説明

固定子の樹脂モールド成形方法、固定子の樹脂モールド成形装置、及び固定子構造

【課題】不要部への樹脂の回り込みを防ぐことができる固定子の樹脂モールド成形方法、及び固定子構造の提供。
【解決手段】固定子コア13に導体コイルが組み込まれ、導体コイルを外部と電気接続するためのコネクタ部16とを有し、固定型21と可動型22とで固定子コア13を挟んで形成するキャビティ26にモールド樹脂が充填されることでモールド成形される固定子10の樹脂モールド成形方法において、固定型21に対して可動型22が近接して、固定子コア13を挟み込む際に、可動型22に設けられたバックアップピン35が、コネクタ板17の備える端子18が突出する端子面17Cの反対側に差し込まれ、固定型21と可動型22に固定子コア13を挟み込んだ後に、スライド型31に備える位置決めピン37が、スライド型31をコネクタ板17側に前進させることで、端子面17Cに形成されたコネクタ位置決め穴17Aと嵌合される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータの固定子のコイルエンド部にコネクタを設け、樹脂モールドする技術に関する。
【背景技術】
【0002】
モータの固定子のコイルエンドは、ワニスを用いて保護する方法もあるが、近年では絶縁性樹脂を用いてモールドする方法も用いられている。
例えば、特許文献1に示される電動機の製造方法では、上型及び下型を用いて、固定子を覆うキャビティを形成し、その内部に固定子を配置して樹脂モールドする方法が開示されている。
【0003】
図12に、特許文献1のコイルを金型にセットした状態の断面図を示す。
接続端子118の先端に備えられたバレル部119を分割型131Aに形成される支持穴134に挿入し、分割型131Aが備えられた上型131と、下型132とで形成されたキャビティ135に、コイル113が収まる状態で型閉じされる。
この時、可動ピン137は前進位置にあり、コイル113は可動ピン137に支えられてキャビティ135内に浮遊状態に保持される。
このように上型131、分割型131A及び下型132によって形成されるキャビティ135に樹脂Rが注入され、さらに可動ピン137を後退させて残りの樹脂Rを注入することで、コイル113は樹脂モールドされる。
【0004】
【特許文献1】特開2002―28950号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示される従来技術には、不要部への樹脂の回り込みを防ぐことが難しいという課題があると考えられる。
特許文献1の方法を用いてコイル113を樹脂モールドする場合、図12に示すように分割型131Aの支持穴134に、バレル部119が挿入するという構成上、支持穴134の内周面とバレル部119の外周面の嵌め合いはある程度緩くしておく必要がある。嵌め合いをきつくすると施工性に問題が出るためである。しかし、支持穴134の内周面とバレル部119の外周面の嵌め合が緩いと、支持穴134とバレル部119の隙間に樹脂Rが入り込んで凝固してしまう虞がある。
支持穴134に対してバレル部119が精度良く形成されて当接していないと、シールが不完全な部分ができ、樹脂Rが漏れてしまうことが考えられるためである。
【0006】
しかし、バレル部119は固定子を例えば自動車に車載する際には、相手端子と接続する必要があるため、このような樹脂Rの漏れは好ましくない。はみ出した樹脂Rが組み付け性を阻害するためである。したがって、固定子成形後にはみ出した樹脂Rを取り除く作業が必要となる。このような作業の自動化は困難である。
このように特許文献1に示される技術では、不要部への樹脂の回り込みが起きることによって、不要なバリを発生させ、組み付け性を阻害する虞がある。
発生した不要なバリを取り除く為には、工程を増やす必要があり、コスト増大に繋がるほか、自動でバリを取り除くのは困難であるため人手に頼る必要があり人件費をかけることでコスト増大に繋がってしまう。
【0007】
そこで、本発明は、このような課題を解決するために、不要部へのモールド樹脂の回り込みを防ぐことができる固定子の樹脂モールド成形方法、及び固定子構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、本発明による固定子の樹脂モールド成形方法は以下のような特徴を有する。
(1)固定子コアに導体コイルが組み込まれ、前記導体コイルを外部と電気接続するためのコネクタとを有し、固定型と可動型とで前記固定子コアを挟んで形成されるキャビティにモールド樹脂が充填されることでモールド成形される固定子の樹脂モールド成形方法において、
