説明

固形燃料の製造方法及び該製造方法により作製された固形燃料

【課題】製造コストが削減され環境負荷が低減されると共に、搬送等のために高強度化が実現され自然発火が抑制された改質固形燃料の製造方法及び該製造方法により作製された改質固形燃料を提供する。
【解決手段】低品位炭を粉砕し、粉砕した前記低品位炭を溶媒油分と混合してスラリーを調製し、前記スラリーを水の沸点以上に加熱して、前記スラリー中に含まれる水分を蒸発させ、前記スラリーから溶媒油分を分離して粉炭を作製し、前記粉炭を圧縮成型して固形燃料を製造するに際し、前記スラリーを水の沸点以上に加熱することにより、前記溶媒油分で、前記低品位炭に含まれる非揮発性成分を抽出、さらには抽出された非揮発性成分によって低品位炭の外表面及び細孔内の内表面を被覆し、外部から添加される重質油分の含有率を、乾燥後の固形燃料に対して0.5質量%未満、好ましくは実質的に0%とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低品位炭を原料とする改質固形燃料の製造方法及び該製造方法により作製された改質固形燃料に関する。
【背景技術】
【0002】
固形燃料は、例えば火力発電等の燃料として好適に用いられるものである。
現在火力発電用の燃料としては瀝青炭が使用されているが、瀝青炭の生産は年々増加しており、瀝青炭の枯渇が危ぶまれている。そのため、これに代わる低品位炭の有効利用が緊急課題となっている。
【0003】
低品位炭では発熱量が低く自然発火性があるため、利用が限られているが、これを有効利用する手段の一つとして改質褐炭プロセス(以下UBCプロセスと記す)が用いられている。これまで、低品位炭を改質するプロセスはいくつか開発されたが、多くは処理条件が高温、高圧であり装置コストが高い、あるいは、低品位炭の化学変化を伴うために、熱分解物質を多く含む排水が発生することで廃水処理負担が大きいといった理由により実用化が困難であった。
【0004】
本出願人は、このようなUBCプロセスとして、低品位炭を原料とし、その細孔内に、重質油分と溶媒油分を含む混合油を含有させ、上記重質油分の含有量が対無水炭重量比で0.5%〜30%である固形燃料を既に開示している(特許文献1)。特許文献1の固形燃料では、低品位炭の細孔内の水分を除去するとともに重質油を当該細孔内の表面に付着させ活性点を被覆することにより、低品位炭の自然発火を抑制するとともに、重質油が低品位炭に含まれることにより高カロリー化が実現されている。重質油分を溶媒油分に溶解させ低粘性化を図ることにより、重質油分の細孔内への充填が良好に行われ、それにより細孔内の活性点の被覆および高カロリー化が実現されている。
【0005】
ところで、粉状の改質炭は、そのまま燃料として消費されることはまれであり、通常は塊状の石炭に圧縮成型された後、消費地(例えば火力発電所等)まで輸送される。この塊状の石炭の強度が低い場合、輸送の間、又は積み卸し作業の間に割れや粉化が起こり、製品の一部が損失されるとともに、自然発火性の増加も懸念される。したがって、この成型後の塊状の石炭には、高い強度が要求されることになる。
【0006】
加えて、製造コスト低減のため、また環境負荷低減のためには、外部から添加する成分の比率をできるだけ低く抑えるか、あるいはゼロにすることが望ましい。
【特許文献1】特許第2776278号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、叙上に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、製造コストが削減され環境負荷が低減されると共に、搬送等のために高強度化が実現され自然発火が抑制された改質固形燃料の製造方法及び改質固形燃料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、高温の油中に浸漬することにより、低品位炭に含まれる水分を蒸発させることができるだけでなく、当該高温の油により、元々低品位炭に含まれる非揮発性成分が抽出され、当該成分が重質油分の代替の機能を発現しうることを見出した。当該成分は重質油分と同様低品位炭の活性点を被覆し自然発火を抑制する機能を有するため、重質油分の外部からの添加率を低減することができる。
【0009】
