説明

土壌中での硝化を阻害する肥料‐高分子混合物

土壌中での硝化を軽減するために、土壌に直接施肥するか、アンモニア性含窒素肥料中に混和するかできる、低pHの改良水性高分子混合物を提供し、それによって、植物によるアンモニウムの取り込みおよび収穫量を増加させる。ポリマーは、約2以下のpHで、金属(例えばCa)塩または錯体として好ましく使用される。ポリマーはアニオン性官能基を有し、水分散性が高い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アニオン(例えば、カルボキシ酸塩)官能基を有するポリマーを含む低pHの改良水性高分子混合物と、該改良混合物の、アンモニア窒素を土壌に加えた際の硝化の度合いを軽減することを目的とした、アンモニア性窒素を含む液体または固形肥料物質中でのまたは該物質との組み合わせによる使用とに広く係わる。より具体的には、本発明は、そのような高分子化合物で、選択されたポリマーまたはポリマー誘導体が実質的に水分散性のカルボキシ化共重合体であり、最も好ましくはマレイン酸‐イタコン酸ポリマーの部分金属塩である高分子混合物、その金属塩または錯体、肥料製品および方法に係わる。
【背景技術】
【0002】
植物は組織的農業の創始期から含窒素養分で施肥されてきた。しかし、窒素系成分を単純に土壌に注入することは非効率的であり、場合によっては有害である(例えば、周知の「肥料焼け」現象)。生育途上の植物は、多くの場合、供給された窒素から十分な分量を吸収せず、また、揮発、溶脱、加水分解および硝化などの多様な機構によって、加えられた窒素が減失する可能性がある。一般的な窒素サイクルは周知である(非特許文献1)。さらに、現在の窒素施肥技術をまとめた文献にその他の詳細情報が記載されている(非特許文献2)。
土壌にアンモニア性窒素を加えると、土壌は、ニトロソモナスを含む土壌細菌がアンモニウムを硝酸塩(NO)に変換する硝化作用の対象となる。したがって、アンモニア性窒素は、すぐに植物に取り込まれなければ、じきに適切な土壌の中で硝酸塩に変換され、溶脱または揮発による減損の対象となる。硝化作用は、温度および湿度に左右され、また、土壌の特定の化学的性質に強く影響される。硝化の問題は、硝化阻害剤を使用して、アンモニウムから硝酸塩への変換を低速化または除去するための様々な提案を生み出した。
【0003】
従来の施肥技術の一つは、肥料の養分が土壌へ物質移動するのを妨害または他の方法で制御するために窒素肥料粒子にコーティングを施した徐放性肥料と関係する。徐放性コーティングは一般に水溶性ではないので、徐放性肥料製品は液体肥料での使用全般に適しはしない。さらに、そのような徐放性コーティングは、その調製に必要な材料の費用および反応スキームの複雑性のおかげで比較的高価である。
いま一つの技術は、肥料の取り込みを増量し、揮発による減損を削減することを企図した、含窒素肥料製品におけるウレアーゼ阻害剤の使用である。しかし、従来のウレアーゼ阻害剤は多種類の窒素肥料の幾つかに適用可能であるに過ぎず、また、高価な傾向がある。なお、この問題は生育期全体を通じて持続するにも関わらず、阻害剤が窒素の減損を有効に抑制するのは数日に過ぎない。したがって、多くの場合、複数回の適用が必要になる。阻害剤は、加水分解されることが多く、効果を保持するために貯蔵温度を制御する。最後に、適用される阻害剤は、有害性の、植物を害する副作用を軽減するために、厳密に管理しなくてはならない(非特許文献3。また、非特許文献4;非特許文献5;および非特許文献6)。
【0004】
特許文献にも、また、肥料組成物に関連した教示が豊富にある。たとえば、特許文献1は硝化阻害剤を含む窒素肥料を記載している。特許文献2は水、尿素、硫酸アンモニウム、ホスホルトリアミドウレアーゼ阻害剤、および硝化阻害剤を含む肥料製剤を記載している。特許文献3も、トリアミド系ウレアーゼ阻害剤を含む肥料を開示している。
特許文献4は、植物の生育を促すために肥料に入れて有用な一連のアニオン性ポリマーを記載している。この特許は、このポリマーが窒素の揮発防止に有効だと開示しているが、いかなる硝化阻害特性または硝化阻害用途も記載していない。
【0005】
このような長い歴史と豊富な従来技術にも関わらず、生育途上の植物による窒素養分の非効率的な活用を中心とする一連の未だ解決されていない問題が存在する。これらの問題は、硝化による窒素の減損を軽減または除去するという文脈において、特に深刻である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第5,024,689号
【特許文献2】米国特許第5,364,438号
【特許文献3】米国特許第5,698,003号
【特許文献4】米国特許第6,515,090号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Bundy,”Soil and Applied Nitrogen,Wisonsin−Madison Extension Pub.No.A2519”(1998)
【非特許文献2】Shaviv,”Int’l.Fertilizer Industry Assn.Int’l.Workshop on Enhanced−Efficiency Fertilizers”(2005)
【非特許文献3】Watson,”Int’l.Fertilizer Industry Assn.Int’l.Workshop on Enhanced−Effciency Fertilizers” (2005)
【非特許文献4】また、Rozas et al.、”No−Till Maize Nitrogen Uptake and Yield; Effect of Urease and Inhibitor and Application Time,Agronomy Journal 91”(1999)
【非特許文献5】Bundy、”Managing Urea−Containing Fertilizers, Area Fertilizer Dealer Meetings”(2001)
