説明

固体高分子形燃料電池用膜電極接合体および固体高分子形燃料電池

【課題】電極面内湿度環境を均一に湿潤にし、電池性能が長時間低下し難く、負荷変動に対応出来る固体高分子形燃料電池用膜電極接合体および燃料電池を提供する。
【解決手段】カソード触媒層とガス拡散層の間に中間層が設けられ、カソード供給ガス上流域にあたる中間層はカソード供給ガス下流域における中間層と比較して水透過性が低い構造であって、カソード供給ガス上流域にあたる触媒層はカソード供給ガス下流域における触媒層と比較して保湿性が高い構造であり、且つ水透過性の低い中間層に対して保湿性が高い触媒層の面積を大きくした燃料電池用膜電極接合体およびそれを用いた燃料電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は固体高分子形燃料電池用膜電極接合体およびそれを用いた固体高分子形燃料電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、電解質を介して一対の電極を接触させた構成を有する。このように構成された燃料電池では、一方の電極に燃料を供給すると共に、他方の電極に酸化剤を供給して、燃料を電池内で電気化学的に反応(酸化)させることにより、化学エネルギーを電気エネルギーに直接変換することができる。燃料電池には電解質によりいくつかの型があるが、近年、高出力の得られる燃料電池として、電解質に固体高分子電解質膜を用いた固体高分子形燃料電池(PEFC)が注目されている。
【0003】
この固体高分子形燃料電池において、燃料極(アノード)に水素ガスを供給すると共に、空気極(カソード)に酸化剤(通常は、酸素を含む空気)を供給すると、次に示すような反応が生じるので、電極間に発生する起電力として電気エネルギーを取り出すことが可能となる。
アノード反応:H2→2H++2e-
カソード反応:2H++2e-+1/2O2→H2
【0004】
固体高分子形燃料電池において反応を効率よく継続的に行うには、イオン伝導抵抗を低下させることおよび両電極の触媒層に反応ガスを連続的に供給することが重要である。固体高分子電解質膜は、湿潤に保たれた状態で低いイオン伝導抵抗を示すため水の存在が不可欠である。カソード極では電池反応により水を生成するものの、アノード供給ガスやカソード供給ガスをそのまま用いた場合には水分が蒸発して電解質膜が乾燥するため、供給ガスを予めバブラーで加湿する外部加湿方式が行われている。
【0005】
しかしながら、システムを簡素化するためにバブラーを使用せずに加湿した場合、ガス導入口付近では電解質膜が湿潤に保たれずイオン伝導抵抗が増大し電池性能が低下する問題が生じる。
【0006】
その一方、電池反応等により電池内に生成する水が電極の多孔質ガス拡散層で滞留すると、反応ガスの拡散経路が閉塞して電池性能が低下する。そのため、多孔質ガス拡散層には水が連続的に排出されるようにフッ素樹脂などを使用した撥水処理が施されている。
【0007】
しかしながら、発電量の変動といった運転環境の変化により電池反応に伴う生成水の排出が不十分となる場合があり、その場合、反応ガスの拡散経路が閉塞して反応ガスの触媒層への供給が困難になり出力が低下する問題がある。特に、カソード下流域ではこの問題が生じやすい。
【0008】
このような問題を解決する方法として、カソード触媒層とカソードガス拡散層の間にカソードガス流れ方向に沿い平均気孔径および厚さが変化する中間層を形成することで面内の湿度分布を均一化する方法が提案されている(例えば特許文献1参照)。
【0009】
またカソードに含まれるイオン交換樹脂のイオン交換容量が、カソードガス導入方向の上流側と比較して下流側で大きくなるようにすることで面内の湿度分布を改善する方法が提案されている(例えば特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2003−92112号公報
【特許文献2】特開2005−259650号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、電極内の湿度分布を一定とする役割を中間層に担わせた場合、低露点のカソードガスを連続的に供給すると中間層から離れた触媒層および電解質膜を十分に湿潤な状態に保つことが出来ないおそれがある。一方、触媒層構造のみによる湿度分布の改善は、負荷変動等による湿度環境の変化に追随できず電池性能が低下するおそれがある。また、湿度環境を細かく調節するために面内で触媒層や中間層を多数回塗り分けた場合、回数が多くなるほど高い精度が必要となることから歩留まりの低下やコストの増大が懸念される。
