説明

固体高分子形燃料電池用膜電極接合体及び固体高分子形燃料電池

【課題】安価な処理で得られ、長時間の運転でも電池性能が低下し難く、且つガス拡散性に優れた多孔質ガス拡散層を有する固体高分子形燃料電池用膜電極接合体を提供すること。
【解決手段】固体高分子電解質膜と、該固体高分子電解質膜の両面に配置した電極触媒層と、該電極触媒層の外側にそれぞれ配置した多孔質ガス拡散層とを備えた固体高分子形燃料電池用膜電極接合体において、該多孔質ガス拡散層の少なくとも一方は、導電性補助剤26を含む熱硬化性樹脂硬化物27で炭素繊維25a,25b同士が結着された炭素繊維織布からなることを特徴とする固体高分子形燃料電池用膜電極接合体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子形燃料電池用膜電極接合体及び固体高分子形燃料電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、電解質を介して一対の電極を接触させた構成を有する。このように構成された燃料電池では、一方の電極に燃料を供給すると共に、他方の電極に酸化剤を供給して、燃料を電池内で電気化学的に反応(酸化)させることにより、化学エネルギーを電気エネルギーに直接変換することができる。燃料電池には電解質によりいくつかの型があるが、近年、高出力の得られる燃料電池として、電解質に固体高分子電解質膜を用いた固体高分子形燃料電池(PEFC)が注目されている。
【0003】
この固体高分子形燃料電池において、燃料極(アノード)に水素ガスを供給すると共に、空気極(カソード)に酸化剤(通常は、酸素を含む空気)を供給すると、下記に示すような反応が生じるので、電極間に発生する起電力として電気エネルギーを取り出すことが可能となる。
アノード反応:H2→2H++2e-
カソード反応:2H++2e-+1/2O2→H2
【0004】
固体高分子形燃料電池において反応を効率よく継続的に行うには、イオン伝導抵抗を低下させること及び両電極の触媒層に反応ガスを連続的に供給することが重要である。固体高分子電解質膜は、湿潤に保たれた状態で低いイオン伝導抵抗を示すので、水の存在が不可欠である。一方、電池反応等により電池内に生成する水が電極の多孔質ガス拡散層で滞留すると、反応ガスの拡散経路が閉塞して電池性能が低下するため、多孔質ガス拡散層には水が連続的に排出されるようにフッ素樹脂などを使用した撥水処理が施されている。しかしながら、発電量の変動といった運転環境の変化により電極からの生成水の排出が不十分となる場合があり、その場合、反応ガスの拡散経路が閉塞し、反応ガスの触媒層への供給が困難になる。そのため、多孔質ガス拡散層は、良好なガス拡散性を有する必要がある。
【0005】
多孔質ガス拡散層には、一般的に、炭素繊維織布、炭素繊維不織布、炭素繊維紙等が用いられる。これらの中でも、炭素繊維織布は、構造上、空隙が多いためガス拡散性に優れ、排水性も優れている。しかしながら、炭素繊維織布は、しなやかであるため圧縮時の体積変化が大きく、長時間の運転において徐々に変形してガス流路内へ入り込み、反応ガスの拡散が不均一となって安定した発電特性が得られないという問題がある。
【0006】
そこで、このような問題を解決するため、特許文献1では、炭素繊維織布に熱可塑性フッ素樹脂を含浸させた後、焼成することで、基材の硬度を高める方法が提案されている。しかし、特許文献1において、炭素繊維織布がガス流路内に入り込まない程度の硬度を得るためには、多量の熱可塑性フッ素樹脂を含浸させる必要があり、このように多量の熱可塑性フッ素樹脂を含浸させた場合には炭素繊維間に入り込んだフッ素樹脂により基材内の電子伝導性パスが失われて抵抗が増大し、発電性能が低下してしまう。
【0007】
また、特許文献2では、炭素繊維織布に熱硬化性樹脂を付着させ、加熱硬化後、黒鉛化することで、圧縮時の厚さ変化を小さくする方法が提案されている。しかし、特許文献2の方法では、熱硬化性樹脂を黒鉛化する必要があるため製造コストが嵩む上に、熱硬化樹脂の黒鉛化物の炭素繊維同士を結着する力が弱いため炭素繊維織布の強度が不十分となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−191002号公報
