説明

固形分の多いバイオマスをメタン化するためのバイオリアクタ

【課題】発酵槽中におけるバイオマスの必要滞留時間を減らし、バイオガスの収率を向上させたバイオリアクタを提供すること。
【解決手段】乾燥バイオマスの醗酵の間、浸出液はバイオマスに含まれる水分によって生成され、浸出液排水装置22によって回収される。必要に応じて、バイオマスを発酵させるために、浸出液をバイオマス上部から再循環する。発酵槽2中の浸出液を、浸出液排水装置22によってすぐに回収しないで、特定の水位になるまで貯留することにより、バイオガスの収率がおよそ10〜40%の範囲で著しく増加する。発酵槽は液密であり、浸出液排水装置22を浸出液制御装置30に接続することによって、バイオガスの生成速度もしくはバイオガスの収率が最大となるように、発酵しているバイオマス中の浸出液の水位を調整し、制御することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1に記載の固形分の多いバイオマスをメタン化するためのバイオリアクタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
「固形分の多いバイオマス」という用語は、湿式発酵プロセスにおいて用いられる液体の、ポンプで汲み上げ可能なバイオマスの反対語を意味するものとして理解できる。それゆえ、「固形分の多いバイオマス」とは、ポンプで汲み上げできないバイオマスとして理解できる。
【0003】
請求項1に従うバイオリアクタは、特許文献1から理解されるものであり、不必要な重複を避けるために、特許文献1の開示内容がすべて参照され、特許文献1の開示内容が本明細書に組み込まれるものとする。
【0004】
一般的なバイオリアクタは、プレハブガレージのような発酵槽を備え、発酵槽は、蓋によって気密的にシールされる。未発酵のバイオマスの投入と、発酵後の残ったバイオマスの排出は、ホイールローダーによって行なうことができる。発酵プロセスの間、バイオマスは発酵槽内に入っているため、バイオマスは蓋を押す。そのため、蓋は頑丈に造られていなければならない。また、十分に発酵槽をシールするために、正確に閉じなければならない。そのような頑丈で精度良く動くことが可能な蓋は高価である。加えて、バイオマスの充填量が多い場合には、蓋がシールし、正確に閉じることができない危険性もある。この問題を解決するため、特許文献2は、発酵槽内に入っているバイオマスが蓋を押すのを防止する保持装置を蓋の後に設けることを提案している。
【0005】
特許文献3には、バイオマスがスクリーンベースを通して底部からバイオガスにさらされるようにしたガレージ型の発酵装置が開示されている。このスクリーンベースは、浸出液のための排水システムとしても機能する。この場合、浸出液は、ポンプによって循環される。しかしながら、特許文献3には、浸出液の水位を制御することについては言及されていない。
【0006】
特許文献4には、スクリューコンベアを用い、別々の入口から連続的に投入・排出されるバイオ廃物をメタン化するための縦型の発酵装置が開示されている。浸出液は、スクリーンベースを使って分離され、ポンプによって循環される。しかしながら、浸出液の水位は制御されていない。
【0007】
また、特許文献5は、縦型の発酵装置に関するものであり、バイオマスは気密状態で不連続的に上部に充填され、発酵される間に沈んでいき、気密状態で不連続的に回収される。反応器の上部で形成された有機酸を、発酵が起こっている反応器の下部領域に運ぶために、制御された浸出液循環装置が用いられている。生体物質の固形分は、30〜50%であると記載されている。
【0008】
特許文献6には、2つの反応器を備えた2段階システムが開示されている。第一の反応器では、湿式プロセスにおいてバイオマスが、嫌気性バクテリアを含んでいる処理液体中に浸した状態にされ、そして、一方の充填口から他方の排出口に運ばれる。この処理液は、循環装置によってバイオマスの上にかけられる。そして、この処理液は、第二の反応器内に運ばれ、そこで発酵される。バイオガスは両反応器内で生成される。第一の反応器では、湿式プロセスに代えて、固形分の多いバイオマスを処理することも可能である。この場合、バイオガスは主に第二の反応器中で生成される。特許文献6では、処理液の水位の制御について言及されていない。
【0009】
特許文献7には、約25%乾燥した固形分の多いバイオマスを発酵するためのバイオガスプラントが開示されている。このプラントは、互いに接続された複数の反応器からなり、各反応器内でそれぞれ最適な工程制御を達成するため、定められた方法により、反応器から排出された物質を他の反応器に供給することができる。
【0010】