【0012】
従って、この発明の目的は、低露点カソードガスを導入する運転条件においても電極面内の湿度環境を均一に湿潤に保ち、長時間の運転でも電池性能が低下し難く、且つ負荷変動に対応できる固体高分子形燃料電池用膜電極接合体およびそれを用いた固体高分子形燃料電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この発明の固体高分子形燃料電池用電極膜接合体は、固体高分子電解質膜と、上記固体高分子電解質のアノード側およびカソード側にそれぞれ設けられたアノード触媒層およびカソード触媒層と、上記アノード触媒層および上記カソード触媒層の外側にそれぞれ設けられたアノード中間層およびカソード中間層と、上記アノード中間層および上記カソード中間層の外側にそれぞれ設けられたアノードガス拡散層およびカソードガス拡散層とを備え、上記カソード中間層のカソード供給ガスの流動方向において上流側に位置する上流側カソード中間層が、上記カソード中間層のカソード供給ガスの流動方向において下流側に位置する下流側カソード中間層よりも水透過性に劣る構造を持っており、上記カソード触媒層の上記カソード供給ガスの流動方向において上流側に位置する上流側カソード触媒層が、上記カソード触媒層のカソード供給ガスの流動方向において下流側に位置する下流側カソード触媒層よりも保湿性に優れた構造を持っており、上記上流側カソード中間層の面積よりも大きな面積を持っていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
この発明によれば、面内湿度分布の大きくなる運転条件において湿度環境を湿潤に保ち長時間の運転でも電池性能が低下し難く、且つ負荷変動に対応出来る固体高分子形燃料電池用膜電極接合体およびそれを用いた固体高分子形燃料電池を簡便に提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】この発明の実施の形態1の固体高分子形燃料電池用膜電極接合体を示す断面模式図である。
【図2】図1の固体高分子形燃料電池用膜電極接合体を用いた単セル固体高分子形燃料電池を示す断面模式図である。
【図3】図1に示すカソードを示す断面模式図である。
【図4】図2の固体高分子形燃料電池のカソードを示す分解斜視図である。
【図5】図2の固体高分子形燃料電池の負荷電流に対する電圧値による電池性能を比較例と比較して示すグラフである。
【図6】図2の固体高分子形燃料電池における中間層に一定流量の水が透過する際に生じる圧力を比較したグラフである。
【図7】図2の固体高分子形燃料電池のカソード触媒層内の湿度分布を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、この発明をより詳細に説明するため、この発明の実施の形態を添付の図面を参照して説明する。なお、各図中、同一又は相当する部分には同一の符号を付しており、その重複説明は適宜に簡略化ないし省略する。また、図面は簡略化して書かれており、寸法および形状は必ずしも正確ではない。
【0017】
実施の形態1.
図1はこの発明の固体高分子形燃料電池用膜電極接合体の一実施の形態を示す模式断面図であり、図2は図1に示す固体高分子形燃料電池用膜電極接合体を用いた固体高分子形燃料電池を示す模式断面図であり、図3は図1に示す固体高分子形燃料電池用膜電極接合体の詳細を示す模式的断面図であり、図4は固体高分子形燃料電池のカソードを示す分解斜視図である。
【0018】
図1において、固体高分子形燃料電池用膜電極接合体10は、プロトン伝導性の固体高分子電解質膜11と、固体高分子電解質膜11の両面に配置されたアノード12およびカソード13とを備えている。アノード12は、固体高分子電解質膜11の一方の面と接するアノード側のアノード触媒層14と、アノード側のアノード触媒層14の外側に配置されたアノード側のアノード中間層15と、アノード中間層15の外側に配置された多孔質のアノードガス拡散層16とを備えている。同様に、カソード13は、固体高分子電解質膜11の他方の面に接するカソード触媒層17と、カソード触媒層17の外側に配置されたカソード側のカソード中間層18と、カソード中間層18の外側に配置された多孔質のカソードガス拡散層19とを備えている。アノード中間層15は必ずしも必要なものではなく、省略される場合もある。
