土壌中の水分分布測定方法及び水分分布測定システム
【課題】 短時間でかつ比較的安価に水分分布を求めることができるととともに、土壌中の水分分布を正確に測定することができる水分分布測定方法及び水分分布測定システムを提供する。
【解決手段】 各プローブ13が、一端から信号波が入射される1の幹伝送路11の異なる位置からそれぞれ分岐された複数の枝伝送路12の先端に配置されたプローブ群1を使用して測定を行う。また、このプローブ群1の各プローブ13は、前記信号波の入射位置から1のプローブ13の先端までの最短電気長と、当該プローブ13の先端から前記反射波の検出位置までの最短電気長との合算電気長がそれぞれ異ならせて配置している。上記反射波の検出位置は、上記プローブ群1に対して、信号波の入射端14と同一側であっても、反対側であってもよい。ただし、反射波の検出位置が入射端と同一側である場合は、幹伝送路の他端は無反射終端にする。
【解決手段】 各プローブ13が、一端から信号波が入射される1の幹伝送路11の異なる位置からそれぞれ分岐された複数の枝伝送路12の先端に配置されたプローブ群1を使用して測定を行う。また、このプローブ群1の各プローブ13は、前記信号波の入射位置から1のプローブ13の先端までの最短電気長と、当該プローブ13の先端から前記反射波の検出位置までの最短電気長との合算電気長がそれぞれ異ならせて配置している。上記反射波の検出位置は、上記プローブ群1に対して、信号波の入射端14と同一側であっても、反対側であってもよい。ただし、反射波の検出位置が入射端と同一側である場合は、幹伝送路の他端は無反射終端にする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電率を測定することにより土壌中の水分濃度を求める水分分布測定方法及び水分分布測定システムに関し、特に、深さ方向の水分分布測定、及び、広範囲の面積の水分分布測定に好適な水分分布測定方法及び水分分布測定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、物質中を伝搬する電磁波の速度が、物質の比誘電率に応じて変化することを利用して、物質中の水分量を計測する手法が使用されている。例えば、特許文献1及び2には、このような手法を生体の皮下の水分量を計測するために適用した事例が開示されており、特許文献3には、土壌中の水分量の計測に当該手法を適用した事例が開示されている。
【0003】
この種の装置では、被検物Sの内部に埋設したプローブ、あるいは、被検物Sの表面に接触させたプローブの一端からステップ状の信号波を入射することで被検物の比誘電率を求めている。上記プローブの構造は、特許文献1〜3にも開示されているように、測定対象に応じて様々なものが提案されているが、土壌中の水分量測定には、例えば、図11に示すような、2本の棒状電極100s、100gが平行に配置された構造を有するプローブ100が使用されている。
【0004】
図11に示すように、被検物S(土壌)中に配置されたプローブ100は、例えば、特性インピーダンスが50Ωである同軸ケーブル200を介して、上記信号を発生する信号源300と接続される。ここで、同軸ケーブル200の内導体200sは棒状電極100sに、外導体200gは棒状電極100gに接続されている。
【0005】
さて、上記構成において、信号源300からプローブ100の先端までの間の信号伝送路(同軸ケーブル200及びプローブ100)の特性インピーダンスは、同軸ケーブル200の領域A、同軸ケーブル200とプローブ100の信号入射端との接続領域B、プローブ100の領域Cとで異なっている。このため、信号源300から出射された信号波は、上記各領域の界面でその一部が反射されるとともに、各領域に進入した信号波は、各領域の特性インピーダンスに応じた伝送速度で各領域中を伝送されることになる。
【0006】
このとき、各領域の界面で反射された信号波(以下、単に反射波という。)の時間変化をオシロスコープ等の検出器400により計測すると、図12の模式図に示す結果が得られる。
【0007】
図12において、時刻T1が領域Aと領域Bの界面での反射、時刻T2が領域Bと領域Cとの界面での反射、時刻T3がプローブ100の先端での反射に相当する。すなわち、上記ステップ状の信号波が時刻T0に入射されたとすると、時間T1−T0は信号源300から出射された信号波が同軸ケーブル200の先端で反射されて検出器400に到達するまでに要した時間を示すことになる。また、時間T2−T0は、信号源300から出射された信号波がプローブ100の信号入射端で反射されて検出器400に到達するまでの時間を示し、さらに、時間T3−T0は、信号源300から出射された信号波がプローブ100の先端で反射されて検出器400に到達するまでの時間を示すことになる。したがって、時間T3−T2は、上記信号波がプローブ100の信号入射端とプローブ100の先端とを往復するのに要した時間を示していることになる。
【0008】
ここで、プローブ100の信号入射端から先端までの距離をL、プローブ100の周囲に存在する被検物の比誘電率をεr、光速度をcとすると、信号波がプローブ100の信号入射端とプローブ100の先端とを往復するのに要する往復時間tは、t=2L/(c/εr1/2)となる。したがって、往復時間tとプローブ100の信号入射端から先端までの長さLを求めることで、プローブ100の周囲に存在する被検物の比誘電率εrを求めることができる。
【0009】
なお、一般に水分を含まない土壌の比誘電率は3〜7であるため、比誘電率が80程度である水の含有量に応じて土壌の比誘電率は鋭敏に変化する。このため、土壌中に含まれる水分量と土壌の比誘電率の関係を予め実験で求めておくことで、土壌の比誘電率から土壌中の水分量を求めることが可能となる。
【0010】
一方、比誘電率から被検物Sの水分量を求める方法を利用して、被検物Sの水分分布を測定する手法としては、上記特許文献1に、皮膚表面の同一位置に、先端(皮膚との接触面)の形状を異ならせたプローブを順次接触させて水分量測定を行うことで、皮下の異なる深さまでの水分量をそれぞれ求め、深さ方向の水分分布を求める手法が開示されている。
【0011】
また、上記特許文献3には、土壌中に複数のプローブを配置して各プローブの周囲の水分量をそれぞれ求めることにより、水分分布を求める手法が開示されている。
【特許文献1】特開平8−320297号公報
【特許文献2】特開平10−142169号公報
【特許文献3】特開平10−90201号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、上述した従来の手法では、1回の信号波の入射により1のプローブに対応する水分量しか求めることができないので、水分分布を求めるために、複数回の信号波の入射を行っている。このため、水分分布の測定には、信号波の入射回数に比例した多大な時間を要するという問題があった。
【0013】
これに対し、上記特許文献2には、測定時間の短縮や測定精度向上の観点から、上述の一対の電極からなるプローブ複数個を一体に形成して、当該複数のプローブを用いて各プローブに対応する水分量を同時に取得する手法が記載されている。しかしながら、各プローブにはそれぞれ独立した信号波を入射しているため、この手法では、各プローブによる測定を同時に行うためにプローブの数と同一数の信号源及び計測器を用意しなければならない。このため、水分分布の測定を短時間で行うことは可能になるが、測定系がコスト高になるという問題が生じる。
【0014】
一方、土壌中の深さ方向の水分分布を取得することは、例えば、河川や池の土手、山の斜面等の土砂の崩落予知に利用可能であり、非常に有益である。上記特許文献3に記載されている手法によれば、それぞれ異なるプローブ長を有する複数のプローブを、地表面から近接させて挿入し、各プローブの先端が土壌中の異なる深さに到達するように配置することで、土壌中の深さ方向の水分分布を取得することが可能となる。
【0015】
しかしながら、このように複数のプローブを近接した位置に配置した場合、被検物である土壌の状態はこれら複数のプローブの挿入することで乱され、本来の土壌と異なる状態になってしまう。すなわち、このような測定により得られた水分分布は、本来の土壌の水分分布ではなく、結果的に、土壌中の深さ方向の水分分布が正確に測定できないことになる。
【0016】
また、各プローブを土壌中の異なる深さに埋設することでも、深さ方向の水分分布を求めることが可能となるが、各プローブには、信号波を伝送するための伝送路を接続する必要がある。すなわち、土壌中にプローブ数と同数の伝送路を配設するための領域が必要であり、土壌の状態を乱すという問題を有する点は同じである。
【0017】
本発明は、上記従来の事情に基づいて提案されたものであって、短時間でかつ比較的安価に水分分布を求めることができるととともに、土壌中の水分分布を正確に測定することができる水分分布測定方法及び水分分布測定システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、上記目的を達成するために以下の手段を採用している。まず、本発明は、土壌中に配置した複数のプローブに信号波を入射し、各プローブからの反射波に基づいて各プローブ近傍の誘電率を検出することで土壌中の水分濃度分布を測定する水分分布測定方法を前提とする。
【0019】
そして、本発明は、各プローブが、一端から信号波が入射される1の幹伝送路の異なる位置からそれぞれ分岐された複数の枝伝送路の先端に配置されたプローブ群を使用して測定を行う。また、このプローブ群の各プローブは、前記信号波の入射位置から1のプローブ先端までの最短電気長と、当該プローブ先端から前記反射波の検出位置までの最短電気長との合算電気長がそれぞれ異ならせて配置されている。
