説明

固形状乳酸醗酵飼料とその製造方法及び製造設備

【課題】乳酸菌を高濃度で含む固形状乳酸醗酵飼料とその効率的な製造方法及び製造設備を提供する。
【解決手段】固形状乳酸醗酵飼料は、破砕された野菜屑とふすまなどの水分調整用乾燥原料との混合物を乳酸醗酵させ、乳酸菌をその生菌数が1×10cfu/gを超えるように増殖させたものである。製造方法は、野菜屑Vを破砕機1破砕して滅菌器2で滅菌し、滅菌した野菜屑の一部を乳酸菌培養器3に導入して乳酸菌を培養し、この乳酸菌培養物と、滅菌した野菜屑の残部と、ふすまFなどの水分調整用乾燥原料を少なくとも混合機4で混合して固形状混合物とし、この固形状混合物を袋詰め機5で袋9に充填すると共に袋内を脱気又は窒素ガスに置換して密封し、袋内で乳酸醗酵させて乳酸菌をその生菌数が1×10cfu/gを超えるように増殖させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の食品廃棄物を乳酸醗酵させて乳酸菌を著しく増殖させた固形状乳酸醗酵飼料と、その製造方法及び製造設備に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、乳酸醗酵飼料は炎症の抑制、免疫能力の向上、蛋白質代謝の改善などが期待できる機能性飼料として注目されるようになり、食品廃棄物を有効利用して乳酸醗酵飼料を生産する研究が行われるようになってきた。このような機能性の乳酸醗酵飼料は、乳酸菌を高密度で含むものが好ましく、特に、生菌数が1.0×10cfu/gを超える乳酸醗酵飼料は極めて好適なものである。
【0003】
しかしながら、豆腐粕、ふすま等の食品廃棄物を原料とする固形状の乳酸醗酵飼料は、乳酸菌の増殖があまり活発でなく、生菌数が1.0×10cfu/gを超えるように乳酸醗酵させることは難しい。また、現在、良質とされているサイレージでも、乳酸菌の生菌数は1.0×10cfu/g〜1.0×10cfu/g程度であり、乳酸菌の不足は否めない。
【0004】
ところで、食品廃棄物を原料とする醗酵飼料の一つとして、ふすま・ぬか類、油かす類、農産製造かす類などの食品廃棄物(可食性粉粒体)と、乳酸桿菌および放線菌を含有する生菌液とを混合し、これを10〜35℃で嫌気条件下に醗酵させたものが提案されている(特許文献1)。この醗酵飼料は、排泄物の臭気を減少させ、排泄物の堆肥化を促進する効果があると言われるものであるが、乳酸菌数は測定されてなく、用いる原料から考察する限りでは、前記の豆腐粕、ふすま等の食品廃棄物を原料とする乳酸醗酵飼料の乳酸菌数と同程度もしくはそれ以下と推測される。
【0005】
以上のように、従来の固形状の乳酸醗酵飼料には、乳酸菌の生菌数が安定して1.0×10cfu/gを超えるようなものが見当たらず、それ故、酪農業界や畜産業界では、乳酸菌をこれまで以上の高濃度で含む高機能性の固形状乳酸醗酵飼料の早期開発を望む声が大きくなっている。
【特許文献1】特開平11−243867号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記事情の下になされたもので、その解決しようとする第一の課題は、食品廃棄物の中から少なくとも二種の特定廃棄物を選択し、その混合物を乳酸醗酵させることによって、乳酸菌を従来よりも高濃度で含む固形状乳酸醗酵飼料を提供することにある。
【0007】
そして、本発明が解決しようとする第二及び第三の課題は、上記の固形状乳酸醗酵飼料の効率的な製造方法、及び、この製造方法を実施するための製造設備を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第一の課題を解決するため、本発明に係る固形状乳酸醗酵飼料は、破砕された野菜屑とふすまなどの水分調整用乾燥原料との混合物を乳酸醗酵させ、乳酸菌をその生菌数が安定して1×10cfu/gを超えるように増殖させて成るものである。
【0009】
