発生熱が蓄熱手段に奪われ難くなる。このため、特に、部分酸化改質反応が行われるPOX工程やATR工程において、改質器の温度上昇速度が大きくなり、通常の起動時と比べて改質器温度とセルスタック温度との温度差が大きくなる。
【0011】
このような場合に通常起動時と同じ方法及び移行条件で起動を行うと、セルスタック温度の上昇を待っていると、改質器の温度が上昇し過ぎてしまい、例えば改質器の温度が異常判定温度以上に過昇温し、改質器の劣化・損傷が生じるおそれがあった。また、逆に、残存熱量の影響によって、セルスタック温度が上昇し過ぎることにより、燃料電池セルスタックに劣化が生じるおそれがあった。
【0012】
本発明によれば、判定手段により、改質器及び/又はセルスタックが燃料電池装置の起動中に蓄熱手段が蓄積している残存熱量によって昇温される状態である昇温助長状態であるか否かを判定し、昇温助長状態であることが推定された場合は、各工程間での移行条件を緩和することにより、早めに次工程へ移行することで、改質器又はセルスタックの温度が上昇し過ぎること、すなわち過昇温を防止することができる。
【0013】
本発明において、好ましくは、制御手段は、判定手段が昇温助長状態であると判定した場合、改質器の温度及びセルスタックの温度の少なくとも一方が移行条件を満たしていない場合であっても次工程に移行する。
このように構成された本発明によれば、昇温助長状態であると推定される場合には、改質器の温度及びセルスタックの温度の少なくとも一方が工程間の移行温度条件を満たさない低温の時点で早めに移行するため、改質器の温度及びセルスタックの温度のうち、移行条件を満たしていない温度の上昇を待つ間に、移行条件を満たしている温度が上昇し過ぎてしまうことを防止し、過昇温の発生を確実に防止することができる。また、昇温助長状態であるので、燃料電池モジュール内の残存熱量が、次工程以降において移行条件を満たしていない温度の不足分を補うことができる。これにより、次工程以降において温度上昇不足を補償することができる。
【0014】
本発明において、好ましくは、判定手段は、少なくとも1つの工程から次工程への移行時において改質器の温度が第1の所定温度以上である場合に昇温助長状態であると判定し、この判定に基づいて、制御手段は、セルスタックの温度が次工程へ移行するための移行条件を満たしていない場合であっても次工程へ移行させる。
【0015】
再起動時には、POX工程及びATR工程における部分酸化改質反応による発生熱が、残存熱量の存在によって蓄熱手段に奪われ難いため、起動工程における改質器温度の上昇速度がセルスタック温度の上昇より速くなる。よって、セルスタック温度が移行条件を満たすまで待つと、改質器が過昇温してしまうおそれがある。このため、本発明では、改質器温度が強制移行温度に到達した場合には、セルスタック温度が移行条件を満足するのを待つことなく早めに次工程へ移行することにより、改質器の過昇温を防止することができる。
【0016】
本発明において、好ましくは、第1の所定温度は、改質器の移行条件の温度よりも高い温度に設定されている。
このように構成された本発明によれば、セルスタック温度が未だ移行条件の温度よりも低い状態であるにもかかわらず、改質器温度が移行条件の温度を超えて高温状態(すなわち、第1の所定温度である強制移行温度)に達している場合には、スタック温度の上昇をこれ以上待つべきではなく、残存熱量が大きい昇温助長状態であるとの判断を誤りなく行うことができる。
【0017】
本発明において、好ましくは、判定手段は、SR工程において、改質器の温度が第1の所定温度以上である場合に昇温助長状態であると判定し、この判定に基づいて、制御手段は、セルスタックの温度が次工程へ移行するための移行条件を満たしていない場合であっても発電工程へ移行させ、第1の所定温度は、改質器の発電工程への移行条件の温度よりも高く、且つ、改質器の異常判定温度である第2の所定温度よりも低く設定されている。
【0018】
発電工程へ移行する時点(SR工程)は、起動工程(すなわち昇温工程)の最期であるため、改質器温度が最も高温になりやすい。このため、本発明によれば、残存熱量が大きい昇温助長状態である場合に、改質器の異常判定温度より低い時点で発電に移行させることにより、発電工程移行後も改質器を異常判定温度以下に抑えて、正常動作温度範囲で動作させることができる。
【0019】
本発明において、好ましくは、制御手段は、発電工程へ移行後において、改質器の温度が改質器の異常判定温度である第2の所定温度を超えないように、燃料電池装置の運転を規制する温度監視制御を実行する。
残存熱量が大きい昇温助長状態である場合には、改質器温度が通常の起動時と比べて異常判定温度に近づいた状態となる。このため、本発明では、発電工程移行後においても改質器の温度が改質器の異常判定温度を超えないように温度監視制御を実行することにより、発電開始に伴って改質器温度が更に高温になって異常判定温度を超えてしまうことを防止することができる。これにより、本発明では、起動工程から発電工程への強制移行しても、過昇温を確実に防止することが可能となる。
【0020】
本発明において、好ましくは、判定手段は、POX工程又はATR工程における改質器の温度により昇温助長状態であるか否かを判定し、昇温助長状態であると判定したとき、その工程以降における移行条件を緩和する。
残存熱量による改質器温度の上昇は、発熱反応が行われるPOX工程及びATR工程(特に、POX工程)において顕著に現れ、そのとき生じた改質器温度とセルスタック温度との温度差が以降の工程において維持されてしまう傾向がある。
したがって、本発明では、残存熱量による昇温助長状態の判定を正確に行うことができるPOX工程又はATR工程において、判定を行うこととしている。更に、判定以後における改質工程の切替温度条件をPOX工程又はATR工程の時点で切り替えるため、以後のATR工程からSR工程及び/又はSR工程から発電工程への各切替時点では残存熱量による昇温助長状態の判定を行わなくても、起動工程全体において過昇温の発生を防止することができる。
【0021】
本発明において、好ましくは、判定手段は、改質器の温度の測定値に基づいて、昇温助長状態であるか否かを判定する。
SOFCの停止動作では、モジュール収納室内部の冷却は局所的ではなく、全体に対する空気冷却にて行われる。このため、蓄熱手段に蓄熱された熱量は局所的ではなく、全体に略均一に残る。その結果、本発明者は、改質器温度に影響を与える残存熱量だけでなく、セルスタックに影響する残存熱量も改質器温度の測定のみによって推定できることを発見した。これにより、本発明では、残存熱量による昇温助長状態の判定を行うために専用の温度センサなどを別途設けることなく、既存の改質器温度を測定する温度センサからの測定値のみから、残存熱量による昇温助長状態の判定を行うことができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明の固体酸化物形燃料電池装置によれば、起動工程において、燃料電池モジュール内の温度が上昇し過ぎることを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の一実施形態による燃料電池装置を示す全体構成図である。
【図2】本発明の一実施形態による燃料電池装置の燃料電池モジュールを示す正面断面図である。
【図3】図2のIII-III線に沿う断面図である。
【図4】本発明の一実施形態による燃料電池装置の燃料電池セル単体を示す部分断面図である。
【図5】本発明の一実施形態による燃料電池装置の燃料電池セルスタックを示す斜視図である。
【図6】本発明の一実施形態による燃料電池装置を示すブロック図である。
【図7】本発明の一実施形態による燃料電池装置の起動時の動作を示すタイムチャートである。
【図8】本発明の一実施形態による燃料電池装置の運転停止時の動作を示すタイムチャートである。
【図9】本発明の一実施形態による燃料電池装置の起動処理手順の動作テーブルである。
【図10】本発明の一実施形態による燃料電池装置の過昇温抑制制御の動作テーブルである。
【図11】本発明の第2の実施形態による燃料電池装置の起動時における過昇温抑制制御の説明図である。
【図12】本発明の第3の実施形態による燃料電池装置の起動時における過昇温抑制制御の説明図である。
【図13】本発明の第3の実施形態による燃料電池装置の過昇温抑制制御の動作テーブルである。
【図14】本発明の第3の実施形態による燃料電池装置の過昇温抑制制御の動作テーブルである。
【図15】本発明の第4の実施形態による燃料電池装置の制御テーブルである。
【図16】制御部により実行される制御のフローチャートである。
【図17】制御部により実行される制御のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
次に、添付図面を参照して、本発明の実施形態による固体酸化物形燃料電池装置又は固体電解質型燃料電池(SOFC)を説明する。
図1は、本発明の一実施形態による固体電解質型燃料電池(SOFC)を示す全体構成図である。この図1に示すように、本発明の一実施形態による固体電解質型燃料電池(SOFC)1は、燃料電池モジュール2と、補機ユニット4を備えている。
【0025】
燃料電池モジュール2は、ハウジング6を備え、このハウジング6周囲には、蓄熱材7を介して密封空間8が形成されている。なお、蓄熱材7は、燃料モジュール2内で発生した熱を蓄熱することができるようになっており、燃料電池モジュール2の熱効率を向上させることができる。この密閉空間8の下方部分である発電室10には、燃料ガスと酸化剤(空気)とにより発電反応を行う燃料電池セル集合体12が配置されている。この燃料電池セル集合体12は、10個の燃料電池セルスタック14(図5参照)を備え、この燃料電池セルスタック14は、16本の燃料電池セルユニット16(図4参照)から構成されている。このように、燃料電池セル集合体12は、160本の燃料電池セルユニット16を有し、これらの燃料電池セルユニット16の全てが直列接続されている。
【0026】
燃料電池モジュール2の密封空間8の上述した発電室10の上方には、燃焼室18が形成され、この燃焼室18で、発電反応に使用されなかった残余の燃料ガスと残余の酸化剤(空気)とが燃焼し、排気ガスを生成するようになっている。
また、この燃焼室18の上方には、燃料ガスを改質する改質器20が配置され、前記残余ガスの燃焼熱によって改質器20を改質反応が可能な温度となるように加熱している。さらに、この改質器20の上方には、燃焼熱を受けて空気を加熱するための空気用熱交換器22が配置されている。
【0027】
