固体高分子形燃料電池用ガス拡散層要素、固体高分子形燃料電池およびその製造方法
【課題】固体高分子形燃料電池用ガス拡散層要素を改良すること。
【解決手段】シート状多孔質基材と、該多孔質基材の周縁部の細孔内に含浸された封止用樹脂とを含む固体高分子形燃料電池用ガス拡散層要素であって、該封止用樹脂の含浸を、該周縁部に積層配置されたフィルム状封止用樹脂にレーザー光を照射して該フィルム状封止用樹脂を溶融させることにより行ったことを特徴とする固体高分子形燃料電池用ガス拡散層要素。
【解決手段】シート状多孔質基材と、該多孔質基材の周縁部の細孔内に含浸された封止用樹脂とを含む固体高分子形燃料電池用ガス拡散層要素であって、該封止用樹脂の含浸を、該周縁部に積層配置されたフィルム状封止用樹脂にレーザー光を照射して該フィルム状封止用樹脂を溶融させることにより行ったことを特徴とする固体高分子形燃料電池用ガス拡散層要素。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子形燃料電池に関し、特にそのガスシール性を向上させることに関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子形燃料電池は、高分子電解質膜の片方を燃料ガス(水素など)に、他方を酸化剤ガス(空気など)に暴露し、高分子電解質膜を介した化学反応により水を合成し、これによって生じる反応エネルギーを電気的に取り出すことを基本原理としている。従来の燃料電池の構造を示した模式図を図1に、またその断面を図2に示す。
【0003】
図1および図2において、セパレータ13に形成したガス流路より導入した反応ガスは、高分子電解質膜11を介して多孔質触媒電極12において電気化学反応を起こし、ここで生じた電力はセパレータ13を通して外部に回収される。この構成で明らかなように、高分子電解質膜11と多孔質触媒電極12とは物理的に接合する必要がある。高分子電解質膜11の両面に多孔質触媒電極12を置き、これを熱プレス等で一体形成するのが一般的である。このようにして作成したものを、膜電極接合体(MEA)14と呼び、独立して扱うことが出来る。パッキン15は、膜電極接合体14とセパレータ13との間に配置し、導入ガスの外部への漏洩を防止する。
【0004】
高分子電解質膜は、イオン伝導性は有するが、通気性と電子伝導性とは有せず、燃料極と酸素極とを物理的かつ電子的に隔絶する働きを持つ。ところが、高分子電解質膜の大きさが多孔質触媒電極より小さい場合には、多孔質触媒電極どうしが電気的に短絡し、また酸化剤ガスと燃料ガスとが混合し、電池としての機能を失う。このため、高分子電解質膜の面方向の大きさは、必ず多孔質触媒電極と同じか、より大きくとる必要がある。
【0005】
現在使用されている高分子電解質膜は非常に薄く、構造支持材としての物理的強度を有していない。このため、多孔質電極からはみ出した高分子電解質膜部分をパッキンとセパレータとで挟持する支持構造を取ることは困難である。そこで、図2(A)に示すように、多孔質触媒電極12の大きさを、セパレータ13の内室より大きく外寸よりは小さく取り、多孔質触媒電極自体を多孔質触媒電極の支持体とする方法が考えられる。しかしながら、多孔質触媒電極は良好な通気性を持つために、上記の構成では反応ガスが多孔質触媒電極の端部よりセパレータの外に漏洩する。そこで、図2(B)に示したように、多孔質触媒電極に、熱硬化性樹脂材料を含浸したのち、これを熱硬化した樹脂封止部21を設け、これによりガス封止構造を形成する方法が検討されている(特許文献1)。
【0006】
【特許文献1】特開2001−118592号公報
【特許文献2】特開平11−45729号公報
【特許文献3】特開平5−21077号公報
【特許文献4】特開2005−166597号公報
【特許文献5】特開2004−139828号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のガス封止構造には以下の問題が考えられる。樹脂材料を溶媒に溶かし、これを多孔質電極に含浸して樹脂封止部を形成するためには、樹脂溶液の粘度を十分に低くする必要がある。含浸直後は多孔質電極内の細孔が樹脂溶液によって充填されるが、硬化時に溶媒が揮発し、硬化後は封止部分の内側に隙間が生じてしまう。これに加え、通常、樹脂材料は硬化反応において体積収縮を起こす。この体積収縮と溶媒揮発によって多孔質電極内に隙間が残り、充分なシール性を維持することが困難となる。
【0008】
この課題を解決するため、無希釈の樹脂材料を圧入する工法、あるいは非収縮性のフィラー(カーボン、タルク等)を樹脂材料に混合する工法が試みられている。しかし、このような工法では樹脂材料で多孔質電極の細孔を埋めること自体が困難であり、完全なシール性を得ることはできない。
【0009】
また、特許文献2には、多孔質電極を熱可塑性樹脂フィルムで被覆し、イオン伝導膜との接着シールを行う方法が試行されている。しかしこの方法では、熱間ロールや熱間プレスによって多孔質基材の孔に樹脂を十分に圧入することは非常に困難で、シール性が問題となる。また、MEA全体に熱および圧力がかかるため、材料の変形や材料の線膨張係数の違いにより、しわやゆがみが発生してしまう。
【0010】
また、特許文献3には、膜電極接合体の周辺の電解質膜を樹脂フィルムにより補強、保護する方法も提案されているが、樹脂フィルムと拡散層の多孔質基材の重なり部に樹脂フィルムの厚さ分の段差が生じ、積層し、締め付けた際にそこに応力が集中し破損するという恐れがある。
【0011】
一方、このようなガスシール性を高めるため、必要数の燃料電池を積層し、全体を締結した後、積層電池の外壁部にシール材を塗布する試みも提案されているが、駆動中に出力の低下した単位電池を交換したいとき、このような外部シール型のものから、特定の単位電池を取り出す作業は困難であった。
したがって、本発明は、これらの課題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によると、
(1)シート状多孔質基材と、該多孔質基材の周縁部の細孔内に含浸された封止用樹脂とを含む固体高分子形燃料電池用ガス拡散層要素であって、該封止用樹脂の含浸を、該周縁部に積層配置されたフィルム状封止用樹脂にレーザー光を照射して該フィルム状封止用樹脂を溶融させることにより行ったことを特徴とする固体高分子形燃料電池用ガス拡散層要素が提供される。
【0013】
さらに本発明によると、
(2)該シート状多孔質基材が、該レーザー光のエネルギーを吸収することにより発熱する、(1)に記載の固体高分子形燃料電池用ガス拡散層要素が提供される。
【0014】
さらに本発明によると、
(3)該フィルム状封止用樹脂が該レーザー光を実質的に透過する熱可塑性樹脂である、(2)に記載の固体高分子形燃料電池用ガス拡散層要素が提供される。
【0015】
さらに本発明によると、
(4)シート状多孔質基材の周縁部にフィルム状封止用樹脂を積層配置する工程と、
該フィルム状封止用樹脂にレーザー光を照射することにより該フィルム状封止用樹脂を溶融させて該周縁部の細孔内に含浸させる工程と
を含んでなる、該多孔質基材の周縁部の細孔内に含浸された封止用樹脂を含む固体高分子形燃料電池用ガス拡散層要素の製造方法が提供される。
【0016】
さらに本発明によると、
(5)順に、アノード側ガス拡散層、膜電極接合体およびカソード側ガス拡散層を含んでなり、少なくとも一方の側のガス拡散層が(1)〜(3)のいずれか1項に記載のガス拡散層要素を含むことを特徴とする固体高分子形燃料電池が提供される。
【0017】
さらに本発明によると、
(6)シート状多孔質基材の周縁部にフィルム状封止用樹脂を積層配置する工程と、
該フィルム状封止用樹脂にレーザー光を照射することにより該フィルム状封止用樹脂を溶融させて該周縁部の細孔内に含浸させ、該多孔質基材の周縁部の細孔内に含浸された封止用樹脂を含むガス拡散層要素を得る工程と、
該ガス拡散層要素を少なくとも一方の側のガス拡散層とし、これに順に膜電極接合体および反対側のガス拡散層を組み合わせる工程と
を含んでなる固体高分子形燃料電池の製造方法が提供される。
【0018】
さらに本発明によると、
(7)順に、アノード側ガス拡散層、膜電極接合体およびカソード側ガス拡散層を組み合わせる工程と、
少なくとも一方の側のガス拡散層の周縁部にフィルム状封止用樹脂を積層配置する工程と、
該フィルム状封止用樹脂にレーザー光を照射することにより該フィルム状封止用樹脂を溶融させて該周縁部の細孔内に含浸させる工程と
を含んでなる固体高分子形燃料電池の製造方法が提供される。
【0019】
さらに本発明によると、
(8)さらに反対側のガス拡散層の周縁部にフィルム状封止用樹脂を積層配置する工程と、
該フィルム状封止用樹脂にレーザー光を照射することにより該フィルム状封止用樹脂を溶融させて該周縁部の細孔内に含浸させる工程と