さらに研究を重ねると、粉砕された低品位炭の表面に上記重質油分が付着しない場合、成型前の粉炭同士の付着性が向上し、成型された固形物の強度を向上させることができるという知見を得た。
【0010】
本発明は、上記知見に基づきなされたものであり、その要旨とするところは、低品位炭を粉砕する工程と、粉砕した前記低品位炭を溶媒油分と混合してスラリーを調製する工程と、前記スラリーを水の沸点以上に加熱して、前記スラリー中に含まれる水分を蒸発させる工程と、前記スラリーから溶媒油分を分離して粉炭を作製する工程と、前記粉炭を圧縮成型する工程と、を備える固形燃料の製造方法において、
前記スラリーを水の沸点以上に加熱することにより、前記溶媒油分で、前記低品位炭に含まれる非揮発性成分を抽出、さらには抽出された非揮発性成分によって低品位炭の外表面及び細孔内の内表面を被覆し、
外部から添加される重質油分の含有率を、乾燥後の固形燃料に対して0.5質量%未満、好ましくは実質的に0質量%とすることを特徴とする改質固形燃料の製造方法にある。
【0011】
また、本発明は、粉砕された低品位炭が圧縮成型されてなる固形燃料であって、前記低品位炭の外表面及び細孔内の内表面が、低品位炭に含まれる非揮発性成分により被覆され、重質油分の含有率が、固形燃料に対して0.5質量%未満、好ましくは実質的に0質量%とされることを特徴とする固形燃料にある。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、元々低品位炭に含まれる非揮発性成分が高温の油により溶解され、当該成分が重質油分の代替の機能を発現することから、重質油分の外部からの添加率を低減することができ製造コストを削減することができるとともに環境への悪影響を抑えることができる。さらに、本発明によれば、上述のように、粉炭同士の付着性を低下させる重質油分の添加率を低減させることができるため、そのことにより成型された固形物の強度を向上させることができる。
【0013】
したがって、本発明によれば、製造コストが削減され環境負荷が低減されると共に、搬送等のために高強度化が実現された改質固形燃料の製造方法及び該製造方法により作製された改質固形燃料を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら、本発明に係る改質固形燃料の製造方法及び該製造方法により作製された改質固形燃料に関して詳細に説明する。しかしながら、以下に示す実施の形態は、本発明を例示するものであって、限定するものではない。なお、各図において、共通する部材、構成要素については同一の符号を付し重複した説明を省略する。
【0015】
(実施の形態1)
本発明に係る改質固形燃料の製造方法は、低品位炭を粉砕し、粉砕した前記低品位炭を溶媒油分と混合してスラリーを調製し、前記スラリーを水の沸点以上に加熱して、前記スラリー中に含まれる水分を蒸発させ、前記スラリーから溶媒油分を分離して粉炭を作製し、前記粉炭を圧縮成型する固形燃料の製造方法において、前記スラリーを水の沸点以上に加熱することにより、前記溶媒油分で、前記低品位炭に含まれる非揮発性成分を抽出、さらには抽出された非揮発性成分によって低品位炭の外表面及び細孔内の内表面を被覆し、外部から添加される重質油分の添加率を、乾燥後の固形燃料に対して(即ち対無水炭比で)0.5質量%未満、好ましくは実質的に0質量%とすることを特徴とする。
【0016】
本発明に係る固形燃料の製造方法によれば、粉砕した低品位炭に混合される油が溶媒油分として機能し、元々低品位炭に含まれる非揮発性成分が高温の油により抽出され、当該非揮発性成分が重質油分の代替の機能を発現することから、重質油分の外部からの添加率を低減することができる。しかも、重質油分の添加量を減少させているにも拘わらず、重質油分を添加する場合と同様自然発火を抑えることができる。さらに、本発明に係る固形燃料の製造方法によれば、粉炭同士の付着性を低下させる重質油分の添加率を低減することができるため、成型された固形物の強度を向上させることができる。
【0017】
図1は、本発明に係る改質固形燃料の製造方法のプロセスフローである。本発明に係る改質固形燃料の製造方法を図1を用いて詳細に説明する。図2は、本発明の改質固形燃料の製造方法を実施する改質固形燃料の製造装置の一例を示す模式図である。本発明に係る改質固形燃料の製造方法は、低品位炭粉砕・スラリー調製工程、脱水工程、固液分離工程、圧縮成型工程を備える。その他、固液分離工程と圧縮成型工程との間に、乾燥された固形分を冷却する冷却工程をさらに備えていても良い。
