説明

固体電解質電池

【課題】インピーダンスを低減し、良好な充放電特性を有する固体電解質電池を提供する。
【解決手段】この固体電解質電池は、基板10上に、正極側集電体膜30と、正極保護膜31と、正極活物質膜40と、固体電解質膜50と、負極電位形成層64と、負極側集電体膜70とがこの順で積層された積層体を有する。正極活物質膜40は、アモルファス正極活物質材料で構成される。正極保護膜31は、LiCoO2、LiMn24、LiNiO2等で構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、固体電解質電池に関する。さらに詳しくは、薄膜堆積技術を用いて電池の構成部材を、薄膜で形成した薄膜型の固体電解質電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、優れたエネルギー密度を有することから、携帯型電子機器などに広く使用されている。このリチウムイオン二次電池の中でも、安全性や信頼性の観点から、電解質として、有機電解液を含有しない固体電解質を使用した全固体リチウムイオン二次電池の研究開発が、精力的に進められている。
【0003】
この全固体リチウムイオン二次電池の一形態として、薄膜リチウム二次電池の開発が盛んに行われている。この薄膜リチウム二次電池は、電池を構成する集電体、活物質および電解質を薄膜で形成して、二次電池とするものである。薄膜リチウム二次電池を構成する各薄膜は、スパッタリング法、蒸着法などの成膜方法を用いて形成される。(例えば、非特許文献1参照)
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Thin-Film lithium and lithium-ion batteries, J. B. Bates et al. : Solid State Ionics, 135, 33 (2000)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本出願人は、最近、新規な正極活物質材料として、アモルファス状態の式(1)で表されるリチウムリン酸化合物を発明し、これを特許出願した。(特願2009−263417)
式(1)
LixCuyPO4
(式中、xはリチウムの組成比を示す。yは銅の組成比を示す。xは1.0≦x≦5.0である。yは1.0≦y≦4.0である。)
【0006】
上記のような、アモルファス状態で正極活物質として機能する材料(以下、アモルファス正極活物質材料と称することもある)は、良好な特性を示しており、特に、正極、電解質、負極等の各電池構成部材を薄膜で形成した、薄膜型の固体電解質電池に適用することによって、高い実用性が得られる。
【0007】
一方で、アモルファス正極活物質材料を正極集電体に直接接触すると、インピーダンスが高くなることによって、高速充電の際の電圧の上昇、高速放電時の電圧低下が問題になる。
【0008】
したがって、本技術の目的は、インピーダンスを低減し、良好な充放電特性を有する固体電解質電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決するために、本技術は、正極側層と、負極側層と、正極側層および負極側層の間に配置された固体電解質層とを備え、正極側層は、正極集電体層と、アモルファス状態で正極活物質として機能するリチウム含有材料を含む正極活物質層と、正極集電体層および正極活物質層の間に配置され、正極集電体層と正極活物質層との反応を抑制する正極保護層とを含む固体電解質電池である。
【0010】
本技術は、正極集電体層および正極活物質層の間に、正極集電体層と正極活物質層との反応を抑制する層を配置する。これにより、アモルファス正極活物質材料と、正極集電体層との反応を抑制して、インピーダンスが高くなることを抑制できる。
【発明の効果】
【0011】
本技術によれば、インピーダンスを低減し、良好な充放電特性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本技術の第1の実施の形態による固体電解質電池の構成例を示す略線図である。
【図2】本技術の第2の実施の形態による固体電解質電池の構成例を示す略線図である。
【図3】実施例1の正極活物質膜の断面のTEM像および電子回折図形である。
【図4】実施例1の正極保護膜の断面のTEM像および電子回折図形である。
【図5】実施例1の充放電曲線を示すグラフである。
【図6】比較例1の充放電曲線を示すグラフである。
【図7】実施例2の充放電曲線を示すグラフである。
【図8】正極活物質膜の断面のTEM像および電子回折図形である。
【図9】参考例1−1の充放電曲線を示すグラフである。
【図10】参考例1−2の充放電曲線を示すグラフである。
【図11】試験例の測定結果を示すグラフである。
【図12】参考例1−3の充放電曲線を示すグラフである。
【図13】参考例2−1の充放電曲線を示すグラフである。
【図14】参考例2−2の充放電曲線を示すグラフである。
【図15】参考例2−3の充放電曲線を示すグラフである。
【図16】参考例2−4の充放電曲線を示すグラフである。
【図17】参考例2−5の充放電曲線を示すグラフである。
【図18】参考例2−6の充放電曲線を示すグラフである。
【図19】試験例におけるニッケルの組成比および容量をプロットしたグラフである。
【図20】試験例における酸素の組成比および容量をプロットしたグラフである。
【図21】ニッケルの組成比と酸素の組成比をプロットしたグラフである
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本技術の実施の形態について図面を参照して説明する。
1.第1の実施の形態(固体電解質電池の第1の例)
2.第2の実施の形態(固体電解質電池の第2の例)
3.他の実施の形態(変形例)
【0014】
1.第1の実施の形態
図1は本技術の第1の実施の形態による固体電解質電池の構成を示す。この固体電解質電池は、例えば充電および放電可能な固体電解質二次電池である。図1Aはこの固体電解質電池の平面図である。図1Bは図1Aの線X−Xに沿った断面を示す断面図である。図1Cは図1Aの線Y−Yに沿った断面を示す断面図である。
【0015】
図1に示すように、この固体電解質電池は、基板10の上に無機絶縁膜20が形成され、無機絶縁膜20上に、正極側集電体膜30と、正極保護膜31、正極活物質膜40と、固体電解質膜50と、負極電位形成層64と、負極側集電体膜70とがこの順で積層された積層体を有する。この積層体の全体を覆うように、例えば、紫外線硬化樹脂から構成された全体保護膜80が形成されている。なお、全体保護膜80上に無機絶縁膜20が形成されていてもよい。
【0016】
(基板)
基板10としては、例えば、ポリカーボネート(PC)樹脂基板、フッ素樹脂基板、ポリエチレンテレフタレート(PET)基板、ポリブチレンテレフタレート(PBT)基板、ポリイミド(PI)基板、ポリアミド(PA)基板、ポリスルホン(PSF)基板、ポリエーテルスルホン(PES)基板、ポリフェニレンスルフィド(PPS)基板、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)基板、ポリエチレンナフタレート(PEN)、シクロオレフィンポリマー(COP)等を使用することができる。この基板の材質は特に限定されるものではないが、吸湿性が低く耐湿性を有する基板がより好ましい。
【0017】
(正極側集電体膜30)
正極側集電体膜30を構成する材料としては、Cu、Mg、Ti、Fe、Co、Ni、Zn、Al、Ge、In、Au、Pt、Ag、Pd等、又は、これらの何れかを含む合金を使用することができる。
【0018】
(正極活物質膜40)
正極活物質膜40は、アモルファス状態で正極活物質として機能する材料(アモルファス正極活物質材料)を用いることができる。このような材料としては、アモルファス状態で正極活物質として機能するリチウム含有材料が挙げられる。具体的には、例えば、アモルファス状態のリチウムリン酸化合物が挙げられる。より具体的には、例えば、Liと、Pと、Cu、Ni、Co、Mn、Au、Ag、Pdから選ばれる何れかの元素と、Oとを含有するアモルファス状態のリチウムリン酸化合物が挙げられる。
【0019】
このリチウムリン酸化合物は、正極活物質として以下の優れた特性を有する。すなわち、対Li+/Liに対して高い電位を有する。電位の平坦性に優れる、すなわち組成変化に伴う電位変動が小さい。リチウムの組成比も大きいので高容量である。高い電気伝導性を有する。結晶質の正極活物質のように充放電の繰り返しによる結晶構造の崩壊などもないので、充放電サイクル特性も優れている。また、アニールレスで形成できるため、プロセスの簡素化、歩留まりの向上、樹脂基板の利用を可能とする。樹脂基板の利用を可能とすることにより、基板10として高価な耐熱ガラスを用いる必要がないので、製造コストも低減することができる。
【0020】
正極活物質膜40は、例えば、上述したようなリチウムリン酸化合物として、アモルファス状態の式(1)で表されるリチウムリン酸化合物で構成されていてもよい。
(1)LixCuyPO4
(式中、xはリチウムの組成比を示す。yは銅の組成比を示す。)
【0021】
