説明

固定子コイルの製造方法及びその製造方法に用いる予備成形装置

【課題】巻き取り工程において、芯部材を駆動回転させることなく、安定した整列巻きを行うことができ、所望の巻き取り径に巻き取られた巻き取り体を確実に得られるようにした固定子コイルの製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の製造方法は、電気導体線を所定形状に成形して複数のコイル線材50を形成するコイル線材形成工程101と、複数のコイル線材50を組み込んで帯状の組み込み体47を形成する組み込み工程102と、自由回転可能な芯部材81の外周面に組み込み体47の先端部内面を沿わせて配置し、組み込み体47の隣り合う直状重ね合わせ部41同士の間の所定の隙間に複数の送り矢82aを挿入してその先端を芯部材81に係合させた状態で、送り矢82aを周方向に間欠的に回動させることにより、芯部材81を回転させつつ組み込み体47を芯部材81に巻き取る巻き取り工程103とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機に用いられる固定子コイルの製造方法及びその製造方法に用いる予備成形装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電動機及び発電機として使用される回転電機において、小型高出力及び高品質が求められている。例えば、車両に搭載される回転電機においては、回転電機を搭載するためのスペースが小さくなってきている一方で、出力の向上が求められている。従来の回転電機として、固定子に用いられる固定子コイルが連続巻線で形成されたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載された固定子コイルの製造方法は、複数のコイル線材を組み込んで形成された組み込み体を芯部材に巻き取る巻き取り工程を有する。そして、この巻き取り工程では、芯部材に供給される組み込み体の隣り合う直状重ね合わせ部同士の間に形成された各隙間に整列部材を挿入して整列させながら、組み込み体を芯部材に巻き取るようにしている。これにより、組み込み体の整列巻きを可能にしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−75035号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、特許文献1に記載された固定子コイルの製造方法では、芯部材の回転と組み込み体の供給及び位置決めとを同期制御しているので、コイル線材の成形の良否や巻き取り中の組み込み体に挙動が少しであると、同期ずれ(位置ずれ)が発生し易く、稼働率が不安定となる。また、芯部材が駆動回転することから、組み込み体が遠心力により巻き取り中に径方向外方へ膨らみ易く、最終の巻き取り径のバラツキが発生し易い。そのため、膨らみ防止による高速化への規制が加わることとなる。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、巻き取り工程において、芯部材を駆動回転させることなく、安定した整列巻きを行うことができ、所望の巻き取り径に巻き取られた巻き取り体を安定して得られるようにした固定子コイルの製造方法、及びその製造方法に用いる巻き取り装置を提供することを解決すべき課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するためになされた請求項1に記載の発明は、複数のコイル線材が巻回されてなる固定子コイルの製造方法であって、電気導体線を成形して、互いに平行に直状に延び長手方向に並列した複数のスロット収容部と、隣り合う該スロット収容部同士を該スロット収容部の一端側と他端側とで交互に接続する複数のターン部とを有する複数の前記コイル線材を形成するコイル線材形成工程と、複数の前記コイル線材を長手方向に所定ピッチずらせて配置し、互いの前記スロット収容部同士が重ね合わされて形成された複数の直状重ね合わせ部を長手方向に有する帯状の組み込み体を形成する組み込み工程と、前記組み込み体を芯部材に巻き取って巻き取り体を形成する巻き取り工程と、を備え、該巻き取り工程は、自由回転可能に軸支された前記芯部材の外周面に前記組み込み体の先端部内面を沿わせて配置し、前記組み込み体の隣り合う前記直状重ね合わせ部同士の間に形成された所定の隙間に複数の送り矢を挿入して該送り矢の先端を前記芯部材に係合させた状態で、前記芯部材の周方向の所定範囲で前記送り矢を間欠的に回動させることにより、前記芯部材を回転させつつ前記組み込み体を前記芯部材に巻き取ることを特徴とする。
【0008】
請求項1に記載の発明によれば、巻き取り工程は、組み込み体の隣り合う直状重ね合わせ部同士の間に形成された所定の隙間に複数の送り矢を挿入して送り矢の先端を芯部材に係合させた状態で、芯部材の周方向の所定範囲で送り矢を間欠的に回動させることにより、芯部材を回転させつつ組み込み体を芯部材に巻き取るようにしている。即ち、本発明では、芯部材は駆動回転されずに、送り矢で芯部材を回転させつつ組み込み体を芯部材に巻き取るようにしているため、芯部材の回転と組み込み体の供給及び位置決めとを同期制御する必要がない。そのため、同期ずれ(位置ずれ)の発生や稼働率の不安定が解消される。また、芯部材が駆動回転されないことから、組み込み体の巻き取り中に組み込み体が遠心力により径方向外方へ膨らむこともないため、形成される巻き取り体の径のバラツキも発生し難くなる。さらに、組み込み体の巻き取り中には、芯部材に先端が係合している送り矢が、組み込み体の隣り合う直状重ね合わせ部同士の間に形成された所定の隙間に必ず挿入されているので、組み込み体の良好な整列状態を確保することができる。したがって、本発明によれば、巻き取り工程において、組み込み体の安定した整列巻きを行うことができ、所望の巻き取り径に巻き取られた巻き取り体を安定して得ることができる。
【0009】
請求項2に記載の発明は、前記巻き取り工程は、前記組み込み体の隣り合う前記直状重ね合わせ部同士の間に形成された所定の隙間から前記送り矢を抜き出す際に、前記組み込み体の他の所定の隙間に位置決め矢を挿入して前記直状重ね合わせ部の位置決めをすることを特徴とする。
【0010】
請求項2に記載の発明によれば、送り矢を、組み込み体の所定の隙間から抜き出して巻き取り停止位置から巻き取り開始位置へ戻す際に、組み込み体の他の所定の隙間に挿入される位置決め矢によって、直状重ね合わせ部の良好な整列状態を確実に維持することができる。
【0011】
請求項3に記載の発明は、前記巻き取り工程は、前記組み込み体の隣り合う前記直状重ね合わせ部同士の間に形成された所定の隙間の一方側に挿入される複数の第1送り矢と、前記所定の隙間の他方側に挿入される複数の第2送り矢とを用いて行われ、前記第1送り矢と前記第2送り矢は、前記所定の隙間に交互に挿入され、且つ前記芯部材の周方向に交互に回動して前記芯部材を回転させつつ前記組み込み体を前記芯部材に巻き取ることを特徴とする。
【0012】
請求項3に記載の発明によれば、第1送り矢で組み込み体を巻き取る時に第2送り矢が巻き取り開始位置へ戻り、第2送り矢で組み込み体を巻き取る時に第1送り矢が巻き取り開始位置へ戻るようにすることができる。そのため、第1送り矢と第2送り矢が巻き取り開始位置へ戻る時間のロスを削減することができるので、組み込み体の巻き取りの高速化が可能となる。また、第1送り矢と第2送り矢を、組み込み体の隣り合う直状重ね合わせ部同士の間に形成された所定の隙間に交互に挿入するようにしているので、請求項2に記載の発明で用いられる位置決め矢を不要とすることができる。
【0013】
請求項4に記載の発明は、前記巻き取り工程は、巻き取られる前記組み込み体の前記スロット収容部両側にある前記ターン部をそれぞれ外周側から押さえ部材で押圧しながら行うことを特徴とする。
【0014】
請求項4に記載の発明によれば、組み込み体の巻き取り中にターン部の径方向外方への膨らみや捩れ等の発生を防止することができるので、ターン部が良好に整列され、所望の巻き取り径に巻き取られた巻き取り体を安定して得ることができる。
【0015】
請求項5に記載の発明は、前記押さえ部材は、前記芯部材の周方向に並列した一対のローラを有し、一対の該ローラが前記芯部材の周方向に揺動可能に設置されていることを特徴とする。
【0016】
請求項5に記載の発明によれば、一対のローラが組み込み体のターン部に必ず2点で接触することができるので、巻き取り中の組み込み体の径方向外方への膨らみや捩れ等の発生をより確実に防止することができる。
【0017】
請求項6に記載の発明は、前記押さえ部材は、第1の押圧力と該第1の押圧力よりも小さい第2の押圧力の何れか一方の押圧力で前記ターン部を常時押圧し、前記送り矢による前記組み込み体の巻き取り動作停止中には前記第1の押圧力で押圧することを特徴とする。
【0018】
請求項6に記載の発明によれば、送り矢による組み込み体の巻き取り動作停止中には、比較的大きな第1の押圧力で押圧することによって、ターン部の径方向外方への膨らみを確実に防止することができる。また、送り矢による組み込み体の巻き取り動作中には、比較的小さな第2の押圧力で押圧することによって、組み込み体のターン部に段差がある場合でも、押さえ部材で安定的にターン部を押圧することができ、コイル線材の表面を被覆する絶縁被膜の損傷発生も防止することができる。
【0019】
請求項7に記載の発明は、前記押さえ部材は、前記スロット収容部の一端側にある前記ターン部を押圧する第1押さえ部材と、前記スロット収容部の他端側にある前記ターン部を押圧する第2押さえ部材とを有し、前記第1押さえ部材と前記第2押さえ部材は、それぞれ交互に周方向に所定ピッチ回動することを特徴とする。
【0020】
請求項7に記載の発明によれば、組み込み体の巻き取り中において、第1押さえ部材と第2押さえ部材で、スロット収容部の両端側にあるターン部を交互に押圧することができるので、ターン部の径方向外方への膨らみを適切に防止することができる。これにより、所望の巻き取り径に巻き取られた巻き取り体をより確実に得ることができる。
【0021】
請求項8に記載の発明は、前記第1押さえ部材と前記第2押さえ部材は、それぞれ独立して進退動作を行って、前記ターン部を任意の力で押圧することを特徴とする。
【0022】
請求項8に記載の発明によれば、第1押さえ部材及び第2押さえ部材の押圧するタイミングや押圧力を状況に応じてそれぞれ適切に切り換えることができるので、ターン部に発生するスプリングバック(弾性復帰作用)による抵抗力やその他の外部要因に対応した巻き取りが可能となる。
【0023】
請求項9に記載の発明は、請求項1に記載の固定子コイルの製造方法に用いる巻き取り装置であって、自由回転可能に軸支された芯部材と、該芯部材の外周側に周方向に並列して配設された複数の送り矢と、該送り矢を前記芯部材の外周面に対して進退移動させる第1駆動部材と、前記芯部材の外周面に先端部内面を沿わせて配置された組み込み体の隣り合う直状重ね合わせ部同士の間に形成された所定の隙間に挿入されてその先端が前記芯部材に係合した前記送り矢を、前記芯部材の周方向に回動させる第2駆動部材と、を備えていることを特徴とする。
