説明

固形描画材

【課題】書き味が滑らかであり、描画する際にも、描画した後の所望の時にも、香料の香りを発現させることが可能な固形描画材を提供すること。
【解決手段】少なくともゲル形成剤と水でゲル状態の賦形材を形成し、該賦形材中に、マイクロカプセルが分散されてなる固形描画材であって、前記ゲル形成剤が特定の脂肪族カルボン酸の金属塩であり、前記マイクロカプセルが香料を内包してなりかつ賦形材中にマイクロカプセルとは別にマイクロカプセル化されていない香料が含有された固形描画材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固形描画材に関する。詳しくは、固形描画材中のマイクロカプセルが破壊されることなく描画可能なマイクロカプセルを含有する固形描画材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、香料などをマイクロカプセル中に内包し、固形描画材中に前記マイクロカプセルを含有して、描画とは別の新たな機能を付与することが行われている(例えば特許文献1〜2)。しかしながら、従来のマイクロカプセルを含有する固形描画材は、賦形材にポリエチレン等の樹脂やパラフィンワックス等を主成分とする、所謂クレヨンの様な構成の固形描画材であり、該固形描画材は、描画する際に書き味が硬く、高い描画圧を必要とする為、描画する際にマイクロカプセルがその描画圧により破壊されてしまう。この為、描画する際や描画直後は香りを発現することができるが、描画線中でマイクロカプセルが破壊されずに存在することができない為、描画した後の所望の時に、香りを発現させたりすることができなかった。
【0003】
これらの課題を解決する為に、固形描画材中に配合するマイクロカプセルの粒子径を小さくするなどして、描画する際にマイクロカプセルが破壊されることを防ぐなど検討されてはいるが、マイクロカプセルの粒子径を小さくしたことにより、マイクロカプセル中に内包する香料の量が少なかったり、高い描画圧にも破壊されないマイクロカプセルである為、所望の時に、描画線を擦るなどしてマイクロカプセルを破壊しようとしても、十分に破壊することができず、マイクロカプセル中に内包した香料の香りが十分に発現されないなどの問題があった。
【0004】
前記の通り、従来の固形描画材は、描画する際と描画した後の所望の時の両方で、香料の香りを発現する固形描画材は得られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭64−29478号公報
【特許文献2】特公昭64−4553号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】近藤保、小石真純共著 「マイクロカプセル−その製法・性質・応用−」三共出版(株) 1977年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、書き味が滑らかであり、描画する際にも、描画した後の所望の時にも、香料の香りを発現させることが可能な固形描画材を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、少なくともゲル形成剤と水でゲル状態の賦形材を形成し、該賦形材中にマイクロカプセルが分散されてなる固形描画材において、ゲル形成剤を特定の材料とし、マイクロカプセルが香料を内包し、前記賦形材中にマイクロカプセルとは別にマイクロカプセル化されていない香料を特定量配合すること、等により、上記課題が解決され、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、
「1.少なくともゲル形成剤と水でゲル状態の賦形材を形成し、該賦形材中にマイクロカプセルが分散されてなる固形描画材であって、前記ゲル形成剤が炭素数が8〜36個である脂肪族カルボン酸の金属塩であり、前記マイクロカプセルが香料を内包してなり、かつ賦形材中にマイクロカプセルとは別にマイクロカプセル化されていない香料が固形描画材全質量に対して0.01〜20質量%の配合割合で含有されてなることを特徴とする固形描画材。
2.前記香料が、油性の香料であることを特徴とする請求項1に記載の固形描画材。
