説明

固体高分子型燃料電池用電極、固体高分子型燃料電池用焼成膜の製造方法、固体高分子型燃料電池用電極の使用方法、及び、固体高分子型燃料電池

【課題】良好な保水性を確保して、固体高分子膜の湿潤状態を良好に保つことができる固体高分子型燃料電池用電極を提供する。
【解決手段】導電性及び通気性を有するガス拡散層2と、触媒担持体に担持された触媒6を含む触媒層3とからなる固体高分子型燃料電池用電極1であって、前記ガス拡散層2が、所定長さのカップスタック型カーボンナノチューブと前記カップスタック型カーボンナノチューブより長さが短い導電性フィラーが混合された焼成膜で構成されるとともに、前記触媒6が前記触媒担持体として機能する前記焼成膜に担持されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性及び通気性を有するガス拡散層と、触媒担持体に担持された触媒を含む触媒層とからなる固体高分子型燃料電池用電極、固体高分子型燃料電池用電極の製造方法、及び、固体高分子型燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子型燃料電池は、固体電解質膜の両側をアノード側触媒電極及びカソード側触媒電極で挟持した膜−電極接合体で構成される。
【0003】
アノード触媒側電極及びカソード触媒側電極は、導電性及び通気性を有するガス拡散層と触媒担持体に担持された触媒とイオン交換樹脂を含む触媒層を備え、触媒層が固体電解質膜と当接した構造となっている。
【0004】
触媒電極は、白金または白金合金等の触媒をカーボンブラック等の表面積の大きい触媒担持体に担持した触媒層を、イオン交換樹脂と共にガス拡散層上に塗布することによって得られる。
【0005】
特許文献1には、処理の困難な副生成物を発生させることなく短期間で製造でき、良好な燃料ガス透過性を確保しながら高い触媒活性が得られる薄型の固体高分子型燃料電池用電極を提供することを目的として、導電性及び通気性を有するガス拡散層と、触媒担持体に担持された金属触媒を含む触媒層とからなる固体高分子型燃料電池用電極であって、前記ガス拡散層がカーボンナノチューブでなる焼成膜で構成されるとともに、前記金属触媒が前記触媒担持体として機能する前記焼成膜に担持されている固体高分子型燃料電池用電極が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−210801号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述の固体高分子型燃料電池用電極によれば、カーボンナノチューブを用いた気孔サイズの小さな焼成膜をガス拡散層として用いることにより、燃料ガスに対する適度な通気性を確保しながらも、触媒の担体として要求される十分な比表面積が得られるので、カーボンブラック等の別途の触媒担体層を設けることなく、ガス拡散層に直接触媒を担持させることができるようになり、膜−電極接合体の一層の薄膜化が図れるようになる。
【0008】
ところで、固体高分子型燃料電池では、アノード側電極で水素分子が触媒の作用により分離された水素イオンが固体高分子膜を介して、また電子が外部回路を通ってカソード側電極に到り、カソード側電極で酸素と反応して水が生成されるのであるが、固体高分子型燃料電池の性能を左右するイオン伝導率は、固体高分子膜の水分含有量に著しく影響を受けるため、固体高分子膜が適切かつ均等な湿潤状態に保たれる必要がある。
【0009】
固体高分子膜が乾燥してイオン伝導率が低下すると、出力特性が低下するドライアウトという現象が発生するためである。
【0010】
上述の焼成膜を用いた電極によれば、気孔サイズ、つまり細孔径サイズをある程度小さくして、燃料ガスに対する適度な通気性を確保できるが、固体高分子膜の湿潤状態を良好に保つために、保水性の観点で焼成膜の更なる改良が望まれていた。
【0011】
