説明

固体電解質型燃料電池の空気極原料粉体、空気極及び固体電解質型燃料電池

【課題】 固体電解質型燃料電池の空気極の高性能化を実現するための空気極構造の微細化が可能となる空気極原料粉体を提供する。
【解決手段】 一般式ABOで表され、AがLa及び希土類元素の群から選ばれる1つ以上の元素と、Sr,Ca及びBaの群から選ばれる1つ以上の元素とからなり、BがMn,Co,Fe,Ni及びCuの群から選ばれる1つ以上の元素からなるペロブスカイト複合酸化物粉体であって、平均粒子径が1μm以下であり、且つ粒度分布の幅が所定範囲内に制限されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電解質型燃料電池の空気極原料粉体、当該空気極原料粉体を用いて作製した空気極、及び、当該空気極を備えた固体電解質型燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
上記固体電解質型燃料電池(以下、適宜、SOFCと略す)の低温作動化(例えば700℃以下)のためには、空気極の性能向上が必要であるが、空気極性能はその微細構造(構成粒子径、粒度分布等)に依存するため、空気極の微細構造の制御が不可欠である。
【0003】
上記SOFCの空気極材料には、一般的に(La1−xSr)MnO(ランタンストロンチウムマンガン酸化物)系や(La1−xSr)(Co1−yFe)O(ランタンストロンチウムコバルト鉄酸化物)系などのペロブスカイト複合酸化物が使用され、従来は、それらの複合酸化物における元素成分や組成比が主な開発対象であったが、以下に示すように、空気極の構造制御についても開発が進められている。
【0004】
特許文献1には、空気極での分極を小さくする目的のために、粒度(平均粒径)1μm以下のスラリー状のペロブスカイト型複合酸化物をジルコニア焼結体(電解質)上に塗布・焼成して空気極を形成した固体電解質型燃料電池が記載されている。
特許文献2には、運転中における空気極の収縮を抑制して出力安定化を実現するために、平均細孔径が1.0〜5.0μm、平均結晶粒径が3.0〜25.0μm、開気孔率が20〜45%であるペロブスカイト型複合酸化物からなる空気極を備えた固体電解質型燃料電池セルが記載され、さらに、空気極の原料粉末を粉砕して焼結体の平均結晶粒径と同等の粒径に整粒し、これを成形・焼成して上記構造の空気極を形成する方法が記載されている。
【0005】
特許文献3、4には、低温条件においても分極が小さく長期安定性の高い空気極を提供するために、平均粒径1〜10μmのペロブスカイト型複合酸化物粒子と、この粒子の周囲を取り巻く平均粒径0.1〜2μmの酸化セリウム系粒子とからなり、気孔率が20〜50%である空気極を備えた固体電解質型燃料電池セルが記載されている。具体的には、平均粒径2〜3μmに分級した(Pr1−xSr)MnO(プラセオジムストロンチウムマンガン酸化物)粉にCe(セリウム)オクチル酸塩を加えて生成した混合スラリーを、加水分解、重縮合したものを電解質層の上に印刷・焼成して、3〜4μmのMn系ペロブスカイト型複合酸化物粒子の周囲を1μm程度のセリウム系材料が取り囲む状態の空気極を形成している。
【0006】
【特許文献1】特許2592070号公報
【特許文献2】特許3359412号公報
【特許文献3】特開平11−214014号公報
【特許文献4】特開2000−260436号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記従来技術のうち、特許文献1では、ペロブスカイト型複合酸化物粒子の粒度(平均粒径)を1μm以下と小さくして、固体電解質型燃料電池の分極を小さくしようとする点が記載されている。しかし、単に粒度(平均粒径)を小さくするだけでは空気極構造の微細化は不十分であり、空気極性能の向上には限界がある。
特許文献2では、平均結晶粒径が3.0μm以上と比較的大きく、また、空気極構造と分極との関係についても特に記載されていない。
特許文献3,4では、3〜4μmのMn系ペロブスカイト型複合酸化物粒子の周囲を1μm程度のセリウム系材料が取り囲む構造であるため、構成粒子径が比較的大きく、空気極構造の微細化は不十分である。