本発明の固形状乳酸醗酵飼料においては、野菜屑とふすまなどの水分調整用乾燥原料との混合物に豆腐粕と廃シラップが更に混合されていることが好ましく、更にミネラルも混合されていることが好ましい。そして、豆腐粕はパン酵母と糖類を散布して密封保存されたものであることが好ましく、乳酸菌はラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)であることが好ましい。また、本発明の固形状乳酸醗酵飼料は、袋に充填されて密封され、袋内が脱気又は窒素ガスに置換されたものであることが好ましい。
【0010】
次に、第二の課題を解決する本発明の製造方法は、野菜屑を破砕して滅菌し、滅菌した野菜屑の一部で乳酸菌を培養し、この乳酸菌培養物と、滅菌した野菜屑の残部と、ふすまなどの水分調整用乾燥原料とを混合して固形状混合物とし、この固形状混合物を袋に充填すると共に袋内を脱気又は窒素ガスに置換して密封し、袋内で乳酸醗酵させて乳酸菌をその生菌数が1×10cfu/gを超えるように増殖させることを特徴とするものである。
【0011】
本発明の製造方法においては、破砕した野菜屑に廃シラップを加えて滅菌することが好ましく、また、乳酸菌培養物と、滅菌した野菜屑の残部と、ふすまなどの水分調整用乾燥原料に加えて、豆腐粕及び/又はミネラルを更に混合することが好ましい。
【0012】
更に、第三の課題を解決する本発明の製造設備は、野菜屑を破砕する破砕機と、破砕した野菜屑を滅菌する滅菌器と、滅菌した野菜屑の一部を導入して乳酸菌を培養する乳酸菌培養器と、乳酸菌培養物と滅菌した野菜屑の残部とふすまなどの水分調整用乾燥原料等を混合して固形状混合物とする混合機と、固形状混合物を袋に充填すると共に袋内を脱気又は窒素ガスに置換して密封する袋詰め機とを備えたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の固形状乳酸醗酵飼料は、ふすまなどの水分調整用乾燥原料を混合するため、飼料中の水分が水分調整用乾燥原料により適度(好ましくは50%程度)に調整されて固形状となる。そして、破砕された野菜屑を混合するため、乳酸醗酵させると乳酸菌が活発に増殖して、固形状の飼料であるにも拘わらず、乳酸菌の生菌数が1×10cfu/gを超えるようになり、後述する実験結果(図3)で裏付けられるように、培養開始後5日ほど経過した時点で生菌数が最大となる。そして、生菌数が1×10cfu/gを超える高密度の状態は、培養開始後10日程度維持される。従って、この10日経過する頃までに本発明の固形状乳酸醗酵飼料を家畜等に給餌すると、高濃度で含まれる乳酸菌によって、炎症の抑制、免疫能力の向上、蛋白質代謝の改善など、種々の機能を期待できるようになる。上記のように野菜屑を混合すると、固形状の乳酸醗酵飼料でも、乳酸菌が生菌数1×10cfu/gを超えて活発に増殖するという事実は、本発明者らによって初めて知見されたものであり、本発明の固形状乳酸醗酵飼料やその製造方法は、この知見に基づいて完成されたものである。
【0014】
本発明の固形状乳酸醗酵飼料において、野菜屑とふすまなどの水分調整用乾燥原料との混合物に豆腐粕と廃シラップが更に混合されていると、豆腐粕により蛋白態窒素が増加して栄養価が上がり、しかも、廃シラップで乳酸醗酵が促進されて乳酸菌の増殖が一層活発になる。更にミネラルが混合されていると、固形状乳酸醗酵飼料の微量必須成分のバランスが良くなって、ミネラル欠乏症を予防できるようになり、また、ミネラルは乳酸菌を培養する上でも重要な成分である。
【0015】
上記のように豆腐粕を混合する場合、豆腐粕として、表面にパン酵母と糖類を散布して密封保存した豆腐粕を使用すると、豆腐粕が保存中に腐敗し難いため、固形状乳酸醗酵飼料の品質を低下させる心配がなくなり、しかも、保存中に温度調整や水分調整をする必要がないため、保存設備の簡素化及びエネルギーコストの削減を図ることができる。尚、この豆腐粕等の食品残渣の保存方法については、本出願人が先に特許出願(特願2005−10111、特開2006−197809)をしているので、これ以上の説明は省略する。