次に、補機ユニット4は、水道等の水供給源24からの水を貯水してフィルターにより純水とする純水タンク26と、この貯水タンクから供給される水の流量を調整する水流量調整ユニット28(モータで駆動される「水ポンプ」等)を備えている。また、補機ユニット4は、都市ガス等の燃料供給源30から供給された燃料ガスを遮断するガス遮断弁32と、燃料ガスから硫黄を除去するための脱硫器36と、燃料ガスの流量を調整する燃料流量調整ユニット38(モータで駆動される「燃料ポンプ」等)を備えている。さらに、補機ユニット4は、空気供給源40から供給される酸化剤である空気を遮断する電磁弁42と、空気の流量を調整する改質用空気流量調整ユニット44及び発電用空気流量調整ユニット45(モータで駆動される「空気ブロア」等)と、改質器20に供給される改質用空気を加熱する第1ヒータ46と、発電室に供給される発電用空気を加熱する第2ヒータ48とを備えている。これらの第1ヒータ46と第2ヒータ48は、起動時の昇温を効率よく行うために設けられているが、省略しても良い。
【0028】
次に、燃料電池モジュール2には、排気ガスが供給される温水製造装置50が接続されている。この温水製造装置50には、水供給源24から水道水が供給され、この水道水が排気ガスの熱により温水となり、図示しない外部の給湯器の貯湯タンクへ供給されるようになっている。
また、燃料電池モジュール2には、燃料ガスの供給量等を制御するための制御ボックス52が取り付けられている。
さらに、燃料電池モジュール2には、燃料電池モジュールにより発電された電力を外部に供給するための電力取出部(電力変換部)であるインバータ54が接続されている。
【0029】
次に、図2及び図3により、本発明の実施形態による固体電解質型燃料電池(SOFC)の燃料電池モジュールの内部構造を説明する。図2は、本発明の一実施形態による固体電解質型燃料電池(SOFC)の燃料電池モジュールを示す側面断面図であり、図3は、図2のIII-III線に沿って断面図である。
図2及び図3に示すように、燃料電池モジュール2のハウジング6内の密閉空間8には、上述したように、下方から順に、燃料電池セル集合体12、改質器20、空気用熱交換器22が配置されている。
【0030】
改質器20は、その上流端側に純水を導入するための純水導入管60と改質される燃料ガスと改質用空気を導入するための被改質ガス導入管62が取り付けられ、また、改質器20の内部には、上流側から順に、蒸発部20aと改質部20bを形成され、改質部20bには改質触媒が充填されている。この改質器20に導入された水蒸気(純水)が混合された燃料ガス及び空気は、改質器20内に充填された改質触媒により改質される。改質触媒としては、アルミナの球体表面にニッケルを付与したものや、アルミナの球体表面にルテニウムを付与したものが適宜用いられる。
【0031】
この改質器20の下流端側には、燃料ガス供給管64が接続され、この燃料ガス供給管64は、下方に延び、さらに、燃料電池セル集合体12の下方に形成されたマニホールド66内で水平に延びている。燃料ガス供給管64の水平部64aの下方面には、複数の燃料供給孔64bが形成されており、この燃料供給孔64bから、改質された燃料ガスがマニホールド66内に供給される。
【0032】
このマニホールド66の上方には、上述した燃料電池セルスタック14を支持するための貫通孔を備えた下支持板68が取り付けられており、マニホールド66内の燃料ガスが、燃料電池セルユニット16内に供給される。
【0033】
次に、改質器20の上方には、空気用熱交換器22が設けられている。この空気用熱交換器22は、上流側に空気集約室70、下流側に2つの空気分配室72を備え、これらの空気集約室70と空気分配室72は、6個の空気流路管74により接続されている。ここで、図3に示すように、3個の空気流路管74が一組(74a,74b,74c,74d,74e,74f)となっており、空気集約室70内の空気が各組の空気流路管74からそれぞれの空気分配室72へ流入する。
【0034】
空気用熱交換器22の6個の空気流路管74内を流れる空気は、燃焼室18で燃焼して上昇する排気ガスにより予熱される。
空気分配室72のそれぞれには、空気導入管76が接続され、この空気導入管76は、下方に延び、その下端側が、発電室10の下方空間に連通し、発電室10に余熱された空気を導入する。
【0035】
次に、マニホールド66の下方には、排気ガス室78が形成されている。また、図3に示すように、ハウジング6の長手方向に沿った面である前面6aと後面6bの内側には、上下方向に延びる排気ガス通路80が形成され、この排気ガス通路80の上端側は、空気用熱交換器22が配置された空間と連通し、下端側は、排気ガス室78と連通している。また、排気ガス室78の下面のほぼ中央には、排気ガス排出管82が接続され、この排気ガス排出管82の下流端は、図1に示す上述した温水製造装置50に接続されている。
図2に示すように、燃料ガスと空気との燃焼を開始するための点火装置83が、燃焼室18に設けられている。
【0036】
次に図4により燃料電池セルユニット16について説明する。図4は、本発明の一実施形態による固体電解質型燃料電池(SOFC)の燃料電池セルユニットを示す部分断面図である。
図4に示すように、燃料電池セルユニット16は、燃料電池セル84と、この燃料電池セル84の上下方向端部にそれぞれ接続された内側電極端子86とを備えている。
燃料電池セル84は、上下方向に延びる管状構造体であり、内部に燃料ガス流路88を形成する円筒形の内側電極層90と、円筒形の外側電極層92と、内側電極層90と外側電極層92との間にある電解質層94とを備えている。この内側電極層90は、燃料ガスが通過する燃料極であり、(−)極となり、一方、外側電極層92は、空気と接触する空気極であり、(+)極となっている。
【0037】
燃料電池セル16の上端側と下端側に取り付けられた内側電極端子86は、同一構造であるため、ここでは、上端側に取り付けられた内側電極端子86について具体的に説明する。内側電極層90の上部90aは、電解質層94と外側電極層92に対して露出された外周面90bと上端面90cとを備えている。内側電極端子86は、導電性のシール材96を介して内側電極層90の外周面90bと接続され、さらに、内側電極層90の上端面90cとは直接接触することにより、内側電極層90と電気的に接続されている。内側電極端子86の中心部には、内側電極層90の燃料ガス流路88と連通する燃料ガス流路98が形成されている。
【0038】
内側電極層90は、例えば、Niと、CaやY、Sc等の希土類元素から選ばれる少なくとも一種をドープしたジルコニアとの混合体、Niと、希土類元素から選ばれる少なくとも一種をドープしたセリアとの混合体、Niと、Sr、Mg、Co、Fe、Cuから選ばれる少なくとも一種をドープしたランタンガレードとの混合体、の少なくとも一種から形成される。
【0039】
電解質層94は、例えば、Y、Sc等の希土類元素から選ばれる少なくとも一種をドープしたジルコニア、希土類元素から選ばれる少なくとも一種をドープしたセリア、Sr、Mgから選ばれる少なくとも一種をドープしたランタンガレート、の少なくとも一種から形成される。
【0040】
外側電極層92は、例えば、Sr、Caから選ばれた少なくとも一種をドープしたランタンマンガナイト、Sr、Co、Ni、Cuから選ばれた少なくとも一種をドープしたランタンフェライト、Sr、Fe、Ni、Cuから選ばれた少なくとも一種をドープしたランタンコバルタイト、銀、などの少なくとも一種から形成される。
【0041】
次に図5により燃料電池セルスタック14について説明する。図5は、本発明の一実施形態による固体電解質型燃料電池(SOFC)の燃料電池セルスタックを示す斜視図である。
図5に示すように、燃料電池セルスタック14は、16本の燃料電池セルユニット16を備え、これらの燃料電池セルユニット16の下端側及び上端側が、それぞれ、セラミック製の下支持板68及び上支持板100により支持されている。これらの下支持板68及び上支持板100には、内側電極端子86が貫通可能な貫通穴68a及び100aがそれぞれ形成されている。
【0042】
さらに、燃料電池セルユニット16には、集電体102及び外部端子104が取り付けられている。この集電体102は、燃料極である内側電極層90に取り付けられた内側電極端子86と電気的に接続される燃料極用接続部102aと、空気極である外側電極層92の外周面全体と電気的に接続される空気極用接続部102bとにより一体的に形成されている。空気極用接続部102bは、外側電極層92の表面を上下方向に延びる鉛直部102cと、この鉛直部102cから外側電極層92の表面に沿って水平方向に延びる多数の水平部102dとから形成されている。また、燃料極用接続部102aは、空気極用接続部102bの鉛直部102cから燃料電池セルユニット16の上下方向に位置する内側電極端子86に向って斜め上方又は斜め下方に向って直線的に延びている。
【0043】
さらに、燃料電池セルスタック14の端(図5では左端の奥側及び手前側)に位置する2個の燃料電池セルユニット16の上側端及び下側端の内側電極端子86には、それぞれ外部端子104が接続されている。これらの外部端子104は、隣接する燃料電池セルスタック14の端にある燃料電池セルユニット16の外部端子104(図示せず)に接続され、上述したように、160本の燃料電池セルユニット16の全てが直列接続されるようになっている。
【0044】
次に図6により本実施形態による固体電解質型燃料電池(SOFC)に取り付けられたセンサ類等について説明する。図6は、本発明の一実施形態による固体電解質型燃料電池(SOFC)を示すブロック図である。
図6に示すように、固体電解質型燃料電池1は、制御部110を備え、この制御部110には、使用者が操作するための「ON」や「OFF」等の操作ボタンを備えた操作装置112、発電出力値(ワット数)等の種々のデータを表示するための表示装置114、及び、異常状態のとき等に警報(ワーニング)を発する報知装置116が接続されている。なお、この報知装置116は、遠隔地にある管理センタに接続され、この管理センタに異常状態を通知するようなものであっても良い。
【0045】
次に、制御部110には、以下に説明する種々のセンサからの信号が入力されるようになっている。
先ず、可燃ガス検出センサ120は、ガス漏れを検知するためのもので、燃料電池モジュール2及び補機ユニット4に取り付けられている。
CO検出センサ122は、本来排気ガス通路80等を経て外部に排出される排気ガス中のCOが、燃料電池モジュール2及び補機ユニット4を覆う外部ハウジング(図示せず)へ漏れたかどうかを検知するためのものである。
貯湯状態検出センサ124は、図示しない給湯器におけるお湯の温度や水量を検知するためのものである。