本発明の目的は、上述の問題点に鑑み、良好な保水性を確保して、固体高分子膜の湿潤状態を良好に保つことができる固体高分子型燃料電池用電極、固体高分子型燃料電池用焼成膜の製造方法、固体高分子型燃料電池用電極の使用方法、及び、固体高分子型燃料電池を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述の目的を達成するため、本発明による固体高分子型燃料電池用電極の第一の特徴構成は、特許請求の範囲の書類の請求項1に記載した通り、導電性及び通気性を有するガス拡散層と、触媒担持体に担持された触媒を含む触媒層とからなる固体高分子型燃料電池用電極であって、前記ガス拡散層が、所定長さのカップスタック型カーボンナノチューブと前記カップスタック型カーボンナノチューブより長さが短い導電性フィラーが混合された焼成膜で構成されるとともに、前記触媒が前記触媒担持体として機能する前記焼成膜に担持されている点にある。
【0013】
上述の構成によれば、焼成膜の母材となるカップスタック型カーボンナノチューブが互いに絡み合って形成される細孔に、カップスタック型カーボンナノチューブより長さが短い導電性フィラーが入り込むため、焼成膜の導電性を維持しながらも、細孔径分布の最大ピーク値をより小径側にシフトさせることができる。その結果、焼成膜の保水性の向上により、固体高分子膜の湿潤状態を良好に維持でき、ドライアウト現象の発生を効果的に抑制することができるのである。
【0014】
特に、焼成膜の細孔径分布の最大ピーク値が0.08μmから0.18μmの範囲に調整されていると、良好な保水性が確保できるようになる。
【0015】
前記カップスタック型カーボンナノチューブと前記導電性フィラーの混合重量に対して、前記導電性フィラーの混合率が50重量%以下であると、焼成膜の保形性を確保しながらも、細孔径分布の最大ピーク値をより小径側にシフトさせることができる点で好ましい。
【0016】
導電性フィラーの長さが前記カップスタック型カーボンナノチューブの長さの1/2以下であると、細孔径分布の最大ピーク値を効果的に小径側にシフトさせることができる点で好ましい。
【0017】
カップスタック型カーボンナノチューブが長さ0.5〜10μmであり、導電性フィラーが長さ1μm以下であることが好ましい。
【0018】
導電性フィラーとしてカーボンナノチューブ、カーボンブラック、グラファイト、黒鉛、金属、金属酸化物の何れかから選択することが好ましい。
【0019】
触媒担持体となる焼成膜の母材としてカップスタック型カーボンナノチューブを用いることにより、触媒の担体として要求される十分な比表面積が得られるようになり、非常に活性が高く、触媒が結合しやすいため、全体として触媒を好適に分散させて担持させることができるようになる。
【0020】
導電性フィラーとしてカーボンナノチューブ、カーボンブラック、グラファイト、黒鉛、金属、金属酸化物の何れかを選択することにより、カーボンナノチューブが絡み合って形成される細孔径を効果的に小径化することができる。
【0021】
上述した固体高分子型燃料電池用電極に用いる焼成膜は、有機溶媒にカップスタック型カーボンナノチューブと前記カップスタック型カーボンナノチューブより長さが短い導電性フィラーと樹脂バインダを分散させる分散処理工程と、前記分散処理工程で得られた分散溶液を膜状に成形して乾燥させる成形工程と、前記成形工程で得られた膜を不活性ガス雰囲気下で焼成する焼成工程により製造することができる。
【0022】
上述したように、固体高分子型燃料電池では、カソード側電極で酸素と反応して水が生成されることもあり、アノード側でドライアウト現象が発生し易い傾向がある。そこで、上述した固体高分子型燃料電池用電極を、固体高分子型燃料電池のアノード側電極として使用することにより、ドライアウト現象の発生を回避して、良好な発電状態を保つことができるようになる。
【0023】
固体高分子型燃料電池として、導電性及び通気性を有するガス拡散層がカップスタック型カーボンナノチューブを母材とする焼成膜で構成され、前記焼成膜に触媒が担持されている電極が組み込まれ、アノード側電極に用いられる焼成膜の細孔径分布の最大ピーク値が、カソード側電極に用いられる焼成膜の細孔径分布の最大ピーク値よりも小さく調整されていることが好ましい。
【0024】
