固形化粧料の製法およびそれに用いられる充填ノズル
【課題】バックインジェクション法によって、固形化粧料を製造するのに際し、固形化粧料の表面にひび、色むら、凹凸等が生じることがなく、しかも、収容容器の汎用性、軽量性、耐久性を損なうことのない優れた固形化粧料の製法と、それに用いられる充填ノズルの提供をする。
【解決手段】
上面開口を濾過紙30で閉塞した上記中皿5を加圧充填装置の上金型35と下金型34の間に挟み込み、その上に吸引手段(図示せず)を配設し、加圧充填装置(図示せず)の材料供給配管先端に取り付けた上記充填ノズル11を、中皿5の底壁6に設けられた充填用孔9に挿入し、その吐出口16を中皿5の化粧料充填凹部8と連通させる。この連通状態で、上記スラリー状化粧料12を充填ノズル11から所定の圧力で化粧料充填凹部8内に加圧充填するのと同時に、上記濾過紙30を介した上記吸引手段によって、上記スラリー状化粧料12に含まれる溶剤を吸引除去し、スラリー状化粧料12を固化させ、固形化粧料17とするようにした。
【解決手段】
上面開口を濾過紙30で閉塞した上記中皿5を加圧充填装置の上金型35と下金型34の間に挟み込み、その上に吸引手段(図示せず)を配設し、加圧充填装置(図示せず)の材料供給配管先端に取り付けた上記充填ノズル11を、中皿5の底壁6に設けられた充填用孔9に挿入し、その吐出口16を中皿5の化粧料充填凹部8と連通させる。この連通状態で、上記スラリー状化粧料12を充填ノズル11から所定の圧力で化粧料充填凹部8内に加圧充填するのと同時に、上記濾過紙30を介した上記吸引手段によって、上記スラリー状化粧料12に含まれる溶剤を吸引除去し、スラリー状化粧料12を固化させ、固形化粧料17とするようにした。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化粧料に溶剤が加えられたスラリー状化粧料を収容容器に充填し、充填に関連して、この溶剤を除去する固形化粧料の製法およびそれに用いられる充填ノズルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、コンパクト容器等やその中皿に収容される固形化粧料を製造する方法として、ファンデーションや口紅等となる化粧料の粉末にアルコール等の溶剤を加えてスラリー状にし、これを収容容器に充填したのち、溶剤を除去して固化させる湿式充填法(「湿式直充填法」ともいう)が知られている。また、最近は、この湿式充填法のなかでも、バック充填法がよく行なわれている(例えば、特許文献1参照)。このバック充填法は、収容容器の上面開口をナイロンメッシュ等の濾過性部材で閉塞するとともに、この濾過性部材上に吸引手段を設け、この状態でスラリー状化粧料を、収容容器の底壁に設けられた充填用の孔(以下「充填用孔」とする)から所定の圧力で収容容器内に充填すると同時に、濾過性部材を介してスラリー状化粧料中の溶剤を吸引手段により除去し、スラリー状化粧料を固化させる方法である。
【0003】
しかし、従来からあるバック充填法は、図12に示すように、通常、収容容器を加圧充填装置の上金型35と下金型34の間に挟み込み、この収容容器の底壁の中心部に設けられた充填用孔9から真上方向にスラリー状化粧料を充填するため、充填ノズルから収容容器内に加圧充填されたスラリー状化粧料は、充填用孔から真上に流出し、濾過性部材30に衝突して分流したのち、複数本のひも状流となって収容容器の側壁,底壁をそれぞれ別々に流れる。したがって、その道筋の差によって各ひも状流の流速にばらつきが生じ、各ひも状流においてその化粧料成分の密度に差ができ、この密度差により固化後の化粧料に色むらやフローマークが生じる。しかも、上記加圧充填時に、充填用孔の上側部分に位置する濾過性部材の部分が強く上方に押圧されるため、充填用孔の上側部分では、化粧料成分の密度が濃くなり、固化後の化粧料に色むらが生じるとともに、上側表面が濾過性部材に付着し、これが濾過性部材を取り外す際に剥がれることがあり、固形化粧料表面に凹凸等が発生する一因となっている。このように、従来の方法では、スラリー状化粧料を収容容器内全体に均一に充填することができず、得られる固形化粧料にひびや色むら、凹凸等が生じて見栄えが悪くなるという問題が発生している。このような問題を解決するために、充填容器底壁の充填孔の内端に化粧料の充填方向を変更する手段を設けること(特許文献2)、皿形容器の底壁または側壁の充填孔をこの孔内に設けた2個以上の細孔によって形成すること(特許文献3)、容器底壁の挿入孔を充填する溝に対して斜め方向に形成すること(特許文献4)等が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開昭54−108200号公報
【特許文献2】実開平3−33287号公報
【特許文献3】特開平5−211916号公報
【特許文献4】特開平7−33287号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献2のように、充填容器底壁の充填孔の内端にスラリー状化粧料の充填方向を変更する手段を設けたものは、この充填容器を製造するのが複雑で、製造コストが高くなるのと同時に、この充填孔の内端に設けられたスラリー状化粧料の充填方向を変更する手段が破損し易いため、耐久性に劣るという問題がある。また、上記特許文献3、4に記載のものも、上記特許文献2に記載のものと同様、容器の製造が複雑で、製造コストが高くなるとともに、耐久性にも劣るという問題がある。また、これらの提案にかかるものは、充填孔に特殊な形状を付加する必要から、充填孔が設けられる収容容器底壁の厚みをある程度厚くしなければならず、製品の軽量化に反する構成にならざるを得ない。いずれにしても、収容容器底壁の充填用孔あるいはその周辺の形状を特殊な形にすることは、収容容器の汎用性に欠けることにもなり、好ましくない。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、固形化粧料の表面にひび、色むら、凹凸等が生じることがなく、しかも、収容容器の汎用性、軽量性、耐久性を損なうことのない、優れた固形化粧料の製法と、それに用いられる充填ノズルの提供をその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するため、本発明は、底壁に充填用孔が設けられた収容容器と、上記収容容器の充填用孔に位置決めされる充填ノズルと、化粧料と溶剤とを含むスラリー状化粧料とを準備し、上記収容容器の充填用孔から、上記充填ノズルを介して上記スラリー状化粧料を上記収容容器に充填する工程と、充填に関連して上記スラリー状化粧料から溶剤を除去して、スラリー状化粧料を固化させ固形化粧料を得る工程とを備えた固形化粧料の製法であって、上記充填ノズルとして、その先端が面状に形成され、周胴面に吐出口が形成された充填ノズルを用い、その充填ノズルを、上記充填用孔に挿入してその吐出口を上記収容容器内と連通させ、その状態で上記スラリー状化粧料の充填を行なうようにした固形化粧料の製法を第1の要旨とする。