3.前記マイクロカプセルの壁膜が、熱硬化性樹脂であることを特徴とする請求項1または2に記載の固形描画材。」に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ゲル形成剤と水でゲル状態の賦形材を形成したことなどにより、描画する際に、固形描画材がチキソトロピック現象を発現し、低い描画圧での描画が可能となり、書き味が滑らかとなるばかりでなく、賦形材中に分散されたマイクロカプセルが破壊されることなく描画が可能となるため、描画線中にマイクロカプセルが破壊されずに存在することができる。この為、所望の時に香料の香りを発現することが出来る。また、マイクロカプセル化されていない香料を含有したことにより、描画する際にマイクロカプセルが破壊されることなく香料の香りを発現することができる等、優れた効果を奏するものである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の固形描画材は、少なくともゲル形成剤と水でゲル状態の賦形材を形成し、賦形材中に特定のマイクロカプセルが分散されてなり、さらにマイクロカプセル化されていない香料を含有した構成が最小の構成となる。前記構成とすることにより、描画する際に固形描画材がチキソトロピック現象を発現し、マイクロカプセルが破壊されることなく描画が可能となる。この結果、本発明の固形描画材で描画した描画線は、マイクロカプセルが破壊されることなく存在することとなる。また、マイクロカプセル化されていない香料を含有したことにより、描画する際にもマイクロカプセルが破壊されるこのなく香料の香りを発現することが可能となる。
【0011】
また、本発明におけるチキソトロピック現象は、描画する際の描画圧や摩擦熱等により、ゲル状態の賦形材が、ゲル状態からゾル状態に変化するために、発現するのである。即ち、固形描画材が、見かけ状の固体状態から液体状態への変化をすることにより、発現するのである。
【0012】
本発明に用いるゲル形成剤としては、炭素数が8〜36個である脂肪族カルボン酸の金属塩であり、水とゲル状態の賦形材を形成出来るものである。この範囲より炭素数が少ないと、固形描画材の強度が弱くなり、この範囲より炭素数が多いと、固形描画材を製造する際に、複雑な工程が必要となるため好ましくない。特に好ましくは、炭素数が12〜18個である脂肪族カルボン酸の金属塩であり、炭素数がこの範囲にあると、固形描画材が、チキソトロピック現象を強く発現し、描画する際の描画圧が低くなり、書き味が滑らかとなるばかりでなく、マイクロカプセルにかかる圧力が低くなるため、マイクロカプセルが破壊されることなく描画することができるため好ましい。特に好ましく用いられるゲル形成剤として、具体的には脂肪族カルボン酸のナトリウム塩であり、ラウリン酸ナトリウム、ミリスチン酸ナトリウム、パルミチン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム等が挙げられる。
【0013】
本発明に用いるゲル形成剤は、単独または2種類以上を組み合わせて用いることができるが、その配合量は、固形描画材全質量に対して5〜60質量%が好ましい。この範囲より小さいと、ゲル状態の賦形材が形成しにくくなり、固形描画材の強度が低くなる傾向が見られ、この範囲より大きいとゲル状態の賦形材が硬くなり、固形描画材が、チキソトロピック現象を発現しにくくなり、描画する際の描画圧が高くなる傾向が見られ、描画する際に、マイクロカプセルが破壊される傾向になる。ゲル形成剤の配合割合を固形描画材全質量に対して、10〜40質量%とすると、固形描画材の強度とチキソトロピック現象の発現が最適となり、低い描画圧での描画が可能となり、書き味が滑らかとなるばかりでなく、賦形材中に分散されたマイクロカプセルが破壊されることなく描画が可能となるため、特に好ましい。
【0014】
本発明に用いるゲル形成剤は、水とゲル状態の賦形材を形成するが、その際に、賦形材はアルカリ性を示す。前記賦形材は、その液性がアルカリ性、つまりpHが7より大きいときその機能を維持することができるが、液性が酸性、つまりpH7より小さいとゲル状態を維持することができず、液体状態となる。
【0015】
本発明の固形描画材は、少なくともゲル形成剤と水でゲル状態の賦形材を形成し、該賦形材中にマイクロカプセルが分散され、さらにマイクロカプセルとは別に、マイクロカプセル化されていない香料を含有された構成となっているが、前記構成で、その液性が酸性となると、ゲル状態を維持することができず、固形描画材を得ることができなくなるのである。これとは反対に、前記賦形材にマイクロカプセルが分散され、さらにマイクロカプセルとは別に、マイクロカプセル化されていない香料が含有された状態で、その液性がアルカリ性であると、ゲル状態を維持した状態となり、固形描画材を得ることができるのである。さらに、固形描画材のpHが9以上であると、賦形材のゲル強度が高くなり、固形描画材の機械的強度が十分となるため好ましい。
