説明

固形燃料の製造方法および製造装置

【課題】使用する溶媒油を従来よりも多く回収することが可能な固形燃料の製造技術を提供すること。
【解決手段】重質油および溶媒油を含む混合油と多孔質炭とを混合してスラリーを得る混合工程と、このスラリーを加熱して脱水し、脱水スラリーを得る蒸発工程と、この脱水スラリーから溶媒油を分離してケーキを得る固液分離工程と、このケーキを加熱して、当該ケーキからさらに溶媒油を分離する乾燥工程と、固液分離工程および前記乾燥工程で分離回収された溶媒油を循環させる循環工程と、を備える固形燃料の製造方法である。混合工程で用いる溶媒油の成分のうち、ケーキの加熱温度(脱油温度)よりも40℃以上高い沸点成分を当該溶媒油全体の1wt%以下とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質炭を原料とする固形燃料の製造方法および製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
多孔質炭を原料とする固形燃料の製造技術に関し、従来、特許文献1に記載された固形燃料の製造技術が知られている。この特許文献1に記載された固形燃料の製造方法は、重質油分と溶媒油分を含む混合油を多孔質炭と混合して原料スラリーを得、このスラリーを加熱して多孔質炭の脱水を進めるとともに、多孔質炭の細孔内に重質油分と溶媒油分を含む混合油を含有せしめ、その後、このスラリーを固液分離しかつ乾燥することを特徴とする固形燃料の製造方法である。
【0003】
特許文献1に記載された固形燃料の製造方法においては、原料スラリー(重質油分と溶媒油分を含む混合油と多孔質炭との混合体)の加熱により多孔質炭の細孔内の水分が気化蒸発するとともに、細孔内は重質油分を含む混合油によって被覆され、ついにはこの混合油、特に重質油分が優先して細孔内に充満する。その結果、細孔内に存在する活性点への酸素の吸着および酸化反応が抑制されるので、多孔質炭の自然発火が抑制される。また、上記加熱により脱水されるとともに、この脱水と上記細孔内の重質油分充満によって多孔質炭はそのカロリーが高くなる。したがって、特許文献1に記載された固形燃料の製造方法によれば、含水率が低く、自然発火性が低くて、かつ高カロリー化された固形燃料を得ることができる。
【0004】
【特許文献1】特開平7−233383号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、特許文献1に記載されたような固形燃料の製造方法においては、使用する溶媒油をできるだけ多く回収することが経済性の観点から重要である。ここで、溶媒油の回収方法としては、特許文献1にも記載されているように、脱水されたスラリーを遠心分離機などの手段を用いて固体(ケーキ)と液体(溶媒油)とに粗く分離したのち、ケーキを加熱して乾燥させ、当該ケーキに残留する溶媒油を分離回収する回収方法が用いられている。この溶媒油の回収方法において、乾燥工程を経た製品炭に残留する溶媒油が多くなると、循環油として用いる溶媒油の量が減少し、溶媒油の減少を補う補給油の量が多くなってしまう。すなわち、製品炭に残留する溶媒油は、経済的観点から好ましくないものである。そこで製品炭に残留する溶媒油を減らすためには、例えばケーキの加熱温度を高くする方法が考えられるが、加熱温度を高くすると多孔質炭表面の熱変質を引き起こす。多孔質炭表面に熱変質が起きると、例えばブリケット成型時においては、多孔質炭粒子の付着力が低下し高破壊抵抗強度を有するブリケットが得られなくなるという問題が生じる。
【0006】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであって、その目的は、多孔質炭表面に熱変質が起きる程度にケーキの加熱温度を高くすることなく、使用する溶媒油を従来よりも多く回収することが可能な固形燃料の製造方法および製造装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討した結果、混合工程で用いる溶媒油の成分のうち、ケーキの加熱温度よりも40℃以上高い沸点成分を当該溶媒油全体の1%以下とすることで、乾燥工程後の多孔質炭に残留する溶媒油の量を少なく抑えることができ、これにより前記課題を解決できることを見出し、この知見に基づき本発明が完成するに至ったのである。