【0008】
また、本発明は、上記第1の要旨である固形化粧料の製法に用いられる充填ノズルであって、スラリー状化粧料を充填するために、収容容器底壁に設けられた充填用孔に挿入されるようになっており、上記充填のノズル先端が面状に形成され、周胴面に少なくとも1個の吐出口が形成されている充填ノズルを第2の要旨とする。
【0009】
そして、本発明はそのなかでも特に、上記吐出口が、充填ノズル周胴面の、周方向の対角線上の2個所に形成されている充填ノズルを第3の要旨とし、上記吐出口が、充填ノズル周胴面の全周にわたって形成されている充填ノズルを第4の要旨とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、バック充填法によって、固形化粧料を製造するのに際し、スラリー状化粧料を充填する充填ノズルとして、その先端が面状に形成され、周胴面に吐出口が形成された充填ノズルを用い、その充填ノズルを、収容容器底壁の充填用孔に挿入し、その吐出口を上記収容容器内と連通させ、その状態で上記スラリー状化粧料の充填を行い、充填に関連して、上記スラリー状化粧料の溶剤を除去するようにしたものである。この製法によれば、従来のように、収容容器底壁に特殊な形状の充填用孔や化粧料充填方向変更手段を設ける必要がなく、収容容器の形状を単純化することができるため、その製造効率がよくなるとともに、低コスト化を図ることができるという利点を有する。また、収容容器底壁に特殊な形状の充填用孔等が設けられていないため、収容容器の汎用性が確保されるとともに、収容容器自身の耐久性も向上し、結果として、固形化粧料の長寿命化を実現できるという利点を有する。さらに、収容容器底壁の充填用孔の設置位置についても、収容容器のコーナー部等に限定する必要がなくなるため、製品である固形化粧料の外観デザインの自由度が高くなる。そして、このことと、表面にひび、色むら、凹凸等を生じることがなく製造することができることと相俟って、美麗で、興趣に富んだ製品を安定して提供することができるという利点を有する。
【0011】
そして、上記製法に用いられる充填ノズルは、特に、スラリー状化粧料を充填するために、収容容器底壁に設けられた充填用孔に挿入されるようになっており、上記充填のノズル先端が面状に形成され、周胴面に少なくとも1個の吐出口が形成されているものである。したがって、この充填ノズルを用いて、バック充填法によって固形化粧料を製造すれば、汎用タイプの収容容器への充填において、固形化粧料の表面にひび、色むら、凹凸等の発生を防ぐことができるようになる。そして、周胴面に1個の吐出口が形成されている充填ノズルを用いる場合には、スラリー状化粧料が一定方向に充填されるため、フローマークやウェルドラインができにくくなり、得られる固形化粧料の外観をより美麗なものとすることができるようになる。
【0012】
また、本発明のなかでも、特に、充填ノズルの吐出口が、充填ノズル周胴面の、周方向の対角線上の2個所に形成されている充填ノズルを用いる場合には、スラリー状化粧料の粘性が比較的高い場合においてでも使用することができるという利点を有する。そして、この場合でも、収容容器底壁の充填用孔の設置位置を自由に設定できるので、得られる固形化粧料の外観デザインをより興趣に富むものとすることができるようになる。
【0013】
さらに、本発明のなかでも、充填ノズルの吐出口が、充填ノズル周胴面の全周にわたって形成されている充填ノズルを用いる場合には、収容容器の収容容量が多く、開口面積が広い場合であっても、素早く充填できるという利点を有する。また、フローマークやウェルドラインができにくく、得られる固形化粧料の外観をより美麗なものとすることができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施例の説明図である。
【図2】(a)、(b)、(c)はいずれも上記実施例の説明図である。
【図3】(a)、(b)はいずれも上記実施例の説明図である。
【図4】上記実施例の説明図である。
【図5】(a)、(b)はいずれも上記実施例の説明図である。
【図6】(a)、(b)はいずれも他の実施例の説明図である。
【図7】(a)、(b)はいずれも他の実施例の説明図である。
【図8】(a)、(b)はいずれも他の実施例の説明図である。
【図9】(a)、(b)はいずれも他の実施例の説明図である。
【図10】他の実施例の説明図である。
【図11】(a)、(b)はいずれも他の実施例の説明図である。
【図12】従来技術の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
つぎに、本発明を実施するための形態について説明する。ただし、本発明は、この実施の形態に限定されるものではない。
【0016】
図1は、本発明によって得られた固形化粧料を収容するコンパクト容器である。この図において、1はコンパクト容器本体部、2はその蓋体であり、上記蓋体2の後端部には、下向きにヒンジ部が突設されており(図示を省略している)、このヒンジ部がコンパクト容器本体部1の後端部と係合することにより、蓋体2が上方に開くようになっている。そして、上記コンパクト容器の収納部3にブラシやチップが収納され、収容部4に、収容容器である中皿5(図2参照)に収容された固形化粧料17が収容される。なお、図1において、上記各部位は模式的に表されており、実際の厚み、形状、大きさなどとは異なっている(以下の図においても同じ)。
【0017】