【0016】
本発明に用いるマイクロカプセルとしては、香料を内包してなる構成となっており、描画する際に破壊されることなく、描画した後に描画する際の描画圧より高い任意の圧力により破壊されることにより、該マイクロカプセル中に内包した香料をマイクロカプセル外に放出して香りを発現させることが可能なマイクロカプセルであるが、その粒子径が1μm以上のものが好ましい。
【0017】
一般に、マイクロカプセルは、粒子径が小さくなるに従って、破壊されにくくなる。即ち、マイクロカプセルが破壊されるには、より高い圧力が必要となるのである。マイクロカプセルの粒子径が1μmより小さいと、マイクロカプセルに内包する香料の量が少なくなることと、マイクロカプセルが破壊される為により高い圧力が必要となってマイクロカプセルが破壊されにくくなる。さらに紙などの繊維体へ描画した場合には繊維の隙間へマイクロカプセルが埋没しやすくなるため、圧力により破壊されにくくなるため、マイクロカプセル中に内包した香料の香りを発現しにくくなる傾向が見られる。
【0018】
本発明に用いるマイクロカプセルの粒子径としては1μm〜100μmであるとより好ましい。この範囲より小さい場合は、前述の通りであるが、この範囲より大きいと製造工程や描画する際に一部のマイクロカプセルが破壊される傾向があり、所望の時に香料の香りを十分に発現させることができなくなる傾向があり、また、描画線を擦って描画線中のマイクロカプセルを破壊する際に、固形描画材の一定体積あたりに占めるマイクロカプセルの個数が少なくなることから、描画線中の単位面積あたりに存在するマイクロカプセルが少なくなり、それに応じて破壊されるマイクロカプセルも少なくなる傾向が見られる。この結果、マイクロカプセル外に放出される香料が少なくなり、香りを十分に発現できなくなる傾向がある。前記マイクロカプセルの粒子径が5μm〜50μmであると、用いるマイクロカプセルの強度が十分にあり、製造工程や描画する際に破壊されることなく、マイクロカプセルに内包する香料の量が確保でき、描画線を擦ってマイクロカプセルを破壊する際にも十分な量のマイクロカプセルが破壊される為、効率的に香料の香りを発現させることが出来るため、特に好ましい。
【0019】
なお、本発明でいうマイクロカプセルの粒子径は、走査型電子顕微鏡により測定した値のことである。
【0020】
本発明に用いるマイクロカプセルの配合割合としては、固形描画材全質量に対して0.5〜20質量%であることが好ましい。この範囲より小さいと、固形描画材中のマイクロカプセルの量が少なくなり、それに伴い描画線中に存在するマイクロカプセルの数量も減ることとなる。この結果、描画線を擦ることなどによって、破壊されるマイクロカプセルが少なくなり、マイクロカプセル中に内包した香料の放出される量が減り、香りを十分に発現できなくなる傾向が見られる。この範囲より大きいと、固形描画材中のマイクロカプセルの量が多くなり、描画する際の書き味が悪くなる傾向が見られる。さらに好ましいマイクロカプセルの配合量としては、1〜10質量%であり、この範囲にあると、描画する際の書き味が滑らかで、描画した後の描画線中のマイクロカプセルが破壊された際に、マイクロカプセル中に内包した香料が放出され、香りを発現することができる。
【0021】
本発明の固形描画材に用いるマイクロカプセルの壁膜としては、一般的に天然高分子、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂が用いられるところ、前記のようなゲル形成剤がアルカリ性において機能を発現するような場合には、アルカリ性において高い耐性を持つ熱硬化性樹脂を壁膜に用いることが好ましい。さらに熱硬化性樹脂の中でも二官能以上の官能基数を持つ材料を用いると、壁膜を形成する際に分子間に三次元構造を形成するため、マイクロカプセルの耐溶剤性、耐アルカリ性、強度等が向上し、マイクロカプセル中に内包した機能性材料を、安定的に保持することが可能となり、好ましい。具体的には、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、メラミン−ホルムアルデヒド縮合樹脂、尿素−ホルムアルデヒド縮合樹脂等が挙げられる。これらの中でも有害性物質であるホルムアルデヒドを含まないウレタン樹脂、エポキシ樹脂が特に好ましい。