式(1)で表されるリチウムリン酸化合物において、リチウムの組成比xの範囲は、1.0≦x≦5.0が好ましく、1.0≦x≦4.5がより好ましい。リチウムの組成比が1.0未満であると、インピーダンスが大きく充放電できなくなるからである。リチウムの組成比xの上限は、特に限定されないが、電位が保たれる限界がLiの組成比xの上限値となる。確認できた範囲では、5.0以下が好ましく、4.5以下がより好ましい。
【0022】
式(1)で表されるリチウムリン酸化合物において、銅の組成比yの範囲は、十分な充放電容量が得られる点から、1.0≦y≦4.0が好ましい。特に銅の組成比yが1.0未満であると、充放電容量が急激に小さくなってしまう。銅の組成比yの上限は、特に限定されないが、組成比yが3を超えると徐々に充放電容量が低下してしまう。最大容量の半分程度を目安とすると4以下が好ましいが、耐久性、イオン伝導度などの側面で利点がある場合は充放電容量を犠牲にして4以上の組成とすることも可能である。また、式(1)で表されるリチウムリン酸化合物において、銅の組成比yの下限は、良好な充放電サイクル特性を得られる点から、2.2≦yであることがより好ましい。
【0023】
正極活物質膜40は、アモルファス状態の式(2)で表されるリチウムリン酸化合物で構成されていてもよい。
【0024】
式(2)
LixNiyPOz
(式中、xはリチウムの組成比を示す。yはニッケルの組成比を示す。zは酸素の組成比を示す。xは1.0≦x≦5.0である。yは2.0≦y≦10である。zは酸素の組成比を示す。zはNi、Pの組成比に応じて酸素が安定に含まれる比となる。)
【0025】
式(2)において、リチウムの組成比xの範囲は、1.0≦x≦5.0であることが好ましい。リチウムの組成比xが、1.0未満であると、インピーダンスが大きく充放電できなくなるからである。リチウムの組成比xの上限は、特に限定されないが、電位が保たれる限界がリチウムの組成比xの上限値となる。確認できた範囲では、リチウムの組成比xは、5.0以下であることが好ましい。
【0026】
式(2)において、Niの組成比yの範囲は、十分な充放電容量が得られる点から、2.0≦y≦10.0であることが好ましい。例えば、Niの組成比yが2.0未満であると、充放電容量が急激に小さくなってしまう。Niの組成比yの上限は、特に限定されないが、Niの組成比yが4を超えると徐々に充放電容量が低下してしまう。最大容量の半分程度を目安にすると、Niの組成比yは10以下が好ましい。なお、耐久性、イオン伝導度などの側面で利点がある場合は、充放電容量を犠牲にして、10.0を超えた組成比にしてもよい。
【0027】
式(2)において、酸素の組成比zは、Niの組成比とPの組成比に応じて安定に含まれる比となる。
【0028】
正極活物質膜40は、Liと、Pと、Ni、Co、Mn、Au、Ag、Pdから選ばれる何れかの元素M1と、Ni、Co、Mn、Au、Ag、Pd、Cuから選ばれる少なくとも1種の元素M2(ただしM1≠M2である)とOとを含有するアモルファス状態のリチウムリン酸化合物で構成されていてもよい。
【0029】
正極活物質膜40は、Liと、Pと、Ni、Co、Mn、Au、Ag、Pdから選ばれる何れかの元素M1と、Ni、Co、Mn、Au、Ag、Pd、Cuから選ばれる何れかの元素M2(ただしM1≠M2である)とB、Mg、Al、Si、Ti、V、Cr、Fe、Zn、Ga、Ge、Nb、Mo、In、Sn、Sb、Te、W、Os、Bi、Gd、Tb、Dyから選ばれる少なくとも1種の添加元素M3とOとを含有するアモルファス状態のリチウムリン酸化合物で構成されていてもよい。
【0030】
この正極活物質膜40は、結晶質相が含まれず、完全にアモルファス単相の薄膜である。この正極活物質膜40が、アモルファス単相であることは、透過型電子顕微鏡(TEM;transmission electron microscope)で断面を観察することで確認できる。すなわち、この正極活物質膜40を透過型電子顕微鏡(TEM)で断面を観察すると、そのTEM像において、結晶粒が存在しない状態を確認できる。また、電子線回折像からも確認できる。
【0031】
(正極保護膜31)
正極保護膜31は、正極側集電体膜30と正極活物質膜40との間に配置される。なお、図示は省略するが、正極保護膜31は、正極保護膜31は、正極側集電体膜30と正極活物質膜40との間に配置されると共に、正極活物質膜40と固体電解質膜50との間に、さらに配置されていてもよい。
【0032】
正極活物質膜40(例えば、典型的には、Li、P、Cu、O)と正極側集電体膜30(例えば、典型的には、Ti)との反応が進行することによって、充放電に伴い電池特性が低下したり、インピーダンスが上昇しやすくなることが考えられる。これを抑制するため、正極保護膜31は、正極側集電体膜30と正極活物質膜40との間に、配置される。
【0033】
なお、典型的にはリチウムリン酸化合物で構成される正極活物質膜40と、典型的には金属材料で構成される正極側集電体膜30との反応による悪影響は、正極活物質膜40を成膜後、正極活物質膜40上に正極側集電体膜30を成膜した場合よりも、正極側集電体膜30を成膜後、正極側集電体膜30上に正極活物質膜40を成膜した場合の方が、大きくなる。正極活物質膜40を成膜後、正極活物質膜40上に正極側集電体膜30を成膜した場合よりも、正極側集電体膜30を成膜後、正極側集電体膜30上に正極活物質膜40を成膜した場合の方が、被成膜対象となる材料と成膜対象となる材料との反応性が大きくなることが考えられるからである。
【0034】
正極保護膜31を構成する材料としては、正極側集電体膜30と、正極活物質膜40との反応を抑制すると共に、リチウムイオンが移動可能な材料を用いることができる。このような材料としては、上述したアモルファス正極活物質材料に比べて、より安定な正極活物質材料が挙げられる。具体的には、例えば、Liと、Co、Mn、Ni等の遷移金属と、Oとを含有するリチウム酸化物が挙げられる。より具体的には、LiCoO2、LiMn24、LiNiO2等のリチウム遷移金属酸化物が挙げられる。正極保護膜31を構成する材料は、反応性が小さく安定であることが好ましいため、結晶(単結晶、多結晶)または微結晶のような結晶相を有することが好ましい。
【0035】
正極保護膜31の厚さは、5nm以上20nm以下であることが好ましい。5nm未満であると、薄すぎるため、効果が低減するからである。20nmを超えると、厚すぎるため、正極保護膜31自体のインピーダンスの影響により効果が低減するからである。
【0036】
(固体電解質膜50)
固体電解質膜50を構成する材料として、リン酸リチウム(Li3PO4)、リン酸リチウム(Li3PO4)に窒素を添加したLi3PO4-xx(一般に、LiPONと呼ばれている。)、Lix23-yy、Li4SiO4−Li3PO4、Li4SiO4−Li3VO4等を使用することができる。
【0037】
(負極電位形成層64)
負極電位形成層64としては、例えば、Mn、Co、Fe、P、Ni、Siのうち1種以上を含む酸化物を用いることができる。この酸化物としては、より具体的には、LiCoO2、LiMn24などが挙げられる。この固体電解質電池では、製造時点に、負極活物質膜を形成することなく、これに換えて負極電位形成層64を形成している。負極活物質は充電と共に負極側に生じる。負極側に生じるのは、Li金属または固体電解質膜50の負極側界面のLiが過剰に含まれる層(以下、Li過剰層という)である。この過剰に堆積されるLi(Li過剰層)を負極活物質として利用しながら、充放電特性を損なわずに充放電の繰返しに対して高い耐久性を有する。
【0038】
負極電位形成層64は、電池の初期充電の際にLiを一部取り込むものの、その後の充放電の過程でLi含有量が一定値に保たれ、且つ、これによりLiの負極側集電体膜への拡散を抑え、負極側集電体膜70の劣化を抑えることによって、繰り返し充放電特性を極めて良好にし、更に、Liの負極側集電体膜70へ拡散による充電量の損失を最小限に抑える効果がある。もし、負極電位形成層64がなければ、Liが負極側集電体膜70へ拡散してしまい、電池の充放電に伴うLiの総量を一定値に保持することができないので、充放電特性が劣化してしまう。
【0039】
なお、正極活物質膜40の厚さに対応して、固体電解質膜50の負極側界面に形成されるLi過剰層の厚さは変化するが、負極電位形成層64は、固体電解質膜50の負極側界面に形成されるLi過剰層に対する保護膜として十分に機能すればよいので、負極電位形成層64の膜厚は、Li過剰層の厚さには直接関係せず、正極活物質膜40の厚さに依存しない。
【0040】
この固体電解質電池では、負極活物質の容量が正極活物質内のLi量よりも少ない場合には、負極活物質に入りきらないLiが界面に析出してLi過剰層をなしこれが負極活物質として機能することを利用する。この固体電解質電池では、負極電位形成層64の膜厚を正極活物質膜40よりも十分に薄く形成して、充電されていない状態では実質的に負極活物質が存在しない状態としている。
【0041】
負極電位形成層64は、負極活物質として利用される材料でもよいので、この場合には、より正確にいえば、一部は負極活物質として機能し、残りはLi過剰層に対する保護膜として機能する。負極電位形成層64の膜厚が正極活物質膜40よりも十分に薄い場合には、その殆どが保護膜として使用される。
【0042】