【非特許文献6】Harris、”Evaluation of Agrotain Urease Inhibitor For Cotton Production in the Southeast, UGA Cotton Research Extension Report”(2002)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記に概略を示した問題を解消するとともに、土壌に直接施肥するか、アンモニア性窒素を含む液体または固形肥料に組み込んで、土壌中の硝化作用を阻害し、作物の収穫量を増加させるものとして、具体的に製剤された水性高分子混合物を提供する。本発明の好ましい液体の水性高分子混合物は、約2以下、好ましくは約1以下のpHを有し、ポリマーの金属塩または錯体を含む。高分子混合物は、液体肥料物質において比較的低い割合、通常は0.1〜2体積%、で使用可能である。この肥料物質を使用することで、硝化が阻害され、収穫量が実質的に増加する。
【0009】
本願での用法において、「アンモニア性窒素」とは、アンモニア性窒素(NH)を含む肥料組成物と、さらに、アンモニア性窒素の前駆体である、または加水分解などの多様な反応を経た際にアンモニア性窒素を生成する要因となる肥料組成物および他の化合物とを包含する広い文言である。例を一つ挙げると、本発明のポリマーは尿素または他のアンモニア性窒素それ自体を含まない含窒素肥料に適用するか、混合することができる。とはいえ、そのような肥料は土壌中で反応してインシトゥ(in situその場)でアンモニア性窒素を生成する。したがって、この例では、尿素または他の前駆体含窒素肥料はアンモニア性窒素を含むものとされる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1(唯一存在する図面)は、実施例2に記載されているように、土壌中での硝化を阻害する上での、本発明に対応したポリマーの効果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一般的な特徴
土壌に直接施肥されるか、アンモニア性窒素を含む液体または固形肥料組成物の一部として施肥される特定種類のポリマーおよびその金属塩または錯体は窒素の減損を防ぎ、作物の植物体における窒素の活用を実質的に著しく改善し、結果としてその収穫量を改善する。一般的に、これらのポリマーは高い割合でアニオン性官能基(特にカルボキシ酸塩基)を有し、著しい水分散性を示し、より好ましくは水溶性である。有用なポリマーの好ましい分類は、アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、スルホン酸およびホスホン酸を含むポリマーおよび共重合体、ならびにそれらの金属塩または錯体を含む。
一般的に言って、本発明のポリマーは、約1500以上の分子量を有し、分子毎に少なくとも3個、好ましくはそれ以上の繰り返し単位を含むべきである(一般的に約10〜500)。なお、ポリマーとその金属塩または錯体は、水分散性、好ましくは水溶性であるべきである、すなわち、室温で緩やかに攪拌される中で少なくとも約5%w/wの割合で純水に分散されるか、溶解するべきである。これらのポリマー種は、適量のカチオン(好ましくは電荷+2以上、例えば、Ca、Mg、Zn、Cu、Fe、Mn、Co,Ni)との反応によって全繰り返し単位のうち少なくとも約10モル部分%がカチオン反応するよう、十分なアニオン官能基を担持するべきである。ポリマー種は、典型的な農業製剤および現場での使用で見られる正常な化学製品、pHおよび温度変化に関して、安定であるべきである。必須ではないが、本発明のポリマーが実質的に生分解性であることは好ましい。
【0012】
これらの好ましい条件を満たすポリマー種は、多価カチオンと反応可能なアニオン性官能基を典型的には少なくとも約10モル%、または好ましくは少なくとも約25モル%有し、その中で、少なくとも約50モル%の繰り返し単位が少なくとも1個のカルボキシ酸塩基を含む。これらの種は、典型的には室温で約20%w/w以下の固体を含む純水中で安定した溶液を形成し、約1〜10の範囲のpHにおいて安定しており、−40℃〜+70℃の範囲の温度で化学的に安定して貯蔵される。
大部分の、あるいは多くの水溶性アニオン性ポリマーは、これらの好ましい条件を満たさない。不適切なポリマーの例には、高分子量の塩、ポリアクリル酸ホモポリマー、スチレンの割合が約60モル%超のスチレン−マレイン酸無水共重合体、オレフィンの割合が約50モル%超のオレフィン−マレイン酸共重合体、セルロース誘導ポリマーのほとんど、ポリエーテル、アルコキシラート、ポリビニルアルコール、およびアミド骨格ポリマーが含まれる。
【0013】
要約すると、本発明の好ましいポリマーは以下の特徴を有する。
・水中で分散可能であり、より好ましくは、完全に可溶である
・多価金属カチオンと反応し得る著しい数のアニオン性官能基、すなわち、少なくともモル分率で10%(より好ましくは少なくとも25%)のアニオン性基を有する。
・ポリマーのアニオン性基は、水への分散性または可溶性を維持しながら、実際に土壌中の1価カチオンまたは多価カチオンと反応する。
・ポリマーは温度および化学的な面で安定し、使いやすい。
【0014】
好ましいポリマーおよび肥料
本発明の一つの好ましい態様において、アンモニア性窒素を含む肥料および必要に応じてホスファート肥料を含む液体肥料組成物において具体的な用途を見出す低pH高分子混合物が提供される。概して、本発明の高分子混合物は約2以下のpH(より好ましくは約1以下)を有し、約10〜85質量%の固体を含む。ポリマーは複数の繰り返しポリマーサブユニットを含むが、各ポリマーサブユニットは、A部分、B部分およびC部分から成る群からそれぞれ独立に得られる少なくとも2種の異なる部分、または繰り返しC部分、並びに、または異ならないC部分(例えばポリイタコン酸ポリマー)から構成され、部分Aは一般式:
【化1】