【0018】
ここで、粉砕後の低品位炭のスラリー調製工程は、図1のプロセスフローにおける混合部に相当し、図2の改質固形燃料の製造装置の混合槽1内で行われる。また、脱水工程は、図1のプロセスフローにおける脱水部に相当し、図2の製造装置の蒸発器7および気液分離器5内で行われる。さらに、固液分離工程は、図1のプロセスフローにおける固液分離部(機械分離及び加熱分離)に相当し、図2の製造装置の機械的固液分離器(遠心分離器)10、スクリュープレス11および乾燥機12内で行われる。そして、圧縮成型工程は、図1のプロセスフローにおける成型部に相当し、製造装置の圧縮成型機(不図示)内で行われる。本発明の改質固形燃料の製造方法を実施する改質固形燃料の製造装置は、溶媒油分を含む混合油を低品位炭と混合して原料スラリーを調製する混合槽1と、この原料スラリーを水分蒸発処理する蒸発器7および気液分離器5と、この水分蒸発処理されたスラリーを固液分離する機械的固液分離器(遠心分離器)10、スクリュープレス11および乾燥機12と、乾燥させた粉末状の固形燃料を圧縮成型されて成型固形燃料を作製する圧縮成型機(不図示)と、を有する。
以下各工程について詳細に説明する。
【0019】
1.低品位炭粉砕・スラリー調製工程
図1及び図2に示すように、原料の低品位炭を粉砕した後、これを混合部、即ち混合槽1に供給し、混合槽1で、粉砕された低品位炭を溶媒油分を含む油と混合して原料スラリーを調製する。この低品位炭と混合する溶媒油分としては、低品位炭に含まれる非揮発性成分を抽出することができれば種々のものを用いることができる。当該溶媒油分としては、非揮発性成分及び重質油分との親和性、スラリーとしてのハンドリング性、細孔内への進入容易性等の観点から軽沸油分が好ましいが、水分蒸発温度での安定性を考慮すれば、沸点100℃以上、好ましくは400℃以下の石油系油を使用することが推奨される。この石油系油を例示すれば、灯油、軽油、重油が挙げられ、一方石炭液化油であってもよい。好適には灯油を用いることができる。
【0020】
ここで、溶媒油分には、重質油分が混合されていても良いが、混合槽1への油の添加による重質油分の添加量は、固形燃料(固液分離により得られるケーキを乾燥機で油分蒸発処理したもの)での重質油分の付着量が、この固形燃料中の乾燥ベースでの低品位炭(改質炭)に対して、即ち対無水炭比で0.5質量%未満、好ましくは実質的に0質量%となるように調整することが肝要である。
【0021】
また、図1に示すように、脱水部、固液分離部(機械分離)や固液分離部(加熱分離)から排出される油分等を循環油として混合部に向けて循環させ、この循環油に溶媒油分及び重質油分を添加してもよい。この場合も、重質油分の添加量は、上記同様、固形燃料(固液分離により得られるケーキを乾燥機で油分蒸発処理したもの)での重質油分の付着量が、この固形燃料中の乾燥ベースでの低品位炭(改質炭)に対して、即ち対無水炭比で0.5質量%未満、好ましくは実質的に0質量%となるように調整することが肝要である。
【0022】
本発明において、低品位炭とは、多量の水分を含有し、脱水することが望まれる石炭のことであり、例えば、乾燥ベースで、少なくとも20質量%の水分を含む石炭を意味する。勿論、当該低品位炭には、高品位炭等が含まれていても良い。かかる低品位炭としては、例えば、褐炭、亜炭、亜れき青炭等が挙げられる。例えば、褐炭には、ビクトリア炭、ノースダコタ炭、ベルガ炭等があり、亜れき青炭には、西バンコ炭、ビヌンガン炭、サマランガウ炭等がある。低品位炭は上記例示のものに限定されず、多量の水分を含有し、脱水することが望まれるものであれば、いずれも本発明に係る低品位炭に含まれる。
【0023】
また、本発明において、非揮発性成分とは、元々低品位炭に含まれる非揮発性の油分であって、この抽出後、低品位炭の外表面を覆うとともに、その細孔内の内表面を覆うものである。このように、非揮発性成分により低品位炭の細孔内における活性点が被覆されるため、当該非揮発性成分は自然発火を抑制することができる。このような非揮発性成分としては、芳香族系の高分子有機化合物が挙げられる。
【0024】
