説明

園芸装置

【課題】太陽電池により農作物に対する遮光を行う構成において、遮光の有無を選択可能な構成を提供する。
【解決手段】栽培用ハウス100の内部で作物の栽培を行う構成において、フレキシブルな太陽電池を備えたシート130を配置する。シート130は、太陽電池が配置されていない部分を有し、巻き取り巻きだし装置131、132により栽培ベッド121の上方において移動が可能とされている。作物の遮光を行う場合、作物の上方に太陽電池が位置するようにシート130を動かし、遮光を行うと共に太陽光発電を行う。また、作物に太陽光を当てたい場合は、シート130を動かし、太陽電池による遮光が行われないようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽光を用いた園芸装置に関する。
【背景技術】
【0002】
引用文献1には、温室の建物の採光部分に太陽電池モジュールを配置した構造において、建物内への採光を、太陽電池モジュールを構成する隣接する太陽電池セルの間、または隣接する太陽電池モジュールの間から行う構成が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−26357号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
引用文献1に記載の構成では、太陽電池がない部分を介して太陽光が建物の内部に入るので、農作物を育てるエリアに当たる太陽光にむらができる。このような背景において、本発明は、太陽電池により農作物に対する遮光を行う構成において、遮光されなかった太陽光をむらなく農作物に当てることができる構成を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に記載の発明は、建物と、前記建物の室内に配置された農作物の栽培手段と、前記栽培手段の上方において移動が可能な太陽電池とを備え、前記太陽電池は複数の開口部を有し、前記開口部には、透過する太陽光を散乱する材質が配置されていることを特徴とする園芸装置である。
【0006】
請求項1に記載の発明では、太陽電池を移動させることで、農作物への遮光を行い、且つ、遮った太陽光を利用した太陽光発電が可能となる。また、太陽と農作物との間から太陽電池を退けることで、遮光せずに農作物に太陽光を当てることができる。また、太陽電池には、開口が設けられ、この開口の部分で採光も行われるので、農作物の育成が損なわれない程度の遮光が行われる。また、この開口の部分において、透過する太陽光が散乱されるので、農作物に当たる太陽光が分散し、むらなく影が生じない状態で、農作物に太陽光を当てることができる。
【0007】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記太陽電池は、前記開口の面積の割合が異なる複数の領域に分割され、前記太陽電池の移動を行うことで、太陽光発電と農作物に対する遮光のバランスが調整されることを特徴とする。請求項2に記載の発明によれば、太陽電池による遮光の程度の設定が複数用意される。そして、農作物の種類、その育成状態、天候、季節等の要素に基づき、特定の開口率の太陽電池領域による遮光が行われるように太陽電池の位置を移動させる。
【0008】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の発明において、前記建物は、内部に機械エリアを含み、前記太陽電池の移動を行い、前記機械エリアと太陽との間に前記太陽電池を位置させることで、前記機械エリアへの日光を遮ることが可能であることを特徴とする。請求項3に記載の発明によれば、機械エリアへの太陽光が太陽電池により遮光され、太陽光が当たることで生じる機械の温度上昇や傷みが抑えられ、且つ、太陽光発電による電力が得られる。
【発明の効果】
【0009】
請求項1に記載の発明によれば、太陽電池により農作物に対する遮光を行う構成において、遮光されなかった太陽光をむらなく農作物に当てることができる構成が提供される。請求項2に記載の発明によれば、遮光の程度と太陽光発電との割合が複数の組み合わせの中から選択可能となる。請求項3に記載の発明によれば、太陽光が当たることによる機械の温度上昇や傷みが抑えられる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施形態の一例を示す斜視図(A)、内部構成図(B)および(C)である。
【図2】実施形態の概念図である。