で表され、部分Bは一般式:
【化2】

で表され、部分Cは一般式:
【化3】

で表され、式中、R、RおよびRは、それぞれ独立に、H、OH、C〜C30の直鎖、分枝鎖および環式アルキル基またはアリール基、C〜C30の直鎖、分枝鎖および環式アルキルまたはアリールC〜C30系エステル基(ギ酸塩(C)、酢酸塩(C)、プロピオン酸塩(C)、ブチル酸塩(C)等、C30まで)、R’がC〜C30直鎖、分枝鎖および環式アルキル基またはアリール基から成る群から選択されるR’CO基、およびOR’基から成る群から選択され;RおよびRは、それぞれ独立に、H、C〜C30の直鎖、分枝鎖および環式アルキルまたはアリール基から成る群から選択され;R、R、R10およびR11は、それぞれ独立に、H、アルカリ金属、NHおよびC〜Cアルキルアンモニウム基から成る群から選択され、Yは、Fe、Mn、Mg、Zn、Cu、Ni、Co、Mo、V、Cr、Si、BおよびCaから成る群から選択され;RおよびRは、それぞれ独立に、無(直接結合)、CH、C、およびCから成る群から選択される。
【0015】
さらに別の好ましい形態において、ポリマーサブユニットがA部分およびB部分から構成される場合はR、R、RおよびRの少なくとも1つがOHであり、ポリマーサブユニットがA部分およびC部分から構成される場合はR、RおよびRの少なくとも1つがOHであり、ポリマーサブユニットがA部分、B部分およびC部分から構成される場合はR、R、R、RおよびRの少なくとも1つがOHである。
【0016】
本発明の最も好ましいポリマーは、式:
【化4】