本発明において、重質油分とは、真空残さ油のように、例えば400℃でも実質的に蒸気圧を示すことがないような重質分あるいはこれを含む油のことであり、上述の非揮発性成分と同様、低品位炭の細孔内において活性点を被覆することにより自然発火を抑制する機能を有する。これを例示すれば、石油アスファルト、天然アスファルト、および脂肪族系高分子有機化合物、芳香族系高分子有機化合物等が挙げられる
【0025】
また、本発明において、溶媒油分とは、重質油分を溶解し重質油分の低粘性化を図ることができそれにより低品位炭の細孔内への含浸を容易にする油分であって、さらに低品位炭に含まれる非揮発性成分を抽出することができるものである。また、溶媒油分は、非揮発性成分を溶解しその低粘性化を図ることができ、それにより低品位炭の細孔内への含浸を容易にすることができるものでもある。
【0026】
しかしながら、当該重質油分は、粉末状の固形燃料を圧縮成型した場合に、当該圧縮成型された固形燃料自体の機械的強度を低下させるため、できるだけ少ないことが好ましい。上述したように、重質油分の添加量は、固形燃料(固液分離により得られるケーキを乾燥機で油分蒸発処理したもの)での重質油分の付着量が、この固形燃料中の乾燥ベースでの低品位炭(改質炭)に対して(対無水炭比で)、0.5質量%未満、好ましくは実質的に0質量%となるように調整することが好ましい。ここで、図5に重質油分(具体的にはアスファルト)の質量分率(対無水炭比)[質量%]と成型品強度[kg重]との関係を示す。横軸は、重質油分(具体的にはアスファルト)の質量分率(対無水炭比)[質量%]であり、縦軸は、成型品強度[kg重]である。図5に示すように、固形燃料での重質油分の付着量を0質量%〜0.5質量%とすれば、成型後の固形燃料の強度を約68kg重〜約87kg重とすることができる。特に、当該付着量が0質量%の場合、成型後の固形燃料の強度が約87kg重となり、最も大きい強度が得られるため好ましい。成型固形燃料が粉化すれば固形燃料の活性点の空気との接触機会が増加し、自然発火性の増加が懸念されるが、上述のように重質油分の付着量を0質量%〜0.5質量%として成型固形燃料の強度を高めれば、自然発火を防止することができる。
【0027】
本発明に係る混合槽としては、その種類は特には限定されず、種々のものを用いることができるが、通常は軸流型攪拌機等を用いることが好ましい。
【0028】
当該低品位炭粉砕・スラリー調製工程によって、粉砕された低品位炭と溶媒油分を含む油とを混合して原料スラリーを調製することができる。
【0029】
2.脱水工程
上述のようにして得られた原料スラリーをポンプ2により予熱器3、4に搬送し、これを予熱器3、4で予熱する。その後、蒸発器7で原料スラリーを昇温させる。蒸発器7内では、1〜40気圧(好ましくは2〜5気圧)、100℃〜250℃(好ましくは120℃〜160℃)に加圧加熱されて油中脱水が行われる。蒸発器7において、原料スラリーが上記のように水の沸点以上に加熱されることにより、水蒸気が除去されるとともに、低品位炭に含まれる非揮発性成分が、原料スラリーに含まれる溶媒油分により抽出される。このように、低品位炭に含まれる非揮発性成分が抽出され、当該非揮発性成分が重質油分の機能を代替するため、上述のように添加する重質油分の量を低減することができる。
【0030】
このようにして原料スラリーは、気液分離器5に搬送され、気液分離器5で原料スラリーの水分が蒸気として除去される。水蒸気を分離した後、スラリーは、その底部から抜き出され、ポンプ6によって遠心分離器10の方向に搬送される。搬送ラインの途中から一部を分岐させ、蒸発器7を通して昇温させた後、気液分離器5に返送する。一方、蒸発器7で発生した水蒸気のうち気液分離により得た気相分を圧縮機8を通して昇圧し、その熱エネルギーによって蒸発器7にてスラリーを加熱し油中脱水を行う。この気相分は引き続き予熱器3に移送して、原料スラリーの予熱源として利用した後、油水分離器9で油水分離して水は廃棄される。この油水分離で回収した油はそれ程多量ではないが、混合槽1に戻して再利用される。
【0031】
