説明

固定具

【課題】複数のブレース材を吊りボルト等に対して取り付け角度を調整自在に固定することができるとともに、固定のための操作が容易な固定具を提供する。
【解決手段】固定具10は、固定部材20、第1および第2の可動部材40、41を有する。固定部材20は、第1〜第4爪部21〜24を含む。ブレース60を第1の可動部材40に、ブレース61を第2の可動部材41にそれぞれ取り付けた状態で、第1〜第4爪部21〜24を用いて固定部材20を吊りボルト30に固定する。この結果、固定具10を介してブレース60を吊りボルト30に強固に固定できる。なお、第1、第2の可動部材40、41は、固定部材20に対して回転自在であるため、ブレース60、61の取付角度の調整が容易に可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吊りボルト等にブレースを固定するための固定具に関する。
【背景技術】
【0002】
天井の耐震強度を向上させるため、補強ブレースを設置することが一般に行われている。ブレース材としては、例えばCチャンネル、リップ溝型鋼等が使用されており、通常、これらは、等間隔に配置された吊りボルトの天井スラブ付近から、隣接する吊りボルトの下部に達するように、溶接により固定される。
【0003】
また、ブレース材を、溶接工程によることなく吊りボルトに固定するための固定具が知られている。このような固定具には、吊りボルトに対する取り付け角度を調整しつつ、単一のブレース材を固定させるもの(例えば特許文献1および2参照)が含まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−88927号公報
【特許文献2】特開2008−111292号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
高温のアーク等を用いる溶接加工は、一般に困難な作業であり、比較的長い時間を要する。そして、足場の悪くなる天井付近での作業については特にその傾向が認められる。また、このような溶接作業に対しては、通常の作業以上に安全の確保に注意が必要とされる。
【0006】
そこで、ブレース材を溶接せずに固定するための固定具を用いることが考えられるが、この場合、吊りボルトに対するブレース材の固定強度が不足する可能性がある。ブレース材が強固に固定されていない場合、災害時などにおいて大きな被害が生じるおそれがある。さらに、吊りボルトに対して複数のブレース材を固定させる必要性がある場合、上述の固定具では対応することができない。
【0007】
本発明は、複数のブレース材を、吊りボルト等に対して取り付け角度を調整自在に固定することができるとともに、固定のための操作が容易な固定具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の固定具は、棒状部材に複数のブレースを固定するための固定具であって、棒状部材に固定される固定部材と、固定部材に対して回転自在に重ねられており、複数のブレースのそれぞれが固定される第1および第2の可動部材とを備える。そして固定部材が、棒状部材を挟持するための爪部であって、棒状部材の第1の側に当接する第1および第2爪部と、第1の側とは反対の第2の側に当接する第3および第4爪部を備える。そして第1の可動部材と第2の可動部材とは、同一の回転軸を中心に回転する。
【0009】
固定具では、第1および第2の可動部材の少なくともいずれかにおいて、固定部材に対する回転位置に関わらず、ブレースの固定部材に対する接触を防止するブレースの固定位置を示す指標が設けられていることが好ましい。
【0010】
固定具においては、第1および第2の可動部材の少なくともいずれかの端部において、ブレースを保持する突出部が設けられていることが好ましい。この場合、第1の可動部材と第2の可動部材とにおいて、突出部の設けられている位置および/または突出部の延びる方向が異なることにより、第1および第2の可動部材が同じ回転位置において互いに積層可能であることがより好ましい。
【0011】
また、第1および第2の可動部材の少なくともいずれかの両端において、一対の突出部が設けられていることがより好ましい。この場合、一対の突出部が可動部材から同じ方向に向かって延びていることが特に好ましい。
【0012】