前記固定型に対して前記可動型が近接して、前記固定子コアを挟み込む際に、前記可動型に設けられたバックアップ部材が、前記コネクタの備える端子が突出する端子面の反対側に差し込まれ、前記固定型と前記可動型に前記固定子コアを挟み込んだ後に、前記コネクタの前記端子面をシールするスライド型を前記端子面に向かってスライドさせることで、前記スライド型に備える位置決めピンが、前記端子面に形成された位置決め穴と嵌合されることを特徴とする。
【0009】
(2)(1)に記載の固定子の樹脂モールド成形方法において、
前記コネクタの前記端子面の外周にシール部分が設けられ、前記スライド型をスライドさせることで、前記スライド型が前記シール部分に当接することを特徴とする。
【0010】
また、前記目的を達成するために、本発明による固定子の樹脂モールド成形装置は以下のような特徴を有する。
(3)固定型と可動型とスライド型とを備え、導体コイル及び前記導体コイルを外部と電気接続するためのコネクタとが接続された前記固定子コアを、前記固定型と前記可動型とで挟んでキャビティを形成し、モールド樹脂が充填する固定子の樹脂モールド成形装置において、
前記可動型に、前記コネクタの備える端子が突出する端子面の反対側に差し込まれるバックアップ部材が設けられ、前記スライド型に、前記端子面に形成された位置決め穴と嵌合される位置決めピンが設けられることを特徴とする。
【0011】
(4)(3)に記載の固定子の樹脂モールド成形装置において、
前記スライド型に、前記コネクタの端子面の外周に形成されるシール部分と当接するシール当接部分が形成されていることを特徴とする。
【0012】
また、前記目的を達成するために、本発明による固定子構造は以下のような特徴を有する。
(5)固定子コアに導体コイルが組み込まれ、前記導体コイルを外部と電気接続するためのコネクタとを有し、固定型と可動型とスライド型とを備える金型により全体がモールド成形される固定子構造において、
前記コネクタの端子が突出する端子面に、前記スライド型が備える位置決めピンが嵌合する位置決め穴が形成され、前記コネクタの前記端子が突出する前記端子面の反対側に、前記可動型のバックアップ部材が挿入されていたバックアップ用凹部が形成されることを特徴とする。
【0013】
(6)(5)に記載の固定子構造において、
前記端子面の外周に前記スライド型と接触してシールするシール部分が形成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
このような特徴を有する本発明による固定子の樹脂モールド成形方法により、以下のような作用、効果が得られる。
まず、(1)に記載される発明は、固定子コアに導体コイルが組み込まれ、導体コイルを外部と電気接続するためのコネクタとを有し、固定型と可動型とで固定子コアを挟んで形成されるキャビティにモールド樹脂が充填されることでモールド成形される固定子の樹脂モールド成形方法において、固定型に対して可動型が近接して、固定子コアを挟み込む際に、可動型に設けられたバックアップ部材が、コネクタの備える端子が突出する端子面の反対側に差し込まれ、固定型と可動型に固定子コアを挟み込んだ後に、コネクタの端子面をシールするスライド型を端子面に向かってスライドさせることで、スライド型に備える位置決めピンが、端子面に形成された位置決め穴と嵌合されるので、コネクタのスライド型に対する位置を決めることができる。
【0015】
更に、スライド型にバックアップ部材方向に圧力をかけることで、コネクタをバックアップ部材とスライド型で挟み込み、コネクタがスライド型に当接してコネクタが端子を備える端子面を封止してモールド樹脂が漏れることを防ぐことができる。
端子面には端子が設けられており、この部分にモールド樹脂が飛び出してしまうと、相手端子との接続に支障ができる虞がある。しかし、スライド型をバックアップ部材方向に前進させて圧力をかけた際に、所定の位置にコネクタが存在すれば、適切にシールすることが可能となり、不要部へのモールド樹脂の回り込みを防ぐことができる樹脂モールド成形方法を提供することが可能となる。
【0016】
また、(2)に記載される発明は、(1)に記載の固定子の樹脂モールド成形方法において、コネクタの端子面の外周にシール部分が設けられ、スライド型をスライドさせることで、スライド型がシール部分に当接するので、固定型に固定子コアがセットされ、可動型と固定型で固定子コアを挟み込んだ後にスライド型が前進し、背面をバックアップ部材に支えられたコネクタの端子面に位置決めピンが嵌合することでコネクタの位置が決定し、スライド型とシール部分が当接する。スライド型とシール部分が当接することでコネクタの端子面を封止し、キャビティに充填されるモールド樹脂が端子面側に漏れることを防ぐことができる。
