説明

固体高分子形燃料電池システム

【課題】一酸化炭素を含む改質水素を用いても出力低下が少なく、燃料効率が高い固体高分子形燃料電池を提供する。
【解決手段】固体高分子電解質膜10を挟んで配置されたアノード20とカソード30を備えた固体高分子形燃料電池5のアノード20に対し、制御装置60の信号により、改質水素バルブ40と酸素バルブ50を開閉させることにより改質水素と酸素とを供給する。このとき、改質水素バルブ40を介して時間T1の間改質水素を供給した後、改質水素の供給を停止し、その後酸素バルブ50を介して時間T2の間酸素をアノード20に供給した後、酸素の供給を停止する制御操作を繰り返す。このようにして、時間T1の間発電させた後、時間T2の間でアノード20の被毒を解消する。また、改質酸素の供給が停止した後に酸素が供給されるので、改質水素と酸素とが反応してH2Oとならないので、燃料効率が向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子形燃料電池において、アノードに用いられている触媒の一酸化炭素被毒による出力低下を少なくする技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、固体高分子形燃料電池は、燃料として純水素を、酸化剤として純水素(或いは大気中の酸素)を用いている。そして、燃料の純水素をアノードに供給し、酸化剤の純酸素をカソードに供給することで発電を行っている。このとき、燃料として純水素の代わりに安価な改質水素を用いることができれば、低コスト運転ができ、実用化に近づくと考えられている。
【0003】
ところが、改質水素は、不純物として一酸化炭素を数十%含んであり、これを燃料に用いると、アノードに用いられている白金などの触媒が一酸化炭素と結合する(これを、被毒と称している)ことにより、燃料電池の出力の低下を招くという問題がある。
【0004】
ところが、被毒したアノードに酸素を印加すると、アノードの触媒に結合している一酸化炭素が酸素と反応して結合し、アノードから一酸化炭素を分離することができる。つまり、アノードに酸素を供給することによって、アノードの被毒を解消することができる。そこで、アノードに改質水素を供給するとともに、酸素を供給することによってアノードの被毒を解消する技術がある(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−218173号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、上記のように、アノードに改質水素を供給するとともに、酸素を供給すると、改質水素の水素成分(H2)と酸素(O2)とが反応してH2Oとなってしまう。つまり、供給した改質水素の一部が損失となってしまうので、燃料効率が低下するという問題がある。
【0007】
本発明は、こうした問題に鑑みなされたもので、一酸化炭素を含む改質水素を用いても出力低下が少なく、燃料効率が高い固体高分子形燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる問題を解決するためになされた請求項1に記載の固体高分子形燃料電池システム(1:この欄においては、発明に対する理解を容易にするため、必要に応じて「発明を実施するための形態」欄において用いた符号を付すが、この符号によって請求の範囲を限定することを意味するものではない。)は、固体高分子形燃料電池(5)、改質水素供給手段(40)、酸素供給手段(50)及び制御手段(60)を備えている。
【0009】
固体高分子形燃料電池(5)は、固体高分子電解質膜(10)、固体高分子電解質膜(10)の一方の面に設けられたアノード(20)及び固体高分子電解質膜(10)の他方の面に設けられたカソード(30)を備えている。
【0010】
また、改質水素供給手段(40)は、アノード(20)に改質水素を供給し、酸素供給手段(50)は、アノード(20)に酸素を供給する。
制御手段(60)は、改質水素供給手段(40)により時間T1の間改質水素をアノード(20)に供給した後、改質水素の供給を停止し、その後酸素供給手段(50)から時間T2の間酸素をアノード(20)に供給した後、酸素の供給を停止する制御操作を繰り返す。