【特許文献2】特開2005−281871号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このように炭素繊維織布を多孔質ガス拡散層へ適用する従来の技術では、含浸させた樹脂による内部抵抗の増大や製造コストの増大という問題があった。
従って、本発明は、上記の課題を鑑みてなされたものであり、安価な処理で得られ、長時間の運転でも電池性能が低下し難く、且つガス拡散性に優れた多孔質ガス拡散層を有する固体高分子形燃料電池用膜電極接合体及びそれを用いた固体高分子形燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そこで本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、炭素繊維織布の一部又は全体に導電性補助剤と熱硬化性樹脂とを含む熱硬化性樹脂組成物を含浸、硬化させ導電性補助剤を含む熱硬化性樹脂硬化物で炭素繊維同士を結着させることで、炭素繊維織布の強度を向上させつつ、高い導電性を維持することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明の固体高分子形燃料電池用膜電極接合体は、固体高分子電解質膜と、該固体高分子電解質膜の両面に配置した電極触媒層と、該電極触媒層の外側にそれぞれ配置した多孔質ガス拡散層とを備え、該多孔質ガス拡散層の少なくとも一方は、導電性補助剤を含む熱硬化性樹脂硬化物で炭素繊維同士が結着された炭素繊維織布からなることを特徴とする。
また、本発明の固体高分子形燃料電池は、上記の固体高分子形燃料電池用膜電極接合体を、多孔質ガス拡散層に接する面にガス流路が形成された一対のセパレータで挟持したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、安価な処理で得られ、長時間の運転でも電池性能が低下し難く、且つガス拡散性に優れた多孔質ガス拡散層を有する固体高分子形燃料電池用膜電極接合体及びそれを用いた固体高分子形燃料電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施の形態1の固体高分子形燃料電池用膜電極接合体を説明するための断面模式図である。
【図2】実施の形態1の固体高分子形燃料電池(単セル)を説明するための断面模式図である。
【図3】実施の形態1の固体高分子形燃料電池の多孔質ガス拡散層を拡大して示した模式断面図である。
【図4】実施の形態1の固体高分子形燃料電池の多孔質ガス拡散層を拡大して示した模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。なお、図面は簡略化して書かれており、寸法及び形状は必ずしも正確ではない。
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1に係る固体高分子形燃料電池用膜電極接合体を説明するための模式断面図であり、図2は、その固体高分子形燃料電池用膜電極接合体を用いた固体高分子形燃料電池を説明するための模式断面図である。
図1において、実施の形態1の固体高分子形燃料電池用膜電極接合体10は、プロトン伝導性の固体高分子電解質膜11と、固体高分子電解質膜11の両面に配置されたアノード12及びカソード13とを備えている。アノード12は、固体高分子電解質膜11と接するアノード触媒層14と、最も外側に配置されたアノード側多孔質ガス拡散層16とを備えてなる。同様に、カソード13は、固体高分子電解質膜11と接するカソード触媒層17と、最も外側に配置されたカソード側多孔質ガス拡散層19とを備えてなる。また、アノード触媒層14の外側にアノード側導電性多孔質カーボン層15配置しても良く、カソード触媒層17の外側にカソード側導電性多孔質カーボン層18を配置しても良い。
また、図2において、実施の形態1の固体高分子形燃料電池20は、固体高分子形燃料電池用膜電極接合体10と、固体高分子形燃料電池用膜電極接合体10を挟持する一対のセパレータ21a,21bと、アノード12及びカソード13それぞれの周囲の固体高分子電解質膜11とセパレータ21a,21bとの間に配置されたガスケット22とを備えており、アノード12及びカソード13は外部負荷23に接続されている。セパレータ21a,21bには、凹部を複数箇所設けることにより、アノード12及びカソード13それぞれにガスを供給するためのガス流路24a,24bが形成されている。