この固体電解質電池では、負極電位形成層64を正極活物質膜40の膜厚よりも十分に薄く形成して、界面に析出してなり負極活物質として機能するLi過剰層が、電池駆動の半分以上を担っている構成を有していてもよい。
【0043】
(負極側集電体膜70)
負極側集電体膜70を構成する材料としては、Cu、Mg、Ti、Fe、Co、Ni、Zn、Al、Ge、In、Au、Pt、Ag、Pd等、又は、これらの何れかを含む合金を使用することができる。
【0044】
(無機絶縁膜20)
無機絶縁膜20を構成する材料は、吸湿性が低く耐湿性を有する膜を形成することがで
きる材料であればよい。このような材料として、Si、Cr、Zr、Al、Ta、Ti、
Mn、Mg、Znの酸化物又は窒化物又は硫化物の単体、或いは、これらの混合物を使用
することができる。より具体的には、Si34、SiO2、Cr23、ZrO2、Al23、TaO2、TiO2、Mn23、MgO、ZnS等、或いは、これらの混合物を使用する。
【0045】
(固体電解質電池の製造方法)
上述した固体電解質電池は例えば以下のようにして製造する。
【0046】
まず、基板10上に無機絶縁膜20を形成する。次に、無機絶縁膜20上に、正極側集電体膜30、正極保護膜31、正極活物質膜40、固体電解質膜50、負極電位形成層64、負極側集電体膜70を順次形成し、これにより、積層体が形成される。次に、この積層体及び無機絶縁膜20の全体を覆うように、例えば、紫外線硬化樹脂からなる全体保護膜80が、基板(有機絶縁基板)10の上に形成される。以上の一連の工程によって、本技術の第1の実施の形態による固体電解質電池を形成することができる。
【0047】
(薄膜の形成方法)
無機絶縁膜20、正極側集電体膜30、正極保護膜31、正極活物質膜40、固体電解質膜50、負極電位形成層64、負極側集電体膜70の形成方法について説明する。
【0048】
各薄膜は、例えば、PVD(Physical Vapor Deposition:物理気相成長)法あるいはCVD(Chemical Vapor Deposition:化学気相成長)法などの気相法により形成できる。また、電気めっき、無電界めっき、塗布法、ゾル−ゲル法などの液相法により形成できる。また、SPE(固相エピタキシー)法、LB(Langmuir-Blodgett:ラングミュアーブロジェット)法などの固相法により形成することができる。
【0049】
PVD法は、薄膜化する薄膜原料を熱やプラズマなどのエネルギーで一旦蒸発・気化し、基板上に薄膜化する方法である。PVD法としては、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、MBE(分子線エキピタシー)法、レーザアブレーション法等が挙げられる。
【0050】
CVD法は、ガスとして供給される薄膜の構成材料に対して、熱、光、プラズマなどのエネルギーを加えて原料ガス分子の分解・反応・中間生成物を形成し、基板表面での吸着、反応、離脱を経て薄膜を堆積させる方法である。
【0051】
CVD法としては、例えば、熱CVD法、MOCVD(Metal Organic Chemical Chemical Vapor Deposition:有機金属気相成長)法、RFプラズマCVD法、光CVD法、レーザCVD法、LPE(Liquid Phase Epitaxy)法などが挙げられる。
【0052】
上述の薄膜形成方法によって、所望の構成の無機絶縁膜20、正極側集電体膜30、正極保護膜31、正極活物質膜40、固体電解質膜50、負極電位形成層64、負極側集電体膜70を形成することは、当業者にとって容易である。すなわち、当業者は、薄膜原料、薄膜形成方法、薄膜形成条件等を適宜選択することによって、所望の構成の無機絶縁膜20、正極側集電体膜30、正極保護膜31、正極活物質膜40、固体電解質膜50、負極電位形成層64、負極側集電体膜70を容易に形成できる。
【0053】
2.第2の実施の形態
本技術の第2の実施の形態による固体電解質電池について説明する。この固体電解質電池は、例えば充電および放電可能な固体電解質二次電池である。図2は、本技術の第2の実施の形態による固体電解質電池の構成を示す。図2Aは、この固体電解質電池の平面図である。図2Bは、図2Aの線X−Xに沿った断面を示す断面図である。図2Cは、図2Aの線Y−Yに沿った断面を示す断面図である。
【0054】
この固体電解質電池は、基板10の上に無機絶縁膜20が形成され、無機絶縁膜20上に、正極側集電体膜30、正極保護膜31、正極活物質膜40、固体電解質膜50、負極活物質膜60、負極側集電体膜70がこの順で積層された積層体を有する。この積層体および無機絶縁膜20の全体を覆うように例えば、紫外線硬化樹脂から構成された全体保護膜80が形成されている。なお、全体保護膜80上に無機絶縁膜20が形成されていてもよい。
【0055】
基板10、無機絶縁膜20、正極側集電体膜30、正極保護膜31、正極活物質膜40、固体電解質膜50、負極側集電体膜70および全体保護膜80は、第1の実施の形態と同様であるので詳細な説明を省略する。負極活物質膜60は以下の構成を有する。
【0056】
[負極活物質膜]
負極活物質膜60を構成する材料は、リチウムイオンを吸蔵および離脱させ易く、負極活物質膜に多くのリチウムイオンを吸蔵および離脱させることが可能な材料であればよい。このような材料として、Sn、Si、Al、Ge、Sb、Ag、Ga、In、Fe、Co、Ni、Ti、Mn、Ca、Ba、La、Zr、Ce、Cu、Mg、Sr、Cr、Mo、Nb、V、Zn等の何れかの酸化物を使用することができる。また、これら酸化物を混合して用いることもできる。
【0057】
負極活物質膜60の材料は具体的には、例えば、シリコン−マンガン合金(Si−Mn)、シリコン−コバルト合金(Si−Co)、シリコン−ニッケル合金(Si−Ni)、五酸化ニオブ(Nb25)、五酸化バナジウム(V25)、酸化チタン(TiO2)、酸化インジウム(In23)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化スズ(SnO2)、酸化ニッケル(NiO)、Snが添加された酸化インジウム(ITO)、Alが添加された酸化亜鉛(AZO)、Gaが添加された酸化亜鉛(GZO)、Snが添加された酸化スズ(ATO)、F(フッ素)が添加された酸化スズ(FTO)等である。また、これらを混合して用いることもできる。また、負極活物質膜60を構成する材料として、Li金属を用いてもよい。
【0058】
(固体電解質電池の製造方法)
上述した固体電解質電池は例えば以下のようにして製造する。
【0059】
まず、基板10上に無機絶縁膜20を形成する。次に、無機絶縁膜20上に、正極側集電体膜30、正極保護膜31、正極活物質膜40、固体電解質膜50、負極活物質膜60、負極側集電体膜70を順次形成し、これにより、積層体が形成される。次に、この積層体及び無機絶縁膜20の全体を覆うように、例えば、紫外線硬化樹脂からなる全体保護膜80が、基板10の上に形成される。以上の一連の工程によって、本技術の第2の実施の形態による固体電解質電池を形成することができる。
【実施例】
【0060】
以下、実施例により本技術を具体的に説明するが、本技術はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0061】
[実施例1〜実施例2、比較例1]
<実施例1>
図1に示す構成を有する固体電解質電池を作製した。基板10として厚さ1.1mmのポリカーボネート(PC)基板を用いた。基板10上に無機絶縁膜20として、SCZ(SiO2−Cr23−ZrO2)を成膜した。
【0062】
無機絶縁膜20上に金属マスクを配して、所定領域に正極側集電体膜30として、正極保護膜31、正極活物質膜40、固体電解質膜50、負極電位形成層64、負極側集電体膜70の順に成膜し積層体を形成した。正極側集電体膜30としてTi膜、正極活物質膜40としてはLixCuyPO4膜、固体電解質膜50としてLi3PO4-xx膜、負極電位形成層64としてLiCoO2膜、負極側集電体膜70としてTi膜を形成した。
【0063】
無機絶縁膜20および積層体を構成する各薄膜の成膜条件は、以下のようにした。なお、基板10は基板加熱をせず、基板ホルダーを20℃で水冷し成膜を行った。
【0064】
(無機絶縁膜20)
無機絶縁膜20の成膜は、下記のスパッタリング装置および成膜条件で行った。
スパッタリング装置(アネルバ社製、C−3103)
ターゲット組成:SCZ(SiO2 35at%(アトミックパーセント)+Cr23 30at%+ZrO2 35at%)
ターゲットサイズ:Φ6インチ
スパッタリングガス:Ar100sccm、0.13Pa
スパッタリングパワー:1000W(RF)
膜厚:50nm
【0065】
(正極側集電体膜30)
正極側集電体膜30の成膜は、下記のスパッタリング装置および成膜条件で行った。
スパッタリング装置(アルバック社製、SMO−01特型)
ターゲット組成:Ti
ターゲットサイズ:Φ4インチ
スパッタリングガス:Ar70sccm、0.45Pa
スパッタリングパワー:1000W(DC)
膜厚:100nm
【0066】
(正極保護膜31)
正極保護膜31の成膜は、下記のスパッタリング装置および成膜条件で行った。
スパッタリング装置(アルバック社製、SMO−01特型)
ターゲット組成:LiCoO2
ターゲットサイズ:Φ4インチ