【0046】
電力状態検出センサ126は、インバータ54及び分電盤(図示せず)の電流及び電圧等を検知するためのものである。
発電用空気流量検出センサ128は、発電室10に供給される発電用空気の流量を検出するためのものである。
改質用空気流量センサ130は、改質器20に供給される改質用空気の流量を検出するためのものである。
燃料流量センサ132は、改質器20に供給される燃料ガスの流量を検出するためのものである。
【0047】
水流量センサ134は、改質器20に供給される純水(水蒸気)の流量を検出するためのものである。
水位センサ136は、純水タンク26の水位を検出するためのものである。
圧力センサ138は、改質器20の外部の上流側の圧力を検出するためのものである。
排気温度センサ140は、温水製造装置50に流入する排気ガスの温度を検出するためのものである。
【0048】
発電室温度センサ142は、図3に示すように、燃料電池セル集合体12の近傍の前面側と背面側に設けられ、燃料電池セルスタック14の近傍の温度を検出して、燃料電池セルスタック14(即ち燃料電池セル84自体)の温度を推定するためのものである。
燃焼室温度センサ144は、燃焼室18の温度を検出するためのものである。
排気ガス室温度センサ146は、排気ガス室78の排気ガスの温度を検出するためのものである。
改質器温度センサ148は、改質器20の温度を検出するためのものであり、改質器20の入口温度と出口温度から改質器20の温度を算出する。
外気温度センサ150は、固体電解質型燃料電池(SOFC)が屋外に配置された場合、外気の温度を検出するためのものである。また、外気の湿度等を測定するセンサを設けるようにしても良い。
【0049】
これらのセンサ類からの信号は、制御部110に送られ、制御部110は、これらの信号によるデータに基づき、水流量調整ユニット28、燃料流量調整ユニット38、改質用空気流量調整ユニット44、発電用空気流量調整ユニット45に、制御信号を送り、これらのユニットにおける各流量を制御するようになっている。
また、制御ユニット110は、インバータ54に、制御信号を送り、電力供給量を制御するようになっている。
【0050】
次に図7により本実施形態による固体酸化物形燃料電池(SOFC)による起動時の動作を説明する。図7は、本発明の一実施形態による固体電解質型燃料電池(SOFC)の起動時の動作を示すタイムチャートである。
最初は、燃料電池モジュール2を温めるために、無負荷状態で、即ち、燃料電池モジュール2を含む回路を開いた状態で、運転を開始する。このとき、回路に電流が流れないので、燃料電池モジュール2は発電を行わない。
【0051】
先ず、改質用空気流量調整ユニット44から改質用空気を第1ヒータ46を経由して燃料電池モジュール2の改質器20へ供給する。また、同時に、発電用空気流量調整ユニット45から発電用空気を第2ヒータ48を経由して燃料電池モジュール2の空気用熱交換器22へ供給し、この発電用空気が、発電室10及び燃焼室18に到達する。
この直ぐ後、燃料流量調整ユニット38からも燃料ガスが供給され、改質用空気が混合された燃料ガスが、改質器20及び燃料電池セルスタック14、燃料電池セルユニット16を通過して、燃焼室18に到達する。
【0052】
次に、点火装置83により着火して、燃焼室18にある燃料ガスと空気(改質用空気及び発電用空気)とを燃焼させる。この燃料ガスと空気との燃焼により排気ガスが生じ、この排気ガスにより、発電室10が暖められ、また、排気ガスが燃料電池モジュール2の密封空間8内を上昇する際、改質器20内の改質用空気を含む燃料ガスを暖めると共に、空気熱交換器22内の発電用空気も暖める。
【0053】
このとき、燃料流量調整ユニット38及び改質用空気流量調整ユニット44により、改質用空気が混合された燃料ガスが改質器20に供給されているので、改質器20において、式(1)に示す部分酸化改質反応POXが進行する。この部分酸化改質反応POXは、発熱反応であるので、起動性が良好となる。また、この昇温した燃料ガスが燃料ガス供給管64により燃料電池セルスタック14の下方に供給され、これにより、燃料電池セルスタック14が下方から加熱され、また、燃焼室18も燃料ガスと空気が燃焼して昇温されているので、燃料電池セルスタック14は、上方からも加熱され、この結果、燃料電池セルスタック14は、上下方向において、ほぼ均等に昇温可能となっている。この部分酸化改質反応POXが進行しても、燃焼室18では継続して燃料ガスと空気との燃焼反応が持続される。
【0054】
mn+xO2 → aCO2+bCO+cH2 (1)
【0055】
部分酸化改質反応POXの開始後、改質器温度センサ148により検出された改質器20の温度、及び発電室温度センサ142により検出された燃料電池セルスタック14の温度に基づいて、水流量調整ユニット28、燃料流量調整ユニット38及び改質用空気流量調整ユニット44により、燃料ガスと改質用空気と水蒸気とを予め混合したガスの改質器20への供給が開始される。このとき、改質器20においては、上述した部分酸化改質反応POXと後述する水蒸気改質反応SRとが併用されたオートサーマル改質反応ATRが進行する。このオートサーマル改質反応ATRは、熱的に内部バランスが取れるので、改質器20内では熱的に自立した状態で反応が進行する。即ち、酸素(空気)が多い場合には部分酸化改質反応POXによる発熱が支配的となり、水蒸気が多い場合には水蒸気改質反応SRによる吸熱反応が支配的となる。この段階では、既に起動の初期段階は過ぎており、発電室10内がある程度の温度まで昇温されているので、吸熱反応が支配的であっても大幅な温度低下を引き起こすことはない。また、オートサーマル改質反応ATRが進行中も、燃焼室18では燃焼反応が継続して行われている。
【0056】
式(2)に示すオートサーマル改質反応ATRの開始後、改質器温度センサ146により検出された改質器20の温度、及び発電室温度センサ142により検出された燃料電池セルスタック14の温度に基づいて、改質用空気流量調整ユニット44による改質用空気の供給が停止されると共に、水流量調整ユニット28による水蒸気の供給を増加させる。これにより、改質器20には、空気を含まず燃料ガスと水蒸気のみを含むガスが供給され、改質器20において、式(3)の水蒸気改質反応SRが進行する。
【0057】
mn+xO2+yH2O → aCO2+bCO+cH2 (2)
mn+xH2O → aCO2+bCO+cH2 (3)
【0058】
この水蒸気改質反応SRは吸熱反応であるので、燃焼室18からの燃焼熱と熱バランスをとりながら反応が進行する。この段階では、燃料電池モジュール2の起動の最終段階であるため、発電室10内が十分高温に昇温されているので、吸熱反応が進行しても、発電室10が大幅な温度低下を招くこともない。また、水蒸気改質反応SRが進行しても、燃焼室18では継続して燃焼反応が進行する。
【0059】
このようにして、燃料電池モジュール2は、点火装置83により点火した後、部分酸化改質反応POX、オートサーマル改質反応ATR、水蒸気改質反応SRが、順次進行することにより、発電室10内の温度が徐々に上昇する。以上の起動処理が終了した後、燃料電池モジュール2からインバータ54に電力が取り出される。即ち、発電が開始される。燃料電池モジュール2の発電により、燃料電池セル84自体も発熱し、燃料電池セル84の温度も上昇する。
【0060】
発電開始後においても、改質器20の温度を維持するために、燃料電池セル84で発電に消費される燃料ガス及び発電用空気の量よりも多い燃料ガス及び発電用空気を供給し、燃焼室18での燃焼を継続させる。なお、発電中は、改質効率の高い水蒸気改質反応SRで発電が進行する。
【0061】
次に、図8により本実施形態による固体酸化物形燃料電池(SOFC)の運転停止時の動作を説明する。図8は、本実施形態により固体電解質型燃料電池(SOFC)の運転停止時の動作を示すタイムチャートである。
図8に示すように、燃料電池モジュール2の運転停止を行う場合には、先ず、燃料流量調整ユニット38及び水流量調整ユニット28を操作して、燃料ガス及び水蒸気の改質器20への供給量を減少させる。
【0062】
また、燃料電池モジュール2の運転停止を行う場合には、燃料ガス及び水蒸気の改質器20への供給量を減少させると同時に、改質用空気流量調整ユニット44による発電用空気の燃料電池モジュール2内への供給量を増大させて、燃料電池セル集合体12及び改質器20を空気により冷却し、これらの温度を低下させる。その後、発電室温度が所定温度、例えば、400℃まで低下したとき、燃料ガス及び水蒸気の改質器20への供給を停止し、改質器20の水蒸気改質反応SRを終了する。この発電用空気の供給は、改質器20の温度が所定温度、例えば、200℃まで低下するまで、継続し、この所定温度となったとき、発電用空気流量調整ユニット45からの発電用空気の供給を停止する。
【0063】
このように、本実施形態においては、燃料電池モジュール2の運転停止を行うとき、改質器20による水蒸気改質反応SRと発電用空気による冷却とを併用しているので、比較的短時間に、燃料電池モジュールの運転を停止させることができる。
【0064】
次に、図7及び図9を参照して、本実施形態による固体酸化物形燃料電池(SOFC)の起動時の動作を詳細に説明する。
図9は、燃料電池1の起動処理手順を示す基本となる動作テーブルであり、起動開始時に燃料電池モジュール2に残存する熱量が所定量以下で、後述する過昇温のおそれがない場合に用いられるものである。
図9に示すように、起動工程では、制御部110が各運転制御状態(燃焼運転工程、POX1工程、POX2工程、ATR1工程、ATR2工程、SR1工程、SR2工程)を時間的に順に実行し、発電工程へ移行するように構成されている。
【0065】
なお、POX1工程及びPOX2工程は、改質器20内で部分酸化改質反応が行われる工程である。また、ATR1工程及びATR2工程は、改質器20内でオートサーマル改質反応が行われる工程である。また、SR1工程及びSR2工程は、改質器20内で水蒸気改質反応が行われる工程である。上記各POX工程、ATR工程、SR工程は、それぞれ2つに細分化されているが、これに限らず、3つ以上に細分化してもよいし、細分化しない構成とすることもできる。
【0066】
まず、時刻t0において燃料電池1を起動すると、制御部110は、改質用空気流量調整ユニット44及び発電用空気流量調整ユニット45に信号を送って、これらを起動させ、改質用空気(酸化剤ガス)及び発電用空気を燃料電池モジュール2に供給する。なお、本実施形態においては、時刻t0において供給が開始される改質用空気の供給量は10.0(L/min)、発電用空気の供給量は100.0(L/min)に設定される(図9の「燃焼運転」工程参照)。