端子面の外周部にシール部分が形成され、端子面に位置決め穴が形成されるので、位置決めピンが位置決め穴に嵌合されることでコネクタとスライド型の位置が決まり、シール部分とスライド型は端子面の外周部で当接し確実にシールすることが可能となる。
これによって、不要部へのモールド樹脂の回り込みを防ぐことができる樹脂モールド成形方法を提供することが可能となる。
【0017】
また、このような特徴を有する本発明による固定子の樹脂モールド成形装置により、以下のような作用、効果が得られる。
(3)に記載される発明は、固定型と可動型とスライド型とを備え、導体コイル及び導体コイルを外部と電気接続するためのコネクタとが接続された固定子コアを、固定型と可動型とで挟んでキャビティを形成し、モールド樹脂が充填する固定子の樹脂モールド成形装置において、可動型に、コネクタの備える端子が突出する端子面の反対側に差し込まれるバックアップ部材が設けられ、スライド型に、端子面に形成された位置決め穴と嵌合される位置決めピンが設けられる。
バックアップ部材によってコネクタの背面を支え、スライド型でコネクタを押圧することで、スライド型とバックアップ部材によってコネクタを挟み込む。この際に、スライド型に端子面に形成された位置決め穴と嵌合される位置決めピンが設けられているので、スライド型に対してコネクタの位置は極められて、コネクタはスライド型とバックアップ部材によって挟み込まれることになる。このため、コネクタが端子を備えるコネクタ前面に樹脂が漏れることを防ぐことができる。
よって、不要部へのモールド樹脂の回り込みを防ぐことができる固定子の樹脂モールド成形装置を提供することが可能となる。
【0018】
また、(4)に記載される発明は、(3)に記載の固定子の樹脂モールド成形装置において、スライド型に、コネクタの端子面の外周に形成されるシール部分と当接するシール当接部分が形成されているので、位置決めピンとバックアップ部材によってコネクタの位置が極められ、コネクタのシール部分とスライド型のシール当接部分が当接するので、端子面が封止され、不要な部分へのモールド樹脂の回り込みを防ぐことが出来る固定子の樹脂モールド成形装置を提供することが可能となる。
【0019】
また、このような特徴を有する本発明による固定子構造により、以下のような作用、効果が得られる。
(5)固定子コアに導体コイルが組み込まれ、導体コイルを外部と電気接続するためのコネクタとを有し、固定型と可動型とスライド型とを備える金型により全体がモールド成形される固定子構造において、コネクタの端子が突出する端子面に、スライド型が備える位置決めピンが嵌合する位置決め穴が形成され、コネクタの端子が突出する端子面の反対側に、可動型のバックアップ部材が挿入されていたバックアップ用凹部が形成されるので、バックアップ部材と位置決めピンによってスライド型とコネクタの位置が極められ、コネクタがスライド型と当接して端子面を封止することで、不要部へのモールド樹脂の回り込みを防ぐことができる固定子構造を提供することが可能となる。
【0020】
また、(6)に記載される発明は、(5)に記載の固定子構造において、端子面の外周にスライド型と接触してシールするシール部分が形成されるので、端子面の外周でシール部分がスライド型と当接して封止するため、端子面にモールド樹脂が漏れることを防ぐことが出来る。よって、不要部へのモールド樹脂の回り込みを防ぐことができる固定子構造を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
次に、本発明の実施例について、図面を参照しつつ説明する。
まず、本実施例の構成について概略を簡単に説明する。
図1に、本実施例の固定子10の斜視図を示す。また、図2に、固定子10のうち平行巻きコイル11、傾斜巻きコイル12及び固定子コア13の配置状態を表す平面図を示す。また、図3に、図2の固定子10はA−B−C断面を示す。
固定子10は、図1に示すように、固定子コア13に平行巻きコイル11又は傾斜巻きコイル12を配設した状態で、コイルエンドを樹脂モールドして樹脂モールド部20を設けた形状となっている。樹脂モールド部20の一端には、端子18が備えられるコネクタ板17が設けられている。この固定子10の内部は、図2に示されるように鋼板を積層して形成した固定子コア13に備えるティース部13Aに、インシュレータ15に導線が巻回されたコイルが配設されている。
【0022】
コイルは、平行巻きコイル11と傾斜巻きコイル12の2種類あり、固定子コア13のティース部13Aに平行巻きコイル11及び傾斜巻きコイル12が交互に配設される。これによって、固定子コア13のスロット内におけるコイルの占積率を向上させることができる。固定子コア13には、3カ所に位置決め孔13Bが形成されている。
