説明

固体高分子型燃料電池用電極及びその製造方法、並びにそれを備えた固体高分子型燃料電池

【課題】空気及び水分の透過性に優れる上、金属触媒の単位質量当りの活性が高い固体高分子型燃料電池用電極の製造方法を提供する。
【解決手段】導電性多孔質支持体と、該導電性多孔質支持体上に配設された炭素繊維と、該炭素繊維上に担持された金属触媒とを具える固体高分子型燃料電池用電極の製造方法であって、(i)導電性多孔質支持体上において、芳香環を有する化合物を電解酸化重合してフィブリル状ポリマーを生成させる工程と、(ii)該フィブリル状ポリマーを焼成して導電性多孔質支持体上に炭素繊維を生成させる工程と、(iii)該炭素繊維上に金属触媒を担持する工程とを含み、前記電解酸化重合工程(i)を複数回行い、その少なくとも1回の電解酸化重合工程(i)の重合条件が他の電解酸化重合工程(i)の重合条件と異なることを特徴とする固体高分子型燃料電池用電極の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子型燃料電池用電極及びその製造方法、並びに該固体高分子型燃料電池用電極を備えた固体高分子型燃料電池に関し、特には、空気及び水分の透過性に優れる上、金属触媒の単位質量当りの活性が高い固体高分子型燃料電池用電極の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
昨今、発電効率が高く、環境への負荷が小さい電池として、燃料電池が注目を集めており、広く研究開発が行われている。燃料電池の中でも、出力密度が高く作動温度が低い固体高分子型燃料電池は、小型化や低コスト化が他のタイプの燃料電池よりも容易なことから、電気自動車用電源、分散発電システム、家庭用のコージェネレーションシステムとして広く普及することが期待されている。
【0003】
一般に固体高分子型燃料電池においては、固体高分子電解質膜を挟んで一対の電極を配置すると共に、一方の電極の表面に水素等の燃料ガスを接触させ、もう一方の電極の表面に酸素を含有するガスを接触させ、この時起こる電気化学反応を利用して、電極間から電気エネルギーを取り出している(非特許文献1及び2参照)。また、上記電極の高分子電解質膜に接する側には触媒層が配設されており、高分子電解質膜と触媒層とガスとの三相界面で電気化学反応が起こる。そのため、固体高分子型燃料電池の発電効率を向上させるためには、上記電気化学反応の反応場を大きくする必要がある。
【0004】
上記電気化学反応の反応場を大きくすることが可能な触媒層を形成するために、一般に、白金等の貴金属触媒をカーボンブラック等の粒状カーボン上に担持した触媒粉を含有するペースト又はスラリーを、カーボンペーパー等の導電性の多孔質支持体上に塗布する方法が採られている。しかしながら、この方法で形成された触媒層を備える固体高分子型燃料電池は、発電効率が低かった。
【0005】
これに対して、本発明者らは、カーボンペーパー等の導電性の多孔質支持体上に特定の方法で炭素繊維を作製し、該炭素繊維上に電気メッキにより貴金属を担持して作製した電極を固体高分子型燃料電池に使用することで、固体高分子型燃料電池の発電効率が向上することを見出している(特許文献1参照)。
【0006】
【非特許文献1】日本化学会編,「化学総説No.49,新型電池の材料化学」,学会出版センター,2001年,p.180−182
【非特許文献2】「固体高分子型燃料電池<2001年版>」,技術情報協会,2001年,p.14−15
【特許文献1】国際公開第2004/063438号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、本発明者らが更に検討を進めたところ、上記特許文献1に記載の電極は、供給する空気や生成する水分の透過性に改良の余地がある上、炭素繊維上に担持された貴金属触媒の単位質量当りの活性にも改良の余地があることが分かった。
【0008】