【0019】
図2において、固体高分子形燃料電池20は、固体高分子形燃料電池用膜電極接合体10と、固体高分子形燃料電池用膜電極接合体10を挟持する一対のセパレータ21aおよび21bと、アノード12およびカソード13それぞれの周囲の固体高分子電解質膜11とセパレータ21aおよび21bとの間に配置されたガスケット22とを備えており、アノード12およびカソード13は外部負荷23に接続されている。セパレータ21aおよび21bには、凹部を複数箇所設けることにより、アノード12およびカソード13にそれぞれガスを供給するためのガス流路24aおよび24bが形成されている。
【0020】
また、アノード中間層15およびカソード中間層18は多孔質ガス拡散層と触媒層との電気的な接触を良好にしたり、発電時に生成した水を調節したりする役割を有し、例えば、カーボンブラック粉末に撥水性樹脂の分散液を加えて混練したインクを、多孔質ガス拡散層の触媒層が形成される側にスクリーン印刷、ドクターブレード、スプレー法等の方法で塗布し、110℃程度で十分に乾燥させた後、350℃程度で焼成することにより形成することができる。導電性多孔質カーボン層形成用のインクに用いる撥水性樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ素化エチレンプロピレン(FEP)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等のフッ素系樹脂、シリコーン系樹脂等の撥水性を有する微粒子が挙げられる。また、アノード中間層15およびカソード中間層18の厚みは、薄過ぎると多孔質ガス拡散層の凹凸を十分に被覆できない場合があり、一方、厚過ぎると抵抗の増大およびガス拡散性の低下が懸念されることから、本実施の形態の固体高分子形燃料電池用膜電極接合体10においてはアノード中間層15およびカソード中間層18の厚さが1μm以上200μm以下であることが好ましく、10μm以上100μm以下であることがより好ましい。
【0021】
また、アノード触媒層14およびカソード触媒層17はカーボンブラックに白金などの貴金属微粒子を担持させた電極触媒と、パーフルオロスルホン酸系の固体高分子電解質の溶液とを混合した触媒層形成用インクを、スクリーン印刷、ドクターブレード、スプレー法等の方法により樹脂フィルム上に塗布し、乾燥させて形成する。パーフルオロスルホン酸系の固体高分子電解質膜11(例えばデュポン製ナフィオン(登録商標)や旭化成製アシプレックス(登録商標)、旭硝子製フレミオン(登録商標))の両面に、燃料極および空気極それぞれの触媒層の面が接するように樹脂フィルムを重ね合わせ、固体高分子電解質膜11のガラス転移温度付近の温度でホットプレスして触媒層と固体高分子電解質膜11とを熱融着し、樹脂フィルムを除去することにより、アノード触媒層14およびカソード触媒層17が表面にそれぞれ形成された固体高分子電解質膜11を得る。なお、触媒層には、バインダとしてフッ素系樹脂やポリエチレン樹脂等が含まれる場合がある。触媒層中にふくまれる電極触媒と固体高分子電解質との比率は、電極触媒に含まれるカーボン成分1重量部に対して、アノード触媒層14で、通常、0.2重量部以上2.0重量部以下であり、0.8重量部以上1.5重量部以下であることが好ましく、カソード触媒層17で、通常、0.2重量部以上1.5重量部以下であり、0.3重量部以上1.0重量部以下であることが好ましい。このとき、イオン交換容量の異なる固体高分子電解質の選択や固体電解質の混合比率を変えることで触媒層の重量当たりに含まれるイオン交換基の量を調節することが出来る。このアノード触媒層14およびカソード触媒層17が表面にそれぞれ形成された固体高分子電解質膜11を、先に作製したカソード中間層18およびアノード中間層15で挟み、固体高分子電解質膜11のガラス転移温度付近の温度でホットプレスすることで、固体高分子形燃料電池用膜電極接合体10が得られる。
【0022】