上述の構成によれば、ドライアウト現象が発生し易い傾向があるアノード側の電極に細孔径分布の最大ピーク値が小さい焼成膜を用いることにより、ドライアウト現象の発生を抑止し、カソード側の電極に細孔径分布の最大ピーク値が大きい焼成膜を用いることにより、生成された水によりガス透過性が低下するフラッティング現象の発生を抑止することができるようになる。
【0025】
そして、上述した固体高分子型燃料電池用電極は、アノード側電極に好適に用いることができる。
【発明の効果】
【0026】
以上説明した通り、本発明によれば、良好な保水性を確保して、固体高分子膜の湿潤状態を良好に保つことができる固体高分子型燃料電池用電極、固体高分子型燃料電池用焼成膜の製造方法、固体高分子型燃料電池用電極の使用方法、及び、固体高分子型燃料電池を提供することができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明による固体高分子型燃料電池の説明図
【図2】焼成膜への触媒の担持状態を示す説明図
【図3】焼成膜の製造方法の説明図
【図4】カップスタック型カーボンナノチューブと導電性フィラーの混合重量と、細孔径分布の最大ピーク値のデータ説明図であって、(a)は二組の比較サンプルと第1サンプルの説明図、(b)は二組の比較サンプルと第2サンプルの説明図
【図5】実験結果を示し、一組目の比較サンプルと第1サンプルの細孔径分布の変化を示す特性図
【図6】実験結果を示し、二組目の比較サンプルと第1サンプルの細孔径分布の変化を示す特性図
【図7】実験結果を示し、一組目の比較サンプルと第2サンプルの細孔径分布の変化を示す特性図
【図8】実験結果を示し、二組目の比較サンプルと第2サンプルの細孔径分布の変化を示す特性図
【図9】実験結果を示し、カップスタック型カーボンナノチューブと導電性フィラーの混合率による細孔径分布の最大ピーク値の変化を示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明による固体高分子型燃料電池用電極を採用した固体高分子型燃料電池の好適な実施形態について説明する。
【0029】
図1に示すように、本発明による固体高分子型燃料電池1は、固体高分子電解質膜8の両面にアノード側触媒電極4a(4)及びカソード側触媒電極4b(4)が夫々接合されて構成されている。
【0030】
アノード側触媒電極4a(4)及びカソード側触媒電極4b(4)は、導電性及び通気性を有するガス拡散層2(2a,2b)と、ガス拡散層2(2a,2b)の一側面に担持された触媒6(6a,6b)とイオン交換樹脂7を含む触媒層3(3a,3b)とで構成され、夫々の触媒層3(3a,3b)が固体高分子電解質膜8に対向するように配置されている。
【0031】
ガス拡散層2は、導電性及び通気性を有する焼成膜で構成され、焼成膜上に触媒6がスパッタリングによって担持されている。
【0032】
触媒担持体となる焼成膜は、所定長さのカップスタック型カーボンナノチューブとカップスタック型カーボンナノチューブより長さが短い導電性フィラーが混合された焼成膜で構成され、比表面積を十分に確保し、充分な触媒の担持量や均一分散性を確保するために、直径が80〜120nmの範囲で、繊維の長さが0.5μm以上で10μm以下の範囲のカップスタック型カーボンナノチューブが母材に用いられている。
【0033】
カップスタック型カーボンナノチューブは、一般的な同心円状のカーボンナノチューブと異なり、底の空いた炭素網カップを積み重ねた形状で、内部に大きな中空構造を有しており、カップの積み重ね数によって長さの調整が可能であることから、上述の範囲でカップスタック型カーボンナノチューブの長さを適切に選択することによって、焼成膜の形状を保持し、十分な比表面積を保持することができる点で極めて有用である。直径80〜120nmのカップスタック型カーボンナノチューブを、例えばボールミリング等によって10μm以下の長さに容易に調整することができる。
【0034】
一般的に燃料電池の良好な発電特性を得るには、活性化分極、抵抗分極、濃度分極の三つの最適化が必要とされるが、上述のカップスタック型カーボンナノチューブを用いると、スパッタリングによる触媒の担持により、活性化分極の低減(触媒活性の向上)、既存のカーボンブラックまたはカーボンナノチューブと同等以上の高導電性による抵抗分極の低減、長さ制御による濃度分極の低減という3つの最適化が可能となる。