【0014】
このように構成された固体高分子形燃料電池20において、水素ガスをセパレータ21aに形成されたガス流路24aからアノード12に供給すると、水素ガスはアノード側多孔質ガス拡散層16及びアノード側導電性多孔質カーボン層15を通過し、アノード触媒層14に向かって拡散していく。アノード触媒層14に達した水素ガスは、触媒による酸化反応によりプロトン(水素イオン)と電子を発生する。このプロトンは、固体高分子電解質膜11を通過してカソード13に移動する。一方、電子は、外部回路を通ってカソード13に到達する。カソード13では、固体高分子電解質膜11中を通過してきたプロトンと、外部回路から送られてきた電子と、セパレータ21bに形成されたガス流路24bからカソード側多孔質ガス拡散層19及びカソード側導電性多孔質カーボン層18を介して供給される空気中の酸素とがカソード触媒層17により反応し、水が生成される。その際、電極間に発生する起電力として電気エネルギーを取り出すことが可能となる。
なお、本実施形態の固体高分子形燃料電池は、上述したような単位セルであってもよいし、単位セルを複数枚積層したスタック構造であってもよい。
【0015】
図3は、固体高分子形燃料電池20のアノード側多孔質ガス拡散層16を拡大して示した模式断面図である。アノード側多孔質ガス拡散層16は、経糸である炭素繊維25aと緯糸である炭素繊維25bとを製織した炭素繊維織布基材に、導電性補助剤26を含む熱硬化性樹脂組成物を含浸、硬化させて得られるものであり、図3に示されるように、導電性補助剤26を含む熱硬化性樹脂硬化物27で炭素繊維25a,25b同士が結着された状態となっている。導電性補助剤26を含む熱硬化性樹脂硬化物27で炭素繊維25a,25b同士が結着された炭素繊維織布は、水銀圧入法により測定される細孔径20μm以下の細孔による空隙率が1%以上50%以下であることが好ましく、また、JIS L1096により測定される剛軟度が2gf・cm以上200gf・cm以下であることが好ましく、10gf・cm以上100gf・cm以下であることがより好ましい。空隙率及び剛軟度がこの範囲内であると、十分な強度を確保しつつ、ガス拡散性をより向上させることができる。これらの空隙率及び剛軟度は、後述する熱硬化性樹脂組成物の含浸量の調節、炭素繊維織布基材への造孔剤の固着等により、調整することが可能である。ガス拡散性は通気度を指標として表すことができ、JIS L1096 A法(フラジール形法)により測定される通気度が、60cc/cm/sec以上200cc/cm/sec以下であることが好ましい。通気度がこの範囲内であると、触媒層へ反応ガスを効率よく供給することができる。
【0016】
炭素繊維織布基材を構成する炭素繊維25a,25bは、ポリアクリロニトリル(PAN)系及びピッチ系のどちらでもよく、また、糸の種類は、フィラメント糸及びスパン糸のどちらでもよい。また、炭素繊維織布基材の組織は、平織り、綾織り、朱子織り等が挙げられ、表面の平滑さから平織りが好ましい。炭素繊維織布基材の物性は、固体高分子形燃料電池に用いられる一般的なものと同程度であればよく、好ましくは、100g/m2以上200g/m2以下の目付け、60cc/cm2/sec以上200cc/cm2/sec以下の通気度(JIS L1096 A法(フラジール形法)による)、40本/インチ以上70本/インチ以下の経糸密度、30本/インチ以上60本/インチ以下の緯糸密度である。目付けが大きく、糸密度が大きい炭素繊維織布基材を使用した場合、膜電極接合体(MEA)が大きくなり、固体高分子形燃料電池20自体のサイズが大きくなってしまうため好ましくない。また、基材の通気度がこの範囲内であることにより、60cc/cm/sec以上200cc/cm/sec以下の通気度を有する炭素繊維織布を得ることができる。
【0017】
熱硬化性樹脂硬化物27中に含まれる導電性補助剤26は、含浸させた樹脂による炭素繊維織布の導電性の低下を防ぐことができ、熱硬化性樹脂硬化物27中に充填可能なものであればよく、カーボンブラック(例えば、ケッチェンブラック、アセチレンブラック等)、グラファイト、メソフェーズカーボン、カーボンナノチューブ等が挙げられる。導電性補助剤26の平均一次粒子径は、好ましくは、1nm以上200nm以下である。導電性補助剤26の平均一次粒子径がこの範囲内であれば、少ないカーボンブラック添加量で導電性をより向上させることができる。