【0011】
このような、固体高分子形燃料電池システム(1)では、アノード(20)に対し、時間T1の間改質水素が供給された後、改質水素の供給が停止され、その後時間T2の間酸素が供給されるという制御操作が繰り返される。つまり、アノード(20)には改質水素と酸素とが交互に供給されることになる。
【0012】
すると、時間T1の間に供給される改質水素中の一酸化炭素と結合することにより発生するアノード(20)の被毒が、時間T2の間供給される酸素により、アノード(20)に結合していた一酸化炭素が分離することにより解消される。
【0013】
つまり、改質水素によるアノード(20)の被毒により劣化した固体高分子形燃料電池(5)の出力がアノード(20)への酸素供給により回復する。したがって、改質水素と酸素の供給をそれぞれ時間T1とT2で繰り返すことにより、固体高分子形燃料電池(5)の出力低下を少なくすることができる。
【0014】
さらに、改質酸素の供給が停止した後に酸素が供給されるので、燃料としての改質水素と酸素とが反応してH2Oとなってしまうことによる燃料損失がなくなる。したがって、燃料効率が向上する。
【0015】
ここで、アノード(20)が一酸化炭素と反応して被毒する時間T1に対し、被毒したアノード(20)に酸素を供給することによりアノード(20)から一酸化炭素を分離することにより被毒を解消する時間T2は短いという特性がある。
【0016】
そこで、請求項2に記載のように、制御手段(60)は、アノード(20)に酸素を供給する時間T2がアノード(20)に改質水素を供給する時間T1よりも小さくなるようにするとよい。
【0017】
このようにすると、酸素供給時間T2に対し改質水素供給時間T1が大きくなるので、固体高分子形燃料電池(5)の発電時間を長くでき、かつ、アノード(20)の被毒を短い時間で解消することができる。したがって、固体高分子形燃料電池システム(1)の発電効率を向上させることができる。
【0018】
また、アノード(20)に改質水素を供給した後に改質水素を停止し、アノード(20)の被毒を解消するためにアノード(20)に酸素を供給しているが、改質水素の供給停止後、可能な限り速やかに酸素の供給を開始する方が被毒を早く解消することができる。
【0019】
そこで、請求項3に記載のように、酸素供給手段(50)を、アノード(20)に供給する酸素を、その圧力が方形パルス状となるように供給可能に構成し、制御手段(60)は、酸素供給手段(50)で時間T2の間供給する酸素を、その圧力が方形パルス状となるように供給させるようにすると、酸素の供給圧力が方形パルス状となるように供給できる。つまり、酸素の供給の立ち上がり時間が短くなるので、改質水素の供給停止後、酸素が速やかに供給されるので、アノード(20)の被毒解消時間T2を短くすることができる。
【0020】
そして、アノード(20)の被毒解消時間T2を短くすることができるので、ひいては、固体高分子形燃料電池(5)の出力効率を向上させることができる。
ところで、固体高分子形燃料電池(5)のアノード(20)に対して、改質水素の供給を停止すると、発電のための反応をすることができないので、固体高分子形燃料電池(5)の出力は低下する。したがって、アノード(20)に対する改質水素及び酸素の供給と停止を繰り返して行うと、固体高分子形燃料電池(5)の出力の低下と上昇が繰り返され、固体高分子形燃料電池(5)の出力が周期的に変化してしまう。
【0021】
そこで、請求項4に記載の固体高分子形燃料電池システム(2)のように、固体高分子電解質膜(10)、固体高分子電解質膜(10)の一方の面に設けられたアノード(20)及び固体高分子電解質膜(10)の他方の面に設けられたカソード(30)を備えた複数の固体高分子形燃料電池(5)を電気的に並列接続し、複数の固体高分子形燃料電池(5)のアノード(20)に改質水素を供給する改質水素供給手段(40)と、複数の固体高分子形燃料電池(5)のアノード(20)に酸素を供給する酸素供給手段(50)と、を設ける。
【0022】