多くの場合において、バイオマスからのバイオガス収率とバイオマスの必要滞留時間は十分ではあるが、バイオガス収率の向上、あるいは、発酵槽中におけるバイオマスの滞留時間の低減が望まれる。
【0011】
【特許文献1】欧州特許第1301583号明細書
【特許文献2】独国実用新案公開第202005014176号明細書
【特許文献3】独国特許出願公開第10257849号明細書
【特許文献4】独国特許出願公開第10129718号明細書
【特許文献5】独国特許出願公開第4444462号明細書
【特許文献6】独国実用新案公開第20121701号明細書
【特許文献7】欧州特許出願公開第0803568号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の課題は、特許文献1に記載のバイオリアクタを改良し、バイオガス収率を向上し、発酵槽中におけるバイオマスの必要滞留時間を低減するバイオリアクタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この課題は、以下に述べる請求項1に記載のバイオリアクタにより解決される。
【0014】
すなわち、乾燥した、言い換えれば汲み上げることのできないバイオマスの醗酵の間、浸出絞り液、すなわち浸出液は、バイオマスに含まれる水分によって生成され、排水装置によって回収される。そして、必要に応じて、バイオマスを発酵させるために、バイオマス上部から浸出液を再循環する。発酵槽中の浸出液を、排水装置によってすぐに回収しないで、特定の水位になるまで貯留することにより、バイオガスの収率がおよそ10〜40%の範囲で著しく増加することを見いだした。これは、発酵槽が液密であることにより達成される。すなわち、発酵槽を充填あるいは空にするための蓋が液密であり、液体の圧力に対して耐えうるように頑丈に設計されていなければならない。浸出液排水装置を浸出液制御装置に接続することによって、バイオガスの生成速度もしくはバイオガスの収率が最大となるように、発酵しているバイオマス中の浸出液の水位を調整し、制御することができる。
【0015】
本発明の請求項2に記載の好ましい構成例によれば、浸出液制御装置は、浸出液排水装置に浸出液排出経路を介して接続される浸出液貯留槽を備える。浸出液排出経路にはバルブが設けられ、これにより発酵槽において生成される浸出液を設定した高さまで貯留することができる。このようにして、バイオガス収率が最大になるように浸出液の水位の高さが調整される。浸出液貯留槽への浸出液の排出は、重力によって行なわれる。
【0016】
本発明の請求項3に記載の好ましい構成例によれば、重力によらないで浸出液貯留槽に浸出液を排出可能にするために、浸出液排出経路に浸出液排出ポンプが設けられる。この場合、同時に、浸出液排出ポンプはバルブとしての機能も担う。
【0017】
本発明の請求項4に記載の好ましい構成例によれば、水位センサは単純な圧力センサであり、発酵槽の底部領域にある浸出液排出経路に設けられる。このような圧力センサは、非常に安価であり、化学的に活性な浸出液に耐えうるものである。
【0018】
本発明の請求項5に記載のさらに好ましい構成例によれば、それ自体知られた方法で浸出液貯留槽から発酵槽に浸出液を循環するために、浸出液制御装置は、浸出液循環ラインも備える。
【0019】
本発明の請求項8に記載のさらに好ましい構成例によれば、浸出液貯留槽中に充填物を配置し、バイオガスを生成する微生物が十分に付着できるようにする。請求項9によれば、このことは、浸出液貯留槽中に固形分の多いバイオマスを導入する簡単な方法によって達成することができる。このようにすることにより、浸出液貯留槽自体はバイオリアクタとしても働き、浸出液貯留槽からバイオガスを回収することができる。
【0020】
本発明の請求項10に記載のさらに好ましい構成例によれば、バイオガス生成装置を構成するために、本発明に係る複数のバイオリアクタを互いに接続することができる。複数のバイオリアクタは共通の浸出液貯留槽を備える。
【0021】
本発明の請求項11に記載の好ましい構成例によれば、上記の場合、各バイオリアクタはさらに浸出液接続ラインによって互いに接続されている。このようにすることにより、各バイオリアクタにおいて同じ液体水位に調整することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
図1〜4には、本発明の一実施形態に係るバイオリアクタ1(バイオガスリアクタ1)を示している。バイオリアクタ1は、立方体形状をした発酵槽2を備え、発酵槽2にはバイオマス4が充填されている。発酵槽2は、プレハブガレージと同様、コンクリートで造られており、底板6と、2つの側壁8,9と、天板10と、背面壁12と、気密性の蓋14によってシール可能な前開口部13よりなる6つの平坦な壁を備えている。