第1および第2の可動部材の少なくともいずれかにおいては、固定されるブレースが固定部材に接触することを防止するために、ブレースを係止させる係止部が設けられていることが好ましい。
【0013】
固定部材は、第1爪部と第3爪部とを含む第1の板状部材と、第2爪部と第4爪部とを含む第2の板状部材とを有することが好ましい。この場合、固定部材が板状の本体部を有し、第1の板状部材と第2の板状部材とが、本体部の同じ側において本体部から延びていることがより好ましい。
【0014】
また、第1の板状部材において、第1爪部と第3爪部との間に棒状部材の径方向長さよりも長い隙間が設けられていることがより好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、複数のブレース材を、吊りボルト等に対して取り付け角度を調整自在に固定することができるとともに、固定のための操作が容易な固定具を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】ブレースを吊りボルトに固定させている状態の固定具を示す斜視図である。
【図2】固定部材の正面図と背面図である。
【図3】固定部材の平面図と底面図である。
【図4】固定部材の側面図である。
【図5】第1の可動部材の正面図と背面図である。
【図6】第1の可動部材の側面図である。
【図7】第2の可動部材の正面図と背面図である。
【図8】第2の可動部材の側面図である。
【図9】第1および第2の可動部材が回転する状態を示す固定具の正面図である。
【図10】ブレースを吊りボルトに固定させる工程における固定具を示す正面図である。
【図11】可動部材の回転範囲を示す固定具の正面図である。
【図12】固定具によりブレースが吊りボルトに固定された状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照して説明する。図1は、ブレースを吊りボルトに固定させている状態の固定具10を示す斜視図である。
【0018】
固定具10は、天井スラブ(図示せず)から延びている吊りボルト30(棒状部材)に複数のブレース60、61を固定するために使用される。固定具10は、いずれも板状の部材である固定部材20と、第1および第2の可動部材40、41を有する。ブレース60は第1の可動部材40に、ブレース61は第2の可動部材41に、それぞれ固定される。第1および第2の可動部材40、41は、固定部材20に対して回転自在に取り付けられている。すなわち、第1、第2の可動部材40、41は、軸部材42の中心を同一の回転軸としてそれぞれ回転可能であるように、固定部材20に重ねられている。
【0019】
固定具10の使用時には、まず、ブレース60、61が、第1、第2の可動部材40、41にそれぞれ取り付けられる。第1の可動部材40には、第1および第2取付穴44、46が設けられており、ブレース60は、第1、第2取付穴44、46を貫通するビス等(図示せず)によって固定される。また、第1の可動部材40には、係止部48、および第1、第2の突出板50、51(突出部)が設けられている。ブレース60は、例えば、図示するように、係止部48に接するとともに第1の可動部材40の両端にある一対の第1、第2の突出板50、51により挟持される位置に取り付けられる。なお第1の可動部材40においては、固定部材20に対する回転位置を規制するためのストッパ49も設けられている。
【0020】
一方、第2の可動部材41の両端には、一対の第3、第4の突出板55、56(突出部)が設けられている。そしてブレース61は、第3、第4の突出板55、56によって挟まれる位置で、第3、第4取付穴64、66を貫通するビス等(図示せず)により固定される。
【0021】
第2の可動部材41の表面41S上には、位置決め線41L(指標)が設けられている。この位置決め線41Lよりも手前側、すなわち固定部材20から離れた第2の可動部材41の先端41T側でブレース61を固定すると、固定部材20に対する第2の可動部材41の回転位置に関わらず、ブレース61の固定部材20に対する接触が防止される。従って、このような位置決め線41Lを設けることにより、第2の可動部材41の可動範囲がブレース61により制限されてしまうことが防止される。
【0022】
