説明

固定子および回転電機

【課題】固定子コイルからの熱をフレーム側に伝え難くした固定子および回転電機を提供する。
【解決手段】フレーム(3)の略円筒状の周壁内面(31)に当接して設けられており、固定子コイルが巻回されたコア本体(11)と、固定子コイルのコイルエンドを樹脂によりモールドしたモールド部(12)とを備えた固定子(1)である。そして、周壁内面(31)とモールド部(12)との間には空隙部(7)が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
開示の実施形態は、固定子および回転電機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、略円筒状のフレームの周壁内面に当接して設けられており、固定子コイルが巻回されたコア本体と、固定子コイルのコイルエンドを樹脂によりモールドしたモールド部とを備える固定子が知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
また、発熱する固定子コイルを冷却するために、例えば、上記特許文献1の固定子では、フレームの内周に螺旋状の冷却液溝を設けていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開平3−70056号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に係る固定子は、固定子コイルで発生する熱がフレーム側に伝達され易い構成となっていた。
【0006】
実施形態の一態様は、上記に鑑みてなされたものであって、固定子コイルからの熱をフレーム側に伝え難くした固定子および回転電機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態の一態様に係る固定子は、コア本体と、モールド部とを備えている。コア本体は、フレームの略円筒状の周壁内面に当接して設けられており、固定子コイルが巻回されている。モールド部は、前記固定子コイルのコイルエンドを樹脂によりモールドしている。そして、前記フレームの周壁内面と前記モールド部との間には、空隙部が形成されている。
【発明の効果】
【0008】
実施形態の一態様によれば、固定子コイルからの熱がフレーム側に伝達され難くなるため、熱が伝達されることにより生じる問題を未然に防止することができる。例えば、固定子を所定の機械中にビルトインした場合、回転電機の熱が他の機械要素に伝達され、熱膨張などにより様々な問題が生じることを未然に防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、実施形態に係る回転電機の縦断面視による説明図である。
【図2】図2は、図1の部分拡大説明図である。
【図3】図3は、空隙部を形成するための治具装着状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して、本願の開示する回転電機の実施形態を詳細に説明する。本実施形態においては、固定子と回転子とを所定の装置に組み付けるビルトインモータを回転電機として説明する。ただし、以下の実施形態における例示で本発明が限定されるものではない。
【0011】
図1は、実施形態に係る回転電機の縦断面視による説明図であり、図2は、同図1の一部を拡大した部分拡大説明図である。
【0012】
回転電機の一例であるビルトインモータ10は、図示するように、工作機械の一構成要素であって、被工作物を保持するテーブル20を回転駆動させるために用いられている。
【0013】
すなわち、本実施形態に係るビルトインモータ10は、略円筒状のフレーム3に取り付けられた固定子1と、先端をテーブル20に連結した回転軸30に取付けられる回転子2とから構成される。なお、当然ではあるが、ビルトインモータ10は、テーブル20の回転軸30に限らず、工作機械の工具を取付ける主軸等に取付けるものであってもよい。
【0014】
固定子1は、略円筒状に形成されたフレーム3に焼き嵌めされた積層コアからなるコア本体11と、このコア本体11に巻回された固定子コイル(図示せず)のコイルエンドを樹脂によりモールドしたモールド部12とを備えている。すなわち、固定子1は、フレーム3の略円筒状の周壁内面31に当接状態に設けられている。
【0015】