【0016】
本発明の固形状乳酸醗酵飼料において、乳酸菌としてラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)を使用すると、牛に対して嗜好性の高い固形状乳酸醗酵飼料を得ることができる。また、本発明の固形状乳酸醗酵飼料が袋に充填されて密封され、袋内が脱気又は窒素ガスに置換されていると、上述したように袋内で乳酸菌が活発に増殖して生菌数が1.0×10cfu/gを超え、この高濃度の状態が10日程度維持されることになる。
【0017】
次に、本発明の製造方法のように、破砕して滅菌した野菜屑の一部で乳酸菌を培養し、この乳酸菌培養物と、滅菌した野菜屑の残部と、ふすまなどの水分調整用乾燥原料を混合すると、乳酸菌を培養して混合する分だけ、種菌(市販の生菌剤)の使用量が減少するので経済的である。そして、固形状混合物を袋に充填すると共に袋内を脱気又は窒素ガスに置換して密封し、袋内で乳酸醗酵させて乳酸菌を1×10cfu/gを超えるように増殖させると、大掛かりな特別の醗酵設備が不要となり、袋詰めしたまま即出荷できる利点がある。
【0018】
本発明の製造方法において、破砕した野菜屑に廃シラップを加えて滅菌すると、次の乳酸菌の培養工程で廃シラップにより乳酸菌の培養が促進され、乳酸菌を高濃度で含む乳酸菌培養物を得ることができる。そして、この乳酸菌培養物と、滅菌した野菜屑の残部と、ふすまなどの水分調整用乾燥原料に加えて、豆腐粕及び/又はミネラルを更に混合すると、蛋白態窒素を多量に含んだ栄養価の高い固形状乳酸醗酵飼料や、微量必須成分のバランスが良い固形状乳酸醗酵飼料を得ることができる。
【0019】
また、本発明の製造設備のように、野菜屑を破砕する破砕機と、破砕した野菜屑を滅菌する滅菌器と、滅菌した野菜屑の一部を導入して乳酸菌を培養する乳酸菌培養器と、乳酸菌培養物と滅菌した野菜屑の残部とふすまなどの水分調整用乾燥原料等を混合して固形状混合物とする混合機と、固形状混合物を袋に充填すると共に袋内を脱気又は窒素ガスに置換して密封する袋詰め機とを備えたものは、特別な装置が不要で簡単かつ安価に製造設備を構築でき、容易に実施できる利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の具体的な実施形態を詳述する。
【0021】
本発明の固形状乳酸醗酵飼料の代表例は、破砕され加熱滅菌された野菜屑と、ふすまなどの水分調整用乾燥原料を主原料とし、この主原料に豆腐粕と廃シラップを加えて、これらの原料と乳酸菌培養物を均一に混合し、この固形状の混合物を袋に充填すると共に袋内を脱気又は窒素ガスに置換して密封し、袋内で乳酸醗酵させて、乳酸菌をその生菌数が1×10cfu/gを超えるように増殖させたものである。この乳酸醗酵飼料においては、上記の各原料に加えてミネラルを混合してもよく、場合によっては、破砕した牧草やトーモロコシを混合してもよい。
【0022】
野菜屑は、乳酸菌をその生菌数が1×10cfu/gを超えるように活発に増殖させるために極めて重要な原料であって、キャベツ、白菜、その他の食品残渣として入手される各種の野菜屑が使用可能であり、果物屑が含まれていても差し支えない。この野菜屑は、5mm以下の粒径を有するチップ状に破砕され、且つ、85℃付近の温度で30分ほど加熱滅菌されたものが好ましく使用される。また、ふすまなどの水分調整用乾燥原料は、固形状の乳酸醗酵飼料を得るために必要な原料であって、市場で入手される小麦ふすまの他に、米ぬか、米粉、小麦粉、乾燥豆腐粕なども使用可能である。
【0023】