第2の可動部材41の裏面(紙面裏側)側の両端には、第5、第6の突出板57、58(突出部)が設けられている。このように、第5、第6の突出板57、58が、可動部材41の裏面側に配置されていることにより、第1の可動部材40の表面40S側に配置された第1、第2の突出板50、51との接触が防止され、第1、第2の可動部材40、41の円滑な回転が可能である。
【0023】
なお、第1の可動部材40の裏側には、第2の可動部材41から離れた端部に回転規制板52が設けられている。そして第2の可動部材41側の第5の突出板57が回転規制板52に接すると、もはや第2の可動部材41は、それ以上第1の可動部材40側に回転することができなくなり、このとき、第1および第2の可動部材40、41は互いに同じ位置で重なり合う。このように回転規制板52は、第1および第2の可動部材40、41の回転位置を規制している。
【0024】
第2の可動部材41は第1の可動部材40よりも長く、第3、第4の突出板55、56は、第2の可動部材41の長手方向の先端に設けられている。このため、第1の可動部材40の表面40S側に設けられた第1、第2の突出板50、51と、第2の可動部材40、41の表面41S側に設けられた第3、第4の突出板55、56との接触が防止される。
【0025】
上述のようにブレース60、61が第1、第2の可動部材40、41に取り付けられた状態で、固定部材20が吊りボルト30に取り付けられ、固定される。この結果、ブレース60、61は、固定具10を介して吊りボルト30に固定される。
【0026】
固定部材20は、第1〜第4爪部21〜24を含む。第1および第2爪部21、22は、吊りボルト30の一方の側(図1では左側面)に当接し、第3および第4爪部23、24は、そのほぼ反対側(図1では右側面)に当接する。第1爪部21と第3爪部23との間には、吊りボルト30の直径Lよりも長い第1の隙間Sが設けられている。第1の隙間Sは、後述するように、固定部材20を吊りボルト30に取り付け可能とするために設けられている。
【0027】
第1爪部21は、第1の隙間Sにより、図示された状態においては吊りボルト30に接していない。しかしながら、矢印Aの示すようにブレース60を引っ張る方向の力が固定具10に加えられると、第2および第4爪部22、24とともに、吊りボルト30に当接する。このように第1爪部21は、他の第2〜第4爪部22〜24と同様に、ブレース60を吊りボルト30に強固に固定させる役割を果たす。
【0028】
図2は、固定部材20の正面図と背面図である。図3は、固定部材20の平面図と底面図であり、図4は、固定部材20の側面図である。
【0029】
図2(a)は固定部材20の正面図であり、図2(b)は背面図である。固定部材20は、第1および第3爪部21、23を含む第1の板状部材25、第2および第4爪部22、24を含む第2の板状部材26、および板状の本体部32を有する。本体部32には、軸部材42(図1参照)が貫通するための第1の貫通穴28が設けられている。第1および第2の板状部材25、26は、本体部32の端部からそれぞれ本体部32に対してほぼ垂直に延びている。
【0030】
固定部材20を図2の上側から見た平面図である図3(a)、および図2の下側から見た底面図である図3(b)より明らかであるように、第1の板状部材25と第2の板状部材26とは本体部32の同じ側に設けられている。そして、第2の板状部材26は、第1の板状部材25の延びる方向に対して傾いた方向に沿って延びている(図2参照)。すなわち、固定具10が使用されている状態(図1参照)においては、第1の板状部材25は水平方向に延び、第2の板状部材26は、水平方向に対して傾いた方向に沿って延びている。
【0031】
第2爪部22と第4爪部24との間には、第2の隙間Sが設けられている。第2の隙間Sの長さLは、吊りボルト30の直径Lよりもわずかに長く、上述の第1の隙間Sの長さLよりも短い(図2参照)。このように、第2の隙間Sは第1の隙間Sよりも狭いものの、第2の板状部材26が第1の板状部材25に対して傾いていることにより、後述するように、固定部材20は容易に吊りボルト30に取り付けられる。
【0032】
図3、固定部材20を図2(a)の左側から見た左側面図である図4(a)、および図2(a)の右側から見た右側面図である図4(b)から明らかであるように、第2の板状部材26において、第2爪部22は、本体部32にほぼ垂直な方向の長さが第4爪部24よりも長い。このような第2の板状部材26を設けることにより、後述するように、固定部材20の吊りボルト30への取り付け操作が容易になる。