【0020】
本発明において、上記反射波の検出位置は、上記プローブ群に対して、信号波の入射端と同一側であっても、反対側であってもよい。ただし、反射波の検出位置が入射端と同一側である場合は、幹伝送路の他端は無反射終端にする。
【0021】
上記構成によれば、入射した信号波に対応する各プローブからの反射波が、当該反射波の検出位置に到達する時間をそれぞれ異ならせることができる。このため、信号波を1度入射するだけで、複数のプローブからの反射波を分離して取得することができ、1回の測定で複数点の比誘電率を求めることができる。すなわち、短時間で水分分布を求めることが可能となる。
【0022】
さらに、反射波の検出位置が上記入射端と同一側である場合、枝伝送路が、前記幹伝送路の前記信号波が入射された方向とのみ信号波及び反射波の伝送を行う方向性結合器を介して、前記幹伝送路に接続されることが好ましい。これにより、1のプローブで反射した反射波が、さらに、他のプローブに入射して反射する多重反射を防止することができ、各プローブからの反射波の識別が容易となる。この場合、反射波を検出する検出位置が、幹伝送路のプローブ群側からの反射波のみを伝送する方向性結合器、または、サーキュレータを介して前記幹伝送路に接続された伝送路端とすることがより好ましい。これにより、反射波を検出する検出器に、反射波に比べて大きな信号レベルである信号波が直接入射することが防止できる。
【0023】
一方、反射波の検出位置が上記入射端の反対側である場合、上記枝伝送路が上記幹伝送路から等間隔で分岐され、かつ、上記合算電気長の最大値と最小値との差が、枝伝送路間隔の電気長よりも小さくなるように上記プローブ群を構成すれば、各プローブからの反射波の識別がより容易となる。
【0024】
なお、上記信号波を10ns以下の有限の半値幅を有するパルス波とすれば、各プローブからの反射波の分離はさらに容易となる。
【0025】
また、他の観点では、本発明は、上記水分分布測定方法を実現する水分分布測定システムを提供することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、複数のプローブが連結されたプローブ群に、一度信号波を入射するだけで、各プローブが配置された位置の比誘電率を求めることができ、短時間で土壌中の水分分布を測定することができる。
【0027】
また、本発明に係る土壌中の水分分布測定方法によれば、1の信号源と、1の検出器を備えればよく、比較的安価に水分分布測定を行うことが可能である。
【0028】
さらに、本発明は、各プローブに信号波を伝送するとともに、各プローブからの反射波を検出器に伝送する伝送路を、1つ有するだけであるため、例えば、土壌中の深さ方向の水分分布を取得する場合であっても、土壌の状態を乱すことがなく、正確な水分分布の測定を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明の実施の形態を図面にしたがって詳細に説明する。図1は、本発明に係る水分分布測定方法において使用する複数のプローブが連結されたプローブ群の構成を示す概略図である。また、図2はプローブの構造を示す平面図である。
【0030】
図1に示すように、上記プローブ群1は、1つの幹伝送路11と、幹伝送路11の異なる位置からそれぞれ分岐された複数の枝伝送路12を備え、当該枝伝送路12の先端に各プローブ13が配置される。
【0031】
上記幹伝送路11及び枝伝送路12は、周囲の状態(例えば、空気中や土壌中)で特性インピーダンスが変動しないように同軸ケーブル等で構成される。この幹伝送路11は一体で構成してもよいが、図1の例では、枝伝送路12が接続される分岐部11aと、各分岐部11aを互いに接続する伝送部11bとで構成している。そして、所望の数の分岐部11aを備えた幹伝送路11を構成し、各分岐部11aに接続された各枝伝送路12の先端に上記プローブ13を接続している。各分岐部11aは、例えば、同軸ケーブルの内導体が分岐した構造を有していれば良いが、当該分岐部11aでの信号波の反射を小さくするために、特性インピーダンスのミスマッチは、できるだけ小さいことが好ましい。なお、上記分岐部11a、伝送部11b、枝伝送路12、及びプローブ13の各部は、各接続部に設けた互いに連結可能な高周波用同軸コネクタを介して連結している。
【0032】
図2に示すように、各プローブ13は、平行に配置された同一長さを有する2本の棒状電極13s、13gが、高周波用同軸コネクタ13aの内導体と外導体に固着された構造を有している。各棒状電極13s、13gの長さは、測定の目的に応じて適宜設計すればよいが、ここでは25mmの長さを有する棒状電極を使用している。
【0033】
一方、上記ブローブ群1の一端14には、パルス波を発生する信号源3が接続される。上記プローブ群1は、この信号波3の入射端14から1のプローブ13の先端までの電気長と、当該プローブ13の先端から後述の反射波を検出する検出器4までの電気長との合算電気長が、プローブ群1のプローブ13ごとに異ならせた構成になっている。
【0034】
さて、本発明において、上記反射波を検出する検出器4は、上記プローブ群1に対して、信号波の入射端14と同一側であっても、プローブ群1を挟んで反対側にあってもよい。以下では、この両構成について図面を参照しながら順に説明する。
【0035】
図3は、検出器4を上記入射端1と同一側に設けた場合の測定系を示す模式図である。ここでは、図3に示すように、上記プローブ群1が、2のプローブを備える場合について説明するが、プローブ群1が2以上のプローブ13を備える構成であってもよい。
【0036】
図3に示すように、検出器4は、上述の構造を有するプローブ群1の入射端14と、プローブ群1の最も入射端14に近い分岐部111a(枝伝送路121)との間に設けられる。検出器4は、入射端14から入射した信号波に応じて各プローブ13から反射される反射波の時間変化を計測できる構成であればよい。図3の例では、当該検出位置に、上述の反射波検出用分岐部16を介して幹伝送路11から分岐した反射波検出用枝伝送路17を設け、この反射波検出用枝伝送路17の先端にnsオーダの時間分解能を有するオシロスコープを接続している。
【0037】
また、幹伝送路11の他端15には、幹伝送路11の特性インピーダンスに応じた終端器18を接続して無反射終端とし、不要な反射波の発生を防止している。
【0038】
上記測定系において、入射端14から入射された信号波は、幹伝送路11を伝送されて反射波検出用分岐部16に到達する。反射波検出用分岐部16では、信号波が、反射波検出用分岐部16の特性インピーダンスと、幹伝送路11の特性インピーダンスとのミスマッチに応じた割合で反射されるとともに、反射波検出用分岐部16の構造に応じた割合で、幹伝送路11を直進する信号波と、反射波検出用枝伝送路17に進入する信号波に分割される。
【0039】
ここで、幹伝送路11を直進した信号波は、幹伝送路11を伝送されて第1の分岐部111aに到達する。第1の分岐部111aに到達した信号波は、反射波検出用分岐部16と同様に、当該分岐部111aの特性インピーダンスと、幹伝送路11の特性インピーダンスとのミスマッチに応じた割合の信号波が反射されるとともに、分岐部111aの構造に応じた割合で、幹伝送路11を直進する信号波と、枝伝送路121に進入する信号波に分割される。
【0040】
そして、分岐部111aにおいて、幹伝送路11を直進した信号波は、分岐部112aにおいても同様の分割が行われ、幹伝送路11を直進し続けた信号波は、幹伝送路11の他端15に設けられた終端器18により反射されることなく吸収される。
【0041】
一方、分岐部111aにおいて、枝伝送路121に進入した信号波は、プローブ131の先端に到達すると、当該先端で反射される。このようにプローブ131の先端での反射により発生した反射波は、枝伝送路121を幹伝送路11の方向に伝送され、再度、分岐部111aに到達する。そして、分岐部111aにおいて、幹伝送路11を入射端14の方向に進行する反射波と、幹伝送路11を他端15の方向に進行する反射波とに分割される。また、分岐部112aにおいて、各枝伝送路122に進入した信号波も同様の反射波となって、幹伝送路11を進行する。
【0042】
このようにして、幹伝送路11を入射端14の方向に進行する各反射波は、反射波検出用分岐部16に到達すると、各反射波の一部が反射波検出用枝伝送路17に進入し、検出器4に到達する。
【0043】
上述のように、プローブ群1は、各プローブ13の上記合算電気長(入射端14から1のプローブ13の先端までの最短電気長と、当該プローブ13の先端から検出器4までの最短電気長の和)がそれぞれ異なる構成になっているため、各反射波はそれぞれ異なる時間に検出器4に到達する。すなわち、本発明の構成によれば、信号波を1度入射するだけで、複数のプローブからの反射波を分離して取得することができ、1回の測定で複数点の比誘電率を求めることができる。すなわち、短時間で水分分布を求めることが可能となる。
【0044】
なお、上述のように、プローブ131からの反射波は、幹伝送路11を検出器4の方向だけでなく、他端15の方向にも進行する。このように、他端15の方向に進行した反射波の一部は、分岐部112aを介して枝伝送路122に進入し、プローブ132の先端で反射されるという多重反射を生じることになる。この多重反射による反射波が、各プローブ13からの直接の反射波の到達時刻と重なる場合、検出の妨害となるため好ましくない。 しかしながら、多重反射による反射波が検出器4に到達する時刻は、伝送経路の電気長から予測可能である。したがって、幹伝送路11の伝送部11b及び枝伝送路12の電気長を調整することにより、多重反射による反射波が、各プローブ13からの直接の反射波の妨害にならないようにすればよい。