平行巻きコイル11と傾斜巻きコイル12は、U、V、Wの3相のコイルを形成するようにバスバ14により接続されている。バスバ14のU、V、W相の各端部は、コネクタ板17に設けられた三本の端子18に接続されている。コネクタ板17は固定子コア13の片端に一定の高さに位置決めされて取り付けられている。
なお、コネクタ部16は、コネクタ板17が樹脂モールドされることによって形成される。したがって、バックアップ穴16Aも樹脂モールド部20が形成された時点で形成されるが、図2には、コネクタ部16の位置が分かるように実線で記載している。
【0023】
図4に、固定子10に設けられるコネクタ部16の正面図を示す。図3のE矢視図である。
コネクタ板17に設けられた3本の端子18は、コネクタ板17の端子面17Cに設けられており、その外周にはシール部分17Bが設けられている。シール部分17Bに対して端子面17Cは突出する形状に形成されている。
シール部分17Bは外周に向かうにしたがって徐々にその厚みが薄く形成されている。したがって、断面形状は台形形状となっており、端子面17Cが形成される側が長辺となる。また、端子面17Cには、2つのコネクタ位置決め穴17Aが形成されている。
なお、このシール部分17B及び端子面17Cの図4に示される面がコネクタ板17のステータ外側端面となる。
【0024】
図5に、コネクタ板17を裏側から見た背面図を示す。図3のFF断面図である。
コネクタ板17の背面には、端子18を接続する端子支持部17Dが備えられている。なお、図中に示されているバックアップピン35については、後述で説明する。
コネクタ部16は、図2に示されるように、固定子10の中心線上には設けられず、若干ずれた位置に配置されている。このようにずれて配置されることで、コネクタ部16が固定子10の外側に突出する量を減らすことができ、固定子10の体格を小さくすることに貢献する。固定子10の体格を小さくすることは、自動車の設計上の要請からである。
コネクタ板17の端子18が固定子10の外周方向に向いていることも、設計上の要請からであり、外周側に向けることで、接続部分を固定子10の外周側面に設けることができるので、結果的に固定子10を用いたモータの取り付けスペースが薄くなるメリットがある。
【0025】
次に、固定子10を樹脂モールドする金型の構成について説明する。
図6に、固定型21と可動型22、及びスライド型31を用いて固定子10の樹脂モールド部20を形成する工程の断面図を示す。また、図7に、図6の固定型21を上面から見た平面図を示す。固定型21及びスライド型31は二点差線で示している。
固定型21は、中央に中心柱23が設けられている下型であり、中心柱23の外周面に、固定子10の固定子コア13が備えるティース部13Aの内周面が勘合される。
固定型21には、中央に形成される中心柱23の中心に貫通するピン24とその周囲に設けられるパイプ25が設けられている。ピン24の先端には凸状リング24Aが形成されている。パイプ25は固定型21に対して上下に摺動可能である。
また、固定型21の中心柱23の外周には固定子コア13の位置決め孔13Bの位置決めが可能なように位置決めピン37が備えられている。
【0026】
可動型22は、固定型21に対して上下に移動する上型である。スライド型31は可動型22にスライド可能に保持され、可動型22と一緒に上下に移動する。
固定型21の中心柱23の周囲には、固定子10の固定子コア13外周を支える固定子コア支持部21Aが形成されており、固定子コア13の平行巻きコイル11及び傾斜巻きコイル12の配設される部分より外側と当接して固定子10を支持する。
一方、可動型22にも、固定子10の固定子コア13の上面と当接する固定子コア当接部22Aが形成されている。この固定子コア当接部22Aは、固定子コア13に備えられる平行巻きコイル11及び傾斜巻きコイル12の外側に設けられているバスバ14の更に外周の、固定子コア13の上面と、スライド型31の部分を除いて当接する。
可動型22の中央には、円錐流路28が形成され、一端には注入口29と接続されている。注入口29からはモールド樹脂が注入される。円錐流路28の他端には、導入路27が接続される。導入路27は円盤状に固定型21の中心柱23上面と、可動型22の下面に挟まれて形成される。
【0027】
スライド型31は、コネクタ板17の端子18を固定子10の外周方向に突出するために必要となる。スライド型31を用いないと、固定子10の樹脂モールド部20を成形後、可動型22から固定子10が抜けなくなってしまうためである。
スライド型31を可動型22に保持するために、固定子10のコネクタ板17と対応する位置に、可動型22にはガイド部溝38が形成される。そして、ガイド部溝38に摺動可能にスライド型31は可動型22に保持されている。