のマレイン酸およびイタコン酸の両モノマーの反応生成物である。式中、Xは、それぞれ独立に、カチオン、好ましくは水素、アルカリ金属およびアルカリ土類金属、より好ましくは、H、NH、Na、K、Ca、Mgおよびその混合物から成る群から取得され、m:n比は約99:1から約1:99である。
この反応生成物は、一般式:
【化5】

で表され、式中、Xは上述の定義のとおりであり、pは約10〜500である。
多くの場合、ポリマーを、アルカリ金属およびアルカリ土類金属から成る群から選択された金属と反応させて、塩またはその錯体を形成することが好ましく、最も好ましい金属はカルシウムである。
【0017】
本発明の水性高分子混合物を、土壌に直接施肥して硝化を阻害することができる。しかし、より好ましいのは、これらの低pH水性ポリマーをアンモニア性含窒素肥料と混合して、硝化対象の土壌の、典型的には生育途上の植物または植え付けられた発芽前の種子に隣接する領域に施肥される液体または固形肥料物質を形成することである。この点において、水性高分子混合物を液体肥料と一緒に使用するにあたって、肥料物質の総体積を100体積%とした場合、約2体積%(例えば0.01〜2%)という比較的低い割合で使用するべきであることが見出された。驚くべきことに、約0.2〜0.7体積%、より好ましくは約0.5体積%と、より低い割合のポリマーにおいてよりよい硝化阻害結果が見出された。
本発明の低pH高分子混合物と合わせて使用可能なアンモニア性含窒素肥料は多様にある。代表的な例として、モノアンモニウムホスファート(MAP)、ジアンモニウムホスファート(DAP)、周知のN−P−K肥料のいずれか1種、アンモニア(無水性または水性)、硝酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、尿素、チオ硫酸アンモニウム、およびリン酸アンモニウムを含む。同様に、リン酸アンモニウム、リン酸カルシウム(通常のリン酸塩および超リン酸塩)、リン酸、超リン酸、塩基性スラグ、リン鉱石、コロイド状リン酸塩および骨質リン鉱が含まれる。
微量養素(Zn、Mn、Cu、Fe)およびそれら微量養素の酸化物、硫酸塩、塩化物およびキレートなど、他の典型的な肥料成分を本発明の肥料物質の中で用いることもできる。
【0018】
本発明の液体肥料物質を調製するにあたって、アンモニア性含窒素肥料物質(複数)を水中に懸濁させ、その中に水性高分子混合物(複数)を攪拌しながら加える。特に定まった混合条件および温度条件は必要ない。驚くべきことに、これらの液体肥料物質は極めて安定しており、少なくとも二週間という長い貯蔵期間にわたって固体の沈澱または析出に抗する。固体の場合、ポリマーは固形肥料に直接加えられる。
【0019】
いかなる理論にも操作機構にも縛られることは望まないが、本発明のポリマーは、土壌の硝化の原因となる、アンモニアモノオキシゲナーゼなどの1種以上の金属酵素の活性を阻害することにより、通常の土壌硝化作用を妨害または中断すると信じられる。しかし、そのような酵素活性は、本発明のポリマーまたは肥料混合物が存在する微環境において中断または妨害される。したがって、そのような微環境以外では通常の土壌作用が維持されている。
【0020】
本発明で使用される一つの最も好ましい高分子物質は、モル質量が約3000のマレイン酸‐イタコン酸共重合体を含む水性混合物をカルシウムと反応させて部分塩を形成し、pH約1を得たものである。そのような高分子塩は、米国特許第6,515,090号の教示に応じて作製され、固体の含有量約40質量%で水性媒体に混合される。
【0021】
(実施例)
以下の実施例は、土壌の硝化を阻害する面での本発明の利点を提示している。しかしながら、これらの実施例は実例を示すためのものであり、そこに含まれるいかなる内容も、発明全体の適用範囲を限定するものではない。
【0022】
(実施例1)
本実施例では、本発明の好ましいマレイン酸‐イタコン酸ポリマーを含む一連のUAN溶液を調製した。具体的には、各開始UAN溶液は、1/3質量比の尿素、1/3質量比の硝酸アンモニウム、および1/3質量比の水を含む。UAN溶液の各まとまりを、0.5体積%または1体積%のいずれかの割合となるポリマーで補充した。そのポリマー材料は、以下の表1に示したとおり、初期pHが1,2または3.5であった。それぞれのポリマー補充UAN溶液に加えて、ポリマーを含まないUAN溶液であるコントロール2種を、体積に基づき、1/2がUANポリマー溶液に、またはポリマーを含まないコントロールに、1/2が水になるように希釈した。
続いて希釈溶液を、事前にPioneer33P70のトウモロコシ種を27,500種/エーカで植え付けた(4月10日)ケンタッキー州プリンストンの、ペンブルク微砂ローム土の全く同じ大きさの複数の反復区画に3または4回噴霧した(4月18日)。この結果、3回噴霧した区画では、希釈されたUAN溶液に由来する窒素の割合が75ポンド/エーカとなり、4回噴霧した区画では、100ポンド/エーカとなった。この土壌の区画は、植え付け前に事前(4月12日)に0−90−90ポンド/エーカのNPK肥料で施肥した。この土壌は、Pを46ポンド/エーカ、Kを274ポンド/エーカとし、土壌のpHが6.5である土壌試験(Mehlich3)で特徴づけられている。溶液を施肥した次の日から連続した3日間(4月19〜21日)、0.08、0.54および1.62インチの降雨量を経験した。生育期の最後(9月26日)に、トウモロコシを手で収穫し、収穫量を測定した。
その結果を以下に示す。
【0023】
【表1】