上記中皿5に収容されている固形化粧料17は、例えば、次のようにして得ることができる。すなわち、まず、図2(a)、(b)に示すような底壁に充填用孔が設けられた、合成樹脂製の中皿5を準備する。この中皿5には、底壁6と、この底壁6の外周縁から立設する周側壁7によって、平面視略四角形状の化粧料充填凹部8が形成されている。そして、上記底壁6の4つの角部のうちの1つの角部6aに、固形化粧料17の材料であるスラリー状化粧料を充填するための充填用孔9が穿設されている。なお、この底壁6の厚みαは1.5mm、充填用孔9の口径βは3.4mmである。また、この中皿5の充填用孔9の開口縁部には、図2(c)にその一部拡大断面図を示すように、表面に緩やかな傾斜イ、裏面に傾斜ロが設けられている。この傾斜イおよびロの傾斜は必ずしも同じでなくともよい。
【0018】
つぎに、充填ノズルと、スラリー状化粧料とを準備する。上記充填ノズル11は、金属製で、図3(a)の斜視図、(b)の断面図に示されるように、平面視が円形の面状先端部15が形成され、周胴面に1個の吐出口16が形成されている。なお、この充填ノズル11の寸法は図示のとおりである。このとき、図3(b)の傾斜角θは、上記中皿5の充填用孔9の開口縁部(裏面)に設けられた傾斜ロとほぼ同様になっている。また、上記スラリー状化粧料の組成は下記の表1のとおりである。
【0019】
【表1】
【0020】
そして、図4に示すように、上面開口を濾過紙30で閉塞した上記中皿5を加圧充填装置の上金型35と下金型34の間に挟み込み、その上に吸引手段(図示せず)を配設する。その状態で、加圧充填装置(図示せず)の材料供給配管先端に取り付けた上記充填ノズル11を、中皿5の底壁6に設けられた充填用孔9に挿入し、その吐出口16を中皿5の化粧料充填凹部8と連通させる。この連通状態の斜視図および斜視断面図を、図5(a)、(b)にそれぞれ示す。
【0021】
そして、この両者が連通した状態で、上記スラリー状化粧料12を充填ノズル11から、矢印で示すように所定の圧力で化粧料充填凹部8内に加圧充填する。このとき、上記スラリー状化粧料12を充填すると同時に、上記濾過紙30を介した上記吸引手段によって、上記スラリー状化粧料12に含まれる溶剤を吸引除去し、スラリー状化粧料12を固化させ、固形化粧料17とする。このようにして、中皿5の化粧料充填凹部8内に収容された固形化粧料17を得ることができる。なお、充填ノズル11は、スラリー状化粧料12を充填しながら徐々に下げられ、充填終了時には、充填ノズル11の面状先端部15が、中皿5の充填用孔9内に位置するようになっている。したがって、得られる固形化粧料17には、充填ノズル11に起因する空洞は発生しない。
【0022】
この方法によれば、製品である固形化粧料を、その表面にひび、色むら、凹凸等が生じることがなく製造するため、従来のように、収容容器底壁に特殊な形状の充填用孔や化粧料充填方向変更手段を設ける必要がなく、収容容器の形状を単純化することができるため、その製造効率がよくなるとともに、低コスト化を図ることができる。また、収容容器底壁に特殊な形状の充填用孔等が設けられていないため、収容容器の汎用性が確保されるとともに、収容容器自身の耐久性も向上し、結果として、固形化粧料の長寿命化を実現できる。さらに、収容容器底壁の充填用孔の設置位置についても、収容容器のコーナー部等に限定する必要がなくなるため、製品である固形化粧料の外観デザインの自由度が高くなる。そして、このことと、表面にひび、色むら、凹凸等が生じることがなく製造することができることと相俟って、美麗で、興趣に富んだ製品を安定して提供することができる。また、充填ノズル胴周面に1個の吐出口が形成されているため、スラリー状化粧料が一定方向に充填されるようになり、フローマークやウェルドラインが現れにくくなる。そして、中皿5の充填用孔9が角部6aに突設されており、スラリー状化粧料12の充填圧を分散させることができるため、フローマークやウェルドラインが現れにくくなる。また、中皿5の充填用孔9の開口縁部に設けられた緩やかな傾斜イによって、スラリー状化粧料12の充填圧を下げることができるため、さらに、フローマークやウェルドラインが現れにくくなる。したがって、表面にひび、色むら、凹凸等が生じないことと相俟って、得られる固形化粧料の外観が所望のとおりの美麗なものとなる。
【0023】
なお、本発明において、上記充填ノズル11の先端形状である「面状」とは、平面、曲面などを意味し、面の平面視の形状は、円、三角、四角等、形状は問わない。また、その平面視の大きさは、充填用孔9内に面状先端部15が収まればよく、寸法は問わない。ただし、この面状先端部15は、スラリー状化粧料12の加圧充填終了後に、中皿5の充填用孔9に、このスラリー状化粧料12が入り込んで、その部分に対応する固形化粧料17の表面に陥没ができるのを防ぐ目的を有する。そのため、その面状先端部15の平面視の大きさは、充填用孔9を塞ぐことができるよう、充填用孔9と同じか少し小さい位がよく、平面視の形状は、上記充填用孔9の平面視形状と同じか近似していることが好ましい。例えば、充填用孔の平面視形状が円形であれば、円形が好ましい。
【0024】
また、本発明において、上記スラリー状化粧料12から溶剤を除去する際の「充填に関連して」とは、スラリー状化粧料12を「充填中」および「充填後」の双方を含むことを意味するものである。すなわち、溶剤を除去するのは、上記の例のように充填ノズル11からスラリー状化粧料12を充填するのと同時であってもよいし、充填終了後であってもよい。
【0025】
そして、充填ノズル11の吐出口16の形は、充填の速度、仕上がりの観点から、円、楕円、長方形、正方形あるいは胴全周に渡るもの等、種々の形状に形成することが可能であり、その口径も同様に種々の大きさに形成することが可能である。また、スラリー状化粧料12は、化粧料がスラリー状である限り充填が可能であるため、その粘度を特定する必要はないが、粘度が低すぎると、スラリー状化粧料中の各成分が分離し、均一な充填が行えなくなる可能性や、充填後の吸引に時間がかかる傾向がみられ、逆に、粘度が高すぎると、フローマークやウェルドラインが発生する傾向がみられるため、適宜に選択される。
【0026】