【0022】
本発明に用いるマイクロカプセルは、マイクロカプセルが破壊されることによって、マイクロカプセル中に内包した香料の香りが発現されるのであるが、その香りを発現させる方法としては、マイクロカプセル中に香料を内包し、描画した後に描画線を描画した際の描画圧より高い圧力を任意の方法で加え、当該マイクロカプセルを破壊して、マイクロカプセル中に内包した香料をマイクロカプセル外に放出する等して香りを発現させることができる。
【0023】
前記香りを発現させる方法の一例としては、紙などの任意な面に、本発明の固形描画材で描画する。この時得られた描画線は、マイクロカプセルが破壊されることなく存在した状態で得られる。該描画線を所望の時に指や爪などで擦ることによって、描画線中のマイクロカプセルが破壊され、マイクロカプセル中に内包した香料がマイクロカプセル外に放出して香りを発現させる。
【0024】
前記マイクロカプセル中に内包する香料としては、天然香料、合成香料を原料とした各種香料を用いることができる。前記香料としては、天然香料、合成香料を調合し、アルコールやグリコール類等の水溶性溶剤に溶解した水性の香料、天然香料、合成香料を調合し、油溶性の溶剤で希釈したり、油溶性の溶剤で希釈することなく用いる油性の香料、油性の香料を乳化剤や安定化剤などを用いて水中に分散させた乳化香料などが挙げられる。
【0025】
本発明に用いるマイクロカプセルの製造方法としては、例えば、非特許文献1(近藤保、小石真純共著、「マイクロカプセル−その製法・性質・応用−」三共出版(株)、1977年)に記載されているような一般的に知られている方法を用いることができる。具体的には、コアセルベート法、界面重合法、界面重縮合法、in−situ重合法、液中乾燥法、液中硬化法、懸濁重合法、乳化重合法、気中懸濁被覆法、スプレードライ法等が挙げられ、必要に応じて適宜選択される。
【0026】
本発明の固形描画材は、少なくともゲル形成剤と水とで形成されたゲル状態の賦形材中にマイクロカプセルが分散しているが、マイクロカプセル中に内包する香料としては、油性の香料であることが好ましい。油性の香料を内包したマイクロカプセルを製造する場合、簡便な方法としては、水相中に油性の香料を分散し、壁膜を形成して、マイクロカプセルとする方法がある。この方法により得られたマイクロカプセルは、水相中に分散された状態であり、ゲル形成剤と水とで形成される賦形材中に直接分散することが可能となるため、固形描画材の製造工程上簡便となる傾向がある。一方、水性の香料を内包したマイクロカプセルを製造する場合、簡便な方法としては、油相中に水性の香料を分散し、壁膜を形成して、マイクロカプセルとする方法がある。この方法により得られたマイクロカプセルは、油相中に分散された状態となっているため、前記賦形材に直接分散しにくい傾向があり、マイクロカプセルを粉体として取り出した後に、前記賦形材に分散することが必要となる場合があり、固形描画材の製造工程が煩雑になる傾向がある。この様に、固形描画材の製造工程上の観点から、マイクロカプセル中に内包する香料としては、油性の香料であることが好ましい。
【0027】
本発明の固形描画材は、マイクロカプセルとは別に、マイクロカプセル化されていない香料を含有する。該香料を含有することにより、描画する際にもマイクロカプセルが破壊されることなく香料の香りを発現することが可能となる。
【0028】
本発明に用いるマイクロカプセル化されていない香料は、固形描画材全質量に対して、0.01〜20質量%の配合割合で含有される。この範囲より少ないと、描画する際に、十分に香りを発現することができないため好ましくない。この範囲より多いと、賦形材の形成が損なわれることや、固形描画材の描画性が悪くなり、描画する際の書き味が重くなり、書き味が滑らかでなくなるため、好ましくない。さらに好ましい配合割合としては、固形描画材全質量に対して、0.1〜10質量%であり、この範囲にあると、描画する際に、書き味が滑らかで、香りを十分に発現することが可能となるため好ましい。
【0029】