【0023】
蓋14は、油圧装置16によって作動可能である。蓋14が開いている場合には、簡単な方法により、発酵槽2に充填し、あるいは、残ったバイオマスをそこから取り除くことが可能である。発酵槽2で生成されたバイオガスは、バイオガス排出経路18によって排出される。発酵槽2の底板6内と側壁8、9内の一部には、図3に示す床下式の加熱装置のような加熱装置20が設けられており、発酵槽2内のバイオマス4が対応する温度条件下に設定されるようになっている。発酵槽2の構成の詳細については、特許文献1を参照されたい。
【0024】
浸出液排水装置22は、蓋14に向かう方向への底板6のわずかな傾斜と、蓋14の後において発酵槽2の前方領域に配置された流路24とにより構成され、底板6内に配置されている。流路24は、発酵槽2の投入方向あるいは投入・排出方向に対して垂直に形成され、溝または穴が形成された板26によって覆われている。本実施形態においては、1つの流路24が示されているが、これに代えて、投入方向に沿って、あるいは、投入方向と直交する方向に沿って、複数の流路を備えることもできる。
【0025】
浸出液の水位28の高さは、浸出液制御装置30によって調整・制御される。浸出液制御装置30は、流路24で集めた浸出液を浸出液貯留槽34に排出するための浸出液排出経路32を備える。浸出液排出経路32は、バルブ36によって閉じることができ、発酵槽2内に溜まった浸出液は設定された水位28まで貯留することができる。重力によらないで浸出液を浸出液貯留槽34に運ぶことができるようにするために、浸出液排出ポンプ38が浸出液排出経路32に設けられている。
【0026】
発酵槽2における浸出液の水位28の高さは、圧力センサ40の形で水位センサによって決定される。圧力センサ40は、浸出液排出経路32内でバルブ36の手前に設置されている。圧力センサ40と、バルブ36と、浸出液排出ポンプ38は、制御ライン42によって制御装置44に接続されている。制御ライン46を追加すれば、例えばバイオガス生成速度や発酵槽2内部のバイオガス圧力などの他のプロセスパラメータを制御装置44に供給することができる。このようにして、バイオガスの生成速度が最大値に維持されるように、制御装置44によって浸出液の水位28を調整することができる。
【0027】
図1は、本発明の一実施形態の概略のみを示すものであり、浸出液貯留槽34が発酵槽の下に配置されている。浸出液排出ポンプ38が浸出液排出経路32に設けられているため、浸出液貯留槽34を発酵槽2と同じ高さに配置することもできる。
【0028】
図4において、バルブ36は、排出方向に沿って浸出液排出ポンプ38の前に配置されている。これに代えて、バルブ36を浸出液排出ポンプ38の後に配置することもできる。この場合、圧力センサ40を浸出液排出ポンプ38の排水だめ中に配置することもできる。浸出液排出ポンプ38の対応する形態においては、浸出液排出ポンプ38はバルブ36の機能も兼ね備える。すなわち、ポンプの停止中には、浸出液排出ポンプ38は浸出液排出経路32を閉じ、発酵槽2に浸出液を貯留できるようにする。
【0029】
図5は、概略的なバイオガス生成装置を示しており、5つのバイオリアクタと発酵槽2−1〜2−5とを備えている。各バイオリアクタおよび発酵槽は、図1〜4に示されるものである。5つの発酵槽2−1〜2−5は、5つの浸出液排出経路32−1〜32−5によって共通の浸出液貯留槽34に接続されている。各浸出液排出経路32−iには、図1〜4に示す形態においてバルブ36の機能も有する浸出液排出ポンプ38−iがそれぞれ配置されている。各浸出液排出ポンプ38−iの排水だめ中には、各発酵槽2−i中の浸出液の水位を決めるための圧力センサ40−iが設けられている。浸出液は共通の浸出液貯留槽34から循環ポンプ50を備えた浸出液循環ライン48を通って各発酵槽2−iに循環できる。浸出液の水位28は、制御装置44によって調整・制御できる。制御装置44は、圧力センサ40−1〜40−5に接続されており、浸出液排出ポンプ38−1〜38−5と浸出液循環ポンプ50とを作動させる。図5においては、構成を明瞭にするため、図4に示す制御ラインを省略している。
【0030】
また、図示されていないが、浸出液ラインによって発酵槽2−iを互いに接続することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明に係るバイオリアクタの概略的な斜視図である。
【図2】図1に示すバイオリアクタにおける投入・排出方向と直交する方向の断面図である。
【図3】図1および図2のバイオリアクタにおける底板部分の概略図である。
【図4】図1〜3におけるバイオリアクタの概略断面図である。
【図5】本発明に係る複数のバイオリアクタを備えるバイオガス生成装置の一例を表わす概略図である。