【0067】
次いで、時刻t1において、制御部110は、燃料流量調整ユニット38に信号を送って、改質器20への燃料ガス供給を開始する。これにより、改質器20へ送り込まれた燃料ガス及び改質用空気は、改質器20、燃料ガス供給管64、マニホールド66を介して各燃料電池セルユニット16内に送り込まれる。各燃料電池セルユニット16内に送り込まれた燃料ガス及び改質用空気は、各燃料電池セルユニット16の燃料ガス流路98上端から流出する。なお、本実施形態において、時刻t1において供給が開始される燃料ガスの供給量は6.0(L/min)に設定されている(図9の「燃焼運転」工程参照)。
【0068】
さらに、時刻t2において、制御部110は、点火装置83に信号を送り、燃料電池セルユニット16から流出する燃料ガスに点火する。これにより、燃料室18内で燃料ガスが燃焼され、これによって生成した排気ガスにより、その上方に配置された改質器20が加熱されると共に、燃焼室18、発電室10、及びその中に配置された燃料電池セルスタック14の温度(以下「セルスタック温度」という)も上昇する(図7の時刻t2〜t3参照)。燃料ガス流路98を含む燃料電池セルユニット16及びその上端部位は燃焼部に相当する。
【0069】
改質器20が加熱されることにより、改質器20の温度(以下「改質器温度」という)が300℃程度まで上昇すると、改質器20内においては、部分酸化改質反応(POX)が発生する(図7の時刻t3:POX1工程開始)。部分酸化改質反応は発熱反応であるため、改質器20は、部分酸化改質反応の発生により、その反応熱によっても加熱されるようになる(図7の時刻t3〜t5)。
【0070】
さらに温度が上昇し、改質器温度が350℃に達すると(POX2移行条件)、制御部110は、燃料流量調整ユニット38に信号を送り、燃料ガス供給量を減少させると共に、改質用空気流量調整ユニット38に信号を送り、改質用空気供給量を増加させる(図7の時刻t4:POX2工程開始)。これにより、燃料ガス供給量は5.0(L/min)に変更され、改質用空気供給量は18.0(L/min)に変更される(図9の「POX2」工程参照)。これらの供給量は、部分酸化改質反応を発生させるために適切な供給量である。即ち、部分酸化改質反応が発生し始める初期の温度領域においては、供給する燃料ガスの割合を多くすることにより、燃料ガスに確実に着火させる状態を形成すると共に、その供給量を維持して着火を安定させる(図9の「POX1」工程参照)。さらに、安定して着火され、温度が上昇した後には、部分酸化改質反応を生成するために必要にして十分な燃料ガス供給量として、燃料の浪費を抑えている(図9の「POX2」工程参照)。
【0071】
次に、図7の時刻t5において、改質器温度が600℃以上、且つ、セルスタック温度が250℃以上になると(ATR1移行条件)、制御部110は、改質用空気流量調整ユニット44に信号を送り、改質用空気供給量を減少させると共に、水流量調整ユニット28に信号を送り、水の供給を開始させる(ATR1工程開始)。これにより、改質用空気供給量は8.0(L/min)に変更され、水供給量は2.0(cc/min)にされる(図9の「ATR1」工程参照)。改質器20内に水(水蒸気)が導入されることにより、改質器20内で水蒸気改質反応も発生するようになる。即ち、図9の「ATR1」工程においては、部分酸化改質反応と水蒸気改質反応が混在したオートサーマル改質(ATR)が発生するようになる。
【0072】
本実施形態においては、セルスタック温度は、発電室10内に配置された発電室温度センサ142によって測定されている。発電室内の温度とセルスタック温度は、厳密には同一ではないが、発電室温度センサによって検出される温度はセルスタック温度を反映したものであり、発電室内に配置された発電室温度センサによりセルスタック温度を把握することができる。なお、本明細書において、セルスタック温度とは、セルスタック温度を反映した値を指示する任意のセンサにより測定された温度を意味するものとする。
【0073】
さらに、図7の時刻t6において、改質器温度が600℃以上、且つ、スタック温度が400℃以上になると(ATR2移行条件)、制御部110は、燃料流量調整ユニット38に信号を送り、燃料ガス供給量を減少させる。また、制御部110は、改質用空気流量調整ユニット44に信号を送り、改質用空気供給量を減少させると共に、水流量調整ユニット28に信号を送り、水の供給量を増加させる(ATR2工程開始)。これにより、燃料ガス供給量は4.0(L/min)に変更され、改質用空気供給量は4.0(L/min)に変更され、水供給量は3.0(cc/min)に変更される(図9の「ATR2」工程参照)。改質用空気供給量が減少され、水供給量が増加されることにより、改質器20内においては、発熱反応である部分酸化改質反応の割合が減少し、吸熱反応である水蒸気改質反応の割合が増加する。これにより、改質器温度の上昇は抑制され、一方、改質器20から受けるガス流により燃料電池セルスタック14が昇温されることによって、セルスタック温度は改質器温度に追い付くように昇温していくので、両者の温度差が縮小され、両者は安定的に昇温されていく。
【0074】
次に、図7の時刻t7において、改質器温度とセルスタック温度の温度差が縮まり、改質器温度が650℃以上、且つ、スタック温度が600℃以上になると(SR1移行条件)、制御部110は、改質用空気流量調整ユニット44に信号を送り、改質用空気の供給を停止する。また、制御部110は、燃料流量調整ユニット38に信号を送り、燃料ガス供給量を減少させると共に、水流量調整ユニット28に信号を送り、水の供給量を増加させる(SR1工程開始)。これにより、燃料ガス供給量は3.0(L/min)に変更され、水供給量は8.0(cc/min)に変更される(図9の「SR1」工程参照)。改質用空気の供給が停止されることにより、改質器20内においては部分酸化改質反応は発生しなくなり、水蒸気改質反応のみが発生するSRが開始される。
【0075】
さらに、図7の時刻t8において、改質器温度とセルスタック温度の温度差がさらに縮まり、改質器温度が650℃以上、且つ、セルスタック温度が650℃以上になると(SR2移行条件)、制御部110は、燃料流量調整ユニット38に信号を送り、燃料ガス供給量を減少させると共に、水流量調整ユニット28に信号を送り、水の供給量も減少させる。また、制御部110は、発電用空気流量調整ユニット45に信号を送り、発電量空気の供給量も減少させる(SR2工程開始)。これにより、燃料ガス供給量は2.3(L/min)に変更され、水供給量は6.3(cc/min)に変更され、発電用空気供給量は80.0(L/min)に変更される(図9の「SR2」工程参照)。
【0076】
SR1工程では、改質器温度及びスタック温度を発電可能な温度付近まで上昇させるため、燃料ガス供給量及び水供給量を高めに保持している。その後、SR2工程では、燃料ガス流量及び水供給量を低減して、改質器温度及びセルスタック温度の温度分布を落ち着かせ、発電可能な温度に安定化させる。
【0077】
制御部110は、SR2工程において、各供給量を所定の発電移行時間以上維持した後、図7の時刻t9において、改質器温度が650℃以上、且つ、スタック温度が700℃以上になると(発電工程移行条件)、燃料電池モジュール2からインバータ54に電力を出力させ、発電工程に移行して発電を開始する(図7の時刻t9:発電工程開始)。発電工程では、制御部110は、時刻t9から時刻t10の間は燃料ガス供給量及び水供給量を一定に維持する。
【0078】
その後、制御部110は、出力電力に追従させるように、燃料流量調整ユニット38及び水流量調整ユニット28に信号を送って燃料ガス供給量及び水の供給量を変更する。よって、時刻t10から時刻t11にかけて、燃料ガス供給量及び水の供給量が減少し、時刻t11以降は、要求出力電力に応じて、燃料ガス供給量及び水の供給量が調整され、負荷追従運転が実行される。
【0079】
次に、図10を参照して、本実施形態による固体酸化物形燃料電池(SOFC)の過昇温抑制制御を説明する。
上述のように、燃料電池モジュール2は、熱効率向上のためにモジュール収納室としてのハウジング6の周囲に蓄熱手段としての蓄熱材7が設けられており、内部で発生した熱を外部へ逃がさずに有効利用できるように構成されている。
【0080】
しかしながら、燃料電池装置1を稼動し、蓄熱材7を含む燃料電池モジュール2全体が昇温した状態で停止動作に入り、その後、蓄熱材7等が多量の熱量を蓄積した状態で再起動工程に入ると、燃料電池モジュール2内の構成部品(特に改質器20)が通常の室温状態からの起動時に比べて昇温し易くなる。例えば、発熱反応である部分酸化改質反応において改質器20で発生した熱は、通常の室温状態からの起動時には、改質器20そのものを昇温する以外に、他の構成部品や蓄熱材7を昇温するために改質器20外へ放出される。しかしながら、蓄熱材7が多量の熱量を保持している状況では、部分酸化改質反応で発生した熱は、主に改質器20を昇温するために用いられることになり、改質器20の昇温速度が速められる。これにより、例えば、改質器20が過昇温により劣化するおそれがある。
【0081】
このため、本実施形態では、このような過昇温が発生するおそれがある状態(すなわち、昇温助長状態)であるか否かを検知して、この状態に応じて、過昇温抑制制御を実行し、過昇温を防止した適切な再起動が行われる。
本実施形態では、改質器温度の上昇速度が通常の室温状態からの上昇速度よりも速い場合に、昇温助長状態であると判定し、過昇温抑制制御を実行する。この過昇温抑制制御では、昇温助長状態の検知により、早期に次工程へ移行するように、図9に示した動作テーブルの移行温度条件を緩和するように構成されている。
【0082】
図10は、本実施形態の過昇温抑制制御で用いられる動作テーブルであり、図9と比べて、移行温度条件のみが異なり、各工程における燃料ガス等の供給量は同一に設定されている。なお、図10以降の動作テーブルでは、図9と異なる部分を四角で囲ってある。
【0083】
起動工程において、通常起動時と比べて改質器温度の上昇速度がセルスタック温度の上昇速度よりも速い状態で、燃焼運転工程、POX1工程、POX2工程、ATR1工程、ATR2工程、SR1工程を順に移行してくると、SR1工程において、改質器温度とセルスタック温度の温度差が通常の起動時よりも大きくなる。
【0084】
図9の動作テーブルでは、SR1工程からSR2工程への通常の移行条件は、改質器温度が650℃以上、且つ、セルスタック温度が650℃以上である(通常のSR2移行条件)。