そして、制御手段(60)で、複数の固体高分子形燃料電池(5)の1つに、改質水素供給手段(40)により時間T1の間改質水素をアノード(20)に供給した後、改質水素の供給を停止し、その後酸素供給手段(50)から時間T2の間酸素をアノード(20)に供給した後、酸素の供給を停止することを繰り返す制御操作を行い、残りの固体高分子形燃料電池(5)には、制御操作の開始時間を順次所定の時間T3遅らせて、制御操作を行うようにするとよい。
【0023】
換言すれば、複数の固体高分子形燃料電池(5)を電気的に並列接続し、改質水素及び酸素の供給と停止の繰り返しを固体高分子形燃料電池(5)毎に位相差T3を付けて行うのである。
【0024】
このようにすると、各固体高分子形燃料電池(5)に対しては、時間T1の間改質水素が供給された後に改質水素の供給が停止され、その後T2の間酸素が供給されるので、前述のように、各固体高分子形燃料電池(5)のアノード(20)の被毒は解消される。
【0025】
また、各固体高分子形燃料電池(5)の出力はT1周期毎に低下するが、電気的に並列接続された各固体高分子形燃料電池(5)への改質水素と酸素の供給と停止を行う制御操作が順次所定の時間T3遅れて開始される。
【0026】
したがって、時間T1に比べ時間T3を短くしてやれば、1つの固体高分子形燃料電池(5)がアノード(20)の被毒を解消している間T2に他の固体高分子形燃料電池(5)が発電するので、固体高分子形燃料電池システム(2)全体としては出力変化が少なくなる。したがって、安定した電圧出力を得ることができる。
【0027】
さらに、各固体高分子形燃料電池(5)においては、改質酸素の供給が停止した後に酸素が供給されるので、燃料としての改質水素と酸素とが反応してH2Oとなってしまうことによる燃料損失がなくなる。したがって、燃料効率が向上する。
【0028】
また、請求項4に記載のように、制御手段(60)は、アノード(20)に酸素を供給する時間T2がアノード(20)に改質水素を供給する時間T1よりも小さくなるようにすると、前述の固体高分子形燃料電池(5)と同様に、酸素供給時間T2に対し改質水素供給時間T1が大きくなるので、固体高分子形燃料電池システム(2)の発電時間を長くでき、かつ、アノード(20)の被毒を短い時間で解消することができる。したがって、固体高分子形燃料電池(2)の発電効率を向上させることができる。
【0029】
さらに、請求項5に記載のように、酸素供給手段(50)を、アノード(20)に供給する酸素を、その圧力が方形パルス状となるように供給可能に構成し、制御手段(60)は、酸素供給手段(50)で時間T2の間供給する酸素を、その圧力が方形パルス状となるように供給させるようにすると、前述の固体高分子形燃料電池(5)と同様に、酸素の供給の立ち上がり時間が短くなるので、改質水素の供給停止後、酸素が速やかに供給される。したがってアノード(20)の被毒解消時間T2を短くすることができ、ひいては、固体高分子形燃料電池システム(2)の出力効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】第1実施形態における固体高分子形燃料電池システム1の概略の回路構成を示すブロック図である。
【図2】第1実施形態における燃料電池システム1の出力電圧の時間変化を示す図である。
【図3】第1実施形態における燃料電池システム1と性能比較をするための、従来の燃料電池の出力電圧の時間変化を示す図である。
【図4】第2実施形態における固体高分子形燃料電池システム2の概略の構成を示すブロック図である。
【図5】第2実施形態における燃料電池システム2の出力電圧の時間変化を示す図である。
【図6】第3実施形態における燃料電池システム3の概略の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明が適用された実施形態について図面を用いて説明する。なお、本発明の実施の形態は、下記の実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の形態を採りうる。
[第1実施形態]