固定子1が設けられたフレーム3は、そのテーブル側の肉厚を厚く形成することにより、フレーム3における周壁内面31のテーブル側に段差を形成している。そして、図2に示すように、この段差部分に形成されたコア受部32に、コア本体11の端面を当接させることによってコア本体11、すなわち固定子1の位置決めがなされている。
【0016】
一方、回転子2は、円筒形に形成された回転子コア21と、回転子コア21の外周面に設けられたマグネット22とを備え、固定子1との間に僅かな間隙を設けて対向するように回転軸30に同心的に取付けられている。具体的には、回転子2は、例えば焼き嵌めなどによって、図示しないスリーブを介して回転軸30に嵌着される。なお、回転子コア21は、積層コアによって形成してもよいし、鉄などの削り出し部品によって形成してもよい。
【0017】
かかる構成により、固定子コイルへ通電すると、磁極変位によって回転子2に回転力が生じ、それに伴って回転軸30が回転することになる。
【0018】
回転軸30は、所定間隔をあけて設けられた第1ブラケット41と第2ブラケット42とに、第1軸受51と第2軸受52とを介して支承されている。なお、回転軸30には、図1に示すように、回転子コア21の端面と当接可能な回転子受部33が形成されており、回転子コア21の端面を回転子受部33に当接させることによって回転子2の位置決めがなされている。こうして、それぞれ位置決めされた固定子1と回転子2とは、既定の位置関係で互いに対向することになる。
【0019】
また、第1ブラケット41と、テーブル20側に位置する第2ブラケット42との間には、円筒状のハウジング4と、内周面に固定子1が焼き嵌めにより嵌着されたフレーム3とが設けられている。フレーム3は、フレーム取付ボルト6により第1ブラケット41に接合されている。
【0020】
かかるビルトインモータ10において、本実施形態では、固定子1の構成に特徴がある。すなわち、本実施形態に係る固定子1は、フレーム3の略円筒状の周壁内面31とモールド部12との間に空隙部7を形成している。
【0021】
通常、フレーム3に対し、固定子1は密着状態にあるため、固定子コイルからの熱はフレーム3側に直接熱伝導されていた。そこで、本実施形態に係るビルトインモータ10では、フレーム3の周壁内面31とモールド部12との間に空気層が形成される空隙部7を設けたため、この空隙部7の存在により、固定子1の固定子コイルからの熱がフレーム3側に伝達され難くなった。
【0022】
したがって、本実施形態に係るビルトインモータ10を用いる場合、固定子1の熱が伝達されることによって、例えば熱膨張などの影響によって何らかの問題が生じる虞があったとしても、かかる問題の発生を未然に防止することができる。
【0023】
例えば、固定子1がビルトインされた工作機械側に、僅かでも熱を嫌う機械要素や被切削物があった場合でも、回転電機の熱がそれらに伝達されることにより様々な問題が生じることを未然に防止することができるのである。
【0024】
図3に、空隙部7を形成する際に用いる治具の装着状態を示す説明図を示す。図示するように、空隙部7を形成する場合、固定子コイルのモールド時には、所望する空隙厚みに相当する厚さに形成された空隙形成部71を有する略L字状のモールド用治具70を用いるとよい。
【0025】
かかるモールド用治具70を装着した状態で、所定の型(図示せず)を用いて樹脂を封入することにより、フレーム3の周壁内面31とモールド部12との間に所望する厚みの空隙部7を形成することができる。
【0026】
なお、図3中、符号61はフレーム取付ボルト6に対応する雌螺子が形成されたボルト孔を示している。すなわち、本実施形態に係るビルトインモータ10では、図1および図2に示すように、第1ブラケット41をフレーム取付ボルト6によりフレーム3の端面に連結している。
【0027】
空隙部7は、フレーム3の周壁内面31とモールド部12との間全体にわたって形成されるのではない。モールド部12のコア本体11側には、フレーム3と接合するブリッジ部12aが形成される(図1および図2を参照)。
【0028】
すなわち、モールド用治具70は、その先端がコア本体11と当接することがない長さに設定されているため(図3参照)、モールド時にはモールド用治具70の先端とコア本体11との間にブリッジ部12aが形成される。
【0029】