このように構成された固体高分子形燃料電池20において、水素ガスをセパレータ21aに形成されたガス流路24aからアノード12に供給すると、水素ガスはアノードガス拡散層16およびアノード側の導電性多孔質カーボン層であるアノード中間層15を通過し、アノード触媒層14に向かって拡散していく。アノード触媒層14に達した水素ガスは、触媒による酸化反応によりプロトン(水素イオン)と電子を発生する。このプロトンは、固体高分子電解質膜11を通過してカソード13に移動する。一方、電子は、外部回路を通ってカソード13に到達する。カソード13では、固体高分子電解質膜11中を通過してきたプロトンと、外部回路から送られてきた電子と、セパレータ21bに形成されたガス流路24bから多孔質のカソードガス拡散層19およびカソード側導電性多孔質カーボン層であるカソード中間層18を介して供給される空気中の酸素とがカソード触媒層17により反応し、水が生成される。その際、電極間に発生する起電力として電気エネルギーを取り出すことが可能となる。
【0023】
図3には、固体高分子形燃料電池用膜電極接合体10のカソード13を拡大して示し、図4には固体高分子形燃料電池のカソードを固体高分子形電解質膜およびガス拡散層と共に示してある。カソードガス拡散層19には当該技術分野で公知の方法により、撥水処理を行った後、アノード中間層15およびカソード中間層18を形成することができる。撥水処理は、発電時に生成した水をカソードガス拡散層19内に滞留させることなく効率良く排出するために行う処理であり、例えば、フッ素系樹脂(例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE))の分散液や溶液を用いて炭素繊維基材(例えばカーボンペーパーやカーボンクロス)にフッ素系樹脂を付着させ、その後110℃程度で十分に乾燥させて水分を除去することにより行うことができる。
【0024】
固体高分子電解質膜11と、固体高分子電解質膜11のアノード側およびカソード側にそれぞれ設けられたアノード触媒層14およびカソード触媒層17と、アノード触媒層14およびカソード触媒層17の外側にそれぞれ設けられたアノード中間層15およびカソード中間層18と、アノード中間層15およびカソード中間層18の外側にそれぞれ設けられたアノードガス拡散層16およびカソードガス拡散層19とを備えており、カソード中間層18のカソード供給ガスの流動方向において上流側に位置する上流側カソード中間層18aが、カソード中間層18のカソード供給ガスの流動方向において下流側に位置する下流側カソード中間層18bよりも水透過性に劣る構造を持っており、カソード触媒層17のカソード供給ガスの流動方向において上流側に位置する上流側カソード触媒層17aが、カソード触媒層17のカソード供給ガスの流動方向において下流側に位置する下流側カソード触媒層17bよりも保湿性に優れた構造を持っており、上流側カソード中間層18aの面積よりも大きな面積を持っている。
【0025】
また、カソード中間層18が、カーボンブラックおよび撥水性樹脂により構成されており、上流側カソード中間層18aが、下流側カソード中間層18bに対してカーボンブラックに対する撥水性樹脂の重量比が大きくされており、撥水性樹脂が、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素化エチレンプロピレン、ポリフッ化ビニリデンを含むフッ素系樹脂あるいはシリコーン系樹脂である。また、上流側カソード中間層18aにおける撥水性樹脂のカーボンブラックに対する重量比が、下流側カソード中間層18bに対して4倍であり、上流側カソード中間層18aの面積の、下流側カソード中間層18bの面積に対する割合が4:6であり、アノード中間層15およびカソード中間層18の厚さが、それぞれ1μm以上200μm以下である。
【0026】
また、カソード触媒層17にはイオン交換樹脂が含まれ、上流側カソード触媒層17aは、下流側カソード触媒層17bと比較して触媒層重量当たりに含まれるイオン交換基の数が多くされており、上流側カソード触媒層17aの面積の下流側カソード触媒層17bの面積に対する割合が、5:5である。
【0027】
図1に示すような固体高分子形燃料電池用膜電極接合体10を用いて、図2に示すような固体高分子形燃料電池20を製造する場合の実施例を説明する。
【0028】
実施例1.