スパッタリングガス:(Ar80%+O220%混合ガス)20sccm、0.20Pa
スパッタリングパワー:300W(RF)
膜厚:10nm
【0067】
(正極活物質膜40)
正極活物質膜の成膜は、下記のスパッタリング装置および成膜条件で行った。
スパッタリング装置(アルバック社製、SMO−01特型)
ターゲット組成:Li3PO4およびCuのコスパッタ
ターゲットサイズ:Φ4インチ
スパッタリングガス:Ar(80%)+O2(20%) 20sccm、0.20Pa
スパッタリングパワー:Li3PO4600W(RF)、Cu50W(DC)
膜厚:300nm
【0068】
(固体電解質膜50)
固体電解質膜50の成膜は、下記のスパッタリング装置および成膜条件で行った。
スパッタリング装置(アルバック社製、SMO−01特型)
ターゲット組成:Li3PO4
ターゲットサイズ:Φ4インチ
スパッタリングガス:Ar20sccm+N220sccm、0.26Pa
スパッタリングパワー:600W(RF)
膜厚:500nm
【0069】
(負極電位形成層64)
負極電位形成層64の成膜は、下記のスパッタリング装置および成膜条件で行った。
スパッタリング装置(アルバック社製、SMO−01特型)
ターゲット組成:LiCoO2
ターゲットサイズ:Φ4インチ
スパッタリングガス:(Ar80%+O220%混合ガス)20sccm、0.20Pa
スパッタリングパワー:300W(RF)
膜厚:10nm
【0070】
(負極側集電体膜70)
負極側集電体膜70の成膜は、下記のスパッタリング装置および成膜条件で行った。
スパッタリング装置(アルバック社製、SMO−01特型)
ターゲット組成:Ti
ターゲットサイズ:Φ4インチ
スパッタリングガス:Ar70sccm、0.45Pa
スパッタリングパワー:1000W(DC)
膜厚:200nm
【0071】
最後に、全体保護膜80を、紫外線硬化樹脂(ソニーケミカル&インフォメーションデバイス製、型番SK3200)を用いて形成し、さらに紫外線硬化樹脂上に、上記と同様の成膜条件で無機絶縁膜を形成した。以上により、実施例1の固体電解質電池を得た。すなわち、下記の膜構成を有する実施例1の固体電解質電池を得た。なお、固体電解質電池のサイズは、正極活物質膜40の面積で1cm×1cmとした。
【0072】
(固体電解質電池の膜構成)
ポリカーボネート基板/SCZ(50nm)/Ti(100nm)/LiCoO2(10nm)/LixCuyPO4(300nm)/Li3PO4-xx(500nm)/LiCoO2(10nm)/Ti(200nm)/紫外線硬化樹脂(20μm)/SCZ(50nm)
【0073】
(XPSによる組成分析)
正極活物質膜40の分析を以下のようにして行った。正極活物質膜40の成膜条件と同一の成膜条件で、正極活物質膜40と同様の単層膜(膜厚400nm)を石英ガラス上に成膜した。そして、この単層膜の組成分析をX線光電子分光法(X線光電子分光法(XPS);X−ray photoelectron spectroscopy)により行った。その結果、この単層膜の組成はLi2.2Cu2.5PO4.0であった。
【0074】
(TEM分析)
また、この単層膜の断面を透過型電子顕微鏡(TEM;transmission electron microscope)で観察した。測定結果を図3に示す。図3Aは透過型電子顕微鏡により観察したTEM像を示し、図3Bは電子回折図形を示す。
【0075】
図3Aに示すようにTEM像において結晶粒が確認されず、図3Bに示すように電子回折図形は、アモルファスを示すハローリングが観察された。これにより、正極活物質膜40は、アモルファスであることを確認できた。
【0076】
(正極保護膜のTEM分析)
正極保護膜31(LiCoO2膜)については、XRD(X‐ray diffraction)により結晶ピークが確認され、結晶構造の存在が確認された。また、LiCoO2膜を透過型電子顕微鏡により観察した。図4Aに透過型電子顕微鏡により観察したTEM像および電子回折図形を示す。図4に示すように、スパッタ成膜後にアニール処理をしていないため微結晶構造となっていることが明らかであることが確認できる。
【0077】
<比較例1>
ポリカーボネート基板/SCZ(50nm)/Ti(100nm)/LixCuyPO4(300nm)/Li3PO4-xx(500nm)/LiCoO2(10nm)/Ti(200nm)/紫外線硬化樹脂(20μm)/SCZ(50nm)の構成の固体電解質電池を作製した。すなわち、正極保護膜31を除いた構成としたこと以外は、実施例1と同様にして、固体電解質電池を作製した。
【0078】
(充放電試験)
実施例1および比較例1の固体電解質電池の充放電試験を行った。充電は充電電流50μA、充電カットオフ電圧5Vで行った。放電は放電電流50μA、放電カットオフ電圧2Vで行った。なお、50μAは4C(0.25時間で理論容量を充放電する電流値)の充放電速度に相当する。このようにして得られた固体電解質電池の充放電特性を図5および図6に示す。なお、図5および図6に示す充放電曲線は、充放電を5サイクルした後の5サイクル目の充放電曲線である。
【0079】
図5の実施例1の充放電曲線が示すように、この充放電速度では、放電電圧が3Vでほぼ平坦であり、充電電圧は3.4Vから電圧上昇して4.3V程度で急激に電池が上昇し充電が完了しており、良好な充放電特性が得られた。
【0080】
一方、図6の比較例1の充放電曲線が示すように、この充放電速度では、放電電圧が3Vを下回り、インピーダンスによる電圧降下が確認され、さらに充電時の電圧は3.7Vから電圧上昇し4.5Vを超えたところで電位が上昇しており、充電電圧の上昇が確認された。さらに、高インピーダンス充電のために理想的な充電が行われなかったため、充放電容量が低下している。
【0081】
以上から、正極保護膜(LiCoO2膜)は、わずか10nmの厚さでありながらインピーダンスを大幅に低下していることが示された。これは、金属からなる正極側集電体膜表面の界面制御等によるものと考えられる。
【0082】
Li2.2Cu2.5PO4.0のようなアモルファス正極活物質材料で構成された正極活物質膜と正極側集電体膜とで正極を構成すると、インピーダンスが高くなってしまう。これに対して、同様にスパッタ成膜で形成する、LiCoO2のような酸化物正極活物質材料を正極活物質膜と正極側集電体膜との間の界面に配置することで、インピーダンスが高くなってしまうことを改善した。酸化物正極活物質材料は、結晶または微結晶の材料物性が有効であることがわかる。なお、以上のことから、LiCoO2と同様の酸化物正極活物質材料であるLiMn24、LiNiO2等を正極保護膜として用いても、LiCoO2膜と同様に有効であることが明らかである。
【0083】
<実施例2>
ポリカーボネート基板/SCZ(50nm)/Ti(100nm)/LiMn24(5nm)/LixCuyPO4(1000nm)/Li3PO4-xx(500nm)/LiMn24(5nm)/Ti(200nm)/紫外線硬化樹脂(20μm)/SCZ(50nm)の構成の固体電解質電池を作製した。すなわち、正極活物質の膜厚を1000nmとし、正極保護膜31および負極電位形成膜64を下記の成膜条件で形成した点以外は、実施例1と同様にして、固体電解質電池を作製した。
【0084】
(正極保護膜31)
正極保護膜31の成膜は、下記のスパッタリング装置および成膜条件で行った。
スパッタリング装置(アルバック社製、SMO−01特型)
ターゲット組成:LiMn24
ターゲットサイズ:Φ4インチ
スパッタリングガス:(Ar80%+O220%混合ガス)20sccm、0.20Pa
スパッタリングパワー:300W(RF)
膜厚:5nm
【0085】
(負極電位形成膜)
負極電池形成膜64の成膜は、下記のスパッタリング装置および成膜条件で行った。
スパッタリング装置(アルバック社製、SMO−01特型)
ターゲット組成:LiMn24
ターゲットサイズ:Φ4インチ
スパッタリングガス:(Ar80%+O220%混合ガス)20sccm、0.20Pa
スパッタリングパワー:300W(RF)
膜厚:5nm
【0086】
(充放電試験)
実施例2の固体電解質電池の充放電試験を実施例1と同様にして行った。図7に実施例2の固体電解質電池の充放電曲線を示す。
【0087】
図7に示すように、正極保護膜31を、LiCoO2膜に代えてLiMn24膜とした場合でも、正極保護膜31をLiCoO2膜とした場合(実施例1)と同様に、インピーダンス低下の効果が確認できた。また、実施例2では、正極活物質膜40の厚さが、実施例1の3倍以上であるにもかかわらず、充放電電圧が実施例1と同レベルであることから、インピーダンス低下の効果は正極保護膜31により得られたものであると断定できる。
【0088】
[参考例1−1〜参考例1−3]
以下の参考例1−1〜参考例1−3では、正極活物質として機能する、新規アモルファス正極活物質材料の具体例について説明する。
【0089】
<参考例1−1>
図1に示す構成において、正極保護膜31を省略した構造を有する固体電解質電池を作製した。基板10として厚さ1.1mmのポリカーボネート(PC)基板を用いた。基板10上に無機絶縁膜20として、SCZ(SiO2−Cr23−ZrO2)を成膜した。
【0090】