そこで、本発明の目的は、上記従来技術の問題を解決し、空気及び水分の透過性に優れる上、金属触媒の単位質量当りの活性が高い固体高分子型燃料電池用電極とその製造方法を提供することにある。また、本発明の他の目的は、かかる固体高分子型燃料電池用電極を備え、高電流域から低電流域まで高い性能を発揮することが可能な固体高分子型燃料電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、芳香環を有する化合物を導電性多孔質支持体上で電解酸化重合してフィブリル状ポリマーを生成させる工程を異なる重合条件で複数回行った後、生成したフィブリル状ポリマーを焼成して3次元連続状の炭素繊維とし、該炭素繊維に金属触媒を担持することで、空気及び水分の透過性に優れる上、金属触媒の単位質量当りの活性が高い固体高分子型燃料電池用電極が得られ、また、該電極を固体高分子型燃料電池に組み込むことで、固体高分子型燃料電池が高電流域から低電流域まで高い性能を発揮することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
即ち、本発明の固体高分子型燃料電池用電極の製造方法は、導電性多孔質支持体と、該導電性多孔質支持体上に配設された炭素繊維と、該炭素繊維上に担持された金属触媒とを具える固体高分子型燃料電池用電極の製造方法であって、
(i)導電性多孔質支持体上において、芳香環を有する化合物を電解酸化重合してフィブリル状ポリマーを生成させる工程と、
(ii)該フィブリル状ポリマーを焼成して導電性多孔質支持体上に炭素繊維を生成させる工程と、
(iii)該炭素繊維上に金属触媒を担持する工程と
を含み、
前記電解酸化重合工程(i)を複数回行い、その少なくとも1回の電解酸化重合工程(i)の重合条件が他の電解酸化重合工程(i)の重合条件と異なる
ことを特徴とする。
【0011】
本発明の固体高分子型燃料電池用電極の製造方法の好適例においては、前記電解酸化重合工程(i)が、前記導電性多孔質支持体の投影面積に対して電流密度が15〜60 mA/cm2で通電量が2〜5C/cm2の重合条件で電解酸化重合を行う工程(i-1)と、前記導電性多孔質支持体の投影面積に対して電流密度が1.5〜5 mA/cm2で通電量が0.2〜1C/cm2の重合条件で電解酸化重合を行う工程(i-2)とからなる。
【0012】
また、本発明の固体高分子型燃料電池用電極は、上記の方法で製造されたことを特徴とし、本発明の固体高分子型燃料電池は、該電極を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、空気及び水分の透過性に優れる上、金属触媒の単位質量当りの活性が高い固体高分子型燃料電池用電極とその製造方法を提供することができる。また、かかる電極を備え、高電流域から低電流域まで高い性能を発揮することが可能な固体高分子型燃料電池を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
<固体高分子型燃料電池用電極及びその製造方法>
以下に、本発明の固体高分子型燃料電池用電極及びその製造方法を詳細に説明する。本発明の固体高分子型燃料電池用電極の製造方法は、(i)導電性多孔質支持体上において、芳香環を有する化合物を電解酸化重合してフィブリル状ポリマーを生成させる工程と、(ii)該フィブリル状ポリマーを焼成して導電性多孔質支持体上に炭素繊維を生成させる工程と、(iii)該炭素繊維上に金属触媒を担持する工程とを含み、前記電解酸化重合工程(i)を複数回行い、その少なくとも1回の電解酸化重合工程(i)の重合条件が他の電解酸化重合工程(i)の重合条件と異なることを特徴とし、該方法によれば、導電性多孔質支持体と、該導電性多孔質支持体上に配設された炭素繊維と、該炭素繊維上に担持された金属触媒とを具える固体高分子型燃料電池用電極を製造することができる。
【0015】