【0008】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、空気極の高性能化を実現するための空気極構造の微細化が可能となる空気極原料粉体、並びに、当該空気極原料粉体を用いて作製した空気極及び固体電解質型燃料電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するための本発明に係る固体電解質型燃料電池の空気極原料粉体の第一特徴構成は、一般式ABOで表され、AがLa(ランタン)及び希土類元素の群から選ばれる1つ以上の元素と、Sr(ストロンチウム),Ca(カルシウム)及びBa(バリウム)の群から選ばれる1つ以上の元素とからなり、BがMn(マンガン),Co(コバルト),Fe(鉄),Ni(ニッケル)及びCu(銅)の群から選ばれる1つ以上の元素からなるペロブスカイト複合酸化物粉体であって、平均粒子径が1μm以下であり、且つ粒度分布の幅が所定範囲内に制限された点にある。
【0010】
上記組成のペロブスカイト複合酸化物粉体の平均粒子径が1μm以下と小さいと、当該粉体を空気極に形成した時に空気との接触面積が増加して空気中の酸素を取り込み易くなるとともに、酸素イオンを固体電解質に送る通路が増加して電極反応が活発化し、高い空気極性能が期待される。
同時に、粒度分布の幅を所定範囲内に制限することにより、上記ペロブスカイト複合酸化物粉体を焼成して空気極を形成するときの電極構造の不均一化による空気極性能の低下を回避させることが可能となる。すなわち、焼成温度を平均的な粒径の粒子に対して最適な温度に設定した場合、粒度分布の幅を所定範囲内に制限しなければ、大きい粒径の粒子では焼結性が弱くて粒子同士の結合が弱くなり、一方小さい粒径の粒子では焼結が進みすぎて密になる傾向にあり、その結果電極構造の不均一性が大きくなって空気極性能が低下する。本発明によれば、粒度分布の幅を上記のような各粉体粒子に対する焼結性の違いによる空気極構造の不均一化が抑制されるような範囲内に制限することが可能となる。
【0011】
従って、空気極の高性能化を実現するために不可欠な空気極構造の微細化と均一化が可能となる固体電解質型燃料電池の空気極原料粉体が提供される。
【0012】
同第二特徴構成は、粒度分布の幅として、累積体積90%相当径D90と累積体積10%相当径D10の比D90/D10が所定値よりも小さい値に制限されるか、あるいは、累積体積90%相当径D90と累積体積50%相当径D50の比D90/D50が所定値より小さく、且つ累積体積50%相当径D50と累積体積10%相当径D10の比D50/D10が所定値より小さい値に制限された点にある。
【0013】
すなわち、粒度分布において粒径が大きい側の指標である累積体積90%相当径D90と、粒径が小さい側の指標である累積体積10%相当径D10を測定し、その比D90/D10を所定値よりも小さい値に制限するという簡単な処理によって、所望の粒度分布の幅に制限することができる。
あるいは、粒度分布において平均粒径に対応する累積体積50%相当径D50と、大きい側の指標である累積体積90%相当径D90と、粒径が小さい側の指標である累積体積10%相当径D10を測定し、累積体積50%相当径D50に対する累積体積90%相当径D90と累積体積10%相当径D10の各比D90/D50比、D50/D10を所定値よりも小さい値に制限するという簡単な処理によって、所望の粒度分布の幅に制限することができる。この場合、累積体積90%相当径D90と累積体積10%相当径D10の比D90/D10で粒度分布の幅を規定する場合に比べて、より正確な規定ができる。
【0014】
従って、空気極構造の微細化が可能となる固体電解質型燃料電池の空気極原料粉体に対する粒度分布の幅の制限を簡単に且つ的確に規定する手段が提供される。
【0015】
同第三特徴構成は、ペロブスカイト複合酸化物粉体の平均粒子径が0.6μm以下である点にある。
すなわち、前記組成のペロブスカイト複合酸化物粉体の平均粒子径が0.6μm以下にさらに小さくなると、空気中の酸素取り込み性能がアップするとともに、酸素イオン通路が増加し、空気極性能がさらに向上する。
従って、空気極性能の一層の向上が期待できる空気極原料粉体が得られる。