スライド型31にはスライドベース32が設けられ、油圧シリンダ34のロッドと接続している。スライドベース32には2本のコネクタ位置決めピン33が取り付けられている。コネクタ位置決めピン33は、コネクタ板17のコネクタ位置決め穴17Aに対向している。
【0028】
スライド型31には、コネクタ板17の端子面17Cが嵌り込むような段差が設けられ、コネクタ板17の端子面17Cが当接するコネクタガイド31Aが設けられている。コネクタガイド31Aは端子18を避けるように溝が設けられている。スライド型31の下面には、固定子コア13を押さえる固定子コア押さえ部31Bが形成されている。
このように、固定型21及び可動型22で固定子コア13を挟み込み、スライド型31でコネクタ板17を押さえることで、図6に示すようにキャビティ26が形成され、このキャビティ26に導入路27が接続されてキャビティ26内部にモールド樹脂が流し込まれて固定子10の樹脂モールド部20を成形する。
【0029】
次に、可動型22及びスライド型31の動きについて説明を行う。
図8に、固定型21に固定子10が配設され、可動型22が上部に退避している状態の断面図を示す。また、図9に、固定型21が可動型22の所定の位置に降下している状態の断面図を示す。
可動型22は図示しない駆動機構により、固定型21の上部に退避している。すなわち、金型が開いている状態である。この時、スライド型31の油圧シリンダ34は原点位置にあり、図面左側に位置している。
この状態において、ハンドリング装置や作業者によって固定子コア13が固定型21の所定の位置に配置される。固定子10のティース部13Aの内周面は中心柱23の外周面に勘合され、固定子コア13に形成される位置決め孔13Bは、固定型21に備えられた位置決めピン37に嵌め込まれる。こうして、固定子10の固定型21に対する位置が決定され、コネクタ板17は固定子10の製作精度により、固定型21の所定の箇所に位置決めされる。
【0030】
固定子10が位置決めされた後、図9に示すように可動型22を図示しない駆動機構により降下する。可動型22が降下すると共に、バックアップピン35はコネクタ板17の背面に差し込まれる。図示しない検出器により、可動型22の固定子コア当接部22Aが固定子コア13の上面に当接する位置で降下を停止する。この状態は仮締め状態であり、可動型22は固定子コア13に対して殆ど力をかけていない。
図10に、コネクタ板17の周囲の拡大断面図を示す。
可動型22が停止した仮締め状態で、スライド型31の油圧シリンダ34が駆動され、スライドベース32が前進する。これによりコネクタ位置決めピン33及びスライド型31が前進する。
【0031】
スライド型31のコネクタ位置決めピン33が前進することにより、コネクタ板17のコネクタ位置決め穴17Aは、コネクタ位置決めピン33により位置決めされ、コネクタ位置決め穴17Aが所定の深さを備えているので、更にスライド型31は前進する。
そして、端子面17Cにコネクタガイド31Aの端面に形成されるバックアップ当接面31Cが突き当たる位置まで前進して、スライド型31は停止する。このスライド型31のコネクタ位置決めピン33及びコネクタガイド31A、可動型22のバックアップピン35によってコネクタ板17は位置決めされる。
スライド型31が定位置に移動したことを確認して、可動型22を更に下げて固定子コア13とのシール性を確保する。可動型22は下方に数十トンの押圧力をかけることで、固定子コア13の上面は固定子コア当接部22Aで、固定子コア13の下面は固定子コア支持部21Aで押圧され、確実にシールし、キャビティ26を形成する。
このようにして、固定型21、可動型22、スライド型31によってキャビティ26が形成され、図6に示す注入口29からモールド樹脂が注入されることで、樹脂モールドを行う。
【0032】
本実施例は上記構成となっているので、以下に示すような作用、効果を奏する。
図11に、コネクタ板17付近の拡大図を示す。図10の拡大断面図である。
油圧シリンダ34の接続されたコネクタガイド31Aは、コネクタ板17をガイドしながら圧力を加えている。一方、コネクタ板17の背面にバックアップピン35が差し込まれているので、油圧シリンダ34の力を受ける。この時、コネクタ板17に設けられたシール部分17Bは、シール当接面31Dに当接する。シール部分17Bは外周に向かって徐々に厚みが薄く形成されているので、キャビティ26にモールド樹脂を注入する際、モールド樹脂の圧力であるモールド樹脂圧力P1を受け、コネクタガイド31Aには油圧シリンダ34のシリンダ推力P2が付与されているので、シール当接面31Dと端子面17Cは馴染み、密着することになる。