【0008】
すなわち、本発明は、重質油および溶媒油を含む混合油と多孔質炭とを混合してスラリーを得る混合工程と、前記スラリーを加熱して脱水し、脱水スラリーを得る蒸発工程と、前記脱水スラリーから前記溶媒油を分離してケーキを得る固液分離工程と、前記ケーキを加熱して、当該ケーキからさらに前記溶媒油を分離する乾燥工程と、前記固液分離工程および前記乾燥工程で分離回収された前記溶媒油を循環させる循環工程と、を備え、前記混合工程で用いる前記溶媒油の成分のうち、前記ケーキの加熱温度よりも40℃以上高い沸点成分を当該溶媒油全体の1%以下とする、固形燃料の製造方法である。
【0009】
また本発明において、前記ケーキの加熱温度が、180℃以上200℃以下であることが好ましい。
【0010】
また本発明は、その第2の態様によれば、重質油および溶媒油を含む混合油と多孔質炭とを混合してスラリーを得る混合槽と、前記スラリーを加熱して脱水し、脱水スラリーを得る蒸発手段と、前記脱水スラリーから前記溶媒油を分離してケーキを得る固液分離機と、前記ケーキを加熱して、当該ケーキからさらに前記溶媒油を分離する乾燥装置と、前記固液分離機および前記乾燥装置により分離回収された前記溶媒油を循環させる循環手段と、を備え、前記混合槽へ供給される前記溶媒油の成分のうち、前記ケーキの加熱温度よりも40℃以上高い沸点成分が、当該溶媒油全体の1%以下とされている固形燃料の製造装置である。また本発明において、前記ケーキの加熱温度が、180℃以上200℃以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、本発明の構成要件、特に、混合工程で用いる溶媒油の成分のうち、ケーキの加熱温度よりも40℃以上高い沸点成分を当該溶媒油全体の1%以下とすることで、蒸発しにくいすなわち多孔質炭に残留しやすい溶媒油の成分は、あらかじめ溶媒油から除去されることになる。その結果、乾燥工程後の多孔質炭に残留する溶媒油の量を少なく抑えることができ、多孔質炭表面に熱変質が起きる程度にケーキの加熱温度を高くするなどすることなく、使用する溶媒油を従来よりも多く回収することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための最良の形態について図面を参照しつつ説明する。
【0013】
(固形燃料の製造装置の構成)
図1は、本発明の一実施形態に係る固形燃料の製造装置100を示すブロック図である。図1に示すように、固形燃料の製造装置100(以下、「製造装置100」と呼ぶ)は、重質油および溶媒油ならびに多孔質炭が供給される混合槽1と、多孔質炭が含有する水分を蒸発させる蒸発槽2と、多孔質炭と溶媒油とを分離する固液分離機3と、多孔質炭と溶媒油とをさらに分離する乾燥装置6を備える。
【0014】
ここで、混合槽1へ供給される多孔質炭は、例えば30〜70wt%の水分を含有し、脱水することが望まれるいわゆる低品位石炭である。そのような多孔質炭としては、褐炭、亜炭、亜れき青炭などが挙げられる。また褐炭には、ビクトリア炭、ノースダコタ炭、ベルガ炭などがあり、亜れき青炭には、西バンコ炭、ビヌンガン炭、サマランガウ炭、エココール炭などがある。また多孔質炭は、通常、予め粉砕されて混合槽1へ供給される。多孔質炭の粒子径は、特に制限されるものではなく、例えば、平均粒子径で数mm程度、特に0.05〜3mm程度でよい。なお、多孔質炭は、上記例示のものに限定されず、水分を含有し、脱水することが望まれる石炭であれば、いずれも処理対象の多孔質炭に含まれる。
【0015】
また、重質油とは、真空残渣油のごとく、例えば400℃でも実質的に蒸気圧を示すことがないような重質分あるいはこれを多く含む油のことをいう。また、溶媒油とは、重質油を溶解させて分散させる油のことをいう。溶媒油としては、重質油との親和性、スラリーとしてのハンドリング性、細孔内への侵入容易性などの観点から、例えば軽沸油が用いられる。なお、水分蒸発温度での安定性を考慮して、沸点100℃以上、300℃以下の石油系油を使用することが推奨される。石油系油としては、灯油、軽油、重油などが挙げられる。そして、重質油と溶媒油とで重質油含有混合油が形成される。このような重質油含有混合油を使用することにより、当該重質油含有混合油が適切な流動性を示すため、重質油単独では果たし得ないような多孔質炭の細孔内への油の侵入が促進される。