(多孔質のガス拡散層の作製)
水性のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)分散液に東レ製カーボンペーパーTGP−H−120の炭素繊維基材を浸漬した後、110℃で十分に乾燥させて水分を除去し、350℃で焼成して多孔質のアノードガス拡散層16およびカソードガス拡散層19を作製した。PTFEの付着量は、炭素繊維機材に対して10重量%であった。
【0029】
(カソード中間層の形成)
上述した多孔質のカソードガス拡散層19の触媒層が形成される側に、カーボンブラック粉末にPTFE分散液を加えて混練したインクをスクリーン印刷により、カソード供給ガスの流れ方向上流側の領域と下流側の領域とに分けて塗布し、厚さ約50μmの中間層を形成した。中間層にふくまれるPTFEはカーボンブラックに対して上流側カソード中間層18aで100重量%、下流側カソード中間層18bで25重量%とした。また、中間層は上流側カソード中間層18aと下流側カソード中間層18bが同一の面積となるよう形成した。形成した上流側および下流側カソード中間層18aおよび18bは110℃で十分に乾燥させて水分を除去し、350℃で焼成した。
【0030】
(アノード中間層の形成)
カソード中間層18と同様にアノード中間層インクを作製し、アノードガス拡散層19の触媒層が形成される側に、カーボンブラック粉末にPTFE分散液を加えて混練した中間層インクをスクリーン印刷で塗布し、厚さ約50μmのアノード中間層15を形成した。アノード中間層15に含まれるPTFEはカーボンブラックに対して25重量%とした。形成したアノード中間層15は110℃で十分に乾燥させて水分を除去し、350℃で焼成した。
【0031】
(カソード触媒層の形成)
カソード触媒として、カーボンブラック上に白金を50重量%担持したものを用いた。カソード供給ガス上流側の上流側カソード触媒層17a形成用のインクは、カソード触媒に含まれるカーボン成分1重量部に対して固体高分子電解質が0.8重量部となるように、カソード触媒とパーフルオロスルホン酸系の固体高分子電解質分散液とを混合した。また、カソード供給ガス下流側の下流側カソード触媒層17b形成用インクは、カソード触媒に含まれるカーボン成分1重量部に対して固体高分子電解質が0.6重量部となるように、カソード触媒とパーフルオロスルホン酸系の固体高分子電解質分散液とを混合した。
【0032】
次いで触媒層形成用インクをスクリーン印刷によりポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に塗布した。上流側カソード触媒層17aの面積と下流側カソード触媒層17bの面積比率は4:6とした。塗布面積は白金重量で0.4mg/cm2となるように塗布した。その後80℃で十分に乾燥させて水分を除去しPETフィルム上に触媒層を形成した。
【0033】
(アノード触媒層の形成)
アノード触媒として、カーボンブラック上に白金−ルテニウム合金を50重量%担持したものを用いた。アノード触媒層形成用インクは、アノード触媒に含まれるカーボン成分1重量部に対して固体高分子電解質が1重量部となるように、アノード触媒とパーフルオロスルホン酸系の固体高分子電解質分散液とを混合した。
【0034】
次いで触媒層形成用インクをスクリーン印刷によりポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に白金−ルテニウム合金重量で0.4mg/cm2となるように塗布した後、80℃で十分に乾燥させて水分を除去しPETフィルム上にアノード触媒層14を形成した。
【0035】
(両面に触媒層が形成された固体高分子電解質膜の作製)
固体高分子電解質膜11としてデュポン製ナフィオン(登録商標)112膜を用い、その両面に、上述のアノード触媒層14およびカソード触媒層17がそれぞれ接するようにPETフィルムを重ね合わせ、電解質のガラス転移温度付近の温度でホットプレスした後、PETフィルムを除去し、両面にそれぞれアノード触媒層14およびカソード触媒層17が形成された固体高分子電解質膜11を得た。
【0036】
(単セルの組み立ておよび運転方法)
上述のように作製されたアノードガス拡散層16と、アノード触媒層14およびカソード触媒層17が形成された固体高分子電解質膜11と、カソードガス拡散層19とをこの順に重ね合わせ、固体高分子電解質膜11のガラス転移温度付近の温度でホットプレスし、固体高分子形燃料電池用膜電極接合体10を作製した。次に、固体高分子形燃料電池用膜電極接合体10の外側に額縁状のPTFE製ガスケット22を張り付けた後、これらをガス流路24aおよび24bが形成されたカーボン製セパレータ21aおよび21bで両側から挟み込み、固体高分子形燃料電池を組み立てた。有効電極面積は25cm2とし、セルはロッドヒーターで85℃に加温した。図2にこのようにして組みたてた燃料電池の単セルを示し、図4には組み立てたセルのカソード極の構成を示す。この単セルを外部負荷と接続した後、ガス加湿のためにバブラーを通してアノード側には水素ガスを供給し、カソード側にはバブラーを通して空気を供給した。固体高分子電解質および電極触媒層の安定化のため、発電開始から24時間後に燃料ガスを水素からメタン改質ガスを想定した一酸化炭素10ppmを含む水素、二酸化炭素混合ガスに切り替えて電池特性を評価した。
【0037】
実施例2.