を含む、(7)に記載の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0020】
本発明によると、固体高分子形燃料電池用ガス拡散層要素の周縁部を、レーザー光照射による封止用樹脂の溶融・含浸により封止したことにより、反応ガスがガス拡散層の端部からセパレータの外に漏洩することが防止される。また、レーザー光照射により封止部分にのみ熱がかかるため、材料の変形や材料の線膨張係数の違いによるしわやゆがみの発生が防止される。また、封止用樹脂フィルムとガス拡散層の重なり部に封止用樹脂フィルムの厚さ分の段差が生じないため、MEAを積層し、締め付けた際にそこに応力が集中し破損するおそれもなくなる。さらに、駆動中に出力の低下した単位電池を交換したい場合に、特定の単位電池を取り出す作業が容易となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、図面を参照しながら、本発明を詳細に説明する。本発明による固体高分子形燃料電池用ガス拡散層要素は、シート状多孔質基材と、該多孔質基材の周縁部の細孔内に含浸された封止用樹脂とを含み、その封止用樹脂の含浸を、該周縁部に積層配置されたフィルム状封止用樹脂にレーザー光を照射して該フィルム状封止用樹脂を溶融させることにより行ったことを特徴とする。図3に、本発明の基本態様を示す。本発明によると、図3(A)に示したように、まずシート状多孔質基材120の周縁部にフィルム状封止用樹脂200を積層配置する。次いで、フィルム状封止用樹脂200にレーザー光を照射することにより該フィルム状封止用樹脂200を溶融させて該周縁部の細孔内に含浸させ、図3(B)に示したように、該多孔質基材の周縁部の細孔内に封止用樹脂が含浸された封止部210を含むガス拡散層要素100を得る。
【0022】
シート状多孔質基材120としては、固体高分子形燃料電池に適した通気性および導電性を有するシート状材料が用いられる。特に、照射レーザー光のエネルギーを吸収することにより発熱することができるので、カーボンペーパー、カーボン織布、カーボン不織布、カーボンフェルト等のカーボン製の通気性導電性材料をシート状多孔質基材120として用いることが好ましい。シート状多孔質基材120の厚さは、燃料電池の設計に応じて適宜調整すればよく、一般に100〜500μm、好ましくは200〜400μmの範囲内で用いられる。
【0023】
シート状多孔質基材120には、燃料ガスおよび酸化剤ガスとともに供給される加湿水や燃料電池の反応により生成する水を除去するため、少なくとも膜電極接合体(MEA)と接触する部分に撥水処理を施すことが好ましい。このような撥水処理の方法は、当該技術分野で知られている方法を用いることができ、例えば、必要に応じてポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素樹脂の分散液をシート状多孔質基材に部分的に含浸させればよい。さらに、上記撥水処理が施されたまたは施されていないシート状多孔質基材120のMEAとの接触面に保護層を設け、MEAとの電気的接触を向上し、また、MEAの多孔質基材による損傷を軽減することもできる。このような保護層は、例えばPTFE等のフッ素樹脂とカーボンブラックとの混合物の分散体(ペースト)を塗布し、乾燥し、そして熱処理することにより形成してもよい。保護層を設ける場合、その厚さは、ガス拡散性および導電性との兼ね合いで、5〜20μmの範囲内にあることが好ましい。上記撥水処理および保護層の詳細については、同一出願人による特開平10−261421号公報を参照されたい。
【0024】
フィルム状封止用樹脂200としては、熱で溶融して多孔質基材の細孔内に含浸することができる熱可塑性樹脂を用いればよい。本発明においてはフィルム状封止用樹脂200の溶融をレーザー光照射により行うが、封止用樹脂自体がレーザー光を吸収して発熱することにより溶融する場合も、封止用樹脂はレーザー光を透過するが多孔質基材120がレーザー光を吸収して発熱し、その熱が封止用樹脂に伝わることにより該樹脂が溶融する場合も、本発明に含まれる。しかし、本発明においては、多孔質基材と封止用樹脂との界面のみが加熱されることにより封止用樹脂が多孔質基材により良く含浸され、かつ封止用樹脂の他の部分が熱による影響を受けにくいという点で、レーザー光を実質的に透過する熱可塑性樹脂を用いることが好ましい。レーザー光を実質的に透過する熱可塑性樹脂とは、レーザー光を透過させる透明または半透明の熱可塑性樹脂のことを指し、それ自身がレーザー光の持つエネルギーを吸収し熱へ変換することが起こりにくい熱可塑性樹脂である。そのような熱可塑性樹脂の例として、ポリカーボネート系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリ塩化ビニリデン系樹脂、ポリアクリル系樹脂、ポリアクリルアミド系樹脂、ポリジエン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂等が挙げられる。フィルム状封止用樹脂200の厚さは、一般に10〜200μm、好ましくは30〜150μmの範囲内である。また、フィルム状封止用樹脂200の厚さは、上述のシート状多孔質基材120より薄いことが好ましく、特にシート状多孔質基材120の厚さの10〜80%の範囲内であることが好ましい。フィルム状封止用樹脂200の厚さがシート状多孔質基材120の厚さの10%未満であると、多孔質基材の封止が不十分となり、反応ガスがガス拡散層の端部からセパレータの外に漏洩するおそれがある。反対にフィルム状封止用樹脂200の厚さがシート状多孔質基材120の厚さの80%より厚いと、封止用樹脂が過剰となり、封止部に段差が生じ望ましくない。
【0025】
本発明によると、図3(A)に示したように、シート状多孔質基材120の周縁部にフィルム状封止用樹脂200を積層配置した後、フィルム状封止用樹脂200にレーザー光を照射する。レーザー光を照射した部分の封止用樹脂が溶融してシート状多孔質基材120に含浸し、レーザー光の照射が停止する(例えば、走査されるレーザー光が通過する)ことにより含浸樹脂が冷却固化し、図3(B)に示したように封止部210を形成する。多孔質基材に樹脂封止部を形成するため従来行われていた樹脂溶液の含浸や溶融樹脂の熱圧封入では、樹脂の含浸または封入の程度を制御することが困難である。レーザーを使用すると、熱で溶融する樹脂部分が極めて限定され、レーザーの照射条件(強度、照射時間または走査速度等)によって樹脂の溶融を精密に制御することができ、ひいては樹脂の含浸をコントロールすることが容易となる。また、ガラス転移点が高い耐熱性材料を多孔質基材に溶融含浸させるためには、一般に200℃以上の高温が必要である。その場合、フィルム状樹脂を高温で熱プレスしたときには、常温に戻した際にフィルム状樹脂が収縮して変形する可能性があるが、レーザーでは熱の影響が局部に限定されるため、ほとんど変形が生じることなく溶融含浸を行うことができる。さらに、電解質膜に比べて融点やガラス転移点が高く、耐久性、耐熱性その他の性能に優れるエンジニアリングプラスチックを封止用樹脂として用い、熱プレス等の従来方法で樹脂を多孔質基材に含浸させる場合には、電解質膜の耐熱温度以上の加熱を必要とするため、実質的に実施困難である。しかし、レーザーを用いた場合にはレーザー照射部分のみが加熱され、電解質膜その他の部分に熱による悪影響を与えないため、エンジニアリングプラスチックを用いることもできる。
【0026】
本発明によるレーザー光照射に使用可能なレーザーとしては、半導体レーザー、気体(He−Ne、Ar+、CO2)レーザー、固体(ルビー、ガラス)レーザー、液体(有機、色素)レーザー、YAGレーザー等が挙げられる。上記レーザーは、汎用レーザー樹脂溶着機に用いられるものとしてよく知られている。レーザー光照射の条件については、当業者であれば、使用する具体的な多孔質基材や封止用樹脂に応じて適宜設定することができるが、一例として、CO2レーザー(波長940nm)を出力3〜15W、レーザースポット径1.5〜2.7mm、走査速度3〜10mm/秒で照射することが挙げられる。
【0027】
本発明によりフィルム状封止用樹脂200にレーザー光を照射する際には、シート状多孔質基材120への含浸を促進するため、封止用樹脂200を多孔質基材120に対して押し当てることが好ましい。押し当ては、適当な台(図示なし)の上にシート状多孔質基材120を載せ、その上にフィルム状封止用樹脂200を積層配置し、さらにその上にガラス板等のレーザー光透過性の基板(図示なし)を載せて、適当な締結治具で台と基板の間に最大9.8×105Pa(10kgf/cm2)程度の圧力を加えることにより行うことができる。レーザー光照射により加熱・溶融された封止用樹脂は、多孔質基材に対して押し当てられるので、多孔質基材の細孔内への含浸が促進される。
【0028】