【0016】
同第四特徴構成は、前記ペロブスカイト複合酸化物粉体に、安定化ジルコニア粉体及びドープセリア粉体のうち少なくとも一方を均質に混合した点にある。
【0017】
すなわち、安定化ジルコニア粉体又はドープセリア粉体、あるいはその両方を、前記のように粒度分布が制限されて極端な粗大粒子や微小粒子が少ない均一なペロブスカイト複合酸化物粉体に均質に混合させると、電極内部の場所による組成や構造のバラツキが少なく、均一性が高くより高性能な空気極が得られ、酸素イオン導通特性の向上や、電解質/空気極間の接着性を向上させて界面抵抗を低減させる等の効果を一層向上させることができる。
従って、電極特性が一層優れた固体電解質型燃料電池の空気極原料粉体が得られる。
【0018】
同第五特徴構成は、前記ペロブスカイト複合酸化物粉体を、当該ペロブスカイト複合酸化物粉体よりも微細な安定化ジルコニア粉体及びドープセリア粉体のうち少なくとも一方で被覆した点にある。
【0019】
すなわち、前記のように粒度分布が制限されて極端な粗大粒子や微小粒子が少ない均一なペロブスカイト複合酸化物粉体よりも微細な安定化ジルコニア粉体又はドープセリア粉体、あるいはその両方で前記ペロブスカイト複合酸化物粉体を被覆すると、電極内部の場所による組成や構造のバラツキが少なく、均一性が高くより高性能な空気極が得られ、酸素イオン導通特性の向上や、電解質/空気極間の接着性を向上させて界面抵抗を低減させる等の効果を一層向上させることができる。
従って、電極特性が一層優れた固体電解質型燃料電池の空気極原料粉体が得られる。
【0020】
本発明に係る固体電解質型燃料電池の空気極の特徴構成は、上記第一から第五特徴構成のいずれかの空気極原料粉体を成形及び焼成して作製され、構成粒子の平均粒子径が1.0μm以下であり、粒度分布の幅として、累積体積90%相当径D90と累積体積10%相当径D10の比D90/D10が所定値より小さい範囲に制限されるか、あるいは、累積体積90%相当径D90と累積体積50%相当径D50の比D90/D50が所定値より小さく、且つ累積体積50%相当径D50と累積体積10%相当径D10の比D50/D10が所定値より小さい範囲に制限された点にある。
【0021】
すなわち、空気極の構成粒子の平均粒子径が1.0μm以下であることにより、空気極の酸素取り込み性能が高くなるとともに、酸素イオン通路が増加して電極反応が活発化し、分極値が小さくなり空気極性能の高性能化が実現される。
同時に、空気極の構成粒子の粒度分布において粒径が大きい側の指標である累積体積90%相当径D90と、粒径が小さい側の指標である累積体積10%相当径D10の比D90/D10が所定値よりも小さい値に制限されるか、あるいは、平均粒径に対応する累積体積50%相当径D50と大きい側の指標である累積体積90%相当径D90との比D90/D50比、及び、平均粒径に対応する累積体積50%相当径D50と粒径が小さい側の指標である累積体積10%相当径D10との比D50/D10が夫々所定値よりも小さい値に制限されることより、同じように粒度分布の幅が制限された空気極原料粉体の各粒子がその粒度分布特性を維持して電極構造の不均一化を生じさせない適正な焼成条件で焼成されている。
従って、空気極原料粉体の有していた粒度分布特性を維持して電極構造の不均一性に基づく性能低下が回避された固体電解質型燃料電池の空気極が提供される。
【0022】
本発明に係る固体電解質型燃料電池の特徴構成は、上記特徴構成の空気極を固体電解質の一方の面に形成し、固体電解質の他方の面に燃料極を形成した点にある。
【0023】
すなわち、上記のように電極構造の微細化により高性能化を実現した空気極を採用することにより、低温作動下においても分極が小さく、電池性能が向上した固体電解質型燃料電池が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明に係る固体電解質型燃料電池の空気極原料粉体、及び当該空気極原料粉体を用いて作製した空気極の実施形態について、以下、図面に基づいて説明する。
【0025】