【0035】
母材に混合される導電性フィラーは、カップスタック型カーボンナノチューブやTiO等、カーボンナノチューブ、カーボンブラック、グラファイト、黒鉛、金属、金属酸化物の何れかから選択される。
【0036】
カップスタック型カーボンナノチューブと導電性フィラーの混合重量に対して、導電性フィラーの混合率が50重量%以下であることが好ましく、導電性フィラーの長さがカップスタック型カーボンナノチューブの長さの1/2以下であることが好ましい。
【0037】
特に、カップスタック型カーボンナノチューブに対する導電性フィラーの混合率が20重量%〜50重量%の範囲に設定され、カップスタック型カーボンナノチューブの長さが0.5〜10μmの範囲、導電性フィラーの長さが1μm以下に設定されることが好ましい。
【0038】
上述の構成によれば、焼成膜の母材となるカップスタック型カーボンナノチューブが互いに絡み合って形成される細孔に、カップスタック型カーボンナノチューブより長さが短い導電性フィラーが入り込むため、焼成膜の導電性を維持しながらも、細孔径分布の最大ピーク値をより小径側にシフトさせることができる。その結果、焼成膜の保水性の向上により、固体高分子膜の湿潤状態を良好に維持でき、ドライアウト現象の発生を効果的に抑制することができる。
【0039】
焼成膜の細孔径分布の最大ピーク値は、0.06μmから0.20μmの範囲に調整されていることが好ましく、特に、0.08μmから0.18μmの範囲に調整されることが好ましい。
【0040】
つまり、導電性及び通気性を有するガス拡散層と、触媒担持体に担持された触媒を含む触媒層とからなり、ガス拡散層が、所定長さのカップスタック型カーボンナノチューブとカップスタック型カーボンナノチューブより長さが短い導電性フィラーが混合された焼成膜で構成されるとともに、触媒が触媒担持体として機能する焼成膜に担持されている固体高分子型燃料電池用電極が構成されている。
【0041】
触媒6は電極反応を促進する機能を有し、その担持量は1mg/cm以下で、更には0.5mg/cm以下であることが好ましい。また、触媒6としては白金Ptまたは白金合金等の触媒が好適に用いられるが、その他に、金Au、銀Ag、イリジウムIr、パラジウムPd、ルテニウムRu、オスミウムOs、ニッケルNi、タングステンW、モリブデンMo、マンガンMn、イットリウムY、バナジウムV、ニオブNb、チタンTi、希土類金属、から選択される少なくとも一種を含む金属を用いることができ、さらにはモリブデンカーバイドMoC等の炭化物を用いることも可能である。
【0042】
これらの触媒は一種類を単独で用いてもよいし、複数を併用してもよく、これらの一部または全部を合金形態で使用してもよい。これらの触媒は、焼成膜上に積層された導電性粒子の積層面にスパッタリング法により担持されているのが好ましい。
【0043】
触媒6の平均粒子径は、小さい方が有効電極面積が増加して触媒活性が向上するため、1〜10nmの範囲にあることが好ましく、さらに好ましくは、2〜5nmの範囲である。ここで、スパッタリングによって触媒6を担持する場合、触媒6の薄膜が形成されないように諸条件を調節する必要がある。触媒6の薄膜が形成されると、触媒層3の表面全体を触媒6が覆うこととなり、反応ガスや反応ガスと共に供給した水の移動を阻害するためである。
【0044】
スパッタリングの処理時間は90秒未満が好ましく、さらに15秒から60秒以下とすることがより好ましい。また、スパッタリングの際のRF出力値は特に制限されないが、100W以上とすることが好ましい。
【0045】
尚、スパッタリング以外の触媒の担持方法として、例えば、蒸着、電子照射、CVD、PVD、含浸、スプレーコート、スプレー熱分解、練りこみ、吹き付け、ロールやこてによる塗りつけ、スクリーン印刷、混錬法、光電解法、コーティング法、ゾルゲル法、ディップ法等を採用することも可能である。
【0046】