また、上記の例では、充填用孔9が、中皿5の角部6aに近接させた位置に設けられているが、中皿5の角部6aでない周壁7に近接させた位置、あるいは、化粧料充填凹部8の中心位置に設けることができる〔図6(a)、(b)参照〕。これらは、スラリー状化粧料12の状態(例えば、粘度、配合等)によって適宜に選択することができる。このように、底壁の充填用孔9の設置位置が限定されない場合には、製品である固形化粧料の外観デザインの自由度を高くすることができるようになる。
【0027】
そして、上記の例では、中皿5の充填用孔9の開口縁部表面に緩やかな傾斜イ、裏面に傾斜ロが設けられているが、これに代えて、そのような傾斜が設けられていないものを用いることもできる。上記傾斜がない場合には、より中皿5の汎用性が高まり、また、製造コストも削減することができる。さらに、図7(a)の斜視図、(b)の断面図に示すように、中皿5の充填用孔9付近の底壁6の形状を一部盛上げて、環状の突起部20を形成するように変化してもよい。これにより、スラリー状化粧料12の粘度が特に高い場合等、均一な充填が困難な場合であっても、上記突設部20を乗り越えさせることにより、フローマーク、ウェルドライン等が発生することなく、美麗な外観の固形化粧料17を得ることができるようになる。
【0028】
さらに、上記の例では、充填ノズル11は、スラリー状化粧料12を充填しながら徐々に下げられ、充填終了時には、その面状先端部15が、中皿5の充填用孔9内に位置するようになっているが、これに代えて、充填ノズル11が、吐出口16が化粧料充填凹部8と連通された状態で充填用孔9に挿入されたままの状態で、上記吸引手段によって上記スラリー状化粧料12の溶剤を吸引除去し、除去完了後にこれを引き抜くようにすることもできる。だたし、この場合、得られる固形化粧料17に、充填ノズル11に起因する空洞が生じるおそれがあり、好ましくない。一方、スラリー状化粧料12の溶剤の吸引除去において、最初からその面状先端部15が充填用孔9の孔内に位置するよう、充填ノズル11の位置を引き下げた状態で行うようにすることもできる。この場合、固形化粧料17の表面へのひび、凹凸等の発生をより効果的に防止することができるようになる。
【0029】
また、他の例として、上記充填ノズル11に代えて、図8(a)の断面図に示すような、吐出口16が、充填ノズル周胴面の、周方向の対角線上の2個所に形成されている充填ノズル21を用いることができる。この場合、充填時間を短縮することができるのと同時に、スラリー状化粧料12の粘度が比較的高い場合でも使用することができ、より化粧料の選択の幅が広がるようになる。なお、図8(b)に、この充填ノズル21の吐出口16と中皿5の化粧料充填凹部8とが連通した状態の斜視図を示す。
【0030】
さらに、他の例として、図9(a)の断面図に示すような、上記吐出口16が、充填ノズル周胴面の全周にわたって形成されている充填ノズル22を用いることもできる。この充填ノズル22は外筒22aと内筒22bの2部材で構成されている。この場合、中皿5に設けられた凹部容量が多く、その開口面積が広い場合であっても、フローマーク等ができににくなり、得られる固形化粧料17の外観をより美麗なものとすることができるようになる。なお、図9(b)に、充填ノズル22の吐出口16と中皿5の化粧料充填凹部8とが連通した状態の斜視図を示す。
【0031】
この連通状態について、より詳しく説明すると、図10に示すように、下金型34の下方から充填ノズル22を、上方から中皿5をセットすることにより、充填ノズル22と中皿5の化粧料充填凹部8とを連通させることができる。すなわち、まず、充填ノズルを位置決めするための下金型34に設けられた孔33に、下方向から充填ノズル22を挿入し、面状先端部15および吐出口16が見えるようにセットする〔図11(a)〕。つぎに、下金型34の上方向から、中皿5を、その充填用孔9と充填ノズル22が合うようにセットする。これにより、充填ノズル22の吐出口16と、中皿5の化粧料充填凹部8とが連通される〔図11(b)〕。この状態でスラリー状化粧料12の充填が行われるため、周方向に均等にスラリー状化粧料12が流入し、充填圧を下げることができるようになり、得られる固形化粧料17にフローマーク等ができにくくなる。
【0032】
このように、本発明の充填ノズルは、充填ノズルとして一体に形成されているに限らず、充填ノズルの製造の容易性や、他製品への応用性、使用後の洗浄の容易性、加工性の観点等から、充填ノズル22のように、2以上のパーツに分かれていたものを用いてもよい。
【0033】
また、上記の例では、スラリー状化粧料12の溶剤を、中皿5の開口部を閉塞する濾過紙を介して吸引手段によって吸引除去するようにしているが、これに代えて、開口部を閉塞する吸収体により溶剤を吸収して、固形化粧料17を製造するようにしてもよい。この場合、上記吸引手段を設ける必要がないため、設備投資にかかる費用を抑えることができる。
【0034】
なお、上記の例において、収容容器として用いている中皿5は、化粧料充填凹部8が略四角形状に形成されているが、三角形、円形状等に形成されていてもよい。また、その材質も、金属、あるいは金属を被覆したものを用いてもよい。さらに、コンパクト容器の本体部1自体を一部凹設して、収容容器としてもよい。この場合、別途収容容器(例えば、中皿5等)を準備する必要がないため、製品の軽量化が期待できる。
【符号の説明】
【0035】
5 中皿
6 底壁
8 化粧料充填凹部
9 充填用孔
11 充填ノズル
12 スラリー状化粧料
16 吐出口
30 濾過紙
34 下金型
35 上金型
【技術分野】
【0001】
本発明は、化粧料に溶剤が加えられたスラリー状化粧料を収容容器に充填し、充填に関連して、この溶剤を除去する固形化粧料の製法およびそれに用いられる充填ノズルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、コンパクト容器等やその中皿に収容される固形化粧料を製造する方法として、ファンデーションや口紅等となる化粧料の粉末にアルコール等の溶剤を加えてスラリー状にし、これを収容容器に充填したのち、溶剤を除去して固化させる湿式充填法(「湿式直充填法」ともいう)が知られている。また、最近は、この湿式充填法のなかでも、バック充填法がよく行なわれている(例えば、特許文献1参照)。このバック充填法は、収容容器の上面開口をナイロンメッシュ等の濾過性部材で閉塞するとともに、この濾過性部材上に吸引手段を設け、この状態でスラリー状化粧料を、収容容器の底壁に設けられた充填用の孔(以下「充填用孔」とする)から所定の圧力で収容容器内に充填すると同時に、濾過性部材を介してスラリー状化粧料中の溶剤を吸引手段により除去し、スラリー状化粧料を固化させる方法である。