【0045】
また、上述のような伝送路の電気長の調整は、プローブ群1に多数のプローブ13を設ける場合、非常に煩雑な作業になるため、上記分岐部11aを、図4に示すように、枝伝送路12が幹伝送路11の入射端14側とのみ信号波及び反射波の伝送を行う方向性結合器で構成してもよい。このようにすれば、多重反射の発生を防止することができ、多重反射の妨害を避けるために、伝送路の電気長を調整するという煩雑な作業は一切不要になる。
【0046】
ところで、本発明では、プローブ群1に入射された信号波は、分岐部11aにおいて、幹伝送路11を進行する信号波と、枝伝送路12を進行する信号波とに分割される。このため、プローブ群1に設けるプローブ13の数が多くなり、信号波が分割される回数が多くなると、分岐部11aを通過するたびに、幹伝送路11を直進する信号波の信号レベルが小さくなる。したがって、複数の分岐部11aを通過した信号波が入射するプローブ13では、図12の時刻T2等に示す変化が小さく、プローブの信号入射端に相当する時刻が確認できなくなる。つまり、本発明では、上記従来技術で説明した往復時間tを直接求めることが困難である。
【0047】
しかしながら、図3、図4に示す測定系では、信号波及び反射波の伝送時間は、プローブ13を除く部分では変化しない。このため、各プローブ13を比誘電率が既知である基準物質に配置した場合と、被検物Sに配置した場合との伝送時間の変化量を取得することで比誘電率を求めることは可能である。すなわち、基準物質の比誘電率をεsとすると、伝送時間の変化量Δtは、Δt=(2L/(c/εr1/2)−2L/(c/εs1/2))の関係式を満足し、この関係式に基づいて被検物Sの比誘電率εrを求めることができる。
【0048】
そこで、本発明では、各プローブ13を空気中に配置した場合の各プローブ13からの反射波の時間変化を取得しておき、このデータを基準データとして、被検物Sの誘電率を求めるようにしている。
【0049】
なお、本発明では、プローブ群1に入射する信号波を、従来技術(図12)で説明したステップパルス波はなく、所定の半値幅を有する単一パルス波にしている。このような信号波を入射した場合の反射波は、図5に示すようになり、図12の段差部、すなわち、反射点(特性インピーダンスの変化点)に相当するピークが計測される。したがって、単一パルス波を入射することにより、反射点の識別性をより高めることができる。
【0050】
なお、プローブ13の表面に水分を全く含まない土粒子(例えば被誘電率が3)が存在する場合に比べ、水(比誘電率80)が存在する場合は、プローブ13中を伝送される信号波(反射波)の伝送時間は5倍程度大きくなる。このため、プローブ13の周囲に存在する被検体Sの比誘電率が上述の幅で変化した場合であっても、各プローブ13の先端からの反射波が検出器4に到達する時間が前後することのない構成にするには、少なくとも上記比誘電率の変化に相当する電気長をマージンとして、各プローブ13が配置される必要がある。
【0051】
このため、各プローブ13を接続する伝送路長を不要に長くしないためにも、上記入射波の半値幅は10ns以下であることが好ましい。
【0052】
また、この観点では、単一パルス波の半値幅が小さい程、各プローブ13を連結する伝送路長を短くすることが可能になる。しかしながら、半値幅が小さくなると、検出器4には、上述の従来の水分量測定装置において一般的に使用されている検出器の時間分解能よりも高い分解能が要求されることになり、測定系がコスト高になってしまう。この観点では、上記パルス波の半値幅は10ps以上であることが好ましい。
【0053】
図6は、図4に示す測定系の各プローブ131、132を空気中に配置し、半値幅が500psである単一パルス波を信号波として入射したときに得られる反射波の時間変化を示す図である。なお、各枝伝送路121、122の電気長を1mとし、上述の方向性結合器で構成した各分岐部111a、112a間の電気長を0.73mとしている。
【0054】
図6において、時刻T0は、信号源3から出射された信号波が検出器4に到達した時刻を示している。また、時刻T4が分岐部111aからの反射波、時刻T5が分岐部112aからの反射波がそれぞれ検出器4に到達した時刻である。そして、時刻T6がプローブ131の先端で反射された反射波、時刻T7がプローブ132の先端で反射された反射波が検出器4に到達した時刻である。したがって、図6から、図4に示す測定系の反射点が良好に検出できていることが理解できる。
【0055】
また、図7は、図4に示す測定系の各プローブ131、132を、水分を含む土壌中に配置したときに得られる反射波の時間変化Aを、各プローブ131、132を空気中に配置したときに得られる反射波の時間変化Bと比較した図である。なお、図7では、図6に示す時刻T5、T6、T7に相当する部分のみを示している。
【0056】
図7から、各プローブ131、132の周囲に存在する物質の比誘電率の変化が、各プローブ131、132からの反射波の到達時間の変化として良好に検出できていることが理解できる。ここで、図7に示す到達時間の変化量Δt1、及びΔt2(以下、遅延量という)は、プローブ13の周囲に存在する被検物Sの比誘電率により変化する。このため、各プローブ13の周囲に存在する被検物Sの比誘電率によっては、各反射波が重なる状況が発生することが考えられる。しかしながら、上記遅延量Δt1、Δt2は、被検物Sとして水(比誘電率80)を配置した場合より大きくなることはない。したがって、当該最大遅延量を勘案して、各プローブ13の上記合算電気長を、各プローブ13からの反射波が重なることがないように調整することは可能である。
【0057】
なお、上述の遅延量Δtは、図4に示すように、検出器4に、例えば、GP−IBインターフェイス等を介して、マイクロコンピュタとメモリ等で構成される演算手段5を接続し、当該演算手段5が、検出器4から反射波の時間変化データを取得するとともに、当該データから上記反射点のピーク位置(時刻)を抽出しする構成とすればよい。
【0058】
さらに、演算手段5は、基準物質及び被検物Sの反射波の時間変化データから抽出した時刻に基づいて、各プローブ13に対応する遅延量Δtを求めた後、当該遅延量Δtに基づいて各プローブ13の周囲に存在する被検物Sの比誘電率を演算し、当該演算結果をディスプレイ、プリンタ、プロッタ等の出力手段6を介して出力する構成としてもよい。
【0059】
ところで、図6に示す図では、時刻T0における信号の振幅が、他の反射波の信号に比べ大きくなっている。これは、図4から容易に理解できるように、信号源3が出射した信号波が検出器4に直接入射されていることに起因している。この信号は、図6に示す測定結果では問題とならない。しかし、幹伝送路11を直進する信号波が分岐部11aを通過する際の信号レベルの減少量を小さくするために、分岐路11aとして配置した方向性結合器のカップリング係数を−10dBや−20dBのように小さくした場合、各プローブ13からの反射波は当該信号に比べ著しく小さくなる。一般に、計測機器に著しくオーバレンジとなる信号が入力されることは、測定確度に不具合を生じる可能性があるため好ましくない。
【0060】
この場合、反射波検出用分岐部16を、反射波検出用枝伝送路17にプローブ群1側からの反射波のみを伝送する方向性結合器やサーキュレータで構成し、信号源3からの信号波が検出器4に直接入射することを防止することが好ましい。
【0061】
また、本構成によれば、各枝伝送路12に入射される信号波の信号レベル差が小さいため、各プローブ13からの反射波の信号レベルの差も小さくなる。このため、検出器4に要求されるダイナミックレンジが小さくなり、測定確度を高めることができる。
【0062】
以上説明した検出器4を上記入射端14と同一側に備える構成は、例えば、プローブ群1を土壤の深さ方向に埋設し、土壤中の水分分布を求めるのに好適である。
【0063】
上記プローブ群1は、幹伝送路11及び各枝伝送路12を、土壌の深さ方向に伸びる筒状の容器内に収納し、各プローブ13を、当該容器の異なる深さの外表面に略平行な状態で配設することで構成すること可能である。このとき、本発明では、信号波が1の幹伝送路11により各プローブ13の伝送されるため、当該容器を小径にすることができる。したがって、当該容器を地表面から土壌中に挿入することで、各プローブ13を土壌中の異なる深さに、土壌の状態を乱すことなく配置することができ、土壌中の深さ方向の水分分布を正確に測定することが可能となる。
【0064】
また、本方法では、1の信号源と、1の検出器を要するだけであるので、河川や池の土手、山の斜面等の崩落予知のために土壌中の水分分布を常時モニタする水分測定システムを比較的安価に構成することができる。
【0065】
続いて、信号源3と検出器4とをプローブ群1を挟んで反対に配置した構成について説明する。図8は、検出器4を他端15に設けた場合の測定系を示す模式図である。また、図9は、図8に示す測定系により取得される反射波の時間変化を示す図である。なお、ここでは、上記プローブ群1が、2のプローブを備える場合について説明するが、プローブ群1が2以上のプローブ13を備える構成であってもよい。
【0066】
図8に示すように、検出器4は、上述の構造を有するプローブ群1の入射端14と反対側に位置する他端15に設けられる。検出器4は、上述の検出器4を上記入射端14と同一側に備える構成と同様に入射端14から入射した信号波に応じて各プローブ13から反射される反射波の時間変化を計測できる構成であればよい。