豆腐粕は、その有効利用を図ると共に飼料の栄養価を高める目的で混合されるものであって、前述したように、表面にパン酵母と糖類を散布し、保存用ビニル袋に投入して密封保存した、腐敗しにくい豆腐粕が好ましく使用される。そして、廃シラップは、乳酸醗酵を促進して乳酸菌の増殖を活発にする目的で混合されるものであって、果実加工工場から排出される種々の果実シラップがいずれも好ましく使用される。尚、豆腐粕や廃シラップや上記のふすまなどの水分調整用乾燥原料は、120℃付近の温度で20分程度加熱して滅菌したものが好ましく使用される。
【0024】
また、ミネラルは、飼料の微量必須成分のバランスを良くして家畜のミネラル欠乏症を予防する上で重要な成分であると同時に、乳酸菌を培養する上でも重要な成分であり、亜鉛、カリウム、カルシウム、クロム、セレン、鉄、銅、ナトリウム、マグネシウム、マンガン、ヨウ素、リンなどが少量混合される。特に、カルシウムは、家畜の骨組織の構成元素であると共に、乳酸菌を培養する際に発生する乳酸や酢酸をキレート化してpHの急激な低下を防止し、乳酸菌の培養を促進する働きがあるので重要である。
【0025】
各原料の混合割合は特に制限されないが、廃シロップの混合割合には注意が必要である。即ち、廃シロップは乳酸菌を活発に増殖させるエネルギー源として重要であるが、後述の実験結果(図1)から判るように、水分を50質量%程度含む飼料において、廃シラップの混合割合が飼料固形分の50質量%を超えると、その高い浸透圧によって乳酸菌の増殖が抑えられるため、飼料固形分の50質量%以下(飼料固形分50質量部に対して25質量部以下)、好ましくは4〜20質量%程度(飼料固形分50質量部に対して2〜10質量部程度)に設定することが大切である。
【0026】
乳酸菌の増殖に重要な役割を果たす野菜屑は多量に混合する必要がなく、後述の実験1〜3の結果から判るように、飼料固形分の5質量%程度(飼料固形分50質量部に対して2.5質量部程度)混合すれば、乳酸菌を1×10cfu/gを超える高密度で増殖させることができる。また、ふすまなどの水分調整用乾燥原料の混合割合は、飼料固形分の36〜48質量%程度(飼料固形分50質量部に対して18〜24質量部程度)に設定するのが適当であり、豆腐粕の混合割合も、水分調整用乾燥原料と略同一に設定するのが適当である。
【0027】
乳酸菌は、常温、嫌気下に安定して急激に増殖し、牛に対して嗜好性の高い乳酸醗酵飼料を得ることができるラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)が好ましく使用される。上記の原料に混合(植菌)される乳酸菌の濃度は、1×10cfu/g〜5×10cfu/g程度であれば十分であり、後述の実験結果(図2)から判るように、最低の植菌濃度1×10cfu/gでも48時間後には1×10cfu/g以上に増殖する。
【0028】
この固形状乳酸醗酵飼料は、上記濃度の乳酸菌と前記の原料を混合し、この固形状の混合物を袋に充填すると共に袋内を脱気又は窒素ガスに置換して密封し、袋内で嫌気下に常温で乳酸醗酵させたものであり、このように袋内で醗酵させると、後述する実験結果(図3)から判るように、乳酸菌が短時間で急激に増殖して生菌数が1×10cfu/gを超え、5日間ほど増殖を続けて生菌数がピークに達する。そしてピークを過ぎると生菌数が急激に減少し、10日を経過する頃までは上記の高濃度を維持するが、3週間経過した頃には生菌数が1×10cfu/g以下になって検出できなくなる。従って、この袋詰めされた固形状乳酸醗酵飼料を10日経過する頃までに家畜等に給餌すると、高濃度で含まれる乳酸菌によって、炎症の抑制、免疫能力の向上、蛋白質代謝の改善など、種々の機能を期待できることになる。
【0029】
次に、本発明の固形状乳酸醗酵飼料について行った実験について説明する。
【0030】
[実験1]
豆腐粕、キャベツ屑、廃シラップ、小麦ふすまを、下記の表1に示す混合割合で混合して、水分を50質量%含む4種類の培地(1)(2)(3)(4)を作製した。豆腐粕は表面にパン酵母と糖類を散布したものを使用し、廃シラップは栗シラップを使用し、キャベツ屑は粒径5mm以下に破砕したものを使用した。豆腐粕、廃シラップ、ふすまは、オートクレーブを用いて120℃で20分間加熱滅菌し、キャベツ屑は85℃で30分間加熱滅菌した。