【0003】
しかし、従来からあるバック充填法は、図12に示すように、通常、収容容器を加圧充填装置の上金型35と下金型34の間に挟み込み、この収容容器の底壁の中心部に設けられた充填用孔9から真上方向にスラリー状化粧料を充填するため、充填ノズルから収容容器内に加圧充填されたスラリー状化粧料は、充填用孔から真上に流出し、濾過性部材30に衝突して分流したのち、複数本のひも状流となって収容容器の側壁,底壁をそれぞれ別々に流れる。したがって、その道筋の差によって各ひも状流の流速にばらつきが生じ、各ひも状流においてその化粧料成分の密度に差ができ、この密度差により固化後の化粧料に色むらやフローマークが生じる。しかも、上記加圧充填時に、充填用孔の上側部分に位置する濾過性部材の部分が強く上方に押圧されるため、充填用孔の上側部分では、化粧料成分の密度が濃くなり、固化後の化粧料に色むらが生じるとともに、上側表面が濾過性部材に付着し、これが濾過性部材を取り外す際に剥がれることがあり、固形化粧料表面に凹凸等が発生する一因となっている。このように、従来の方法では、スラリー状化粧料を収容容器内全体に均一に充填することができず、得られる固形化粧料にひびや色むら、凹凸等が生じて見栄えが悪くなるという問題が発生している。このような問題を解決するために、充填容器底壁の充填孔の内端に化粧料の充填方向を変更する手段を設けること(特許文献2)、皿形容器の底壁または側壁の充填孔をこの孔内に設けた2個以上の細孔によって形成すること(特許文献3)、容器底壁の挿入孔を充填する溝に対して斜め方向に形成すること(特許文献4)等が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開昭54−108200号公報
【特許文献2】実開平3−33287号公報
【特許文献3】特開平5−211916号公報
【特許文献4】特開平7−33287号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献2のように、充填容器底壁の充填孔の内端にスラリー状化粧料の充填方向を変更する手段を設けたものは、この充填容器を製造するのが複雑で、製造コストが高くなるのと同時に、この充填孔の内端に設けられたスラリー状化粧料の充填方向を変更する手段が破損し易いため、耐久性に劣るという問題がある。また、上記特許文献3、4に記載のものも、上記特許文献2に記載のものと同様、容器の製造が複雑で、製造コストが高くなるとともに、耐久性にも劣るという問題がある。また、これらの提案にかかるものは、充填孔に特殊な形状を付加する必要から、充填孔が設けられる収容容器底壁の厚みをある程度厚くしなければならず、製品の軽量化に反する構成にならざるを得ない。いずれにしても、収容容器底壁の充填用孔あるいはその周辺の形状を特殊な形にすることは、収容容器の汎用性に欠けることにもなり、好ましくない。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、固形化粧料の表面にひび、色むら、凹凸等が生じることがなく、しかも、収容容器の汎用性、軽量性、耐久性を損なうことのない、優れた固形化粧料の製法と、それに用いられる充填ノズルの提供をその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するため、本発明は、底壁に充填用孔が設けられた収容容器と、上記収容容器の充填用孔に位置決めされる充填ノズルと、化粧料と溶剤とを含むスラリー状化粧料とを準備し、上記収容容器の充填用孔から、上記充填ノズルを介して上記スラリー状化粧料を上記収容容器に充填する工程と、充填に関連して上記スラリー状化粧料から溶剤を除去して、スラリー状化粧料を固化させ固形化粧料を得る工程とを備えた固形化粧料の製法であって、上記充填ノズルとして、その先端が面状に形成され、周胴面に吐出口が形成された充填ノズルを用い、その充填ノズルを、上記充填用孔に挿入してその吐出口を上記収容容器内と連通させ、その状態で上記スラリー状化粧料の充填を行なうようにした固形化粧料の製法を第1の要旨とする。
【0008】
また、本発明は、上記第1の要旨である固形化粧料の製法に用いられる充填ノズルであって、スラリー状化粧料を充填するために、収容容器底壁に設けられた充填用孔に挿入されるようになっており、上記充填のノズル先端が面状に形成され、周胴面に少なくとも1個の吐出口が形成されている充填ノズルを第2の要旨とする。
【0009】
そして、本発明はそのなかでも特に、上記吐出口が、充填ノズル周胴面の、周方向の対角線上の2個所に形成されている充填ノズルを第3の要旨とし、上記吐出口が、充填ノズル周胴面の全周にわたって形成されている充填ノズルを第4の要旨とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、バック充填法によって、固形化粧料を製造するのに際し、スラリー状化粧料を充填する充填ノズルとして、その先端が面状に形成され、周胴面に吐出口が形成された充填ノズルを用い、その充填ノズルを、収容容器底壁の充填用孔に挿入し、その吐出口を上記収容容器内と連通させ、その状態で上記スラリー状化粧料の充填を行い、充填に関連して、上記スラリー状化粧料の溶剤を除去するようにしたものである。この製法によれば、従来のように、収容容器底壁に特殊な形状の充填用孔や化粧料充填方向変更手段を設ける必要がなく、収容容器の形状を単純化することができるため、その製造効率がよくなるとともに、低コスト化を図ることができるという利点を有する。また、収容容器底壁に特殊な形状の充填用孔等が設けられていないため、収容容器の汎用性が確保されるとともに、収容容器自身の耐久性も向上し、結果として、固形化粧料の長寿命化を実現できるという利点を有する。さらに、収容容器底壁の充填用孔の設置位置についても、収容容器のコーナー部等に限定する必要がなくなるため、製品である固形化粧料の外観デザインの自由度が高くなる。そして、このことと、表面にひび、色むら、凹凸等を生じることがなく製造することができることと相俟って、美麗で、興趣に富んだ製品を安定して提供することができるという利点を有する。