図1は、本発明が適用された固体高分子形燃料電池システム1(以下、燃料電池システム1とも呼ぶ)の概略の回路構成を示すブロック図である。燃料電池システム1は、図1に示すように、固体高分子形燃料電池5(以下、燃料電池5とも呼ぶ)と、改質水素バルブ40、酸素バルブ50及び制御装置60を備えている。
【0032】
燃料電池5は、固体高分子電解質膜10、アノード20、カソード30を備えている。
固体高分子電解質膜10は、イオン伝導性を有する高分子膜(イオン交換膜)であり、アノード20で生成したプロトンをカソード30へと移動する働きを持つ。高分子膜の材料としては、主に、スルホン酸基を持ったフッ素系ポリマーが用いられることが多い。
【0033】
アノード20は、カーボンブラック担持体24上に白金あるいはルテニウム−白金合金の触媒層22を担持した構造となっており、固体高分子電解質膜10の一方の面(図1中左側の面)に設けられている。また、カーボンブラック担持体24には、発電した電気を出力するための電極である集電電極26が設けられている。
【0034】
アノード20には、改質水素が供給され、H2→2H++2e-の反応によって、改質水素をプロトン(水素イオン、H+)と電子に分解する。この後、プロトンは、固体高分子電解質膜10内を、電子は集電電極26に接続される図示しない導線を通って、カソード30へと移動する。
【0035】
カソード30は、カーボンブラック担持体34上に白金の触媒層32を担持した構造となっており、固体高分子電解質膜10の他方の面(図1中右側の面)に設けられている。また、カーボンブラック担持体34には、発電した電気を出力するための電極である集電電極36が設けられている。
【0036】
カソード30は、固体高分子電解質膜10から来たプロトンと、集電電極26に接続されている図示しない導線を通って集電電極36から入力される電子が空気中の酸素と反応して、4H++O2+4e-→2H2Oの反応により水を生成する。
【0037】
改質水素バルブ40は、図示しない外部の改質器や改質水素タンクなどから改質水素をアノード20に供給するバルブであり、図示しないブランジャ、ソレノイドコイル及びバネを備えており、ソレノイドに流す電流をオン(バルブが開状態になる)、オフ(バルブが閉状態になる)することによりバルブが開閉するようになっている。したがって、制御装置60からの開閉信号により開閉されて、外部から供給される改質水素のアノード20に対する供給及び停止を行う。
【0038】
酸素バルブ50は、図示しない外部の酸素タンクや大気からアノード20に酸素(又は空気)を供給するバルブであり、改質水素バルブ40と同様に、図示しないブランジャ、ソレノイドコイル及びバネを備えており、ソレノイドに流す電流をオン(バルブが開状態になる)、オフ(バルブが閉状態になる)することによりバルブが開閉するようになっている。したがって、制御装置60からの開閉信号により開閉されて、酸素タンク80に貯蔵されている酸素のアノード20に対する供給及び停止を行う。
【0039】
酸素バルブ50は、特に、軽量プランジャをソレノイドで移動させることにより、弁の開閉を高速に行うことができる構造となっており、制御装置60からの指令により、アノード20に供給する酸素を、その圧力が方形パルス状となるように供給可能な構造となっている。
【0040】
制御装置60は、図示しないCPU、ROM、RAM及びI/Oを備えており、ROMに内蔵されたプログラムにより、以下の(ア)〜(オ)に示す制御処理を実行する。
(ア)改質水素バルブ40を開にし、改質水素をアノード20に供給する。このとき酸素バルブ50は閉とし、アノード20に酸素が供給されないようにする。
【0041】
(イ)時間がT1経過した後、改質水素バルブ40を閉にし、アノード20への改質水素の供給を停止する。
(ウ)その後、酸素バルブ50を開にし、改質水素をアノード20に供給する。このとき、酸素バルブ50で時間T2の間供給する酸素を、その圧力が方形パルス状となるように供給させる。
【0042】
(エ)時間がT2経過した後、酸素バルブ50を閉にし、アノード20への酸素の供給を停止する。
(オ)(ア)〜(エ)の処理を繰り返す。
【0043】