カソード触媒として、カーボンブラック上に白金を50重量%担持したものを用いた。カソード供給ガス下流側の下流側カソード触媒層17b形成用のインクは、カソード触媒に含まれるカーボン成分1重量部に対して固体高分子電解質が0.6重量部となるように、カソード触媒とパーフルオロスルホン酸系の固体高分子電解質分散液とを混合した。また、上流側カソード触媒層17a形成用インクに用いる固体高分子電解質は、下流側カソード触媒層17b形成用インクに用いる固体高分子電解質と比較してイオン交換容量が1.3倍のものを使用し、カソード触媒に含まれるカーボン成分1重量部に対して固体高分子電解質が0.6重量部となるように、カソード触媒とパーフルオロスルホン酸系の固体高分子電解質分散液とを混合した。カソード触媒層17を変更した以外は先に説明した実施の形態1と同様に単セルを作製し、電池特性を評価した。
【0038】
(電池特性の評価)
評価に当たっては、実施例1および2による燃料電池と、次に説明する従来技術による比較例1〜3による燃料電池とを運転して電池特性を比較した。
【0039】
(比較例1)
実施例1の燃料電池においてカソード供給ガス上流側中間層18aに用いた、カーボンブラック粉末に対してPTFEを100重量%となるよう添加して混練した中間層インクを、カソードガス拡散層の触媒層が形成される側全面に塗布してカソード中間層を形成した。カソード中間層以外は実施例1と同様に単セルを作製し、電池特性を評価した。
【0040】
(比較例2)
実施例1において上流側カソード触媒層17aに用いた、カソード触媒に含まれるカーボン成分1重量部に対して固体高分子電解質が0.8重量部となるようにカソード触媒とパーフルオロスルホン酸系の固体高分子電解質分散液とを混合して作製した触媒層形成用インクを用いてカソード触媒層全面を形成した以外は実施例1と同様に単セルを作製し、電池特性を評価した。
【0041】
(比較例3)
実施例1においてカソード供給ガス下流側の下流側カソード触媒層17bに用いた、カソード触媒に含まれるカーボン成分1重量部に対して固体高分子電解質が0.6重量部となるようにカソード触媒とパーフルオロスルホン酸系の固体高分子電解質分散液とを混合して作製した触媒層形成用インクを用いてカソード触媒層全面を形成した以外は実施例1と同様に単セルを作製し、電池特性を評価した。
【0042】
(運転結果)
図5に、実施例1、実施例2および比較例1、比較例2、比較例3のセル温度85℃に対し燃料ガスを湿度50%および酸化ガスを湿度65%に加湿して供給した時の電流電圧特性を示す。
【0043】
実施例1および2は比較例1と比較して、特に高電流密度領域で高い電圧を示した。触媒層のみをカソードガス上下流域で分割した場合に電極面内の湿度分布が十分に改善されずに性能が低下する結果が確認できた。実施例1および2は比較例2および3に対して高い電圧を示した。従って、供給ガス露点が低い条件において、中間層を分割するだけでは十分に湿度分布を改善することは出来ず、カソード供給ガス上流域にあたる上流側カソード触媒層17aがカソード供給ガス下流域における下流側カソード触媒層17bと比較して触媒層重量当たりに含まれるイオン交換基の数が多くなることで性能が向上することが確認できた。
【0044】
(中間層の水透過性評価)
図6には、カーボン重量に対するPTFE重量の割合を25%、40%、100%として作製した中間層について、発電時の電流値を250mA/cmとした時に生成する液相の水が中間層を透過する際にかかる圧力を測定した結果を示してある。PTFE割合が増加するにつれ水の排出に必要な圧力が増加することから水の排出速度は抑制される。カーボン重量に対するPTFE重量の割合を高めることで水分の電極内の保持能が高くなることが確認された。
【0045】
(カソード触媒層内湿度分布)
また図7に、実施例1に示した燃料電池セルにおいて発電時のカソード触媒層内湿度分布を示す。カソード触媒と中間層の組み合わせによりカソードの保水能が順次変化することからカソード触媒層の湿度環境は全面が湿潤に保たれ、且つカソード供給ガス下流部では過剰な水が排出されるためカソード触媒層内の湿度環境は飽和状態とはならない。
【0046】
以上に図示して説明した装置は単なる例であって様々な変形が可能であり、またそれぞれの具体例の特徴を全てあるいは選択的に組み合わせて用いることもできる。なお、本発明が提供する燃料電池は主に固体高分子型燃料電池(PEFC)であり、本実施形態の燃料電池としては単位セルあるいは単位セルを複数枚積層したスタック構造のものである。
【産業上の利用可能性】
【0047】
この発明は固体高分子形燃料電池用膜電極接合体およびそれを用いた固体高分子形燃料電池に利用できるものである。
【符号の説明】
【0048】