図4に、本発明によるガス拡散層要素100を膜電極接合体300の両側に組み合わせた、本発明による好ましい固体高分子形燃料電池の略分解構成図を示す。膜電極接合体300に用いられる高分子電解質膜310は、プロトン(H+)伝導性が高く、電子絶縁性であり、かつ、ガス不透過性であるものであれば、特に限定はされず、公知の高分子電解質膜であればよい。代表例として、含フッ素高分子を骨格とし、スルホン酸基、カルボキシル基、リン酸基、ホスホン基等の基を有する樹脂が挙げられる。高分子電解質膜310の厚さは、抵抗に大きな影響を及ぼすため、電子絶縁性およびガス不透過性を損なわない限りにおいてより薄いものが求められ、具体的には、5〜50μm、好ましくは10〜30μmの範囲内に設定される。高分子電解質膜310の代表例としては、側鎖にスルホン酸基を有するパーフルオロポリマーであるナフィオン(登録商標)膜(デュポン社製)およびフレミオン(登録商標)膜(旭硝子社製)が挙げられる。また、延伸多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜にイオン交換樹脂を含浸させた補強型高分子電解質膜であるGORE−SELECT(登録商標)(ジャパンゴアテックス社製)を好適に用いることもできる。
【0029】
触媒層320としては、触媒粒子とイオン交換樹脂を含むものであれば特に限定はされず、従来公知のものを使用することができる。触媒は、通常、触媒粒子を担持した導電材からなる。触媒粒子としては、水素の酸化反応あるいは酸素の還元反応に触媒作用を有するものであればよく、白金(Pt)その他の貴金属のほか、鉄、クロム、ニッケル等、およびこれらの合金を用いることができる。導電材としては炭素系粒子、例えばカーボンブラック、活性炭、黒鉛等が好適であり、特に微粉末状粒子が好適に用いられる。代表的には、表面積20m2/g以上のカーボンブラック粒子に、貴金属粒子、例えばPt粒子またはPtと他の金属との合金粒子を担持したものがある。特に、アノード用触媒については、Ptは一酸化炭素(CO)の被毒に弱いため、メタノールのようにCOを含む燃料を使用する場合には、Ptとルテニウム(Ru)との合金粒子を用いることが好ましい。触媒層320中のイオン交換樹脂は、触媒を支持し、触媒層を形成するバインダーとなる材料であり、触媒によって生じたイオン等が移動するための通路を形成する役割をもつ。このようなイオン交換樹脂としては、先に高分子電解質膜310に関連して説明したものと同様のものを用いることができる。触媒層320は、アノードでは水素、メタノール等の燃料ガスおよびカソードでは酸素、空気等の酸化剤ガスが触媒とできるだけ多く接触することができるように、触媒層320は多孔性であることが好ましい。また、触媒層320中に含まれる触媒量は、0.01〜1mg/cm2、好ましくは0.1〜0.5mg/cm2の範囲内にあることが好適である。
【0030】
触媒層320を高分子電解質膜310に接合して膜電極接合体300にする方法としては、高分子電解質膜310を損なうことなく接触抵抗が低い緻密な接合が達成されるものであれば、従来公知のいずれの方法でも採用することができる。例えば、スクリーン印刷法、スプレー塗布法、デカール法等、従来公知の方法により触媒層320を高分子電解質膜310に接合することができる。
【0031】
このように触媒層320を高分子電解質膜310と組み合わせて得られた膜電極接合体300の少なくとも一方の側に、本発明によるガス拡散層100を組み合わせることにより、本発明による固体高分子形燃料電池を形成することができる。その際、図4に示したように、ガス拡散層100の一方に接着剤250を配置し、熱プレスで一体化してもよい。接着剤250としては、プリント配線基板用接着シートのような接着シートを用いればよい。熱プレスの条件は、用いる接着剤250の接着条件に応じて、特に高分子電解質膜310を損なわないように設定すればよい。
【0032】
固体高分子形燃料電池の一体化順序としては、まず触媒層320とガス拡散層100を組み合わせてアノード電極またはカソード電極を形成し、これらを高分子電解質膜310に接合する順序であってもよい。例えば、適当な溶媒を用いて触媒粒子とイオン交換樹脂を含む触媒層形成用コーティング液を調製し、これを本発明によるガス拡散層100に塗工することにより触媒層320を形成し、これを高分子電解質膜310に接合することもできる。
【0033】
図5に、本発明の別態様による固体高分子形燃料電池の製造方法を説明する略横断面図を示す。この態様では、図5(A)に示したように、まず膜電極接合体の両側(アノード側およびカソード側)にそれぞれのシート状多孔質基材120を組み合わせた後に、少なくとも一方の多孔質基材120の周縁部にフィルム状封止用樹脂200を積層配置する。次いで、フィルム状封止用樹脂200にレーザー光を照射することにより該フィルム状封止用樹脂200を溶融させて該周縁部の細孔内に含浸させ、図5(B)に示したように、該多孔質基材の周縁部の細孔内に封止用樹脂が含浸された封止部210を形成する。さらに反対側の多孔質基材120の周縁部にフィルム状封止用樹脂200を積層配置して、同様にレーザー光を照射することにより反対側の多孔質基材120の周縁部に封止部を形成してもよい(図示なし)。
【0034】
上述のようにして接合して得られた固体高分子形燃料電池を、アノード側とカソード側が所定の側にくるようにセパレータ板および冷却部を交互に10〜100セル積層することにより、燃料電池スタックを組み立てることができる。燃料電池スタックの組み立ては、従来公知の方法によることができる。
【実施例】
【0035】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。
実施例1
拡散層要素の作製
シート状多孔質基材として20×20cm、厚さ200μmの多孔質カーボンペーパー(東レ製、TGP−H−060)を用意した。その片面に、PTFEディスパージョン(ダイキン工業製、ポリフロンPTFE・D−1)を、カーボンペーパーに対して10質量%の量で塗布することにより撥水処理を施した。さらに、そのカーボンペーパーの撥水処理面に、カーボンブラック(デンカ製、デンカブラック)と上記PTFEディスパージョンとの質量比1:1の混合液を厚さ20μmの乾燥被膜が得られるように塗布することにより保護層を形成した。
【0036】
フィルム状封止用樹脂として15×15cm、厚さ50μmのポリカーボネートフィルムを用意し、その中央部5.5×5.5cmを切り取り、額縁状のフィルムを作製した。上記シート状多孔質基材を6×6cmの大きさに切り取り、その撥水処理が施されていない面を上にして台に配置した。次いで、その多孔質基材の各周縁部に2.5mmの重なり領域が生じるように、上記額縁状フィルムを積層配置し、さらにそのフィルムの上に厚さ0.8cm、大きさ30×30cmの透明ソーダーガラス板を載せた。そして、上記多孔質基材と上記フィルムとの間に9.8×105Pa(10kgf/cm2)の圧力がかかるようにガラス板に対して台を空気圧で押し当てた。
【0037】
次いで、汎用レーザー樹脂溶着機(株式会社ファインディバイス製、型式FD−200)を用い、CO2レーザー(波長940nm、スポット径2.7mm、出力15mW)を、走査速度10mm/秒で、ガラス板を通して上記重なり領域に照射した。レーザー照射された領域のポリカーボネートフィルムが溶融して多孔質カーボンペーパーの細孔内に含浸し、ポリカーボネートフィルムと多孔質カーボンフィルムの重なり領域の段差(50μm)が消失した。その後、加圧を解除し、多孔質カーボンフィルムの周縁部がポリカーボネートで封止されたガス拡散層要素を取り出した。
【0038】
膜電極接合体(MEA)の作製
白金ルテニウム合金(白金/ルテニウム質量比1:1)担持カーボン(カーボン:合金質量比1:1)と水を質量比1:3で予め混合した。この混合液と、上記白金ルテニウム合金担持カーボンに対して2.5倍量のナフィオン(登録商標)20質量%溶液(デュポン社製:SE−20092、イオン交換容量:0.9ミリ等量/グラム)と、上記白金ルテニウム合金担持カーボンに対して18倍量のエタノールとを均一に混合することにより、固形分濃度6質量%のアノード用触媒層形成用塗工液を調製した。また、白金担持カーボン(カーボン:白金質量比1:1)と水を質量比1:3で予め混合した。この混合液と、上記白金担持カーボンに対して2.5倍量の上記ナフィオン(登録商標)20質量%溶液と、上記白金担持カーボンに対して18倍量のエタノールとを均一に混合することにより、固形分濃度6質量%のカソード用触媒層形成用塗工液を調製した。高分子電解質膜として、10×10cmの大きさのイオン交換膜GORE−SELECT(登録商標)(ジャパンゴアテックス社製)を用意した。また、中央部に5×5cmの正方形切抜きパターンを含むスクリーンメッシュ(ミノグループ社製:T−70)を用意した。このスクリーンメッシュを、高分子電解質膜の片面に配置し、その上から上記アノード用触媒層形成用塗工液をパターン塗工して80℃で乾燥する塗工・乾燥工程を繰り返すことにより、切抜きに対応する厚さ10μm、白金ルテニウム担持量0.45mg/cm2のアノード用触媒層を形成した。次いで、中央部に5×5cmの正方形切抜きパターンを含むスクリーンメッシュ(ミノグループ社製:T−70)を用意した。このスクリーンメッシュを、上記イオン交換膜の上記アノード用触媒層とは反対面に配置し、その上から上記カソード用触媒層形成用塗工液をパターン塗工して80℃で乾燥する塗工・乾燥工程を繰り返すことにより、切抜きに対応する厚さ10μm、白金担持量0.4mg/cm2のカソード用触媒層を形成し、MEAを作製した。