【0033】
また、第1の板状部材25と本体部32とは直交するのに対し、第2の板状部材26と本体部32とがなす角α(図4(b)参照)は95°である。これは、吊りボルト30に用いられるねじ(図示せず)のリード角が5°であることによる。このように、本体部32に対して、第2の板状部材26を直交させず、垂直よりも吊りボルト30用のねじのリード角だけ大きい角度で傾けることにより、第2爪部22および第4爪部24が、より強固に吊りボルト30を挟持することができる。
【0034】
以上のように、吊りボルト30に当接する第1〜第4爪部21〜24を設けることにより、ブレース60を吊りボルト30に強固に固定させることができる。すなわち、図1の状態からさらに、矢印Aの示すようにブレース60を引っ張る方向に力が加えられたとすると、第1、第2、および第4爪部21、22、24が吊りボルト30に当接することとなる。一方、矢印Aとは反対方向に、ブレース60を押す力が固定具10に加えられた場合は、第2、第3、および第4爪部22、23、24が吊りボルト30に当接する。このようにブレース60は、常に複数の爪部を介して吊りボルト30に固定されている。
【0035】
さらに、本実施形態のように、第1の板状部材25と第2の板状部材26との間隔を従来品よりも短くすることにより、固定具10に加えられる力による吊りボルト30の変形を防止することができ、効果的にブレース60を固定できる。第1の板状部材25と第2の板状部材26との間隔は、例えば、直径Lが0.9mmの吊りボルト30とともに用いられる固定具10においては、第1および第2の隙間S、Sの間隔(図2参照)がおよそ3cmとなる程度である。
【0036】
図5は、第1の可動部材40の正面図と背面図である。図6は、第1の可動部材40の側面図である。
【0037】
第1の可動部材40においては、板状の第1の可動部側本体部54が設けられている。第1の可動部側本体部54においては、軸部材42(図1参照)が通るための第2の貫通穴59が設けられている。第1の可動部材40の表面40S側、すなわち第1の可動部側本体部54の上面側に設けられた第1および第2の突出板50、51は、第1の可動部側本体部54の両端から同じ方向に突出している(図6(a)の左側面図、図6(b)の右側面図参照)。そして第1および第2の突出板50、51は、いずれも、矢印Bの示す第1の可動部材40の延びる方向(長手方向)に沿って延びている(図5参照)。
【0038】
さらに、第1の可動部側本体部54に設けられた突起である係止部48により、ブレース60の位置決めが容易になる。係止部48に先端が接するようにブレース60を取り付ければ良いからである。さらに、係止部48によりブレース60の先端が係止されるため、固定部材20(図1参照)に対するブレース60の接触が確実に防止される。また、第1の可動部側本体部54には、第1、第2取付穴44、46が、第1の可動部材40の延びる方向(長手方向)に沿って配置されているため、ブレース60をバランス良く取り付けることができる。
【0039】
なお図6からも明らかであるように、第1の可動部材40の裏面40R側には、上述の回転規制板52以外に、突出する部材が設けられていない。このため、第2の可動部材41(図1等参照)は、第5の突出板57が回転規制板52に接するまで、第1の可動部材40の裏面40Rに沿って円滑に回転することができる。
【0040】
図7は、第2の可動部材41の正面図と背面図である。図8は、第2の可動部材41の側面図である。また、図9は、第1および第2の可動部材40、41が回転する状態を示す固定具10の正面図である。
【0041】
第2の可動部材41では、板状の第2の可動部側本体部65から同じ方向に延びる一対の第3、第4の突出板55、56が、表面41S側に設けられている。一方、第2の可動部側本体部65から、第3、第4の突出板55、56とは反対の方向に向かって延びる第5、第6の突出板57、58が、裏面41R側に設けられている(図8参照)。従って、ブレース61は、第2の可動部材41の表面41S側と裏面41R側のいずれにも取り付けることができる。このために、第2の可動部材40では、表面41Sと裏面41Rの両面において、位置決め線41Lが付されている(図7参照)。