【0016】
(混合槽)
混合槽1は、重質油および溶媒油を含む混合油と多孔質炭とを混合してスラリーを得るための槽である。この混合槽1には攪拌機7が設けられている。攪拌機7により混合槽1内のスラリーが攪拌される。また、混合槽1には、その下部からポンプ11を介して混合槽1の上部へスラリーを導入する循環配管21が接続されている。攪拌機7は、例えば軸流型攪拌機により構成される。
【0017】
(蒸発槽)
蒸発槽2は、混合槽1で得られたスラリーの水分を蒸発させ脱水スラリーを得るための槽である。この蒸発槽2には攪拌機8が設けられている。攪拌機8により蒸発槽2内のスラリーが攪拌される。また、蒸発槽2には、その上流側で蒸発槽2の下部からポンプ12を介して蒸発槽2の上部へスラリーを導入する上流側循環配管24が接続されている。また、蒸発槽2には、その下流側で蒸発槽2の下部からポンプ13を介して蒸発槽2の上部へスラリーを導入する下流側循環配管27が接続されている。
【0018】
また、ポンプ12と蒸発槽2との間の上流側循環配管24中には、熱交換器14が取り付けられている。ポンプ12からのスラリーは、この熱交換器14を経由して蒸発槽2の上部へ導入される。また、ポンプ13と蒸発槽2との間の下流側循環配管27中にも熱交換器15が取り付けられている。ポンプ13からのスラリーは、この熱交換器15を経由して蒸発槽2の上部へ導入される。また、蒸発槽2には、蒸発槽2にて発生した水蒸気を蒸発槽2の上部から圧縮機16を介して熱交換器14,15へ導入する蒸気配管51が接続されている。また、熱交換器14,15としては、例えば多管式型の熱交換器を用いることができる。なお、プレート型、スパイラル型などの熱交換器を用いてもよい。蒸発槽2と熱交換器14,15とで、スラリーを加熱して脱水し脱水スラリーを得る蒸発手段を構成する。なお、熱交換器14,15は、必ずしも両方必要なものではなく、いずれか一方の熱交換器のみでもよい。
【0019】
混合槽1と蒸発槽2との間には、スラリー供給配管23が設けられている。このスラリー供給配管23は、循環配管21と上流側循環配管24とを連通する管である。
【0020】
(固液分離機)
固液分離機3は、蒸発槽2にて脱水されたスラリーである脱水スラリーから溶媒油を分離してケーキを得る機械である。この固液分離機3としては、例えば、分離効率向上の観点から、遠心分離法により脱水スラリーをケーキと溶媒油とに分離する遠心分離機を用いることができる。なお、沈降法、濾過法、圧搾法などを用いる固液分離機を用いてもよい。
【0021】
蒸発槽2と固液分離機3との間には、脱水スラリー供給配管30が設けられている。この脱水スラリー供給配管30は、下流側循環配管27と固液分離機3とを連通する管である。
【0022】
(乾燥装置)
乾燥装置6は、固液分離機3にて得られたケーキを加熱して、当該ケーキからさらに溶媒油を分離する装置である。乾燥装置6は、乾燥機4と、乾燥機4からの蒸発油分を含むキャリアガスがガス排出管41を介して導入されるガス冷却器5とを備える。
【0023】
乾燥機4は、その内部で被処理物を連続的に搬送しつつ当該被処理物を加熱するものが用いられ、例えば、ドラム内面に複数の加熱用スチームチューブが軸方向に配設されたスチームチューブ式ドライヤが用いられる。
【0024】
ガス冷却器5には、その下部からポンプ17を介してガス冷却器5の上部へ凝縮溶媒油を導入する循環配管43が接続されている。また、ガス冷却器5には、その上部からガス加熱器18を介して乾燥機4へキャリアガスを戻すガス戻し管42が接続されている。
【0025】
固液分離機3と乾燥機4との間には、ケーキ供給配管31が設けられている。このケーキ供給配管31は、固液分離機3と乾燥機4とを連通する管である。
【0026】
(循環手段)