【表1】

【0031】
MRS液体培地で増殖させた乳酸菌[ラクトバチルス・プランタラム(NBRC3070)]を5×10cfu/gとなるように上記の各培地に植菌し、これを遮光性プラスチック袋に充填すると共に袋内を脱気して密封し、24℃で遮光、嫌気条件下に24時間培養した。培養後、各培地中の生菌数をMRS寒天培地を用いてコロニーカウント法で測定した。その結果を図1のグラフに示す。
【0032】
図1に示すように、廃シラップの混合割合が水分を除いた培地の4〜50質量%を占める培地(1)(2)(3)では、乳酸菌が24時間で1×10cfu/g以上の高密度に増殖し、特に、廃シラップの混合割合が20質量%を占める培地(2)の乳酸菌密度が高く、次いで、廃シラップの混合割合が4質量%を占める培地(1)の乳酸菌密度が高く、廃シラップの混合割合が50質量%を占める培地(3)は乳酸菌密度が低下した。そして、廃シラップのみの培地(4)は高浸透圧のため乳酸菌の増殖が妨げられ、1×10cfu/g以下となったため検出できなかった。
【0033】
この実験結果から、廃シロップの好ましい混合割合は、前述したように4〜20質量%の範囲内であることが判る。
【0034】
[実験2]
前記表1の培地(1)を三つ作製し、MRS液体培地で培養した乳酸菌[ラクトバチルス・プランタラム(NBRC3070)]をPBSで希釈して、それぞれ1×10cfu/g、5×10cfu/g、5×10cfu/gとなるように三つの培地(1)に植菌し、実験1と同じ条件で48時間培養して、24時間経過時の生菌数と48時間経過時の生菌数を実験1と同様に測定した。その結果を図2のグラフに示す。
【0035】
図2に示すように、最も低い1×10cfu/gの植菌密度のものは、24時間経過した時点において、他の植菌密度の高いものよりも生菌数がかなり少なく、1×10cfu/gをわずかに下回っているが、48時間経過した時点では、他の植菌密度の高いものとの生菌数の差が大幅に縮まり、1×10cfu/gを超えて増殖していた。このことから、1×10cfu/g程度の乳酸菌を植菌しても、乳酸菌を1×10cfu/g以上の高密度で増殖させた乳酸醗酵飼料を製造することができ、生菌剤の使用を節減できることが判る。
【0036】
[実験3]
前記表1の培地(1)を作製し、実験1と同様に乳酸菌[ラクトバチルス・プランタラム(NBRC3070)]を5×10cfu/gとなるように上記培地(1)に植菌して、これを遮光性プラスチック袋に充填すると共に袋内を脱気して密封し、24℃で遮光、嫌気条件下に4週間に亘って培養を継続した。そして、途中で培地中の生菌数をコロニーカウント法で測定し、生菌数の経日変化を調べた。その結果を図3に示す。
【0037】
図3に示すように、培養1〜2日の間は生菌数が急激に増加して1×10cfu/gを超え、その後も増加を続けて培養5日程度でピークに達し、ピークを過ぎると急激に生菌数は減少するが、培養10日頃までは1×10cfu/g以上の高濃度を維持し、3週間経過すると生菌数が1×10cfu/g以下となって検出されなくなる。従って、乳酸菌密度の高い培養10日頃までに給餌すると、高濃度で含まれる乳酸菌によって、炎症の抑制、免疫能力の向上、蛋白質代謝の改善など、種々の機能を期待できることが判る。
【0038】
[実験4]
キャベツ屑を27質量部、ふすまを23質量部の割合で混合して、必須原料のみからなる培地(水分50質量%)を作製した。この培地に、実験1と同様に乳酸菌[ラクトバチルス・プランタラム(NBRC3070)]を5×10cfu/gとなるように植菌し、実験1と同じ条件で48時間培養して、24時間経過時の生菌数と48時間経過時の生菌数を実験1と同様に測定した。その結果、24時間経過したときの生菌数は6.525×10cfu/g、48時間経過したときの生菌数は7.075×10cfu/gであった。