【0024】
上記のデータは、ポリマー補充試験溶液が、統計上、ポリマーを含まないコントロールと比べて著しく収穫量を増加させることを示した。溶液を施肥した直後の降雨が激しかったことから、これらの収穫量の増加は、アンモニアの揮発ではなく土壌中の硝化制御にその原因があるとされた。特に驚くべきなのは、最高の収穫量がより低いpH、特にpH1で得られたことである。また、より低い濃度0.5%は、より高い濃度1%と比較して、一般的に優れた収穫量をもたらした。最後に、コントロール2の試験と溶液1との比較は、ポリマーの存在がUANからの約20ポンド/エーカの窒素の添加と等しいことを示す。
【0025】
(実施例2)
この試験では、実質的な硝化を受けた土壌(ウールパ土壌)中の硝化程度を研究室環境で測定した。具体的には、研究室級の硫酸アンモニウムと、肥料およびポリマーの総質量を100質量%とした、本発明のマレイン酸‐イタコン酸ポリマーの好ましいカルシウム部分塩0.25質量%および0.5質量%(pH1)とを用いて、2種類の異なる肥料製品を調製した。これら2種類の肥料製品と硫酸アンモニウムのみから構成されるコントロールとを、添加量の割合を同じにして、同一量の試験土壌に混ぜ込んだ。その後、各土壌サンプル中の硝酸の量を、16日間計測した。
図面はこの試験の結果を示す。コントロール物質が高い割合の硝化作用を示す一方、2種類のポリマー補充肥料は統計上硝化が著しく減少しているのが見られる。予想外のことに、0.25%ポリマー補充肥料は、より高い割合の0.5%製品と比較して、同程度の、場合によっては、より優れた硝化阻害作用をもたらす。
【0026】
(実施例3)
本実施例は、実施例1の収穫量試験と似ており、カンサス州コートランドの、トウモロコシが植え付けられた同一の大きさの複数の区画へのUANポリマー補充溶液の施肥を含む。土壌はクレタ微砂ローム、pH7.1、Bray P−1 18ppm、交換可能K220ppmの有機内容物含有量2.5%である。具体的には、各区画はダイズ残渣中の30インチ幅の列にPioneer 33B51トウモロコシ種を植え(4月20日)、植え付け時に開始10−34−0 NPK肥料を施肥した(10ガロン/エーカ)。試験液ごとに、6つの反復区画を使用した。植え付けして間もなく、各区画に様々なpHで異なる量のポリマーを含む一連のUAN−ポリマー溶液を、土壌混和なしで散布噴霧(broadcast spray)して、溶液に由来する160ポンド/エーカのNを得た。各区画に、生育期に必要な畦間灌漑を行い、トウモロコシを収穫し(10月1日)、その収穫量を算出して平均を出した。下記の表2は、これらの試験をまとめたものである。
【0027】
【表2】