【0011】
そして、上記製法に用いられる充填ノズルは、特に、スラリー状化粧料を充填するために、収容容器底壁に設けられた充填用孔に挿入されるようになっており、上記充填のノズル先端が面状に形成され、周胴面に少なくとも1個の吐出口が形成されているものである。したがって、この充填ノズルを用いて、バック充填法によって固形化粧料を製造すれば、汎用タイプの収容容器への充填において、固形化粧料の表面にひび、色むら、凹凸等の発生を防ぐことができるようになる。そして、周胴面に1個の吐出口が形成されている充填ノズルを用いる場合には、スラリー状化粧料が一定方向に充填されるため、フローマークやウェルドラインができにくくなり、得られる固形化粧料の外観をより美麗なものとすることができるようになる。
【0012】
また、本発明のなかでも、特に、充填ノズルの吐出口が、充填ノズル周胴面の、周方向の対角線上の2個所に形成されている充填ノズルを用いる場合には、スラリー状化粧料の粘性が比較的高い場合においてでも使用することができるという利点を有する。そして、この場合でも、収容容器底壁の充填用孔の設置位置を自由に設定できるので、得られる固形化粧料の外観デザインをより興趣に富むものとすることができるようになる。
【0013】
さらに、本発明のなかでも、充填ノズルの吐出口が、充填ノズル周胴面の全周にわたって形成されている充填ノズルを用いる場合には、収容容器の収容容量が多く、開口面積が広い場合であっても、素早く充填できるという利点を有する。また、フローマークやウェルドラインができにくく、得られる固形化粧料の外観をより美麗なものとすることができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施例の説明図である。
【図2】(a)、(b)、(c)はいずれも上記実施例の説明図である。
【図3】(a)、(b)はいずれも上記実施例の説明図である。
【図4】上記実施例の説明図である。
【図5】(a)、(b)はいずれも上記実施例の説明図である。
【図6】(a)、(b)はいずれも他の実施例の説明図である。
【図7】(a)、(b)はいずれも他の実施例の説明図である。
【図8】(a)、(b)はいずれも他の実施例の説明図である。
【図9】(a)、(b)はいずれも他の実施例の説明図である。
【図10】他の実施例の説明図である。
【図11】(a)、(b)はいずれも他の実施例の説明図である。
【図12】従来技術の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
つぎに、本発明を実施するための形態について説明する。ただし、本発明は、この実施の形態に限定されるものではない。
【0016】
図1は、本発明によって得られた固形化粧料を収容するコンパクト容器である。この図において、1はコンパクト容器本体部、2はその蓋体であり、上記蓋体2の後端部には、下向きにヒンジ部が突設されており(図示を省略している)、このヒンジ部がコンパクト容器本体部1の後端部と係合することにより、蓋体2が上方に開くようになっている。そして、上記コンパクト容器の収納部3にブラシやチップが収納され、収容部4に、収容容器である中皿5(図2参照)に収容された固形化粧料17が収容される。なお、図1において、上記各部位は模式的に表されており、実際の厚み、形状、大きさなどとは異なっている(以下の図においても同じ)。
【0017】
上記中皿5に収容されている固形化粧料17は、例えば、次のようにして得ることができる。すなわち、まず、図2(a)、(b)に示すような底壁に充填用孔が設けられた、合成樹脂製の中皿5を準備する。この中皿5には、底壁6と、この底壁6の外周縁から立設する周側壁7によって、平面視略四角形状の化粧料充填凹部8が形成されている。そして、上記底壁6の4つの角部のうちの1つの角部6aに、固形化粧料17の材料であるスラリー状化粧料を充填するための充填用孔9が穿設されている。なお、この底壁6の厚みαは1.5mm、充填用孔9の口径βは3.4mmである。また、この中皿5の充填用孔9の開口縁部には、図2(c)にその一部拡大断面図を示すように、表面に緩やかな傾斜イ、裏面に傾斜ロが設けられている。この傾斜イおよびロの傾斜は必ずしも同じでなくともよい。
【0018】
つぎに、充填ノズルと、スラリー状化粧料とを準備する。上記充填ノズル11は、金属製で、図3(a)の斜視図、(b)の断面図に示されるように、平面視が円形の面状先端部15が形成され、周胴面に1個の吐出口16が形成されている。なお、この充填ノズル11の寸法は図示のとおりである。このとき、図3(b)の傾斜角θは、上記中皿5の充填用孔9の開口縁部(裏面)に設けられた傾斜ロとほぼ同様になっている。また、上記スラリー状化粧料の組成は下記の表1のとおりである。
【0019】
【表1】
【0020】
そして、図4に示すように、上面開口を濾過紙30で閉塞した上記中皿5を加圧充填装置の上金型35と下金型34の間に挟み込み、その上に吸引手段(図示せず)を配設する。その状態で、加圧充填装置(図示せず)の材料供給配管先端に取り付けた上記充填ノズル11を、中皿5の底壁6に設けられた充填用孔9に挿入し、その吐出口16を中皿5の化粧料充填凹部8と連通させる。この連通状態の斜視図および斜視断面図を、図5(a)、(b)にそれぞれ示す。
【0021】
そして、この両者が連通した状態で、上記スラリー状化粧料12を充填ノズル11から、矢印で示すように所定の圧力で化粧料充填凹部8内に加圧充填する。このとき、上記スラリー状化粧料12を充填すると同時に、上記濾過紙30を介した上記吸引手段によって、上記スラリー状化粧料12に含まれる溶剤を吸引除去し、スラリー状化粧料12を固化させ、固形化粧料17とする。このようにして、中皿5の化粧料充填凹部8内に収容された固形化粧料17を得ることができる。なお、充填ノズル11は、スラリー状化粧料12を充填しながら徐々に下げられ、充填終了時には、充填ノズル11の面状先端部15が、中皿5の充填用孔9内に位置するようになっている。したがって、得られる固形化粧料17には、充填ノズル11に起因する空洞は発生しない。
【0022】