この導電性補助剤26は、熱硬化性樹脂硬化物27中に0.01重量%以上10.0重量%以下含まれることが好ましく、0.01重量%以上1.0重量%以下含まれることがより好ましい。導電性補助剤26の含有量がこの範囲内であれば、剛性を損なうことなく導電性をより向上させることができる。
【0018】
熱硬化性樹脂としては、フェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂等の公知の熱硬化性樹脂を使用することができ、耐薬品性及び耐熱性に優れるという点からフェノール樹脂が好ましい。フェノール樹脂は、ノボラック型及びレゾール型のどちらでもよいが、1液で反応が完結するレゾール型フェノール樹脂が好ましい。また、炭素繊維織布基材の内部へ熱硬化性樹脂を均一に含浸させるため、アルコールのような溶剤で希釈して用いることが好ましい。
熱硬化性樹脂硬化物27(導電性補助剤26を含む)の量は、炭素繊維(炭素繊維織布基材)に対して1重量%以上200重量%以下であることが好ましく、10重量%以上100重量%以下であることがより好ましい。熱硬化性樹脂硬化物27の量が1重量%未満では、十分な強度が得られない場合があり、一方、200重量%超では、樹脂を含浸させて得られる炭素繊維織布がプラスチック板状となり、導電性の低下が顕著になる傾向があるため好ましくない。
【0019】
次に、アノード側多孔質ガス拡散層16の作製方法について詳細に説明する。
アノード側多孔質ガス拡散層16は、炭素繊維織布基材に、導電性補助剤26を含む熱硬化性樹脂組成物を含浸、硬化させて作製することができる。
導電性補助剤26、熱硬化性樹脂及び任意で溶剤を含む熱硬化性樹脂組成物を、炭素繊維織布基材に含浸させる方法としては、炭素繊維織布基材を熱硬化性樹脂組成物中に浸漬させた後、ゴムマングル等で余剰分を取り除く方法等が挙げられる。熱硬化性樹脂の含浸量は、熱硬化性樹脂組成物中の熱硬化性樹脂濃度を変化させたり、或いは熱硬化性樹脂組成物を含浸させる前に炭素繊維織布基材に造孔剤を予め固着させておくことにより調節することができる。次いで、熱硬化性樹脂組成物が含浸された炭素繊維織布基材を必要に応じて乾燥させた後、加熱して熱硬化性樹脂を硬化させる。このようにして、導電性補助剤を含む熱硬化性樹脂硬化体で炭素繊維25a,25b同士が結着された炭素繊維織布を得ることができる。
上述した炭素繊維織布基材への造孔剤の固着は、造孔剤を含む水溶液中に炭素繊維織布基材を浸漬させた後、乾燥させることで行うことができる。このように炭素繊維織布基材に造孔剤を予め固着させておくことにより、熱硬化性樹脂の含浸量を調節することが可能となるだけでなく、樹脂を含浸させて得られる炭素繊維織布の空隙率も調節することが可能となる。具体的には、図4に示されるように、導電性補助剤26を含む熱硬化性樹脂硬化物27で炭素繊維25a,25b同士が結着されているが、造孔剤由来の空隙が熱硬化性樹脂硬化物27内に形成された状態となっている。造孔剤の固着量は、特に限定されるものではないが、炭素繊維(炭素繊維織布基材)に対して0.1重量%以上10.0重量%以下であることが好ましい。0.1重量%未満では十分な空隙を形成できない場合があり、一方、10.0重量%超では十分な剛性を得ることができない場合がある。造孔剤としては、カルボキシルメチルセルロースのような多糖類、アクリル樹脂のような合成樹脂等の350℃程度で分解する物質を使用することができる。
なお、ここでは、アノード側多孔質ガス拡散層16の作製方法について説明したが、カソード側多孔質ガス拡散層19も、アノード側多孔質ガス拡散層16と同様の材料を用いて同様の方法で作製することができる。
【0020】