本発明の固体高分子型燃料電池用電極の製造方法では、異なる重合条件で電解酸化重合工程(i)を複数回行うことで、空隙率が高く疎な構造のフィブリル状ポリマーと空隙率が低く密な構造のフィブリル状ポリマーを生成させることができ、また、(ii)工程で該フィブリル状ポリマーを焼成して得られる炭素繊維も空隙率が高く疎な構造を有する部分と空隙率が低く密な構造を有する部分とを含むこととなる。ここで、炭素繊維の空隙率が高く疎な構造を有する部分が空気及び水分の透過性を向上させる機能を担う。また、(iii)工程で上記炭素繊維に金属触媒を担持すると、炭素繊維の空隙率が低く密な構造を有する部分、即ち単位質量当りの表面積が大きい部分に金属触媒が担持されるため、金属触媒の単位質量当りの活性が高くなる。そして、かかる電極を具えた固体高分子型燃料電池用電極は、フラッディングが起こり難いため、高電流域で運転しても、電圧の低下が小さく、高電流域から低電流域まで高い性能を発揮することができる。
【0016】
本発明の固体高分子型燃料電池用電極の製造方法では、導電性多孔質支持体上において、芳香環を有する化合物を電解酸化重合してフィブリル状ポリマーを生成させる工程(i)を複数回行い、その少なくとも1回の電解酸化重合工程(i)の重合条件を他の電解酸化重合工程(i)の重合条件と変える。ここで、全電解酸化重合工程(i)の重合条件がそれぞれ異なってもよいし、その内の幾つかが同一の重合条件であってもよい。なお、電解酸化重合工程(i)の重合条件としては、電流密度、通電量、電解溶液中の芳香環を有する化合物の濃度、電解溶液のpH、重合時間、重合温度(電解溶液の温度)、共存させる物質の濃度及び種類等が挙げられ、これら各条件を変更することで、種々のフィブリル状ポリマーを生成させることができる。これらの中でも、電流密度及び通電量の制御が特に有効である。
【0017】
本発明の製造方法においては、前記電解酸化重合工程(i)が、前記導電性多孔質支持体の投影面積に対して電流密度が15〜60 mA/cm2で通電量が2〜5C/cm2の重合条件で電解酸化重合を行う工程(i-1)と、前記導電性多孔質支持体の投影面積に対して電流密度が1.5〜5 mA/cm2で通電量が0.2〜1C/cm2の重合条件で電解酸化重合を行う工程(i-2)とからなることが好ましい。この場合、工程(i-1)の高電流条件下での電解酸化重合により、空隙率が高く疎な構造のフィブリル状ポリマーを生成させた後、工程(i-2)の低電流条件下での電解酸化重合により、空隙率が低く密な構造のフィブリル状ポリマーが生成するため、導電性多孔質支持体から遠い側、即ち、高分子電解質膜に接する側の金属触媒の単位質量当りの活性が高くなり、金属触媒がより有効に機能する結果、電極の性能が更に向上する。
【0018】
上記導電性多孔質支持体としては、多孔質で且つ導電性を有するものであればよく、具体的には、カーボンペーパー、多孔質のカーボン布等が挙げられ、これらの中でも、カーボンペーパーが好ましい。
【0019】
上記芳香環を有する化合物としては、ベンゼン環を有する化合物、芳香族複素環を有する化合物を挙げることができる。ここで、ベンゼン環を有する化合物としては、アニリン及びアニリン誘導体が好ましく、芳香族複素環を有する化合物としては、ピロール、チオフェン及びこれらの誘導体が好ましい。これら芳香環を有する化合物は、一種単独で用いてもよいし、二種以上の混合物として用いてもよい。
【0020】
上記電解酸化重合においては、原料の芳香環を有する化合物と共に、酸を混在させることが好ましい。この場合、酸の負イオンがドーパントとして合成されるフィブリル状ポリマー中に取り込まれ、導電性に優れたフィブリル状ポリマーが得られ、このフィブリル状ポリマーを用いることにより最終的に炭素繊維の導電性を更に向上させることができる。ここで、電解酸化重合の際に混在させる酸としては、HBF4、H2SO4、HCl、HClO4等を例示することができる。また、該酸の濃度は、0.1〜3 mol/Lの範囲が好ましく、0.5〜2.5 mol/Lの範囲が更に好ましい。
【0021】