ところが、上述のようにSR1工程において、改質器温度とセルスタック温度との温度差が大きい場合、先に改質器温度が650℃以上に達した後、セルスタック温度が650℃以上に達するまでには時間が掛かるため、セルスタック温度が650℃に達したときには、改質器温度が過昇温により異常判定温度である800℃に達してしまうおそれがある。異常判定温度は、改質器20の劣化・損傷のおそれのため、燃料電池1を強制的に異常停止させる設定温度である。
【0085】
判定手段としての制御部110は、SR1工程において、セルスタック温度がSR2工程への移行温度条件(650℃)に到達していないにもかかわらず、改質器温度が第1の強制移行温度(本例では700℃)に到達した場合には、図9の動作テーブルで示した改質器温度及びセルスタック温度の基準となる移行温度の昇温過程から外れ、改質器温度の昇温速度が速まっているので、燃料電池モジュール2に多量の熱量が蓄積されており、この熱量に起因して改質器20の昇温が助長されている状態、又は、昇温速度が通常の起動時よりも速まっている状態、すなわち昇温助長状態であると判定する。
【0086】
すなわち、本実施形態では、セルスタック温度の昇温速度に比べて改質器温度の昇温速度が速く、両者の温度差が通常よりも大きくなり、セルスタック温度が移行条件の温度に達する前に改質器温度が移行条件の温度よりも所定温度以上高い第1の強制移行温度に達した場合に、昇温助長状態であると判定される。
【0087】
これにより、制御部110は、SR1工程からSR2工程への移行温度条件を、改質器温度が650℃以上、且つ、セルスタック温度が650℃以上であることに加えて、セルスタック温度にかかわらず、改質器温度が700℃以上であることを付加する(変更後のSR2移行条件)。
【0088】
セルスタック温度が650℃に到達していないので、通常のSR2移行条件は満たされないので、制御部110は、通常のSR2移行条件によっては、SR2工程へ移行することができない。しかしながら、改質器温度が第1の強制移行温度(700℃)に到達することにより、全体として移行条件が緩和された変更後のSR2移行条件を満たすことになり、制御部110は、変更後のSR2移行条件によって、SR1工程からSR2工程へ早期に移行させることができる。
【0089】
したがって、燃料ガス供給量及び水供給量がSR2工程よりも多いSR1工程の期間が短くなり、改質器20の温度上昇が抑制される。さらに、SR2工程へ移行後は、燃料ガス供給量及び水供給量がSR1工程よりも低減されるので、改質器温度の上昇が抑制される。
【0090】
SR2工程ではSR1工程よりも燃料ガス供給量及び水供給量が低減されるので、吸熱反応である水蒸気改質反応が抑えられる点では、改質器温度の上昇抑制効果としては不利である。しかしながら、SR2工程で燃料ガス供給量が低減されることにより、燃料電池セルユニット16から流出する改質後の燃料ガスの流出量も減少し、改質器20を加熱する燃焼部からの排気ガス量が減少するので、改質器温度の上昇は全体として抑制される。
一方、セルスタック温度は、SR2工程において改質器20からガス流を受けることにより、徐々に改質器温度に追い付くように上昇させることができる。
【0091】
また、図9の動作テーブルでは、SR2工程から発電工程への通常の移行条件は、改質器温度が650℃以上、且つ、セルスタック温度が700℃以上である(通常の発電工程移行条件)。
ところが、SR2工程においても、改質器温度とセルスタック温度との温度差が依然として大きい場合、改質器温度はSR2移行時点で650℃以上に達しているので、セルスタック温度が700℃以上に達するまで待つと、セルスタック温度が700℃に達したときには、改質器温度が異常判定温度である800℃に達してしまうおそれがある。
【0092】
よって、この場合も判定手段としての制御部110は、SR2工程において、セルスタック温度が発電工程への移行温度条件(700℃)に到達していないにもかかわらず、改質器温度が第2の強制移行温度(本例では720℃)に到達した場合には、昇温助長状態であると判定する。
【0093】
これにより、制御部110は、SR2工程から発電工程への移行温度条件を、改質器温度が650℃以上、且つ、セルスタック温度が700℃以上であることに加えて、セルスタック温度にかかわらず、改質器温度が720℃以上であることを付加する(変更後の発電工程移行条件)。よって、制御部110は、セルスタック温度が700℃に到達していないが、改質器温度が第2の強制移行温度(720℃)に到達することにより、緩和された変更後の発電工程移行条件を満たすことになり、SR2工程から発電工程へ早期に移行させることができる。なお、第1及び第2の強制移行温度は、異常判定温度よりも低く設定されている。
【0094】
発電工程に移行すると、セルスタック温度は、徐々に改質器20からの流入ガスにより改質器温度に追い付くように昇温すると共に、燃料電池セルスタック14での発電反応及びジュール熱によって昇温する。これにより、セルスタック温度は、700℃以上に達することができる。一方、改質器温度は、発電工程において、燃料ガス供給量及び水供給量が低減されるので、発電工程移行直後の一時的な昇温後には、温度上昇が抑制され、適切な温度範囲に維持される。また、SR2工程から発電工程へ早期に移行することにより、発電工程移行時において改質器温度は異常判定温度に対して温度余裕があるので、発電開始後の直後の期間における一時的な昇温によって、改質器温度が異常判定温度に到達することが防止される。
【0095】
このように、本実施形態の過昇温抑制制御では、改質器温度の上昇速度がセルスタック温度の上昇速度よりも速い場合、移行温度条件を緩和することにより、セルスタック温度が移行温度条件を満たしていなくても、改質器温度が通常の移行温度条件よりも高温に設定された第1又は第2の強制移行温度に到達することにより、次工程へ早期に移行される。これにより、本実施形態では、改質器温度の上昇を抑制し、SR工程を含む起動工程及び発電工程、特に、発電工程への移行時及び発電工程移行後の所定期間において、改質器温度やセルスタック温度が劣化・損傷を引き起こす所定値(異常判定温度)以上に過昇温してしまうことを防止することができる。
【0096】
なお、本実施形態では、SR工程中に昇温助長状態を判定して、SR1工程からSR2工程へ、及び、SR2工程から発電工程への移行温度条件を変更しているが、これに限らず、POX工程、ATR工程においても同様に昇温助長状態を判定して、移行温度条件を変更するように構成してもよい。
【0097】
次に、図11を参照して、第2の実施形態による固体酸化物形燃料電池(SOFC)の過昇温抑制制御を説明する。
図10による実施形態では、改質器温度とセルスタック温度の一方の移行温度条件が満たされていない場合であっても、所定の条件を加味することによって、次工程へ早期に移行させていたが、図11による実施形態では、改質器温度及びセルスタック温度の双方の移行温度条件が満たされていない場合であっても、所定の条件が満たされることにより、次工程へ早期に移行させるように構成されている。
【0098】
図11に示す起動時の動作中、起動の初期段階において、時刻t20に起動が開始され、時刻t21に燃料ガスの供給が開始され、時刻t22に着火され、時刻t23にPOX1工程に移行し、その後時刻t24にPOX2工程に移行している。また、図11には、図7で示した通常時の起動工程における改質器温度の時間変化が比較のために細い一点鎖線で付加されている。
【0099】
本実施形態においても、用いられる基本的な動作テーブルは、図9に示したものである。したがって、POX2工程からATR1工程への移行温度条件は、改質器温度が600℃以上、且つ、セルスタック温度が250℃である(通常のATR1移行条件)。
しかしながら、本実施形態では、判定手段としての制御部110は、POX工程において、改質器温度の上昇速度が通常よりも速く、POX工程開始から所定制限期間T内に改質器温度が強制移行温度(本例では550℃)に達した場合には、昇温助長状態であると判定する。
【0100】
本実施形態では、強制移行温度は、SR2工程からATR1工程への改質器温度の移行温度条件よりも低く設定されているが、POX工程開始から制限期間T内に改質器温度が強制移行温度に達した場合は、改質器温度の上昇速度が通常よりも速いことが予測される。このため、制御部110は、通常のATR1移行条件が満たされる前に、POX工程開始から制限期間T内に改質器温度が強制移行温度に達した場合は、過昇温が発生するおそれが高い昇温助長状態であると判定する。
【0101】
これにより、図11に示すように、通常のATR1移行条件が満たされていないが、POX工程開始から制限時間Tが経過した時刻t25にSR2工程からATR1工程へ移行される。これにより、発熱反応である部分酸化改質反応に加えて、吸熱反応である水蒸気改質反応が実行されるので、改質器温度の上昇速度が低減され、改質器温度とセルスタック温度との温度差が大きくなるのを抑制することができる。
【0102】
このように本実施形態では、改質器温度及びセルスタック温度が双方とも移行温度条件を満たしていない場合であっても、改質器温度の昇温速度に基づいて、昇温助長状態を判定することにより次工程へ移行し、過昇温を防止することができる。
【0103】
なお、本実施形態では、制限時間Tの間の改質器温度の昇温速度に基づいて、昇温助長状態を判定しているが、これに限らず、所定短時間毎の改質器温度の時間変化率から昇温速度を算出し、算出した昇温速度に基づいて、昇温助長状態を判定してもよい。
また、本実施形態では、POX工程における改質器温度の昇温速度に基づいて、過昇温抑制制御を実行しているが、これに限らず、ATR工程、SR工程においても同様の過昇温抑制制御を実行するように構成することができる。
さらに、本実施形態では、改質器温度の昇温速度に基づいて、過昇温抑制制御を実行しているが、これに限らず、セルスタック温度の昇温速度に基づいて同様の過昇温抑制制御を実行するように構成することができる。
【0104】
次に、図12乃至図14を参照して、第3の実施形態による固体酸化物形燃料電池(SOFC)の過昇温抑制制御を説明する。
本実施形態の過昇温抑制制御は、改質器温度の昇温速度がセルスタック温度の昇温速度よりも速く、POX工程終了時又はATR工程終了時において、改質器温度が第1又は第2の移行条件変更温度(本例ではそれぞれ650℃、700℃)に到達している場合に、これ以降の移行温度条件を通常の動作テーブルから変更するように構成されている。
【0105】
図12に示す起動時の動作中、起動の初期段階において、時刻t40に起動が開始され、時刻t41に燃料ガスの供給が開始され、時刻t42に着火され、時刻t43にPOX1工程に移行し、時刻t44にPOX2工程に移行し、その後時刻t45にATR1工程に移行している。また、図12には、図7で示した通常時の起動工程における改質器温度の時間変化が比較のために細い一点鎖線で付加されている。