無機絶縁膜20上に金属マスクを配して、所定領域に正極側集電体膜30として、正極活物質膜40、固体電解質膜50、負極電位形成層64、負極側集電体膜70の順に成膜し積層体を形成した。正極側集電体膜30としてTi膜、正極活物質膜40としてはLixCuyPO4膜、固体電解質膜50としてLi3PO4-xx膜、負極電位形成層64としてLiCoO2膜、負極側集電体膜70としてTi膜を形成した。
【0091】
無機絶縁膜20および積層体を構成する各薄膜の成膜条件は、以下のようにした。なお、基板10は基板加熱をせず、基板ホルダーを20℃で水冷し成膜を行った。
【0092】
(無機絶縁膜20)
無機絶縁膜20の成膜は、下記のスパッタリング装置および成膜条件で行った。
スパッタリング装置(アネルバ社製、C−3103)
ターゲット組成:SCZ(SiO2 35at%(アトミックパーセント)+Cr23 30at%+ZrO2 35at%)
ターゲットサイズ:Φ6インチ
スパッタリングガス:Ar100sccm、0.13Pa
スパッタリングパワー:1000W(RF)
【0093】
(正極側集電体膜30)
正極側集電体膜30の成膜は、下記のスパッタリング装置および成膜条件で行った。
スパッタリング装置(アルバック社製、SMO−01特型)
ターゲット組成:Ti
ターゲットサイズ:Φ4インチ
スパッタリングガス:Ar70sccm、0.45Pa
スパッタリングパワー:1000W(DC)
膜厚:100nm
【0094】
(正極活物質膜40)
正極活物質膜の成膜は、下記のスパッタリング装置および成膜条件で行った。
スパッタリング装置(アルバック社製、SMO−01特型)
ターゲット組成:Li3PO4およびCuのコスパッタ
ターゲットサイズ:Φ4インチ
スパッタリングガス:Ar(80%)+O2(20%) 20sccm、0.20Pa
スパッタリングパワー:Li3PO4600W(RF)、Cu50W(DC)
膜厚:350nm
【0095】
(固体電解質膜50)
固体電解質膜50の成膜は、下記のスパッタリング装置および成膜条件で行った。
スパッタリング装置(アルバック社製、SMO−01特型)
ターゲット組成:Li3PO4
ターゲットサイズ:Φ4インチ
スパッタリングガス:Ar20sccm+N220sccm、0.26Pa
スパッタリングパワー:600W(RF)
膜厚:400nm
【0096】
(負極電位形成層64)
負極電位形成層64の成膜は、下記のスパッタリング装置および成膜条件で行った。
スパッタリング装置(アルバック社製、SMO−01特型)
ターゲット組成:LiCoO2
ターゲットサイズ:Φ4インチ
スパッタリングガス:(Ar80%+O220%混合ガス)20sccm、0.20Pa
スパッタリングパワー:300W(RF)
膜厚:10nm
【0097】
(負極側集電体膜70)
負極側集電体膜70の成膜は、下記のスパッタリング装置および成膜条件で行った。
スパッタリング装置(アルバック社製、SMO−01特型)
ターゲット組成:Ti
ターゲットサイズ:Φ4インチ
スパッタリングガス:Ar70sccm、0.45Pa
スパッタリングパワー:1000W(DC)
膜厚:200nm
【0098】
最後に、全体保護膜80を、紫外線硬化樹脂(ソニーケミカル&インフォメーションデバイス製、型番SK3200)を用いて形成し、さらに紫外線硬化樹脂上に、上記と同様の成膜条件で無機絶縁膜を形成した。以上により、参考例1−1の固体電解質電池を得た。すなわち、下記の膜構成を有する参考例1−1の固体電解質電池を得た。
【0099】
(固体電解質電池の膜構成)
ポリカーボネート基板/SCZ(50nm)/Ti(100nm)/LixCuyPO4(350nm)/Li3PO4-xx(400nm)/LiCoO2(10nm)/Ti(200nm)/紫外線硬化樹脂(20μm)/SCZ(50nm)
【0100】
[正極活物質膜40の分析]
(XPS分析)
正極活物質膜40の分析を以下のようにして行った。正極活物質膜40の成膜条件と同一の成膜条件で、正極活物質膜40と同様の単層膜を石英ガラス上に成膜した。そして、この単層膜の組成分析をX線光電子分光法(X線光電子分光法(XPS);X−ray photoelectron spectroscopy)により行った。その結果、この単層膜の組成はLi2.2Cu2.2PO4.0であった。
【0101】
(TEM分析)
また、この単層膜の断面を透過型電子顕微鏡(TEM;transmission electron microscope)で観察した。測定結果を図8に示す。図8Aは透過型電子顕微鏡により観察したTEM像を示し、図8Bは電子回折図形を示す。
【0102】
図8Aに示すようにTEM像において結晶粒が確認されず、図8Bに示すように電子回折図形は、アモルファスを示すハローリングが観察された。これにより、正極活物質膜40は、アモルファスであることを確認できた。
【0103】
(充放電試験)
参考例1−1の固体電解質電池の充放電試験を行った。充電は充電電流50μA、充電カットオフ電圧5Vで行った。放電は放電電流50μA、放電カットオフ電圧2Vで行った。なお、50μAは5C(0.2時間で理論容量を充放電する電流値)に相当する。図9に測定結果を示す。なお、図9において、線cxは充電曲線を示す。添字xは奇数字であり、線cxが「(x+1)/2」回目の充電の充電曲線であることを示す。線dyは放電曲線を示す。添字yは偶数字であり、線dyが初期充電後のy/2回目の放電の放電曲線であることを示す。(以下の図10、12においても同様)
【0104】
図9に示すように、参考例1−1の固体電解質電池では、3V付近での放電電位の平坦性に優れていた。また、この正極活物質は充放電の繰り返しに対しても良好な特性を示した。
【0105】
<参考例1−2>
正極活物質膜40を以下の成膜条件で成膜した点以外は、参考例1−1と同様にして、参考例1−2の固体電解質電池を作製した。
【0106】
[正極活物質膜40]
正極側集電体膜30上に、下記の成膜条件で、正極活物質膜40を成膜した。
スパッタリング装置(アルバック社製、SMO−01特型)
ターゲット組成:Li3PO4およびCuのコスパッタ
ターゲットサイズ:Φ4インチ
スパッタリングガス:Ar(80%)+O2(20%) 20sccm、0.20Pa
スパッタリングパワー:Li3PO4600W(RF)、Cu70W(DC)
膜厚:370nm
【0107】
[正極活物質膜40の分析]
(XPS分析)
参考例1−1と同様にして、X線光電子分光法(XPS)により組成分析を行った。その結果、正極活物質膜40と同様の単層膜の組成は、Li2.2Cu3.3PO4.0であった。
【0108】
(TEM分析)
また、この単層膜を透過型顕微鏡(TEM)で観察したところ、参考例1−1と同様、TEM像において結晶粒が確認されず、電子回折図形はアモルファスを示すハローリングが観察された。これにより、正極活物質膜40は、アモルファスであることを確認できた。
【0109】
(充放電試験)
参考例1−1と同様にして、充放電試験を行った。測定結果を図10に示す。
【0110】
図10に示すように、参考例1−2の固体電解質電池では、3V付近での放電電位の平坦性に優れていた。また、この正極活物質は充放電の繰り返しに対しても良好な特性を示した。
【0111】
(リチウムの組成比xの検討)
放電容量、充電前の正極活物質40の膜組成に基づいて計算すると、満充電時のリチウム組成比xは、1.0であることがわかる。図9および図10に示すように、充電が進行するに従い、リチウムの組成比xは、成膜時の組成比から減少していき、x=1.0近辺の値まで減少すると、インピーダンスが上昇して充電時の電圧が上昇することにより、充電を完了している。これより、正極活物質膜40の成膜後(充電前)において、正極活物質膜40を構成するLixCuyPO4のリチウムの組成比xが1.0より小さいとインピーダンスが大きくて充電が進行せず、電池として機能しないことが分かる。したがって、正極活物質膜40を構成するLixCuyPO4のリチウムの組成比xは1.0以上が好ましいことが分かる。ただし、充電開始前にx=1では電池として機能しないため、電池容量の観点からはxは1より大きいことが好ましい。
【0112】
正極活物質膜40を構成するLixCuyPO4のリチウムの組成比xとしては、x=3まで電池駆動することが確認できた。リチウムの組成比xが3より大きいLixCuyPO4は、スパッタターゲット中のLiの組成を大きくすることで実現可能である。参考例1−2の正極活物質Li2.2Cu3.3PO4に外部からLiを挿入できる構成のサンプルを作製し、電位の変化を測定したところ、x=4.5の組成まで正極活物質の電池が初期より2V以下の電位の変化内に収まっていた。これより、LixCuyPO4は、リチウムの組成比xの上限が4.5まで機能することが確認でき、リチウムの組成比xはx≦4.5であることが好ましいことが分かる。
【0113】
<試験例>
正極活物質膜40を構成するLixCuyPO4の銅の組成比yを変えた複数のサンプル(固体電解質電池)を作製し、このサンプルの充放電容量を測定した。
【0114】
サンプルの膜構成は、参考例1−1と同様の構成とした。すなわち、ポリカーボネート基板/SCZ(50nm)/Ti(100nm)/LixCuyPO4(350nm)/Li3PO4x(400nm)/LiCoO2(10nm)/Ti(200nm)/紫外線硬化樹脂(20μm)/SCZ(50nm)とした。
【0115】