【0039】
固体高分子形燃料電池の作製および評価
上記MEAの両面に上記ガス拡散層要素を、その撥水処理が施されている面をMEA側にして貼付することにより固体高分子形燃料電池を作製した。貼付は、ガス拡散層要素の一方に、図4に示したように接着シート(日東シンコー製、FB−ML4)を配置し、これを他方のガス拡散層要素に熱プレス(温度150℃、圧力5.0MPa)で押し当てることにより行った。得られた固体高分子形燃料電池を、アクティブエリア5×5cmの燃料電池用単セルに装着し、セル温度を80℃にし、水素ガスおよび空気の露点を80℃(相対湿度を100%RH)にし、水素および酸素の利用率をそれぞれ80%、40%として発電性能の測定を行った。また、燃料電池のリーク検査を以下のように行った。成形した枠を含むセルサイズを7×7cm、電極サイズを5×5cmとし、周辺部を厚さ0.5mmのシリコンシートで挟みシールした。これをセパレータに組み込み水没させ、セルの片側を空気またはヘリウムで加圧した。加圧面の反対側は解放しておき、セルが空気またはヘリウムを漏洩するとその反対側からバブルが発生するようにした。0MPaから圧力を高めていき、バブルの発生が目視で確認できた時点の圧力をリーク圧力とした。
固体高分子形燃料電池の運転は、リーク等の問題もなく、電流密度0.5A/cm2において電圧0.68Vの発電性能が得られた。
【0040】
実施例2
実施例1と同様に、シート状多孔質基材としての多孔質カーボンペーパーに撥水処理を施し、その撥水処理面に保護層を形成した。また、実施例1と同様にMEAを作製した。このMEAの両面に上記多孔質カーボンペーパーを、その撥水処理が施されている面をMEA側にして貼付することにより固体高分子形燃料電池の基本構造体を作製した。
【0041】
フィルム状封止用樹脂として15×15cm、厚さ50μmのポリエーテルサルフォン(PES)フィルムを用意し、その中央部5.5×5.5cmを切り取り、額縁状のフィルムを作製した。上記基本構造体を6×6cmの大きさに切り取り、台に配置した。次いで、その多孔質カーボンペーパーの各周縁部に2.5mmの重なり領域が生じるように、上記額縁状フィルムを積層配置し、さらにそのフィルムの上に厚さ0.8cm、大きさ30×30cmの透明ソーダーガラス板を載せた。そして、上記多孔質基材と上記フィルムとの間に9.8×105Pa(10kgf/cm2)の圧力がかかるようにガラス板に対して台を空気圧で押し当てた。
【0042】
次いで、上記汎用レーザー樹脂溶着機を用い、CO2レーザー(波長940nm、スポット径2.7mm、出力10mW)を、走査速度5mm/秒で、ガラス板を通して上記重なり領域に照射した。レーザー照射された領域のPESフィルムが溶融して多孔質カーボンペーパーの細孔内に含浸し、PESフィルムと多孔質カーボンフィルムの重なり領域の段差(50μm)が消失し、多孔質カーボンフィルムの周縁部がPESで封止された。
【0043】
得られた固体高分子形燃料電池を、実施例1と同様に評価セルに装着し、性能を測定した。固体高分子形燃料電池の運転は、リーク等の問題もなく、電流密度0.5A/cm2において電圧0.68Vの発電性能が得られた。
【0044】
比較例1
ポリカーボネートフィルムの多孔質カーボンフィルムへの含浸を、レーザー照射の代わりに、150℃、2MPa、2分間の条件で熱プレスを行い接着したことを除き、実施例1と同様に、多孔質カーボンフィルムの周縁部がポリカーボネートで封止されたガス拡散層要素を作製した。この要素を用いて、実施例1と同様に固体高分子形燃料電池を作製し、それを評価セルに装着して性能の評価を行った。しかし、封止が不十分で反応ガスがリークしたため、性能評価をすることができなかった。これは、ポリカーボネートフィルムとカーボンフィルムとの線熱膨張率の違いにより、熱プレス後にゆがみが発生したことに起因する。
【0045】
比較例2
ポリカーボネートフィルムの多孔質カーボンフィルムへの含浸を、レーザー照射の代わりに、150℃、2MPa、2分間の条件で熱プレスを行い接着したことを除き、実施例2と同様に、多孔質カーボンフィルムの周縁部がポリカーボネートで封止された固体高分子形燃料電池を作製した。この固体高分子形燃料電池を評価セルに装着して性能の評価を行った。しかし、封止が不十分で反応ガスがリークしたため、性能評価をすることができなかった。これは、ポリカーボネートフィルムとカーボンフィルムとの線熱膨張率の違いにより、熱プレス後にゆがみが発生したことに起因する。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】従来の燃料電池の構造を示した略分解斜視図である。
【図2】従来の燃料電池の基本構造を示した略横断面図である。
【図3】本発明によるガス拡散層要素の製法を示す略横断面図である。
【図4】本発明による固体高分子形燃料電池の製法を示す略分解横断面図である。
【図5】本発明の別態様による固体高分子形燃料電池の製法を示す略横断面図である。
【符号の説明】
【0047】
11 高分子電解質膜
12 多孔質触媒電極
13 セパレータ
14 膜電極接合体(MEA)
15 パッキン
21 樹脂封止部
100 ガス拡散層要素
120 シート状多孔質基材
200 フィルム状封止用樹脂
210 封止部
250 接着剤
300 膜電極接合体
310 高分子電解質膜
320 触媒層
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子形燃料電池に関し、特にそのガスシール性を向上させることに関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子形燃料電池は、高分子電解質膜の片方を燃料ガス(水素など)に、他方を酸化剤ガス(空気など)に暴露し、高分子電解質膜を介した化学反応により水を合成し、これによって生じる反応エネルギーを電気的に取り出すことを基本原理としている。従来の燃料電池の構造を示した模式図を図1に、またその断面を図2に示す。
【0003】
図1および図2において、セパレータ13に形成したガス流路より導入した反応ガスは、高分子電解質膜11を介して多孔質触媒電極12において電気化学反応を起こし、ここで生じた電力はセパレータ13を通して外部に回収される。この構成で明らかなように、高分子電解質膜11と多孔質触媒電極12とは物理的に接合する必要がある。高分子電解質膜11の両面に多孔質触媒電極12を置き、これを熱プレス等で一体形成するのが一般的である。このようにして作成したものを、膜電極接合体(MEA)14と呼び、独立して扱うことが出来る。パッキン15は、膜電極接合体14とセパレータ13との間に配置し、導入ガスの外部への漏洩を防止する。
【0004】
高分子電解質膜は、イオン伝導性は有するが、通気性と電子伝導性とは有せず、燃料極と酸素極とを物理的かつ電子的に隔絶する働きを持つ。ところが、高分子電解質膜の大きさが多孔質触媒電極より小さい場合には、多孔質触媒電極どうしが電気的に短絡し、また酸化剤ガスと燃料ガスとが混合し、電池としての機能を失う。このため、高分子電解質膜の面方向の大きさは、必ず多孔質触媒電極と同じか、より大きくとる必要がある。
【0005】
現在使用されている高分子電解質膜は非常に薄く、構造支持材としての物理的強度を有していない。このため、多孔質電極からはみ出した高分子電解質膜部分をパッキンとセパレータとで挟持する支持構造を取ることは困難である。そこで、図2(A)に示すように、多孔質触媒電極12の大きさを、セパレータ13の内室より大きく外寸よりは小さく取り、多孔質触媒電極自体を多孔質触媒電極の支持体とする方法が考えられる。しかしながら、多孔質触媒電極は良好な通気性を持つために、上記の構成では反応ガスが多孔質触媒電極の端部よりセパレータの外に漏洩する。そこで、図2(B)に示したように、多孔質触媒電極に、熱硬化性樹脂材料を含浸したのち、これを熱硬化した樹脂封止部21を設け、これによりガス封止構造を形成する方法が検討されている(特許文献1)。
【0006】
【特許文献1】特開2001−118592号公報
【特許文献2】特開平11−45729号公報