乾燥装置6と混合槽1との間には、乾燥装置6により分離回収された溶媒油を混合槽1に戻して循環させるための循環配管44が設けられている。この循環配管44は、循環配管43と混合槽1とを連通する管である。また、固液分離機3と混合槽1とを循環配管44を介して連通するドレン配管45も設けられている。循環配管44とドレン配管45とで、固液分離機3および乾燥装置に6より分離回収された溶媒油を循環させる循環手段を構成する。なお、ドレン配管45中に循環ポンプを設けてもよいし、循環配管44中に循環ポンプを設けてもよい。
【0027】
(固形燃料の製造方法)
次に、製造装置100を用いた固形燃料の製造方法について説明する。
【0028】
(混合工程)
まず、重質油および溶媒油を含む混合油と、粉砕された多孔質炭とを、混合槽1内において攪拌機7により攪拌して混合しスラリーを形成させる。スラリーは、混合槽1の下部から循環配管21を通りポンプ11を介して混合槽1の上部へ導入されることで循環させられ、攪拌混合が促進される。なお、混合槽1内の圧力は大気圧とされる。
【0029】
(蒸発工程)
混合槽1内のスラリーは、循環配管21を介して循環されるとともに、当該循環配管21から分岐したスラリー供給配管23を通って上流側循環配管24に入り、これを通って蒸発槽2へ入る。蒸発槽2の内部では、攪拌機8によりスラリーが攪拌される。なお、蒸発槽2の内部は2〜15気圧の加圧状態とされる。
【0030】
スラリーは、熱交換器14により例えば100℃〜250℃に加熱され蒸発槽2に入るので、当該蒸発槽2にて、スラリー中の多孔質炭に含まれる水分が蒸発して脱水される。すなわち、蒸発槽2にてスラリーの水分蒸発処理がなされる。この水分蒸発処理と同時に、多孔質炭の細孔内への混合油の含浸もなされ、大量の水分が脱水除去されるとともに重質油分が優先して多孔質炭の細孔内に充満する。
【0031】
また、蒸発槽2内のスラリーは、下流側循環配管27を通って蒸発槽2の下部からポンプ13を介して蒸発槽2の上部へ導入される。このときスラリーは、熱交換器15により加熱される。これにより、スラリーの水分蒸発処理がより有効になされる。
【0032】
蒸発槽2にて発生した水蒸気は、圧縮機16を通り、蒸気配管51を通って熱交換器15および熱交換器14に導入され、熱交換器14,15の熱源として用いられる。すなわち、蒸発槽2にて発生した水蒸気から蒸発潜熱が回収され、水蒸気に含まれる熱は再利用される。
【0033】
(固液分離工程)
脱水スラリーは、下流側循環配管27から分岐している脱水スラリー供給配管30を通って固液分離機3に入り、固液分離され、溶媒油が分離されてケーキが得られる。
【0034】
(乾燥工程)
固液分離工程で分離されたケーキは、混合油により未だ湿潤しているので、ケーキ供給配管31を通って乾燥機4に入り、加熱されることで乾燥される。そして改質多孔質炭となり、粉末状固形燃料として用いることができる状態となる。
【0035】
具体的には、乾燥機4内でケーキを例えば約190℃に加熱して、ケーキ中の油分、特に溶媒油分を蒸発させる。そして、キャリアガスにより蒸発した溶媒油分を、乾燥機4からガス排出管41を通してガス冷却器5へ移送して取り除き、改質多孔質炭を得る。蒸発した溶媒油分を含むキャリアガスには微粉炭も含有されているので、ガス冷却器5において冷却によって蒸発した溶媒油分を凝縮させるとともに、ポンプ17および循環配管43による凝縮溶媒油のキャリアガスへの噴霧によって、キャリアガス中の微粉炭を捕捉・除去して溶媒油を回収する。微粉炭および蒸発した溶媒油分が除去されたキャリアガスは、ガス戻し管42を通ってガス加熱器18により加熱されて乾燥機4へ戻され、乾燥機4で再利用される。
【0036】
ここで、本発明者らは、パイロットプラントで、ケーキを乾燥機4で190℃に加熱して乾燥させ、乾燥工程前および乾燥工程後の多孔質炭に含まれる溶媒油(灯油)の成分を分析した。図2は、乾燥工程前および乾燥工程後の多孔質炭に含まれる溶媒油の濃度を沸点成分ごとにその累積値で示したグラフである。図2中、菱印で示した乾燥工程前の多孔質炭に含まれる溶媒油の沸点成分分布は、図1のX地点、すなわち乾燥機4に入れられる前であって、固液分離機3と乾燥機4との間の多孔質炭のものである。また、四角印で示した乾燥工程後の多孔質炭に含まれる(残留する)溶媒油の沸点成分分布は、図1のY地点、すなわち乾燥機4から出たあとの多孔質炭のものである。また、図2において、多孔質炭中の溶媒油濃度は、無水炭(水分0%の多孔質炭)に対するwt%(重量比)である。