サンプルごとに、正極活物質膜40の成膜条件において、スパッタリングパワーを適宜変えて、正極活物質膜40を構成するLixCuyPO4の銅の組成比yがそれぞれ異なる複数のサンプルを作製した。作製した複数のサンプルごとに、参考例1−1と同様の条件で充放電を行い、この際の充放電容量を各サンプルごとに求めた。測定結果を図11に示す。
【0116】
図11に示すように、正極活物質膜40を構成するLixCuyPO4の銅の組成比yが1.0より小さくなると、容量が急激に低下してしまう。したがって、正極活物質膜40を構成するLixCuyPO4の銅の組成比yは、1.0以上が好ましいことが確認できた。また、銅の組成比yが1.0以上2.2以下までは、容量が増加し、2.2付近を超えると、単位重量あたりの容量が低下した。これは、正極活物質内の銅の組成比yが増加することによって重量密度が上がる一方で、含有できるリチウムの組成比xが低下したからである。また、銅の組成比yが4.0を超えると、容量は、最大の容量を得ることができる銅の組成比y=2.2付近の容量の半分以下となってしまう。以上より、LixCuPy4の銅の組成比yは、1.0≦y≦4.0であることが好ましいことが分かった。
【0117】
<参考例1−3>
正極活物質膜40を以下の成膜条件で成膜した点以外は、参考例1−1と同様にして、参考例1−3の固体電解質電池を作製した。
【0118】
[正極活物質膜40]
正極活物質膜40の成膜は、下記のスパッタリング装置および成膜条件で行った。
スパッタリング装置(アルバック社製、SMO−01特型)
ターゲット組成:Li3PO4およびCuのコスパッタ
ターゲットサイズ:Φ4インチ
スパッタリングガス:Ar(80%)+O2(20%) 20sccm、0.20Pa
スパッタリングパワー:Li3PO4600W(RF)、Cu40W(DC)
膜厚:270nm
【0119】
[正極活物質膜40の分析]
(XPS分析)
参考例1−1と同様にして、X線光電子分光法(XPS)により組成分析を行った。その結果、正極活物質膜40と同様の単層膜の組成は、Li2.2Cu1.3PO4.0であった。
【0120】
(充放電試験)
参考例1−1と同様にして、充放電試験を行った。測定結果を図12に示す。
【0121】
図12に示すように、参考例1−3の固体電解質電池では、初期の充放電挙動は良好だったが、繰返し充放電の耐久性(充放電サイクル特性)が悪く、数十回の繰り返しで電池容量が半分以下に低下した。すなわち、参考例1−3のように、正極活物質膜40を構成するLixCuyPO4の銅の組成比yが1.3であると、充放電サイクル特性が悪くなった。一方、上述の参考例1−3のように、正極活物質膜40を構成するLixCuyPO4の銅の組成比yが2.2であると、100回以上の充放電が可能であった(図9参照)。したがって、充放電サイクル特性の点から、正極活物質膜40を構成するLixCuyPO4の銅の組成比yは、2.2≦yであることがより好ましいことがわかった。
【0122】
[参考例2−1〜参考例2−6、参考例3−1〜参考例3−10]
また、参考例2−1〜参考例2−6では、正極活物質として機能する、新規アモルファス正極活物質材料の具体例について説明する。なお、参考例3−1〜参考例3−10は、参考例2−1〜参考例2−6に対する比較例である。
【0123】
<参考例2−1>
図1に示す構成において、正極保護膜31を省略した構成を有する固体電解質電池を作製した。基板10として厚さ1.1mmのポリカーボネート(PC)基板を用いた。基板10上に無機絶縁膜20として、SiNを成膜した。
【0124】
無機絶縁膜20上に金属マスクを配して、所定領域に、正極側集電体膜30、正極活物質膜40、固体電解質膜50、負極電位形成層64、負極側集電体膜70の順に成膜し積層体を形成した。具体的には、正極側集電体膜30としてTi膜、正極活物質膜40としてLixNiyPOz膜、固体電解質膜50としてLi3PO4-xx膜、負極電位形成層64としてLiCoO2膜、負極側集電体膜70としてTi膜を形成した。
【0125】
無機絶縁膜20および積層体を構成する各薄膜の成膜条件は、以下のようにした。なお、基板10は基板加熱をせずに成膜を行った。
【0126】
(無機絶縁膜20)
無機絶縁膜20の成膜は、下記のスパッタリング装置および成膜条件で行った。
スパッタリング装置(アネルバ社製、C−3103)
ターゲット組成:Si
ターゲットサイズ:Φ6インチ
スパッタリングガス:Ar60sccm、N230sccm、0.11Pa
スパッタリングパワー:1500W(DC)
【0127】
(正極側集電体膜30)
正極側集電体膜30の成膜は、下記のスパッタリング装置および成膜条件で行った。
スパッタリング装置(アルバック社製、SMO−01特型)
ターゲット組成:Ti
ターゲットサイズ:Φ4インチ
スパッタリングガス:Ar70sccm、0.45Pa
スパッタリングパワー:1000W(DC)
膜厚:100nm
【0128】
(正極活物質膜40)
正極活物質膜の成膜は、下記のスパッタリング装置および成膜条件で行った。
スパッタリング装置(アルバック社製、SMO−01特型)
ターゲット組成:Li3PO4およびNiのコスパッタ
ターゲットサイズ:Φ4インチ
スパッタリングガス:Ar(80%)+O2(20%) 20sccm、0.20Pa
スパッタリングパワー:Li3PO4600W(RF)、Ni150W(DC)
膜厚:340nm
【0129】
(固体電解質膜50)
固体電解質膜50の成膜は、下記のスパッタリング装置および成膜条件で行った。
スパッタリング装置(アルバック社製、SMO−01特型)
ターゲット組成:Li3PO4
ターゲットサイズ:Φ4インチ
スパッタリングガス:Ar20sccm+N2 20sccm、0.26Pa
スパッタリングパワー:600W(RF)
膜厚:400nm
【0130】
(負極電位形成層64)
負極電位形成層64の成膜は、下記のスパッタリング装置および成膜条件で行った。
スパッタリング装置(アルバック社製、SMO−01特型)
ターゲット組成:LiCoO2
ターゲットサイズ:Φ4インチ
スパッタリングガス:(Ar80%+O220%混合ガス) 20sccm、0.20Pa
スパッタリングパワー:300W(RF)
膜厚:10nm
【0131】
(負極側集電体膜70)
負極側集電体膜70の成膜は、下記のスパッタリング装置および成膜条件で行った。
スパッタリング装置(アルバック社製、SMO−01特型)
ターゲット組成:Ni
ターゲットサイズ:Φ4インチ
スパッタリングガス:Ar70sccm、0.45Pa
スパッタリングパワー:1000W(DC)
膜厚:200nm
【0132】
最後に、全体保護膜80を、紫外線硬化樹脂(ソニーケミカル&インフォメーションデバイス製、型番SK3200)を用いて形成し、さらに全体保護膜80上に無機絶縁膜を形成した。以上により、参考例2−1の固体電解質電池を得た。すなわち、下記の膜構成を有する参考例2−1の固体電解質電池を得た。
【0133】
(固体電解質電池の膜構成)
ポリカーボネート基板/SiN(50nm)/Ti(100nm)/LixNiyPOz(340nm)/Li3PO4-xx(400nm)/LiCoO2(10nm)/Ni(200nm)/紫外線硬化樹脂(20μm)/SiN(50nm)
【0134】
[正極活物質膜40の分析]
(XPS分析)
正極活物質膜40の分析を以下のようにして行った。正極活物質膜40の成膜条件と同一の成膜条件で、正極活物質膜40と同様の単層膜を石英ガラス上に成膜した。そして、この単層膜の組成分析をX線光電子分光法(X線光電子分光法(XPS);X-ray photoelectron spectroscopy)により行った。その結果、この単層膜の組成はLi2.2Ni4.3PO7であった。
【0135】
(XRD分析)
XRD分析からは明確なピークが得られず、結晶性は高くないことが示された。製法が参考例1−1とほぼ同等であることから、この材料はアモルファスであると考えられる。
【0136】
(TEM分析)
また、この単層膜を透過型顕微鏡(TEM)で観察したところ、参考例1−1と同様、TEM像において結晶粒が確認されず、電子回折図形はアモルファスを示すハローリングが観察された。これにより、正極活物質膜40は、アモルファスであることを確認できた。
【0137】
(充放電試験)
参考例2−1の固体電解質電池の充放電試験を行った。充電は充電電流50μA、充電カットオフ電圧4.6Vで行った。放電は放電電流50μA、放電カットオフ電圧2Vで行った。なお、50μAは6C(0.1時間で理論容量を充放電する電流値)に相当する。図13に測定結果を示す。なお、図13において、線cnは充電曲線を示す。添字nは、線cnがn回目の充電の充電曲線であることを示す。線dkは放電曲線を示す。添字kは、線dkが初期充電後のk回目の放電の放電曲線であることを示す。(以下の図14〜図15についても同様。)
【0138】
図13に示すように、参考例2−1の固体電解質電池では、3V以上の電位で電位変化の直進性に優れ、この正極活物質は充放電の繰り返しに対しても良好な特性を示した。
【0139】
<参考例2−2>
正極活物質膜40を以下の成膜条件で成膜した点以外は、参考例1−1と同様にして、固体電解質電池を作製した。
【0140】
(正極活物質膜40)
正極活物質膜40の成膜は、下記のスパッタリング装置および成膜条件で行った。