【0042】
第1の可動部材40(図1等参照)は、第2の可動部材41の表面41S側に沿って回転する。そこで第2の可動部材41においては、第1の可動部材40との接触を防止するために、第5、第6の突出板57、58が裏面41R側に配置されている。そして第2の可動部材41は、第1の可動部材40よりも長く、第3、第4の突出板55、56は、第1の可動部材40の回転中心である軸部材42(図1参照)が通る第2の貫通穴69から離れた位置であって、第2の可動部側本体部65の先端に設けられている。よって第1の可動部材40側の第1、第2の突出板50、51と、第3、第4の突出板55、56との接触は確実に防止される。
【0043】
このように、第1の可動部材40と第2の可動部材41との間では、突出板の設けられている位置、突出板の延びる方向が適宜異なっている。このため、第1および第2の可動部材40、41を、固定部材20に対して同じ回転位置まで回転させ、第1の可動部材40の表面40Sの略全域が第2の可動部材41に重なるように、両部材を互いに積層させることが可能である(図9(a)参照)。このため、使用されていない状態の固定具10を多数、比較的狭い空間に収納することができ、容易に保管、運搬することができる。
【0044】
そして第1および第2の可動部材40、41は、例えば、図9(a)に示された積層位置から、図1および図9(b)に例示された使用位置まで、矢印Cの示す方向に回転する。第1および第2の可動部材40、41がさらに同方向に回転すると、回転規制板52と第6の突出板58との先端同士が接する(図9(c)参照)。このとき、第1および第2の可動部材40、41は互いに平行になり、同方向へのこれ以上の回転はできなくなる。すなわち第1および第2の可動部材40、41は、図9(a)の積層位置と、互いに平行になる図9(c)の平行位置との間で相対回転自在である。
【0045】
また、第1〜第6の突出板50、51、55〜58により、第1、第2の可動部材40、41に対するブレース60、61の取り付け動作が容易になる。さらに、第1〜第6の突出板50、51、55〜58を設けたことにより、固定具10の強度も向上する。これは、回転の限界位置にある第1、第2の可動部材40、41を、さらに固定部材20に対して回転させるように加えられた力に対する、第1、第2の可動部材40、41の耐久性が向上するからである。
【0046】
図10は、ブレース60を吊りボルト30に固定させる工程における固定具10を示す正面図である。図11は、第1の可動部材40の回転範囲を示す固定具10の正面図である。図12は、固定具10によりブレース60、61が吊りボルト30に固定された状態を示す図である。なお、図10、11においては、説明の便宜上、第2の可動部材41が省略されている。
【0047】
ブレース60、61が第1および第2の可動部材40、41に取り付けられた状態で、固定部材20がスラブ70に当接される。そして、ブレース60を保持したユーザの操作により、吊りボルト30が第2の隙間Sに嵌合し、かつ第3爪部23の端部に接するように、固定具10の位置が調整される(図10(a)参照)。
【0048】
このとき、第2爪部22が第4爪部24よりも本体部32から突出していることにより、吊りボルト30は、第2の隙間Sに容易に嵌合される。そして第2の板状部材26は、このときに吊りボルト30の上方部分が第1の板状部材25の端部に接するように、第1の板状部材25に対して傾いている。従って、吊りボルト30は、第2の隙間Sに嵌合されるとほぼ同時に第1の板状部材25の端部に接し、固定具10は図10(a)に示された状態となる。
【0049】
引き続き、ユーザが、ブレース60を介して固定具10を傾けつつ、矢印Dの示すようにブレース60を引っ張ることにより、第3爪部23の縁部を吊りボルト30に接触させながら固定部材20が移動し、吊りボルト30は第1の隙間Sにも嵌合される。ここで、第1の隙間Sが、吊りボルト30の直径Lよりも長いことから、吊りボルト30は、容易に第1の隙間Sに嵌合される。すなわち、固定部材20は、図10(a)もしくは図10(b)の破線で示された位置から、矢印Eの示すように、図10(b)の実線で示された位置に速やかに移行する。
【0050】