【0028】
試験区画の灌漑は、アンモニア揮発によるいかなる窒素の減損も本質的に防いだ。したがって、収穫量の増加は、試験土壌中の硝化の制御に起因する。このデータは、pHの度合いおよびポリマー濃度が低い方が、多くの収穫量が得られるという発見を保証する。
【0029】
(実施例4)
市販の10−34−0液体肥料を、pH1.5となるマレイン酸‐イタコン酸共重合体の部分カルシウム塩を含む水性混合物を用いて製剤した。この肥料混合物は、10−34−0を95%v/vと40%w/w固体の該共重合体の混合物を5%v/vと含み、この2種類の液体を単純に混合することで作製された。この肥料混合物は、混合の際に観察可能な析出を示さなかった。次に、肥料混合物を40℃に加熱し、数日間この温度を維持し、その後周囲温度に冷却することによって、該肥料混合物の模擬老化試験および耐熱試験を行った。ここでも、加熱中およびその後に観察可能な析出は見られなかった。
この試験は、通常の用法と比較してカルシウムイオンが著しく過量であることを表し、それによって、肥料物質の異常な安定性を示す。10−34−0などの液体含窒素ポリホスファート肥料に可溶なカルシウム化合物を添加することが、様々なリン酸カルシウムの急速な析出をもたらすことは、当該技術分野において周知である。したがって、肥料を著しく析出させずに分散させておく共重合体の能力は、当該技術分野における決定的な進歩である。
【0030】
上述の参考文献は全て引用により本願に組み込まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンモニア性含窒素肥料と前記肥料と混和する前のpHが約2以下である水性高分子混合物とを有する水性液体肥料物質であって、前記高分子混合物は、各ポリマーサブユニットが、A部分、B部分およびC部分から成る群からそれぞれ独立に得られる少なくとも2種の異なる部分から構成される複数の繰り返しポリマーサブユニット;または複数の繰り返しC部分;または異ならない複数のC部分を含むポリマーを有し;
部分Aは一般式:
【化6】