コネクタ板17は、コネクタ位置決め穴17Aにコネクタ位置決めピン33の先端が嵌合し、さらにバックアップピン35とコネクタガイド31Aに挟まれて位置決めされるので、シール当接面31Dにはシール部分17Bが確実にあたり、シール部分17Bを封止可能である。
【0033】
端子面17Cが封止されることで、モールド樹脂がキャビティ26からはみ出て、端子面17Cを覆ってしまうようなことが無く、固定子10として自動車などに組み付ける前にバリを取るなどの工程を設ける必要がなくなる。
バリが発生すると、相手側端子との組み付け性を悪化させ、はみ出たモールド樹脂の量が多く端子18が覆われてしまうと、モールド樹脂を除供することは困難となり、不良となってしまう虞がある。
また、樹脂モールドのバリを取り去るような工程は、自動化することが困難であるため、人手に頼ることとなり、コストアップとなる。
【0034】
また、コネクタ部16が固定子10に精度良く形成されることで、コネクタ部16のコネクタ板17に設けられた端子18に対して図示しない相手端子との組み付け性が向上する。
図11に示すように、コネクタ板17はモールド成形時に、コネクタ位置決め穴17Aにコネクタ位置決めピン33の先端が嵌合し、さらにバックアップピン35とコネクタガイド31Aに挟まれることで、可動型22、固定型21、及びスライド型31に対して位置決めされる。一方、図6に示すように固定子コア13は、固定型21に対して中心柱23に差し込まれ、固定子コア13に形成された位置決め孔13Bに位置決めピン37によって位置決めされるため、固定子コア13とコネクタ板17が樹脂モールドされたコネクタ部16は、精度良く形成されることになる。
【0035】
コネクタ板17はバスバ14によって支えられている状態であるため、外力によって変形しやすく、樹脂モールドする際に位置決めされてコネクタ部16を形成しないと端子18の位置が固定子10に対してばらついてしまう。
固定子10の組み付けは、自動で行うことが望ましいので、端子18の位置についても固定子10に対して精度良く位置決めされていることが望ましい。
本実施例のように、固定子コア13及びコネクタ板17が位置決めされ、精度よく形成されていれば、自動組付けした際にも組み付け不良を起こしにくくなる。よって、コストダウンに貢献することが可能となる。
【0036】
以上に説明したように、本実施例では以下に示すような、構成、作用、効果が得られる。
(1)固定子コア13に平行巻きコイル11及び傾斜巻きコイル12が組み込まれ、平行巻きコイル11及び傾斜巻きコイル12を外部と電気接続するためのコネクタ部16とを有し、固定型21と可動型22とで固定子コア13を挟んで形成されるキャビティ26にモールド樹脂が充填されることでモールド成形される固定子10の樹脂モールド成形方法において、固定型21に対して可動型22が近接して、固定子コア13を挟み込む際に、可動型22に設けられたバックアップピン35が、コネクタ板17の備える端子18が突出する端子面17Cの反対側に差し込まれ、固定型21と可動型22に固定子コア13を挟み込んだ後に、コネクタ板17の端子面17Cをシールするスライド型31を端子面17Cに向かってスライド型31させることで、スライド型31に備える位置決めピン37が、端子面17Cに形成されたコネクタ位置決め穴17Aと嵌合されるので、コネクタ板17のスライド型31に対する位置を決めることができる。
【0037】
更に、スライド型31にバックアップピン35方向に圧力をかけることで、コネクタ板17をバックアップピン35とスライド型31で挟み込み、コネクタ板17がスライド型31に当接してコネクタ板17が端子18を備える端子面17Cを封止してモールド樹脂が漏れることを防ぐことができる。
端子面17Cには端子面17Cが設けられており、この部分にモールド樹脂が飛び出してしまうと、相手端子との接続に支障ができる虞がある。しかし、スライド型31を端子面17C方向に前進させて圧力をかけた際に、所定の位置にコネクタ位置決め穴17Aが存在すれば、適切にシールすることが可能となり、不要部へのモールド樹脂の回り込みを防ぐことができる樹脂モールド成形方法を提供することが可能となる。
【0038】
(2)(1)に記載の固定子10の樹脂モールド成形方法において、コネクタ板17の端子面17Cの外周にシール部分17Bが設けられ、スライド型31を前進させることで、スライド型31がコネクタ板17のシール部分17Bに当接するので、固定型21に固定子コア13がセットされ、可動型22と固定型21で固定子コア13を挟み込んだ後にスライド型31が前進し、背面をバックアップピン35に支えられたコネクタ板17の端子面17Cに位置決めピン37が嵌合することでコネクタ板17の位置が決定し、スライド型31とシール部分17Bが当接する。スライド型31とシール部分17Bが当接することでコネクタ板17の端子面17Cを封止し、キャビティ26に充填されるモールド樹脂が端子面17C側に漏れることを防ぐことができる。