【0106】
本実施形態においても、用いられる基本的な動作テーブルは、図9に示したものである。
しかしながら、本実施形態では、判定手段としての制御部110は、改質器温度の上昇速度が通常の起動時よりも速く、POX2工程からATR1工程への移行時において、セルスタック温度がATR1工程への移行温度条件(250℃)に到達した時点で、改質器温度がATR1工程への移行温度条件である600℃よりも高い第1の移行条件変更温度(650℃)に達している場合には、昇温助長状態であると判定する。
【0107】
POX2工程終了時に昇温助長状態であると判定すると、制御部110は、それ以降のセルスタック温度の移行温度条件を緩和し、図13に示す動作テーブルを用いて動作制御を行う。図13の動作テーブルでは、ATR1工程以降のセルスタック温度の移行温度条件が緩和され、それぞれ50℃ずつ低減されている。すなわち、ATR2工程移行時の温度条件が400℃から350℃へ低減され、SR1工程移行時の温度条件が600℃から550℃へ低減され、SR2工程移行時の温度条件が650℃から600℃へ低減され、発電工程移行時の温度条件が700℃から650℃へ低減される。
【0108】
また、本実施形態では、判定手段としての制御部110は、改質器温度の上昇速度が通常よりも速く、ATR2工程からSR1工程への移行時において、セルスタック温度がSR1工程への移行温度条件(600℃)に到達した時点で、改質器温度がSR1工程への移行温度条件である650℃よりも高い第2の移行条件変更温度(700℃)に達している場合には、昇温助長状態であると判定する。
【0109】
ATR2工程終了時に昇温助長状態であると判定すると、制御部110は、それ以降のセルスタック温度の移行温度条件を緩和し、図14に示す動作テーブルを用いて動作制御を行う。図14の動作テーブルでは、SR1工程以降のセルスタック温度の移行温度条件が緩和され、それぞれ50℃ずつ低減されている。すなわち、SR2工程移行時の温度条件が650℃から600℃へ低減され、発電工程移行時の温度条件が700℃から650℃へ低減される。
【0110】
改質器温度の昇温幅が大きいPOX工程又はATR工程(特にPOX工程で改質器温度の昇温が顕著である)の終了時に、改質器温度が所定の第2の移行条件変更温度に達していた場合、引き続き実行されるATR工程及びSR工程においても、改質器温度とセルスタック温度との間の大きな温度差が維持され、過昇温が発生するおそれが高くなる。
【0111】
そこで、本実施形態では、POX工程又はATR工程の終了時に改質器温度が第1又は第2の移行条件変更温度まで達していた場合には、昇温助長状態であると判定して、それ以降の移行温度条件を緩和して、早期に工程を移行させ、最終的に発電工程まで移行させることにより、過昇温を防止することができる。
【0112】
なお、本実施形態では、改質器温度が第1又は第2の移行条件変更温度に達することにより過昇温抑制制御を実行しているが、これに限らず、セルスタック温度が移行条件変更温度に達することにより、改質器温度の移行温度条件を緩和するように構成することができる。
【0113】
次に、図15乃至図17を参照して、第4の実施形態による固体酸化物形燃料電池(SOFC)の過昇温抑制制御を説明する。
本実施形態では、残存熱量の影響によって、通常よりも改質器温度が異常判定温度(本例では800℃)に接近した状態で発電工程移行した場合に、過昇温抑制制御の一環として、温度監視制御を行うように構成されている。この温度監視制御は、上記実施形態における起動工程中の過昇温抑制制御をバックアップするものであり、発電工程において確実に過昇温が防止されるようになっている。
【0114】
まず、本実施形態の燃料電池1の発電工程の処理フローを説明する。図15は、制御部110により取出可能電流値Iinvを設定するための制御テーブルである。図16及び図17は、図16に示す制御テーブルを適用して取出可能電流値Iinvを決定するフローチャートである。
【0115】
制御部110は、各種センサからの入力信号、及び需要電力モニター信号に基づいて、取出可能電流値Iinvを設定し、この値をインバータ制御部(図示せず)に出力するように構成されている。
図15に示すように、制御部110は、発電室温度(セルスタック温度)Tfc、燃料電池モジュール2から出力される発電電圧Vdc、商用電源から住宅等の施設へ供給されている電力である系統電力Wl、インバータ54から出力される電力である連系電力Winv、取出可能電流値Iinvの現在値、及び燃料供給電流値Ifに基づいて、取出可能電流値Iinvの増加、低下、又は維持を決定する。
なお、本明細書においては、発電室温度Tfc等、燃料電池モジュール2の発電能力の指標となる温度を「燃料電池モジュールの温度」ということにする。
【0116】
発電電圧Vdcは、燃料電池モジュール2から出力される出力電圧である。
系統電力Wlは、住宅等の施設に対して商用電源から供給されている電力であり、施設の総需要電力から燃料電池によって供給されている電力を差し引いた電力がこれに相当し、需要電力モニター信号に基づいて検出される。
連系電力Winvは、インバータ54から出力される電力である。燃料電池モジュール2からインバータ54に実際に取り出される電力は電力状態検出センサ126によって検出され、この電力から変換された電力がインバータ54から出力される。燃料電池モジュール2から実際に出力される実取出電流Ic[A]は電力状態検出センサ126によって検出された電力に基づいて求められる。従って、電力状態検出センサ126は、取出電流検出手段として機能する。
【0117】
燃料供給電流値Ifは、燃料ガス供給量を求めるための基にする電流値であって、燃料電池モジュール2に供給されている燃料ガス供給量(L/min)によって発電することが可能な電流値に相当する。そのため、燃料供給電流値Ifは、常に必ず取出可能電流値Iinvを下回ることのない様に設定する。
制御部110は、燃料電池モジュール2の現在の状態が、図15の番号1〜9の何れに該当するかを判定し、図15の右端欄に示されている取出可能電流値Iinvの変更又は維持を実行する。
【0118】
例えば、図15の番号1欄に記載されている条件の全てが同時に満足された場合には、番号1欄の右端にあるように、制御部110は、取出可能電流値Iinvを5[mA]低下させるように変更する。上記のように、本実施形態においては、制御部110の制御周期は500[msec]であるので、番号1欄の条件が満たされる状態が連続した場合には、取出可能電流値Iinvは500[msec]毎に5[mA]ずつ低下する。この場合、取出可能電流値Iinvは、10[mA/sec]の電流減少変化率で減少されることになる。
【0119】
同様に、図15の番号8欄に記載されている条件の全てが同時に満足された場合には、番号8欄の右端にあるように、制御部110は、取出可能電流値Iinvを10[mA]増加させるように変更する。従って、番号8欄の条件が満たされる状態が連続した場合には、取出可能電流値Iinvは、第1電流上昇変化率である20[mA/sec]の変化率で上昇されることになる。
【0120】
また、図15の番号1〜8欄に記載されている条件が何れも満足されない場合には、番号9欄の条件に該当し、取出可能電流値Iinvの値は変更されずに維持される。
【0121】
次に、図16及び図17を参照して、図15の制御テーブルの条件の判断手順を説明する。なお、図16及び図17における符号A〜Dは、処理の移行先を示している。例えば、フローの処理は、図16の符号「C」から図17の符号「C」へ移行する。
【0122】
また、以下に説明するように、制御部110は、需要電力が上昇している場合等、取出可能電流値Iinvを増加させるべき状況にあっても、所定の複数の増加規制条件に該当しない場合にのみ、取出可能電流値Iinvを増加させるように構成されている。さらに、増加規制条件は、複数の電流低下条件及び電流維持条件を含んでおり、これらの条件に該当すると、取出可能電流値Iinvは、低下され、又は維持される。また、複数の電流低下条件(図16のステップS5、S7、S9、S11、S13)は、複数の電流維持条件(図17のステップS15、S16、S17、S18、S19)よりも先に、優先的に適用される。
【0123】
まず、図16のステップS1は、取出可能電流値Iinvと実取出電流値Icとの間で非常に大きな偏差が生まれたかどうかを判断するステップであって、両者の間に1000[mA]よりも大きいような偏差が生まれたか否かが判断される。取出可能電流値Iinvと実取出電流値Icとの差が短い制御周期の中で1000[mA]よりも大きいような偏差が初めて生まれるような場合というのは、インバータ54が、総需要電力の急激な低下、もしくは何らかの理由によって実取出電力Icを急激に低下させたことによって偏差が生じた状況であるとしてステップS2に進む。
【0124】
ステップS2においては、系統電力Wlが50[W]よりも少ないか否かが判断される。系統電力Wlが50[W]よりも少ない場合というのは、系統電力Wlがこれ以上減少すると、インバータ54からの出力電力が、商用電源に流れ込む「逆潮流(系統電力W1がマイナスになる状態)」が発生する可能性が高くなる状態である。よってS2の判定とS1の判定によって総重要電力のとても大きな落ち込みによって逆潮流が生じることを防止するために、インバータ54が実取出電流値Icを急激に下げた状態であると判断できる。なお、S2で系統電力W1の値を50Wに設定しているのは逆潮流が万が一にも発生することがないように50W分のマージンを設けているものである。
【0125】
次にS1、S2の双方でYESと判断された場合、即ち、とても大きな総重要電力の落ち込みに伴うインバータ54による逆潮流防止制御が行われた場合は、ステップS3において、制御部110は、インバータ制御部に指示する取出可能電流値Iinvの値を実取出電流Icの値まで急激に低下させる(図15の番号6に対応)。ステップS3の処理の終了により、図16及び図17のフローチャートの1回の処理が終了する。インバータ54は取出可能電流値Iinvの値を超えない範囲で実取出電流値Icを取り出すので、取出可能電流値Iinvを低下させて取出可能電流値linv=実取出電流値Icとすることにより、インバータ54は現在の取出電流値Icより取出電流を勝手に増やすような対応が規制される。これは、総需要電力の急激な低下があったような場合は、その後すぐに総需要電力が急激に回復する(増える)ような状況が起こる可能性が高いが、1000[mA]を超えるような大きな偏差量がある中で、インバータ54が回復した総需要電力に応えるべく電力取出を急激に行なってしまうと、制御オーバーシュート等によって需要電力や取出可能電流値linvを誤って超えるような電力取出をインバータ54が行ってしまうことを未然に防止できるようにした工夫である。言い換えると1000[mA]以下のような小さな偏差では取出可能電流値linvを実取出電流値Icにするような制御を行っていないため、インバータ54は実取出電流値Icより高い所にある取出可能電流値linvまでの間で自由に電力取出を迅速に行えるように許容したものである。これはこのような小さな偏差であればオーバーシュートによる過剰な電力取出等の問題を生じないため、総重要電力の回復に速やかに追従できるように配慮した更なる工夫である。