上記(i)工程は、芳香環を有する化合物を含む溶液中に、上記導電性多孔質支持体を作用極として浸漬し、更に対極を浸漬し、両極間に芳香環を有する化合物の酸化電位以上の電圧を印加するか、または該芳香環を有する化合物が重合するのに充分な電圧が確保できるような条件の電流を通電すればよく、これにより導電性多孔質支持体(作用極)上にフィブリル状ポリマーが生成する。ここで、対極としては、ステンレススチール、白金、カーボン等の良導電性物質からなる板や多孔質支持体等を用いることができる。この電解酸化重合法によるフィブリル状ポリマーの合成方法の一例を挙げると、H2SO4、HBF4等の酸及び芳香環を有する化合物を含む電解溶液中に導電性多孔質支持体からなる作用極及び対極を浸漬し、両極間に異なる電流密度の電流を通電して、導電性多孔質支持体からなる作用極側にフィブリル状ポリマーを重合析出させる方法等が例示される。ここで、芳香環を有する化合物の電解溶液中の濃度は、0.05〜3 mol/Lが好ましく、0.25〜1.5 mol/Lがより好ましい。また、電解溶液には、上記成分に加え、pHを調製するために可溶性塩等を適宜添加してもよい。
【0022】
上記芳香環を有する化合物を電解酸化重合して得られるフィブリル状ポリマーは、通常、3次元連続構造を有し、直径が30〜数百nmで、好ましくは40〜500 nmであり、長さが0.5μm〜100 mmで、好ましくは1μm〜10 mmである。
【0023】
本発明の固体高分子型燃料電池用電極の製造方法では、(ii)工程で、上記フィブリル状ポリマーを焼成し炭化することで、導電性多孔質支持体上に炭素繊維を生成させる。なお、(ii)工程の前に、フィブリル状ポリマーを水や有機溶剤等の溶媒で洗浄し、乾燥させることが好ましい。ここで、乾燥方法としては、特に制限されるものではないが、風乾、真空乾燥の他、流動床乾燥装置、気流乾燥機、スプレードライヤー等を使用した方法を例示することができる。
【0024】
上記(ii)工程の焼成条件としては、特に限定されるものではなく、最適導電率となるように適宜設定すればよいが、特に高導電率を必要とする場合は、温度500〜3000℃、好ましくは600〜2800℃で、0.5〜6時間焼成することが好ましい。なお、本発明の製造方法では、焼成工程を非酸化性雰囲気中で行うことが好ましく、該非酸化性雰囲気としては、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気、ヘリウム雰囲気等を挙げることができ、場合によっては水素雰囲気とすることもできる。
【0025】
上記炭素繊維は、通常、3次元連続構造を有し、直径が30〜数百nm、好ましくは40〜500 nmであり、長さが0.5μm〜100 mm、好ましくは1μm〜10 mmであり、表面抵抗が106〜10-2Ω、好ましくは104〜10-2Ωである。また、該炭素繊維は、残炭率が90〜20%、好ましくは80〜25%である。該炭素繊維は、カーボン全体が3次元に連続した構造を有するため、粒状カーボンよりも導電性が高い。
【0026】
本発明の方法では、上記導電性多孔質支持体上に炭素繊維を生成させた後に、該炭素繊維に1800℃以上で高温処理を施すことが好ましく、2100〜3000℃で高温処理を施すことが更に好ましい。高温処理を施した炭素繊維を、金属触媒の担体として使用した電極を備える固体高分子型燃料電池は、高温処理を施していない炭素繊維を用いた電極を備える固体高分子型燃料電池より内部抵抗が低いなど良好な発電特性を示すが、特に耐久性の向上は顕著である。これは、高温処理によって炭素繊維の結晶性が高くなっていることによるものと考えられる。幅広い電流領域で電池電圧が高く且つ内部抵抗が小さく、良好な発電特性を示す。ここで、上記高温処理は、非酸化性雰囲気中で実施することが好ましく、非酸化性雰囲気としては、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気、ヘリウム雰囲気等を挙げることができ、場合によっては水素雰囲気とすることもできる。
【0027】