【特許文献3】特開平5−21077号公報
【特許文献4】特開2005−166597号公報
【特許文献5】特開2004−139828号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のガス封止構造には以下の問題が考えられる。樹脂材料を溶媒に溶かし、これを多孔質電極に含浸して樹脂封止部を形成するためには、樹脂溶液の粘度を十分に低くする必要がある。含浸直後は多孔質電極内の細孔が樹脂溶液によって充填されるが、硬化時に溶媒が揮発し、硬化後は封止部分の内側に隙間が生じてしまう。これに加え、通常、樹脂材料は硬化反応において体積収縮を起こす。この体積収縮と溶媒揮発によって多孔質電極内に隙間が残り、充分なシール性を維持することが困難となる。
【0008】
この課題を解決するため、無希釈の樹脂材料を圧入する工法、あるいは非収縮性のフィラー(カーボン、タルク等)を樹脂材料に混合する工法が試みられている。しかし、このような工法では樹脂材料で多孔質電極の細孔を埋めること自体が困難であり、完全なシール性を得ることはできない。
【0009】
また、特許文献2には、多孔質電極を熱可塑性樹脂フィルムで被覆し、イオン伝導膜との接着シールを行う方法が試行されている。しかしこの方法では、熱間ロールや熱間プレスによって多孔質基材の孔に樹脂を十分に圧入することは非常に困難で、シール性が問題となる。また、MEA全体に熱および圧力がかかるため、材料の変形や材料の線膨張係数の違いにより、しわやゆがみが発生してしまう。
【0010】
また、特許文献3には、膜電極接合体の周辺の電解質膜を樹脂フィルムにより補強、保護する方法も提案されているが、樹脂フィルムと拡散層の多孔質基材の重なり部に樹脂フィルムの厚さ分の段差が生じ、積層し、締め付けた際にそこに応力が集中し破損するという恐れがある。
【0011】
一方、このようなガスシール性を高めるため、必要数の燃料電池を積層し、全体を締結した後、積層電池の外壁部にシール材を塗布する試みも提案されているが、駆動中に出力の低下した単位電池を交換したいとき、このような外部シール型のものから、特定の単位電池を取り出す作業は困難であった。
したがって、本発明は、これらの課題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によると、
(1)シート状多孔質基材と、該多孔質基材の周縁部の細孔内に含浸された封止用樹脂とを含む固体高分子形燃料電池用ガス拡散層要素であって、該封止用樹脂の含浸を、該周縁部に積層配置されたフィルム状封止用樹脂にレーザー光を照射して該フィルム状封止用樹脂を溶融させることにより行ったことを特徴とする固体高分子形燃料電池用ガス拡散層要素が提供される。
【0013】
さらに本発明によると、
(2)該シート状多孔質基材が、該レーザー光のエネルギーを吸収することにより発熱する、(1)に記載の固体高分子形燃料電池用ガス拡散層要素が提供される。
【0014】
さらに本発明によると、
(3)該フィルム状封止用樹脂が該レーザー光を実質的に透過する熱可塑性樹脂である、(2)に記載の固体高分子形燃料電池用ガス拡散層要素が提供される。
【0015】
さらに本発明によると、
(4)シート状多孔質基材の周縁部にフィルム状封止用樹脂を積層配置する工程と、
該フィルム状封止用樹脂にレーザー光を照射することにより該フィルム状封止用樹脂を溶融させて該周縁部の細孔内に含浸させる工程と
を含んでなる、該多孔質基材の周縁部の細孔内に含浸された封止用樹脂を含む固体高分子形燃料電池用ガス拡散層要素の製造方法が提供される。
【0016】
さらに本発明によると、
(5)順に、アノード側ガス拡散層、膜電極接合体およびカソード側ガス拡散層を含んでなり、少なくとも一方の側のガス拡散層が(1)〜(3)のいずれか1項に記載のガス拡散層要素を含むことを特徴とする固体高分子形燃料電池が提供される。
【0017】
さらに本発明によると、
(6)シート状多孔質基材の周縁部にフィルム状封止用樹脂を積層配置する工程と、
該フィルム状封止用樹脂にレーザー光を照射することにより該フィルム状封止用樹脂を溶融させて該周縁部の細孔内に含浸させ、該多孔質基材の周縁部の細孔内に含浸された封止用樹脂を含むガス拡散層要素を得る工程と、
該ガス拡散層要素を少なくとも一方の側のガス拡散層とし、これに順に膜電極接合体および反対側のガス拡散層を組み合わせる工程と
を含んでなる固体高分子形燃料電池の製造方法が提供される。
【0018】
さらに本発明によると、
(7)順に、アノード側ガス拡散層、膜電極接合体およびカソード側ガス拡散層を組み合わせる工程と、
少なくとも一方の側のガス拡散層の周縁部にフィルム状封止用樹脂を積層配置する工程と、
該フィルム状封止用樹脂にレーザー光を照射することにより該フィルム状封止用樹脂を溶融させて該周縁部の細孔内に含浸させる工程と
を含んでなる固体高分子形燃料電池の製造方法が提供される。
【0019】
さらに本発明によると、
(8)さらに反対側のガス拡散層の周縁部にフィルム状封止用樹脂を積層配置する工程と、
該フィルム状封止用樹脂にレーザー光を照射することにより該フィルム状封止用樹脂を溶融させて該周縁部の細孔内に含浸させる工程と
を含む、(7)に記載の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0020】
本発明によると、固体高分子形燃料電池用ガス拡散層要素の周縁部を、レーザー光照射による封止用樹脂の溶融・含浸により封止したことにより、反応ガスがガス拡散層の端部からセパレータの外に漏洩することが防止される。また、レーザー光照射により封止部分にのみ熱がかかるため、材料の変形や材料の線膨張係数の違いによるしわやゆがみの発生が防止される。また、封止用樹脂フィルムとガス拡散層の重なり部に封止用樹脂フィルムの厚さ分の段差が生じないため、MEAを積層し、締め付けた際にそこに応力が集中し破損するおそれもなくなる。さらに、駆動中に出力の低下した単位電池を交換したい場合に、特定の単位電池を取り出す作業が容易となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、図面を参照しながら、本発明を詳細に説明する。本発明による固体高分子形燃料電池用ガス拡散層要素は、シート状多孔質基材と、該多孔質基材の周縁部の細孔内に含浸された封止用樹脂とを含み、その封止用樹脂の含浸を、該周縁部に積層配置されたフィルム状封止用樹脂にレーザー光を照射して該フィルム状封止用樹脂を溶融させることにより行ったことを特徴とする。図3に、本発明の基本態様を示す。本発明によると、図3(A)に示したように、まずシート状多孔質基材120の周縁部にフィルム状封止用樹脂200を積層配置する。次いで、フィルム状封止用樹脂200にレーザー光を照射することにより該フィルム状封止用樹脂200を溶融させて該周縁部の細孔内に含浸させ、図3(B)に示したように、該多孔質基材の周縁部の細孔内に封止用樹脂が含浸された封止部210を含むガス拡散層要素100を得る。
【0022】
シート状多孔質基材120としては、固体高分子形燃料電池に適した通気性および導電性を有するシート状材料が用いられる。特に、照射レーザー光のエネルギーを吸収することにより発熱することができるので、カーボンペーパー、カーボン織布、カーボン不織布、カーボンフェルト等のカーボン製の通気性導電性材料をシート状多孔質基材120として用いることが好ましい。シート状多孔質基材120の厚さは、燃料電池の設計に応じて適宜調整すればよく、一般に100〜500μm、好ましくは200〜400μmの範囲内で用いられる。
【0023】
シート状多孔質基材120には、燃料ガスおよび酸化剤ガスとともに供給される加湿水や燃料電池の反応により生成する水を除去するため、少なくとも膜電極接合体(MEA)と接触する部分に撥水処理を施すことが好ましい。このような撥水処理の方法は、当該技術分野で知られている方法を用いることができ、例えば、必要に応じてポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素樹脂の分散液をシート状多孔質基材に部分的に含浸させればよい。さらに、上記撥水処理が施されたまたは施されていないシート状多孔質基材120のMEAとの接触面に保護層を設け、MEAとの電気的接触を向上し、また、MEAの多孔質基材による損傷を軽減することもできる。このような保護層は、例えばPTFE等のフッ素樹脂とカーボンブラックとの混合物の分散体(ペースト)を塗布し、乾燥し、そして熱処理することにより形成してもよい。保護層を設ける場合、その厚さは、ガス拡散性および導電性との兼ね合いで、5〜20μmの範囲内にあることが好ましい。上記撥水処理および保護層の詳細については、同一出願人による特開平10−261421号公報を参照されたい。
【0024】