このことから、野菜屑(キャベツ屑)とふすま(水分調整用乾燥原料)のみでも、乳酸菌を1×10cfu/g以上の高密度で含む乳酸醗酵飼料を得ることが可能であることが判る。
【0039】
次に、図4を参照して、本発明の一実施形態に係る固形状乳酸醗酵飼料の製造方法と製造設備について説明する。
【0040】
図4に示す製造設備は、野菜屑を5mm以下の粒径を有するチップ状に破砕する破砕機1と、この破砕された野菜屑と廃シラップを導入して加熱滅菌する滅菌器2と、この滅菌された野菜屑と廃シラップを導入して乳酸菌を培養する乳酸菌培養器3と、この乳酸菌培養物と、滅菌した野菜屑及び廃シラップの残部と、ふすまなどの水分調整用乾燥原料と、豆腐粕等を混合して固形状混合物とする混合機4と、この固形状混合物を袋に充填すると共に袋内を脱気して密封する袋詰め機5などを備えている。
【0041】
この製造設備によれば、まず、野菜屑Vが破砕機1に投入され、5mm以下の粒径を有するチップ状に破砕される。この破砕された野菜屑Vは滅菌器2に導入され、同じく滅菌器2に導入された廃シラップSと混合されて、85℃、30分の条件で加熱滅菌される。この滅菌器2は蒸気ボイラー6から供給される蒸気の熱で加熱滅菌するものである。尚、上記の野菜屑Vには果物屑が含まれていてもよい。
【0042】
滅菌された野菜屑及び廃シラップの一部は乳酸菌培養器3に導入され、残部は混合機4へ供給される。乳酸菌培養機3に導入された野菜屑及び廃シラップは、窒素ガスボンベ7から送られる窒素ガス下に、常温(20〜25℃)で、24時間、乳酸菌の培養が行われる。このように培養を24時間行うと、乳酸菌数(生菌数)が1×10cfu/g〜1×10cfu/g程度の乳酸菌培養物(液)が得られる。この乳酸菌培養器3は上記滅菌器2の2倍の容量を有するもので、24時間の培養が終わると、乳酸菌培養物の半分を混合機4に供給し、残り半分の乳酸菌培養物に、滅菌器2から供給される野菜屑及び廃シロップを加えて培養を繰り返すものである。それ故、市販の種菌(生菌剤)を1週間に1回程度補充するだけで上記密度の乳酸菌培養物が得られるので、種菌を節約することができ、経済的に有利である。
【0043】
乳酸菌培養物(液)の半分は混合機4に供給され、この乳酸菌培養物と、同じく混合機4に供給された野菜屑及びシラップと、ふすまF(水分調整用乾燥原料)と、豆腐粕Tとが、前述した混合割合で均一に混合されて、含水率が50重量%程度の固形状混合物が得られる。また、必要に応じてミネラルも混合される。尚、この図4には示されていないが、オートクレーブなどの加熱装置を設けて、ふすまFや豆腐粕Tを混合する前に120℃、20分の条件で加熱滅菌することが望ましい。
【0044】
固形状混合物は混合機4から搬送コンベア8によって袋詰め機5のホッパー5aに供給され、この袋詰め機5によって遮光性のプラスチック袋9に充填されると共に、袋内が脱気されて、プラスチック袋9が密封される。このように袋詰めすると、袋内で乳酸醗酵し、前述したように乳酸菌が1×10cfu/gを超えて活発に増殖し、乳酸菌を高密度で含む固形状乳酸醗酵飼料となる。この高密度の状態は10日程度維持されるので、袋詰め後、すぐに出荷すれば、高密度の乳酸醗酵飼料を家畜に給餌することができる。
【0045】
この実施形態では、袋内の空気を脱気するタイプの袋詰め機5を採用しているが、これに代えて、袋内の空気を窒素ガスで置換するタイプの袋詰め機を採用しても勿論よい。
【0046】
上記のように、本発明の製造方法及び製造設備は、特別な装置や高価な装置が必要でなく、しかも、袋内で乳酸醗酵させて乳酸菌を高密度で含む固形状乳酸醗酵飼料とするものであるから大掛かりな醗酵設備も不要であり、袋詰めしたまま即出荷でき、種菌(市販の生菌剤)を節約することもできるなど、経済的で容易に実施できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】実験1の結果(廃シラップの混合割合を変えた場合の乳酸菌増殖の変化)を示すグラフである。