【0039】
(3)固定型21と可動型22とスライド型31とを備え、平行巻きコイル11及び傾斜巻きコイル12、及び平行巻きコイル11及び傾斜巻きコイル12を外部と電気接続するためのコネクタ板17とが接続された固定子コア13を、固定型21と可動型22とで挟んでキャビティ26を形成し、モールド樹脂が充填する固定子10の樹脂モールド成形装置において、可動型22に、コネクタ板17の備える端子18が突出する端子面17Cの反対側に差し込まれるバックアップピン35が設けられ、スライド型31に端子面17Cに形成されたコネクタ位置決め穴17Aと嵌合される位置決めピン37が設けられる。
バックアップピン35によってコネクタ板17の背面を支え、スライド型31でコネクタ板17を押圧することで、スライド型31とバックアップピン35によってコネクタ板17を挟み込む。この際に、スライド型31に端子面17Cに形成されたコネクタ位置決め穴17Aと嵌合される位置決めピン37が設けられているので、スライド型31に対してコネクタ板17の位置は極められて、コネクタ位置決め穴17Aはスライド型31とバックアップピン35によって挟み込まれることになる。このため、コネクタ板17が端子18を備える端子面17Cに樹脂が漏れることを防ぐことができる。
よって、不要部へのモールド樹脂の回り込みを防ぐことができる固定子10の樹脂モールド成形装置を提供することが可能となる。
【0040】
(4)(3)に記載される固定子10の樹脂モールド成形装置において、スライド型31に、コネクタ板17の端子面17Cの外周に形成されるシール部分17Bと当接するシール当接面31Dが形成されているので、位置決めピン37とバックアップピン35によってコネクタ板17の位置が極められ、コネクタ板17のシール部分17Bとスライド型31のシール当接面31Dが当接するので、端子面17Cが封止され、不要な部分へのモールド樹脂の回り込みを防ぐことが出来る固定子10の樹脂モールド成形装置を提供することが可能となる。
【0041】
(5)固定子コア13に平行巻きコイル11及び傾斜巻きコイル12が組み込まれ、平行巻きコイル11及び傾斜巻きコイル12を外部と電気接続するためのコネクタ板17とを有し、固定型21と可動型22とスライド型31とを備える金型により全体がモールド成形される固定子構造において、コネクタ板17の端子18が突出する端子面17Cに、スライド型31が備える位置決めピン37が嵌合する位置決め穴が形成され、コネクタ板17の端子18が突出する端子面17Cの反対側に、可動型22のバックアップピン35が挿入されていたバックアップ用凹部が形成されるので、バックアップピン35と位置決めピン37によってスライド型31とコネクタ板17の位置が極められ、コネクタがスライド型と当接して端子面を封止することで、不要部へのモールド樹脂の回り込みを防ぐことができる固定子構造を提供することが可能となる。
【0042】
(6)(5)に記載の固定子構造において、端子面17Cの外周にスライド型31と接触してシールするシール部分17Bが形成されるので、端子面17Cの外周でシール部分17Bがスライド型31と当接して封止するため、端子面17Cにモールド樹脂が漏れることを防ぐことが出来る。よって、不要部へのモールド樹脂の回り込みを防ぐことができる固定子構造を提供することが可能となる。
【0043】
以上において、実施例に即して説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で、適宜変更して適用できることは言うまでもない。
例えば、例えば、本実施例のコネクタ板17の形状を長方形の板状としているが、これは自動車に搭載する際に固定子10の厚みを極力減らしたいという要請があるためで、例えば円形の板状とし、コネクタ部16を円筒形状にすることを妨げない。
また例えば、平行巻きコイル11及び傾斜巻きコイル12を巻き線タイプのコイルとして示しているが、エッジワイズ曲げ加工したコイルを用いても良い。
その他、設計上の制約により発明の要旨を逸脱しない範囲で形状を変更することを妨げない。
また例えば、バックアップ部材であるバックアップピン35を別の形状に変更したり、コネクタ位置決めピン33の本数を増やしたりすること妨げない。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本実施例の、固定子10の斜視図を示している。
【図2】本実施例の、固定子10のうち平行巻きコイル11、傾斜巻きコイル12及び固定子コア13の配置状態を表す平面図を示している。