フィルム状封止用樹脂200としては、熱で溶融して多孔質基材の細孔内に含浸することができる熱可塑性樹脂を用いればよい。本発明においてはフィルム状封止用樹脂200の溶融をレーザー光照射により行うが、封止用樹脂自体がレーザー光を吸収して発熱することにより溶融する場合も、封止用樹脂はレーザー光を透過するが多孔質基材120がレーザー光を吸収して発熱し、その熱が封止用樹脂に伝わることにより該樹脂が溶融する場合も、本発明に含まれる。しかし、本発明においては、多孔質基材と封止用樹脂との界面のみが加熱されることにより封止用樹脂が多孔質基材により良く含浸され、かつ封止用樹脂の他の部分が熱による影響を受けにくいという点で、レーザー光を実質的に透過する熱可塑性樹脂を用いることが好ましい。レーザー光を実質的に透過する熱可塑性樹脂とは、レーザー光を透過させる透明または半透明の熱可塑性樹脂のことを指し、それ自身がレーザー光の持つエネルギーを吸収し熱へ変換することが起こりにくい熱可塑性樹脂である。そのような熱可塑性樹脂の例として、ポリカーボネート系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリ塩化ビニリデン系樹脂、ポリアクリル系樹脂、ポリアクリルアミド系樹脂、ポリジエン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂等が挙げられる。フィルム状封止用樹脂200の厚さは、一般に10〜200μm、好ましくは30〜150μmの範囲内である。また、フィルム状封止用樹脂200の厚さは、上述のシート状多孔質基材120より薄いことが好ましく、特にシート状多孔質基材120の厚さの10〜80%の範囲内であることが好ましい。フィルム状封止用樹脂200の厚さがシート状多孔質基材120の厚さの10%未満であると、多孔質基材の封止が不十分となり、反応ガスがガス拡散層の端部からセパレータの外に漏洩するおそれがある。反対にフィルム状封止用樹脂200の厚さがシート状多孔質基材120の厚さの80%より厚いと、封止用樹脂が過剰となり、封止部に段差が生じ望ましくない。
【0025】
本発明によると、図3(A)に示したように、シート状多孔質基材120の周縁部にフィルム状封止用樹脂200を積層配置した後、フィルム状封止用樹脂200にレーザー光を照射する。レーザー光を照射した部分の封止用樹脂が溶融してシート状多孔質基材120に含浸し、レーザー光の照射が停止する(例えば、走査されるレーザー光が通過する)ことにより含浸樹脂が冷却固化し、図3(B)に示したように封止部210を形成する。多孔質基材に樹脂封止部を形成するため従来行われていた樹脂溶液の含浸や溶融樹脂の熱圧封入では、樹脂の含浸または封入の程度を制御することが困難である。レーザーを使用すると、熱で溶融する樹脂部分が極めて限定され、レーザーの照射条件(強度、照射時間または走査速度等)によって樹脂の溶融を精密に制御することができ、ひいては樹脂の含浸をコントロールすることが容易となる。また、ガラス転移点が高い耐熱性材料を多孔質基材に溶融含浸させるためには、一般に200℃以上の高温が必要である。その場合、フィルム状樹脂を高温で熱プレスしたときには、常温に戻した際にフィルム状樹脂が収縮して変形する可能性があるが、レーザーでは熱の影響が局部に限定されるため、ほとんど変形が生じることなく溶融含浸を行うことができる。さらに、電解質膜に比べて融点やガラス転移点が高く、耐久性、耐熱性その他の性能に優れるエンジニアリングプラスチックを封止用樹脂として用い、熱プレス等の従来方法で樹脂を多孔質基材に含浸させる場合には、電解質膜の耐熱温度以上の加熱を必要とするため、実質的に実施困難である。しかし、レーザーを用いた場合にはレーザー照射部分のみが加熱され、電解質膜その他の部分に熱による悪影響を与えないため、エンジニアリングプラスチックを用いることもできる。
【0026】
本発明によるレーザー光照射に使用可能なレーザーとしては、半導体レーザー、気体(He−Ne、Ar+、CO2)レーザー、固体(ルビー、ガラス)レーザー、液体(有機、色素)レーザー、YAGレーザー等が挙げられる。上記レーザーは、汎用レーザー樹脂溶着機に用いられるものとしてよく知られている。レーザー光照射の条件については、当業者であれば、使用する具体的な多孔質基材や封止用樹脂に応じて適宜設定することができるが、一例として、CO2レーザー(波長940nm)を出力3〜15W、レーザースポット径1.5〜2.7mm、走査速度3〜10mm/秒で照射することが挙げられる。
【0027】
本発明によりフィルム状封止用樹脂200にレーザー光を照射する際には、シート状多孔質基材120への含浸を促進するため、封止用樹脂200を多孔質基材120に対して押し当てることが好ましい。押し当ては、適当な台(図示なし)の上にシート状多孔質基材120を載せ、その上にフィルム状封止用樹脂200を積層配置し、さらにその上にガラス板等のレーザー光透過性の基板(図示なし)を載せて、適当な締結治具で台と基板の間に最大9.8×105Pa(10kgf/cm2)程度の圧力を加えることにより行うことができる。レーザー光照射により加熱・溶融された封止用樹脂は、多孔質基材に対して押し当てられるので、多孔質基材の細孔内への含浸が促進される。
【0028】
図4に、本発明によるガス拡散層要素100を膜電極接合体300の両側に組み合わせた、本発明による好ましい固体高分子形燃料電池の略分解構成図を示す。膜電極接合体300に用いられる高分子電解質膜310は、プロトン(H+)伝導性が高く、電子絶縁性であり、かつ、ガス不透過性であるものであれば、特に限定はされず、公知の高分子電解質膜であればよい。代表例として、含フッ素高分子を骨格とし、スルホン酸基、カルボキシル基、リン酸基、ホスホン基等の基を有する樹脂が挙げられる。高分子電解質膜310の厚さは、抵抗に大きな影響を及ぼすため、電子絶縁性およびガス不透過性を損なわない限りにおいてより薄いものが求められ、具体的には、5〜50μm、好ましくは10〜30μmの範囲内に設定される。高分子電解質膜310の代表例としては、側鎖にスルホン酸基を有するパーフルオロポリマーであるナフィオン(登録商標)膜(デュポン社製)およびフレミオン(登録商標)膜(旭硝子社製)が挙げられる。また、延伸多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜にイオン交換樹脂を含浸させた補強型高分子電解質膜であるGORE−SELECT(登録商標)(ジャパンゴアテックス社製)を好適に用いることもできる。
【0029】
触媒層320としては、触媒粒子とイオン交換樹脂を含むものであれば特に限定はされず、従来公知のものを使用することができる。触媒は、通常、触媒粒子を担持した導電材からなる。触媒粒子としては、水素の酸化反応あるいは酸素の還元反応に触媒作用を有するものであればよく、白金(Pt)その他の貴金属のほか、鉄、クロム、ニッケル等、およびこれらの合金を用いることができる。導電材としては炭素系粒子、例えばカーボンブラック、活性炭、黒鉛等が好適であり、特に微粉末状粒子が好適に用いられる。代表的には、表面積20m2/g以上のカーボンブラック粒子に、貴金属粒子、例えばPt粒子またはPtと他の金属との合金粒子を担持したものがある。特に、アノード用触媒については、Ptは一酸化炭素(CO)の被毒に弱いため、メタノールのようにCOを含む燃料を使用する場合には、Ptとルテニウム(Ru)との合金粒子を用いることが好ましい。触媒層320中のイオン交換樹脂は、触媒を支持し、触媒層を形成するバインダーとなる材料であり、触媒によって生じたイオン等が移動するための通路を形成する役割をもつ。このようなイオン交換樹脂としては、先に高分子電解質膜310に関連して説明したものと同様のものを用いることができる。触媒層320は、アノードでは水素、メタノール等の燃料ガスおよびカソードでは酸素、空気等の酸化剤ガスが触媒とできるだけ多く接触することができるように、触媒層320は多孔性であることが好ましい。また、触媒層320中に含まれる触媒量は、0.01〜1mg/cm2、好ましくは0.1〜0.5mg/cm2の範囲内にあることが好適である。
【0030】
触媒層320を高分子電解質膜310に接合して膜電極接合体300にする方法としては、高分子電解質膜310を損なうことなく接触抵抗が低い緻密な接合が達成されるものであれば、従来公知のいずれの方法でも採用することができる。例えば、スクリーン印刷法、スプレー塗布法、デカール法等、従来公知の方法により触媒層320を高分子電解質膜310に接合することができる。
【0031】
このように触媒層320を高分子電解質膜310と組み合わせて得られた膜電極接合体300の少なくとも一方の側に、本発明によるガス拡散層100を組み合わせることにより、本発明による固体高分子形燃料電池を形成することができる。その際、図4に示したように、ガス拡散層100の一方に接着剤250を配置し、熱プレスで一体化してもよい。接着剤250としては、プリント配線基板用接着シートのような接着シートを用いればよい。熱プレスの条件は、用いる接着剤250の接着条件に応じて、特に高分子電解質膜310を損なわないように設定すればよい。