【0067】
図8に示す測定系では、入射端14から入射された信号波は、幹伝送路11を伝送され、各分岐部11aにおいて、当該分岐部11aの特性インピーダンスと、幹伝送路11の特性インピーダンスとのミスマッチに応じた割合の信号波が反射されるとともに、分岐部11aの構造に応じた割合で、幹伝送路11を直進する信号波と、各枝伝送路12に進入する信号波に分割される。
【0068】
そして、各分岐部11aにおいて、枝伝送路12を進入した信号波は、各枝伝送路12の先端に設けられたプローブ13の先端で反射される。当該反射により発生した反射波は、枝伝送路12を幹伝送路11の方向に伝送され、再度、分岐部11aに到達する。そして、分岐部11aにおいて、幹伝送路11を入射端14の方向に進行する反射波と、幹伝送路11を他端15の方向に進行する反射波とに分割される。
【0069】
したがって、検出器4には、まず、各分岐部11aにおいて幹伝送路11を直進した信号波が到達し、続いて、各プローブ13の先端で反射された反射波が到達する。また、プローブ群1は、各プローブ13の上記合算電気長がそれぞれ異なる構成になっているため、各反射波が検出器4に到達する時間は、図9の曲線Cに示すように、それぞれ異なる。すなわち、本発明の構成によれば、各反射波をそれぞれ分離して検出することが可能となる。
【0070】
すなわち、本構成においても、信号波を1度入射するだけで、複数のプローブからの反射波を分離して取得することができ、1回の測定で複数点の比誘電率を求めることができる。すなわち、短時間で水分分布を求めることが可能となる。
【0071】
また、図9には、検出器4を上記入射端14と同一側に備えたときの反射波の時間変化を曲線Dとして示している。図8から理解できるように、本測定系では、各プローブ13に入射する信号波及び各プローブ13からの反射波は、検出器4に到達するまでに幹伝送路11を同一の長さだけ伝送されることになる。すなわち、図9に示すように、図3、図4に示す検出器4を上記入射端14と同一側に備える構成に比べ、検出器4に到達するまでの伝送距離を短くすることができ、伝送距離に起因する信号強度の低下を小さくすることができる。
【0072】
したがって、本構成は、比較的広い範囲の平面的な水分分布を測定するのに好適な構成といえる。なお、本構成においても、信号波として所定の半値幅を有する単一パルス波を入射し、予め取得した各プローブ13を空気中に配置した場合の各プローブ13からの反射波の時間変化を基準データとして、被検物Sの誘電率を求めればよい。
【0073】
また、本構成において、各枝伝送路12が幹伝送路11から等間隔で分岐され、かつ、上記合算電気長の最大値と最小値との差が、枝伝送路12間隔の電気長よりも小さくなるようにプローブ群1を構成することが好ましい。このようにすれば、検出器4において、各プローブ13からの反射波は、上述の多重反射による反射波が、検出器4に到達する前に、各プローブ13からの直接の反射波が、検出器4に到達することになり、反射波の識別がより容易となる。
【0074】
なお、図8の測定系を適用して土壌中の水分分布を計測する場合、信号源3と検出器4が異なる位置にあることは操作性がよくない。このため、プローブ群1の入射端14と他端15が同一の位置になるように各プローブ13を配置することが好ましい。
【0075】
しかしながら、このような配置が困難である場合には、例えば、図10に示すように、信号源3を光が入射されたときにパルス波を発生するフォトダイオードで構成し、検出器4と同一位置に配置した光発生器21とフォトダイオードを光ファイバ22で接続する構成とすれば、光発生器により光を発生することで、信号波をプローブ群1に入射させることができ、操作性を向上させることができる。
【0076】
なお、以上説明した各測定系で使用した方向性結合器やサーキュレータ等の高周波コンポーネントは、上述の信号波や反射波の波形を変形することなく伝送できる周波数特性を有することは勿論である。
【0077】
また、上記各測定系では、信号源3及び受信器4を単一の測定器として説明したが、信号源3の出力端、あるいは受信器4の受信端に、必要に応じて信号源3から出力される信号波、あるいは、受信器4において検出される反射波を増幅するアンプを設けてもよい。この場合、当該アンプは、信号波、あるいは反射波の波形に歪等の変形を生じることのない増幅特性(周波数特性)を有することは勿論である。
【0078】
さらに、以上では、パルス波を発生する信号源と、各プローブからの反射波の時間変化を検出可能な検出器とを使用した測定系について説明したが、本発明では、各プローブにおける上記往復時間t、あるいは、遅延量Δtが検出可能であればよく、上記構成に限定されるものではない。
【0079】
例えば、任意の周波数の正弦波を発生する信号源と、当該正弦波をプローブ群に入射したときにプローブ群から出力される出力波の振幅及び位相とを取得する検出器とを使用することも可能である。本構成では、正弦波を周波数掃引させながらプローブ群に入射したときに得た各出力波の振幅・位相をフーリエ逆変換(周波数領域のデータを時間領域のデータに変換)することで、時間領域の出力波の波形変化、すなわち、各プローブからの反射波の時間変化を求めることが可能であり、当該変換結果から、上記往復時間あるいは上記遅延量Δtを検出することができる。このように正弦波を周波数掃引させたときの反射波の振幅・位相は、例えば、ベクトルネットワークアナライザにより、取得することができる。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明は、短時間で水分量の分布を求めることができるという効果を有し、土壌中の水分分布を計測する方法、例えば、河川や池の土手、山の斜面等の崩落予知のために土壌中の水分分布(水分量)を常時モニタする方法として特に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】本発明を適用したプローブ群を示す模式図。
【図2】本発明に使用するプローブの一例を示す平面図。
【図3】本発明を適用した測定系の一例を示す模式図。
【図4】本発明を適用した測定系の変形例を示す模式図。
【図5】単一パルス波を入射したときに得られる測定曲線の模式図。
【図6】本発明により得られる測定曲線を示す図。
【図7】本発明により得られる測定曲線を示す図。
【図8】本発明を適用した測定系の一例を示す模式図。
【図9】本発明により得られる測定曲線を示す図。
【図10】本発明を適用した測定系の変形例を示す模式図。
【図11】従来の水分量測定方法を示す模式図。
【図12】従来の水分量測定により得られる測定曲線の模式図。
【符号の説明】
【0082】
1 プローブ群
3 信号源(信号発生手段)
4 検出器(検出手段)
5 演算手段
11 幹伝送路
11a 分岐部
11b 伝送部
12 枝伝送路
13 プローブ
18 終端器
100 プローブ
200 同軸ケーブル
300 信号源
400 検出器
S 被検物
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電率を測定することにより土壌中の水分濃度を求める水分分布測定方法及び水分分布測定システムに関し、特に、深さ方向の水分分布測定、及び、広範囲の面積の水分分布測定に好適な水分分布測定方法及び水分分布測定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、物質中を伝搬する電磁波の速度が、物質の比誘電率に応じて変化することを利用して、物質中の水分量を計測する手法が使用されている。例えば、特許文献1及び2には、このような手法を生体の皮下の水分量を計測するために適用した事例が開示されており、特許文献3には、土壌中の水分量の計測に当該手法を適用した事例が開示されている。
【0003】
この種の装置では、被検物Sの内部に埋設したプローブ、あるいは、被検物Sの表面に接触させたプローブの一端からステップ状の信号波を入射することで被検物の比誘電率を求めている。上記プローブの構造は、特許文献1〜3にも開示されているように、測定対象に応じて様々なものが提案されているが、土壌中の水分量測定には、例えば、図11に示すような、2本の棒状電極100s、100gが平行に配置された構造を有するプローブ100が使用されている。
【0004】
図11に示すように、被検物S(土壌)中に配置されたプローブ100は、例えば、特性インピーダンスが50Ωである同軸ケーブル200を介して、上記信号を発生する信号源300と接続される。ここで、同軸ケーブル200の内導体200sは棒状電極100sに、外導体200gは棒状電極100gに接続されている。
【0005】
さて、上記構成において、信号源300からプローブ100の先端までの間の信号伝送路(同軸ケーブル200及びプローブ100)の特性インピーダンスは、同軸ケーブル200の領域A、同軸ケーブル200とプローブ100の信号入射端との接続領域B、プローブ100の領域Cとで異なっている。このため、信号源300から出射された信号波は、上記各領域の界面でその一部が反射されるとともに、各領域に進入した信号波は、各領域の特性インピーダンスに応じた伝送速度で各領域中を伝送されることになる。
【0006】
このとき、各領域の界面で反射された信号波(以下、単に反射波という。)の時間変化をオシロスコープ等の検出器400により計測すると、図12の模式図に示す結果が得られる。
【0007】