このようにして作製されたアノード側多孔質ガス拡散層16或いはカソード側多孔質ガス拡散層19に、当該技術分野で公知の方法により、撥水処理を行った後、必要により導電性多孔質カーボン層を形成することができる。撥水処理は、発電時に生成した水を滞留させることなく効率良く排出するために行う処理であり、例えば、フッ素系樹脂(例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE))の分散液や溶液を用いて炭素繊維織布にフッ素系樹脂を付着させ、その後110℃程度で十分に乾燥させて水分を除去することにより行うことができる。また、導電性多孔質カーボン層は、炭素繊維織布の凹凸を減らして、多孔質ガス拡散層としての炭素繊維織布と触媒層との接触を良好にするための層であり、例えば、カーボンブラック粉末に撥水性樹脂の分散液を加えて混練したインクを、多孔質ガス拡散層の触媒層が形成される側にバーコート等で塗布し、110℃程度で十分に乾燥させた後、350℃程度で焼成することにより形成することができる。導電性多孔質カーボン層形成用のインクに用いる撥水性樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ素化エチレンプロピレン(FEP)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等のフッ素系樹脂、シリコーン系樹脂等の撥水性を有する微粒子が挙げられる。また、導電性多孔質カーボン層の厚さは、薄過ぎると多孔質ガス拡散層の凹凸を十分に被覆できない場合があり、一方、厚過ぎると抵抗の増大及びガス拡散性の低下が懸念されることから、本実施の形態の固体高分子形燃料電池用膜電極接合体10においては、導電性多孔質カーボン層の厚さが1μm以上200μm以下であることが好ましく、10μm以上150μm以下であることがより好ましい。
【0021】
次にカーボンブラックに貴金属微粒子を担持させた電極触媒と、パーフルオロスルホン酸系の固体高分子電解質の溶液とを混合した触媒層形成用インクを、スクリーン印刷等により樹脂フィルム上に塗布し、乾燥させて触媒層を形成する。パーフルオロスルホン酸系の固体高分子電解質膜11(例えばデュポン製ナフィオン(登録商標)や旭化成製アシプレックス(登録商標)、旭硝子製フレミオン(登録商標))の両面に、燃料極及び空気極それぞれの触媒層の面が接するように樹脂フィルムを重ね合わせ、固体高分子電解質膜11のガラス転移温度付近の温度でホットプレスして触媒層と固体高分子電解質膜11とを熱融着し、樹脂フィルムを除去することにより、アノード触媒層14及びカソード触媒層17が表面にそれぞれ形成された固体高分子電解質膜11を得る。触媒層中にふくまれる電極触媒と固体高分子電解質との比率は、電極触媒に含まれるカーボン成分1重量部に対して、アノード触媒層14で、通常、0.2重量部以上2.0重量部以下であり、0.8重量部以上1.5重量部以下であることが好ましく、カソード触媒層17で、通常、0.2重量部以上1.5重量部以下であり、0.3重量部以上1.0重量部以下であることが好ましい。なお、触媒層には、バインダとしてフッ素系樹脂やポリエチレン樹脂等が含まれる場合がある。
このアノード触媒層14及びカソード触媒層17が表面にそれぞれ形成された固体高分子電解質膜11を、先に作製したアノード側多孔質ガス拡散層16及びカソード側多孔質ガス拡散層19で挟み、固体高分子電解質膜11のガラス転移温度付近の温度でホットプレスすることで、固体高分子形燃料電池用膜電極接合体10が得られる。
【0022】
以下、本発明を実施例及び比較例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
<実施例1>
(多孔質ガス拡散層の作製)
カーボン粒子(ケッチェンブラック、平均一次粒子径30nm)を0.05重量%添加した90重量%レゾール型フェノール樹脂のメタノール溶液(住友ベークライト株式会社製SUMILITERESIN(登録商標)PR−51781)に、炭素繊維織布基材(バラード・マテリアル・プロダクツ社製AvCarb(登録商標)1071HCB 平織り 目付け120g/m 経糸密度50本/インチ 緯糸密度43本/インチ 通気度110cc/cm/sec)を浸漬した後、ゴムマングルにて余剰分を取り除き、105℃で5分間乾燥させた。これを180℃で5分間加熱し、樹脂を硬化させた。得られた炭素繊維織布は、炭素繊維(炭素繊維織布基材)に対して70重量%の樹脂硬化物を含むものであった。
続いて、得られた炭素繊維織布にポリテトラフルオロエチレン(PTFE)分散液を塗布した後、110℃で十分に乾燥させて水分を除去し、炭素繊維織布に撥水処理を施した。PTFEの付着量は、炭素繊維(炭素繊維織布基材)に対し10重量%であった。
【0023】
(導電性多孔質カーボン層の形成)