この方法によれば、製品である固形化粧料を、その表面にひび、色むら、凹凸等が生じることがなく製造するため、従来のように、収容容器底壁に特殊な形状の充填用孔や化粧料充填方向変更手段を設ける必要がなく、収容容器の形状を単純化することができるため、その製造効率がよくなるとともに、低コスト化を図ることができる。また、収容容器底壁に特殊な形状の充填用孔等が設けられていないため、収容容器の汎用性が確保されるとともに、収容容器自身の耐久性も向上し、結果として、固形化粧料の長寿命化を実現できる。さらに、収容容器底壁の充填用孔の設置位置についても、収容容器のコーナー部等に限定する必要がなくなるため、製品である固形化粧料の外観デザインの自由度が高くなる。そして、このことと、表面にひび、色むら、凹凸等が生じることがなく製造することができることと相俟って、美麗で、興趣に富んだ製品を安定して提供することができる。また、充填ノズル胴周面に1個の吐出口が形成されているため、スラリー状化粧料が一定方向に充填されるようになり、フローマークやウェルドラインが現れにくくなる。そして、中皿5の充填用孔9が角部6aに突設されており、スラリー状化粧料12の充填圧を分散させることができるため、フローマークやウェルドラインが現れにくくなる。また、中皿5の充填用孔9の開口縁部に設けられた緩やかな傾斜イによって、スラリー状化粧料12の充填圧を下げることができるため、さらに、フローマークやウェルドラインが現れにくくなる。したがって、表面にひび、色むら、凹凸等が生じないことと相俟って、得られる固形化粧料の外観が所望のとおりの美麗なものとなる。
【0023】
なお、本発明において、上記充填ノズル11の先端形状である「面状」とは、平面、曲面などを意味し、面の平面視の形状は、円、三角、四角等、形状は問わない。また、その平面視の大きさは、充填用孔9内に面状先端部15が収まればよく、寸法は問わない。ただし、この面状先端部15は、スラリー状化粧料12の加圧充填終了後に、中皿5の充填用孔9に、このスラリー状化粧料12が入り込んで、その部分に対応する固形化粧料17の表面に陥没ができるのを防ぐ目的を有する。そのため、その面状先端部15の平面視の大きさは、充填用孔9を塞ぐことができるよう、充填用孔9と同じか少し小さい位がよく、平面視の形状は、上記充填用孔9の平面視形状と同じか近似していることが好ましい。例えば、充填用孔の平面視形状が円形であれば、円形が好ましい。
【0024】
また、本発明において、上記スラリー状化粧料12から溶剤を除去する際の「充填に関連して」とは、スラリー状化粧料12を「充填中」および「充填後」の双方を含むことを意味するものである。すなわち、溶剤を除去するのは、上記の例のように充填ノズル11からスラリー状化粧料12を充填するのと同時であってもよいし、充填終了後であってもよい。
【0025】
そして、充填ノズル11の吐出口16の形は、充填の速度、仕上がりの観点から、円、楕円、長方形、正方形あるいは胴全周に渡るもの等、種々の形状に形成することが可能であり、その口径も同様に種々の大きさに形成することが可能である。また、スラリー状化粧料12は、化粧料がスラリー状である限り充填が可能であるため、その粘度を特定する必要はないが、粘度が低すぎると、スラリー状化粧料中の各成分が分離し、均一な充填が行えなくなる可能性や、充填後の吸引に時間がかかる傾向がみられ、逆に、粘度が高すぎると、フローマークやウェルドラインが発生する傾向がみられるため、適宜に選択される。
【0026】
また、上記の例では、充填用孔9が、中皿5の角部6aに近接させた位置に設けられているが、中皿5の角部6aでない周壁7に近接させた位置、あるいは、化粧料充填凹部8の中心位置に設けることができる〔図6(a)、(b)参照〕。これらは、スラリー状化粧料12の状態(例えば、粘度、配合等)によって適宜に選択することができる。このように、底壁の充填用孔9の設置位置が限定されない場合には、製品である固形化粧料の外観デザインの自由度を高くすることができるようになる。
【0027】
そして、上記の例では、中皿5の充填用孔9の開口縁部表面に緩やかな傾斜イ、裏面に傾斜ロが設けられているが、これに代えて、そのような傾斜が設けられていないものを用いることもできる。上記傾斜がない場合には、より中皿5の汎用性が高まり、また、製造コストも削減することができる。さらに、図7(a)の斜視図、(b)の断面図に示すように、中皿5の充填用孔9付近の底壁6の形状を一部盛上げて、環状の突起部20を形成するように変化してもよい。これにより、スラリー状化粧料12の粘度が特に高い場合等、均一な充填が困難な場合であっても、上記突設部20を乗り越えさせることにより、フローマーク、ウェルドライン等が発生することなく、美麗な外観の固形化粧料17を得ることができるようになる。
【0028】
さらに、上記の例では、充填ノズル11は、スラリー状化粧料12を充填しながら徐々に下げられ、充填終了時には、その面状先端部15が、中皿5の充填用孔9内に位置するようになっているが、これに代えて、充填ノズル11が、吐出口16が化粧料充填凹部8と連通された状態で充填用孔9に挿入されたままの状態で、上記吸引手段によって上記スラリー状化粧料12の溶剤を吸引除去し、除去完了後にこれを引き抜くようにすることもできる。だたし、この場合、得られる固形化粧料17に、充填ノズル11に起因する空洞が生じるおそれがあり、好ましくない。一方、スラリー状化粧料12の溶剤の吸引除去において、最初からその面状先端部15が充填用孔9の孔内に位置するよう、充填ノズル11の位置を引き下げた状態で行うようにすることもできる。この場合、固形化粧料17の表面へのひび、凹凸等の発生をより効果的に防止することができるようになる。
【0029】
また、他の例として、上記充填ノズル11に代えて、図8(a)の断面図に示すような、吐出口16が、充填ノズル周胴面の、周方向の対角線上の2個所に形成されている充填ノズル21を用いることができる。この場合、充填時間を短縮することができるのと同時に、スラリー状化粧料12の粘度が比較的高い場合でも使用することができ、より化粧料の選択の幅が広がるようになる。なお、図8(b)に、この充填ノズル21の吐出口16と中皿5の化粧料充填凹部8とが連通した状態の斜視図を示す。
【0030】