当該脱水工程では、脱水処理が行われるため、原料スラリーを水の沸点以上に加熱することが必要であるが、さらに、原料スラリーに含まれる溶媒油分により非揮発性成分が抽出され、抽出されることが必要であるため、原料スラリーを100℃以上に加熱することが好ましい。常圧で水を蒸発させるには、最低100℃の加熱が必要となるが、装置を小型化するためには、常圧よりも加圧して運転することがある(気相の容積が減少する)。また、圧縮機のサイズを合理的な大きさとするために、プロセスの圧力を常圧よりも加圧することがある。加圧すると、水の沸点が上昇するために、加熱温度を100℃以上にする必要がある。例えば、0.4MPaの加圧状態で運転する場合には、145℃以上に加熱して水を蒸発させる必要がある。一方、必要以上に温度を高くすると、水だけでなく、溶媒油まで蒸発してしまうことになる。本プロセスにおいては、溶媒油の蒸発はできるだけ低減させること必要がある。したがって、運転圧力下での水の沸点よりも数℃程度高い温度で運転することが合理的となる。なお、石炭の非揮発性成分を抽出するという観点からは、温度は高い方が好ましい。
【0032】
本発明に係る蒸発器7については、その種類は特には限定されず、種々のものを用いることができるが、例示すれば、加熱方式のもの、減圧方式のもの、あるいは、加熱および減圧方式のもの等が挙げられる。例えば、フラッシュ蒸発型、コイル型、強制循環式垂直管型等の蒸発器を用いることができる。通常は熱交換器を付帯した強制循環型等の蒸発器を用いることが好ましい。
【0033】
上述のように、当該脱水工程によって、低品位炭に含まれる水分を蒸発させ、これにより水蒸気を除去することができるとともに、原料スラリーに含まれる溶媒油分により、低品位炭に含まれる非揮発性成分が抽出される。
【0034】
3.固液分離工程
上述のように、水分蒸発処理した後、水分蒸発処理されたスラリーを固液分離部(機械分離)に搬送し、機械的固液分離器により固液分離する。この機械的固液分離器としては、その種類は特には限定されず、種々のものを用いることができる。例示すれば、遠心分離機、圧搾機、沈降槽、ろ過機等が挙げられる。本実施の形態においては、まず遠心分離器10による濃縮、さらにスクリュープレス11による圧搾が行われるが、遠心分離器のみ、あるいはスクリュープレスのみで済ませることもできるし、遠心分離器に代えて、沈降分離を採用しても良く、また圧搾に代えて、真空濾過を採用することもできる。固液分離によって得た油は循環油として混合槽1に返送しても良い。
【0035】
これにより分離された固体分(ケーキ)を固液分離部(加熱分離)に搬送し、乾燥機12にてキャリアガスを流しながら加熱して油分を蒸発させ、これにより固形燃料を得る。
この加熱分離工程において、石炭表面及び石炭の細孔が非揮発性成分により被覆される。すなわち、溶媒油分が蒸発する一方、石炭に含まれていた非揮発性成分(重質油分)は蒸発しないために、石炭の表面や細孔内に残留することになる。
この乾燥は、流動層方式あるいはロータリードライヤ方式が推奨される。ここからキャリアガスによって搬出分離された油は凝縮器13に送られ、油分として回収された後、潤滑油として混合槽1に返送してもよい。
【0036】
上述のように、当該固液分離工程によって、スラリーを機械的固液分離器により固液分離し、固体分に含まれる油分を乾燥機にて蒸発させ、これにより粉末状の固形燃料を得ることができる。
【0037】
4.圧縮成型工程
上述のようにして得られた粉末状の固形燃料は、乾燥機から成型部に送られ、圧縮成型機(不図示)により圧縮成型されて成型固形燃料となる。この圧縮成型機を例示すれば、打錠成型機(タブレッティング)やダブルロール成型機(ロールプレス)等が挙げられるが、通常はダブルロール成型機を用いることが好ましい。当該圧縮成型工程により、圧縮成型された成形固形燃料を作製することができる。
【0038】
上記方法によれば、重質油分の添加量が減少しているにも拘わらず、重質油分を添加する場合と同様自然発火を抑えることができ、成型された固形物の強度を向上させることができる。
【実施例】
【0039】
実施例1:低品位炭に含まれる非揮発性成分の性質について
油中で石炭の脱水を行う際に、アスファルトのような非揮発性の重質油を共存させておくことにより石炭の細孔にアスファルトが効果的に吸着され、自然発火性が抑制されると報告されている(特許第2776278号)。
【0040】
本発明者らは、石炭の一部の非揮発性成分が高温の油中に溶解し抽出されることから、この溶解された非揮発性の成分がアスファルト代替機能を発現するのではないかと考えた。
【0041】
そこで、高温の溶媒油分(灯油)への石炭(インドネシア産褐炭)の溶解度を測定した。手順は次の通りである。