【0024】
請求項9に記載の発明によれば、芯部材を駆動回転させることなく、安定した整列巻きを行うことができ、所望の巻き取り径に確実に巻き取ることが可能な巻き取り装置を容易に実現することができる。
【0025】
請求項10に記載の発明は、前記組み込み体の隣り合う前記直状重ね合わせ部同士の間に形成された所定の隙間から前記送り矢を抜き出す際に、前記組み込み体の他の所定の隙間に挿入されて前記直状重ね合わせ部の位置決めをする位置決め矢を備えていることを特徴とする。
【0026】
請求項10に記載の発明によれば、送り矢を巻き取り停止位置から巻き取り開始位置へ戻す際に、位置決め矢が組み込み体の所定の隙間に挿入されることによって、直状重ね合わせ部の良好な整列状態を確実に維持することができる。
【0027】
請求項11に記載の発明は、前記送り矢は、前記組み込み体の隣り合う前記直状重ね合わせ部同士の間に形成された所定の隙間の一方側に挿入される複数の第1送り矢と、前記所定の隙間の他方側に挿入される複数の第2送り矢とを備えていることを特徴とする。
【0028】
請求項11に記載の発明によれば、第1送り矢で組み込み体を巻き取る時に第2送り矢が巻き取り開始位置へ戻り、第2送り矢で組み込み体を巻き取る時に第1送り矢が巻き取り開始位置へ戻るように構成することができる。そのため、第1送り矢と第2送り矢が巻き取り開始位置へ戻る時間のロスを削減することができるので、組み込み体を高速で巻き取ることが可能な巻き取り装置を容易に実現することができる。
【0029】
請求項12に記載の発明は、前記芯部材に巻き取られる前記組み込み体を外周側から押圧する押さえ部材を備えていることを特徴とする。
【0030】
請求項12に記載の発明によれば、巻き取り中の組み込み体の径方向外方への膨らみや捩れ等の発生を防止することができるので、ターン部が良好に整列され、安定して所望の巻き取り径に巻き取られた巻き取り体をより確実に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】実施形態に係る回転電機の構成を模式的に示す軸方向断面図である。
【図2】実施形態に係る回転電機の固定子の全体斜視図である。
【図3】実施形態に係る回転電機の固定子の平面図である。
【図4】実施形態に係る回転電機の固定子の側面図である。
【図5】実施形態に係る固定子コアの平面図である。
【図6】実施形態に係る分割コアの平面図である。
【図7】実施形態に係る固定子コイルの全体斜視図である。
【図8】実施形態に係る固定子コイルの側面図である。
【図9】実施形態に係る固定子コイルの平面図である。
【図10】実施形態に係る固定子コイルの底面図である。
【図11】(A)(B)は実施形態において用いられるコイル線材の断面図である。
【図12】(A)は実施形態において用いられるコイル線材の上面図であり、(B)はそのコイル線材の正面図である。
【図13】(A)は実施形態において用いられる導線のターン部の形状を示す斜視図であり、(B)は隣接する複数のターン部を示す斜視図である。
【図14】実施形態において用いられる固定子巻線の結線図である。
【図15】実施形態において各スロットの最外径側に配置される各導線の第1スロット収容部の配置位置を示す説明図である。
【図16】実施形態の固定子巻線において1本の導線(U1−4’)のスロット収容部の配置位置および軌跡を示す説明図である。
【図17】実施形態においてV相の巻線の接続状態を示す巻線仕様図である。
【図18】実施形態の製造方法の製造工程を示すブロック図である。
【図19】実施形態の組み込み工程において形成される組み込み体の正面図である。
【図20】実施形態1の巻き取り工程に用いられる巻き取り装置の平面図である。
【図21】実施形態1の巻き取り工程に用いられる巻き取り装置の正面図である。
【図22】実施形態1の巻き取り工程に用いられる巻き取り装置の芯部材を示す図であって、(A)は4分割された芯部材の平面図、(B)はその側面図である。
【図23】実施形態2の巻き取り工程に用いられる巻き取り装置の正面図である。
【図24】実施形態2の巻き取り工程に用いられる巻き取り装置の第1回動テーブルを上方から見た平面図である。
【図25】実施形態2の巻き取り工程に用いられる巻き取り装置の第2回動テーブルを上方から見た平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の固定子コイルの製造方法の実施形態について詳しく説明する。なお、説明する実施形態はあくまでも実施形態の例にすぎず、本発明の固定子コイルの製造方法は、下記実施形態に限定されるものではない。本発明の固定子コイルの製造方法は、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良等を施した種々の形態にて実施することができる。
【0033】
まず、本実施形態の固定子コイルの製造方法により得られた固定子コイルを用いた回転電気の構成について説明する。図1は、実施形態に係る回転電機の構成を模式的に示す軸方向断面図である。図2は、本実施形態に係る回転電機の固定子の全体斜視図であり、図3はその固定子の平面図、図4はその固定子の側面図である。
【0034】
本実施形態に係る回転電機1は、例えば車両の電動機および発電機を兼ねる回転電機として使用されるものであって、略有底筒状の一対のハウジング部材10a,10bが開口部同士で接合されてなるハウジング10と、ハウジング10に軸受け11,12を介して回転自在に支承される回転軸13に固定された回転子14と、ハウジング10の内部で回転子14を包囲する位置でハウジング10に固定された固定子20と、を備えている。
【0035】
回転子14は、永久磁石により磁性が周方向に交互に異なる磁極を、固定子20の内周側と向き合う外周側に複数形成している。回転子14の磁極の数は、回転電機により異なるため限定されるものではない。本実施形態においては、8極(N極:4、S極:4)の回転子が用いられている。
【0036】
固定子20は、図2〜図4に示すように、固定子コア30と、複数(本実施形態では48本)のコイル線材50から形成される三相の固定子コイル40とを備えている。なお、固定子コア30と固定子コイル40との間には、絶縁紙を配してもよい。
【0037】
図5は、本実施形態に係る固定子コアの平面図である。図6は、本実施形態に係る分割コアの平面図である。
【0038】
固定子コア30は、図5に示すように、内周に複数のスロット31を形成された円環状を呈している。複数のスロット31は、その深さ方向が径方向と一致するように周方向に設けられている。固定子コア30に形成されたスロット31の数は、回転子の磁極数(8磁極)に対し、固定子コイル40の一相あたり2個の割合で形成されている。本実施形態では、8×3×2=48より、スロット数は48個とされている。
【0039】
固定子コア30は、図6に示す分割コア32を所定の数(本実施形態では24個)を周方向に連結して形成されている。分割コア32の外周には、外筒37が嵌合されている(図2〜4参照)。分割コア32は、一つのスロット31を区画するとともに、周方向で隣接する分割コア32との間で一つのスロット31を区画する形状を呈している。具体的には、分割コア32は、径方向内方に伸びる一対のティース部33と、ティース部33を径方向外方で連結するバックコア部34とを有している。
【0040】
固定子コア30を構成する分割コア32は、複数枚の電磁鋼板を積層させて形成されている。積層された電磁鋼板の間には、絶縁薄膜が配置されている。分割コア32は、この電磁鋼板の積層体からだけでなく、従来公知の金属薄板および絶縁薄膜を用いて形成してもよい。
【0041】
図7は、本実施形態に係る固定子コイルの全体斜視図であり、図8は、その固定子コイルの側面図、図9は、その固定子コイルの平面図、図10は、その固定子コイルの底面図である。
【0042】
固定子コイル40は、図7〜図10に示すように、複数のコイル線材50により円筒形状に形成されており、固定子コア30のスロット31内に収容される直状重ね合わせ部41と、この直状重ね合わせ部41の両端においてスロット31外に配置されるコイルエンド部42を有する。一方のコイルエンド部42の端面において、出力線および中性点が軸方向に突出するとともに、内径側から突出したコイル線材50の端部を外径側から突出したコイル線材50の端部に接続する渡り部70が設けられている。
【0043】
固定子コイル40を構成するコイル線材50は、図11(A)に示すように、銅製の導体67と、導体67の外周を覆い導体67を絶縁する内層68aおよび外層68bからなる絶縁被膜68とから形成されている。内層68aおよび外層68bを合わせた絶縁被膜68の厚みは、100μm〜200μmの間に設定されている。このように、内層68aおよび外層68bからなる絶縁被膜68の厚みが厚いので、コイル線材50同士を絶縁するためにコイル線材50同士の間に絶縁紙等を挟み込む必要がなくなっているが、コイル線材50同士の間あるいは固定子コア30と固定子コイル40との間に絶縁紙を配設してもよい。
【0044】
外層68bはナイロン等の絶縁材で形成され、内層68aは外層68bよりもガラス転移温度の高い熱可塑性樹脂またはポリアミドイミド等の絶縁材で形成されている。これにより、回転電機1に発生する熱により外層68bは内層68aよりも早く結晶化するため、外層68bの表面硬度が高くなり、コイル線材50に傷がつきにくくなる。このため、後述するターン部52に段部を形成する加工を施したコイル線材50の絶縁を確保することができる。
【0045】
さらに、コイル線材50は、図11(B)に示すように、内層68aおよび外層68bからなる絶縁被膜68の外周をエポキシ樹脂等からなる融着材69で被覆してもよい。これにより、融着材69は、回転電機に発生する熱により絶縁被膜68よりも早く溶融するので、同じスロット31に収容されている複数のコイル線材50同士が融着材69同士により熱接着する。その結果、同じスロット31に収容されている複数のコイル線材50が一体化しコイル線材50同士が硬化することで、スロット31内のコイル線材50の機械的強度が向上する。なお、絶縁被膜68の外層68bには、ポリフェニレンサルファイド(PPS)よりなる被膜を用いてもよい。
【0046】
図12は、コイル線材50を平面上に展開した場合の展開図である。コイル線材50は、図12に示すように、固定子コア30のスロット31内に収容される複数のスロット収容部51と、スロット31から固定子コア30の外に突出し、周方向に異なるスロットに収容されているスロット収容部51同士を接続している複数のターン部52とを有する。本実施形態の場合、各コイル線材50は、12個のスロット収容部51A〜51Lと、11個のターン部52A〜52Kを備えている。
【0047】
具体的には、本実施形態におけるスロット収容部51は、図12の左端に位置する第1スロット収容部51Aから順に、固定子コア30の周方向に離間したスロット31にそれぞれ収容される第2スロット収容部51B、第3スロット収容部51C、・・・、第12スロット収容部51Lの12個からなる。また、ターン部52は、固定子コア30の一端側におけるスロット31の外部と固定子コア30の他端側におけるスロット31の外部とで交互にスロット収容部51同士を接続する第1ターン部52A、第2ターン部52B、・・・、第10ターン部52J、および第11スロット収容部51Kと第12スロット収容部51Lを接続する第11ターン部52Kの11個からなる。