図2(a)に示すように、平滑な表面を有する膜に触媒6をスパッタした場合には、粒子の上に粒子が乗り、積層された触媒層が形成されるため、スパッタされた触媒の量に対して水素ガスまたは酸素ガスと接触する表面積が制限され、効率的な触媒層を形成することが困難となる。これに対して、図2(b)に示すように、カップスタック型カーボンナノチューブと導電性フィラーの混合物を焼成して得られる焼成膜は、表面が凹凸に形成されるため比表面積が大きくなり、その結果、触媒6が固着する膜表面積を大きく稼ぐことができ、スパッタリングにより粒子が単層で形成され易く、担持されたほぼ全ての触媒6が水素ガスまたは酸素ガスの活性化に寄与して、より高い発電効率を得ることができる。
【0047】
さらに、図2(c)に示すように、ガス拡散層がカーボンナノチューブと導電性フィラーの混合物でなる焼成膜で構成されるとともに、触媒担持体が焼成膜に形成された導電性粒子層で構成されているものであってもよい。
【0048】
例えば、有機溶媒N−メチルピロリドンにカップスタック型カーボンナノチューブ等のカーボンナノチューブを混入して分散処理したカーボンナノチューブペーストを焼成膜の一側面に塗布することにより、触媒担持体としてのカーボンナノチューブ導電性粒子層を形成することができる。この場合には、焼成膜以上に大きな比表面積を確保することができ、スパッタされる金属触媒粒子が層状に重なることなく分散して担持させることが容易にできるので、触媒の高活性化を確保してさらに発電効率を高めることができるようになる。
【0049】
触媒6が担持されたガス拡散層2(2a,2b)は固体高分子電解質膜8と接合して、燃料電池用MEA(Membrane Electrode Assembly)として利用される。両者を接合する際には、触媒6と固体高分子電解質膜8との間にプロトンが通過する経路を得るため、イオン交換樹脂7を塗布することが好ましい。
【0050】
イオン交換樹脂7としては、少なくとも高いプロトン導電性を有する材料が好ましく、デュポン社製の各種ナフィオン(デュポン社登録商標:Nafion)やダウケミカル社製のイオン交換樹脂等が好ましく例示される。
【0051】
触媒層3に塗布するイオン交換樹脂7の含有量は特に制限されないが、担持された触媒6の全量に対して50〜1500重量%とするのがよい。50重量%より少ない場合には、プロトンが通過する経路が充分に形成されず、一方、1500重量%よりも多い場合には、焼成膜の多孔をふさいでしまい反応ガス(水素ガスや酸素ガス)が通過しなくなり、電池が発電しないという現象を誘発してしまう。また、電極触媒層へのイオン交換樹脂の塗布は、ピペット塗布、スプレー法、ドクターブレード法、スクリーン印刷法等を用いることができる。
【0052】
さらに、触媒層3と固体高分子電解質膜8との接合には、熱プレス装置等を用いて実施することができる。
【0053】
燃料電池を構成するMEAは、本発明による固体高分子型燃料電池用電極がアノード側触媒電極またはカソード側触媒電極として、固体高分子電解質膜の何れかの面に接合されていれば所期の効果が得られ、必ずしも本発明による固体高分子型燃料電池用電極がアノード触媒電極及びカソード触媒電極の双方に用いられるものに限るものではない。
【0054】
しかし、固体高分子型燃料電池では、カソード側電極で酸素と反応して水が生成されることもあり、アノード側でドライアウト現象が発生し易い傾向がある。そこで、上述した固体高分子型燃料電池用電極を、特に、固体高分子型燃料電池のアノード側電極として使用することにより、ドライアウト現象の発生を回避して、良好な発電状態を保つことができるようになる。
【0055】
固体高分子型燃料電池として、導電性及び通気性を有するガス拡散層がカップスタック型カーボンナノチューブを母材とする焼成膜で構成され、焼成膜に触媒が担持されている電極が組み込まれ、アノード側電極に用いられる焼成膜の細孔径分布の最大ピーク値が、カソード側電極に用いられる焼成膜の細孔径分布の最大ピーク値よりも小さく調整されていることが好ましい。
【0056】
例えば、上述した焼成膜をアノード側電極に用い、導電性フィラーが混合されていない焼成膜をカソード側電極に用いればよい。
【0057】