【図3】駆動部分の斜視図である。
【図4】シートの一例を示す概念図である。
【図5】シートに配置された太陽電池の構造の一例を示す上面図である。
【図6】実施形態の斜視図(A)と上方から見た概念図(B)である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(構成)
図1には、実施形態の斜視図(A)、内部構造図(B)および(C)が示されている。図1には、栽培用ハウス100が示されている。栽培用ハウス100は、屋根111、壁112および113がガラス(あるいは光透過性の樹脂材料等)により構成され、外部から太陽光が取り入れ可能とされている。この構造は既存の温室の構造と同じである。栽培用ハウス100の内部は、機械室エリア110と栽培エリア120に分かれている。機械室エリア110には、機械設備114、115、電気設備116が配置されている。機械設備114、115は、室内の温度等の環境状態を維持するための機械である。電気設備116は、後述する太陽電池が発電した電力を蓄電するバッテリー、このバッテリーへの充電装置、AC/DCコンバータ、安定化電源、商用電源への接続装置、機械設備114、115等への電力の供給を行う配電盤が配置されている。栽培エリア120は、水耕栽培により作物(例えば野菜や果物)を栽培するエリアであり、水耕栽培を行うための栽培ベッド121が複数配置されている。栽培の方法は、水耕栽培に限定されず、既存の栽培方法が利用可能である。
【0012】
機械室エリア110と栽培エリア120の上方の室内空間には、シート130が配置されている。栽培エリアの長手方向の両端には、シート130の巻き取りおよび巻き出だしを行う巻き取り巻きだし装置131、132が配置されている。巻き取り巻きだし装置131、132は、連動して動作し、一方がシート130を巻き取っている場合には、他方がシート130を巻き出す。
【0013】
図2には、栽培用ハウス100内に配置されたシート130の状態が概念的に示されている。図2から理解されるように、巻き取り巻きだし装置131、132の一方からシート130を巻きだし、他方でシート130を巻き取ることで、シート130が栽培ハウス100の長手方向(X軸方向)に動く。図1(B)には、巻き取り巻きだし装置131が示されている。図1(B)に示すように、巻き取り巻きだし装置131は、シート130を巻き取ったロール部141を備えている。このロール部141は、芯となるシャフト142の周りにシート130を巻き取った構造とされている。
【0014】
図1(B)に示すように、シャフト142の一端がギアボックス143に接続されている。ギアボックス143には、モータ144が接続されている。図3には、ギアボックス143の周辺の構造が示されている。図3に示されるようにギアボックス143とモータ144は、架台145上に載せられている。また、図1(B)に示すように、シャフト142の他端は、軸受け146によって回転自在な状態で支持されている。この構成によれば、モータ144からの駆動力がギアボックス143で減速されてシャフト142に加わり、シャフト142が回転する。これにより、シート130のロール部141への巻き取り、またはシート130のロール部141からの巻きだしが行われる。なお、図1(C)、図2では、この駆動系の構成は記載が省略されている。またここでは、巻き取り巻きだし装置131について説明したが、巻き取り巻きだし装置132も同様の構成とされている。
【0015】
図1(C)に示すように、シート130は、支持ロール133と134の間に張り渡されている。支持ロール133と134の間には、シート130が移動する方向に直交する複数の支持ワイヤ135が張られ、この支持ワイヤ135によってシート130が下から支えられている。支持ワイヤ135は、壁面112を支える柱(図示省略)に両端が取り付けられている。支持ワイヤ135は、パイプや回転可能なロールであってもよい。
【0016】
以下、シート130について説明する。シート130は、可撓性(フレキシブルな性質)を有する薄い樹脂製フィルム(例えば、フッ素樹脂フィルムやPETフィルム)を基材とし、そこに必要とする機能フィルムを積層した構造とされている。勿論、単に光を透過させるだけであれば、基材のみとしてもよい。また、シート130の基材として網目状のネットを用いることもできる。
【0017】