【0126】
一方、ステップS1とS2の判定でとても大きな総重要電力低下に伴う逆潮流が起こるような状況ではないと判断された場合には、ステップS4に進む。ステップS4においては、取出可能電流値Iinvが1[A]よりも大きいか否かが判断される。取出可能電流値Iinvが1[A]よりも大きい場合には、ステップS5に進み、発電電圧Vdcが95[V]よりも低いか否かが判断される。発電電圧Vdcが95[V]よりも低い場合には、ステップS6に進む。
【0127】
ステップS6においては、制御部110は、インバータ制御部に指示する取出可能電流値Iinvの値を10[mA]低下させる(図15の番号4に対応)。ステップS6の処理の終了により、図16及び図17のフローチャートの1回の処理が終了する。図16のフローチャートが実行されるごとにステップS6の処理が連続して実行された場合には、取出可能電流値Iinvは、20[mA/sec]の電流減少変化率で減少されることになる。発電電圧Vdcが95[V]よりも低い場合には、燃料電池モジュール2からインバータ54に電力が取り出される際に燃料電池モジュールの劣化等により、電圧降下が生じていると考えられるため、取出可能電流値Iinvを低下させることにより、インバータ54に取り出される電流を抑制して、燃料電池モジュール2にかかる負担を軽減する。
【0128】
一方、ステップS5において、発電電圧Vdcが95[V]以上の場合には、ステップS7に進む。ステップS7においては、連系電力Winvが710[W]を超えているか否かが判断される。連系電力Winvが710[W]を超えている場合にはステップS8に進み、ステップS8においては、制御部110は、インバータ制御部に指示する取出可能電流値Iinvの値を5[mA]低下させる(図15の番号5に対応)。即ち、連系電力Winvが710[W]を超えている場合には、燃料電池モジュール2からの出力電力が定格電力を超えているので、燃料電池モジュール2から取り出す電流を低下させて定格電力を超えないようにする。ステップS8の処理の終了により、図16及び図17のフローチャートの1回の処理が終了する。図16のフローチャートが実行されるごとにステップS8の処理が連続して実行された場合には、取出可能電流値Iinvは、10[mA/sec]の電流減少変化率で減少されることになる。
このように、制御部110は、複数の電流低下条件のうち該当した電流低下条件により、取出可能電流値Iinvを減少させる変化率が異なるように、取出可能電流値Iinvを変化させる。
【0129】
一方、ステップS7において、連系電力Winvが710[W]以下の場合には、ステップS9に進む。ステップS9においては、発電室温度Tfcが850[℃]を超えているか否かが判断される。発電室温度Tfcが850[℃]を超えている場合にはステップS10に進み、ステップS10においては、制御部110は、インバータ制御部(図示せず)に指示する取出可能電流値Iinvの値を5[mA]低下させる(図15の番号2に対応)。即ち、発電室温度Tfcが850[℃]を超えている場合には、燃料電池モジュール2の適正な作動温度を超えているため、取出可能電流値Iinvの値を低下させて、温度の低下を待つ。ステップS10の処理の終了により、図16及び図17のフローチャートの1回の処理が終了する。図16のフローチャートが実行されるごとにステップS10の処理が連続して実行された場合には、取出可能電流値Iinvは、10[mA/sec]の電流減少変化率で減少されることになる。
【0130】
一方、ステップS9において、発電室温度Tfcが850[℃]以下の場合には、ステップS11に進む。ステップS11においては、発電室温度Tfcが550[℃]よりも低いか否かが判断される。発電室温度Tfcが550[℃]よりも低い場合にはステップS12に進み、ステップS12においては、制御部110は、インバータ制御部に指示する取出可能電流値Iinvの値を5[mA]低下させる(図15の番号3に対応)。即ち、発電室温度Tfcが550[℃]よりも低い場合には、燃料電池モジュール2が適正な発電を行うことができる温度を下回っているため、取出可能電流値Iinvの値を低下させる。これにより、発電に消費される燃料を減少させ、燃料を燃料電池セルユニット16の加熱に振り向け、温度を上昇させる。ステップS12の処理の終了により、図16及び図17のフローチャートの1回の処理が終了する。図16のフローチャートが実行されるごとにステップS12の処理が連続して実行された場合には、取出可能電流値Iinvは、10[mA/sec]の電流減少変化率で減少されることになる。
【0131】
一方、ステップS11において、発電室温度Tfcが550[℃]以上の場合には、ステップS13に進む。ステップS13においては、取出可能電流値Iinvと実取出電流Icの差が400[mA]を超え、且つ取出可能電流値Iinvが1[A]を超えているか否かが判断される。取出可能電流値Iinvと実取出電流Icの差が400[mA]を超え、且つ取出可能電流値Iinvが1[A]を超えている場合には、ステップS14に進み、ステップS14においては、制御部110は、インバータ制御部に指示する取出可能電流値Iinvの値を5[mA]低下させる(図15の番号1に対応)。即ち、取出可能電流値Iinvと実取出電流Icの差が400[mA]を超えている場合には、取り出し可能な電流である取出可能電流値Iinvに対して、燃料電池モジュール2から実際に取り出されている実取出電流Icが少なすぎ、燃料が無駄に供給されるので、取出可能電流値Iinvの値を低下させて燃料の浪費を抑制する。ステップS14の処理の終了により、図16及び図17のフローチャートの1回の処理が終了する。図16のフローチャートが実行されるごとにステップS14の処理が連続して実行された場合には、取出可能電流値Iinvは、10[mA/sec]の電流減少変化率で減少されることになる。
【0132】
このように、制御部110は、複数の電流低下条件(図16のステップS5、S7、S9、S11、S13)のうち1つでも該当した場合においては、需要電力が上昇している状況においても取出可能電流値Iinvを減少させる(ステップS6、S8、S10、S12、S14)。
【0133】
一方、ステップS4において、取出可能電流値Iinvが1[A]以下の場合、及びステップS13において、取出可能電流値Iinvと実取出電流Icの差が400[mA]以下の場合には、図17のステップS15に進む。
ステップS15においては、取出可能電流値Iinvと実取出電流Icの差が300[mA]以下であるか否かが判断され、ステップS16においては、発電電圧Vdcが100[V]以上であるか否かが判断され、ステップS17においては、連系電力Winvが690[W]以下であるか否かが判断され、ステップS18においては、発電室温度Tfcが600[℃]以上であるか否かが判断され、ステップS19においては、系統電力Wlが40[W]を超えているか否かが判断される。これらの条件が全て満足された場合にはステップS20に進み、これらのうちの1つでも満足されない条件がある場合(図15の番号9に対応)には、ステップS21進む。ステップS21においては、取出可能電流値Iinvの値は変更されずに従前の値に維持され、図16及び図17のフローチャートの1回の処理が終了する。
【0134】
このように、本実施形態の固体電解質型燃料電池1においては、需要電力が上昇している状況においても、所定の条件が満たされない場合には、取出可能電流値Iinvが一定に維持される(図17のステップS21)。また、発電室温度Tfcに着目すると、発電室温度Tfcが上限の閾値である850[℃]を超えている場合には、取出可能電流値Iinvは低下され(図16のステップS9、S10)、発電室温度Tfcが下限の閾値である600[℃]よりも低いと、取出可能電流値Iinvは維持される(図17のステップS18、S21)。また、発電室温度Tfcが更に低く、550[℃]よりも低いと、取出可能電流値Iinvは低下される(図16のステップS11、S12)。
【0135】
一方、ステップS20以下の処理では、取出可能電流値Iinvの値は上昇される。制御部110は、複数の電流維持条件(図17のステップS15、S16、S17、S18、S19)の何れにも該当しない場合にのみ、取出可能電流値Iinvを増加させる(図17のステップS22、S23)。
【0136】
即ち、取出可能電流値Iinvと実取出電流Icの差が300[mA]を超えている場合(ステップS15)には、取出可能電流値Iinvと実取出電流Icの差が比較的大きいため、取出可能電流値Iinvを上昇させるべきではない。また、発電電圧Vdcが100[V]よりも低い場合(ステップS16)には、取出可能電流値Iinvを上昇させて、燃料電池モジュール2から取り出され得る電流を増加させるべきではない。さらに、連系電力Winvが690[W]を超えている場合(ステップS17)には、燃料電池モジュール2からの出力電力は既にほぼ定格出力電力に到達しているため、燃料電池モジュール2から取り出され得る電流を増加させるべきではない。
【0137】
さらに、発電室温度Tfcが600[℃]よりも低い場合(ステップS18)には、燃料電池モジュール2が十分に発電を行うことができる温度に達していないため、取出可能電流値Iinvの値を上昇させ、燃料電池モジュール2から取り出され得る電流を増加させて、燃料電池セルユニット16に負担をかけるべきではない。また、系統電力Wlが40[W]以下の場合(ステップS19)には、「逆潮流」が発生しやすい状況にあるため、燃料電池モジュール2から取り出され得る電流を増加させるべきではない。
【0138】