スパッタリング装置(アルバック社製、SMO−01特型)
ターゲット組成:Li3PO4およびMnのコスパッタ
ターゲットサイズ:Φ4インチ
スパッタリングガス:Ar(80%)+O2(20%) 20sccm、0.20Pa
スパッタリングパワー:Li3PO4600W(RF)、Mn200W(DC)
膜厚:320nm
【0141】
LixMnyPOz中のMnの組成は、参考例1−1におけるLi2.2Cu2.2PO4.0中のCuの組成と同程度である。参考例1−1と参考例2−2の正極活物質のスパッタレートはほぼ同一である。
【0142】
(充放電試験)
参考例2−2の固体電解質電池について、参考例2−1と同様にして、充放電試験を行った。測定結果を図14に示す。
【0143】
図14に示すように、充放電電位が得られており、LixMnyPOzが、正極活物質として機能することが示された。充放電の繰り返しによって、電位の低下があり、充放電の繰り返しに対する耐久性が高いとはいえないが、数回の充放電用途に適する。
【0144】
<参考例2−3>
正極活物質膜40を以下の成膜条件で成膜した点以外は、参考例2−1と同様にして、固体電解質電池を作製した。
【0145】
(正極活物質膜)
正極活物質膜の成膜は、下記のスパッタリング装置および成膜条件で行った。
スパッタリング装置(アルバック社製、SMO−01特型)
ターゲット組成:Li3PO4およびAgのコスパッタ
ターゲットサイズ:Φ4インチ
スパッタリングガス:Ar(80%)+O2(20%) 20sccm、0.20Pa
スパッタリングパワー:Li3PO4600W(RF)、Ag35W(DC)
膜厚:320nm
【0146】
LixAgyPOz中のAgの組成は、参考例1−1におけるLi2.2Cu2.2PO4.0中のCuの組成と同程度である。参考例1−1と参考例2−3の正極活物質のスパッタレートはほぼ同一である。
【0147】
(充放電試験)
参考例2−3の固体電解質電池について、参考例2−1と同様にして、充放電試験を行った。測定結果を図15に示す。
【0148】
図15に示すように、初回放電では高い容量が得られた。また、充放電可能であり、放電電位に3V近い電位のプラトーが得られている。充放電の繰り返しに対する耐久性は高いとはいえないが、数回の充放電用途に適する。
【0149】
<参考例2−4>
正極活物質膜40を以下の成膜条件で成膜した点以外は、参考例2−1と同様にして、固体電解質電池を作製した。
【0150】
(正極活物質膜)
正極活物質膜の成膜は、下記のスパッタリング装置および成膜条件で行った。
スパッタリング装置(アネルバ社製、C−3103)
ターゲット組成:Li3PO4およびLiCoO2のコスパッタ
ターゲットサイズ:Φ6インチ
スパッタリングガス:Ar(80%)+O2(20%) 20sccm、0.10Pa
スパッタリングパワー:Li3PO41000W(RF)、LiCoO21000W(RF)
膜厚:250nm
【0151】
LixCoyPOz中のCoの組成は、参考例1−1におけるLi2.2Cu2.2PO4.0中のCuと同程度である。
【0152】
(充放電試験)
参考例2−4の固体電解質電池について、充放電試験を行った。なお、充電は充電電流50μA、充電カットオフ電圧5.0Vで行った。放電は放電電流50μA、放電カットオフ電圧2Vで行った。なお、50μAは6C(0.1時間で理論容量を充放電する電流値)に相当する。測定結果を図16に示す。
【0153】
図16に示すように3V以上の高い放電電位、10回の繰り返し充放電まで劣化のほとんどない良好な充放電特性が得られた。
【0154】
<参考例2−5>
正極活物質膜40を以下の成膜条件で成膜した点以外は、参考例2−1と同様にして、固体電解質電池を作製した。
【0155】
(正極活物質膜)
正極活物質膜の成膜は、下記のスパッタリング装置および成膜条件で行った。
スパッタリング装置(アネルバ社製、C−3103)
ターゲット組成:Li3PO4およびAuのコスパッタ
ターゲットサイズ:Φ6インチ
スパッタリングガス:Ar(80%)+O2(20%) 20sccm、0.10Pa
スパッタリングパワー:Li3PO41000W(RF)、Au170W(DC)
膜厚:250nm
【0156】
LixAuyPOz中のAuの組成は、参考例1−1におけるLi2.2Cu2.2PO4.0中のCuと同程度となるようにAuのスパッタパワーを調整した。
【0157】
(充放電試験)
参考例2−5の固体電解質電池について、参考例2−4と同様にして、充放電試験を行った。測定結果を図17に示す。
【0158】
図17に示すように、3V以上の高い放電電位、80回の繰り返し放電まで容量劣化の少ない良好な結果が得られた。
【0159】
<参考例2−6>
正極活物質膜40を以下の成膜条件で成膜した点以外は、参考例1−1と同様にして、固体電解質電池を作製した。
【0160】
(正極活物質膜)
正極活物質膜の成膜は、下記のスパッタリング装置および成膜条件で行った。
スパッタリング装置(アネルバ社製、C−3103)
ターゲット組成:Li3PO4およびPdのコスパッタ
ターゲットサイズ:Φ6インチ
スパッタリングガス:Ar(80%)+O2(20%) 20sccm、0.10Pa
スパッタリングパワー:Li3PO41000W(RF)、Pd65W(DC)
膜厚:238nm
【0161】
LixPdyPOz中のPdの組成は、参考例1におけるLi2.2Cu2.2PO4.0中のCuと同程度となるようにPdのスパッタパワーを調整した。
【0162】
(充放電試験)
参考例2−6の固体電解質電池について、参考例2−4と同様にして、充放電試験を行った。測定結果を図18に示す。
【0163】
図18に示すように、放電電位は3V以上の部分と2V以上の部分に分かれるが、容量は充分高く、実用的な電池が得られた。また、充放電の繰り返しに対する耐久性も高い。
【0164】
<参考例3−1>
正極活物質膜40を以下の成膜条件で成膜した点以外は、参考例1−1と同様にして、固体電解質電池を作製した。
【0165】
(正極活物質膜)
正極活物質膜の成膜は、下記のスパッタリング装置および成膜条件で行った。
スパッタリング装置(アネルバ社製、C−3103)
ターゲット組成:Li3PO4およびMgOのコスパッタ
ターゲットサイズ:Φ6インチ
スパッタリングガス:Ar(80%)+O2(20%) 20sccm、0.10Pa
スパッタリングパワー:Li3PO4800W(RF)、MgO1400W(RF)
膜厚:180nm
【0166】
<参考例3−2>
正極活物質膜40を以下の成膜条件で成膜した点以外は、参考例1−1と同様にして、固体電解質電池を作製した。
【0167】
(正極活物質膜)
正極活物質膜の成膜は、下記のスパッタリング装置および成膜条件で行った。
スパッタリング装置(アネルバ社製、C−3103)
ターゲット組成:Li3PO4およびVのコスパッタ
ターゲットサイズ:Φ6インチ
スパッタリングガス:Ar(80%)+O2(20%) 20sccm、0.10Pa
スパッタリングパワー:Li3PO41000W(RF)、V650W(RF)
膜厚:170nm
<参考例3−3>
正極活物質膜40を以下の成膜条件で成膜した点以外は、参考例1−1と同様にして、固体電解質電池を作製した。
【0168】
(正極活物質膜)
正極活物質膜の成膜は、下記のスパッタリング装置および成膜条件で行った。
スパッタリング装置(アネルバ社製、C−3103)
ターゲット組成:Li3PO4およびCrのコスパッタ
ターゲットサイズ:Φ6インチ
スパッタリングガス:Ar(80%)+O2(20%) 20sccm、0.10Pa
スパッタリングパワー:Li3PO41000W(RF)、Cr350W(RF)
膜厚:190nm
【0169】
<参考例3−4>
正極活物質膜40を以下の成膜条件で成膜した点以外は、参考例1−1と同様にして、固体電解質電池を作製した。
【0170】
(正極活物質膜)
正極活物質膜の成膜は、下記のスパッタリング装置および成膜条件で行った。
スパッタリング装置(アネルバ社製、C−3103)
ターゲット組成:Li3PO4およびZnOのコスパッタ
ターゲットサイズ:Φ6インチ
スパッタリングガス:Ar(80%)+O2(20%) 20sccm、0.10Pa
スパッタリングパワー:Li3PO41000W(RF)、ZnO780W(RF)
膜厚:240nm
【0171】
<参考例3−5>
正極活物質膜40を以下の成膜条件で成膜した点以外は、参考例1−1と同様にして、固体電解質電池を作製した。
【0172】
(正極活物質膜)
正極活物質膜の成膜は、下記のスパッタリング装置および成膜条件で行った。
スパッタリング装置(アネルバ社製、C−3103)
ターゲット組成:Li3PO4およびGa23のコスパッタ
ターゲットサイズ:Φ6インチ
スパッタリングガス:Ar(80%)+O2(20%) 20sccm、0.10Pa
スパッタリングパワー:Li3PO41000W(RF)、Ga23700W(RF)
膜厚:220nm
【0173】
<参考例3−6>
正極活物質膜40を以下の成膜条件で成膜した点以外は、参考例1−1と同様にして、固体電解質電池を作製した。
【0174】
(正極活物質膜)
正極活物質膜の成膜は、下記のスパッタリング装置および成膜条件で行った。
スパッタリング装置(アネルバ社製、C−3103)
ターゲット組成:Li3PO4およびIn23のコスパッタ