そして、水平方向と異なる方向に沿って延びる第2および第4爪部22、24が、吊りボルト30の直径Lよりもわずかに長い第2の隙間Sを隔てて吊りボルト30を挟持する。このとき、第2の隙間Sの水平方向の長さは、吊りボルト30の直径Lよりもわずかに短い。
【0051】
これは、図10(a)の状態においては、第2の隙間Sの水平方向の長さは吊りボルト30の直径Lよりもわずかに長いものの、固定部材20の吊りボルト30に対する向きの変化により、図10(b)の状態では、第2の隙間Sの水平方向の長さが短くなるからである。この結果、第2爪部22と第4爪部24とが吊りボルト30を強く挟持することができ、固定部材20は吊りボルト30に強固に固定される(図1参照)。
【0052】
第1の可動部材40は、固定部材20に対して90°の範囲内で回転可能である。すなわち、第1の板状部材25が第1の可動部材40の延びる方向に垂直である積層位置(図9(a)、図11(a)参照)における第1の可動部材40の回転角度を0°と定めると、第1の可動部材40は、回転角度がおよそ45°であって、固定具10の使用時の典型的な位置である使用位置(図9(b)、図11(b)参照)を経て、第1の板状部材25が可動部材40の延びる方向に平行である平行位置(図9(c)、図11(c)参照)まで回転可能である。
【0053】
なお、第1の可動部材40を積層位置で保持するために、本体部32の端部に膨出領域32Eが、第1の可動部材40にはストッパ49が、それぞれ設けられている(図10、10参照)。膨出領域32Eがストッパ49に接することにより、第1の可動部材40の回転の限界が積層位置に定められる。このため、固定具10の使用、特に固定部材20の吊りボルト30への取り付けに適していない回転位置まで回転部材20が回転してしまうことが防止される。なお、平行位置についても同様であり、第1の可動部材40が平行位置まで移動すると、第1の板状部材25の端部が第1突出板50に接し、さらなる回転が防止される。
【0054】
このように、複数のブレース60、61の固定に有効な範囲内で第1、および第2の可動部材40、41が回転可能な固定具10を用いることにより、例えば、スラブ70から延びる吊りボルト30の先端に野縁受け72を取り付け、さらに野縁受け72に野縁74を取り付けた建築物(図12参照)において、吊りボルト30とブレース60、61のなす角β、βを容易に調整することが可能である。すなわち、吊りボルトの上端部にブレース60、61の一端を固定した後に、角β、βを調整しながら、ブレース60、61の他端を隣の吊りボルト30等に固定することができる。従って、吊りボルトの間隔が、例えば900mmで一定であるものの長さが異なる場合であっても、固定具10の使用により、いずれの吊りボルトに対しても2つのブレースを容易に固定できる。
【0055】
さらに、ブレース60の先端に取り付けた固定具10が吊りボルト30の上端付近まで届く範囲内で、ブレース60の固定作業を行う場所を選ぶことも可能である。第1の可動部材40の角度調整が可能であることに加え、固定部材20の吊りボルト30への取り付け作業(図10参照)が容易だからである。
【0056】
なお、第1および第2の可動部材40、41の回転軸は、固定部材20、第1および第2の可動部材40、41の延びる方向に対して垂直、すなわち、本体部32、第1および、第2の可動部側本体部54、65に対して垂直である。従って、固定具10の使用時(図1、9等参照)においては、第1および第2の可動部材40、41は、吊りボルト30に平行な平面に沿って回転する。
【0057】
以上のように、本実施形態の固定具10を用いることにより、溶接作業などの特別な作業を必要とせず、かつ簡易な操作によって複数のブレース60、61を吊りボルト30等に強固に固定することが可能である。さらに固定具10は、複数のブレース60、61をほぼ同時に、かつ回転可能に固定することが可能であって、ブレース60、61の取り付け角度の調整が容易であるため、作業効率を大幅に向上させることもできる。また、固定部材20、第1および第2の可動部材40、41は、それぞれ1枚の板を切断し、曲げ加工することにより成形可能であることから、固定具10の製造は容易である。
【0058】
固定具10の形状等は本実施形態に限定されない。例えば、第1の可動部材40の製造金型を活用して第1の可動部材40に類似した形状の可動部材を1つのみ形成し、固定部材20に取り付けても良い。この場合、単一のブレースのみが固定可能となるものの、固定具の構造をより簡素化できる。