【0048】
このコイル線材50の隣り合うスロット収容部51同士の周方向(矢印Y方向)の離間距離Xは、全ての箇所で異なるようにされている。この場合、離間距離Xは、コイル線材50の第1スロット収容部51A側から第12スロット収容部51L側に向かうにつれて、徐々に短くなるようにされている。即ち、離間距離Xは、X1>X2>X3>X4>X5>X6>X7>X8>X9>X10>X11となっている。なお、離間距離Xは、固定子コア30の周方向において隣り合うスロット31同士の離間距離(スロットピッチ)を考慮して適宜設定される。
【0049】
コイル線材50の両端には、他のコイル線材50等と接続するための引出し部53a、53bが設けられている。一方の引出し部53aは、第1スロット収容部51Aの端末から内側(図12の右側)へ戻るように、スロット収容部51間にあるターン部52の略半分の長さに形成されたターン部52Mを介して形成されている。よって、一方の引出し部53aは、第1スロット収容部51Aからターン部52Mの長さだけ内側(図11の右側)へ寄った所に位置している。他方の引出し部53bは、第12スロット収容部51Lの端末から内側(図12の左側)へ戻るように、スロット収容部51間にあるターン部52の略半分の長さに形成されたターン部52Nを介して形成されている。よって、他方の引出し部53bは、第12スロット収容部51Lからターン部52Nの長さだけ内側(図12の左側)へ寄った所に位置している。他方の引出し部53bとターン部52Nとの間には、固定子コイル40の軸方向端面上で固定子コア30の径方向外方へ折り曲げられて配置される渡り部70が設けられている。
【0050】
ターン部52の略中央部には、ターン部52の両端に接続するスロット収容部51の径方向での位置をずらすためのクランク部54が設けられている。具体的には、クランク部54は、第1〜第12スロット収容部51A〜51Lのそれぞれを、コイル線材50の長手方向およびスロット収容部51の延伸方向に対して直交する方向(固定子コア30の径方向)に順次変位させるようにクランク状に形成されている。その結果、コイル線材50は、図12(A)に示すように階段状の形状を有することになる。
【0051】
図13(A)(B)に、図12に示すコイル線材50を用いて円筒形状の固定子コイル40を形成した場合のターン部52の形状を示す斜視図を示す。図13(A)に示すように、ターン部52は、固定子コア30の径方向に変位して固定子コア30の端面30aに沿って延びるクランク部54を有する。クランク部54のクランク形状によるずれ量(固定子コア30の径方向への変位量)は、ターン部52の径方向厚み分である。これにより、ターン部52によって接続されたスロット収容部51同士は、ターン部52の径方向厚み分だけ変位している。このようにクランク部54がターン部52に設けられていることにより、図13(B)に示すように、周方向に隣接しているコイル線材50のターン部52同士を密に巻回できる。また、図13(B)に示すように周方向に隣接するターン部52は互いに同じ形状であり、ターン部52同士が干渉するのを防止している。
【0052】
また、スロット31から固定子コア30の外に突出するターン部52の突出箇所に、コイル線材50がまたがって設置されているスロット同士に向けて固定子コア30の軸方向両側の端面30aに沿って段部55が形成されている。これにより、スロット31から突出しているコイル線材50のターン部52の突出箇所の間隔、言い換えればターン部52が形成する三角形状部分の底辺の長さは、コイル線材50がまたがって設置されているスロット同士の間隔よりも狭くなっている。その結果、コイルエンド部42の高さが低くなる。
【0053】
また、固定子コア30の端面30aに沿った段部55の長さをd1、周方向に隣接するスロット31同士の間隔をd2とすると、d1≦d2になっている。これにより、コイル線材50の段部55が周方向に隣り合うスロット31から突出するコイル線材50と干渉することを防止できる。これにより、周方向に隣接するスロット31から突出するコイル線材50(ターン部52)同士が互いに干渉することを避けるために、コイルエンド部42の高さが高くなったり、あるいはコイルエンド部42の径方向の幅が大きくなったりすることを防止できる。その結果、コイルエンド部42の高さが低くなる。さらに、コイルエンド部42の径方向の幅が小さくなるので、固定子コイル40が径方向外側に張り出すことを防止する。
【0054】
さらに、コイル線材50には、ターン部52の略中央部のクランク部54と、ターン部52の突出箇所に形成した段部55との間に、それぞれ2個の段部56が形成されている。つまり、固定子コア30の一方の軸方向の端面30a側のコイル線材50のターン部52には、1個のクランク部54と合計6個の段部55、56が形成されている。これにより、クランク部54や段部55、56を形成しない三角形状のターン部の高さに比べ、ターン部52の高さが低くなる。クランク部54のクランク形状も、段部55、56と同様に、固定子コア30の端面30aに沿って形成されている。したがって、コイル線材50のターン部52は、クランク部54を挟んで両側が階段状に形成されている。
【0055】
固定子コイル40は、図12に示したコイル線材50を48本用いて形成されている。ただし、固定子コイル40に出力線や中性点などを設けるために、渡り部70を設けていないコイル線材50を適宜混在させても良い。したがって、本実施形態では、48本のコイル線材50の全ては、各コイル線材50の両端部に形成された引出し部53a、53bの間において同じ形状に成形されている。
【0056】
この固定子コイル40を構成するコイル線材50は、ターン部52の略中央部に、ターン部52の径方向厚み分だけ径方向にずれたクランク部54が設けられていることにより、ターン部52によって接続されたスロット収容部51同士は、固定子コア30の中心軸線からの半径距離が、スロット収容部51の径方向厚み分だけ異なっている。また、コイル線材50は、隣り合うスロット収容部51同士の離間距離Xが、コイル線材50の第1スロット収容部51A側から第12スロット収容部51L側に向かうにつれて、徐々に短くなるようにされており、全ての箇所で実質的に異なっている(図12(B)参照)。これらのことから、固定子コイル40は、径方向に重なり合うスロット収容部51が、周方向に位置ずれすることなく径方向一列にストレートな状態に整列するようになるので、真円筒形状により近い形状にすることができる(図7および図8参照)。
【0057】
この固定子コイル40は、複数のコイル線材50の第1スロット収容部51A同士、第2スロット収容部51B同士、・・・、第12スロット収容部51L同士をそれぞれ周方向に連続するスロットに配置するとともに、第1スロット収容部51A同士、第2スロット収容部51B同士、・・・、第12スロット収容部51L同士の固定子コアの中心軸線Oからの半径距離がそれぞれ等しくなるよう配置されているので、固定子コイル40の外径寸法および内径寸法を周方向で均一化することができる。この固定子コイル40は、図14に示すように、それぞれの相が16本のコイル線材50を直列に接続した各相巻線43(U、V、W)をY結線した三相巻線として形成されている。
【0058】
図15は、本実施形態において各スロットの最外径側に配置される各コイル線材の第1スロット収容部の配置位置を示す説明図である。図15において、各コイル線材50のスロット収容部51は、12個の破線円と放射方向に延びる破線とが交差する位置に配置されており、最外径側と最内径側のみが矩形断面形状で表されている。また、放射方向に1列に並んだスロット収容部51の外側には、それぞれ対応する1〜48のスロット番号が付されている(以後、図16においても同じ)。また、スロット番号の外側には、それぞれのスロットの最外径側(第12層)に、巻回の始端側となる第1スロット収容部51Aが配置されるコイル線材50の番号が付されている。
【0059】
各相の巻線を構成する16本のコイル線材50は、8個の同一のスロット31にスロット収容部51が収容される8本のコイル線材50と、それら8個のスロット31とは別の8個の同一のスロット31にスロット収容部51が収容される8本のコイル線材50とに分かれている。例えばU相の場合には、8本のコイル線材(U1−1)〜(U1−4)および(U1−1’)〜(U1−4’)は、外径側から内径側に向かって反時計回りに巻回されて、それぞれのスロット収容部51が、1番スロット、7番スロット、13番スロット、19番スロット、25番スロット、31番スロット、37番スロットおよび43番スロットに収容される。また、他の8本のコイル線材(U2−1)〜(U2−4)および(U2−1’)〜(U2−4’)は、外径側から内径側に向かって反時計回りに巻回されて、それぞれのスロット収容部51が、2番スロット、8番スロット、14番スロット、20番スロット、26番スロット、32番スロット、38番スロットおよび44番スロットに収容される。
【0060】
なお、図15には、代表としてコイル線材(U1−1)の軌跡が示されている。図15において、黒四角で示された部分はコイル線材(U1−1)のスロット収容部51が配置されていることを示し、コイル線材(U1−1)の周方向に延びる太線は、固定子コア30の軸方向一方側(図15の紙面手前側)に位置するターン部52を示し、コイル線材(U1−1)の周方向に延びる二点鎖線は、固定子コア30の軸方向他方側(図15の紙面後側)に位置するターン部52を示す(以後、図16においても同じ)。
【0061】
この固定子コイル40は、図15に示すように、各スロット31において、8本のコイル線材50のスロット収容部51が径方向に12層、積層された状態になっている。コイル線材(U1−1)は、始端側の第1スロット収容部51Aが1番スロットの最外層(第12層)に位置し、終端側の第12スロット収容部51Lが19番スロットの最内層(第1層)に位置している。
【0062】
また、固定子コイル40を構成する48本のコイル線材50は、長手方向(周方向)に1スロットピッチずつずれて配置されているので、各コイル線材50の始端側となる第1スロット収容部51Aが、48個の各スロット31の最外層(第12層)に順に収容されている。下記の表1は、1番〜48番の各スロット31において、最外層に位置するコイル線材50の番号と、最内層に位置するコイル線材50の番号をまとめたものである。
【0063】
【表1】

【0064】
固定子コイル40を構成するコイル線材50は、各コイル線材50の一端側(第1スロット収容部51A側)から他端側(第12スロット収容部51L側)に向かうにつれて、スロット収容部51の固定子コア30の中心軸線Oからの半径距離が順次小さくなっている。本実施形態の場合、各コイル線材50は、ターン部52によって接続されたスロット収容部51同士の固定子コア30の中心軸線Oからの半径方向距離がスロット収容部51の径方向厚み分異なっている。