制御装置60のこの制御処理において、アノード20に酸素を供給する時間T2をアノード20に改質水素を供給する時間T1よりも小さくする。時間T1及びT2の具体的な値は後述する。
【0044】
(燃料電池システム1の作動実験結果)
次に、図2に基づき、燃料電池システム1の作動実験の結果について説明する。図2は、燃料電池システム1において、改質水素供給時間T1を5分、酸素供給時間T2を5秒とした場合の燃料電池システム1の出力電圧の時間変化を示す図である。
【0045】
改質水素の実験モデル気体(モデル改質水素)として一酸化炭素を1.02mol%含有する水素を準備し、このモデル改質水素を燃料電池5のアノード20に、6mL・min-1の流量で供給した。
【0046】
そして、5分(T1)毎に5秒間(T2)だけ、アノード20に10mL・min-1の流量で酸素をパルス状に供給することで、白金触媒に被毒した一酸化炭素を除することを試みた。
【0047】
この操作を繰り返し行ったときの出力電圧の時間変化は、図2に示すように、モデル改質水素供給直後は出力電圧が最高値に達するが、5分以内に徐々に低下した。5秒間の酸素供給時間T2において、アノード20におけるプロトン生成反応(H2→2H++2e-)は停止し、燃料電池として発電しなくなったが、酸素供給を止めてモデル改質水素の供給を再開すると、白金触媒の一酸化炭素被毒が改善され、出力電圧が最高値に回復した。
【0048】
この操作を複数回(この実験では16回)繰り返し行っても出力電圧の最高値が減少しないことを確認した。
(比較実験結果)
次に、燃料電池システム1の効果を確認するための比較実験結果について、図3に基づき説明する。本比較実験では、前述の燃料電池システム1の作動実験と同様に、一酸化炭素を1.02mol%含有するモデル改質水素を固体高分子形燃料電池に6mL・min-1の流量で供給した。
【0049】
このときの燃料電池システム1の出力電圧の時間変化は、図3に示すように、モデル改質水素供給直後に最大電圧に達した後、白金触媒の一酸化炭素被毒により徐々に減少した。
【0050】
(固体高分子形燃料電池システム1の特徴)
以上に説明した固体高分子形燃料電池システム1は、アノード20に対し、時間T1の間改質水素が供給された後、改質水素の供給が停止され、その後時間T2の間酸素が供給されるという制御操作が繰り返される。つまり、アノード20には改質水素と酸素とが交互に供給される。
【0051】
すると、時間T1の間に供給される改質水素中の一酸化炭素と結合することにより発生するアノード20の被毒が、時間T2の間供給される酸素により、アノード20に結合していた一酸化炭素が分離することにより解消される。つまり、改質水素によるアノード20の被毒により劣化した固体高分子形燃料電池5の出力がアノード20への酸素供給により回復する。
【0052】
したがって、改質水素と酸素の供給をそれぞれ時間T1とT2で繰り返すことにより、固体高分子形燃料電池5の出力低下を少なくすることができる。さらに、改質酸素の供給が停止した後に酸素が供給されるので、燃料としての改質水素と酸素とが反応してH2Oとなってしまうことによる燃料損失がなくなる。したがって、燃料効率が向上する。
【0053】
また、アノード20が一酸化炭素と反応して被毒する時間に対し、被毒したアノード20に酸素を供給することによりアノード20から一酸化炭素を分離する時間は短いという特性がある。
【0054】
その特性を利用して、酸素供給時間T2に対し改質水素供給時間T1を大きくしているので、固体高分子形燃料電池システム1の発電時間を長くでき、かつ、アノード20の被毒を短い時間で解消することができる。したがって、発電効率を向上させることができる。
【0055】
さらに、酸素バルブ50を、アノード20に供給する酸素を、その圧力が方形パルス状となるように供給可能にし、制御装置60は、酸素バルブ50で時間T2の間供給する酸素を、その圧力が方形パルス状となるように供給させているので、酸素の供給の立ち上がり時間が短くなる。
【0056】
つまり、改質水素の供給停止後、酸素が速やかに供給されるので、アノード20の被毒解消時間T2を短くすることができる。そして、アノード20の被毒解消時間T2を短くすることができるので、ひいては、固体高分子形燃料電池システム1の出力効率を向上させることができる。