【図2】実験2の結果(培養開始時の乳酸菌濃度と24時間後、48時間後の乳酸菌濃度)を示すグラフである。
【図3】実験3の結果(長期間培養における培地中の乳酸菌数(生菌数)の経日変化)を示すグラフである。
【図4】本発明の一実施形態に係る製造方法及び製造装置の説明図である。
【符号の説明】
【0048】
1 破砕機
2 滅菌器
3 乳酸菌培養器
4 混合器
5 袋詰め機
V 野菜屑
F ふすま(水分調整用乾燥原料)
T 豆腐粕
S 廃シラップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
破砕された野菜屑とふすまなどの水分調整用乾燥原料との混合物を乳酸醗酵させ、乳酸菌をその生菌数が1×10cfu/gを超えるように増殖させて成ることを特徴とする固形状乳酸醗酵飼料。
【請求項2】
混合物に豆腐粕と廃シラップが更に混合されていることを特徴とする請求項1に記載の固形状乳酸醗酵飼料。
【請求項3】
混合物にミネラルが更に混合されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の固形状乳酸醗酵飼料。
【請求項4】
豆腐粕が、パン酵母と糖類を散布して密封保存されたものであることを特徴とする請求項2に記載の固形状乳酸醗酵飼料。
【請求項5】
乳酸菌がラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)であることを特徴とする請求項1に記載の固形状乳酸醗酵飼料。
【請求項6】
袋に充填されて密封され、袋内が脱気又は窒素ガスに置換されていることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の固形状乳酸醗酵飼料。
【請求項7】
野菜屑を破砕して滅菌し、滅菌した野菜屑の一部で乳酸菌を培養し、この乳酸菌培養物と、滅菌した野菜屑の残部と、ふすまなどの水分調整用乾燥原料とを混合して固形状混合物とし、この固形状混合物を袋に充填すると共に袋内を脱気又は窒素ガスに置換して密封し、袋内で乳酸醗酵させて乳酸菌をその生菌数が1×10cfu/gを超えるように増殖させることを特徴とする固形状乳酸醗酵飼料の製造方法。
【請求項8】
破砕した野菜屑に廃シラップを加えて滅菌することを特徴とする請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
乳酸菌培養物と、滅菌した野菜屑の残部と、ふすまなどの水分調整用乾燥原料に加えて、豆腐粕及び/又はミネラルを更に混合することを特徴とする請求項7又は請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
野菜屑を破砕する破砕機と、破砕した野菜屑を滅菌する滅菌器と、滅菌した野菜屑の一部を導入して乳酸菌を培養する乳酸菌培養器と、乳酸菌培養物と滅菌した野菜屑の残部とふすまなどの水分調整用乾燥原料等を混合して固形状混合物とする混合機と、固形状混合物を袋に充填すると共に袋内を脱気又は窒素ガスに置換して密封する袋詰め機とを備えたことを特徴とする固形状乳酸醗酵飼料の製造設備。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−46023(P2010−46023A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−213558(P2008−213558)
【出願日】平成20年8月22日(2008.8.22)
【出願人】(000205627)大阪府 (238)
【出願人】(000247535)株式会社モリプラント (8)
【出願人】(506184288)特定非営利活動法人バイオガスシステム研究会 (2)
【Fターム(参考)】