【0037】
図2に示すように、加熱前(乾燥工程前)の多孔質炭には溶媒油が16wt%含まれ、190℃での脱油後、多孔質炭には溶媒油が3wt%残留していた。溶媒油(灯油)の沸点成分分布の測定は蒸留ガスクロ法(ASTM D2887-06)により実施した。また、多孔質炭に含まれる溶媒油の量は、試料である多孔質炭に含まれる溶媒油を二硫化炭素で抽出し、同じく上記蒸留ガスクロ法で測定した。
【0038】
また、乾燥工程後の多孔質炭に含まれる溶媒油の沸点成分分布を四角印で示したように、190℃以下の溶媒油の沸点成分はほぼ完全に除去され、かつ、190℃よりも高い沸点成分もほとんど除去され、そして3wt%の溶媒油が多孔質炭に残っている。溶媒油においては、沸点がケーキの加熱温度より高い成分といえどもまったく蒸発しないのではなく、その蒸気圧に応じて蒸散が起きていることがわかる。すなわち、加熱温度によって乾燥工程後の多孔質炭に残留する溶媒油成分があり、溶媒油の沸点成分分布によってその残留量が異なることがわかった。そこで、190℃でケーキを加熱して多孔質炭に残留する溶媒油をさらに減少させるためには、加熱温度190℃よりも約40℃以上高い沸点成分、すなわち230℃以上の沸点成分をあらかじめ除去しておけば、乾燥工程後の多孔質炭に含まれる溶媒油を約半減できる(約50%にすることができる)ことがわかる。すなわち、循環配管44に供給する溶媒油において(図1参照)、ケーキの加熱温度である190℃よりも40℃以上高い沸点成分を当該溶媒油全体の1wt%程度以下とすることにより、蒸発しにくいすなわち多孔質炭に残留しやすい溶媒油の成分は、あらかじめ溶媒油から除去されることになる。その結果、乾燥工程後の多孔質炭に残留する溶媒油の量を少なく抑えることができ、多孔質炭表面に熱変質が起きる程度にケーキの加熱温度を高くするなどすることなく、使用する溶媒油を従来よりも多く回収することができる。
【0039】
また、本発明者らは、乾燥工程におけるケーキの加熱温度と、乾燥工程後の多孔質炭である改質多孔質炭の付着力との関係を分析した。その分析結果を図3に示す。図3は、ケーキの加熱温度と付着力係数との関係を示すグラフである。ここで、多孔質炭は、乾燥工程を経て改質多孔質炭となり、その改質多孔質炭はブリケットに成型される。ブリケットに成型された改質多孔質炭は、成型固形燃料として利用される。なお、改質多孔質炭は粉末状のまま粉末固形燃料として利用される場合もある。図3におけるケーキの加熱温度は、乾燥機4の出口における改質多孔質炭の温度とした。
【0040】
図3に示したように、ケーキの加熱温度が高くなるほど、改質多孔質炭の付着力が低下することがわかる。一方、改質多孔質炭に残留する溶媒油の量を減らすためには、ケーキの加熱温度を高くするほうが望ましい。したがって、改質多孔質炭の付着力を確保するとともに改質多孔質炭に残留する溶媒油の量を減らすためには、ケーキの加熱温度は、180℃以上200℃以下にすることが好ましい。より好適には、185℃以上195℃以下にすることである。
【0041】
(循環工程)
図1に戻り、固液分離工程および乾燥工程で、脱水スラリーまたはケーキから分離回収された溶媒油は、循環油として循環配管44を経て混合槽1に戻される。混合槽1に戻された溶媒油は、混合槽1でのスラリーの調整に再利用される。なお、乾燥工程で分離回収された溶媒油を循環油として蒸発槽2に戻してもよい。
【0042】
ここで、循環油を用いるプロセスにおいて、以下に示す関係より、やがて循環油の組成は定常組成状態に移行し、プロセスの系外に排出される循環油は実質上ゼロになる。
【0043】
混合槽1に系外から供給される溶媒油の組成をA+Bとし、Aはプロセス内にとどまり循環するもの、Bはプロセスの系外に排出されるものとする。最初の循環で溶媒油の組成は次のように変化する。循環した溶媒油の組成はAだけになるので不足分はBとなる。これに新しい組成の溶媒油を不足分Bだけ添加する。そうすると第1回目の循環油である溶媒油の組成は次のようになる。