で表され、部分Bは一般式:
【化7】

で表され、部分Cは一般式:
【化8】

で表され、式中、R、RおよびRは、それぞれ独立に、H、OH、C〜C30の直鎖、分枝鎖および環式アルキル基またはアリール基、C〜C30の直鎖、分枝鎖および環式アルキルまたはアリールC〜C30系エステル基(ギ酸塩(C)、酢酸塩(C)、プロピオン酸塩(C)、ブチル酸塩(C)等、C30まで)、R’がC〜C30直鎖、分枝鎖および環式アルキル基またはアリール基から成る群から選択されるR’CO基、およびOR’基から成る群から選択され;RおよびRは、それぞれ独立に、H、C〜C30の直鎖、分枝鎖および環式アルキルまたはアリール基から成る群から選択され;R、R、R10およびR11は、それぞれ独立に、H、アルカリ金属、NHおよびC〜Cアルキルアンモニウム基から成る群から選択され、Yは、Fe、Mn、Mg、Zn、Cu、Ni、Co、Mo、V、Cr、Si、BおよびCaから成る群から選択され;RおよびRは、それぞれ独立に、直接結合、CH、C、およびCから成る群から選択される水性液体肥料物質。
【請求項2】
前記pHが約1以下である請求項1に記載の肥料物質。
【請求項3】
肥料物質の総体積を100体積%とした場合、前記ポリマーが前記肥料に対して約0.01〜2体積%の割合で混合される請求項1に記載の肥料物質。
【請求項4】
前記割合が約0.5体積%である請求項3に記載の肥料物質。
【請求項5】
前記複数のポリマーサブユニットがA部分およびB部分から構成される場合はR、R、RおよびRの少なくとも1つがOHであり、前記複数のポリマーサブユニットがA部分およびC部分から構成される場合はR、RおよびRの少なくとも1つがOHであり、前記複数のポリマーサブユニットがA部分、B部分およびC部分から構成される場合はR、R、R、RおよびRの少なくとも1つがOHである請求項1に記載の肥料物質。
【請求項6】
前記ポリマーが一般式:
【化9】

で表され、式中、Xはカチオンであり、pは約10〜500である請求項1に記載の肥料物質。
【請求項7】
前記X置換基の少なくとも一部が金属カチオンであり、一部がHである請求項6に記載の肥料物質。
【請求項8】
前記X置換基の少なくとも一部がアルカリ金属およびアルカリ土類金属から成る群から選択される請求項7に記載の肥料物質。
【請求項9】
前記X置換基の少なくとも一部がカルシウムである請求項8に記載の肥料物質。
【請求項10】
前記ポリマーが塩または錯体である請求項8に記載の肥料物質。
【請求項11】
一定量のホスファート肥料をさらに含む請求項1に記載の肥料物質。
【請求項12】
pHが約2以下である水性高分子混合物であって、各ポリマーサブユニットが、A部分、B部分およびC部分から成る群からそれぞれ独立に得られる少なくとも2種の異なる部分から構成される複数の繰り返しポリマーサブユニット、または複数の繰り返しC部分、または異ならない複数のC部分を含むポリマーを有し、部分Aは一般式:
【化10】

で表され、部分Bは一般式:
【化11】

で表され、部分Cは一般式:
【化12】

で表され、式中、R、RおよびRは、それぞれ独立に、H、OH、C〜C30の直鎖、分枝鎖および環式アルキル基またはアリール基、C〜C30の直鎖、分枝鎖および環式アルキルまたはアリールC〜C30系エステル基(ギ酸塩(C)、酢酸塩(C)、プロピオン酸塩(C)、ブチル酸塩(C)等、C30まで)、R’がC〜C30直鎖、分枝鎖および環式アルキル基またはアリール基から成る群から選択されるR’CO基、およびOR’基から成る群から選択され;RおよびRは、それぞれ独立に、H、C〜C30の直鎖、分枝鎖および環式アルキルまたはアリール基から成る群から選択され;R、R、R10およびR11は、それぞれ独立に、H、アルカリ金属、NHおよびC〜Cアルキルアンモニウム基から成る群から選択され、Yは、Fe、Mn、Mg、Zn、Cu、Ni、Co、Mo、V、Cr、Si、BおよびCaから成る群から選択され;RおよびRは、それぞれ独立に、直接結合、CH、C、およびCから成る群から選択される高分子混合物。
【請求項13】
前記pHが約1以下である請求項12に記載の高分子混合物。
【請求項14】
前記複数のポリマーサブユニットがA部分およびB部分から構成される場合は、R、R、RおよびRの少なくとも1つがOHであり、前記複数のポリマーサブユニットがA部分およびC部分から構成される場合は、R、RおよびRの少なくとも1つがOHであり、前記複数のポリマーサブユニットがA部分、B部分およびC部分から構成される場合は、R、R、R、RおよびRの少なくとも1つがOHである請求項12に記載の高分子混合物。
【請求項15】
前記ポリマーが一般式:
【化13】