【0065】
図16は、固定子コイル40を図15の裏側から見た場合の、1本のコイル線材(U1−4’)の軌跡を示す図である。このコイル線材(U1−4’)は、始端側となる第1スロット収容部51Aが43番スロットの第12層(最外層)に配置され、第2スロット収容部51Bが1番スロットの第11層に配置され、第3スロット収容部51Cが7番スロットの第10層に配置され、第4スロット収容部51Dが13番スロットの第9層に配置され、最終の第12スロット収容部51Lが13番スロットの第1層(最内層)に配置されている。即ち、コイル線材(U1−4’)は、始端側(外径側)から終端側(内径側)に向かうにつれて、スロット収容部51の固定子コア30の中心軸線Oからの半径距離が順次小さくなっている。
【0066】
よって、固定子コア30の中心軸線Oから、第1スロット収容部51Aまでの半径距離r43と、第2スロット収容部51Bまでの半径距離r1と、第3スロット収容部51Cまでの半径距離r7と、第4スロット収容部51Dまでの半径距離r13は、順次スロット収容部51の径方向厚み分小さくなっており、以後同様に、第12スロット収容部51Lに至るまで、半径距離が順次スロット収容部51の径方向厚み分小さくなっている。すなわち、第1スロット収容部51Aから第12スロット収容部51Lに至るまで、半径距離が順次小さくなるのみで、途中で半径距離が大きくなることはない。
【0067】
次に、16本のコイル線材50を直列に接続してなる各相巻線43(U、V、W)のうち、代表としてV相の各相巻線43の接続状態を、図16、図17および上記の表1を参照して説明する。なお、U相、W相の各相巻線もV相と同様の接続となっている。
【0068】
図16において出力線Vの始端に位置するコイル線材(V1−1)は、表1および図17に示すように、始端側の第1スロット収容部51Aが5番スロットの最外層(第12層)に配置され、終端側の第12スロット収容部51Lが23番スロットの最内層(第1層)に配置されている。コイル線材(V1−1)の終端側には、始端側の第1スロット収容部51Aが17番スロットの第12層に配置され、終端側の第12スロット収容部51Lが35番スロットの第1層に配置されたコイル線材(V1−2)の始端側が接続されている。
【0069】
コイル線材(V1−2)の終端側には、始端側の第1スロット収容部51Aが29番スロットの第12層に配置され、終端側の第12スロット収容部51Lが47番スロットの第1層に配置されたコイル線材(V1−3)の始端側が接続されている。コイル線材(V1−3)の終端側には、始端側の第1スロット収容部51Aが41番スロットの第12層に配置され、終端側の第12スロット収容部51Lが11番スロットの第1層に配置されたコイル線材(V1−4)の始端側が接続されている。コイル線材(V1−4)の終端側には、始端側の第1スロット収容部51Aが6番スロットの第12層に配置され、終端側の第12スロット収容部51Lが24番スロットの第1層に配置されたコイル線材(V2−1)の始端側が接続されている。
【0070】
コイル線材(V2−1)の終端側には、始端側の第1スロット収容部51Aが18番スロットの第12層に配置され、終端側の第12スロット収容部51Lが36番スロットの第1層に配置されたコイル線材(V2−2)の始端側が接続されている。コイル線材(V2−2)の終端側には、始端側の第1スロット収容部51Aが30番スロットの第12層に配置され、終端側の第12スロット収容部51Lが48番スロットの第1層に配置されたコイル線材(V2−3)の始端側が接続されている。コイル線材(V2−3)の終端側には、始端側の第1スロット収容部51Aが42番スロットの第12層に配置され、終端側の第12スロット収容部51Lが12番スロットの第1層に配置されたコイル線材(V2−4)の始端側が接続されている。
【0071】
コイル線材(V2−4)の終端側には、始端側の第1スロット収容部51Aが48番スロットの第12層に配置され、終端側の第12スロット収容部51Lが18番スロットの第1層に配置されたコイル線材(V2−4’)の終端側が接続されている。コイル線材(V2−4’)の始端側には、始端側の第1スロット収容部51Aが36番スロットの第12層に配置され、終端側の第12スロット収容部51Lが6番スロットの第1層に配置されたコイル線材(V2−3’)の終端側が接続されている。コイル線材(V2−3’)の始端側には、始端側の第1スロット収容部51Aが24番スロットの第12層に配置され、終端側の第12スロット収容部51Lが42番スロットの第1層に配置されたコイル線材(V2−2’)の終端側が接続されている。コイル線材(V2−2’)の始端側には、始端側の第1スロット収容部51Aが12番スロットの第12層に配置され、終端側の第12スロット収容部51Lが30番スロットの第1層に配置されたコイル線材(V2−1’)の終端側が接続されている。
【0072】
コイル線材(V2−1’)の始端側には、始端側の第1スロット収容部51Aが47番スロットの第12層に配置され、終端側の第12スロット収容部51Lが17番スロットの第1層に配置されたコイル線材(V1−4’)の終端側が接続されている。コイル線材(V1−4’)の始端側には、始端側の第1スロット収容部51Aが35番スロットの第12層に配置され、終端側の第12スロット収容部51Lが5番スロットの第1層に配置されたコイル線材(V1−3’)の終端側が接続されている。コイル線材(V1−3’)の始端側には、始端側の第1スロット収容部51Aが23番スロットの第12層に配置され、終端側の第12スロット収容部51Lが41番スロットの第1層に配置されたコイル線材(V1−2’)の終端側が接続されている。コイル線材(V1−2’)の始端側には、始端側の第1スロット収容部51Aが11番スロットの第12層に配置され、終端側の第12スロット収容部51Lが29番スロットの第1層に配置されたコイル線材(V1−1’)の終端側が接続されている。なお、コイル線材(V1−1’)の始端側は、中性点Vに接続されている。
【0073】
次に、表1、図12および図17を参照して各コイル線材50の接続状態を説明する。ここでは、代表として2本のコイル線材(V1−1)(V1−2)の接続状態を説明する。一方のコイル線材(V1−1)は、始端側となる第1スロット収容部51Aが5番スロットの最外層(第12層)に配置され、終端側となる第12スロット収容部51Lが23番スロットの最内層(第1層)に配置されている。このコイル線材(V1−1)の終端側に設けられた引出し部53b(内周側端部)は、第12スロット収容部51Lが配置されている23番スロットからターン部52Nの長さ分だけ戻った所(20番スロット付近)に位置している。
【0074】
そして、他方のコイル線材(V1−2)は、始端側となる第1スロット収容部51Aが17番スロットの最外層(第12層)に配置され、終端側となる第12スロット収容部51Lが35番スロットの最内層(第1層)に配置されている。このコイル線材(V1−2)の始端側に設けられた引出し部53a(外周側端部)は、第1スロット収容部51Aが配置されている17番スロットからターン部52Mの長さ分だけ戻った所(20番スロット付近)に位置している。図7〜図10に示すように、このコイル線材(V1−1)の引出し部53b(内周側端部)は、径方向外方側へ略直角に折り曲げられた後、その先端が、固定子コイル40の外周端部に位置するコイル線材(V1−2)の引出し部53a(外周側端部)の先端部に溶接接合されることにより接続されている。
【0075】
この溶接接合は、固定子コイル40の最も外径側に位置するターン部52よりも外径側において溶接により接続されている。この場合、コイル線材(V1−1)の引出し部53b(内周側端部)の折り曲げ部は、固定子コイル40の軸方向端面(ターン部52の軸方向外面)上を通る渡り部70を形成しており、2本のコイル線材(V1−1)(V1−2)は、渡り部70を介して接続されている。これにより、内径側に位置する第12スロット収容部51Lの径方向内方への膨出をより効果的に防止することができるので、内径側に位置する回転子との干渉を回避することが可能となる。
【0076】
なお、渡り部70は、図3および図9に示すように、渡り部70の径方向両端部が、固定子コア30(固定子コイル40)の中心軸線Oから放射方向に延びる直線に沿って延びるように形成されている。渡り部70の形状をこのようにすることによって、コイル線材50の折り曲げを容易にするとともに、溶接接合を容易にすることができる。
【0077】
また、この渡り部70は、図3および図9に示すように、固定子コイル40の軸方向端面上において、周方向に略3/4周する範囲の領域に設けられている。そして、固定子コイル40の軸方向端面上の残り1/4周する範囲の領域には、中性点V、出力線W、中性点U、出力線V、中性点Wおよび出力線Uの引出し部が順番に並んで設けられている。即ち、固定子コイル40の軸方向端面において、中性点U、V、Wの引出し部と同じ領域に出力線U、V、Wの引出し部が設けられているとともに、渡り部70が設けられる領域と中性点U、V、Wおよび出力線U、V、Wの引出し部が設けられる領域が分離されている。
【0078】
上記のように構成された固定子コイル40は、外周側から分割コア32のティース部33が挿入されることによって固定子コア30と組み付けられている(図2〜図4参照)。これにより、固定子コイル40を構成するコイル線材50は、固定子コア30の内周側で周方向に沿って波巻きされた状態に組み付けられている。コイル線材50のターン部52によって接続されたスロット収容部51同士は、所定のスロットピッチ(本実施形態では、3相×2個=6スロットピッチ)だけ離間したスロット31に収容されている。隣り合うスロット収容部51同士を接続するターン部52は、固定子コア30の軸方向の両端面からそれぞれ突出しており、その突出しているターン部52の集合体によりコイルエンド部42が形成されている。
【0079】
〔実施形態1〕
次に、実施形態1の固定子コイル40の製造方法について説明する。本実施形態の固定子コイル40の製造方法は、図18に示すように、コイル線材形成工程101と、組む込み工程102と、巻き取り工程103とからなる。以下、各工程について順に説明する。
【0080】
<コイル線材形成工程101>
コイル線材形成工程101では、電気導体線を所定形状に成形してコイル線材50を形成する。本実施形態場合、1個の固定子コイル40につき48本のコイル線材50を準備する。ここで形成するコイル線材50は、互いに平行に延びてコイル線材50の長手方向に並列した12個のスロット収容部51と、隣り合うスロット収容部51同士をスロット収容部51の一端側と他端側とで交互に連結する11個のターン部52とを有する(図12参照)。なお、電気導体線を成形する成形装置としては、従来より公知のものを採用することができる。
【0081】
<組み込み工程102>