図12において、時刻T1が領域Aと領域Bの界面での反射、時刻T2が領域Bと領域Cとの界面での反射、時刻T3がプローブ100の先端での反射に相当する。すなわち、上記ステップ状の信号波が時刻T0に入射されたとすると、時間T1−T0は信号源300から出射された信号波が同軸ケーブル200の先端で反射されて検出器400に到達するまでに要した時間を示すことになる。また、時間T2−T0は、信号源300から出射された信号波がプローブ100の信号入射端で反射されて検出器400に到達するまでの時間を示し、さらに、時間T3−T0は、信号源300から出射された信号波がプローブ100の先端で反射されて検出器400に到達するまでの時間を示すことになる。したがって、時間T3−T2は、上記信号波がプローブ100の信号入射端とプローブ100の先端とを往復するのに要した時間を示していることになる。
【0008】
ここで、プローブ100の信号入射端から先端までの距離をL、プローブ100の周囲に存在する被検物の比誘電率をεr、光速度をcとすると、信号波がプローブ100の信号入射端とプローブ100の先端とを往復するのに要する往復時間tは、t=2L/(c/εr1/2)となる。したがって、往復時間tとプローブ100の信号入射端から先端までの長さLを求めることで、プローブ100の周囲に存在する被検物の比誘電率εrを求めることができる。
【0009】
なお、一般に水分を含まない土壌の比誘電率は3〜7であるため、比誘電率が80程度である水の含有量に応じて土壌の比誘電率は鋭敏に変化する。このため、土壌中に含まれる水分量と土壌の比誘電率の関係を予め実験で求めておくことで、土壌の比誘電率から土壌中の水分量を求めることが可能となる。
【0010】
一方、比誘電率から被検物Sの水分量を求める方法を利用して、被検物Sの水分分布を測定する手法としては、上記特許文献1に、皮膚表面の同一位置に、先端(皮膚との接触面)の形状を異ならせたプローブを順次接触させて水分量測定を行うことで、皮下の異なる深さまでの水分量をそれぞれ求め、深さ方向の水分分布を求める手法が開示されている。
【0011】
また、上記特許文献3には、土壌中に複数のプローブを配置して各プローブの周囲の水分量をそれぞれ求めることにより、水分分布を求める手法が開示されている。
【特許文献1】特開平8−320297号公報
【特許文献2】特開平10−142169号公報
【特許文献3】特開平10−90201号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、上述した従来の手法では、1回の信号波の入射により1のプローブに対応する水分量しか求めることができないので、水分分布を求めるために、複数回の信号波の入射を行っている。このため、水分分布の測定には、信号波の入射回数に比例した多大な時間を要するという問題があった。
【0013】
これに対し、上記特許文献2には、測定時間の短縮や測定精度向上の観点から、上述の一対の電極からなるプローブ複数個を一体に形成して、当該複数のプローブを用いて各プローブに対応する水分量を同時に取得する手法が記載されている。しかしながら、各プローブにはそれぞれ独立した信号波を入射しているため、この手法では、各プローブによる測定を同時に行うためにプローブの数と同一数の信号源及び計測器を用意しなければならない。このため、水分分布の測定を短時間で行うことは可能になるが、測定系がコスト高になるという問題が生じる。
【0014】
一方、土壌中の深さ方向の水分分布を取得することは、例えば、河川や池の土手、山の斜面等の土砂の崩落予知に利用可能であり、非常に有益である。上記特許文献3に記載されている手法によれば、それぞれ異なるプローブ長を有する複数のプローブを、地表面から近接させて挿入し、各プローブの先端が土壌中の異なる深さに到達するように配置することで、土壌中の深さ方向の水分分布を取得することが可能となる。
【0015】
しかしながら、このように複数のプローブを近接した位置に配置した場合、被検物である土壌の状態はこれら複数のプローブの挿入することで乱され、本来の土壌と異なる状態になってしまう。すなわち、このような測定により得られた水分分布は、本来の土壌の水分分布ではなく、結果的に、土壌中の深さ方向の水分分布が正確に測定できないことになる。
【0016】
また、各プローブを土壌中の異なる深さに埋設することでも、深さ方向の水分分布を求めることが可能となるが、各プローブには、信号波を伝送するための伝送路を接続する必要がある。すなわち、土壌中にプローブ数と同数の伝送路を配設するための領域が必要であり、土壌の状態を乱すという問題を有する点は同じである。
【0017】
本発明は、上記従来の事情に基づいて提案されたものであって、短時間でかつ比較的安価に水分分布を求めることができるととともに、土壌中の水分分布を正確に測定することができる水分分布測定方法及び水分分布測定システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、上記目的を達成するために以下の手段を採用している。まず、本発明は、土壌中に配置した複数のプローブに信号波を入射し、各プローブからの反射波に基づいて各プローブ近傍の誘電率を検出することで土壌中の水分濃度分布を測定する水分分布測定方法を前提とする。
【0019】
そして、本発明は、各プローブが、一端から信号波が入射される1の幹伝送路の異なる位置からそれぞれ分岐された複数の枝伝送路の先端に配置されたプローブ群を使用して測定を行う。また、このプローブ群の各プローブは、前記信号波の入射位置から1のプローブ先端までの最短電気長と、当該プローブ先端から前記反射波の検出位置までの最短電気長との合算電気長がそれぞれ異ならせて配置されている。
【0020】
本発明において、上記反射波の検出位置は、上記プローブ群に対して、信号波の入射端と同一側であっても、反対側であってもよい。ただし、反射波の検出位置が入射端と同一側である場合は、幹伝送路の他端は無反射終端にする。
【0021】
上記構成によれば、入射した信号波に対応する各プローブからの反射波が、当該反射波の検出位置に到達する時間をそれぞれ異ならせることができる。このため、信号波を1度入射するだけで、複数のプローブからの反射波を分離して取得することができ、1回の測定で複数点の比誘電率を求めることができる。すなわち、短時間で水分分布を求めることが可能となる。
【0022】
さらに、反射波の検出位置が上記入射端と同一側である場合、枝伝送路が、前記幹伝送路の前記信号波が入射された方向とのみ信号波及び反射波の伝送を行う方向性結合器を介して、前記幹伝送路に接続されることが好ましい。これにより、1のプローブで反射した反射波が、さらに、他のプローブに入射して反射する多重反射を防止することができ、各プローブからの反射波の識別が容易となる。この場合、反射波を検出する検出位置が、幹伝送路のプローブ群側からの反射波のみを伝送する方向性結合器、または、サーキュレータを介して前記幹伝送路に接続された伝送路端とすることがより好ましい。これにより、反射波を検出する検出器に、反射波に比べて大きな信号レベルである信号波が直接入射することが防止できる。
【0023】
一方、反射波の検出位置が上記入射端の反対側である場合、上記枝伝送路が上記幹伝送路から等間隔で分岐され、かつ、上記合算電気長の最大値と最小値との差が、枝伝送路間隔の電気長よりも小さくなるように上記プローブ群を構成すれば、各プローブからの反射波の識別がより容易となる。
【0024】
なお、上記信号波を10ns以下の有限の半値幅を有するパルス波とすれば、各プローブからの反射波の分離はさらに容易となる。
【0025】
また、他の観点では、本発明は、上記水分分布測定方法を実現する水分分布測定システムを提供することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、複数のプローブが連結されたプローブ群に、一度信号波を入射するだけで、各プローブが配置された位置の比誘電率を求めることができ、短時間で土壌中の水分分布を測定することができる。
【0027】
また、本発明に係る土壌中の水分分布測定方法によれば、1の信号源と、1の検出器を備えればよく、比較的安価に水分分布測定を行うことが可能である。
【0028】
さらに、本発明は、各プローブに信号波を伝送するとともに、各プローブからの反射波を検出器に伝送する伝送路を、1つ有するだけであるため、例えば、土壌中の深さ方向の水分分布を取得する場合であっても、土壌の状態を乱すことがなく、正確な水分分布の測定を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明の実施の形態を図面にしたがって詳細に説明する。図1は、本発明に係る水分分布測定方法において使用する複数のプローブが連結されたプローブ群の構成を示す概略図である。また、図2はプローブの構造を示す平面図である。
【0030】
図1に示すように、上記プローブ群1は、1つの幹伝送路11と、幹伝送路11の異なる位置からそれぞれ分岐された複数の枝伝送路12を備え、当該枝伝送路12の先端に各プローブ13が配置される。
【0031】
上記幹伝送路11及び枝伝送路12は、周囲の状態(例えば、空気中や土壌中)で特性インピーダンスが変動しないように同軸ケーブル等で構成される。この幹伝送路11は一体で構成してもよいが、図1の例では、枝伝送路12が接続される分岐部11aと、各分岐部11aを互いに接続する伝送部11bとで構成している。そして、所望の数の分岐部11aを備えた幹伝送路11を構成し、各分岐部11aに接続された各枝伝送路12の先端に上記プローブ13を接続している。各分岐部11aは、例えば、同軸ケーブルの内導体が分岐した構造を有していれば良いが、当該分岐部11aでの信号波の反射を小さくするために、特性インピーダンスのミスマッチは、できるだけ小さいことが好ましい。なお、上記分岐部11a、伝送部11b、枝伝送路12、及びプローブ13の各部は、各接続部に設けた互いに連結可能な高周波用同軸コネクタを介して連結している。