前記マイクロカプセル化されていない香料としては、天然香料、合成香料を原料とした各種香料を用いることができる。前記香料としては、天然香料、合成香料を調合し、アルコールやグリコール類等の水溶性溶剤に溶解した水性の香料、天然香料、合成香料を調合し、油溶性の溶剤で希釈したり、油溶性の溶剤で希釈することなく用いる油性の香料、油性の香料を乳化剤や安定化剤などを用いて水中に分散させた乳化香料などが挙げられる。中でも油性の香料を用いると、香料の揮発性に対して本発明における水系ゲル賦形材が保護層として機能するため、マイクロカプセル化されていない香料の経時保存性に対して好ましい組み合わせとなる。
【0030】
本発明の固形描画材に用いる、マイクロカプセル中に内包する香料と、マイクロカプセル化されていない香料は、同一の香料を用いても、異なる香料を用いても良い。
【0031】
本発明の固形描画材には、必要に応じて、溶剤、界面活性剤、消泡剤、着色剤、ワックスや樹脂、防腐剤、防黴剤等の、各種添加剤を配合してもよい。これらの添加剤は、賦形材中やマイクロカプセル中に配合することができる。
【0032】
本発明の固形描画材の製造方法の一例を示す。ゲル形成剤と水を加熱混合し、ゾル状態の液状物とする。この液状物に、マイクロカプセル化されていない香料を加え、液状物に均一に分散または溶解する。この時、マイクロカプセル化されていない香料として油性の香料を用いた場合には、溶解時の本発明に用いるゲル形成剤である脂肪族カルボン酸の金属塩が、油性の香料の可溶化剤として機能するため、水系での製造工程が安定する効果が得られる。その後、マイクロカプセルと各種添加剤を加え攪拌後、所定の型内に充填する。これを冷却することにより、ゾル状態の液状物が固化し、ゲル状態の賦形材が形成される。この際、マイクロカプセルは、賦形材中に分散した状態で存在する。この型内で固化した充填物を型から取り出すことにより、賦形材中にマイクロカプセルが分散され、マイクロカプセル中に内包されていない香料を含有した、固形描画材が得られる。
【0033】
本発明の固形描画材を製造する際に、マイクロカプセル化されていない香料として、油性の香料を用いた場合には、本発明に用いるゲル形成剤である脂肪族カルボン酸の金属塩が加熱溶解時に、油性の香料の可溶化剤として機能し、マイクロカプセル化されていない香料が液状物中に均一に溶解するため、水系での製造工程が安定する効果が得られる。その後、前記液状物を冷却しゲル状の賦形材を形成する際に、マイクロカプセル化されていない香料が賦形材中に均一に分散された状態となる。
【実施例】
【0034】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。
【0035】
(マイクロカプセルの製造)
(製造例1)
グレープフルーツオイルNO.008465(高砂香料工業(株)社製、油性の香料)を内包し、壁膜がポリウレタンであるマイクロカプセルを、界面重合法により製造し、粒子径が10μmのマイクロカプセルを得た。
【0036】
(製造例2〜6)
本発明に用いるマイクロカプセルの製造方法と、マイクロカプセルの壁膜、マイクロカプセルに内包する材料、マイクロカプセルの粒子径を(表1)に示す。
【0037】
【表1】

【0038】
(固形描画材の製造)
実施例1
グレープフルーツオイルNO.008465 1質量部
(マイクロカプセル化されていない香料)
製造例1で製造したマイクロカプセル(粒子径10μm) 5質量部
パルミチン酸ナトリウム(ゲル形成剤) 20質量部
グリセリン(保湿剤) 25質量部
イオン交換水 49質量部
上記各成分を90℃にて加熱混合し、得られたゾル状の液状物を内径8mmで長さ40mmの円筒状の型に流し込んだ後、室温まで冷却し、ゲル状態の固形物を得た。この円筒状のゲル状態の固形物を型より取り出し、外径8mmで長さ40mmのパルミチン酸ナトリウムとイオン交換水とでゲル状態の賦形材を形成し、該賦形材中にマイクロカプセルを分散し、マイクロカプセル化されていない香料を含有した固形描画材を得た。
【0039】
実施例2〜10および比較例1〜6
(表2)に示した配合とした以外は、実施例1と同じ方法で固形描画材を得た。
【0040】
【表2】

【0041】
実施例1〜10及び、比較例1〜6の固形描画材について、固形描画材中でのマイクロカプセル状態、描画した後の描画線中でのマイクロカプセルの状態、描画性、描画する際の香料の香りの発現性、経時後の香りの発現性の評価を行った。結果を(表3)に示した。
【0042】
【表3】

【0043】
評価方法:固形描画材中でのマイクロカプセルの状態及び描画後の描画線中でのマイクロカプセルの状態、描画性、香りの発現性評価については、以下記載の評価方法、評価基準により評価をした。