本発明の固体高分子型燃料電池用電極の製造方法では、(iii)工程で、上記炭素繊維上に金属触媒を担持する。ここで、炭素繊維に担持する金属触媒としては、貴金属が好ましく、Ptが特に好ましい。なお、本発明においては、Ptを単独で用いてもよいし、Ru等の他の金属との合金として用いてもよい。貴金属としてPtを用いることで、100℃以下の低温でも水素を高効率で酸化することができる。また、PtとRu等の合金を用いることで、COによるPtの被毒を防止して、触媒の活性低下を防止することができる。なお、炭素繊維上に担持される金属触媒の粒径は、0.5〜20 nmの範囲が好ましく、該金属触媒の担持率は、炭素繊維1 gに対して0.01〜2 gの範囲が好ましい。ここで、上記金属触媒の炭素繊維上への担持法としては、特に限定されるものではなく、例えば、含浸法、電気メッキ法(電解還元法)、無電解メッキ法、スパッタ法等が挙げられる。
【0028】
本発明の方法では、上記金属触媒の炭素繊維上への担持を、電流をパルス状に印加した電気メッキ法により行うことが好ましい。電流をパルス状に印加して金属触媒を電気メッキすることで、担持された金属触媒の表面積を向上させることができる。なお、上記電気メッキにおいて、電流密度は10〜500 mA/cm2の範囲が好ましく、通電電荷量は0.02〜5Cの範囲が好ましい。
【0029】
上述の方法で製造される本発明の固体高分子型燃料電池用電極は、導電性多孔質支持体と、該導電性多孔質支持体上に配設された炭素繊維と、該炭素繊維上に担持された金属触媒とを具え、燃料極としても、空気極(酸素極)としても使用できる。ここで、該固体高分子型燃料電池用電極においては、炭素繊維及び金属触媒が触媒層として機能し、導電性多孔質支持体が、炭素繊維及び金属触媒からなる触媒層へ水素ガス等の燃料、或いは、酸素や空気等の酸素含有ガスを供給するガス拡散層としての機能と、発生した電子の授受を行う集電体としての機能を担う。
【0030】
上記炭素繊維及び金属触媒からなる触媒層には、高分子電解質を含浸させてもよく、該高分子電解質としては、イオン伝導性のポリマーを使用することができ、該イオン伝導性のポリマーとしては、スルホン酸、カルボン酸、ホスホン酸、亜ホスホン酸等のイオン交換基を有するポリマーを挙げることができ、該ポリマーはフッ素を含んでも、含まなくてもよい。該イオン伝導性のポリマーとしては、ナフィオン(登録商標)等のパーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマー等が挙げられる。該高分子電解質の含浸量は、触媒層100質量部に対して高分子電解質10〜500質量部の範囲が好ましい。なお、触媒層の厚さは、特に限定されるものではないが、0.1〜100μmの範囲が好ましい。また、触媒層の金属触媒担持量は、前記担持率と触媒層の厚さにより定まり、好ましくは0.001〜1 mg/cm2の範囲である。
【0031】
<固体高分子型燃料電池>
次に、本発明の固体高分子型燃料電池用電極を用いた固体高分子型燃料電池を、図1を参照しながら説明する。図示例の固体高分子型燃料電池は、膜電極接合体(MEA)1とその両側に位置するセパレータ2とを備える。膜電極接合体(MEA)1は、固体高分子電解質膜3とその両側に位置する燃料極4A及び空気極(酸素極)4Bとからなり、燃料極4A及び空気極(酸素極)4Bの少なくとも一方は、本発明の固体高分子型燃料電池用電極である。燃料極4Aでは、2H2→4H++4e-で表される反応が起こり、発生したH+は固体高分子電解質膜3を経て空気極4Bに至り、また、発生したe-は外部に取り出されて電流となる。一方、空気極4Bでは、O2+4H++4e-→2H2Oで表される反応が起こり、水が発生する。燃料極4A及び空気極4Bは、触媒層(金属触媒担持炭素繊維)5及びガス拡散層(導電性多孔質支持体)6からなり、触媒層5が固体高分子電解質膜3に接触するように配置されている。
【0032】