図4には、シート130を広げた状態が示されている。ここで、シート130は、移動させる方向に沿って領域151、152、161、162に区分けされている。符号151は、第1の太陽電池領域であり、符号152は、第2の太陽電池領域である。各太陽電池領域には、アモルファス太陽電池が配置されている。この太陽電池は、PETフィルム等のフレキシブルな樹脂基板上にアモルファスシリコン太陽電池を形成したもので、折り曲げることが可能な柔軟性を有し、図2に示すようにロール状に巻き取ることができる。
【0018】
図5には、第1の太陽電池領域151と第2の太陽電池領域152の詳細が示されている。両太陽電池領域には、太陽電池が存在していない開口の部分があり、両太陽電池の違いは、この開口の部分の割合(開口率)にある。すなわち、第1の太陽電池領域151は、太陽電池が存在し発電に寄与する領域153と、太陽電池が存在せず、太陽光が透過する開口部154を備えている。開口部154は、透過する光を散乱するフィルムが貼り付けられており、その部分を透過する光は散乱される。この透過光を散乱するフィルムは、フッ素樹脂フィルムの表面を荒らし、粗面化することで、曇りガラスと同様な光学効果を示す機能を備えている。
【0019】
第2の太陽電池領域152は、太陽電池が存在し発電に寄与する領域155と、太陽電池が存在せず、太陽光が透過する開口部156を備えている。ここで、開口部156は、開口部154と同様に透過する光を散乱する光学機能を備えている。
【0020】
第1の太陽電池領域151と第2の太陽電池領域152は、太陽光を遮る遮光領域として機能する。そして、開口部154、156の大きさ(開口率)を変えることで、遮光の程度が調整されている。開口部154、156の形状は、矩形に限定されず、丸型、その他多角形状、スリット形状等であってもよい。また、太陽電池領域において開口を設けず(つまり開口率0%)とし、遮光を優先する構成も可能である。この場合、開口を設けた場合に比較して発電の効率は高くなる。また、開口率の異なる太陽電池領域を更に複数(3パターン以上)用意することも可能である。
【0021】
図4に戻り、符合161の領域は、赤外線をカットするフィルムが張られた赤外線カット領域161とされている。符合162の領域は、透過する光を散乱するフィルムが貼り付けられた光透過領域162とされている。ここでは、赤外線カット領域161および光透過領域162をシート130に配置した例を説明したが、紫外線カット領域、断熱材を配置した断熱領域、アルミ箔等を配した光反射領域等を利用することも可能である。
【0022】
(動作の一例:その1)
晴天時に図1における栽培エリア120への採光を最優先する場合の例を説明する。この場合、巻き取り巻きだし装置131、132を動作させ、栽培エリア120の上部に図4の光透過領域161が位置する状態とする。
【0023】
(動作の一例:その2)
太陽光が強すぎ、遮光を行う必要がある場合の例を説明する。この場合、第1の太陽電池領域151が栽培エリア120の上部を覆うようにシート130を移動させる。こうすることで、栽培エリア152への採光が制限され、且つ、太陽光発電による電力も得ることができる。また、開口部154の部分を透過する太陽光が散乱されるので、栽培エリア120に当たる太陽光が均一化され、影の部分が生じないようにできる。また、太陽の位置の変化に応じて、シート130を移動させることで、上記の効果を太陽の位置に係らずに維持することができる。なお、取り入れる光量を減らし、遮光の程度を高める場合は、第2の太陽電池領域152で太陽光が遮られるようにシート130を移動させる。いずれの太陽電池領域で遮光を行うのかは、農作物の種類、その育成状態、天候、季節等の要素に基づき選択すればよい。
【0024】
(動作の一例:その3)
採光は充分に行いたいが、栽培ハウス100内の温度を上昇させたくない場合の例を説明する。この場合、赤外線カット領域161が栽培エリア120の上部に位置するように、シート130を移動させる。この際、機械室エリア110の上部に第2の太陽電池領域152が位置することになる。この場合、栽培エリア120に到達する赤外線がカットされるので、採光を優先しつつ室内の温度上昇を抑えることができる。また、機械室110の上部に第2の太陽電池領域152が位置するので、機械室エリア110に当たる太陽光が減り、太陽光発電を行いつつ、機械設備114、115、電気設備116の温度上昇や日光に当たることによる傷みが抑えられる。また、太陽の位置の変化に応じて、シート130を移動させることで、上記の効果を太陽の位置に係らずに維持することができる。
【0025】
(動作の一例:その4)