[第2実施形態]
次に、第1実施形態の固体高分子形燃料電池5を2個並列した固体高分子形燃料電池システム2(以下、燃料電池システム2とも呼ぶ)について説明する。図4は、燃料電池システム2の概略の構成を示すブロック図である。なお、燃料電池システム2を構成する燃料電池5、改質水素バルブ40、酸素バルブ50は、第1実施形態燃料の燃料電池システム1と同じであるため、その説明は省略する。
【0057】
燃料電池システム2は、図4に示すように、2個の燃料電池5が電気的に並列接続されている。また、各燃料電池5に対しては、第1実施形態の燃料電池システム1と同様に、アノード20に対して改質水素の供給及び停止を行う改質水素バルブ40と、アノード20に対して酸素の供給及び停止を行う酸素バルブ50が配管を介して接続されている。
【0058】
また、改質水素バルブ40は、改質水素が貯蔵された改質水素タンク70に配管で接続されており、制御装置60からの信号により開閉されて、改質水素タンク70に貯蔵されている改質水素のアノード20に対する供給及び停止を行う。
【0059】
さらに、酸素バルブ50は、酸素が貯蔵された酸素タンク80に配管で接続されており、制御装置60からの信号により開閉されて、酸素タンク80に貯蔵されている酸素のアノード20に対する供給及び停止を行う。
【0060】
さらに、酸素バルブ50は、図示しない軽量プランジャを電磁弁で移動させることにより、弁の開閉を高速に行うことができる構造となっており、制御装置60からの指令により、アノード20に供給する酸素を、その圧力が方形パルス状となるように供給可能な構造となっている。
【0061】
制御装置60は、各燃料電池5に対して、第1実施形態の固体高分子形燃料電池システム1と同様に、改質水素バルブ40により時間T1の間改質水素をアノード20に供給した後、改質水素の供給を停止し、その後酸素バルブ50から時間T2の間酸素をアノード20に供給した後、酸素の供給を停止する制御操作を繰り返す。
【0062】
ここで、一方の燃料電池5(PEFC−2)の時間T1の開始時刻、つまり、改質水素の供給開始時間を、他方の燃料電池5(PEFC−1)に対して所定の時間T3(本第2実施形態では150秒)遅延させて、各燃料電池5の制御操作を繰り返す。
【0063】
(燃料電池システム2の作動実験結果)
次に、図5に基づき、燃料電池システム2の作動実験の結果について説明する。図5は、燃料電池システム2において、改質水素供給時間T1を5分、酸素供給時間T2を10秒とした場合の燃料電池システム2の出力電圧の時間変化を示す図である。
【0064】
改質水素の実験モデル気体(モデル改質水素)として一酸化炭素を1.02mol%含有する水素を準備し、以下の(カ)〜(コ)に示す作動実験を行った。
(カ)2個の燃料電池5(PEFC−1、PEFC−2)にそれぞれモデル改質水素を6mL・min-1の流量で供給する
(キ)5分後(T1)に一方の燃料電池(PEFC−1)へのモデル改質水素の供給を止め、当該燃料電池5(PEFC−1)に酸素を10mL・min-1の流量で10秒間(T2)パルス状に供給する。
【0065】
(ク)150秒後(T3)に他方の燃料電池5(PEFC−2)へのモデル改質水素の供給を止め、当該燃料電池5(PEFC−2)に酸素を10mL・min-1の流量で10秒間パルス状に供給する。
【0066】
(ケ)150秒後(T3)に、一方の燃料電池5(PEFC−1)へのモデル改質水素の供給を止め、当該燃料電池5(PEFC−1)に酸素を10mL・min-1の流量で10(T2)秒間パルス状に供給する。
【0067】
(コ)以降、(ク)と(ケ)に記載の操作を交互に繰り返し実行する。
この操作を行ったときの燃料電池システム2の出力電圧の時間変化を図5に示す。この実験において、酸素供給時に出力電圧は下がるものの、零にはならないことがわかった。これは、燃料電池5を並列に接続したために、一方の燃料電池5のアノード20の被毒を解消している間(T2)に他方の燃料電池5によって発電しているためである。また、長時間運転(この本作動実験では80分)を行った際、各酸素パルス供給直後の最大システム電圧の低下はみられなかった。