本発明に係る空気極原料粉体は、一般式ABOで表され、AがLa(ランタン)及び希土類元素の群から選ばれる1つ以上の元素と、Sr(ストロンチウム),Ca(カルシウム)及びBa(バリウム)の群から選ばれる1つ以上の元素とからなり、BがMn(マンガン),Co(コバルト),Fe(鉄),Ni(ニッケル)及びCu(銅)の群から選ばれる1つ以上の元素からなるペロブスカイト複合酸化物粉体であって、平均粒子径が1μm以下であり、且つ粒度分布の幅が、後述のように所定範囲内に制限されている。上記平均粒子径は、具体的には0.6μm以下である。
【0026】
図1に、ペロブスカイト複合酸化物の組成がLa0.6Sr0.4Co0.2Fe0.8で表される空気極原料粉体の粒度分布の一例をグラフで示す。また、空気極原料粉体の粒度分布、BET値、及び、電極に形成した状態での粒度分布、分極電圧の値などの数値データを表1に示す。なお、実施例1と比較例1とは、同一の原料を用いて後述のように一部異なる製作工程によって作製したものである。
【0027】
粉体状態での粒度はレーザー回折散乱法により測定した。電極状態での粒度はSEM写真の像を拡大し、実際の粒子長を画像から直接読み取って測定した。また、分極電圧(電極過電圧)は、実施例1と比較例1の各粉体を同じ焼成条件で空気極に形成してカレントインターラプト法により、測定した。下記に各測定機、測定方法について記す。
【0028】
〔粉体の粒度分布〕
機種:日機装(株)製マイクロトラック粒子径分布測定装置 9320HRA(X-100)
〔SEM〕
機種:(株)日立製作所製 S−3500N
〔カレントインターラプト法〕
本方法は、発電中のSOFCの電極間に流れる電流を瞬時に切断し、その時の電極間の電圧変化から、電極性能を示す電極の電気化学的分極値(過電圧)を電池内部抵抗による電圧と分離して求める方法である。即ち、発電中に電極で生じる電気化学的反応はイオンの絡む反応で或るため、電流遮断時、電極間の電圧変化は容量成分として表される。一方、電池内部抵抗による電圧は、電子が絡み瞬時に変化するので、この電圧変化をオシロスコープ等で監視して、電極の過電圧と内部抵抗による電圧を分離し、電気化学的分極値である電極の過電圧によって電極性能を評価することができる。従って、この分極値(過電圧)ηcが小さいほど、高性能な電極と言える。
【0029】
【表1】

【0030】
本発明の空気極原料粉体は、上記ペロブスカイト複合酸化物だけでもよいが、後述の実施例2,3に示すように、上記ペロブスカイト複合酸化物に、安定化ジルコニア(例えばYSZ,YbSZ,ScSZ、以下同じ)粉体及びドープセリア(例えばSDC,GDC,YDC、以下同じ)粉体のうち少なくとも一方を均質に混合したもの、あるいは、前記ペロブスカイト複合酸化物粉体を、当該ペロブスカイト複合酸化物粉体よりも微細な上記安定化ジルコニア粉体及び上記ドープセリア粉体のうち少なくとも一方で被覆したものであってもよい。
【0031】
次に、本発明に係る空気極原料粉体、空気極、及び固体電解質型燃料電池の実施例及び比較例について説明する。なお、空気極原料粉体、空気極、及び固体電解質型燃料電池の製作工程図については図3を参照のこと。また、実施例1以外の実施例2,3、及び、比較例1以外の比較例2,3,4の各データは表2に記載している。
【実施例】
【0032】
実施例1では、次の(1)〜(6)の工程により空気極原料粉体を作製した。
(1)La,Sr,Co,Feの各硝酸塩を出発原料として、La0.6Sr0.4Co0.2Fe0.8の割合となるように調整して水に溶解させる。
(2)中和剤にNHOHを用いて、上記溶液から各元素を含む塩を共沈させる。
(3)得られた共沈塩を水洗し、80℃で乾燥する。
(4)さらに、1000℃で5時間仮焼を行う。
(5)仮焼物をホソカワミクロン(株)製のアクアマイザー(回転数:250rpm)を用いて3時間湿式粉砕後、乾燥した。
(6)乾燥物からホソカワミクロン(株)製ジェットミル(分級回転速度:22000rpm、圧空量:0.72Nm/minの条件)を用いて粗大粒子を除去し、LSCFカソード原料粉体を得た。ここで、LSCFは(La1−xSr)(Co1−yFe)Oの略、カソードは空気極の意味である。得られた粉体の粒度は、表1の実施例1の粉体の欄に示す通りである。
【0033】