上述の構成によれば、ドライアウト現象が発生し易い傾向があるアノード側の電極に細孔径分布の最大ピーク値が小さい焼成膜を用いることにより、ドライアウト現象の発生を抑止し、カソード側の電極に細孔径分布の最大ピーク値が大きい焼成膜を用いることにより、生成された水によりガス透過性が低下するフラッティング現象の発生を抑止することができるようになる。
【0058】
カップスタック型カーボンナノチューブを母材とする焼成膜の製造工程を説明する。焼成膜の製造工程は、図3に示すように、有機溶媒にカップスタック型カーボンナノチューブとカップスタック型カーボンナノチューブより長さが短い導電性フィラーと樹脂バインダを分散させる分散処理工程と、分散処理工程で得られた分散溶液を膜状に成形して乾燥させる成形工程と、成形工程で得られた膜を不活性ガス雰囲気下で焼成する焼成工程とからなる。
【0059】
分散処理工程で用いられる有機溶媒としては、特に制限は無いが、カップスタック型のカーボンナノチューブを用いる場合には、極性有機溶媒を例示することができ、特にN−メチルピロリドンが好ましく、樹脂バインダとしてはカーボン分散性を有するアクリル系樹脂が好適に使用できる。
【0060】
また分散処理工程では、有機溶媒にカップスタック型カーボンナノチューブと導電性フィラーと樹脂バインダを混合し、ペイントシェーカー等の分散装置を用いて30分から180分の範囲で分散処理することが好ましい。分散処理時間が短い場合にはカップスタック型カーボンナノチューブと導電性フィラーが適度に分散されず、粒状の塊であるダマが形成され、分散処理時間が長い場合にはカップスタック型カーボンナノチューブ同士の絡まりが解消されるため焼成後の膜の保型性を確保できなくなる虞があるためである。
【0061】
成形工程では、分散処理工程で十分な流動性が得られた分散液が、ガス拡散層のサイズ及び膜厚に対応した型に流し込まれ、その後乾燥処理されて薄膜の板状体が得られる。その際の乾燥温度は、薄膜の板状体が得られるのであれば特に制限されないが、100〜200℃の範囲が好ましい。100℃以下の場合には、溶媒の乾燥除去が不充分で薄膜にならない、もしくは乾燥に多大な時間を要する傾向があり200℃以上の場合には、膜にクラックが発生してしまう傾向があるためである。
【0062】
焼成工程では、成形工程で得られた薄膜の板状体が、カップスタック型カーボンナノチューブや導電性フィラーの酸化による脆弱化を招くことが無いように、窒素ガス等の不活性ガス雰囲気下、約600℃で1時間程度焼成される。焼成温度は500℃から700℃、焼成時間は30分から5時間程度が好ましい。焼成時間が20分以下であるとバインダ樹脂が十分に熱分解しないために十分な細孔が形成されず、長時間焼成すると熱劣化により脆弱性が現れる虞があるためである。
【0063】
さらに、カップスタック型カーボンナノチューブとカップスタック型カーボンナノチューブより長さが短い導電性フィラーが混合された焼成膜を、フッ素が存在する焼成膜として構成してもよい。
【0064】
このような焼成膜は、上述した分散工程でさらにフッ素樹脂を添加した分散溶液を膜状に成形した後に焼成して得られる。
【0065】
フッ素が存在する焼成膜を燃料電池に用いれば、焼成膜に撥水効果が発揮され、燃料ガスの反応時に生成される水分が焼成膜に浸潤すること無く、良好な通気性が確保されるため、安定した発電特性を確保することができ、さらには、長期にわたり焼成膜自体の保形性を維持することができるようになる。
【0066】
焼成前に分散溶液に混入されるフッ素樹脂として、ポリフッ化ビニリデンPVDFを用いることが好ましく、他にエチレンテトラフルオロエチレン共重合体ETFEを用いることも可能である。
【0067】
フッ素樹脂としてポリフッ化ビニリデンPVDFを採用する場合には、分散溶液中にポリフッ化ビニリデンPVDFを固形分濃度として5重量%から29重量%の範囲で混入すれば、フッ素樹脂を混入しない焼成膜と比較して良好な通気性、発電特性が得られ、好ましくは5重量%〜25重量%の範囲、さらに好ましくは8重量%〜18重量%の範囲で混入することにより、良好な発電特性に加えて良好な保形性も確保できるようになる。
【0068】