かかるブリッジ部12aは、ビルトインモータ10が、本実施形態のように、工作機械に組み付けられる場合には有用となる。すなわち、工作機械が切削機械などの場合、切削液を被工作物に供給しながら切削する。その際に、切削液がハウジング4やブラケット41,42内に浸入しても、ブリッジ部12aが存在するため、切削液がフレーム3の周壁内面31を伝ってコア本体11を経由して固定子コイルへ至ってしまう虞がなくなる。
【0030】
ところで、本実施形態では、空隙部7を、コア本体11を挟む両側に形成している。しかし、一方に形成してもよく、その場合、空隙部7はテーブル20の側に形成することが望ましい。
【0031】
すなわち、本実施形態においては、僅かの熱であってもそれを嫌う機械要素や被切削物は、テーブル20側に存在する可能性が高いため、断熱を企図する空隙部7は、少なくともテーブル20の側に形成することが望ましいのである。
【0032】
しかも、本実施形態では、コア本体11の端面と当接可能なコア受部32を、フレーム3に段差部を設けて形成している。すなわち、フレーム3におけるテーブル20に近接する側を肉厚に形成し、フレーム3の大部分を占める薄肉部分との間に段差部を設け、この段差部を利用してコア受部32を形成している。
【0033】
したがって、フレーム3においては、テーブル20側が熱をより伝導し難い肉厚部分となるため、フレーム3と接合するブリッジ部12aが形成されていても、モールド部12からのテーブル20の側への熱伝導を抑制することができる。
【0034】
また、本実施形態に係る固定子1では、フレーム3の周壁には、コア本体11を冷却するための冷却液路8が形成されている。本実施形態における冷却液路8は、フレーム3の周壁において、コア本体11と対向する所定領域内に螺旋状に設けられている。
【0035】
すなわち、冷却液路8は、固定子1を構成するコア本体11とモールド部12のうち、モールド部12のような空隙部7を有さず、周壁内面31と密着しているコア本体11の軸方向における全長に亘る範囲に規定された所定領域内に設けられている。
【0036】
そして、冷却液路8の始端に図示しない冷却液供給装置を接続して、ビルトインモータ10が作動すると、冷却液供給装置から冷却液を供給し、固定子1をその外周側から冷却するのである。なお、冷却液は、冷却液路8の他端から排出するようにしておくとよい。
【0037】
かかる構成により、コア本体11からの熱については、冷却液路8を流れる冷却液によって冷却されることになる。なお、冷却液としては専用冷却液でもよいし、冷却油、あるいは冷却水であってもよい。
【0038】
なお、冷却液路8はフレーム3に形成された溝渠状のものであればよく、本実施形態のビルトインモータ10のように、フレーム3の外周面に開渠状に形成されたものであってもよいし、フレーム3の周壁内に暗渠状に形成されたものであってもよい。
【0039】
このように、本実施形態に係るビルトインモータ10では、冷却液路8を設けたことにより、空隙部7による熱伝導抑制効果と相俟って、固定子1がビルトインされた工作機械側に、フレーム3を介して熱が伝導されることを抑制することができる。
【0040】
また、フレーム3に冷却液路8を設けると、フレーム3と固定子1との間の温度勾配が著しく大きくなる。すなわち、フレーム3は冷えて収縮しようとする一方、固定子1は発熱して膨張しようとするため、通常であれば、モールド部12へ大きな圧縮応力が加わる。しかし、本実施形態に係るビルトインモータ10では、モールド部12とフレーム3の周壁内面31との間に空隙部7が形成されているため、モールド部12へ多大な応力が加わることを防止できる。
【0041】
また、図3に示すように、コア本体11と対向するフレーム3の所定領域の外側領域にシール材装着溝34が形成されている。そして、このシール材装着溝34内にOリング9を装着し、冷却液路8が形成されたフレーム3とハウジング4とを水密状に密着させて連接している。
【0042】
本実施形態に係るビルトインモータ10では、コア本体11の軸方向長さに対応する所定領域内にのみ冷却液路8が形成され、この所定領域に可及的に近接させてシール材装着溝34を形成している。したがって、ビルトインモータ10としての軸方向への長さを短縮することができる。それにより、図1に示すように短尺なモータ構造を実現することができる。
【0043】