10 固体高分子形燃料電池用膜電極接合体、11 固体高分子電解質膜、12 アノード、13 カソード、14 アノード触媒層、15 アノード中間層、16 アノードガス拡散層、17 カソード触媒層、17a 上流側カソード触媒層、17b 下流側カソード触媒層、18 カソード中間層、18a 上流側カソード中間層、18b 下流側カソード中間層、19 カソードガス拡散層、20 固体高分子形燃料電池、21a、21b セパレータ、22 ガスケット、23 外部負荷、24a、24b ガス流路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体高分子電解質膜と、
上記固体高分子電解質膜のアノード側およびカソード側にそれぞれ設けられたアノード触媒層およびカソード触媒層と、
上記アノード触媒層および上記カソード触媒層の外側にそれぞれ設けられたアノード中間層およびカソード中間層と、
上記アノード中間層および上記カソード中間層の外側にそれぞれ設けられたアノードガス拡散層およびカソードガス拡散層とを備え、
上記カソード中間層のカソード供給ガスの流動方向において上流側に位置する上流側カソード中間層が、上記カソード中間層のカソード供給ガスの流動方向において下流側に位置する下流側カソード中間層よりも水透過性に劣る構造を持っており、
上記カソード触媒層の上記カソード供給ガスの流動方向において上流側に位置する上流側カソード触媒層が、上記カソード触媒層のカソード供給ガスの流動方向において下流側に位置する下流側カソード触媒層よりも保湿性に優れた構造を持っており、上記上流側カソード中間層の面積よりも大きな面積を持っていることを特徴とする固体高分子形燃料電池用膜電極接合体。
【請求項2】
上記カソード中間層が、カーボンブラックおよび撥水性樹脂により構成されていることを特徴とする請求項1に記載の固体高分子形燃料電池用膜電極接合体。
【請求項3】
上記上流側カソード中間層が、上記下流側カソード中間層に対してカーボンブラックに対する撥水性樹脂の重量比が大きいことを特徴とした請求項1又は2に記載の固体高分子形燃料電池用膜電極接合体。
【請求項4】
上記撥水性樹脂が、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素化エチレンプロピレン、ポリフッ化ビニリデンを含むフッ素系樹脂あるいはシリコーン系樹脂であることを特徴とする請求項2又は3に記載の固体高分子形燃料電池用膜電極接合体。
【請求項5】
上記上流側カソード中間層における上記撥水性樹脂の上記カーボンブラックに対する上記重量比が、上記下流側カソード中間層に対して4倍であることを特徴とする請求項4に記載の固体高分子形燃料電池用膜電極接合体。
【請求項6】
上記上流側カソード中間層の面積の、上記下流側カソード中間層の面積に対する割合が、4:6であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の固体高分子形燃料電池用膜電極接合体。
【請求項7】
上記カソード中間層の厚さが、1μm以上200μm以下であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の固体高分子形燃料電池用膜電極接合体。
【請求項8】
上記触媒層にはイオン交換樹脂が含まれ、上記上流側カソード触媒層は上記下流側カソード触媒層と比較して触媒層重量当たりに含まれるイオン交換基の数が多いことを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の固体高分子形燃料電池用膜電極接合体。
【請求項9】
上記上流側カソード触媒層の面積の上記下流側カソード触媒層の面積に対する割合が、5:5であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の固体高分子形燃料電池用膜電極接合体。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一項に記載の高分子形燃料電池用膜電極接合体を、上記アノードガス拡散層および上記カソードガス拡散層に接する面にガス流路が形成された一対のセパレータで挟持したことを特徴とする固体高分子形燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−181374(P2011−181374A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−45207(P2010−45207)
【出願日】平成22年3月2日(2010.3.2)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「固体高分子形燃料電池実用化戦略的技術開発/要素技術開発/高温熱利用型MEAの研究開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】