【0068】
以上に説明した固体高分子形燃料電池システム2は、第1実施形態における固体高分子形燃料電池システム1が有する特徴に加え、安定した電圧出力が得られる。
つまり、並列に接続した1つ1つの固体高分子形燃料電池5の出力はT1周期毎に低下するが、複数の固体高分子形燃料電池5が並列に接続され、各固体高分子形燃料電池5への改質水素と酸素の供給と停止を行う制御操作が順次所定の時間T3遅れて開始されている。
【0069】
このとき、時間T1に比べ時間T3が短いので、1つの燃料電池5がアノード20の被毒を解消している間(T2)に他の燃料電池5が発電するので、固体高分子形燃料電池システム2全体としては出力変化が少なくなる。したがって、安定した電圧出力を得ることができる。
[第3実施形態]
次に、第1実施形態の固体高分子形燃料電池5をn個並列した固体高分子形燃料電池システム3(以下、燃料電池システム3とも呼ぶ)について説明する。図6は、燃料電池システム3の概略の構成を示すブロック図である。なお、燃料電池システム2を構成する燃料電池5、改質水素バルブ40、酸素バルブ50は、第1実施形態燃料の燃料電池システム1と同じであるため、その説明は省略する。
【0070】
第3実施形態における燃料電池システム3では、第2実施形態において2個並列接続した燃料電池5を、図6に示すように、n個並列接続する。そして、制御装置60において、各燃料電池5に対する改質水素バルブ40を時間間隔T1で開閉し、酸素バルブ50を開閉時間間隔T2で開閉するという制御操作を、所定の時間T3遅延させる。
【0071】
その際遅延時間T3を第2実施形態における遅延時間T3よりも小さくすれば、1つの燃料電池5がアノードの被毒を解消している間(T2)に他の燃料電池5が発電するという状態が、並列接続した複数の燃料電池5において順次実現されるので、固体高分子形燃料電池システム3全体としては出力変化が少なくなる。したがって、第2実施形態における燃料電池システム2よりもさらに安定した電圧出力を得ることができる。
【0072】
また、各燃料電池5の出力を、インバータ制御や3端子レギュレータ回路などの既存の直流電圧安定化装置90に入力することにより、出力電圧を平滑化することができる。したがって、電圧変化を抑制することができる。
【0073】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、本実施形態に限定されるものではなく、以下に示すような種々の態様を採ることができる。
(1)上記実施形態では、燃料電池5を、固体高分子電解質膜10、アノード20及びカソード30をそれぞれ1個ずつ用いて構成している、いわゆる燃料電池セルとしているが、この燃料電池セルを複数個直列に積層して構成した燃料電池スタックとしてもよい。
【0074】
(2)上記実施形態では、CPUなどで構成される制御装置60を用いて改質水素バルブ40や酸素バルブ50の開閉制御を行ったが、市販のシーケンサを用いてもよい。
(3)上記実施形態では、各燃料電池5に改質水素バルブ40や酸素バルブ50を設けたが、改質水素バルブ40や酸素バルブ50として、1入力に対し多出力を順次切り換えることができる構成のバルブを用いるようにしてもよい。
【0075】
この場合、バルブに対する入力を改質水素タンク70や酸素タンク80とし、バルブの出力を各燃料電池5のアノード20とする。そして、制御装置60からバルブの切り換え先(改質水素や酸素の供給先)と切り換えタイミング(T1,T2,T3)を制御するのである。このようにしても、上記実施形態と同様の効果が得られる。
【0076】
(4)上記実施形態では、改質水素や酸素の供給源として改質水素タンク70や酸素タンク80を用いたが、改質水素は、都市ガスなどの燃料を改質水素に改質する改質器を用いてもよいし、酸素の代わりに、空気を供給するようにしてもよい。
【0077】
(5)上記実施形態では、各時間T1,T2,T3を一定の時間としたが、それらの時間を、作動温度、出力電圧の変化などに基づいて、可変になるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0078】