本発明の固体高分子型燃料電池において、固体高分子電解質膜3としては、イオン伝導性のポリマーを使用することができ、該イオン伝導性のポリマーとしては、上記触媒層に含浸させることが可能な高分子電解質として例示したものを用いることができる。また、セパレータ2としては、表面に燃料、空気及び生成した水等の流路(図示せず)が形成された通常のセパレータを用いることができる。
【0033】
本発明の固体高分子型燃料電池において、触媒層5は、炭素繊維に金属触媒を担持してなり、担持された金属触媒の表面積が非常に広いため、固体高分子電解質膜3と触媒層5とガスとの三相界面での電気化学反応の反応場が非常に大きく、その結果、固体高分子型燃料電池の発電効率が大幅に改善される。また、触媒層5は、炭素繊維の疎な部分が存在するため、空気及び水分の透過性に優れる。そのため、本発明の固体高分子型燃料電池は、フラッディングが起こり難く、高電流域で運転しても、電圧の低下が小さく、高電流域から低電流域まで高い性能を発揮することができる。
【実施例】
【0034】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0035】
(実施例1)
<電解重合工程>
硫酸 1.0 mol/Lとアニリン 0.5 mol/Lとを含む水溶液中に、作用極としてカーボンペーパー[東レ社製]を設置し、SUS316L製の対極を設置し、定電流法にて作用極上にポリアニリンを作製した。なお、カーボンペーパーの大きさは、ポリアニリン生成の有効寸法が5×5 cmになるように準備し、室温において、電流密度40 mA/cm2で通電量が3.0C/cm2になるまで通電の後、電流密度を3 mA/cm2に落とし、更に通電量が0.7C/cm2になるまで重合を継続した。重合終了後、得られたポリアニリンに対し純水で充分に洗浄を繰り返した。乾燥後に質量を測定し、ポリアニリンの生成量を求めたところ、1.4 mg/cm2であった。
【0036】
<焼成工程>
得られたポリアニリンをカーボンペーパーごと電気炉にてAr減圧雰囲気下で室温から1200℃まで3時間かけて昇温し、1200℃で1時間保持して焼成処理を行った。その後、室温まで冷却し、炭素化したポリアニリン(炭素繊維)を電気炉から取り出し、質量を測定したところ、ポリアニリンの残炭率は35%であった。
【0037】
<高温処理工程>
次に、炭素化したポリアニリンをカーボンペーパーごと高温電気炉にてAr減圧雰囲気下で室温から1200℃まで1時間、1200℃から2700℃まで2時間かけて昇温し、2700℃で15分間保持して結晶化処理を行った。その後、室温まで冷却し、高温結晶化ポリアニリン炭化物(炭素繊維)を高温電気炉から取り出し、質量を測定したところ、ポリアニリンの残炭率は25%であった。
【0038】
<白金の担持工程>
塩化白金酸六水和物 10 gを純水 1000 mLに溶解させて得た水溶液に、メタノールを50 mL加えてメッキ液を調製した。該メッキ液中に、カーボンペーパーと一体化した高温結晶化ポリアニリン炭化物を作用極として設置し、白金メッキされたチタン製の対極を設置し、パルス法により、白金を炭化物上に担持させた。パルス電流は、作用極の投影面積当り100 mA/cm2、オンタイム0.003秒、オフタイム0.006秒とし、通電量は0.6C/cm2とした。白金担持終了後、得られたサンプルを純水で充分に洗浄し、乾燥後に質量を測定して白金担持量を求めたところ、0.25 mg/cm2であった。
【0039】
<MEAの作製>
上記のようにして得た白金担持ポリアニリン炭化物/カーボンペーパーを5×5 cm角に切り出したものを2枚用意し、各々の白金担持ポリアニリン炭化物が配設された側にナフィオン(登録商標)溶液[ナフィオン:水:イソプロピルアルコール=5:47.5:47.5(質量比)]を刷毛にて、乾燥後のナフィオン質量が0.3 mg/cm2になるように塗布した。得られたナフィオン塗布白金担持ポリアニリン炭化物/カーボンペーパー2枚で、ナフィオン112膜を挟み、熱プレスにより圧着して、膜電極接合体(MEA)を得た。
【0040】
<燃料電池の性能評価>