さらに、他の例として、図9(a)の断面図に示すような、上記吐出口16が、充填ノズル周胴面の全周にわたって形成されている充填ノズル22を用いることもできる。この充填ノズル22は外筒22aと内筒22bの2部材で構成されている。この場合、中皿5に設けられた凹部容量が多く、その開口面積が広い場合であっても、フローマーク等ができににくなり、得られる固形化粧料17の外観をより美麗なものとすることができるようになる。なお、図9(b)に、充填ノズル22の吐出口16と中皿5の化粧料充填凹部8とが連通した状態の斜視図を示す。
【0031】
この連通状態について、より詳しく説明すると、図10に示すように、下金型34の下方から充填ノズル22を、上方から中皿5をセットすることにより、充填ノズル22と中皿5の化粧料充填凹部8とを連通させることができる。すなわち、まず、充填ノズルを位置決めするための下金型34に設けられた孔33に、下方向から充填ノズル22を挿入し、面状先端部15および吐出口16が見えるようにセットする〔図11(a)〕。つぎに、下金型34の上方向から、中皿5を、その充填用孔9と充填ノズル22が合うようにセットする。これにより、充填ノズル22の吐出口16と、中皿5の化粧料充填凹部8とが連通される〔図11(b)〕。この状態でスラリー状化粧料12の充填が行われるため、周方向に均等にスラリー状化粧料12が流入し、充填圧を下げることができるようになり、得られる固形化粧料17にフローマーク等ができにくくなる。
【0032】
このように、本発明の充填ノズルは、充填ノズルとして一体に形成されているに限らず、充填ノズルの製造の容易性や、他製品への応用性、使用後の洗浄の容易性、加工性の観点等から、充填ノズル22のように、2以上のパーツに分かれていたものを用いてもよい。
【0033】
また、上記の例では、スラリー状化粧料12の溶剤を、中皿5の開口部を閉塞する濾過紙を介して吸引手段によって吸引除去するようにしているが、これに代えて、開口部を閉塞する吸収体により溶剤を吸収して、固形化粧料17を製造するようにしてもよい。この場合、上記吸引手段を設ける必要がないため、設備投資にかかる費用を抑えることができる。
【0034】
なお、上記の例において、収容容器として用いている中皿5は、化粧料充填凹部8が略四角形状に形成されているが、三角形、円形状等に形成されていてもよい。また、その材質も、金属、あるいは金属を被覆したものを用いてもよい。さらに、コンパクト容器の本体部1自体を一部凹設して、収容容器としてもよい。この場合、別途収容容器(例えば、中皿5等)を準備する必要がないため、製品の軽量化が期待できる。
【符号の説明】
【0035】
5 中皿
6 底壁
8 化粧料充填凹部
9 充填用孔
11 充填ノズル
12 スラリー状化粧料
16 吐出口
30 濾過紙
34 下金型
35 上金型
【特許請求の範囲】
【請求項1】
底壁に充填用孔が設けられた収容容器と、上記収容容器の充填用孔に位置決めされる充填ノズルと、化粧料と溶剤とを含むスラリー状化粧料とを準備し、上記収容容器の充填用孔から、上記充填ノズルを介して上記スラリー状化粧料を上記収容容器に充填する工程と、充填に関連して上記スラリー状化粧料から溶剤を除去して、スラリー状化粧料を固化させ固形化粧料を得る工程とを備えた固形化粧料の製法であって、上記充填ノズルとして、その先端が面状に形成され、周胴面に吐出口が形成された充填ノズルを用い、その充填ノズルを、上記充填用孔に挿入してその吐出口を上記収容容器内と連通させ、その状態で上記スラリー状化粧料の充填を行なうようにしたことを特徴とする固形化粧料の製法。
【請求項2】
請求項1記載の固形化粧料の製法に用いられる充填ノズルであって、スラリー状化粧料を充填するために、収容容器底壁に設けられた充填用孔に挿入されるようになっており、上記充填のノズル先端が面状に形成され、周胴面に少なくとも1個の吐出口が形成されていることを特徴とする充填ノズル。
【請求項3】
上記吐出口が、充填ノズル周胴面の、周方向の対角線上の2個所に形成されている請求項2記載の充填ノズル。
【請求項4】
上記吐出口が、充填ノズル周胴面の全周にわたって形成されている請求項2記載の充填ノズル。
【請求項1】
底壁に充填用孔が設けられた収容容器と、上記収容容器の充填用孔に位置決めされる充填ノズルと、化粧料と溶剤とを含むスラリー状化粧料とを準備し、上記収容容器の充填用孔から、上記充填ノズルを介して上記スラリー状化粧料を上記収容容器に充填する工程と、充填に関連して上記スラリー状化粧料から溶剤を除去して、スラリー状化粧料を固化させ固形化粧料を得る工程とを備えた固形化粧料の製法であって、上記充填ノズルとして、その先端が面状に形成され、周胴面に吐出口が形成された充填ノズルを用い、その充填ノズルを、上記充填用孔に挿入してその吐出口を上記収容容器内と連通させ、その状態で上記スラリー状化粧料の充填を行なうようにしたことを特徴とする固形化粧料の製法。
【請求項2】
請求項1記載の固形化粧料の製法に用いられる充填ノズルであって、スラリー状化粧料を充填するために、収容容器底壁に設けられた充填用孔に挿入されるようになっており、上記充填のノズル先端が面状に形成され、周胴面に少なくとも1個の吐出口が形成されていることを特徴とする充填ノズル。
【請求項3】
上記吐出口が、充填ノズル周胴面の、周方向の対角線上の2個所に形成されている請求項2記載の充填ノズル。
【請求項4】
上記吐出口が、充填ノズル周胴面の全周にわたって形成されている請求項2記載の充填ノズル。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2010−215587(P2010−215587A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−66069(P2009−66069)
【出願日】平成21年3月18日(2009.3.18)
【出願人】(000158781)紀伊産業株式会社 (327)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年3月18日(2009.3.18)
【出願人】(000158781)紀伊産業株式会社 (327)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]