栽培エリア120において、育成の状態が異なる作物を育てており、ある部分では、太陽光を制限し、他の部分では、太陽光を積極的に当てたい場合の例を説明する。この場合、太陽光を制限したいエリアに対しては太陽電池による遮光を行い、太陽光を積極的に当てたいエリアに対しては太陽電池による遮光が行われにないようにシート130を移動させる。また、太陽の位置が移動すると、太陽光の角度によって遮光されるエリアおよび遮光されないエリアが変動するが、シート130の位置を太陽の移動に合わせて調整することで、遮光エリアと非遮光エリアの区分けを維持することができる。また、図5の第1の太陽電池領域151と第2の太陽電池領域152を使うことで、栽培エリア120の第1の部分と第2の部分とで遮光の程度を変えた状態を実現することもできる。この動作例は、栽培エリア120において、複数の品種の作物を育てており、部分的に遮光の程度を調整したい場合にも適用できる。
【0026】
(その他の例)
図6には、栽培用ハウスの他の例が示されている。図6(A)には斜視図が、図6(B)には上面から見た概念図が示されている。図6には、栽培用ハウス600が示されている。栽培用ハウス600は、上方から見ると円形の形状を有している。
【0027】
栽培用ハウス600は、その内部に複数の扇状に分割されたシートを備えた太陽光発電装置を備えている。扇状の各シートは、図5に例示する第1の太陽電池領域151または第2の太陽電池領域152を備えている。図6(B)には、扇状に分割されたシート601a〜601eが展開された状態が示されている。図6(B)に示すように、各シートを展開することで、室内の上部が覆われる。シート601a〜601eは、扇子のように重ねて折り畳むことができる。シート601a〜601eを折り畳むことで、遮光が行われない状態とすることができる。また、この展開および折り畳みが可能な扇状のシートとして、赤外線カット領域やその他の機能領域を採用することもできる。
【0028】
この例においても扇状の各シートを展開することで、図示省略した栽培ベッドの上部が太陽電池によって遮光され、遮光と同時に太陽光発電を行うことができる。図6には、上方から見て円形の建物の例を示したが、8角形等の多角形状の栽培用ハウスに上記の構成を適用することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明は、建物の中で農作物の栽培を行う施設に利用することができる。
【符号の説明】
【0030】
100…栽培用ハウス、110…機械室エリア、111…屋根、112…壁、113…壁、114…機械設備、115…機械設備、116…電気設備、120…栽培エリア、121…栽培ベッド、130…シート、131…巻き取り巻きだし装置、132…巻き取り巻きだし装置、133…支持ロール、134…支持ロール、135…支持ワイヤ、141…ロール部、142…シャフト、143…ギアボックス、144…モータ、145…架台、146…軸受け、151…第1の太陽電池領域、152…第2の太陽電池領域、161…赤外線カット領域、162…光透過領域、600…栽培用ハウス、601a〜601e…太陽電池を備えた扇状のシート。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物と、
前記建物の室内に配置された農作物の栽培手段と、
前記栽培手段の上方において移動が可能な太陽電池と
を備え、
前記太陽電池は複数の開口部を有し、
前記開口部には、透過する太陽光を散乱する材質が配置されていることを特徴とする園芸装置。
【請求項2】
前記太陽電池は、前記開口の面積の割合が異なる複数の領域に分割され、
前記太陽電池の移動を行うことで、太陽光発電と農作物に対する遮光とのバランスが調整されることを特徴とする請求項1に記載の園芸装置。
【請求項3】
前記建物は、内部に機械エリアを含み、
前記太陽電池の移動を行い、前記機械エリアと太陽との間に前記太陽電池を位置させることで、前記機械エリアへの日光を遮ることが可能であることを特徴とする請求項1または2に記載の園芸装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−238785(P2011−238785A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−109226(P2010−109226)
【出願日】平成22年5月11日(2010.5.11)
【出願人】(505308238)株式会社グランパ (1)
【Fターム(参考)】