【0059】
第1〜第4爪部21〜24の形状は、固定部材20を吊りボルト30に強固に固定できる限り、本実施形態と異なっても良い。また、ブレース60は、本実施形態におけるいわゆるCチャンネルの他、リップ溝型鋼等であっても良い。係止部48は、本実施形態以外の方法で設けられても良く、また、設けられなくても良い。係止部48が設けられない場合、第1の可動部材40の製造がより容易になる。
【符号の説明】
【0060】
10 固定具
20 固定部材
21 第1爪部(爪部)
22 第2爪部(爪部)
23 第3爪部(爪部)
24 第4爪部(爪部)
25 第1の板状部材
26 第2の板状部材
30 吊りボルト(棒状部材)
32 本体部
40 第1の可動部材
41 第2の可動部材
41L 位置決め線(指標)
48 係止部
50 第1の突出板(突出部)
51 第2の突出板(突出部)
60 ブレース
第1の隙間(隙間)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
棒状部材に複数のブレースを固定するための固定具であって、
前記棒状部材に固定される固定部材と、
前記固定部材に対して回転自在に重ねられており、前記複数のブレースのそれぞれが固定される第1および第2の可動部材とを備え、
前記固定部材が、前記棒状部材を挟持するための爪部であって、前記棒状部材の第1の側に当接する第1および第2爪部と、前記第1の側とは反対の第2の側に当接する第3および第4爪部を備え、
前記第1の可動部材と前記第2の可動部材とが、同一の回転軸を中心に回転することを特徴とする固定具。
【請求項2】
前記第1および第2の可動部材の少なくともいずれかにおいて、前記固定部材に対する回転位置に関わらず、前記ブレースの前記固定部材に対する接触を防止する前記ブレースの固定位置を示す指標が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の固定具。
【請求項3】
前記第1および第2の可動部材の少なくともいずれかの端部において、前記ブレースを保持する突出部が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の固定具。
【請求項4】
前記第1の可動部材と前記第2の可動部材とにおいて、前記突出部の設けられている位置および/または前記突出部の延びる方向が異なることにより、前記第1および第2の可動部材が同じ回転位置において互いに積層可能であることを特徴とする請求項3に記載の固定具。
【請求項5】
前記第1および第2の可動部材の少なくともいずれかの両端において、一対の前記突出部が設けられていることを特徴とする請求項3に記載の固定具。
【請求項6】
前記一対の突出部が前記可動部材から同じ方向に向かって延びていることを特徴とする請求項5に記載の固定具。
【請求項7】
前記第1および第2の可動部材の少なくともいずれかにおいて、固定される前記ブレースが前記固定部材に接触することを防止するために、前記ブレースを係止させる係止部が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の固定具。
【請求項8】
前記固定部材が、前記第1爪部と前記第3爪部とを含む第1の板状部材と、前記第2爪部と前記第4爪部とを含む第2の板状部材とを有することを特徴とする請求項1に記載の固定具。
【請求項9】
前記固定部材が板状の本体部を有し、前記第1の板状部材と前記第2の板状部材とが、前記本体部の同じ側において前記本体部から延びていることを特徴とする請求項8に記載の固定具。
【請求項10】
前記第1の板状部材において、前記第1爪部と前記第3爪部との間に前記棒状部材の径方向長さよりも長い隙間が設けられていることを特徴とする請求項8に記載の固定具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−149205(P2011−149205A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−11550(P2010−11550)
【出願日】平成22年1月22日(2010.1.22)
【出願人】(397027743)株式会社サンユー (4)
【Fターム(参考)】