先に作製した炭素繊維織布の触媒層が形成される側に、カーボンブラック粉末にPTFE分散液を加えて混練したインクをバーコートで塗布し、110℃で十分に乾燥させた後、350℃で焼成して、厚さ70μmの導電性多孔質カーボン層を形成した。
【0024】
(両面に触媒層が形成された固体高分子電解質膜の作製)
アノード触媒として、カーボンブラック上に白金−ルテニウムを50重量%担持したものを用い、カソード触媒として、カーボンブラック上に白金を50重量%担持したものを用いた。アノード触媒層形成用インクは、アノード触媒に含まれるカーボン成分1重量部に対して固体高分子電解質が1重量部となるように、アノード触媒とアルドリッチ製ナフィオン(登録商標)分散液とを混合したものであり、カソード触媒層形成用インクは、カソード触媒に含まれるカーボン成分1重量部に対して固体高分子電解質が0.5重量部となるように、カソード触媒とアルドリッチ製ナフィオン(登録商標)分散液とを混合したものである。それぞれの触媒層形成用インクをスクリーン印刷によりポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に白金重量で0.4mg/cm2となるように塗布した後、乾燥させ、PETフィルム上に触媒層を形成した。次いで、デュポン製ナフィオン(登録商標)112膜の両面に、アノード触媒層及びカソード触媒層側がそれぞれ接するようにPETフィルムを重ね合わせ、電解質のガラス転移温度付近の温度でホットプレスした後、PETフィルムを除去し、両面に触媒層が形成された固体高分子電解質膜を得た。
【0025】
(単セルの組み立て及び運転方法)
上記のように作製されたアノード側多孔質ガス拡散層と、両面に触媒層を形成した固体高分子電解質膜と、カソード側多孔質ガス拡散層とをこの順に重ね合わせ、固体高分子電解質膜のガラス転移温度付近の温度でホットプレスし、固体高分子形燃料電池用膜電極接合体を作製した。次に、固体高分子形燃料電池用膜電極接合体の外側に額縁状のPTFE製ガスケットを張り付けた後、これらをガス流路が形成されたカーボン製セパレータで両側から挟み込み、固体高分子形燃料電池を組み立てた。有効電極面積は25cm2とし、セルはロッドヒーターで75℃に加温した。この単セルを外部負荷と接続した後、ガス加湿のためにバブラーを通してアノード側には水素ガスを供給し、カソード側にはバブラーを通して空気を供給した。固体高分子電解質及び電極触媒層の安定化のため、発電開始から24時間後に燃料ガスを水素からメタン改質ガスを想定した一酸化炭素10ppmを含む水素、二酸化炭素混合ガスに切り替えて電池特性を評価した。電池特性は250mA/cm2での電圧で評価した。なお、導電性多孔質カーボン層を形成した炭素繊維織布の断面を電子顕微鏡で確認したところ、図3に示したように樹脂硬化物で炭素繊維糸が結着されていた。
【0026】
<実施例2>
カーボン粒子(ケッチェンブラック、平均一次粒子径30nm)を0.05重量%添加した70重量%レゾール型フェノール樹脂のメタノール溶液(住友ベークライト株式会社製SUMILITERESIN(登録商標)PR−51781)に、炭素繊維織布基材(バラード・マテリアル・プロダクツ社製AvCarb(登録商標)1071HCB 平織り 目付け120g/m 経糸密度50本/インチ 緯糸密度43本/インチ 通気度110cc/cm/sec)を浸漬した後、ゴムマングルにて余剰分を取り除き、105℃で5分間乾燥させた。これを180℃で5分間加熱し、樹脂を硬化させた。得られた炭素繊維織布は、炭素繊維(炭素繊維織布基材)対して50重量%の樹脂硬化物を含むものであった。
続いて、実施例1と同様にして、炭素繊維織布に撥水処理を施した。このようにして得られた炭素繊維織布を多孔質ガス拡散層として用いる以外は、実施例1と同様に単セルを組み立て、電池特性を評価した。
【0027】
<実施例3>
炭素繊維織布基材(バラード・マテリアル・プロダクツ社製AvCarb(登録商標)1071HCB 平織り 目付け120g/m 経糸密度50本/インチ 緯糸密度43本/インチ 通気度110cc/cm/sec)を2重量%カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC−Na)水溶液に浸漬させた後、乾燥させた。造孔剤であるCMC−Naの固着量は、炭素繊維(炭素繊維織布基材)に対して1重量%であった。カーボン粒子(ケッチェンブラック、平均一次粒子径30nm)を0.05重量%添加した70重量%レゾール型フェノール樹脂のメタノール溶液(住友ベークライト株式会社製SUMILITERESIN(登録商標)PR−51781)に、CMC−Naを固着させた炭素繊維織布基材を浸漬した後、ゴムマングルにて余剰分を取り除き、105℃で5分間乾燥させた。これを180℃で5分間加熱し、樹脂を硬化させた。得られた炭素繊維織布は、炭素繊維(炭素繊維織布基材)に対して50重量%の樹脂硬化物を含むものであった。