1)室温下で粉砕炭(1mm径以上のものが10質量%以下)と灯油とを丸底フラスコにおいて混合した。
2)丸底フラスコをヒータに入れ、徐々に加熱し、2時間かけて試料を140℃まで昇温させた。このとき、フラスコ内を不活性雰囲気とするために200cm/分の窒素ガスを供給した。また、この間に、蒸発した石炭中の水分を丸底フラスコの上部から蒸気として抜き出し、冷却管で凝縮させて液体(水)として系外に抜き出した。丸底フラスコ内の試料は140℃で1時間保持した。
3)次いで、丸底フラスコ内の試料を高温状態のまま加圧ろ過し(0.1MPaの窒素ガスで加圧)、固相と液相とを分離した。
4)分離後の液相を一端冷却した後、蒸留装置のフラスコに注入し、下記の条件で減圧蒸留を行って灯油を蒸発させて系外に抜き出し、蒸発残渣、すなわち灯油に溶解した石炭の非揮発性成分を回収した。
圧力:10mmHg
昇温速度:2℃/分
最終到達温度:159℃(最終温度到達後、蒸気の発生がなくなるまで保持する:60分)
【0042】
図3に測定結果を示す。ここで、s/cは仕込み灯油重量と石炭重量(乾燥ベース)の比を表す。石炭重量減少率は、仕込みの乾燥炭重量に対して、灯油に溶解した成分の重量分率を表す。図3に示すように、140℃の灯油中に原料石炭の少なくとも1%が溶解することが分かった。
【0043】
なお、別の炭種でも同様に140℃の灯油中に原料石炭の少なくとも1%が溶解することが分かった。
【0044】
この石炭から灯油に溶解した成分は非揮発性の重質油分であり、従来技術で外部から添加していたアスファルトのような重質油分と性質が非常に類似していることから、外部から重質油分を添加することなく、低品位炭改質プロセスを構築することができることが分かった。
【0045】
実施例2:プロセスフローについて
続いて、一例として、定常状態におけるプロセスフローを物質収支とともに図4に示す。図4中の数量は、質量流量を示す。ここで、DCは無水炭、SCは石炭に含まれる非揮発性成分、Wは水、Oは灯油を示す。原料炭のうち、約1%が灯油に可溶であり、循環する灯油中で、その濃度は経時的に高められる。脱水部においては、石炭のうち、1%は高温の灯油に溶解する。一方、固液分離部(機械分離)において、一部の灯油が石炭の表面および細孔内に残留する。その灯油中には、石炭の灯油可溶成分、すなわち石炭に含まれる非揮発性成分が約3%含まれるため、次の固液分離部(加熱分離)において、灯油が蒸発分離されるのに対して、非揮発性である石炭の灯油可溶成分は、石炭の表面及び細孔に残留することになる。
【0046】
従来技術において、重質成分(アスファルト)を添加しているのは、製品炭の自然発火を抑制することを狙いとしている。そのため、製品に残留する質量成分の割合を例えば1質量%としている。そこで、同等の品質の製品を得るために石炭中の灯油に可溶な非揮発性成分が、製品に1質量%残留するようにする。そのためには、図4の機械的固液分離工程(遠心分離)において、固相側に含まれる無水炭(DC)と灯油に可溶な非揮発性成分(SC)の重量比が99:1となるようにすればよい。このとき、機械的固液分離工程(遠心分離)に供給されるスラリー中の非揮発性成分と灯油の質量比は、4.5:157、つまり、おおよそ3:100である。したがって、固相側に含まれる無水炭と灯油の比が、99:33(図4では、99:34.5)程度になるようにすれば、無水炭と灯油と石炭に含まれる非揮発性成分との重量比が、99:33:1となる。この灯油を含む固相は、次の加熱工程(乾燥工程)で灯油の大部分が気化して分離されるが、灯油に可溶な非揮発性成分は重質であるために、分離されず、そのまま石炭表面に残留することになる。連続式遠心分離機で、固相と液相との分離性能を決める主なパラメータは、回転数と平均滞留時間である。回転数が大きい程、また平均滞留時間が長い程、固相に残留する液相は少なくなる。連続式遠心分離機には、様々なサイズ、タイプがあり、所望の固液分離性能を得るための回転数と平均滞留時間は、個々に異なるため一概に決めることはできないが、本発明において、上記のように固液分離を行うことにより、無水炭に約1質量%の非揮発性成分を残留させることができ、重質油分の添加を好ましくは無くすことができる。
【0047】
実施例3:成型固形燃料の強度について
従来技術(特許第2776278号)においては、重質油分の含有量が対無水炭質量比で少なくとも0.5質量%添加するとされている。