組み込み工程102では、コイル線材形成工程101で形成したコイル線材50を、24本ずつ所定の方法で組み込むことにより、図19に示される帯状の組み込み体47を形成する。この組み込み体47は、24本のコイル線材50が組み込み体47の長手方向に1スロットピッチずつずれた状態で重ね合わされることにより組み付けられ、略平面状に形成されている。この組み込み体47は、各コイル線材50の互いのスロット収容部51同士が重ね合わされて形成された複数の直状重ね合わせ部41を長手方向に有する。隣り合う直状重ね合わせ部41同士の間には、隣り合うスロット収容部51同士の間に形成された隙間と略同じ大きさの隙間が形成されている。
【0082】
<巻き取り工程103>
巻き取り工程103では、図20及び図21に示す巻き取り装置を用いて、組み込み工程102で形成した2組の組み込み体47を芯部材81に巻き取って巻き取り体を形成する。まず、ここで用いる巻き取り装置の構成について説明する。この巻き取り装置は、図20及び図21に示すように、芯部材81と、一対の送り矢装置82と、一対の位置決め矢装置83と、一対の第1押さえ部材84と、一対の第2押さえ部材85と、一対の押圧部材86とを備えており、これらはベース80上に設置されている。
【0083】
芯部材81は、図22(A)に示すように、周方向に4分割されて円筒状に形成されている。この芯部材81は、図21に示すように、ベース80に対してベアリング81aを介して回転可能に立設された回転軸81bの上端部外周に同軸状に嵌合され、内周側に嵌挿されたテーパピン81cにより固定されている。これにより、芯部材81は、ベース80に対して自由回転可能に軸支されている。芯部材81の外周面には、図22(B)に示すように、軸方向に延びる複数の係合溝81dが刻設されている。この係合溝81dには、後述する送り矢83aの先端が係合される。
【0084】
一対の送り矢装置82は、芯部材81の外周側に芯部材81を挟んで軸対称となる位置に対向して配設されている。各送り矢装置82は、周方向に並列配置された6個の送り矢82aと、6個の送り矢82aを保持するカムプレート82bと、カムプレート82bを芯部材81の外周面に対して進退移動させる第1シリンダ(第1駆動部材)82cとを備えている。6個の送り矢82aは、それらの先端が芯部材81の回転軸線を向くようにして放射状に配置されている。なお、本実施形態では、コイル線材50の隣り合うスロット収容部51同士が6スロットピッチだけ離間したスロット31に収容されることから、送り矢82aの個数が6個に設定されている。これにより、送り矢82aを回動させて組み込み体47を巻き取る際に、6個の送り矢82aで組み込み体47の全てのコイル線材50を搬送することが可能である。この送り矢装置82は、第2シリンダ(第2駆動部材、図20には一方のみ図示)82dによって、芯部材81の周方向の所定範囲(図20の実線の位置と2点鎖線の位置の範囲)において間欠的に回動(往復動)可能とされている。
【0085】
一対の位置決め矢装置83は、芯部材81の外周側に芯部材81を挟んで軸対称となる位置に対向して配設されている。この場合、一対の位置決め矢装置83は、図20における一対の送り矢装置82に対して、反時計回り方向へ約80°位相がずれた位置に配置されている。各位置決め矢装置83は、周方向に並列配置された6個の位置決め矢83aと、6個の位置決め矢83aを保持するカムプレート83bと、カムプレート83bを芯部材81の外周面に対して進退移動させる駆動部材としてのシリンダ83cとを備えている。6個の位置決め矢83aは、それらの先端が芯部材81の回転軸線を向くようにして放射状に配置されている。
【0086】
一対の第1押さえ部材84は、図21に示すように、位置決め矢83aの下方に配置されており、巻き取られる組み込み体47のスロット収容部51の一端側(下方側)にあるターン部52を押圧するものである。各第1押さえ部材84は、芯部材81の周方向に並列した一対の第1ローラ84aを周方向に揺動可能に支持する支持部84bと、支持部84bが取着されたアーム部84cを芯部材81の外周面に対して進退移動させる駆動部材としてのシリンダ84dとを備えている。
【0087】
この第1押さえ部材84は、第1の押圧力と該第1の押圧力よりも小さい第2の押圧力の何れか一方の押圧力でターン部52を常時押圧するようにされている。この場合、送り矢装置82による組み込み体47の巻き取り動作停止中には第1の押圧力で押圧し、送り矢装置82による組み込み体47の巻き取り動作中には第2の押圧力で押圧する。
【0088】
一対の第2押さえ部材85は、図21に示すように、位置決め矢83aの上方に配置されており、巻き取られる組み込み体47のスロット収容部51の他端側(上方側)にあるターン部52を押圧するものである。各第2押さえ部材85は、第1押さえ部材84と基本的構成が同じであり、一対の第2ローラ85aと、支持部85bと、アーム部85cと、シリンダ85dとを備えている。そして、第2押さえ部材85は、第1押さえ部材84と同様に、第1の押圧力及び第2の押圧力の何れか一方の押圧力でターン部52を常時押圧するようにされている。
【0089】
なお、第2押さえ部材85の一対の第2ローラ85aは、シリンダ84d、85dを制御する図示しない制御部によって、第1押さえ部材84の一対の第1ローラ84aが前進移動した時には同期して前進移動し、第1押さえ部材84の一対の第1ローラ84aが後退移動した時には同期して後退移動するように制御される。
【0090】
一対の押圧部材86は、図20に示すように、芯部材81の外周側に芯部材81を挟んで軸対称となる位置に配設されている。この場合、一対の押圧部材86は、送り矢装置82と位置決め矢装置83の中間位置にそれぞれ配設されている。具体的には、一対の押圧部材86は、図20における一対の位置決め矢装置83に対して、反時計回り方向へ約10°位相がずれた位置に配設されている。各押圧部材86は、水平方向に並列した一対のローラ86aを保持する保持部86bと、保持部86bを揺動可能に保持するスライド基部86cを水平方向に進退移動させるシリンダ(駆動部材)86dとを備えている。
【0091】
各押圧部材86は、芯部材81の外周面に供給される組み込み体47を一対のローラ86aで押圧することによって、芯部材81に供給される組み込み体47が芯部材81の外周面のより広範囲に密着するようにし、これにより組み込み体47の隣り合う直状重ね合わせ部41同士の間に形成された隙間に送り矢82aが挿入され易いようにする。
【0092】
次に、上記のように構成された巻き取り装置を用いて行う本実施形態の巻き取り工程103について説明する。本実施形態の巻き取り装置は、初期状態において、各送り矢装置82の6個の送り矢82a、各位置決め矢装置83の6個の位置決め矢83a、第1及び第2押さえ部材84、85の第1及び第2ローラ84a、85a、並びに押圧部材86の一対のローラ86aは、いずれも後退した位置で待機している。この状態で、図20に示すように、2組の組み込み体47を、芯部材81の外周面の180°位相がずれた位置で、その先端部内面が芯部材81の外周面に当接した状態にセットする。このとき、組み込み体47は、各コイル線材50の引出し部53bが先端側となり、その先端部外面が、各送り矢装置82の6個の送り矢82aの先端と対向するようにセットする。
【0093】
次いで、第1及び第2押さえ部材84、85の第1及び第2ローラ84a、85aを芯部材81の外周面に向かって前進させて、第1及び第2押さえ部材84、85の少なくとも一方のローラ84a、85aで、組み込み体47の先端部のターン部52を押圧させる。これにより、組み込み体47の先端部が芯部材81の外周面に位置決めされた状態で保持される。なお、このとき組み込み体47を押圧する第1及び第2押さえ部材84、85の押圧力は、比較的大きな第1の押圧力にされている。
【0094】
また、押圧部材86の一対のローラ86aを組み込み体47の外面に向かって前進させて、一対のローラ86aで組み込み体47の外面を押圧させる。これにより、組み込み体47の隣り合う直状重ね合わせ部41同士の間に形成された隙間に送り矢82aが挿入され易いようにする。
【0095】
次いで、各送り矢装置82の第1シリンダ82cを作動させて、芯部材81の外周面に向かって6個の送り矢82aを前進させる。これにより、6個の送り矢82aは、組み込み体47の隣り合う直状重ね合わせ部41同士の間に形成された所定の6個の隙間にそれぞれ挿入して、その先端が芯部材81の外周面に設けられた6個の係合溝81dにそれぞれ係合する。これにより、6個の送り矢82aのうちの隣り合う送り矢82a同士により挟まれた直状重ね合わせ部41が、各スロット収容部51が径方向に1列に並んだ状態に整列される。
【0096】
この状態で、各送り矢装置82の第2シリンダ82dを作動させて、各送り矢装置82を芯部材81の周方向(図20の矢印A方向)に所定距離回動させる。即ち、各送り矢装置82を図20の実線の位置(回動開始位置)から2点鎖線の位置(回動停止位置)へ回動させる。これにより、6個の送り矢82aの先端が係合している芯部材81は、送り矢82aと連れ周りして所定角度回転し、芯部材81の回転に伴って送り矢82aにより搬送される組み込み体47が芯部材81に巻き取られる。
【0097】
なお、各送り矢装置82が回動して組み込み体47が巻き取られている時には、組み込み体47を押圧する第1押さえ部材84の押圧力は、比較的小さな第2の押圧力に変更されている。これにより、組み込み体47のターン部52に段差(クランク部54)が形成されていても、搬送される組み込み体47のターン部52を第1押さえ部材84で安定的に押圧することができる。
【0098】
各送り矢装置82が回動停止位置まで回動して停止した後、各位置決め矢装置83のシリンダ83cを作動させて、芯部材81の外周面に向かって6個の位置決め矢83aを前進させる。これにより、6個の位置決め矢83aは、組み込み体47の隣り合う直状重ね合わせ部41同士の間に形成された所定の6個の隙間にそれぞれ挿入される。これにより、6個の位置決め矢83aのうちの隣り合う位置決め矢83a同士により挟まれた直状重ね合わせ部41は、各スロット収容部51が径方向に1列に並んだ状態に整列され、芯部材81に巻き取られた組み込み体47の良好な整列性が保持される。
【0099】
この状態で、各送り矢装置82の第1シリンダ82cを作動させて、芯部材81の径方向外方へ6個の送り矢82aを後退させ、隣り合う直状重ね合わせ部41同士の間に形成された所定の隙間から抜き出す。次いで、各送り矢装置82の第2シリンダ82dを作動させて、各送り矢装置82を、巻き取り方向とは逆方向に回動させて回動停止位置から回動開始位置へ戻す。
【0100】
各送り矢装置82が回動開始位置へ戻った後、再度、各送り矢装置82の第1シリンダ82cを作動させて、6個の送り矢82aを芯部材81の外周面に向かって前進させ、組み込み体47の隣り合う直状重ね合わせ部41同士の間に形成された所定の隙間に挿入させるとともに、その先端を芯部材81の係合溝81dに係合させる。この状態で、各送り矢装置82の第2シリンダ82dを作動させて、各送り矢装置82を芯部材81の周方向(図20の矢印A方向)に所定距離回動させることにより、上記と同様の送り矢82aによる組み込み体47の巻き取り動作を開始する。以後、各送り矢装置82、各位置決め矢装置83、各第1押さえ部材84、各第2押さえ部材85及び各押圧部材86が、それぞれ上記と同様の動作を適時繰り返すことにより、2組の組み込み体47を後端まで芯部材81に巻き取る。