【0044】
固形描画材中のマイクロカプセルの状態:固形描画材を走査型電子顕微鏡にて観察をし、その状態を評価した。
◎:マイクロカプセルの破壊は見られない。
○:マイクロカプセルの破壊がわずかに見られる。
【0045】
描画性:固形描画材で、上質紙に手書きにより描画し,描画する際の書き味、描画性を官能評価した。
◎:固形描画材がチキソトロピック現象を発現しており、書き味が滑らかであり、描画に強い力を必要としない。上質紙への描画性は良好。
○:固形描画材がチキソトロピック現象を発現しており、書き味が滑らかであり、描画に強い力を必要としないが、わずかに重い。上質紙への描画性は良好。
△:固形描画材がチキソトロピック現象を発現しているが、書き味が重い。上質紙への描画性は良好。
×:固形描画材がチキソトロピック現象を発現しておらず、書き味が硬く、描画に強い力を必要とする。上質紙への描画性は悪く、かすれる。
【0046】
描画した後の描画線中でのマイクロカプセルの状態:固形描画材で、上質紙に手書きにより描画し、描画線を走査型電子顕微鏡にて観察をし、その状態を評価した。
◎:マイクロカプセルの破壊は見られない。
○:マイクロカプセルの破壊がわずかに見られる。
×:マイクロカプセルが破壊されている。
【0047】
描画する際の香りの発現性評価:固形描画材で上質紙に描画した描画線を、描画直後に指で擦り、香料の香りがするか、直接香りをかぐ官能試験で評価した。
◎:香る
○:香るが、わずかに弱い。
△:香るが弱い。
×:香らない。
【0048】
経時後の香りの発現性評価:描画する際の香りの発現性評価に用いた描画線を、描画から室温で1週間経時した後に指で擦り、香料の香りがするか、直接香りをかぐ官能試験で評価した。
◎:香る
○:香るが、わずかに弱い。
×:香らない。
【0049】
表3に示した通り、実施例1〜10の固形描画材は、描画性が良好で、描画する際の描画圧によりマイクロカプセルが破壊されず、描画した後の描画線中にマイクロカプセルが破壊されることなく存在していた。また、描画する際に香料の香りを発現させることができた。一定時間経時後に、描画線を指で擦った際に、マイクロカプセルが破壊され、マイクロカプセル中に内包した香料がマイクロカプセル外に放出され、香料の香りを発現させることができた。
【0050】
これに対し、比較例1および3の固形描画材は、描画性は良好であったが、描画する際に香料の香りを発現することができなかった。比較例2の固形描画材は、描画性は良好であり、描画する際に香料の香りを発現させることができたが、一定時間経時後に、描画線を指で擦っても、香料の香りがしなかった。比較例4の固形描画材は、描画性が劣っており、書き味が重く、滑らかな書き味を得られなかった。比較例5および6の固形描画材は、描画する際は香料の香りを発現させることができたが、一定時間経過後には、香料の香りがしなかった。この様に、比較例1〜6の固形描画材は、本発明の固形描画材の機能を有していなかった。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は、筆記具としての固形描画材の他、芳香等の機能を有する固形描画材等として利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともゲル形成剤と水でゲル状態の賦形材を形成し、該賦形材中にマイクロカプセルが分散されてなる固形描画材であって、前記ゲル形成剤が炭素数が8〜36個である脂肪族カルボン酸の金属塩であり、前記マイクロカプセルが香料を内包してなり、かつ賦形材中にマイクロカプセルとは別にマイクロカプセル化されていない香料が固形描画材全質量に対して0.01〜20質量%の配合割合で含有されてなることを特徴とする固形描画材。
【請求項2】
前記香料が、油性の香料であることを特徴とする請求項1に記載の固形描画材。
【請求項3】
前記マイクロカプセルの壁膜が、熱硬化性樹脂であることを特徴とする請求項1または2に記載の固形描画材。

【公開番号】特開2012−92245(P2012−92245A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−241542(P2010−241542)
【出願日】平成22年10月27日(2010.10.27)
【出願人】(303022891)株式会社パイロットコーポレーション (647)
【Fターム(参考)】