【0032】
図2に示すように、各プローブ13は、平行に配置された同一長さを有する2本の棒状電極13s、13gが、高周波用同軸コネクタ13aの内導体と外導体に固着された構造を有している。各棒状電極13s、13gの長さは、測定の目的に応じて適宜設計すればよいが、ここでは25mmの長さを有する棒状電極を使用している。
【0033】
一方、上記ブローブ群1の一端14には、パルス波を発生する信号源3が接続される。上記プローブ群1は、この信号波3の入射端14から1のプローブ13の先端までの電気長と、当該プローブ13の先端から後述の反射波を検出する検出器4までの電気長との合算電気長が、プローブ群1のプローブ13ごとに異ならせた構成になっている。
【0034】
さて、本発明において、上記反射波を検出する検出器4は、上記プローブ群1に対して、信号波の入射端14と同一側であっても、プローブ群1を挟んで反対側にあってもよい。以下では、この両構成について図面を参照しながら順に説明する。
【0035】
図3は、検出器4を上記入射端1と同一側に設けた場合の測定系を示す模式図である。ここでは、図3に示すように、上記プローブ群1が、2のプローブを備える場合について説明するが、プローブ群1が2以上のプローブ13を備える構成であってもよい。
【0036】
図3に示すように、検出器4は、上述の構造を有するプローブ群1の入射端14と、プローブ群1の最も入射端14に近い分岐部111a(枝伝送路121)との間に設けられる。検出器4は、入射端14から入射した信号波に応じて各プローブ13から反射される反射波の時間変化を計測できる構成であればよい。図3の例では、当該検出位置に、上述の反射波検出用分岐部16を介して幹伝送路11から分岐した反射波検出用枝伝送路17を設け、この反射波検出用枝伝送路17の先端にnsオーダの時間分解能を有するオシロスコープを接続している。
【0037】
また、幹伝送路11の他端15には、幹伝送路11の特性インピーダンスに応じた終端器18を接続して無反射終端とし、不要な反射波の発生を防止している。
【0038】
上記測定系において、入射端14から入射された信号波は、幹伝送路11を伝送されて反射波検出用分岐部16に到達する。反射波検出用分岐部16では、信号波が、反射波検出用分岐部16の特性インピーダンスと、幹伝送路11の特性インピーダンスとのミスマッチに応じた割合で反射されるとともに、反射波検出用分岐部16の構造に応じた割合で、幹伝送路11を直進する信号波と、反射波検出用枝伝送路17に進入する信号波に分割される。
【0039】
ここで、幹伝送路11を直進した信号波は、幹伝送路11を伝送されて第1の分岐部111aに到達する。第1の分岐部111aに到達した信号波は、反射波検出用分岐部16と同様に、当該分岐部111aの特性インピーダンスと、幹伝送路11の特性インピーダンスとのミスマッチに応じた割合の信号波が反射されるとともに、分岐部111aの構造に応じた割合で、幹伝送路11を直進する信号波と、枝伝送路121に進入する信号波に分割される。
【0040】
そして、分岐部111aにおいて、幹伝送路11を直進した信号波は、分岐部112aにおいても同様の分割が行われ、幹伝送路11を直進し続けた信号波は、幹伝送路11の他端15に設けられた終端器18により反射されることなく吸収される。
【0041】
一方、分岐部111aにおいて、枝伝送路121に進入した信号波は、プローブ131の先端に到達すると、当該先端で反射される。このようにプローブ131の先端での反射により発生した反射波は、枝伝送路121を幹伝送路11の方向に伝送され、再度、分岐部111aに到達する。そして、分岐部111aにおいて、幹伝送路11を入射端14の方向に進行する反射波と、幹伝送路11を他端15の方向に進行する反射波とに分割される。また、分岐部112aにおいて、各枝伝送路122に進入した信号波も同様の反射波となって、幹伝送路11を進行する。
【0042】
このようにして、幹伝送路11を入射端14の方向に進行する各反射波は、反射波検出用分岐部16に到達すると、各反射波の一部が反射波検出用枝伝送路17に進入し、検出器4に到達する。
【0043】
上述のように、プローブ群1は、各プローブ13の上記合算電気長(入射端14から1のプローブ13の先端までの最短電気長と、当該プローブ13の先端から検出器4までの最短電気長の和)がそれぞれ異なる構成になっているため、各反射波はそれぞれ異なる時間に検出器4に到達する。すなわち、本発明の構成によれば、信号波を1度入射するだけで、複数のプローブからの反射波を分離して取得することができ、1回の測定で複数点の比誘電率を求めることができる。すなわち、短時間で水分分布を求めることが可能となる。
【0044】
なお、上述のように、プローブ131からの反射波は、幹伝送路11を検出器4の方向だけでなく、他端15の方向にも進行する。このように、他端15の方向に進行した反射波の一部は、分岐部112aを介して枝伝送路122に進入し、プローブ132の先端で反射されるという多重反射を生じることになる。この多重反射による反射波が、各プローブ13からの直接の反射波の到達時刻と重なる場合、検出の妨害となるため好ましくない。 しかしながら、多重反射による反射波が検出器4に到達する時刻は、伝送経路の電気長から予測可能である。したがって、幹伝送路11の伝送部11b及び枝伝送路12の電気長を調整することにより、多重反射による反射波が、各プローブ13からの直接の反射波の妨害にならないようにすればよい。
【0045】
また、上述のような伝送路の電気長の調整は、プローブ群1に多数のプローブ13を設ける場合、非常に煩雑な作業になるため、上記分岐部11aを、図4に示すように、枝伝送路12が幹伝送路11の入射端14側とのみ信号波及び反射波の伝送を行う方向性結合器で構成してもよい。このようにすれば、多重反射の発生を防止することができ、多重反射の妨害を避けるために、伝送路の電気長を調整するという煩雑な作業は一切不要になる。
【0046】
ところで、本発明では、プローブ群1に入射された信号波は、分岐部11aにおいて、幹伝送路11を進行する信号波と、枝伝送路12を進行する信号波とに分割される。このため、プローブ群1に設けるプローブ13の数が多くなり、信号波が分割される回数が多くなると、分岐部11aを通過するたびに、幹伝送路11を直進する信号波の信号レベルが小さくなる。したがって、複数の分岐部11aを通過した信号波が入射するプローブ13では、図12の時刻T2等に示す変化が小さく、プローブの信号入射端に相当する時刻が確認できなくなる。つまり、本発明では、上記従来技術で説明した往復時間tを直接求めることが困難である。
【0047】
しかしながら、図3、図4に示す測定系では、信号波及び反射波の伝送時間は、プローブ13を除く部分では変化しない。このため、各プローブ13を比誘電率が既知である基準物質に配置した場合と、被検物Sに配置した場合との伝送時間の変化量を取得することで比誘電率を求めることは可能である。すなわち、基準物質の比誘電率をεsとすると、伝送時間の変化量Δtは、Δt=(2L/(c/εr1/2)−2L/(c/εs1/2))の関係式を満足し、この関係式に基づいて被検物Sの比誘電率εrを求めることができる。
【0048】
そこで、本発明では、各プローブ13を空気中に配置した場合の各プローブ13からの反射波の時間変化を取得しておき、このデータを基準データとして、被検物Sの誘電率を求めるようにしている。
【0049】
なお、本発明では、プローブ群1に入射する信号波を、従来技術(図12)で説明したステップパルス波はなく、所定の半値幅を有する単一パルス波にしている。このような信号波を入射した場合の反射波は、図5に示すようになり、図12の段差部、すなわち、反射点(特性インピーダンスの変化点)に相当するピークが計測される。したがって、単一パルス波を入射することにより、反射点の識別性をより高めることができる。
【0050】
なお、プローブ13の表面に水分を全く含まない土粒子(例えば被誘電率が3)が存在する場合に比べ、水(比誘電率80)が存在する場合は、プローブ13中を伝送される信号波(反射波)の伝送時間は5倍程度大きくなる。このため、プローブ13の周囲に存在する被検体Sの比誘電率が上述の幅で変化した場合であっても、各プローブ13の先端からの反射波が検出器4に到達する時間が前後することのない構成にするには、少なくとも上記比誘電率の変化に相当する電気長をマージンとして、各プローブ13が配置される必要がある。
【0051】
このため、各プローブ13を接続する伝送路長を不要に長くしないためにも、上記入射波の半値幅は10ns以下であることが好ましい。
【0052】
また、この観点では、単一パルス波の半値幅が小さい程、各プローブ13を連結する伝送路長を短くすることが可能になる。しかしながら、半値幅が小さくなると、検出器4には、上述の従来の水分量測定装置において一般的に使用されている検出器の時間分解能よりも高い分解能が要求されることになり、測定系がコスト高になってしまう。この観点では、上記パルス波の半値幅は10ps以上であることが好ましい。
【0053】
図6は、図4に示す測定系の各プローブ131、132を空気中に配置し、半値幅が500psである単一パルス波を信号波として入射したときに得られる反射波の時間変化を示す図である。なお、各枝伝送路121、122の電気長を1mとし、上述の方向性結合器で構成した各分岐部111a、112a間の電気長を0.73mとしている。
【0054】