【0101】
このようにして、組み込み体47の後端までの巻き取りが終了すると、各送り矢装置82の6個の送り矢82a、各位置決め矢装置83の6個の位置決め矢83a、第1及び第2押さえ部材84、85の第1及び第2ローラ84a、85a、並びに押圧部材86の一対のローラ86aは、巻き取り開始前の初期状態の位置に戻されて待機する。この状態で、芯部材81の内周側に挿入されているテーパピン81cを抜き取り、芯部材81を縮径させた状態で、円筒状に巻き取られた巻き取り体を芯部材81から取り外して、巻き取り工程103を終了する。
【0102】
その後、形成された巻き取り体の48本のコイル線材50のうち、所定のコイル線材50の引出し部53a、53bを溶接で接続することにより、図7〜図10に示す固定子コイル40が完成する。
【0103】
以上のように、本実施形態の固定子コイル40の製造方法によれば、巻き取り工程103において、組み込み体47の隣り合う直状重ね合わせ部41同士の間に形成された所定の隙間に複数の送り矢82aを挿入して送り矢82aの先端を芯部材81に係合させた状態で、芯部材81の周方向の所定範囲で送り矢82aを間欠的に回動させることにより、送り矢82aで芯部材81を回転させつつ組み込み体47を芯部材81に巻き取るようにしている。
【0104】
そのため、芯部材81が駆動回転されないことから、芯部材81の回転と組み込み体47の供給及び位置決めとを同期制御する必要がないので、同期ずれ(位置ずれ)の発生や稼働率の不安定を解消することができる。また、組み込み体47の巻き取り中には、組み込み体の隣り合う直状重ね合わせ部41同士の間に形成された所定の隙間に送り矢82aが必ず挿入されているので、組み込み体47の良好な整列状態を確保することができる。したがって、本実施形態の固定子コイル40の製造方法によれば、巻き取り工程103において、組み込み体47の安定した整列巻きを行うことができ、所望の巻き取り径に巻き取られた巻き取り体を安定して得ることができる。
【0105】
また、本実施形態の巻き取り工程103では、送り矢82aが、組み込み体47の隣り合う直状重ね合わせ部41同士の間に形成された所定の隙間から抜き出される際に、組み込み体47の他の所定の隙間に挿入される位置決め矢83aで直状重ね合わせ部41の位置決めをするようにしている。そのため、送り矢82aを、組み込み体47の所定の隙間から抜き出して巻き取り停止位置から巻き取り開始位置へ戻す際に、位置決め矢83aによって、直状重ね合わせ部41の良好な整列状態を確実に維持することができる。
【0106】
また、巻き取り工程103は、巻き取られる組み込み体47のスロット収容部51両側にあるターン部52をそれぞれ外周側から第1押さえ部材84で押圧しながら行うようにしている。そのため、組み込み体47の巻き取り中にターン部52の径方向外方への膨らみや捩れ等の発生を防止することができるので、ターン部52が良好に整列され、安定して所望の巻き取り径に巻き取られた巻き取り体を得ることができる。
【0107】
また、第1押さえ部材84は、芯部材81の周方向に並列した一対の第1ローラ84aを有し、一対の第1ローラ84aが芯部材81の周方向に揺動可能に設置されている。これにより、一対の第1ローラ84aが組み込み体47のターン部52に必ず2点で接触することができるので、巻き取り中の組み込み体47の径方向外方への膨らみや捩れ等の発生をより確実に防止することができる。
【0108】
さらに、第1押さえ部材84は、第1の押圧力と該第1の押圧力よりも小さい第2の押圧力の何れか一方の押圧力でターン部52を常時押圧し、送り矢82aによる組み込み体47の巻き取り動作停止中には前記第1の押圧力で押圧するようにしている。そのため、送り矢82aによる組み込み体47の巻き取り動作停止中には、比較的大きな第1の押圧力で押圧することによって、ターン部52の径方向外方への膨らみを確実に防止することができる。また、送り矢82aによる組み込み体47の巻き取り動作中には、比較的小さな第2の押圧力で押圧することによって、組み込み体47のターン部52に段差(クランク部54)が形成されていても、第1押さえ部材84で安定的にターン部52を押圧することができる。これにより、コイル線材50の表面を被覆する絶縁被膜68の損傷発生も防止することができる。
【0109】
そして、本実施形態の巻き取り工程103で用いられる巻き取り装置によれば、芯部材81を駆動回転させることなく、安定した整列巻きを行うことができ、所望の巻き取り径に巻き取られた巻き取り体を確実に得ることが可能な巻き取り装置を容易に実現することができる。
【0110】
〔実施形態2〕
次に、実施形態2の固定子コイル40の製造方法について説明する。本実施形態の固定子コイル40の製造方法は、実施形態1の製造方法と同様に、コイル線材形成工程101と、組む込み工程102と、巻き取り工程103とからなるが、巻き取り工程103のみが実施形態1の製造方法と異なる。よって、コイル線材形成工程101及び組む込み工程102の説明は省略し、巻き取り工程103のみについて説明する。なお、以下の説明において、実施形態1の組み込み工程102以前の説明で使用した、組み込み体47等の共通する部材については同じ符号を使用する。
【0111】
<巻き取り工程103>
本実施形態の巻き取り工程103は、図23〜図25に示す巻き取り装置を用いて行う。この巻き取り装置は、図23に示すように、実施形態1の巻き取り装置に用いられていた送り矢82aが上下に2分割されて構成されたものであって、組み込み体47の隣り合う直状重ね合わせ部41同士の間に形成された所定の隙間の一方側(下方側)に挿入される複数(6個)の第1送り矢94aを有する第1送り矢装置94と、前記所定の隙間の他方側(上方側)に挿入される複数(6個)の第2送り矢97aを有する第2送り矢装置97とを備えている点で異なる。
【0112】
本実施形態の巻き取り装置は、ベッド基板90の貫通孔に下端部が嵌合固定されて立設された略円筒状の筒状基部90aを有する。そして、筒状基部90aの内側には、円柱状の支柱90bが嵌挿されて同軸状に立設されている。この支柱90bの上端には、支柱90bに対して図示しないベアリングを介して相対回転可能な芯部材91が支柱90bと同軸状に軸支されている。この芯部材91は、実施形態1の芯部材81と同様に、周方向に4分割して形成され、その外周面には、軸方向に延びる複数の図示しない係合溝(図22(B)参照)が刻設されている。この係合溝には、後述する第1送り矢94a及び第2送り矢97aの先端が係合される。また、芯部材91は、実施形態1の芯部材81と同様に、支柱90bの上端部外周に嵌合され、内周側に挿入されたテーパピン91cにより同軸状に固定されている。
【0113】
そして、支柱90bと筒状基部90aの間には、円筒状に形成された第1駆動軸92が支柱90b及び筒状基部90aと相対回転可能に同軸状に嵌装されている。この第1駆動軸92は、筒状基部90aに対して上下一対のベアリング92aを介して相対回転可能とされており、その下端に連結された駆動モータ92bにより駆動回転される。なお、駆動モータ92bは、図示しない制御部によって駆動制御される。
【0114】
第1駆動軸92の上端には、芯部材91の周方向に第1駆動軸92と一体的に回動する第1回動テーブル93が取着されている。第1回動テーブル93は、第1駆動軸92の上端から下方に下がった位置で第1駆動軸92の両側外方へ水平方向に広がる一対の支持基板93aを有する。各支持基板93a上には、第1送り矢装置94及び第1押さえ部材95からなる第1ユニットがそれぞれ設置されている。
【0115】
一対の第1送り矢装置94は、図24に示すように、芯部材91(第1駆動軸92)の外周側の芯部材91を挟んで軸対称となる位置に対向して配設されている。各第1送り矢装置94は、周方向に並列配置された6個の第1送り矢94aと、6個の第1送り矢94aを保持するカムプレート94bと、カムプレート94bを芯部材91の外周面に対して進退移動させる駆動モータ94c及びボールネジ94dを備えている。
【0116】
6個の第1送り矢94aは、芯部材91の外周面と所定距離を隔てて対向する位置で、それらの先端が芯部材91の回転軸線を向くようにして放射状に配置されている。そして、6個の第1送り矢94aは、駆動モータ94cの作動により前進移動した時に、それらの先端部が芯部材91の外周面に設けられた係合溝の中央から下端の間に係合するように構成されている。なお、図24において、6個の第1送り矢94aは、芯部材91から後退した位置に示されている。
【0117】
各第1押さえ部材95は、芯部材91の周方向に並列した一対の第1ローラ95aを周方向に揺動可能に支持する支持部95bと、支持部95bが取着されたアーム部95cを芯部材91の外周面に対して進退移動させる駆動モータ95dとを備えている。この第1押さえ部材95は、一対の第1ローラ95aが6個の第1送り矢94aの下方位置で芯部材91の外周面と対向するように配置されている。そして、芯部材91の外周面に組み込み体47が巻き取られる際に、駆動モータ95dの作動により一対の第1ローラ95aが前進移動して、スロット収容部51の一端側(下端側)にあるターン部52を一対の第1ローラ95aで押圧するように構成されている。
【0118】
そして、ベッド基板90と第1回動テーブル93の間には、筒状基部90aに対してベアリング96aを介して相対回転可能な第2回動テーブル96が設けられている。第2回動テーブル96は、第1回動テーブル93の各支持基板93aの外周端よりも更に外方に延出した一対の板状基部96aを有する。各板状基部96aは、ベッド基板90上の複数箇所に設けられた支持ローラ90cにより回動可能に支持されている。各板状基部96aの外周側端部の上面には、第1ユニットの上方に位置する一対の支持基板96bを有する一対の支持脚96cが立設されている。一対の支持基板96b上には、第2送り矢装置97及び第2押さえ部材98からなる第2ユニットがそれぞれ設置されている。
【0119】
一対の第2送り矢装置97は、図25に示すように、芯部材91の外周側の芯部材91を挟んで軸対称となる位置に対向して配設されている。各第2送り矢装置97は、周方向に並列配置された6個の第2送り矢97aと、6個の第2送り矢97aを保持するカムプレート97bと、カムプレート97bを芯部材91の外周面に対して進退移動させる駆動モータ97c及びボールネジ97dとを備えている。6個の第2送り矢97aは、芯部材91の外周面と所定距離を隔てて対向する位置で、それらの先端が芯部材91の回転軸線を向くようにして放射状に配置されている。そして、6個の第2送り矢97aは、駆動モータ97cの作動により前進移動した時に、それらの先端部が芯部材91の外周面に設けられた係合溝の中央から上端の間に係合するように構成されている。
【0120】