比較例1では、上記実施例1と同様に(1)〜(4)の工程により仮焼物を得た後、湿式ボールミルを用いて12時間粉砕処理を行う点が異なる。得られた粉体の粒度は、表1の比較例1の粉体の欄に示す通りである。
また、比較例2では、上記実施例1と同様に(1)〜(4)の工程により仮焼物を得た後、湿式ボールミルを用いて48時間粉砕処理を行う。得られた粉体の粒度は、表2の比較例2の欄に示す通りである。
【0034】
実施例2では、実施例1で作製したLSCF粉体を母粒子として、これに対してSDC(サマリアドープセリア)粒子(粒度:D10=0.169μm、D50=0.26μm、D90=0.554μm)を混合比70/30vol%となるように混合し、ホソカワミクロン(株)製サイクロミックス(回転速度:800rpm、処理時間:30minの条件)を用いて均質混合処理を行った。得られた粉体の粒度は、表2の実施例2の欄に示す通りである。
【0035】
比較例3では、比較例1で作製したLSCF粉体を母粒子とする点が実施例2と異なるだけで、SDC粒子(粒度は実施例2と同じ)を混合比70/30vol%で混合し、ホソカワミクロン(株)製サイクロミックス(条件は実施例2と同じ)を用いて均質混合処理を行った。得られた粉体の粒度は、表2の比較例3の欄に示す通りである。
【0036】
実施例3では、実施例1で作製したLSCF粉体を母粒子として、これに対してSDC粒子(粒度は実施例2と同じ)を混合比70/30vol%となるように混合し、ホソカワミクロン(株)製ノビルタ(回転速度:4000rpm、処理時間:30minの条件)を用いて複合化処理を行った。得られた粉体の粒度は、表2の実施例3の欄に示す通りである。
【0037】
比較例4では、比較例1で作製したLSCF粉体を母粒子とする点が実施例3と異なるだけで、SDC粒子(粒度は実施例2と同じ)を混合比70/30vol%で混合し、ホソカワミクロン(株)製ノビルタ(条件は実施例3と同じ)を用いて複合化処理を行った。得られた粉体の粒度は、表2の比較例4の欄に示す通りである。
【0038】
次に、他方の面にNi−YSZ燃料極を焼き付けられている8YSZ(イットリア8%添加安定化ジルコニア)固体電解質の一方の面に、上記実施例1〜3及び比較例1〜4で得られた各LSCFカソード原料粉体をペースト状にしたものをスクリーン印刷により塗布し、実施例1及び比較例1,2では焼き付け温度850℃で、実施例2,3及び比較例3,4では焼き付け温度900℃で、4時間焼き付けてSOFC単セルを作製した。ここで、SDCは難焼結材料で最適な焼き付け温度が高くなるので、SDCを含有している実施例2,3及び比較例3,4の焼き付け温度は実施例1及び比較例1,2よりも高くしている。
【0039】
なお、上記のようにジルコニア系電解質に対してLSCFを空気極として用いる場合、通常は空気極/電解質間の反応によって界面に高抵抗物質:LaZr,SrZrO等が生成されるのを防止するため、セリア系の中間層を設けることが行われているが、本発明では、余分な中間層を設けず、微細で均一な構造のLSCFを用いることで、界面の反応が顕著にならない850℃付近の低温条件で電極を焼き付けることができる点で有利である。
【0040】
作製した各実施例及び比較例のSOFC単セルについて、水素Hを燃料とし、酸化剤を空気として燃料電池特性評価装置を用いてカソード過電圧(分極電圧)の評価を行った。カソード過電圧の測定は、作動温度は700℃、電流密度0.5A/cmの条件で前記カレントインターラプト法により行った。各実施例及び比較例のカソード過電圧は、表1、表2の分極電圧ηcの欄に示す通りである。
【0041】
【表2】

【0042】
表1,2より、実施例1のLSCF空気極原料粉体を用いた空気極は、分極電圧が比較例1の約1/2と小さく空気極性能が優れていて、700℃のような低温条件での作動に適しているが、比較例1のLSCF空気極材料は低温作動には性能不足であることがわかる。他の実施例2,3のLSCF空気極材料についても、同様に、比較例3,4のLSCF空気極材料に比べて、カソード過電圧(分極電圧)が小さく、低温作動に適していることがわかる。
【0043】