図6において、時刻T0は、信号源3から出射された信号波が検出器4に到達した時刻を示している。また、時刻T4が分岐部111aからの反射波、時刻T5が分岐部112aからの反射波がそれぞれ検出器4に到達した時刻である。そして、時刻T6がプローブ131の先端で反射された反射波、時刻T7がプローブ132の先端で反射された反射波が検出器4に到達した時刻である。したがって、図6から、図4に示す測定系の反射点が良好に検出できていることが理解できる。
【0055】
また、図7は、図4に示す測定系の各プローブ131、132を、水分を含む土壌中に配置したときに得られる反射波の時間変化Aを、各プローブ131、132を空気中に配置したときに得られる反射波の時間変化Bと比較した図である。なお、図7では、図6に示す時刻T5、T6、T7に相当する部分のみを示している。
【0056】
図7から、各プローブ131、132の周囲に存在する物質の比誘電率の変化が、各プローブ131、132からの反射波の到達時間の変化として良好に検出できていることが理解できる。ここで、図7に示す到達時間の変化量Δt1、及びΔt2(以下、遅延量という)は、プローブ13の周囲に存在する被検物Sの比誘電率により変化する。このため、各プローブ13の周囲に存在する被検物Sの比誘電率によっては、各反射波が重なる状況が発生することが考えられる。しかしながら、上記遅延量Δt1、Δt2は、被検物Sとして水(比誘電率80)を配置した場合より大きくなることはない。したがって、当該最大遅延量を勘案して、各プローブ13の上記合算電気長を、各プローブ13からの反射波が重なることがないように調整することは可能である。
【0057】
なお、上述の遅延量Δtは、図4に示すように、検出器4に、例えば、GP−IBインターフェイス等を介して、マイクロコンピュタとメモリ等で構成される演算手段5を接続し、当該演算手段5が、検出器4から反射波の時間変化データを取得するとともに、当該データから上記反射点のピーク位置(時刻)を抽出しする構成とすればよい。
【0058】
さらに、演算手段5は、基準物質及び被検物Sの反射波の時間変化データから抽出した時刻に基づいて、各プローブ13に対応する遅延量Δtを求めた後、当該遅延量Δtに基づいて各プローブ13の周囲に存在する被検物Sの比誘電率を演算し、当該演算結果をディスプレイ、プリンタ、プロッタ等の出力手段6を介して出力する構成としてもよい。
【0059】
ところで、図6に示す図では、時刻T0における信号の振幅が、他の反射波の信号に比べ大きくなっている。これは、図4から容易に理解できるように、信号源3が出射した信号波が検出器4に直接入射されていることに起因している。この信号は、図6に示す測定結果では問題とならない。しかし、幹伝送路11を直進する信号波が分岐部11aを通過する際の信号レベルの減少量を小さくするために、分岐路11aとして配置した方向性結合器のカップリング係数を−10dBや−20dBのように小さくした場合、各プローブ13からの反射波は当該信号に比べ著しく小さくなる。一般に、計測機器に著しくオーバレンジとなる信号が入力されることは、測定確度に不具合を生じる可能性があるため好ましくない。
【0060】
この場合、反射波検出用分岐部16を、反射波検出用枝伝送路17にプローブ群1側からの反射波のみを伝送する方向性結合器やサーキュレータで構成し、信号源3からの信号波が検出器4に直接入射することを防止することが好ましい。
【0061】
また、本構成によれば、各枝伝送路12に入射される信号波の信号レベル差が小さいため、各プローブ13からの反射波の信号レベルの差も小さくなる。このため、検出器4に要求されるダイナミックレンジが小さくなり、測定確度を高めることができる。
【0062】
以上説明した検出器4を上記入射端14と同一側に備える構成は、例えば、プローブ群1を土壤の深さ方向に埋設し、土壤中の水分分布を求めるのに好適である。
【0063】
上記プローブ群1は、幹伝送路11及び各枝伝送路12を、土壌の深さ方向に伸びる筒状の容器内に収納し、各プローブ13を、当該容器の異なる深さの外表面に略平行な状態で配設することで構成すること可能である。このとき、本発明では、信号波が1の幹伝送路11により各プローブ13の伝送されるため、当該容器を小径にすることができる。したがって、当該容器を地表面から土壌中に挿入することで、各プローブ13を土壌中の異なる深さに、土壌の状態を乱すことなく配置することができ、土壌中の深さ方向の水分分布を正確に測定することが可能となる。
【0064】
また、本方法では、1の信号源と、1の検出器を要するだけであるので、河川や池の土手、山の斜面等の崩落予知のために土壌中の水分分布を常時モニタする水分測定システムを比較的安価に構成することができる。
【0065】
続いて、信号源3と検出器4とをプローブ群1を挟んで反対に配置した構成について説明する。図8は、検出器4を他端15に設けた場合の測定系を示す模式図である。また、図9は、図8に示す測定系により取得される反射波の時間変化を示す図である。なお、ここでは、上記プローブ群1が、2のプローブを備える場合について説明するが、プローブ群1が2以上のプローブ13を備える構成であってもよい。
【0066】
図8に示すように、検出器4は、上述の構造を有するプローブ群1の入射端14と反対側に位置する他端15に設けられる。検出器4は、上述の検出器4を上記入射端14と同一側に備える構成と同様に入射端14から入射した信号波に応じて各プローブ13から反射される反射波の時間変化を計測できる構成であればよい。
【0067】
図8に示す測定系では、入射端14から入射された信号波は、幹伝送路11を伝送され、各分岐部11aにおいて、当該分岐部11aの特性インピーダンスと、幹伝送路11の特性インピーダンスとのミスマッチに応じた割合の信号波が反射されるとともに、分岐部11aの構造に応じた割合で、幹伝送路11を直進する信号波と、各枝伝送路12に進入する信号波に分割される。
【0068】
そして、各分岐部11aにおいて、枝伝送路12を進入した信号波は、各枝伝送路12の先端に設けられたプローブ13の先端で反射される。当該反射により発生した反射波は、枝伝送路12を幹伝送路11の方向に伝送され、再度、分岐部11aに到達する。そして、分岐部11aにおいて、幹伝送路11を入射端14の方向に進行する反射波と、幹伝送路11を他端15の方向に進行する反射波とに分割される。
【0069】
したがって、検出器4には、まず、各分岐部11aにおいて幹伝送路11を直進した信号波が到達し、続いて、各プローブ13の先端で反射された反射波が到達する。また、プローブ群1は、各プローブ13の上記合算電気長がそれぞれ異なる構成になっているため、各反射波が検出器4に到達する時間は、図9の曲線Cに示すように、それぞれ異なる。すなわち、本発明の構成によれば、各反射波をそれぞれ分離して検出することが可能となる。
【0070】
すなわち、本構成においても、信号波を1度入射するだけで、複数のプローブからの反射波を分離して取得することができ、1回の測定で複数点の比誘電率を求めることができる。すなわち、短時間で水分分布を求めることが可能となる。
【0071】
また、図9には、検出器4を上記入射端14と同一側に備えたときの反射波の時間変化を曲線Dとして示している。図8から理解できるように、本測定系では、各プローブ13に入射する信号波及び各プローブ13からの反射波は、検出器4に到達するまでに幹伝送路11を同一の長さだけ伝送されることになる。すなわち、図9に示すように、図3、図4に示す検出器4を上記入射端14と同一側に備える構成に比べ、検出器4に到達するまでの伝送距離を短くすることができ、伝送距離に起因する信号強度の低下を小さくすることができる。
【0072】
したがって、本構成は、比較的広い範囲の平面的な水分分布を測定するのに好適な構成といえる。なお、本構成においても、信号波として所定の半値幅を有する単一パルス波を入射し、予め取得した各プローブ13を空気中に配置した場合の各プローブ13からの反射波の時間変化を基準データとして、被検物Sの誘電率を求めればよい。
【0073】
また、本構成において、各枝伝送路12が幹伝送路11から等間隔で分岐され、かつ、上記合算電気長の最大値と最小値との差が、枝伝送路12間隔の電気長よりも小さくなるようにプローブ群1を構成することが好ましい。このようにすれば、検出器4において、各プローブ13からの反射波は、上述の多重反射による反射波が、検出器4に到達する前に、各プローブ13からの直接の反射波が、検出器4に到達することになり、反射波の識別がより容易となる。
【0074】
なお、図8の測定系を適用して土壌中の水分分布を計測する場合、信号源3と検出器4が異なる位置にあることは操作性がよくない。このため、プローブ群1の入射端14と他端15が同一の位置になるように各プローブ13を配置することが好ましい。
【0075】
しかしながら、このような配置が困難である場合には、例えば、図10に示すように、信号源3を光が入射されたときにパルス波を発生するフォトダイオードで構成し、検出器4と同一位置に配置した光発生器21とフォトダイオードを光ファイバ22で接続する構成とすれば、光発生器により光を発生することで、信号波をプローブ群1に入射させることができ、操作性を向上させることができる。
【0076】
なお、以上説明した各測定系で使用した方向性結合器やサーキュレータ等の高周波コンポーネントは、上述の信号波や反射波の波形を変形することなく伝送できる周波数特性を有することは勿論である。
【0077】