なお、各第1ユニットの6個の第1送り矢94aと各第2ユニットの6個の第2送り矢97aは、駆動モータ94c、97cを制御する図示しない制御部によって、何れか一方の送り矢が前進移動した時には前進移動を停止した後に他方の送り矢が後退移動し、何れか他方の送り矢が前進移動した時には前進移動を停止した後に一方の送り矢が後退移動するように制御される。これにより、第1送り矢94aと第2送り矢97aは、少なくとも何れか一方の送り矢が、常時、前進移動停止位置に停止しているようにされている。
【0121】
各第2押さえ部材98は、芯部材91の周方向に並列した一対の第2ローラ98a、98aを周方向に揺動可能に支持する支持部98bと、支持部98bが取着されたアーム部98cを芯部材91の外周面に対して進退移動させる駆動モータ98dとを備えている。この第2押さえ部材98は、一対の第2ローラ98aが6個の第2送り矢97aの下方位置で芯部材91の外周面と対向するように配置されている。そして、芯部材91の外周面に組み込み体47が巻き取られる際に、駆動モータ98dの作動により一対の第2ローラ98aが前進移動して、スロット収容部51の他端側(上端側)にあるターン部52を一対の第2ローラ98aで押圧するように構成されている。
【0122】
なお、第2押さえ部材98の一対の第2ローラ98aは、第1押さえ部材95の一対の第1ローラ95aが前進移動した時には同期して前進移動し、第1押さえ部材95の一対の第1ローラ95aが後退移動した時には同期して後退移動するように制御される。即ち、第1押さえ部材95の一対の第1ローラ95aと第2押さえ部材98の一対の第2ローラ98aは、それぞれ独立して進退動作を行って、ターン部52を任意の押圧力で押圧するようになっている。
【0123】
一対の第2送り矢装置97及び一対の第2押さえ部材98が設置されている第2回動テーブル96は、第2駆動軸99によって駆動される。この第2駆動軸99は、ベッド基板90に対して上下一対のベアリング99aを介して相対回転可能に設けられている。そして、第2駆動軸99の上端に取着された第1ギヤ99aと、第2回動テーブル96の下面側に取着されたギヤ96dとが噛合連結されている。これにより、第2回動テーブル96は、第2駆動軸99の回転駆動により芯部材91の周方向に回動可能となっている。
【0124】
また、第2駆動軸99には、第1駆動軸92の下端部に取着されたギヤ92cと図示しないアイドルギヤを介して噛合連結された第2ギヤ99bが取着されている。これにより、第2駆動軸99は、第1駆動軸92が駆動モータ92bにより駆動回転する時に、第1駆動軸92とは逆方向へ従動回転するようになっている。即ち、第1駆動軸92と第2駆動軸99が同期して互いに逆方向へ回転することによって、第1回動テーブル93と第2回動テーブル96が、第1駆動軸92(芯部材91)の回転軸を中心にして互いに逆方向へ同期して回動するように構成されている。
【0125】
次に、上記のように構成された巻き取り装置を用いて行う本実施形態の巻き取り工程103について説明する。本実施形態の巻き取り装置は、初期状態において、各第1送り矢装置94の6個の第1送り矢94a及び各第1押さえ部材95の一対の第1ローラ95aは、組み込み体47の巻き取り開始位置で待機し、各第2送り矢装置97の6個の第2送り矢97a及び各第2押さえ部材98の一対の第2ローラ98aは、組み込み体47の巻き取り停止位置で待機している。また、第1及び第2送り矢装置94、97の第1及び第2送り矢94a、97a、並びに第1及び第2押さえ部材95、98の第1及び第2ローラ95a、98aは、いずれも後退した位置で待機している。
【0126】
この状態で、図24及び図25に示すように、2組の組み込み体47を、芯部材81の外周面の180°位相がずれた位置で、その先端部内面が芯部材81の外周面に当接した状態にセットする。このとき、組み込み体47は、各コイル線材50の引出し部53bが先端側となり、その先端部が、第1送り矢装置94の6個の第1送り矢94aの先端と対向するようにセットする。
【0127】
次いで、第1及び第2押さえ部材95、98の駆動モータ95d、98dを作動させて、第1及び第2ローラ95a、98aを芯部材91の外周面に向かって前進させることにより、第1及び第2ローラ95a、98aで組み込み体47のターン部52を押圧させる。これにより、組み込み体47の先端部を、芯部材91の外周面の所定位置に位置決めした状態で保持させる。
【0128】
次いで、第1送り矢装置94の駆動モータ94cを作動させて、6個の第1送り矢94aを、芯部材91の外周面に向かって前進させ、組み込み体47の隣り合う直状重ね合わせ部41同士の間に形成された所定の隙間に挿入させて、その先端を芯部材91の外周面に設けられた係合溝の中央から下端の間に係合させる。これにより、6個の第1送り矢94aのうちの隣り合う第1送り矢94a同士により挟まれた直状重ね合わせ部41は、各スロット収容部51が径方向に1列に並んだ状態に整列される。なお、巻き取り停止位置で後退して待機している第2送り矢装置97の6個の第2送り矢97aは、その後退位置でそのまま待機している。
【0129】
この状態で、第1駆動軸92を駆動モータ92bで駆動回転させて、第1駆動軸92と第2駆動軸99を互いに逆方向へ所定量、同期して回転させる。これにより、第1駆動軸92により駆動される第1回動テーブル93が、図24及び図25の矢印B方向へ回動すると同時に、第2駆動軸99により駆動される第2回動テーブル96が、図24及び図25の矢印C方向へ回動する。
【0130】
このとき、第1回動テーブル93に設置されている第1送り矢装置94の6個の第1送り矢94a及び第1押さえ部材95の一対の第1ローラ95aは、第1回動テーブル93と共に矢印B方向へ所定ピッチ回動し、第2送り矢装置97の6個の第2送り矢97aが待機していた位置で停止する。これにより、6個の第1送り矢94aの先端が係合している芯部材91は、第1送り矢94aと連れ周りして所定角度回転し、芯部材91の回転に伴って第1送り矢94aにより搬送される組み込み体47が芯部材91の外周面に巻き取られる。
【0131】
このとき、巻き取られる組み込み体47は、6個の第1送り矢94aにより直状重ね合わせ部41が挟持されていることによって良好な整列状態を維持する。また、巻き取られる組み込み体47は、第1及び第2押さえ部材95、98の第1及び第2ローラ95a、98aで上下両側のターン部52が芯部材91の外周面に押圧されているので、径方向外方への膨らみが防止される。
【0132】
一方、第2回動テーブル96に設置されている第2送り矢装置97の6個の第2送り矢97a及び第2押さえ部材98の一対の第2ローラ98aは、第2回動テーブル96と共に矢印C方向へ所定ピッチ回動し、第1送り矢装置94の6個の第1送り矢94a及び第1押さえ部材95の一対の第1ローラ95aの回動開始位置(第1送り矢94aの巻き取り開始位置)まで回動して停止する。これにより、第2送り矢装置97の6個の第2送り矢97a及び第2押さえ部材98の一対の第2ローラ98aは、第2送り矢97aによる組み込み体47の巻き取り開始位置に戻される。
【0133】
停止後、第2送り矢装置97の駆動モータ97cを作動させて、6個の第2送り矢97aを、芯部材91の外周面に向かって前進させ、組み込み体47の隣り合う直状重ね合わせ部41同士の間に形成された所定の隙間に挿入させて、その先端を芯部材91の外周面に設けられた係合溝の中央から上端の間に係合させる。その後、第1送り矢装置94の駆動モータ94cを作動させて、芯部材91の係合溝に先端が係合している6個の第1送り矢94aを後退させ、後退位置で待機させる。これにより、次の巻き取り動作を開始する準備が完了する。
【0134】
その状態で、第1駆動軸92を駆動モータ92bで前回とは逆方向へ駆動回転させて、第1駆動軸92と第2駆動軸99を互いに逆方向へ所定量、同期して回転させる。これにより、第2駆動軸99により駆動される第2回動テーブル96が、図24及び図25の矢印B方向に所定ピッチ回動すると同時に、第1駆動軸92により駆動される第1回動テーブル93が、図24及び図25の矢印C方向へ所定ピッチ回動する。
【0135】
このとき、第2回動テーブル96に設置されている第2送り矢装置97の6個の第2送り矢97a及び第2押さえ部材98の一対の第2ローラ98aは、第2回動テーブル96と共に矢印B方向へ回動し、第1送り矢装置94の6個の第1送り矢94aが待機していた位置で停止する。これにより、6個の第2送り矢97aの先端が係合している芯部材91は、第2送り矢97aと連れ周りして所定角度回転し、芯部材91の回転に伴って第2送り矢97aにより搬送される組み込み体47が芯部材91の外周面に巻き取られる。
【0136】
このとき、巻き取られる組み込み体47は、6個の第2送り矢97aにより直状重ね合わせ部41が挟持されていることによって良好な整列状態を維持する。また、巻き取られる組み込み体47は、第1及び第2押さえ部材95、98の第1及び第2ローラ95a、98aで上下両側のターン部52が芯部材91の外周面に押圧されているので、径方向外方への膨らみが防止される。
【0137】
一方、第1回動テーブル93に設置されている第1送り矢装置94の6個の第1送り矢94a及び第1押さえ部材95の一対の第1ローラ95aは、第1回動テーブル93と共に矢印C方向へ回動し、第2送り矢装置97の6個の第2送り矢97a及び第2押さえ部材98の一対の第2ローラ98aの回動開始位置(第2送り矢97aの巻き取り開始位置)まで回動して停止する。これにより、第1送り矢装置94の6個の第1送り矢94a及び第1押さえ部材95の一対の第1ローラ95aは、第1送り矢94aによる組み込み体47の巻き取り開始位置に戻される。
【0138】
停止後、第1送り矢装置94の駆動モータ94cを作動させて、6個の第1送り矢94aを、芯部材91の外周面に向かって前進させ、組み込み体47の隣り合う直状重ね合わせ部41同士の間に形成された所定の隙間に挿入させて、その先端を芯部材91の外周面に設けられた係合溝の中央から上端の間に係合させる。その後、第2送り矢装置97の駆動モータ97cを作動させて、芯部材91の係合溝に先端が係合している6個の第2送り矢97aを後退させ、後退位置で待機させる。これにより、次の巻き取り動作を開始する準備が完了する。
【0139】
その状態で、第1駆動軸92を駆動モータ92bで前回とは逆方向へ駆動回転させて、第1駆動軸92と第2駆動軸99を互いに逆方向へ所定量、同期して回転させる。これにより、第2回動テーブル96を矢印B方向へ所定ピッチ回動させると同時に、第1回動テーブル93を矢印C方向へ所定ピッチ回動させることにより、上記の各第1送り矢装置94の第1送り矢94aによる組み込み体47の巻き取り動作を開始するとともに、各第2送り矢装置97の第2送り矢97aを巻き取り開始位置へ戻す動作を開始する。以後、第1及び第2送り矢装置94、97の第1及び第2送り矢94a、97a、並びに第1及び第2押さえ部材95、98の第1及び第2ローラ95a、98aが、それぞれ上記と同様の動作を適時繰り返すことにより、2組の組み込み体47を後端まで芯部材81に巻き取る。
【0140】