また分散処理工程では、有機溶媒にカップスタック型カーボンナノチューブと導電性フィラーと樹脂バインダとフッ素樹脂を混合し、ペイントシェーカー等の分散装置を用いて30分から180分の範囲で分散処理することが好ましい。
【0069】
分散工程でフッ素樹脂を分散させることにより、フッ素が存在する焼成膜を製造する例を説明したが、有機溶媒にカーボンナノチューブと導電性フィラーと樹脂バインダを分散させた分散溶液を膜状に成形して乾燥させ、得られた膜を不活性ガス雰囲気下で焼成し、得られた焼成膜をフッ素樹脂溶液にディッピングし或はスプレー法でフッ素樹脂を含浸させて、再度焼成することによりフッ素が存在する焼成膜を製造するものであってもよく、成形して得られた膜にスプレー法でフッ素樹脂を含浸させた後に焼成処理して、フッ素が存在する焼成膜を製造するものであってもよい。
【0070】
従来の固体高分子型燃料電池用電極では、厚さが300から400μmのガス拡散層に数十μmの厚さの触媒担持層を形成していたため、電極の厚みが400μm以上になるが、本発明による焼成膜を用いれば電極の厚みを200μm程度の薄型に構成することができる。
【実施例】
【0071】
有機溶媒N−メチルピロリドン(以下NMP)25.0gに、アクリル樹脂(古川化学工業製 BI−2107−SA)を3.2g、ポリフッ化ビニリデン(クレハ化学製 ♯850、以下「PVDF」と記す。)を0.8g、母材としてのカップスタック型カーボンナノチューブ(GSIクレオス提供、形式:24PS)と、母材より長さが短い導電性フィラーとしてのカップスタック型カーボンナノチューブ(GSIクレオス提供、形式:AR10)を、図4(a)に示すように、重量配分で混入して、それぞれペイントシェーカーで180分シェーク処理して分散溶液を得た。分散溶液固形分中のPVDFは17.2重量%である。
【0072】
ここに、カップスタック型カーボンナノチューブ(24PS)の平均長さは4.95μm、また、カップスタック型カーボンナノチューブ(AR10)の平均長さは0.89μmである。
【0073】
この溶液を、予め5cmとなるように区画したSUS板にキャスティングして約250μmの膜厚の板状体に成形した後、乾燥処理して板状体の膜を得た。その際、乾燥温度は140℃、乾燥時間は90分である。
【0074】
乾燥処理の後、板状体を焼成装置に投入し、窒素ガスの雰囲気下、約600℃の温度で1時間焼成して、アクリル樹脂、フッ素樹脂及びNMPを熱分解及び蒸発させて第1サンプルとしての二組の焼成膜を得た。
【0075】
図4(b)に示すように、上述と同様の条件で、母材より長さが短い導電性フィラーとしてのカーボンブラック(キャボット社提供、形式:バルカンXC72)を混入した第2サンプルとしての二組の焼成膜を作製した。
【0076】
ここに、カーボンブラック(XC72)の二次粒子の平均長さは0.1μm以下である。
【0077】
比較例として、図4(a)及び(b)に示すように、上述と同様の条件で、導電性フィラーを混合しない母材のみの二組の焼成膜を比較サンプルとして作製した。
【0078】
このようにして得られた各焼成膜の細孔径分布を、バブルジェット法を用いて測定した。バブルジェット法とは、所定の溶液をサンプル表面から浸透させた後、外部より空気を流し込み、浸透した溶液をサンプルより除去させる際に発生する圧力の変化より、サンプル細孔径を測定する手法である(日本ベル社製、形式:Porometer 3G)。
【0079】
その結果、図5、図6、図7、図8に示すように、第1サンプル、第2サンプル共に、比較サンプルより細孔径分布の最大ピーク(図中破線で囲んだ部分)が小さい方に移動する傾向があることが確認された。図9に、二組の第1サンプルと二組の第2サンプルのカップスタック型カーボンナノチューブと導電性フィラーの混合率による細孔径分布の最大ピーク値の変化を示す。
【0080】
以上の実施例を通じて、母材としてのカップスタック型カーボンナノチューブにカップスタック型カーボンナノチューブより長さが短い導電性フィラーを混合した焼成膜は、母材のみの焼成膜よりも細孔径分布の最大ピークが小さくなることが確認され、それだけ保水性を向上させることができることが確認された。