溶媒油の成分A=A+B×C
溶媒油の成分B=B×C
=A/(A+B)、C=B/(A+B)
ここで、Cは混合槽1に系外から供給される溶媒油の成分Aの濃度、Cは混合槽1に系外から供給される溶媒油の成分Bの濃度であり、ともに一定の値である。
【0044】
2回目の循環で成分Bに相当するものがプロセスの系外に排出されると、不足分はB×Cになるので、次に追加される溶媒油はB×Cとなり、2回目の循環油中の成分Bの量は、B×C×Cとなる。これを繰り返すとn回目の循環油中の成分Bの量は、B×Cとなる。ここでCは1よりも小さい値なので、nが無限大になるとn回目の成分Bの量は限りなくゼロに近くなる。
【0045】
ここで、前記したように、プロセスの系外から循環配管44に供給する溶媒油において、ケーキの加熱温度(脱油温度)よりも40℃以上高い沸点成分を当該溶媒油全体の1wt%程度以下とすることにより、多孔質炭に残留する溶媒油を減らすことができ、先に示した循環による循環油の定常組成状態を実現する(プロセスの系外に排出される循環油の量が実質的にゼロとなる)までの循環回数を大きく減少させることができる。
【0046】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施の形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々に変更して実施することが可能なものである。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の一実施形態に係る固形燃料の製造装置を示すブロック図である。
【図2】乾燥工程前および乾燥工程後の多孔質炭に含まれる溶媒油の濃度を沸点成分ごとにその累積値で示したグラフである。
【図3】ケーキの加熱温度と付着力係数との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0048】
1:混合槽
2:蒸発槽
3:固液分離機
4:乾燥機
5:凝縮器
6:乾燥装置
100:固形燃料の製造装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重質油および溶媒油を含む混合油と多孔質炭とを混合してスラリーを得る混合工程と、
前記スラリーを加熱して脱水し、脱水スラリーを得る蒸発工程と、
前記脱水スラリーから前記溶媒油を分離してケーキを得る固液分離工程と、
前記ケーキを加熱して、当該ケーキからさらに前記溶媒油を分離する乾燥工程と、
前記固液分離工程および前記乾燥工程で分離回収された前記溶媒油を循環させる循環工程と、を備え、
前記混合工程で用いる前記溶媒油の成分のうち、前記ケーキの加熱温度よりも40℃以上高い沸点成分を、当該溶媒油全体の1%以下としていることを特徴とする、固形燃料の製造方法。
【請求項2】
前記ケーキの加熱温度が、180℃以上200℃以下であることを特徴とする、請求項1に記載の固形燃料の製造方法。
【請求項3】
重質油および溶媒油を含む混合油と多孔質炭とを混合してスラリーを得る混合槽と、
前記スラリーを加熱して脱水し、脱水スラリーを得る蒸発手段と、
前記脱水スラリーから前記溶媒油を分離してケーキを得る固液分離機と、
前記ケーキを加熱して、当該ケーキからさらに前記溶媒油を分離する乾燥装置と、
前記固液分離機および前記乾燥装置により分離回収された前記溶媒油を循環させる循環手段と、を備え、
前記混合槽へ供給される前記溶媒油の成分のうち、前記ケーキの加熱温度よりも40℃以上高い沸点成分が、当該溶媒油全体の1%以下とされていることを特徴とする、固形燃料の製造装置。
【請求項4】
前記ケーキの加熱温度が、180℃以上200℃以下であることを特徴とする、請求項3に記載の固形燃料の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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