このようにして、組み込み体47の後端までの巻き取りが終了すると、第1及び第2送り矢装置94、97の第1及び第2送り矢94a、97a、並びに第1及び第2押さえ部材95、98の第1及び第2ローラ95a、98a巻き取り開始前の初期状態の位置に戻されて待機する。この状態で、芯部材91の内周側に挿入されているテーパピン91cを抜き取り、芯部材91を縮径させた状態で、円筒状に巻き取られた巻き取り体を芯部材91から取り外して、巻き取り工程103を終了する。
【0141】
その後、形成された巻き取り体の48本のコイル線材50のうち、所定のコイル線材50の引出し部53a、53bを溶接で接続することにより、図7〜図10に示す固定子コイル40が完成する。
【0142】
以上のように、本実施形態の固定子コイル40の製造方法によれば、巻き取り工程103において、組み込み体47の隣り合う直状重ね合わせ部41同士の間に形成された所定の隙間に、複数の第1送り矢94a及び第2送り矢97aを交互に挿入してそれら送り矢94a、97aの先端を芯部材91に係合させた状態で、第1送り矢94a及び第2送り矢97aを交互に芯部材81の周方向の所定範囲で間欠的に回動させることにより、芯部材91を回転させつつ組み込み体47を芯部材91に巻き取るようにしている。
【0143】
そのため、実施形態1の場合と同様に、巻き取り工程103において、芯部材91を回転させることなく、組み込み体47の安定した整列巻きを行うことができ、所望の巻き取り径に巻き取られた巻き取り体を確実に得ることができる。
【0144】
特に、本実施形態では、第1送り矢94aを有する第1送り矢装置94と、第2送り矢97aを有する第2送り矢装置97とを備えた巻き取り装置を用いて、第1送り矢94aと第2送り矢97aが、組み込み体47の所定の隙間に交互に挿入され、且つ芯部材91の周方向に交互に回動して芯部材91を回転させつつ組み込み体47を芯部材91に巻き取るようにしている。即ち、第1送り矢94aで組み込み体47を巻き取る時に第2送り矢97aが巻き取り開始位置へ戻り、第2送り矢97aで組み込み体47を巻き取る時に第1送り矢94aが巻き取り開始位置へ戻るようにしている。
【0145】
そのため、第1送り矢94aと第2送り矢97aが巻き取り開始位置へ戻る時間のロスを削減することができるので、巻き取りを高速化することができる。また、実施形態1で用いられていた位置決め矢83aを不要とすることができる。
【0146】
そして、本実施形態で用いられる巻き取り装置は、第1送り矢94aと第2送り矢97aを備えているため、組み込み体47を高速で巻き取ることが可能な巻き取り装置を容易に実現することができる。また、本実施形態で用いられる巻き取り装置は、芯部材91に巻き取られる組み込み体47を外周側から押圧する第1及び第2押さえ部材を備えていることから、巻き取り中の組み込み体47の径方向外方への膨らみや捩れ等の発生を防止することができる。そのため、ターン部52が良好に整列され、安定して所望の巻き取り径に巻き取られた巻き取り体をより確実に得ることができる。
【0147】
〔他の実施形態〕
本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更することが可能である。
【0148】
例えば、実施形態1及び2の巻き取り工程103においては、48本のコイル線材50が巻回されてなる固定子コイル40を製造するに際して、24本のコイル線材50からなる2組の組み込み体47を巻き取るようにしていたが、組み込み体47に組み込まれるコイル線材50の本数を適宜変更してもよい。例えば、16本のコイル線材50からなる3組の組み込み体47を巻き取るようにしてもよく、12本のコイル線材50からなる4組の組み込み体47を巻き取るようにしてもよい。
【0149】
但し、1組の組み込み体47のコイル線材50の本数を少なくする程、必要な組み込み体47の組数が多くなり、それに伴い、必要な送り矢82a、94a、97a(送り矢装置82、94、97)の個数も多くなる。また、送り矢82a、94a、97a(送り矢装置82、94、97)の個数を多くすると、送り矢82a、94a、97aの1回の巻き取り動作による巻き取り量(組み込み体47の搬送距離)が少なくなるため、巻き取りの高速化が困難になる。よって、これらの点のバランスを考慮して、組み込み体47に組み込まれるコイル線材50の本数を決定すればよい。
【0150】
また、実施形態2の巻き取り装置には、実施形態1の巻き取り装置に設けられていた一対の押圧部材86、86が設けられていないが、実施形態2の巻き取り装置にも、必要に応じて一対の押圧部材86、86を設けるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0151】
1…回転電機、 14…回転子、 20…固定子、 30…固定子コア、 31…スロット、 40…固定子コイル、 41…直状重ね合わせ部、 42…コイルエンド部、 43…各相巻線、 47…組み込み体、 50…コイル線材、 51…スロット収容部、 52…ターン部、 54…クランク部、 55、56…段部、 67…導体、 68…絶縁皮膜、 81…芯部材、 82…送り矢装置、 82a…送り矢、 82c…第1シリンダ(第1駆動部材)、 82d…第2シリンダ(第2駆動部材)、 83…位置決め矢装置、 83a…位置決め矢、 84…第1押さえ部材、 84a…第1ローラ、 85…第2押さえ部材、 85a…第2ローラ、 86…押圧部材、 91…芯部材、 92…第1駆動軸、 92b…駆動モータ(第2駆動部材)、 94…第1送り矢装置、 94a…第1送り矢、 94c…駆動モータ(第1駆動部材)、 95…第1押さえ部材、 95a…第1ローラ、 97…第2送り矢装置、 97a…第2送り矢、 97c…駆動モータ(第1駆動部材)、 98…第2押さえ部材、 98a…第2ローラ、 99…第2駆動軸。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のコイル線材が巻回されてなる固定子コイルの製造方法であって、
電気導体線を成形して、互いに平行に直状に延び長手方向に並列した複数のスロット収容部と、隣り合う該スロット収容部同士を該スロット収容部の一端側と他端側とで交互に接続する複数のターン部とを有する複数の前記コイル線材を形成するコイル線材形成工程と、
複数の前記コイル線材を長手方向に所定ピッチずらせて配置し、互いの前記スロット収容部同士が重ね合わされて形成された複数の直状重ね合わせ部を長手方向に有する帯状の組み込み体を形成する組み込み工程と、
前記組み込み体を芯部材に巻き取って巻き取り体を形成する巻き取り工程と、を備え、
該巻き取り工程は、自由回転可能に軸支された前記芯部材の外周面に前記組み込み体の先端部内面を沿わせて配置し、前記組み込み体の隣り合う前記直状重ね合わせ部同士の間に形成された所定の隙間に複数の送り矢を挿入して該送り矢の先端を前記芯部材に係合させた状態で、前記芯部材の周方向の所定範囲で前記送り矢を間欠的に回動させることにより、前記芯部材を回転させつつ前記組み込み体を前記芯部材に巻き取ることを特徴とする固定子コイルの製造方法。
【請求項2】
前記巻き取り工程は、前記組み込み体の隣り合う前記直状重ね合わせ部同士の間に形成された所定の隙間から前記送り矢を抜き出す際に、前記組み込み体の他の所定の隙間に位置決め矢を挿入して前記直状重ね合わせ部の位置決めをすることを特徴とする請求項1に記載の固定子コイルの製造方法。
【請求項3】
前記巻き取り工程は、前記組み込み体の隣り合う前記直状重ね合わせ部同士の間に形成された所定の隙間の一方側に挿入される複数の第1送り矢と、前記所定の隙間の他方側に挿入される複数の第2送り矢とを用いて行われ、前記第1送り矢と前記第2送り矢は、前記所定の隙間に交互に挿入され、且つ前記芯部材の周方向に交互に回動して前記芯部材を回転させつつ前記組み込み体を前記芯部材に巻き取ることを特徴とする請求項1に記載の固定子コイルの製造方法。
【請求項4】
前記巻き取り工程は、巻き取られる前記組み込み体の前記スロット収容部両側にある前記ターン部をそれぞれ外周側から押さえ部材で押圧しながら行うことを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の固定子コイルの製造方法。
【請求項5】
前記押さえ部材は、前記芯部材の周方向に並列した一対のローラを有し、一対の該ローラが前記芯部材の周方向に揺動可能に設置されていることを特徴とする請求項4に記載の固定子コイルの製造方法。
【請求項6】
前記押さえ部材は、第1の押圧力と該第1の押圧力よりも小さい第2の押圧力の何れか一方の押圧力で前記ターン部を常時押圧し、前記送り矢による前記組み込み体の巻き取り動作停止中には前記第1の押圧力で押圧することを特徴とする請求項4又は5に記載の固定子コイルの製造方法。
【請求項7】
前記押さえ部材は、前記スロット収容部の一端側にある前記ターン部を押圧する第1押さえ部材と、前記スロット収容部の他端側にある前記ターン部を押圧する第2押さえ部材とを有し、前記第1押さえ部材と前記第2押さえ部材は、それぞれ交互に周方向に所定ピッチ回動することを特徴とする請求項4に記載の固定子コイルの製造方法。
【請求項8】
前記第1押さえ部材と前記第2押さえ部材は、それぞれ独立して進退動作を行って、前記ターン部を任意の力で押圧することを特徴とする請求項7に記載の固定子コイルの製造方法。
【請求項9】
請求項1に記載の固定子コイルの製造方法に用いる巻き取り装置であって、
自由回転可能に軸支された芯部材と、
該芯部材の外周側に周方向に並列して配設された複数の送り矢と、
該送り矢を前記芯部材の外周面に対して進退移動させる第1駆動部材と、
前記芯部材の外周面に先端部内面を沿わせて配置された組み込み体の隣り合う直状重ね合わせ部同士の間に形成された所定の隙間に挿入されてその先端が前記芯部材に係合した前記送り矢を、前記芯部材の周方向に回動させる第2駆動部材と、
を備えていることを特徴とする巻き取り装置。
【請求項10】
前記組み込み体の隣り合う前記直状重ね合わせ部同士の間に形成された所定の隙間から前記送り矢を抜き出す際に、前記組み込み体の他の所定の隙間に挿入されて前記直状重ね合わせ部の位置決めをする位置決め矢を備えていることを特徴とする請求項9に記載の巻き取り装置。
【請求項11】
前記送り矢は、前記組み込み体の隣り合う前記直状重ね合わせ部同士の間に形成された所定の隙間の一方側に挿入される複数の第1送り矢と、前記所定の隙間の他方側に挿入される複数の第2送り矢とを備えていることを特徴とする請求項9に記載の巻き取り装置。
【請求項12】
前記芯部材に巻き取られる前記組み込み体を外周側から押圧する押さえ部材を備えていることを特徴とする請求項9〜11の何れか一項に記載の巻き取り装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【公開番号】特開2012−115002(P2012−115002A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−260424(P2010−260424)
【出願日】平成22年11月22日(2010.11.22)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】