この結果は、実施例1〜3で作製したLSCF空気極原料粉体は、粒度分布の幅が所定範囲に制限されてシャープであるのに対し、比較例1〜4で作製したLSCF空気極原料粉体は、粒度分布の幅が広くブロードであることに起因する。つまり、実施例1〜3のLSCF空気極原料粉体は、粒子間のばらつきが小さく、粒子毎の最適焼付け温度が均一になる傾向がある。言い換えると、電極の各部分の焼結状態に大きな違いを生じさせないような焼付け温度に設定することが可能である。これに対し、比較例1〜4のLSCF空気極原料粉体は、粒子間のばらつきが大きくて粗粒子、微粒子の割合が多いため、例えば中間的な焼付け温度に設定した場合、電極内部で焼結が進みすぎて密になる部分(微粒子の部分)と、焼結が弱く、電解質やカソード材料同士のつながりが弱い部分(粗粒子の部分)が生じ、結果として電極性能に差が生じていると考えられる。
【0044】
実際の電極の粒子状態を観察してみると、図4に示す実施例1の原料粉体を用いて作製したLSCFカソードは、構成粒子サイズが均一であり、気孔径、気孔の分布も比較的均一であるのに対し、図5に示す比較例1の原料粉体を用いて作製したLSCFカソードは、構成粒子サイズが不均一であり、気孔も比較的不均一になっていることがわかる。
【0045】
次に上記空気極原料粉体の平均粒子径と、粒度分布幅の制限について具体的に説明する。先ず、各実施例の空気極原料粉体は、上記データで示される通り、平均粒子径に対応する累積体積50%相当径D50は0.6μm以下である。また、上記空気極原料粉体の粒度分布の幅として、累積体積90%相当径D90と累積体積10%相当径D10の比D90/D10が所定値よりも小さい値に制限されるか、あるいは、累積体積90%相当径D90と累積体積50%相当径D50の比D90/D50が所定値より小さく、且つ累積体積50%相当径D50と累積体積10%相当径D10の比D50/D10が所定値より小さい値に制限されている。
【0046】
上記表1、表2のデータを参照して、実施例1〜3では上記粒度分布の条件を全て満たす一方、比較例1〜4では上記条件のいずれかを満たさないようにするには、D90/D10に対する上記所定値を、例えば3.7付近の値に設定し、D90/D50及びD50/D10に対する上記各所定値を、例えば2.0付近の値に設定するのが適当である。尚、上記各所定値は、空気極原料粉体の材料組成が異なる場合には、それに合わせて適切な値に変更される。
【0047】
次に、上記空気極原料粉体を電極に形成した場合にも、粉体状態での粒度分布と基本的に同じ傾向の粒度分布になる。但し、粒径の細かい粒子(微粉)は焼結し易いために焼き付け時に粒成長するか、あるいは他の粒子と合体焼結して単独の粒子としてカウントされ難くなる。そのため、電極状態での粒度分布は小径側が狭くなる。また、難焼結材料のSDCを含む実施例2,3の場合には、小径側が広くなる(下限値が小さくなる)。
【0048】
具体的には、実施例1の場合には、構成粒子の平均粒子径が1.0μm以下であり、粒度分布の幅として、累積体積90%相当径D90と累積体積10%相当径D10の比D90/D10が所定値より小さい範囲に制限されるか、あるいは、累積体積90%相当径D90と累積体積50%相当径D50の比D90/D50が所定値より小さく、且つ累積体積50%相当径D50と累積体積10%相当径D10の比D50/D10が所定値より小さい値に制限される。尚、上記構成粒子の平均粒子径については、下限値(例えば0.3μm)を設定してもよい。
【0049】
また、実施例2,3の場合においても、構成粒子の平均粒子径が1.0μm以下であり、粒度分布の幅として、累積体積90%相当径D90と累積体積10%相当径D10の比D90/D10が所定値より小さい範囲に制限されるか、あるいは、累積体積90%相当径D90と累積体積50%相当径D50の比D90/D50が所定値より小さく、且つ累積体積50%相当径D50と累積体積10%相当径D10の比D50/D10が所定値より小さい値に制限される。尚、上記構成粒子の平均粒子径については、下限値(例えば0.2μm)を設定してもよい。ここで、実施例2,3では難焼結材料のSDCを使用している点を考慮して、実施例1に比べて、平均粒子径の下限値を小さくしている。
【0050】