【符号の説明】
【0081】
1:固体高分子型燃料電池
2,2a,2b:ガス拡散層
3,3a,3b:触媒層
4:触媒電極
4a:アノード触媒電極
4b:カソード触媒電極
6,6a,6b:触媒
7:イオン交換樹脂
8:固体高分子電解質膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性及び通気性を有するガス拡散層と、触媒担持体に担持された触媒を含む触媒層とからなる固体高分子型燃料電池用電極であって、
前記ガス拡散層が、所定長さのカップスタック型カーボンナノチューブと前記カップスタック型カーボンナノチューブより長さが短い導電性フィラーが混合された焼成膜で構成されるとともに、前記触媒が前記触媒担持体として機能する前記焼成膜に担持されている固体高分子型燃料電池用電極。
【請求項2】
導電性及び通気性を有するガス拡散層と、触媒担持体に担持された触媒を含む触媒層とからなる固体高分子型燃料電池用電極であって、
前記ガス拡散層が、所定長さのカップスタック型カーボンナノチューブと前記カップスタック型カーボンナノチューブより長さが短い導電性フィラーが混合された焼成膜で構成され、前記焼成膜の細孔径分布の最大ピーク値が0.08μmから0.18μmの範囲に調整されているとともに、前記触媒が前記触媒担持体として機能する前記焼成膜に担持されている固体高分子型燃料電池用電極。
【請求項3】
前記カップスタック型カーボンナノチューブと前記導電性フィラーの混合重量に対して、前記導電性フィラーの混合率が50重量%以下である請求項1または2記載の固体高分子型燃料電池用電極。
【請求項4】
前記導電性フィラーの長さが前記カップスタック型カーボンナノチューブの長さの1/2以下である請求項1から3の何れかに記載の固体高分子型燃料電池用電極。
【請求項5】
前記カップスタック型カーボンナノチューブが長さ0.5〜10μmであり、前記導電性フィラーが長さ1μm以下である請求項4記載の固体高分子型燃料電池用電極。
【請求項6】
前記導電性フィラーがカーボンナノチューブ、カーボンブラック、グラファイト、黒鉛、金属、金属酸化物の何れかから選択される請求項1から5の何れかに記載の固体高分子型燃料電池用電極。
【請求項7】
請求項1から6の何れかに記載の固体高分子型燃料電池用電極に用いる焼成膜の製造方法であって、
有機溶媒にカップスタック型カーボンナノチューブと前記カップスタック型カーボンナノチューブより長さが短い導電性フィラーと樹脂バインダを分散させる分散処理工程と、前記分散処理工程で得られた分散溶液を膜状に成形して乾燥させる成形工程と、前記成形工程で得られた膜を不活性ガス雰囲気下で焼成する焼成工程とからなる焼成膜の製造方法。
【請求項8】
請求項1から6の何れかに記載の固体高分子型燃料電池用電極を、固体高分子型燃料電池のアノード側電極として使用する固体高分子型燃料電池用電極の使用方法。
【請求項9】
導電性及び通気性を有するガス拡散層がカップスタック型カーボンナノチューブを母材とする焼成膜で構成され、前記焼成膜に触媒が担持されている電極が組み込まれた固体高分子型燃料電池であって、アノード側電極に用いられる焼成膜の細孔径分布の最大ピーク値が、カソード側電極に用いられる焼成膜の細孔径分布の最大ピーク値よりも小さく調整されている固体高分子型燃料電池。
【請求項10】
請求項1から6の何れかに記載の固体高分子型燃料電池用電極がアノード側電極に用いられている請求項10記載の固体高分子型燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−198801(P2010−198801A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−39920(P2009−39920)
【出願日】平成21年2月23日(2009.2.23)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.バブルジェット
【出願人】(000001339)グンゼ株式会社 (919)
【出願人】(000105154)株式会社GSIクレオス (31)
【Fターム(参考)】