で表され、式中、Xはカチオンであり、pは約10〜500である請求項12に記載の高分子混合物。
【請求項16】
前記X置換基の少なくとも一部が金属カチオンであり、一部がHである請求項15に記載の肥料物質。
【請求項17】
前記X置換基の少なくとも一部がアルカリ金属およびアルカリ土類金属から成る群から選択される請求項16に記載の肥料物質。
【請求項18】
前記X置換基の少なくとも一部がカルシウムである請求項17に記載の肥料物質。
【請求項19】
前記ポリマーが塩または錯体である請求項17に記載の肥料物質。
【請求項20】
請求項1に記載された水性液体肥料物質を土壌に施肥する工程を含む土壌中の硝化の阻害方法。
【請求項21】
アンモニア性含窒素肥料と、液体肥料物質の総質量を100質量%とした場合に、前記混合物中に、約2体積%以下の割合で存在するポリマーとを含む水性液体肥料物質であって、前記ポリマーは、各ポリマーサブユニットが、A部分、B部分およびC部分から成る群からそれぞれ独立に得られる少なくとも2種の異なる部分から構成される複数の繰り返しポリマーサブユニット、または複数の繰り返しC部分、または異ならない複数のC部分を含み、部分Aは一般式:
【化14】

で表され、部分Bは一般式:
【化15】

で表され、部分Cは一般式:
【化16】

で表され、式中、R、RおよびRは、それぞれ独立に、H、OH、C〜C30の直鎖、分枝鎖および環式アルキル基またはアリール基、C〜C30の直鎖、分枝鎖および環式アルキルまたはアリールC〜C30系エステル基(ギ酸塩(C)、酢酸塩(C)、プロピオン酸塩(C)、ブチル酸塩(C)等、C30まで)、R’がC〜C30直鎖、分枝鎖および環式アルキル基またはアリール基から成る群から選択されるR’CO基、およびOR’基から成る群から選択され;RおよびRは、それぞれ独立に、H、C〜C30の直鎖、分枝鎖および環式アルキルまたはアリール基から成る群から選択され;R、R、R10およびR11は、それぞれ独立に、H、アルカリ金属、NHおよびC〜Cアルキルアンモニウム基から成る群から選択され、Yは、Fe、Mn、Mg、Zn、Cu、Ni、Co、Mo、V、Cr、Si、BおよびCaから成る群から選択され;RおよびRは、それぞれ独立に、直接結合、CH、C、およびCから成る群から選択される水性液体肥料物質。
【請求項22】
前記割合が約0.5体積%である請求項21に記載の肥料物質。
【請求項23】
前記ポリマーサブユニットがA部分およびB部分から構成される場合は、R、R、RおよびRの少なくとも1つがOHであり、前記ポリマーサブユニットがA部分およびC部分から構成される場合は、R、RおよびRの少なくとも1つがOHであり、前記ポリマーサブユニットがA部分、B部分およびC部分から構成される場合は、R、R、R、RおよびRの少なくとも1つがOHである請求項21に記載の肥料物質。
【請求項24】
前記ポリマーが一般式:
【化17】

で表され、式中、Xはカチオンであり、pは約10〜500である請求項21に記載の肥料物質。
【請求項25】
前記X置換基の少なくとも一部が金属カチオンであり、一部がHである請求項24に記載の肥料物質。
【請求項26】
前記X置換基の少なくとも一部がアルカリ金属およびアルカリ土類金属から成る群から選択される請求項25に記載の肥料物質。
【請求項27】
前記X置換基の少なくとも一部がカルシウムである請求項26に記載の肥料物質。
【請求項28】
前記ポリマーが塩または錯体である請求項26に記載の肥料物質。
【請求項29】
一定量のホスファート肥料をさらに含む請求項21に記載の肥料物質。
【請求項30】
請求項21に記載された水性液体肥料物質を土壌に施肥する工程を含む土壌中の硝化の阻害方法。

【図1】
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【公表番号】特表2010−516615(P2010−516615A)
【公表日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−547421(P2009−547421)
【出願日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際出願番号】PCT/US2008/051926
【国際公開番号】WO2008/092012
【国際公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【出願人】(503324254)スペシャルティー ファーティライザー プロダクツ エルエルシー (4)
【出願人】(505061573)
【Fターム(参考)】