表1のデータを参照して、実施例1では上記粒度分布の条件を全て満たす一方、比較例1では上記条件のいずれかがを満たさないようにするには、D90/D10に対する所定値を例えば3.4付近の値に設定し、D90/D50に対する所定値を例えば1.9付近の値に設定し、D50/D10に対する所定値を例えば1.7付近の値に設定するのが適当である。尚、上記各所定値は、空気極の材料組成が異なる場合には、それに合わせて適切な値に変更される。
【0051】
上記のように粒度分布を体積分布(体積基準)によって表す場合に、粒度分布の指標として、累積体積10%相当径D10、累積体積50%相当径D50、累積体積90%相当径D90を用いる代わりに、これ以外の累積体積%値での相当径を用いてもよい。また、体積分布の他に、例えば個数分布(個数基準)で粒度分布を表して、粒度分布の幅を制限するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明に係る空気極原料粉体の粒度分布を示すグラフ
【図2】本発明に係る空気極材料の特性を示すグラフ
【図3】本発明に係る空気極原料粉体、空気極及び燃料電池セルの製造工程図
【図4】実施例1の原料粉体を用いて作製した空気極のSEM写真
【図5】比較例1の原料粉体を用いて作製した空気極のSEM写真

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式ABOで表され、AがLa及び希土類元素の群から選ばれる1つ以上の元素と、Sr,Ca及びBaの群から選ばれる1つ以上の元素とからなり、BがMn,Co,Fe,Ni及びCuの群から選ばれる1つ以上の元素からなるペロブスカイト複合酸化物粉体であって、平均粒子径が1μm以下であり、且つ粒度分布の幅が所定範囲内に制限された固体電解質型燃料電池の空気極原料粉体。
【請求項2】
粒度分布の幅として、累積体積90%相当径D90と累積体積10%相当径D10の比D90/D10が所定値よりも小さい値に制限されるか、あるいは、累積体積90%相当径D90と累積体積50%相当径D50の比D90/D50が所定値より小さく、且つ累積体積50%相当径D50と累積体積10%相当径D10の比D50/D10が所定値より小さい値に制限された請求項1記載の固体電解質型燃料電池の空気極原料粉体。
【請求項3】
平均粒子径が0.6μm以下である請求項1又は2記載の固体電解質型燃料電池の空気極原料粉体。
【請求項4】
前記ペロブスカイト複合酸化物粉体に、安定化ジルコニア粉体及びドープセリア粉体のうち少なくとも一方を均質に混合した請求項1〜3のいずれか1項に記載の固体電解質型燃料電池の空気極原料粉体。
【請求項5】
前記ペロブスカイト複合酸化物粉体を、当該ペロブスカイト複合酸化物粉体よりも微細な安定化ジルコニア粉体及びドープセリア粉体のうち少なくとも一方で被覆した請求項1〜3のいずれか1項に記載の固体電解質型燃料電池の空気極原料粉体。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の空気極原料粉体を成形及び焼成して作製され、構成粒子の平均粒子径が1.0μm以下であり、粒度分布の幅として、累積体積90%相当径D90と累積体積10%相当径D10の比D90/D10が所定値より小さい範囲に制限されるか、あるいは、累積体積90%相当径D90と累積体積50%相当径D50の比D90/D50が所定値より小さく、且つ累積体積50%相当径D50と累積体積10%相当径D10の比D50/D10が所定値より小さい値に制限された固体電解質型燃料電池の空気極。
【請求項7】
請求項6記載の空気極を固体電解質の一方の面に形成し、固体電解質の他方の面に燃料極を形成した固体電解質型燃料電池。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−32132(P2006−32132A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−209642(P2004−209642)
【出願日】平成16年7月16日(2004.7.16)
【出願人】(502360363)株式会社ホソカワ粉体技術研究所 (59)
【Fターム(参考)】