得られた膜電極接合体と、グラファイト製のバイポーラプレート、シリコーン製ガスケット、及び金メッキ銅板の集電体を使用して燃料電池を組み立て、アノードに水素、カソードに空気を流して充分に慣らし運転した後の性能を記録した。なお、セル温度は80℃、アノード加湿温度は80℃、カソード加湿温度は70℃、水素流量は0.3 L/分、空気流量は2.0 L/分とした。結果を表1に示す。
【0041】
(比較例1)
電解酸化重合における電流密度を40 mA/cm2に固定し、通電量が3.7C/cm2になるまで通電する以外は、実施例1と同様にしてポリアニリンを作製した。次に、得られたポリアニリンを用いて、実施例1と同様に炭素繊維を作製し、更に白金を担持し、MEAを作製した後、燃料電池を組み立て、発電性能を評価した。結果を表1に示す。
【0042】
(比較例2)
電解酸化重合における電流密度を3 mA/cm2に固定し、通電量が3.7C/cm2になるまで通電する以外は、実施例1と同様にしてポリアニリンを作製した。次に、得られたポリアニリンを用いて、実施例1と同様に炭素繊維を作製し、更に白金を担持し、MEAを作製した後、燃料電池を組み立て、発電性能を評価した。結果を表1に示す。
【0043】
【表1】

【0044】
表1から、異なる重合条件で電解酸化重合を複数回に分けて行って作製したポリアニリンを用いた実施例1は、重合条件を固定して電解酸化重合を行って作製したポリアニリンを用いた比較例1及び2よりも、低電流域から高電流域に渡って、発電性能が高いことが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の固体高分子型燃料電池の一例の断面図である。
【符号の説明】
【0046】
1 膜電極接合体(MEA)
2 セパレータ
3 固体高分子電解質膜
4A 燃料極
4B 空気極(酸素極)
5 触媒層(金属触媒担持炭素繊維)
6 ガス拡散層(導電性多孔質支持体)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性多孔質支持体と、該導電性多孔質支持体上に配設された炭素繊維と、該炭素繊維上に担持された金属触媒とを具える固体高分子型燃料電池用電極の製造方法であって、
(i)導電性多孔質支持体上において、芳香環を有する化合物を電解酸化重合してフィブリル状ポリマーを生成させる工程と、
(ii)該フィブリル状ポリマーを焼成して導電性多孔質支持体上に炭素繊維を生成させる工程と、
(iii)該炭素繊維上に金属触媒を担持する工程と
を含み、
前記電解酸化重合工程(i)を複数回行い、その少なくとも1回の電解酸化重合工程(i)の重合条件が他の電解酸化重合工程(i)の重合条件と異なる
ことを特徴とする固体高分子型燃料電池用電極の製造方法。
【請求項2】
前記電解酸化重合工程(i)が、前記導電性多孔質支持体の投影面積に対して電流密度が15〜60 mA/cm2で通電量が2〜5C/cm2の重合条件で電解酸化重合を行う工程(i-1)と、前記導電性多孔質支持体の投影面積に対して電流密度が1.5〜5 mA/cm2で通電量が0.2〜1C/cm2の重合条件で電解酸化重合を行う工程(i-2)とからなることを特徴とする請求項1に記載の固体高分子型燃料電池用電極の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の方法で製造された固体高分子型燃料電池用電極。
【請求項4】
請求項3に記載の固体高分子型燃料電池用電極を備えた固体高分子型燃料電池。

【図1】
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【公開番号】特開2009−187792(P2009−187792A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−26562(P2008−26562)
【出願日】平成20年2月6日(2008.2.6)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】