【図3】本実施例の、図2の固定子10はA−B−C断面を示している。
【図4】本実施例の、固定子10に設けられるコネクタ部16の正面図を示している。
【図5】本実施例の、コネクタ板17を裏側から見た背面図を示している。図3のFF断面図である。
【図6】本実施例の、固定型21と可動型22、及びスライド型31を用いて固定子10の樹脂モールド部20を形成する工程の断面図を示している。
【図7】本実施例の、固定型21を上面から見た平面図を示している。固定型21及びスライド型31は二点差線で示している。
【図8】本実施例の、固定型21に固定子10が配設され、可動型22が上部に退避している状態の断面図を示している。
【図9】本実施例の、固定型21が可動型22の所定の位置に降下している状態の断面図を示している。
【図10】本実施例の、コネクタ板17の周囲の拡大断面図を示している。
【図11】本実施例の、コネクタ板17の周囲の拡大断面図を示しており、コネクタ板17に対して発生する力を示している。図10の拡大図である。
【図12】特許文献1の、コイルを金型にセットした状態の断面図を示している。
【符号の説明】
【0045】
10 固定子
14 バスバ
16 コネクタ部
17 コネクタ板
17A コネクタ位置決め穴
17B シール部分
17C 端子面
17D 端子支持部
18 端子
20 樹脂モールド部
21 固定型
21A 固定子コア支持部
22 可動型
22A 固定子コア当接部
23 中心柱
24 ピン
24A 凸状リング
25 パイプ
26 キャビティ
27 導入路
28 円錐流路
29 注入口
31 スライド型
31A コネクタガイド
31B 固定子コア押さえ部
31C バックアップ当接面
31D シール当接面
32 スライドベース
33 コネクタ位置決めピン
34 油圧シリンダ
35 バックアップピン
37 位置決めピン
38 ガイド部溝


【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定子コアに導体コイルが組み込まれ、前記導体コイルを外部と電気接続するためのコネクタとを有し、固定型と可動型とで前記固定子コアを挟んで形成されるキャビティにモールド樹脂が充填されることでモールド成形される固定子の樹脂モールド成形方法において、
前記固定型に対して前記可動型が近接して、前記固定子コアを挟み込む際に、
前記可動型に設けられたバックアップ部材が、前記コネクタの備える端子が突出する端子面の反対側に差し込まれ、
前記固定型と前記可動型に前記固定子コアを挟み込んだ後に、
前記コネクタの前記端子面をシールするスライド型を前記端子面に向かってスライドさせることで、前記スライド型に備える位置決めピンが、前記端子面に形成された位置決め穴と嵌合されることを特徴とする固定子の樹脂モールド成形方法。
【請求項2】
請求項1に記載の固定子の樹脂モールド成形方法において、
前記コネクタの前記端子面の外周にシール部分が設けられ、
前記スライド型をスライドさせることで、前記スライド型が前記シール部分に当接することを特徴とする固定子の樹脂モールド成形方法。
【請求項3】
固定型と可動型とスライド型とを備え、導体コイル及び前記導体コイルを外部と電気接続するためのコネクタとが接続された前記固定子コアを、前記固定型と前記可動型とで挟んでキャビティを形成し、モールド樹脂が充填する固定子の樹脂モールド成形装置において、
前記可動型に、前記コネクタの備える端子が突出する端子面の反対側に差し込まれるバックアップ部材が設けられ、
前記スライド型に、前記端子面に形成された位置決め穴と嵌合される位置決めピンが設けられることを特徴とする固定子の樹脂モールド成形装置。
【請求項4】
固定子コアに導体コイルが組み込まれ、前記導体コイルを外部と電気接続するためのコネクタとを有し、固定型と可動型とスライド型とを備える金型により全体がモールド成形される固定子構造において、
前記コネクタの端子が突出する端子面に、前記スライド型が備える位置決めピンが嵌合する位置決め穴が形成され、
前記コネクタの前記端子が突出する前記端子面の反対側に、前記可動型のバックアップ部材が挿入されていたバックアップ用凹部が形成されることを特徴とする固定子構造。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2008−238589(P2008−238589A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−82684(P2007−82684)
【出願日】平成19年3月27日(2007.3.27)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】