続いて、実施例1と同様にして、炭素繊維織布に撥水処理を施した。このようにして得られた炭素繊維織布を多孔質ガス拡散層として用いる以外は、実施例1と同様に単セルを組み立て、電池特性を評価した。なお、導電性多孔質カーボン層を形成した炭素繊維織布の断面を電子顕微鏡で確認したところ、図4に示したように造孔剤由来の空隙が樹脂硬化物内に形成されていた。
【0028】
<比較例1>
カーボンペーパー基材(東レ株式会社製TGP−H−090)をPTFE分散液に浸漬した後、ゴムマングルにて余剰分を取り除き、110℃で十分に乾燥させて水分を除去した。PTFEの付着量は、カーボンペーパー基材に対し10重量%であった。このようにして得られたカーボンペーパーを多孔質ガス拡散層として用いる以外は、実施例1と同様に単セルを組み立て、電池特性を評価した。
【0029】
<比較例2>
炭素繊維織布基材(バラード・マテリアル・プロダクツ社製AvCarb(登録商標)1071HCB 平織り 目付け120g/m 経糸密度50本/インチ 緯糸密度43本/インチ 通気度110cc/cm/sec)をPTFE分散液に浸漬した後、ゴムマングルにて余剰分を取り除き、110℃で十分に乾燥させて水分を除去した。PTFEの付着量は、炭素繊維(炭素繊維織布基材)に対し10重量%であった。このようにして得られた炭素繊維織布を多孔質ガス拡散層として用いる以外は、実施例1と同様に単セルを組み立て、電池特性を評価した。
【0030】
<運転結果>
比較例1の単セルでは、加湿露点75℃の飽和加湿条件において0.68Vの電池特性が得られた。一方、実施例1では加湿露点75℃の飽和加湿条件において0.71Vの電池特性が得られ、また、実施例3では加湿露点75℃の飽和加湿条件において0.715Vの電池特性が得られた。これは、多孔質ガス拡散層に使用した炭素繊維織布がカーボンペーパーと比較して空隙が大きいために多孔質ガス拡散層内部に水が滞留することなく、良好にガスが拡散することによる。次いで、比較例2では加湿露点75℃の飽和加湿条件において初期の電圧が0.70Vと実施例と遜色ない電池特性が得られた。しかし、比較例2では連続運転時に多孔質ガス拡散層が流路に垂れ込み変形することで、電池内の接触が悪化して電池性能が低下した。また、この傾向は連続運転を続けるほど顕著になり、比較例2では約1,000時間の連続運転後、電圧の低下及び抵抗値の増大が確認された。
【0031】
<多孔質ガス拡散層の評価>
(剛軟度)
実施例1〜3及び比較例1〜2の多孔質ガス拡散層(導電性多孔質カーボン層を形成する前の炭素繊維織布又はカーボンペーパー)の剛軟度の測定を行った。剛軟度はJIS L1096 B法(スライド法)に従った。比較例2の多孔質ガス拡散層の剛軟度は1.4gf・cmであった。一方、実施例1の多孔質ガス拡散層では58gf・cm、実施例2の多孔質ガス拡散層では41gf・cmとなり、樹脂硬化物含有量の増加に伴い剛軟度は向上した。また、造孔剤により樹脂硬化物内に空隙を形成させた実施例3では38gf・cmとなり、実施例2よりも剛軟度は低下した。結果を表1にまとめて示す。
【0032】
(通気度)
実施例1〜3及び比較例1〜2の多孔質ガス拡散層(導電性多孔質カーボン層を形成する前の炭素繊維織布又はカーボンペーパー)の通気度を測定した。通気度は、JIS L1096 A法(フラジール形法)に従った。数値が大きいほど通気性、すなわちガス拡散性が高いと言える。通気度は、実施例1の多孔質ガス拡散層では120.5cc/cm/sec、実施例2の多孔質ガス拡散層では125.0cc/cm/sec、比較例2の多孔質ガス拡散層では110.0cc/cm/secであった。実施例1及び2では、経糸及び緯糸の炭素繊維間に入り込んだ樹脂が炭素繊維糸間の空間を収縮させ炭素繊維織布の目を粗くしたために、比較例2の多孔質ガス拡散層と比較して通気度が高くなる。また、実施例3の多孔質ガス拡散層の通気度は135.0cc/cm/secであり、炭素繊維糸間に空孔を形成することで、同じ樹脂硬化物含有量である実施例2と比較してやや高い通気度を示した。結果を表1にまとめて示す。