【0048】
重質油分としてアスファルトを選択し、アスファルト質量分率(対無水炭比)を変化させて、低品位炭(インドネシア産の褐炭)を改質した後、ダブルロール成型機(古河大塚鉄工株式会社製K−205)で豆炭状の固形燃料を製造した。ダブルロール成型機の回転数は8rpmとした。その強度を圧壊強度計(古河大塚鉄工株式会社製XA−500)で測定した。
【0049】
その結果を図5に示す。図5は、重質油分(具体的にはアスファルト)の質量分率(対無水炭比)[質量%]と成型品強度[kg重]との関係を示すグラフである。横軸は、重質油分(具体的にはアスファルト)の質量分率(対無水炭比)[質量%]であり、縦軸は、成型品強度[kg重]である。図5に示すように、固形燃料での重質油分の付着量を0質量%〜0.5質量%とすれば、成型後の固形燃料の強度を約68kg重〜約87kg重とすることができる。特に、当該付着量が0質量%の場合、成型後の固形燃料の強度が約87kg重となり、最も大きい強度が得られる。成型固形燃料が粉化すれば固形燃料の活性点の空気との接触機会が増加し、自然発火性の増加が懸念されるが、上述のように重質油分の付着量を0質量%〜0.5質量%として成型固形燃料の強度を高めれば、自然発火を防止することができる。図5から、アスファルト質量分率の低い方が、成型品の強度が高く、特に0質量%、すなわちアスファルトを添加しない場合に最も高い強度が得られることが分かった。成型品強度を高めるためには、成型前の粉炭同士の付着性が高い方が好ましいが、石炭の表面にアスファルトが吸着することにより、その付着性を低下させていると考えられる。詳細な機構は不明であるが、アスファルトが石油由来(脂肪族系)であるために、石炭(芳香族系)との親和性(付着性)が劣っていると考えることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】図1は、本発明に係る改質固形燃料の製造方法のプロセスフローである。
【図2】図2は、本発明の改質固形燃料の製造方法を実施する改質固形燃料の製造装置の一例を示す模式図である。
【図3】図3は、灯油に溶解した石炭の非揮発性成分についてのグラフである。
【図4】図4は、定常状態におけるプロセスフローを示している。
【図5】図5は、重質油分(具体的にはアスファルト)の質量分率(対無水炭比)[質量%]と成型品強度[kg重]との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0051】
1 混合槽
2 ポンプ
3 予熱器
4 予熱器
5 固液分離器
6 ポンプ
7 蒸発器
8 圧縮機
9 油水分離器
10 遠心分離器
11 スクリュープレス
12 乾燥機
13 凝縮器
14 ポンプ
15 クーラー
16 ヒーター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
低品位炭を粉砕する工程と、
粉砕した前記低品位炭を溶媒油分と混合してスラリーを調製する工程と、
前記スラリーを水の沸点以上に加熱して、前記スラリー中に含まれる水分を蒸発させる工程と、
前記スラリーから溶媒油分を分離して粉炭を作製する工程と、
前記粉炭を圧縮成型する工程と、を備える固形燃料の製造方法において、
前記スラリーを水の沸点以上に加熱することにより、前記溶媒油分で、前記低品位炭に含まれる非揮発性成分を抽出、さらには抽出された非揮発性成分によって低品位炭の外表面及び細孔内の内表面を被覆し、
外部から添加される重質油分の含有率を、乾燥後の固形燃料に対して0.5質量%未満とすることを特徴とする固形燃料の製造方法。
【請求項2】
前記重質油分を実質的に添加しないことを特徴とする請求項1記載の固形燃料の製造方法。
【請求項3】
粉砕された低品位炭が圧縮成型されてなる固形燃料であって、
前記低品位炭の外表面及び細孔内の内表面が、低品位炭に含まれる非揮発性成分により被覆され、重質油分の含有率が、固形燃料に対して0.5質量%未満とされることを特徴とする固形燃料。
【請求項4】
前記重質油分を実質的に含有しないことを特徴とする請求項3記載の固形燃料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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