1,2,3…固体高分子形燃料電池システム(燃料電池システム)、5…固体高分子形燃料電池(燃料電池)、10…固体高分子電解質膜、20…アノード、22,32…触媒層、24,34…カーボンブラック担持体、26,36…集電電極、30…カソード、40…改質水素バルブ、50…酸素バルブ、60…制御装置、70…改質水素タンク、80…酸素タンク、90…直流電圧安定化装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体高分子電解質膜、前記固体高分子電解質膜の一方の面に設けられたアノード及び前記固体高分子電解質膜の他方の面に設けられたカソードを備えた固体高分子形燃料電池と、
前記アノードに改質水素を供給する改質水素供給手段と、
前記アノードに酸素を供給する酸素供給手段と、
前記改質水素供給手段により時間T1の間改質水素を前記アノードに供給した後、改質水素の供給を停止し、その後前記酸素供給手段から時間T2の間酸素を前記アノードに供給した後、酸素の供給を停止する制御操作を繰り返す制御手段と、
を備えたことを特徴とする固体高分子形燃料電池システム。
【請求項2】
請求項1に記載の固体高分子形燃料電池システムにおいて、
前記制御手段は、
前記アノードに酸素を供給する時間T2を前記アノードに改質水素を供給する時間T1よりも小さくすること特徴とする固体高分子形燃料電池システム。
【請求項3】
請求項2に記載の固体高分子形燃料電池システムにおいて、
前記酸素供給手段は、
前記アノードに供給する酸素を、その圧力が方形パルス状となるように供給可能に構成されており、
前記制御手段は、
前記酸素供給手段で時間T2の間供給する酸素を、その圧力が方形パルス状となるように供給させることを特徴とする固体高分子形燃料電池システム。
【請求項4】
固体高分子電解質膜、前記固体高分子電解質膜の一方の面に設けられたアノード及び前記固体高分子電解質膜の他方の面に設けられたカソードを備えた複数の固体高分子形燃料電池を電気的に並列接続し、
前記複数の固体高分子形燃料電池のアノードに改質水素を供給する改質水素供給手段と、
前記複数の固体高分子形燃料電池のアノードに酸素を供給する酸素供給手段と、
前記複数の固体高分子形燃料電池の1つに、前記改質水素供給手段により時間T1の間改質水素を前記アノードに供給した後、改質水素の供給を停止し、その後前記酸素供給手段から時間T2の間酸素を前記アノードに供給した後、酸素の供給を停止することを繰り返す制御操作を行い、
残りの固体高分子形燃料電池には、前記制御操作の開始を順次所定の時間T3遅らせて前記制御操作を行う制御手段と、
を備えたことを特徴とする固体高分子形燃料電池システム。
【請求項5】
請求項4に記載の固体高分子形燃料電池システムにおいて、
前記制御手段は、
前記アノードに酸素を供給する時間T2を前記アノードに改質水素を供給する時間T1よりも小さくすること特徴とする固体高分子形燃料電池システム。
【請求項6】
請求項5に記載の固体高分子形燃料電池システムにおいて、
前記酸素供給手段は、
前記アノードに供給する酸素を、その圧力が方形パルス状となるように供給可能に構成されており、
前記制御手段は、
前記酸素供給手段で時間T2の間供給する酸素を、その圧力が方形パルス状となるように供給させることを特徴とする固体高分子形燃料電池システム。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図1】
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【公開番号】特開2010−257782(P2010−257782A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−106939(P2009−106939)
【出願日】平成21年4月24日(2009.4.24)
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
【Fターム(参考)】