【符号の説明】
【0032】
1 バイオリアクタ
2 醗酵槽
4 バイオマス
6 底板
8 側壁
9 側壁
10 天板
12 背面壁
13 前開口部
14 投入・排出口
16 油圧装置
18 バイオガス排出経路
20 加熱装置
22 浸出液排水装置(浸出絞り液排水装置)
24 流路
26 溝または穴が形成された板
28 発酵槽中の浸出液の水位
30 浸出液制御装置
32 浸出液排出経路
34 浸出液貯留槽
36 バルブ
38 浸出液排出ポンプ
40 圧力センサ
42 制御ライン
44 制御装置
46 追加の制御ライン
2−i 発酵槽
32−i 浸出液排出経路
38−i 浸出液排出ポンプ
48 浸出液循環ライン
50 浸出液循環ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固形分の多いバイオマス(4)をメタン化するためのバイオリアクタであって、
気密密封可能な発酵槽(2)と、
バイオガス排出経路(18)と、
前記バイオマス(4)により前記発酵槽(2)を充填し、あるいは、空にするための投入・排出口(14)と、
前記発酵槽(2)の底板(6)および/または壁板(8、9、12)に設けられた浸出液排水装置(または浸出絞り液排水装置)(22)とを備え、
前記発酵槽(2)は液密され、
前記浸出液排水装置(22)は、前記発酵槽(2)中における浸出液の水位(28)を制御するために浸出液制御装置(30)に接続されていることを特徴とするバイオリアクタ。
【請求項2】
前記浸出液制御装置(30)は、前記浸出液排水装置(22)に浸出液排出経路(32)を介して接続された浸出液貯留槽(34)と、前記浸出液排出経路(32)に設けられたバルブ(36)と、前記発酵槽(2)中における前記浸出液の水位(28)を決定するための水位センサとを備えていることを特徴とする請求項1に記載のバイオリアクタ。
【請求項3】
前記浸出液制御装置(30)は、前記浸出液排出経路(32)に設けられた浸出液排出ポンプ(38)を備えていることを特徴とする請求項2に記載のバイオリアクタ。
【請求項4】
前記水位センサは圧力センサ(40)であり、前記浸出液排出経路(32)または前記発酵槽(2)中に設けられることを特徴とする請求項2または3に記載のバイオリアクタ。
【請求項5】
前記浸出液制御装置(30)は、前記発酵槽(2)の上側領域に前記浸出液留槽(34)を接続する浸出液循環ライン(48)を備えることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のバイオリアクタ。
【請求項6】
前記投入・排出口(14)は、好ましくは油圧作動可能な蓋であり、重ね合わせることにより前記発酵槽(2)を密閉することを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載のバイオリアクタ。
【請求項7】
前記醗酵槽内において、前記蓋の後で充填方向に沿って保持装置が設けられており、充填されたバイオマスを少なくとも部分的に支えるように構成されていることを特徴とする請求項6に記載のバイオリアクタ。
【請求項8】
前記浸出液貯留槽(34)内に充填物がセットされ、バイオガスを発生する微生物が充填物に付着できるとともに、前記浸出液貯留槽(34)がバイオガス排出ラインを備えることを特徴とする請求項2から7のいずれかに記載のバイオリアクタ。
【請求項9】
前記浸出液貯留槽(34)内の前記充填物は、固形分の多いバイオマスよりなることを特徴とする請求項6に記載のバイオリアクタ。
【請求項10】
請求項1から9のいずれかに記載の複数のバイオリアクタ(2−i)と、共通の浸出液貯留槽(34)とを備えることを特徴とするバイオガス生成装置。
【請求項11】
前記複数のバイオリアクタ(2−i)の大多数は、浸出液接続ラインを介してそれぞれ互いに接続されていることを特徴とする請求項10に記載のバイオガス生成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2009−527345(P2009−527345A)
【公表日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−554791(P2008−554791)
【出願日】平成19年2月21日(2007.2.21)
【国際出願番号】PCT/EP2007/051686
【国際公開番号】WO2007/096392
【国際公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【出願人】(508071272)ベーコン・エナジー・テクノロジーズ・ジーエムビーエイチ・アンド・シーオー.ケージー (8)
【Fターム(参考)】