【0032】
固体高分子形燃料電池の一体化順序としては、まず触媒層320とガス拡散層100を組み合わせてアノード電極またはカソード電極を形成し、これらを高分子電解質膜310に接合する順序であってもよい。例えば、適当な溶媒を用いて触媒粒子とイオン交換樹脂を含む触媒層形成用コーティング液を調製し、これを本発明によるガス拡散層100に塗工することにより触媒層320を形成し、これを高分子電解質膜310に接合することもできる。
【0033】
図5に、本発明の別態様による固体高分子形燃料電池の製造方法を説明する略横断面図を示す。この態様では、図5(A)に示したように、まず膜電極接合体の両側(アノード側およびカソード側)にそれぞれのシート状多孔質基材120を組み合わせた後に、少なくとも一方の多孔質基材120の周縁部にフィルム状封止用樹脂200を積層配置する。次いで、フィルム状封止用樹脂200にレーザー光を照射することにより該フィルム状封止用樹脂200を溶融させて該周縁部の細孔内に含浸させ、図5(B)に示したように、該多孔質基材の周縁部の細孔内に封止用樹脂が含浸された封止部210を形成する。さらに反対側の多孔質基材120の周縁部にフィルム状封止用樹脂200を積層配置して、同様にレーザー光を照射することにより反対側の多孔質基材120の周縁部に封止部を形成してもよい(図示なし)。
【0034】
上述のようにして接合して得られた固体高分子形燃料電池を、アノード側とカソード側が所定の側にくるようにセパレータ板および冷却部を交互に10〜100セル積層することにより、燃料電池スタックを組み立てることができる。燃料電池スタックの組み立ては、従来公知の方法によることができる。
【実施例】
【0035】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。
実施例1
拡散層要素の作製
シート状多孔質基材として20×20cm、厚さ200μmの多孔質カーボンペーパー(東レ製、TGP−H−060)を用意した。その片面に、PTFEディスパージョン(ダイキン工業製、ポリフロンPTFE・D−1)を、カーボンペーパーに対して10質量%の量で塗布することにより撥水処理を施した。さらに、そのカーボンペーパーの撥水処理面に、カーボンブラック(デンカ製、デンカブラック)と上記PTFEディスパージョンとの質量比1:1の混合液を厚さ20μmの乾燥被膜が得られるように塗布することにより保護層を形成した。
【0036】
フィルム状封止用樹脂として15×15cm、厚さ50μmのポリカーボネートフィルムを用意し、その中央部5.5×5.5cmを切り取り、額縁状のフィルムを作製した。上記シート状多孔質基材を6×6cmの大きさに切り取り、その撥水処理が施されていない面を上にして台に配置した。次いで、その多孔質基材の各周縁部に2.5mmの重なり領域が生じるように、上記額縁状フィルムを積層配置し、さらにそのフィルムの上に厚さ0.8cm、大きさ30×30cmの透明ソーダーガラス板を載せた。そして、上記多孔質基材と上記フィルムとの間に9.8×105Pa(10kgf/cm2)の圧力がかかるようにガラス板に対して台を空気圧で押し当てた。
【0037】
次いで、汎用レーザー樹脂溶着機(株式会社ファインディバイス製、型式FD−200)を用い、CO2レーザー(波長940nm、スポット径2.7mm、出力15mW)を、走査速度10mm/秒で、ガラス板を通して上記重なり領域に照射した。レーザー照射された領域のポリカーボネートフィルムが溶融して多孔質カーボンペーパーの細孔内に含浸し、ポリカーボネートフィルムと多孔質カーボンフィルムの重なり領域の段差(50μm)が消失した。その後、加圧を解除し、多孔質カーボンフィルムの周縁部がポリカーボネートで封止されたガス拡散層要素を取り出した。
【0038】
膜電極接合体(MEA)の作製
白金ルテニウム合金(白金/ルテニウム質量比1:1)担持カーボン(カーボン:合金質量比1:1)と水を質量比1:3で予め混合した。この混合液と、上記白金ルテニウム合金担持カーボンに対して2.5倍量のナフィオン(登録商標)20質量%溶液(デュポン社製:SE−20092、イオン交換容量:0.9ミリ等量/グラム)と、上記白金ルテニウム合金担持カーボンに対して18倍量のエタノールとを均一に混合することにより、固形分濃度6質量%のアノード用触媒層形成用塗工液を調製した。また、白金担持カーボン(カーボン:白金質量比1:1)と水を質量比1:3で予め混合した。この混合液と、上記白金担持カーボンに対して2.5倍量の上記ナフィオン(登録商標)20質量%溶液と、上記白金担持カーボンに対して18倍量のエタノールとを均一に混合することにより、固形分濃度6質量%のカソード用触媒層形成用塗工液を調製した。高分子電解質膜として、10×10cmの大きさのイオン交換膜GORE−SELECT(登録商標)(ジャパンゴアテックス社製)を用意した。また、中央部に5×5cmの正方形切抜きパターンを含むスクリーンメッシュ(ミノグループ社製:T−70)を用意した。このスクリーンメッシュを、高分子電解質膜の片面に配置し、その上から上記アノード用触媒層形成用塗工液をパターン塗工して80℃で乾燥する塗工・乾燥工程を繰り返すことにより、切抜きに対応する厚さ10μm、白金ルテニウム担持量0.45mg/cm2のアノード用触媒層を形成した。次いで、中央部に5×5cmの正方形切抜きパターンを含むスクリーンメッシュ(ミノグループ社製:T−70)を用意した。このスクリーンメッシュを、上記イオン交換膜の上記アノード用触媒層とは反対面に配置し、その上から上記カソード用触媒層形成用塗工液をパターン塗工して80℃で乾燥する塗工・乾燥工程を繰り返すことにより、切抜きに対応する厚さ10μm、白金担持量0.4mg/cm2のカソード用触媒層を形成し、MEAを作製した。
【0039】
固体高分子形燃料電池の作製および評価
上記MEAの両面に上記ガス拡散層要素を、その撥水処理が施されている面をMEA側にして貼付することにより固体高分子形燃料電池を作製した。貼付は、ガス拡散層要素の一方に、図4に示したように接着シート(日東シンコー製、FB−ML4)を配置し、これを他方のガス拡散層要素に熱プレス(温度150℃、圧力5.0MPa)で押し当てることにより行った。得られた固体高分子形燃料電池を、アクティブエリア5×5cmの燃料電池用単セルに装着し、セル温度を80℃にし、水素ガスおよび空気の露点を80℃(相対湿度を100%RH)にし、水素および酸素の利用率をそれぞれ80%、40%として発電性能の測定を行った。また、燃料電池のリーク検査を以下のように行った。成形した枠を含むセルサイズを7×7cm、電極サイズを5×5cmとし、周辺部を厚さ0.5mmのシリコンシートで挟みシールした。これをセパレータに組み込み水没させ、セルの片側を空気またはヘリウムで加圧した。加圧面の反対側は解放しておき、セルが空気またはヘリウムを漏洩するとその反対側からバブルが発生するようにした。0MPaから圧力を高めていき、バブルの発生が目視で確認できた時点の圧力をリーク圧力とした。
固体高分子形燃料電池の運転は、リーク等の問題もなく、電流密度0.5A/cm2において電圧0.68Vの発電性能が得られた。
【0040】
実施例2
実施例1と同様に、シート状多孔質基材としての多孔質カーボンペーパーに撥水処理を施し、その撥水処理面に保護層を形成した。また、実施例1と同様にMEAを作製した。このMEAの両面に上記多孔質カーボンペーパーを、その撥水処理が施されている面をMEA側にして貼付することにより固体高分子形燃料電池の基本構造体を作製した。
【0041】
フィルム状封止用樹脂として15×15cm、厚さ50μmのポリエーテルサルフォン(PES)フィルムを用意し、その中央部5.5×5.5cmを切り取り、額縁状のフィルムを作製した。上記基本構造体を6×6cmの大きさに切り取り、台に配置した。次いで、その多孔質カーボンペーパーの各周縁部に2.5mmの重なり領域が生じるように、上記額縁状フィルムを積層配置し、さらにそのフィルムの上に厚さ0.8cm、大きさ30×30cmの透明ソーダーガラス板を載せた。そして、上記多孔質基材と上記フィルムとの間に9.8×105Pa(10kgf/cm2)の圧力がかかるようにガラス板に対して台を空気圧で押し当てた。
【0042】
次いで、上記汎用レーザー樹脂溶着機を用い、CO2レーザー(波長940nm、スポット径2.7mm、出力10mW)を、走査速度5mm/秒で、ガラス板を通して上記重なり領域に照射した。レーザー照射された領域のPESフィルムが溶融して多孔質カーボンペーパーの細孔内に含浸し、PESフィルムと多孔質カーボンフィルムの重なり領域の段差(50μm)が消失し、多孔質カーボンフィルムの周縁部がPESで封止された。