また、上記各測定系では、信号源3及び受信器4を単一の測定器として説明したが、信号源3の出力端、あるいは受信器4の受信端に、必要に応じて信号源3から出力される信号波、あるいは、受信器4において検出される反射波を増幅するアンプを設けてもよい。この場合、当該アンプは、信号波、あるいは反射波の波形に歪等の変形を生じることのない増幅特性(周波数特性)を有することは勿論である。
【0078】
さらに、以上では、パルス波を発生する信号源と、各プローブからの反射波の時間変化を検出可能な検出器とを使用した測定系について説明したが、本発明では、各プローブにおける上記往復時間t、あるいは、遅延量Δtが検出可能であればよく、上記構成に限定されるものではない。
【0079】
例えば、任意の周波数の正弦波を発生する信号源と、当該正弦波をプローブ群に入射したときにプローブ群から出力される出力波の振幅及び位相とを取得する検出器とを使用することも可能である。本構成では、正弦波を周波数掃引させながらプローブ群に入射したときに得た各出力波の振幅・位相をフーリエ逆変換(周波数領域のデータを時間領域のデータに変換)することで、時間領域の出力波の波形変化、すなわち、各プローブからの反射波の時間変化を求めることが可能であり、当該変換結果から、上記往復時間あるいは上記遅延量Δtを検出することができる。このように正弦波を周波数掃引させたときの反射波の振幅・位相は、例えば、ベクトルネットワークアナライザにより、取得することができる。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明は、短時間で水分量の分布を求めることができるという効果を有し、土壌中の水分分布を計測する方法、例えば、河川や池の土手、山の斜面等の崩落予知のために土壌中の水分分布(水分量)を常時モニタする方法として特に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】本発明を適用したプローブ群を示す模式図。
【図2】本発明に使用するプローブの一例を示す平面図。
【図3】本発明を適用した測定系の一例を示す模式図。
【図4】本発明を適用した測定系の変形例を示す模式図。
【図5】単一パルス波を入射したときに得られる測定曲線の模式図。
【図6】本発明により得られる測定曲線を示す図。
【図7】本発明により得られる測定曲線を示す図。
【図8】本発明を適用した測定系の一例を示す模式図。
【図9】本発明により得られる測定曲線を示す図。
【図10】本発明を適用した測定系の変形例を示す模式図。
【図11】従来の水分量測定方法を示す模式図。
【図12】従来の水分量測定により得られる測定曲線の模式図。
【符号の説明】
【0082】
1 プローブ群
3 信号源(信号発生手段)
4 検出器(検出手段)
5 演算手段
11 幹伝送路
11a 分岐部
11b 伝送部
12 枝伝送路
13 プローブ
18 終端器
100 プローブ
200 同軸ケーブル
300 信号源
400 検出器
S 被検物
【特許請求の範囲】
【請求項1】
土壌中に配置した複数のプローブに信号波を入射し、各プローブからの反射波に基づいて各プローブ近傍の比誘電率を検出することで土壌中の水分濃度分布を測定する水分分布測定方法において、
前記信号波が一端から入射される1の幹伝送路の異なる位置からそれぞれ分岐された複数の枝伝送路の先端に、各プローブが、前記信号波の入射端から1のプローブ先端までの最短電気長と、当該プローブ先端から前記反射波の検出位置までの最短電気長との合算電気長をそれぞれ異ならせて配置されたプローブ群に、前記信号波を入射し、当該信号波に対応する各プローブからの反射波を計測することを特徴とする土壌中の水分分布測定方法。
【請求項2】
前記幹伝送路の他端が無反射終端であるとともに、前記反射波の検出位置が、前記プローブ群に対して前記信号波の入射端と同一側にある請求項1に記載の土壌中の水分分布測定方法。
【請求項3】
前記枝伝送路が、前記幹伝送路の前記信号波の入射端方向とのみ信号波及び反射波の伝送を行う方向性結合器を介して前記幹伝送路に接続された請求項2に記載の水分分布測定方法。
【請求項4】
前記反射波の検出位置が、前記幹伝送路の前記プローブ群側からの反射波のみを伝送する方向性結合器、または、サーキュレータを介して前記幹伝送路に接続された伝送路端である請求項3に記載の土壌中の水分分布測定方法。
【請求項5】
前記反射波の検出位置が、前記幹伝送路の他端である請求項1に記載の土壌中の水分分布測定方法。
【請求項6】
前記枝伝送路が前記幹伝送路から等間隔で分岐されるとともに、前記合算電気長の最大値と最小値との差が、当該枝伝送路間隔の電気長よりも小さい請求項5に記載の水分分布測定方法。
【請求項7】
前記信号波が、10ns以下の有限の半値幅を有する単一パルス波である請求項1から6のいずれかに記載の土壌中の水分分布測定方法。
【請求項8】
土壌中に配置した複数のプローブに信号波を入射し、各プローブからの反射波に基づいて各プローブ近傍の誘電率を検出することで土壌中の水分濃度分布を測定する水分分布測定システムにおいて、
前記信号波を発生する信号発生手段と、
前記信号発生手段が一端に接続された1の幹伝送路と、
前記幹伝送路の異なる位置からそれぞれ分岐された複数の枝伝送路と、
前記各枝伝送路の先端に個別に接続された前記複数のプローブと、
前記幹伝送路の一端または他端に接続され、前記各プローブからの反射波を検出する検出手段と、
前記検出手段の検出結果に基づいて、前記各プローブの周囲の比誘電率を演算する演算手段と、
を備え、
前記信号発生手段から1のプローブ先端までの最短電気長と、当該プローブ先端から前記検出手段までの最短電気長との合算電気長が前記各プローブにおいてそれぞれ異なることを特徴とする土壌中の水分分布測定システム。
【請求項1】
土壌中に配置した複数のプローブに信号波を入射し、各プローブからの反射波に基づいて各プローブ近傍の比誘電率を検出することで土壌中の水分濃度分布を測定する水分分布測定方法において、
前記信号波が一端から入射される1の幹伝送路の異なる位置からそれぞれ分岐された複数の枝伝送路の先端に、各プローブが、前記信号波の入射端から1のプローブ先端までの最短電気長と、当該プローブ先端から前記反射波の検出位置までの最短電気長との合算電気長をそれぞれ異ならせて配置されたプローブ群に、前記信号波を入射し、当該信号波に対応する各プローブからの反射波を計測することを特徴とする土壌中の水分分布測定方法。
【請求項2】
前記幹伝送路の他端が無反射終端であるとともに、前記反射波の検出位置が、前記プローブ群に対して前記信号波の入射端と同一側にある請求項1に記載の土壌中の水分分布測定方法。
【請求項3】
前記枝伝送路が、前記幹伝送路の前記信号波の入射端方向とのみ信号波及び反射波の伝送を行う方向性結合器を介して前記幹伝送路に接続された請求項2に記載の水分分布測定方法。
【請求項4】
前記反射波の検出位置が、前記幹伝送路の前記プローブ群側からの反射波のみを伝送する方向性結合器、または、サーキュレータを介して前記幹伝送路に接続された伝送路端である請求項3に記載の土壌中の水分分布測定方法。
【請求項5】
前記反射波の検出位置が、前記幹伝送路の他端である請求項1に記載の土壌中の水分分布測定方法。
【請求項6】
前記枝伝送路が前記幹伝送路から等間隔で分岐されるとともに、前記合算電気長の最大値と最小値との差が、当該枝伝送路間隔の電気長よりも小さい請求項5に記載の水分分布測定方法。
【請求項7】
前記信号波が、10ns以下の有限の半値幅を有する単一パルス波である請求項1から6のいずれかに記載の土壌中の水分分布測定方法。
【請求項8】
土壌中に配置した複数のプローブに信号波を入射し、各プローブからの反射波に基づいて各プローブ近傍の誘電率を検出することで土壌中の水分濃度分布を測定する水分分布測定システムにおいて、
前記信号波を発生する信号発生手段と、
前記信号発生手段が一端に接続された1の幹伝送路と、
前記幹伝送路の異なる位置からそれぞれ分岐された複数の枝伝送路と、
前記各枝伝送路の先端に個別に接続された前記複数のプローブと、
前記幹伝送路の一端または他端に接続され、前記各プローブからの反射波を検出する検出手段と、
前記検出手段の検出結果に基づいて、前記各プローブの周囲の比誘電率を演算する演算手段と、
を備え、
前記信号発生手段から1のプローブ先端までの最短電気長と、当該プローブ先端から前記検出手段までの最短電気長との合算電気長が前記各プローブにおいてそれぞれ異なることを特徴とする土壌中の水分分布測定システム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2006−133088(P2006−133088A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−322788(P2004−322788)
【出願日】平成16年11月5日(2004.11.5)
【出願人】(591097702)京都府 (19)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(397039919)財団法人日本気象協会 (29)
【出願人】(000161932)京都電子工業株式会社 (29)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年11月5日(2004.11.5)
【出願人】(591097702)京都府 (19)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(397039919)財団法人日本気象協会 (29)
【出願人】(000161932)京都電子工業株式会社 (29)
【Fターム(参考)】
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