【0033】
(空隙率)
実施例1〜3及び比較例1〜2の多孔質ガス拡散層(導電性多孔質カーボン層を形成する前の炭素繊維織布又はカーボンペーパー)の空隙率を測定した。空隙率は水銀圧入法により測定した空隙量から算出した。ここで、水銀圧入法ではナノオーダーの微細な空隙から数100μm以上の空隙まで幅広く測定が可能であるが、炭素繊維織布の経糸または緯糸を構成する炭素繊維束内の空隙のみを評価するために細孔径20μm径以下の空隙量から空隙率を算出した。これは、炭素繊維断面を電子顕微鏡で確認したところ炭素繊維束内に20μmより大きい径の空隙は殆ど見られず、逆にこれを含めた場合に誤差が大きくなり十分な比較が行えないためである。
算出した空隙率は、実施例1の多孔質ガス拡散層では2.5%、実施例2の多孔質ガス拡散層では12.2%、比較例2の多孔質ガス拡散層では52.3%であった。樹脂硬化物含有量の増加に伴い、経糸及び緯糸の炭素繊維間に入り込んだ樹脂により炭素繊維糸間の空隙は減少する。一方、実施例3の多孔質ガス拡散層では31.6%となり、炭素繊維糸間に空孔を形成することで、同じ樹脂硬化物含有量である実施例2と比較して高い空隙率を示した。結果を表1にまとめて示す。
【0034】
【表1】

【符号の説明】
【0035】
10 固体高分子形燃料電池用膜電極接合体、11 固体高分子電解質膜、12 アノード、13 カソード、14 アノード触媒層、15 アノード側導電性多孔質カーボン層、16 アノード側多孔質ガス拡散層、17 カソード触媒層、18 カソード側導電性多孔質カーボン層、19 カソード側多孔質ガス拡散層、20 固体高分子形燃料電池、21a,21b セパレータ、22 ガスケット、23 外部負荷、24a,24b ガス流路、25a,25b 炭素繊維、26 導電性補助剤、27 熱硬化性樹脂硬化物。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体高分子電解質膜と、該固体高分子電解質膜の両面に配置した電極触媒層と、該電極触媒層の外側にそれぞれ配置した多孔質ガス拡散層とを備えた固体高分子形燃料電池用膜電極接合体において、
該多孔質ガス拡散層の少なくとも一方は、導電性補助剤を含む熱硬化性樹脂硬化物で炭素繊維同士が結着された炭素繊維織布からなることを特徴とする固体高分子形燃料電池用膜電極接合体。
【請求項2】
前記導電性補助剤は、前記熱硬化性樹脂硬化物中に0.01重量%以上10.0重量%以下含まれる請求項1に記載の固体高分子形燃料電池用膜電極接合体。
【請求項3】
前記炭素繊維織布は、水銀圧入法により測定される細孔径20μm以下の細孔による空隙率が1%以上50%以下である請求項1又は2に記載の固体高分子形燃料電池用膜電極接合体。
【請求項4】
前記炭素繊維織布は、炭素繊維(炭素繊維織布基材)に対して1重量%以上200重量%以下の熱硬化性樹脂硬化物を含む請求項1〜3のいずれか一項に記載の固体高分子形燃料電池用膜電極接合体。
【請求項5】
前記炭素繊維織布は、JIS L1096により測定される剛軟度が2gf・cm以上200gf・cm以下である請求項1〜4のいずれか一項に記載の固体高分子形燃料電池用膜電極接合体。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の固体高分子形燃料電池用膜電極接合体を、前記多孔質ガス拡散層に接する面にガス流路が形成された一対のセパレータで挟持したことを特徴とする固体高分子形燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−124019(P2011−124019A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−278676(P2009−278676)
【出願日】平成21年12月8日(2009.12.8)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【出願人】(000107907)セーレン株式会社 (462)
【出願人】(390013815)学校法人金井学園 (20)
【Fターム(参考)】