【0043】
得られた固体高分子形燃料電池を、実施例1と同様に評価セルに装着し、性能を測定した。固体高分子形燃料電池の運転は、リーク等の問題もなく、電流密度0.5A/cm2において電圧0.68Vの発電性能が得られた。
【0044】
比較例1
ポリカーボネートフィルムの多孔質カーボンフィルムへの含浸を、レーザー照射の代わりに、150℃、2MPa、2分間の条件で熱プレスを行い接着したことを除き、実施例1と同様に、多孔質カーボンフィルムの周縁部がポリカーボネートで封止されたガス拡散層要素を作製した。この要素を用いて、実施例1と同様に固体高分子形燃料電池を作製し、それを評価セルに装着して性能の評価を行った。しかし、封止が不十分で反応ガスがリークしたため、性能評価をすることができなかった。これは、ポリカーボネートフィルムとカーボンフィルムとの線熱膨張率の違いにより、熱プレス後にゆがみが発生したことに起因する。
【0045】
比較例2
ポリカーボネートフィルムの多孔質カーボンフィルムへの含浸を、レーザー照射の代わりに、150℃、2MPa、2分間の条件で熱プレスを行い接着したことを除き、実施例2と同様に、多孔質カーボンフィルムの周縁部がポリカーボネートで封止された固体高分子形燃料電池を作製した。この固体高分子形燃料電池を評価セルに装着して性能の評価を行った。しかし、封止が不十分で反応ガスがリークしたため、性能評価をすることができなかった。これは、ポリカーボネートフィルムとカーボンフィルムとの線熱膨張率の違いにより、熱プレス後にゆがみが発生したことに起因する。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】従来の燃料電池の構造を示した略分解斜視図である。
【図2】従来の燃料電池の基本構造を示した略横断面図である。
【図3】本発明によるガス拡散層要素の製法を示す略横断面図である。
【図4】本発明による固体高分子形燃料電池の製法を示す略分解横断面図である。
【図5】本発明の別態様による固体高分子形燃料電池の製法を示す略横断面図である。
【符号の説明】
【0047】
11 高分子電解質膜
12 多孔質触媒電極
13 セパレータ
14 膜電極接合体(MEA)
15 パッキン
21 樹脂封止部
100 ガス拡散層要素
120 シート状多孔質基材
200 フィルム状封止用樹脂
210 封止部
250 接着剤
300 膜電極接合体
310 高分子電解質膜
320 触媒層
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート状多孔質基材と、該多孔質基材の周縁部の細孔内に含浸された封止用樹脂とを含む固体高分子形燃料電池用ガス拡散層要素であって、該封止用樹脂の含浸を、該周縁部に積層配置されたフィルム状封止用樹脂にレーザー光を照射して該フィルム状封止用樹脂を溶融させることにより行ったことを特徴とする固体高分子形燃料電池用ガス拡散層要素。
【請求項2】
該シート状多孔質基材が、該レーザー光のエネルギーを吸収することにより発熱する、請求項1に記載の固体高分子形燃料電池用ガス拡散層要素。
【請求項3】
該フィルム状封止用樹脂が該レーザー光を実質的に透過する熱可塑性樹脂である、請求項2に記載の固体高分子形燃料電池用ガス拡散層要素。
【請求項4】
シート状多孔質基材の周縁部にフィルム状封止用樹脂を積層配置する工程と、
該フィルム状封止用樹脂にレーザー光を照射することにより該フィルム状封止用樹脂を溶融させて該周縁部の細孔内に含浸させる工程と
を含んでなる、該多孔質基材の周縁部の細孔内に含浸された封止用樹脂を含む固体高分子形燃料電池用ガス拡散層要素の製造方法。
【請求項5】
順に、アノード側ガス拡散層、膜電極接合体およびカソード側ガス拡散層を含んでなり、少なくとも一方の側のガス拡散層が請求項1〜3のいずれか1項に記載のガス拡散層要素を含むことを特徴とする固体高分子形燃料電池。
【請求項6】
シート状多孔質基材の周縁部にフィルム状封止用樹脂を積層配置する工程と、
該フィルム状封止用樹脂にレーザー光を照射することにより該フィルム状封止用樹脂を溶融させて該周縁部の細孔内に含浸させ、該多孔質基材の周縁部の細孔内に含浸された封止用樹脂を含むガス拡散層要素を得る工程と、
該ガス拡散層要素を少なくとも一方の側のガス拡散層とし、これに順に膜電極接合体および反対側のガス拡散層を組み合わせる工程と
を含んでなる固体高分子形燃料電池の製造方法。
【請求項7】
順に、アノード側ガス拡散層、膜電極接合体およびカソード側ガス拡散層を組み合わせる工程と、
少なくとも一方の側のガス拡散層の周縁部にフィルム状封止用樹脂を積層配置する工程と、
該フィルム状封止用樹脂にレーザー光を照射することにより該フィルム状封止用樹脂を溶融させて該周縁部の細孔内に含浸させる工程と
を含んでなる固体高分子形燃料電池の製造方法。
【請求項8】
さらに反対側のガス拡散層の周縁部にフィルム状封止用樹脂を積層配置する工程と、
該フィルム状封止用樹脂にレーザー光を照射することにより該フィルム状封止用樹脂を溶融させて該周縁部の細孔内に含浸させる工程と
を含む、請求項7に記載の製造方法。
【請求項1】
シート状多孔質基材と、該多孔質基材の周縁部の細孔内に含浸された封止用樹脂とを含む固体高分子形燃料電池用ガス拡散層要素であって、該封止用樹脂の含浸を、該周縁部に積層配置されたフィルム状封止用樹脂にレーザー光を照射して該フィルム状封止用樹脂を溶融させることにより行ったことを特徴とする固体高分子形燃料電池用ガス拡散層要素。
【請求項2】
該シート状多孔質基材が、該レーザー光のエネルギーを吸収することにより発熱する、請求項1に記載の固体高分子形燃料電池用ガス拡散層要素。
【請求項3】
該フィルム状封止用樹脂が該レーザー光を実質的に透過する熱可塑性樹脂である、請求項2に記載の固体高分子形燃料電池用ガス拡散層要素。
【請求項4】
シート状多孔質基材の周縁部にフィルム状封止用樹脂を積層配置する工程と、
該フィルム状封止用樹脂にレーザー光を照射することにより該フィルム状封止用樹脂を溶融させて該周縁部の細孔内に含浸させる工程と
を含んでなる、該多孔質基材の周縁部の細孔内に含浸された封止用樹脂を含む固体高分子形燃料電池用ガス拡散層要素の製造方法。
【請求項5】
順に、アノード側ガス拡散層、膜電極接合体およびカソード側ガス拡散層を含んでなり、少なくとも一方の側のガス拡散層が請求項1〜3のいずれか1項に記載のガス拡散層要素を含むことを特徴とする固体高分子形燃料電池。
【請求項6】
シート状多孔質基材の周縁部にフィルム状封止用樹脂を積層配置する工程と、
該フィルム状封止用樹脂にレーザー光を照射することにより該フィルム状封止用樹脂を溶融させて該周縁部の細孔内に含浸させ、該多孔質基材の周縁部の細孔内に含浸された封止用樹脂を含むガス拡散層要素を得る工程と、
該ガス拡散層要素を少なくとも一方の側のガス拡散層とし、これに順に膜電極接合体および反対側のガス拡散層を組み合わせる工程と
を含んでなる固体高分子形燃料電池の製造方法。
【請求項7】
順に、アノード側ガス拡散層、膜電極接合体およびカソード側ガス拡散層を組み合わせる工程と、
少なくとも一方の側のガス拡散層の周縁部にフィルム状封止用樹脂を積層配置する工程と、
該フィルム状封止用樹脂にレーザー光を照射することにより該フィルム状封止用樹脂を溶融させて該周縁部の細孔内に含浸させる工程と
を含んでなる固体高分子形燃料電池の製造方法。
【請求項8】
さらに反対側のガス拡散層の周縁部にフィルム状封止用樹脂を積層配置する工程と、
該フィルム状封止用樹脂にレーザー光を照射することにより該フィルム状封止用樹脂を溶融させて該周縁部の細孔内に含浸させる工程と
を含む、請求項7に記載の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【公開番号】特開2008−135295(P2008−135295A)
【公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−320669(P2006−320669)
【出願日】平成18年11月28日(2006.11.28)
【出願人】(000107387)ジャパンゴアテックス株式会社 (121)
【出願人】(593072118)ニッポー株式会社 (8)
【出願人】(397003105)株式会社ファインディバイス (4)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年11月28日(2006.11.28)
【出願人】(000107387)ジャパンゴアテックス株式会社 (121)
【出願人】(593072118)ニッポー株式会社 (8)
【出願人】(397003105)株式会社ファインディバイス (4)
【Fターム(参考)】
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