ターゲットサイズ:Φ6インチ
スパッタリングガス:Ar(80%)+O2(20%) 20sccm、0.10Pa
スパッタリングパワー:Li3PO41000W(RF)、In23470W(RF)
膜厚:265nm
【0175】
<参考例3−7>
正極活物質膜40を以下の成膜条件で成膜した点以外は、参考例1−1と同様にして、固体電解質電池を作製した。
【0176】
(正極活物質膜)
スパッタリング装置(アネルバ社製、C−3103)
ターゲット組成:Li3PO4およびSnO2のコスパッタ
ターゲットサイズ:Φ6インチ
スパッタリングガス:Ar(80%)+O2(20%) 20sccm、0.10Pa
スパッタリングパワー:Li3PO41000W(RF)、SnO2200W(RF)
膜厚:240nm
【0177】
<参考例3−8>
正極活物質膜40を以下の成膜条件で成膜した点以外は、参考例1−1と同様にして、固体電解質電池を作製した。
【0178】
(正極活物質膜)
正極活物質膜の成膜は、下記のスパッタリング装置および成膜条件で行った。
スパッタリング装置(アネルバ社製、C−3103)
ターゲット組成:Li3PO4およびSbのコスパッタ
ターゲットサイズ:Φ6インチ
スパッタリングガス:Ar(80%)+O2(20%) 20sccm、0.10Pa
スパッタリングパワー:Li3PO41000W(RF)、Sb70W(RF)
膜厚:230nm
【0179】
<参考例3−9>
正極活物質膜40を以下の成膜条件で成膜した点以外は、参考例1−1と同様にして、固体電解質電池を作製した。
【0180】
正極活物質膜の成膜は、下記のスパッタリング装置および成膜条件で行った。
(正極活物質膜)
スパッタリング装置(アネルバ社製、C−3103)
ターゲット組成:Li3PO4およびHfO2のコスパッタ
ターゲットサイズ:Φ6インチ
スパッタリングガス:Ar(80%)+O2(20%) 20sccm、0.10Pa
スパッタリングパワー:Li3PO41000W(RF)、HfO21000W(RF)
膜厚:160nm
【0181】
<参考例3−10>
正極活物質膜40を以下の成膜条件で成膜した点以外は、参考例1−1と同様にして、固体電解質電池を作製した。
【0182】
(正極活物質膜)
正極活物質膜の成膜は、下記のスパッタリング装置および成膜条件で行った。
スパッタリング装置(アネルバ社製、C−3103)
ターゲット組成:Li3PO4およびWのコスパッタ
ターゲットサイズ:Φ6インチ
スパッタリングガス:Ar(80%)+O2(20%) 20sccm、0.10Pa
スパッタリングパワー:Li3PO41000W(RF)、W150W(RF)
膜厚:230nm
【0183】
参考例3−1〜参考例3−10について、参考例2−1と同様にして、充放電試験を行った結果、いずれも容量が極端に小さく、正極容量に換算すると1−10mAh/gにとどまった。この容量はLiPONのみを電極ではさんで充放電試験を行った結果とほぼ同一であった。したがって、LiとMとPとOとを含むリチウムリン酸化合物(Mは、Mg、V、Cr、Zn、Ga、In、Sn、Sb、HfまたはWである)は、正極活物質としては機能しないことが分かった。
【0184】
(試験例)
正極活物質膜を構成する、LixNiyPOzの組成比y、zを変えた複数のサンプル(固体電解質電池)を作製し、このサンプルの容量を測定した。
【0185】
サンプルの膜構成は、参考例2−1と同様の構成とした。すなわち、ポリカーボネート基板/SiN(50nm)/Ti(100nm)/LixNiyPOz(340nm)/Li3PO4-xx(400nm)/LiCoO2(10nm)/Ni(200nm)/紫外線硬化樹脂(20μm)/SiN(50nm)
【0186】
サンプルごとに、正極活物質膜40の成膜条件において、スパッタリングパワーを適宜変えて、正極活物質膜40を構成するLixNiyPOzのNiの組成比y、酸素の組成比zがそれぞれ異なる複数のサンプルを作製した。作製した複数のサンプルごとに、参考例2−1と同様の条件で充放電を行い、この際の充放電容量を各サンプルごとに求めた。測定結果を図19に示す。
【0187】
図19に示すように、正極活物質膜40を構成するLixNiyPOzの組成比yが、2未満または10を超えると、エネルギー密度がピークの半分となってしまう。したがって、LixNiyPOzのニッケルの組成比yは、2以上10以下が好ましいことが分かった。また、このときの酸素の組成zをプロットしたものを図20に示し、Pの組成を1としたときのNiの組成を横軸、Pの組成を1としたときのOの組成を縦軸として、プロットしたグラフを図21に示す。グラフより以下のことがわかる。Niの組成が上がると、これと共に酸素の組成が上がっている。酸素の組成はNi、Pの組成に対応した最適な量となる。
【0188】
3.他の実施の形態
本技術は、上述した本技術の実施の形態に限定されるものでは無く、本技術の要旨を逸脱しない範囲内で様々な変形や応用が可能である。例えば固体電解質電池の膜構成は、上述したものに限定されるものではない。例えば、第1〜第2の実施の形態において、無機絶縁膜を省略した構成としてもよい。また、積層体の複数が順次、積層されて形成され、直列に電気的に接続され、全体保護膜80によって被覆された構成とすることもできる。また、基板の上に、積層体の複数が並置されて形成され、並列または直列に電気的に接続され、全体保護膜80によって被覆された構成とすることもできる。また、例えば、固体電解質電池の構造は、上述の例に限定されるものではない。例えば、例えば、正極集電体材料からなる金属板で、正極側集電体膜30を構成してもよい。負極集電体材料からなる金属板で負極側集電体膜70を構成してもよい。また、負極側を基板側にした構成としてもよい。
【符号の説明】
【0189】
10・・・基板
20・・・無機絶縁膜
30・・・正極側集電体膜
31・・・正極保護膜
40・・・正極活物質膜
50・・・固体電解質膜
60・・・負極活物質膜
64・・・負極電位形成層
70・・・負極側集電体膜
80・・・全体保護膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極側層と、
負極側層と、
上記正極側層および上記負極側層の間に配置された固体電解質層と
を備え、
上記正極側層は、
正極集電体層と、
アモルファス状態で正極活物質として機能するリチウム含有材料を含む正極活物質層と、
上記正極集電体層および上記正極活物質層の間に配置され、上記正極集電体層と上記正極活物質層との反応を抑制する正極保護層と
を含む固体電解質電池。
【請求項2】
上記正極保護層を構成する材料は、リチウムとOとを有するリチウム酸化物である請求項1に記載の固体電解質電池。
【請求項3】
上記リチウムとOとを有するリチウム酸化物は、リチウムと遷移金属とOとを有するリチウム遷移金属酸化物である請求項2に記載の固体電解質電池。
【請求項4】
上記遷移金属は、Co、MnおよびNiのうちの少なくとも何れかである請求項3に記載の固体電解質電池。
【請求項5】
上記リチウム遷移金属酸化物は、LiCoO2、LiMn24またはLiNiO2である請求項3に記載の固体電解質電池。
【請求項6】
上記リチウム遷移金属酸化物は、結晶または微結晶である請求項3に記載の固体電解質電池。
【請求項7】
上記アモルファス状態で正極活物質として機能するリチウム含有材料は、Liと、Cu、Ni、Co、Mn、Au、Ag、Pdからなる少なくとも1種の元素と、Pと、Oとを有する酸化物である請求項1に記載の固体電解質電池。
【請求項8】
上記アモルファス状態で正極活物質として機能するリチウム含有材料は、式(1)で表されるリチウムリン酸化合物である請求項7に記載の固体電解質電池。
式(1)
LixCuyPO4
(式中、xはリチウムの組成比を示す。yは銅の組成比を示す。xは1.0≦x≦5.0である。yは1.0≦y≦4.0である。)
【請求項9】
上記負極側層は、負極集電体層と、負極側電位形成層とで構成され、
充電時に上記固体電解質層の負極側の界面にリチウム過剰層が形成される請求項1に記載の固体電解質電池。
【請求項10】
基板をさらに備え、
上記基板上に、上記正極側層と、上記負極側層と、上記固体電解質層とを含む積層体が形成された請求項1に記載の固体電解質電池。
【請求項11】
上記正極側層に含まれる、上記正極集電体層、上記正極保護層および上記正極活物質層が、上記基板側からこの順で配置された請求項10に記載の固体電解質電池。
【請求項12】
上記基板は、樹脂基板である請求項10に記載の固体電解質電池。
【請求項13】
上記正極側層、上記負極側層および上記固体電解質層が薄膜で形成された請求項1〜12の何れかに記載の固体電解質電池。
【請求項14】
上記正極側保護層の厚さは、5nm以上20nm以下である請求項13に記載の固体電解質電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2012−169165(P2012−169165A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−29604(P2011−29604)
【出願日】平成23年2月15日(2011.2.15)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】