ステップS15乃至ステップS19の条件が全て満足された場合には、ステップS20に進む。ステップS20においては、燃料供給電流値Ifと実取出電流Icの差が1000[mA]以上か否かが判断される。燃料供給電流値Ifに対応した燃料ガス供給量を求めて、燃料電池モジュール2に供給して発電運転している。そのため、換言すれば、その燃料により燃料電池モジュール2が発電可能な電流値を換算した値である。例えば、燃料供給電流値If=5[A]に相当する燃料ガス供給量[L/min]が供給されている場合には、燃料電池モジュール2は、潜在的に5[A]の電流を安全に安定して出力する能力がある。従って、燃料供給電流値Ifと実取出電流Icの差が1000[mA]である場合には、実際に発電している実取出電流Icよりも1[A]分多い電流を出力することができる分量の燃料が燃料電池モジュール2に供給されていることになる。
【0139】
ステップS20において、燃料供給電流値Ifと実取出電流Icの差が1000[mA]以上である場合にはステップS22進み、1000[mA]よりも少ない場合にはステップS23進む。ステップS22においては、多くの余分な燃料が燃料電池モジュール2に供給されている状態であるため、制御部110は、インバータ制御部に指示する取出可能電流値Iinvの値を100[mA]増加させ(図15の番号7に対応)、取出可能電流値Iinvを急速に上昇させる。ステップS22の処理の終了により、図16及び図17のフローチャートの1回の処理が終了する。図17のフローチャートが実行されるごとにステップS22の処理が連続して実行された場合には、取出可能電流値Iinvは、第2電流上昇変化率である200[mA/sec]の変化率で上昇されることになる。
【0140】
一方、ステップS23においては、取出可能電流値Iinvを上昇させる状況にあるが、多くの余分な燃料が燃料電池モジュール2に供給されている状態ではないので、制御部110は、インバータ制御部に指示する取出可能電流値Iinvの値を10[mA]増加させ(図15の番号8に対応)、取出可能電流値Iinvを緩やかに上昇させる。ステップS23の処理の終了により、図16及び図17のフローチャートの1回の処理が終了する。図17のフローチャートが実行されるごとにステップS23の処理が連続して実行された場合には、取出可能電流値Iinvは、第1電流上昇変化率である20[mA/sec]の変化率で上昇されることになる。
【0141】
このように本実施形態では、発電工程において、制御部110は、セルスタック温度Tfcが850℃を超えないように、取出可能電流値Iinvを制御する。セルスタック温度Tfcと改質器温度は関連しており、発電工程において、セルスタック温度Tfcが850℃である場合、改質器温度が800℃であるという相関がある。したがって、セルスタック温度Tfcが850℃を超えないように制御することにより、改質器温度が異常判定温度である800℃を超えないようにすることができる。
【0142】
これにより、本実施形態では、発電工程移行後においても温度監視制御によって改質器温度が異常判定温度に到達しないようにバックアップされている。したがって、発電工程移行前における過昇温抑制制御が十分に過昇温を抑制できない場合であっても、改質器20等の劣化・損傷を確実に防止することができる。
【0143】
また、上記実施形態は以下のように改変することができる。
上記実施形態では、判定手段としての制御部110が改質器温度及びセルスタック温度に基づいて、燃料電池モジュール2に蓄積している熱量によって、改質器20、燃料電池セルスタック14が過昇温される状態(昇温助長状態)であるか否かを判定していたが、これに限らず、他の方法によって判定するように構成してもよい。
【0144】
例えば、各工程において、改質器温度とセルスタック温度の温度差に応じて昇温助長状態を判定してもよいし、改質器温度やセルスタック温度や蓄熱材7の温度を含む他の温度、その温度変化率又は温度変化速度に応じて判定してもよいし、燃料ガス供給量に対する改質器温度やスタック温度の温度上昇から起動時に残存していた熱量を推定し、この推定した熱量に応じて判定してもよいし、再起動前の動作状態に応じて判定してもよい。このように、種々の方法で、残存熱量に起因する過昇温の発生のおそれの程度を判定することができるが、上記実施形態では、各工程での改質器温度及びセルスタック温度の測定値から判定するという簡単な方法を採用している。
【0145】
なお、図8の停止動作の時間変化において示されているように、改質器温度、発電室温度、燃焼部温度がほぼ同じ温度で低下しており、残留熱量は燃料電池モジュール2内に局所的ではなく全体にほぼ均一に残ると考えられる。このため、改質器温度に影響を与える残存熱量だけでなく、セルスタック温度に影響を与える残存熱量も、改質器温度の測定のみによって推定できる。したがって、上記実施形態において、図11の例のように、判定手段としての制御部110が改質器温度のみの測定値に基づいて、昇温助長状態を判定するように構成することができる。
【0146】
また、判定手段としての制御部110が昇温助長状態の判定を行う時期は任意に設定することができる。また、上述の温度差、温度、温度変化率又は温度変化速度、推定熱量に応じて判定する場合においても、任意の時期に判定することができる。
【0147】
また、上記実施形態では、改質器温度がセルスタック温度よりも温度上昇速度が速い場合であったが、これに限らず、蓄熱材7等に対する配置によっては、セルスタック温度が改質器温度よりも温度上昇速度が速い場合があり、この場合には、上記実施形態において改質器温度とセルスタック温度とを入れ替えた構成にすることにより、同様の技術思想によって、セルスタック温度の過昇温を防止するように構成することができる。
【符号の説明】
【0148】
1 固体電解質形燃料電池(固体酸化物形燃料電池装置)
2 燃料電池モジュール
4 補機ユニット
6 ハウジング(モジュール収納室)
7 蓄熱材(蓄熱手段)
10 発電室
12 燃料電池セル集合体
14 燃料電池セルスタック
16 燃料電池セルユニット
18 燃焼室
20 改質器
22 空気用熱交換器
28 水流量調整ユニット
38 燃料流量調整ユニット
44 改質用空気流量調整ユニット
45 発電用空気流量調整ユニット
54 インバータ
83 点火装置
84 燃料電池セル
110 制御部(制御手段、判定手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体酸化物形燃料電池装置において、
複数の燃料電池セルを組み合わせてなるセルスタックと、
前記燃料電池セルに供給する燃料ガスを改質する改質器と、
前記燃料電池セルを通過した余剰の燃焼ガス又は改質された燃焼ガスを燃焼させることにより発生する排気ガスによって前記改質器及び前記セルスタックを加熱する燃焼部と、
前記セルスタックの温度及び前記改質器の温度をそれぞれ検出する温度検出器と、
前記セルスタック及び前記改質器を収納するモジュール収納室と、
前記モジュール収納室の周囲に配置された蓄熱手段と、
前記燃料電池装置の起動中に前記蓄熱手段が蓄積している熱量によって前記改質器及び/又は前記セルスタックの昇温が助長される状態である昇温助長状態であるか否かを判定する判定手段と、
前記燃料電池装置の起動を制御する制御手段と、を備えており、
前記制御手段は、前記燃料電池装置の起動工程において、前記セルスタックの温度及び前記改質器の温度に基づいて、前記改質器に供給する燃料ガス、酸化剤ガス、水蒸気の供給量を制御し、前記改質器で行われる燃料ガス改質反応工程をPOX工程、ATR工程、SR工程へ移行させた後、発電工程へ移行させ、各工程において前記セルスタックの温度及び前記改質器の温度がそれぞれに対して設定された移行条件を満足した場合に、次の工程に移行させるように制御するよう構成されており、
前記判定手段が昇温助長状態であると判定した場合、前記制御手段は、前記移行条件を満足していなくても次工程へ早期に移行させるように、前記移行条件を緩和することを特徴とする固体酸化物形燃料電池装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記判定手段が昇温助長状態であると判定した場合、前記改質器の温度及び前記セルスタックの温度の少なくとも一方が移行条件を満たしていない場合であっても次工程に移行することを特徴とする請求項1に記載の固体酸化物形燃料電池装置。
【請求項3】
前記判定手段は、少なくとも1つの前記工程から次工程への移行時において前記改質器の温度が第1の所定温度以上である場合に昇温助長状態であると判定し、この判定に基づいて、前記制御手段は、前記セルスタックの温度が次工程へ移行するための移行条件を満たしていない場合であっても次工程へ移行させることを特徴とする請求項2に記載の固体酸化物形燃料電池装置。
【請求項4】
前記第1の所定温度は、前記改質器の移行条件の温度よりも高い温度に設定されていることを特徴とする請求項3に記載の固体酸化物形燃料電池装置。
【請求項5】
前記判定手段は、前記SR工程において、前記改質器の温度が第1の所定温度以上である場合に昇温助長状態であると判定し、この判定に基づいて、前記制御手段は、前記セルスタックの温度が次工程へ移行するための移行条件を満たしていない場合であっても前記発電工程へ移行させ、前記第1の所定温度は、前記改質器の前記発電工程への移行条件の温度よりも高く、且つ、前記改質器の異常判定温度である第2の所定温度よりも低く設定されていることを特徴とする請求項4に記載の固体酸化物形燃料電池装置。
【請求項6】
前記制御手段は、前記発電工程へ移行後において、前記改質器の温度が前記改質器の異常判定温度である第2の所定温度を超えないように、前記燃料電池装置の運転を規制する温度監視制御を実行するように構成されていることを特徴とする請求項3に記載の固体酸化物形燃料電池装置。
【請求項7】
前記判定手段は、前記POX工程又は前記ATR工程における前記改質器の温度により昇温助長状態であるか否かを判定し、昇温助長状態であると判定したとき、その工程以降における移行条件を緩和することを特徴とする請求項2に記載の固体酸化物形燃料電池装置。
【請求項8】
前記判定手段は、前記改質器の温度の測定値に基づいて、昇温助長状態であるか否かを判定することを特徴とする請求項1に記載の固体酸化物形燃料電池装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate


【公開番号】特開2012−79421(P2012−79421A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−220710(P2010−220710)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(000010087)TOTO株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】