なお、固定子1からフレーム3への熱伝導の抑制を図ろうとする場合、冷却液路8の形成領域を拡張することも考えられる。しかし、フレーム3の端面近傍にはフレーム取付ボルト6を螺合するボルト孔61も形成されているため、フレーム3の端面部近傍の領域には、冷却液路8を形成する余剰な領域は残されていない。
【0044】
したがって、本実施形態に係るビルトインモータ10のように、空隙部7を設けた構成が極めて有用となる。また、上述したように、短尺なモータ構造を実現する場合に、さらに有用となる。
【0045】
また、本実施形態に係る冷却液路8は、モールド部近傍の溝深さを他の部分よりも深くしてある。
【0046】
すなわち、図2に示すように、螺旋状に形成された冷却液路8の始端近傍および終端近傍にあたる箇所においては、大部分の溝深さとなる通常溝部81と、モールド部12の近傍については通常溝部81よりも所定寸法dだけ深くした深溝部82とを形成している。換言すれば、深溝部82の部分については、フレーム3の肉厚が通常溝部81の部分よりも薄くなっており、固定子1に対する冷却効果がより高まることになる。
【0047】
そして、本実施形態における冷却液路8では、深溝部82を、当該深溝部82の幅の範囲内にモールド部12のブリッジ部12aが位置するように形成している。すなわち、ブリッジ部12aの部分については熱がフレーム3に伝わり易くなっているものの、その点に関し、深溝部82を形成することによって、冷却効果が損なわれないようにしている。
【0048】
このように、本実施形態に係る固定子1および当該固定子1を具備する回転電機としてのビルトインモータ10によれば、固定子1による熱が、工作機械の他の機械要素や被工作物に伝達され難くなる。そのため、他の機械要素や被工作物に対して、熱膨張などによる様々な問題から保護することが可能となる。
【0049】
なお、上述した例では、フレーム3の周壁に冷却液路8を設けた構成としたが、冷却液路8は廃止して、フレーム3の周壁内面31と固定子1のモールド部12との間に空隙部7のみを形成した構成であってもよい。
【0050】
また、冷却液路8を形成した場合、必ずしもモールド部近傍の溝深さを他の部分よりも深くしなくても構わない。
【0051】
上述した実施形態のさらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。このため、本発明のより広範な態様は、以上のように表しかつ記述した特定の詳細および代表的な実施形態に限定されるものではない。したがって、添付の特許請求の範囲およびその均等物によって定義される総括的な発明の概念の精神または範囲から逸脱することなく、様々な変更が可能である。
【符号の説明】
【0052】
1 固定子
2 回転子
3 フレーム
7 空隙部
8 冷却液路
11 コア本体
12 モールド部
31 周壁内面
34 シール材装着溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フレームの略円筒状の周壁内面に当接して設けられており、固定子コイルが巻回されたコア本体と、前記固定子コイルのコイルエンドを樹脂によりモールドしたモールド部と、
を備え、
前記周壁内面と前記モールド部との間には、空隙部が形成されている
ことを特徴とする固定子。
【請求項2】
前記フレームの周壁には、前記コア本体と対向する所定領域内に冷却液路が形成されている
ことを特徴とする請求項1に記載の固定子。
【請求項3】
前記冷却液路は、
前記モールド部近傍の溝深さを他の部分よりも深くしてある
ことを特徴とする請求項2に記載の固定子。
【請求項4】
前記フレームにおける前記所定領域の外側領域には、シール材装着溝が形成されている
ことを特徴とする請求項2または3に記載の固定子。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1つに記載の固定子と、
前記固定子と対向するように回転軸に取付けられる回転子と、
を備える
ことを特徴とする回転電機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−90488(P2013−90488A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−230001(P2011−230001)
【出願日】平成23年10月19日(2011.10.19)
【出願人】(000006622)株式会社安川電機 (2,482)
【Fターム(参考)】